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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】マスキング部材
(51)【国際特許分類】
   B05B 12/24 20180101AFI20231219BHJP
   B05C 21/00 20060101ALI20231219BHJP
   F16B 21/06 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B05B12/24
B05C21/00
F16B21/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020022314
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021126610
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591030776
【氏名又は名称】株式会社丸善
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 重典
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸治
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-009455(JP,U)
【文献】特開平7-308613(JP,A)
【文献】実開昭63-103780(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 12/24
B05C 21/00
F16B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理が施される被処理部材の穴のまわりを当該表面処理から保護するマスキング部材であって、
上記穴のまわりの少なくとも一部を上記表面処理から保護するためのマスキング部と、
上記被処理部材の上記穴に挿入されて該被処理部材に係合し、上記マスキング部を上記被処理部材の上記穴のまわりに位置づける少なくとも一つの係合部と、
上記係合部を上記穴に挿入するために挟み持たれ、両側からの挟み方向への加圧によって弾性変形する抓み部とを備え、
上記抓み部の上記弾性変形に伴って上記被処理部材に対する係合が外れる方向に上記係合部が変位するように、上記抓み部が上記係合部に繋がっており、
上記被処理部材の上記マスキング部によって保護すべき部分の外縁及び上記マスキング部の外縁は対応する非真円形であり、
上記抓み部は、上記マスキング部を上記被処理部材の上記部分に合致させる拠り所となるように、その挟み持たれる両側面の面形状が相違することを特徴とするマスキング部材。
【請求項2】
請求項1において、
上記抓み部は、各々上記穴に対する上記係合部の挿入方向の反対側に延設され、隙間を存して相対する一対の側壁を備え、この両側壁の延設端が繋がっていて、この両側壁がその両側から挟まれることにより、上記隙間が狭くなる方向に弾性変形し、
上記抓み部の上記両側壁各々に連なってその両外側に一対の上記係合部が設けられていることを特徴とするマスキング部材。
【請求項3】
請求項2において、
上記被処理部材の上記穴は貫通穴であり、
上記係合部は、上記穴に貫通するように挿入される本体と、該本体の側面より側方に突出し、上記被処理部材における上記穴の縁に係合して当該係合部の抜けを止める係止部とを備えていることを特徴とするマスキング部材。
【請求項4】
請求項3において、
上記係合部の上記本体は、上記穴を貫通するときに該穴の内周面を摺動して上記隙間が狭くなるように上記抓み部が弾性変形することに伴って上記穴の内方に変位し、
上記係合部の上記係止部は、上記穴を通り抜けたときに上記抓み部の弾性復元力によって上記穴の縁に係合することを特徴とするマスキング部材。
【請求項5】
請求項3又は請求項4において、
上記係合部は、上記係止部を上記穴の周方向に間隔をおいて複数備えていることを特徴とするマスキング部材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記マスキング部は、上記穴のまわりを全周にわたって上記表面処理から保護するように環状に形成されていて、上記被処理部材に対する上記係合部の係合によって、上記穴のまわりに全周にわたって弾性的に当接する環状凸部を備えていることを特徴とするマスキング部材。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
