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特許7405365レーザ加工方法、半導体部材製造方法、及び、レーザ加工装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】レーザ加工方法、半導体部材製造方法、及び、レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20231219BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231219BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L21/78 B
H01L21/304 611Z
B23K26/53
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020015060
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021122041
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦之
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 千秋
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】油井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】和仁 陽太郎
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/014716(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/192689(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044142(WO,A1)
【文献】特開2019-055427(JP,A)
【文献】特開2019-126844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/304
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体対象物の内部において前記半導体対象物の第1表面に対向する仮想面と、前記第1表面に沿って延びるラインと、に沿って前記半導体対象物を切断するためのレーザ加工方法であって、
前記ラインに沿って前記半導体対象物に第1レーザ光を照射することにより、前記第1表面に交差する第1方向からみて前記ラインに沿って線状に延びる改質領域を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1表面から前記半導体対象物に第2レーザ光を入射させると共に、前記第2レーザ光の集光点を、前記第1方向からみて前記改質領域を通るように前記仮想面内に移動させることによって、前記仮想面内に面状に並ぶ複数の改質スポットを形成する第2工程と、
を備え、
前記第1工程においては、前記第1表面に沿った第2方向からみて、少なくとも前記第1表面から前記仮想面に渡って前記改質領域を形成し、
前記仮想面は、前記第1方向に並ぶように複数設定されており、
前記第1工程においては、少なくとも、前記第1表面から、前記第1表面から最も離れた前記仮想面に渡って前記改質領域を形成する、
レーザ加工方法。
【請求項2】
前記半導体対象物は、前記第1表面の反対側の面であって、前記仮想面に対向する第2表面を有し、
前記第1工程においては、前記第1表面から前記第2表面に渡って前記改質領域を形成する、
請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第2工程においては、前記第1方向からみて前記半導体対象物の周縁を含み、前記改質スポットが形成されていない周縁領域を形成する、
請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記第2工程においては、前記第2レーザ光の集光点を、前記第1方向からみて前記半導体対象物の外部から前記周縁を通って前記半導体対象物の内部に至るように移動させることにより、前記周縁領域を形成する、
請求項3に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記半導体対象物の材料は、ガリウムを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記半導体対象物の材料は、窒化ガリウムを含む、
請求項5に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザ加工方法が備える前記第1工程及び前記第2工程と、
前記第2工程の後に、前記改質スポットから延びて前記仮想面に渡る亀裂と、前記改質領域と、を境界として前記半導体対象物から半導体部材を取得する第3工程と、
を備える半導体部材製造方法。
【請求項8】
前記半導体対象物は、半導体インゴットであり、
前記半導体部材は、半導体ウェハである、
請求項7に記載の半導体部材製造方法。
【請求項9】
前記半導体対象物は、半導体ウェハであり、
前記半導体部材は、半導体チップである、
請求項7に記載の半導体部材製造方法。
【請求項10】
半導体対象物の内部において前記半導体対象物の第1表面に対向する仮想面と、前記第1表面に沿って延びるラインと、に沿って前記半導体対象物を切断するためのレーザ加工装置であって、
前記半導体対象物を支持するステージと、
前記ステージに支持された前記半導体対象物にレーザ光を照射するためのレーザ照射ユニットと、
少なくとも前記レーザ照射ユニットの制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ラインに沿って前記半導体対象物に第1レーザ光を照射することにより、前記第1表面に交差する第1方向からみて前記ラインに沿って線状に延びる改質領域を形成する第1処理と、
前記第1処理の後に、前記第1表面から前記半導体対象物に第2レーザ光を入射させると共に、前記第2レーザ光の集光点を、前記第1方向からみて前記改質領域を通るように前記仮想面内に移動させることによって、前記仮想面内に面状に並ぶ複数の改質スポットを形成する第2処理と、
を実行し、
前記第1処理においては、前記第1表面に沿った第2方向からみて、少なくとも前記第1表面から前記仮想面に渡って前記改質領域を形成し、
前記仮想面は、前記第1方向に並ぶように複数設定されており、
前記第1処理においては、少なくとも、前記第1表面から、前記第1表面から最も離れた前記仮想面に渡って前記改質領域を形成する、
レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法、半導体部材製造方法、及び、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体インゴット等の半導体対象物にレーザ光を照射することにより、半導体対象物の内部に改質領域を形成し、改質領域から延びる亀裂を進展させることにより、半導体対象物から半導体ウェハ等の半導体部材を切り出す加工方法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-183600号公報
【文献】特開2017-057103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した加工方法では、半導体対象物のレーザ光入射面に交差する方向からみて、半導体対象物と同形状の半導体部材を切り出している。これに対して、今後、例えば半導体ウェハから半導体チップを切り出す場合のように、元の半導体対象物よりも小さな単位(すなわち、半導体対象物と異なる形状)で半導体部材を切り出すことが要求され得る。
【0005】
本発明は、半導体対象物と異なる形状の半導体部材を半導体対象物から取得可能なレーザ加工方法、半導体部材製造方法、及び、レーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザ加工方法は、半導体対象物の内部において半導体対象物の第1表面に対向する仮想面と、第1表面に沿って延びるラインと、に沿って半導体対象物を切断するためのレーザ加工方法であって、ラインに沿って半導体対象物に第1レーザ光を照射することにより、第1表面に交差する第1方向からみてラインに沿って線状に延びる改質領域を形成する第1工程と、第1工程の後に、第1表面から半導体対象物に第2レーザ光を入射させると共に、第2レーザ光の集光点を、第1方向からみて改質領域を通るように仮想面内に移動させることによって、仮想面内に面状に並ぶ複数の改質スポットを形成する第2工程と、を備え、第1工程においては、第1表面に沿った第2方向からみて、少なくとも第1表面から仮想面に渡って改質領域を形成する。
【0007】
