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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】防振ゴム用ゴム組成物および防振ゴム
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20231219BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231219BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231219BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/06
C08K3/36
C08K3/04
C09K3/00 P
F16F15/08 D
F16F15/08 W
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019227193
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021095488
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 芙茉
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105236(JP,A)
【文献】特開2015-089918(JP,A)
【文献】特開2017-210532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、ポリスチレンブタジエンゴムを10~30質量部、ならびに天然ゴムおよびポリイソプレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を40~90質量部含有する防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴムであって、
前記ポリスチレンブタジエンゴムのガラス転移温度が-15~20℃であり、
10℃以上の温度範囲でtanδのピークを示すことを特徴とする防振ゴム。
【請求項2】
前記ポリスチレンブタジエンゴムの質量平均分子量が20万以上である請求項1に記載の防振ゴム。
【請求項3】
前記防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、シリカを20~40質量部、およびカーボンブラックを5~15質量部含有する請求項1または2に記載の防振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振ゴム用ゴム組成物に関し、特に自動車用エンジンマウントなどの防振部材として好適に用いることができる防振ゴム用ゴム組成物および防振ゴムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両にはエンジンや車体の振動を吸収するために防振ゴムが用いられている。したがって、かかる防振ゴムにおいては、低動倍率化と高減衰化とが望まれている。
【0003】
下記特許文献1では、重量平均分子量が20万以下であり、かつガラス転移温度が-35℃以上のスチレン・ブタジエン系共重合ゴムを5~40重量部含有するゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-253056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術に関し、本発明者らが鋭意検討したところ、防振ゴムとした時の低動倍率化および高減衰化の両立が不十分であり、さらなる改良の余地があることが判明した。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、防振ゴムとした時の低動倍率化および高減衰化の両立が可能な防振ゴム用ゴム組成物、および該防振ゴム用ゴム組成物を原料として得られる防振ゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は下記の如き構成により解決し得る。すなわち本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、ポリスチレンブタジエンゴムを10~30質量部、ならびに天然ゴムおよびポリイソプレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を40~90質量部含有することを特徴とする防振ゴム用ゴム組成物に関する。
【0008】
上記防振ゴム用ゴム組成物において、前記ポリスチレンブタジエンゴムのガラス転移温度が-15~20℃であることが好ましい。
【0009】
上記防振ゴム用ゴム組成物において、前記ポリスチレンブタジエンゴムの質量平均分子量が20万以上であることが好ましい。
【0010】
上記防振ゴム用ゴム組成物において、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、シリカを20~40質量部、およびカーボンブラックを5~15質量部含有することが好ましい。
【0011】
また、本発明は前記いずれかに記載の防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形してなる防振ゴムに関する。前記記載の防振ゴムの中でも、10℃以上の温度範囲でtanδのピークを示す防振ゴムが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、ポリスチレンブタジエンゴムを10~30質量部、ならびに天然ゴムおよびポリイソプレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を40~90質量部含有する。このため、該防振ゴム用ゴム組成物を加硫成形して防振ゴムとした時、低動倍率化および高減衰化の両立が可能となる。本発明では、使用するポリスチレンブタジエンゴムのガラス転移温度が-15~20℃であり、さらに該ポリスチレンブタジエンゴムの質量平均分子量が20万以上である場合、特に防振ゴムとした時の減衰性が向上するため好ましい。