上記抓み部に滑り止め用の凹凸が形成されていることを特徴とするマスキング部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装等の表面処理において用いるマスキング部材に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装、めっき等の表面処理においては、被処理部材に対して部分的にマスキングを施して表面処理から保護する(部分的に表面処理がされないようにする)ことが広く行なわれている。被処理部材に穴がある場合は、その穴にマスキング部材を嵌めて、穴の内周面や穴のまわりを表面処理から保護することが多い。
【0003】
そのようなマスキング部材の一例が特許文献1にされている。そのマスキング部材は、容器状本体の底部から開口部に向かって隆起した把手部を、該容器状本体から突出させて着脱の際の手がかりとするようにしたものである。このものでは、容器状本体が被処理部材の穴に嵌められて、容器状本体の縁から外側に張り出したフランジが被処理部材の穴の周縁部に当接する。従って、穴の内周面及び穴の周縁部が表面処理から保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平6-77860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術文献のケースで言えば、マスキング部材のフランジと被処理部材が密に接触していないと、両者の隙間に塗料等の表面処理剤が侵入してマスキング不良となる。一方、容器状本体を被処理部材の穴に密嵌合させて、フランジと被処理部材の密着度を高めると、マスキング性は良好になるものの、上記密嵌合によって、表面処理後にマスキング部材を被処理部材の穴から外すこと(以下、「脱マスキング」という。)が難しくなる。
【0006】
そこで、本発明は、マスキング部材の被処理部材に対する装着及び脱マスキングを容易にする。特に、マスキング性を良好にするべく、被処理部材に対するマスキング部材の係合を強めた場合でも、脱マスキングを無理なく行なうことができるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、マスキング部材に抓み部を設け、この抓み部に対して挟む方向の力を加えると、マスキング部材が被処理部材に対する係合が外れる方向に変形するようにした。
【0008】
ここに開示するマスキング部材は、表面処理が施される被処理部材の穴のまわりを当該表面処理から保護する部材であって、
上記穴のまわりの少なくとも一部を上記表面処理から保護するためのマスキング部と、
上記被処理部材の上記穴に挿入されて該被処理部材に係合し、上記マスキング部を上記被処理部材の上記穴のまわりに位置づける少なくとも一つの係合部と、
上記係合部を上記穴に挿入するために挟み持たれ、両側からの挟み方向への加圧によって弾性変形する抓み部とを備え、
上記抓み部の上記弾性変形に伴って上記被処理部材に対する係合が外れる方向に上記係合部が変位するように、上記抓み部が上記係合部に繋がっており、
上記被処理部材の上記マスキング部によって保護すべき部分の外縁及び上記マスキング部の外縁は対応する非真円形であり、
上記抓み部は、上記マスキング部を上記被処理部材の上記部分に合致させる拠り所となるように、その挟み持たれる両側面の面形状が相違することを特徴とする。
【0009】
これによれば、抓み部を挟み持ってマスキング部材の係合部を被処理部材の穴に挿入することができ、マスキング部材の被処理部材に対する装着作業が容易になる。マスキング部材の係合部が被処理部材に係合することにより、マスキング部を被処理部材の穴のまわりに位置づけることができる。そうして、脱マスキング時には、抓み部をその挟み方向に加圧すると、その抓み部の弾性変形に伴って、被処理部材に対する係合が外れる方向に係合部が変位するから、マスキング部材を軽い力で被処理部材から外すことができるようになる。すなわち、脱マスキングが容易になる。さらに、抓み部の両側面の面形状の違いによって、作業者は抓み部を抓んだときに、マスキング部材の向きを指の感触で知ることができる。従って、被処理部材の表面処理から保護すべき部分にマスキング部を合致させることが容易になる。
【0010】
一実施形態では、上記抓み部は、各々上記穴に対する上記係合部の挿入方向の反対側に延設され、隙間を存して相対する一対の側壁を備え、この両側壁の延設端が繋がっていて、この両側壁がその両側から挟まれることにより、上記隙間が狭くなる方向に弾性変形し、
上記抓み部の上記両側壁各々に連なってその両外側に一対の上記係合部が設けられている。
【0011】
