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特許7405373化学物質のスクリーニング方法、プログラム、制御装置、及び培養観察装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】化学物質のスクリーニング方法、プログラム、制御装置、及び培養観察装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20231219BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231219BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12M1/00 A
C12M1/34 D
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020550544
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2019039110
(87)【国際公開番号】W WO2020071484
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018189810
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 竜司
(72)【発明者】
【氏名】河合 駿
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 将也
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 慧
(72)【発明者】
【氏名】清田 泰次郎
(72)【発明者】
【氏名】紀伊 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】魚住 孝之
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-526519(JP,A)
【文献】特表2013-538567(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154209(WO,A1)
【文献】特表2016-518129(JP,A)
【文献】特開2011-229410(JP,A)
【文献】特開2011-239778(JP,A)
【文献】特開2013-230145(JP,A)
【文献】薬学雑誌,2018年06月01日,vol.138,p.809-813
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/02
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる化学物質がそれぞれ異なる濃度で添加された複数の細胞群における細胞の顕微鏡画像に含まれる前記細胞の形態に関する複数の特徴量を取得することと、
前記細胞の形態に関する複数の特徴量の種類毎に座標軸を定めた空間である特徴量空間における前記複数の特徴量それぞれを示す値の組により指定される点である特徴量点の間の距離を、前記細胞に添加された化学物質の濃度の変化に対する特徴量点の変化の大きさが所定の値以上となる化学物質の濃度の範囲である形態変化領域において前記異なる化学物質同士で比較することによって、前記異なる化学物質同士の類似性を判定することと、
を有する化学物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記細胞に添加される化学物質の濃度の範囲の中からコントロール領域及び死細胞領域を除くことによって前記形態変化領域を判定することをさらに有し、
前記コントロール領域とは、前記細胞に添加される化学物質の濃度を最も低い濃度から上げたときに、当該化学物質の濃度に対する前記特徴量の変化が前記所定の値よりも小さい濃度の範囲であり、
前記死細胞領域とは、前記細胞に添加される化学物質の濃度を上げていったときに、当該細胞が死滅し当該化学物質の濃度に対する前記特徴量の変化が前記所定の値よりも小さくなる濃度の範囲である
請求項1に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記特徴量空間における前記コントロール領域の中心からの前記特徴量点の距離に基づいて前記コントロール領域を判定することと、
前記特徴量空間における前記死細胞領域の中心からの前記特徴量点の距離に基づいて前記死細胞領域を判定することとのうち少なくとも一方をさらに有する
請求項2に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記細胞の形態に関する複数の特徴量は、前記細胞各々の形態についての特徴量、前記細胞群の集団としての形態についての特徴量、及び前記細胞群の集団としての形態についての特徴量の時間変化とを含む、
請求項1に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記形態変化領域は、前記細胞の形態が変化してから前記細胞が細胞死するまでの濃度の範囲を含む請求項に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項6】
さらに、前記濃度の変化に対する前記特徴量の変化に基づいて前記形態変化領域を求めることを有する請求項または請求項に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記形態変化領域を求めることは、前記特徴量の変化量と閾値とを比較して前記形態変化領域を求める請求項に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記顕微鏡画像は、前記化学物質が前記細胞に添加された後の複数の撮像時刻において撮像され、
所定の前記濃度における、前記撮像時刻の変化に対する前記特徴量の変化に基づいて、前記異なる化学物質同士の前記類似性を判定する請求項1から請求項のいずれか一項に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記所定の濃度は、50%阻害濃度、前記50%阻害濃度よりも高い濃度、前記50%阻害濃度よりも低い濃度の少なくとも一方の濃度を含む請求項に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記50%阻害濃度における前記撮像時刻の変化に対する前記特徴量の変化と、前記50%阻害濃度よりも高い濃度における前記撮像時刻の変化に対する前記特徴量の変化と、前記50%阻害濃度よりも低い濃度における前記撮像時刻の変化に対する前記特徴量の変化とにそれぞれに重み付けされた結果に基づいて前記類似性を判定する請求項に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記異なる化学物質は、既知の化学物質と、未知の化学物質とが含まれ、
前記既知の化学物質と、前記未知の化学物質との前記類似性を判定する
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記複数の特徴量が多変量解析により解析された結果に基づいて前記類似性を判定する請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の化学物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
コンピュータに、
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の化学物質のスクリーニング方法に基づくステップを実行させるプログラム。
【請求項14】
異なる化学物質がそれぞれ異なる濃度で添加された複数の細胞群における細胞の顕微鏡画像に含まれる前記細胞の形態に関する複数の特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記細胞の形態に関する複数の特徴量の種類毎に座標軸を定めた空間である特徴量空間における前記複数の特徴量それぞれを示す値の組により指定される点である特徴量点の間の距離を、前記細胞に添加された化学物質の濃度の変化に対する特徴量点の変化の大きさが所定の値以上となる化学物質の濃度の範囲である形態変化領域において前記異なる化学物質同士で比較することによって、前記異なる化学物質同士の類似性を判定する類似性判定部と、
を備える制御装置。
【請求項15】
前記形態変化領域は、前記細胞の形態が変化してから前記細胞が細胞死するまでの濃度の範囲を含む請求項14に記載の制御装置。
【請求項16】
さらに、前記濃度の変化に対する前記特徴量の変化に基づいて前記形態変化領域を求める濃度判定部を備える請求項14または請求項15に記載の制御装置。
【請求項17】
前記濃度判定部は、前記特徴量の変化量と閾値とを比較して前記形態変化領域を求める請求項16に記載の制御装置。
【請求項18】
前記顕微鏡画像は、前記化学物質が前記細胞に添加された後の複数の撮像時刻において撮像され、
前記類似性判定部は、所定の前記濃度における、前記撮像時刻の変化に対する前記特徴量の変化に基づいて、前記異なる化学物質同士の前記類似性を判定する請求項14から請求項17のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項19】
前記所定の濃度は、50%阻害濃度、前記50%阻害濃度よりも高い濃度、前記50%阻害濃度よりも低い濃度の少なくとも一方の濃度を含む請求項18に記載の制御装置。
【請求項20】
前記類似性判定部は、前記50%阻害濃度における前記撮像時刻の変化に対する前記特徴量の変化と、前記50%阻害濃度よりも高い濃度における前記撮像時刻の変化に対する前記特徴量の変化と、前記50%阻害濃度よりも低い濃度における前記撮像時刻の変化に対する前記特徴量の変化とにそれぞれに重み付けされた結果に基づいて前記類似性を判定する請求項19に記載の制御装置。
【請求項21】
前記異なる化学物質は、既知の化学物質と、未知の化学物質とが含まれ、
前記既知の化学物質と、前記未知の化学物質との前記類似性を判定する
請求項14から請求項20のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項22】
前記類似性判定部は、前記複数の特徴量が多変量解析により解析された結果に基づいて前記類似性を判定する請求項14から請求項21のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項23】
請求項14から請求項22のいずれか一項に記載の制御装置を備える培養観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質のスクリーニング方法、プログラム、制御装置、及び培養観察装置に関するものである。
本願は、2018年10月5日に、日本に出願された特願2018-189810号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を用いた化学物質のハイスループットスクリーニングには、単純な系が用いられていた。例えば、抗癌作用を示す低分子化合物のスクリーニング方法の多くには、MTT(Methyl thiazolyl tetrazorium)アッセイやalamarBlueアッセイといった1つのウェル内における細胞の生存数を定量し、生存率を算出する方法が用いられていた。
【0003】
近年、創薬ターゲットのスクリーニング方法や低分子化合物のスクリーニング方法は、機器やイメージング技術の発展と共に複雑化している。顕微鏡技術がスクリーニングに応用されるようになり、1種類の細胞から複数のパラメータについて解析が行われるようになってきている。このようなスクリーニング方法をHigh content screening(以下、HCS)という(非特許文献1参照)。
しかしながら、従来の化学物質のスクリーニング方法では、コストと時間がかかってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Krausz、Mol.BioSyst.、第3巻、第232~240頁、2007年
【発明の概要】
【0005】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、異なる化学物質がそれぞれ異なる濃度で添加された複数の細胞群における細胞の顕微鏡画像に含まれる前記細胞の形態に関する複数の特徴量を取得することと、前記細胞の形状に関する複数の特徴量の種類毎に座標軸を定めた空間である特徴量空間における前記複数の特徴量それぞれを示す値の組により指定される点である特徴量点の間の距離を、前記細胞に添加された化学物質の濃度の変化に対する特徴量点の変化の大きさが所定の値以上となる化学物質の濃度の範囲である形態変化領域において前記異なる化学物質同士で比較することによって、前記異なる化学物質同士の類似性を判定することと、を有する化学物質のスクリーニング方法である。
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、コンピュータに、上記の化学物質のスクリーニング方法に基づくステップを実行させるプログラムである。
【0007】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、異なる化学物質がそれぞれ異なる濃度で添加された複数の細胞群における細胞の顕微鏡画像に含まれる前記細胞の形態に関する複数の特徴量を算出する特徴量算出部と、前記細胞の形態に関する複数の特徴量の種類毎に座標軸を定めた空間である特徴量空間における前記複数の特徴量それぞれを示す値の組により指定される点である特徴量点の間の距離を、前記細胞に添加された化学物質の濃度の変化に対する特徴量点の変化の大きさが所定の値以上となる化学物質の濃度の範囲である形態変化領域において前記異なる化学物質同士で比較することによって、前記異なる化学物質同士の類似性を判定する類似性判定部と、を備える制御装置である。
