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特許7405452触媒の製造方法、触媒、組成物の製造方法、組成物、電極、電極の製造方法、燃料電池、金属空気電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】触媒の製造方法、触媒、組成物の製造方法、組成物、電極、電極の製造方法、燃料電池、金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/22 20060101AFI20231219BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231219BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20231219BHJP
【FI】
B01J31/22 M
B01J37/02 101C
H01M4/88 K
H01M4/90 Y
H01M12/06 F
H01M12/08 K
H01M8/10 101
H01M8/12 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021544008
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2020033290
(87)【国際公開番号】W WO2021045121
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2019162370
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【弁理士】
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】藪 浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
(72)【発明者】
【氏名】阿部 博弥
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛希
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-059578(JP,A)
【文献】特開2015-091578(JP,A)
【文献】特開2012-148225(JP,A)
【文献】特開昭58-186169(JP,A)
【文献】国際公開第2006/003943(WO,A1)
【文献】特開2016-085925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 4/88,4/90,8/10,
8/12,12/06,12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程(a)と、
前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程(b)と、
前記分散液から前記溶媒を除去する工程(c)と、
を含み、
前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を触媒とする、酸素還元触媒の製造方法であって、
前記溶液中の前記金属錯体の濃度が、0.0001~5g/Lであり、
前記金属錯体が、下式(11)で表される金属錯体であり、
前記溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記導電性粉体が、カーボンナノチューブ、カーボンブラック又はグラフェンである、触媒の製造方法。
【化1】
式(11)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D、D、D、Dはそれぞれ独立に窒素原子又は炭素原子であり、D、D、D、Dのうち少なくとも一つは炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは原子である。
【請求項2】
前記複合体に200℃以上の熱処理を施さずに触媒とする、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)と前記工程(b)を前記溶媒の沸点以下の温度で行う、請求項1又は2に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)と前記工程(b)を80℃以下の温度で行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒の沸点以下の温度で前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
前記分散液をろ過することで前記溶媒を除去する、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
ろ過した後の濾液の吸光度が、前記溶液と比較して10%以上低下する、請求項6に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
前記金属錯体の前記溶媒に対する溶解度が、0.1g/L以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒の溶解度パラメータが、10~20(MPa)1/2である、請求項1~8のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項10】
金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程(a)と、
前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程(b)と、
前記分散液から前記溶媒を除去する工程(c)と、
を含み、
前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を酸素還元触媒とし、
前記酸素還元触媒と、液状媒体とを混合する工程(d)をさらに含む、組成物の製造方法であって、
前記溶液中の前記金属錯体の濃度が、0.0001~5g/Lであり、
前記金属錯体が、下式(11)で表される金属錯体であり、
前記溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記導電性粉体が、カーボンナノチューブ、カーボンブラック又はグラフェンである、組成物の製造方法。
【化2】
式(11)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D、D、D、Dはそれぞれ独立に窒素原子又は炭素原子であり、D、D、D、Dのうち少なくとも一つは炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは原子である。
【請求項11】
金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程(a)と、
前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程(b)と、
前記分散液から前記溶媒を除去する工程(c)と、
を含み、
前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を酸素還元触媒とし、
前記触媒と、液状媒体とを混合する工程(d)と、
前記触媒及び前記液状媒体の混合物を、基材の表面に塗布し、前記液状媒体を除去する工程(e)をさらに含む、電極の製造方法であって、
前記溶液中の前記金属錯体の濃度が、0.0001~5g/Lであり、
前記金属錯体が、下式(11)で表される金属錯体であり、
前記溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記導電性粉体が、カーボンナノチューブ、カーボンブラック又はグラフェンである、電極の製造方法。
【化3】
式(11)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D、D、D、Dはそれぞれ独立に窒素原子又は炭素原子であり、D、D、D、Dのうち少なくとも一つは炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは原子である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の製造方法、触媒、組成物の製造方法、組成物、電極、電極の製造方法、燃料電池、金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化還元反応を利用する燃料電池、金属空気電池(以下、単に「燃料電池等」という場合がある。)が知られている。燃料電池においては、酸素の還元反応を促進する触媒として白金担持炭素材料が用いられている。白金担持炭素材料は、酸素の還元反応を促進する機能(酸素還元触媒能)に優れる。
