(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231219BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231219BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20231219BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
(21)【出願番号】P 2019204229
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2018247683
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】吉野 太基
(72)【発明者】
【氏名】倉田 周弥
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-117847(JP,A)
【文献】特開2015-109423(JP,A)
【文献】特開2018-074049(JP,A)
【文献】特開2018-074048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子(成分A)、含窒素塩基性化合物(成分B)、ポリエチレングリコール(成分C)、ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)、及び水(成分E)を含有する研磨液組成物であって、
前記研磨液組成物を孔径0.2μmのPTFEフィルタを用いて濾過圧力0.25MPaで濾過したときのフィルタ単位面積あたりの通液量が0.2g/sec・cm
2以上であ
り、
前記水溶性高分子(成分D)は、ポリグリシドール、ポリグリシドール誘導体、ポリグリセリン、ポリグリセリン誘導体から選ばれる少なくとも1種であって、水酸基価が600mgKOH/g以上850mgKOH/g以下の水溶性高分子であるか、又は、前記水溶性高分子(成分D)は、ポリジメチルビニルホスホナートである、研磨液組成物。
【請求項2】
ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)とポリエチレングリコール(成分C)との質量比(D/C)が7以上500未満である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
シリカ粒子(成分A)、含窒素塩基性化合物(成分B)、ポリエチレングリコール(成分C)、ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)、及び水(成分E)を含有する研磨液組成物であって、
ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)とポリエチレングリコール(成分C)との質量比(D/C)が7以上500未満であ
り、
前記水溶性高分子(成分D)は、ポリグリシドール、ポリグリシドール誘導体、ポリグリセリン、ポリグリセリン誘導体から選ばれる少なくとも1種であって、水酸基価が600mgKOH/g以上850mgKOH/g以下の水溶性高分子であるか、又は、前記水溶性高分子(成分D)は、ポリジメチルビニルホスホナートである、研磨液組成物。
【請求項4】
ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)が、下記式(I)で表される構成単位及び下記式(II)で表される構成単位の少なくとも一方を含む、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【化1】
上記式(I)中、R
1は、メチレン基(-CH
2-)又は結合手であり、R
2、R
3、R
4、R
5はそれぞれ独立して、H(水素原子)、-OH(水酸基)、-CH
2OH、又はポリビニルアルコールであるが、R
2、R
3、R
4、R
5が各々すべて同時にはH(水素原子)、-OH(水酸基)、又は-CH
2OH、とはならない。
上記式(II)中、R
6及びR
7はそれぞれ独立して、水素原子、メチル基、フェニル基、ベンジル基、又はヘキシル基であり、R
8及びR
9はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数が1~4のアルコキシ基、又はフェノキシ基であり、Xは、結合手、-CH
2-、-C
2H
4-、又は-Ph-CH
2-である。
【請求項5】
ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)の重量平均分子量が1000以上15万以下である、請求項1から
4のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項6】
ポリエチレングリコール(成分C)の分子量が600以上10000未満であることを特徴とする請求項1から
5のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項7】
シリカ粒子(成分A)とポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)との質量比(A/D)が0.01以上500以下である、請求項1から
6のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項8】
単結晶シリコンウェーハ又はポリシリコンウェーハの研磨に用いられる、請求項1から
7のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項10】
請求項1から
8のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研磨液組成物、並びにこれを用いた研磨方法、半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体メモリの高記録容量化に対する要求の高まりから半導体装置のデザインルールは微細化が進んでいる。このため半導体装置の製造過程で行われるフォトリソグラフィーにおいて焦点深度は浅くなり、シリコンウェーハ(ベアウェーハ)の表面欠陥(LPD:Light point defects)や表面粗さ(ヘイズ)の低減に対する要求はますます厳しくなっている。
【0003】
シリコンウェーハの品質を向上する目的で、シリコンウェーハの研磨は多段階で行われている。特に研磨の最終段階で行われる仕上げ研磨は、ヘイズの低減とパーティクルやスクラッチ、ピット等の表面欠陥の低減とを目的として行われている。
【0004】
シリコンウェーハの研磨に用いられる研磨液組成物として、例えば、特許文献1では、シリカ粒子と、含窒素塩基性化合物と、水酸基由来の酸素原子数とポリオキシアルキレン由来の酸素原子数の比が0.8~10の水溶性高分子と、を含有する研磨液組成物が提案されている。
特許文献2では、シリカ粒子と、塩基性化合物と、分岐度59.8以上のポリグリセリン及びポリグリセリン誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含有する研磨液組成物が提案されている。
特許文献3では、シリカ粒子と、塩基性化合物と、水溶性高分子と、を含有する研磨液組成物が提案されている。
特許文献4では、砥粒と、水溶性ポリマーと、水とを含有する研磨液組成物が提案されている。
特許文献5では、分子量1000以上100000未満でかつHLB値17以上のノニオン活性剤、塩基性化合物及び水を含有する研磨液組成物が提案されている。
特許文献6では、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、アルカリ化合物、水、及び二酸化珪素を含有する研磨液組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015―109423号公報
【文献】特開2018-74048号公報
【文献】特開2018-74049号公報
【文献】国際公開第2014/126051号
【文献】特開2011-181765号公報
