(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】投射レンズ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 15/20 20060101AFI20231219BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G02B15/20
G03B21/00 D
(21)【出願番号】P 2020111288
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】山浦 義樹
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-068690(JP,A)
【文献】特開2017-078771(JP,A)
【文献】特開2018-063308(JP,A)
【文献】特開2014-182180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0268831(US,A1)
【文献】特開平10-003038(JP,A)
【文献】特開2014-041222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
G03B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡大側に少なくとも一つの単レンズ群を含む前段レンズ群を配置し、かつ縮小側に少なくとも一つの単レンズ群を含む後段レンズ群を配置して構成した投射レンズ装置において、前記前段レンズ群を、拡大側から縮小側へ正の第1レンズ群と負の第2レンズ群により全体を負のパワーにより構成するとともに、前記後段レンズ群を、拡大側から縮小側へ正の第3レンズ群,負の第4レンズ群,正の第5レンズ群,負の第6レンズ群,正の第7レンズ群,正の第8レンズ群により構成し、ズーミング時に、前記前段レンズ群を一体に移動させ、かつ前記第8レンズ群を不動とし、前記第3レンズ群から前記第7レンズ群を移動させるズーミング機能部を備えるとともに、フォーカシング時に、前記第1レンズ群及び前記後段レンズ群を不動とし、前記第2レンズ群のみを移動させるフォーカシング機能部を備えることを特徴とする投射レンズ装置。
【請求項2】
前記第1レンズ群は、拡大側に配置し、拡大側が凸面となる負メニスカスレンズと縮小側に配置する両凸レンズの二枚のレンズにより構成することを特徴とする請求項1記載の投射レンズ装置。
【請求項3】
前記第2レンズ群は、拡大側から縮小側へ、拡大側が凸面となる負メニスカスレンズ,拡大側が凸面となる負メニスカスレンズ,両凹レンズの三枚のレンズにより構成することを特徴とする請求項1又は2記載の投射レンズ装置。
【請求項4】
前記フォーカシング機能部は、遠距離側から近距離側へのフォーカシング時に、前記第2レンズ群を、拡大側へ移動させることを特徴とする請求項1,2又は3記載の投射レンズ装置。
【請求項5】
前記ズーミング機能部は、前記第3レンズ群から前記第7レンズ群を拡大側へ移動させる際に、前記前段レンズ群を縮小側へ移動させることを特徴とする請求項1記載の投射レンズ装置。
【請求項6】
プロジェクタ用の組込レンズ又は交換レンズであることを特徴とする請求項1-5のいずれかに記載の投射レンズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡大側に前段レンズ群を配置し、かつ縮小側に後段レンズ群を配置して構成したプロジェクタ等に用いて好適な投射レンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリーンに映像を投射するプロジェクタの投射レンズ装置には、ズームレンズが用いられており、この種の投射レンズ装置としては、特許文献1に開示されるズームレンズ及び特許文献2に開示される投射用ズームレンズが知られている。
【0003】
特許文献1のズームレンズは、レンズ系全体の小型化を図りつつ、フォーカシングに伴う諸収差を良好に補正し、投射距離全般にわたり良好なる光学性能を有した、例えば液晶プロジェクター用に好適なズームレンズを得ることを目的としたものであり、具体的には、最も拡大側に配置され、負の光学パワーを有するレンズ群を含む複数のレンズ群を備え、前記複数のレンズ群のうち該レンズ群以外の1つ以上のレンズ群を光軸方向に動かすことによりズーミングを行うズームレンズであって、該レンズ群は、フォーカスに際して移動する少なくとも1枚の負の屈折力のレンズから成るレンズ群とフォーカスに際して固定の正の屈折力のレンズ群より成る構成を備えるものである。
【0004】