この方法では、第2工程において、第2レーザ光を半導体対象物の第1表面から半導体対象物に入射させ、第2レーザ光の集光点を、半導体対象物の第1表面に対向する仮想面内に移動させ、当該仮想面内に面状に並ぶ複数の改質スポットを形成する。したがって、この改質スポットから延びて仮想面に渡る亀裂を境界として、半導体対象物の切断が可能である。特に、この方法では、第2工程に先立って、第1工程において、半導体対象物の第1表面に沿ったラインに沿って第1レーザ光を照射することにより、当該ラインに沿って線状に改質領域を形成する。この改質領域は、少なくとも半導体対象物の第1表面から仮想面に渡って形成される。したがって、第2工程の後には、仮想面に渡る亀裂を境界とした切断に加えて、改質領域を境界とした切断が可能となる。よって、この方法によれば、元の半導体対象物と異なる形状(より小さな単位)での半導体部材を取得可能である。
【0008】
なお、第2レーザ光の集光点が、第1方向からみて改質領域を通過する際には、改質領域が第2レーザ光の集光状態に影響を与える結果、改質スポットが形成されにくい。このため、改質領域の周りには、改質スポットが形成されていない領域が形成されやすい。この領域は、改質スポットから延びる亀裂の進展を妨げる機能を有する。よって、この方法によれば、改質領域を境界に切断されて得られる部材の切断面に、改質スポットから延びる亀裂が達することを抑制できる。
【0009】
本発明に係るレーザ加工方法においては、仮想面は、第1方向に並ぶように複数設定されており、第1工程においては、少なくとも、第1表面から、第1表面から最も離れた仮想面に渡って改質領域を形成してもよい。この場合、第1方向に並ぶ複数の仮想面(仮想面に渡る亀裂)を境界として半導体対象物が切断されることにより、複数の半導体部材が取得可能となる。
【0010】
本発明に係るレーザ加工方法においては、半導体対象物は、第1表面の反対側の面であって、仮想面に対向する第2表面を有し、第1工程においては、第1表面から第2表面に渡って改質領域を形成してもよい。この場合、半導体対象物の第1表面側の部分に加えて、半導体対象物の第2表面側の部分も改質領域を境界として切断されることにより、複数の半導体部材が取得可能となる。
【0011】
本発明に係るレーザ加工方法においては、第2工程において、第1方向からみて半導体対象物の周縁を含み、改質スポットが形成されていない周縁領域を形成してもよい。この場合、周縁領域によって、改質スポットから延びる亀裂が半導体対象物の外縁に達することを抑制できる。
【0012】
本発明に係るレーザ加工方法においては、第2工程において、第2レーザ光の集光点を、第1方向からみて半導体対象物の外部から周縁を通って半導体対象物の内部に至るように移動させることにより、周縁領域を形成してもよい。このように、第2レーザ光の集光点を、半導体対象物の外部から周縁を通って内部に移動させることにより、周縁での集光状態の変化(集光の阻害)を利用して、改質スポットが形成されていない周縁領域を容易に形成できる。
【0013】
本発明に係るレーザ加工方法においては、半導体対象物の材料は、ガリウムを含んでもよい。この場合、レーザ光の照射によって、複数の改質スポットからそれぞれ延びる複数の亀裂にガリウムが析出すると、当該ガリウムによってレーザ光が吸収され易い状態となる。そのため、より小さな出力により仮想面に渡る亀裂を形成することが可能となる。
【0014】
本発明に係るレーザ加工方法においては、半導体対象物の材料は、窒化ガリウムを含んでもよい。この場合、レーザ光の照射によって窒化ガリウムが分解されると、亀裂内に窒素ガスが生じる。そのため、当該窒素ガスの圧力(内圧)を利用して、仮想面に渡る亀裂を容易に形成可能となる。
【0015】
本発明に係る半導体部材製造方法は、上記のレーザ加工方法が備える第1工程及び第2工程と、第2工程の後に、改質スポットから延びて仮想面に渡る亀裂と、改質領域と、を境界として半導体対象物から半導体部材を取得する第3工程と、を備える。この製造方法では、上述したレーザ加工方法の第1工程及び第2工程を実施する。したがって、同様の理由から、元の半導体対象物と異なる形状(より小さな単位)での半導体部材の取得が可能である。
【0016】
本発明に係る半導体部材製造方法においては、半導体対象物は、半導体インゴットであり、半導体部材は、半導体ウェハであってもよい。この場合、半導体インゴットと異なる形状の半導体ウェハを取得可能である。
【0017】
本発明に係る半導体製造方法においては、半導体対象物は、半導体ウェハであり、半導体部材は、半導体チップであってもよい。この場合、半導体ウェハと異なる形状の半導体チップを取得可能である。
【0018】
本発明に係るレーザ加工装置は、半導体対象物の内部において半導体対象物の第1表面に対向する仮想面と、第1表面に沿って延びるラインと、に沿って半導体対象物を切断するためのレーザ加工装置であって、半導体対象物を支持するステージと、ステージに支持された半導体対象物にレーザ光を照射するためのレーザ照射ユニットと、少なくともレーザ照射ユニットの制御を行う制御部と、を備え、制御部は、ラインに沿って半導体対象物に第1レーザ光を照射することにより、第1表面に交差する第1方向からみてラインに沿って線状に延びる改質領域を形成する第1処理と、第1処理の後に、第1表面から半導体対象物に第2レーザ光を入射させると共に、第2レーザ光の集光点を、第1方向からみて改質領域を通るように仮想面内に移動させることによって、仮想面内に面状に並ぶ複数の改質スポットを形成する第2処理と、を実行し、第1処理においては、第1表面に沿った第2方向からみて、少なくとも第1表面から仮想面に渡って改質領域を形成する。
【0019】
この装置では、第2処理において、第2レーザ光を半導体対象物の第1表面から半導体対象物に入射させ、第2レーザ光の集光点を、半導体対象物の第1表面に対向する仮想面内に移動させ、当該仮想面内に面状に並ぶ複数の改質スポットを形成する。したがって、この改質スポットから延びて仮想面に渡る亀裂を境界として、半導体対象物の切断が可能である。特に、この装置では、第2処理に先立って、第1処理において、半導体対象物の第1表面に沿ったラインに沿って第1レーザ光を照射することにより、当該ラインに沿って線状に改質領域を形成する。この改質領域は、少なくとも半導体対象物の第1表面から仮想面に渡って形成される。したがって、第2処理の後には、仮想面に渡る亀裂を境界とした切断に加えて、改質領域を境界とした切断が可能となる。よって、この装置によれば、元の半導体対象物と異なる形状(より小さな単位)での半導体部材の取得が可能である。
【0020】
なお、第2レーザ光の集光点が、第1方向からみて改質領域を通過する際には、改質領域が第2レーザ光の集光に影響を与える結果、改質スポットが形成されにくい。このため、改質領域の周りには、改質スポットが形成されていない領域が形成されやすい。この領域は、改質スポットから延びる亀裂の進展を妨げる機能を有する。よって、この装置によれば、改質領域を境界に切断されて得られる部材の切断面に、改質スポットから延びる亀裂が達することを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半導体対象物と異なる形状の半導体部材を半導体対象物から取得可能なレーザ加工方法、半導体部材製造方法、及び、レーザ加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係るレーザ加工装置を示す模式図である。
図2図1に示された対象物としてのGaNウェハを示す平面図である。
図3図2に示されたGaNウェハの断面図である。
図4】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図5】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図6】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図7】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図8】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図9】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図10】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図11】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図12】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図13】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図14】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図15】レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図16】仮想面に渡る亀裂が形成された状態を示すGaNウェハの平面図(写真)である。
図17】半導体部材製造方法の主要な工程を示す図である。
図18】一例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハの剥離面の画像である。
図19図18に示される剥離面の高さプロファイルである。
図20】他の例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハの剥離面の画像である。
