(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】硫黄系ガス吸着構造体及び組電池
(51)【国際特許分類】
B01J 20/02 20060101AFI20231219BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20231219BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20231219BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20231219BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20231219BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20231219BHJP
H01M 50/20 20210101ALI20231219BHJP
【FI】
B01J20/02 A
B01J20/02 B
B01J20/06 A
B01J20/06 B
B01J20/06 C
B01J20/10 A
B01J20/10 C
B01J20/10 D
B01J20/10 B
B01J20/18 B
B01J20/18 C
B01J20/18 E
B01J20/20 B
B01J20/20 D
B01J20/28 Z
H01M50/20
(21)【出願番号】P 2019002062
(22)【出願日】2019-01-09
【審査請求日】2021-10-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊野 圭司
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 悟
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-168022(JP,U)
【文献】特開2016-112510(JP,A)
【文献】特開2002-035593(JP,A)
【文献】特開2016-097207(JP,A)
【文献】特開2000-263678(JP,A)
【文献】特開2002-126511(JP,A)
【文献】特許第6164900(JP,B2)
【文献】特開2004-129840(JP,A)
【文献】特開平09-028778(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158013(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/062411(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/02-53/12
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
H01M 50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料を含む支持体と、前記支持体の表面に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材及び硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料を含むバインダーを有する硫黄系ガス吸着層が形成されており、
前記支持体と前記バインダーが同じ樹脂材料を含み、
前記バインダーの含有量が、前記硫黄系ガス吸着層の全質量に対し、0.5~5.0質量%、かつ、前記吸着材の含有量が、前記硫黄系ガス吸着層の全質量に対し、95.0~99.5質量%であり、
前記硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン及びポリブタジエンから選択される少なくとも一種であり、
前記吸着材は、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である、硫黄系ガス吸着構造体。
【請求項2】
硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料を含む支持体と、前記支持体の表面に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材及び硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料を含むバインダーを有する硫黄系ガス吸着層が形成されており、
前記支持体と前記バインダーが同じ樹脂材料を含み、
前記バインダーの含有量が、前記硫黄系ガス吸着層の全質量に対し、0.5~5.0質量%、かつ、前記吸着材の含有量が、前記硫黄系ガス吸着層の全質量に対し、95.0~99.5質量%であり、
前記硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料は、スチレンブタジエンゴム(SBR)である、硫黄系ガス吸着構造体。
【請求項3】
前記吸着材は、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項
2に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【請求項4】
前記硫黄系ガス吸着層中の前記吸着材の含有量は、前記バインダーの含有量よりも多い、請求項1~
3のいずれか1項に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【請求項5】
前記硫黄系ガス吸着層の厚さが10~500μmである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【請求項6】
前記支持体の両側表面に、前記硫黄系ガス吸着層が形成されている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【請求項7】
前記支持体は、前記支持体の厚み方向に複数の貫通孔を有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【請求項8】