従って、抓み部の両側壁を両外側から挟んで加圧したとき、両側壁間の隙間が狭くなるように抓み部が弾性変形することに伴って、両側壁各々に連なった係合部各々が被処理部材の穴の内方に向かって変位する。これにより、被処理部材に対する係合部の係合が外れ、マスキング部材を被処理部材から外すことができる。
【0012】
一実施形態では、上記被処理部材の上記穴は貫通穴であり、上記係合部は、上記穴に貫通するように挿入される本体と、該本体の側面より側方に突出し、上記被処理部材における上記穴の縁に係合して当該係合部の抜けを止める係止部とを備えている。
【0013】
従って、係合部の係止部が被処理部材における穴の縁に係合することにより、係合部の被処理部材に保持が確実になり、よって、マスキングに有利になる。
【0014】
一実施形態では、上記係合部の上記本体は、上記穴を貫通するときに該穴の内周面を摺動して上記隙間が狭くなるように上記抓み部が弾性変形することに伴って上記穴の内方に変位し、
上記係合部の上記係止部は、上記穴を通り抜けたときに上記抓み部の弾性復元力によって上記穴の縁に係合する。
【0015】
これによれば、抓み部の弾性復元力によって係止部が穴の縁に係合するから、その係合が確実になる。また、係止部が穴を通り抜けたときに弾発的に穴の縁に係合するから、作業者は確かな係合感が得られ、被処理部材に対するマスキング部材の装着ミスの防止に有利になる。
【0016】
一実施形態では、上記係合部は、上記係止部を上記穴の周方向に間隔をおいて複数備えている。これにより、被処理部材に対するマスキング部材の係合保持に有利になる。
【0017】
一実施形態では、上記マスキング部は、上記穴のまわりを全周にわたって上記表面処理から保護するように環状に形成されていて、上記被処理部材に対する上記係合部の係合によって、上記穴のまわりに全周にわたって弾性的に当接する環状凸部を備えている。
【0018】
マスキング部の環状凸部が被処理部材に弾性的に当接することにより、塗料等の表面処理剤が環状凸部の内側に侵入することの防止に有利になり、マスキング性が向上する。
【0019】
一実施形態では、上記抓み部に滑り止め用の凹凸が形成されている。
【0020】
従って、塗料等の表面処理剤が抓み部に付着しても、その抓み部に滑り止め用の凹凸があることにより、脱マスキング時に抓み部をその挟み方向に加圧すること、そして、抓み部を引っ張って係合部を被処理部材の穴から抜き取ることが容易になる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、マスキング部材が抓み部を有し、この抓み部をその挟み方向に加圧して弾性変形させると、その弾性変形に伴って被処理部材に対する係合が外れる方向に係合部が変位するから、マスキング部材の被処理部材に対する装着作業が容易になるとともに、表面処理後は、抓み部をその両側から加圧することで被処理部材に対する係合を外すことができるから、脱マスキングが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】マスキング部材を装着した被処理部材の一例を示す斜視図。
図2】マスキング部材を表側から見た斜視図。
図3】マスキング部材を裏側から見た斜視図。
図4】マスキング部材を被処理部材に装着する様子を示す断面図。
図5】マスキング部材を被処理部材に装着した状態を示す断面図。
図6】マスキング部材を被処理部材から取り外す様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
図1において、1は被処理部材の一例として示す車両のサスペンションタワーであり、その頂部にサスペンションのダンパの頂部が嵌まる円形の貫通穴2が形成されている。サスペンションタワー1の頂部下面の貫通穴2まわりがダンパのアッパーシートを取り付ける取付面(図4-6に符号4を付した面)になっている。この取付面、すなわち、貫通穴2のまわりにはアッパーシートをサスペンションタワー1に結合するための複数のボルト穴3が周方向に間隔をおいて形成されている。サスペンションタワー1の頂部(アッパーシート取付面)の外形は三辺が円弧状になった略三角形状(非真円形)になっている。図1はサスペンションタワー1の貫通穴2にマスキング部材11が嵌まった状態を示している。
【0027】
-マスキング部材-
マスキング部材11は、サスペンションタワー1の下面側に表面処理をするときに、具体的には耐チッピング塗料の塗装をするときに、アッパーシート取付面4を当該表面処理から保護する、すなわち、塗料が付着しないようにするものである。アッパーシート取付面4がマスキング面となる。以下、マスキング部材11の構成について具体的に説明する。
【0028】
