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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】レンズの鏡筒装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/04 20210101AFI20231219BHJP
【FI】
G02B7/04 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020060650
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021162606
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】勝山 智仁
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-175484(JP,A)
【文献】特開2012-220866(JP,A)
【文献】特開2002-148504(JP,A)
【文献】特開2008-275958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/04
G02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定筒部の内部に回動自在に組付けたカム筒部を有するレンズ鏡筒部を備えるレンズの鏡筒装置において、硬質ゴム素材又は硬質合成樹脂素材により形成したローラ及びこのローラの中心を回動自在に支持する光軸方向に軸心を有する軸部を備えた少なくとも一つのローラ当接機構部を配設したカム筒保持機構を設け、前記ローラ当接機構部を、前記固定筒部の内周部に配設することにより、前記ローラを前記カム筒部の外周面に当接させてなることを特徴とするレンズの鏡筒装置。
【請求項2】
前記カム筒保持機構は、三つ以上のローラ当接機構部を、前記固定筒部の内周部であって、当該内周部の周方向における等間隔位置に配設してなることを特徴とする請求項1記載のレンズの鏡筒装置。
【請求項3】
前記軸部は、前記固定筒部の内周部に螺着する固定ネジ,及びこの固定ネジが挿入し、かつ一端が前記カム筒部に係止するローラ支持カラーを備えることを特徴とする請求項1記載のレンズの鏡筒装置。
【請求項4】
前記ローラは、外径の異なる複数種類から選択することを特徴とする請求項1記載のレンズの鏡筒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定筒部に対して回動自在に組付けたカム筒部を有するレンズ鏡筒部を備えるレンズの鏡筒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プロジェクタは、投射用の交換レンズ等を含むレンズを搭載し、このレンズは、通常、固定筒部に対して回動自在に組付けたカム筒部を有するレンズ鏡筒部により構成した鏡筒装置を備えており、固定筒部に配した手動又は自動(電動)により回動操作可能なズームリング,フォーカスリング,アイリスリングなどの回動変位は、所定の伝達機構を介してカム筒部(回動筒部)に伝達される。
【0003】
従来、この種の鏡筒装置としては、特許文献1に記載されるレンズ装置に使用された鏡筒装置が知られている。同文献1に開示されるレンズ装置は、回動筒部の調整位置(設定位置)がズレる不具合を解消し、煩わしい再調整作業を不要にするとともに、不適切な調整位置での視聴等を回避し、さらに、回動筒部を回動操作する際の操作性や操作力を最適な状態に設定することを目的としたものであり、特徴的な構成として、少なくとも回動筒部を回動操作する際の回動操作トルクの大きさを調整可能なトルク調整機構部を備え、このトルク調整機構部は固定筒部又は回動筒部の一方に設けられた被摺接面部と、この被摺接面部に摺接可能な摺接部と、被摺接面部に対する摺接部の前後方向相対位置を変更可能な位置変更部を設けたものであり、基本的な構成として、固定筒部に対して回動自在に組付けたカム筒部を有するレンズ鏡筒部により構成した鏡筒装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-175484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来におけるレンズ装置(鏡筒装置)は、次のような解決すべき課題も存在した。