【0013】
本発明に係る防振ゴムは、低動倍率であり、かつ減衰性に優れるが、特に10℃以上の温度範囲でtanδのピークを示す加硫ゴムで構成される場合、例えば15Hzで測定した時の減衰性がさらに向上するため好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、ポリスチレンブタジエンゴムを10~30質量部、ならびに天然ゴムおよびポリイソプレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を40~90質量部含有する。
【0015】
本発明においては、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)として、ガラス転移温度(Tg)が-15~20℃であるもの、特には-10~20℃であるものを好適に使用可能である。Tgが前記範囲内であるSBRを使用することにより、加硫ゴムとした際のtanδのピークが10℃以上の温度範囲となる傾向があり、その結果、防振ゴムとした時の減衰性が特に向上する傾向がある。なお、本発明においては複数のゴム成分、具体的にはポリスチレンブタジエンゴムと、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種とを使用するため、加硫ゴムとした際のtanδのピークが複数観測される傾向があり、ポリスチレンブタジエンゴムに由来するtanδのピークは高温側で観測される傾向がある。本発明においては、ポリスチレンブタジエンゴムに由来するtanδのピークが10℃以上の温度範囲となる場合、防振ゴムとした時の減衰性が特に向上する傾向がある。
【0016】
さらに本発明においては、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)として、質量平均分子量が20万以上、より好ましくは100万以上であるものを使用した場合、防振ゴムとした時の低動倍率化および高減衰化の両立がよりバランス良く可能となるため好ましい。SBRの質量分子量の上限は特に限定されないが、ゴム混練時の加工性を考慮した場合、例えば200万以下であることが好ましい。またSBRとしては、ゴム組成物の加工性向上などの見地から、油展品を使用してもよい。
【0017】
さらに本発明においては、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、ポリスチレンブタジエンゴムを10~30質量部に加え、天然ゴム(NR)およびポリイソプレンゴム(IR)からなる群より選択される少なくとも1種を40~90質量部含有する。天然ゴム(NR)およびポリイソプレンゴム(IR)からなる群より選択される少なくとも1種を70~90質量部含有することが好ましい。本発明においては、SBR、NR、IRを所定の配合量で含有する場合、これら以外のゴム成分を含んでも良く、具体的には例えば、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、およびアクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系合成ゴム;臭素化ブチルゴム(BR-IIR)などのハロゲン化ブチルゴム;その他ポリウレタンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、およびクロロスルホン化ポリエチレンなどを含めた合成ゴム類などを含有してもよい。
【0018】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、シリカを含有することが好ましい。前記のとおり、本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物はSBRを含有するが、SBRを含有することにより加硫ゴムの動倍率が上昇する傾向があるところ、SBRの含有量を低く設計しつつ、シリカを含有することにより、加硫ゴムの動倍率の上昇を抑制することができる。シリカとしては特に限定されないが、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられ、特に含水珪酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。ゴム成分の全量を100質量部としたとき、シリカの配合量は20~40質量部であることが好ましい。
【0019】
本発明においてシリカを使用する場合、必要に応じてシランカップリング剤を使用してもよい。使用可能なカップリング剤の例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどを挙げられる。シランカップリング剤を使用する場合、その配合量は、シリカの配合量の3~15質量%、好ましくは5~10質量%でよい。
【0020】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、例えばSAF級(ASTMナンバーでN100番台)、ISAF級(同N200番台)、HAF級(同300番台)、FEF級(同N500番台)、GPF級(同N600番台)、SRF級(同700番台)など、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。本発明においては、シリカとカーボンブラックとを併用することが好ましく、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、シリカの配合量は20~40質量部としつつ、カーボンブラックの含有量を5~15質量部とすることが好ましい。