また、特許文献2の投射用ズームレンズは、1.4倍以上の大きいズーム比を持ち、広角端における半画角:30゜以上の大きな画角、Fナンバ:1.7程度と明るく、良好な画像を得られるコンパクトな投射用ズームレンズの実現を目的としたものであり、具体的には、拡大側から縮小側に向かって順に、負の第1レンズ群、正の第2レンズ群、正の第3レンズ群、負の第4レンズ群、正の第5レンズ群、正の第6レンズ群、正の第7レンズ群を配してなり、縮小側が略テレセントリックであり、ズーミングは、第2~第6レンズ群を各々独立に光軸方向に移動して行い、フォーカシングは、第1レンズ群を光軸方向に移動して行うように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-234893号公報
【文献】特開2012-048016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来のズームレンズを用いた投射レンズ装置は、次のような問題点があった。
【0007】
即ち、フォーカシングに際しては、最も拡大側のレンズを含む前段レンズ群を移動させてフォーカス調整を行うため、移動対象となる前段レンズ群は、全体の重量が大きくなるとともに、全体の外径も大きくなる傾向がある。
【0008】
この結果、操作性の低下或いは電動操作時における制御応答性の低下を招くなど、精度の高いフォーカシングを行うことが容易でないとともに、フォーカス調整機構を含むレンズ装置全体の大型化及びコストアップを招きやすい。加えて、前段レンズ群を移動させるフォーカス調整機構の場合、調整時における像面の変動が大きくなりやすい。
【0009】
特に、ズームレンズを用いる投射レンズ装置は、ズーム比が大きいほど全体のレンズ枚数が多くなる傾向があり、光学系の全長が比較的長くなるとともに、最も拡大側に配置するレンズのレンズ径及びレンズ重量はかなり大きくなるなど、この問題はこの種の投射レンズ装置にとって無視できない重要な課題の一つになっている。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した投射レンズ装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するため、拡大側Deに少なくとも一つの単レンズ群(G1…)を含む前段レンズ群Gfを配置し、かつ縮小側Drに少なくとも一つの単レンズ群(G3…)を含む後段レンズ群Grを配置して構成した投射レンズ装置1を構成するに際し、前段レンズ群Gfを、拡大側Deから縮小側Drへ正の第1レンズ群G1と負の第2レンズ群G2により全体を負のパワーにより構成するとともに、後段レンズ群Grを、拡大側Deから縮小側Drへ正の第3レンズ群G3,負の第4レンズ群G4,正の第5レンズ群G5,負の第6レンズ群G6,正の第7レンズ群G7,正の第8レンズ群G8により構成し、ズーミング時に、前段レンズ群Gfを一体に移動させ、かつ第8レンズ群G8を不動とし、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7を移動させるズーミング機能部Fzを備えるとともに、フォーカシング時に、第1レンズ群G1及び後段レンズ群Grを不動とし、第2レンズ群G2のみを移動させるフォーカシング機能部Ffを備えることを特徴とする。
【0012】
この場合、発明の好適な態様により、第1レンズ群G1は、拡大側Deに配置し、拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL1と縮小側Drに配置する両凸レンズL2の二枚のレンズにより構成することができるとともに、第2レンズ群G2は、拡大側Deから縮小側Drへ、拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL3,拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL4,両凹レンズL5の三枚のレンズにより構成することができる。一方、フォーカシング機能部Ffは、遠距離側(De)から近距離側(Dr)へのフォーカシング時に、第2レンズ群G2を、拡大側Deへ移動させることができる。また、ズーミング機能部Fzは、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7の各レンズ群G3…G7を拡大側Deへ移動させる際に、前段レンズ群Gfを縮小側Drへ移動させることができる。なお、投射レンズ装置1は、プロジェクタP用の組込レンズ又は交換レンズ100として用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
