(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】金属微粒子の製造方法および金属微粒子
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20231219BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231219BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20231219BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20231219BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20231219BHJP
F26B 5/06 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/00 L
B22F1/00 M
C22C9/00
C22C9/06
C22C19/03 M
F26B5/06
(21)【出願番号】P 2019064510
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-04-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】根来 佳輝
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 敢
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-89147(JP,A)
【文献】特開2007-284715(JP,A)
【文献】特開2015-190043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1
B22F 9
F26B 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が1μm以下である原料金属微粒子を含有し、かつ、含水率が30質量%以下である水スラリーを準備し、
前記水スラリーを、凍結乾燥することにより、金属微粒子を得る、
積層セラミックコンデンサの内部電極用の金属微粒子の製造方法であって、
前記原料金属微粒子が、ニッケルおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記原料金属微粒子が、0.05質量%以上の硫黄を含有する、
積層セラミックコンデンサの内部電極用の金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水スラリーの含水率が12質量%以下である、請求項1に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記原料金属微粒子が、0.1質量%以上の硫黄を含有する、請求項
1又は2に記載の金属微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の製造方法および金属微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属微粒子が、積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いられる。この場合、金属微粒子を含む導電ペーストが、誘電体グリーンシート上に塗布される。導電ペーストと誘電体グリーンシートとを交互に積層させた積層体を焼成することにより、積層セラミックコンデンサを製造する。
【0003】
このような導電ペーストに用いる金属微粒子を製造する技術が、特許文献1に開示されている。特許文献1の段落[0022]には、以下の記載がある。
「気相反応で得たニッケル粉を水スラリーにし、超音波振動子による分散機を用いて、ニッケル超微粉を水中で十分に分散させた後、スキミングパイプ付き無孔壁バスケット型遠心分離機(内容積3L、バスケット内径300mm、水スラリー供給速度2.5L/分、回転数1800rpm)を用いて分級し、スキミングパイプから排出される水スラリーを回収した。この水スラリーは粗粒を除去したニッケル粉を含むものである。回収したスラリーを加圧脱水し、真空乾燥してニッケル粉を回収した。」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の小型化が進展しており、電子機器の構成部品である積層セラミックコンデンサについても、一層の小型化が求められている。このため、積層セラミックコンデンサの内部電極層を薄層化し、積層数を増加させる技術が開発されている。
このような技術として、内部電極層に用いられる金属微粒子を小径化する技術が開発されている。凝集体の個数が少ない金属微粒子を得ることが要請されている。
【0006】
本発明者らが検討したところ、水スラリーを真空乾燥して得られた金属微粒子(特許文献1を参照)は、凝集体の個数が多い場合があることを明らかにした。
【0007】
