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特許7405500研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法
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  • 特許-研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20231219BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231219BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20231219BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20231219BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20231219BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20231219BHJP
   C08G 18/66 20060101ALI20231219BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20231219BHJP
   C08J 5/14 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
C08G18/10
C08G18/32 006
C08G18/76 014
C08G18/48 054
C08G18/66 067
C08G18/38 014
C08J5/14 CFF
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018068370
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177454
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】鳴島 さつき
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-043768(JP,A)
【文献】特開2016-196057(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021317(WO,A1)
【文献】特開平11-322878(JP,A)
【文献】特開2008-252017(JP,A)
【文献】特開2017-185566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
C08G 18/00
C08J 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、
前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが、分子量50~300のポリオキシアルキレングリコール及び数平均分子量500~2000のポリオキシテトラメチレングリコールからなるポリオール成分と、トリレンジイソシアネートからなるポリイソシアネート成分との反応生成物であり、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのNCO当量(g/eq)が500未満であり、
前記ポリオキシアルキレングリコールの含有量が前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対して0重量%を超え3重量%以下である、前記研磨パッド。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレングリコールがジエチレングリコールである、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記硬化剤が3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンを含む、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物が微小中空球体をさらに含む、請求項1~のいずれか1つに記載の研磨パッド。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1つに記載の研磨パッドの製造方法であって、
前記研磨層を成形する工程を含む、前記方法。
【請求項6】
光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、請求項1~のいずれか1つに記載の研磨パッドを使用する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法に関する。本発明の研磨パッドは、光学材料、半導体ウエハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板等の研磨に用いられ、特に半導体ウエハの上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを研磨するのに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
光学材料、半導体ウエハ、ハードディスク基板、液晶用ガラス基板、半導体デバイスは非常に精密な平坦性が要求される。また、半導体デバイスの研磨においては、近年の集積回路の微細化・高密度化に伴い、被研磨物のスクラッチ(傷)等のディフェクト(欠陥)の抑制や平坦なトポグラフィー(ディッシング・エロージョン等の抑制)について、より厳密なレベルが要求されるようになってきている。このような各種材料の表面を平坦に研磨するために、硬質研磨パッドが一般的に用いられている。
【0003】
