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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ワイヤロープ
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/06 20060101AFI20231219BHJP
   C10M 135/18 20060101ALI20231219BHJP
   C10M 137/10 20060101ALI20231219BHJP
   C07F 11/00 20060101ALI20231219BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20231219BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20231219BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
C10M135/18
C10M137/10 A
C07F11/00 B
C10N40:32
C10N10:12
C10N20:02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019181415
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021055230
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】石橋 賢
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴弥
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-165947(JP,U)
【文献】特開2008-231293(JP,A)
【文献】特開2017-088749(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107987927(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/00 - 5/00
D07B 5/04 - 9/00
C10M101/00 -177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープであって、
互いに撚り合わされた複数の素線から形成されるストランドを有するロープ本体と、
前記ストランドを構成する複数の素線の間に介在する潤滑剤と、
前記ロープ本体の外周を、前記潤滑剤とともに被覆する樹脂層と、を備え、
前記潤滑剤は、常温で液体であり、かつ、硫黄含有有機モリブデン化合物を含有し、前記ストランドを構成する素線表面と前記樹脂層の内周面とにより形成される空間に存在しており、
前記硫黄含有有機モリブデン化合物は、摩擦熱により二硫化モリブデンを生成することが可能な化合物である、
ワイヤロープ。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤロープであって、
前記潤滑剤の常温での粘度は、100mm/s以上、14100mm/s以下である、
ワイヤロープ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のワイヤロープであって、
前記ロープ本体は、前記ストランドとして芯ストランドを有する、
ワイヤロープ。
【請求項4】
請求項に記載のワイヤロープであって、
前記芯ストランドは、ウォーリントン撚りである、
ワイヤロープ。
【請求項5】
請求項または請求項に記載のワイヤロープであって、
前記ロープ本体は、前記ストランドとして、さらに、前記芯ストランドの周りに撚り合わされた複数の側ストランドを有する、
ワイヤロープ。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記硫黄含有有機モリブデン化合物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとジアルキルジチオリン酸モリブデンとのうちの少なくとも1つである、
ワイヤロープ。
【請求項7】
ワイヤロープであって、
互いに撚り合わされた複数の素線から形成されるストランドを有するロープ本体と、
前記ストランドを構成する複数の素線の間に介在する潤滑剤と、
前記ロープ本体の外周を、前記潤滑剤とともに被覆する樹脂層と、を備え、
前記潤滑剤は、常温で液体であり、かつ、硫黄非含有有機モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物と、を含有し、前記ストランドを構成する素線表面と前記樹脂層の内周面とにより形成される空間に存在しており、
前記硫黄非含有有機モリブデン化合物および硫黄含有有機化合物は、摩擦熱により二硫化モリブデンを生成することが可能な化合物である、
ワイヤロープ。
【請求項8】
請求項7に記載のワイヤロープであって、
前記潤滑剤の常温での粘度は、100mm/s以上、14100mm/s以下である、
ワイヤロープ。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のワイヤロープであって、
前記ロープ本体は、前記ストランドとして芯ストランドを有する、
ワイヤロープ。
【請求項10】
請求項に記載のワイヤロープであって、
前記芯ストランドは、ウォーリントン撚りである、
ワイヤロープ。
【請求項11】
請求項または請求項10に記載のワイヤロープであって、
前記ロープ本体は、前記ストランドとして、さらに、前記芯ストランドの周りに撚り合わされた複数の側ストランドを有する、
ワイヤロープ。
【請求項12】
請求項7から請求項11までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記硫黄非含有有機モリブデン化合物は、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩の少なくとも1つであり、
前記硫黄含有有機化合物は、チアジアゾール、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、ポリサルファイドの少なくとも1つである、
ワイヤロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、ワイヤロープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のストランドで撚り合わされたワイヤロープ(ケーブル)の芯部(ケーブル心部)に、室温で軟固体状または低流動状である潤滑剤(含浸油)を含浸させ、かつ、当該芯部の外周を非金属のコーティング材料で被覆することにより、ワイヤロープの潤滑性を高めるとともに、潤滑剤がワイヤロープから漏出することを抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、有機モリブデン化合物を含み、常温で半固体状である潤滑剤を、ワイヤロープに用いることにより、常温においてワイヤロープから潤滑剤が漏出することを抑制する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-120579号公報
【文献】特開2008-231293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
潤滑剤として、良好な潤滑性を有する二硫化モリブデンが用いられることがある。しかしながら、二硫化モリブデンは固体粉末であるため、ともに潤滑剤を構成する固体または液体のオイルに均一に分散しにくい傾向がある。このような潤滑剤を用いたワイヤロープでは、二硫化モリブデンがワイヤロープに偏在するため、二硫化モリブデンが配置されていない部分においてワイヤロープを構成する素線同士の摩擦が生じる摩擦特異点を生じ、その結果、摩擦特異点において素線の破損または断線が発生するおそれがある。このような状況下、ワイヤロープにおいて、さらなる耐久性の向上が求められる。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示されるワイヤロープは、互いに撚り合わされた複数の素線から形成されるストランドを有するロープ本体と、前記ストランドを構成する複数の素線の間に介在する潤滑剤と、前記ロープ本体の外周を、前記潤滑剤とともに被覆する樹脂層と、を備え、前記潤滑剤は、硫黄含有有機モリブデン化合物を含有する。
