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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】防虫方法及び防虫システム
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/00 20060101AFI20231219BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20231219BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20231219BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
A01M1/00 Z
A01P7/04
A01P3/00
A01N59/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019237682
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021103998
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年10月28日、第35回日本ペストロジー学会 富山大会 プログラム・講演要旨集、日本ペストロジー学会 令和元年11月15日、第35回日本ペストロジー学会 富山大会、日本ペストロジー学会
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 康樹
(72)【発明者】
【氏名】高野 友二郎
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-212216(JP,A)
【文献】特開2018-027291(JP,A)
【文献】特開2009-095257(JP,A)
【文献】特開2018-027025(JP,A)
【文献】特開2014-200205(JP,A)
【文献】特開平01-015053(JP,A)
【文献】特開2019-208864(JP,A)
【文献】特開2017-013036(JP,A)
【文献】特開平05-219871(JP,A)
【文献】特開平05-058827(JP,A)
【文献】特開2018-153238(JP,A)
【文献】特開2016-083193(JP,A)
【文献】特開2003-206208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00
A01P 7/04
A01P 3/00
A01N 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値で、屋内をエキシマランプの紫外線照射により4ppm以上のオゾンガスで暴露することを特徴とする防虫方法。
【請求項2】
前記CT値が、2,500CT以上である、請求項1に記載の防虫方法。
【請求項3】
前記オゾンガス暴露は、30日以内で繰り返される、請求項1又は2に記載の防虫方法。
【請求項4】
前記2,500CT値以上でのオゾンガス暴露と、前記30日以内の間隔の組み合わせによって、成虫の個体数を減少させる、請求項3に記載の防虫方法。
【請求項5】
前記紫外線を放射するエキシマ分子が、Xe由来である、請求項1~4のいずれか一項に記載の防虫方法。
【請求項6】
チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値以上で、屋内をエキシマランプの紫外線照射により4ppm以上のオゾンガスで暴露することを特徴とする防虫システム。
【請求項7】
放出するオゾンガス濃度とオゾン放出時間の組み合わせで、屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転と、屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転とが選択可能である、請求項に記載の防虫システム。
【請求項8】
2,500CT以上のオゾンガスを暴露して屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転と、10,000CT以上のオゾンガスを暴露して屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転とを選択可能である、請求項に記載の防虫システム。
【請求項9】
前記屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転が繰り返される間隔が、前記屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転が繰り返される間隔よりも短期間である、請求項7又は8に記載の防虫システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫方法及び防虫システムに関する。本発明によれば、屋内で発生する害虫、特にはチャタテムシの発生を制御することができる。
【背景技術】
【0002】
