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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】止水材、及び、止水工法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20231219BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C09K3/10 D
E04G23/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019054550
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020152859
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】513067473
【氏名又は名称】株式会社MASUDA
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 弘安
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴果
(72)【発明者】
【氏名】平田 隆祥
(72)【発明者】
【氏名】富井 孝喜
(72)【発明者】
【氏名】桝田 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹内 義昭
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105211(JP,A)
【文献】特開2008-274088(JP,A)
【文献】特開2014-181486(JP,A)
【文献】特開2018-002942(JP,A)
【文献】米国特許第05621043(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性エマルションと一液型ポリウレタン樹脂を混合した止水材であって、
前記水性エマルションは、有機ポリイソシアネートとポリカーボネート系ポリオールの反応物が水中に分散した自己乳化型のものであり、
前記一液型ポリウレタン樹脂は、上水道水に対して10重量%の濃度で添加した時の止水材の硬化時間が、常温で30分以上となる遅延硬化型樹脂であり、
前記一液型ポリウレタン樹脂は、有機ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含んでおり、
前記有機ポリイソシアネートは、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、又は、水添4、4ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)の何れか1種類、又は2種類以上を含み、
前記硬化時間は、JIS K 6901:2008における液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法に準じて試験を行い、20℃環境で練り混ぜた止水材に、直径5mmのガラス棒を押し付け、ガラス棒に付着した止水材が糸状に持ち上がらずに切断した時をもって硬化時間としたものである、
ことを特徴とする止水材。
【請求項2】
請求項1に記載の止水材であって、
前記水性エマルションは、アニオン性の親水基を有し、
前記自己乳化型は、アニオン性タイプである、
ことを特徴とする止水材。
【請求項3】
請求項2に記載の止水材であって、
前記親水基は、カルボン酸トリエチルアミン塩である、
ことを特徴とする止水材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の止水材であって、
前記水性エマルションと前記一液型ポリウレタン樹脂との配合割合は、
重量比で100:21~100:100の範囲内である、
ことを特徴とする止水材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の止水材であって、
セメント組成体や鋼材および樹脂(塗膜、配管、既注入止水材)等から構成される建物躯体からの40℃~60℃の漏水の止水に用いられる、
ことを特徴とする止水材。
【請求項6】
水性エマルションと一液型ポリウレタン樹脂を混合して止水箇所に注入する止水工法であって、