【0009】
本ワイヤロープでは、上記樹脂層を備えていることにより、ストランドを構成する複数の素線の間に介在する潤滑剤を、ワイヤロープから漏出させることなく素線間に滞留させることができる。このため、潤滑剤の効果を長期間に亘り維持することができる。また、本ワイヤロープでは、潤滑剤が、固体粉体である二硫化モリブデンと比較して、固体または液体のオイルに均一に分散しやすい硫黄含有有機モリブデン化合物を含有している。このため、硫黄含有有機モリブデン化合物の潤滑剤中での分散性を向上させることができる。このような潤滑剤では、硫黄含有有機モリブデン化合物が素線間に均一に配置されやすい。また、潤滑剤に含有される硫黄含有有機モリブデン化合物は、例えば、ワイヤロープを摺動させることにより発生する摩擦熱により、二硫化モリブデンを生成させうる。このため、素線間に均一に二硫化モリブデンを生成させることができ、素線間における、二硫化モリブデンが配置されていない部分において素線同士の摩擦が生じる摩擦特異点の発生が抑制されうる。この結果、素線の破損または断線の発生が抑制され、ひいては、ワイヤロープの耐久性を向上させることができる。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープにおいて潤滑剤の効果を長期間に亘り維持することができるとともに、ワイヤロープの耐久性を向上させることができる。
【0010】
(2)上記ワイヤロープにおいて、前記潤滑剤は、常温で液体である構成としてもよい。本ワイヤロープでは、潤滑剤が、常温で液体であるため、硫黄含有有機モリブデン化合物の潤滑剤中での分散性をより効果的に向上させることができる。また、潤滑剤が、常温で液体であることにより、ストランドを構成する素線を潤滑剤で被膜する際の被膜の均一性をより効果的に向上させることができ、素線における上記摩擦特異点の発生がより効果的に抑制されうる。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0011】
(3)上記ワイヤロープにおいて、前記潤滑剤の常温での粘度は、100mm/s以上、14100mm/s以下である構成としてもよい。換言すれば、本ワイヤロープでは、潤滑剤の常温での粘度が比較的低い。このため、硫黄含有有機モリブデン化合物の潤滑剤中での分散性をより効果的に向上させることができる。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0012】
(4)上記ワイヤロープにおいて、前記ロープ本体は、前記ストランドとして芯ストランドを有する構成としてもよい。本ワイヤロープでは、芯ストランドを構成する複数の素線の間に上記潤滑剤が介在するため、芯ストランド自体の耐久性を向上させることができる。芯ストランドの耐久性は、ワイヤロープの耐久性に大きく寄与する。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0013】
(5)上記ワイヤロープにおいて、前記芯ストランドは、ウォーリントン撚りである構成としてもよい。ウォーリントン撚りで形成された芯ストランドでは、ワイヤロープの横断面において、芯ストランドを構成する各3本の素線同士によって、それぞれ閉じられた空間を形成する。このように、それぞれ閉じられた空間が形成されることにより、一の空間に配置された潤滑剤は他の空間へと移動しにくい。換言すれば、一の空間に配置された潤滑剤は、当該一の空間に滞留されやすい。このため、芯ストランドを構成する各素線の潤滑剤による被膜が欠落することなく、各素線の耐久性が維持されやすい。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0014】
(6)上記ワイヤロープにおいて、前記ロープ本体は、前記ストランドとして、さらに、前記芯ストランドの周りに撚り合わされた複数の側ストランドと、を有する構成としてもよい。本ワイヤロープでは、側ストランドを構成する複数の素線の間に上記潤滑剤が介在するため、側ストランド自体の耐久性を向上させることができる。側ストランドの耐久性は、ワイヤロープの耐久性に寄与する。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0015】
(7)上記ワイヤロープにおいて、前記硫黄含有有機モリブデン化合物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとジアルキルジチオリン酸モリブデンとのうちの少なくとも1つである構成としてもよい。ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンや、ジアルキルジチオリン酸モリブデンは、ワイヤロープの摩擦熱により、二硫化モリブデンを生成しやすい傾向がある。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。また、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンや、ジアルキルジチオリン酸モリブデンは、合成が容易であり、また、市場において容易に入手できる傾向がある。
【0016】
(8)本明細書に開示されるワイヤロープは、互いに撚り合わされた複数の素線から形成されるストランドを有するロープ本体と、前記ストランドを構成する複数の素線の間に介在する潤滑剤と、前記ロープ本体の外周を、前記潤滑剤とともに被覆する樹脂層と、を備え、前記潤滑剤は、硫黄非含有有機モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物と、を含有する構成としてもよい。
【0017】
本ワイヤロープでは、上記樹脂層を備えていることにより、ストランドを構成する複数の素線の間に介在する潤滑剤の効果を長期間に亘り維持することができる。また、本ワイヤロープでは、潤滑剤が、固体粉体である二硫化モリブデンと比較して、固体または液体のオイルに均一に分散しやすい硫黄非含有有機モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物とを含有している。このため、硫黄非含有有機モリブデン化合物および硫黄含有有機化合物の潤滑剤中での分散性を向上させることができる。このような潤滑剤では、硫黄非含有有機モリブデン化合物および硫黄含有有機化合物が素線間に均一に配置されやすい。また、潤滑剤に含有される硫黄非含有有機モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物とは、例えば、ワイヤロープを摺動させることにより発生する摩擦熱により、二硫化モリブデンを生成させうる。このため、素線間に均一に二硫化モリブデンを生成させることができ、素線間における、二硫化モリブデンが配置されていない部分において素線同士の摩擦が生じる摩擦特異点の発生が抑制されうる。この結果、素線の破損または断線の発生が抑制され、ひいては、ワイヤロープの耐久性を向上させることができる。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープにおいて潤滑剤の効果を長期間に亘り維持することができるとともに、ワイヤロープの耐久性を向上させることができる。
【0018】
(9)上記ワイヤロープにおいて、前記潤滑剤は、常温で液体である構成としてもよい。本ワイヤロープでは、潤滑剤が、常温で液体であるため、硫黄非含有有機モリブデン化合物および硫黄含有有機化合物の潤滑剤中での分散性をより効果的に向上させることができる。また、潤滑剤が、常温で液体であることにより、ストランドを構成する素線を潤滑剤で被膜する際の被膜の均一性をより効果的に向上させることができ、素線における上記摩擦特異点の発生がより効果的に抑制されうる。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0019】
(10)上記ワイヤロープにおいて、前記潤滑剤の常温での粘度は、100mm/s以上、14100mm/s以下である構成としてもよい。換言すれば、本ワイヤロープでは、潤滑剤の常温での粘度が比較的低い。このため、硫黄非含有有機モリブデン化合物および硫黄含有有機化合物の潤滑剤中での分散性をより効果的に向上させることができる。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0020】