チャタテムシ類は種によって有翅と無翅のものが知られており、多くのチャタテムシは、花粉やカビ類等を餌として野外に生息している。一方、ヒラタチャタテやヒメチャタテは屋内発生虫として貯穀害虫や衛生害虫、不快害虫とされている。これらの屋内性のチャタテムシ類は主にカビの生えた所に生息しており、一般家庭、食品工場、医薬品工場、及び倉庫などにおいて、食品や原料、機械内部、パレット、段ボールなどの紙類、埃や汚れの溜まった床、壁、天井など施設内のあらゆる場所から発生する。また、チャタテムシが大量に発生すると、カビの拡散および、食品工場又は医薬品工場などでは、チャタテムシ虫体の製品への混入リスクが高まる。
チャタテムシの駆除には、ピレスロイド系殺虫剤が有効であることが知られていたが、このほかにも、d-リモネン(特許文献1)、第4級アンモニウム塩(特許文献2)、及びN,N-ジエチル-m-トルアミド(特許文献3)が、チャタテムシの駆除に有効であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-349407号公報
【文献】特開2006-117595号公報
【文献】特開平3-188003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1~3などの薬剤をチャタテムシの駆除に用いた場合、これらの薬剤の食品又は医薬品への残留の問題が考えられた。
従って、本発明の目的は、食品又は医薬品への薬剤の残留のリスクの少ないチャタテムシの駆除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、食品又は医薬品への薬剤の残留のリスクの少ないチャタテムシの駆除方法ついて、鋭意研究した結果、驚くべきことに、オゾンガスによってチャタテムシを効果的に防除できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値で、屋内をオゾンガスで暴露することを特徴とする防虫方法、
[2]前記CT値が、2,500CT以上である、[1]に記載の防虫方法、
[3]前記オゾンガス暴露は、屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間よりも短い間隔以内で繰り返される、[1]又は[2]に記載の防虫方法、
[4]前記CT値以上でのオゾンガス暴露と、前記オゾンガス暴露を繰り返す間隔の組み合わせによって、成虫の個体数を減少させる、[3]に記載の防虫方法、
[5]前記オゾンガスが、エキシマランプの紫外線により発生する、[1]~[4]のいずれかに記載の防虫方法、
[6]前記紫外線を放射するエキシマ分子が、Xe由来である、[5]に記載の防虫方法、
[7]チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値以上で、屋内をオゾンガスで暴露することを特徴とする防虫システム、
[8]放出するオゾンガス濃度とオゾン放出時間の組み合わせで、屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転と、屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転とが選択可能である、[7]に記載の防虫システム、
[9]2,500CT以上のオゾンガスを暴露して屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転と、10,000CT以上のオゾンガスを暴露して屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転とを選択可能である、[8]に記載の防虫システム、及び
[10]前記屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転が繰り返される間隔が、前記屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転が繰り返される間隔よりも短期間である、[8]又は[9]に記載の防虫システム、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の防虫方法及び防虫システムによれば、オゾンガスが分解されやすいため、食品等に対する薬剤の残留のない防虫を行うことができる。しかし、高濃度のオゾンガスは、ヒトへの毒性があることが知られている。本発明者らは、比較的低濃度のオゾンガスが、チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制することを見出した。本発明の防虫方法及び防虫システムのある実施態様によれば、比較的低濃度のオゾンガスで、チャタテムシの防除を実施することができる。また、本発明の防虫方法及び防虫システムのある実施態様によれば、比較的低濃度のオゾンガスで、チャタテムシの餌となるカビの発生を抑制し、それによって、更にチャタテムシの発生を防除することができる。更に、エキシマランプによってオゾンガスを発生させることによって、窒素酸化物の生成を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】オゾンガスの暴露におけるCT値(オゾン濃度)とヒラタチャタテの累積産卵数との関係を示したグラフである。