【文献】特開2004-128089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、シリコンウェーハの表面品質に対する要求はますます厳しくなっており、シリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減を両立可能な研磨液組成物が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、シリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)の低減と表面欠陥(LPD)の低減を両立できる研磨液組成物、並びに、これを用いた研磨方法、及び半導体基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、含窒素塩基性化合物(成分B)、ポリエチレングリコール(成分C)、ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)、及び水(成分E)を含有する研磨液組成物であって、前記研磨液組成物を孔径0.2μmのPTFEフィルタを用いて濾過圧力0.25MPaで濾過したときのフィルタ単位面積あたりの通液量が0.2g/sec・cm2以上である、研磨液組成物に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、含窒素塩基性化合物(成分B)、ポリエチレングリコール(成分C)、ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)、及び水(成分E)を含有する研磨液組成物であって、ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)とポリエチレングリコール(成分C)との質量比(D/C)が7以上500未満である、研磨液組成物に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示のシリコンウェーハ用研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む、研磨方法に関する。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示のシリコンウェーハ用研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、研磨されたシリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)の低減と表面欠陥(LPD)の低減を両立できる研磨液組成物、及び該研磨液組成物を用いた研磨方法、並びに半導体基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、シリカ粒子及び塩基性化合物を含む研磨液組成物に、ポリエチレングリコール及びポリエチレングリコール以外の水溶性高分子を含有させることにより、該研磨液組成物で研磨されたシリコンウェーハの表面において、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の両方を低減できるという知見に基づく。
【0014】
すなわち、本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)、含窒素塩基性化合物(成分B)、ポリエチレングリコール(成分C)、ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)、及び水(成分E)を含有する研磨液組成物であって、前記研磨液組成物を孔径0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタを用いて濾過圧力0.25MPaで濾過したときのフィルタ単位面積あたりの通液量が0.2g/sec・cm2以上である、又は、ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)とポリエチレングリコール(成分C)との質量比(D/C)が7以上500未満である、研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
【0015】
本開示の効果発現機構の詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
本開示では、ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)がシリコンウェーハ表面に吸着することにより、シリコンウェーハ表面の濡れ性を付与して、シリコンウェーハ表面の乾燥により生じるシリコンウェーハ表面へのパーティクルの付着を抑制し、表面欠陥(LPD)を低減できると考えられる。また、成分Dがシリコンウェーハに吸着することで、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の悪化の原因となるシリカ粒子(成分A)が直接シリコンウェーハに接触することが抑制され、かつ、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の悪化の原因となる含窒素塩基性化合物(成分B)によるウェーハ表面の腐食が抑制されると考えられる。さらに、成分Cもシリコンウェーハに吸着し、成分Bによるウェーハ表面の腐食を抑制しつつ、ウェーハ表面へのパーティクルの付着を抑制するよう作用することができると考えられる。表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)をより低減できると考えられる。
さらに、本開示の研磨液組成物は、孔径0.2μmのPTFEフィルタの通液量が0.2g/sec・cm2以上である、又は、成分Dと成分Cとの質量比D/Cが所定の範囲内であることにより、シリコンウェーハ表面の濡れ性を担保しつつ、過度なエッチングを抑制することにより、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の両方を低減できると考えられる。
ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0016】
[シリカ粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物には、研磨材としてシリカ粒子(成分A)が含まれる。成分Aの具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が挙げられるが、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、コロイダルシリカが好ましい。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0017】
成分Aの使用形態としては、操作性の観点から、スラリー状が好ましい。本開示の研磨液組成物に含まれる成分Aがコロイダルシリカである場合、アルカリ金属やアルカリ土類金属等によるシリコンウェーハの汚染を防止する観点から、コロイダルシリカは、アルコキシシランの加水分解物から得たものであることが好ましい。アルコキシシランの加水分解物から得られるシリカ粒子は、従来から公知の方法によって作製できる。
【0018】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度の確保の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、そして、研磨速度の確保、並びに、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、40nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましい。より具体的には、成分Aの平均一次粒子径は、10nm以上40nm以下が好ましく、15nm以上35nm以下がより好ましく、15nm以上30nm以下が更に好ましく、20nm以上30nm以下が更に好ましい。特に、成分Aとしてコロイダルシリカを用いた場合、成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度の確保、並びに表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、40nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましい。
