(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】粒子加速器の診断装置、粒子加速器の作動方法及び粒子加速器の診断プログラム
(51)【国際特許分類】
H05H 13/04 20060101AFI20231219BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20231219BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H05H13/04 R
G21K5/04 C
G21K5/04 D
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2020044630
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 宗道
(72)【発明者】
【氏名】塙 勝詞
(72)【発明者】
【氏名】水島 康太
(72)【発明者】
【氏名】古川 卓司
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第4873563(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/180069(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/04
G21K 5/04
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形加速器内での荷電粒子の移動により生じた第1の電流値を検出する第1検出器から、前記第1の電流値に対応する信号として出力される第1検出信号を受信する第1受信部と、
前記円形加速器よりビーム輸送系に取り出された荷電粒子の移動により生じた第2の電流値を検出する第2検出器から、前記第2の電流値に対応する信号として出力される第2検出信号を受信する第2受信部と、
前記第1検出信号と前記第2検出信号とに基づいて、前記取り出された荷電粒子の取り出し効率を算出する算出部と、
を備える粒子加速器の診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子加速器の診断装置において、
前記算出部は、前記第1検出信号に対して微分処理を含む処理を行って第1処理信号を得て、前記第1処理信号と前記第2検出信号とに基づいて、前記取り出された荷電粒子の取り出し効率を算出する、粒子加速器の診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の粒子加速器の診断装置において、
前記算出部は、
前記第1処理信号に第1係数を乗算して、前記円形加速器を周回する前記荷電粒子の単位時間当たり減少数を表す第1換算値に換算する第1換算部と、
前記第2検出信号に第2係数を乗算して、前記ビーム輸送系を直進する前記荷電粒子の単位時間当たり通過数を表す第2換算値に換算する第2換算部と、を有し、
前記第2換算値を前記第1換算値で除算して前記取り出し効率を算出する粒子加速器の診断装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の粒子加速器の診断装置において、
前記算出部は、前記円形加速器を周回する前記荷電粒子のエネルギーが段階的に変化する度に前記取り出し効率を算出する粒子加速器の診断装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の粒子加速器の診断装置において、
前記ビーム輸送系に設けられた複数の前記第2検出器から受信した複数の前記第2検出信号のうちいずれか一つを選択する選択部を、備える粒子加速器の診断装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の粒子加速器の診断装置において、
前記取り出し効率に基づいて、前記円形加速器及び前記ビーム輸送系の少なくとも一方の制御部に、異常発生の喚起信号を出力するか否か、の判定を行う判定部を備える粒子加速器の診断装置。
【請求項7】
請求項6に記載の粒子加速器の診断装置において、
前記喚起信号が出力された場合、前記制御部に複数の補正電流パターンを電磁石に投入させ、それぞれの前記補正電流パターンに基づき複数の前記取り出し効率を算出させる粒子加速器の診断装置。
【請求項8】
円形加速器内での荷電粒子の移動により生じた第1の電流値を検出する第1検出器から、前記第1の電流値に対応する信号として出力される第1検出信号を受信するステップと、