図2に示すように、マスキング部材11は、上記アッパーシート取付面4を表面処理から保護する板状且つ円環状のマスキング部12と、マスキング部12の内側に設けられアッパーシート取付面4側から上記貫通穴2に貫通するように挿入される一対の係合部13とを備えている。図3に示すように、マスキング部材11は、さらに、貫通穴2に対する係合部13の挿入方向の反対側に突出した、作業者が挟み持つことができる抓み部14を備えている。マスキング部12の外周縁からフランジ15が全周にわたって外側に張り出している。
【0029】
マスキング部材11は、合成樹脂によって、マスキング部12、係合部13、抓み部14及びフランジ15が一体になるように成形されている。
【0030】
マスキング部12は、図4に示すサスペンションタワー1のアッパーシート取付面4の外周縁に当接される断面山形の環状凸部12aを備えている。環状凸部12aは、係合凸部13の突出方向に突出している。また、環状凸部12aは、アッパーシート取付面4の外周縁形状に対応して、平面視で略三角形状になっている。
【0031】
一対の係合部13各々は、係合部本体に該本体の側面より側方に突出し、サスペンションタワー1の貫通穴2の縁に係合して係合部13が貫通穴2から抜けることを阻止する係止部13aを設けてなる。
【0032】
係合部本体は、貫通穴2の円形状に対応する円弧状側壁13bと、該円弧状側壁13bに続く半円状の頂壁13cとを備えてなる。両係合部13は、互いの円弧状側壁13bが抓み部14を挟んで貫通穴2の直径方向に相対している。円弧状側壁13bは頂壁13cに向かって係合部本体が先細となるように僅かに傾斜している。円弧状側壁13bの裾はマスキング部12に続いている。
【0033】
係止部13aは、円弧状側壁13bの外側面から側方に突出していて、円弧状側壁13bの周方向に延びている。本実施形態では、各係合部13は、円弧状側壁13bの周方向に間隔をおいて2つの係止部13aを備えている。
【0034】
抓み部14は、両係合部13各々の頂壁13cに続いて、係合部13の上記挿入方向の反対側に延設された一対の側壁14aを備えている。換言すれば、上記一対の係合部13は抓み部14の両側壁14a各々に連なってその両外側に設けられている。
【0035】
両側壁14aは貫通穴2の径方向に延びる隙間16を存して相対している。その隙間16は、側壁14aが係合部13の円弧状側壁13bに相対する部位では、貫通穴2の径方向に突き抜けている。すなわち、当該部位では両側壁14aは繋がっていない。本実施形態の両側壁14aは、外縁形状が略三角形状になったマスキング部12の頂点と対辺の中央を結ぶ方向において相対している。
【0036】
両側壁14aは、抓み部14がその延設方向において先細となるように僅かに傾斜し、各々の延設端が互いに繋がっている。従って、抓み部14は、両側壁14aを両外側から挟んで加圧したとき、両側壁14a間の隙間が狭くなるように弾性変形する。
【0037】
両側壁14aには滑り止め用凹凸14bが形成されている。一方の側壁14aにおける滑り止め用凹凸14bの形成範囲は、他方の側壁14aにおける滑り止め用凹凸14bの形成範囲よりも、両側壁14aの延設方向に広くなっている。すなわち、両側壁14aは作業者が挟み持つときに触れる面の形状が相違する。
【0038】
フランジ15には、断面U字状になった遠心方向に延びる多数の構造ビード15aが全周にわたって周方向に間隔をおいて設けられている。
【0039】
-マスキング部材の装着-
マスキング部材11の抓み部14を挟み持つ。図4にA矢符で示すように、抓み部14をその挟み方向に加圧して両側壁14aを互いに近づくように撓ませながら、係合部13を矢符Bで示すようにサスペンションタワー1の貫通穴2にアッパーシート取付面4側から挿入していく。抓み部14を挟み持ってのサスペンションタワー1に対するマスキング部材11の装着であるから、その装着作業が容易になる。
【0040】
ここに、抓み部14の両側壁14aは滑り止め用凹凸14bの形成範囲が相違し、すなわち、両側面の面形状が相違する。従って、作業者は、抓み部14を挟み持ったときに、マスキング部材11の向きを指の感触で知ることができる。そのため、作業者は、この面形状の相違を拠り所として、マスキング部材11のマスキング部12の環状凸部12aの頂点の向きをサスペンションタワー1のアッパーシート取付面4の頂点の向きに合わせることができる。すなわち、環状凸部12aをアッパーシート取付面4に合致させた状態で係合部13を貫通穴2に挿入していくことができる。
【0041】
貫通穴2への係合部13の挿入において、上述の如く、抓み部14の両側壁14aを互いに近づくように撓ませると、これにより、係合部13が貫通穴2の内方に変位する。従って、係止部13aが貫通穴2の内周面を摺動するときの抵抗が小さくなり、貫通穴2への係合部13の挿入が容易になる。