【0008】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、上記の制御装置を備える培養観察装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に用いられる培養観察装置の概要を示すブロック図である。
図2】本発明に用いられる培養観察装置の正面図である。
図3】本発明に用いられる培養観察装置の平面図である。
図4】本発明に用いられるンキュベータでの観察動作の一例を示すフローチャートである。
図5】本発明の第1実施形態の撮像装置が撮像する顕微鏡画像の一例を示す模式図である。
図6】本発明の第1実施形態の制御装置による化学物質のスクリーニングの動作の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の第1実施形態の主成分分析により処理された特徴量点の一例を示す図である。
図8】本発明の第1実施形態の濃度軌跡の一例を示す図である。
図9】本発明の第1実施形態に係るプロットのコントロール領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係の一例を示す図である。
図10】本発明の第1実施形態に係る化学物質ごとの形態変化領域の開始濃度の一例を示す図である。
図11】本発明の第1実施形態に係るプロットの死細胞領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係の一例を示す図である。
図12】本発明の第1実施形態に係る化学物質ごとの形態変化領域の一例を示す図である。
図13】本発明の第1実施形態に係る制御装置による化学物質同士の特徴量空間における特徴量点間の比較の動作の一例を示すフローチャートである。
図14】本発明の第1実施形態に係る制御装置による化学物質同士の特徴量空間における特徴量点間の比較の方法の一例を示す図である。
図15】本発明の第2実施形態に用いられる培養観察装置11aの概要を示すブロック図である。
図16】本発明の第2実施形態に用いられる制御装置による既知の化学物質の解析及び新規化学物質の解析の動作の一例を示すフローチャートである。
図17】本発明の第2実施形態に係る高濃度側の濃度軌跡及び50%阻害濃度における時間軌跡の一例を示す図である。
図18】本発明の第2実施形態に係る低濃度側の濃度軌跡及び50%阻害濃度における時間軌跡の一例を示す図である。
図19】本発明の第2実施形態に係る第1の化学物質の50%阻害濃度における時間軌跡の一例を示す図である。
図20】本発明の第2実施形態に係る第1の化学物質の低濃度側の線分の和と高濃度側の線分の和との時間変化の一例を示す図である。
図21】本発明の第2実施形態に係る第2の化学物質の50%阻害濃度における時間軌跡の一例を示す図である。
図22】本発明の第2実施形態に係る第2の化学物質の低濃度側の線分の和と高濃度側の線分の和との時間変化の一例を示す図である。
図23】本発明の第2実施形態に係る制御装置による新規化学物質の判定の動作の一例を示すフローチャートである。
図24】本発明の第2実施形態に係る新規化学物質と第1の化学物質との比較の一例を示す図である。
図25】本発明の第2実施形態に係る新規化学物質と第2の化学物質との比較の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
≪培養状態評価装置≫
本発明の化学物質のスクリーニング方法には、細胞群に対して、この細胞群に含まれる各細胞に化学物質を添加する第1の工程と、化学物質を添加した細胞の形態変化を観察する第2の工程とが含まれる。ここで細胞群とは、複数の細胞を意味する。第1の工程においては、互いに異なる複数の濃度の化学物質を、細胞に添加する。第2の工程においては、濃度の差による細胞の形態変化の差を観察する。この第2の工程は、培養状態評価装置を用いて行われる。この培養状態評価装置は、培養観察装置に備えられている。培養状態評価装置とは、培養観察装置11の制御装置41である。
以下、この培養観察装置について説明する。
【0011】
図1は、本発明に用いられる培養観察装置の概要を示すブロック図である。また、図2図3は、本発明に用いられる培養観察装置の正面図および平面図である。
【0012】
本発明に用いられる培養観察装置11は、上部ケーシング12と下部ケーシング13と、表示部50とを有している。培養観察装置11の組立状態において、上部ケーシング12は下部ケーシング13の上に載置される。なお、上部ケーシング12と下部ケーシング13との内部空間は、ベースプレート14によって上下に仕切られている。
【0013】
まず、上部ケーシング12の構成の概要を説明する。上部ケーシング12の内部には、細胞の培養を行う恒温室15が形成されている。この恒温室15は温度調整装置15aおよび湿度調整装置15bを有しており、恒温室15内は細胞の培養に適した環境(例えば温度37℃、湿度90%の雰囲気)に維持されている(なお、図2図3での温度調整装置15a、湿度調整装置15bの図示は省略する)。
【0014】
恒温室15の前面には、大扉16、中扉17、小扉18が配置されている。大扉16は、上部ケーシング12および下部ケーシング13の前面を覆っている。中扉17は、上部ケーシング12の前面を覆っており、大扉16の開放時に恒温室15と外部との環境を隔離する。小扉18は、細胞を培養する培養容器19を搬出入するための扉であって、中扉17に取り付けられている。この小扉18から培養容器19を搬出入することで、恒温室15の環境変化を抑制することが可能となる。なお、大扉16、中扉17、小扉18は、パッキンP1,P2,P3によりそれぞれ気密性が維持されている。
【0015】
また、恒温室15には、ストッカー21、観察ユニット22、容器搬送装置23、搬送台24が配置されている。ここで、搬送台24は、小扉18の手前に配置されており、培養容器19を小扉18から搬出入する。
【0016】
ストッカー21は、上部ケーシング12の前面(図3の下側)からみて恒温室15の左側に配置される。ストッカー21は複数の棚を有しており、ストッカー21の各々の棚には培養容器19を複数収納することができる。なお、各々の培養容器19には、培養の対象となる細胞が培地とともに収容されている。
【0017】
観察ユニット22は、上部ケーシング12の前面からみて恒温室15の右側に配置される。この観察ユニット22は、培養容器19内の細胞のタイムラプス観察を実行することができる。
【0018】
ここで、観察ユニット22は、上部ケーシング12のベースプレート14の開口部に嵌め込まれて配置される。観察ユニット22は、試料台31と、試料台31の上方に張り出したスタンドアーム32と、位相差観察用の顕微光学系223および撮像装置224を内蔵した本体部分33とを有している。そして、試料台31およびスタンドアーム32は恒温室15に配置される一方で、本体部分33は下部ケーシング13内に収納される。
【0019】
試料台31は透光性の材質で構成されており、その上に培養容器19を載置することができる。この試料台31は水平方向に移動可能に構成されており、上面に載置した培養容器19の位置を調整できる。また、スタンドアーム32にはLED光源221が内蔵されている。スタンドアーム32には照明リング絞りが設けられ、試料台31に照射されるLED光源221からの照明光の光強度分布を可変に調整できる。スタンドアーム32は照明装置222として機能する。照明装置222と、顕微光学系223とは、位相差顕微鏡を構成する。顕微光学系223には、コンデンサレンズや対物レンズや位相板などが設けられ、公知の位相差顕微鏡の顕微光学系と同様に構成される。
【0020】
すなわち、LED光源221が照射する照明光は、スタンドアーム32(照明装置222)に設けられた照明リング絞りによって絞られる。照明リング絞りによって絞られた照明光は、コンデンサレンズを通り、培養容器19の細胞に到達する。培養容器19の細胞に到達した照明光は、直接光と回折光とに分離する。ここで直接光とは、培養容器19の細胞の内部を直進する照明光である。回折光とは、位相物体である細胞により回折した照明光である。回折現象は屈折率に違いのある部位において発生するので、回折光は細胞と培養容器19内において細胞が浸される溶液との境界部分、細胞の内部構造部など、位相物体である細胞の形状の情報を含む。
【0021】
直接光と回折光とは、対物レンズを通り位相板に到達する。位相板は、4分の1波長板と、NDフィルターとがリング状に形成されており、4分の1波長板及びNDフィルターと以外の部分は透明である。ここで4分の1波長板は、光の位相を4分の1波長分だけずらす。NDフィルターは、光を吸収する。
直接光は対物レンズによって集光され、位相板のリング状の4分の1波長板を通過するため位相が4分の1波長分だけずれる。また、4分の1波長板を通過する直接光は明るさが弱められる。一方、回折光は大部分が位相板の透明な部分を通過し、位相及び明るさは変化しない。
直接光と回折光とは顕微光学系223の像面に到達して、明暗のコントラストがついた像を結ぶ。
【0022】
撮像装置224は、スタンドアーム32によって試料台31の上側から透過照明された培養容器19の細胞を、顕微光学系223を介して撮像することで細胞の顕微鏡画像を取得できる。
【0023】
容器搬送装置23は、上部ケーシング12の前面からみて恒温室15の中央に配置される。この容器搬送装置23は、ストッカー21、観察ユニット22の試料台31および搬送台24との間で培養容器19の受け渡しを行う。
【0024】
図3に示すように、容器搬送装置23は、多関節アームを有する垂直ロボット34と、回転ステージ35と、ミニステージ36と、アーム部37とを有している。回転ステージ35は、垂直ロボット34の先端部に回転軸35aを介して水平方向に180°回転可能に取り付けられている。そのため、回転ステージ35は、ストッカー21、試料台31および搬送台24に対して、アーム部37をそれぞれ対向させることができる。
【0025】
また、ミニステージ36は、回転ステージ35に対して水平方向に摺動可能に取り付けられている。ミニステージ36には培養容器19を把持するアーム部37が取り付けられている。アーム部37は、把持した培養容器19をストッカー21から搬出して観察ユニット22の試料台31に載置する。
【0026】
次に、下部ケーシング13の構成の概要を説明する。下部ケーシング13の内部には、観察ユニット22の本体部分33や、培養観察装置11の制御装置41が収納されている。
【0027】
制御装置41は、温度調整装置15a、湿度調整装置15b、観察ユニット22および容器搬送装置23とそれぞれ接続されている。この制御装置41は、所定のプログラムに従って培養観察装置11の各部を統括的に制御する。
【0028】
一例として、制御装置41は、温度調整装置15aおよび湿度調整装置15bをそれぞれ制御して恒温室15内を所定の環境条件に維持する。また、制御装置41は、所定の観察スケジュールに基づいて、観察ユニット22および容器搬送装置23を制御して、培養容器19の観察シーケンスを自動的に実行する。さらに、制御装置41(培養状態評価装置)は、観察シーケンスで取得した画像に基づいて、細胞の培養状態の評価を行う培養状態評価処理を実行する。
【0029】
ここで、制御装置41(培養状態評価装置)は、CPU42および記憶部43を有している。CPU42は、制御装置41(培養状態評価装置)の各種の演算処理を実行するプロセッサである。CPU42は、一例としてLSI(Large Scale Integration)などの集積回路で構成される。なお、CPU42の一部、または全部を、ソフトウェアとして構成してもよい。つまり、CPU42は、ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせて構成されてもよい。また、CPU42は、プログラムの実行によって、特徴量算出部44、座標算出部45、濃度軌跡算出部46、変化領域判定部47、及び類似性判定部48としてそれぞれ機能する。なお、特徴量算出部44、座標算出部45、濃度軌跡算出部46、変化領域判定部47、及び類似性判定部48の動作については後述する。
【0030】
記憶部43は、ハードディスクや、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体などで構成される。この記憶部43には、ストッカー21に収納されている各培養容器19に関する管理データと、撮像装置で撮像された顕微鏡画像のデータと、既知の化学物質に関するデータとが記憶されている。さらに、記憶部43には、CPU42によって実行されるプログラムが記憶されている。
【0031】
なお、上記の管理データには、(a)個々の培養容器19を示すインデックスデータ、(b)ストッカー21での培養容器19の収納位置、(c)培養容器19の種類および形状(ウェルプレート、ディッシュ、フラスコなど)、(d)培養容器19で培養されている細胞の種類、(e)培養容器19の観察スケジュール、(f)タイムラプス観察時の撮像条件(対物レンズの倍率、容器内の観察地点等)、などが含まれている。また、ウェルプレートのように複数の小容器で同時に細胞を培養できる培養容器19については、各々の小容器ごとにそれぞれ管理データが生成される。
【0032】
表示部50は、液晶ディスプレイなどを備えており、制御装置41(培養状態評価装置)が出力する画像を表示する。表示部50が表示する画像には、制御装置41(培養状態評価装置)の濃度軌跡算出部46が算出した軌跡の画像が含まれる。また、表示部50が表示する画像には、制御装置41(培養状態評価装置)の類似性判定部48が判定した結果が含まれる。
【0033】
≪培養状態評価装置における観察動作の例≫