(11)上記ワイヤロープにおいて、前記ロープ本体は、前記ストランドとして芯ストランドを有する構成としてもよい。本ワイヤロープでは、芯ストランドを構成する複数の素線の間に上記潤滑剤が介在するため、芯ストランド自体の耐久性を向上させることができる。芯ストランドの耐久性は、ワイヤロープの耐久性に大きく寄与する。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0021】
(12)上記ワイヤロープにおいて、前記芯ストランドは、ウォーリントン撚りである構成としてもよい。ウォーリントン撚りで形成された芯ストランドでは、ワイヤロープの横断面において、芯ストランドを構成する各3本の素線同士によって、それぞれ閉じられた空間を形成する。このように、それぞれ閉じられた空間が形成されることにより、一の空間に配置された潤滑剤は他の空間へと移動しにくい。換言すれば、一の空間に配置された潤滑剤は、当該一の空間に滞留されやすい。このため、芯ストランドを構成する各素線の潤滑剤による被膜が欠落することなく、各素線の耐久性が維持されやすい。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0022】
(13)上記ワイヤロープにおいて、前記ロープ本体は、前記ストランドとして、さらに、前記芯ストランドの周りに撚り合わされた複数の側ストランドと、を有する構成としてもよい。本ワイヤロープでは、側ストランドを構成する複数の素線の間に上記潤滑剤が介在するため、側ストランド自体の耐久性を向上させることができる。側ストランドの耐久性は、ワイヤロープの耐久性に寄与する。従って、本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0023】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ワイヤロープ、ワイヤロープの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態におけるワイヤロープ10の構成を概略的に示す断面斜視図
図2】第1実施形態におけるワイヤロープ10の横断面構成を示す説明図
図3】性能評価の結果を示す説明図
図4】性能評価の方法を示す説明図
図5】第2実施形態におけるワイヤロープ10Aの横断面構成を示す説明図
図6】第3実施形態におけるワイヤロープ10Bの横断面構成を示す説明図
図7】第4実施形態におけるワイヤロープ10Cの横断面構成を示す説明図
図8】第5実施形態におけるワイヤロープ10Dの横断面構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
A.第1実施形態:
A-1.ワイヤロープ10の構成:
図1は、第1実施形態におけるワイヤロープ10の構成を概略的に示す断面斜視図であり、図2は、第1実施形態におけるワイヤロープ10の横断面構成を示す説明図である。第1実施形態のワイヤロープ10は、種々の用途(例えば、自動車用のウィンドレギュレータ用ワイヤロープやスライドドア用ワイヤロープ、産業分野における動力伝達用ワイヤロープ、建築関係の窓開閉装置用ワイヤロープ)に用いられ得る。
【0026】
図1および図2に示すように、ワイヤロープ10は、ロープ本体15と、潤滑剤40と、樹脂層50とを備えている。ロープ本体15は、芯ストランド20と、複数の(より具体的には8本の)側ストランド30とを有している。なお、図1では、潤滑剤40の図示が省略されている。
【0027】
芯ストランド20は、芯素線21と、側素線23a,23b,23c(以下、側素線23a,23b,23cをまとめて「側素線23」ということがあり、芯素線21と側素線23とをまとめて「素線21,23」ということがある)とが、互いに撚り合わされた3層構造を有している。すなわち、芯ストランド20は、第1層として、1本の芯素線21を、第2層として、6本の側素線23aを、第3層として、各6本の側素線23b,23cを有している。具体的には、6本の側素線23aは、それぞれ、芯素線21の周囲に芯素線21の周方向に沿って配置されている。6本の側素線23bは、それぞれ、側素線23aの周囲において、隣接する2つの側素線23aの間に配置されている。6本の側素線23cは、それぞれ、隣接する2つの側素線23bの間に配置されている。本実施形態において、芯ストランド20は、上記合計19本の素線21,23をウォーリントン撚りすることにより形成されている。芯ストランド20を構成する芯素線21および側素線23の形成材料として、それぞれ独立に、例えば、ステンレス合金(SUS302、SUS304、SUS316等)、ニッケル-チタン系合金、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステン、硬鋼線の材料(SWRH62A、SWRH62B、SWRH72A、SWRH72B、SWRH82A、SWRH82B等)等を挙げることができる。芯素線21および側素線23の形成材料は、好ましくは上記硬鋼線の材料であり、より好ましくはSWRH62Aである。複数の側素線23の形成材料は、互いに同じ種類であってもよく、また、異なる種類であってもよい。芯ストランド20は、特許請求の範囲におけるストランドの一例であり、芯ストランド20を構成する素線21,23は、特許請求の範囲における素線の一例である。
【0028】
各側ストランド30は、芯素線31と、側素線33(以下、芯素線31と側素線33とをまとめて「素線31,33」ということがある)とが、互いに撚り合わされた2層構造を有している。具体的には、各側ストランド30は、1本の芯素線31と、その周囲に配置された6本の側素線33とを備える。本実施形態において、各側ストランド30は、それぞれ上記合計7本の素線31,33を互いに撚り合わせることにより形成されている。側ストランド30を構成する芯素線31および側素線33の形成材料として、それぞれ独立に、例えば、ステンレス合金(SUS302、SUS304、SUS316等)、ニッケル-チタン系合金、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステン、硬鋼線の材料(SWRH62A、SWRH62B、SWRH72A、SWRH72B、SWRH82A、SWRH82B等)等を挙げることができる。芯素線31および側素線33の形成材料は、好ましくは上記硬鋼線の材料であり、より好ましくはSWRH62Aである。複数の側素線33の形成材料は、互いに同じ種類であってもよく、また異なる種類であってもよい。また、芯ストランド20を構成する素線21,23の形成材料と、各側ストランド30を構成する素線31,33の形成材料とは、互いに同じ種類であってもよく、また、異なる種類であってもよい。側ストランド30は、特許請求の範囲におけるストランドの一例であり、側ストランド30を構成する素線31,33は、特許請求の範囲における素線の一例である。
【0029】
本実施形態のロープ本体15は、芯ストランド20の外周に8本の側ストランド30を互いに撚り合わせることにより形成されている。ロープ本体15の任意の横断面において、各側ストランド30は、互いに当接しており、また、芯ストランド20と側ストランド30とは、互いに当接している。本実施形態のロープ本体15において、芯ストランド20の素線21,23の撚り方向は、Z撚りであり、側ストランド30の素線31,33の撚り方向は、S撚りであり、芯ストランド20に対する側ストランド30の撚り方向は、Z撚りである。なお、本実施形態のロープ本体15には、上述の通り、上記19本の素線21,23をウォーリントン撚りすることにより形成された芯ストランド20と、上記7本の素線31,33により形成された側ストランド30とから構成されたW(19)+8×7構造が採用されている。なお、図2では、一部の側ストランド30は、芯ストランド20に当接していないが、当該側ストランド30は、ロープ本体15の少なくとも一の横断面(図2に示す横断面とは異なる横断面)において、芯ストランド20に当接している。
【0030】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10は、潤滑剤40を備えている。換言すれば、本実施形態のワイヤロープ10において、芯ストランド20を構成する素線21,23の間には潤滑剤40が介在している。また、本実施形態のワイヤロープ10では、側ストランド30を構成する素線31,33の間の少なくとも一部にも潤滑剤40が介在している。具体的には、各素線21,23の外周と、素線31,33の少なくとも一部とは、潤滑剤40で被膜されている。
【0031】
