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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】黒色層を含む装飾用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
B32B27/20 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019174471
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021049713
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】中山 明彦
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-308538(JP,A)
【文献】特開平11-221881(JP,A)
【文献】特開2015-209475(JP,A)
【文献】特開2008-285632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色層を含む装飾用フィルムであって、
前記黒色層が、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を含有し、
前記イエロー顔料が、ベンズイミダゾロン系顔料を含み、
前記フィルムに対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均透過率が、60%以上であり、
前記フィルムに対する、波長750nmの光線透過率が、30%以下であり、
前記フィルムに対する、色相(a)の絶対値が、0.80以下であり、かつ、色相(b)の絶対値が、1.2以下であ
前記フィルムに対する、明度(L )が、25.4以下であり、
前記黒色層におけるカーボンブラックの配合量が、0.1質量%以下である、
フィルム。
【請求項2】
前記フィルムと黒色塗装板との色差(ΔE ab)の絶対値が、1.5以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記黒色層における、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料以外の着色成分の配合量が、10質量%以下である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
表面保護層、及び接着剤層から選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
乗物の内装又は外装に対して適用される、請求項1~のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項6】
波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率が、50%以上の支持部材に対して適用される、請求項1~のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】
支持部材、及び該支持部材上に配置された黒色層を含む装飾用フィルムを備える物品であって、
前記黒色層が、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を含有し、
前記イエロー顔料が、ベンズイミダゾロン系顔料を含み、
前記物品の前記フィルム側表面に対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率が、40%以上であり、
前記物品の前記フィルム側表面に対する、波長750nmの光線反射率が、30%以下であり、かつ、
前記物品の前記フィルム側表面に対する、色相(a)の絶対値が、0.80以下であり、かつ、色相(b)の絶対値が、1.2以下であ
前記物品の前記フィルム側表面に対する、明度(L )が、25.4以下であり、
前記黒色層におけるカーボンブラックの配合量が、0.1質量%以下である、
物品。
【請求項8】
前記物品の前記フィルム側表面と黒色塗装板との色差(ΔE ab)の絶対値が、1.5以下である、請求項に記載の物品。
【請求項9】
前記黒色層における、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料以外の着色成分の配合量が、10質量%以下である、請求項又はに記載の物品。
【請求項10】
前記フィルムが、表面保護層、及び接着剤層から選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項のいずれか一項に記載の物品。
【請求項11】
乗物の内装又は外装である、請求項10のいずれか一項に記載の物品。
【請求項12】
前記フィルムを適用する箇所の前記支持部材表面に対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率が、50%以上である、請求項11のいずれか一項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、黒色層を含む装飾用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば自動車の内装材又は外装材等に対し、黒色塗料が使用されたり、或いは黒色系の装飾用フィルムなどが使用されている。
【0003】
特許文献1(実用新案登録第3218229号公報)には、自動車のダッシュボード上に載置される自動車用装飾シートであって、表面が起毛若しくは立毛されたスエード調シート又はスエードシートからなる、艶消し黒色又は艶消し黒系色の低反射シート層と、この低反射シート層の裏側に配設され、柔軟性を有する発泡プラスチックからなる断熱シート層と、この断熱シート層の裏側に配設され、裏面の略全域に亘ってシリコーン樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂からなる突起部が複数形成されてなる滑り止めシート層とを備えた、自動車用装飾シートが開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2002-256165号公報)には、特定の化学式からなる黒色アゾ顔料であって、結晶形態が薄片紐状である黒色アゾ顔料を含む、自動車等に使用可能な顔料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案登録第3218229号公報