前記円形加速器よりビーム輸送系に取り出された荷電粒子の移動により生じた第2の電流値を検出する第2検出器から、前記第2の電流値に対応する信号として出力される第2検出信号を受信するステップと、
前記第1検出信号と前記第2検出信号とに基づいて、前記取り出された荷電粒子の取り出し効率を算出するステップと、を含む粒子加速器の
作動方法。
【請求項9】
コンピュータに、
円形加速器内での荷電粒子の移動により生じた第1の電流値を検出する第1検出器から、前記第1の電流値に対応する信号として出力される第1検出信号を受信するステップ、
前記円形加速器よりビーム輸送系に取り出された荷電粒子の移動により生じた第2の電流値を検出する第2検出器から、前記第2の電流値に対応する信号として出力される第2検出信号を受信するステップ、
前記第1検出信号と前記第2検出信号とに基づいて、前記取り出された荷電粒子の取り出し効率を算出するステップ、を実行させる粒子加速器の診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、荷電粒子ビームの遅い取り出しを行う粒子加速器の診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、荷電粒子(イオン)を加速器に供給し加速して高エネルギー状態にした荷電粒子ビームを、工学や医学等の幅広い分野で応用する研究が進められている。現在、広く運用されている加速器システムは、大まかにイオン源と線形加速器(ライナック)と円形加速器とで構成され、この順番で荷電粒子を段階的に加速する。そして、円形加速器を周回する荷電粒子が所定のエネルギーに到達したところで、出射機器を作動させ、周回軌道から進行方向を変更させた荷電粒子ビームをビーム輸送系に取り出す。
【0003】
円形加速器から荷電粒子ビームを取り出す出射機器は、速い取り出し(fast extraction)と遅い取り出し(slow extraction)とに仕様が分類される。「速い取り出し」とは、円形加速器を周回する荷電粒子の集団(ビーム)を、一周にかかる時間内に全て取り出す方法である。
【0004】
これに対し、「遅い取り出し」とは、円形加速器を周回させながら、荷電粒子ビームを取り出す方法である。このため「遅い取り出し」により出射される荷電粒子ビームは、「速い取り出し」による場合と比較して、時間をかけて少しずつ円形加速器から取り出すことが可能となる。
【0005】
これにより、円形加速器で周回する荷電粒子ビームを段階的に加速させることで、ビーム輸送系へ取り出される荷電粒子ビームのエネルギーを段階的に変化させることが可能となる。そして円形加速器における一回の加速サイクルで、異なるエネルギー(例えば数百段階)の荷電粒子ビームをビーム輸送系へ取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、円形加速器で加速された荷電粒子ビームは、ビーム輸送系の末端設備(例えば治療室の照射装置)に到達するまでのロスができるだけ低いことが求められる。荷電粒子ビームの輸送ロスが大きいと、予定したエネルギーパターンを、最後まで実行できなくなる課題がある。また、荷電粒子ビームの輸送ロスが大きいと、ビーム利用効率が低下する課題もある。
【0008】
このような荷電粒子ビームの取り出し効率は、そのエネルギー値に依存して変化し、円形加速器を構成する電磁石の励磁電流を調整することで、改善されることが分かっている。また円形加速器の環境変化(冷却水温度、室内温度)に伴って電磁石の磁場は微妙に変化するため、きめ細かく調整作業を行い、荷電粒子ビームの取り出しを高効率に維持する必要がある。
【0009】
ここで、また、荷電粒子ビームの取り出し効率は、10-5秒から10-1秒のオーダーで変化すると考えられている。したがって、ビーム取り出し効率を高効率に維持するためには、ビーム取り出し効率を可能な限りリアルタイムに近い単位時間で取得しながら電磁石の励磁電流を制御することが望ましい。
