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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 71/02 20060101AFI20231219BHJP
   D05B 57/14 20060101ALI20231219BHJP
   D05B 69/20 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
D05B71/02
D05B57/14 A
D05B69/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019092568
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020185238
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】白石 典久
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-68850(JP,A)
【文献】特開2001-347091(JP,A)
【文献】特開2001-334090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内釜の外周に形成された凸条部の外周面であるレース面に潤滑剤を吐出して潤滑を行う供給装置と、
前記供給装置を制御する制御装置とを備えるミシンにおいて、
前記供給装置は、潤滑剤を吐出するノズルを有するピストンと、ピストンの動作量を制御可能なソレノイドとを有し、
前記制御装置は、前記潤滑剤の一回の供給量が0.3[mg]未満となるように前記供給装置を制御し周期的に供給することを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記制御装置は、前記潤滑剤の一回の供給量が0.2[mg]以下となるように前記供給装置
を制御することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記内釜の前記凸条部が嵌まる溝部を有する外釜に、当該外釜の外周から前記内釜の前記レース面まで通じている前記潤滑剤の通過経路が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記制御装置は、縫製の駆動源となるミシンモーターを制御して、前記潤滑剤の前記通過経路の入り口を前記供給装置側に向かせた状態で、前記供給装置による前記潤滑剤の吐出を行うことを特徴とする請求項3に記載のミシン。
【請求項5】
前記供給装置が前記外釜の下側に配置され、前記供給装置は上方に向かって前記潤滑剤の吐出を行うことを特徴とする請求項4に記載のミシン。
【請求項6】
針数を検出する針数検出部を備え、
前記制御装置は、前記針数検出部の検出による針数の積算値が第一針数を超えてから最初の縫製の停止時に、前記潤滑剤の吐出による潤滑を実行することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項7】
針数を検出する針数検出部を備え、
前記制御装置は、前記針数検出部の検出による針数の積算値が第二針数を超えると縫製の駆動源となるミシンモーターを規定の規制速度以下に抑え、さらに、第三針数を超えると、前記ミシンモーターを停止させて、前記潤滑剤の吐出による潤滑を実行することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項8】
前記制御装置は、縫製の駆動源となるミシンモーターについて、前記潤滑剤の吐出による潤滑の実行後の駆動開始から一定期間について、回転速度を制限することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤の供給装置を備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンの釜の給油装置は、糸切り回数又は針数をカウントし、これらが規定数に達すると、潤滑油を噴出して外釜の外側に設けられた開口から内釜のレース面に向かって給油を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-68850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のミシンは、潤滑油が縫い糸や被縫製物に付着して汚れが生じないように、ミシン内部のドライ化が進められている。釜は内釜と外釜とが摺動を生じるので潤滑油が必要となるが、釜から飛散した潤滑油によって縫い糸や被縫製物に汚れが生じないように、その使用量を極力低減することが望まれている。