図21図20に示される剥離面の高さプロファイルである。
図22】一例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法による剥離面の形成原理を説明するための模式図である。
図23】他の例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法による剥離面の形成原理を説明するための模式図である。
図24】一例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の途中で形成された亀裂の画像である。
図25】他の例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の途中で形成された亀裂の画像である。
図26】比較例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像である。
図27】第1実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像である。
図28】第2実施例及び第3実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像である。
図29】変形例を示す図である。
図30】変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及び、Z軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
[レーザ加工装置の構成]
【0024】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、光源3と、空間光変調器4と、集光レンズ5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成する装置である。以下、第1水平方向をX軸方向といい、第1水平方向に垂直な第2水平方向をY軸方向という。また、鉛直方向をZ軸方向という。
【0025】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを吸着することにより、対象物11を支持する。本実施形態では、ステージ2は、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに沿って移動可能である。また、ステージ2は、Z軸方向に平行な軸線を中心線として回転可能である。
【0026】
光源3は、例えばパルス発振方式によって、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを出力する。空間光変調器4は、光源3から出力されたレーザ光Lを変調する。空間光変調器4は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ5は、空間光変調器4によって変調されたレーザ光Lを集光する。本実施形態では、空間光変調器4及び集光レンズ5は、レーザ照射ユニットとして、Z軸方向に沿って移動可能である。
【0027】
ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。
【0028】
一例として、ステージ2をX軸方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX軸方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット13がX軸方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット13は、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット13の集合である。隣り合う改質スポット13は、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0029】
制御部6は、ステージ2、光源3、空間光変調器4及び集光レンズ5(すなわちレーザ照射ユニット)を制御する。制御部6は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部6では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。これにより、制御部6は、各種機能を実現する。
[レーザ加工方法及び半導体部材製造方法の一実施形態]
【0030】
本実施形態に係るレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の対象物11は、図2及び図3に示されるように、窒化ガリウム(GaN)によって例えば矩形板状に形成されたGaNウェハ(半導体ウェハ、半導体対象物)20である。GaNウェハ20のサイズは、例えば50mm×50mm程度である(一例として、GaNウェハ20が円板状である場合には、φ2inch程度)。
【0031】
GaNウェハ20は、第1表面20aと、第1表面20aの反対側の第2表面20bと、を有している。ここでは、第1表面20aと第2表面20bとは、互に平行である。また、GaNウェハ20には、仮想面15及びラインA1,A2が設定される。仮想面15は、GaNウェハ20の内部においてGaNウェハ20の第1表面20a及び第2表面20bに対向する面である。ここでは、仮想面15は、第1表面20aに平行な面であり、例えば矩形状を呈している。ラインA1は、第1表面20aに沿った仮想的な線である。ラインA2は、第1表面20aに沿うと共にラインA1に交差(直交)する線である。
【0032】
また、GaNウェハ20には、第1表面20aに交差(直交)する第1方向(ここではZ軸方向)からみて仮想面15を囲うように、後述する周縁領域16に対応する部分が設定されている。つまり、仮想面15は、Z軸方向からみてGaNウェハ20の外縁に至っていない。周縁領域16は、Z軸方向からみて例えば矩形環状である。周縁領域16の幅(ここでは、Z軸方向からみたときの仮想面15の外縁とGaNウェハ20の外縁との距離)は、例えば30μm以上である。
【0033】
本実施形態に係るレーザ加工方法、及び、半導体部材製造方法は、GaNウェハ20を、仮想面15及びラインA1,A2に沿って切断することにより、GaNウェハ20から複数のチップ(半導体チップ、半導体部材)30Aを切り出すために実施される。チップ30Aに対応する部分は、GaNウェハ20のうちの、第1表面20aに沿った第2方向(ここではX軸方向又はY軸方向)からみて仮想面15を境界とし、Z軸方向からみてラインA1,A2を境界とする部分である。ここでは、1つのGaNウェハ20に対して8つのチップ30Aとなる部分が設定される。チップ30Aのサイズは、例えば25mm×25mm程度である。
【0034】
このレーザ加工方法及び半導体部材製造方法では、まず、図4図5、及び図6に示されるように、上述したレーザ加工装置1が、ラインA1,A2に沿ってGaNウェハ20に第1レーザ光L1(例えば532nmの波長を有する)を照射することにより、Z軸方向からみてラインA1,A2に沿って線状に延びる改質領域M1,M2(加工痕)を形成する(第1工程)。第1工程について、より具体的に説明する。
【0035】
第1工程では、まず、対象物11としてのGaNウェハ20を、ステージ2に配置する。このとき、一例として第1表面20aがレーザ照射ユニット(集光レンズ5)側に向くようにする。続いて、レーザ加工装置1が、第1レーザ光L1の集光点C1が、GaNウェハ20の内部に位置するようにステージ2等を制御する。そして、レーザ加工装置1が、Z軸方向からみて第1レーザ光L1の集光点C1がラインA1に沿って(ラインA1上を)相対移動するように、ステージ2及びレーザ照射ユニットを制御する。ここでは、一例として、ラインA1がX軸方向に沿うようにされており、レーザ照射ユニットが第1レーザ光L1をGaNウェハ20に照射している状態で、ステージ2がX軸方向に沿って移動させられることにより、集光点C1がラインA1に沿って移動させられる。
【0036】
この第1レーザ光L1のラインA1に沿った照射を、Z軸方向について第1表面20aからより離れた位置(すなわち、GaNウェハ20のより深い加工位置)から、Z軸方向について第1表面20aにより近い位置(すなわち、GaNウェハ20のより浅い加工位置)に至るまで繰り返し実施する。このとき、集光点C1が、Z軸方向について第1表面20a及び第2表面20bに位置する場合があってもよい。これにより、X軸方向又はY軸方向からみて、第1表面20aから第2表面20bに渡る改質領域M1が形成される。
【0037】
続いて、第1工程では、第1レーザ光L1の集光点C1がGaNウェハ20の内部に位置させられた状態において、レーザ加工装置1が、Z軸方向からみて集光点C1がラインA2に沿って(ラインA2上を)相対移動するように、ステージ2及びレーザ照射ユニットを制御する。ここでは、一例として、ステージ2の回転によって、ラインA2がX軸方向に沿うようにGaNウェハ20の配置が変更されており、その状態において、レーザ照射ユニットが第1レーザ光L1をGaNウェハ20に照射しつつ、ステージ2がX軸方向に沿って移動させられることにより、集光点C1がラインA2に沿って移動させられる。
【0038】
