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特許7405342ナトリウムイオン二次電池用負極活物質及びその製造方法
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  • 特許-ナトリウムイオン二次電池用負極活物質及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン二次電池用負極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20231219BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20231219BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20231219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01G11/30
H01G11/86
H01M4/36 A
H01M4/48
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019168089
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2020077615
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018175606
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 剛
(72)【発明者】
【氏名】小松 高行
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史雄
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-198000(JP,A)
【文献】特開2017-050195(JP,A)
【文献】特開2015-035290(JP,A)
【文献】特開2010-062424(JP,A)
【文献】特開昭55-119355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01G 11/30
H01G 11/86
H01M 4/36
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン二次電池を構成する負極の製造に用いられる、ナトリウムイオン二次電池用負極活物質であって、
SiO、B及びPから選択される少なくとも一種を含有するマトリクス中に金属Biが析出してなる結晶化ガラスからなることを特徴とするナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項2】
酸化物換算のモル%で、Bi 15~75%、P 0~45%、SiO 0~60%、B 0~60%、P+SiO+B 25~85%、NaO 0~50%を含有することを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項3】
酸化物換算のモル%で、さらにFe 0~25%を含有することを特徴とする請求項2に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質を製造するための方法であって、
Biを含有する酸化物材料に対し、還元性ガスを供給しながら加熱処理を行うことにより、Biを金属Biに還元する工程、を含むことを特徴するナトリウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
還元性ガスが、体積%で、不活性ガス 90~99.5%、H 0.5~10%を含有することを特徴とする請求項4に記載のナトリウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器や電気自動車に用いられるナトリウムイオン二次電池用の負極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器や電気自動車等の普及に伴い、リチウムイオン二次電池の開発が活発となっている。しかしながら、リチウムイオン二次電池に使用されるLi資源の枯渇が懸念されており、この解決策としてLiイオンをNaイオンに代替したナトリウムイオン二次電池が検討されている。
【0003】
ナトリウムイオン二次電池用の負極活物質として、理論容量の高いSiまたはSnを含有する材料が提案されている。しかしながら、SiまたはSnを含む負極活物質を負極に使用した場合、ナトリウムイオンの挿入脱離反応の際に生じる負極活物質の膨張収縮による体積変化が大きいため、充放電の繰り返しに伴う負極活物質の崩壊が激しく、サイクル特性の低下が起こりやすいという問題がある。そこで、特許文献1では、サイクル特性を向上させるためにBiを含有する負極活物質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-198000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の負極活物質は、初回充電容量が初回放電容量に比べて大きく、初回不可逆容量が大きい(即ち初回充放電効率が小さい)という課題を有する。
【0006】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、初回不可逆容量が低いナトリウムイオン二次電池用負極活物質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、SiO、B及びPから選択される少なくとも一種を含有するマトリクス中に金属Biが析出してなる結晶化ガラスからなることを特徴とする。
【0008】