現在、多くの硬質研磨パッドは、ポリオール成分とイソシアネート成分との反応物であるウレタンプレポリマーに、硬化剤としてポリアミン類又はポリオール類、添加剤として発泡剤・触媒等を混合してポリウレタン組成物を製造し、当該ポリウレタン組成物を硬化させる、いわゆるプレポリマー法により製造されている。ウレタンプレポリマーの多くは、トリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などのイソシアネート成分、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)やポリプロピレングリコール(PPG)などの高分子量ポリオール、及びジエチレングリコール(DEG)などの低分子量ポリオールから製造されている。そして、研磨パッド用ウレタンプレポリマーには、低分子量ポリオールとして、ウレタンプレポリマー全体に対してジエチレングリコール(DEG)を5~10重量%程度の比較的高い含有量で用いたものが一般的に使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らが検討したところ、後述の比較例で示すように、低分子量グリコールとしてジエチレングリコール(DEG)をウレタンプレポリマー全体に対してジエチレングリコール(DEG)を5重量%と比較的高い含有量で含むイソシアネート末端ウレタンプレポリマーから形成した研磨パッドは、被研磨物において、ディフェクトが発生し、平坦なトポグラフィーが得られないことがわかった。
【0005】
以上のように、被研磨物におけるディフェクトを抑制し、平坦なトポグラフィーを達成でき、ディフェクト性能及びトポグラフィー性能に優れる研磨パッドが望まれている。
【0006】
本発明は、被研磨物におけるディフェクトを抑制し、平坦なトポグラフィーを達成でき、ディフェクト性能及びトポグラフィー性能に優れる研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーの成分として用いられる、ジエチレングリコール(DEG)等のポリオキシアルキレングリコールの含有量を低く抑えることで上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。本発明の具体的態様は以下のとおりである。
なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を表す際は、その範囲は両端の数値
を含むものとする。
【0008】
[1] ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが、分子量50~300のポリオキシアルキレングリコールを含むポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応生成物であり、前記ポリオキシアルキレングリコールの含有量が前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対して0重量%を超え5重量%未満である、前記研磨パッド。
[2] 前記ポリオキシアルキレングリコールがジエチレングリコールである、[1]に記載の研磨パッド。
[3] 前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのNCO当量(g/eq)が500未満である、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
[4] 前記ポリイソシアネート成分がトリレンジイソシアネートを含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[5] 前記ポリオール成分がポリオキシテトラメチレングリコールをさらに含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[6] 前記硬化剤が3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンを含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[7] 前記硬化性樹脂組成物が微小中空球体をさらに含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の研磨パッドの製造方法であって、
前記研磨層を成形する工程を含む、前記方法。
[9] 光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、[1]~[7]のいずれか1つに記載の研磨パッドを使用する、前記方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の研磨パッドは、被研磨物におけるディフェクトを抑制し、平坦なトポグラフィーを達成でき、ディフェクト性能及びトポグラフィー性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1~3及び比較例1の研磨レート(Å)の評価結果を示すグラフである。
図2】実施例1~3及び比較例1のディフェクトの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(作用)
本発明では、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対する分子量50~300のポリオキシアルキレングリコールの含有量について、従来の比較的高いものに代えて0重量%を超え5重量%未満とする。
【0012】
本発明者らは、予想外にもイソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対する分子量50~300のポリオキシアルキレングリコールの含有量を0重量%を超え5重量%未満とすることにより、被研磨物におけるディフェクトを抑制し、平坦なトポグラフィーを達成でき、ディフェクト性能及びトポグラフィー性能に優れる研磨パッドが得られることを見出した。これらの特性が得られる理由の詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