【文献】特開2002-256165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から黒色顔料としては、一般に、熱線(赤外線)吸収性能を有するカーボンブラック等の黒色顔料が使用されていた。このような黒色顔料は、熱線を吸収して放熱しやすいため、例えば、夏場の直射日光を受けやすい自動車のルーフ又はインストルメントパネルに対して使用されると、車内の温度上昇を招くおそれがあった。
【0007】
例えば、カーボンブラックに比べ、熱線吸収性能の低い黒色アゾ顔料を含有する組成物が、昇温防止用塗料として使用されている。しかしながら、黒色アゾ顔料は、高価な顔料であることに加え、約700~約800nmの赤色領域の波長を反射しやすいため、漆黒調と称されるような優れた黒色性を発現させることは難しかった。
【0008】
本開示は、熱線吸収性能を有するカーボンブラック等の黒色顔料を用いて調製した黒色層を採用した場合に比べて温度上昇を低減でき、かつ、優れた黒色性を呈することができる装飾用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施態様によれば、黒色層を含む装飾用フィルムであって、この黒色層が、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を含有し、装飾用フィルムに対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均透過率が、約60%以上であり、装飾用フィルムに対する、波長750nmの光線透過率が、約30%以下であり、かつ、装飾用フィルムに対する、色相(a)の絶対値が、約0.80以下であり、かつ、色相(b)の絶対値が、約1.2以下である、装飾用フィルムが提供される。
【0010】
本開示の別の実施態様によれば、支持部材、及び支持部材上に配置された黒色層を含む装飾用フィルムを備える物品であって、この黒色層が、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を含有し、物品の装飾用フィルム側表面に対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率が、約40%以上であり、物品の装飾用フィルム側表面に対する、波長750nmの光線反射率が、約30%以下であり、かつ、物品の装飾用フィルム側表面に対する、色相(a)の絶対値が、約0.80以下であり、かつ、色相(b)の絶対値が、約1.2以下である、物品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、熱線吸収性能を有するカーボンブラック等の黒色顔料を用いて調製した黒色層を採用した場合に比べて温度上昇を低減でき、かつ、優れた黒色性を呈することができる装飾用フィルムを提供することができる。
【0012】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱線吸収性能を有する黒色顔料を含む黒色層を備える従来の装飾用フィルムに関する断面図である。
図2】本開示の一実施態様による装飾用フィルムに関する断面図である。
図3】実施例1及び比較例1~2の装飾用フィルムの透過率に関するグラフである。
図4】参考例1及び2の黒色塗装鋼板又は白色塗装鋼板の反射率に関するグラフである。
図5】実施例2及び比較例3~4の装飾用フィルムを参考例2の白色塗装鋼板に適用した試料の反射率に関するグラフである。
図6】実施例2及び比較例4の装飾用フィルムを参考例2の白色塗装鋼板に適用した試料を屋外に静置したときの温度変化に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。図面の参照番号について、異なる図面において類似する番号が付された要素は、類似又は対応する要素であることを示す。
【0015】
本開示において「フィルム」には、「シート」と呼ばれる物品も包含される。
【0016】
本開示において、例えば「黒色層の上に配置された表面保護層」における「上」とは、表面保護層が黒色層の上側に直接的に配置されること、又は、表面保護層が他の層を介して黒色層の上方に間接的に配置されることを意図している。
【0017】
本開示において、例えば「黒色層の下に配置された接着剤層」における「下」とは、接着剤層が黒色層の下側に直接的に配置されること、又は、接着剤層が他の層を介して黒色層の下方に間接的に配置されることを意図している。
【0018】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0019】
本開示において「略」とは、製造誤差などによって生じるバラつきを含むことを意味し、±約20%程度の変動が許容されることを意図する。
【0020】
本開示において「透明」又は「透過性」とは、対象とする特定の波長の光の透過率、又は対象とする特定の波長域の光(例えば可視光、近赤外光などを含む赤外光など)の平均透過率が、約60%以上、約65%以上、約70%以上、又は約75%以上であることを意味する。かかる透過率又は平均透過率の上限値については特に制限はないが、例えば、約100%未満、約99%以下、又は約98%以下とすることができる。
【0021】
本開示において「不透明」又は「不透過性」とは、対象とする特定の波長の光の透過率、又は対象とする特定の波長域の光(例えば可視光、近赤外光などを含む赤外光など)の平均透過率が、約30%以下、約20%以下、又は約10%以下であることを意味する。かかる透過率又は平均透過率の下限値については特に制限はないが、例えば、約0%以上又は約0%超とすることができる。
【0022】
本開示において「反射性」とは、対象とする特定の波長の光の反射率、又は対象とする特定の波長域の光(例えば可視光、近赤外光などを含む赤外光など)の平均反射率が、約40%以上、約45%以上、約50%以上、又は約55%以上であることを意味する。かかる反射率又は平均反射率の上限値については特に制限はないが、例えば、約100%未満、約99%以下、又は約98%以下とすることができる。
【0023】
図面を参照し、黒色層を備える装飾用フィルムについて例示する。
【0024】
図1は、熱線吸収性能を有する黒色顔料105を含む黒色層104を備える従来の装飾用フィルム100に関する断面図である。この断面図は、装飾用フィルムが、例えば車の外装に使用された場合を想定している。装飾用フィルム100は、赤外線反射性の支持部材110上に配置されており、接着剤層102、黒色層104、及び表面保護層106を備えている。
【0025】