Biを含有する負極活物質は、充放電に伴い下記の式(1)及び(2)の反応を起こす。まず、初回充電時に式(1)の反応が不可逆的に生じる。その後は、充放電に伴い式(2)の反応が繰り返し生じる。
【0009】
Bi+6Na+6e → 2Bi+3NaO・・・(1)
Bi+3Na+3e ←→ BiNa・・・(2)
【0010】
Biを含有する負極活物質の充放電に伴い発生する初回不可逆容量は、初回の充電過程で正極活物質中のキャリアイオンであるNaと電子の一部が、Biを還元するための反応(1)に消費されることが原因であると考えられる。一方、本発明の負極活物質では、既に還元状態にある金属Biをマトリクス中に析出してなる構造を有しているため、反応(1)を省略することができ、初回不可逆容量を低減することができる。また、SiO、B及びPから選択される少なくとも一種を含有するマトリクスが緩衝材の役割を果たすため、反応(2)を繰り返すことにより生じるBi成分の膨張収縮を緩和することができ、サイクル特性にも優れるという効果も奏する。
【0011】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、酸化物換算のモル%で、Bi 15~75%、P 0~45%、SiO 0~60%、B 0~60%、P+SiO+B 25~85%、NaO 0~50%を含有することが好ましい。なお、「P+SiO+B」はP、SiO及びBの合量を意味する。
【0012】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、酸化物換算のモル%で、さらにFe 0~25%を含有することが好ましい。Feを含有させることにより、Biの還元が促進し、金属Biが析出しやすくなる。
【0013】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法は、上記のナトリウムイオン二次電池用負極活物質を製造するための方法であって、Biを含有する酸化物材料に対し、還元性ガスを供給しながら加熱処理を行うことにより、Biを金属Biに還元する工程、を含むことを特徴する。このようにすれば、酸化物材料中のBiを効率よく金属Biに還元させることができ、所望の特性を有する負極活物質を容易に作製することができる。
【0014】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法は、還元性ガスが、体積%で、不活性ガス 90~99.5%、H 0.5~10%を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、初回不可逆容量が低いナトリウムイオン二次電池用負極活物質を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例2及び比較例2の試料の粉末X線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質(以下、単に負極活物質ともいう)は、SiO、B及びPから選択される少なくとも一種を含有するマトリクス中に金属Biが析出してなる結晶化ガラスからなることを特徴とする。具体的には、本発明の負極活物質は、酸化物成分のモル%で、Bi 15~75%、P 0~45%、SiO 0~60%、B 0~60%、P+SiO+B 25~85%、NaO 0~50%を含有するものであることが好ましい。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の組成の説明において、「%」は特に断りのない限り「モル%」を意味する。
【0018】
Biはナトリウムイオンを吸蔵及び放出するサイトとなる活物質成分である。Biの含有量は15~75%であることが好ましく、20~70%であることがより好ましく、30~65%であることがさらに好ましく、40~55%であることが特に好ましい。Biの含有量が少なすぎると、負極活物質の単位質量当たりの充放電容量が低下しやすくなる。一方、Biの含有量が多すぎると、負極活物質中の非晶質成分が相対的に少なくなるため、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化を緩和できずに、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0019】
は網目形成酸化物であり、Biにおけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出サイトを包括し、サイクル特性を向上させる作用がある。Pの含有量は0~45%であることが好ましく、0.1~42%であることがより好ましく、5~40%であることがさらに好ましく、10~38%であることが特に好ましい。Pの含有量が多すぎると、耐水性が悪化しやすくなる。
【0020】
SiOも網目形成酸化物であり、Biにおけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出サイトを包括し、サイクル特性を向上させる作用がある。SiOの含有量は0~60%であることが好ましく、0.1~55%であることが好ましく、1~50%であることがより好ましく、5~40%であることがさらに好ましく、10~30%であることが特に好ましい。SiOの含有量が多すぎると、イオン伝導度が低下し、放電容量が低下する傾向にある。
【0021】
も、網目形成酸化物としてBiにおけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出サイトを包括し、サイクル特性を向上させる作用がある。Bの含有量は、0~85%であることが好ましく、10~60%であることがより好ましく、20~55%であることがさらに好ましく、25~50%であることが特に好ましく、28~40%であることが最も好ましい。Bの含有量が多すぎると、Bi成分への配位結合が強くなり、初回充電容量が増加し、結果として初回不可逆容量が大きくなる傾向にある。
【0022】