前記水性エマルションは、有機ポリイソシアネートとポリカーボネート系ポリオールの反応物が水中に分散した自己乳化型のものであり、
前記一液型ポリウレタン樹脂は、上水道に対して10重量%の濃度で添加した時の止水材の硬化時間が、常温で30分以上となる遅延硬化型樹脂であり、
前記一液型ポリウレタン樹脂は、有機ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含んでおり、
前記有機ポリイソシアネートは、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、又は、水添4、4ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)の何れか1種類、又は2種類以上を含み、
前記硬化時間は、JIS K 6901:2008における液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法に準じて試験を行い、20℃環境で練り混ぜた止水材に、直径5mmのガラス棒を押し付け、ガラス棒に付着した止水材が糸状に持ち上がらずに切断した時をもって硬化時間としたものである、
ことを特徴とする止水工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水材、及び、止水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等のセメント組成体からなる建物躯体が乾燥収縮や経年劣化などでひび割れして、そのひび割れ部から雨水や地下水などの水が建物内に侵入することがある。その場合、当該ひび割れ部等のセメント組成体、鋼材および樹脂等からなる止水対象部分に薬液(止水材)を注入して止水物を形成して漏水を止める止水工事がなされる。
【0003】
この止水工法として、一つの薬液を止水対象部分に注入する一液型の止水工法がある。例えば、当該薬液として一液型ポリウレタン樹脂を注入する工法(例えば、特許文献1参照)や水性エマルションを注入する工法が知られている。
【0004】
また、一液型ポリウレタン樹脂の注入工法が奏する即時硬化性と、水性エマルション注入工法が奏する長期耐久性との両者を併せ持つ工法として、一液型ポリウレタン樹脂と水性エマルションを注入直前で混合する二液型止水工法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4027817号
【文献】特許第5300162号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
止水対象となる箇所が乾いていたり湿っていたりする場合、一液型ポリウレタン樹脂を注入する工法では、硬化のバラツキが大きく乾燥面で硬化不良を起こすおそれがある。また、硬化後の収縮が大きく、長期的な止水効果が期待できない。
【0007】
これに対し、上記のように一液型ポリウレタン樹脂と水性エマルションを組み合わせて使うと、速硬性があり、かつ、寸法安定性や伸縮性に優れた樹脂(硬化物)となる。
【0008】
しかしながら、この硬化物は、長期的に熱水に接する環境では、分解・劣化を起こすという問題があった。また、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を用いて乳化させたエマルションでは、エマルションの長期的な安定性が劣るほか、エマルションを覆う水溶性高分子がエマルション同士の融着を妨げるため、樹脂が硬化し難くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、漏水部の止水を確実に且つ長期的に行なうことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための主たる発明は、
水性エマルションと一液型ポリウレタン樹脂を混合した止水材であって、
前記水性エマルションは、有機ポリイソシアネートとポリカーボネート系ポリオールの反応物が水中に分散した自己乳化型のものであり、
前記一液型ポリウレタン樹脂は、上水道水に対して10重量%の濃度で添加した時の止水材の硬化時間が、常温で30分以上となる遅延硬化型樹脂であり、
前記一液型ポリウレタン樹脂は、有機ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含んでおり、