【0019】
本開示において、成分Aの平均一次粒子径は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて算出される。比表面積は、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。
【0020】
成分Aの会合度は、研磨速度の確保、並びに表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、そして、同様の観点から、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。成分Aがコロイダルシリカである場合、その会合度は、研磨速度の確保、並びに表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、そして、同様の観点から、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。
【0021】
本開示において、成分Aの会合度とは、シリカ粒子の形状を表す係数であり、下記式により算出される。平均二次粒子径は、動的光散乱法によって測定される値であり、例えば、実施例に記載の装置を用いて測定できる。
会合度=平均二次粒子径/平均一次粒子径
【0022】
成分Aの会合度の調整方法としては、例えば、特開平6-254383号公報、特開平11-214338号公報、特開平11-60232号公報、特開2005-060217号公報、特開2005-060219号公報等に記載の方法を採用することができる。
【0023】
成分Aの形状は、いわゆる球型及び/又はいわゆるマユ型であることが好ましい。
【0024】
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Aの含有量は、研磨速度の確保の観点から、SiO2換算で、0.01質量%以上が好ましく、0.07質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上が更に好ましく、そして、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下が更に好ましい。より具体的には、成分Aの含有量は、SiO2換算で、0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.07質量%以上0.3質量%以下がより好ましく、0.10質量%以上0.2質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せの場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0025】
[含窒素塩基性化合物(成分B)]
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Bは、含窒素塩基性化合物であり、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、水溶性の含窒素塩基性化合物であることが好ましい。本開示において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。本開示において、「水溶性の含窒素塩基性化合物」とは、水に溶解したとき、塩基性を示す含窒素化合物をいう。成分Bは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0026】
成分Bとしては、例えば、アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の含窒素塩基性化合物が挙げられる。アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の含窒素塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノ-ルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノ-ルアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、及び水酸化テトラメチルアンモニウムから選ばれる1種又は2種以上の組合せが挙げられる。本開示に係る研磨液組成物に含まれうる含窒素塩基性化合物としては、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減、保存安定性の向上、並びに研磨速度の確保の観点から、アンモニアが好ましい。
【0027】
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Bの含有量は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減、保存安定性の向上、並びに研磨速度の確保の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、そして、表面粗さ(ヘイズ)低減の観点から、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.025質量%以下が更に好ましい。より具体的には、成分Bの含有量は、0.001質量%以上0.1質量%以下が好ましく、0.005質量%以上0.05質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.025質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せの場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0028】
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Aと成分Bとの質量比(A/B)は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、0.1以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、そして、500以下が好ましく、100以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。より具体的には、質量比A/Bは、0.1以上500以下が好ましく、5以上100以下がより好ましく、10以上30以下が更に好ましい。
【0029】
[ポリエチレングリコール(成分C)]
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Cは、ポリエチレングリコールである。
成分Cの分子量は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、600以上が好ましく、800以上がより好ましく、1000以上が更に好ましく、そして、10000未満以下が好ましく、8000以下がより好ましく、6000以下が更に好ましく、3000以下が更に好ましく、2000以下が更に好ましく、1500以下が更に好ましい。より具体的には、成分Cの分子量は、600以上10000未満が好ましく、800以上8000以下が好ましく、1000以上6000以下が更に好ましく、1000以上2000以下が更に好ましく、1000以上1500以下が更に好ましい。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0030】