前記支持体が、全固体型電池を収納する電池ケースである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の硫黄系ガス吸着構造体を備えた、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素などの硫黄系ガスを吸着可能な吸着材及びバインダーを含む硫黄系ガス吸着構造体、並びに、これを備えた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
また、この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主として用いられている。そして、リチウムイオン二次電池の中でも、可燃性の有機溶媒からなる電解液を用いないことから、安全性の高い全固体型リチウムイオン二次電池が注目を集めている。この全固体型リチウムイオン二次電池では、有機溶媒を用いた電解液の代わりに、例えば硫化物系固体電解質が好適に用いられる。
【0004】
この硫化物系固体電解質を用いた全固体型リチウムイオン二次電池では、硫化物系固体電解質が電池外から流入した空気中の水分と接触することで、電池内部で硫化水素(H2S)が発生することがある。この場合、発生する硫化水素は毒性が高いため、人体への吸入による中毒が懸念される。
【0005】
このため、全固体型リチウムイオン二次電池内部で発生する硫化水素などの硫黄系ガスを吸着することで、人体への被害を最小限に抑えることが可能な樹脂組成物及びその成形体として、特許文献1には、芳香族ビニルモノマー由来の繰返し単位及びジエンモノマー由来の繰返し単位を有する芳香族ビニル-ジエン系共重合体を含むバインダー、並びに硫化水素を化学的に吸着する無機吸着材を含み、かつ前記無機吸着材が、銅、亜鉛、マンガン、コバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属ケイ酸塩を含む、硫黄系ガス吸着用樹脂組成物の混練体(ただし、発泡体を除く)と、それを用いたフィルム状又はシート状の形状である硫黄系ガス吸着用成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1においては、成形体に加工して様々な用途に様々な態様で用いることができる一方で、吸着材を樹脂組成物に分散させたとしても、硫黄系ガスの吸着能力に関して、性能が一定程度維持できることを課題としている。しかしながら、特許文献1に記載の手段により、ある程度は硫黄系ガスの吸着能力の向上が見込めるものの、吸着材が樹脂内に均一に埋め込まれた状態で存在する以上、樹脂内のガス透過性(または、ガス拡散性)の低さが少なからず影響することで、一部ガス吸着に寄与しない吸着材が存在し得ることとなる。
【0008】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであり、成形体に加工して様々な用途に様々な態様で用いることができるための構造体としての強度を確保しつつ、かつ、硫黄系ガスの吸着速度及び吸着量を向上させ、硫黄系ガスの吸着性能が高い、硫黄系ガス吸着構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、硫黄系ガス吸着構造体に係る下記(1)の構成により達成される。
(1)支持体と、前記支持体の表面に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材及びバインダーを含む硫黄系ガス吸着層が形成されている、硫黄系ガス吸着構造体。
【0010】
また、硫黄系ガス吸着構造体に係る本発明の好ましい実施形態は、下記(2)~(13)のいずれかであることを特徴とする。
(2)前記バインダーは、硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料を含む、(1)に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
(3)前記支持体は、硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料を含む、(1)又は(2)に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【0011】
(4)前記硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン及びポリブタジエンから選択される少なくとも一種である、(2)又は(3)に記載の硫黄系ガス吸着構造体。
(5)前記支持体と前記バインダーが同じ樹脂材料を含む、(1)~(4)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
(6)前記吸着材は、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【0012】
(7)前記硫黄系ガス吸着層中の前記吸着材の含有量は、前記バインダーの含有量よりも多い、(1)~(6)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
(8)前記バインダーの含有量が、前記硫黄系ガス吸着層の全質量に対し、0.5~5.0質量%である、(1)~(7)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
(9)前記吸着材の含有量が、前記硫黄系ガス吸着層の全質量に対し、95.0~99.5質量%である、(1)~(8)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
(10)前記硫黄系ガス吸着層の厚さが10~500μmである、(1)~(9)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【0013】
(11)前記支持体の両側表面に、前記硫黄系ガス吸着層が形成されている、(1)~(10)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
(12)前記支持体は、前記支持体の厚み方向に複数の貫通孔を有する、(1)~(11)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