次に、図4のフローチャートを参照しつつ、本発明に用いられる培養観察装置11での観察動作の一例を説明する。この図4は、恒温室15内に搬入された培養容器19を、登録された観察スケジュールに従ってタイムラプス観察する動作例を示している。
【0034】
ステップS101:CPU42は、記憶部43の管理データの観察スケジュールと現在日時とを比較して、培養容器19の観察開始時間が到来したか否かを判定する。観察開始時間となった場合(ステップS101;YES)、CPU42はステップS102に処理を移行させる。一方、培養容器19の観察時間ではない場合(ステップS101;NO)には、CPU42は次の観察スケジュールの時刻まで待機する。
【0035】
ステップS102:CPU42は、観察スケジュールに対応する培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19をストッカー21から搬出して観察ユニット22の試料台31に載置する。なお、培養容器19が試料台31に載置された段階で、スタンドアーム32に内蔵されたバードビューカメラ(不図示)によって培養容器19の全体観察画像が撮像される。
【0036】
ステップS103:CPU42は、観察ユニット22に対して細胞の顕微鏡画像の撮像を指示する。観察ユニット22は、LED光源221を点灯させて培養容器19を照明するとともに、撮像装置224を駆動させて培養容器19内の細胞の顕微鏡画像を撮像する。撮像装置224が撮像する顕微鏡画像の一例を図5に示す。
【0037】
図5は、撮像装置224が撮像する顕微鏡画像の一例を示す模式図である。この図5の一例においては、顕微鏡画像PICには、細胞Cell1、細胞Cell2、細胞Cell3の画像が含まれている。この顕微鏡画像とは、位相差顕微鏡によって撮像される位相差画像である。この顕微鏡画像は、培養容器19中に培養されている細胞の像を、この細胞を透過する光の細胞の部位ごとの位相差を光の明暗差に変換することによって示す。
【0038】
図4に戻り、撮像装置224は、記憶部43に記憶されている管理データに基づいて、ユーザーの指定した撮像条件(対物レンズの倍率、容器内の観察地点)に基づいて顕微鏡画像を撮像する。例えば、培養容器19内の複数の観察地点を観察する場合、観察ユニット22は、試料台31の駆動によって培養容器19の位置を逐次調整し、各々の観察地点でそれぞれ顕微鏡画像を撮像する。なお、ステップS103で取得された顕微鏡画像のデータは、制御装置41(培養状態評価装置)に読み込まれるとともに、CPU42の制御によって記憶部43に記録される。
【0039】
ステップS104:CPU42は、観察スケジュールの終了後に培養容器19の搬送を容器搬送装置23に指示する。そして、容器搬送装置23は、指示された培養容器19を観察ユニット22の試料台31からストッカー21の所定の収納位置に搬送する。その後、CPU42は、観察シーケンスを終了してステップS101に処理を戻す。以上で、図4のフローチャートの説明を終了する。
【0040】
≪培養状態評価装置における培養状態評価処理≫
次に、培養状態評価装置における培養状態評価処理の一例を説明する。この一例では、培養容器19をタイムラプス観察して取得した複数の顕微鏡画像を用いて、培養容器19の培養細胞における細胞の特徴量を算出する例を説明する。
【0041】
この一例において、培養状態評価装置には、1種類の細胞について、3種類の化学物質が、それぞれ8段階の濃度にされて添加された、24個の培養容器19が用意されている。つまり、この一例において、培養状態評価装置は、3種類の化学物質をスクリーニングする。3種類の化学物質のうち、1種類は作用機序などの性質が未知の化学物質(以下、未知の化学物質と称する)であり、2種類は作用機序などの性質が既知の化学物質(以下、既知の化学物質と称する)である。
本実施形態において、化学物質のスクリーニングとは、複数の化学物質のなかから目的に適合する化学物質を選別することである。ここで目的に適合するとは、例えば、特定の薬効を示すことや、特定の毒性を示すことである。本実施形態においては、化学物質のスクリーニングの一例として、化学物質同士の類似性を判定することにより化学物質を選別する。ここで類似性の判定に用いられる化学物質には、一例として、未知の化学物質と、既知の化学物質とが含まれる。つまり、本実施形態における化学物質のスクリーニングでは、一例として、未知の化学物質と、既知の化学物質との類似性を判定することにより未知の化学物質を選別する。
【0042】
この培養状態評価処理において、制御装置41(培養状態評価装置)は、多変量解析を用いて、細胞の形状に関する複数の特徴量の種類毎に座標軸を定めた空間において、顕微鏡画像から算出される特徴量を示す点を、細胞に添加された化学物質の濃度ごとに求める。ここで、特徴量とは、細胞の形状に関する特徴を示す量である。そして、制御装置41(培養状態評価装置)は、細胞の形状に関する複数の特徴量の種類毎に座標軸を定めた空間において、特徴量を示す点からなるグラフを生成する。本実施形態の化学物質のスクリーニング方法は、異なる化学物質がそれぞれ異なる濃度で添加された細胞の顕微鏡画像に含まれる細胞の形状に関する複数の特徴量に基づいて、異なる化学物質同士の類似性を判定することを有する。
【0043】
≪計算モデルの生成処理の例≫
以下、図6のフローチャートを参照しつつ、化学物質のスクリーニングの動作の一例を説明する。この図6の例では、細胞群を培養した培養容器19を培養観察装置11によって同一視野を同一の撮像条件でタイムラプス観察し、細胞群がタイムラプス観察によって撮像された複数の顕微鏡画像を予め用意する。以下においては、一例として、1種類の細胞について観察する場合について説明する。培養容器19は、1種類の細胞について24個用意される。培養容器19内の細胞には、培養容器19ごとに種類及び濃度がそれぞれ異なる化学物質が、添加されている。この図6の例では、1回のタイムラプス観察において、化学物質の種類及び濃度がそれぞれ異なる24個の培養容器19について、それぞれ1枚の顕微鏡画像が撮像される。なお、培養容器19毎に撮像する顕微鏡画像の枚数は1枚に限られず、複数枚であってもよい。図6の例では、1回のタイムラプス観察において、24枚の顕微鏡画像が撮像される。なお、図6の例において、撮像する顕微鏡画像の枚数は、培養容器19の区画の数や、当該区画毎に設定される培養観察装置11による観察ポイントの数(ROIの数)等に基づいて設定してもよい。
つまり、顕微鏡画像とは、異なる化学物質がそれぞれ異なる濃度で添加された細胞の位相差画像である。また、細胞に添加される物質には複数の種類があり、顕微鏡画像とは、物質の種類ごとに撮像された画像である。顕微鏡画像は、物質が細胞に添加されてから経過した時間に基づく複数の時刻において撮像される。
また、添加される化学物質の種類及び濃度がそれぞれ異なる培養容器19を用いなくてもよく、化学物質の類似性の判定において再現性が得られる(確認できる)ように、添加される化学物質の種類及び/又は濃度が同様の培養容器19を用いてもよい。また、なお、細胞に添加される物質は、異なる複数の種類や異なる複数の濃度の他、添加する条件を変化させて添加してもよい。
【0044】
この一例において、細胞とは、肺がん細胞、腎臓がん細胞、皮膚がん細胞、前立腺がん細胞、大腸がん、脳腫瘍のうち、いずれか1種類の細胞である。なお、本実施形態においては、細胞が1種類である場合の一例について説明するが、複数の種類の細胞が用いられて化学物質のスクリーニングが行われてもよい。複数の種類の細胞には、がん細胞だけでなく正常な細胞が含まれてもよい。
【0045】
また、この一例においては、化学物質とは、Paclitaxel、Etoposide、及び未知の化学物質Xの3種類の薬剤である。このPaclitaxelは、細胞の微小管に結合して、脱重合を阻害する。Etoposideは、細胞のDNAの複製を阻害する。化学物質Xは、化学物質のスクリーニングの対象である。つまり、この一例においては、未知の化学物質Xが、既知の化学物質であるPaclitaxelとEtoposideとのいずれと最も類似しているかが判定される。
また、この一例において、化学物質の8段階の濃度は、各化学物質の50%阻害濃度(IC50)が濃度の中央値になるようにして、かつ隣接する濃度間の濃度の比が約3倍になるようにして定められる。ここで50%阻害濃度(IC50)とは、化学物質が添加された細胞群の半数の働きが阻害される化学物質の濃度である。
【0046】
また、図6の例では、培養容器19のタイムラプス観察は、培養開始から8時間経過後を初回として、8時間おきに72時間目まで行う。そのため、図6の例において、1つの培養容器19の顕微鏡画像が、9枚分(8h、16h、24h、32h、40h、48h、56h、64h、及び72h)を1セットとして撮像される。つまり、顕微鏡画像は、化学物質が細胞に添加された後の複数の撮像時刻において撮像される。これら撮像された顕微鏡画像は、記憶部43に予め記憶されている。以下、撮像時刻とは、タイムラプス観察の各回において顕微鏡画像が撮像された時刻を意味する。
【0047】
ステップS201:CPU42は、予め用意された顕微鏡画像のデータを記憶部43から読み込む。この一例では、CPU42は、予め用意されている顕微鏡画像のすべてを処理対象として順次読み込む。
【0048】
ステップS202:CPU42は、ステップS201において読み込んだ顕微鏡画像のうちから、処理対象となる画像を指定する。この一例では、CPU42は、ステップS201において読み込んだ顕微鏡画像のすべてを処理対象として、1枚ずつ順次指定する。
【0049】
ステップS203:CPU42の特徴量算出部44は、ステップS202において指定した処理対象の顕微鏡画像について、画像内に含まれる細胞の画像を抽出する。例えば、位相差顕微鏡で細胞を撮像すると、細胞膜のように位相差の変化の大きな部位の周辺にはハロが現れる。そのため、特徴量算出部44は、細胞膜に対応するハロを公知のエッジ抽出手法で抽出するとともに、輪郭追跡処理によってエッジで囲まれた閉空間を細胞と推定する。これにより特徴量算出部44は、顕微鏡画像から個々の細胞の画像を抽出することができる。なお、特徴量算出部44が顕微鏡画像から個々の細胞の画像を抽出する方法は、上記のエッジ抽出手法を利用した方法以外の方法であってもよい。例えば、特徴量算出部44は、公知のコーナー検出法を利用して顕微鏡画像から個々の細胞の画像を抽出してもよい。
【0050】
ステップS204:特徴量算出部44は、ステップS203において抽出した各細胞の画像について、複数の特徴量をそれぞれ算出する。ここで複数の特徴量とは、異なる化学物質がそれぞれ異なる濃度で添加された細胞の顕微鏡画像に含まれる細胞の形状に関する複数の種類の特徴量である。細胞の形状に関する特徴量には、各細胞の形態についての特徴量、細胞群の集団としての形態についての特徴量、及び細胞群の集団としての形態についての特徴量の時間変化を示す特徴量が含まれる。
各細胞の形態についての特徴量の種類には、細胞の面積、長さ、幅、長さと幅との比率、周囲長などの約55種類の指標が含まれる。細胞群の集団としての形態についての特徴量には、細胞の分布の広がり、細胞の密集度などの約60種類の指標が含まれる。ここで細胞の分布の広がりとは、一例として、細胞の位置の分散である。各細胞の位置の分散は、一例として、顕微鏡画像の所定の方向の各細胞の位置に基づいて算出される。細胞群の集団としての形態についての特徴量の時間変化を示す特徴量には、細胞の分布の広がりの時間についての変化率、細胞の密集度の時間についての変化率などの約600種類の指標が含まれる。細胞群の集団としての形態についての特徴量の時間変化を示す特徴量は、細胞群の集団としての形態についての特徴量の時間変化を示す。ここで特徴量の時間変化とは、初回のタイムラプス観察における撮像時刻から、初回のタイムラプス観察より後の撮像時刻までの時間についての特徴量の時間変化である。
【0051】
ステップS205:CPU42は、ステップS204において特徴量算出部44が算出した各細胞の特徴量を、記憶部43に書き込む。このときCPU42は、特徴量と、この特徴量の種類、化学物質の種類、化学物質の濃度、及び撮像時刻とを関連付けて、記憶部43に特徴量を書き込む。
【0052】
ステップS206:CPU42は、ステップS201において記憶部43から読み出したすべての顕微鏡画像について、特徴量の算出が終了したか否かを判定する。CPU42は、すべての顕微鏡画像について、特徴量の算出が終了したと判定した場合(ステップS206;YES)には、処理をステップS207に進める。CPU42は、特徴量の算出が終了していないと判定した場合(ステップS206;NO)には、処理をステップS202に戻す。
【0053】
ステップS207:CPU42の座標算出部45は、ステップS205において記憶部43に書き込まれた特徴量に基づいて、細胞の形状に関する複数の特徴量それぞれを示す値の組により指定される点の特徴量空間における座標を算出する。ここで、特徴量空間とは、細胞の形状に関する複数の特徴量の種類毎に座標軸を定めた空間である。特徴量空間は、細胞の形状に関する複数の特徴量の種類毎に座標軸を定めた空間であるため、一般には高次元の空間となる。特徴量空間の次元の数は、細胞の形状に関する複数の特徴量の種類の数に等しい。
【0054】
細胞の形状に関する複数の特徴量それぞれを示す値の組により指定される点とは、各細胞の形態についての特徴量それぞれの代表値と、細胞群の集団としての形態についての特徴量を示すそれぞれの値と、細胞群の集団としての形態についての特徴量の時間変化を示す特徴量示すそれぞれの値との組により指定される点である。
【0055】
ここで座標算出部45は、座標を算出する際に、各細胞の形態についての特徴量については代表値を算出し、この代表値の座標を算出する。特徴量の代表値とは、一例として、各細胞の特徴量の平均値や中央値である。また、細胞群の集団としての形態についての特徴量の一つである細胞の分布の広がりには、各細胞の位置の分散が含まれる。