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Cの含有量は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、0.1質量ppm以上が好ましく、1.0質量ppm以上がより好ましく、3.0質量ppm以上が更に好ましく、そして、1000質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下が更に好ましい。より具体的には、成分Cの含有量は、0.1質量ppm以上1000質量ppm以下が好ましく、1.0質量ppm以上500質量ppm以下がより好ましく、3.0質量ppm以上100質量ppm以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せの場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0031】
[ポリエチレングリコール以外の水溶性高分子(成分D)]
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Dは、ポリエチレングリコール(成分C)以外の水溶性高分子である。本開示において「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度を有することをいい、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。成分Dは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0032】
成分Dは、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、下記式(I)で表される構成単位及び下記式(II)で表される構成単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0033】
【0034】
上記式(I)中、R1は、メチレン基(-CH2-)又は結合手であり、R2、R3、R4、R5はそれぞれ独立して、H(水素原子)、-OH(水酸基)、-CH2OH、又はポリビニルアルコールであるが、R2、R3、R4、R5が各々すべて同時にはH(水素原子)、-OH(水酸基)、又は-CH2OH、とはならない。
上記式(II)中、R6及びR7はそれぞれ独立して、水素原子、メチル基、フェニル基、ベンジル基又はヘキシル基であり、R8及びR9はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数が1~4のアルコキシ基、又はフェニル基であり、Xは、結合手、-CH2-、-C2H4-、又は-Ph-CH2-である。本開示において、「-Ph-」はフェニレン基を示す。
【0035】
前記式(I)で表される構成単位を有する水溶性高分子である成分Dとしては、一又は複数の実施形態において、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、ポリグリシドール、ポリグリシドール誘導体、ポリグリセリン及びポリグリセリン誘導体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ポリグリシドール誘導体としては、ポリ(1-メチルグリシドール)、ポリ(1-エチルグリシドール)、ポリ(1-プロピルグリシドール)、ポリ(1-ジメチルグリシドール)、ポリ(1-ジエチルグリシドール)、ポリ(1-ジプロピルグリシドール)、ポリ(3-フェニルグリシドール)等が挙げられる。ポリグリセリン誘導体としては、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリンジアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
前記式(II)で表される構成単位を有する水溶性高分子である成分Dとしては、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、ポリジメチルビニルホスホナート(ポリビニルリン)、ポリジエチルビニルホスホナート、ポリジイソプロピルホスホナート、ポリ-1-(ジメトキシホスフィニル)-1-メチルエテン、ポリ-1-(ジメトキシホスフィニル)1-1フェニルエテン、ポリ-1-(ジメトキシホスフィニル)-2-フェニルエテン、ポリジメチル-p-ビニルベンジルホスホナート、ポリジメチル-p-ビニルベンジルホスホナート、ポリジイソプロピル-p-ビニルベンジルホスホナート、ポリジフェニルビニルホスホナート、ポリ-2-(ジメトキシホスフィニル)-1-オクテン、ポリビニルリン酸等が挙げられる。
【0036】
成分Dの具体例としては、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、ポリビニルリン、ポリグリセリン、ポリグリセリンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0037】
前記式(I)で表される構成単位の供給源である単量体としては、例えば、1-メチルグリシドール、1-エチルグリシドール、1-プロピルグリシドール、1-ジメチルグリシドール、1-ジエチルグリシドール、1-ジプロピルグリシドール、3-フェニルグリシドール、グリセリンアルキルエーテル、グリセリンジアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせてよい。
前記式(II)で表される構成単位の供給源である単量体としては、例えば、ジメチルビニルホスホナート、ジエチルビニルホスホナート、ジイソプロピルホスホナート、1-(ジメトキシホスフィニル)-1-メチルエテン、1-(ジメトキシホスフィニル)1-1フェニルエテン、1-(ジメトキシホスフィニル)-2-フェニルエテン、ジメチル-p-ビニルベンジルホスホナート、ジメチル-p-ビニルベンジルホスホナート、ジイソプロピル-p-ビニルベンジルホスホナート、ジフェニルビニルホスホナート、2-(ジメトキシホスフィニル)-1-オクテン、ビニルリン酸等が挙げられる。これらは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0038】
成分Dが、ポリグリシドール、ポリグリシドール誘導体、ポリグリセリン及びポリグリセリン誘導体から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子である場合、成分Dの水酸基価は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)低減の観点から、600mgKOH/g以上が好ましく、620mgKOH/g以上がより好ましく、650mgKOH/g以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、850mgKOH/g以下が好ましく、800mgKOH/g以下がより好ましく、750mgKOH/g以下が更に好ましい。より具体的には、成分Dの水酸基価は、600mgKOH/g以上850mgKOH/g以下が好ましく、620mgKOH/g以上800mgKOH/g以下がより好ましく、650mgKOH/g以上750mgKOH/g以下が更に好ましい。水酸基価は、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。
【0039】
成分Dの重量平均分子量は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、2,500以上が更に好ましく、そして、15万以下が好ましく、8万以下がより好ましく、1万以下が更に好ましく、5,000以下が更に好ましく、4,000以下が更に好ましい。より具体的には、成分Dの重量平均分子量は、1,000以上15万以下が好ましく、2,000以上8万以下がより好ましく、2,000以上1万以下が更に好ましく、2,500以上4,000以下が更に好ましい。成分Dの重量平均分子量は後の実施例に記載の方法により測定される。
【0040】
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Dの含有量は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、成分Dの含有量は、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。成分Dが2種以上の組合せの場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0041】