(13)前記支持体が、全固体型電池を収納する電池ケースである、(1)~(12)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体。
【0014】
また、本発明の目的は、組電池に係る下記(14)の構成により達成される。
(14)(1)~(13)のいずれか1つに記載の硫黄系ガス吸着構造体を備えた、組電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形体に加工して様々な用途に様々な態様で用いることができるための構造体としての強度を確保しつつ、かつ、硫黄系ガスの吸着速度及び吸着量を向上させ、硫黄系ガスの吸着性能が高い、硫黄系ガス吸着構造体及びこれを備えた組電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第2の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体の構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、第3の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体の構成を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体を適用した組電池の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、成形体に加工して様々な用途に様々な態様で用いることができるための構造体としての強度を確保しつつ、かつ、硫黄系ガスの吸着速度及び吸着量を向上させ、硫黄系ガスの吸着性能が高い、硫黄系ガス吸着構造体を提供するため、鋭意検討を行ってきた。
【0018】
その結果、支持体と、支持体の表面に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材及びバインダーを含む硫黄系ガス吸着層が形成された硫黄系ガス吸着構造体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0019】
すなわち、本実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体は、支持体を有することで、成形体に加工して様々な用途に様々な態様で用いることができるための構造体としての強度を確保することができる。
【0020】
また、支持体の表面に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材とバインダーを含む硫黄系ガス吸着層が形成されており、吸着材が樹脂内に均一に埋め込まれた状態で存在するのではなく、多数の吸着材が少量のバインダーにより接着され、支持体上で固定されるものであるため、硫黄系ガス吸着層内における硫黄系ガスの吸着速度及び吸着量を向上させることができ、硫黄系ガスの吸着性能が高いものとなる。
【0021】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下において「~」とは、その下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0022】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体について説明する。第1の実施形態は、支持体の片面にのみ硫黄系ガス吸着層が形成されている場合である。
【0023】
<硫黄系ガス吸着構造体の基本構成>
図1は、第1の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体100の構成例を模式的に示す図である。本実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体100は、支持体10と、支持体10の片面(支持体10の上側表面)に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材22と、バインダー24とを含む硫黄系ガス吸着層20が形成されている。
【0024】
上述したように、本実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体100は、支持体10を有することで、成形体に加工して様々な用途に様々な態様で用いることができるための構造体としての強度を確保することができる。
【0025】
また、支持体10の表面に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材22と、バインダー24を含む硫黄系ガス吸着層20が形成されており、吸着材22が樹脂内に均一に埋め込まれた状態で存在するのではなく、多数の吸着材22が少量のバインダー24により接着され、支持体10上で固定されるものであるため、硫黄系ガス吸着層20内における硫黄系ガスの吸着速度及び吸着量を向上させることができ、硫黄系ガスの吸着性能が高いものとなる。
なお、本実施形態における硫黄系ガスとしては、硫化水素、二酸化硫黄、チオールなどが例として挙げられる。
【0026】
<硫黄系ガス吸着構造体の詳細>
次に、硫黄系ガス吸着構造体100を構成する、支持体10及び硫黄系ガス吸着層20の詳細について説明する。
【0027】
[支持体]
支持体10は、後述する硫黄系ガス吸着層20を支持する機能を有する。支持体10が硫黄系ガス吸着層20を支持することにより、硫黄系ガス吸着層20を有する硫黄系ガス吸着構造体100は、成形体に加工して様々な用途に様々な態様で用いることができるための構造体としての強度を確保することができる。
【0028】
支持体10の材質としては、硫黄系ガス吸着層20を支持できるものであれば、特に限定されるものではなく、樹脂などの有機系材料、金属やガラスなどの無機系材料を含め、様々なものを採用することができる。
【0029】
ただし、硫黄系ガス吸着層20への硫黄系ガスの拡散性向上の観点から、支持体10は、硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料を含むことが好ましい。このような材料の具体例としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン及びポリブタジエンから選択される少なくとも一種を挙げることができる。なお、硫黄系ガスの透過性が特に高いスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることがより好ましい。