図2】オゾンガスの暴露におけるCT値(オゾン濃度)とヒラタチャタテの死亡率との関係を示したグラフである。
図3】オゾンガスの暴露におけるCT値(オゾン濃度)とAspergillus brasiliensisの死亡率との関係を示したグラフである。
図4】異なるオゾンガス濃度の暴露を、1週間(7日間)間隔で繰り返した場合の、365日間の個体数をシミュレーションしたグラフである。
図5】異なるオゾンガス濃度の暴露を、1週間(7日間)間隔で繰り返した場合の365日後の個体数のシミュレーションをまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]防虫方法
本発明の防虫方法は、チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値で、屋内をオゾンガスで暴露する。好ましくは、オゾンガス暴露は、前記屋内の初期個体数からの増加が抑制される期間よりも短い間隔以内で繰り返す。
【0009】
《節足動物》
本発明の防虫方法によって防除される節足動物(虫)は、特に限定されるものではなく、例えば屋内発生虫、特に食品工場又は医薬品工場などの屋内で累代を繰り返す虫、屋内に侵入した虫である。しかしながら、本発明の防虫方法は、特にチャタテムシの防除に有効である。
屋内で発生するチャタテムシ類では、ヒラタチャタテ又はヒメチャタテが挙げられる。例えば、ヒラタチャタテは、コナチャタテ科に属し、体長は1~1.3mmであり、体色は淡褐色もしくは灰褐色、背腹が扁平で頭が大きく、頭部の長さと幅が同長である。不完全変態で幼虫と成虫の形態は似ている。産雌単為生殖のため雄は存在せず、雌成虫は生涯で200卵程度の卵を産む。世界中に分布しており、日本国内においても全域で生息が確認されている。
【0010】
《オゾンガスによる暴露》
オゾンガスによる暴露は、チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制する限りにおいて、特に限定されるものではない。チャタテムシの雌成虫の産卵数が抑制されることによって、長期的に成虫の個体数を減少させ、虫を防除することができる。
オゾンガスによる暴露によるチャタテムシの雌成虫の産卵数抑制効果は、基本的にオゾンガス濃度及びオゾンガスへの暴露時間の長さに依存する。すなわち、オゾンガス濃度が高いほど、チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制することが可能であり、オゾンガスへの暴露時間が長いほど、チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制することが可能である。オゾンガスによる暴露の指標として、CT値が挙げられる。CT値とは、オゾンガス濃度(ppm)と、そのオゾンガス濃度に接触した時間(分)の積で示される数値である。CT値は、以下の式で表される。
CT値=オゾンガス濃度(ppm)x時間(分)
すなわち、オゾンガス濃度が高くなれば、CT値は高くなり、また接触時間が長くなれば、CT値は高くなる。また、CT値が高いほど、一般的にオゾンガスの暴露効果が高くなる。例えば、図1に示すように、CT値が高くなるに従って、虫の累積産卵率が減少する。また、図2に示すように、CT値が高くなるにしたがって、虫の死亡率が高くなる。
なお、前記式によるCT値の計算において、オゾンガス濃度が上昇し、一定の濃度に到達するまでの間は、CT値を積算することができる。例えば2分ごとに1ppm上昇し、5ppmに達する場合、5ppmに達するまでのCT値を、およそ以下のように計算することができる。
1ppmx2+2ppmx2+3ppmx2+4ppmx2=20CT
【0011】
前記CT値は、チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制する限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば好ましくは500CT以上であり、より好ましくは1,000CT以上であり、より好ましくは1,500CT以上であり、より好ましくは2,000CT以上であり、より好ましくは2,500CT以上であり、より好ましくは3,000CT以上であり、より好ましくは3,500CT以上であり、より好ましくは4,000CT以上である。CT値の上限は、高いCT値で産卵数が抑制されるため、特に限定されるものではないが、効率を考えると、10,000CT未満であり、好ましくは9,000CT以下であり、より好ましくは8,000CT以下であり、より好ましくは7,000CT以下であり、より好ましくは6,000CT以下であり、より好ましくは5,000CT以下である。
【0012】