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Aと成分Dとの質量比(A/D)は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、0.01以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、3.0以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、500以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。より具体的には、質量比A/Dは、0.01以上500以下が好ましく、1.0以上50以下がより好ましく、3.0以上20以下が更に好ましい。
【0042】
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Dと成分Cとの質量比(D/C)は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、7以上が好ましく、7.5以上がより好ましく、8以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、500未満が好ましく、400以下がより好ましく、100以下が更に好ましく、50以下が更に好ましく、30以下が更に好ましく、20以下が更に好ましい。より具体的には、質量比D/Cは、7以上500未満が好ましく、7.5以上400以下がより好ましく、8以上100以下が更に好ましく、8以上20以下が更に好ましい。
【0043】
[水(成分E)]
本開示の研磨液組成物に含まれる成分Eとしては、例えば、イオン交換水や超純水等の水が挙げられ、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、超純水が好ましい。本開示の研磨液組成物中の成分Eの含有量は、例えば、成分A、成分B、成分C、成分D及び後述する任意成分の残余とすることができる。
【0044】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分としては、一又は複数の実施形態において、成分C及び成分D以外の水溶性高分子、成分B以外のpH調整剤、防腐剤、アルコール類、キレート剤、酸化剤、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記その他の成分は、本開示の効果を損なわない範囲で研磨液組成物中に含有されることが好ましく、本開示の研磨液組成物中のその他の成分の含有量は、0質量%以上が好ましく、0質量%超がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0045】
成分C及び成分D以外の水溶性高分子としては、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、例えば、ポリオキシアルキレン化合物が挙げられる。ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコール等の成分C以外のアルキレングリコールアルキレンオキシド付加物;グリセリンアルキレンオキシド付加物;及びペンタエリスリトールアルキレンオキシド付加物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0046】
成分B以外のpH調整剤としては、例えば、酸性化合物及び成分B以外のアルカリが挙げられる。酸性化合物としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸;酢酸、シュウ酸、コハク酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸;から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。成分B以外のアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリが挙げられる。
【0047】
防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウムクロライド、ベンゼトニウムクロライド、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、(5-クロロ-)2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、過酸化水素、及び次亜塩素酸塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0048】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、2-メチル-2-プロパノオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びグリセリンから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0049】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、及びトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0050】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩;アルキルリン酸エステル等のリン酸エステル塩;から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0051】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン(硬化)ヒマシ油等のポリエチレングリコール型;ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド等の多価アルコール型;及び脂肪酸アルカノールアミド;から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0052】
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度の確保の観点から、9以上が好ましく、9.5以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、そして、12以下が好ましく、11.5以下がより好ましく、11以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物のpHは、9以上12以下が好ましく、9.5以上11.5以下がより好ましく、10以上11以下が更に好ましい。本開示の研磨液組成物のpHは、上述した成分Bや公知のpH調整剤を用いて調整できる。本開示において、上記pHは、25℃における研磨液組成物のpHであり、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM-30G)を用いて測定でき、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して1分後の数値とすることができる。
【0053】
本開示の研磨液組成物を孔径0.2μmのPTFEフィルタを用いて濾過圧力0.25MPaで濾過したときのフィルタ単位面積あたりの通液量は、0.2g/sec・cm2以上であり、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減の観点から、0.25g/sec・cm2以上がより好ましく、0.3g/sec・cm2以上が更に好ましく、0.35g/sec・cm2以上が更に好ましく、0.4g/sec・cm2以上が更に好ましく、0.45g/sec・cm2以上が更に好ましい。本開示における通液量は、一又は複数の実施形態において、フィルタが閉塞状態になるまでの通液量(g/sec・cm2)を示す。フィルタの閉塞状態は、一又は複数の実施形態において、研磨液組成物の通液が完全に停止した状態、又は、フィルタから通液される研磨液組成物の間隔が5秒以上になった状態を含む。本開示における通液量は、具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。本開示における通液量は、例えば、成分Dとして上述した式(I)で表される構成単位及び式(II)で表される構成単位の少なくとも一方を含む水溶性高分子を用いることにより0.2g/sec・cm2以上とすることができる。