+SiO+Bの含有量は、20~85%であることが好ましく、25~60%であることがより好ましく、28~50%であることがさらに好ましく、28~40%であることが特に好ましい。P+SiO+Bの含有量が少なすぎると、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴うBi原子の体積変化を緩和できず構造劣化を起こすため、サイクル特性が低下しやすくなる。一方、P+SiO+Bの含有量が多すぎると、Bi成分が相対的に少なくなるため充放電容量が低下する傾向にある。
【0023】
NaOは、Bi成分以外の酸化物マトリクス(特にP、SiOまたはBから構成される酸化物マトリクス)のイオン伝導性を向上させる成分である。NaOの含有量は0~50%であることが好ましく、1~45%であることがより好ましく、3~43%であることがさらに好ましく、5~40%であることが特に好ましく、7~35%であることが最も好ましい。NaOの含有量が多すぎると、P、SiOまたはBとNaOからなる異種結晶が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0024】
上記成分以外にFeを含有させてもよい。Feは、Biの還元を促し金属Biを析出しやすくする成分である。Feの含有量は0~25%であることが好ましく、0.1~20%であることがより好ましく、0.3~19%であることがさらに好ましく、0.5~14%であることが特に好ましく、1~9%であることが最も好ましい。Feの含有量が多すぎると、BiとFeからなる異種結晶(σ-Bi3.43Fe0.57)が多量に形成されサイクル特性が低下しやすくなる。
【0025】
本発明の負極活物質は、上記成分以外に種々の成分を含有していてもよい。例えば、TiO、MnO、CuO、ZnO、MgO、CaO、Alを合量で0~25%、0~23%、0~21%、さらには0.1~20%の範囲で含有していてもよい。これらの成分を含有することにより、構造が無秩序になって非晶質材料が得られやすくなる。ただし、その含有量が多すぎると、上述の網目形成酸化物(P、SiOまたはB)からなるネットワークが切断されやすくなり、結果的に、充放電に伴う負極活物質の体積変化を緩和できずサイクル特性が低下するおそれがある。
【0026】
本発明の負極活物質は、内部に金属Bi粒子が析出している。金属Bi粒子は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって同定することができる。具体的には、測定により得られた回折線プロファイルにおいて、2θ値27.2°、37.9°、39.6°にピーク位置を有する回折線は、金属Biの結晶相(六方晶系、空間群R-3m(166))に帰属することができる。
【0027】
回折線プロファイルにおいて金属Biの結晶相に帰属される回折線の半価幅が0.01°以上であることが好ましく、0.05°以上であることがより好ましく、0.07°以上であることがさらに好ましく、0.1°以上であることが特に好ましい。回折線の半価幅が大きい場合は、負極活物質中の金属Biの結晶子サイズがナノオーダー(例えば0.1~100nm)となるため、充電反応によりナトリウムイオンを吸蔵しても体積膨張が起こりにくく、結果としてサイクル特性に優れる傾向がある。一方、回折線の半価幅が小さすぎる場合は、金属Biの結晶子サイズが大きくなる(例えばミクロンオーダー以上)ため、充電反応によりナトリウムイオンを吸蔵した際に、局所的に大きな体積膨張が起こり、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0028】
負極活物質の結晶化度は5%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。結晶化度が大きいほど、初回不可逆容量を低減しやすくなる。ただし、結晶化度が大きすぎると、サイクル特性が低下する傾向がある。よって、サイクル特性を高める観点からは、結晶化度は99%以下、特に95%以下であることが好ましい。
【0029】
結晶化度は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる、2θ値で10~60°の回折線プロファイルから求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10~45°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10~60°において検出される各結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIcとした場合、結晶化度Xcは次式から求められる。
【0030】
Xc=[Ic/(Ic+Ia)]×100(%)
【0031】
ここで、平均粒子径と最大粒子径は、それぞれ一次粒子のメジアン径でD50(50%体積累積径)とD90(90%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0032】
所定サイズの粉末を得るためには、一般的な粉砕機や分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、篩、遠心分離、空気分級等が用いられる。
【0033】
負極活物質の形状は特に限定されないが、通常は粉末状である。負極活物質の平均粒子径は0.1~20μmであることが好ましく、0.2~15μmであることがより好ましく、0.3~10μmであることがさらに好ましく、0.5~5μmであることが特に好ましい。また負極活物質の最大粒子径は150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、最大粒子径75μm以下であることがさらに好ましく、55μm以下であることが特に好ましい。平均粒子径または最大粒子径が大きすぎると、充放電した際にナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う負極活物質の体積変化を緩和できず、サイクル特性が著しく低下する傾向がある。一方、平均粒子径が小さすぎると、ペースト化した際に粉末の分散状態に劣り、均一な電極を製造することが困難になる傾向がある。また、析出した金属Biが大気中の酸素により酸化されやすくなる。