以下では、特徴量空間における細胞の形状に関する複数の特徴量それぞれを示す値の組により指定される点を、特徴量点と呼ぶ。また、特徴量点からなるグラフを単にグラフと呼ぶ。
【0056】
座標算出部45は、化学物質の種類、化学物質の濃度、及び撮像時刻が同じ顕微鏡画像ごとに、特徴量点の特徴量空間における座標を算出する。
ここで、化学物質の種類には、上述したようにPaclitaxel、Etoposide、及び化学物質Xの3種類がある。また、化学物質の濃度には、IC50が濃度の中央値になるようにして定められた8種類がある。また、算出対象の顕微鏡画像の撮像時刻には、8時間経過毎の時刻(8h、16h、24h、32h、40h、48h、56h、64h、及び72h)の9種類がある。
【0057】
座標算出部45は、特徴量点の座標を、記憶部43に記憶させる。ここで特徴量点の特徴量空間における座標を算出するステップS207の処理は、多変量解析の一例である。つまり、座標算出部45は、多変量解析により解析された結果を記憶部43に記憶させる。
【0058】
ステップS208:CPU42の座標算出部45は、ステップS207において特徴量空間における座標を算出した特徴量点について、主成分分析を行う。
座標算出部45は、公知の主成分分析により、各細胞から得られた高次元の特徴量を次元圧縮し、主成分の座標とする。
特徴量点は、視覚化のために2次元や3次元の空間などの低次元の空間に射影されてよい。ここで視覚化とは、例えば、特徴量点をグラフにして表示することである。本実施形態では、一例として、座標算出部45が特徴量点を、主成分分析の結果得られた軸PC1及び軸PC2を座標軸とする2次元平面に射影する場合について説明する。以下、主成分分析の結果得られた軸PC1及び軸PC2を座標軸とする2次元平面を、特徴量平面と呼ぶ。また、視覚化のために特徴量平面に射影された特徴量点を射影特徴量点と呼ぶ。
【0059】
図7は、主成分分析により処理された射影特徴量点の一例を示す図である。つまり、図7は、特徴量平面における射影特徴量点の一例を示す図である。この図7に示すグラフにおいて、軸PC1とは、特徴量空間において特徴量点のばらつきが最も大きくなる方向と平行な軸である。また、この図7に示すグラフにおいて、軸PC2とは、軸PC1に直交する方向のうち特徴量空間において特徴量点のばらつきが最も大きくなる方向と平行な軸である。図7には、ある細胞に3種類の化学物質、すなわち化学物質Ch1、化学物質Ch2、化学物質Ch3を添加した場合のグラフを示す。この一例では、化学物質Ch1とは、Paclitaxelであり、化学物質Ch2とは、Etoposideであり、化学物質Ch3とは、化学物質Xである。また、この図7に示すグラフにおいて、プロットP1-mは、化学物質Ch1が添加された細胞の射影特徴量点を示す。また、このプロットP1-mの添字mは、細胞に添加した化学物質の濃度を、低い方から高い方に順に示す。すなわち、プロットP1-1は、最も低い濃度の化学物質Ch1が添加された細胞の射影特徴量点を示す。また、プロットP1-8は、最も高い濃度の化学物質Ch1が添加された細胞の射影特徴量点を示す。
【0060】
本実施形態における特徴量には細胞群の集団としての形態についての特徴量の時間変化を示す特徴量が含まれているため、座標算出部45は、特徴量の時間変化を含めて特徴量の中から主成分の軸(軸PC1及び軸PC2)を決定している。これにより、座標算出部45は、時間変化を含めた特徴量の情報を損なうことなく、多くの種類の特徴量を2軸の指標に要約することができる。すなわち、座標算出部45によれば、化学物質を添加した後の細胞の形態変化を、その形態変化の特徴を際立たせつつ、視覚化することができる。
【0061】
図6に戻り、濃度軌跡算出部46による濃度軌跡の算出について説明する。
ステップS209:濃度軌跡算出部46は、座標算出部45が特徴量空間における座標を算出した特徴量点から、特徴量点の濃度軌跡を算出する。ここで濃度軌跡とは、特徴量点を、細胞に添加された化学物質の濃度の順に並べることにより得られる軌跡である。つまり、濃度軌跡算出部46は、特徴量算出部44が算出した特徴量点を、細胞に添加された物質の濃度の順に並べてできる軌跡を算出する。
【0062】
ここでは、濃度軌跡算出部46が、特徴量点が主成分分析により2次元平面に射影された特徴量点から濃度軌跡を算出する場合について説明する。濃度軌跡の具体例について図8を参照し説明する。図8は、本実施形態の濃度軌跡の一例を示す図である。
図8に示すように、濃度軌跡算出部46は、最も低い濃度の化学物質Ch1が添加された細胞のプロットP1-1から、最も高い濃度の化学物質Ch1が添加された細胞のプロットP1-8までを、順に並べることにより、特徴量点の軌跡を算出する。より具体的には、濃度軌跡算出部46は、プロットP1-1と、プロットP1-2とを線分L1によって接続する。また、濃度軌跡算出部46は、プロットP1-2と、プロットP1-3とを線分L2によって接続する。さらに、濃度軌跡算出部46は、プロットP1-3からプロットP1-8までを線分L3から線分L7によって順に接続する。
【0063】
ステップS210:表示部50は、ステップS208及びステップS209において作成された軌跡をグラフとして表示する。この一例においては、表示部50は、図8に示すグラフを表示する。
【0064】
なお、特徴量点を2次元や3次元の空間の低次元の空間に射影する処理や、軌跡をグラフとして表示する処理は視覚化のために行われる処理であり省略されてよい。つまり、ステップS208、ステップS209、及びステップS210の処理は省略されてもよい。 以降の処理においては、特徴量空間における特徴量点について処理が行われる。ただし、以降の処理は、特徴量平面などの低次元の空間に射影された射影特徴量点について行われてもよい。例えば、以降の処理は、図7において示した特徴量平面における射影特徴量点について行われてもよい。低次元の空間に射影された射影特徴量点について行われる場合であっても、低次元の空間に射影された射影特徴量点についての処理は、特徴量空間における特徴量点についての処理と同様である。
【0065】
≪変化領域の特定の例≫
ステップS211:変化領域判定部47は、形態変化領域を、細胞に添加された化学物質の濃度の変化に対する特徴量空間における特徴量点の変化の大きさに基づいて判定する。ここで形態変化領域とは、特徴量空間において、細胞に添加された化学物質の濃度の変化に対する特徴量点の変化の大きさが所定の値以上となる化学物質の濃度の範囲である。つまり、変化領域判定部47は、形態変化領域を、細胞に添加された化学物質の濃度の変化に対する特徴量の変化に基づいて判定する。
【0066】
ここで、特徴量点とは、特徴量空間における細胞の形状に関する複数の特徴量それぞれの代表値の組により指定される点であるから、特徴量点の変化は細胞の形態変化を示す。 また、細胞に添加された化学物質の濃度の変化に対する特徴量点の変化は、この化学物質の種類に応じて異なる。例えば、強い毒性をもつ化学物質が細胞に添加された場合、添加される化学物質の濃度を僅かに上げただけで細胞は死滅してしまい、その死滅への過程において化学物質の濃度の変化に対し特徴量は急激に変化する。特徴量が急激に変化した後(つまり、細胞が死滅した後)は、添加される化学物質の濃度を上げても細胞は死滅したままであり特徴量に変化はみられない。一方、細胞に作用する効果の小さい(例えば、毒性が弱い)化学物質が細胞に添加された場合、添加される化学物質の濃度をある程度まで上げないと特徴量に変化はみられない。
【0067】
本実施形態では、化学物質の濃度の範囲は、コントロール領域、形態変化領域、及び死細胞領域に分類される。
コントロール領域とは、細胞に添加される化学物質の濃度を最も低い濃度から上げたときに、化学物質の濃度に対する特徴量の変化が小さい濃度の範囲である。コントロール領域では、化学物質の細胞に作用する効果は小さい。細胞に作用する効果の小さい化学物質では、コントロール領域の範囲が大きくなる。
形態変化領域とは、細胞に添加される化学物質の濃度を上げていったときに、化学物質の濃度に対する特徴量の変化が大きくなる濃度の範囲である。形態変化領域では、化学物質の細胞に作用する効果は大きい。以下、形態変化領域に含まれる濃度を形態変化濃度ともいう。形態変化濃度は、細胞の形態が変化する濃度に対応する。
死細胞領域とは、細胞に添加される化学物質の濃度を上げていったときに、細胞が死滅し化学物質の濃度に対する特徴量の変化が小さくなる濃度の範囲である。死細胞領域では細胞が死滅しているため、特徴量は小さくなり、そのため化学物質の濃度に対する特徴量の変化も小さくなる。また、添加する細胞に対して強い毒性をもつ化学物質では、死細胞領域の範囲が大きくなる。
【0068】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、化学物質の濃度を、所定の濃度を単位として表す。例えば、濃度が1とは、所定の濃度の1倍の濃度であり、濃度が8とは、所定の濃度の8倍の濃度である。本実施形態では、細胞に添加される各化学物質の濃度の中で最も低い濃度は1であり、細胞に添加される各化学物質の濃度の中で最も高い濃度は8である。
【0069】
変化領域判定部47は、細胞に添加される化学物質の濃度の範囲の中からコントロール領域及び細胞死領域を判定し、判定したコントロール領域及び細胞死領域を除いた化学物質の濃度の範囲を形態変化領域であると判定する。ここでは一例として、変化領域判定部47は、形態変化領域を、細胞に添加された物質の濃度の変化に対する特徴量の変化に基づいて判定する。図9から図12を参照し、変化領域判定部47の形態変化領域の判定の方法について説明する。
【0070】
図9は、本実施形態に係る特徴量点のコントロール領域中心からの距離と化学物質濃度との関係の一例を示す図である。ここで特徴量点のコントロール領域中心からの距離とは、特徴量空間における距離である。この距離は、特徴量点の座標と、コントロール領域中心の座標とに基づいて変化領域判定部47により算出される。この距離の単位は無次元である。グラフCd1は、Etoposideについて特徴量点のコントロール領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係を示すグラフである。グラフCd2は、Paclitaxelについて特徴量点のコントロール領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係を示すグラフである。グラフCd3は、化学物質Xについて特徴量点のコントロール領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係を示すグラフである。
【0071】
コントロール領域を判定するために、変化領域判定部47は、まずコントロール領域の中心の座標を判定する。ここでコントロール領域の中心とは、一例として、細胞に添加される各化学物質の濃度の中で最も低い濃度に対する特徴量点間の重心である。例えば、コントロール領域の中心は、濃度が1のEtoposideに対する特徴量点と、濃度が1のPaclitaxelに対する特徴量点と、濃度が1の化学物質Xに対する特徴量点との重心である。
【0072】
変化領域判定部47は、特徴量空間において、各化学物質に対する特徴量点のコントロール領域の中心からの距離が、コントロール距離より小さい特徴量点を、特徴量点の座標と、コントロール領域の中心の座標に基づいて判定する。ここで、コントロール距離は、各化学物質に共通して予め決められた距離である。例えば、変化領域判定部47は、Etoposideに対する特徴量点のコントロール領域の中心からの距離が、コントロール距離より小さい特徴量点を判定する。例えば、変化領域判定部47は、Paclitaxelに対する特徴量点のコントロール領域の中心からの距離が、コントロール距離より小さい特徴量点を判定する。例えば、変化領域判定部47は、化学物質Xに対する特徴量点のコントロール領域の中心からの距離が、コントロール距離より小さい特徴量点を判定する。コントロール距離を示す情報は、記憶部43に記憶される。
なお、コントロール距離は、化学物質ごとに予め決められてもよい。
【0073】
なお、コントロール距離は、細胞に添加される各化学物質の最も低い濃度(1の濃度)に対する特徴量点の特徴量空間における座標に基づいて決められる距離が用いられてもよい。例えば、コントロール距離は、細胞に添加される各化学物質の最も低い濃度(1の濃度)に対する特徴量点とコントロール中心との距離それぞれが、コントロール距離以下となるように決定される。また、コントロール距離は、細胞の形態変化に則して決められる距離が用いられてもよい。コントロール距離として、細胞の形態変化に則して決められる距離が用いられる場合、コントロール距離を大きくすればするほど、コントロール領域に含まれる濃度に対する細胞の形態変化は大きくなる。
本実施形態において距離とは、一例として、ユークリッド距離やマハラビノス距離である。
【0074】
変化領域判定部47は、判定した特徴量点に対応する化学物質の濃度をコントロール領域に含まれる濃度であると判定する。変化領域判定部47は、判定した濃度に基づいてコントロール領域を判定する。
【0075】
変化領域判定部47は、グラフCd1から、Etoposideについて化学物質濃度が1及び2に対する特徴量点がコントロール領域の中心からの距離が、コントロール距離より小さいと特徴量点の座標と、コントロール領域の中心の座標に基づいて判定する。したがって、変化領域判定部47は、Etoposideのコントロール領域が濃度1及び2であると判定する。変化領域判定部47は、グラフCd2から、Paclitaxelについて化学物質濃度が1、2、3、4及び5に対する特徴量点がコントロール領域の中心からの距離が、コントロール半径より小さいと特徴量点の座標と、コントロール領域の中心の座標に基づいて判定する。したがって、変化領域判定部47は、Paclitaxelのコントロール領域が濃度1、2、3、4及び5であると判定する。変化領域判定部47は、グラフCd3から、化学物質Xについて化学物質濃度が1、2、3、4、5、6及び7に対する特徴量点のコントロール領域の中心からの距離が、コントロール半径より小さいと特徴量点の座標と、コントロール領域の中心の座標に基づいて判定する。したがって、変化領域判定部47は、化学物質Xのコントロール領域が濃度1、2、3、4、5、6及び7であると判定する。