そこで、本発明は、凝集体の個数が少ない金属微粒子が得られる、金属微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達するために鋭意検討した。その結果、含水率を特定値まで低減した水スラリーを特定の方法で乾燥することにより、得られる金属微粒子において、凝集体の個数が少なくなることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
[1]粒子径が1μm以下である原料金属微粒子を含有し、かつ、含水率が30質量%以下である水スラリーを準備し、上記水スラリーを、凍結乾燥することにより、金属微粒子を得る、金属微粒子の製造方法。
[2]上記水スラリーの含水率が12質量%以下である、上記[1]に記載の金属微粒子の製造方法。
[3]上記原料金属微粒子が、ニッケルおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、上記[1]または[2]に記載の金属微粒子の製造方法。
[4]上記原料金属微粒子が、0.05質量%以上の硫黄を含有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
[5]上記原料金属微粒子が、0.1質量%以上の硫黄を含有する、上記[4]に記載の金属微粒子の製造方法。
[6]下記条件1で測定される最小径5μm以上である凝集体の個数が、5視野の平均値で20個以下である、金属微粒子。
条件1:下記条件2で作製されるペーストを、厚さ10μmで塗布し、100℃で1分間乾燥して乾燥膜を得る。得られた乾燥膜を、光学顕微鏡を用いて、倍率200倍で観察する。視野面積が28.3mm2である1視野あたりの最小径5μm以上である凝集体の個数を測定する。
条件2:上記金属微粒子を50質量%、樹脂としてダウ・ケミカル日本社製のエチルセルロースを0.3質量%、溶剤として日本テルペン社製のジヒドロターピニルアセテートを48.8質量%、分散剤として日油社製のエスリーム221Pを0.9質量%配合して、組成物を得る。得られた組成物を、3本ロールミルとしてビューラー社製のSDY300を用いて、8bar、10bar、12barおよび14barの圧力でそれぞれ1パスずつ分散させて、ペーストを作製する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、凝集体の個数が少ない金属微粒子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[金属微粒子の製造方法]
本発明の金属微粒子の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)は、粒子径が1μm以下である原料金属微粒子を含有し、かつ、含水率が30質量%以下である水スラリーを準備し、上記水スラリーを、凍結乾燥することにより、金属微粒子を得る、金属微粒子の製造方法である。
【0012】
まず、上述したように、従来は、例えば真空乾燥(特許文献1)によって、水スラリーの水分を除去している。
しかし、粒子を含有する水スラリーを真空乾燥する場合、粒子どうしが水で架橋(液架橋)して近接した状態となり、この状態で水分除去されるため、粒子どうしが凝集しやすいと考えられる。粒子径が小さくなるに従い、近接する粒子が増加し、より強固な凝集体が生成する。水の表面張力は72.7mN/mと高いため、水溶媒を用いる水スラリーを乾燥する場合は、特に、凝集体を作りやすい。
【0013】
これに対して、本発明の製造方法においては、水スラリーを凍結乾燥する。ここで、凍結乾燥とは、水を凍結させた後に水を昇華して乾燥させることである。これにより、液架橋を最小限に抑えた状態で乾燥でき、その結果、粒子どうしの凝集を抑制できると考えられる。
もっとも、粒子径が小さい場合は、液架橋が強固に生じて、凍結の途上でも凝集が発生しやすい。
そこで、本発明者ら鋭意研究を進めた。その結果、凍結乾燥する前の水スラリーの含水率を30質量%以下まで低減することにより、粒子径が1μm以下と小さい場合であっても、凍結時における液架橋に起因する凝集を抑制できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の製造方法によれば、凝集体の個数が少ない金属微粒子が得られる。
凝集体が少ない金属微粒子を、積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いることにより、内部電極層を薄層化できる。その結果、良好な静電容量が得られる。
【0015】
以下、本発明の製造方法をより詳細に説明する。
【0016】
〈原料金属微粒子〉
原料金属微粒子は、水スラリーに含有される金属微粒子であり、以下、単に「粒子」という場合がある。
【0017】
《粒子径》
原料金属微粒子の粒子径は、1μm以下である。
原料金属微粒子を積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる場合、内部電極層を薄層化しやすいという理由から、原料金属微粒子の粒子径は、0.8μm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましく、0.4μm以下が更に好ましい。下限は特に限定されず、原料金属微粒子の粒子径は、例えば、0.05μm以上である。