従来の装飾用フィルム100の黒色層104には、例えば近赤外光等の熱線を吸収する性能を有するカーボンブラック等の黒色顔料105が使用されていた。そのため、黒色顔料105によって吸収された近赤外光は、熱に変換されて四方へ放散する。放散する熱の一部は、図1に示されるように、接着剤層102及び白色塗装鋼板等の支持部材110を通じて支持部材110の下方へ伝わるため、車内温度を上昇させる原因となっていた。ここで、図1では、近赤外光の吸収に伴う熱の矢印は、車内温度上昇のメカニズムを分かりやすくするために、下方のみに示されているが、実際には、下方だけではなく四方に熱が放散している。したがって、装飾用フィルムを、インストルメントパネルのような内装用途に使用した場合には、放散する熱の一部は、図1の熱矢印の逆方向(上向き方向)、即ち、車内側方向へも伝わるため、このような用途に使用した場合でも、車内温度を上昇させる原因となっていた。
【0026】
一方、本開示の装飾用フィルムを構成する黒色層は、このような熱線の吸収及びそれに伴う放熱作用を低減又は防止することができるため、従来のカーボンブラック等の黒色顔料を使用して調製した黒色層を備える装飾用フィルムよりも、温度上昇を低減又は防止することができる。
【0027】
図2は、本開示の一実施態様による装飾用フィルム200に関する断面図である。装飾用フィルム200は、図1と同様に、赤外線反射性の支持部材210上に配置されており、接着剤層202、黒色層204、及び表面保護層206を備えている。ここで、接着剤層202及び表面保護層206は、任意の構成層であり、本開示の装飾用フィルムは、これらの層を備えなくてもよい。
【0028】
本開示の黒色層は、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を混合して調製された層であるため、熱線吸収性のカーボンブラック等の黒色顔料を用いて調製した黒色層とは異なり、装飾用フィルム200に入射した近赤外光の大部分は、図2に示されるように、黒色層204を透過し、支持部材210の表面で反射されて、再度、黒色層204を透過する。つまり、本開示の黒色層は、熱線吸収性のカーボンブラック等の黒色顔料を用いて調製した黒色層に比べて、熱線の吸収及びそれに伴う放熱作用を低減又は防止することができるため、例えば車内の温度上昇を低減又は防止することができる。
【0029】
カーボンブラックは、黒色性に優れる顔料として一般に知られている。したがって、カーボンブラックを用いれば、漆黒調と称する深みのある黒色層を比較的容易に調製することができる。しかしながら、このような漆黒調の黒色層を、カーボンブラック以外の着色材料を用いて調製することは困難であった。本発明者は、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を用いて黒色層を調製すると、熱線の吸収及びそれに伴う放熱作用を低減又は防止する効果を発現することに加え、漆黒調と称する深みのある黒色性に優れる黒色層を調製し得ることを見出した。
【0030】
以下、本開示の代表的な実施態様を例示する目的で、上記の各構成要素の詳細について一部符号を省略して説明する。
【0031】
本開示の装飾用フィルムは、黒色層の単層構成であってもよく、或いは後述する任意の層(例えば、表面保護層、接着剤層)を備える積層構成であってもよい。
【0032】
本開示の黒色層は、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を含有する。これらの顔料としては特に制限はなく、これらの色を呈し得る、有機顔料及び/又は無機顔料を使用することができる。本開示の黒色層は、このような顔料を用いて調製することができるため、得られた黒色層は、優れた黒色性を呈するとともに、耐候性も向上させることができる。
【0033】
シアン顔料としては、シアン色を呈する顔料であれば特に制限はなく、例えば、[クロロ-29H,31H-フタロシアニナト(2-)-N29,N30,N31,N32]銅などのフタロシアニン顔料、或いは、ピグメントブルー15、ピグメントブルー15:1、ピグメントブルー15:2、ピグメントブルー15:3、ピグメントブルー15:4、ピグメントブルー15:6、ピグメントブルー16などの有機顔料;ピグメントブルー24、ピグメントブルー27(プルシアンブルー)、ピグメントブルー28(コバルトブルー)、ピグメントブルー29(ウルトラマリンブルー)、ピグメントブルー33(マンガンブルー)、ピグメントブルー34、ピグメントブルー35、ピグメントブルー36、ピグメントブルー36:1、ピグメントブルー71、ピグメントブルー72、ピグメントブルー73、ピグメントブルー74(コバルトブルーディープ)、ピグメントブルー81などの無機顔料を使用することができる。これらは、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。中でも、耐候性、漆黒性等の観点から、[クロロ-29H,31H-フタロシアニナト(2-)-N29,N30,N31,N32]銅が好ましい。
【0034】
マゼンタ顔料としては、マゼンタ色を呈する顔料であれば特に制限はなく、例えば、4,4’-ジアミノ-1,1’-ビアントラセン-9,9’,10,10’-テトラオンなどのアントラセン系顔料、或いは、ピグメントレッド122、ピグメントレッド178、ピグメントレッド179、ピグメントレッド202、ピグメントレッド254、ピグメントバイオレット19などの有機顔料;ピグメントレッド101、102などの無機顔料を使用することができる。これらは、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。中でも、耐候性、漆黒性等の観点から、4,4’-ジアミノ-1,1’-ビアントラセン-9,9’,10,10’-テトラオンが好ましい。
【0035】
イエロー顔料としては、イエロー色を呈する顔料であれば特に制限はなく、例えば、N-[(2,3-ジヒドロ-2-オキソ-1H-ベンゾイミダゾール)-5-イル]-3-オキソ-2-[[2-(トリフルオロメチル)フェニル]アゾ]ブタンアミドなどのベンズイミダゾロン系顔料、或いは、ピグメントイエロー120、ピグメントイエロー150などの有機顔料;ピグメントイエロー30、31、32、33、35、35:1、36(ジンクイエロー)、36:1、37、37:1、41、42、43、44、45、47、53、118、119、129、157、158、159、160、161、162、163、164、184、189、216などの無機顔料を使用することができる。これらは、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。中でも、耐候性、漆黒性等の観点から、N-[(2,3-ジヒドロ-2-オキソ-1H-ベンゾイミダゾール)-5-イル]-3-オキソ-2-[[2-(トリフルオロメチル)フェニル]アゾ]ブタンアミドが好ましい。