【0076】
図10は、本実施形態に係る化学物質ごとの形態変化領域の開始濃度の一例を示す図である。形態変化領域の開始濃度とは、細胞の形状に関する複数の種類の特徴量が所定の量だけ変化し始めた化学物質の濃度である。ここで所定の量とは、コントロール距離に対応する化学物質の濃度の範囲において、細胞の形状に関する複数の種類の特徴量が変化する量である。例えば、形態変化領域の開始濃度とは、形態変化領域に含まれる濃度のうち最も低い濃度である。変化領域判定部47は、コントロール領域の中において最も高い化学物質濃度の次に高い濃度を形態変化領域の開始濃度であると判定する。例えば、変化領域判定部47は、Etoposideの形態変化領域開始濃度を3であると判定する。変化領域判定部47は、Cytochalasin Bの形態変化領域の開始濃度を7であると判定する。変化領域判定部47は、化学物質Xの形態変化領域の開始濃度を8であると判定する。
【0077】
このように、変化領域判定部47は、コントロール領域に基づいて形態変化領域の開始濃度を求める。ここでコントロール領域は、図9において説明したように、細胞に添加される化学物質の濃度の変化に対する特徴量の変化に基づいて求められる。したがって、変化領域判定部47は、細胞に添加される化学物質の濃度の変化に対する特徴量の変化に基づいて形態変化濃度を求める。さらに、図9において説明したように、形態変化濃度を求めることは、特徴量の変化量と閾値とを比較して形態変化濃度を求める。
【0078】
Etoposide、Doxorubicin、Latrunculin A、Vinblastine、及び17-AGGは、他の化学物質に比べて形態変化領域の開始濃度が低いことがわかる。5-Fluorouracil、Cytochalasin B、及びPaclitaxelは、Etoposide、Doxorubicin、Latrunculin A、Vinblastine、及び17-AGGに比べて形態変化領域の開始濃度が高いことがわかる。化学物質Xは、他の化学物質に比べて形態変化領域の開始濃度が高いことがわかる。
【0079】
図11は、本実施形態に係る特徴量点の死細胞領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係の一例を示す図である。ここで特徴量点の死細胞領域の中心からの距離とは、特徴量空間における距離である。この距離は、特徴量点の座標と、死細胞領域の中心の座標とに基づいて変化領域判定部47により算出される。グラフDd1は、Etoposideについて特徴量点の死細胞領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係を示すグラフである。グラフDd2は、Paclitaxelについて特徴量点の死細胞領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係を示すグラフである。グラフDd3は、化学物質Xについて特徴量点の死細胞領域の中心からの距離と化学物質濃度との関係を示すグラフである。
【0080】
変化領域判定部47は、特徴量空間において、各化学物質に対する特徴量点の死細胞領域の中心からの距離が、死細胞距離より小さい特徴量点を死細胞領域に含まれる特徴量点であると判定する。ここで死細胞領域の中心とは、例えば、細胞に添加される各化学物質の濃度の中で最も高い濃度に対する特徴量点間の重心である。死細胞領域の中心は、例えば、濃度が8のEtoposideに対する特徴量点と、濃度が8のPaclitaxelに対する特徴量点と、濃度が8の化学物質Xに対する特徴量点との重心である。死細胞距離とは、化学物質に共通して予め決められた距離である。例えば、変化領域判定部47は、Etoposideに対する特徴量点の死細胞領域の中心からの距離が、死細胞距離より小さい特徴量点を判定する。例えば、変化領域判定部47は、Paclitaxelに対する特徴量点の死細胞領域の中心からの距離が、死細胞距離より小さい特徴量点を判定する。例えば、変化領域判定部47は、化学物質Xに対する特徴量点の死細胞領域の中心からの距離が、死細胞距離より小さい特徴量点を判定する。死細胞距離を示す情報は、記憶部43に記憶される。
なお、死細胞距離は、化学物質ごとに予め決められてもよい。
【0081】
なお、死細胞距離は、細胞に添加される各化学物質の最も高い濃度(8の濃度)に対する特徴量点の特徴量空間における座標に基づいて決められる距離が用いられてもよい。また、死細胞距離は、細胞の形態変化に則して決められる距離が用いられてもよい。死細胞距離として、細胞の形態変化に則して決められる距離が用いられる場合、死細胞距離を大きくすればするほど、死細胞領域に含まれる濃度に対する細胞の形態変化は大きくなる。
【0082】
変化領域判定部47は、グラフDd1から、Etoposideについて化学物質濃度が7及び8に対する特徴量点が死細胞領域の中心からの距離が、死細胞距離より小さいと特徴量プロットの座標と、死細胞領域の中心の座標に基づいて判定する。したがって、変化領域判定部47は、Etoposideの死細胞領域が濃度7及び8であると判定する。変化領域判定部47は、グラフDd2から、Paclitaxelについて化学物質濃度が6、7及び8に対する特徴量点が死細胞領域の中心からの距離が、死細胞距離より小さいと特徴量点の座標と、死細胞領域の中心の座標に基づいて判定する。したがって、変化領域判定部47は、Paclitaxelの死細胞領域が濃度6、7及び8であると判定する。変化領域判定部47は、グラフDd3から、化学物質Xについて特徴量点が死細胞領域の中心からの距離が、死細胞距離より小さい化学物質濃度はないと特徴量点の座標と、死細胞領域の中心の座標に基づいて判定する。したがって、変化領域判定部47は、化学物質Xの死細胞領域はないと判定する。
【0083】
図12は、本実施形態に係る化学物質ごとの死細胞領域の一例を示す図である。変化領域判定部47は、各化学物質について、形態変化領域の開始濃度より高い濃度の範囲から死細胞領域を除いた濃度の範囲を形態変化領域と判定する。つまり、変化領域判定部47は、形態変化領域の開始濃度より高い濃度の範囲から、細胞の形状に関する複数の種類の特徴量の変化が所定の量以下となる濃度の範囲を除いた範囲を形態変化領域と判定する。例えば、変化領域判定部47は、Etoposideについて、形態変化領域の開始濃度3より高い濃度の範囲から死細胞領域である濃度7及び8の範囲を除いた領域を形態変化領域と判定する。例えば、変化領域判定部47は、Paclitaxelについて、形態変化領域の開始濃度である濃度6より高い濃度の範囲から死細胞領域である濃度6、7及び8の濃度の範囲を除くと濃度の範囲は残らないため、形態変化領域は存在しないと判定する。変化領域判定部47は、化学物質Xについて、死細胞領域は存在しないため、形態変化領域の開始濃度より高い濃度の範囲である8の濃度の範囲を形態変化領域と判定する。
【0084】
このように、形態変化濃度は、細胞の形態が変化してから細胞が細胞死するまでの濃度を含む。
また、このように、変化領域判定部47は、死細胞領域に基づいて形態変化領域を求める。ここで死細胞領域は、図11において説明したように、細胞に添加される化学物質の濃度の変化に対する特徴量の変化に基づいて求められる。したがって、変化領域判定部47は、細胞に添加される化学物質の濃度の変化に対する特徴量の変化に基づいて形態変化濃度を求める。さらに、図9において説明したように、形態変化濃度を求めることは、特徴量の変化量と閾値とを比較して形態変化濃度を求める。
【0085】
再び、図6に戻り化学物質のスクリーニングの動作の説明を続ける。
ステップS212:類似性判定部48は、ステップS211において変化領域判定部47により判定された形態変化領域を、細胞に添加された化学物質の間において比較することにより、化学物質同士の類似性を判定する。つまり、類似性判定部48は、異なる特徴量の内、細胞の形態が変化する形態変化濃度に対応する特徴量を異なる化学物質同士で比較して、化学物質同士の類似性を判定する。したがって、類似性判定部48は、ステップS207及びステップS211の多変量解析により解析された結果が示す濃度の変化に対する特徴量の変化に基づいて化学物質同士の類似性を判定する。つまり、類似性判定部48は、複数の特徴量が多変量解析により解析された結果に基づいて化学物質同士の類似性を判定する。
【0086】
ここで化学物質同士の類似性とは、化学物質が細胞に添加されたときに、化学物質が変化させる細胞の形状の特徴量の種類や変化の大きさが、化学物質同士において類似していることである。本実施形態において化学物質同士の類似性を判定することで、化学物質同士の作用機序などの性質の類似性を判定できる。すなわち、既知の化学物質に対する未知の化学物質の作用機序などの性質の類似性が判定できるため、効率的に化学物質のスクリーニングを行うことができる。
【0087】
ここで図13を参照し図12におけるステップS212において類似性判定部48が化学物質同士の類似性を判定する処理の詳細について説明する。
図13は、本実施形態に係る制御装置による化学物質同士の特徴量空間における特徴量点間の比較の動作の一例を示すフローチャートである。
【0088】
ステップS301:類似性判定部48は、類似性を判定する対象の化学物質の特徴量空間における特徴量点について、一方の形態変化領域に含まれる特徴量点のそれぞれについて、他方の形態変化領域に含まれる特徴量点のうち最も近い距離にある特徴量点を特徴量点の座標に基づいて探索する。
【0089】
ここでステップS301の類似性判定部48の動作について図14を参照し説明する。 図14は、本実施形態に係る制御装置による化学物質同士の特徴量空間における特徴量点間の比較の方法の一例を示す図である。類似性判定部48の処理は高次元の特徴量空間における特徴量点について行われる。ただし、図14では、視覚化のために主成分分析の結果得られた特徴量平面に、化学物質A、化学物質B、及び化学物質Xについての射影特徴量点が示されている。つまり、図14に示す特徴量平面は、特徴量空間のある平面が抜き出された平面であり、図14に示す射影特徴量点は、特徴量空間における特徴量点がこの平面に射影された点である。
【0090】
図14に示す例では、類似性判定部48は、化学物質Xについて、化学物質Aとの類似性、及び化学物質Bとの類似性を判定する。
化学物質Aについての形態変化領域ChAは、プロットPA-1~プロットPA-5からなる。化学物質Bについての形態変化領域ChBは、プロットPB-1~プロットPB-5からなる。化学物質Xについての形態変化領域ChXは、プロットPX-1~プロットPX-3からなる。
【0091】
類似性判定部48は、形態変化領域ChXに含まれるプロットPX-1からの距離が最も近い特徴量点を、形態変化領域ChAに含まれるプロットPA-1~プロットPA-5の中から探索する。類似性判定部48は、プロットPX-1からの距離が距離d1であるプロットPA-3を、プロットPX-1からの距離が最も近い特徴量点であると特徴量点の座標に基づいて判定する。同様に、類似性判定部48は、プロットPX-2からの距離が距離d2であるプロットPA-4を、プロットPX-2からの距離が最も近い特徴量点であると特徴量点の座標に基づいて判定する。類似性判定部48は、プロットPX-3からの距離が距離d3であるプロットPA-5を、プロットPX-3からの距離が最も近い特徴量点であると特徴量点の座標に基づいて判定する。
ただし、形態変化領域に含まれる特徴量点に対応する化学物質の濃度と、この特徴量点からの距離が最も近いと判定される特徴量点に対応する化学物質の濃度とは同じであるとは限らない。例えば、プロットPX-1に対応する化学物質の濃度と、プロットPA-3に対応する化学物質の濃度とは同じであるとは限らない。
【0092】
類似性判定部48は、形態変化領域ChXに含まれるプロットPX-1からの距離が最も近い特徴量点を、形態変化領域ChBに含まれるプロットPB-1~プロットPB-5の中から探索する。類似性判定部48は、プロットPX-1からの距離が距離d4であるプロットPB-2を、プロットPX-1からの距離が最も近い特徴量点であると特徴量点の座標に基づいて判定する。同様に、類似性判定部48は、プロットPX-2からの距離が距離d5であるプロットPB-3を、プロットPX-2からの距離が最も近い特徴量点であると特徴量点の座標に基づいて判定する。類似性判定部48は、プロットPX-3からの距離が距離d6であるプロットPB-3を、プロットPX-3からの距離が最も近い特徴量点であると特徴量点の座標に基づいて判定する。
【0093】
図13に戻り、制御装置による化学物質同士の特徴量平面における特徴量点間の比較の動作の説明を続ける。
ステップS302:類似性判定部48は、化学物質Xの形態変化領域の特徴量点と、ステップS301において判定した化学物質Aの形態変化領域の最も近い特徴量点とのそれぞれの距離の平均を特徴量点の座標に基づいて算出する。類似性判定部48は、例えば、形態変化領域ChXと形態変化領域ChAとに対して、距離d1、距離d2、及び距離d3の3つの距離の平均を特徴量点の座標に基づいて算出する。
一方、類似性判定部48は、化学物質Xの形態変化領域の特徴量点と、ステップS301において判定した化学物質Bの形態変化領域の最も近い特徴量点とのそれぞれの距離の平均を特徴量点の座標に基づいて算出する。類似性判定部48は、例えば、形態変化領域ChXと形態変化領域ChBとに対して、距離d4、距離d5、及び距離d6の3つの距離の平均を特徴量点の座標に基づいて算出する。