一方、金属空気電池においては、前記触媒として二酸化マンガン担持炭素材料が用いられている。
【0003】
しかし、白金は高価であり、資源量が限られていることから、白金担持炭素材料の代替材料の開発が試みられている。例えば、白金代替触媒としては、遷移金属錯体が用いられている。代表例としては、特許文献1に鉄フタロシアニン(Fe-Pc)を用いた空気極用触媒が記載されている。特許文献1の実施例1には、鉄フタロシアニンと2-プロパノールとをボールミル処理して得られるFe-Pc分散液を調製し、Fe-Pc分散液に導電助剤、助触媒、結着剤等を混合して得られるスラリーを乾固し、空気極合剤を製造する、空気用触媒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-85925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄フタロシアニンは、2-プロパノールに対する溶解度が低い。そのため特許文献1に記載の方法では、鉄フタロシアニンが2-プロパノールに溶解せず、鉄フタロシアニンが2-プロパノールに分散した分散液となり、分散液中には鉄フタロシアニンの結晶が存在する。ここで、燃料電池等の酸素還元触媒の分野においては、結晶状態の鉄フタロシアニンの存在は、電極とした際の酸素還元触媒能及び耐久性の向上に寄与すると従来から考えられていた。加えて、金属錯体の分散液を使用する従来技術においては、結晶状態の金属錯体の濃度を高くすることで、触媒の酸素還元触媒能及び耐久性を高めようとする技術的思想が一般的であった。
しかしながら特許文献1に記載の方法にあっては、分散液中に鉄フタロシアニンの結晶が存在するため、カーボン等の導電助剤の鉄フタロシアニンによる表面処理が不充分である。具体的にはカーボンの表面に鉄フタロシアニンが分子吸着せず、鉄フタロシアニンとカーボン等との相互作用が充分に得られない。したがって、従来の酸素還元触媒にあっては酸素還元触媒能に改善の余地がある。
また、燃料電池等の酸素還元触媒には、電極とした際に優れた耐久性が求められる。
【0006】
本発明は、酸素還元触媒能に優れ、燃料電池及び金属空気電池の電極とした際の耐久性に優れる触媒;酸素還元触媒能に優れ、燃料電池及び金属空気電池の電極とした際の耐久性に優れる触媒の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、金属錯体の分散液の代わりに金属錯体の濃度が相対的に低い金属錯体の溶液を使用することで、触媒の酸素還元触媒能を高めうることを見出した。
すなわち、本発明は、下記の態様を有する。
[1] 金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程(a)と、
前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程(b)と、
前記分散液から前記溶媒を除去する工程(c)と、
を含み、
前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を触媒とする、触媒の製造方法。
[2] 前記溶液中の前記金属錯体の濃度が、0.0001~5g/Lである、[1]に記載の触媒の製造方法。
[3] 前記複合体に200℃以上の熱処理を施さずに触媒とする、[1]又は[2]に記載の触媒の製造方法。
[4] 前記工程(a)と前記工程(b)を前記溶媒の沸点以下の温度で行う、[1]~[3]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
[5] 前記工程(a)と前記工程(b)を80℃以下の温度で行う、[1]~[4]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
[6] 前記溶媒の沸点以下の温度で前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させる、[1]~[5]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
[7] 前記分散液をろ過することで前記溶媒を除去する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
[8] ろ過した後の濾液の吸光度が、前記溶液と比較して10%以上低下する、[7]に記載の触媒の製造方法。
[9] 前記金属錯体の前記溶媒に対する溶解度が、0.1g/L以上である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
[10] 前記金属錯体が下式(1)で表される金属錯体である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【化1】
式(1)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D~Dは、それぞれ独立に窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
[11] 前記金属錯体が、下式(11)で表される金属錯体である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【化2】
式(11)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D、D、D、Dはそれぞれ独立に窒素原子又は炭素原子であり、D、D、D、Dのうち少なくとも一つは炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
[12] 前記溶媒の溶解度パラメータが、10~20(MPa)1/2である、[1]~[11]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
[13] 前記溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも一つである、[1]~[12]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
[14] 前記導電性粉体が、炭素材料、金属材料、金属酸化物材料からなる群から選ばれる少なくとも一つである、[1]~[13]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
[15] [1]~[14]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法で得られた触媒。
[16] 金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程(a)と、
前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程(b)と、
前記分散液から前記溶媒を除去する工程(c)と、
を含み、
前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を触媒とし、
前記触媒と、液状媒体とを混合する工程(d)をさらに含む、組成物の製造方法。
[17] [1]~[14]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法で得られた触媒と、液状媒体とを含む、組成物。
[18] [1]~[14]のいずれか一項に記載の触媒の製造方法で得られた触媒を含む、電極。
[19] 金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程(a)と、
前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程(b)と、
前記分散液から前記溶媒を除去する工程(c)と、
を含み、
前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を触媒とし、
前記触媒と、液状媒体とを混合する工程(d)と、
前記触媒及び前記液状媒体の混合物を、基材の表面に塗布し、前記液状媒体を除去する工程(e)をさらに含む、電極の製造方法。
[20] [18]に記載の電極を有する、燃料電池。