【0036】
本開示の黒色層は、バインダー樹脂を含有することができる。バインダー樹脂としては特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などを、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0037】
黒色層における、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料の各配合量については特に制限はなく、所望の黒色性能、具体的には、かかる黒色層を備える装飾用フィルム、又はかかる装飾用フィルムを備える物品の当該フィルム側表面に対する、色相(a)の絶対値が、約0.80以下となり、かつ、色相(b)の絶対値が、約1.2以下となるように、これらの各顔料を適宜配合すればよい。ここで、色相(a)、色相(b)、及び後述する明度(L)は、JIS Z8781-4に準拠して求めることができる。
【0038】
中でも、aの数値は、赤方向(正の値)又は緑方向(負の値)の色相を示す指標となるが、aの数値が小さい方が、すなわち、赤又は緑に見えない方が、少なくとも人間の目には漆黒調に見えると考えられる。したがって、本開示の黒色層を備える装飾用フィルムの色相(a)の絶対値、又はかかる装飾用フィルムを備える物品の当該フィルム側表面に対する色相(a)の絶対値としては、漆黒調の観点から、約0.60以下、約0.50以下、又は約0.40以下であることがより好ましい。かかる値の下限値については特に制限はないが、例えば、約0以上、約0超、又は約0.10以上とすることができる。
【0039】
本開示の黒色層を備える装飾用フィルムの色相(b)、又はかかる装飾用フィルムを備える物品の色相(b)としては、漆黒調の観点から、約1.1以下、又は約1.0以下であることがより好ましい。かかる値の下限値については特に制限はないが、例えば、約0.40以上、約0.50以上、又は約0.60以上とすることができる。
【0040】
本開示の黒色層を備える装飾用フィルムの明度(L)、又はかかる装飾用フィルムを備える物品の明度(L)としては、例えば、約24.0以上、約24.2以上、又は約24.5以上とすることができ、約25.4以下、約25.2以下、又は約25.0以下とすることができる。
【0041】
本開示の黒色層を備える装飾用フィルム、及びかかる装飾用フィルムを備える物品の黒色性は、例えば、色差(ΔE ab)によって規定することもできる。ここで、本開示における「色差(ΔE ab)」とは、JIS Z8781-4に準拠し、L色空間における、二つの色(L ,a ,b )及び(L ,a ,b )を用いて下記の式1より求められる値である:
【数1】
【0042】
二つの色のうち、(L ,a ,b )が、漆黒調の基準色に相当し、(L ,a ,b )が、黒色層を備える装飾用フィルム又はかかる装飾用フィルムを備える物品の該フィルム側表面の色に相当する。漆黒調の基準色は、KINO-1210ブラック塗料(関西ペイント株式会社製)で塗装した黒色塗装板の黒色を使用する。ここで、本開示における「黒色塗装板」又は「黒色塗装鋼板」とは、漆黒調の基準色を呈する塗装板又は塗装鋼板を意図する。
【0043】
色差は、二つの色の間に定義される指標の一つであり、色差が大きいほど二つの色を区別しやすく、色差が小さいほど二つの色が区別しにくくなる。本開示の黒色層を備える装飾用フィルムと黒色塗装板との色差(ΔE ab)の絶対値、又はかかる装飾用フィルムを備える物品と黒色塗装板との色差(ΔE ab)の絶対値は、約1.5以下、約1.2以下、約1.0以下、又は約0.80以下とすることができる。かかる絶対値の下限値については特に制限はなく、例えば、約0以上、約0超、又は約0.10以上とすることができる。
【0044】
本開示の黒色層を備える装飾用フィルム、及びかかる装飾用フィルムを備える物品の黒色性は、色相(a)における基準色との差(Δa)、色相(b)における基準色との差(Δb)、及び明度(L)における基準色との差(ΔL)によって規定することもできる。
【0045】
色相(a)の基準色との差(Δa)の絶対値としては、例えば、約1.0以下、約0.80以下、又は約0.50以下とすることができ、約0以上、約0超、又は約0.10以上とすることができる。
【0046】
色相(b)の基準色との差(Δb)の絶対値としては、例えば、約1.0以下、約0.80以下、又は約0.50以下とすることができ、約0以上、約0超、又は約0.10以上とすることができる。
【0047】
明度の基準色との差(ΔL)の絶対値としては、例えば、約1.5以下、約1.2以下、又は約1.0以下とすることができ、約0以上、約0超、又は約0.10以上とすることができる。
【0048】
いくつかの実施態様では、本開示の黒色層は、本開示の効果に影響を及ぼさない範囲で、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料以外の着色成分を含んでもよい。かかる着色成分の配合量としては、黒色層全体(固形分)に対し、例えば、約10質量%以下、約5質量%以下、又は約1質量%以下とすることができる。着色成分の中でも熱線吸収性能を有する黒色顔料、例えばカーボンブラックの配合量としては、黒色層全体(固形分)に対し、約0.1質量%以下、約0.05質量%以下、又は約0.01質量%以下とすることができる。黒色性、耐昇温性等の観点から、着色成分、特にカーボンブラック等の熱線吸収性能を有する黒色顔料は含まれないことが好ましい。
【0049】
いくつかの実施態様では、本開示の黒色層は、本開示の効果を阻害しない範囲において、任意成分として、充填剤、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、可塑剤、難燃剤、フロー向上剤、界面活性剤、シランカップリング剤、触媒、粘着性付与剤などを含むこともできる。
【0050】
黒色層の厚さとしては特に制限はなく、例えば、黒色性、曲面等への追従性、コスト等の観点から、約1マイクロメートル以上、約5マイクロメートル以上、又は約10マイクロメートル以上とすることができ、約200マイクロメートル以下、約100マイクロメートル以下、又は約50マイクロメートル以下とすることができる。
【0051】
装飾用フィルムが黒色層のみの単層構成である場合には、黒色層の厚さは、高精度デジマチックマイクロメータ(MDH-25MB、株式会社ミツトヨ製)を使用し、かかるフィルムの任意の部分の厚さを少なくとも5回測定して算出した平均値として定義することができる。装飾用フィルムが積層構成である場合には、黒色層の厚さは、走査型電子顕微鏡を使用してかかる積層構成の厚さ方向断面を測定する。そして、積層構成のうちの黒色層における任意の少なくとも5箇所の厚さの平均値を、黒色層の厚さと定義することができる。