前記有機ポリイソシアネートは、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、又は、水添4、4ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)の何れか1種類、又は2種類以上を含み、
前記硬化時間は、JIS K 6901:2008における液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法に準じて試験を行い、20℃環境で練り混ぜた止水材に、直径5mmのガラス棒を押し付け、ガラス棒に付着した止水材が糸状に持ち上がらずに切断した時をもって硬化時間としたものである、
ことを特徴とする。

【0011】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、漏水部の止水を確実に且つ長期的に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の止水工法に用いる注入装置10の概略図である。
図2】注入装置10の注入具10Aの分解図である。
図3図3A図3Dは、本実施形態の止水工法の説明図である。
図4】実施例における使用材料を示す表1である。
図5】実施例における試験体の配合を示す表2である。
図6図6A図6Dは、試験結果の説明図である。図6Aは、硬化時間の試験結果を示す表3であり、図6Bは、収縮率の試験結果を示す表4である。また、図6Cは、耐熱性の評価結果を示す表5であり、図6Dは、耐薬品性の評価結果を示す表6である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
水性エマルションと一液型ポリウレタン樹脂を混合した止水材であって、前記水性エマルションは、有機ポリイソシアネートとポリカーボネート系ポリオールの反応物が水中に分散した自己乳化型のものであり、前記一液型ポリウレタン樹脂は、上水道水に対して10重量%の濃度で添加した時の硬化時間が、常温で30分以上となる遅延硬化型樹脂であることを特徴とする止水材が明らかとなる。
このような止水材によれば、2液の混合により、熱水環境下や、酸、塩基、塩化物イオンの影響がある環境下においても劣化しにくい硬化物が得られるので、漏水部の止水を確実に且つ長期的に行なうことができる。
【0015】
かかる止水材であって、前記水性エマルションは、アニオン性の親水基を有し、前記自己乳化型は、アニオン性タイプであることが望ましい。
このような止水材によれば、安定性に優れた硬化物を形成できる。
【0016】
かかる止水材であって、前記親水基は、カルボン酸トリエチルアミン塩であることが望ましい。
このような止水材によれば、水中での分散安定性と乾燥後の耐水性を両立させることができる。
【0017】
かかる止水材であって、前記一液型ポリウレタン樹脂は、有機ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含んでおり、前記有機ポリイソシアネートは、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、又は、水添4、4ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)の何れか1種類、又は2種類以上を含むことが望ましい。
このような止水材によれば、一液型ポリウレタン樹脂を遅延硬化型樹脂とすることができる。
【0018】
かかる止水材であって、前記水性エマルションと前記一液型ポリウレタン樹脂との配合割合は、重量比で100:21~100:100の範囲内であることが望ましい。
このような止水材によれば、上述した作用効果を確実に奏することができる。
【0019】
かかる止水材であって、セメント組成体や鋼材および樹脂(塗膜、配管、既注入止水材)等から構成される建物躯体からの40℃~60℃の漏水の止水に用いられることが望ましい。
このような止水材によれば、熱水環境下においても長期的な止水効果を発揮することができる。
【0020】
また、水性エマルションと一液型ポリウレタン樹脂を混合して止水箇所に注入する止水工法であって、前記水性エマルションは、有機ポリイソシアネートとポリカーボネート系ポリオールの反応物が水中に分散した自己乳化型のものであり、前記一液型ポリウレタン樹脂は、上水道に対して10重量%の濃度で添加した時の硬化時間が、常温で30分以上となる遅延硬化型樹脂であることを特徴とする止水工法が明らかとなる。