【0054】
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A、成分B、成分C、成分D、及び成分Eと、さらに所望によりその他の成分とを公知の方法で配合することにより製造できる。すなわち、本開示は、その他の態様において、少なくとも成分A、成分B、成分C、成分D及び成分Eを配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分C、成分D及び成分E、並びに必要に応じてその他の成分を同時に又は任意の順に混合することを含む。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミル、又はビーズミル等の撹拌機等を用いて行うことができる。上記本開示の研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0055】
本開示において、「研磨液組成物中の各成分の含有量」は、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における各成分の含有量をいう。
【0056】
本開示の研磨液組成物は、貯蔵及び輸送の観点から、濃縮物として製造され、使用時に希釈されてもよい。希釈倍率としては、製造及び輸送コストの観点、保存安定性の観点から、2倍以上180倍以下が好ましい。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に各成分の含有量が、上述した含有量(すなわち、使用時の含有量)となるように水(成分E)で希釈して使用することができる。本開示において研磨液組成物の濃縮物の「使用時」とは、研磨液組成物の濃縮物が希釈された状態をいう。
【0057】
[被研磨シリコンウェーハ]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、シリコンウェーハ用研磨組成物であり、例えば、半導体基板の製造方法における、被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程や、被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程を含む研磨方法に用いられうる。本開示の研磨液組成物を用いて研磨される被研磨シリコンウェーハとしては、一又は複数の実施形態において、単結晶シリコンウェーハ又はポリシリコンウェーハが挙げられる。単結晶シリコンウェーハとしては、例えば、単結晶100面シリコンウェーハ、111面シリコンウェーハ、110面シリコンウェーハ等が挙げられる。また、前記シリコンウェーハの抵抗率としては、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)低減の観点から、好ましくは0.0001Ω・cm以上、より好ましくは0.001Ω・cm以上、更に好ましくは0.01Ω・cm以上、更に好ましくは0.1Ω・cm以上であり、そして、好ましくは100Ω・cm以下、より好ましくは50Ω・cm以下、更に好ましくは20Ω・cm以下である。
【0058】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程を含む、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の半導体基板製造方法によれば、本開示の研磨液組成物を用いることで、研磨されたシリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)を低減できるため、高品質の半導体基板を高収率で、生産性よく製造できる。
【0059】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程は、例えば、単結晶シリコンインゴットを薄円板状にスライスすることにより得られた単結晶シリコンウェーハを平面化するラッピング(粗研磨)工程と、ラッピング単結晶されたシリコンウェーハをエッチングした後、単結晶シリコンウェーハ表面を鏡面化する仕上げ研磨工程とを含むことができる。本開示の研磨液組成物は、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)低減の観点から、上記仕上げ研磨工程で用いられるとより好ましい。
【0060】
本開示の半導体基板製造方法は、被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程の前に、本開示の研磨液組成物の濃縮物を希釈する希釈工程を含んでいてもよい。希釈媒には、例えば、水(成分E)を用いることができる。
【0061】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨シリコンウェーハを挟み込み、3~20kPaの研磨圧力で被研磨シリコンウェーハを研磨することができる。本開示において、研磨圧力とは、研磨時に被研磨シリコンウェーハの被研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。
【0062】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨シリコンウェーハを挟み込み、15℃以上40℃以下の研磨液組成物及び研磨パッド表面温度で被研磨シリコンウェーハを研磨することができる。研磨液組成物の温度及び研磨パッド表面温度としては、ヘイズ及びLPDの低減の観点から、15℃以上又は20℃以上が好ましく、ヘイズ低減の観点から、40℃以下又は30℃以下が好ましい。
【0063】
本開示の半導体基板製造方法は、前記研磨工程の後に、研磨された被研磨シリコンウェーハを洗浄する工程を更に含むことができる。
【0064】
[研磨方法]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する研磨工程を含む、研磨方法(以下、[本開示の研磨方法]ともいう)に関する。本開示の研磨方法における研磨工程は、上述した本開示の半導体基板製造方法における研磨工程と同様にして行うことができる。本開示の研磨方法によれば、本開示の研磨液組成物を用いるため、研磨されたシリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)を低減できる。
【0065】
[研磨液キット]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を製造するための研磨液キット(以下、「本開示のキット」と略称する場合もある。)に関する。本開示のキットによれば、表面粗さ(ヘイズ)の低減及び表面欠陥(LPD)の低減を両立できる研磨液組成物が得られうる。
本開示のキットの一実施形態としては、成分A、成分B、成分C、成分D及び成分Eを含む溶液を含有する研磨液キットが挙げられる。前記溶液に含まれる水(成分E)は、研磨液組成物の調製に使用する水の全量でもよいし、一部でもよい。前記溶液は、一又は複数の実施形態において、使用時に、必要に応じて水(成分E)を用いて希釈される。前記溶液には、必要に応じて上述したその他の成分が含まれていてもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0067】
1.水溶性高分子D1~D16の調製
表1に示す水溶性高分子D1~D16を以下のようにして調製した。
D1:ポリビニルリン[丸善石油化学社製、ポリジメチルビニルホスホナート、重量平均分子量1,000]
D2:ポリビニルリン[丸善石油化学社製、ポリジメチルビニルホスホナート、重量平均分子量3,400]
D3:ポリグリセリン(20)[ダイセル社製、重合度20、重量平均分子量1,500]
D4:ポリグリセリン(40)[ダイセル社製の「XPW」、重合度40、重量平均分子量2,980]
D5:ポリグリセリン(50)[ダイセル社製、重合度50、重量平均分子量3,720]