【0018】
粒子径は、次のように求める。
まず、粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、倍率15000倍で観察して、SEM画像を得る。得られたSEM画像から、無作為に1000個以上の粒子を抽出する。画像解析ソフトを用いて、抽出した粒子の投影面積円相当径(SEM画像上の粒子の面積と同一の面積の円の直径)を得て、粒度分布における個数基準累積度数が50%となる粒子径を求める。
【0019】
《構成元素》
(金属元素)
原料金属微粒子に含有される金属元素は、特に限定されず、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銀(Ag)、金(Au)、プラチナ(Pt)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などが挙げられる。
これらのうち、原料金属微粒子を積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる観点からは、原料金属微粒子は、ニッケルおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。原料金属微粒子がニッケルおよび銅を含有する場合、銅とニッケルとの質量比(Cu/Ni)は、10/90~90/10が好ましく、20/80~80/20がより好ましく、30/70~70/30が更に好ましい。
この場合、原料金属微粒子は、焼結特性の改善を目的として、更に、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)などの元素を含有していてもよい。
原料金属微粒子における各金属元素の含有量は、高周波プラズマ発光分析装置(ICPE-9000、島津製作所社製)を用いて計測する。
【0020】
(硫黄)
また、本発明者らは、原料金属微粒子に特定量の硫黄(S)が含まれることにより、粒子どうしの近接がより抑制されることを見出した。
すなわち、凝集の発生をより抑制できるという理由から、原料金属微粒子において、硫黄の含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、1.0%質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
原料金属微粒子における硫黄の含有量は、炭素・硫黄分析装置(CS844、LECOジャパン社製)を用いて、燃焼法により計測する。
【0021】
《製法》
原料金属微粒子の製造方法は、特に限定されない。例えば、従来公知の気相法(例えば、特開2008-208465号公報、特開2011-219830号公報、特開2013-170303号公報、国際公開第2014/080600号などを参照)を用いて、原料金属微粒子を製造できる。
【0022】
〈水スラリー〉
水スラリーは、原料金属微粒子が水溶媒に分散した分散液である。
【0023】
《含水率》
水スラリーの含水率は、上述したように凝集を抑制できるという理由から、30質量%以下であり、24質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、凝集をより抑制できるという理由から、12質量%以下が更に好ましい。
下限は特に限定されず、例えば、5質量%以上であり、8質量%以上が好ましい。
【0024】
水スラリーの含水率は、微量水分測定装置(AQ-2100、平沼産業社製)および水分気化装置(EV-2000、平沼産業社製)を用いて、カールフィッシャー法により、300℃での水分量を測定することにより求める。
ただし、水スラリーの含水率が高い(例えば、含水率が50質量%以上である)場合は、カールフィッシャー法による水分量の測定ができない。この場合は、水スラリーを乾燥し、乾燥前の質量と乾燥後の質量とから、水分量を概算する。
【0025】
なお、水スラリーは、水溶媒以外に、更に、有機溶媒を含有していてもよい。水スラリーが有機溶媒を含有する場合、有機溶媒の含有量は、水スラリー中で20質量%までとすることが好ましい。
有機溶媒としては、例えば、例えば、エタノール、テルペン系アルコール、t-ブタノール、アセトン、酢酸などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
《製法》
水スラリーは、原料金属微粒子を、溶媒に分散させることにより得られる。
このとき、例えば、まず、含水率が高め(例えば約90質量%)の水スラリーを得る。その後、遠心脱水機を用いた脱水等を行なうことにより、水スラリーを濃縮して、含水率を低減する。こうして、含水率が30質量%以下の水スラリーが得られる。
水スラリーを濃縮することなく、じかに、含水率が30質量%以下の水スラリーを得てもよい。
【0027】
〈凍結乾燥〉
水スラリーを凍結乾燥して、水分を除去する。これにより、凝集が抑制された金属微粒子が得られる。
凍結乾燥の方法は、従来公知の方法を適宜採用できる。