上記従来の給油装置は、一回に50~100[mg]の給油を行っているが、釜に付着した潤滑油は外釜の回転により周囲に飛散して、ミシン内部を汚してしまうという問題が生じていた。
【0005】
本発明は、潤滑剤の飛散を抑えたミシンを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
内釜の外周に形成された凸条部の外周面であるレース面に潤滑剤を吐出して潤滑を行う供給装置と、
前記供給装置を制御する制御装置とを備えるミシンにおいて、
前記供給装置は、潤滑剤を吐出するノズルを有するピストンと、ピストンの動作量を制御可能なソレノイドとを有し、
前記制御装置は、前記潤滑剤の一回の供給量が0.3[mg]未満となるように前記供給装置を制御し周期的に供給することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、前記潤滑剤の一回の供給量が0.2[mg]以下となるように前記供給装置を制御することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載のミシンにおいて、
前記内釜の前記凸条部が嵌まる溝部を有する外釜に、当該外釜の外周から前記内釜の前記レース面まで通じている前記潤滑剤の通過経路が形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、縫製の駆動源となるミシンモーターを制御して、前記潤滑剤の前記通過経路の入り口を前記供給装置側に向かせた状態で、前記供給装置による前記潤滑剤の吐出を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載のミシンにおいて、
前記供給装置が前記外釜の下側に配置され、前記供給装置は上方に向かって前記潤滑剤の吐出を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
針数を検出する針数検出部を備え、
前記制御装置は、前記針数検出部の検出による針数の積算値が第一針数を超えてから最初の縫製の停止時に、前記潤滑剤の吐出による潤滑を実行することを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
針数を検出する針数検出部を備え、
前記制御装置は、前記針数検出部の検出による針数の積算値が第二針数を超えると縫製の駆動源となるミシンモーターを規定の規制速度以下に抑え、さらに、第三針数を超えると、前記ミシンモーターを停止させて、前記潤滑剤の吐出による潤滑を実行することを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
前記制御装置は、縫製の駆動源となるミシンモーターについて、前記潤滑剤の吐出による潤滑の実行後の駆動開始から一定期間について、回転速度を制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、制御装置が、潤滑剤の一回の供給量が0.3[mg]未満となるように供給装置を制御するので、潤滑油の飛散を飛躍的に低減しつつ釜のレース面に潤滑剤を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】発明の実施形態である千鳥縫いミシンの釜装置の周辺の構成を示す斜視図である。
図2】千鳥縫いミシンの制御系の構成を示すブロック図である。
図3図3(A)は内釜、図3(B)は外釜、図3(C)は内釜と外釜を結合させた釜の斜視図である。
図4】潤滑油の吐出制御(1)のフローチャートである。
図5】潤滑油の吐出制御(2)のフローチャートである。
図6】潤滑油の吐出制御(3)のフローチャートである。
図7】潤滑油の一回の吐出による供給量と供給後の釜の回転による周囲への飛散量を示す飛散面積との関係を示す比較試験の結果の図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態の全体構成]
以下、本発明の実施の形態を図1から図6に基づき詳しく説明する。本実施形態では、千鳥縫いミシン100を例に説明する。
図1は千鳥縫いミシン100の釜装置30の周辺の構成を示す斜視図、図2は制御系の構成を示すブロック図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、千鳥縫いミシン100(以下、単にミシン100とする)は、縫製動作の駆動源となるミシンモーター11と、縫い針を保持する針棒に上下動動作を付与する針上下動機構と、被縫製物の送り方向に直交する方向に沿って針棒を往動させる針振り機構と、ミシンモーター11によって回転駆動を行う下軸から動力を得て駆動を行う釜機構30と、被縫製物を水平な所定の送り方向に沿って予め設定された縫いピッチで間欠的に送る送り機構と、釜機構30の釜33に潤滑剤としての潤滑油を吐出して潤滑を行う供給装置40と、ミシン100の各構成を制御する制御装置90と、ミシンフレーム(後述するミシンベッド部12のみ図示)とを備えている。