この第1レーザ光L1のラインA2に沿った照射を、Z軸方向について第1表面20aからより離れた位置(すなわち、GaNウェハ20のより深い加工位置)から、Z軸方向について第1表面20aにより近い位置(すなわち、GaNウェハ20のより浅い加工位置)に至るまで繰り返し実施する。このとき、集光点C1が、Z軸方向について第1表面20a及び第2表面20bに位置する場合があってもよい。これにより、X軸方向又はY軸方向からみて、第1表面20aから第2表面20bに渡る改質領域M2が形成される。図6は、第1工程の後の状態を示す。
【0039】
以上の第1工程は、レーザ加工装置1の制御部6の制御のもとで行われる。すなわち、制御部6は、ラインA1,A2に沿ってGaNウェハ20に第1レーザ光L1を照射することにより、第1表面20aにZ軸方向からみてラインA1,A2に沿って線状に延びる改質領域M1,M2を形成する第1処理を実行する。特に、第1処理においては、第1表面20aに沿ったX軸方向又はY軸方向からみて、少なくとも第1表面20aから仮想面15に渡って改質領域M1,M2を形成する。
【0040】
なお、ここでの改質領域M1,M2は、複数の改質スポットに加えて、改質スポットから延びる亀裂を含む。したがって、改質領域M1,M2が、ある第1位置から別の第2位置に渡って形成されるといった場合には、第1位置と第2位置との間に改質スポットが連続的に形成される場合もあるし、第1位置と第2位置との間に亀裂と改質スポットとが交互に形成される場合もある。後者の場合には、さらには、1つの改質スポットから延びる亀裂と、当該一の改質スポットの隣の別の改質スポットから延びる亀裂とが、互いに繋がっていない場合もあり得る。したがって、第1位置又は第2位置に存在するのは、改質スポットの場合もあるし、亀裂の場合もあるし、亀裂間の部分である場合もある。
【0041】
なお、後述する周縁領域16には、改質領域M1,M2(少なくとも改質スポット)を形成しない(改質スポットから延びる亀裂は形成される場合がある)。すなわち、第1工程では、Z軸方向からみて仮想面15とラインA1,A2とが重なる部分でのみ改質領域M1,M2の形成を行う。そのための方法としては、GaNウェハ20の周縁(エッジ)を覆うようなマスクを用いる方法や、集光点C1がGaNウェハ20の周縁を通る際に第1レーザ光L1をオフとする方法を用いてもよい。或いは、第1レーザ光L1をオンとしたまま、集光点C1をGaNウェハ20の外部から周縁を通ってGaNウェハ20の内部に至るように移動させることにより、GaNウェハ20の周縁において第1レーザ光L1の集光状態が変化する(集光が阻害される)ことを利用して、改質領域M1,M2が形成されない周縁領域16を形成してもよい。
【0042】
本実施形態に係るレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の続く工程では、仮想面15に沿って、例えば532nmの波長を有する第2レーザ光L2をGaNウェハ20に照射し、複数の改質スポットを形成する(第2工程)。
【0043】
この第2工程について、図7~14について詳細に説明する。なお、以下では、矢印は、第2レーザ光L2の集光点C2の軌跡を示している。また、後述する改質スポット13a,13b,13c,13dを包括して改質スポット13といい、後述する亀裂14a,14b,14c,14dを包括して亀裂14という場合がある。
【0044】
まず、レーザ加工装置1が、図7及び図8に示されるように、第1表面20aからGaNウェハ20の内部に第2レーザ光L2を入射させることにより、仮想面15に沿って(例えば、仮想面15の全体に沿って2次元に並ぶように)複数の改質スポット13aを形成する。このとき、レーザ加工装置1は、複数の改質スポット13aからそれぞれ延びる複数の亀裂14aが互いに繋がらないように、複数の改質スポット13aを形成する。また、レーザ加工装置1は、パルス発振された第2レーザ光L2の集光点C2を仮想面15に沿って移動させることにより、複数列の改質スポット13a(第1改質スポット)を形成する。なお、図7及び図8では、改質スポット13aが白抜き(ハッチングなし)で示されており、亀裂14aが延びる範囲が破線で示されている(他の図でも同様)。
【0045】
本実施形態では、パルス発振された第2レーザ光L2が、Y軸方向に並ぶ複数(例えば6つ)の集光点C2に集光されるように、空間光変調器4によって変調される。そして、複数の集光点C2が、X軸方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させられる。一例として、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離は8μmであり、第2レーザ光L2のパルスピッチ(すなわち、複数の集光点C2の相対的な移動速度を、第2レーザ光L2の繰り返し周波数で除した値)は10μmである。また、1つの集光点C2当たりの第2レーザ光L2のパルスエネルギー(以下、単に「第2レーザ光L2のパルスエネルギー」という)は、0.33μJである。この場合、Y軸方向において隣り合う改質スポット13aの中心間距離は8μmとなり、X軸方向において隣り合う改質スポット13aの中心間距離は10μmとなる。また、複数の改質スポット13aからそれぞれ延びる複数の亀裂14aは互いに繋がらない。
【0046】
続いて、レーザ加工装置1が、図9及び図10に示されるように、第1表面20aからGaNウェハ20の内部に第2レーザ光L2を入射させることにより、仮想面15に沿って(例えば、仮想面15の全体に沿って2次元に並ぶように)複数の改質スポット13b(第2改質スポット)を形成する。このとき、レーザ加工装置1は、複数の改質スポット13a及び複数の亀裂14aに重ならないように、複数の改質スポット13bを形成する。また、レーザ加工装置1は、パルス発振された第2レーザ光L2の集光点C2を複数列の改質スポット13aの列間において仮想面15に沿って移動させることにより、複数列の改質スポット13bを形成する。この工程では、複数の改質スポット13bからそれぞれ延びる複数の亀裂14bが、複数の亀裂14aに繋がってもよい。なお、図9及び図10では、改質スポット13bがドットハッチングで示されており、亀裂14bが延びる範囲が破線で示されている(他の図でも同様)。
【0047】
本実施形態では、パルス発振された第2レーザ光L2が、Y軸方向に並ぶ複数(例えば6つ)の集光点C2に集光されるように、空間光変調器4によって変調される。そして、複数の集光点C2が、複数列の改質スポット13aの列間の中心において、X軸方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させられる。一例として、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離は8μmであり、第2レーザ光L2のパルスピッチは10μmである。また、第2レーザ光L2のパルスエネルギーは、0.33μJである。この場合、Y軸方向において隣り合う改質スポット13bの中心間距離は8μmとなり、X軸方向において隣り合う改質スポット13bの中心間距離は10μmとなる。
【0048】
続いて、レーザ加工装置1が、図11及び図12に示されるように、第1表面20aからGaNウェハ20の内部に第2レーザ光L2を入射させることにより、仮想面15に沿って(例えば、仮想面15の全体に沿って2次元に並ぶように)複数の改質スポット(第3改質スポット)13cを形成する。更に、レーザ加工装置1が、図13及び図14に示されるように、第1表面20aからGaNウェハ20の内部に第2レーザ光L2を入射させることにより、仮想面15に沿って(例えば、仮想面15の全体に沿って2次元に並ぶように)複数の改質スポット(第3改質スポット)13dを形成する。このとき、レーザ加工装置1は、複数の改質スポット13a,13bに重ならないように、複数の改質スポット13c,13dを形成する。
【0049】
また、レーザ加工装置1は、パルス発振された第2レーザ光L2の集光点C2を複数列の改質スポット13a,13bの列間において仮想面15に沿って移動させることにより、複数列の改質スポット13c,13dを形成する。この工程では、複数の改質スポット13c,13dからそれぞれ延びる複数の亀裂14c,14dが、複数の亀裂14a,14bに繋がってもよい。なお、図11及び図12では、改質スポット13cが実線ハッチングで示されており、亀裂14cが延びる範囲が破線で示されている(他の図でも同様)。また、図13及び図14では、改質スポット13dが実線ハッチング(改質スポット13cの実線ハッチングとは逆に傾斜する実線ハッチング)で示されており、亀裂14dが延びる範囲が破線で示されている。
【0050】
本実施形態では、パルス発振された第2レーザ光L2が、Y軸方向に並ぶ複数(例えば6つ)の集光点C2に集光されるように、空間光変調器4によって変調される。そして、複数の集光点C2が、複数列の改質スポット13a,13bの列間の中心において、X軸方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させられる。一例として、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離は8μmであり、第2レーザ光L2のパルスピッチは5μmである。また、第2レーザ光L2のパルスエネルギーは、0.33μJである。この場合、Y軸方向において隣り合う改質スポット13cの中心間距離は8μmとなり、X軸方向において隣り合う改質スポット13cの中心間距離は5μmとなる。また、Y軸方向において隣り合う改質スポット13dの中心間距離は8μmとなり、X軸方向において隣り合う改質スポット13dの中心間距離は5μmとなる。