【0013】
ジエチレングリコール等の分子量50~300のポリオキシアルキレングリコールは2つの水酸基の間の分子鎖内に酸素原子を含むため親水性が高く、このようなポリオキシアルキレングリコールをイソシアネート末端プレポリマーの原料として多く使用した場合、得られるイソシアネート末端プレポリマーも同様に親水性が高くなるものと思われる。研磨層の成分であるイソシアネート末端プレポリマーの親水性が高いと、研磨時に水を含むスラリーを研磨層側に引き付けやすく、スラリー中に存在する研磨くず等も併せて引き付けるため、スクラッチやディッシング・エロージョンが発生しやすくなると思われる。
一方、ポリオキシアルキレングリコールをイソシアネート末端プレポリマーの原料として少量のみ使用した場合は、ポリオキシアルキレングリコールを多く使用した場合に比べて、得られるイソシアネート末端プレポリマーは疎水性が高くなる(親水性が低くなる)ものと思われる。研磨層の成分であるイソシアネート末端プレポリマーの疎水性が高いと、スラリー中に存在する研磨くず等を引き付けにくくなり、スクラッチやディッシング・エロージョンが発生しにくくなると思われる。
【0014】
以下、本発明の研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法について、説明する。
【0015】
本発明の研磨パッドは、ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有し、前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが、分子量50~300のポリオキシアルキレングリコールを含むポリオール成分とポリイソシアネート成分とからなる化合物(反応生成物)であり、前記ポリオキシアルキレングリコールの含有量が前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対して0重量%を超え5重量%未満である。
【0016】
本発明の研磨パッドは、ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する。研磨層は被研磨材料に直接接する位置に配置され、研磨パッドのその他の部分は、研磨パッドを支持するための材料、例えば、ゴムなどの弾性に富む材料で構成されてもよい。研磨パッドの剛性によっては、研磨層を研磨パッドとすることができる。
【0017】
本発明の研磨パッドは、被研磨物におけるディフェクトを抑制し、平坦なトポグラフィーを達成でき、ディフェクト性能及びトポグラフィー性能に優れることを除けば、一般的な研磨パッドと形状に大きな差異は無く、一般的な研磨パッドと同様に使用することができ、例えば、研磨パッドを回転させながら研磨層を被研磨材料に押し当てて研磨することもできるし、被研磨材料を回転させながら研磨層に押し当てて研磨することもできる。
【0018】
本発明の研磨パッドは、一般に知られたモールド成形、スラブ成形等の製造法より作成できる。まずは、それら製造法によりポリウレタンのブロックを形成し、ブロックをスライス等によりシート状とし、ポリウレタン樹脂から形成される研磨層を成形し、支持体などに貼り合わせることによって製造される。あるいは支持体上に直接研磨層を成形することもできる。
【0019】
より具体的には、研磨層は、研磨層の研磨面とは反対の面側に両面テープが貼り付けられ、所定形状にカットされて、本発明の研磨パッドとなる。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。また、本発明の研磨パッドは、研磨層のみからなる単層構造であってもよく、研磨層の研磨面とは反対の面側に他の層(下層、支持層)を貼り合わせた複層からなっていてもよい。
【0020】
研磨層は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物を調製し、当該硬化性樹脂組成物を硬化させることによって成形される。
【0021】
研磨層は発泡ポリウレタン樹脂から構成することができるが、発泡は微小中空球体を含む発泡剤をポリウレタン樹脂中に分散させて行うことができる。この場合、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー、硬化剤、及び発泡剤を含む硬化性樹脂組成物を調製し、当該硬化性樹脂組成物を発泡硬化させることによって成形することができる。
【0022】
硬化性樹脂組成物は、例えば、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを含むA液と、硬化剤成分を含むB液とを混合して調製する2液型の組成物とすることもできる。それ以外の成分はA液に入れても、B液に入れてもよいが、不具合が生じる場合はさらに複数の液に分割して3液以上の液を混合して構成される組成物とすることができる。
【0023】
本発明において、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーは、分子量50~300のポリオキシアルキレングリコールを含むポリオール成分とポリイソシアネート成分とを反応させることにより得られる生成物である。
【0024】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのNCO当量(g/eq)としては、500未満が好ましく、350~495がより好ましく、400~490が最も好ましい。NCO当量(g/eq)が上記数値範囲内であることにより、適度な研磨性能の研磨パッドが得られ、NCO当量(g/eq)が350を下回ると得られる研磨パッドの硬度が大きくなりディフェクト性能が低下してしまい好ましくない。また、NCO当量(g/eq)が500を上回ると得られる研磨パッドの硬度が小さくなり平坦化性能が低下してしまう傾向になり好ましくない。