【0052】
本開示の装飾用フィルムは、熱線透過性の黒色層を備えるため、かかる黒色層を備える装飾用フィルムは、波長800~1800nmにおける赤外線(近赤外線)の平均透過率に関し、約60%以上、約65%以上、又は約70%以上を達成することができる。かかる平均透過率の上限値としては特に制限はなく、例えば、約90%以下、約85%以下、又は約80%以下とすることができる。
【0053】
本開示の装飾用フィルムの黒色層は、優れた黒色性を呈するため、かかる黒色層を備える装飾用フィルムは、波長750nmの光線透過率に関し、約30%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約7%以下、又は約5%以下を達成することができる。かかる透過率の下限値としては特に制限はなく、例えば、約0%以上、約0%超、又は約1.0%以上とすることができる。本開示の装飾用フィルムは優れた黒色性を呈するため、波長750nmの光線に限らず、波長400~750nmの全範囲にわたる各光線に対し、上述した透過率を各々達成することができる。
【0054】
いくつかの実施態様では、本開示の装飾用フィルムは、本開示の効果を阻害しない範囲において、任意の要素として、表面保護層、基材、意匠層、装飾用フィルムを構成する層同士を接合する接合層(「プライマー層」などと呼ばれる場合もある。)、装飾用フィルムを被着体に対して貼り合わせるための接着剤層、剥離ライナーなどの追加の層をさらに含んでもよい。これらの追加の層は、単独で又は二種以上組み合わせて採用することができる。中でも、保護性能、取り扱い性等の観点から、表面保護層、及び接着剤層から選択される少なくとも一種をさらに含むことが好ましい。
【0055】
曲面等への追従性、コスト等の観点から、装飾用フィルムは、赤外線反射層を備えないことが好ましい。本開示の装飾用フィルムは、白色塗装鋼板等の赤外線反射性能を奏する支持部材に対して貼り合わせて使用することができるため、装飾用フィルム自体に赤外線反射層が含まれなくてもよい。
【0056】
表面保護層、意匠層、基材、接合層、及び接着剤層は、耐昇温性の観点から、赤外線透過性であることが好ましい。
【0057】
装飾用フィルムが意匠層を備える場合には、意匠層は、黒色層上に部分的に配置されていることが好ましい。この場合、かかる意匠層は、熱線吸収性能を有さない層であることが好ましく、例えば、赤外線反射性能を呈する色、例えば、白色、シルバーなどに着色された層であることが好ましい。
【0058】
いくつかの実施態様では、本開示の装飾用フィルムは、表面保護層を黒色層の上、例えば装飾用フィルムの最表面に配置することができる。表面保護層は、略平滑な表面を有してもよく、エンボスパターンなどの凹凸形状を表面に有してもよい。
【0059】
表面保護層として、様々な樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含む(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メチルメタクリレート-フッ化ビニリデン共重合体などのフッ素樹脂、シリコーン系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの共重合体又はこれらの混合物が使用できる。透明性、強度、耐衝撃性などの観点から、表面保護層として(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びポリカーボネートが有利に使用できる。表面保護層は、装飾用フィルムを構成する他の層を外部からの穿刺、衝撃などから保護する保護層として機能してもよい。表面保護層は、多層積層体、例えば多層押出積層体であってもよい。
【0060】
表面保護層は、必要に応じて、ベンゾトリアゾール、Tinuvin(商標)400(BASF社製)などの紫外線吸収剤、Tinuvin(商標)292(BASF社製)などのヒンダードアミン光安定化剤(HALS)などを含んでもよい。紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定化剤などを用いることによって、表面保護層の下層に位置する層の劣化、例えば、黒色層の、変色、退色、劣化などを効果的に防止することができる。表面保護層は、ハードコート材、光沢付与剤などを含んでもよく、追加のハードコート層を有してもよい。
【0061】
表面保護層は、一般に全体が可視域(波長400nm以上800nm未満)及び近赤外域(波長800nm以上1800nm以下)に対して透明であるが、目的とする外観(例えば艶消し外観)を提供するために、全体又は部分的に可視域において半透明であってもよく、部分的に可視域において不透明であってもよい。いくつかの実施態様では、JIS K 7375に準拠して測定される、表面保護層の可視域における全光線透過率は、約85%以上、約90%以上、又は約95%以上である。
【0062】
表面保護層の厚みは、例えば、約1マイクロメートル以上、約5マイクロメートル以上、又は約10マイクロメートル以上とすることができ、約200マイクロメートル以下、約100マイクロメートル以下、又は約50マイクロメートル以下とすることができる。装飾用フィルムを構成する表面保護層の厚さは、走査型電子顕微鏡を使用して積層構成の装飾用フィルムの厚さ方向断面を測定する。そして、積層構成のうちの表面保護層における任意の少なくとも5箇所の厚さの平均値を、表面保護層の厚さと定義することができる。
【0063】
いくつかの実施態様では、本開示の装飾用フィルムは、基材を含むことができる。基材は、例えば、黒色層の支持体として使用することができる。
【0064】
基材の材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、フッ素樹脂を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。中でも、耐チッピング性等の観点から、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0065】
基材の厚さとしては、特に制限はなく、例えば、約50マイクロメートル以上、約80マイクロメートル以上、又は約100マイクロメートル以上とすることができる。厚さの上限値については特に制限はないが、追従性、製造コスト等の観点から、例えば、約500マイクロメートル以下、約300マイクロメートル以下、又は約200マイクロメートル以下とすることができる。装飾用フィルムを構成する基材の厚さは、走査型電子顕微鏡を使用して積層構成の装飾用フィルムの厚さ方向断面を測定する。そして、積層構成のうちの基材における任意の少なくとも5箇所の厚さの平均値を、基材の厚さと定義することができる。