具体的には、例えば、まず、水スラリーを、溶媒の融点以下の温度まで冷却して、凍結する。水スラリーを冷却(凍結)する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を採用でき、例えば、水スラリーを収容した容器を冷却棚に設置する方法;冷却された気体や、液体窒素、液化炭酸ガスなどの液化ガスを用いて水スラリーを冷却する方法;等が挙げられる。
次いで、凍結した水スラリーを乾燥する。このとき、溶媒の融点以上の温度にならないよう制御して、真空(減圧)条件下で、乾燥することが好ましい。具体的には、水の三重点(600Pa、0.01℃)以下の条件、すなわち、温度が0.01℃以下、かつ、圧力が600Pa以下の高真空条件下で、乾燥することがより好ましい。こうして、凍結した水スラリーの溶媒を、昇華させて除去する。
【0028】
水スラリーを凍結乾燥することにより乾燥体が得られる。得られた乾燥体は、適宜ふるい等をかけてもよい。こうして、乾燥粉の態様で、所望する金属微粒子が得られる。
【0029】
[金属微粒子]
本発明の金属微粒子は、上述した本発明の製造方法により得られる金属微粒子である。
より詳細には、本発明の金属微粒子は、下記条件1で測定される最小径5μm以上である凝集体の個数が、5視野の平均値で20個以下である、金属微粒子である。
【0030】
条件1:下記条件2で作製されるペーストを、厚さ10μmで塗布し、100℃で1分間乾燥して乾燥膜を得る。得られた乾燥膜を、光学顕微鏡を用いて、倍率200倍で観察する。視野面積が28.3mm2である1視野あたりの最小径5μm以上である凝集体の個数を測定する。
【0031】
条件2:金属微粒子(本発明の金属微粒子)を50質量%、樹脂としてダウ・ケミカル日本社製のエチルセルロースを0.3質量%、溶剤として日本テルペン社製のジヒドロターピニルアセテートを48.8質量%、分散剤として日油社製のエスリーム221Pを0.9質量%配合して、組成物を得る。得られた組成物を、3本ロールミルとしてビューラー社製のSDY300を用いて、8bar、10bar、12barおよび14barの圧力でそれぞれ1パスずつ分散させて、ペーストを作製する。
【0032】
ところで、特開2014-122368号公報の段落[0038]および[0045]では、溶剤としてターピネオールを用いて、凝集体を評価している。
しかし、特開平9-17687号公報の段落[0008]に記載されているように、ターピネオールは、積層体を焼成して積層セラミックコンデンサを得る際に、シートアタックが発生させ得る。
このため、上記条件2では、溶媒として、ターピネオールではなく、ジヒドロターピニルアセテートを用いて、ペーストを作製する。
ジヒドロターピニルアセテートは、ターピネオールと比べて、ペースト作製時の分散性が低下する。このため、ジヒドロターピニルアセテートを用いてペーストを作製する場合、ターピネオールを用いてペーストを作製する場合よりも、凝集体の個数が多くなり、密度も高くなる傾向にある。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されない。
【0034】
〈金属微粒子の製造〉
以下のようにして、実施例1~実施例7および比較例1~比較例10の金属微粒子を製造した。
【0035】
《実施例1~実施例7》
(実施例1)
気相法により製造した、0.13質量%の硫黄を含有するニッケル微粒子を、原料金属微粒子として準備した。原料金属微粒子の粒子径は、0.2μmであった。
準備した原料金属微粒子を、水溶媒に分散させて、含水率が約90質量%である水スラリーを得た。得られた水スラリーを、遠心脱水機を用いて脱水し、水スラリーの含水率を11.3質量%まで低減した。
含水率を11.3質量%まで低減した水スラリーを、凍結乾燥機(FDU2110、DRC1110-REC、東京理化器械社製)を用いて、-40℃で凍結した。凍結した水スラリーを、-10℃、20Paの真空条件下で、24時間乾燥し、その後、更に、30℃、20Paの真空条件下で、24時間乾燥し、乾燥体を得た。
得られた乾燥体を、開口径が500μmのメッシュに通して、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を、実施例1の金属微粒子とした。
【0036】
(実施例2)
原料金属微粒子(ニッケル微粒子)における硫黄の含有量を0.05質量%とした。
それ以外の点は、実施例1と同様にして、実施例2の金属微粒子を得た。
【0037】
(実施例3)
原料金属微粒子(ニッケル微粒子)に硫黄を含有させなかった。
それ以外の点は、実施例1と同様にして、実施例3の金属微粒子を得た。
【0038】
(実施例4)
水スラリーの含水率を17.3質量%まで低減した。
それ以外の点は、実施例1と同様にして、実施例4の金属微粒子を得た。
【0039】
(実施例5)
水スラリーの含水率を28.2質量%まで低減した。
それ以外の点は、実施例1と同様にして、実施例5の金属微粒子を得た。
【0040】
(実施例6)
気相法により製造した、0.13質量%の硫黄を含有する銅微粒子を、原料金属微粒子として準備した。原料金属微粒子の粒子径は、0.2μmであった。
それ以外の点は、実施例1と同様にして、実施例6の金属微粒子を得た。
【0041】
(実施例7)