【0006】
即ち、従来の鏡筒装置は、固定筒部と回動筒部(カム筒部)間における光軸方向の課題となる固定筒部に対するカム筒部の光軸方向のズレ防止を目的としたものであるが、一方、固定筒部に対するカム筒部の径方向の課題も存在する。
【0007】
具体的には、固定筒部に対するカム筒部の径方向のガタツキを如何に防止するかの課題である。固定筒部とカム筒部間の径方向においては、良好な操作性を確保するため、適度の隙間を確保する必要がある反面、十分なガタツキ防止を図るには、回動操作性が低下するという相反する問題があり、これらの双方を両立させることは容易でない課題が存在する。このため、従来は、これらの双方を両立させるため、固定筒部とカム筒部間の加工精度をより最適化させる観点からその課題に対処していたが、加工及び調整を含む製造工程に時間がかかり、製造工数の増加、更にはこれに伴う製造コストの上昇を招いてしまう難点があった。なお、この種のガタツキを回避する観点からは、例えば、固定筒部又はカム筒部の一方に設けた板バネ等の弾性部材を他方に圧接するなどの手段により解決可能であるが、レンズ体の偏心や操作性低下や不安定化を招くため採用できない。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したレンズの鏡筒装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るレンズの鏡筒装置1は、上述した課題を解決するため、固定筒部3の内部に回動自在に組付けたカム筒部4を有するレンズ鏡筒部2を備える鏡筒装置を構成する際して、硬質ゴム素材又は硬質合成樹脂素材6mにより形成したローラ6及びこのローラ6の中心を回動自在に支持する光軸方向Fcに軸心を有する軸部7を備えた少なくとも一つのローラ当接機構部5r,5r…を配設したカム筒保持機構5を設け、ローラ当接機構部5r,5r…を、固定筒部3の内周部3iに配設することにより、ローラ6をカム筒部4の外周面4fに当接させてなることを特徴とする。
【0010】
この場合、発明の好適な態様により、カム筒保持機構5は、三つ以上のローラ当接機構部5r,5r…を、固定筒部3の内周部3iであって、当該内周部31の周方向Ffにおける等間隔位置Xs,Xs…に配設することができる。また、軸部7は、固定筒部3の内周部31に螺着する固定ネジ7n,及びこの固定ネジ7nが挿入し、かつ一端7csがカム筒部4に係止するローラ支持カラー7cにより構成することができる。さらに、ローラ6は、外径Dmの異なる複数種類から選択することができる。
【発明の効果】
【0011】
このような構成を有する本発明に係るレンズの鏡筒装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0012】
(1) 固定筒部3又はカム筒部4の一方の周部(3i)に、他方の周面(4f)に当接するローラ6及びこのローラ6の中心を回動自在に支持する光軸方向Fcに軸心を有する軸部7を備えた少なくとも一つのローラ当接機構部5r,5r…を配設したカム筒保持機構5を設けたため、良好な回動操作性を確保しつつ、固定筒部3とカム筒部4の径方向における十分なガタツキ防止を図ることができる。これにより、固定筒部3とカム筒部4間の径方向における二つの相反する課題を有効に解消できるため、特に、プロジェクタ等の光学機器に搭載する大型のレンズに用いて好適となる。
【0013】
(2) レンズ鏡筒部2を構成するに際し、固定筒部3の内部に回動自在に組付けたカム筒部4を備え、ローラ当接機構部5r…を、固定筒部3の内周部3iに配設することによりローラ6をカム筒部4の外周面4fに当接させるように構成したため、従来の標準的なレンズ鏡筒部2の構成に、そのまま適用可能になる。これにより、実施容易性及び低コスト性の観点から最適な形態として実施することができる。
【0014】
(3) ローラ6は、硬質ゴム素材又は硬質合成樹脂素材6mにより形成したため、固定筒部3又はカム筒部4の一方に、硬質のローラ6の周面が当接する際において適度の弾性が確保される。これにより、カム筒部4のガタツキ防止及び回動円滑性の双方を確保する観点から最適な形態として実施できる。
【0015】
(4) 好適な態様により、カム筒保持機構5構成するに際し、三つ以上のローラ当接機構部5r,5r…を、固定筒部3の内周部3iであって、当該内周部3iの周方向Ffにおける等間隔位置Xs,Xs…に配設して構成すれば、固定筒部3及びカム筒部4の加工上における精度のバラツキを吸収できるため、製造工数の低減及びそれに伴う製造コストの低減を図ることができる。