なお、針上下動機構、針振り機構、送り機構等は周知の構成なので図示を省略している。また、千鳥縫いミシン100は、天秤機構、糸調子装置等の縫製に必要な構成も備えているが、これらも周知の構成なので説明は省略する。
【0018】
[ミシンフレーム]
ミシンフレームは、ミシン100の下部に位置するミシンベッド部12と、ミシンベッド部12の一端部から立ち上げられた立胴部と、立胴部の上端部からミシンベッド部12と同じ方向に延出されたミシンアーム部とを有する。
ミシンアーム部は、ミシンモーター11により回転駆動が行われる上軸と前述した針上下動機構及び針振り機構等が内部に格納されており、ミシンアーム部の先端部において、針棒を上下動可能に支持している。
ミシンベッド部12は、上軸を介してミシンモーター11により回転駆動が行われる下軸と前述した送り機構及び釜機構30が内部に格納されており、ミシンベッド部12の上面であって、針棒の真下となる位置には図示しない針板が設けられている。また、針板の下方に釜機構30が配置されている。
【0019】
上軸と下軸は、互いに平行であっていずれも水平な方向に沿って配設されている。一方、針板上において、被縫製物は、送り機構により上軸及び下軸の長手方向に直交する水平方向に沿って送られる。
以下の説明では、被縫製物の送り方向に沿った水平な方向をX軸方向(前後方向)、X軸方向と直交する水平な方向をY軸方向(左右方向)、X軸方向とY軸方向の両方に直交する方向をZ軸方向(上下方向)と定義する。
【0020】
[ミシンモーター]
ミシンモーター11は、その出力軸が上軸に接続され、出力軸と等速で上軸の回転駆動を行う。なお、ミシンモーター11の出力軸と上軸との間に動力伝達機構を設けて、減速又は増速を行ってもよい。
上軸は、図示しないベルト機構を介して、下軸に回転力を伝達する。
ミシンモーター11には、エンコーダ13が併設されており、ミシンモーター11の出力軸の軸角度を検出し、制御装置90に入力する。また、エンコーダ13は、ミシンモーター11の出力軸の軸角度の検出により、縫製時のミシン100の針数を検出することができ、針数検出部としても機能する。
また、エンコーダ13は、上軸の軸角度を検出する構成としても良い。
【0021】
[釜機構]
釜機構30は、内釜31及び外釜32からなる釜33と、外釜32に全回転の回転動作を伝える釜軸(図示略)と、内釜31に格納されるボビン及びボビンケース(いずれも図示略)とを備えている。なお、図1では釜33を簡略化して図示している。
釜軸は、下軸と直交するX軸方向に沿って配設されており、下軸から図示しない歯車機構を介して二倍速の回転が付与される。
【0022】
図3(A)は内釜31、図3(B)は外釜32、図3(C)は内釜31と外釜32を結合させた釜33の斜視図である。
図3(A)に示すように、内釜31は、X軸方向に垂直な円形の底板311と、底板311の中心からX軸方向に沿って立設された軸部312と、底板311の外周近傍から軸部312を中心としてX軸方向に沿って立設された周壁部313と、周壁部313の外周から半径方向外側に突出した状態で全周に渡って設けられたフランジ状の凸条部314とを備えている。
この内釜31には、周壁部313の内側にボビン及びボビンケースが格納される。格納の際には、ボビンの中心孔に軸部312が挿入された状態で回転可能に支持される。
凸条部314の外周面は、いわゆるレース面315であり、後述する供給装置40は、主に、このレース面315の潤滑を行う。
【0023】
図3(B)に示すように、外釜32は、X軸方向に垂直な略円形の底板321と、底板321の中心からX軸方向に沿って立設された筒状部322と、底板321の外周近傍から筒状部322の反対側に向かってX軸方向に沿って立設された周壁部323とを備えている。
上記筒状部322は、中心に釜軸の挿入穴が形成されており、外釜32全体が釜軸に固定的に連結される。
底板321は、外周の一部が切り欠かれた円形であり、周壁部323も、底板321の切り欠かれた部分に対応して、全周の一部が切り欠かれている。
そして、周壁部323の周方向の一端部は、周方向に沿って尖鋭な形状で延出され、その先端部が縫い針から上糸のループを捕捉する剣先324を形成している。
【0024】
前述した内釜31は、外釜32の周壁部323の内側に格納される。そして、周壁部323の内周面には、格納された内釜31の凸条部314が嵌合するガイド溝325が形成されている。内釜31の凸条部314が外釜32のガイド溝325に嵌合した状態で、内釜31と外釜32とは同心となり、相対的に円滑に回転することができるようになっている。
【0025】