[21] [18]に記載の電極を有する、金属空気電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸素還元触媒能に優れ、燃料電池及び金属空気電池の電極とした際の耐久性に優れる触媒;酸素還元触媒能に優れ、燃料電池及び金属空気電池の電極とした際の耐久性に優れる触媒の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の触媒の製造方法を従来の方法と比較して説明するための模式図である。
図2】本発明の製造方法で得られる触媒を従来の方法で得られる触媒と比較して説明するための模式図である。
図3】実施例1で使用したFeTPPがDMSOに溶解している溶液を示す写真である。
図4】実施例1でFeTPPがDMSOに溶解している溶液に、MWCNTを分散させた分散液を示す写真である。
図5】実施例1で得られた触媒を示す写真である。
図6】実施例1で得られた触媒を示す写真である。
図7】実施例1の触媒のTEMによる観察像である。
図8】比較例1の触媒のSEMによる観察像である。
図9】実施例1、比較例1~4の各電極の1600rpmにおけるLSVの測定結果から酸化還元特性を比較して示すグラフである。
図10】実施例1、比較例3、比較例4の1600rpmにおけるLSVの測定結果から酸化還元特性を比較して示すグラフである。
図11】実施例1の電極を使用してサイクリックボルタモグラムを1サイクル、50サイクル、100サイクル行ったときのそれぞれのLSV曲線を比較して示す図である。
図12】比較例3のPt/C電極を使用してサイクリックボルタモグラムを1サイクル、50サイクル、100サイクル行ったときのそれぞれのLSV曲線を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、式(1)で表される金属錯体を金属錯体(1)と記す。他の式で表される金属錯体も同様に記す。
「ヘテロ原子」とは、炭素原子及び水素原子以外の原子を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
<触媒の製造方法>
本発明の触媒の製造方法は、以下の工程(a)と、工程(b)と、工程(c)とを含む。本発明の触媒の製造方法においては、前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を触媒とする。
工程(a):金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程。
工程(b):前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程。
工程(c):前記分散液から前記溶媒を除去する工程。
【0012】
(工程(a))
工程(a)においては、金属錯体を溶媒に溶解させて溶液(S)を調製する。溶液(S)は、金属錯体と、金属錯体が溶解した溶媒とを含む。溶液を調製する際の温度、圧力等の条件は、金属錯体が溶媒に溶解可能な条件であれば特に限定されない。
例えば、溶液を調製する際の温度は、溶媒の沸点以下の温度が好ましい。通常は室温(例えば、25℃)で溶液を調製する。溶液を調製する際は、通常、大気圧下で溶液を調製する。
【0013】
金属錯体について説明する。
金属錯体の具体例としては、鉄錯体、コバルト錯体等が挙げられる。ただし、金属錯体は、これら以外の遷移金属錯体、ランタノイド金属錯体、アクチノイド金属錯体等でもよく、金属錯体は、鉄錯体、コバルト錯体に限定されない。
本発明における金属錯体は、下式(1)で表される金属錯体(1)が好ましい。金属錯体(1)は白金の代替材料として有用であるという利点がある。特に金属原子Mの周囲に配位する4つの窒素原子は、ピリジン環構造の一部を構成している。このピリジン環構造の一部を構成する4つの窒素原子が、溶媒に対する優れた溶解性に寄与すると考えられている。
【0014】
【化3】
【0015】
式(1)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D~Dはそれぞれ独立に、窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
【0016】
金属錯体(1)の一例としては、例えば、下記の金属錯体(11)、金属錯体(12)、金属錯体(13)が例示される。
【0017】
【化4】
【0018】
式(11)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D、D、D、Dはそれぞれ独立に窒素原子又は炭素原子であり、D、D、D、Dのうち少なくとも一つは炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
【0019】
【化5】
【0020】
式(12)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、Mは金属原子である。
【0021】
【化6】
【0022】
式(13)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、Mは金属原子である。
【0023】
金属錯体(11)の具体例としては、例えば、下記の金属錯体(11-1)が例示される。ただし、金属錯体(11)の具体例はこの例示に限定されない。
【0024】
【化7】
【0025】
式(11-1)中、Mは金属原子である。
【0026】
金属錯体(12)の具体例としては、例えば、下記の金属錯体(12-1)が例示される。ただし、金属錯体(12)の具体例はこの例示に限定されない。
【0027】
【化8】
【0028】
式(12-1)中、Mは金属原子である。
【0029】
金属錯体(13)の具体例としては、例えば、下記の金属錯体(13-1)が例示される。ただし、金属錯体(13)の具体例はこの例示に限定されない。
【0030】
【化9】
【0031】
式(13-1)中、Mは金属原子である。
【0032】
金属錯体(11)、金属錯体(12)、金属錯体(13)の中でも、酸素還元触媒能がよくなる傾向があることから、金属錯体(11)が好ましい。加えて、金属錯体(11)を用いると、溶媒に対する溶解性がよくなる傾向がある。その結果、導電性粉体との親和性が向上し、導電性粉体の表面に均一に金属錯体が吸着しやすくなる。
【0033】
ここで、金属錯体(1)には、例えば、下記の金属錯体(11-1’)、下記の金属錯体(12-1’)等の異性体が存在し得る。
【0034】
【化10】
【0035】
式(11-1’)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D、D、D、Dはそれぞれ窒素原子又は炭素原子であり、D、D、D、Dのうち少なくとも一つは炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
【0036】
【化11】
【0037】
式(12-1’)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、Mは金属原子である。
【0038】
本発明においては、金属錯体は、上記式(11-1’)、上記式(12-1’)等で示されるような異性体を含む概念である。ここで、金属錯体の異性体は、上記式(11-1’)、上記式(12-1’)で示すものに限定されない。例えば、上記式(11-1’)中、D、D、D、Dのそれぞれが含まれるそれぞれの環状構造から選ばれる少なくとも一つにおいて、窒素原子の位置がD、D、D、Dのいずれかの位置と同一の環状構造内で交換されていてもよい。
以下、金属錯体(1)の態様についてさらに詳細に説明するが、いずれの態様においても、式(11-1’)又は式(12-1’)に示すような異性体が存在し得る。これらの異性体は、いずれも本発明の金属錯体の態様に含まれるものである。
【0039】
金属錯体(1)においては、Mは金属原子である。
窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへ配位を意味する。Mには配位子としてハロゲン原子、水酸基、炭素数1~8の炭化水素基がさらに結合してもよい。また、電気的に中性になるように、アニオン性対イオンが存在してもよい。
【0040】
Mの価数は特に制限されない。金属錯体が静電気的に中性となるように、配位子(例えば、軸配位子)としてハロゲン原子、水酸基、又は、炭素数1~8のアルキルオキシ基が結合してもよく、アニオン性対イオンが存在してもよい。アニオン性対イオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが例示される。
炭素数1~8のアルキルオキシ基が有するアルキル基の構造は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。