【0030】
[硫黄系ガス吸着層]
硫黄系ガス吸着層20は、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材22と、バインダー24を含み、硫黄系ガスを効果的に吸着する機能を有する。上述したように、吸着材22は、上記特許文献1のような、吸着材22が樹脂内に均一に埋め込まれた状態で存在するのではなく、多数の吸着材22が少量のバインダー24により接着されものであるため、硫黄系ガス吸着層20内における硫黄系ガスの吸着速度及び吸着量を向上させることができ、硫黄系ガスの吸着性能が高いものを実現することができる。
【0031】
吸着材22の材質としては、硫黄系ガスを吸着可能なものであれば特に限定されるものではなく、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種を含め、様々なものを用いることができる。
【0032】
上記活性炭としては、特に種類が限定されるものではなく、例えば、ヤシガラ、石炭、木炭等を主原料としたものが挙げられる。
【0033】
上記金属ケイ酸塩としては、例えば、特許第6164900号公報に記載の、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属ケイ酸塩であることが好ましい。
【0034】
上記ゼオライトとしては、特に種類に限定されるものではなく、例えば、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、フェリエライト、ZSM-5型ゼオライト、モルデナイト、フォージサイト、ゼオライトAおよびゼオライトL等が挙げられる。
【0035】
なお、吸着速度向上の観点からは、吸着材22として、活性炭、ゼオライト、シリカゲルのいずれかを用いることが好ましい。また、吸着力向上の観点からは、吸着材22として、金属ケイ酸塩、又は、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種のいずれかを用いることが好ましい。
【0036】
吸着材22が粉末状である場合には、その平均粒子径は、硫黄系ガスを吸着可能なものであれば特に限定されないが、例えば、0.5~100μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましい。
【0037】
バインダー24の材質としては、吸着材22を支持体10上で固定できるものであれば、特に限定されるものではなく、種々の樹脂材料などを採用することができる。
【0038】
ただし、硫黄系ガス吸着層20への硫黄系ガスの拡散性向上の観点から、バインダー24は、硫黄系ガスが透過可能な樹脂材料を含むことが好ましい。このような材料の具体例としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン及びポリブタジエンから選択される少なくとも一種を挙げることができる。なお、硫黄系ガスの透過性が特に高いスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることがより好ましい。
【0039】
なお、硫黄系ガス吸着層20中の吸着材22の含有量は、バインダー24の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、硫黄系ガス吸着層20内における硫黄系ガスの吸着速度及び吸着量を更に向上させることができ、硫黄系ガスの吸着性能がより高いものを実現することができる。
【0040】
上記効果を十分に発揮するため、バインダー24の含有量は、硫黄系ガス吸着層20の全質量に対し、0.5~5.0質量%であることが好ましく、0.5~3.0質量%であることがより好ましく、0.5~1.0質量%であることが更に好ましい。
【0041】
上記効果を十分に発揮するため、吸着材22の含有量は、硫黄系ガス吸着層20の全質量に対し、95.0~99.5質量%であることが好ましく、97.0~99.5質量%であることがより好ましく、99.0~99.5質量%であることが更に好ましい。
【0042】
また、ガス透過性向上の効果を十分に発揮するための観点から、硫黄系ガス吸着層20の厚さt(
図1を参照)は、10~500μmであることが好ましく、10~200μmであることがより好ましく、10~100μmであることが更に好ましい。
【0043】
さらに、支持体10と、硫黄系ガス吸着層20内のバインダー24が同じ樹脂材料を含むことが好ましい。これにより、支持体10と硫黄系ガス吸着層20との密着性が向上し、硫黄系ガス吸着層20が支持体10から剥離するのを抑制できるため、硫黄系ガス吸着構造体100を成形体に加工して様々な用途に様々な態様で用いる際の取り扱い性が高まる。
【0044】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体について説明する。第2の実施形態は、支持体の両面に硫黄系ガス吸着層が形成されている場合である。
【0045】
図2は、第2の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体200の構成例を模式的に示す図である。本実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体200は、支持体10と、支持体10の両面(支持体10の両側表面)に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材22と、バインダー24とを含む硫黄系ガス吸着層20が、それぞれ形成されている。
【0046】
本実施形態においては、支持体10の両側表面に硫黄系ガス吸着層20が形成されているため、第1の実施形態で説明したような支持体10の片面にのみ硫黄系ガス吸着層20を有するものと比べ、硫黄系ガスを吸着することのできる吸着材22の含有量が多くなるため、硫黄系ガスの吸着量を増加させることができる。結果として、硫黄系ガス吸着構造体200における硫黄系ガスの吸着性能が更に高まる。
【0047】