このような止水工法によれば、漏水部の止水を確実に且つ長期的に行なうことができる。
【0021】
===本実施形態===
図1は本実施形態の止水工法に用いる注入装置10の概略図である。
【0022】
注入装置10は、2液混合型の装置である。すなわち、互いに種類の異なる薬液を貯留する二つのタンクT,Tと、タンクT,T毎に設けられた高圧ポンプP,Pと、各高圧ホースH,Hを介して各高圧ポンプP,Pから供給された2液を合流させて圧送する注入具10Aと、この注入具10Aからの合流液を漏水・補修箇所に攪拌・注入する止水液混合注入プラグ30を備えている。
【0023】
タンクT,Tの2液(以下、A液、B液ともいう)は、一方がウレタンプレポリマー、他方が水性エマルションであって、そして、これらウレタンプレポリマーと水性エマルションとは、対応する各高圧ポンプP,Pによってそれぞれ別個に注入具10Aへ圧送供給されるとともに、注入具10A内の合流ヘッド11(後述)で合流される。なお、各高圧ポンプP,Pは一つの動力源(モーター)に連結されて運転するものを使用するのが好ましい。これによりポンプ回りの構成がコンパクトになる。
【0024】
注入具10Aは、止水液注入時に止水液混合注入プラグ30に結合されて、当該止水液混合注入プラグ30内のミキサーで止水液を撹拌・混合して漏水・補修箇所に注入し、注入後は止水液混合注入プラグ30をこの補修箇所に残して分離できる構成となっている。この構成によれば、2液(A液、B液)混合時における硬化物による装置の詰まりは、注入具10Aのみ側となる。よって、硬化物の除去及び清掃は、注入具10Aのみ行えばよく、止水液混合注入プラグ30の除去及び清掃対応が不要になるので、硬化物の除去及び清掃のメンテナンスを大幅に軽減できる。
【0025】
次に、図2を参照して、注入具10Aを説明する。なお、図2は、注入装置10の注入具10Aの分解図である。
【0026】
注入具10Aは、主に、合流ヘッド11と、逆止弁付きジョイント23Aと、逆止弁付きジョイント23Bと、ハンドル付き切換弁25Aと、ハンドル付き切換弁25Bと、ハンドル付き切換え弁19とを備えている。また、合流ヘッド11は、ヘッド本体12とチャック装着体14とを備えている。
【0027】
ヘッド本体12には、2つの流路(第1流路13a、第2流路13b)が設けられている。各流路(第1流路13a、第2流路13b)には、それぞれ、上記二つの高圧ホースH,Hのうちの対応する各高圧ホースが接続されている。この第1流路13a、第2流路13bは、略V字型となっておりヘッド本体12の先端側(チャック装着体14側)で合流している。このV字型流路により、第1流路13a、第2流路13bを通った液体が、合流部に集中して流れ込み、ここで効率よく合流される。また、各流路(貫通孔)は直線状になっているので、流体抵抗は直角に折曲したものと比べて低減される。さらに、各貫通孔(流路)はヘッド本体12の先端から内部を覗き込むことができ、孔内壁に硬化物が付着していると、その付着状況を簡単に発見できて、簡単に除去及び清掃ができる。また貫通孔が硬化塊で塞がれているときも簡単に発見できて、しかも簡単に除去、清掃ができる。このように、第1流路13a、第2流路13bは、短長な直線状の貫通孔でV字状に形成されているので、孔内の状況が簡単に目視できて、付着した硬化物乃至硬化塊を容易に清掃でき除去することができる。
【0028】
チャック装着体14は、ヘッド本体12の前側(流路の下流側)に設けられており、ヘッド本体12のV字型流路(第1流路13a、第2流路13b)の合流部と連通する流路15を有している。チャック装着体14は、ヘッド本体12の前側端部との間にリングパッキン16を介在して、ボルト17でネジ止めされている。このようにチャック装着体14は、ボルト17によるネジ止めでヘッド本体12に固定されているので、両部品を分離することが可能であり、硬化物が詰まったときには、簡単に分離・分解して、硬化物の除去・部品の清掃ができる。なお、この分離箇所は、2液の合流箇所であって、硬化物で詰まり易く、汚れやすくなっており、分離・分解することで、効果的に硬化物を除去(清掃)できる。
【0029】
