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特許7405557芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/09 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
C07F9/09 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019191634
(22)【出願日】2019-10-21
(65)【公開番号】P2021066681
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 健太
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-62094(JP,A)
【文献】特開昭60-8297(JP,A)
【文献】国際公開第2018/226446(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化剤と、ポリオキシアルキレンアリールエーテルである下記一般式(I)で表される化合物とを反応させてリン酸エステルを製造する方法であって、
前記リン酸化剤として、大気圧下、25℃において液状であるリン酸化剤のみを用いる、芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法であって、
前記リン酸化剤が、ポリリン酸である、
芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法
【化3】

(一般式(I)中、Arは、フェニル基、ナフチル基、クミルフェニル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、ターフェニル基、ピレニル基、フルオレニル基又はペリレニル基であり(ただし、Arは、式中に示すm個のXおよび-O-(RO)-H基以外の末端基は有さない)、m個のXは、炭素数1~4の直鎖状又は分枝状のアルキル基であって、互いに同一であっても、異なっていてもよく、mは0~3の整数であり、n個のROは、炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、互いに同一であっても、異なっていてもよく、nは、ROの平均付加モル数を示す020以下の数であり、ROの付加形式は、ホモ、ランダム、ブロック及び交互のいずれでもよい。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表される化合物中にリン酸化剤を投入する工程において、冷却を行わない、請求項に記載の芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記一般式(I)中のnが010以下の数である、請求項1又は2に記載の芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(I)中のArがフェニル基又はナフチル基である、請求項1~のいずれか1項に記載の芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
有機ヒドロキシ化合物のリン酸エステルは、難燃剤、洗浄剤、繊維処理剤、乳化剤、防錆剤、液状イオン交換体、医薬品、化粧品等の用途に好適に用いられている。
【0003】
この有機ヒドロキシ化合物のリン酸エステルは、有機ヒドロキシ化合物をリン酸化剤でリン酸化することにより得られている。有機ヒドロキシ化合物をリン酸化剤でリン酸化する方法としては、たとえば、特許文献1には、有機ヒドロキシ化合物をポリリン酸でリン酸化した後、さらに五酸化二リンで酸化する方法が記載されている。しかしながら、五酸化二リンをリン酸化に用いると、リン酸化の際の発熱により、得られる有機ヒドロキシ化合物のリン酸エステルが着色する問題があった。そこで、特許文献2では、反応液中の五酸化二リンの残存率を特定の範囲とすることで、有機ヒドロキシ化合物のリン酸エステルの着色を抑制することが記載されている。
【0004】
一方、有機ヒドロキシ化合物のリン酸エステルの用途の一部では、透明性が要求されるため、着色が生じている有機ヒドロキシ化合物のリン酸エステルは用いることができない。しかしながら、有機ヒドロキシ化合物の中でも、芳香環を有するヒドロキシ化合物を五酸化二リンでリン酸化すると、着色の著しい化合物が多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3115489号公報
【文献】特許第4498910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