【0051】
この第2工程では、以上のように、第1表面20aからGaNウェハ20に第2レーザ光L2を入射させると共に、第2レーザ光L2の集光点C2を、仮想面15内に移動させることによって、仮想面15内に面状に並ぶ複数の改質スポット13を形成する。なお、第2工程においては、第2レーザ光L2の集光点C2を、Z軸方向からみて改質領域M1,M2を通るように仮想面15内に移動させる。
【0052】
以上の第2工程は、レーザ加工装置1の制御部6の制御のもとで行われる。すなわち、ここでは、制御部6は、第1処理の後に、第1表面20aからGaNウェハ20に第2レーザ光L2を入射させると共に、第2レーザ光L2の集光点C2を、Z軸方向からみて改質領域M1,M2を通るように仮想面15内に移動させることによって、仮想面15内に面状に並ぶ複数の改質スポット13を形成する第2処理を実行する。
【0053】
また、この第2工程では、改質スポット13が形成されていない(改質スポットから延びる亀裂は形成される場合がある)周縁領域16を形成する。そのために、本実施形態では、第2レーザ光L2をオンとしたまま、集光点C2をGaNウェハ20の外部からGaNウェハ20周縁(エッジ)を通ってGaNウェハ20の内部に至るように移動させることにより、GaNウェハ20の周縁(エッジ)において第2レーザ光L2の集光状態が変化する(集光が阻害される)ことを利用して、改質スポット13が形成されていない周縁領域16を形成する。ただし、GaNウェハ20の周縁を覆うようなマスクを用いる方法や、集光点C2がGaNウェハ20の周縁を通る際に第2レーザ光L2をオフとする方法により、改質スポット13が形成されていない周縁領域16を形成してもよい。
【0054】
ここで、第1工程における第1レーザ光L1の照射と、第2工程における第2レーザ光L2の照射とでは、要求される改質領域及び亀裂の態様が異なることから、照射条件も異なる場合がある。すなわち、第1工程では、GaNウェハ20を縦に(第1表面20aに直交する面で)切断するために、改質領域及び亀裂(改質層)を縦方向(第1表面20aに直交する方向(Z軸方向))に延ばす必要がある。このため、第1工程では、縦長の改質領域(溶融・高内圧領域)及び亀裂を形成すると共に、当該縦長の改質領域及び亀裂を縦方向に整列させるように、第1レーザ光L1を照射する。
【0055】
そして、内圧の高まりによる応力分布によって隣接する亀裂を引張させて縦方向に伸展させる。これにより、GaNウェハ20を縦に切断可能とする。このとき、第1レーザ光L1のパルス幅は、第2レーザ光L2のパルス幅と比較して相対的に長くされ、第1レーザ光L1のパルスエネルギー及びパルスピッチは、第2レーザ光L2のパルスエネルギー及びパルスピッチと比較して相対的に大きくされ得る。一例として、第1レーザ光L1の出力は10μJ~20μJ、パルスピッチは10μmであり、相対的に高出力で疎の加工とする。
【0056】
一方で、第2工程では、GaNウェハ20を横に(第1表面20aに平行な面(仮想面15)で)切断するために、改質領域及び亀裂を横方向(第1表面20aに平行な方向(X軸方向及びY軸方向))に延ばす必要がある。このため、第2工程では、点状の改質領域(溶融・高内圧領域)及び亀裂を形成すると共に、横方向に改質領域及び亀裂を整列させるように、第2レーザ光L2を照射する。
【0057】
そして、内圧の高まりによる応力分布によって、改質領域のそれぞれから延びる亀裂を横方向に伸展・連結させ、横亀裂を形成する。これにより、GaNウェハ20を横に切断可能とする。このとき、第2レーザ光L2のパルス幅は、第1レーザ光L1のパルス幅と比較して相対的に短くされ、第2レーザ光L2のパルスエネルギー及びパルスピッチは、第1レーザ光L1のパルスエネルギー及びパルスピッチと比較して相対的に小さくされ得る。一例として、第2レーザ光L2の出力は、1.5μJ~2μJ、パルスピッチは1μmであり、相対的に低出力で密の加工とする。この例では、第2レーザ光L2の出力及びパルスピッチが、第1レーザ光L1の出力及びパルスピッチの1/10程度とされる。
【0058】
本実施形態に係るレーザ加工方法、及び半導体部材製造方法では、引き続いて、ヒータ等を備える加熱装置が、GaNウェハ20を加熱し、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14を互いに繋げることにより、図15に示されるように、仮想面15に渡る亀裂17(以下、単に「亀裂17」という)を形成する。なお、加熱以外の方法でGaNウェハ20に何らかの力を作用させることにより、複数の亀裂14を互いに繋げて亀裂17を形成してもよい。また、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成することにより、複数の亀裂14を互いに繋げて亀裂17を形成してもよい。
【0059】
ここで、GaNウェハ20においては、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14内に窒素ガスが生じている。そのため、GaNウェハ20を加熱して窒素ガスを膨張させることにより、窒素ガスの圧力(内圧)を利用して亀裂17を形成することができる。しかも、周縁領域16によって、当該周縁領域16が囲む仮想面15の外部(例えば、GaNウェハ20の外縁(側面))への複数の亀裂14の進展が阻まれるため、複数の亀裂14内に生じた窒素ガスが仮想面15の外部に逃げるのを抑制することができる。つまり、周縁領域16は、改質スポット13を含まない非改質領域であって、当該周縁領域16が囲む仮想面15に亀裂17が形成される際に、当該周縁領域16が囲む仮想面15の外部への複数の亀裂14の進展を阻む領域である。そのために、周縁領域16の幅を30μm以上とすることが好ましい。
【0060】
図16は、仮想面に渡る亀裂が形成された状態を示すGaNウェハの平面図(写真)である。仮想面15に渡る亀裂17には、第2レーザ光L2の照射でガリウム(析出物)が析出されている。これにより、図16に示されるように、亀裂17が他の部分よりも暗い(観察光の透過率が減少した)部分として観察される。ここでは、GaNウェハ20におけるチップ30Aのそれぞれに対応する部分に、仮想面15に渡る亀裂17が形成されていることが理解される。
【0061】
なお、周縁領域16を形成する際に、GaNウェハ20の周縁での集光状態の変化を利用すれば、周縁領域16に対して、改質スポット13から延びる亀裂がわずかに含まれ得る。これにより、周縁領域16に対して、チップ30Aの外縁(GaNウェハ20の外縁)に亀裂17が至る部分16aが形成される。当該部分16aは、亀裂17内に生じた窒素ガスのガス抜きの機能を有する。これにより、GaNウェハ20のチップ30Aに対応する部分のそれぞれにおいて、内圧の過剰な上昇が抑制され得る。
【0062】
本実施形態に係るレーザ加工方法、及び半導体部材製造方法では、引き続いて、図15及び図17に示されるように、研削装置が、GaNウェハ20の周縁領域16に対応する部分を研削(研磨)することにより、亀裂17及び改質領域M1,M2のそれぞれを境界としてGaNウェハ20から複数のチップ30Aを取得する(第3工程)。このように、GaNウェハ20は、仮想面15及びラインA1,A2に沿って切断される。なお、この工程では、研削以外の機械加工、レーザ加工等によって、GaNウェハ20の周縁領域16に対応する部分を除去してもよい。
【0063】
以上の工程のうち、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成する工程までが本実施形態に係るレーザ加工方法である。また、以上の工程のうち、亀裂17及び改質領域M1,M2を境界としてGaNウェハ20から複数のチップ30Aを取得する工程までが、本実施形態の半導体部材製造方法である。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第2工程において、第2レーザ光L2をGaNウェハ20の第1表面20aからGaNウェハ20に入射させ、第2レーザ光L2の集光点C2を、GaNウェハ20の第1表面20aに対向する仮想面15内に移動させ、当該仮想面15内に面状に並ぶ複数の改質スポット13を形成する。したがって、この改質スポット13から延びて仮想面15に渡る亀裂17を境界として、GaNウェハ20の切断が可能である。
【0065】
特に、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第2工程に先立って、第1工程において、GaNウェハ20の第1表面20aに沿ったラインA1,A2に沿って第1レーザ光L1を照射することにより、当該ラインA1,A2に沿って線状に改質領域M1,M2を形成する。この改質領域M1,M2は、少なくともGaNウェハ20の第1表面20aから仮想面15に渡って形成される。したがって、第2工程の後に、仮想面15に渡る亀裂17を境界とした切断に加えて、改質領域M1,M2を境界とした切断が可能となる。よって、この方法によれば、元のGaNウェハ20と異なる形状(より小さな単位)でのチップ30Aを取得可能である。