【0041】
前記Mとしては、スカンジウム原子、チタン原子、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、イットリウム原子、ジルコニウム原子、ニオブ原子、ルテニウム原子、ロジウム原子、パラジウム原子、ランタン原子、セリウム原子、プラセオジム原子、ネオジム原子、プロメチウム原子、サマリウム原子、ユウロピウム原子、ガドリニウム原子、テルビウム原子、ジスプロシウム原子、ホルミウム原子、エルビウム原子、ツリウム原子、イッテルビウム原子、ルテチウム、アクチニウム原子、トリウム原子、プロトアクチニウム原子、ウラン原子、ネプツニウム原子、プルトニウム原子、アメリシウム原子、キュリウム原子、バークリウム原子、カリホルニウム原子、アインスタイニウム原子、フェルミウム原子、メンデレビウム原子、ノーベリウム原子、ローレンシウム原子が例示される。
これらの中でも、鉄原子、マンガン原子、コバルト原子、銅原子、亜鉛原子が好ましく、鉄原子、マンガン原子、コバルト原子がより好ましく、鉄原子が特に好ましい。
【0042】
Mが鉄原子である場合、鉄原子の周囲に配位する4つの窒素原子が、ピリジン環構造の一部を構成しているため、金属錯体の分子中にこれら4つの窒素原子と鉄原子とを有するFeN構造が局所的に形成される。このFeN構造が形成されると、触媒の酸素還元触媒能がさらによくなる。
【0043】
Mが鉄原子である場合、金属錯体(1)の具体例としては、例えば、下記の金属錯体(11-1-1)、金属錯体(12-1-1)、金属錯体(13-1-1)が例示される。ただし、Mが鉄原子である金属錯体(1)の具体例はこの例示に限定されない。
【0044】
【化12】
【0045】
金属錯体の溶媒に対する溶解度は、金属錯体と溶媒となる化合物との組合せの選択によって主に決定される。例えば、金属錯体が金属錯体(1)である場合においては、金属錯体(1)の構造中のD~Dのうち、窒素原子である原子の数を変更することで、金属錯体(1)の溶媒に対する溶解度を調節できる。これにより、導電性粉体と金属錯体との親和性を高め、酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
【0046】
溶媒について説明する。
溶媒は、金属錯体が溶解し得る化合物であれば、特に限定されない。金属錯体の溶解度が0.1g/L以上である化合物が好ましい。
金属錯体の溶解度は、0.1g/L以上が好ましく、0.4g/L以上がより好ましく、2.0g/L以上がさらに好ましく、10g/L以上が特に好ましい。金属錯体(1)の溶解度の上限値は、特に限定されない。金属錯体(1)の溶解度の上限値は、例えば、20g/Lでもよく、50g/Lでもよく、100g/Lでもよい。
金属錯体の溶解度が前記下限値以上であると、金属錯体が溶媒にさらに溶けやすく、金属錯体が導電性粉体の表面にさらに均一に吸着しやすくなる。その結果、触媒の酸素還元触媒能がさらによくなり、燃料電池の電極とした際の耐久性がさらによくなる。
溶媒に対する金属錯体の溶解度は、通常、25℃、大気圧下で紫外可視分光法を用いて測定される溶媒1Lあたりの金属錯体の溶解量(g)の最大値である。加えて、溶媒に対する金属錯体の溶解度の測定条件は、溶液を調製する際の条件とは無関係に特定される条件である。
【0047】
溶媒の溶解度パラメータは、10~20(MPa)1/2が好ましく、11~13(MPa)1/2がより好ましい。溶媒の溶解度パラメータが前記下限値未満であると、疎水性が高すぎて極性部を有する金属錯体の溶解度が低下する傾向がある。溶媒の溶解度パラメータが前記上限値超であると、極性が高すぎて疎水部を有する金属錯体の溶解度が低下する傾向がある。
溶媒の溶解度パラメータは、例えば、Fedors法によってSP値として推算できる。
【0048】
前記溶液中の前記金属錯体の濃度は、0.0001~5g/Lが好ましく、0.01~1g/Lがより好ましく、0.1~1g/Lが好ましい。
前記金属錯体の濃度が前記下限値以上であると、金属錯体の吸着効率がさらによくなり、吸着速度が高くなり、生産性がよくなる。
前記金属錯体の濃度が前記上限値以下であると、溶液中の金属錯体が導電性粉体の表面に均一に吸着されやすくなり、導電性粉体の表面に金属錯体の単一分子からなる均一な単分子層が形成される。その結果、本発明の触媒の酸素還元触媒能及び耐久性がさらによくなるという効果が得られる。
ここで、金属錯体の分散液を使用していた従来技術においては、結晶状態の金属錯体の濃度を高くすることで、触媒の酸素還元触媒能を高めようとする技術的思想が一般的であった。これに対して本発明の触媒の製造方法によれば、金属錯体の濃度が相対的に低い溶液を使用する。このように、相対的に低濃度の金属錯体の溶液を使用することで、触媒の酸素還元触媒能を高めようとする技術的思想は、本発明の発明者らが知見したものである。
金属錯体の濃度は、例えば、分光光度計による吸光度係数とモル吸光係数に基づいて測定できる。
【0049】
溶液は、金属錯体以外の不純物をさらに含むことがある。この場合、不純物の含有量は、金属錯体の含有量100質量%に対して20質量%以下が好ましい。不純物の含有量が前記上限値以下であると、さらに効率的に金属錯体が導電性粉体に吸着可能である。
【0050】
溶媒は、金属錯体に応じて適宜選択できる。例えば、溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、ヘキサフルオロ-2-プロパノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトン等の非プロトン性極性溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、1,4―ジオキサン等の非極性溶媒が例示される。ただし、溶媒の具体例はこれらの例示に限定されない。
溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。すなわち、溶媒は、単独成分のみからなるものでもよく、混合溶媒であってもよい。
【0051】
例えば、金属錯体として上述の金属錯体(11)、金属錯体(12)、金属錯体(13)を使用する場合、溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも一つが好ましい。ここで、一例として、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランのそれぞれに対する金属錯体(11-1-1)、金属錯体(12-1-1)、金属錯体(13-1-1)の25℃、大気圧下における溶解度を下記の表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1中、「DMSO」の欄は、ジメチルスルホキシドに対する各金属錯体の25℃、大気圧下における溶解度を示す。
表1中、「DMF」の欄は、N,N-ジメチルホルムアミドに対する各金属錯体の25℃、大気圧下における溶解度を示す。
表1中、「THF」の欄は、テトラヒドロフランに対する各金属錯体の25℃、大気圧下における溶解度を示す。
ここで、表1に記載の各溶解度は、後述の実施例に記載の方法で測定した。
【0054】
(工程(b))
工程(b)においては、前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する。
通常、工程(b)において前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成して触媒とする。分散液は、金属錯体が導電性粉体の表面上に吸着している触媒を含む。
分散液を調製する際の温度は、溶媒の沸点以下の温度が好ましい。通常は室温(例えば、25℃)で分散液を調製する。
金属錯体を導電性粉体の表面上に吸着させる際の温度は、溶媒の沸点以下の温度が好ましい。通常は室温(例えば、25℃)で分散液を調製する。
【0055】
導電性粉体について説明する。
導電性粉体は、溶媒に分散可能であり、導電性を具備するものであれば特に限定されない。導電性粉体としては、炭素材料、金属材料、金属酸化物材料からなる群から選ばれる少なくとも一つが挙げられる。これらの中でも、導電性粉体としては炭素材料が好ましい。導電性粉体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
炭素材料の具体例としては、例えば、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が例示される。これらの中でも、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブが好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェンがより好ましく、カーボンナノチューブ、グラフェンがさらに好ましい。