芳香環を有するヒドロキシ化合物をリン酸化して得られる芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの着色を、簡易に抑制することのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、たとえば以下の[1]~[5]である。
[1]リン酸化剤と、下記一般式(I)で表される化合物とを反応させてリン酸エステルを製造する方法であって、
リン酸化剤として、大気圧下、25℃において液状であるリン酸化剤のみを用いる、
芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法。
【化1】

(一般式(I)中、Arは、芳香環を有する基であり(ただし、該芳香環を有する基は、式中に示すm個のXおよび-O-(RO)-H基以外の置換基は有さない)、m個のXは、炭素数1~4の直鎖状又は分枝状のアルキル基であって、互いに同一であっても、異なっていてもよく、mは0~3の整数であり、n個のROは、炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、互いに同一であっても、異なっていてもよく、nは、ROの平均付加モル数を示す0~20の数であり、ROの付加形式は、ホモ、ランダム、ブロック及び交互のいずれでもよい。)
[2]前記リン酸化剤が、ポリリン酸である[1]の芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法。
[3]前記一般式(I)で表される化合物中にリン酸化剤を投入する工程において、冷却を行わない、[1]又は[2]の芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法。
[4]前記一般式(I)中のnが0~10の数である、[1]~[3]のいずれかの芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法。
[5]前記一般式(I)中のArがフェニル基又はナフチル基である、[1]~[4]のいずれかの芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、芳香環を有するヒドロキシ化合物をリン酸化して得られる芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの着色を、簡易に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、リン酸化剤と、下記一般式(I)で表される化合物とを反応させてリン酸エステルを製造する方法であって、
リン酸化剤として、大気圧下、25℃において液状であるリン酸化剤のみを用いる、
芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステル(以下、「リン酸エステル」ともいう)の製造方法に関する。
【化2】

(一般式(I)中、Arは、芳香環を有する基であり(ただし、芳香環を有する基は、式中に示すm個のXおよび-O-(RO)-H基以外の置換基は有さない)、m個のXは、炭素数1~4の直鎖状又は分枝状のアルキル基であって、互いに同一であっても、異なっていてもよく、mは0~3の整数であり、n個のROは、炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、互いに同一であっても、異なっていてもよく、nは、ROの平均付加モル数を示す0~20の数であり、ROの付加形式は、ホモ、ランダム、ブロック及び交互のいずれでもよい。)
【0010】
本発明の製造方法において、リン酸化剤は、大気圧下、25℃において液状であるリン酸化剤を用いる。このようなリン酸化剤を用いることにより、得られる芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルの着色を抑制することができる。大気圧下、25℃において液状であるリン酸化剤としては、ポリリン酸、オキシ塩化リンが挙げられるが、作業環境の安全性の観点から、ポリリン酸が好ましい。
【0011】
前記一般式(I)で表される化合物は、芳香環を有するヒドロキシ化合物である。
前記一般式(I)中、Arは、芳香環を有する基である。ただし、該芳香環を有する基は、式中に示すm個のXおよび-O-(RO)-H基以外の置換基は有さない。芳香環を有する基は、芳香環のみからなる基、及び複数の芳香環が単結合又はアルキレン鎖を介して結合している基が好ましく挙げられ、1~5個の芳香環のみからなる基、及び1~5個の芳香環が単結合又は炭素数1~5の直鎖又は分岐のアルキレン鎖を介して結合している基がより好ましく挙げられる。このような芳香環を有する基としては、フェニル基、ナフチル基、クミルフェニル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、ターフェニル基、ピレニル基、フルオレニル基、ペリレニル基が挙げられ、フェニル基、ナフチル基、クミルフェニル基が好ましく、フェニル基、ナフチル基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