このような構成を有する本発明に係る投射レンズ装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) 前段レンズ群Gfを、拡大側Deから縮小側Drへ正の第1レンズ群G1と負の第2レンズ群G2により全体を負のパワーにより構成するとともに、後段レンズ群Grを、拡大側Deから縮小側Drへ正の第3レンズ群G3,負の第4レンズ群G4,正の第5レンズ群G5,負の第6レンズ群G6,正の第7レンズ群G7,正の第8レンズ群G8により構成し、ズーミング時に、前段レンズ群Gfを一体に移動させ、かつ第8レンズ群G8を不動とし、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7を移動させるズーミング機能部Fzを備えるとともに、フォーカシング時に、第1レンズ群G1及び後段レンズ群Grを不動とし、第2レンズ群G2のみを移動させるフォーカシング機能部Ffを備えるため、フォーカシング時には、最も拡大側に位置するレンズを含む最前側のレンズ群を不動にし、第2レンズ群G2のみの移動によりフォーカス調整を行うことができる。即ち、比較的小径かつ軽量のレンズを含み、かつ負のパワーの強い第2レンズ群G2のみの移動によりフォーカス調整を行うため、調整時における像面の変動を小さくすることが可能となり、安定したフォーカシングを行うことができる。しかも、フォーカス調整機構(フォーカス調整機能部Ff)における操作性の向上或いは電動操作時における制御応答性の向上を実現できるため、精度の高いフォーカシングを行うことができるとともに、フォーカス調整機構を含む投射レンズ装置1全体の小型コンパクト化及びコストダウンに寄与できる。
【0015】
(2) 好適な態様により、第1レンズ群G1を構成するに際し、拡大側Deに配置し、拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL1と縮小側Drに配置する両凸レンズL2の二枚のレンズにより構成すれば、フォーカシング時に、比較的大径となる二枚の単レンズにより構成する第1レンズ群G1を不動にできるため、本発明に係る投射レンズ装置1の利点を享受する観点から最適な形態として実施できる。
【0016】
(3) 好適な態様により、第2レンズ群G2を構成するに際し、拡大側Deから縮小側Drへ、拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL3,拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL4,両凹レンズL5の三枚のレンズにより構成すれば、フォーカシング時に、比較的小径となる三枚の単レンズにより構成する第2レンズ群G2のみを移動させれば足りるため、本発明に係る投射レンズ装置1の利点を享受する観点から最適な形態として実施できる。
【0017】
(4) 好適な態様により、フォーカシング機能部Ffを構成するに際し、遠距離側(De)から近距離側(Dr)へのフォーカシング時に、第2レンズ群G2を、拡大側Deへ移動させる構成を採用すれば、公知のフォーカシング機構を踏襲することにより容易にフォーカシング機能部Ffを構築可能になるため、フォーカシング機能部Ffの設計容易化及び設計時のコストダウンに寄与できる。
【0018】
(5) 好適な態様により、ズーミング機能部Fzを構成するに際し、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7の各レンズ群G3…G7の拡大側Deへの移動時に、前段レンズ群Gfを縮小側Drへ移動させる構成を採用すれば、公知のズーミング機構を踏襲することにより容易にズーミング機能部Fzを構築可能になるため、ズーミング機能部Fzの設計容易化及び設計時のコストダウンに寄与できる。
【0019】
(6) 好適な態様により、投射レンズ装置1を、プロジェクタP用の組込レンズ又は交換レンズ100として用いれば、全体のレンズ枚数が多くなり、光学系の全長が比較的長くなるとともに、最も拡大側に配置するレンズのレンズ径及びレンズ重量がかなり大きくなるプロジェクタP用の組込レンズ又は交換レンズ100にとっての最適な投射レンズ装置1として提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の好適実施形態に係る投射レンズ装置の光学系構成図、
【
図2】同投射レンズ装置のズーミング調整時におけるレンズ群の移動位置を示す作用説明図、
【
図3】同投射レンズ装置におけるレンズデータの面データ、
【
図4】同投射レンズ装置におけるレンズデータのフォーカス可変間隔データ、
【
図5】同投射レンズ装置をプロジェクタに使用した場合の概要図、
【
図6】同投射レンズ装置の基準距離における縦収差特性図、
【
図7】同投射レンズ装置の近距離における縦収差特性図、
【
図8】同投射レンズ装置の遠距離における縦収差特性図、
【
図9】同投射レンズ装置の基準距離(ワイド側)における横収差特性図、
【
図10】同投射レンズ装置の基準距離(テレ側)における横収差特性図、
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施形態に係る投射レンズ装置1の構成について、
図1-
図5を参照して説明する。
【0023】
図1は、投射レンズ装置1のレンズ構成を示す。