【0066】
なお、第2レーザ光L2の集光点C2が、Z軸方向からみて改質領域M1,M2を通過する際には、改質領域M1,M2が第2レーザ光L2の集光状態に影響を与える結果、改質スポット13が形成されにくい。このため、改質領域M1,M2の周りには、改質スポット13が形成されていない領域が形成されやすい。この領域は、改質スポットから延びる亀裂の進展を妨げる機能を有する。よって、本実施形態に係るレーザ加工方法方によれば、改質領域M1,M2を境界に切断されて得られる部材の切断面に、改質スポットから延びる亀裂が達することを抑制できる。
【0067】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法においては、GaNウェハ20は、第1表面20aの反対側の面であって、仮想面15に対向する第2表面20bを有している。そして、第1工程においては、第1表面20aから第2表面20bに渡って改質領域M1,M2を形成する。このため、GaNウェハ20の第1表面20a側の部分に加えて、GaNウェハ20の第2表面20b側の部分も改質領域M1,M2を境界として切断されることにより、複数のチップ30Aが取得可能となる。
【0068】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法においては、第2工程において、Z軸方向からみてGaNウェハ20の周縁を含み、改質スポット13が形成されていない周縁領域16を形成する。このため、周縁領域16によって、改質スポット13から延びる亀裂がGaNウェハ20の外縁に達することを抑制できる。
【0069】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法においては、第2工程において、第2レーザ光L2の集光点C2を、Z軸方向からみてGaNウェハ20の外部から周縁を通ってGaNウェハ20の内部に至るように移動させることにより、周縁領域16を形成する。このように、第2レーザ光L2の集光点C2を、GaNウェハ20の外部から周縁を通って内部に移動させることにより、周縁での集光状態の変化(集光の阻害)を利用して、改質スポット13が形成されていない周縁領域16を容易に形成できる。
【0070】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法においては、対象物11の材料は、ガリウムを含んでいる。このため、第2レーザ光L2の照射によって、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14にガリウムが析出すると、当該ガリウムによって第2レーザ光L2が吸収され易い状態となる。そのため、より小さな出力により仮想面15に渡る亀裂17を形成することが可能となる。
【0071】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工方法においては、対象物11の材料は、窒化ガリウムを含んでいる。このため、第2レーザ光L2の照射によって窒化ガリウムが分解されると、亀裂14内に窒素ガスが生じる。そのため、当該窒素ガスの圧力(内圧)を利用して、仮想面15に渡る亀裂17を容易に形成可能となる。
【0072】
なお、本実施形態に係る半導体部材製造方法は、上記のレーザ加工方法が備える第1工程及び第2工程と、第2工程の後に、仮想面15に渡る亀裂17と、改質領域M1,M2と、を境界としてGaNウェハ20からチップ30Aを取得する第3工程と、を備える。したがって、同様の理由から、元のGaNウェハ20と異なる形状(より小さな単位)でのチップ30Aの取得が可能である。
【0073】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第2処理において、第2レーザ光L2をGaNウェハ20の第1表面20aからGaNウェハ20に入射させ、第2レーザ光L2の集光点C2を、GaNウェハ20の第1表面20aに対向する仮想面15内に移動させ、当該仮想面15内に面状に並ぶ複数の改質スポット13を形成する。したがって、この改質スポット13から延びて仮想面15に渡る亀裂17を境界として、GaNウェハ20の切断が可能である。特に、レーザ加工装置1では、第2処理に先立って、第1処理において、GaNウェハ20の第1表面20aに沿ったラインA1,A2に沿って第1レーザ光L1を照射することにより、当該ラインA1,A2に沿って線状に改質領域M1,M2を形成する。この改質領域M1,M2は、第1表面20aから第2表面20bに渡って形成される。したがって、第2処理の後には、仮想面15に渡る亀裂17を境界とした切断に加えて、改質領域M1,M2を境界とした切断が可能となる。よって、レーザ加工装置1によれば、元のGaNウェハ20と異なる形状(より小さな単位)でのGaNウェハ20の取得が可能である。
【0074】
ここで、本実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によってGaNウェハを形成した場合に、GaNウェハの剥離面に現れる凹凸が小さくなることを示す実験結果について説明する。なお、以下の説明では、対象物11としてGaNインゴットを用い、GaNインゴットの仮想面に沿った剥離によってGaNウェハを形成した場合について説明するが、GaNウェハ20の仮想面15に沿った剥離によってチップ30Aを形成する場合も同様である。
【0075】
図18は、一例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハの剥離面の画像であり、図19の(a)及び(b)は、図18に示される剥離面の高さプロファイルである。この例では、532nmの波長を有する第2レーザ光L2をGaNインゴットの第1表面20aからGaNインゴットの内部に入射させ、1つの集光点C2を、X軸方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。このとき、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を10μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを1μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを1μJとした。この場合、図19の(a)及び(b)に示されるように、GaNウェハの剥離面(亀裂17によって形成された面)に25μm程度の凹凸が現れた。
【0076】
図20は、他の例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハの剥離面の画像であり、図21の(a)及び(b)は、図20に示される剥離面の高さプロファイルである。この例では、532nmの波長を有する第2レーザ光L2をGaNインゴットの第1表面20aからGaNインゴットの内部に入射させ、本実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第1工程及び第2工程と同様に、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。
【0077】
複数の改質スポット13aを形成する際には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を6μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを10μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.33μJとした。複数の改質スポット13bを形成する際には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を6μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを10μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.33μJとした。複数の改質スポット13cを形成する際には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を6μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.33μJとした。複数の改質スポット13dを形成する際には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を6μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.33μJとした。この場合、図21の(a)及び(b)に示されるように、GaNウェハの剥離面に5μm程度の凹凸が現れた。
【0078】
以上の実験結果から、本実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハでは、GaNウェハの剥離面に現れる凹凸が小さくなること、すなわち、仮想面15に沿って亀裂17が精度良く形成されることが分かった。なお、GaNウェハの剥離面に現れる凹凸が小さくなると、当該剥離面を平坦化するための研削量が少なくて済む。したがって、GaNウェハの剥離面に現れる凹凸が小さくなることは、材料の利用効率的にも生産効率的にも有利である。