【0010】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、荷電粒子の取り出し効率を短周期で評価できる粒子加速器の診断技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態に係る粒子加速器の診断装置は、円形加速器内での荷電粒子の移動により生じた第1の電流値を検出する第1検出器から、前記第1の電流値に対応する信号として出力される第1検出信号を受信する第1受信部と、前記円形加速器よりビーム輸送系に取り出された荷電粒子の移動により生じた第2の電流値を検出する第2検出器から、前記第2の電流値に対応する信号として出力される第2検出信号を受信する第2受信部と、前記第1検出信号と前記第2検出信号とに基づいて、前記取り出された荷電粒子の取り出し効率を算出する算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態により、荷電粒子の取り出し効率を短周期で評価できる粒子加速器の診断技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る粒子加速器の診断装置のブロック図。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る粒子加速器の診断装置のブロック図。
【
図3】(A)(B)(C)(D)(E)実施形態に係る粒子加速器の診断装置の動作を説明するタイミングチャート。
【
図4】本発明の第3実施形態に係る粒子加速器の診断装置のブロック図。
【
図5】本発明の第4実施形態に係る粒子加速器の診断装置のブロック図。
【
図6】各実施形態に係る粒子加速器の診断方法及び診断プログラムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る粒子加速器の診断装置10Aのブロック図である。このように粒子加速器の診断装置10A(10)は、円形加速器20内での荷電粒子の移動により生じた第1の電流値を検出する第1検出器28から、この第1の電流値に対応する信号として出力される第1検出信号S1を受信する第1受信部11と、円形加速器20よりビーム輸送系30に取り出された荷電粒子の移動により生じた第2の電流値を検出する第2検出器55から、この第2の電流値に対応する信号として出力される第2検出信号S2を受信する第2受信部12と、第1検出信号S1と第2検出信号S2と基づいて、円形加速器20よりビーム輸送系30に取り出された荷電粒子の取り出し効率Qを算出する算出部40と、を備えている。
【0015】
そして算出部40は、第1検出信号S1に対して微分処理を含む処理を行って第1処理信号Dを得て、この第1処理信号Dと第2検出信号S2とに基づいて(第1処理信号Dと第2検出信号S2との比を少なくとも計算し)、取り出された荷電粒子の取り出し効率Qを算出する処理部16を有している。
【0016】
粒子加速器のシステムは、イオン源21とライナック22と円形加速器20とで構成され、この順番で荷電粒子を段階的に加速する。そして、円形加速器20を周回する荷電粒子が所定のエネルギーに到達したところで、そのエネルギーが保たれた状態で出射機器29を作動させ、周回軌道から進行方向を変更させた荷電粒子ビームがビーム輸送系30に取り出される。なお、本説明において「エネルギー」とは「核子当りの運動エネルギー」を意味する。ここで、本実施形態に係る粒子加速器の診断装置10Aによって診断される対象の粒子加速器は、前述したライナック(線形加速器)22と円形加速器20とビーム輸送系30とを少なくとも含んで構成される機器である。
【0017】
イオン源21は、ECR(Electron Cyclotron Resonance)イオン源、PIG(Penning Ionization Gauge)イオン源といった高周波(マイクロ波を含む)照射型の他に、レーザ照射型のイオン源等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
ライナック22は、隣同士で逆向きの電界成分を持つ複数の加速電場を直線状に並べ、電界方向を高周波周波数で繰り返し反転させ、加速電場を通過する荷電粒子を常に一方向のみに加速するものである。そしてこのライナック22は、イオン源21から入射したイオンを所定のエネルギーまで加速した後に、円形加速器20に出射する。
【0019】
円形加速器20は、ライナック22から入射した荷電粒子を高周波電力により加速させる高周波加速空洞25と、周回する荷電粒子を曲げる磁場を発生させる複数の偏向電磁石26と、周回する荷電粒子を発散・収束させて周回軌道内に押留める磁場を発生させる複数の四極電磁石27と、周回する荷電粒子のビームの電流値を検出する電流検出器(第1検出器)28と、円形加速器20を周回する荷電粒子のビームを少しずつビーム輸送系30に出射させる出射機器29と、から構成されている。
【0020】