逆止弁付きジョイント23Aは、止水液(A液、B液のいずれか一方)が高圧ポンプPから圧送されるときは、弁機構(不図示)の弁が開き、止水液が下流側(吐出方向)へ送られる。一方、ハンドル付き切換弁19が閉じられると、圧送されていた液が逆流される。このとき、弁機構の弁が閉じられる。これにより、逆流された液体(止水液)がストップされ、高圧ホースH、高圧ポンプPへ送られることがない。その結果、逆流液に、硬化物が含まれていても、高圧ポンプPへの逆流を阻止し、装置の故障を未然に防止できる。
【0030】
他方の逆止弁付きジョイント23Bも逆止弁付きジョイント23Aと同じ構造を有しておいる。また、逆止弁付きジョイント23A及び逆止弁付きジョイント23Bは、弁機構(不図示)を構成する部材の取り外しができるようになっている。したがって、硬化物が詰まったときには、取り外し(分解)することで、簡単に硬化物の除去、清掃ができる。
【0031】
なお、逆止弁付きジョイント23Aは、径変換部材22(継手)を介してヘッド本体12の一方の流路(第1流路13a)と接続されており、逆止弁付きジョイント23Bは、径変換部材22(継手)を介してヘッド本体12の他方の流路(第2流路13b)と接続されている。また、逆止弁付きジョイント23Aは、ナット24を介して、ハンドル付き切換弁25Aと接続されており、逆止弁付きジョイント23Bは、ナット24を介して、ハンドル付き切換弁25Bと接続されている。
【0032】
また、ハンドル付き切換弁25Aは、径変換部材26(継手)を介して高圧ホース結合金具27と接続されており、ハンドル付き切換弁25Bは、径変換部材26を介して高圧ホース結合金具27と接続されている。また、ハンドル付き切換弁19は、径変換部材18(継手)を介してチャック装着体14と接続されており、また、径変換部材20(継手)を介してプラグチャック21と接続されている。なお、3個のハンドル付き切換弁のうち、ハンドル付き切換弁25A、25Bは作業停止用、ハンドル付き切換弁19は注入用に使用される。なお、これらの各ハンドル付き切換弁は、ハンドルを回すことによって、内部の弁が開閉されるものである。
【0033】
また、プラグチャック21は、止水液混合注入プラグ30と分離可能である。これにより、止水液混合注入プラグ30を漏水箇所に残したままとすることができる。
【0034】
止水液混合注入プラグ30は、混合部31と吐出部32とを有している。
【0035】
混合部31は、長さ方向の中心軸に沿った中空孔(不図示)が形成されたパイプ材であり、その中空孔には、略螺旋状の翼が設けられたスクリュー棒からなるミキサー(不図示)が収納されている。
【0036】
吐出部32は、混合部31よりも前側(先端側)に設けられた中空孔を有する筒状体であり、金属材料や硬質樹脂材料で形成されている。この吐出部32から止水材が吐出される。
【0037】
図3A図3Dは、本実施形態の止水工法の説明図である。この止水工法は、止水対象部材としてのコンクリート製構造物100において止水対象部分となるひび割れ部100aに薬液(止水材)を注入して当該ひび割れ部100aを埋めるものである。なお、この例では、止水対象としてひび割れ部100aを例示しているが、何等これに限らない。すなわち、漏水が生じ得るような空隙を有した部分であれば、止水対象部分とすることができる。例えば、コンクリートの打ち継ぎ部を止水対象部分としても良い。
【0038】
まず、図3Aに示すように、コンクリート製構造物100の漏水箇所(ひび割れ部100a)に繋がるように、所定大きさ及び深さの注入孔101を穿孔する。なお、図3Aでは注入孔101は1個であるが、複数個の注入孔101を穿孔して、それぞれの注入孔101に止水液混合注入プラグ30を取付けて固定する。複数の注入孔101は、例えば、水平方向及び鉛直方向の各方向に対して所定間隔、例えば200mm等の間隔をあけて穿孔する。
【0039】
そして、注入孔101に止水液混合注入プラグ30を端部(混合部31の端部)がコンクリート製構造物100の壁面ら飛び出させた状態にして挿入する。こうして、注入孔101内に止水液混合注入プラグ30を取り付ける(固定する)。
【0040】
次に、図3Bに示すように、ひび割れ部100aに取付けて固定した複数本の止水液混合注入プラグ30のうち、先ず、1本目の止水液混合注入プラグ30に、注入装置10の注入具10Aのプラグチャック21を結合し、注入孔101、及び、ひび割れ部100aへ止水液を注入する。図中の符号abは止水液(A液、B液)を示している。なお、この止水液の注入は、注入装置10の高圧ポンプP、Pを作動させ、ハンドル付き切換弁19のハンドル回して、弁を開き、A液、B液を貯留したタンクT、Tからこれらの止水液を合流ヘッド11へ所定の圧力で圧送し、止水液混合注入プラグ30でこれらを撹拌・混合して注入することによってなされる。