【0079】
次に、GaNウェハの剥離面に凹凸が現れる原理について説明する。
【0080】
例えば、図22に示されるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13aを形成し、改質スポット13bがその一方の側の改質スポット13aから延びる亀裂14aに重なるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13bを形成する。この場合には、複数の亀裂14aに析出したガリウムによって第2レーザ光L2が吸収され易い状態にあるため、集光点C2が仮想面15上に位置していても、改質スポット13aに対して第2レーザ光L2の入射側に改質スポット13bが形成され易くなる。
【0081】
続いて、改質スポット13cがその一方の側の改質スポット13bから延びる亀裂14bに重なるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13cを形成する。この場合にも、複数の亀裂14bに析出したガリウムによって第2レーザ光L2が吸収され易い状態にあるため、集光点C2が仮想面15上に位置していても、改質スポット13bに対して第2レーザ光L2の入射側に改質スポット13cが形成され易くなる。このように、この例では、複数の改質スポット13bが複数の改質スポット13aに対して第2レーザ光L2の入射側に形成され、更に、複数の改質スポット13cが複数の改質スポット13bに対して第2レーザ光L2の入射側に形成され易くなる。
【0082】
それに対し、例えば、図23に示されるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13aを形成し、改質スポット13bがその両側の改質スポット13aから延びる亀裂14aに重ならないように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13bを形成する。この場合には、複数の亀裂14aに析出したガリウムによって第2レーザ光L2が吸収され易い状態にあるものの、改質スポット13bが亀裂14aに重ならないため、改質スポット13bも、改質スポット13aと同様に仮想面15上に形成される。
【0083】
続いて、改質スポット13cがその両側の改質スポット13a,13bのそれぞれから延びる亀裂14a,14bに重なるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13cを形成する。更に、改質スポット13dがその両側の改質スポット13a,13bのそれぞれから延びる亀裂14a,14bに重なるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13dを形成する。これらの場合には、複数の亀裂14a,14bに析出したガリウムによって第2レーザ光L2が吸収され易い状態にあるため、集光点C2が仮想面15上に位置していても、改質スポット13a,13bに対して第2レーザ光L2の入射側に改質スポット13c,13dが形成され易くなる。このように、この例では、複数の改質スポット13c,13dが複数の改質スポット13a,13bに対して第2レーザ光L2の入射側に形成され易くなるだけである。
【0084】
以上の原理から、本実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法においては、複数の改質スポット13a及び複数の改質スポット13aからそれぞれ延びる複数の亀裂14aに重ならないように、複数の改質スポット13bを形成することが、GaNウェハの剥離面に現れる凹凸を小さくする上で極めて重要であることが分かる。
【0085】
次に、本実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法においては、仮想面15に沿って亀裂17が精度良く進展することを示す実験結果について説明する。
【0086】
図24の(a)及び(b)は、一例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の途中で形成された亀裂の画像であり、図24の(b)は、図24の(a)における矩形枠内の拡大画像である。この例では、532nmの波長を有する第2レーザ光L2をGaNインゴットの第1表面20aからGaNインゴットの内部に入射させ、Y軸方向に並ぶ6つの集光点C2を、X軸方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。このとき、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を6μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを1μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを1.33μJとした。そして、レーザ加工を仮想面15の途中で停止させた。この場合、図24の(a)及び(b)に示されるように、加工領域から未加工領域に進展した亀裂が、未加工領域において仮想面15から大きく外れた。
【0087】
図25の(a)及び(b)は、他の例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の途中で形成された亀裂の画像であり、図25の(b)は、図25の(a)における矩形枠内の拡大画像である。この例では、532nmの波長を有する第2レーザ光L2をGaNインゴットの第1表面20aからGaNインゴットの内部に入射させ、Y軸方向に並ぶ6つの集光点C2を、X軸方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。具体的には、まず、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を6μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを10μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.33μJとして、第1加工領域及び第2加工領域に複数列の改質スポット13を形成した。
【0088】
続いて、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を6μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを10μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.33μJとして、第1加工領域及び第2加工領域に、既に形成された複数列の改質スポット13の列間の中心にそれぞれの列が位置するように複数列の改質スポット13を形成した。続いて、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を6μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.33μJとして、第1加工領域のみに、既に形成された複数列の改質スポット13の列間の中心にそれぞれの列が位置するように複数列の改質スポット13を形成した。この場合、図25の(a)及び(b)に示されるように、第1加工領域から第2加工領域に進展した亀裂が、第2加工領域において仮想面15から大きく外れなかった。
【0089】
以上の実験結果から、本実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法においては、仮想面15に沿って亀裂17が精度良く進展することが分かった。これは、第2加工領域に先に形成された複数の改質スポット13が、亀裂が進展する際にガイドになったためと想定される。
【0090】
次に、本実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法においては、改質スポット13から第2レーザ光L2の入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が抑制されることを示す実験結果について説明する。
【0091】
図26は、比較例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像(側面視での画像)である。この比較例では、532nmの波長を有する第2レーザ光L2をGaNインゴットの第1表面20aからGaNインゴットの内部に入射させ、1つの集光点C2を、X軸方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。具体的には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を2μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。この場合、図26に示されるように、改質スポット13から第2レーザ光L2の入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が100μm程度となった。
【0092】