このように構成される円形加速器20は、ライナック22から低エネルギーで入射した荷電粒子のビームを、周回させながら最終的に光速の70~80%の上限エネルギーまで加速することができる。そして円形加速器20は、この上限エネルギーよりも低エネルギーの任意のエネルギーで、周回する荷電粒子のビームのエネルギーを保持することができる。そして、制御部23は、上述した荷電粒子のビームの加速が正しく行われるように、イオン源21、ライナック22及び円形加速器20を連動して制御する。
【0021】
なおビーム輸送系30にも、直進する荷電粒子を軌道内に押留めるための四極電磁石27と、荷電粒子の軌道を曲げるための偏向電磁石26と、が設けられている。そして、このビーム輸送系30の先には、荷電粒子ビーム51を照射することにより患者52の腫瘍を治療する照射装置50が接続されている。なおこの照射装置50は例示であって、ビーム輸送系30の先に接続される施設は特に限定されない。
【0022】
実施形態で採用される出射機器29は、円形加速器20を周回する荷電粒子の集団(ビーム)を少しずつ取り出す「遅い取り出し」の仕様である。出射機器29は、制御部23から入力する制御信号Gに基づいて出射用電極(図示略)を励振させることで、不安定領域に遷移したビームを円形加速器20からビーム輸送系30へ取り出す。なお、ビーム輸送系30には通過する荷電粒子の移動によって生じる電流値(第2の電流値)を検出して監視する第2検出器55が設けられている。
【0023】
第1受信部11が受信する第1検出信号S1は、円形加速器20に設けられた第1検出器28から出力される信号であって、周回する荷電粒子の移動によって生じる電流値(第1の電流値)に対応した信号である。第1検出器28による電流値の測定原理は、アンペールの法則を利用して、電流の周りに同心円状に形成される磁場を検出することによる。そして、第1検出器28は、周回する荷電粒子の移動に伴って生じる第1の電流値に比例した第1検出信号S1を出力する。
【0024】
処理部16は、この第1検出信号S1に対して少なくとも時間微分を含む処理を行って得られる第1処理信号Dを出力するものである。ここで、第1処理信号Dは、円形加速器20からビーム輸送系30にロス無く取り出された場合、第2検出器55で検出される第2検出信号S2の理想値に相当する。
【0025】
ここで、円形加速器20の周回電流値を表す第1検出信号S1は、荷電粒子の周回周波数fに比例し、この周回周波数fは荷電粒子の速度に比例するものである。そして、円形加速器20を周回する荷電粒子の単位時間当り減少数Aは、次式(1)で表され、第1処理信号Dに対応するものである。ここで係数kは、荷電粒子の核種に依存して決定される量で、電荷量から粒子数へ変換する係数である。ΔS1は、期間Δtにおける第1検出信号S1の変化量である。
【0026】
周回荷電粒子の単位時間当り減少数A=D×K1 …(1)
[D=ΔS1/Δt,K1=k/f]
【0027】
なお図示を省略するが、処理部16で第1検出信号S1を時間微分する前段に、第1検出信号S1に含まれるノイズ成分を除去するノイズフィルタ(図示略)が設けられている。またノイズフィルタに入力する前に、アナログ信号である第1検出信号S1を増幅する増幅器(図示略)も設けられている。なお、増幅された第1検出信号S1は、その後、アナログ信号のまま、ノイズフィルタ及び処理部16で処理される場合もあるが、デジタル信号に変換された後に、ノイズフィルタ及び処理部16で処理される場合もある。
【0028】
第2受信部12が受信する第2検出信号S2は、ビーム輸送系30に設けられた第2検出器55から出力される信号であって、直進する荷電粒子の移動によって生じる電流値(第2の電流値)に対応した信号である。第2検出器55による電流値の測定原理は、荷電粒子ビームが気体を通過した時の電離電子により発生したパルス信号を、カウントするというものである。このパルス信号の単位時間当たりカウント数は、ビーム輸送系30を通過する荷電粒子の移動に伴って生じた電流値に対応する。
【0029】
第2検出器55は、通過する荷電粒子の電流値に比例した周波数のパルス信号を発生し、単位時間当り発生したパルス信号のカウント積算値を第2検出信号S2として出力する。そして、ビーム輸送系30を直進する荷電粒子の単位時間当り通過数Bは、次式(2)で表わすように、1パルス当りの荷電粒子数を表す第2係数K2に第2検出信号S2を乗算して得られる。
【0030】
直進荷電粒子の単位時間当り通過数B=S2×K2 …(2)
【0031】