D6:ポリグリセリン(80)[ダイセル社製、重合度80、重量平均分子量5,940]
D7:ポリグリセリン(100)[ダイセル社製、重合度100、重量平均分子量7,420]
D8:ポリグリセリン(20)ラウリルエーテル[ダイセル社製、重合度20、重量平均分子量2,600]
D9:下記のようにして合成した疎水変性ポリグリセリン (PG-BuGly)
D10:ポリビニルピロリドン(K-90)[富士フィルム和工純薬社製、重量平均分子量360,000]
D11:下記のようにして合成したHEAA単独重合体(pHEAA)
D12:HEC[ダイセル社製、SE400、重量平均分子量250,000]
D13:HEC[住友精化社製、CF-V、重量平均分子量800,000]
D14:PVA103[クラレ社製、重合度:300]
D15:PVA124[クラレ社製、重合度:2,400]
D16:ポリビニルピロリドン(K-30)[富士フィルム和工純薬社製、重量平均分子量40,000]
【0068】
[水溶性高分子D9(PG-BuGly)の合成例]
ジムロート冷却管、温度計及び三日月形テフロン(登録商標)製撹拌翼を備えた200mLセパラブルフラスコに、ポリグリセリン(40)30g(0.0101mol、ダイセル社製の「XPW」、重合度40、重量平均分子量2,980)を36.75gのジメチルホルムアミドに溶解し、さらに水酸化カリウム0.11g(0.02mol、東京化成工業社製)を投入した。次いで、オイルバスを用いてセパラブルフラスコ内の温度を130℃に昇温した後、2Torrの減圧条件下において、攪拌しながら脱水処理を30分間行った。次いで、攪拌しながらセパラブルフラスコ内の温度を80℃に降温した後、1-ブトキシ-2,3-エポキシプロパン6.64g(0.051mol、東京化成工業社製)を添加した後、反応溶液の温度及び攪拌を5時間保持した。反応終了後、酢酸0.12g(0.02mol、東京化成工業社製)を添加して中和処理を実施した後、100℃、2Torrの条件下において、溶媒留去を行った。次いで、カラムに陽イオン交換樹脂(イオン交換樹脂:三菱ケミカル製 DIAION SK1BH)を100ml充填し、反応終了物に対して、超純水を有効分濃度が20%になるように添加し、空間速度SV値が4.0となる条件でイオン交換処理することにより、カリウム含有量が1ppm以下の水溶性高分子D9(20質量%水溶液、重量平均分子量:3,240)を得た。
【0069】
[水溶性高分子D11(pHEAA)の合成例]
ヒドロキシエチルアクリルアミド150g(1.30mol、興人製)を100gのイオン交換水に溶解し、モノマー水溶液を調製した。また、別に、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド 0.035g(重合開始剤、「V-50」、1.30mmol、和光純薬製)を70gのイオン交換水に溶解し、重合開始剤水溶液を調製した。ジムロート冷却管、温度計及び三日月形テフロン(登録商標)製撹拌翼を備えた2Lセパラブルフラスコに、イオン交換水1,180gを投入した後、セパラブルフラスコ内を窒素置換した。次いで、オイルバスを用いてセパラブルフラスコ内の温度を68℃に昇温した後、予め調製した上記モノマー水溶液と上記重合開始剤水溶液を各々3.5時間かけて撹拌を行っているセパラブルフラスコ内に滴下した。滴下終了後、反応溶液の温度及び撹拌を4時間保持し、無色透明の10質量%ポリヒドロキシエチルアクリルアミド(pHEAA、重量平均分子量:700,000)水溶液1,500gを得た。
【0070】
2.研磨液組成物の調製
表1~3に示すシリカ粒子(成分A)、表1~3に示す含窒素塩基性化合物(成分B)、ポリエチレングリコール(成分C)又は非成分C、表1~3に示す水溶性高分子(成分D)及び超純水を撹拌混合して実施例1~17及び比較例1~9の研磨液組成物を得た。表1~3中の各成分の含有量は、研磨液組成物の使用時における各成分の含有量(質量%、有効分)である。超純水の含有量は、成分A、成分B、成分C又は非成分C、成分Dを除いた残余である。各研磨液組成物(使用時)の25℃におけるpHは、10.0であった。
【0071】
各研磨液組成物の調製に用いた成分A、成分B、成分C、非成分Cには下記のものを用いた。
(成分A)
A1:コロイダルシリカ[平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、会合度2.0]
A2:コロイダルシリカ[平均一次粒子径24nm、平均二次粒子径49nm、会合度2.0]
A3:コロイダルシリカ[平均一次粒子径16nm、平均二次粒子径26nm、会合度1.6]
(成分B)
アンモニア[28質量%アンモニア水、キシダ化学社製、試薬特級]
(成分C)
C1:ポリエチレングリコール[分子量1,000、日油社製、PEG#1000]
C2:ポリエチレングリコール[分子量2,000、日油社製、PEG#2000]
C3:ポリエチレングリコール[分子量6,000、日油社製、PEG#6000]
(非成分C)
C4:ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(EO-PO-EO)[分子量2,220、日油社製、プロノン#201]
【0072】
2.各種パラメーターの測定方法
(1)シリカ粒子(成分A)の平均一次粒子径の測定
成分Aの平均一次粒子径(nm)は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて下記式で算出した。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
【0073】
成分Aの比表面積Sは、下記の[前処理]をした後、測定サンプル約0.1gを測定セルに小数点以下4桁まで精量し、比表面積の測定直前に110℃の雰囲気下で30分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置「フローソーブIII2305」、島津製作所製)を用いて窒素吸着法(BET法)により測定した。
[前処理]
(a)スラリー状の成分Aを硝酸水溶液でpH2.5±0.1に調整する。
(b)pH2.5±0.1に調整されたスラリー状の成分Aをシャーレにとり150℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させる。
(c)乾燥後、得られた試料をメノウ乳鉢で細かく粉砕する。
(d)粉砕された試料を40℃のイオン交換水に懸濁させ、孔径1μmのメンブランフィルタで濾過する。
(e)フィルタ上の濾過物を20gのイオン交換水(40℃)で5回洗浄する。
(f)濾過物が付着したフィルタをシャーレにとり、110℃の雰囲気下で4時間乾燥させる。
(g)乾燥した濾過物(成分A)をフィルタ屑が混入しないようにとり、乳鉢で細かく粉砕して測定サンプルを得た。
【0074】
(2)シリカ粒子(成分A)の平均二次粒子径
成分Aの平均二次粒子径(nm)は、成分Aの濃度が0.25質量%となるように研磨材をイオン交換水に添加した後、得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、シスメックス社製)を用いて測定した。
【0075】
(3)水溶性高分子D1~16の重量平均分子量の測定
成分D1~16の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を下記の条件で適用して得たクロマトグラム中のピークに基づき算出した。
<水溶性高分子D1~D10、D12~D16の測定条件>
装置:HLC-8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:α-M+α-M(カチオン)
溶離液:0.15mol/L Na2SO4,1質量%酢酸,溶媒:水
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE-61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知のプルラン
<水溶性高分子D11(pHEAA)の測定条件>