【0066】
基材は、本開示の効果を阻害しない範囲において、任意成分として、充填剤、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤、触媒などを含むことができる。
【0067】
いくつかの実施態様では、本開示の装飾用フィルムは、装飾用フィルムを構成する各層を接合するために接合層を備えることができる。接合層として、例えば、一般に使用される(メタ)アクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。接合層は、公知のコーティング法などによって適用することができる。
【0068】
接合層の厚さは、例えば、約0.05マイクロメートル以上、約0.5マイクロメートル以上、又は約5マイクロメートル以上とすることができ、約100マイクロメートル以下、約50マイクロメートル以下、約20マイクロメートル以下、又は約10マイクロメートル以下とすることができる。装飾用フィルムを構成する接合層の厚さは、走査型電子顕微鏡を使用して積層構成の装飾用フィルムの厚さ方向断面を測定する。そして、積層構成のうちの接合層における任意の少なくとも5箇所の厚さの平均値を、接合層の厚さと定義することができる。
【0069】
いくつかの実施態様では、本開示の装飾用フィルムは、被着体に装飾用フィルムを貼り付けるための接着剤層をさらに含んでもよい。接着剤層の材料としては、接合層の材料と同様のものを使用することができる。接着剤層は、装飾用フィルムではなく被着体に対して適用してもよい。
【0070】
接着剤層の厚さは、例えば、約5マイクロメートル以上、約10マイクロメートル以上、又は約20マイクロメートル以上とすることができ、約200マイクロメートル以下、約100マイクロメートル以下、又は約80マイクロメートル以下とすることができる。装飾用フィルムを構成する接着剤層の厚さは、走査型電子顕微鏡を使用して積層構成の装飾用フィルムの厚さ方向断面を測定する。そして、積層構成のうちの接着剤層における任意の少なくとも5箇所の厚さの平均値を、接着剤層の厚さと定義することができる。
【0071】
接合層及び接着剤層は、本開示の効果及び装飾性を阻害しない範囲において、任意成分として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、粘着付与剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤、触媒などを含むことができる。
【0072】
接着剤層を保護するために、任意の好適な剥離ライナーを使用することができる。代表的な剥離ライナーとして、紙(例えば、クラフト紙)、ポリマー材料(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、エチレンビニルアセテート、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルなど)などから調製されるものが挙げられる。剥離ライナーは、必要に応じてシリコーン含有材料又はフルオロカーボン含有材料などの剥離剤の層が適用されていてもよい。
【0073】
剥離ライナーの厚さは、例えば、約5マイクロメートル以上、約15マイクロメートル以上、又は約25マイクロメートル以上とすることができ、約300マイクロメートル以下、約200マイクロメートル以下、又は約150マイクロメートル以下とすることができる。剥離ライナーの厚さは、装飾用フィルムから剥離ライナーを除去した後、高精度デジマチックマイクロメータ(MDH-25MB、株式会社ミツトヨ製)を使用し、かかる剥離ライナーの任意の部分の厚さを少なくとも5回測定して算出した平均値として定義することができる。
【0074】
本開示の装飾用フィルムは、公知の方法、例えば、グラビアダイレクト印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷などの印刷法、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、ナイフコートなどのコーティング法、押出し法、ラミネート法、転写法などを、単独で或いは複数組み合わせて適宜調製することができる。
【0075】
一例として以下の製造方法を説明するが、装飾用フィルムの製造方法はこれに限定されない。例えば、図2に記載される構成の装飾用フィルムの場合には、上述したバインダー樹脂、各種顔料、任意に、溶剤、及び上述した任意成分を適宜混合して調製した黒色コーティング組成物を、押出し法などによって形成した表面保護フィルム上にコーティングし、必要に応じ、乾燥工程、硬化工程を適用し、黒色層を備える積層体Aを調製する。次いで、市販の剥離ライナー上に、接着剤をコーティングし、必要に応じ、乾燥工程、硬化工程を適用して積層体Bを調製する。積層体Aの黒色層と、積層体Bの接着剤層を貼り合わせて装飾用フィルムを形成することができる。
【0076】
または、基材上に接着剤をコーティングし、必要に応じ、乾燥工程、硬化工程を適用した後、剥離ライナーを接着剤層に対して貼り合わせて積層体aを調製する。かかる積層体aの基材表面に対して上述の黒色コーティング組成物をコーティングし、必要に応じ、乾燥工程、硬化工程を適用して黒色層を調製した後、かかる黒色層に対し、コーティング又は押出法などによって表面保護層を適用する、或いは表面保護フィルムを貼り合わせて装飾用フィルムを形成することができる。
【0077】
黒色コーティング組成物で使用し得るバインダー樹脂としては、上述したバインダー樹脂に限らず、かかるバインダー樹脂を構成し得る、単官能若しくは多官能のモノマー及び/又はオリゴマーであってもよい。黒色コーティング組成物には、必要に応じ、上述した任意成分に加え、重合開始剤、架橋剤、硬化剤、硬化促進剤、溶剤(例えば水系溶剤、有機系溶剤)なども適宜配合することができる。
【0078】
本開示の装飾用フィルムは、太陽光線に晒される部材を装飾する目的で好適に使用することができる。本開示の装飾用フィルムを備える物品としては、例えば、装飾を目的とした内装又は外装部材、例えば、車、鉄道、航空機、船などの乗物の内装又は外装部材(例えば、ルーフ部材、ピラー部材、ドアトリム部材、インストルメントパネル部材、ボンネット等のフロント部材、バンパー部材、フェンダー部材、サイドシル部材)、建築部材(例えば、窓ガラス、ドア、サッシ、瓦等の屋根部材、外壁部材)などを挙げることができる。
【0079】