本実施形態の潤滑剤40は、硫黄含有有機モリブデン化合物を含有している。硫黄含有有機モリブデン化合物としては、従来公知のいずれの硫黄含有有機モリブデン化合物も使用することができ、特に限定されない。硫黄含有有機モリブデン化合物として、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジアルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)等を使用することができる。硫黄含有有機モリブデン化合物は、汎用性の観点から、より好ましくは、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)またはジアルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)である。ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)として、例えば、ジブチルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジペンチルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジヘキシルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジヘプチルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジオクチルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジノニルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジデシルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジウンデシルジチオカルバミン酸硫化モリブデン、ジドデシルジチオカルバミン酸モリブデンまたはジトリデシルジチオカルバミン酸モリブデン等を挙げることができる。また、ジアルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)として、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸モリブデン、ジイソブチルジチオリン酸モリブデン、ジプロピルジチオリン酸モリブデン、ジブチルジチオリン酸モリブデン、ジペンチルジチオリン酸モリブデン、ジヘキシルジチオリン酸モリブデン、ジヘプチルジチオリン酸モリブデンまたはジフェニルジチオリン酸モリブデンを挙げることができる。なお、上記硫黄含有有機モリブデン化合物を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
潤滑剤40は、基油に硫黄含有有機モリブデン化合物が含有された潤滑油であってもよい。基油としては、従来公知のいずれの基油も使用することができ、特に限定されない。基油として、例えば、動植物油、鉱物油または合成油等を使用することができる。なお、基油を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、潤滑剤40は、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、金属不活性剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、泡消剤などを適宜含有していてもよい。
【0033】
潤滑剤40における硫黄含有有機モリブデン化合物の含有量は、例えば、1重量%以上、20重量%以下である。当該含有量が、1重量%未満であると、熱分解による二硫化モリブデンの生成量が低減するため、耐久性が向上しにくい傾向がある。また、当該含有量が、20重量%を超えると、二硫化モリブデンの生成量が増大するため、素線間に固体粉末が多く析出され、その結果、潤滑剤40の素線表面への吸着性・保持性が低下し、素線間における潤滑性が損なわれ、ひいては、耐久性が低下する傾向がある。当該含有量は、耐久性の観点から、より好ましくは、3重量%以上、15重量%以下であり、さらに好ましくは、5重量%以上、10重量%以下である。また、潤滑剤40におけるモリブデン金属の含有量は、例えば、25ppm以上、1000ppm以下である。
【0034】
本実施形態の潤滑剤40は、常温で液体である。ここで、「常温」とは、例えば、5~30℃であり、好ましくは、15~25℃である。潤滑剤40は、例えば、常温での粘度が、100mm/s以上、14100mm/s以下である。当該粘度が、100mm/s未満であると、被覆前のロープにおいて潤滑剤が漏出しやすい傾向がある。また、当該粘度が、14100mm/sを超えると、素線間に潤滑剤が浸透(侵入)しにくい傾向がある。当該粘度は、耐久性の観点から、より好ましくは、100mm/s以上、8150mm/s以下であり、さらに好ましくは、100mm/s以上、2200mm/s以下である。当該粘度は、例えば、JIS K 2283(ガラス製毛管式粘度計)により測定することができる。「常温での粘度」とは、潤滑剤の温度を、前記温度範囲内にある任意の一つの温度値に設定して測定した際に得られる粘度を意味する。測定の際には、潤滑剤の温度を、前記温度範囲内にある任意の一つの温度値に設定することができる。
【0035】
本実施形態のワイヤロープ10における潤滑剤40の含有量は、例えば、1m長のワイヤロープ10の重量に対して、1重量%以上、4重量%以下である。当該含有量が、1重量%未満であると、素線間における潤滑性が損なわれ、ひいては、耐久性が低下する傾向がある。また、当該含有量が、4重量%を超えると、樹脂層50となる樹脂をロープ本体15に被覆する際に潤滑剤40が高温に晒されて蒸発し、樹脂層50に気泡が生じる傾向がある。当該含有量は、作業性、耐久性、歩留まりの観点から、より好ましくは、1重量%以上、3重量%以下であり、さらに好ましくは、1重量%以上、2重量%以下である。なお、ワイヤロープ10における潤滑剤40の含有量は、以下の方法によって測定することができる。まず、ワイヤロープ10を1m切り出し、その重量(以下、「脱脂処理前重量」ともいう)を測定する。切り出されたワイヤロープ10を脱脂処理し、その重量(以下、「脱脂処理後重量」ともいう)を測定する。ワイヤロープ10における潤滑剤40の含有量は、脱脂処理前重量から脱脂処理後重量を減算することにより求めることができる。
【0036】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10は、樹脂層50を備えている。換言すれば、本実施形態のワイヤロープ10は、ロープ本体15の外周を、潤滑剤40とともに被覆する樹脂層50を備えている。樹脂層50は、さらに、芯ストランド20と側ストランド30との間や、芯ストランド20を構成する素線21,23の間や、側ストランド30を構成する素線31,33の間に配置されていてもよい。
【0037】
樹脂層50の被覆厚さは、例えば、0.05mm以上、5mm以下である。当該被覆厚さが、0.05mm未満であると、樹脂層50にクラックや被覆破れが発生し、クラックから潤滑剤40が漏出して、耐久性が向上しにくい傾向がある。また、当該被覆厚さが、5mmを超えると、ワイヤロープ10の柔軟性が損なわれる傾向がある。当該被覆厚さは、耐久性、柔軟性の観点から、より好ましくは、0.1mm以上、3mm以下であり、さらに好ましくは、0.15mm以上、2mm以下である。また、ワイヤロープ10の横断面において、ワイヤロープ10の直径に対する樹脂層50の被覆厚さの比は、例えば、1%以上、30%以下である。当該被覆厚さの比が、1%未満であると、樹脂層50にクラックや被覆破れが発生し、クラックから潤滑剤40が漏出して、耐久性が向上しにくい傾向がある。また、当該被覆厚さの比が、30%を超えると、ワイヤロープ10の柔軟性が損なわれる傾向がある。当該被覆厚さの比は、耐久性、柔軟性の観点から、より好ましくは、5%以上、25%以下であり、さらに好ましくは、10%以上、20%以下である。なお、本明細書において、「樹脂層50の被覆厚さ」とは、ワイヤロープ10の横断面において、側ストランド30を構成する側素線33のうち、最も外側に位置する側素線33の外周と、ワイヤロープ10の外周との間の長さを意味する。
【0038】
