IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スタンレー電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-機能選択複合光学装置 図1
  • 特許-機能選択複合光学装置 図2
  • 特許-機能選択複合光学装置 図3
  • 特許-機能選択複合光学装置 図4-1
  • 特許-機能選択複合光学装置 図4-2
  • 特許-機能選択複合光学装置 図5
  • 特許-機能選択複合光学装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】機能選択複合光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1335 20060101AFI20231219BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20231219BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20231219BHJP
   G02F 1/1347 20060101ALI20231219BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G02F1/1335 510
G02B5/30
G02F1/13 505
G02F1/1347
G09F9/00 304
G09F9/00 313
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019098067
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020194013
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(72)【発明者】
【氏名】真野 智秀
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-205363(JP,A)
【文献】特開2010-047202(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208914(WO,A1)
【文献】特開2009-008881(JP,A)
【文献】特開2019-032491(JP,A)
【文献】米国特許第08767145(US,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0074499(KR,A)
【文献】特開2001-318374(JP,A)
【文献】特開2006-126313(JP,A)
【文献】特開2014-041274(JP,A)
【文献】特開2004-118041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F1/1335
G02F1/13
G02F1/1347
G02B5/30
G09F9/00
B60R1/04
B60R1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過吸収型偏光子、機能選択液晶素子、および多層膜透過反射型偏光子をこの順に積層配置した機能選択複合光学装置であって、
前記機能選択複合光学装置の主面内で直交する第1方向、第2方向において、前記第1方向は、前記機能選択複合光学装置の長軸方向であり、
前記機能選択複合光学装置は、前記第1方向の長さが200mmを超え、かつ前記第1方向の長さの前記第2方向の長さに対する比が2以上であり、
前記多層膜透過反射型偏光子の透過光偏光軸が前記第1方向に対して時計回り方向または反時計回り方向に10°~20°の範囲で回転された方向である、
機能選択複合光学装置。
【請求項2】
前記機能選択液晶素子が、電圧無印加状態で液晶分子が対向基板に対して垂直配向する液晶素子である請求項1に記載の機能選択複合光学装置。
【請求項3】
前記機能選択液晶素子中の液晶分子が電圧印加時に前記対向基板に対して略水平配向となり、前記液晶素子を透過する光の偏光方向を90°変化させる請求項2に記載の機能選択複合光学装置。
【請求項4】
前記透過吸収型偏光子の透過光偏光軸の方向が第2方向である請求項1~3のいずれか1項に記載の機能選択複合光学装置。
【請求項5】
前記透過吸収型偏光子の透過光偏光軸の方向が、前記多層膜透過反射型偏光子の透過光偏光軸の方向と直交する請求項1~4のいずれか1項に記載の機能選択複合光学装置。
【請求項6】
前記透過吸収型偏光子が車両内で運転者から見て、前記多層膜透過反射型偏光子よりも手前に配され、後方監視鏡として機能する請求項1~5のいずれか1項に記載の機能選択複合光学装置。
【請求項7】
前記多層膜透過反射型偏光子の後方に画像表示可能な液晶表示素子が配置されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の機能選択複合光学装置。
【請求項8】
前記液晶表示素子が、前記多層膜透過反射型偏光子の透過光偏光軸に対して交差する透過光偏光軸を有する出射側偏光子を有する、請求項7に記載の機能選択複合光学装置。
【請求項9】