【0025】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーにポリオール成分として含まれる、ポリオキシアルキレングリコールの分子量は、50~300であり、60~250が好ましく、70~200が最も好ましい。ポリオキシアルキレングリコールの分子量が上記数値範囲内であることにより、NCO当量(g/eq)の調整が可能であるが、分子量が50未満であるとポリマーを製造する際に反応性が高く反応速度のコントロールが難しく、分子量が300より大きいとNCO当量(g/eq)の調整に多量のポリオキシアルキレングリコールが必要となるため親水性が高くなり好ましくない。
【0026】
分子量50~300のポリオキシアルキレングリコールのイソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対する含有量は、0重量%を超え5重量%未満であり、0.5~4重量%が好ましく、1~3重量%が最も好ましい。ポリオキシアルキレングリコールの含有量が上記数値範囲内であることにより、被研磨物におけるディフェクトを抑制し、平坦なトポグラフィーを達成できる。
【0027】
分子量50~300のポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール等を使用することができ、NCO当量(g/eq)の調整の観点から、分子量の低いジエチレングリコールを使用することが好ましい。
【0028】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーに含まれる、分子量50~300のポリオキシアルキレングリコール以外のポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどの低分子量(分子量50~300の)アルキレングリコール;ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール;エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール;ポリカーボネートポリオール;ポリカプロラクトンポリオール;等が挙げられる。
この中でも、プレポリマーの取扱い性や得られる研磨パッドの機械的強度等の観点から、ポリオキシテトラメチレングリコールを使用することが好ましい。また、ポリオキシテトラメチレングリコールの数平均分子量としては、500~2000が好ましく、600~1000がより好ましく、650~850が最も好ましい。
【0029】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーは、ポリオール成分として挙げた上述の低分子量(分子量50~300の)アルキレングリコールを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。低分子量(分子量50~300の)アルキレングリコールとしては、ポリオール成分として挙げた上述のものを使用することができる。
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが分子量50~300のアルキレングリコールを含む場合、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対するその含有量は、0~5重量%が好ましく、0.5~4重量%がより好ましく、1~3重量%が最も好ましい。また、ここで、「低分子量(分子量50~300の)アルキレングリコールを含まない」とは意図的な添加物として含有しないことを意味し、不純物として含まれる場合であっても、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対して0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が最も好ましい。低分子量(分子量50~300の)アルキレングリコールの含有量が上記数値範囲内であることにより、被研磨物におけるディフェクトを抑制し、平坦なトポグラフィーを達成できる。
【0030】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーに含まれるポリイソシアネート成分としては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等が挙げられる。
この中でも、得られる研磨パッドの研磨特性や機械的強度等の観点から、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)等のトリレンジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0031】
硬化性樹脂組成物に含まれる硬化剤としては、例えば、以下に説明するアミン系硬化剤が挙げられる。
アミン系硬化剤を構成するポリアミンとしては、例えば、ジアミンが挙げられ、これには、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン;イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミンなどの脂肪族環を有するジアミン;3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)などの芳香族環を有するジアミン;2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン、特にヒドロキシアルキルアルキレンジアミン;等が挙げられる。また、3官能のトリアミン化合物、4官能以上のポリアミン化合物も使用可能である。
【0032】
特に好ましい硬化剤は、前述したMOCAであり、このMOCAの化学構造は、以下のとおりである。
【0033】
【化1】
【0034】