【0012】
一般式(I)中、m個のXは、炭素数1~4の直鎖状又は分枝状のアルキル基であって、互いに同一であっても、異なっていてもよい。炭素数1~4の直鎖状又は分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~2の直鎖状アルキル基が好ましい。Xの炭素数が前記範囲にあるものは、五酸化二リンでリン酸化した場合に、着色が著しく、大気圧下、25℃において液状であるリン酸化剤を用いてリン酸化した場合における着色の抑制効果が顕著である。
【0013】
一般式(I)中、mは0~3の整数であり、0~1の整数が好ましい。
【0014】
一般式(I)中、n個のROは、炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、互いに同一であっても、異なっていてもよい。Rは、炭素数2~4の直鎖状または分枝状のアルキレン基であり、エチレン基、n-プロピレン基、プロピレン基(-CH-CH(CH)-)、n-ブチレン基、1-メチルプロピレン基(-CH-CH-CH(CH)-)、2-メチルプロピレン基(-CH-CH(CH)-CH-)、ジメチルエチレン基(-CH-C(CH-)、エチルエチレン基(-CH-CH(CHCH)-)、等が挙げられる。また、Rにおいて、(RO)の主鎖を構成する部分の炭素数は2以下であることが好ましい。すなわち、Rは、エチレン基、プロピレン基およびエチルエチレン基からなる群より選択される少なくとも1種を有することが好ましい。ROは互いに同一であっても、異なっていてもよく、その付加形式は、ホモ、ランダム、ブロック及び交互のいずれでもよいが、互いに同一でありホモ形式であることが好ましい。ROとしては、オキシエチレン基、オキシプロピレン(-O-CH-CH(CH)-)基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基(-O-CH-CH(CH)-)との組み合わせが好ましく、オキシエチレン基がより好ましい。
【0015】
ROの平均付加モル数を示すnは、0~20であり、0~10が好ましく、2~10がより好ましい。前記範囲であるものは、五酸化二リンでリン酸化した場合に、着色が著しく、大気圧下25℃において液状であるリン酸化剤を用いてリン酸化した場合における着色の抑制効果が顕著である。nが0を超える化合物は、ポリオキシアルキレン鎖を有し、ポリオキシアルキレンアリールエーテルである。
【0016】
nが0を超える場合の前記一般式(I)で表される化合物の製造方法は、特に制限されないが、通常、m個のXを有するアリールヒドロキシ化合物を、アルカリの存在下、アルキレンオキシドと反応させることにより得られる。反応は、適宜、加熱、加圧を行う。
【0017】
得られる芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルは、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル及びそれらの混合物のいずれであってもよく、目的に応じて適宜選択される。
【0018】
前記リン酸化剤と、前記一般式(I)で表される化合物との反応は、以下のようにして行う。
(工程1:リン酸化剤投入工程)
前記一般式(I)で表される化合物を、窒素でバブリング及び攪拌しながら、昇温する。昇温は100℃以下までとする。100℃以下、好ましくは50℃以下において、前記化合物に、リン酸化剤を投入する。前記一般式(I)で表される化合物に対して、リン酸化剤は、モル量(五酸化リン換算)で通常0.5~1.0倍、好ましくは0.6~0.8倍用いる。
【0019】
反応により発熱が生じ、得られるリン酸エステルの着色の原因となるが、リン酸化剤として前記のリン酸化剤を用い、投入時の温度を前記範囲とすることで、得られるリン酸エステルの着色を抑制することができる。着色を効果的に抑制するために、リン酸化剤は、分割して投入してもよい。分割の回数は、多いほど投入時の発熱は抑制されるが、通常2~5回に分割して投入すれば、着色が生じるような発熱は抑制される。大気圧下25℃において固体であるリン酸化剤を用いた場合は、着色を抑制するためには、数十回に分割して投入することが必要であり、それに比べて大気圧下25℃において液状であるリン酸化剤を用いる本願発明は、作業の効率化の観点からも好ましい。投入の際は、冷却を行なって、着色を抑制することもできるが、前記一般式(I)で表される化合物の液温が100℃以下であれば、冷却を行わなくてもよい。大気圧下25℃において液状であるリン酸化剤を用いると、大気圧下25℃において固体であるリン酸化剤を用いた場合に著しい投入時の発熱、特にリン酸化剤の凝集による局部的な発熱が抑制されるので、投入の分割の回数を適宜調整することにより、冷却を行うことなく投入工程を行うことができる。