気相法により製造した、0.13質量%の硫黄を含有し、かつ、銅とニッケルとの質量比(Cu/Ni)が40/60であるニッケル銅合金微粒子を、原料金属微粒子として準備した。原料金属微粒子の粒子径は、0.2μmであった。
それ以外の点は、実施例1と同様にして、実施例7の金属微粒子を得た。
【0042】
《比較例1~比較例10》
(比較例1)
気相法により製造した、0.13質量%の硫黄を含有するニッケル微粒子を、原料金属微粒子として準備した。原料金属微粒子の粒子径は、0.2μmであった。
準備した原料金属微粒子を、水溶媒に分散させて、含水率が約90質量%である水スラリーを得た。得られた水スラリーを、遠心脱水機を用いて脱水し、水スラリーの含水率を11.3質量%まで低減した。
含水率を11.3質量%まで低減した水スラリーを、真空乾燥機(VOS-301SD、東京理化器械社製)を用いて、60℃、-0.1MPaの条件で、12時間乾燥し、乾燥体を得た。
得られた乾燥体を、開口径が500μmのメッシュに通して、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を、比較例1の金属微粒子とした。
【0043】
(比較例2)
原料金属微粒子(ニッケル微粒子)における硫黄の含有量を0.05質量%とした。
それ以外の点は、比較例1と同様にして、比較例2の金属微粒子を得た。
【0044】
(比較例3)
原料金属微粒子(ニッケル微粒子)に硫黄を含有させなかった。
それ以外の点は、比較例1と同様にして、比較例3の金属微粒子を得た。
【0045】
(比較例4)
気相法により製造した、0.13質量%の硫黄を含有するニッケル微粒子を、原料金属微粒子として準備した。原料金属微粒子の粒子径は、0.2μmであった。
準備した原料金属微粒子を、水溶媒に分散させて、含水率が約90質量%である水スラリーを得た。
含水率が約90質量%である水スラリーを、凍結乾燥機(FDU2110、DRC1110-REC、東京理化器械社製)を用いて、-40℃で凍結した。凍結した水スラリーを、-10℃、20Paの真空条件下で、24時間乾燥し、その後、更に、30℃、20Paの真空条件下で、24時間乾燥し、乾燥体を得た。
得られた乾燥体を、開口径が500μmのメッシュに通して、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を、比較例4の金属微粒子とした。
なお、水スラリーの含水率は、カールフィッシャー法による水分量の測定ができなかったので、乾燥前後の水スラリーの質量から概算した。
【0046】
(比較例5)
原料金属微粒子(ニッケル微粒子)における硫黄の含有量を0.05質量%とした。
それ以外の点は、比較例4と同様にして、比較例5の金属微粒子を得た。
【0047】
(比較例6)
原料金属微粒子(ニッケル微粒子)に硫黄を含有させなかった。
それ以外の点は、比較例4と同様にして、比較例6の金属微粒子を得た。
【0048】
(比較例7)
水スラリーの含水率を、遠心脱水機を用いた脱水により35.2質量%まで低減した。水スラリーの含水率は、カールフィッシャー法により求めた。
それ以外の点は、比較例4と同様にして、比較例7の金属微粒子を得た。
【0049】
(比較例8)
水スラリーの含水率を、遠心脱水機を用いた脱水により約59質量%まで低減した。
それ以外の点は、比較例4と同様にして、比較例8の金属微粒子を得た。
なお、水スラリーの含水率は、カールフィッシャー法による水分量の測定ができなかったので、乾燥前後の水スラリーの質量から概算した。
【0050】
(比較例9)
気相法により製造した、0.13質量%の硫黄を含有する銅微粒子を、原料金属微粒子として準備した。原料金属微粒子の粒子径は、0.2μmであった。
それ以外の点は、比較例1と同様にして、比較例9の金属微粒子を得た。
【0051】
(比較例10)
気相法により製造した、0.13質量%の硫黄を含有し、かつ、銅とニッケルとの質量比(Cu/Ni)が40/60であるニッケル銅合金微粒子を、原料金属微粒子として準備した。原料金属微粒子の粒子径は、0.2μmであった。
それ以外の点は、比較例1と同様にして、比較例10の金属微粒子を得た。
【0052】
〈導電ペーストの作製〉
実施例1~実施例7および比較例1~比較例10の金属微粒子を用いて、導電ペーストを作製した。
具体的には、まず、金属微粒子を50質量%、樹脂(エチルセルロース、ダウ・ケミカル日本社製)を0.3質量%、溶剤(ジヒドロターピニルアセテート、日本テルペン社製)を48.8質量%、分散剤(エスリーム221P、日油社製)を0.9質量%配合して、組成物を得た。
次に、得られた組成物を、3本ロールミル(SDY300、ビューラー社製)を用いて、8bar、10bar、12barおよび14barの圧力でそれぞれ1パスずつ分散させた。こうして、導電ペーストを得た。
【0053】
〈評価〉
作製した導電ペーストを用いて、次の評価を行なった。結果を下記表1に示す。
【0054】
《凝集体の個数》
作製した導電ペーストを、アプリケータを用いて、スライドガラス上に厚さ10μmで塗布し、100℃で1分間乾燥して、ペースト乾燥膜を得た。得られたペースト乾燥膜を、光学顕微鏡を用いて、倍率200倍で観察した。1視野(視野面積:28.3mm2)あたりの最小径5μm以上である凝集体の個数を測定した。5視野の平均値を下記表1に記載した。