【0034】
次に本発明の負極活物質の製造方法について説明する。本発明の負極活物質の製造方法は、Biを含有する酸化物材料に対し、還元性ガスを供給しながら加熱処理を行うことにより、Biを金属Biに還元する工程、を含むことを特徴する。
【0035】
Biを含有する酸化物材料は、SiO、B及びPから選択される少なくとも一種とBiを含有するものである。具体的には、モル%で、Bi 15~75%、P 0~45%、SiO 0~60%、B 0~60%、P+SiO+B 25~85%、NaO 0~50%を含有するものであることが好ましい。組成をこのように限定した理由は既述の通りであり、説明を割愛する。
【0036】
酸化物材料は、例えば上述した組成となるように調製した原料粉末を例えば600~1200℃で加熱溶融して、均質な溶融物にした後、冷却固化することにより製造される。得られた溶融固化物は、必要に応じて粉砕や分級等の後加工が施される。
【0037】
酸化物材料は非晶質であることが好ましく、それにより、SiO、B及びPから選択される少なくとも一種を含有する非晶質マトリクス中に金属Biが析出してなる、本発明の負極活物質が得やすくなる。
【0038】
酸化物材料の形状は、負極活物質と同様に通常は粉末状である。酸化物材料の平均粒子径は0.1~20μmであることが好ましく、0.2~15μmであることがより好ましく、0.3~10μmであることがさらに好ましく、0.5~5μmであることが特に好ましい。また酸化物材料の最大粒子径は、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、75μm以下であることがさらに好ましく、55μm以下であることが特に好ましい。平均粒子径または最大粒子径が大きすぎると、得られる負極活物質の粒径も大きくなるため、上述のような不具合が発生する傾向がある。また、還元性ガスによりBiを金属Biに十分に還元できないおそれがある。一方、平均粒子径が小さすぎると、得られる負極活物質の粒径も小さくなるため、上述のような不具合が発生する傾向がある。
【0039】
加熱処理する際の温度は250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが特に好ましい。加熱温度が低すぎると、付与される熱エネルギーが少ないため、酸化物材料中のBiが金属Biに還元されにくくなる。なお、加熱温度の上限は特に限定されないが、高すぎると、還元された金属Bi粒子が粗大化しやすくなり、負極活物質のサイクル特性が著しく低下するおそれがある。よって、加熱温度は700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。
【0040】
加熱時間は20~1000分であることが好ましく、60~500分であることがより好ましい。加熱時間が短すぎると、付与される熱エネルギーが少ないため、酸化物材料中のBiが金属Biに還元されにくくなる。一方、加熱時間が長すぎると、還元された金属Bi粒子が粗大化しやすくなり、負極活物質のサイクル特性が著しく低下するおそれがある。
【0041】
加熱処理には、電気加熱炉、ロータリーキルン、マイクロ波加熱炉、高周波加熱炉等を用いることができる。
【0042】
還元性ガスとしては、H、NH、CO、HS及びSiHから選ばれる少なくとも一種のガスが挙げられる。取扱い性の観点から、H、NH及びCOから選ばれる少なくとも一種のガスが好ましく、特にHが好ましい。
【0043】
還元性ガスとしてHを使用する場合、爆発等の危険性を抑制するため、NやAr等の不活性ガスと混合して使用することが好ましい。不活性ガスとHの混合割合は、体積%で、不活性ガス 90~99.5%、H 0.5~10%であることが好ましい。例えばNとHの混合ガスの場合、体積%で、N 90~99.5%、H 0.5~10%、N 92~99%、H 1~8%、特にN 96~99%、H 1~4%を含有することが好ましい。またArとHの混合ガスの場合、体積%で、Ar 90~99.5%、H 0.5~10%、Ar 92~99%、H 1~8%、特にAr 95~98%、H 2~5%を含有することが好ましい。
【0044】
なお、加熱処理工程において酸化物材料(酸化物材料粉末)は軟化流動して凝集体を形成する傾向がある。酸化物材料が凝集体を形成すると、還元性ガスが酸化物材料全体にゆき渡りにくくなるため、酸化物材料の還元に長時間要する傾向がある。あるいは、生成した負極活物質粒子が粗大化して、電池特性が低下するおそれがある。そこで、酸化物材料を加熱処理する際に凝集防止剤を添加することが好ましい。このようにすれば、加熱処理時の酸化物材料の凝集を抑制でき、短時間で酸化物材料中のBiを金属Biに還元することが可能となる。
【0045】
凝集防止剤としては、導電性カーボンやアセチレンブラック等の炭素材料が挙げられる。炭素材料は電子伝導性も有するため、負極活物質に導電性を付与することもできる。なかでも、電子伝導性に優れるアセチレンブラックが好ましい。
【0046】
酸化物材料と凝集防止剤は、質量%で、酸化物材料 80~99.5%、凝集防止剤 0.5~20%の割合で混合することが好ましい。このようにすれば、良好な初回充電特性と安定したサイクル特性を有する負極活物質が得やすくなる。
【0047】
本発明の負極活物質に対し、結着剤や導電助剤を添加することにより負極材料として使用される。
【0048】
結着剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0049】
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維等が挙げられる。
【0050】