【0041】
なお、この注入された混合物は、比較的短時間で硬化する。すなわち、ウレタンプレポリマーの発泡硬化に必要な水は、水性エマルションから供給され、他方、この供給により、水性エマルションからは水が消費されて水性エマルションは硬化する。よって、基本的に、ウレタンプレポリマーの発泡硬化が比較的短時間でなされるだけでなく、水性エマルションの硬化も比較的短時間でなされる。
【0042】
注入終了後、図3Cに示すように、ハンドル付き切換弁19を閉じて止水液の吐出を止め、注入具10Aを止水液混合注入プラグ30から取り外す。次いで、吐出部32を注入孔101に残したまま、止水液混合注入プラグ30の混合部31を抜き取る。吐出部32を注入孔101に残しても、吐出部32は小部品であり、しかも注入孔101内には止水液が注入されて硬化しているので、この箇所から漏水することがない。
【0043】
その後、図3Dに示すように、注入孔101の入り口に、モルタル等の適宜な充填材102(補修材)を充填等して孔の無い状態に仕上げる。これにより、1本目の注入孔の補修を終了する。以後、同様の方法で、順次、漏水箇所に取付けた複数本の止水液混合注入プラグ30に止水液を注入して、水漏れ箇所の止水を行う。
【0044】
なお、ここまでは幅の細いひび割れや打ち継ぎ部を対象とした施工方法を例示したが、何等これに限らない。すなわち、橋梁や建物躯体のエキスパンジョンジョイント、目地部等の幅の広い空隙部に圧力にかけずに止水液を流し込むことで、水漏れ対象箇所に施工可能な、速硬性、接着性、追従性を併せ持つシーリング材(充填止水材)としても用いることができる。
【0045】
ここで、第1薬液(A液)たる液状のウレタンプレポリマーの一例としては、遅延硬化型のウレタン樹脂(一液型ポリウレタン樹脂に相当)を例示できる。なお、遅延硬化型のウレタン樹脂とは、ウレタン樹脂と上水道水の総重量に対してウレタン樹脂を10重量%の濃度で添加した時の硬化時間が、常温(20℃)で30分以上となるものである。このような遅延硬化型のものとしては、有機ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含み、有機ポリイソシアネートが、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、又は、水添4、4ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)の何れか1種類、又は2種類以上を含むものを用いることができる。
【0046】
一方、第2薬液(B液)たる水性エマルションとしては、従来、例えば、樹脂固形分としてヒドロキシル基を有さない分子構造のアクリル樹脂を、アニオン系又はノニオン系の界面活性剤で水に乳化させたものや、樹脂固形分としてヒドロキシル基を有さない分子構造のアクリル樹脂及び石油樹脂を、界面活性剤としてのポリビニルアルコール(以下、PVAとも言う)で水に乳化させたものが用いられている。
【0047】
このような、ウレタン樹脂(一液型ポリウレタン樹脂)と水性エマルションを組み合わせて(混合して)使うことで、ウレタン樹脂のみの場合と比べて寸法安定性や伸縮性に優れた樹脂(硬化物)を得ることができる。
【0048】
しかしながら、この硬化物は、長期的に熱水(例えば40℃~60℃の漏水)に接する環境では、分解・劣化を起こすおそれがある。また、ポリビニルアルコール(PVA)のような水溶性高分子を用いて乳化させた水性エマルションでは、エマルションの長期的な安定性が劣るほか、エマルションの樹脂を覆う水溶性高分子がエマルション同士の融着を妨げるため、樹脂が硬化しにくくなるという問題がある。
【0049】
そこで、本実施形態では、硬化物の耐熱性及び安定性の向上を図ることにより、セメント組成体の漏水部(特に40℃~60℃の漏水)の止水を確実に且つ長期的に安定して行なえるようにしている。
【0050】