図1中、11は、投射レンズ装置1の後方に配置されたプリズムを示すとともに、
図2中、12は、プリズム11の後方に配置されたLCD等の画像表示素子を示す。また、Ccは光軸を示すとともに、Hは、レンズ鏡筒部を示す。さらに、矢印Deは、
図5に示すスクリーン200(OBJ)側となる拡大側(近距離側)を示すとともに、矢印Drは、画像表示素子12側となる縮小側(遠距離側)を示している。
【0024】
投射レンズ装置1は、
図1に示すように、基本構成として、拡大側Deに配置した前段レンズ群Gfと、縮小側Drに配置した後段レンズ群Grを備える。この場合、前段レンズ群Gfは、拡大側Deから縮小側Drへ、第1レンズ群G1,第2レンズ群G2の二つの単レンズ群(G1,G2)を順次配置して構成するとともに、後段レンズ群Grは、拡大側Deから縮小側Drへ、第3レンズ群G3,第4レンズ群G4,第5レンズ群G5,第6レンズ群G6,第7レンズ群G7,第8レンズ群G8の六つの単レンズ群(G3…G8)を順次配置して構成する。
【0025】
第1レンズ群G1は、拡大側Deに配置し、かつ拡大側Deのレンズ面(i=1)が凸面となる負メニスカスレンズL1と、縮小側Drに配置した両凸レンズL2の二枚のレンズを備えており、この第1レンズ群G1は全体として正のパワーとなる。このように、第1レンズ群G1を構成するに際し、拡大側Deに配置し、拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL1と縮小側Drに配置する両凸レンズL2の二枚のレンズにより構成すれば、フォーカシング時に、比較的大径となる二枚の単レンズにより構成する第1レンズ群G1を不動にできるため、本発明に係る投射レンズ装置1の利点を享受する観点から最適な形態として実施できる。
【0026】
第2レンズ群G2は、拡大側Deに配置し、かつ拡大側Deのレンズ面(i=5)が凸面となる負メニスカスレンズL3,この負メニスカスレンズL3の縮小側Drに配置し、かつ拡大側Deのレンズ面(i=7)が凸面となる負メニスカスレンズL4,この負メニスカスレンズL4の縮小側Drに配置した両凹レンズL5,の三枚のレンズを備えており、この第2レンズ群G2は全体として負のパワーとなる。このように、第2レンズ群G2を構成するに際し、拡大側Deから縮小側Drへ、拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL3,拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL4,両凹レンズL5の三枚のレンズにより構成すれば、フォーカシング時に、比較的小径となる三枚の単レンズにより構成する第2レンズ群G2のみを移動させれば足りるため、本発明に係る投射レンズ装置1の利点を享受する観点から最適な形態として実施できる。
【0027】
前段レンズ群Gfは、正の第1レンズ群G1と負の第2レンズ群G2により構成し、前段レンズ群Gfは、全体として負のパワーを有する構成となる。
【0028】
一方、
図1に示すように、後段レンズ群Grを構成する第3レンズ群G3は、拡大側Deに配置した両凹レンズL6と縮小側Drに配置した両凸レンズL7の二枚のレンズを備えるとともに、第4レンズ群G4は、拡大側Deに配置した両凸レンズL8と、縮小側Drに配置し、かつ縮小側Drのレンズ面(i=18)が平坦に近い凸面となる負メニスカスレンズL9を接合した一つの接合レンズJaを備える。また、第5レンズ群G5は、拡大側Deに配置し、かつ拡大側Deのレンズ面(i=19)が凸面となる正メニスカスレンズL10と縮小側Drに配置した両凸レンズL11の二枚のレンズを備えるとともに、第6レンズ群G6は、拡大側Deに配置した両凹レンズL12と、縮小側Drに配置し、かつ縮小側Drのレンズ面(i=27)が凸面となる正メニスカスレンズL13の二枚のレンズを備える。さらに、第7レンズ群G7は、拡大側Deから縮小側Drへ、拡大側Deに配置し、かつ拡大側Deのレンズ面(i=30)が平坦に近い凸面となる負メニスカスレンズL14と縮小側Drに配した両凸レンズL15を接合した接合レンズJb,縮小側Drのレンズ面(i=34)が凸面となる負メニスカスレンズL16,両凸レンズL17,両凸レンズL18の五枚のレンズ、即ち、一つの接合レンズと三枚の単レンズを備えるとともに、第8レンズ群G8は、一枚の両凸レンズL19を備える。
【0029】
この場合、各レンズ群G3-G8のパワーは、第3レンズ群G3が正パワー,第4レンズ群G4が負パワー,第5レンズ群G5が正パワー,第6レンズ群G6が負パワー,第7レンズ群G7が正パワー,第8レンズ群G8が正パワーとなる。
【0030】
以上が、投射レンズ装置1の光学系(レンズ構成)となり、さらに、この光学系に対しては、ズーミング調整を行うズーミング機能部Fz及びフォーカシング調整を行うフォーカシング機能部Ffを付設する。
【0031】
ズーミング機能部Fzは、