金属材料の具体例としては、チタン、スズ等が挙げられる。
金属酸化物材料の具体例としては、チタン酸化物、スズ酸化物(SnO,ITO、ATO)等が挙げられる。
【0057】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブが例示される。これらの中でも、触媒の導電性が優れる点から、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブが好ましく、多層カーボンナノチューブがさらに好ましい。
【0058】
炭素材料は、水酸基、カルボキシル基、窒素含有基、ケイ素含有基、リン酸基等のリン含有基、スルホン酸基等の硫黄含有基等の官能基を有してもよい。これらの中でも炭素材料は、カルボキシル基を有することが好ましい。炭素材料がカルボキシル基を有すると、炭素材料の表面に金属錯体が吸着しやすくなり、電極とした際の耐久性がさらによくなるとともに、酸素還元触媒能がさらによくなる。
【0059】
炭素材料は、ヘテロ原子を有してもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、ケイ素原子等が例示される。炭素材料がヘテロ原子を有する場合において、炭素材料はヘテロ原子の1種を単独で含んでもよく、2種以上のヘテロ原子を含んでもよい。なお、炭素材料は酸化されていてもよく、水酸化されていてもよく、窒化されていてもよく、リン化されていてもよく、硫化されていてもよく、珪化されていてもよい。
【0060】
炭素材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、炭素材料100質量%に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記上限値以下であると、触媒の製造コストが低下しやすくなる。
【0061】
炭素材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記下限値以上であると、電極とした際の耐久性及び酸素還元触媒能がさらによくなる。
カルボキシル基の含有量は、元素分析又はX線光電子分光法等により測定できる。
【0062】
触媒の導電性が優れ、かつ、酸素還元触媒能がさらに優れる点から、炭素材料はカルボキシル基を有する2層カーボンナノチューブ、カルボキシル基を有する多層カーボンナノチューブが好ましく、カルボキシル基を有する多層カーボンナノチューブがより好ましい。
【0063】
炭素材料の比表面積は0.8m/g以上が好ましく、1.0m/g以上がより好ましく、1.1m/g以上がさらに好ましく、1.5m/g以上が特に好ましく、2.0m/g以上が最も好ましい。比表面積が0.8m/g以上であると、触媒の凝集を防ぎやすくなり、触媒の酸素還元触媒能がさらに優れる。比表面積の上限値は特に限定されない。比表面積の上限値は、例えば、2000m/gとすることができる。
前記比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定できる。
【0064】
導電性粉体の平均粒径は、特に制限されない。導電性粉体の平均粒径は、例えば、5nm~1000μmが好ましい。導電性粉体の平均粒径を前記数値範囲に調整する方法としては、以下の方法(α1)~(α3)が例示される。
・方法(α1):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法。
・方法(α2):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法。
・方法(α3):導電性粉体を製造する際に導電性粉体の製造条件を最適化し、粒子の粒径を調整する方法。
導電性粉体の平均粒子径は、粒度分布測定装置、電子顕微鏡等により測定できる。
【0065】
本発明の触媒の製造方法の一態様においては、溶液(S)に導電性粉体を分散させて分散液を調製する。溶液(S)は、金属錯体と、金属錯体が溶解している溶媒とを含む。
溶液(S)に導電性粉体を分散させる方法は特に限定されない。例えば、下記の方法(β1)、(β2)が例示される。
・方法(β1):溶液(S)と導電性粉体を混合し、得られた混合液に攪拌処理を施す方法。
・方法(β2):溶液(S)と導電性粉体を混合し、得られた混合液をホモジナイザー等の分散機を使用して分散処理を施す方法。
【0066】
方法(β1)において、攪拌処理としては、ミキサーの使用、超音波の照射、マグネチックスターラーによる攪拌、撹拌機による攪拌等が例示される。ただし、攪拌処理はこれらの例示に限定されない。
分散液から溶媒を除去する方法は、特に限定されない。例えば、固液分離等のろ過;減圧乾燥;加熱乾燥等が例示される。ただし、加熱乾燥の場合、触媒の電極とした際の耐久性を考慮すると、加熱温度は低い方が好ましく、具体的には200℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。
【0067】
(工程(c))
工程(c)においては、分散液から前記溶媒を除去し、金属錯体が導電性粉体の表面上に吸着している複合体を触媒として得る。
分散液から溶媒を除去する方法は特に限定されない。例えば、固液分離によって除去できる。固液分離としては、触媒への温度負荷が低減されることから、ろ過が好ましい。すなわち、分散液をろ過することで溶媒を除去することが好ましい。濾過の際においては、ろ過した後の濾液の吸光度が、前記溶液と比較して10%以上低下することが好ましい。これにより、金属錯体が導電性粉体に効果的に吸着したことを判断できると考えられる。
【0068】
本発明においては、溶液(S)に導電性粉体を分散させる。そのため、金属錯体の分子を導電性粉体の表面に分子的に均一に吸着させることができる。その結果、導電性粉体と導電性粉体の表面に層状に吸着した金属錯体とを有する複合体として触媒分子を製造できる。
【0069】
本発明においては、導電性粉体と導電性粉体の表面に層状に吸着した金属錯体とを有する複合体に200℃以上の熱処理を施さずに触媒とすることが好ましく、100℃以上の熱処理を施さずに触媒とすることがより好ましく、50℃以上の熱処理を施さずに触媒とすることがさらに好ましい。
従来、触媒の製造方法においては、金属原子を炭素材料の表面に担持させるために、焼成等の熱処理を行うことが一般的であった。加えて、炭素材料に金属原子、窒素原子等を担持させるためにも、焼成等の熱処理を施すことが重要であると考えられていた。
これに対し本発明においては、従来触媒の製造において重要であると考えられていた熱処理を施さずに、金属錯体の溶媒に対する溶解度を高めて、金属錯体の炭素材料に対する親和性を高めることに着目した。金属錯体の溶媒に対する溶解度を高くし、金属錯体の炭素材料に対する親和性を高めることにより、炭素材料の表面に一分子状態で吸着した金属錯体の錯体層を設けることができる。その結果、白金担持炭素材料と同様又はそれ以上の酸化還元触媒能が得られる。
【0070】
本発明の触媒の製造方法においては、工程(a)と工程(b)はそれぞれ独立の工程でもよく、工程(a)と工程(b)とは同時の又は一体的な工程でもよい。工程(a)と工程(b)とを同時に又は一体的に実行する場合、金属錯体の溶解度が相対的に低い場合において、金属錯体の導電性粉体への吸着がさらに促進される。
工程(a)と工程(b)は、溶媒の沸点以下の温度で行うことが好ましく、例えば、80℃以下の温度で行うことが好ましい。これにより、触媒への温度負荷が低減され、製造コスト低減の観点でも望ましい。
【0071】
(作用効果)
以上説明した本発明の触媒の製造方法にあっては、金属錯体が溶解している溶媒を含む溶液を使用するため、溶液中では金属錯体が溶媒に溶解している。そのため、溶液中に金属錯体の結晶が存在しにくくなり、金属錯体の分子が導電性粉体の表面に均一に吸着される。このように、金属錯体が導電性粉体の表面に分子的に吸着している複合体を触媒とすることで、金属錯体と導電性粉体との間の電子の授受の効率がよくなるため、触媒の酸化還元触媒能がよくなる。
加えて、後述の実施例で示すように金属錯体が溶媒に溶解している場合でも、燃料電池の電極とした際の耐久性に優れる触媒が得られる。
【0072】
図1は、本発明の触媒の製造方法を従来の方法と比較して説明するための模式図である。図1中(a)は、従来の方法を示す模式図である。図1中(b)は、本発明の触媒の製造方法を示す模式図である。
図2は、本発明の製造方法で得られる触媒を従来の方法で得られる触媒と比較して説明するための模式図である。図2中(a)は、従来の方法で得られる触媒を示す模式図である。図2中(b)は、本発明の製造方法で得られる触媒を示す模式図である。