具体的には、本実施形態の水性エマルションの樹脂固形成分は、脂肪族系ポリイソシアネート、ポリカーボネート系ジオール、少なくとも2個のアルコール性活性水素を有するカルボキシル基含有化合物、及び第三級アミンとの反応物からなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(有機ポリイソシアネートとポリカーボネート系ポリオールの反応物が水中に分散したもの)である。特に、ポリオールの種類は、耐水性、耐熱性に優れたポリカーボネート系ポリオールを用いることで、得られる樹脂固形分に耐水性、耐熱性を付与できる。エマルションの固形分は、親水基を保有しており、界面活性剤を用いずに固形分が乳化されている(自己乳化型)。
【0051】
また、エマルションの固形分の体積平均粒子径(Dv)は、0.01~5μmであり、且つ、体積平均粒子径/個数平均粒子径(Dv/Dn)は、1.2~5である。
【0052】
親水基は、アニオン性として、カルボン性トリエチルアミン塩、スルホン酸ナトリウム塩の何れかからなることが好ましい。特に、カルボン酸トリエチルアミン塩を用いたものは、乾燥時に水といっしょに発揮させることで乾燥皮膜の親水性を低下させ、水中での分散安定性と乾燥後の耐水性をうまく両立させることができる。
【0053】
但し、これには限られず、親水基がカチオン性、あるいは、非イオン性であってもよい。
【0054】
このような水性エマルションをウレタン樹脂(一液型ポリウレタン樹脂)と組み合わせることで、耐熱性、耐水性に優れたポリカーボネート系ポリウレタン樹脂に覆われた形の硬化樹脂が形成される。
【0055】
なお、混合時の水性エマルションとウレタン樹脂との配合比については、重量比で例えば100:21~100:100の範囲から選択され、注入直前で混合される。
【0056】
<<実施例>>
<試験体>
水性エマルションとして、従来型と、耐熱型(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を主成分としたもの)を用いて評価を行った。
【0057】
図4は、実施例における使用材料を示す表1である。図5は、実施例における試験体の配合を示す表2である。
【0058】
図4に示すように、ウレタンプレポリマーとしては、遅延硬化型のウレタン樹脂を用いた。また、水性エマルションとしては、アクリル樹脂を主成分とする水性エマルション(従来型)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を主成分とし、親水基として、カルボン酸トリエチルアミン塩を有する自己乳化型のもの(耐熱型)を、図5(表2)に示す配合比でウレタンプレポリマーと配合して、比較例1と実施例1の試験体をそれぞれ作製した。
【0059】
<試験方法>
以下に示す方法により、硬化時間と、収縮率と、耐熱性と、耐薬品性を評価した。
【0060】
(硬化時間)
JIS K 6901:2008「液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法」に準じ試験を行った。20℃環境で練り混ぜた止水材に、直径5mmのガラス棒を押し付け、ガラス棒に付着した止水材が糸状に持ち上がらずに切断した時をもって、硬化時間とした。試験体は、各条件につき1体とした。
【0061】
(収縮率)
ポリプロピレン製カップに練り混ぜた止水材を流し込み、5時間後にカップからはみ出た止水性硬化物を切断した。その後、カップに残った止水性硬化物を取り出して、満水にした容器に沈め、容器からあふれ出た水の質量を測定して初期体積を求めた。その後、カップ上面を解放した状態にて、材齢14日時点まで20℃65%RHの環境下で養生した試験体で同様に体積を測定して体積変化率を求め、下記式(1)に従い収縮率を求めた。なお、試験体数は各条件につき3体とした。
収縮率(%)=〔1-(材齢14日時点での体積/初期体積)〕×100・・・(1)
【0062】
(耐熱性)
厚さ1mmのシート状に形成した樹脂硬化物を20℃65%RHの環境下で14日間養生し、ダンベル状3号の形状に型抜きして試験片を作製した。
【0063】
その後、所定の20℃水、60℃水、-18℃水にそれぞれ試験片を浸漬し、0日、28日、91日浸漬後、試験片を取り出して24時間乾燥させ、500mm/minの引張速度で引張試験を行った。なお、試験体数は各条件につき3体とした。試験結果から下記の式(2)に従い引張強さ保持率を求めた。
【0064】
引張強さ保持率(%)=各期間浸漬後の引張強さ/浸漬前の引張強さ×100・・(2)
なお、浸漬前の引張強さは、常温(20℃)気中14日養生後の引張強さである。
【0065】
(耐薬品性)