【0094】
ステップS303:類似性判定部48は、類似性の判定対象である化学物質のなかから、未知の化学物質Xに最も類似する既知の化学物質を判定する。類似性判定部48は、ステップS302において算出した形態変化領域の特徴量点間の距離の平均が最も小さい化学物質を、未知の化学物質Xに最も類似する既知の化学物質であると判定する。
図14に示す例においては、類似性判定部48は、形態変化領域ChAをもつ化学物質Aを、化学物質Xに最も類似する既知の化学物質であると判定する。
【0095】
制御装置41は、判定結果に基づいて、細胞に生じさせる形態変化について、未知の化学物質Xを分類することができる。
なお、本実施形態では、制御装置41は、未知の化学物質Xと既知の化学物質との類似性を判定する場合について説明したが、これに限らない。制御装置41は、既知の化学物質間において類似性を判定してもよい。
【0096】
≪まとめ≫
以上説明したように、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法は、異なる化学物質がそれぞれ異なる濃度で添加された細胞の顕微鏡画像に含まれる細胞の形状に関する複数の特徴量に基づいて、異なる化学物質同士の類似性を判定することと、判定した結果を出力することとを有する。
この構成により、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、細胞の形状に関する複数の特徴量に基づいて異なる化学物質同士の類似性を判定できるため、化学物質のスクリーニングにおけるコストと時間を削減することができる。 本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、化学物質同士の類似性を判定することで、化学物質同士の作用機序などの性質の類似性を判定できる。すなわち、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、既知の化学物質に対する未知の化学物質の作用機序などの性質の類似性が判定できるため、効率的に化学物質のスクリーニングを行うことができる。
【0097】
また、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、複数の特徴量が多変量解析により解析された結果に基づいて化学物質同士の類似性を判定する。
この構成により、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、複数の特徴量が多変量解析により解析された結果に基づいて化学物質同士の類似性を判定することができるため、多変量解析により解析された結果に基づいて化学物質同士の類似性を判定しない場合に比べて化学物質のスクリーニングの精度を高くすることができる。
【0098】
また、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、異なる化学物質同士の類似性を判定することは、異なる特徴量の内、細胞の形態が変化する形態変化濃度に対応する特徴量を異なる化学物質同士で比較して、異なる化学物質同士の類似性を判定する。
この構成により、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、化学物質が細胞に生じさせる形態変化が大きい化学物質の濃度の範囲に限定して化学物質同士の類似性を判定できるため、化学物質が細胞に生じさせる形態変化が大きい化学物質の濃度の範囲に限定せずに化学物質同士の類似性を判定する場合に比べて、化学物質のスクリーニングにおけるコストと時間を削減することができる。
【0099】
また、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、細胞に添加される化学物質の濃度の変化に対する特徴量の変化に基づいて形態変化濃度を求めることを有する。
この構成により、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、細胞の形態の変化が開始される濃度より高い濃度の範囲に限定して化学物質同士の類似性を判定できるため、細胞の形態の変化が開始される濃度より高い濃度の範囲に限定しない場合に比べ、化学物質のスクリーニングにおけるコストと時間を削減することができる。
【0100】
また、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、形態変化濃度は、細胞の形態が変化してから細胞が細胞死するまでの濃度を含む。
この構成により、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、細胞の細胞死を生じさせる濃度より低い濃度の範囲に限定して化学物質同士の類似性を判定できるため、細胞の細胞死を生じさせる濃度より低い濃度の範囲に限定しない場合に比べ、化学物質のスクリーニングにおけるコストと時間を削減することができる。
【0101】
本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、形態変化濃度を求めることは、特徴量の変化量と閾値とを比較して形態変化濃度を求める。
この構成により、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、形態変化濃度は特徴量の変化量と閾値とを比較して求められるため、形態変化濃度を簡便に求めることができる。
【0102】
また、本実施形態の制御装置41が提供する化学物質のスクリーニング方法では、異なる化学物質は、既知の化学物質と、未知の化学物質とが含まれ、既知の化学物質と、未知の化学物質との類似性を判定する。
この構成により、既知の化学物質と、未知の化学物質との類似性を判定できるため、未知の化学物質が既知の化学物質のいずれと類似しているかを判定することができる。
【0103】
なお、制御装置41は、ステップS207及びステップS211での複数の特徴量を多変量解析により解析する処理を行う代わりに、ステップS207及びステップS211での複数の特徴量を多変量解析により解析する処理を外部装置に行わせてもよい。ここで外部装置とは、制御装置41の外部に設けられた装置である。この外部装置は、制御装置41とは別に下部ケーシング13に設けられてもよいし、培養観察装置11とは独立して設けられてもよい。この外部装置は、多変量解析の演算処理を実行するプロセッサ、及び多変量解析の解析結果を記憶する記憶部を備える。
【0104】
制御装置41がステップS207及びステップS211での複数の特徴量を多変量解析により解析する処理を外部装置に行わせる場合、ステップS205においてCPU42は、ステップS204において特徴量算出部44が算出した各細胞の特徴量を、外部装置に供給する。ステップS212では、CPU42は、外部装置が行った複数の特徴量を多変量解析により解析する処理の結果を取得し、類似性判定部48に供給する。類似性判定部48は、外部装置が行った複数の特徴量を多変量解析により解析する処理の結果に基づいて、異なる化学物質同士の類似性を判定する。
【0105】
また、制御装置41は、ステップS201からステップS205までの、顕微鏡画像に含まれる細胞の形状に関する複数の特徴量を算出し記憶させる処理を、外部装置に行わせてもよい。この外部装置は、上述の外部装置と同じ装置であってもよいし、上述の外部装置とは別の装置であってもよい。制御装置41がステップS201からステップS205までの処理を外部装置に行わせる場合、制御装置41は、外部装置が算出した複数の特徴量を取得し、ステップS206以降の処理を行う。
【0106】
表示部50は、類似性判定部48が判定した異なる化学物質同士の類似性の判定結果を表示する。つまり、本実施形態の化学物質のスクリーニング方法は、判定した結果を出力することとを有する。
【0107】
なお、本実施形態においては、ステップS211において変化領域判定部47が形態変化領域を判定する際に、コントロール領域及び細胞死領域を判定する場合について説明したが、これに限らない。コントロール領域を示す情報、及び細胞死領域を示す情報が、予め記憶部43に記憶されていてもよい。コントロール領域を示す情報、及び細胞死領域を示す情報が予め記憶部43に記憶されている場合、変化領域判定部47は、記憶部43からコントロール領域を示す情報、及び細胞死領域を示す情報を取得し、取得したコントロール領域を示す情報が示すコントロール領域、及び取得した細胞死領域を示す情報が示す細胞死領域を除いた化学物質の濃度の範囲を形態変化領域であると判定してよい。
【0108】
また、本実施形態においては、ステップS211において変化領域判定部47は、形態変化領域を判定するために、コントロール領域、細胞死領域、及び形態変化領域の開始濃度を判定したが、これに限らない。ステップS211において変化領域判定部47は、形態変化領域を判定する代わりに、コントロール領域、細胞死領域、及び形態変化領域の開始濃度のうち少なくも1つを判定してもよい。つまり、変化領域判定部47は、多変量解析により解析された結果に基づいて、細胞の形態の変化が開始される濃度を判定してもよい。また、変化領域判定部47は、多変量解析により解析された結果に基づいて、前細胞の細胞死を生じさせる濃度を判定してもよい。
【0109】
また、変化領域判定部47は、コントロール領域及び細胞死領域を求めずに、形態変化領域を求めてもよい。例えば、変化領域判定部47は、距離の上限と下限に含まれる濃度を形態変化領域と判定してもよい。変化領域判定部47は、多変量解析により解析された結果に基づいて、細胞の形態の変化が開始される濃度、及び細胞の形態の変化が終了する濃度を判定してもよい。変化領域判定部47は、判定した細胞の形態の変化が開始される濃度から細胞の形態の変化が終了する濃度の範囲を、形態変化領域と判定してよい。
【0110】
ステップS211において変化領域判定部47が、コントロール領域、細胞死領域、及び形態変化領域の開始濃度のうち少なくも1つを判定する場合、ステップS212において類似性判定部48は、コントロール領域、細胞死領域、及び形態変化領域の開始濃度のうち少なくも1つに基づいて、化学物質の濃度の範囲を限定し、化学物質同士の類似性を判定してもよい。
【0111】
例えば、類似性判定部48は、コントロール領域を除いた化学物質の濃度の範囲を、細胞に添加された化学物質の間において比較することにより、化学物質同士の類似性を判定してよい。別の一例では、類似性判定部48は、細胞死領域を除いた化学物質の濃度の範囲を、細胞に添加された化学物質の間において比較することにより、化学物質同士の類似性を判定してよい。また、別の一例では、類似性判定部48は、形態変化領域の開始濃度より高い化学物質の濃度の範囲を、細胞に添加された化学物質の間において比較することにより、化学物質同士の類似性を判定してよい。また、類似性判定部48は、コントロール領域において化学物質同士の類似性を判定してもよい。類似性判定部48は、細胞死領域において化学物質同士の類似性を判定してもよい。
【0112】
なお、上記の実施形態においては、コントロール領域は、細胞に添加される各化学物質の最も低い濃度に対する特徴量点間の重心からの所定の距離に基づいて判定され、死細胞領域は、細胞に添加される各化学物質の最も高い濃度に対する特徴量点間の重心からの所定の距離に基づいて判定される場合について説明したが、コントロール領域や死細胞領域は、予め取得された既知の化学物質のデータを用いて決定されてもよい。
【0113】
なお、上記の実施形態においては、既知の化学物質がPaclitaxel及びEtoposideである場合について説明したが、これに限らない。既知の化学物質は、存在するいずれの化学物質であってもよい。例えば、既知の化学物質は、PD-180970や、図10及び図12において示したDoxorubicin、5-Fluorouracil、Cytochalasin B、Latrunculin A、Vinblastine、及び17-AAGであってもよい。
【0114】
また、上記の実施形態においては、既知の化学物質が2種類である場合について説明したが、これに限らない。上記の実施形態における化学物質のスクリーニングにおいて、1種類、または3種類以上の既知の化学物質が用いられてもよい。
【0115】
また、上記の実施形態においては、コントロール領域を判定する際に、コントロール領域の中心が、細胞に添加される各化学物質の濃度の中で最も低い濃度に対する特徴量点間の重心である場合について説明したが、これに限らない。コントロール領域の中心は、細胞の形態の変化に基づいて決定されてもよい。つまり、コントロール領域の中心は、特徴量の変化に基づいて決定されてもよい。
【0116】
また、上記の実施形態においては、死細胞領域を判定する際に、死細胞領域の中心が、一例として、細胞に添加される各化学物質の濃度の中で最も高い濃度に対する特徴量点間の重心である場合について説明したが、これに限らない。死細胞領域の中心は、例えば、生細胞に対する死細胞の割合に基づいて決定されてもよい。ここで死細胞領域の中心が生細胞に対する死細胞の割合に基づいて決定される場合、死細胞領域の中心は、生細胞に対する死細胞の割合が所定の割合以上となる化学物質の濃度に対する特徴量点に基づいて決定される。
【0117】
また、上記の実施形態においては、一例として、形態変化領域において異なる化学物質同士の類似性を判定する場合について説明したが、これに限らない。例えば、添加した化学物質の全濃度範囲において類似性を判定してもよい。また、添加した化学物質の一部の濃度範囲において類似性を判定してもよい。
【0118】
(第2実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について詳しく説明する。
上記第1の実施形態では、制御装置が、細胞に生じさせる形態変化が大きい化学物質の濃度を判定してから化学物質同士の類似性について判定する場合について説明した。本実施形態では、制御装置は、50%阻害濃度(IC50)の化学物質が添加された場合の細胞の形態の時間変化に基づいて、化学物質同士の類似性について判定する場合について説明する。