いくつかの実施態様では、本開示の装飾用フィルムは、赤外線を反射する性能を有する支持部材に対して適用することができる。このような構成にすることによって、曲面等への追従性に劣り、赤外線反射性能を低下させるおそれのある赤外線反射層を省略することができるため、耐昇温性能の低下、コストアップなどを低減又は防止することができる。
【0080】
このような赤外線を反射する性能を奏する支持部材としては特に制限はなく、例えば、波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率が、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上の支持部材を採用することができる。かかる平均反射率の上限値については特に制限はなく、例えば、約100%以下、約100%未満、又は約99%以下とすることができる。支持部材における赤外線反射性能は、少なくとも装飾用フィルムを適用する箇所において奏していればよく、支持部材全体で奏していてもよい。
【0081】
このような赤外線反射性の支持部材としては、例えば、白色又はシルバーに塗装された乗物自体の内装部材又は外装部材、ビルなどに採用されている熱線反射ガラスなどの既存の構成を採用することができる。本開示の装飾用フィルムは、熟練した技術を要するスプレー塗装などの手段による黒色塗装に比べて塗装ムラなどの不具合が少なく、優れた黒色外観を簡易に施すことができることに加え、乗物、建物などにおける上述した既存の構成をそのまま利用することができるため、コストアップの低減に対して貢献することができる。
【0082】
本開示の装飾用フィルムを備える物品は、かかる物品の装飾用フィルム側表面に対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率を約40%以上にすることができ、物品の装飾用フィルム側表面に対する、波長750nmの光線反射率を約30%以下にすることができ、物品の装飾用フィルム側表面に対する、色相(a)の絶対値を、約0.80以下にすることができ、色相(b)の絶対値を、約1.2以下にすることができる。ここで、物品の装飾用フィルム側表面に対する、色相(a)及び(b)、明度(L)、色差(ΔE ab)等の数値範囲については上述したとおりである。
【0083】
本開示の装飾用フィルムを備える物品は、かかる物品の装飾用フィルム側表面に対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率に関し、約40%以上、約45%以上、約50%以上、約55%以上、又は約60%以上を達成することができる。かかる平均反射率の上限値としては特に制限はなく、例えば、約90%以下、約85%以下、又は約80%以下とすることができる。なお、本開示の装飾用フィルムを備える物品の波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率は、かかるフィルムを適用する支持部材表面の同波長域における赤外線の平均反射率を超えることはない。
【0084】
本開示の装飾用フィルムを備える物品は、かかる物品の装飾用フィルム側表面に対する、波長750nmの光線反射率に関し、約30%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、又は約8%以下を達成することができる。かかる反射率の下限値としては特に制限はなく、例えば、約0%以上、約0%超、又は約1.0%以上とすることができる。本開示の装飾用フィルムは優れた黒色性を呈するため、波長750nmの光線に限らず、波長400~750nmの全範囲にわたる各光線に対し、上述した反射率を各々達成することができる。
【0085】
物品を構成する支持部材(被着体)に対して本開示の装飾用フィルムを適用する方法としては特に制限はなく、公知の方法を適宜使用することができる。例えば、インサート射出成形法、インモールド成形法、オーバーモールド成形法、二色射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法などの射出成形法、ラミネート法、3次元加熱延伸成形法(TOM)などを挙げることができる。
【実施例
【0086】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0087】
本実施例で使用した商品などを以下の表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示す材料を表2に示す配合割合で混合し、黒色層調製用の黒色コーティング組成物を各々作製した。ここで、表2における数値は全て質量部を意味する。
【0090】
【表2】
【0091】
実施例1及び比較例1~2における装飾用フィルムの評価を行った。
【0092】
〈実施例1〉
3M(商標)スコッチカル(商標)FPU3000Jフィルムのポリウレタン基材フィルム面に、ナイフコーターを用いて黒色コーティング組成物1をコーティングして乾燥させ、約25マイクロメートル厚の黒色層を備える装飾用フィルムを調製した。
【0093】
〈比較例1〉
黒色コーティング組成物1に代えて黒色コーティング組成物2を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、約25マイクロメートル厚の黒色層を備える装飾用フィルムを調製した。
【0094】
〈比較例2〉
黒色コーティング組成物1に代えて黒色コーティング組成物3を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、約25マイクロメートル厚の黒色層を備える装飾用フィルムを調製した。
【0095】
〈物性評価試験1〉
装飾用フィルムの特性を、以下の方法を用いて評価した。
【0096】
(透過率試験)
各装飾用フィルムの透過率を、JIS K 7375に準拠した、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のU-4100形分光光度計を用いて測定し、その結果を図3及び表3に示す。測定波長は200~2500nmの範囲とした。
【0097】
【表3】
【0098】
次いで、実施例1及び比較例1~2における装飾用フィルムを赤外線反射性の支持部材に適用して調製した物品の評価を行った。なお、参考例として、各種の支持部材に関し、反射率の評価を行い、その結果を図4及び表4に示す。
【0099】
〈参考例1〉
鋼板(縦150mm、横70mm、厚さ0.8mm)の片面に対し、KINO-1210ブラック塗料をスプレー塗装し、後述する色差(ΔE ab)等の基準となる黒色塗装鋼板を調製した。
【0100】
〈参考例2〉
鋼板(縦150mm、横70mm、厚さ0.8mm)の片面に対し、アミラックホワイトを2回スプレー塗装し、白色塗装鋼板を調製した。
【0101】
〈実施例2〉