前記の通り、産卵数抑制効果は、オゾンガス濃度及びオゾンガスへの暴露時間の長さであるCT値に依存するため、オゾンガス濃度及び暴露時間は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されるものではない。しかしながら、オゾンガス濃度の下限は、例えば2ppm以上であり、好ましくは4ppm以上であり、より好ましくは6ppm以上であり、より好ましくは8ppm以上であり、より好ましくは10ppm以上であり、より好ましくは12ppm以上であり、より好ましくは14ppm以上である。オゾンガス濃度の上限も、限定されるものではないが、例えば30ppm以下であり、好ましくは26ppm以下であり、より好ましくは22ppm以下であり、より好ましくは18ppm以下である。暴露時間も限定されるものではないが、下限は例えば30分以上であり、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは2時間以上であり、より好ましくは3時間以上であり、より好ましくは4時間以上である。暴露時間の上限も特に限定されないが、例えば24時間以下であり、好ましくは18時間以下であり、好ましくは12時間以下である。前記の暴露時間の範囲であることによって、食品工場又は医薬品工場などの屋内にヒトがいない夜間又は休日などにオゾンガスによる暴露を実施することができる。
【0013】
本明細書において「チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値」は、例えば実施例1に記載のように、チャタテムシを用いて、異なる濃度のオゾンで暴露することにより、決定することができる。すなわち、異なる濃度のオゾンで一定時間チャタテムシに暴露し、暴露後にチャタテムシの産卵数を計測することによって、図1に示すように、オゾンを暴露した場合のチャタテムシの産卵数の減少率を計測することができる。また、図2に示すように、オゾンを暴露した場合のチャタテムシの死亡率を計測することもできる。
実施例1は、チャタテムシとしてヒラタチャタテを用いているが、他のチャタテムシを用いても、実施例1の方法に従えば、容易に「チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値」を決定することができる。また、図1から得られる「ヒラタチャタテの雌成虫の産卵数を抑制するCT値」によって、「チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値」を代表(代替)することもできる。
【0014】
本発明の防虫方法におけるオゾン暴露によって、チャタテムシの餌となるカビの発生を抑制することができる。カビの発生を抑制することにより、チャタテムシの餌が減少し、それによって、更にチャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制することができる。
【0015】
《オゾンガス暴露間隔》
オゾンガス曝露は、好ましくは前記屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間以内で繰り返される。「屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間」とは、オゾンガス曝露によって死亡した個体数よりも、生存した雌成虫による増殖が大きくなるまでの期間であり、曝露するオゾン濃度によって死亡数と雌成虫の増殖力(産卵数)は変化する。「屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間」に、オゾンガス暴露を繰り返すことによって、屋内発生中の個体群動態は、初期発生数より増えることがなく、屋内発生中の個体数を制御可能であり、防除することができる。
【0016】
このオゾンガス暴露間隔は、オゾンガスの暴露時のCT値が高いと、図1及び図2に示すように、累積産卵数の減少が大きく、そして雌成虫の死亡率も高くなる。すなわち、産卵数の抑制が大きく、且つオゾンガスの殺虫効果により雌成虫が死滅している。従って、オゾンガスの暴露時のCT値が高い場合、「屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間」は長くなる。逆に、オゾンガスの暴露時のCT値が低い場合、「屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間」は短くなる。すなわち、オゾンガスの暴露時のCT値によって、オゾンガス暴露間隔を適宜決定することができる。
【0017】
以上の通り、オゾンガス暴露間隔は、屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間よりも短い間隔である限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば30日以内であり、好ましくは20日以内であり、より好まししくは15日以内であり、更に好ましくは10日以内であり、最も好ましくは8日以内である。
【0018】
《オゾンガス》
本発明に使用するオゾンガスは、Oで表される常温常圧で薄青色の気体である。オゾンガスは、空気中での紫外線照射、又は酸素中での無声放電などの高いエネルギーを持つ電子と酸素分子との衝突によって発生する。しかし、オゾンは不安定な分子であるため、比較的速やかに酸素に変化する。
オゾンガスは、0.01~0.02ppmで多少の臭気があり、0.1ppmでは明らかに臭気があり、鼻やのどに刺激を感じる。高濃度のオゾンガスはヒトにも有害である。従って、本発明の防虫方法を食品工場又は医薬品工場などの屋内で実施する場合には、ヒトのいない夜間又は休日に実施するのが好ましい。しかしながら、前記の通りオゾンは不安定な分子であるため、防虫方法を実施した後に、比較的速やかに分解する。従って、オゾンは食品又は医薬品への残留がなく、食品工場又は医薬品工場などにおける防虫方法の成分として好ましい。