さらに、周壁部323の周方向の他端部には、周方向に沿ってスリット326が形成されている。そして、このスリット326の内側には、外釜32の底板321の半径方向に沿って、凹溝からなる潤滑油の通過経路327が形成されている。図3(C)に示すように、この通過経路327の半径方向内側端部は、外釜32に格納された内釜31の凸条部314のレース面315に臨む配置となっている。
そして、外釜32の半径方向外側には、供給装置40のノズル口42が潤滑油の吐出方向を外釜32の中心に向けて配置されており、吐出された潤滑油が通過経路327内を通過して内釜31のレース面315に付着するようになっている。
【0026】
また、制御装置90は、縫製の途中又は縫製終了によりミシンモーター11を停止する場合に、上軸が規定の上停止位置となる軸角度で停止するようにミシンモーター11を制御する。
そして、上軸が上停止位置で停止したときに、外釜32の通過経路327は、鉛直上下方向平行となり、通過経路327における外釜32の半径方向外側の端部(入り口)が鉛直下方を向くように配置されている。
後述する供給装置40は、釜33の中心の鉛直下方となる位置で鉛直上方に潤滑油を吐出するように配置されており、ミシンモーター11の停止状態で、釜33に対して、鉛直下方から潤滑油の供給を行うことができる。
即ち、停止した釜33に対して、供給装置40は、鉛直上方に潤滑油を吐出することで、外釜32の通過経路327を通過して内釜31のレース面315に潤滑油を供給することができる。
【0027】
[供給装置]
供給装置40は、潤滑油を吐出するノズル口42と、ソレノイド41とを備えている。
【0028】
供給装置40の内部の液室に設けられたピストンにはソレノイド41のプランジャーが連結されている。そして、ソレノイド42には、プランジャーを進出(前進)させる方向に常時ピストンを押圧するバネが内蔵されている。
【0029】
供給装置40の内部には、中空の液室が形成されており、当該液室には、外部の潤滑油供給源から潤滑油が一定の充填圧力で供給される。
供給装置40の液室は、外部に潤滑油を吐出するためのノズル口42が連通するように形成されており、前述したピストンは液室内に挿入されている。そして、ソレノイドのプランジャーが後退すると、液室内にはピストンの後退に伴う容積増加により滑油供給源から潤滑油が充填され、プランジャーが前進するとピストンの前進に伴う容積減少により潤滑油がノズル口42から吐出される。
【0030】
ソレノイド41は、制御装置90に接続されて、プランジャーの後退移動量あるいは後退時間が任意に制御される。
前述したように、ピストンに接続されたプランジャーの後退移動量あるいは後退時間に応じて、供給装置40の液室内への潤滑油の充填量が決まるので、制御装置90は、ノズル口42から吐出される潤滑油の吐出量を任意に調節することができる。
供給装置40は、制御装置90により、0.01[mg]以上0.3[mg]未満の範囲で潤滑油を内釜31のレース面315に供給することができるように、ソレノイド41が制御される。より好ましくは、制御装置90は、0.01[mg]以上0.2[mg]以下の範囲で潤滑油を内釜31のレース面315に供給するように、ソレノイド41を制御してもよい。
【0031】
前述したように、供給装置40は、釜33の中心の鉛直下方となる位置で鉛直上方に向かって潤滑油を吐出するように配置されている。従って、ミシンモーター11の停止時に、鉛直下方を向いた外釜32の通過経路327に対して、鉛直上方に潤滑油を吐出することで、内釜31のレース面315に潤滑油を供給することができる。
【0032】
また、供給装置40は、当該供給装置40をX軸方向に沿って位置調節可能に支持する第一ブラケット43と、第一ブラケット43を介して供給装置40をY軸方向に沿って位置調節可能に支持する第二ブラケット44と、第一ブラケット43及び第二ブラケット44を介して供給装置40をZ軸方向に沿って位置調節可能に支持する第三ブラケット45とによりミシンベッド部12に対して支持されている。
第一ブラケット43にはX軸方向に沿った長穴が設けられ、当該長穴に通された締結ネジ(図示略)により供給装置40は固定されている。そして、締結ネジを緩めることで供給装置40は長穴に沿って移動可能となり、供給装置40をX軸方向に沿って位置調節することができる。
第二ブラケット44にはY軸方向に沿った長穴が設けられ、当該長穴に通された締結ネジ(図示略)により第一ブラケット43は固定されている。そして、締結ネジを緩めることで第一ブラケット43は長穴に沿って移動可能となり、供給装置40をY軸方向に沿って位置調節することができる。
また、第二ブラケット44にはZ軸方向に沿った長穴が設けられ、当該長穴に通された締結ネジ(図示略)により第二ブラケット44は第三ブラケット45に固定されている。そして、締結ネジを緩めることで第二ブラケット44は長穴に沿って移動可能となり、供給装置40をZ軸方向に沿って位置調節することができる。