また、支持体10の両側表面に硫黄系ガス吸着層20が形成されているため、硫黄系ガス吸着構造体200から見て複数の方向に存在する(例えば、
図2中では、支持体10の上方向や下方向)硫黄系ガスを吸着し易くなる。結果として、硫黄系ガス吸着構造体200における硫黄系ガスの吸着性能が更に高まる。
【0048】
なお、本実施形態においては、上記で説明した効果に加え、第1の実施形態で説明した効果と同様の効果を奏する。
【0049】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体について説明する。第3の実施形態は、支持体において、その厚み方向に貫通する複数の貫通孔が形成されている場合である。
【0050】
図3は、第3の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体300の構成例を模式的に示す図である。本実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体300は、支持体10と、支持体10の片面(支持体10の上側表面)に、硫黄系ガスを吸着可能な吸着材22と、バインダー24とを含む硫黄系ガス吸着層20が、それぞれ形成されている。さらに、支持体10において、その厚み方向に貫通する複数の貫通孔12が形成されている。
【0051】
本実施形態においては、支持体10において、その厚み方向に貫通する複数の貫通孔12が形成されているため、この貫通孔12を介して、支持体10における硫黄系ガス吸着層20を有しない面側(
図3中、支持体10の下方側)に滞留する硫黄系ガス(図示は省略)を、支持体10における硫黄系ガス吸着層20を有する面側(
図3中、支持体10の上方側)に流通させることができる。結果として、硫黄系ガス吸着層20が支持体10の片面にのみ有する場合であっても、効果的に硫黄系ガスを吸着することが可能となる。
【0052】
また、図示は省略するが、支持体10の両面に硫黄系ガス吸着層20を有する場合においても、支持体10において、その厚み方向に貫通する複数の貫通孔12が形成されていることで、支持体10の両側表面間における硫黄系ガスの流通を促進させることができるため、効果的に硫黄系ガスを吸着することが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態においても、上記で説明した効果に加え、第1の実施形態で説明した効果と同様の効果を奏する。
【0054】
(硫黄系ガス吸着構造体を適用した組電池)
本発明の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体を備えた組電池について説明する。
図4は、一例として、第1の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体100を適用した組電池500の構成を模式的に示す図である。
【0055】
図4に示すように、硫化物系固体電解質(図示は省略)を用いた、複数の全固体型電池30が配置され、複数の全固体型電池30同士が直列又は並列に接続された状態(接続された状態は図示を省略する。また、直列と並列の併用であっても構わない。)で、電池ケース50に格納されて、組電池500が構成されている。
【0056】
そして、硫黄系ガス吸着構造体100における支持体10として、組電池500における電池ケース50が採用されている。すなわち、電池ケース50を支持体10として、その表面(
図4中では、電池ケース50における側面内側)に、硫黄系ガス吸着層20がそれぞれ形成されている。
【0057】
ここで、硫化物系固体電解質が、全固体型電池30外から流入した空気中の水分(図示は省略)と接触することで、全固体型電池30内部で硫化水素(H2S)が発生した場合、電池ケース50内において、硫黄系ガスを吸着可能な硫黄系ガス吸着層20を備えることで、効果的に硫黄系ガスを吸着することができる。
【0058】
図4においては、支持体10として、全固体型電池30を収納する電池ケース50を用いているが、電池ケース50とは別の支持体10を用いた硫黄系ガス吸着構造体100を、電池ケース50内に配置して、組電池を構成してもよい。ただし、支持体10として電池ケース50を用いることが、部品点数の省略化や、組電池の小型化に貢献することができるため、より好ましい。
【0059】
(硫黄系ガス吸着構造体の製造方法)
上記した硫黄系ガス吸着構造体100、200、300の製造方法については、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。具体的には、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0060】
まず、硫黄系ガス吸着層20を構成する材料となる、所定量の吸着材22及びバインダー24を、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、水などの適当な溶媒に分散させたスラリーを調製する。次いで、別途準備した、所定の支持体10の表面に調製したスラリーを塗布し、乾燥させる。このような簡易な手法により、本実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体100、200、300を製造することができる。
【0061】
なお、第2の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体200においては、支持体10の両面に上記スラリーを塗布して製造すればよい。また、第3の実施形態に係る硫黄系ガス吸着構造体300においては、その厚み方向に貫通する複数の貫通孔12が形成された支持体10をあらかじめ準備して、その支持体10に上記スラリーを塗布して製造すればよい。
また、スラリーの詳細な調製方法、スラリーの塗布方法や乾燥方法などは、公知技術であるリチウムイオン二次電池における電極の製造方法(例えば、特開2018-49717など)に倣って適宜調製すればよい。
【0062】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 支持体
12 貫通孔
20 硫黄系ガス吸着層
22 吸着材
24 バインダー
30 全固体型電池
50 電池ケース
100、200、300 硫黄系ガス吸着構造体
500 組電池
t 硫黄系ガス吸着層の厚さ