樹脂層50の形成材料としては、従来公知のいずれの樹脂も使用することができ、特に限定されない。樹脂層50の形成材料として、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂または種々のエラストマー系樹脂等の熱可塑性樹脂を使用することができる。樹脂は、ワイヤロープ10の耐久性および柔軟性を確保する観点から、より好ましくは、ポリアミド系樹脂である。ポリアミド系樹脂として、例えば、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂等を使用することができる。ポリアミド系樹脂は、より好ましくは、石油由来のポリアミド系樹脂であり、さらに好ましくは、ポリアミド12樹脂である。なお、当該樹脂を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
本実施形態において潤滑剤40として、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)またはジアルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)を用いたとき、樹脂層50の形成材料は、作業性、耐久性、柔軟性の観点から、好ましくは、ポリアミド12樹脂である。
【0040】
A-2.ワイヤロープ10の製造方法:
次に、本実施形態におけるワイヤロープ10の製造方法の一例を説明する。はじめに、潤滑剤40が素線21,23の間に介在した芯ストランド20と、側ストランド30とを作製する。
【0041】
潤滑剤40が素線21,23の間に介在した芯ストランド20の作製方法の一例は、次の通りである。芯ストランド20を構成する素線21,23に潤滑剤40を塗布し、ウォーリントン撚りする。一方、側ストランド30を構成する素線31の周囲に素線33を撚り合わせる。その後、潤滑剤40が素線21,23の間に介在した芯ストランド20の周囲に側ストランド30を撚り合わせることにより、ロープ本体15(具体的には、潤滑剤40が素線21,23の間に介在した芯ストランド20と、側ストランド30とから構成されるロープ本体15)を作製する。
【0042】
次いで、ロープ本体15を樹脂層50で被膜する。当該被膜は、例えば、加圧式押出し被覆方法により行うことができる。具体的には、まず、樹脂層50を形成する樹脂(例えば、ポリアミド)を溶融して溶融樹脂を準備して加圧する。加圧した溶融樹脂内にロープ本体15を通過させた後、冷却させることにより、ロープ本体15に樹脂層50を形成する。以上の製造方法により、上述した構成のワイヤロープ10が製造される。
【0043】
A-3.第1実施形態の効果:
以上説明したように、第1実施形態のワイヤロープ10は、ロープ本体15と、潤滑剤40と、樹脂層50とを備える。ロープ本体15は、芯ストランド20と側ストランド30とを有している。芯ストランド20は、互いに撚り合わされた複数の素線21,23から形成されている。側ストランド30は、互いに撚り合わされた複数の素線31,33から形成されている。潤滑剤40は、芯ストランド20を構成する複数の素線21,23の間と、側ストランド30を構成する複数の素線31,33の間の少なくとも一部とに介在している。樹脂層50は、ロープ本体15の外周を、潤滑剤40とともに被覆している。潤滑剤40は、硫黄含有有機モリブデン化合物を有している。
【0044】
本実施形態のワイヤロープ10では、樹脂層50を備えていることにより、芯ストランド20および側ストランド30を構成する複数の素線21,23,31,33の間に介在する潤滑剤40を、ワイヤロープ10から漏出させることなく素線21,23,31,33間に滞留させることができる。このため、潤滑剤40の効果を長期間に亘り維持することができる。また、本実施形態のワイヤロープ10では、潤滑剤40が、固体粉体である二硫化モリブデンと比較して、固体または液体のオイルに均一に分散しやすい硫黄含有有機モリブデン化合物を含有している。このため、硫黄含有有機モリブデン化合物の潤滑剤40中での分散性を向上させることができる。このような潤滑剤40では、硫黄含有有機モリブデン化合物が素線21,23,31,33間に均一に配置されやすい。また、潤滑剤40に含有される硫黄含有有機モリブデン化合物は、例えば、ワイヤロープ10を摺動させることにより発生する摩擦熱により、二硫化モリブデンを生成させうる。このため、素線21,23,31,33間に均一に二硫化モリブデンを生成させることができ、素線21,23,31,33における、二硫化モリブデンが配置されていない部分において素線21,23,31,33同士の摩擦が生じる摩擦特異点の発生が抑制されうる。この結果、素線21,23,31,33の破損または断線の発生が抑制され、ひいては、ワイヤロープ10の耐久性を向上させることができる。従って、本実施形態のワイヤロープ10によれば、ワイヤロープ10において潤滑剤40の効果を長期間に亘り維持することができるとともに、ワイヤロープ10の耐久性を向上させることができる。
【0045】
本実施形態のワイヤロープ10において、潤滑剤40は、常温で液体である。本実施形態のワイヤロープ10では、潤滑剤40が、常温で液体であるため、硫黄含有有機モリブデン化合物の潤滑剤40中での分散性をより効果的に向上させることができる。また、潤滑剤40が、常温で液体であることにより、芯ストランド20および側ストランド30を構成する素線21,23,31,33を潤滑剤40で被膜する際の被膜の均一性をより効果的に向上させることができ、素線21,23,31,33における上記摩擦特異点の発生がより効果的に抑制されうる。従って、本実施形態のワイヤロープ10によれば、ワイヤロープ10の耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0046】
本実施形態のワイヤロープ10において、潤滑剤40の常温での粘度は、100mm/s以上、14100mm/s以下である。換言すれば、本実施形態のワイヤロープ10では、潤滑剤40の常温での粘度が比較的低い。このため、硫黄含有有機モリブデン化合物の潤滑剤40中での分散性をより効果的に向上させることができる。従って、本実施形態のワイヤロープ10によれば、ワイヤロープ10の耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0047】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10では、ロープ本体15は、芯ストランド20を有している。本実施形態のワイヤロープ10では、芯ストランド20を構成する複数の素線21,23の間に上記潤滑剤40が介在するため、芯ストランド20自体の耐久性を向上させることができる。芯ストランド20の耐久性は、ワイヤロープ10の耐久性に大きく寄与する。従って、本実施形態のワイヤロープ10によれば、ワイヤロープ10の耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0048】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10では、芯ストランド20は、ウォーリントン撚りである。ウォーリントン撚りで形成された芯ストランド20では、ワイヤロープ10の横断面において、芯ストランド20を構成する各3本の素線同士によって、それぞれ閉じられた空間を形成する。このように、それぞれ閉じられた空間が形成されることにより、一の空間に配置された潤滑剤40は他の空間へと移動しにくい。換言すれば、一の空間に配置された潤滑剤40は、当該一の空間に滞留されやすい。このため、芯ストランド20を構成する各素線21,23の潤滑剤による被膜が欠落することなく、各素線21,23の耐久性が維持されやすい。従って、本実施形態のワイヤロープ10によれば、ワイヤロープ10の耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0049】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10では、ロープ本体15は、芯ストランド20の周りに撚り合わされた複数の側ストランド30を有している。本実施形態のワイヤロープ10では、側ストランド30を構成する複数の素線31,33の間に上記潤滑剤40が介在するため、側ストランド30自体の耐久性を向上させることができる。側ストランド30の耐久性は、ワイヤロープ10の耐久性に寄与する。従って、本実施形態のワイヤロープ10によれば、ワイヤロープ10の耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0050】