【0016】
(5) 好適な態様により、軸部7を、固定筒部3の内周部31に螺着する固定ネジ7n,及びこの固定ネジ7nが挿入し、かつ一端7csがカム筒部4に係止するローラ支持カラー7cにより構成すすれば、ローラ6は、カム筒部4に係止固定されたローラ支持カラー7cにより支持されるため、ローラ6の円滑な回動を確保しつつ正確な位置決めを行うことができる。
【0017】
(6) 好適な態様により、ローラ6を、外径Dmの異なる複数種類から選択するようにすれば、製品毎のバラツキを調整(吸収)することが可能になるため、更なる高品質化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好適実施形態に係るレンズの鏡筒装置の断面側面図、
図2】同レンズの鏡筒装置に備えるローラ当接機構部を示す図1中の円A部の抽出拡大図、
図3】同レンズの鏡筒装置に備えるローラ当接機構部を示す図1中の円A部を分解した部品図、
図4】同レンズの鏡筒装置の正面図、
図5図2中のB-B線断面図、
図6】同レンズの鏡筒装置に備えるローラ当接機構部の組付工程図、
図7】本発明の変更実施形態に係るレンズの鏡筒装置の正面図、
図8】本発明の他の変更実施形態に係るレンズの鏡筒装置に備えるローラ当接機構部の断面側面図、
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
まず、本実施形態に係るレンズの鏡筒装置1の構成について、図1図5を参照して説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係るレンズの鏡筒装置1を示す。この鏡筒装置1は、プロジェクタ等の大型の光学機器に搭載される大型のレンズLに用いられる。そして、この鏡筒装置1は、大別して、レンズ鏡筒部2と、このレンズ鏡筒部2に組付ける本発明の要部を構成するカム筒保持機構5を備える。
【0022】
最初に、レンズ鏡筒部2の構成について説明する。レンズ鏡筒部2は全体を筒状に構成し、内部には複数のレンズ体Lp…を収容する。レンズ鏡筒部2は、外側に位置する固定筒部3を備え、この固定筒部3の内部前側に、第一のカム筒部4を回動自在に収容するとともに、固定筒部3の内部後側に、第二カム筒部4sを回動自在に収容する。なお、例示する固定筒部3,カム筒部4,及び第二カム筒部4sを形成する素材は、アルミニウムである。
【0023】
また、図1に示すように、固定筒部3の前側に位置する外周面3fには、周方向Ffに沿った所定範囲のガイドスリット12を貫通形成し、カム筒部4の外周面4fに螺着した係合コマ部13を、当該ガイドスリット12を通して、固定筒部3の外周面3fに回動自在に装着した第一調整リング(フォーカシング調整リング)14の孔部に係止させる。これにより、第一調整リング14を自動又は手動により回動操作すれば、カム筒部4を一体に回動変位させることができる。
【0024】
さらに、ガイドスリット12の後方に位置する固定筒部3の外周面3fには、周方向Ffに沿った所定範囲のガイドスリット15を貫通形成し、第二カム筒部4sの外周面4sfに螺着した係合コマ部16を、当該ガイドスリット15を通して、固定筒部3の外周面3fに回動自在に装着した第二調整リング(ズーミング調整リング)17の孔部に係止させる。これにより、第二調整リング17を自動又は手動により回動操作すれば、第二カム筒部4sを一体に回動変位させることができる。
【0025】
なお、固定筒部3,カム筒部4及び第二カム筒部4sには、傾斜したスリットを含む複数のカムスリット18c…が形成されており、このカムスリット18c…に複数のレンズ体Lp…をそれぞれ保持する図示を省略した複数のレンズホルダをそれぞれ係合させている。これにより、カム筒部4及び第二カム筒部4sの回動変位は、各レンズ体Lp…の光軸方向Fcの進退変位に変換される。
【0026】
次に、本発明の要部を構成するカム筒保持機構5について、図1図5を参照して説明する。
【0027】
例示のカム筒保持機構5は、図4に示すように、六つのローラ当接機構部5r,5r…5rを固定筒部3の内周部3iの周方向Ffにおける等間隔位置Xs,Xs…Xsに配設して構成する。このように、カム筒保持機構5を構成するに際し、六つ(一般的には、三つ以上)のローラ当接機構部5r,5r…を、固定筒部3の内周部3iの周方向Ffにおける等間隔位置Xs,Xs…に配して構成すれば、固定筒部3及びカム筒部4の加工上における精度のバラツキを吸収できるため、製造工数の低減及びそれに伴う製造コストの低減を図ることができる。