硬化剤全体の量は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのNCOのモル数に対する、硬化剤のNHのモル数の比率(NHのモル数/NCOのモル数)が、好ましくは0.7~1.1、より好ましくは0.75~1.0、最も好ましくは0.8~0.95となる量を用いる。
【0035】
本発明において、硬化性樹脂組成物は微小中空球体をさらに含むことができる。
微小中空球体をポリウレタン樹脂に混合することによって発泡体を形成することができる。微小中空球体とは、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素とからなる未発泡の加熱膨張性微小球状体を、加熱膨張させたものをいう。前記ポリマー殻としては、例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。同様に、ポリマー殻に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等を用いることができる。
【0036】
その他に当業界で一般的に使用される触媒などを硬化性樹脂組成物に添加しても良い。
また、上述したポリイソシアネート成分を硬化性樹脂組成物に後から追加で添加することもでき、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーと追加のポリイソシアネート成分との合計重量に対する追加のポリイソシアネート成分の重量割合は、0.1~10重量%が好ましく、0.5~8重量%がより好ましく、1~5重量%が特に好ましい。
ポリウレタン樹脂硬化性組成物に追加で添加するポリイソシアネート成分としては、上述のポリイソシアネート成分を特に限定なく使用することができるが、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)が好ましい。
【実施例
【0037】
本発明を以下の例により実験的に説明するが、以下の説明は、本発明の範囲が以下の例に限定して解釈されることを意図するものではない。
【0038】
(材料)
以下の例で使用した材料を列挙する。
【0039】
・イソシアネート末端ウレタンプレポリマー:
プレポリマー(1)・・・ポリイソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート、ポリオール成分として数平均分子量650のポリテトラメチレンエーテルグリコールを含むNCO当量513のウレタンプレポリマー
プレポリマー(2)・・・ポリイソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート、ポリオール成分として数平均分子量650のポリテトラメチレンエーテルグリコール及びジエチレングリコール(プレポリマー全体に対して1重量%)を含むNCO当量486のウレタンプレポリマー
プレポリマー(3)・・・ポリイソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート、ポリオール成分として数平均分子量650のポリテトラメチレンエーテルグリコール及びジエチレングリコール(プレポリマー全体に対して2重量%)を含むNCO当量463のウレタンプレポリマー
プレポリマー(4)・・・ポリイソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート、ポリオール成分として数平均分子量650のポリテトラメチレンエーテルグリコール及びジエチレングリコール(プレポリマー全体に対して3重量%)を含むNCO当量450のウレタンプレポリマー
プレポリマー(5)・・・ポリイソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート、ポリオール成分として数平均分子量650のポリテトラメチレンエーテルグリコール、数平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びジエチレングリコール(プレポリマー全体に対して5重量%)を含むNCO当量437のウレタンプレポリマー
【0040】
・硬化剤:
MOCA・・・3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)(NH当量=133.5)
・微小中空球体の商品名:
日本フィライト社製 EXPANCEL 551DE40d42
【0041】
(実施例1)
A成分としてプレポリマー(2)を100g、B成分として硬化剤であるMOCAを24g、C成分として微小中空球体(EXPANCEL 551DE40d42)4.5gをそれぞれ準備した。なお、A成分のプレポリマーのNCOのモル数に対する、B成分のアミン系硬化剤のNHのモル数の比率(NHのモル数/NCOのモル数)は0.87である。なお、比率を示すためg表示として記載しており、ブロックの大きさに応じて必要な重量(部)を準備する。以下同様にg(部)表記で記載する。
A成分とC成分とを混合し、A成分とC成分の混合物を減圧脱泡した後、A成分とC成分の混合物及びB成分を混合機に供給した。
得られた混合液を80℃に加熱した型枠に注型し、1時間加熱し硬化させた後、形成された樹脂発泡体を型枠から抜き出し、その後120℃で5時間キュアリングした。この発泡体を1.3mm厚にスライスしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0042】
(実施例2)
実施例1のA成分のプレポリマー(2)100gに代えて、プレポリマー(3)を100g準備した。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0043】
(実施例3)
実施例1のA成分のプレポリマー(2)100gに代えて、プレポリマー(4)を100g準備した。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0044】
(比較例1)
実施例1のA成分のプレポリマー(2)100gに代えて、プレポリマー(5)を100g準備した。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