つまり、供給装置40は、ノズル口42の位置をX、Y、Z軸の各方向に沿った任意の位置に調節可能であり、外釜32の通過経路327の半径方向外側端部の入り口に対してより正確に位置決めすることができる。
【0033】
[ミシンの制御系]
図2に示すように、ミシン100は、上述した各部の動作を制御するための制御手段としての制御装置90を備えている。そして、制御装置90は、縫製における動作制御を行うためのプログラムが格納されたROM92と、演算処理の作業領域地となるRAM93と、縫製データなど各種データを記憶する記憶手段としての不揮発性のデータメモリ94と、ROM92内のプログラムを実行するCPU91とを備えている。
【0034】
また、CPU91は、ミシンモーター駆動回路111を介して、ミシンモーター11及びエンコーダ13と接続されており、上軸角度を検出すると共にミシンモーター11の駆動開始と停止、駆動速度を制御する。
また、CPU91は、駆動回路411を介して供給装置40のソレノイド41と接続されており、プランジャーの後退移動量あるいは後退時間を制御する。
【0035】
また、CPU91には、図示しないインターフェイスを介して、操作パネル95が接続されている。操作パネル95は、タッチパネル96と液晶パネル97を備えている。
タッチパネル96は、液晶パネル97の表示画面上に配されており、液晶パネル97の表示画面に対する接触位置を検出する機能を有する。
液晶パネル97は、各種キーやボタンを有する操作キー群や、各種縫製データや各種表示画面を表示する機能を有する。
操作パネル95からは、各種の設定データ等が入力される。例えば、供給装置40により潤滑油の吐出量は、0.01[mg]以上0.3[mg]未満の範囲で任意に設定することができる。
また、操作パネル95からは、後述する潤滑油の吐出制御に関する第一~第三針数の値や後述する潤滑実行後のミシンモーター11の制限回転数及び制限を行う期間(針数)等を設定することができる。
【0036】
また、CPU91には、図示しないインターフェイスを介して、操作ペダル98が接続されている。操作ペダル98からはミシン100の縫製の開始と停止等の操作及びミシンモーター11の目標回転数等が入力される。
【0037】
[潤滑油の吐出制御(1)]
潤滑油の吐出制御(1)は、供給装置40により釜33に対する潤滑油の吐出の実行条件を定めた制御である。CPU91は、操作パネル95により予め設定された第一針数に基づいて潤滑油の吐出を行うタイミングを決定する。
【0038】
上記CPU91がROM92内のプログラムによって実行する潤滑油の吐出制御(1)について図4のフローチャートに基づいて説明する。
潤滑油の吐出制御(1)において、CPU91は、ペダル98の踏み込み操作により縫製の開始指示が入力されると、ミシンモーター11を起動して縫製を開始する(ステップS1)。また、CPU91は、ミシンモーター11の起動と共にエンコーダ13の出力から針数の積算値のカウントを開始する(ステップS3)。
【0039】
そして、針数の積算値が第一針数を超えたか否かを監視し(ステップS5)、超えなければ監視を継続する。
また、針数の積算値が第一針数を超えた場合には、CPU91は、操作ペダル98の踏み込み解除による縫製の停止指示の入力を監視し(ステップS7)、入力がなければ監視を継続する。
【0040】
そして、縫製の停止指示の入力を検出すると、CPU91は、エンコーダ13の出力を監視しながら、上軸が上停止位置となるようにミシンモーター11を停止させる(ステップS9)。
上軸が上停止位置で停止すると、外釜32の潤滑油の通過経路327の入り口が供給装置40のノズル口42の鉛直上方に位置する状態となるので、CPU91は、ソレノイド41のプランジャーが予め設定された吐出量に対応するように後退移動させる。そして、CPU91が、ソレノイド41をOFFに切り替えるとバネの付勢によってプランジャーとともにピストンが前進する。これにより設定量の潤滑油が供給装置40のノズル口42から吐出され、外釜32の通過経路327を通過して内釜31のレース面315に付着する(ステップS11)。これにより、内釜31のレース面315に対する潤滑が行われる。
そして、CPU91は、針数の積算値をリセットして(ステップS13)、制御を終了する。
【0041】
[潤滑油の吐出制御(2)]
潤滑油の吐出制御(2)も、供給装置40により釜33に対する潤滑油の吐出の実行条件を定めた制御である。CPU91は、操作パネル95により予め設定された第二針数及び第三針数に基づいて二段階で潤滑油の吐出を行うタイミングを決定する。
【0042】
上記CPU91がROM92内のプログラムによって実行する潤滑油の吐出制御(2)について図5のフローチャートに基づいて説明する。
潤滑油の吐出制御(2)において、CPU91は、ペダル98の踏み込み操作により縫製の開始指示が入力されると、ミシンモーター11を起動して縫製を開始する(ステップS31)。また、CPU91は、ミシンモーター11の起動と共にエンコーダ13の出力から針数の積算値のカウントを開始する(ステップS33)。