支持部材として参考例2の白色塗装鋼板を使用し、かかる白色塗装鋼板の白色塗装面に対し、実施例1で調製した装飾用フィルムを、感圧接着剤層を介して貼り合わせて物品を調製した。
【0102】
〈比較例3〉
比較例1の装飾用フィルムを使用したこと以外は、実施例2と同様にして物品を調製した。
【0103】
〈比較例4〉
比較例2の装飾用フィルムを使用したこと以外は、実施例2と同様にして物品を調製した。
【0104】
〈物性評価試験2〉
各物品の特性を、以下の方法を用いて評価した。
【0105】
(反射率試験)
物品の装飾用フィルム側の反射率を、JIS K 7375に準拠した、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のU-4100形分光光度計を用いて測定し、その結果を図5及び表4に示す。測定波長は200~2500nmの範囲とした。
【0106】
(色相試験)
物品の装飾用フィルム側の色相(a、b)及び明度(L)を、JIS Z8781-4に準拠した、サンカラー株式会社製のDatacolor600にて測定し、その結果を表4に示す。ここで、物品の装飾用フィルム側の色相及び明度は、装飾用フィルム単体で測定した色相及び明度と略一致するため、この方法によって得られる色相等の値は、装飾用フィルム単体の色相等の値とみなすことができる。
【0107】
表4中の色差(ΔE ab)は、参考例1における黒色塗装鋼板との色差を意図し、以下の式より算出した値である:
【数2】
【0108】
式中のL ,a ,b が、参考例1の黒色塗装鋼板の色相及び明度の数値であり、L ,a ,b が、各物品に適用した装飾用フィルム側の色相及び明度の数値である。
【0109】
(日射試験)
物品における装飾用フィルム適用面の反対側の面(鋼板面)に対し、温度計(メモリハイロガー8421、日置電機株式会社製)に搭載されている熱電対を適用し、この熱電対を覆うようにして鋼板面にフェルト(NFBC5、日本フェルト株式会社製)を貼り合わせて試験サンプルを調製した。この試験サンプルを、スリーエムジャパン株式会社、相模原事業所内(日本国神奈川県相模原市)における実験棟の屋根に、装飾用フィルム面が太陽光に晒されるように11時~16時まで静置し、試験サンプルの温度変化を測定した。その結果を図6に示す。この試験は、2018年7月10日に実施したものであり、11時~15時頃までは晴天であったが、15時~16時頃は曇っていた。
【0110】
なお、日射試験は、人工太陽照明灯(XC-500EF、セリック株式会社製)を使用して実施することもできる。この場合には、今回の試験結果よりも約2倍程度の温度差を呈することができた。すなわち、実施例2の物品の方が、比較例4の物品よりも温度が最大で約20℃程度低い結果を示していた。
【0111】
【表4】
【0112】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることは当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0113】
100、200 装飾用フィルム
102、202 接着剤層
104、204 黒色層
105 熱線吸収性能を有する黒色顔料
106、206 表面保護層
110、210 赤外線反射性の支持部材
本開示の実施態様の一部を以下の[項目1]-[項目14]に記載する。
[項目1]
黒色層を含む装飾用フィルムであって、
前記黒色層が、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を含有し、
前記フィルムに対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均透過率が、60%以上であり、
前記フィルムに対する、波長750nmの光線透過率が、30%以下であり、
前記フィルムに対する、色相(a )の絶対値が、0.80以下であり、かつ、色相(b )の絶対値が、1.2以下である、
フィルム。
[項目2]
前記フィルムと黒色塗装板との色差(ΔE ab )の絶対値が、1.5以下である、項目1に記載のフィルム。
[項目3]
前記黒色層における、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料以外の着色成分の配合量が、10質量%以下である、項目1又は2に記載のフィルム。
[項目4]
前記黒色層におけるカーボンブラックの配合量が、0.1質量%以下である、項目1~3のいずれか一項に記載のフィルム。
[項目5]
表面保護層、及び接着剤層から選択される少なくとも一種をさらに含む、項目1~4のいずれか一項に記載のフィルム。
[項目6]
乗物の内装又は外装に対して適用される、項目1~5のいずれか一項に記載のフィルム。
[項目7]
波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率が、50%以上の支持部材に対して適用される、項目1~6のいずれか一項に記載のフィルム。
[項目8]
支持部材、及び該支持部材上に配置された黒色層を含む装飾用フィルムを備える物品であって、
前記黒色層が、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料を含有し、
前記物品の前記フィルム側表面に対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率が、40%以上であり、
前記物品の前記フィルム側表面に対する、波長750nmの光線反射率が、30%以下であり、かつ、
前記物品の前記フィルム側表面に対する、色相(a )の絶対値が、0.80以下であり、かつ、色相(b )の絶対値が、1.2以下である、
物品。
[項目9]
前記物品の前記フィルム側表面と黒色塗装板との色差(ΔE ab )の絶対値が、1.5以下である、項目8に記載の物品。
[項目10]
前記黒色層における、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料以外の着色成分の配合量が、10質量%以下である、項目8又は9に記載の物品。
[項目11]
前記黒色層におけるカーボンブラックの配合量が、0.1質量%以下である、項目8~10のいずれか一項に記載の物品。
[項目12]
前記フィルムが、表面保護層、及び接着剤層から選択される少なくとも一種をさらに含む、項目8~11のいずれか一項に記載の物品。
[項目13]
乗物の内装又は外装である、項目8~12のいずれか一項に記載の物品。
[項目14]
前記フィルムを適用する箇所の前記支持部材表面に対する、波長800~1800nmにおける赤外線の平均反射率が、50%以上である、項目8~13のいずれか一項に記載の物品。
図1
図2
図3
図4
図5
図6