【0020】
(工程2:反応工程)
工程1で得られた反応液に、窒素のバブリング及び攪拌を続けながら、反応液を60~100℃、好ましくは70~90℃に保ちながら3~10時間反応させる。
反応の際は、冷却を行なって、着色を抑制することもできるが、反応液の液温が100℃以下であれば、冷却を行わなくてもよい。大気圧下、25℃において液状であるリン酸化剤を用いると、大気圧下25℃において固体であるリン酸化剤を用いた場合に比べて、反応時の発熱、特にリン酸化剤の凝集による局部的な発熱が抑制されるので、冷却を行うことなく反応工程を行うことも可能である。
【0021】
(工程3:加水分解工程)
工程2で得られた反応液に、水を加え、60~90℃、好ましくは70~80℃で、未反応の前記リン酸化剤の加水分解を行う。水の量は、特に制限はないが、残存しているピロリン酸エステルを効果的に加水分解する観点から、工程1における前記一般式(I)で表される化合物の量に対してモル量で通常1~10倍用いる。
【0022】
工程3の後に必要に応じて、蒸留、カラム分離等により、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを分離してもよい。
【0023】
<用途>
本発明の製造方法で得られた芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルは、洗浄剤、乳化剤、繊維処理剤、防錆剤、医療品分野、化粧品等の用途に用いることができる。本発明の製造方法で得られた芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルは、着色が抑制されているので、特に美観性が重視される用途(塗料、表面処理剤、化粧品)等に好適に用いることができる。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
実施例及び比較例では、芳香環を有するヒドロキシ化合物として、ポリオキシエチレンアリールエーテルを使用した。
【0025】
<色調の測定方法>
原料のポリオキシエチレンアリールエーテル及び得られたポリオキシエチレンアリールエーテルのリン酸エステルの色調は、以下の方法で測定した。
【0026】
(1)APHA指数
JIS K 0071-1:1998に従って、ポリオキシエチレンアリールエーテルのリン酸エステルを比色管に入れた標準液と比較してAPHA指数を測定した。
【0027】
(2)Gardner指数
JIS K 0071-2:1998に従って、ポリオキシエチレンアリールエーテルのリン酸エステルをガードナー色数標準液と比較して測定した。
【0028】
ポリオキシエチレンアリールエーテルのエチレンオキシド平均付加モル数は、ポリオキシエチレンアリールエーテルの水酸基価から算出した。水酸基価はJIS K 1557-1:2007(B法)に従って測定した。
【0029】
<ポリオキシエチレンアリールエーテルの合成>
[合成例1]
フェノール94質量部及び水酸化カリウム0.5質量部をオートクレーブに仕込み、150℃まで昇温した後、エチレンオキシド88質量部を0.5MPa以下の条件にて圧入し、5時間反応させ、オキシエチレンの平均付加モル数2のポリオキシエチレンフェニルエーテルを得た。
【0030】
[合成例2]
エチレンオキシドの量を132質量部とした以外は、合成例1と同様にしてオキシエチレンの平均付加モル数3のポリオキシエチレンフェニルエーテルを得た。
【0031】
[合成例3]
エチレンオキシドの量を440質量部とした以外は、合成例1と同様にしてオキシエチレンの平均付加モル数10のポリオキシエチレンフェニルエーテルを得た。
【0032】
[合成例4]
エチレンオキシドの量を880質量部とした以外は、合成例1と同様にしてオキシエチレンの平均付加モル数20のポリオキシエチレンフェニルエーテルを得た。
【0033】
[合成例5]
エチレンオキシドの量を1320質量部とした以外は、合成例1と同様にしてオキシエチレンの平均付加モル数30のポリオキシエチレンフェニルエーテルを得た。
【0034】
[合成例6]
エチレンオキシドの量を1760質量部とした以外は、合成例1と同様にしてオキシエチレンの平均付加モル数40のポリオキシエチレンフェニルエーテルを得た。
【0035】
[合成例7]
クレゾール108質量部及び水酸化カリウム0.5質量部をオートクレーブに仕込み、150℃まで昇温した後、エチレンオキシド176質量部を0.5MPa以下の条件にて圧入し、5時間反応させ、オキシエチレンの平均付加モル数4のポリオキシエチレンクレジルエーテルを得た。
【0036】
[合成例8]
β―ナフトール144質量部及び水酸化カリウム0.7質量部をオートクレーブに仕込み、150℃まで昇温した後、エチレンオキシド176質量部を0.5MPa以下の条件にて圧入し、5時間反応させ、オキシエチレンの平均付加モル数4のポリオキシエチレンβ―ナフチルエーテルを得た。