本実施形態のワイヤロープ10において、硫黄含有有機モリブデン化合物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンまたはジアルキルジチオリン酸モリブデンである。ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンや、ジアルキルジチオリン酸モリブデンは、ワイヤロープ10の摩擦熱により、二硫化モリブデンを生成しやすい傾向がある。従って、本実施形態のワイヤロープ10によれば、ワイヤロープ10の耐久性をより効果的に向上させることができる。また、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンや、ジアルキルジチオリン酸モリブデンは、合成が容易であり、また、市場において容易に入手できる傾向がある。
【0051】
B.性能評価:
ワイヤロープの耐久性について、性能評価を行った。図3は、性能評価の結果を示す説明図であり、図4は、性能評価の評価方法を示す説明図である。
【0052】
図3に示すように、性能評価には、4種類のワイヤロープ(ワイヤロープA,X1~X3)を用いた。ワイヤロープAは、上述した第1実施形態のワイヤロープ10と同様の構成のワイヤロープである。一方、ワイヤロープX1は、上述した第1実施形態のワイヤロープ10において、潤滑剤40と異なる潤滑剤を使用した構成のワイヤロープである。ワイヤロープX2は、ワイヤロープ10において、樹脂層50を備えない構成のワイヤロープである。ワイヤロープX3は、ワイヤロープ10において、潤滑剤40と異なる潤滑剤を使用し、かつ、樹脂層50を備えない構成のワイヤロープである。ワイヤロープA,X1~X3のそれぞれの詳細構成は、以下の通りである。
【0053】
[ワイヤロープA]
<芯ストランド20>
・芯素線21:1本(直径0.17mm)
・側素線23a:6本(直径0.16mm)
・側素線23b:6本(直径0.17mm)
・側素線23c:6本(直径0.13mm)
・芯ストランド20の外径:0.75mm
・芯ストランド20の材料:SWRH62A
<側ストランド30>
・側ストランド30の本数:8本
・芯素線31:1本(直径0.15mm)
・側素線33:6本(直径0.14mm)
・側ストランド30の外径:0.43mm
・側ストランド30の材料:SWRH62A
<ロープ本体15>
・外径:1.61mm
<潤滑剤40>
・オイルS1:硫黄含有有機モリブデン化合物含有オイル(40℃における粘度100mm/s)
・1m長のワイヤロープ10に対する潤滑剤40の含有量:1.5重量%
<樹脂層50>
・樹脂の種類:ポリアミド12
・被覆厚さ:0.15mm
<ワイヤロープ10>
・外径:1.91mm
【0054】
[ワイヤロープX1]
・ロープ本体15、樹脂層50については、ワイヤロープAと同様である。
<潤滑剤>
・オイルS2:硫黄化合物含有オイル(40℃における粘度120mm/s)
・1m長のワイヤロープ10に対する潤滑剤の含有量:1.5重量%
【0055】
[ワイヤロープX2]
・ロープ本体15、潤滑剤40については、ワイヤロープAと同様である。
<樹脂層>
・なし
【0056】
[ワイヤロープX3]
・ロープ本体15については、ワイヤロープAと同様であり、潤滑剤については、ワイヤロープX1と同様である。
<樹脂層>
・なし
【0057】
ワイヤロープA,X1~X3について、以下の方法によりワイヤロープの耐久性を評価した。
【0058】
図4(A)に示すのは、ワイヤロープの耐久性を測定するための測定装置である。全長1000mmのワイヤロープ10(具体的には、ワイヤロープA)の一方の端部は、エアシリンダ101に固定されている。エアシリンダ101から延出したワイヤロープ10が、プーリ103aで180°反転した後、プーリ103bで90°反転する状態となるように配索した。ワイヤロープ10は、ストッパ105に形成された貫通孔に通されている。ワイヤロープ10の他方の端部は、10kgの錘107に連結されている。
【0059】
図4(A)において、エアシリンダ101が方向D1へ往復動することにより、ワイヤロープ10は、プーリ103a,103bの溝部(図4(B)参照)を摺動する。これにより、プーリ103aは方向D2へ、プーリ103bは方向D3へと回動する。エアシリンダ101の往復動により、ワイヤロープ10に連結された錘107は、方向D4へと往復動(上昇および下降)する。
【0060】
図4(B)は、プーリ103a,103bの側面における部分拡大図である。プーリ103a,103bの詳細構成は、以下の通りである。
<プーリ103a.103b>
・溝直径L:25mm
・溝角度θ:30°
・溝底部の曲率半径R:0.9mm
・材質:ポリアセタール樹脂
【0061】
ワイヤロープ10の耐久性の測定は、次の条件で実施した。はじめに、エアシリンダ101により、ワイヤロープ10を錘107が上昇する方向へ引っ張り、錘107がストッパ105に突き当たって、ワイヤロープ10の張力が490Nとなった状態で、0.5秒間保持した。その後、ワイヤロープ10を錘107が下降する方向へ動くようにした。この上昇および下降の往復動を1往復とした。ここで、ワイヤロープ10の往復動のストロークは150mm、往復速度は20往復/分とした。ワイヤロープ10の耐久性の評価として、上記条件で、ワイヤロープ10が破断するまでの往復回数を測定した。
【0062】
図3には、ワイヤロープA,X1~X3について、耐久性(すなわち、ワイヤロープ10が破断するまでの往復回数、以下、「耐久回数」ともいう)の測定結果が示されている。まず、潤滑剤としてオイルS2を用い、かつ、樹脂層50を備えていないワイヤロープX3の耐久回数は、41,196回であった。これに対し、潤滑剤40としてオイルS1を用い、かつ、樹脂層50を備えていないワイヤロープX2の耐久回数は、49,775回であった。両者の耐久回数の差は、8,579回であり、約120%の上昇率を示した。ワイヤロープX2は、潤滑剤40としてオイルS1を用いている点で、ワイヤロープX3と異なる。このため、上記耐久回数の差および上昇率は、潤滑剤40を、オイルS2からオイルS1へと変更することに起因するものと考えられた。
【0063】
潤滑剤としてオイルS2を備え、かつ、樹脂層50を備えるワイヤロープX1の耐久回数は、67,012回であった。ワイヤロープX1,X3において、両者の耐久回数の差は、25,816回であり、約163%の上昇率を示した。ワイヤロープX1は、樹脂層50を備えている点で、ワイヤロープX3と異なる。このため、上記耐久回数の差および上昇率は、樹脂層50を備えることに起因するものと考えられた。
【0064】
一方、潤滑剤40としてオイルS1を用い、かつ、樹脂層50を備えるワイヤロープAの耐久回数は、140,037回であり、非常に高い値であった。ワイヤロープAの耐久回数は、潤滑剤40としてオイルS2を用いている点でワイヤロープAと異なるワイヤロープX1と比較して、73,025回多く、約209%の上昇率を示した。この耐久回数の差および上昇率は、上記ワイヤロープX2とワイヤロープX3との比較、すなわち、樹脂層50を備えていないワイヤロープX3の潤滑剤40をオイルS2からオイルS1へと変更したことによる耐久回数の差(8,579回)および上昇率(約120%)と比較して、顕著な値を示した。また、ワイヤロープAの耐久回数は、樹脂層50を備えていない点でワイヤロープAと異なるワイヤロープX2と比較して、90,262回多く、約281%の上昇率を示した。この耐久回数の差および上昇率は、上記ワイヤロープX1とワイヤロープX3との比較、すなわち、潤滑剤40としてオイルS2を用いたワイヤロープX3に樹脂層50を備えることによる耐久回数の差(25,816回)および上昇率(約163%)と比較して、顕著な値を示した。
【0065】
上述の通り、ワイヤロープAは、潤滑剤40としてのオイルS1と、樹脂層50との両方を備えることにより、高い耐久回数と上昇率を示したものと考えられた。これは、潤滑剤40としてのオイルS1が常温で液体であるため、潤滑剤40が、素線21,23,31,33(特には、芯ストランド20を構成する素線21,23)を均一に被膜することにより、素線21,23,31,33同士の摩擦が生じる摩擦特異点を低減することができ、ひいては、摩擦による素線21,23,31,33の破損または断線を低減することができるためであると考えられた。また、上記効果は、芯ストランド20および側ストランド30で構成されるロープ本体15が、樹脂層50で被覆されていることにより、上記オイルS1がワイヤロープ10から漏出することなく素線21,23,31,33間に滞留することにより、オイルS1の潤滑剤40としての効果を持続することができることに起因するものと考えられた。さらには、素線21,23,31,33間の摩擦が繰り返されることにより、オイルS1に含有される硫黄含有有機モリブデン化合物から、二硫化モリブデンが生成されていることが確認できた。これにより、ワイヤロープAでは、さらなる低摩擦状態を実現していると考えられた。