算出部40は、次式(3)で表わすように、荷電粒子の取り出し効率Qを算出する。このように取り出し効率Qは、第2検出信号S2と第1処理信号Dの比(S2/D)を要素に持つ。さらに、荷電粒子のエネルギーが変化する場合の取り出し効率Qは、第2検出信号S2と第1処理信号Dの比(S2/D)に、周回周波数fと定数(K2/k)を乗算して得られる。
【0032】
取り出し効率Q=B/A=K3×S2/D…(3)
[K3=K2/K1=f・K2/k]
【0033】
ビームの取り出し効率Qは、さまざまな要因により変動するが、円形加速器20やビーム輸送系30を構成する電磁石の電流値調整による磁場調整により、回復させることができる。特に円形加速器20を周回する荷電粒子ビームを収束させる四極電磁石27の電流パターンの調整により、改善できる場合が多い。
【0034】
(第2実施形態)
次に
図2を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図2は本発明の第2実施形態に係る粒子加速器の診断装置10Bのブロック図である。なお、
図2において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0035】
第2実施形態に係る粒子加速器の診断装置10B(10)の算出部40は、第1処理信号Dに第1係数K1を乗算して円形加速器20を周回する荷電粒子の単位時間当たり減少数を表す第1換算値Aに換算する第1換算部41と、第2検出信号S2に第2係数K2を乗算してビーム輸送系30を直進する荷電粒子の単位時間当たり通過数を表す第2換算値Bに換算する第2換算部42と、を有している。そして除算部45は、第2換算値Bを第1換算値Aで除算して取り出し効率Qを算出する。
【0036】
第1換算部41から出力される第1換算値Aは、上述の式(1)に示すように、処理部16から入力した第1処理信号Dに第1係数K1を乗算したものである。なお第1係数K1は円形加速器20の周回周波数fを構成に含むので、周回する荷電粒子のエネルギーが変化する場合は、これに対応して第1係数K1も変化させる。
【0037】
第2換算部42から出力される第2換算値Bは、上述の式(2)に示すように、第2検出信号S2に第2係数K2を乗算したものである。この第2換算値Bはビーム輸送系30を直進する荷電粒子の単位時間当たり通過数を表しており、第1換算値Aは円形加速器20を周回する荷電粒子の単位時間当たり減少数を表している。これにより、円形加速器20を周回する荷電粒子のエネルギーが段階的に変化する場合であっても、第2換算値Bと第1換算値Aとの比(B/A)は取り出し効率Qを表す。
【0038】
図3(A)(B)(C)(D)(E)は、実施形態に係る粒子加速器の診断装置の動作を説明するタイミングチャートである。
図3(A)に示すタイミングで、制御部23(
図1)からイオン源21に指令信号が送信される。すると、イオン源21から荷電粒子が出力され、ライナック22で加速された後、荷電粒子のビームが円形加速器20に供給される。
【0039】
図3(B)は、制御部23(
図1)から偏向電磁石26に付与される励磁電流のプロファイルを示している。偏向電磁石26の励磁電流は、周回する荷電粒子のエネルギーに対応して一意的に決定する値であるため、
図3(B)は、円形加速器20を周回する荷電粒子のエネルギーのプロファイルを示すと考えてもよい。
【0040】
円形加速器20は、指令信号(
図3(A))が送信される以前から、ライナック22から供給された直後の入射エネルギーE
0を持つ荷電粒子を周回させるのに対応した初期状態に設定されている。そして、荷電粒子のビームが入射した以降、円形加速器20は、荷電粒子のエネルギーが増加する方向に設定状態を変化させ、所定のエネルギーE
1に安定したところで設定状態を保持する。
【0041】
図3(C)は、円形加速器20の設定状態がエネルギーE
1(又はE
2,E
3)に保持された状態で、制御部23(
図1)から出射機器29に送信される制御信号Gの期間Δtを示している。このように、制御信号Gが出射機器29に送信されている期間Δtにおいて、円形加速器20を周回する荷電粒子のビームは少しずつビーム輸送系30に取り出されていく。
【0042】
図3(D)は、第1検出器28(
図1)において、円形加速器20を周回する荷電粒子のビームの電流値を検出した第1検出信号S1のプロファイルを示している。処理部16は、期間Δtにおける第1検出信号S1の変化量ΔS1を出力する時間微分を行い、第1処理信号Dを出力する。
【0043】
図3(E)は、第2検出器55(