(比較例2)
実施例1のA成分のプレポリマー(2)100gに代えて、プレポリマー(1)を100g準備した。以降、実施例1と同様にしてウレタンシートの作成を試みたが、A成分、B成分、及びC成分からなる硬化性樹脂組成物が硬化するまでの時間が長くかかり、かつ十分に硬化しなかったため、得られた発泡体をスライスするのが困難であり、研磨パッドを得ることができなかった。
【0045】
(試験方法)
実施例1~3及び比較例1それぞれのウレタンシート(研磨パッド)について、以下の密度、A硬度、及びD硬度の測定を行った。
(密度)
密度(g/cm)は、日本工業規格(JIS K 6505)に準拠して測定した。
(A硬度)
研磨パッドのA硬度は、日本工業規格(JIS-K-7311)に準拠して、ショアAデュロメータを用いて測定した。ここで、試料は、少なくとも総厚さ4.5mm以上になるように、必要に応じて複数枚のウレタンシートを重ねることで得た。
(D硬度)
研磨パッドのD硬度は、日本工業規格(JIS-K-6253)に準拠して、D型硬度計を用いて測定した。ここで、試料は、少なくとも総厚さ4.5mm以上になるように、必要に応じて複数枚のウレタンシートを重ねることで得た。
【0046】
表1には実施例1~3及び比較例1で得られた研磨パッドの基本物性を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
(研磨レート)
実施例1~3及び比較例1それぞれの研磨パッドについて、研磨レート(Å)の測定を行った。研磨試験の条件は下記の通りである。
【0049】
(研磨試験の条件)
・使用研磨機:荏原製作所社製 F-REX300
・Disk:3MA188(#100)
・回転数:(定盤)70rpm、(トップリング)71rpm
・研磨圧力:3.5psi、2.9psi、又は1.5psiの3種類
・研磨剤:キャボット社製、品番:SS25(SS25原液:純水=1:1の混合液を使
用)
・研磨剤温度:20℃
・研磨剤吐出量:200ml/min
・使用ワーク(被研磨物):12インチのシリコンウエハ上にテトラエトキシシラン(TEOS)をPE-CVDで絶縁膜1μmの厚さになるように形成した基板を使用した。研磨の初期温度が20℃であり、研磨中にパッド表面温度が上昇し、40~50℃になる。
・研磨レートは、ドレス処理を10分間施した後、3.5psiの条件で1~51枚目のウエハを研磨し、2.9psiの条件で52枚目のウエハを研磨し、1.5psiの条件で53枚目のウエハを研磨し、1、5、10、15、20、25、50、52、53枚目のウエハに関して測定した値である。
【0050】
研磨レート(Å)の評価結果を表2及び図1に示す。図1は、3.5psi(50枚目のウエハ)、2.9psi(52枚目のウエハ)、及び1.5psi(53枚目のウエハ)における研磨レート(Å)を示すものである。
【0051】
【表2】
【0052】
(ディフェクト)
実施例1~3及び比較例1それぞれの研磨パッドについて、下記の通りスクラッチ等のディフェクトの評価を行った。
スクラッチ等のディフェクトの評価は、上記(研磨レート)の(研磨試験の条件)に基づいて、51枚の基板を研磨し、研磨加工後の11枚目、26枚目及び51枚目の基板3枚について、ウエハ表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP2xpDLS)の高感度測定モードにて測定し、基板表面におけるマイクロスクラッチ(0.2μm以上10μm以下の微細打痕状のキズ)のディフェクトの個数を評価した。
【0053】
ディフェクトの評価結果を表3及び図2に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表2及び図1の結果より、実施例1~3及び比較例1の研磨パッドについて、研磨パッドとして使用するのに十分な研磨レート(Å)を示しており、研磨性に優れることがわかった。また、実施例1~3及び比較例1の研磨パッドについて、3.5psi、2.9psi、及び1.5psiのいずれの研磨圧力においても同程度の研磨レート(Å)を示しており、大きな差が見られないことがわかった。
【0056】
表3及び図2の結果からわかるように、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対するジエチレングリコールの含有量が1重量%、2重量%、又は3重量%である実施例1~3の研磨パッドは、ディフェクトの発生が少なく良好な研磨結果となることがわかった。
一方、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対するジエチレングリコールの含有量が5重量%である比較例1の研磨パッドは、ディフェクトの発生が多くなってしまうことがわかった。
実施例1~3及び比較例1の結果からわかるように、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対するジエチレングリコールの含有量が減少するについて、スクラッチ等のディフェクトが減少し良好な結果となることがわかった。
また、比較例2で示した様に、ジエチレングリコールの含有量を0重量%としてしまうと、反応時間が長くなり硬化までに多くの時間を要するため生産性が悪く、さらに硬化後のスライス工程で上手くスライスできないという問題があった。
【0057】
以上のとおり、実施例1~3の研磨パッドは、研磨レート(Å)が高く研磨性に優れ、かつ被研磨物のディフェクトを抑制できた。一方、比較例1の研磨パッドは、研磨レート(Å)が高く研磨性に優れるものの、被研磨物のディフェクトの発生が多かった。
【0058】
以上の結果より、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー全体に対するジエチレングリコールの含有量が0重量%を超え5重量%未満である研磨パッドが、被研磨物におけるディフェクトを抑制し、平坦なトポグラフィーを達成でき、ディフェクト性能及びトポグラフィー性能に優れることが確認できた。
図1
図2