前記機能選択複合光学装置の第1方向、第2方向の比が4以上の請求項1~8のいずれか1項に記載の機能選択複合光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡機能と窓機能を選択できる機能選択複合光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡機能を有する光学装置に対する需要は大きい。例えば、使用者が自分自身を写す為の鏡として鏡機能が用いられる。鏡機能を透明な窓機能に切り替え可能なことが望まれる場合もある。車輌等においては、前方を向いた運転者がフロントガラスを通して前方を監視すると共に、振り向かずに自車の後方の状況を観察する後方監視鏡等として鏡機能が用いられる。車輌においては、前方、後方の視界の他、計器類、ナビゲーション画面等運転者が注意すべき情報を表示する部材も多い。鏡機能を窓機能に切り替え、窓を介して新たな視野を提供することが望まれる場合もある。このような機能を選択できる複合光学装置に対する需要も高い。
【0003】
透明電極を有する透明基板を対向配置し、それらの間にAgを含む電解液を収容し、対向する電極間にdc電圧を印加すると、負極上にAg膜が堆積する。Ag膜がない時は、透明な窓として機能し、Ag膜がある時は入射光を反射する鏡となる。電圧を解除するとAg膜は溶解して、透明な窓に戻る。このようにして、透明部材に必要に応じて鏡面を形成することができる。Ag膜の形成、消去により鏡状態、透明な窓状態を選択的に形成できる。この場合、Ag膜の形成、消去にはある程度の時間を必要とする。素早い機能切り替えが望まれる場合もある。
【0004】
例えば、車載ルームミラーを構成する鏡の裏面にTFT液晶表示装置等を配置し、必要に応じてナビゲーション等の表示を行うことが考えられる。安全のため後方の状況を確認したい場合等、ナビゲーションの表示をルームミラーの表示に切り替える動作は瞬時に行われることが好ましい。
【0005】
液晶表示装置等の画像表示部材の前面に、偏光軸方向の変化を利用して光透過(窓)状態と外光を反射する鏡状態とを切り換えできる機能選択部を配置した表示装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
図5Aに示すように、画像を表示するための画像光を出射する画像表示部1000と、画像表示部に重畳して、画像光を透過する画像透過(窓)状態と外光を反射する鏡状態とを切り替え可能な機能選択部2000とを設ける。機能選択部2000は、画像表示部1000側から順に配置された、透過反射偏光子300と、透過偏光軸可変手段(TN(ツイステッドネマチック)型液晶素子)400と、透過吸収偏光子500とを含む。
【0007】
透過反射偏光子300は、予め定めた偏光軸の第1の偏光を透過し、第1の偏光と偏光軸が交差する第2の偏光を反射する。TN型液晶素子400は、電源とスイッチ813とを含み、任意に電圧印加を行える。電圧無印加時には、TN型液晶により入射した第1の偏光を第2の偏光へ変化させて透過する(オフ状態)。電圧印加時には、液晶分子を垂直配向し、入射した光の偏光軸を変化させないで透過する(オン状態)。出射光の偏光軸が、電圧の印加/無印加により変化する。透過吸収偏光子500は、第1の偏光および第2の偏光のうち一方を透過し、他方を吸収する。
【0008】
画像表示部1000は、第1の偏光を透過し、第2の偏光を吸収する透過吸収偏光子208を備え、透過吸収偏光子208を透過した第1の偏光を画像光として機能選択部2000に出射する。図中、上下方向矢印、および点を囲む円が偏光方向を示す。
【0009】
TN型液晶素子400は、電圧無印加時に液晶分子に90度のツイストを与える。画像表示部1000からの垂直方向の偏光の出射光3001が透過吸収偏光子300を通過し、TN型液晶素子400内で偏光軸を90度変化させ、透過吸収偏光子500を透過して外部に出射する。外部から入射する光3002は、透過吸収偏光子500で紙面に垂直な方向の偏光のみが透過し、TN型液晶セル400で偏光軸方向が90度変化され、透過反射偏光子300、透過吸収偏光子208を通過する。言い換えると、機能選択部2000は両側からの入射光を透過する窓部材として機能する。
【0010】
図5Bは、TN型液晶素子400に電圧を印加し、液晶分子を立ち上がらせて、入射光の偏光軸を変化させることなく、透過させる状態を示す断面図である。TN型液晶素子400が紙面内垂直方向の入射光の偏光軸を変化させずに透過させると、透過吸収偏光子500が画像表示部1000からの出射光を遮蔽する。一方、外部から透過吸収偏光子500に入射した光は、紙面に垂直な方向の偏光のみが出射し、そのままTN型液晶素子400を通過し、透過反射偏光子300で反射され、入射方向に逆進し、透過吸収偏光子500から出射する。左側にいる観察者は,鏡像を観察することになる。即ち、装置全体が鏡として機能する。
【0011】
このように、図5A,5Bに示すような構成を採用し、TN型液晶素子の機能を切り替えることにより画像出射状態と外光反射状態とが切り換えられる。TN型液晶素子の機能切り替えは、印加電圧のオン/オフ切り替えで行え、瞬時に行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-318374号公報