図1に示すように、ズーミング時に、前段レンズ群Gfを一体に移動させ、かつ第8レンズ群G8を不動とし、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7を移動させる機能を備える。
図2(a)は、基準距離(OBJ=3750mm)におけるワイド側のレンズ位置を示すとともに、
図2(b)は、基準距離におけるテレ側のレンズ位置を示す。この基準距離は、
図5に示すように、プロジェクタPに装着した投射レンズ装置1の最も拡大側Deに位置するレンズ(負メニスカスレンズ)L1からスクリーン200(OBJ)までの距離である。
【0032】
図2(a)に示すワイド側のレンズ位置から
図2(b)に示すテレ側のレンズ位置へ移動する場合、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7の各レンズ群G3…G7は拡大側Deへ移動し、かつ前段レンズ群Gfは縮小側Drへ移動する。他方、
図2(b)に示すテレ側のレンズ位置から
図2(a)に示すワイド側のレンズ位置へ移動する場合、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7の各レンズ群G3…G7は縮小側Drへ移動し、かつ前段レンズ群Gfは拡大側Deへ移動する。なお、いずれの場合も、第8レンズ群G8は不動(固定)となる。
【0033】
このように、ズーミング機能部Fzを構成するに際し、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7の各レンズ群G3…G7の拡大側Deへの移動時に、前段レンズ群Gfを縮小側Drへ移動させる構成を採用すれば、公知のズーミング機構を踏襲することにより容易にズーミング機能部Fzを構築可能になるため、ズーミング機能部Fzの設計容易化及び設計時のコストダウンに寄与できる。
【0034】
また、フォーカシング機能部Ffは、フォーカシング時に、第1レンズ群G1及び後段レンズ群Grを不動(固定)とし、第2レンズ群G2のみを移動させる機能を備える。即ち、フォーカシング時に移動させるレンズ群は、
図1に示す、負メニスカスレンズL3,L4及び両凹レンズL5の三枚のレンズを含む第2レンズ群G2のみを移動させる。この場合、遠距離側(De)から近距離側(Dr)へのフォーカシング時には、第2レンズ群G2を、拡大側Deへ移動させ、かつ近距離側(Dr)から遠距離側(De)へのフォーカシング時には、第2レンズ群G2を、縮小側Drへ移動させる。
【0035】
このように、フォーカシング機能部Ffを構成するに際し、遠距離側(De)から近距離側(Dr)へのフォーカシング時に、第2レンズ群G2を、拡大側Deへ移動させる構成を採用すれば、公知のフォーカシング機構を踏襲することにより容易にフォーカシング機能部Ffを構築可能になるため、フォーカシング機能部Ffの設計容易化及び設計時のコストダウンに寄与できる。
【0036】
図3には、本実施形態に係る投射レンズ装置1におけるレンズデータの面データを示すとともに、
図4には、同投射レンズ装置1におけるレンズデータのフォーカス可変間隔データを示す。
【0037】
図3の「面データ」は、スクリーン200(OBJ)側から数えたレンズ面の面番号を(i)で示す。この面番号(i)は、
図1に示した一部の符号(一部の数字)に一致する。そして、各面番号(i)に対応して、レンズ面の曲率半径R(i)、軸上面間隔D(i)、硝材の屈折率nd(i)、硝材のアッベ数νd(i)をそれぞれ示す。nd(i)及びνd(i)はd線(550nm)に対する数値である。軸上面間隔D(i)は相対向する面と面間のレンズ厚或いは空気空間を示す。曲率半径R(i),面間隔D(i)の単位は〔mm〕である。面番号のOBJはスクリーン200の位置となる。曲率半径R(i)の「Infinity」は平面である。また、屈折率nd(i)とアッベ数νd(i)の空欄は空気であることを示す。
【0038】
一方、
図6-
図10には、本実施形態に係る投射レンズ装置1の収差特性を示す。
図6は投射レンズ装置1の基準距離(3750mm)における縦収差特性であり、(a),(b)はそれぞれワイド側,テレ側を示す。
図7は投射レンズ装置1の近距離(2500mm)における縦収差特性であり、(a),(b)はそれぞれワイド側,テレ側を示す。
図8は投射レンズ装置1の遠距離(9375mm)における縦収差特性であり、(a),(b)はそれぞれワイド側,テレ側を示す。また、各縦収差図は、左側から、球面収差(610nm,550nm,455nm)、非点収差(550nm)、歪曲収差(550nm)を示す。各スケールは、±0.05mm,±0.05mm,±1.0%である。
図6-
図8に示す収差特性のように、いずれの場合であっても良好な縦収差、即ち、光学性能が得られることを確認できる。
【0039】
他方、
図9は投射レンズ装置1の基準距離(3750mm)におけるワイド側の横収差特性を示すとともに、