【0073】
従来、図1中(a)に示すように、燃料電池の電極とした際の耐久性の向上を期待して、金属錯体の結晶100が液状媒体101中に分散した分散液Pを用いて、触媒103が製造されることが通例であった。そのため、導電性粉体102の表面に均一に触媒分子である金属錯体の結晶100が付着せず、金属錯体の結晶100と導電性粉体102とが単に混合されている状態であった。よって、従来の触媒においては、結晶状態の金属錯体と導電性粉体102との間の化学的な相互作用能が充分に発揮されなかった。
【0074】
これに対して、本発明の触媒の製造方法にあっては、図1中(b)に示すように、金属錯体50が溶解可能な溶媒51を選択し、金属錯体50の溶液Sに導電性粉体を分散させる。そのため、金属錯体50の分子を導電性粉体52の表面に分子的に均一に吸着させることができる。その結果、導電性粉体52と導電性粉体52の表面に層状に吸着した金属錯体50とを有する触媒53を製造できる(図2中(b))。触媒53は、導電性粉体52と、金属錯体50を含む錯体層とを有するとも言える。錯体層は、導電性粉体52の表面に均一に設けられている。
【0075】
このように触媒53は、金属錯体50が導電性粉体52の表面に吸着した複合体である。触媒53にあっては、導電性粉体52の表面に金属錯体50が吸着しているため、金属錯体50と導電性粉体52との間の化学的な相互作用能が向上する。その結果、触媒53においては、結晶の存在下で製造していた従来の触媒と比較して酸化還元触媒能が飛躍的に向上する。
【0076】
このように本発明の触媒の製造方法においては、導電性粉体の表面に触媒分子である金属錯体が均一に分子吸着しているため、酸化還元触媒能に優れる触媒が得られる。また、得られる触媒の電極とした際の耐久性もよい。
よって、従来、燃料電池の酸化還元触媒の用途に適用されなかった金属錯体を、溶媒の選択によって触媒の製造に適用できる可能性がある。そのため、金属錯体を溶解し得る溶媒の選択によって、種々の金属錯体を触媒の製造に適用できるようになり、金属錯体の選択肢が従来技術と比較して増加する。
【0077】
(用途)
本発明によれば、酸素還元触媒能に優れ、電極とした際の耐久性にともに優れる触媒が得られる。そのため、酸素の還元反応を利用する産業上の用途に好適に利用できる。特に、燃料電池及び金属空気電池の電極、電気化学反応用電極に好適に適用できる。
触媒は、後述の組成物の製造にも適用できる。
【0078】
<触媒>
本発明の触媒は、金属錯体を含む錯体層と導電性粉体とを有する。そして、錯体層は前記導電性粉体の表面を被覆している。錯体層は、分子吸着により導電性粉体の表面を被覆している。本発明の触媒は、金属錯体を含む錯体層が導電性粉体の表面に吸着した複合体であるとも言える。
本発明の触媒にあっては、導電性粉体の表面に金属錯体が吸着しているため、金属錯体と導電性粉体との間の化学的な相互作用能が向上する。その結果、結晶の存在下で製造していた従来の触媒と比較して酸化還元触媒能が飛躍的に向上する。
本発明の触媒は、例えば、上述の本発明の触媒の製造方法によって得ることができる。すなわち、本発明の触媒は、本発明の触媒の製造方法によって得られる触媒であるともいえる。
本発明の触媒は、例えば、後述の組成物に適用できる。
【0079】
<組成物の製造方法>
本発明の組成物の製造方法は、金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程(a)と、前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程(b)と、前記分散液から前記溶媒を除去する工程(c)と、を含み、前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を触媒とし、前記触媒と、液状媒体とを混合する工程(d)をさらに含む。
すなわち、本発明の組成物の製造方法は、上述の本発明の触媒の製造方法の各工程に加えて、下記の工程(d)をさらに含む。
工程(d):触媒と、液状媒体とを混合する工程。
【0080】
工程(a)、工程(b)、工程(c)の詳細及び好ましい態様は、上述の本発明の<触媒の製造方法>の項において説明した内容と同内容とすることができる。
【0081】
(工程(d))
工程(d)では、前記触媒と、液状媒体とを混合する。例えば、工程(d)では、組成物は、触媒と液状媒体と必要に応じてパーフルオロカーボン材料とを混合又は混練してもよい。
【0082】
混合又は混練に際しては、超音波処理、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル等を使用してもよい。混練操作の前後においては、ふるい等を使用して、粒子の平均粒子径を調整してもよい。
パーフルオロカーボン材料を含む組成物を調製する際には、触媒とパーフルオロカーボン材料と必要に応じて水とアルコールとを混合し、均一になるまで撹拌してもよい。
【0083】
液状媒体としては、水等の無機質媒体であってもよく、有機媒体であってもよい。
有機媒体の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(2-プロパノール)、1-ヘキサノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;テトラヒドロフラン;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトン等の非プロトン性極性溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、1,4―ジオキサン、ベンゼン、トルエン等の非極性溶媒が例示される。ただし、液状媒体はこれらの例示に限定されない。
液状媒体は触媒の製造の際に使用した溶媒と同一でもよく、異なっていてもよい。
液状媒体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
混合又は混練に際しては、触媒、液状媒体以外の任意成分をさらに混合してもよい。これにより、触媒、液状媒体以外の任意成分をさらに含む組成物が得られる。例えば、任意成分として、ポリテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖とを含むパーフルオロカーボン材料を使用してもよい。パーフルオロカーボン材料を使用すると、パーフルオロカーボン材料をさらに含む組成物が得られる。
パーフルオロカーボン材料の具体例としては、Nafion(製品名:デュポン社製)が例示される。ただし、パーフルオロカーボン材料はこの例示に限定されない。
【0085】
<組成物>
本発明の組成物は、本発明の触媒の製造方法によって得られた触媒と液状媒体とを含む。液状媒体、触媒、液状媒体以外の任意成分の詳細については、<組成物の製造方法>の項で述べた内容と同様である。
例えば、組成物は、電極の製造において使用する塗工液として使用できる。すなわち、組成物は、電極製造用組成物として有用である。電極の製造については、<電極の製造方法>の項で後述する。
組成物は、例えば、触媒が液状媒体に分散した分散液タイプでもよい。
組成物は、助触媒、結着剤等を必要に応じてさらに含んでもよい。組成物は、例えば、電極の製造に適用できる。
【0086】
<電極の製造方法>
本発明の電極の製造方法は、金属錯体を溶媒に溶解させて溶液を調製する工程(a)と、前記溶液中に導電性粉体を分散させて分散液を調製する工程(b)と、前記分散液から前記溶媒を除去する工程(c)と、を含み、前記金属錯体を前記導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成し、前記複合体を触媒とし、前記触媒と、液状媒体とを混合する工程(d)と、前記触媒及び前記液状媒体の混合物を、基材の表面に塗布し、前記液状媒体を除去する工程(e)をさらに含む。
すなわち、本発明の電極の製造方法は、上述の本発明の触媒の製造方法の各工程に加えて、下記の工程(d)と工程(e)をさらに含む。
工程(d):触媒と、液状媒体とを混合する工程。
工程(e):触媒及び液状媒体の混合物を、基材の表面に塗布し、液状媒体を除去する工程。
【0087】
工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)の詳細及び好ましい態様は、上述の本発明の<触媒の製造方法>の項又は<電極の製造方法>の項において説明した内容と同内容とすることができる。
触媒及び液状媒体の混合物は、本発明の組成物であるとも言える。そのため、本発明の触媒の製造方法の一態様では、本発明の組成物の製造方法で得られた組成物を基材の表面に塗布し、前記液状媒体を除去するとも言える。