【0042】
係止部13aが貫通穴2の内周面を摺動するとき、抓み部14の両側壁14aは両側壁間の隙間が狭くなるように弾性変形した状態になる。この弾性変形に伴って、係合部13が貫通穴2の内方に変位することになる。従って、係止部13aは、貫通穴2を通り抜けたときに、抓み部14の弾性復元力によって、貫通穴2の縁に弾発的に係合する(図5参照)。このときの弾みでパチッと音がするため、作業者はその弾み音によって確かな係合感が得られ、貫通穴2の縁に対する係止部13aの係合、すなわち、マスキング部材11がサスペンションタワー1に正しく装着されたことを確認することができる。
【0043】
ここに、環状凸部12aの頂点の向きとアッパーシート取付面4の頂点の向きが逆になっているときは、環状凸部12aがアッパーシート取付面4の外縁部に干渉する。そのため、係止部13aが貫通穴2を通り抜けるところまで、係合部13を貫通案2に挿入することができず、パチッと音がしない。従って、マスキング部材11の向きが正しくないことによって装着不良を生じたことを知ることができる。
【0044】
図5に示すように、係止部13aが貫通穴2の縁に係合するまで、係合部13が貫通穴2に挿入されたときは、マスキング部12の環状凸部12aがアッパーシート取付面4に全周にわたって弾性的に当接した状態になる。すなわち、アッパーシート取付面4が環状凸部12aによって周囲からシールされた状態になる。よって、表面処理剤である耐チッピング塗料のアッパーシート取付面4への侵入が環状凸部12aによって確実に阻止される(良好なマスキング性が得られる。)。また、マスキング部12から外側に張り出したフランジ15が、耐チッピング塗料がマスキング部12に向かって吹き込むことを妨げる遮蔽効果を発揮する。
【0045】
-脱マスキング-
図6に示すように、脱マスキング時には、抓み部14の両側壁14aをその両外側から挟み、矢符Aで示すように、その挟み方向に加圧して、矢符Cで示すように、係合部13を貫通穴2から抜き取ることにより、マスキング部材11をサスペンションタワー1から取り外す。
【0046】
抓み部14の加圧は、作業者が指で行なうことができ、或いは、火挟みやトングのようなハンドツールを用いて行なうことができる。耐チッピング塗料が抓み部14に付着していても、抓み部14の両側壁14aに滑り止め用凹凸14bが設けられているから、指又はハンドツールの滑りが抑えられ、抓み部14を加圧することが容易になる。
【0047】
抓み部14は、挟み方向に加圧されることにより、両側壁14aの隙間が狭くなるように弾性変形する。これに伴って、両側壁14a各々に連なった係合部13が貫通穴2の内方に向かって変位する。これにより、貫通穴2の縁に対する係止部13aの係合が外れるから、係合部13を貫通穴2から軽い力で抜き取ることができる。すなわち、マスキング部材11をサスペンションタワー1から外すことができる。抓み部14の両側壁14aに滑り止め用凹凸14bが設けられているから、抓み部14を係合部13の抜き取り方向に引っ張っても、指又はハンドツールの滑りを招くことが避けられ、マスキング部材11の取り外しが容易になる。
【0048】
-その他の効果-
マスキング部材11は合成樹脂の真空成形等で得ることができる。この成形において、フランジ15に構造ビード15aが設けられているから、マスキング部材11に成形歪みを生ずることが抑えられる。
【0049】
係合部13の円弧状側壁13b及び抓み部14の側壁14aを傾斜させ、マスキング部12の環状凸部12aを断面山形としたことにより、マスキング部材11を多数積み重ねてコンパクトに保管することができ、作業スペース等の無駄を省く上で有利になる。
【0050】
なお、上記実施形態の被処理部材であるサスペンションタワー1に形成されている穴は貫通穴2であるが、被処理部材に形成されている穴は、貫通穴に限られず、貫通していない凹み穴であってもよい。
【0051】
本発明が、サスペンションタワーの表面処理に限らず、被処理部材の穴まわりのマスキング一般に利用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
1 サスペンションタワー(被処理部材)
2 穴
4 アッパーシート取付面(マスキング面)
11 マスキング部材
12 マスキング部
12a 環状凸部
13 係合部
13a 係止部
13b 円弧状側壁(本体)
14 抓み部
14a 側壁
15 フランジ
16 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6