本実施形態において用いられる培養観察装置を培養観察装置11aという。
【0119】
図15は、本実施形態に用いられる培養観察装置11aの概要を示すブロック図である。本実施形態に係る培養観察装置11a(図15)と第1の実施形態に係る培養観察装置11(図1)とを比較すると、制御装置41aが異なる。しかし、他の構成要素(上部ケーシング12、下部ケーシング13、観察ユニット22、及び表示部50)が持つ機能は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同じ機能の説明は省略し、第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0120】
制御装置41aは、CPU42aおよび記憶部43を有している。CPU42aは、制御装置41aの各種の演算処理を実行するプロセッサである。CPU42aは、一例としてLSI(Large Scale Integration)などの集積回路で構成される。なお、CPU42aの一部、または全部を、ソフトウェアとして構成してもよい。つまり、CPU42aは、ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせて構成されてもよい。また、CPU42は、プログラムの実行によって、特徴量算出部44a、座標算出部45a、時間軌跡算出部46a、時間軌跡定量化部47a、及び類似化学物質判定部48aとしてそれぞれ機能する。
【0121】
≪化学物質のスクリーニングの動作の例≫
以下、図16のフローチャートを参照しつつ、化学物質のスクリーニングの動作の一例を説明する。図16は、本実施形態に用いられる制御装置41aによる既知の化学物質の解析及び未知の化学物質の解析の動作の一例を示すフローチャートである。
【0122】
ステップS401:制御装置41aは、既知の化学物質の解析を行う。ここでステップS401の処理は、図6のステップS201からステップS209までの処理と同様の処理を経た後に行われる。特徴量算出部44aは、抽出した各細胞の画像について、特徴量をそれぞれ算出する。特徴量算出部44aは、細胞が撮像された経過時間に対応する顕微鏡画像ごと特徴量を算出する。特徴量算出部44aが算出する特徴量の種類には、各細胞の形態についての特徴量、細胞群の集団としての形態についての特徴量が含まれる。
各細胞の形態についての特徴量の種類には、細胞の面積、長さ、幅、長さと幅との比率、周囲長などの約55種類の指標が含まれる。細胞群の集団としての形態についての特徴量には、細胞の分布の広がり、細胞の密集度などの約60種類の指標が含まれる。
【0123】
座標算出部45aは、特徴量算出部44aが算出した特徴量に関連付けられている、特徴量の種類、化学物質の種類、化学物質の濃度、及び算出対象の顕微鏡画像の撮像時刻ごとに、特徴量空間における特徴量点の座標を算出する。
【0124】
ここで時間軌跡算出部46aは、座標算出部45aが座標を算出した特徴量点から、特徴量点の時間軌跡及び濃度軌跡を算出してもよい。ここで時間軌跡とは、特徴量空間内の特徴量点について、細胞に添加された化学物質の濃度ごとの特徴量点同士を、顕微鏡画像の撮像時刻の順に線分または曲線を用いて接続して得られる軌跡である。つまり、時間軌跡算出部46aは、特徴量算出部44aが算出した特徴量点を、細胞が撮像された経過時間の順に並べてできる軌跡である時間軌跡を算出する。また、濃度軌跡とは、特徴量空間内の特徴量点について、顕微鏡画像の撮像時刻ごとの特徴量点同士を、細胞に添加された化学物質の濃度の順に線分または曲線を用いて接続して得られる軌跡である。
【0125】
ここで図17を参照し、濃度軌跡及び時間軌跡の具体例について説明する。濃度軌跡及び時間軌跡は、高次元の特徴量空間において算出される。ただし、図17では、視覚化のために、高次元の特徴量空間における特徴量点が、主成分分析により特徴量平面における射影特徴量点に射影された一例について示している。後述する図18図19、及び図21においても同様に、高次元の特徴量空間における特徴量点が、主成分分析により特徴量平面における射影特徴量点に射影された一例について示している。
また、図17図18図19、及び図21においては、時間軌跡算出部46aが特徴量点の時間軌跡及び濃度軌跡を算出する場合の一例について示しているが、時間軌跡算出部46aは時間軌跡及び濃度軌跡を算出しなくてもよい。つまり、図17図18図19、及び図21において、特徴量点同士は、線分または曲線を用いて接続されなくてもよい。
【0126】
図17は、本実施形態に係る高濃度側の濃度軌跡及び50%阻害濃度における時間軌跡の一例を示す図である。図17には、ある細胞に50%阻害濃度(IC50)の1種類の化学物質が添加された場合の時間軌跡が示されている。この時間軌跡は、主成分分析の結果得られた軸PC1及び軸PC2を座標軸とする2次元平面(特徴量平面)に示されている。この時間軌跡は、プロットIC50-tからなる。ただし、プロットIC50-tの添字tは、顕微鏡画像の撮像時刻を、時間の順に示す。すなわち、プロットIC50-1は、最も古い撮像時刻に対する50%阻害濃度(IC50)の濃度に対応する射影特徴量点を示す。また、プロットIC50-5は、最も新しい撮像時刻に対する50%阻害濃度(IC50)の濃度に対応する射影特徴量点を示す。
【0127】
図17には、50%阻害濃度(IC50)の濃度よりも高い濃度に対応する射影特徴量点である高濃度プロットPH1~高濃度プロットPH3が示されている。高濃度プロットPH1~高濃度プロットPH3に対応する顕微鏡画像の撮像時刻は、プロットIC50-3に対応する顕微鏡画像の撮像時刻と同じ撮像時刻である。高濃度プロットPH1~高濃度プロットPH3は、高濃度プロットPH1、高濃度プロットPH2、高濃度プロットPH3の順に、対応する化学物質の濃度は高くなる。
高濃度プロットPH1~高濃度プロットPH3に対しても、プロットIC50-3と同様に、プロットIC50-1、プロットIC50-2、プロットIC50-4、及びプロットIC50-5に対応する顕微鏡画像の撮像時刻に対応する時間軌跡(高濃度プロットPH1―t~高濃度プロットPH3―t)が算出される。
プロットIC50-3、高濃度プロットPH1、高濃度プロットPH2、及び高濃度プロットPH3は、高濃度側線分LH1~高濃度側線分LH3により接続され濃度軌跡を構成する。
【0128】
図18は、本実施形態に係る低濃度側の濃度軌跡及び50%阻害濃度における時間軌跡の一例を示す図である。図18には、図17において示した時間軌跡(プロットIC50-t)に加え、50%阻害濃度(IC50)の濃度よりも低い濃度に対応するプロットである低濃度プロットPL1~低濃度プロットPL3が示されている。低濃度プロットPL1~低濃度プロットPL3は、主成分分析の結果得られた軸PC1及び軸PC2を座標軸とする2次元平面(特徴量平面)に示されている。低濃度プロットPL1~低濃度プロットPL3に対応する顕微鏡画像の撮像時刻は、プロットIC50-3に対応する顕微鏡画像の撮像時刻と同じ撮像時刻である。低濃度プロットPL1~低濃度プロットPL3は、低濃度プロットPL1、低濃度プロットPL2、低濃度プロットPL3の順に、対応する化学物質の濃度は低くなる。
低濃度プロットPL1~低濃度プロットPL3に対しても、プロットIC50-3と同様に、プロットIC50-1、プロットIC50-2、プロットIC50-4、及びプロットIC50-5に対応する顕微鏡画像の撮像時刻に対応する時間軌跡(低濃度プロットPL1―t~低濃度プロットPL3―t)が算出される。
プロットIC50-3、低濃度プロットPL1、低濃度プロットPL2、及び低濃度プロットPL3は、低濃度側線分LL1~低濃度側線分LL3により接続され濃度軌跡を構成する。
【0129】
図16に戻って化学物質のスクリーニングの動作の一例の説明を続ける。
ステップS402:時間軌跡定量化部47aは、座標算出部45aが算出した特徴量空間における特徴量点について、細胞に添加された化学物質の濃度ごとの特徴量点の定量化を行う。また、時間軌跡定量化部47aは、座標算出部45aが算出した特徴量空間における特徴量点について、顕微鏡画像の撮像時刻ごとの特徴量点の定量化を行う。ここで、細胞に添加された化学物質の濃度ごとの特徴量点の定量化とは、一例として、50%阻害濃度における特徴量点間の距離の算出である。顕微鏡画像の撮像時刻ごとの特徴量点の定量化とは、一例として、50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和の算出、及び50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和の算出である。50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和、及び50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和の算出は、それぞれ顕微鏡画像の撮像時刻ごとに算出される。特徴量点間の距離とは、一例として、ユークリッド距離やマハラビノス距離である。
【0130】
図19は、本実施形態に係る第1の化学物質の50%阻害濃度における時間軌跡の一例を示す図である。この時間軌跡は、主成分分析の結果得られた軸PC1及び軸PC2を座標軸とする2次元平面(特徴量平面)に示されている。第1の化学物質とは、一例として、Paclitaxelである。第1の化学物質の50%阻害濃度における時間軌跡は、プロットPT1~プロットPT5の5つの特徴量点からなる。
【0131】
図20は、本実施形態に係る第1の化学物質の低濃度側の特徴量点間の距離の和と高濃度側の特徴量点間の距離の和との時間変化の一例を示す図である。図20では、低濃度側の線分の和と高濃度側の線分の和とが撮像時刻に対して示されている。時間軌跡定量化部47aは、低濃度側線分和SL1及び高濃度側線分和SH1を、5つの時刻t1~時刻t5ごとに算出する。
【0132】
図21は、本実施形態に係る第2の化学物質の50%阻害濃度における時間軌跡の一例を示す図である。図21では、時間軌跡が主成分分析の結果得られた軸PC1及び軸PC2を座標軸とする2次元平面(特徴量平面)に示されている。第2の化学物質とは、一例として、Etoposideである。第2の化学物質の50%阻害濃度における時間軌跡は、プロットET1~プロットET5の5つのプロットからなる。
【0133】
図22は、本実施形態に係る第2の化学物質の低濃度側の特徴量点間の距離の和と高濃度側の特徴量点間の距離の和との時間変化の一例を示す図である。図22では、低濃度側の特徴量点間の距離の和と高濃度側の特徴量点間の距離の和とが撮像時刻に対して示されている。時間軌跡定量化部47aは、低濃度側線分和SL2及び高濃度側線分和SH2を、5つの時刻t1~時刻t5ごとに算出する。
【0134】
図16に戻って化学物質のスクリーニングの動作の一例の説明を続ける。
ステップS403:時間軌跡定量化部47aは、ステップS402において算出した定量化されたデータをデータベースに登録する。ステップS402において算出した定量化されたデータとは、50%阻害濃度における特徴量点間の距離の和、50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和、及び50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和である。データベースとは、例えば、記憶部43である。
【0135】
ステップS404:制御装置41aは、ステップS401において既知の化学物質に対して行ったのと同様に、未知の化学物質の解析を行う。具体的には、制御装置41aは、未知の化学物質について、特徴量の分布に基づいて特徴量空間に特徴量点をプロットする。また制御装置41は、解析結果から得られる時間軌跡及び濃度軌跡の算出を行ってもよい。
ステップS405:時間軌跡定量化部47aは、ステップS402において既知の化学物質に対して行ったのと同様に、未知の化学物質について座標算出部45aが算出した特徴量空間における特徴量点について、細胞に添加された化学物質の濃度ごとの特徴量点の定量化を行う。
【0136】
ステップS406:類似化学物質判定部48aは、未知の化学物質が既知の化学物質のいずれと最も類似しているかについての判定を行う。本実施形態では、類似化学物質判定部48aは、未知の化学物質が、既知の化学物質である第1の化学物質(Paclitaxel)と、既知の化学物質である第2の化学物質(Etoposide)とのいずれと最も類似しているかについての判定を行う。つまり、本実施形態の化学物質のスクリーニング方法では、異なる化学物質は、既知の化学物質と、未知の化学物質とが含まれ、既知の化学物質と、未知の化学物質との類似性を判定する。類似化学物質判定部48aの未知の化学物質の判定の動作の詳細は、図23のフローチャートにおいて説明する。
【0137】
図23は、本実施形態に係る制御装置41aによる未知の化学物質の判定の動作の一例を示すフローチャートである。
ステップS61:類似化学物質判定部48aは、ステップS405において算出した未知の化学物質の定量化されたデータと、ステップS403においてデータベースに登録された既知の化学物質の定量化されたデータとを比較する。類似化学物質判定部48aは、3つの指標を算出することにより比較を行う。ここで3つの指標とは、IC50距離、低濃度側差分、及び高濃度側差分である。
【0138】
IC50距離とは、特徴量空間において、未知の化学物質に対する50%阻害濃度における特徴量点と、既知の化学物質に対する50%阻害濃度における特徴量点との距離を、顕微鏡画像の撮像時刻が同じ特徴量点間において算出したものである。