装置:HLC-8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:GMPWXL+GMPWXL(アニオン)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE-61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
【0076】
(4)水溶性高分子(成分D)の水酸基価
成分Dの水酸基価は、JIS K 0070,AOCS Cd 13-60に準拠して行い、以下の操作を実施した後、下記計算式により求めた。
[操作方法]
(a)成分Dをアセチル化フラスコへ精密にはかりとる。
(b)3 mLのアセチル化試薬を、ピペットで正確に加える。
(c)アセチル化フラスコに小漏斗を乗せ、95~100℃のグリセリン浴にフラスコの底が約1cm浸かるようにして1時間反応させる。途中、時々振りまぜ反応を促進させる。
(d)室温まで放冷後、小漏斗から約1mLの水を駒込ピペットで加え、振り混ぜた後再びグリセリン浴に5分間浸け加水分解する。
(e)
室温まで放冷後、約30mLの中性エタノ-ルで、小漏斗及びフラスコの口部を洗い込み溶解する。
(f)0.5 mol/L アルコ-ル性水酸化カリウム標準溶液で滴定する。終点は無色から微紅色に変わった点とする。
(g)同時に、並行して空試験をおこなう。
[計算式]
水酸基価(OHV)(mgKOH/g)={[(B-A)×f×28.05]/[試料採取量(g)]} + 酸価(AV)
A:試料の滴定に要した0.5 mol/L アルコ-ル性水酸化カリウム標準溶液の使用量(mL)
B:空試験の滴定に要した0.5 mol/L アルコ-ル性水酸化カリウム標準溶液の使用量(mL)
f:0.5 mol/L アルコ-ル性水酸化カリウム標準溶液のファクタ-
【0077】
(5)フィルタ通液量の測定
各研磨液組成物を、エアー圧力0.25MPaの一定圧力の下で、所定のフィルタ[アドバンテック社製、親水性PTFE0.2μm(孔径)フィルタ、型式:25HP020AN]に通液させ、フィルタが閉塞するまでの通液量(g/sec・cm2)を測定した。なお、閉塞しない研磨液組成物については、フィルタから通液される研磨液組成物の間隔が5秒間隔になるまでの通液量をフィルタ通液量とした。
【0078】
3.研磨方法
各研磨液組成物について、それぞれ研磨直前にフィルタ(コンパクトカートリッジフィルタ「MCP-LX-C10S」、アドバンテック社製)にてろ過を行い、下記の研磨条件で下記のシリコンウェーハに対して仕上げ研磨を行った。当該仕上げ研磨に先立ってシリコンウェーハに対して市販の研磨液組成物を用いてあらかじめ粗研磨を実施した。粗研磨を終了し仕上げ研磨に供した単結晶シリコンウェーハのヘイズは、2~3ppmであり、ポリシリコンウェーハのヘイズは、3~5ppmであった。ヘイズは、KLA Tencor社製「Surfscan SP1-DLS」を用いて測定される暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値である。
<シリコンウェーハ>
単結晶シリコンウェーハ[直径200mmのシリコン片面鏡面ウェーハ、伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満]
ポリシリコンウェーハ[直径200mmのシリコン片面鏡面ウェーハ、伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満の上にSiO2膜を4400Å分プラズマCVD法により堆積させ、続いてポリシリコン膜を8000Å同じくプラズマCVD法により堆積させたウェーハ]
【0079】
<仕上げ研磨条件>
研磨機:片面8インチ研磨機「GRIND-X SPP600s」(岡本工作製)
研磨パッド:スエードパッド(東レ コーテックス社製、アスカー硬度:64、厚さ:1.37mm、ナップ長:450um、開口径:60um)
シリコンウェーハ研磨圧力:100g/cm2
定盤回転速度:60rpm
研磨時間:5分
研磨液組成物の供給速度:150g/cm2
研磨液組成物の温度:23℃
キャリア回転速度:62rpm
【0080】
4.洗浄方法
仕上げ研磨後、シリコンウェーハに対して、オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を下記のとおり行った。オゾン洗浄では、20ppmのオゾンを含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコンウェーハの中央に向かって3分間噴射した。このときオゾン水の温度は常温とした。次に希フッ酸洗浄を行った。希フッ酸洗浄では、0.5質量%のフッ化水素アンモニウム(特級、ナカライテクス株式会社)を含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコンウェーハの中央に向かって6秒間噴射した。上記オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を1セットとして計2セット行い、最後にスピン乾燥を行った。スピン乾燥では1,500rpmでシリコンウェーハを回転させた。
【0081】
5.シリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の評価
洗浄後のシリコンウェーハ表面の表面粗さ(ヘイズ)の評価には、表面粗さ測定装置「Surfscan SP1-DLS」(KLA Tencor社製)を用いて測定される、暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値(DWOヘイズ)を用いた。また、表面欠陥(LPD)は、Haze測定時に同時に測定され、シリコンウェーハ表面上の粒径が45nm以上のパーティクル数を測定することによって評価した。表面欠陥(LPD)の評価結果は、数値が小さいほど表面欠陥が少ないことを示す。また、ヘイズ(DWO)の数値は小さいほど、表面の平滑性が高いことを示す。表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の測定は、各々2枚のシリコンウェーハに対して行い、各々平均値を表1及び表2に示した。表1は、実施例1~16及び比較例1~8の研磨液組成物を用いて単結晶シリコンウェーハを研磨した場合の結果を示し、表2は、実施例17及び比較例9の研磨液組成物を用いてポリシリコンウェーハを研磨した場合の結果を示す。
【0082】
【0083】
表1に示されるように、実施例1~16の研磨液組成物は、比較例1~8の研磨液組成物に比べて、研磨された単結晶シリコンウェーハのヘイズ及びLPDの両方が低減されていた。
【0084】
【0085】
表2に示されるように、実施例17の研磨液組成物は、比較例9の研磨液組成物に比べて、研磨されたポリシリコンウェーハのヘイズ及びLPDの両方が低減されていた。
【0086】
さらに、実施例3~7、16及び比較例3に関して、上記DWOヘイズよりも高感度のDNNヘイズを測定し、表面粗さ(ヘイズ)を評価した。DNNヘイズは、DWOヘイズと同じ表面粗さ測定装置「Surfscan SP1-DLS」(KLA Tencor社製)を用い、測定モード[暗視野垂直入射、垂直検出チャンネル(DNN)での値]により測定される値である。測定結果を表3に示した。DNNヘイズの数値は小さいほど、表面の平滑性が高いことを示す。
また、実施例3~7、16及び比較例3に関して、測定機「Zygo New
View 7300」(Zygo Corporation社製)を用い、表面粗さ(二乗平均平方根:Rq)を測定した。測定結果を表3に示した。表面粗さRqの数値が小さいほど、表面の平滑性が高いことを示す。
【0087】
【0088】
表3に示されるように、実施例3~7、16の研磨液組成物は、通液性を確保しながら、シリコンウェーハ表面のヘイズ及びLPDの両方を低減でき、さらに表面粗さも良好であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示の研磨液組成物を用いれば、研磨されたシリコンウェーハ表面のヘイズ及びLPDの両方を低減できる。よって、本開示の研磨液組成物は、様々な半導体基板の製造過程で用いられる研磨液組成物として有用であり、なかでも、シリコンウェーハの仕上げ研磨用の研磨液組成物として有用である。