【0043】
そして、針数の積算値が第二針数を超えたか否かを監視し(ステップS35)、超えなければ監視を継続する。
また、針数の積算値が第二針数を超えた場合には、CPU91は、操作ペダル98の踏み込み解除による縫製の停止指示の入力の有無を判定し(ステップS37)、縫製の停止指示の入力を検出すると、CPU91は、上停止位置でミシンモーター11を停止させる(ステップS39)。
そして、CPU91は、供給装置40を制御して、設定量の潤滑油をノズル口42から吐出させて、内釜31のレース面315に対する潤滑を行う(ステップS41)。
そして、CPU91は、針数の積算値をリセットして(ステップS43)、制御を終了する。
【0044】
一方、ステップS37において、縫製の停止指示の入力がない場合には、CPU91は、操作ペダル98の踏み込み量がより高い目標速度を指示している場合であっても、ミシンモーター11の回転速度を予め定められた規制速度まで減速する(ステップS45)。この規制速度は、操作パネル95から予め設定することができる。
そして、CPU91は、針数の積算値が第二針数より大きな第三針数を超えたか否かを判定し(ステップS47)、超えてなければステップS37に処理を戻して、再び、縫製の停止指示の入力の有無を判定する。
また、CPU91は、針数の積算値が第三針数を超えた場合には、縫製の停止指示の入力の有無にかかわらず、ステップS39に処理を進めて、ミシンモーター11を停止させて、供給装置40による潤滑油の吐出を実行し、内釜31のレース面315に対する潤滑を行う(ステップS41)。
そして、CPU91は、針数の積算値をリセットして(ステップS43)、制御を終了する。
【0045】
なお、潤滑油の吐出制御(1)と潤滑油の吐出制御(2)は、いずれか一方を予め選択して、選択された吐出制御のみを実行する構成としても良いが、それぞれの吐出制御を並行して行ってもよい。つまり、潤滑油の吐出制御(1)と潤滑油の吐出制御(2)のそれぞれの潤滑油の吐出の実行条件のいずれを満たした場合でも、潤滑油の吐出を実行させる構成としても良い。
その場合、針数の積算値を共有し、潤滑油の吐出制御(1)と潤滑油の吐出制御(2)のいずれの潤滑油の吐出の実行条件を満たした場合でも、積算値をリセットすることが好ましい。
【0046】
[潤滑油の吐出制御(3)]
潤滑油の吐出制御(3)は、供給装置40により釜33に対する潤滑油の吐出を行った後で、最初にミシンモーター11を起動する場合の制御である。CPU91は、この起動時のミシンモーター11の回転速度を、予め操作パネル95により設定された規定の制限速度に制限する。
【0047】
上記CPU91がROM92内のプログラムによって実行する潤滑油の吐出制御(3)について図6のフローチャートに基づいて説明する。
潤滑油の吐出制御(1)又は(2)により、釜33に潤滑油が供給された後に、最初に操作ペダル98が踏まれてミシンモーター11が起動すると(ステップS61)、CPU91は、針数の積算数のカウントを開始すると共に、操作ペダル98の踏み込み量が示すミシンモーター11の目標速度が予め設定された制限速度を超えるか否かを判定する(ステップS63)。この制限速度は、操作パネル95から予め設定することができる。
【0048】
そして、目標速度が制限速度以下の場合には、CPU91は、ミシンモーター11を目標速度で駆動し(ステップS65)、目標速度が制限速度を超える場合には、ミシンモーター11を制限速度で駆動する(ステップS67)。
そして、CPU91は、積算針数が規定針数を超えるか否かを判定する(ステップS69)。この規定針数は、縫製開始からミシンモーター11が制限速度以下を維持すべき期間であり、操作パネル95から予め設定することができる。
【0049】
そして、積算針数が規定針数を超えていない場合には、CPU91は、ステップS63に処理を戻して、再び、目標速度が制限速度を超えるか否かを判定する。また、積算針数が規定針数を超えた場合には、CPU91は、速度制限を終了し、操作ペダル98の踏み込み量が示す目標速度でミシンモーター11を駆動し、そのまま縫製を実行する。
【0050】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記ミシン100は、制御装置90が、内釜31のレース面315に対する潤滑油の一回の供給量が0.01[mg]以上0.3[mg]未満となるように供給装置40を制御している。
ここで、図7に基づいて、潤滑油の一回の吐出による供給量と供給後の釜33の回転による周囲への飛散量を示す飛散面積との関係を示す比較試験の結果について説明する。