【0037】
[合成例9]
クミルフェノール212質量部及び水酸化カリウム1.0質量部をオートクレーブに仕込み、150℃まで昇温した後、エチレンオキシド352質量部を0.5MPa以下の条件にて圧入し、5時間反応させ、オキシエチレンの平均付加モル数8のポリオキシエチレンクミルフェニルエーテルを得た。
【0038】
[合成例10]
ノニルフェノール220質量部及び水酸化カリウム1.1質量部をオートクレーブに仕込み、150℃まで昇温した後、エチレンオキシド352質量部を0.5MPa以下の条件にて圧入し、5時間反応させ、オキシエチレンの平均付加モル数8のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを得た。
【0039】
[実施例1]
合成例1のオキシエチレンの平均付加モル数2のポリオキシエチレンフェニルエーテル1.0molを窒素でバブリング及び攪拌しながら25℃とした中に、ポリリン酸(日本化学工業社製、オルトリン酸当量で116重量%)0.8mol(五酸化リン換算)を2回に分けて投入した。投入操作中、ポリオキシエチレンフェニルエーテルの液温は25~80℃であったため、冷却は行わなかった。
その後、反応液を80~100℃に保ち5時間反応させた。
反応後の反応液に、水2molを加え、80~90℃で2時間加水分解を行ない、ポリオキシエチレンフェニルエーテルのリン酸エステルを得た(収率99.5%)。ポリオキシエチレンフェニルエーテルのリン酸エステルが得られたことは、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)により確認した。
【0040】
[実施例2~7]
ポリオキシエチレンアリールエーテルとして、オキシエチレンの平均付加モル数2のポリオキシエチレンフェニルエーテルの代わりに、合成例2~4、7~9で得られたポリオキシエチレンアリールエーテルを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリオキシエチレンアリールエーテルのリン酸エステルを得た。
【0041】
[比較例1~3]
ポリオキシエチレンアリールエーテルとして、オキシエチレンの平均付加モル数2のポリオキシエチレンフェニルエーテルの代わりに、合成例5、6、10で得られたポリオキシエチレンアリールエーテルを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリオキシエチレンアリールエーテルのリン酸エステルを得た。
【0042】
[比較例4]
合成例1のオキシエチレンの平均付加モル数2のポリオキシエチレンフェニルエーテル1.0molを窒素でバブリング及び攪拌しながら30℃とした中に、五酸化二リン0.5molを20回に分けて投入し、冷却をしながら60℃に保持した。
その後、反応液を50~70℃に保ち5時間反応させた。
反応後の反応液に、水2molを加え、80~90℃で2時間加水分解を行ない、ポリオキシエチレンフェニルエーテルのリン酸エステルを得た。(収率99.4%)。ポリオキシエチレンフェニルエーテルのリン酸エステルが得られたことは、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)により確認した。
【0043】
[比較例5~13]
ポリオキシエチレンアリールエーテルとして、オキシエチレンの平均付加モル数2のポリオキシエチレンフェニルエーテルの代わりに、合成例2~10で得られたポリオキシエチレンアリールエーテルを用いた以外は、比較例4と同様にして、ポリオキシエチレンアリールエーテルのリン酸エステルを得た。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
Arがフェニル基であり、置換基Xを有さない場合、ポリリン酸でリン酸化すると、得られたリン酸エステルは、オキシエチレンの繰り返し単位数が少ないほど、着色が著しいことがわかる。
Arがナフチレン基である場合、五酸化二リンでリン酸化すると着色が著しいが、ポリリン酸でリン酸化すると着色が抑制できることがわかる。
Arが、フェニル基であり、Xが炭素数1のクレジル基である場合と、Xが炭素数9のノニルフェニル基である場合とを比較すると、ノニルフェニルでは、リン酸化剤として五酸化二リンを用いた場合も、ポリリン酸を用いた場合も着色が少ないのに対し、クレジルでは、リン酸化剤として五酸化二リンを用いた場合は、着色が著しいのに対し、ポリリン酸を用いた場合は、着色が抑制されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法で得られた芳香環を有するヒドロキシ化合物のリン酸エステルは、洗浄剤、乳化剤、繊維処理剤、防錆剤、医療品分野、化粧品等の用途に用いることができる。