【発明の概要】
【0013】
本発明者は、液晶素子と、その前後に配置した透過吸収偏光子と透過反射偏光子とを含む構成を用いて、鏡機能と窓機能が切り替え可能な車輌用ルームミラーを作成することを検討した。窓機能は、例えば液晶表示素子によるナビゲーション表示を可能とする。車輌用ルームミラーは、その機能から水平方向が長い形状を有する。
【予備的検討】
【0014】
車輌における後方監視鏡は、故障等が生じた場合、例えば電源が切断されても、フェールセーフ策として、後方監視鏡としての機能は確保されることが好ましい。図5A,5Bの構成は、電源が切断されると図5A同等の状態となり、後方監視鏡の機能を失ってしまう。
【0015】
図6A,6Bに示すように、液晶素子400を垂直配向膜を備え、電源オフ時に液晶分子が垂直配光する垂直配向素子とすれば、電源切断時にも後方監視鏡の機能を保てる。
【0016】
運転者が偏光サングラスを用いる場合、濡れた地表からの反射光を避けるため、偏光サングラスの偏光軸は鉛直方向である。ここで、透過吸収偏光子500の透過偏光軸が水平方向を向いているとすると、偏光サングラスにより遮光されてしまう。偏光サングラスの使用を可能とするためには、透過吸収偏光子500の偏光軸は鉛直方向とし、裏面側の透過反射偏光子300の透過偏光軸は水平方向とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
透過吸収型偏光子、機能選択液晶素子、多層膜透過反射型偏光子を含む車両用ルームミラーのサンプルを作製して試験したところ、多層膜透過反射型偏光子に亀裂が生じ得る課題が発生した。高い信頼性を提供するためには、亀裂は生じないように対策する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
実施例によれば、
過吸収型偏光子、機能選択液晶素子、および多層膜透過反射型偏光子をこの順に積層配置した機能選択複合光学装置であって、
前記機能選択複合光学装置の主面内で直交する第1方向、第2方向において、前記第1方向は、前記機能選択複合光学装置の長軸方向であり、
前記機能選択複合光学装置は記第1方向の長さが200mmを超え、かつ前記第1方向の長さの前記第2方向の長さに対する比が2以上であり、
前記多層膜透過反射型偏光子の透過光偏光軸が前記第1方向に対して時計回り方向または反時計回り方向に10°~20°の範囲で回転された方向である、
機能選択複合光学装置
が提供される。
【0019】
多層膜透過反射型偏光子内の亀裂が防止可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1Aは車輌用後方監視鏡の構成を示す概略斜視図、図1B,1Cは車輌用後方監視鏡における透過吸収偏光子の概略上面図、多層膜型透過反射偏光子の概略断面図である。
図2図2は車輌用後方監視鏡における機能選択液晶素子の概略断面図である。
図3図3Aは従来技術に従う構成で、車輌用後方監視鏡に適した形状として作成したサンプルの概略平面図、及びヒートショック検査後の反射率及び外観(亀裂)の検査結果を示す表である。
図4-1】及び
図4-2】図4Aは、車輌用後方監視鏡における水平軸に対し多層膜型透過反射偏光板の偏光軸の角度を変化させた多層膜型反射透過偏光子の概略平面図、図4Bはサンプルにヒートショック試験を行った結果を示す表、図4Cはモニター用液晶表示装置と多層膜型透過反射偏光板との偏光軸のずらし角度による透過率の変化を示す表である。
図5図5A,5Bは従来技術による機能選択可能表示装置の2状態を示す断面図である。
図6図6A,6Bは、図5A,5Bの構成において液晶を変更し、スイッチオフの時の機能を変更した構成機能を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
10 機能選択液晶素子、 20 透過吸収型偏光子、
30 透過反射型偏光子、 40 モニター用画像表示素子、
1000 画像表示部、 2000 機能選択部、
300 透過反射偏光子、 400 透過偏光軸可変手段(液晶素子)、
500 透過吸収偏光子、 813 スイッチ、
208 透過吸収偏光子。
【発明を実施するための形態】
【予備実験】
【0022】
図1Aに示すような構成の車載用複数機能ルームミラーを作成した。機能選択液晶素子10の前方に透過吸収型偏光子20を配置し、後方に透過反射型偏光子30を配置した。使用時には、透過反射型偏光子30の後方にモニター用画像表示素子40を配置し、運転者は透過反射型偏光子20前方から機能選択液晶素子10乃至モニター用画像表示素子40を観察する。構成要素10,20,30は、図5の構成におけるTN型液晶素子400、透過吸収偏光子500、透過反射偏光子300に対応する構成要素と考えることができる。
【0023】
車載ルームミラーを前提としたため、機能選択液晶素子10の平面形状を約240mm×56mm(より具体的には、242.0mm×55.8mm)とした。機能選択液晶素子10の運転者に向う側に透過吸収偏光板20を配置し、モニター用画像表示素子40に向う側に透過反射偏光板30を配置した。
【0024】