図1)において、ビーム輸送系30を直進する荷電粒子が期間Δtで発生させたパルス信号のカウント積算値を示す第2検出信号S2のプロファイルを示している。そして、第1処理信号D及び第2検出信号S2が得られたタイミングで、上述(3)式により、取り出し効率Qが計算される。そして、円形加速器20のエネルギーEの設定状態をE
1からE
2,E
3へと段階的に変化させた状態で、第1処理信号D及び第2検出信号S2を取得し、エネルギーEに対応する周回周波数fを代入した上述(3)式により、取り出し効率Qを計算する。
【0044】
なお
図3において、微分及び積算の期間は、説明を単純にするために、ビーム輸送系30にビーム取り出し期間Δtに一致させたが、ビーム取り出し期間内のさらに微小な期間Δt(例えば、100ms,10ms,1ms等)としてもよい。
【0045】
制御信号Gが出射機器29に送信され時間が経過するにしたがい、円形加速器20を周回する荷電粒子のビームは、減少もしくは無くなる。そこで、円形加速器20の設定状態をエネルギーE
1,E
2,E
3から初期設定である入射エネルギーE
0の状態に戻し(減速し)、再度、イオン源21に指令信号を送信し(
図3(A))、取り出し効率Qを再計算することができる。
【0046】
(第3実施形態)
次に
図4を参照して本発明における第3実施形態について説明する。
図4は本発明の第3実施形態に係る粒子加速器の診断装置10Cのブロック図である。なお、
図4において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0047】
第3実施形態に係る粒子加速器の診断装置10C(10)は、ビーム輸送系30に設けられた複数の第2検出器55(55a,55b)から受信した複数の第2検出信号S2(S2a,S2b)のうちいずれか一つを選択する選択部15を、備えている。そして、選択部15で選択された第2検出信号S2が第2受信部12で受信される。なお選択部15を除く第3実施形態の構成要素の動作は、第1実施形態及び第2実施形態の構成要素と同じである。
【0048】
ここで、ビーム輸送系30の上流側に設置された第2検出器55aから出力された第2検出信号S2aに基づいて算出された取り出し効率Qは、円形加速器20からビーム輸送系30に取り出された直後のビームロスを反映している。これに対し、ビーム輸送系30の下流側に設置された第2検出器55bから出力された第2検出信号S2bに基づいて算出された取り出し効率Qは、さらにビーム輸送系30を通過する過程におけるビームロスも反映している。
【0049】
取り出し効率Qの悪化は、加速器建屋における冷却水温度や室内温度等の環境変化に伴い電磁石磁場が微妙に変化してしまうことが原因の一つである。第2検出信号S2aに基づき算出された取り出し効率Qが悪化している場合は、円形加速器20の周辺機器や制御パラメータの調整が行われる。また第2検出信号S2bに基づき算出された取り出し効率Qが悪化している場合は、ビーム輸送系30の周辺機器や制御パラメータの調整が行われる。このように、ビーム輸送系30の別々の位置に設けられた複数の第2検出器55から出力された第2検出信号S2に基づいて複数の取り出し効率Qを算出することで、ビームロスの原因究明の一助になる。
【0050】
また、実施形態においてビーム輸送系30が一本で構成される場合を示したが、ビーム輸送系30が分岐して構成される場合もある。この場合、複数の第2検出器55が配置されることで、ビームロスが、ビーム輸送系30のいずれの枝に起因するか特定することが容易になる。
【0051】
(第4実施形態)
次に
図5を参照して本発明における第4実施形態について説明する。
図5は本発明の第4実施形態に係る粒子加速器の診断装置10Dのブロック図である。なお、
図5において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0052】
第4実施形態に係る粒子加速器の診断装置10D(10)は、取り出し効率Qに基づいて、円形加速器20及びビーム輸送系30の少なくとも一方の制御部23,24に異常発生の喚起信号Rを出力部18から出力するか否かの判定を行う判定部17をさらに備えている。この喚起信号Rは、制御部23に入力され、円形加速器20やビーム輸送系30に予め定められた動作を行わせる。なお判定部17及び出力部18を除く第4実施形態の構成要素の動作は、第1実施形態及び第2実施形態の構成要素と同じである。
【0053】