【0019】
《オゾンガス発生装置》
オゾンガスは、無声放電法、電気分解法、又は紫外線照射法などによって発生させることができる。無声放電法では窒素酸化物の発生が見られる。しかしながら、紫外線照射法では、窒素酸化物の発生がなく、紫外線を用いたオゾン発生装置が好ましい。
オゾンを発生する紫外線源としては、限定されるものではないが、低圧水銀ランプ又はキセノンエキシマランプが挙げられる。低圧水銀ランプは185nmの波長ピーク及び254nmの波長ピークを有し、185nmの波長の紫外線によってオゾンが発生する。また、キセノンエキシマランプは、172nmの波長ピークを有し、この波長によってオゾンが発生する。オゾンは、低圧水銀ランプのもう1つの254nmのフォトンを吸収しやすく、オゾンはこのフォトンの吸収により分解されることがある。従って、高濃度のオゾンを得るためには、キセノンエキシマランプが好ましい。
【0020】
オゾンガスを発生させる紫外線の波長は、限定されるものではないが、例えば240nm以下である。しかしながら、127nm以下の波長では窒素酸化物も発生する可能性がある。従って、オゾンを発生する紫外線源は、前記低圧水銀ランプ又はキセノンエキシマランプに限定されるものではなく、127nm~240nmの紫外線を発生することができるものであれば、限定することなく、本発明の防虫方法に用いることができる。紫外線波長の下限は、好ましくは130nm以上であり、より好ましくは140nm以上であり、更に好ましくは150nm以上であり、更に好ましくは160nm以上である。紫外線波長の上限は、好ましくは230nm以下であり、より好ましくは220nm以下であり、更に好ましくは210nm以下であり、更に好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは190nm以下である。前記上限及び下限は、任意に組み合わせることができる。
【0021】
《殺虫効果のあるオゾンガスによる暴露》
本発明の防虫方法におけるオゾンガスによる暴露は、10,000CT以上のCT値で屋内を暴露することもできる。例えば、図2に示すように、ヒラタチャタテは、CT値が高くなるにつれて、死亡率が高くなり、約10,000CTで死亡率が100%となった。
従って、例えば10,000CT以上オゾンガス暴露により、チャタテムシの雌成虫の産卵数を理論的に0にすることができる。その後に、屋外からのチャタテムシの侵入がない限り、チャタテムシの雌成虫の産卵数は、0で維持されることになる。また、屋外からのチャタテムシの侵入があったとしても、「屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間」をかなり長期期間維持することができると考えられ、オゾンガス暴露間隔を長く設定することができる。
【0022】
[2]防虫システム
本発明の防虫システムは、チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値以上で、屋内をオゾンガスで暴露することを特徴とする。
本発明の防虫システムは、オゾンガス発生装置を有する。また、チャタテムシの雌成虫の産卵数を抑制するCT値以上で屋内をオゾンガスで暴露するために、好ましくは屋内のオゾンガス濃度の測定手段を有する。また、CT値を制御するために、オゾンガス濃度の調整及び暴露時間の調整が必要であるが、測定されたオゾンガス濃度に基づいて、オゾンガス発生の時間とオゾンガス停止の時間とを調整して目的のCT値に制御する手段を有することが好ましい。
また、防虫システムにおいては、虫の生息数が減少するように、好ましくは、オゾンガス暴露は前記屋内の虫の初期個体数からの増加が抑制される期間よりも短い間隔以内で繰り返される。従って、例えば一定の期間ごとに、オゾンガス暴露を実施することが好ましい。一定期間ごとのオゾンガス暴露は、ヒトが定期的に実施してもよいが、あらかじめ、防虫システムのオゾンガス暴露を実施する設定手段によって、オゾンガス暴露の実施の間隔を設定することもできる。
本発明の防虫システムにおける「オゾンガス発生装置」、「オゾンガス暴露間隔」、及び「オゾンガスによる暴露」等は、前記「[1]防虫方法」の項に記載の条件、装置などを、限定することなく用いることができる。
【0023】
本発明の防虫システムにおいては、放出するオゾンガス濃度とオゾン放出時間の組み合わせで、屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転と、屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転とが選択可能である。
屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転は、限定されるものではないが、前記「[1]防虫方法」の「オゾンガスによる暴露」の項に記載の条件によって実施することができる。例えば、2,500CT以上のオゾンガスを暴露して屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転によって、実施することができる。