【0028】
一つのローラ当接機構部5rは、図2及び図3に示すように、固定筒部3の内周部3iに、当該固定筒部3の内周面3ifに対して直角面に形成した段差面3isに配設する。この場合、図2図5に示すように、固定筒部3における前端面から光軸方向Fcに沿った収容溝部21を形成し、この収容溝部21の底面を段差面3isとして形成する。これにより、ローラ当接機構部5rは、この収容溝部21に収容することにより、段差面3isに取付ける。
【0029】
ローラ当接機構部5rは、図2及び図3に示すように、基本構成として、カム筒部4の外周面4fに対して外周面6fが当接する円筒形のローラ6,及びこのローラ6の中心を回動自在に支持する光軸方向Fcに軸心を有する軸部7を備える。
【0030】
この場合、ローラ6は、硬質ゴム素材又は硬質合成樹脂素材6mにより形成することが望ましい。例示のローラ6には、硬質合成樹脂素材6mとなるPOM(ポリアセタール樹脂)を用いた。POMは、機械的強度,耐摩耗性及び振動性に優れるとともに、寸法安定性に優れる。なお、ローラ6にはPOMを用いて好適となるが、他の硬質合成樹脂素材6mであってもよいし、硬質ゴム素材であってもよい。また、金属素材等の他の素材の使用を排除するものではない。このように、ローラ6を、硬質ゴム素材又は硬質合成樹脂素材6mにより形成すれば、固定筒部3又はカム筒部4の一方に、硬質のローラ6の周面が当接する際において適度の弾性が確保されるため、カム筒部4のガタツキ防止及び回動円滑性の双方を確保する観点から最適な形態として実施できる。
【0031】
さらに、ローラ6は、外径Dmの異なる複数種類のローラ6…を用意し、必要により、交換して使用できるようにした。例示の場合、標準サイズのローラ6と、この標準サイズよりもやや外径の小さいローラ6と、標準サイズよりもやや外径の大きいローラ6の三種類を用意した。このように、ローラ6を、外径Dmの異なる複数種類から選択するようにすれば、製品毎のバラツキを調整(吸収)することが可能になるため、更なる高品質化を実現することができる。
【0032】
一方、軸部7は、図3に示すように、固定筒部3の内周部3i、即ち、段差面3isに螺着する固定ネジ7n,及びこの固定ネジ7nが挿入し、かつ一端7csが固定筒部3に係止するローラ支持カラー7cにより構成する。ローラ支持カラー7cは、ステンレス素材等の硬質素材により全体を筒形に形成するとともに、他端7ctに大径の係止鍔部を設けて構成する。また、固定筒部3の段差面3isには、固定ネジ7nが螺着する光軸方向Fcのネジ孔部22を形成するとともに、このネジ孔部22の開口側に、ローラ支持カラー7cの一端(先端)7cs側の一部が嵌合する円形凹部23を形成する。したがって、ローラ6は、ローラ支持カラー7cの外周面により回動自在に支持される。
【0033】
このように、軸部7を、固定筒部3の内周部3iに螺着する固定ネジ7n,及びこの固定ネジ7nが挿通し、かつ一端7csが固定筒部3に係止するローラ支持カラー7cにより構成すれば、ローラ6は、固定筒部3又はカム筒部4に係止固定されたローラ支持カラー7cにより支持されるため、ローラ6の円滑な回動を確保しつつ正確な位置決めを行うことができる。
【0034】
また。例示した実施形態のように、レンズ鏡筒部2を構成するに際し、固定筒部3の内部に回動自在に組付けたカム筒部4を備え、ローラ当接機構部5r…を、固定筒部3の内周部3iに配設することによりローラ6をカム筒部4の外周面4fに当接させるように構成すれば、従来の標準的なレンズ鏡筒部2の構成に、そのまま適用可能になるため、実施容易性及び低コスト性の観点から最適な形態として実施できる利点がある。
【0035】
次に、カム筒保持機構5の組付方法について、図1図5を参照しつつ図6に示す組付工程図(フローチャート)に従って説明する。
【0036】
まず、固定筒部3とカム筒部4を用意する(ステップS1)。この固定筒部3とカム筒部4は、単体部品であってもよいし、他の部品が組付けられた中間アッセンブリ部品であってもよい。そして、固定筒部3の内部にカム筒部4を収容し、図1に示す位置関係となるように組付けを行う(ステップS2)。
【0037】