【0066】
C.第2実施形態:
次に、第2実施形態におけるワイヤロープについて説明する。本実施形態におけるワイヤロープは、潤滑剤が、硫黄非含有有機モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物とを含有する点で、第1実施形態のワイヤロープ10と異なる。以下では、第2実施形態のワイヤロープの構成の内、上述した第1実施形態のワイヤロープ10と同一の構成については、その説明を適宜省略する。
【0067】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープは、潤滑剤として、硫黄非含有有機モリブデン化合物(すなわち、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物)と、硫黄含有有機化合物とを含有している。硫黄非含有有機モリブデン化合物としては、従来公知のいずれの硫黄非含有有機モリブデン化合物も使用することができ、特に限定されない。硫黄非含有有機モリブデン化合物として、例えば、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩等を使用することができる。硫黄非含有有機モリブデン化合物は、より好ましくは、モリブデン-アミン錯体、有機酸のモリブデン塩またはアルコールのモリブデン塩である。なお、硫黄非含有有機モリブデン化合物を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
硫黄含有有機化合物としては、従来公知のいずれの硫黄含有有機化合物も使用することができ、特に限定されない。硫黄含有有機化合物として、例えば、チアジアゾール、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステルまたはポリサルファイド等を使用することができる。硫黄含有有機化合物は、より好ましくは、硫化オレフィン、チアジアゾールまたは硫化油脂であり、さらに好ましくは、チアジアゾールである。なお、硫黄含有有機化合物を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
本実施形態の潤滑剤は、第1実施形態の潤滑剤40と同様に、基油に硫黄非含有有機モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物とが含有された潤滑油であってもよい。また、本実施形態の潤滑剤は、第1実施形態の潤滑剤40と同様に、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、金属不活性剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、泡消剤などを適宜含有していてもよい。
【0070】
本実施形態のワイヤロープは、上述の第1の実施形態のワイヤロープ10と同様の方法により製造することができる。すなわち、本実施形態のワイヤロープの製造方法では、第1実施形態の潤滑剤40に代えて、第2実施形態の潤滑剤、すなわち、基油に、硫黄非含有有機モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物とを溶解したオイルを用いる。
【0071】
本実施形態のワイヤロープでは、樹脂層を備えていることにより、芯ストランドおよび側ストランドを構成する複数の素線の間に介在する潤滑剤を、ワイヤロープから漏出させることなく素線間に滞留させることができる。このため、潤滑剤の効果を長期間に亘り維持することができる。また、本実施形態のワイヤロープでは、潤滑剤が、固体粉体である二硫化モリブデンと比較して、固体または液体のオイルに均一に分散しやすい硫黄非含有有機モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物とを含有している。このため、硫黄非含有有機モリブデン化合物および硫黄含有有機化合物の潤滑剤中での分散性を向上させることができる。このような潤滑剤では、硫黄非含有有機モリブデン化合物および硫黄含有有機化合物が素線間に均一に配置されやすい。また、潤滑剤に含有される硫黄非含有有機モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物とは、例えば、ワイヤロープを摺動させることにより発生する摩擦熱により、二硫化モリブデンを生成させうる。このため、素線間に均一に二硫化モリブデンを生成させることができ、素線間における、二硫化モリブデンが配置されていない部分において素線同士の摩擦が生じる摩擦特異点の発生が抑制されうる。この結果、素線の破損または断線の発生が抑制され、ひいては、ワイヤロープの耐久性を向上させることができる。従って、本実施形態のワイヤロープによれば、ワイヤロープにおいて潤滑剤の効果を長期間に亘り維持することができるとともに、ワイヤロープの耐久性を向上させることができる。
【0072】
D.第3実施形態:
図5は、第3実施形態におけるワイヤロープ10Aの横断面構成を示す説明図である。以下では、第3実施形態のワイヤロープ10Aの構成のうち、上述した第1実施形態のワイヤロープ10の構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0073】
図5に示すように、第3実施形態のワイヤロープ10Aは、ロープ本体15Aと、潤滑剤40と、樹脂層50とを備えている。第3実施形態のワイヤロープ10Aは、主として、ロープ本体15Aが、複数の(より具体的には8本の)側ストランド30から形成されている点で、第1実施形態のワイヤロープ10と異なっている。すなわち、ロープ本体15Aは、芯ストランド20を有していない。
【0074】
ロープ本体15Aは、8本の側ストランド30を互いに撚り合わせることにより形成されている。ロープ本体15Aの任意の横断面において、各側ストランド30は、互いに当接している。なお、本実施形態の側ストランド30の各構成は、第1実施形態の側ストランド30の各構成と同様であるため、説明を省略する。
【0075】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10Aは、潤滑剤40を備えている。本実施形態のワイヤロープ10Aにおいて、側ストランド30を構成する素線31,33の間の少なくとも一部には潤滑剤40が介在している。また、ロープ本体15Aの内部(より具体的には、ロープ本体15Aの径方向において、側ストランド30の内側)にも潤滑剤40が配置されている。具体的には、素線31,33の少なくとも一部は、潤滑剤40で被膜されている。なお、本実施形態の潤滑剤40および樹脂層50の各構成は、第1実施形態の潤滑剤40および樹脂層50の各構成と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
本実施形態のワイヤロープ10Aにおいても、第1実施形態のワイヤロープ10と同様に、樹脂層50を備えていることにより、側ストランド30を構成する複数の素線31,33の間に介在する潤滑剤40を、ワイヤロープ10Aから漏出させることなく素線31,33間に滞留させることができる。従って、本実施形態のワイヤロープ10Aによれば、ワイヤロープ10Aにおいて潤滑剤40の効果を長期間に亘り維持することができるとともに、ワイヤロープ10Aの耐久性を向上させることができる。
【0077】
E.第4実施形態:
図6は、第4実施形態におけるワイヤロープ10Bの横断面構成を示す説明図である。以下では、第4実施形態のワイヤロープ10Bの構成のうち、上述した実施形態のワイヤロープ10,10Aの構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0078】
図6に示すように、第4実施形態のワイヤロープ10Bは、ロープ本体15Bと、潤滑剤40と、樹脂層50とを備えている。第4実施形態のワイヤロープ10Bは、主として、ロープ本体15Bを構成する芯ストランド20Bの撚り方法が、ウォーリントン撚りでない点で、第1実施形態のワイヤロープ10と異なっている。
【0079】