耐熱性と同様に、厚さ1mmのシート状に形成した樹脂硬化物を20℃65%RHの環境下で14日間養生し、ダンベル状3号の形状に型抜きして試験片を作製した。
【0066】
その後、水道水(20℃水中)、3%食塩水、セメント飽和水、1%酢酸水、1%硫酸水にそれぞれ試験片を浸漬し、0日、28日、91日浸漬後、試験片を取り出して、24時間乾燥させ、500mm/minの引張速度で引張試験を行った。なお、試験体数は各条件につき3体とした。試験結果から耐熱性試験と同様に引張強さ保持率を求めた。
【0067】
<試験結果>
図6A図6Dは、試験結果の説明図である。図6Aは、硬化時間の試験結果を示す表3であり、図6Bは、収縮率の試験結果を示す表4である。また、図6Cは、耐熱性の評価結果を示す表5であり、図6Dは、耐薬品性の評価結果を示す表6である。
【0068】
図6A(表3)に示すように、比較例1では硬化時間が200秒であるのに対し、実施例1の硬化時間は120秒であり、実施例1の方が比較例1よりも硬化時間が早くなった。なお、硬化時間は早すぎても遅すぎても好ましくなく、実施例1では適度の時間を確保できている。
【0069】
また、図6B(表4)に示すように、実施例1の収縮率は、比較例1の収縮率よりも小さい。つまり、実施例1では、比較例1よりも体積変化が小さい(形態の安定性が高い)。
【0070】
また、図6C(表5)に示すように、比較例1では60℃水中に91日浸漬したものは引張強さ保持率が0%であった。これに対し、実施例1では、60℃水中に91日浸漬したものは引張強さ保持率が150%と初期値に対して1.5倍となった。よって、実施例1は、比較例1と比べて耐熱性が非常に良いといえる。
【0071】
また、図6D(表6)に示すように、28日及び91日浸漬した後の引張強さ保持率は、何れの試験条件においても、実施例1の方が比較例1よりも値が大きくなっている。このように、実施例1は、比較例1と比べて耐薬品性も優れている。
【0072】
このように、水性エマルションとして、耐熱性・耐水性に優れたポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用い、且つ、界面活性剤を用いない自己乳化型のエマルションを用いることで、60℃程度の熱水環境下や、酸、塩基、塩化物イオンの影響がある環境下においても樹脂硬化物の劣化を防ぐことができることが確認された。これにより、温水ピットや温浴施設などの温水に接する箇所や、下水道などの耐薬品性が求められる箇所においても長期的な止水効果を発揮することができる。また、1液型ポリウレタン樹脂と水性エマルションの2液硬化型の特徴として、止水材注入箇所の乾湿に関わらず、適度な可使時間を保持しながら速硬かつ安定的な硬化物が得られるため、地下躯体乾燥部への施工による止水材硬化不良や漏水量の多い箇所への施工による止水材の流出などの不具合を防ぐことができる。さらに、硬化物が伸び性能を有するため、下地に動きが生じても追従することができ、硬化後の収縮が少ないことから形態安定性も優れている。
【0073】
このように、本実施形態の止水材を用いることで、漏水部の止水を確実に且つ長期的に安定して行なうことができる。
【0074】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0075】
上述の実施形態では、止水対象の一例としてコンクリート製構造物100を例示したが、これに限られない。例えば、モルタル製構造物等のその他のセメント組成体であってもよい。また、止水材対象部分はセメント組成体には限られず、鋼材や樹脂(塗膜、配管、既注入止水材)等であっても良い。
【符号の説明】
【0076】
10 注入装置、10A 注入具、
11 合流ヘッド、12 ヘッド本体、
13a 第1流路、13b 第2流路、
14 チャック装着体、15 流路、
16 リングパッキン、17 ボルト、
18 径変換部材、19 ハンドル付き切換弁、
20 径変換部材、21 プラグチャック、
22 径変換部材、
23A 逆止弁付きジョイント、23B 逆止弁付きジョイント、
24 ナット、
25A ハンドル付き切換弁、25B ハンドル付き切換弁、
26 径変換部材、27 高圧ホース結合金具、
30 止水液混合注入プラグ、
31 混合部、32 吐出部、
100 コンクリート製構造物、100a ひび割れ部、
101 注入孔、102 充填材、
タンク、T タンク、
高圧ポンプ、P 高圧ポンプ、
高圧ホース、H 高圧ホース
図1
図2
図3
図4
図5
図6