低濃度側差分PDLとは、未知の化学物質に対する50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和と、既知の化学物質に対する50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和との差分が顕微鏡画像の各撮像時刻ごとにおいて算出されたものである。
高濃度側差分PDHとは、未知の化学物質に対する50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和と、既知の化学物質に対する50%阻害濃度より濃度軌跡の高濃度側の特徴量点間の距離の和との差分が顕微鏡画像の各撮像時刻ごとにおいて算出されたものである。
【0139】
図24は、本実施形態に係る未知の化学物質と第1の化学物質との比較の一例を示す図である。図24では、IC50距離PDI、低濃度側差分PDL、及び高濃度側差分PDHが撮像時刻に対して示されている。類似化学物質判定部48aは、IC50距離PDI、低濃度側差分PDL、及び高濃度側差分PDHを算出する。
【0140】
図25は、本実施形態に係る未知の化学物質と第2の化学物質との比較の一例を示す図である。図25では、IC50距離EDI、低濃度側差分EDL、及び高濃度側差分EDHが撮像時刻に対して示されている。類似化学物質判定部48aは、IC50距離EDI、低濃度側差分EDL、及び高濃度側差分EDHを算出する。
【0141】
図23に戻って、制御装置41aによる未知の化学物質の判定の動作の説明を続ける。 ステップS62:類似化学物質判定部48aは、ステップS61において算出した3つの指標の重みづけの選択を行う。類似化学物質判定部48aは3つの指標の各々に対する重みを選択する。例えば、類似化学物質判定部48aは、3つの指標のうちいずれか1つの指標のみを未知の化学物質の判定に用いる場合、この1つの指標の重みを1とし、他の2つの指標の重みをゼロとする。また、類似化学物質判定部48aは、3つの指標の平均を未知の化学物質の判定に用いる場合、3つの指標の重みを全て1とする。類似化学物質判定部48aは、3つの指標の重みを各々任意に選択してよい。
【0142】
ステップS63:類似化学物質判定部48aは、既知の化学物質の中から未知の化学物質と最も類似する化学物質を判定する。ここで類似化学物質判定部48aは、多変量解析により解析された結果に基づく、所定の濃度における特徴量の複数の時刻毎の大きさの変化と、所定の濃度よりも高濃度である場合の特徴量の複数の時刻毎の大きさの変化と、所定の濃度よりも低濃度である場合の特徴量の複数の時刻毎の大きさの変化とにそれぞれに重みづけされた結果に基づく異なる化学物質同士の類似性を判定する。
【0143】
具体的には、類似化学物質判定部48aは、ステップS61において算出した3つの指標の各々について、各撮像時刻ごとに値の二乗を算出し、算出した二乗の値の和を算出する。類似化学物質判定部48aは、3つの指標の各々について、ステップS62において選択した重みを、算出した二乗の値に乗じ、和を算出する。類似化学物質判定部48aは、算出した和が最も小さい化学物質を、未知の化学物質と最も類似する化学物質であると判定する。なお、類似化学物質判定部48aは、二乗の値の和の代わりに、二乗以外の冪乗の和を算出してもよいし、絶対値の和を算出してもよい。
図24及び図25に示す例では、類似化学物質判定部48aは、第1の化学物質(Paclitaxel)と第2の化学物質(Etoposide)のうち第1の化学物質(Paclitaxel)を未知の化学物質と最も類似する化学物質であると判定する。
【0144】
このように、類似化学物質判定部48aは、所定の濃度における、化学物質が細胞に添加された後の複数の撮像時刻の変化に対する特徴量の変化に基づいて、異なる化学物質同士の類似性を判定する。ここで所定の濃度は、50%阻害濃度、50%阻害濃度よりも高い濃度、50%阻害濃度よりも低い濃度の少なくとも一方の濃度を含む。
【0145】
また、類似化学物質判定部48aは、50%阻害濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化と、50%阻害濃度よりも高い濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化と、50%阻害濃度よりも低い濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化とにそれぞれに重み付けされた結果に基づいて異なる化学物質同士の類似性を判定する。
【0146】
なお、本実施形態においては、ステップS61において類似化学物質判定部48aが、低濃度側差分PDLとして、顕微鏡画像の各撮像時刻ごとにおいて、未知の化学物質に対する50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和と、既知の化学物質に対する50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和との差分を算出する場合の例について説明したが、差分に限らない。例えば、類似化学物質判定部48aは、未知の化学物質に対する50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和と、既知の化学物質に対する50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和との割合を算出してもよいし、その他の既知の演算を行ってもよい。また、同様に類似化学物質判定部48aは、未知の化学物質に対する50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和と、既知の化学物質に対する50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和と差分に限らず、未知の化学物質に対する50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和と、既知の化学物質に対する50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和との割合を算出してもよいし、その他の既知の演算を行ってもよい。
また、本実施形態においては、ステップS62において類似化学物質判定部48aが3つの指標の重みづけの選択を行う場合の例について説明したが、ステップS62の処理は省略されてよい。ステップS62の処理が省略される場合、ステップS62において、類似性判定部48は、例えば、3つの指標の各々について二乗の値の和を算出してよい。 また、本実施形態においては、ステップS63において類似化学物質判定部48aが、算出した和が最も小さい化学物質を、未知の化学物質と最も類似する化学物質であると判定する場合について説明したが、これに限らない。類似化学物質判定部48aは、算出した和が所定の閾値よりも大きい場合、判定対象の化学物質は未知の化学物質と類似していないと判定してもよい。
【0147】
なお、本実施形態においては、ステップS402及びステップS405において時間軌跡定量化部47aが特徴量空間における特徴量点の定量化として、50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和の算出、及び50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和の算出の各処理を行う場合の例について説明したが、これに限らない。ステップS402において時間軌跡定量化部47aは、特徴量空間における特徴量点の定量化として、50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和の算出、及び50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和の算出の少なくとも1つの処理を行ってもよい。ステップS402及びステップS405において時間軌跡定量化部47aが、特徴量空間における特徴量点の定量化として、50%阻害濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和の算出、及び50%阻害濃度より低濃度側の特徴量点間の距離の和の算出の少なくとも1つの処理を行う場合、時間軌跡定量化部47aが行った特徴量空間における特徴量点の定量化の処理に応じて、ステップS406において、類似化学物質判定部48aは、IC50距離、低濃度側差分、及び高濃度側差分の3つの指標のうち少なくとも1つの指標に基づいて、未知の化学物質が既知の化学物質のいずれと最も類似しているかについての判定を行う。また、特徴量点間の距離の算出において50%阻害濃度を基準としなくてもよい。例えば、時間軌跡定量化部47aは、所定の濃度を基準として、当該所定の濃度より高濃度側の特徴量点間の距離の和、及び/または低濃度側の特徴量点間の距離の和を算出し、特徴量点の定量化を行ってもよい。また、ステップS402及びステップS405において時間軌跡定量化部47aは、50%阻害濃度における特徴量点間の距離(IC50距離)を算出する場合の例について説明したが、これに限らない。ステップS402及びステップS405において時間軌跡定量化部47aは、50%阻害濃度以外の濃度について顕微鏡画像の撮像時刻ごとの特徴量点間の距離を算出してもよい。
【0148】
≪まとめ≫
以上説明したように、本実施形態の制御装置41aが提供する化学物質のスクリーニング方法は、顕微鏡画像は、化学物質が細胞に添加された後の複数の撮像時刻において撮像され、所定の濃度における、撮像時刻の変化に対する特徴量の変化に基づいて、異なる化学物質同士の類似性を判定する。
この構成により、本実施形態の制御装置41aが提供する化学物質のスクリーニング方法では、細胞を固定、染色することなく、安価で迅速な解析により化学物質が細胞に生じさせる時間についての形態変化を所定の濃度である場合に定量化できるため、細胞を固定、染色することなく、安価で迅速な解析により細胞に所定の濃度である場合に形態変化を生じさせる化学物質同士の類似性を判断することができる。
【0149】
また、本実施形態の制御装置41aが提供する化学物質のスクリーニング方法は、所定の濃度は、50%阻害濃度、前記50%阻害濃度よりも高い濃度、前記50%阻害濃度よりも低い濃度の少なくとも一方の濃度を含む。
この構成により、本実施形態の制御装置41aが提供する化学物質のスクリーニング方法では、細胞を固定、染色することなく、安価で迅速な解析により化学物質が細胞に生じさせる時間についての形態変化を50%阻害濃度、前記50%阻害濃度よりも高い濃度、前記50%阻害濃度よりも低い濃度の少なくとも一方の濃度を含む所定の濃度に基づいて定量化できるため、安価で迅速な解析により、細胞に添加される化学物質の濃度が50%阻害濃度、前記50%阻害濃度よりも高い濃度、前記50%阻害濃度よりも低い濃度の少なくとも一方の濃度である場合に形態変化を生じさせる化学物質同士の類似性を判断することができる。
【0150】
また、本実施形態の制御装置41aが提供する化学物質のスクリーニング方法は、50%阻害濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化と、50%阻害濃度よりも高い濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化と、50%阻害濃度よりも低い濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化とにそれぞれに重み付けされた結果に基づいて異なる化学物質同士の類似性を判定する。
この構成により、本実施形態の制御装置41aが提供する化学物質のスクリーニング方法では、細胞に形態変化を生じさせる濃度に応じて、50%阻害濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化と、50%阻害濃度よりも高い濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化と、50%阻害濃度よりも低い濃度における撮像時刻の変化に対する特徴量の変化とにそれぞれ重みづけをして化学物質同士の類似性を判断することができるため、重みづけをしない場合に比べ化学物質のスクリーニングの精度を上げることができる。
【0151】
本発明の化学物質のスクリーニング方法は、非破壊の系であるため、タイムラプス解析に好適に用いられ、かつスクリーニングに用いたサンプルそのものを別の評価系に供することができ、スクリーニング結果を別の系から評価することができる。
【0152】
なお、本発明の実施形態における培養観察装置11及び培養観察装置11aの各処理を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、当該記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、上述した種々の処理を行ってもよい。
【0153】
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0154】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0155】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0156】
11、11a…培養観察装置、41、41a…制御装置、44、44a…特徴量算出部、45、45a…座標算出部、46…濃度軌跡算出部、47…変化領域判定部、48…類似性判定部、46a…時間軌跡算出部、47a…時間軌跡定量化部、48a…類似化学物質判定部、50…表示部
図1
図2
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図4
図5
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