【0055】
《密度》
作製した導電ペーストを、アプリケータを用いて、PET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムに厚さ300μmで塗布し、100℃で15分間乾燥して、ペースト乾燥膜を得た。得られたペースト乾燥膜を、治具を使用して直径30mmの円盤状にくり抜いた。くり抜いたペースト乾燥膜の直径、高さおよび質量から、密度(単位:g/cm3)を計測した。計測は2回行ない、2回の平均値を下記表1に記載した。
【0056】
【0057】
〈評価結果まとめ〉
《実施例と比較例との対比》
上記表1に示す結果から明らかなように、含水率が30質量%以下の水スラリーを凍結乾燥した実施例1~実施例7は、凍結乾燥しなかった比較例1~比較例3、比較例9および比較例10、ならびに、水スラリーの含水率が30質量%を超える比較例4~比較例8よりも、凝集体の個数が少なく、かつ、高密度であった。
【0058】
具体的には、例えば、乾燥方法のみ異なる実施例1と比較例1とを対比すると、凍結乾燥した実施例1は、凍結乾燥しなかった比較例1よりも、凝集体の個数が少なく、かつ、高密度であった。
これは、実施例2と比較例2との対比、実施例3と比較例3との対比、実施例6と比較例9との対比、および、実施例7と比較例10との対比においても、同様であった。
【0059】
また、水スラリーの含水率のみ異なる実施例1と比較例4、比較例7および比較例8とを対比すると、含水率が30質量%以下である実施例1は、含水率が30質量%を超える比較例4、比較例7および比較例8よりも、凝集体の個数が少なく、かつ、高密度であった。
これは、実施例2と比較例5との対比、および、実施例3と比較例6との対比においても、同様であった。
【0060】
《実施例どうしの対比》
原料金属微粒子の硫黄の含有量のみが異なる実施例1~実施例3を対比すると、硫黄を含有しない実施例3よりも、硫黄の含有量が0.05質量%以上である実施例1および実施例2の方が、凝集体の個数がより少なく、かつ、より高密度であった。
そして、実施例1と実施例2とを対比すると、硫黄の含有量が0.1質量%以上である実施例1の方が、硫黄の含有量が0.1質量%未満である実施例2よりも、凝集体の個数が更に少なく、かつ、更に高密度であった。
【0061】
また、水スラリーの含水率のみが異なる実施例1、実施例4および実施例5を対比すると、含水率の値が小さくなるに従い(すなわち、実施例5、実施例4、実施例1の順に)、凝集体の個数が少なくなり、かつ、密度が高くなる傾向が見られた。
【0062】
〈静電容量の評価〉
実施例1および比較例1の金属微粒子を用いて、積層セラミックコンデンサを作製し、静電容量を評価した。
【0063】
まず、実施例1および比較例1の金属微粒子を用いて、導電ペーストを作製した。
具体的には、金属微粒子を45質量%、樹脂(エチルセルロース、ダウ・ケミカル日本社製)を2.5質量%、共材(チタン酸バリウム、堺化学工業社製)を9.0質量%、溶剤(ジヒドロターピニルアセテート、日本テルペン社製)を43.5質量%配合して、組成物を得た。得られた組成物を、3本ロールミル(SDY300、ビューラー社製)を用いて、8bar、10bar、12barおよび14barの圧力でそれぞれ1パスずつ分散させた。こうして、導電ペーストを得た。
【0064】
次に、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体セラミック粉末を用いて、ドクターブレード法により、厚さ2.5μmの誘電体グリーンシートを形成した。形成した誘電体グリーンシート上に、スクリーン印刷によって、導電ペーストを、0.4mg/cm2となるように塗布した。導電ペーストと誘電体グリーンシートとを交互に積層させ、導電ペーストの層が5層である積層体を得た。
【0065】
得られた積層体を切断して、3.2mm×2.5mmのサイズの個片を分離した。分離した積層体の個片を加熱して樹脂などを除去した。その後、非酸化性雰囲気中で最高温度1220℃にて焼成し、次いで、窒素雰囲気中で900℃にて焼付けを行なった。
【0066】
こうして、積層セラミックコンデンサを作製した。
作製した積層セラミックコンデンサの静電容量(単位:nF)を計測した。結果を下記表2に示す。
【0067】
【0068】
〈静電容量の評価結果のまとめ〉
上記表2に示すように、実施例1の静電容量の平均値は、比較例1と比べて約5%向上していた。
上述したように、実施例1の金属微粒子は、比較例1よりも、凝集体の個数が少なく、かつ、高密度であったことから、静電容量が向上したと考えられる。
【0069】
更に、実施例6および比較例9の金属微粒子(銅微粒子)を用いて、上記と同様にして、静電容量を評価したところ、実施例6の静電容量の平均値は、比較例9と比べて向上していた。
また、実施例7および比較例10の金属微粒子(ニッケル銅合金微粒子)を用いて、上記と同様にして、静電容量を評価したところ、実施例7の静電容量の平均値は、比較例10と比べて向上していた。