取り出し効率Qが許容値を超えて悪化した場合は、円形加速器20又はビーム輸送系30に何等かの異常の発生が推測される。照射装置50において患者の治療を実施する工程で喚起信号Rが出力された場合は、オペレータに通知するか、円形加速器20及びビーム輸送系30の動作を緊急停止させる場合がある。
【0054】
もしくは喚起信号Rが出力された場合、制御部23に複数の補正電流パターンを電磁石27に投入させ、それぞれの補正電流パターンに基づき複数の取り出し効率Qを算出させる。これにより、取り出し効率Qの一番優れる補正電流パターンを採用することで、効率的に荷電粒子ビームを照射することできる。
【0055】
図6のフローチャートに基づいて、各実施形態に係る粒子加速器の診断方法及び診断プログラムを説明する(適宜、
図1参照)。まず、円形加速器20を周回する荷電粒子ビームを所定のエネルギーEで安定化させる(S10 No Yes)。次に、円形加速器20から荷電粒子ビームを取り出してビーム輸送系30を直進させる(S12)。そして、円形加速器20を周回する荷電粒子の移動によって生じる第1の電流値に対応した第1検出信号S1を受信し(S13)、この第1検出信号S1を時間微分し、第1処理信号Dを出力する(S14)。
【0056】
一方において、円形加速器20から取り出されてビーム輸送系30を直進する荷電粒子の移動によって生じる第2の電流値に対応した第2検出信号S2を受信する(S15)。そして、第1処理信号Dと第2検出信号S2との比を計算し、荷電粒子の取り出し効率Qを算出する(S16)。
【0057】
この取り出し効率Qが予め定められた閾値を超えていない場合(S17 No)、喚起信号が出力される(S18 END)。喚起信号が出力されると、オペレータの判断で円形加速器20又はビーム輸送系30を構成する電磁石に入力する励磁電流の調整が行われる。
【0058】
取り出し効率Qが閾値よりも大きい場合は(S17 Yes)、円形加速器20を周回する荷電粒子ビームのエネルギーEを更新設定し(S19 No)、(S11)から(S17)までのフローが繰り返される。そして、設定した全てのエネルギーEにおいて取り出し効率Qが閾値よりも大きいことの確認がとれたところで終了する(S19 Yes END)。
【0059】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の粒子加速器の診断装置によれば、円形加速器のビーム電流値の時間微分値とビーム輸送系のビーム電流値との比を計算することで、荷電粒子ビームの取り出し効率を短周期で評価することが可能となる。
【0060】
なお、各実施形態においては、円形加速器を周回する荷電粒子の減少数と、ビーム輸送系に出射された荷電粒子数とを比較できればよい。例えば、第1検出信号には微分演算を行うものとして説明したが、ビームの出射(すなわち円形加速器中の荷電粒子の減少)による第1検出信号の変化と、このビームの出射のタイミングに対応する時間、つまり出射されたビームが第2検出器55に到達するタイミングの第2検出信号とに基づいてビーム出射効率を求められるよう構成すれば、微分演算は必須の演算処理ではない。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0062】
以上説明した粒子加速器の診断装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0063】
また粒子加速器の診断装置で実行されるプログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0064】
また、本実施形態に係る粒子加速器の診断装置で実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、装診断装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0065】
10(10A,10B,10C,10D)…粒子加速器の診断装置、11…第1受信部、12…第2受信部、15…選択部、16…処理部、17…判定部、18…出力部、20…円形加速器、21…イオン源、22…ライナック、23…円形加速器の制御部、24…ビーム輸送系の制御部、25…高周波加速空洞、26…偏向電磁石、27…四極電磁石、28…第1検出器、29…出射機器、30…ビーム輸送系、40…算出部、41…第1換算部、42…第2換算部、45…除算部、50…照射装置、55(55a,55b)…第2検出器、A…第1換算値、B…第2換算値、S1…第1検出信号、S2…第2検出信号、K1…第1係数、K2…第2係数、D…第1処理信号、Q…取り出し効率、G…制御信号、R…喚起信号。