蓄電デバイス用負極材料を、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布することで蓄電デバイス用負極として用いることができる。
【0051】
本発明のナトリウムイオン二次電池用負極活物質は、ナトリウムイオン二次電池に用いられる負極活物質と非水系電気二重層キャパシタ用の正極材料とを組み合わせたハイブリットキャパシタ等にも適用できる。
【0052】
ハイブリットキャパシタであるナトリウムイオンキャパシタは、正極と負極の充放電原理が異なる非対称キャパシタの一種である。ナトリウムイオンキャパシタは、ナトリウムイオン二次電池用の負極と電気二重層キャパシタ用の正極を組み合わせた構造を有している。ここで、正極は表面に電気二重層を形成し、物理的な作用(静電気作用)を利用して充放電するのに対し、負極はナトリウムイオン二次電池と同様にNaイオンの化学反応(吸蔵及び放出)により充放電する。
【0053】
ナトリウムイオンキャパシタの正極には、活性炭、ポリアセン、メソフェーズカーボン等の高比表面積の炭素質粉末等からなる正極活物質が用いられる。一方、負極には、本発明の負極活物質を用いることができる。
【実施例
【0054】
以下、本発明の負極活物質を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(1)酸化物材料の作製
表1に示す組成となるように、各種酸化物、炭酸塩原料、リン酸塩原料等を用いて原料粉末を調製した。原料粉末を白金ルツボに投入し、電気炉を用いて大気雰囲気にて溶融を行った。なお、実施例1及び比較例1は750℃で30分間の溶融を行い、実施例2~5及び比較例2~4は1100℃で20分間の溶融を行った。
【0056】
次いで、溶融物を一対の冷却回転ローラー間に流し出すことにより、急冷しながら成形し、厚み0.1~2mmのフィルム状ガラスを得た。このフィルム状ガラスを、φ1~3cmのジルコニアボールを入れたボールミルを用いて100rpmで3時間粉砕した後、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径3~15μmのガラス粗粉末(酸化物材料粗粉末)を得た。次いで、ガラス粗粉末を空気分級することで、平均粒子径2μmかつ最大粒子径28μmのガラス粉末(酸化物材料粉末)を得た。
【0057】
酸化物材料粉末について粉末X線回折測定することにより構造を同定したところ、非晶質であり、結晶は検出されなかった。
【0058】
(2)負極活物質の作製
得られた酸化物材料を表1に記載の条件で加熱処理した。なお、実施例2は酸化物材料粉末に凝集防止剤として導電性カーボンブラック粉末(SuperC65,Timcal社製)を、酸化物材料:凝集防止剤=95:5(質量%)の割合で予めボールミルを用いて混合したものを用いた。比較例1、2は加熱処理を行わなかった。
【0059】
次いで、加熱処理後の酸化物材料をメノウ乳鉢で解砕した後、目開き20μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径3μmの負極活物質粉末を得た。
【0060】
得られた負極活物質について粉末X線回折測定することにより構造を同定した。その結果を表1及び図1に示す。
【0061】
(3)負極の作製
実施例1及び比較例1については、以下のようにして負極を作製した。得られた負極活物質と導電助剤(導電性カーボンブラック)と結着剤(ポリフッ化ビニリデン)を質量比で85:10:5の割合になるように秤量、混合してステンレス製メッシュに40MPaで圧着して負極を作製した。
【0062】
実施例2~5及び比較例2~4については、以下のようにして負極を作製した。得られた負極活物質と導電助剤(導電性カーボンブラック)と結着剤(ポリフッ化ビニリデン)を質量比で85:5:10の割合になるように秤量し、脱水したN-メチルピロリドンに分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。次に、隙間75μmのドクターブレードを用いて、得られたスラリーを負極集電体である厚さ20μmの銅箔上にコートし、70℃の乾燥機で真空乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、温度200℃にて8時間、減圧下で乾燥させて円形の負極を得た。
【0063】
(4)試験電池の作製
得られた負極と、70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)からなるセパレータ、及び、対極である金属ナトリウムを積層し、電解液を染み込ませることにより試験電池を作製した。電解液には、1M NaPF溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度-70℃以下のアルゴン環境で行った。
【0064】
(5)充放電試験
作製した試験電池に対し、30℃で開回路電圧から0VまでCC(定電流)充電(負極活物質へのナトリウムイオンの吸蔵)を行い、単位質量の負極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、0Vから3VまでCC放電(負極活物質からのナトリウムイオンの放出)させ、単位質量の負極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。なお、Cレートは0.1Cとした。これらの結果から、初回不可逆容量(=初回充電容量-初回放電容量)を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、実施例1~5の負極活物質は初回不可逆容量が238mAh/g以下と小さいのに対し、比較例1~4の負極活物質は初回不可逆容量が254mAh/g以上と大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の負極活物質は、例えば、移動体通信機器、携帯用電子機器、電動自転車、電動二輪車、電気自動車等の主電源等に使用されるナトリウムイオン二次電池用途に好適である。
図1