図10は投射レンズ装置1の基準距離におけるテレ側の横収差特性を示す。各横収差図は、相対画角(a)-(e)における550nmのタンジェンシャル面方向(T)とサジタル面方向(S)の収差特性をそれぞれ示す。
図9-
図10に示す収差特性のように、いずれの場合であっても良好な横収差、即ち、光学性能が得られることを確認できる。
【0040】
よって、このような本実施形態に係る投射レンズ装置1によれば、基本構成として、前段レンズ群Gfを、拡大側Deから縮小側Drへ正の第1レンズ群G1と負の第2レンズ群G2により全体を負のパワーにより構成するとともに、後段レンズ群Grを、拡大側Deから縮小側Drへ正の第3レンズ群G3,負の第4レンズ群G4,正の第5レンズ群G5,負の第6レンズ群G6,正の第7レンズ群G7,正の第8レンズ群G8により構成し、ズーミング時に、前段レンズ群Gfを一体に移動させ、かつ第8レンズ群G8を不動とし、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7を移動させるズーミング機能部Fzを備えるとともに、フォーカシング時に、第1レンズ群G1及び後段レンズ群Grを不動とし、第2レンズ群G2のみを移動させるフォーカシング機能部Ffを備えるため、フォーカシング時には、最も拡大側に位置するレンズを含む最前側のレンズ群を不動にし、第2レンズ群G2のみの移動によりフォーカス調整を行うことができる。即ち、比較的小径かつ軽量のレンズを含む第2レンズ群G2のみの移動によりフォーカス調整を行うため、フォーカス調整機構(フォーカス調整機能部Ff)における操作性の向上或いは電動操作時における制御応答性の向上を実現できるため、精度の高いフォーカシングを行うことができるとともに、フォーカス調整機構を含む投射レンズ装置1全体の小型コンパクト化及びコストダウンに寄与できる。しかも、フォーカシング時には、負のパワーの強い第2レンズ群G2のみを移動させるため、像面の変動を小さくすることが可能となり、安定したフォーカシングを行うことができる。
【0041】
特に、投射レンズ装置1を、
図5に示すプロジェクタP用の組込レンズ又は交換レンズ100として用いれば、全体のレンズ枚数が多くなり、光学系の全長が比較的長くなるとともに、最も拡大側に配置するレンズのレンズ径及びレンズ重量がかなり大きくなるプロジェクタP用の組込レンズ又は交換レンズ100にとっての最適な投射レンズ装置1として提供できる。
【0042】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0043】
例えば、前段レンズ群Gfを構成するに際し、第1レンズ群G1を、拡大側Deに配置し、拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL1と縮小側Drに配置する両凸レンズL2の二枚のレンズにより構成し、第2レンズ群G2を、拡大側Deから縮小側Drへ、拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL3,拡大側Deが凸面となる負メニスカスレンズL4,両凹レンズL5の三枚のレンズにより構成する場合を例示したが、前段レンズ群Gfを、拡大側Deから縮小側Drへ正の第1レンズ群G1と負の第2レンズ群G2により全体を負のパワーとなるように構成することを前提に他のレンズ構成を排除するものではない。また、フォーカシング機能部Ffは、遠距離側(De)から近距離側(Dr)へのフォーカシング時に、第2レンズ群G2を、拡大側Deへ移動させることができるものであれば、各種機構により構成できるとともに、手動操作であるか自動(電動)操作であるかは問わない。さらに、ズーミング機能部Fzは、第3レンズ群G3から第7レンズ群G7の各レンズ群G3…G7を拡大側Deへ移動させる際に、前段レンズ群Gfを縮小側Drへ移動させることができるものであれば、各種機構により構成できるとともに、手動操作であるか自動(電動)操作であるかは問わない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る投射レンズ装置は、プロジェクタ等の各種光学機器における組込レンズ又は交換レンズとして利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1:投射レンズ装置,De:拡大側,Dr:縮小側,Gf:前段レンズ群,Gr:後段レンズ群,G1:第1レンズ群(単レンズ群),G2:第2レンズ群(単レンズ群),G3:第3レンズ群(単レンズ群),G4:第4レンズ群(単レンズ群),G5:第5レンズ群(単レンズ群),G6:第6レンズ群(単レンズ群),G7:第7レンズ群(単レンズ群),G8:第8レンズ群(単レンズ群),L1:負メニスカスレンズ,L2:両凸レンズ,L3:負メニスカスレンズ,L4:負メニスカスレンズ,L5:両凹レンズ,Fz:ズーミング機能部,Ff:フォーカシング機能部,P:プロジェクタ,100:組込レンズ又は交換レンズ