一方、屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転は、限定されるものではないが、前記「[1]防虫方法」の「殺虫効果のあるオゾンガスによる暴露」の項に記載の条件によって実施することができる。例えば、10,000CT以上のオゾンガスを暴露して屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転によって実施することができる。
本発明の防虫システムにおいては、これらの2つのオゾンガス暴露運転を選択的に実施することができる。
【0024】
本発明の防虫システムにおいては、限定されるものではないが、前記屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転が繰り返される間隔が、前記屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転が繰り返される間隔よりも短期間である。屋内の雌成虫の産卵数を抑制するオゾンガス暴露運転は、雌成虫の産卵数を抑制する程度の比較的低いCT値で実施される。従って、例えば「屋内発生虫の初期発生数よりも個体数が少ない期間」以内にオゾンガス暴露運転を繰り返すことが好ましい。これによって、長期的に虫の個体数を減少させることができる。一方、屋内の成虫を殺虫するオゾンガス暴露運転は、比較的高いCT値によって実施されるため、1回のオゾンガス暴露運転によって、虫のかなりの個体数が減少する。従って、比較的長期間の間隔でオゾンガス暴露運転を実施しても、長期的に虫の個体数を減少させることができる。
【0025】
オゾンガスは、0.01~0.02ppmで多少の臭気があり、0.1ppmでは明らかに臭気があり、鼻やのどに刺激を感じる。また、高濃度のオゾンガスはヒトにも有害である。従って、本発明の防虫システムは食品工場又は医薬品工場などの屋内にヒトがいないことを確認する手段を有することが好ましい。例えば、食品工場又は医薬品工場の施錠後に、屋内にヒトがいないことを確認して、オゾンガス暴露を実施するようなソフトウエア(プログラム)を有することが好ましい。また、オゾンガス暴露中にヒトが解錠し、屋内に入ろうとする場合は、警告を発する手段を有することが好ましい。
【実施例
【0026】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
《実施例1》
本実施例では、ヒラタチャタテを用いて、オゾン暴露による雌成虫の産卵数の変化及び雌成虫の死亡率を測定した。また、Aspergillus brasiliensisを用いて、オゾン暴露によるカビの殺菌効果を測定した。
ヒラタチャタテ雌成虫を、10個体/反復として、穴の開いたエッペンチューブに入れ、アクリルケース内で6時間オゾン曝露を行った。処理区ごとに6反復行った。オゾン濃度は、0、2、8、10、15、20、25、及び30ppmとし、エキシマランプのDuty比(単位時間当たりの点灯時間)によって変化させた。曝露後、供試虫は餌の入った飼育ケースに移動させ、7日間観察を行い、死亡率と産卵数を記録した。すべての調査は25±2℃、相対湿度75%下で行った。
CT値が高くなるにつれて死亡率が高くなり、約10,000CTで死亡率が100%となった(図2)。約2,000~9,000CTでは生存した雌成虫が観察されたものの、雌成虫は処理後7日間のほとんど産卵しなかった(図1)。
【0028】
Aspergillus brasiliensisを1週間培養した後に菌液を作成し、希釈系列に従って段階希釈した。各希釈系列の菌液をPDA培地に塗抹し、アクリルケース内で90分間オゾン曝露を行った。オゾン濃度は、0、2、8、10、15、20、25、及び30ppmとし、エキシマランプのDuty比(単位時間当たりの点灯時間)によって変化させた。曝露後、恒温器にて培養を行い、48時間後のコロニー数から死亡率を算出した。
図3に示すように、Duty比が高くなるにつれて死亡率が増加し、死亡率とCT値(オゾン濃度×時間)は高い負の相関があった。回帰分析に基づくD値(生存率を10分の1にするために必要なCT値)は約2,500CTであった。
【0029】
《実施例2》
本実施例では、実施例1の結果に基づいて、各オゾン濃度(CT値)における個体数の変動をシミュレーションした。
1回に6時間のオゾン暴露を行い、1週間(7日間)間隔でオゾン暴露を繰り返した場合の、卵、未産卵個体、雌成虫、及びトータルの個体数をシミュレーションした。図4に0ppm、8ppm、9ppm、10ppm、11ppm及び15ppmでの365日間のシミュレーションを示す。0ppm、8ppm、9ppmでは個体数の増加が見られたが、10ppmでほぼ横ばいとなった。11ppm以上で個体数の減少が見られた。
【0030】
図5に各オゾン濃度における365日後の個体数のシミュレーションの結果をまとめた。1回/週、6時間のオゾン曝露の場合、>10ppm(3,000CT)で処理することによって、個体数減少が期待できると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、食品工場、又は医薬品工場などにおいて、屋内虫の個体数を減少させ、食品への虫の混入のリスクを防ぐことができる。
図1
図2
図3
図4
図5