【0088】
(工程(e))
工程(e)では、組成物を種々の基材の表面に塗布して、基材の表面に組成物を含む層を設ける。その後、組成物を含む層から液状媒体を除去する。液状媒体を除去した後には基材の表面に触媒を含む触媒層が設けられる。
組成物を基材の表面に塗布する際の厚みは、特に限定されない。例えば、触媒層の厚みが、0.01~100μmとなるように組成物を基材の表面に塗布してもよい。触媒層の厚みが前記下限値以上であると、電極の耐久性がさらによくなる。厚みが前記上限値以下であると、電極の性能が低下しにくい。
液状媒体を除去する際は、加熱乾燥をしてもよく、乾燥後にプレスを行ってもよい。
【0089】
基材(基板)としては、アルミニウム箔、電解アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ(エキスパンドメタル)、発泡アルミニウム、パンチングアルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金、銅箔、電解銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、ニッケルメッシュ、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、発泡ニッケル、スポンジニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、鋼板、パンチング鋼板、銀等が例示される。
基材は、シリコン基板;金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、リチウム等の金属基板;これらの金属の任意の組み合わせを含む合金基板;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板;グラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンフェルト等の炭素基板等の基板状の基材でもよい。ただし、基材は、これらの例示に限定されない。
【0090】
基材として、例えば多孔質支持層を有する基板を用いることで、本発明の製造方法で得られる電極を燃料電池用の電極として利用してもよい。燃料電池の電極として利用する場合、電極はカソード又はアノードのいずれの電極に用いてもよい。
多孔質支持層とは、ガスを拡散する層である。多孔質支持層としては、電子伝導性を具備し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば特に限定されない。多孔質支持層としては、カーボンペーパー、カーボンクロス等の炭素系多孔質材料、ステンレス箔、耐食材を被服したアルミニウム箔等が例示される。
【0091】
本発明の製造方法で得られる電極は、燃料電池の電極として利用できる。燃料電池の電極として利用する場合、一対の電極の間に電解質膜を配置してもよい。
電極を燃料電池の電極として利用する場合、酸性条件下では下式(2)に示す酸素の還元反応が進行しやすくなり、アルカリ性条件下では下式(3)に示す還元反応が進行しやすくなる。
+4H+4e→2HO ・・・(2)
+2HO+4e→4OH ・・・(3)
【0092】
本発明の電極の製造方法によれば、酸素還元触媒能に優れ、電極とした際の耐久性に優れる触媒を含む電極を製造できる。
【0093】
<電極>
本発明の電極は、本発明の触媒を含む。すなわち、本発明の電極は、触媒の製造方法で得られた触媒を含む。本発明の電極は、例えば、上述の本発明の電極の製造方法により製造できる。
電極は、燃料電池、金属空気電池等の蓄電デバイス(発電デバイス)用の電極に好適に適用できる。
【0094】
<燃料電池>
本発明の燃料電池は、本発明の触媒を含む電極を有する。燃料電池は、例えば、第1の電極と第2の電極と電解質とセパレータとを有する。ここで、第1の電極は、上述の本発明の電極の製造方法で得られる電極である。第2の電極は第1の電極と組み合せて用いられる電極である。
【0095】
第1の電極がカソードである場合、第2の電極はアノードであり、第1の電極がアノードである場合、第2の電極はカソードである。
第2の電極としては、アルミニウム、亜鉛等の金属単体、これらの金属酸化物が例示される。ただし、第2の電極はこれらの例示に限定されない。
【0096】
電解質としては、水性電解液が好ましい。水性電解液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液;硫酸水溶液等の酸性水溶液が例示される。電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、電解質はこれらの例示に限定されず、無機固体電解質でもよい。
【0097】
セパレータは、第1の電極と第2の電極とを隔離し、電解質を保持して第1の電極と第2の電極との間のイオン伝導性を確保する部材である。
セパレータの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ビニロン、ポリ(メタ)アクリル酸等のマイクロポアを有する重合体、ゲル化合物、イオン交換膜、環化重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有重合体、スルホン酸塩含有重合体、第四級アンモニウム塩含有重合体、第四級ホスホニウム塩含有重合体等が例示される。ただし、セパレータはこれらの例示に限定されない。
【0098】
燃料電池は一次電池でもよく、二次電池でもよい。
燃料電池の形態としては、金属空気電池、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、固体高分子型燃料電池(PEFC)、酵素(バイオ)燃料電池、微生物燃料電池、ヒドラジン燃料電池、メタノール直接酸化型燃料電池(DMFC)等が例示される。燃料電池の形態はこれらの例示に限定されないが、PEFC、DMFCが好ましい。
【0099】
本発明の燃料電池は、例えば、第1の電極を製造する際に、上述の本発明の電極の製造方法で得られた電極を使用することで製造できる。これにより、本発明の製造方法で得られる触媒を含む第1の電極を有する燃料電池を製造できる。
【0100】
本発明の燃料電池は、酸素還元触媒能に優れ、耐久性に優れる電極を有する。
本発明の金属空気電池は、本発明の製造方法で得られる電極を有する。金属空気電池の詳細は上述の燃料電池について説明した内容と同内容とすることができる。本発明の金属空気電池は、燃料電池の製造方法と基本的に同様にして製造できる。
【実施例
【0101】
以下、実施例によって本実施形態を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0102】
<略号>
FeTPP:鉄テトラピリドポリフィラジン(後述の方法で合成したもの)
FePc:鉄フタロシアニン(東京化成工業社製「P0774」)
DBU:ジアザビシクロウンデセン
DMSO:ジメチルスルホキシド
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
THF:テトラヒドロフラン
MWCNT:(Sigma Aldrich社製「755125」)
TEM:Transmission Electron Microscope
SEM:Scanning Electron Microscope
XPS:X-ray photoelectron spectroscopy
RRDE:Rotating Ring Disk Electrodes
LSV:Linear Sweep Voltammetry
K-L:Koutecky-Levich
Pt/C:白金担持カーボン(Sigma Aldrich社製、738549-1G)
GC:グラッシーカーボン(BAS株式会社製、01338)
【0103】
<測定方法>
(溶解度)
金属錯体の溶媒に対する溶解度は、25℃、大気圧下で紫外可視分光法を用いて測定し、溶媒1Lあたりの金属錯体の溶解量(g)の最大値とした。
【0104】
(濃度)
溶液中の金属錯体の濃度は、金属錯体をDMSOに溶解させた溶液について、分光光度計(JASCO社製「V-760DS」)を使用して測定した。波長636nmにおけるFeTPPのモル吸光係数は、2189.930071L/(mol・cm)である。
【0105】
(半波電位)
LSV曲線において、電位が-0.5Vのときの電流値の半分の電流値に達するときの電位を半波電位とした。
【0106】
(反応電子数)
K-Lプロットに基づいて反応電子数を算出した。LSV測定からリング電極とディスク電極の電流密度を算出し、RRDEに基づいて、リング電極におけるHの件出量を基に反応電子数を算出した。