ロープ本体15Bは、芯ストランド20Bと、複数の(より具体的には8本の)側ストランド30とを有している。芯ストランド20Bは、芯素線21と、側素線23B(具体的には、側素線23a,23b)とが、互いに撚り合わされた3層構造を有している。すなわち、芯ストランド20Bは、第1層として、1本の芯素線21を、第2層として、6本の側素線23aを、第3層として、各6本の側素線23bを有している。具体的には、6本の側素線23aは、それぞれ、芯素線21の周囲に芯素線21の周方向に沿って配置されている。6本の側素線23bは、それぞれ、側素線23aの周囲において、隣接する2つの側素線23aの間に配置されている。本実施形態において、芯ストランド20Bは、上記合計13本の素線21,23Bを平行撚りすることにより形成されている。本実施形態のロープ本体15Bは、芯ストランド20Bの外周に8本の側ストランド30を互いに撚り合わせることにより形成されている。ロープ本体15Bの任意の横断面において、各側ストランド30は、互いに当接しており、また、芯ストランド20Bと側ストランド30とは、互いに当接している。なお、図6では、一部の側ストランド30は、芯ストランド20Bに当接していないが、当該側ストランド30は、ロープ本体15Bの少なくとも一の横断面(図6に示す横断面とは異なる横断面)において、芯ストランド20Bに当接している。
【0080】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10Bは、潤滑剤40を備えている。本実施形態のワイヤロープ10Bにおいて、芯ストランド20Bを構成する素線21,23Bの間には潤滑剤40が介在している。また、本実施形態のワイヤロープ10Bでは、側ストランド30を構成する素線31,33の間の少なくとも一部にも潤滑剤40が介在している。具体的には、各素線21,23Bの外周と、素線31,33の少なくとも一部とは、潤滑剤40で被膜されている。なお、本実施形態の潤滑剤40および樹脂層50の各構成は、第1実施形態の潤滑剤40および樹脂層50の各構成と同様であるため、説明を省略する。
【0081】
本実施形態のワイヤロープ10Bにおいても、第1実施形態のワイヤロープ10と同様に、樹脂層50を備えていることにより、芯ストランド20Bおよび側ストランド30を構成する複数の素線21,23B,31,33の間に介在する潤滑剤40を、ワイヤロープ10Bから漏出させることなく素線21,23B,31,33間に滞留させることができる。従って、本実施形態のワイヤロープ10Bによれば、ワイヤロープ10Bにおいて潤滑剤40の効果を長期間に亘り維持することができるとともに、ワイヤロープ10Bの耐久性を向上させることができる。
【0082】
F.第5実施形態:
図7は、第5実施形態におけるワイヤロープ10Cの横断面構成を示す説明図である。以下では、第5実施形態のワイヤロープ10Cの構成のうち、上述した実施形態のワイヤロープ10,10A,10Bの構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0083】
図7に示すように、第5実施形態のワイヤロープ10Cは、ロープ本体15Cと、潤滑剤40と、樹脂層50とを備えている。第5実施形態のワイヤロープ10Cは、主として、ロープ本体15Cが、芯ストランド20から形成されている点で、第1実施形態のワイヤロープ10と異なっている。すなわち、ロープ本体15Cは、側ストランド30を有していない。
【0084】
ロープ本体15Cは、上述したように、芯ストランド20により形成されている。より具体的には、芯ストランド20は、上記合計19本の素線21,23をウォーリントン撚りすることにより形成されている。なお、本実施形態の芯ストランド20の各構成は、第1実施形態の芯ストランド20の各構成と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10Cは、潤滑剤40を備えている。本実施形態のワイヤロープ10Cにおいて、芯ストランド20を構成する素線21,23の間の少なくとも一部には潤滑剤40が介在している。具体的には、素線21,23の少なくとも一部は、潤滑剤40で被膜されている。なお、本実施形態の潤滑剤40および樹脂層50の各構成は、第1実施形態の潤滑剤40および樹脂層50の各構成と同様であるため、説明を省略する。
【0086】
本実施形態のワイヤロープ10Cにおいても、第1実施形態のワイヤロープ10と同様に、樹脂層50を備えていることにより、芯ストランド20を構成する複数の素線21,23の間に介在する潤滑剤40を、ワイヤロープ10Cから漏出させることなく素線21,23間に滞留させることができる。従って、本実施形態のワイヤロープ10Cによれば、ワイヤロープ10Cにおいて潤滑剤40の効果を長期間に亘り維持することができるとともに、ワイヤロープ10Cの耐久性を向上させることができる。
【0087】
G.第6実施形態:
図8は、第6実施形態におけるワイヤロープ10Dの横断面構成を示す説明図である。以下では、第6実施形態のワイヤロープ10Dの構成のうち、上述した実施形態のワイヤロープ10,10A,10B,10Cの構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0088】
図8に示すように、第6実施形態のワイヤロープ10Dは、ロープ本体15Dと、潤滑剤40と、樹脂層50とを備えている。第6実施形態のワイヤロープ10Dは、主として、ロープ本体15Dが、芯ストランド20Bから形成されている点で、第4実施形態のワイヤロープ10Bと異なっている。すなわち、ロープ本体15Dは、側ストランド30を有していない。
【0089】
ロープ本体15Dは、上述したように、芯ストランド20Bにより形成されている。より具体的には、芯ストランド20Bは、上記合計13本の素線21,23Bを平行撚りすることにより形成されている。なお、本実施形態の芯ストランド20Bの各構成は、第4実施形態の芯ストランド20Bの各構成と同様であるため、説明を省略する。
【0090】
上述の通り、本実施形態のワイヤロープ10Dは、潤滑剤40を備えている。本実施形態のワイヤロープ10Dにおいて、芯ストランド20Bを構成する素線21,23Bの間の少なくとも一部には潤滑剤40が介在している。具体的には、素線21,23Bの少なくとも一部は、潤滑剤40で被膜されている。なお、本実施形態の潤滑剤40および樹脂層50の各構成は、第4実施形態の潤滑剤40および樹脂層50の各構成と同様であるため、説明を省略する。
【0091】
本実施形態のワイヤロープ10Dにおいても、第4実施形態のワイヤロープ10Bと同様に、樹脂層50を備えていることにより、芯ストランド20Bを構成する複数の素線21,23Bの間に介在する潤滑剤40を、ワイヤロープ10Dから漏出させることなく素線21,23B間に滞留させることができる。従って、本実施形態のワイヤロープ10Dによれば、ワイヤロープ10Dにおいて潤滑剤40の効果を長期間に亘り維持することができるとともに、ワイヤロープ10Dの耐久性を向上させることができる。
【0092】
H.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0093】
上記第1実施形態におけるワイヤロープ10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態のワイヤロープ10における側ストランド30の本数や、側ストランド30や芯ストランド20を構成する素線の本数や層数は、種々変形可能である。また、上記実施形態のワイヤロープ10において、芯ストランド20および側ストランド30の一方が、単一の素線から構成されていてもよい。また、上記実施形態のワイヤロープ10において、芯ストランド20の撚り方法は、ウォーリントン撚りに限定されず、シール撚り、フィラー撚り、ウォーリントンシール撚り等の他の平行撚りや、交差撚り等の他の撚り方法であってもよい。また、上記実施形態のワイヤロープ10において、側ストランド30の撚り方法は、平行撚りに限定されず、交差撚り等の他の撚り方法であってもよい。また、上記実施形態のワイヤロープ10における各部材の材料は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0094】
上記実施形態のワイヤロープ10において、潤滑剤40は、常温で、固体または半固体であってもよく、潤滑剤40の常温での粘度は、100mm/s未満、14100mm/sを超える値であってもよい。
【符号の説明】
【0095】
10,10A,10B,10C,10D:ワイヤロープ 15,15A,15B,15C,15D:ロープ本体 20,20B:芯ストランド 21:芯素線 23,23B:側素線 23a,23b,23c:側素線 30:側ストランド 31:芯素線 33:側素線 40:潤滑剤 50:樹脂層 101:エアシリンダ 103a,103b:プーリ 105:ストッパ 107:錘
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8