図27は、第1実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像であり、図27の(a)は平面視での画像、図27の(b)は側面視での画像である。この第1実施例では、532nmの波長を有する第2レーザ光L2をGaNインゴットの第1表面20aからGaNインゴットの内部に入射させ、Y軸方向に並ぶ6つの集光点C2を、X軸方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。具体的には、まず、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを10μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13aを形成した。
【0093】
続いて、Y軸方向に並ぶ6つの集光点C2を先の状態からY軸方向に+4μmずらした状態で、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを10μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13bを形成した。続いて、Y軸方向に並ぶ6つの集光点C2を先の状態からY軸方向に-4μmずらした状態で、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。
【0094】
続いて、Y軸方向に並ぶ6つの集光点C2を先の状態からY軸方向に+4μmずらした状態で、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。これにより、1回目に形成した改質スポット13aと3回目に形成した改質スポット13とが互いに重なり、2回目に形成した改質スポット13bと4回目に形成した改質スポット13とが互いに重なっていると想定される。この場合、図27の(b)に示されるように、改質スポット13から第2レーザ光L2の入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が70μm程度となった。
【0095】
図28の(a)及び(b)は、第2実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像であり、図28の(a)は平面視での画像、図28の(b)は側面視での画像である。この第2実施例では、532nmの波長を有する第2レーザ光L2をGaNインゴットの第1表面20aからGaNインゴットの内部に入射させ、本実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第1工程及び第2工程と同様に、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。複数の改質スポット13aを形成する際には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを10μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとした。
【0096】
複数の改質スポット13bを形成する際には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを10μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとした。複数の改質スポット13cを形成する際には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとした。複数の改質スポット13dを形成する際には、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.3μJとした。この場合、図28の(b)に示されるように、改質スポット13から第2レーザ光L2の入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が50μm程度となった。
【0097】
図28の(c)及び(d)は、第3実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像であり、図28の(c)は平面視での画像、図28の(d)は側面視での画像である。この第3実施例では、図28の(a)及び(b)に示される状態にある仮想面15(すなわち、複数列の改質スポット13が既に形成された仮想面15)に沿って、更に、複数の改質スポット13を形成した。
【0098】
具体的には、まず、Y軸方向において隣り合う集光点C2間の距離を8μm、第2レーザ光L2のパルスピッチを5μm、第2レーザ光L2のパルスエネルギーを0.1μJとして、既に形成された複数列の改質スポット13の列間の中心にそれぞれの列が位置するように複数列の改質スポット13を形成した。この場合、図28の(d)に示されるように、改質スポット13から第2レーザ光L2の入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が60μm程度となった。
【0099】
以上の実験結果から、仮想面15に沿って既に形成された複数の改質スポット13a及び複数の亀裂14aに重ならないように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13bを形成すれば(第1実施例、第2実施例及び第3実施例)、改質スポット13から第2レーザ光L2の入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が抑制されることが分かった。なお、仮想面15に沿って更に複数の改質スポット13を形成する場合には、仮想面15に沿って既に形成された複数の改質スポット13a,13bに重ならないように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成すれば(第2実施例及び第3実施例)、仮想面15に渡る亀裂を形成し易くなる。
【0100】
以上の実施形態は、本発明に係るレーザ加工方法、半導体部材製造方法、及び、レーザ加工装置の一形態を説明したものである。したがって、上述したレーザ加工方法、半導体部材製造方法、及び、レーザ加工装置は、任意に変形され得る。以下、変形例について説明する。
【0101】
上記実施形態においては、第1工程にて、Z軸方向からみてGaNウェハ20の第1表面20aから第2表面20bに渡る改質領域M1,M2を形成した。しかしながら、図29に示されるように、第1工程では、Z軸方向からみて第1表面20aから仮想面15に渡るように改質領域M1,M2を形成してもよい。この場合には、Z軸方向からみて仮想面15と第2表面20bとの間には、改質領域M1,M2が介在していない(形成されていない)。このため、このような改質領域M1,M2と亀裂17とを境界にGaNウェハ20を切断することにより、図30に示されるように、複数のチップ30Aと単一のチップ30Bとを取得できる。チップ30Bは、Z軸方向からみてGaNウェハ20と同形状である。すなわち、この場合には、GaNウェハ20から互に異なる形状のチップ30A及びチップ30Bが取得可能である。
【0102】
また、上記実施形態においては、GaNウェハ20に対して単一の仮想面15を設定した。しかしながら、仮想面15は、Z軸方向に並ぶように複数設定されてもよい。この場合には、第1工程において、少なくとも、GaNウェハ20の第1表面20aから、第1表面20aから最も離れた仮想面15に渡って改質領域M1,M2を形成する。これにより、Z軸方向に並ぶ複数の仮想面15(仮想面15に渡る亀裂17)を境界としてGaNウェハ20が切断されることにより、より多くのチップ30A等が取得可能となる。
【0103】
また、上記実施形態においては、対象物11として、GaNウェハ20を例示した。しかしながら、対象物11は、例えばGaNインゴット(半導体インゴット)やその他の任意の半導体対象物とされ得る。対象物11がGaNインゴットである場合には、例えば、半導体部材としてGaNウェハを取得できる。この場合、GaNインゴットと異なる形状のGaNウェハを取得できる。
【0104】
また、上記実施形態においては、改質領域M1,M2を形成する基準(切断の基準)として、ラインA1と、当該ラインA1に交差するラインA2とを設定するようにした。しかしながら、要求される半導体部材(チップ30A,30B)の形状や取得数に応じて、ラインA1,A2を任意の形状や相対関係で設定し得るし、一対のラインA1,A2に限らず、単一のラインや3つ以上のラインを設定してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…レーザ加工装置、2…ステージ、4…空間光変調器(レーザ照射ユニット)、5…集光レンズ(レーザ照射ユニット)、6…制御部、11…対象物(半導体対象物)、13…改質スポット、15…仮想面、16…周縁領域、17…亀裂、20…GaNウェハ(半導体ウェハ、半導体対象物)、20a…第1表面、20b…第2表面、30A,30B…チップ(半導体チップ、半導体部材)、A1,A2…ライン、C,C1,C2…集光点、L…レーザ光、L1…第1レーザ光、L2…第2レーザ光、M1,M2…改質領域。
図1
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