【0107】
(触媒担持量)
X線光電子分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、Theta Probe)を用いて測定した。
【0108】
(TEM)
透過型電子顕微鏡(Hitachi社製、H-7650)によって観察像を得た。
【0109】
(SEM)
走査型透過電子顕微鏡(Hitachi社製、S―5200)によって観察像を得た。
【0110】
(サイクリックボルタモグラム)
サイクリックボルタモグラムは、コンパクトスタット(Ivium社製、NH-COMPACT)によって測定した。
0.1Mの塩化カリウム水溶液中に、ヒドロキシメチルフェロセンの濃度が1mMとなるようにヒドロキシメチルフェロセンを添加したものを、電解液として使用し、白金板を対極として使用し、Ag/AgClを参照極として使用した。
【0111】
(LSV曲線)
LSV曲線は、酸素飽和0.1M水酸化カリウム水溶液を電解液として使用し、回転リングディスク電極(BAS株式会社製、RRDE-3A)によって掃引速度5mV/sの条件下で、掃引範囲の下限を-0.8V、上限を0.2Vとして取得した。回転ディスクの回転数は2400rpmとし、Pt線を対極として使用し、Ag/AgClを参照極として使用した。
【0112】
(RRDEによるLSV測定)
RRDEによるLSV測定は、回転リングディスク電極(BAS株式会社製、RRDE-3A)によって酸素飽和0.1M水酸化カリウム水溶液を電解液として使用し、掃引速度5mV/sの条件下で行った。回転ディスクの回転数を0rpm,400rpm,800rpm,1200rpm,1600rpm,2000rpm,2400rpmの各回転数にしたときについてそれぞれLSVを測定した。対極としてPtを使用し、参照極としてAg/AgClを使用した。
RRDEによるLSV測定の結果を示すグラフにおいて、縦軸に示す電流の発生が始まるときの横軸に示す付与電位が高いほど、酸素還元触媒能に優れることを意味する。
【0113】
<実施例1>
ピリジン-2,3-ジカルボニトリル:258mgと塩化鉄(III)六水和物:135mgとDBU:20mgとを試験管内で混合し、メタノール:10mLとDMSO:10mLとを含む混合溶媒に溶解させた。次いで窒素置換しながら、180℃で3時間加熱し、FeTPPを含む反応生成物を得た。反応生成物をアセトンで3回遠心分離し、乾燥させた。遠心分離後の沈殿物を濃硫酸に溶解させ、水に滴下し、FeTPPを析出させた。析出したFeTPPを遠心分離で回収し、メタノールで洗浄し、FeTPPを得た。
次いで、得られたFeTPP:0.1mgをDMSO:1.0mLに溶解させ、FeTPPの濃度が0.1g/Lである溶液を調製した。得られた溶液にカルボキシル基を有するMWCNT:5mg(直径:9.5nm,長さ:1.5μm)を分散させた。分散に際しては、超音波処理(20kHz)を15分間行った。得られた分散液から固液分離及びメタノール洗浄によって溶媒であるDMSOを除去し、室温で24時間乾燥させて実施例1の触媒を得た。
次いで、得られた実施例1の触媒:0.82mgと、Milli―Q水:84μLと、イソプロピルアルコール:336μLと、0.5質量%のNafion水溶液:6μLを超音波撹拌機で混練し、GC電極に塗布し、実施例1の電極を得た。
【0114】
<比較例1>
比較例1では、得られたFeTPPをTHFに溶解させた以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。次いで、実施例1と同様にして比較例1の触媒を含む電極を製造した。
【0115】
<比較例2>
比較例2では、FeTPPの代わりにFePcを使用し、FePcをTHFに溶解させた以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。次いで、実施例1と同様にして比較例2の触媒を含む電極を製造した。
【0116】
<比較例3>
比較例3では、実施例1の触媒の代わりにPt/Cを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の電極(Pt/C電極)を製造した。
【0117】
<比較例4>
比較例4では、FeTPPを使用せずにMWCNTの分散液を調製した。得られたMWCNTの分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして比較例4の電極を製造した。
【0118】
図3は、実施例1で使用したFeTPPがDMSOに溶解している溶液を示す写真である。図3に示すように溶液は透明であった。また、この溶液は青色であったことから、FeTPPがDMSOに溶解していることを確認した。
図4は、実施例1でFeTPPがDMSOに溶解している溶液に、MWCNTを分散させた分散液を示す写真である。液体の全体が均一に黒く濁っていたことから、均一な分散状態であったことを確認した。
図5図6は、実施例1で得られた触媒を示す写真である。図5、6に示すように、グラムスケールで触媒を製造できたことを確認した。この結果から、本発明は工業的な利用が可能である。
【0119】
図7は、実施例1の触媒のTEMによる観察像である。図7においては、後述の図8で確認されるような結晶構造は、確認されなかった。別途XPSにより実施例1の触媒の表面には鉄原子が存在することを確認した。これらの結果から、MWCNTの表面にFeTPPの錯体層が分子吸着していることが示唆された。
【0120】
図8は、比較例1の触媒のSEMによる観察像である。図8中、矢印で示すように、多数のサイズの異なる結晶構造が確認された。これらの結晶構造は、THFに溶解しなかったFeTPPの結晶に由来する。
【0121】
図9は、実施例1、比較例1~4の各電極の1600rpmにおけるLSVの測定結果から酸化還元特性を比較して示すグラフである。ここで、RRDEによるLSV測定の結果を示すグラフにおいて、縦軸に示す電流の発生が始まるときの横軸の電位が高いほど、エネルギー損失が少なく、酸素還元触媒能に優れることを意味する。
図9に示すように、実施例1のLSV曲線においては、横軸の電位0~0.05の区間で急激に電流が発生している。この結果から、実施例1の電極は、比較例1~4の各電極に比して優れた酸素還元触媒能を具備することが確認できた。
【0122】
図10は、実施例1、比較例3、比較例4の1600rpmにおけるLSVの測定結果から酸化還元特性を比較して示すグラフである。図9及び図10の結果から、各電極の半波電位を求めた。半波電位と併せて、反応電子数を測定した結果を表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
表2に示すように、実施例1の電極にあっては、触媒の担持量が比較例1~4と比較しても少ない。それにもかかわらず、実施例1の電極は優れた酸素還元反応特性を示したことから、優れた酸素還元触媒能を具備することがわかった。表2に示す半波電位、反応電子数の測定結果から、実施例1の電極の酸素還元触媒能は、比較例3のPt/C電極の酸素還元触媒能より優れていることが確認できた。
【0125】
図11は、実施例1の電極を使用してサイクリックボルタモグラムを1サイクル、50サイクル、100サイクル行ったときのそれぞれのLSV曲線を比較して示す図である。
図11に示すように、実施例1においては、サイクル数が1、50、100と増えても、縦軸に示す電流の発生が始まるときの横軸の電位の変化はほとんどなかった。
【0126】
図12は、比較例3のPt/C電極を使用してサイクリックボルタモグラムを1サイクル、50サイクル、100サイクル行ったときのそれぞれのLSV曲線を比較して示す図である。
図12に示すように、比較例3のPt/C電極においては、サイクル数が1、50、100と増えるにつれて、縦軸に示す電流の発生が始まるときの横軸の電位が低くなった。
【0127】
図11図12に示す結果から、実施例1の電極は、Pt/C電極より耐久性においても優れていることを確認できた。
【0128】
以上説明した本実施例の結果から、金属錯体(1)が溶媒に溶解している溶液を使用することで、酸化還元触媒能に優れる触媒を製造できたことを確認した。
加えて、金属錯体が溶媒に溶解している場合でも、燃料電池の電極とした際の耐久性に優れる触媒を製造できることを確認できた。
【符号の説明】
【0129】
50…金属錯体、51…溶媒、52…導電性粉体、53…触媒、100…金属錯体の結晶、101…液状媒体、102…導電性粉体、103…触媒、S…溶液、P…分散液。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12