上記比較試験は、潤滑油が全く付着していない内釜31のレース面315に対して、50[mg](現行)、0.3[mg]、0.2[mg]、0.15[mg]、0.1[mg]の各液量で吐出を行い、それぞれの液量で潤滑油が供給された釜33の回転駆動を行い、釜33に対して規定の距離だけ離して置かれた紙面に対して飛散した潤滑油によって生じたシミの面積の合計を求めた。
各液量での飛散試験をそれぞれ五回ずつ行い、その平均値で評価を行う。良否の判断基準は、現行の供給量(50[mg])での飛散面積を90%削減できるか否かによって評価した。
その結果、現行の飛散面積の平均は12.2[mm2]であるのに対して、吐出量0.3[mg]の場合には1.4[mm2]となり、削減率90%に僅かに届かず、吐出量0.2[mg]の場合には0.8[mm2]となり、削減率90%を余裕を持って達成することができた。また、それ以下の吐出量では、飛散面積の平均は殆ど0に近く、潤滑油の飛散が殆ど生じないという結果が得られた。
このように、潤滑油の一回の供給量を0.3[mg]未満とすることにより、潤滑油の飛散を飛躍的に低減することが可能となることが明らかとなった。
【0051】
また、制御装置90が、潤滑油の一回の供給量を0.2[mg]以下とする場合には、上記比較試験の結果が示すように、極めて高い潤滑油の飛散抑制効果を得ることができる。
【0052】
また、ミシン100の釜33の外釜32は、その外周から内釜31のレース面315まで通じている潤滑油の通過経路327が形成されている。
このため、釜33の周囲から内釜31のレース面315に良好に潤滑油を供給することが可能となる。
【0053】
また、制御装置90は、縫製の駆動源となるミシンモーター11を制御して、潤滑油の通過経路327の入り口を供給装置40側に向かせた状態で、供給装置40による潤滑油の吐出を行うので、作業者が手作業で各部の位置合わせを行う等の手間を解消し、メンテナンスの作業負担を低減することが可能となる。
【0054】
また、供給装置40が、外釜32の下側に配置され、供給装置40は上方に向かって潤滑剤の吐出を行うので、水平に潤滑油を吐出する場合等に比べて、吐出された潤滑油の軌道に対する重力の影響を低減し、より適正にレース面315に対して潤滑油を供給することが可能となる。
【0055】
また、制御装置90は、エンコーダ13の検出による針数の積算値が第一針数を超えてから最初の縫製の停止時に、潤滑油の吐出による潤滑を実行するので、周期的に潤滑油を供給することができ、潤滑油の消失による焼き付け等を効果的に回避し、釜装置の良好な動作を維持することが可能となる。
【0056】
また、制御装置90は、エンコーダ13の検出による針数の積算値が第二針数を超えるとミシンモーター11を規定の規制速度以下に抑え、さらに、第三針数を超えると、ミシンモーター11を停止させて、潤滑油の吐出による潤滑を実行する。
このため、ミシンモーター11を規制速度に制限することで、作業者に潤滑油の供給が必要な時期であることを認識させることができる共に、認識されない場合には、自動的に潤滑油が供給されるので、周期的に潤滑油を供給することができ、潤滑油の消失による焼き付け等を効果的に回避し、釜装置の良好な動作を維持することが可能となる。
【0057】
また、制御装置90は、ミシンモーター11について、潤滑剤の吐出による潤滑の実行後の駆動開始から一定期間について、回転速度を制限する制御を行っている。
このため、潤滑油が内釜31のレース面315の全体に行き渡ってから高速での摺動が行われるようになり、潤滑をより効果的に行うことが可能となる。また、潤滑油が内釜31のレース面315の全体に行き渡ることで潤滑剤が周方向に均された状態となり、高速回転に移行しても潤滑剤の飛散を抑制することが可能となる。
【0058】
[その他]
なお、上記実施形態では、一定の条件を満たすと潤滑油の供給が行われる場合を例示したが、これに限らず、例えば、専用の操作スイッチ又は操作パネル95から潤滑油の供給の実行の指示を入力すると、供給装置40を制御して潤滑油の供給を実行するように構成しても良い。
【0059】
また、供給装置40では、ソレノイド41により潤滑油の吐出量を調節可能とする例を示したが、これに限らず、例えば、手動操作を行う調節ネジを供給装置40のシリンダーに設け、調節ネジの回転による進退移動方向をピストンの往動方向と一致させると共に、ピストンの後退時に調節ネジの先端部が当接してストッパとして機能するように構成してもよい。この場合、潤滑油の吐出量は、調節ネジを手作業で回転させることで調節可能となる。
【符号の説明】
【0060】
11 ミシンモーター
13 エンコーダ
30 釜機構
31 内釜
32 外釜
33 釜
40 供給装置
41 ソレノイド
90 制御装置
91 CPU
95 操作パネル
98 操作ペダル
100 ミシン
314 凸条部
315 レース面
325 ガイド溝
327 通過経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7