透過吸収型偏光板20は、図1Bに示すように、ヨウ素や染料を染色・吸着させ、延伸配向させたポリビニルアルコール(PVA)偏光層201を含み、ある振動方向の偏光のみを透過させる偏光性能を持つ。強度を持たせるために、PVA偏光層501をトリアセチルセルロース(TAC)フィルムの補強層202で挟んだ構成を有する。
【0025】
透過反射偏光板30は、図1Cに示すように、異なる複屈折性高分子フィルムを複数層(10層~10000層位)積層した複屈折反射型偏光フィルム等を用いる。米国3M社から入手可能な、屈折率、厚み、光学軸方向を変化させたポリエステル系樹脂を10層~10000層積層させたフィルムを用いる。米国の3M社からDBEFという商品名で市販されている透過反射偏光板を用いることもできる。
【0026】
機能選択液晶素子10は、図2に示す構成を有する。
【0027】
図2は、機能選択液晶素子10として用いる垂直配向型の液晶素子の構成を模式的に示す図である。このVA配向液晶素子は、第1の基板と第2の基板を向い合せて配置し、その間に液晶層を有している。第1の基板の第2の基板側、および第2の基板の第1の基板側には液晶素子を駆動するための透明電極としてITO膜が形成されている。また、それぞれの透明電極の液晶層側には第1および第2の垂直配向膜を有している。第1の基板上のITO膜と第2の基板上のITO膜との間に電圧を印加することにより、液晶層の液晶分子が略水平方向となり、この液晶素子に入射する光の偏光方向が90°変化する。透過吸収型偏光板20と透過反射偏光板30の偏光軸は略直交しているため、結果として、第1の基板上のITO膜と第2の基板上のITO膜との間に電圧を印加したときに、透過反射偏光板30、機能選択液晶素子10、透過吸収型偏光板20を介して光が透過できる状態となる。
【0028】
機能選択液晶素子、透過吸収型偏光板、多層膜型透過反射偏光板を用いた車載用ルームミラーを作成し、高信頼性を確認するためにヒートショック試験を行ったところ、予期せざる問題が生じた。
【0029】
ヒートショック試験は、85℃:0.5時間の高温状態と、-40℃:0.5時間の低温状態とを1サイクルとし、サイクルを繰り返すことにより行った。高い信頼性が要求される車載後方監視鏡として、500サイクルのヒートショックを受けても、何ら毀損を生じないことが期待された。
【0030】
図3Aは、多層膜型透過反射偏光子30の平面図を示す。ルームミラーの水平軸に沿って偏光軸が存在する。図3Bは、3サンプルに対するヒートショック試験の結果を示す表である。反射率は、500サイクルのヒートショック後もほぼ2%以下の減少であり、ほぼ許容できる結果と言える。しかしながら試料No.3のサンプルにおいて、透過反射偏光膜に1本の亀裂が生じ、膜を横断した。これは許されざる欠陥と判断した。
【0031】
図4Aは、ルームミラーの水平軸に対して多層膜型透過反射偏光子30の偏光軸を時計軸方向、反時計軸方向何れかに角度θ回転させたサンプルの構成を示す平面図である。後述する図4Bの結果から、角度θとしては、10°~20°の範囲が好ましい。
【0032】
図4Bは、角度θが5°、10°、15°、20°の各3サンプルに対するヒートショック試験の結果を示す表である。角度の精度は±1°程度である。θ=5°のサンプル中、試料No.3のサンプルにおいては、亀裂長さが半減したものの、亀裂が発生し、亀裂が成長する可能性もある。好ましくない結果と言えよう。
【0033】
角度θが、10°、15°、20°の各3サンプルに対するヒートショック試験においては、亀裂は発生しなかった。安全が保障される結果となった。反射率は、θ=5°、10°のサンプルにおいては、許容され得る反射率低下量と言えよう。θ=15°のサンプルにおいて、反射率の低下が明らかに認められ、θ=20°のサンプルにおいては、性能の低下が増大していることが認められるが、許容できる程度と言えよう。回転角度を20度を超える角度にすることは好ましくない。θ=10°のサンプルを更に5台追加作成して、ヒートショック試験を行った。いずれのサンプルにも亀裂が発生しない結果が得られている。
【0034】
さらに、θ=8°の5サンプルを作製し、ヒートショック試験を行った。全5サンプルについて、多層膜中に亀裂は発生しなかった。角度の精度±1°も考慮して、θ=10°のサンプルには多層膜の亀裂は発生しないであろうと判断できる。
【0035】
試験に用いたサンプルのアスペクト比は4より大きく、水平方向の長さは240mmより大きかった。総合的に判断して、一辺が200mmを超え、高アスペクト比の形状にした場合に、透過反射偏光子に亀裂が生じる可能性があると判断する。高アスペクト比としては、2以上が想定できる。
【0036】
図4Cは、このずらし角度による透過率の低下を見積もった結果を示す。透過反射偏光子に対する斜め入射角度φを0°、15°として透過率を算出した。ずらし角度0°の時の透過率に対して、ずらし角度20°の時の透過率でも10%以下であり、モニター用画像表示素子40の光源の輝度向上などで対応できる範囲である。
【0037】
以上、発明者の実験に沿って説明したが、これらの記載は制限的なものではない。高アスペクト比の多層膜型透過反射偏光子は亀裂を生じる可能性を有するが、偏光軸の方向を高アスペクト比の長軸方向から10°~20°の範囲の角度回転させると亀裂発生を防止可能な実験結果が得られた。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6