また、カム筒保持機構5に使用する六組分の部品、即ち、六つのローラ当接機構部5r,5r…5rを構成する、六個数の固定ネジ7n…,六個のローラ支持カラー7c…,六個の標準サイズのローラ6…をそれぞれ用意する(ステップS3)。そして、ローラ6の中心側中空部に、ローラ支持カラー7cの外周面を挿入する(ステップS4)。次いで、この組付状態のローラ6を、図2及び図5に示すように、収容溝部21に収容するとともに、ローラ6の外周面6fを、カム筒部4の外周面4fに当接させる(ステップS5)。
【0038】
さらに、ローラ支持カラー7cにおける一端(先端)7cs側を、図1に示すように、固定筒部3の円形凹部23に挿入して係止させる。この際、ローラ支持カラー7cにおける一端7cs側が円滑に円形凹部23に挿入できるとともに、ローラ6の外周面6fがカム筒部4の外周面4fに良好に当接するなど、組付けが良好に行われれば、ローラ支持カラー7cの中心側中空部に固定ネジ7nを挿入し、固定ネジ7nの先端を固定筒部3のネジ孔部22に螺合するとともに、締め付けを行うことにより螺着固定する(ステップS6,S7)。
【0039】
一方、この組付け時に、ローラ支持カラー7cにおける一端7cs側が円形凹部23に挿入しにくい又は挿入できないなど、或いはローラ6の外周面6fがカム筒部4の外周面4fに強く当接しすぎる又は当接しないなど、組付けが良好に行われない場合には、ローラ6を、異なる外径の他のローラ6に交換する(ステップS6,S8)。例示のように、固定筒部3及びカム筒部4における加工上のバラツキ等により、ローラ支持カラー7cにおける一端7cs側が円形凹部23に挿入しにくい又は挿入できない場合やローラ6の外周面6fがカム筒部4の外周面4fに強く当接しすぎる場合は、外径の小さいローラ6に交換してその不具合を解消することができる。他方、例示のように、ローラ6の外周面6fがカム筒部4の外周面4fに当接しない場合には、外径の大きいローラ6に交換してその不具合を解消することができる。
【0040】
ローラ6の交換処理により、組付けが良好といえる状態になったことを確認できたなら、ローラ支持カラー7cの中心中空部に固定ネジ7nを挿入し、固定ネジ7nの先端を固定筒部3のネジ孔部22に螺合するとともに、締め付けを行うことにより螺着固定する(ステップS9,S7)。
【0041】
以上により、一つのローラ当接機構部5rの組付けが終了する。図2に示す状態が組付けの終了したローラ当接機構部5rの構成となる。この後、残りの五ケ所のローラ当接機構部5r…の組付けを同様に行う(ステップS10,S4…)。そして、六カ所の全てのローラ当接機構部5r…の組付けが終了したなら、全体の動き具合、即ち、固定筒部3に対するカム筒部4のガタツキの有無や第一調整リング14(カム筒部4)の良好な操作性の有無等を確認する(ステップS11)。この際、全体の動き具合が基準内にあれば、カム筒保持機構5の組付工程を終了する(ステップS12)。これに対して、全体の動き具合が基準内にない場合には、必要な調整処理又は不良処理を行なった後、組付工程を終了する(ステップS13)。
【0042】
よって、このような本実施形態に係るレンズの鏡筒装置1によれば、基本構成として、固定筒部3に対して回動自在に組付けたカム筒部4を有するレンズ鏡筒部2を備える鏡筒装置を構成するに際して、固定筒部3の内周部3iに、カム筒部4の外周面4fに当接するローラ6及びこのローラ6の中心を回動自在に支持する光軸方向Fcに軸心を有する軸部7を備えた六つのローラ当接機構部5r,5r…5rを配設したカム筒保持機構5を設けたため、良好な回動操作性を確保しつつ、固定筒部3とカム筒部4の径方向Fdにおける十分なガタツキ防止を図ることができる。これにより、固定筒部3とカム筒部4間の径方向Fdにおける二つの相反する課題を有効に解消できるため、特に、プロジェクタ等の光学機器に搭載する大型のレンズLに用いて好適となる。
【0043】
次に、本発明の変更実施形態に係るレンズの鏡筒装置1について、図7及び図8を参照して説明する。
【0044】
図7は、カム筒保持機構5を構成するローラ当接機構部5r…の全体数量を変更した例を示す。図4に示した基本実施形態に係るカム筒保持機構5は、全体で「六つ」のローラ当接機構部5r…を周方向Ffの等間隔位置Xs…に配設した例を示したが、図7に示す変更実施形態に係るレンズの鏡筒装置1では、全体で「三つ」のローラ当接機構部5r…を周方向Ffの等間隔位置Xs…に配設したものである。
【0045】
このように、カム筒保持機構5を構成するに際しては、三つ以上の任意の数量のローラ当接機構部5r,5r…により構成することが望ましい。なお、高い加工精度等を確保できる場合には、二つ又は一つのローラ当接機構部5r…により構成する場合を排除するものではない。しかし、三つ以上のローラ当接機構部5r,5r…により構成すれば、固定筒部3及びカム筒部4の加工上における精度のバラツキを吸収できるため、製造工数の低減及びそれに伴う製造コストの低減を図れる利点がある。
【0046】
図8は、ローラ当接機構部5rの構造を変更した例を示す。図2に示した基本実施形態に係るレンズの鏡筒装置1は、各ローラ当接機構部5r…を組付ける際における調整を、外径Dmの異なる複数種類のローラ6…を用意し、必要により、外径Dmの異なるローラ6…を選択して使用するようにしたが、図8に示す変更実施形態に係るレンズの鏡筒装置1では、ローラ6の位置を変更、即ち、固定筒部3の径方向Fdに対するローラ6の位置を変更(調整)できるローラ位置調整機構31を設けたものである。
【0047】
このローラ位置調整機構31は、前述した円形凹部23(図3)を形成するに際し、図8に示すように、径方向Fdに長くなる長孔、即ち、断面が小判形となる長孔に形成し、ローラ支持カラー7cの径方向Fdへの若干の撓みを許容可能にした小判形凹部23sを設けたものである。このため、この小判形凹部23sは、円形凹部23に対して、光軸方向Fcに、より長くなるように形成した。また、固定筒部3には、小判形凹部23sの内部側から固定筒部3の外周面3f側に貫通するネジ孔部32を形成するとともに、このネジ孔部32に螺合し、かつ先端がローラ支持カラー7cに当接する調整ネジ部33を設けて構成した。
【0048】
これにより、例えば、ローラ6に標準サイズを使用し、かつ固定ネジ7nを螺着するネジ孔部22の位置(角度)を、大径のローラ6を使用した際に、このローラ6の外周面6fがカム筒部4の外周面4fに当接する位置Ps(図5参照)になるように設定すれば、図8において、ネジ孔部32に螺合する調整ネジ33を回し操作することにより、調整ネジ33の先端がローラ支持カラー7cを押圧し、標準サイズのローラ6の位置を、大径のローラ6から小径のローラ6に対応する位置に連続的に調整することができる。即ち、前述した外径Dmの異なる複数種類のローラ6…を用意して交換する場合と同様の調節処理を連続的に行うことができる。
【0049】
このようなローラ位置調整機構31は、全てのローラ当接機構部5r…に付設してもよいし、一部のローラ当接機構部5r…に対して選択的に付設してもよい。その他、必要により、調整ネジ33を軸方向に二分割し、分割した空間にスプリング等のバネ材を介在させることも可能である。
【0050】
以上、変更実施形態を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0051】
例えば、カム筒部4は、第一調整リング(フォーカシング調整リング)14の変位が伝達されるカム筒部4に適用した例を示したが、第二調整リング(ズーミング調整リング)17の変位が伝達される第二カム筒部4sに適用してもよく、特定のカム筒部に限定されるものではない。ローラ当接機構部5r,5r…を周方向Ffにおける等間隔位置Xs,Xs…に配設するとは、厳密に等間隔に設定することを意味するものではなく、いわば周方向Ffに対称性を持たせて配設すれば足り、等間隔位置は対称位置を含む概念である。他方、軸部7は、ローラ6は、外径の異なる三種類から選択する場合を示したが、種類の数は任意である。レンズの鏡筒装置1は、光学機器として特にプロジェクタに使用する大型のレンズLに適用して最適であるが、カメラや望遠鏡等の他の各種光学機器にも同様に利用できる。なお、プロジェクタは液晶パネル方式をはじめ各種タイプのプロジェクタを適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るレンズの鏡筒装置は、固定筒部に対して回動自在に配したカム筒部を備える各種レンズに利用することができ、特に、プロジェクタ等の各種光学機器に装着する大型のレンズに利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1:レンズの鏡筒装置,2:レンズ鏡筒部,3:固定筒部,3i:固定筒部の内周部,4:カム筒部,4f:カム筒部の周面,5:カム筒保持機構,5r:ローラ当接機構部,6:ローラ,6f:ローラの外周面,6m:硬質合成樹脂素材,7:軸部,7n:固定ネジ,7c:ローラ支持カラー,7cs:ローラ支持カラーの一端,L:レンズ,Fc:光軸方向,Ff:周方向,Xs:等間隔位置,Dm:ローラの外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8