【0021】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物は、上記ゴム成分と共に、必要に応じてシリカ、カーボンブラック、シランカップリング剤、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0022】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物では、硫黄系加硫剤を含有することが好ましい。かかる硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0023】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用してもよい。
【0024】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用してもよい。
【0025】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物は、上記ゴム成分、必要に応じてシリカ、カーボンブラック、シランカップリング剤、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0026】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0027】
上記各成分を混練し、成形加工した後、加硫を行うことで、高減衰化された防振ゴムを製造することができる。加硫温度としては、例えば120~200℃が例示可能であり、140~180℃が好ましい。
【0028】
本実施形態に係る防振ゴム用途の具体例としては、エンジンマウント、ストラットマウント、ボディマウント、キャブマウント、メンバーマウント、デフマウントなどのマウント、サスペンションブッシュ、アームブッシュ、トルクブッシュなどのブッシュ、トーショナ ルダンパー、マフラーハンガー、ダンパープーリ、ダイナミックダンパーなどの各種自動車用防振ゴムが挙げられる。また自動車用以外にも、鉄道車両用防振ゴム、産業機械用防振ゴム、建築用免震ゴム、免震ゴム支承などの防振、免震ゴムに好適に用いることができる。
【実施例
【0029】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0030】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100質量部に対して、表1の配合処方に従い、実施例1~4および比較例1のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す。
【0031】
・天然ゴム(NR):RSS#3
・ポリスチレンブタジエンゴム-1(SBR-1)(溶液重合ポリスチレンブタジエンゴム、ガラス転移温度(Tg)=-10℃、質量平均分子量Mw=116万、37.5phr油展品)、商品名「SE6233」、住友化学社製
・ポリスチレンブタジエンゴム-2(SBR-2)(溶液重合ポリスチレンブタジエンゴム、ガラス転移温度(Tg)=-4℃、質量平均分子量Mw=120万、44.0phr油展品)、商品名「SE6529」、住友化学社製
・カーボンブラック:商品名「シーストV」、東海カーボン社製
・シリカ:商品名「ニップシールAQ」、東ソー・シリカ社製
・シランカップリング剤:商品名「NXT」、モメンティブ社製
・オイル:商品名NC140」、JX日鉱日石エネルギー
・ステアリン酸:商品名「工業用ステアリン酸」、花王社製
・酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛3種」、三井金属鉱業社製
・ワックス:商品名「OZOACE2701」、日本精鑞社製
・老化防止剤:商品名「ノクラック6C」、大内新興化学社製
・硫黄:商品名「5%オイル処理150メッシュ粉末品」、鶴見化学社製
・加硫促進剤1:商品名「ノクセラーTT」、大内新興化学社製
・加硫促進剤2:商品名「ノクセラーDM」、大内新興化学社製
・架橋助剤:商品名「BMI」、ケイアイ化学社製
【0032】
実施例1~4および比較例1
各ゴム組成物について、以下の条件で評価を行った。
【0033】
[減衰性]
所定の金型を使用し、各ゴム組成物を170℃×17分で加硫して得られた円柱形状(直径50mm、高さ25mm)の加硫ゴムサンプルについて、23±2℃、周波数15Hz、振幅±2%で振動させ、そのtanδを測定した。評価は、比較例1の結果を100として指数評価を行い、指数が大きいほど、加硫ゴムの減衰性が高く、優れることを意味する。結果を表1に示す。さらに、ポリスチレンブタジエンゴムに由来するtanδがピーク値を示した時の温度(SBR-tanδピーク値温度)を表1に示す。なお、比較例1についてはゴム成分としてポリスチレンブタジエンゴムを含まないため、ポリスチレンブタジエンゴムに由来するtanδピークが観測されなかった。
【0034】
[動倍率]
(静的バネ定数(Ks))
ゴムサンプル上下面に円柱状の金具(直径60mm、厚み6mm)の一対を接着剤を使用して接着し、テストピースを作製した。作製したテストピースを円柱軸方向に2回、5mm圧縮させた後、歪が復元する際の荷重たわみ曲線から、1.25mmおよび3.75mmのたわみ荷重を測定し、これらの値から静的バネ定数(Ks)(N/mm)を算出した。
(動的バネ定数(Kd))
静的バネ定数(Ks)を測定する際に使用したテストピースを円柱軸方向に2.5mm圧縮し、この2.5mm圧縮した位置を中心として、下方から100Hzの周波数で振幅0.05mmの定変位調和圧縮振動を与え、上方のロードセルにて動的加重を検出し、JIS-K 6394に準拠して動的バネ定数(Kd)(N/mm)を算出した。
(動倍率:Kd/Ks)
動倍率は、以下の式より算出した。
(動倍率)=(動的バネ定数(Kd))/(静的バネ定数(Ks))
評価は、比較例1の結果を100として指数評価を行い、指数が小さいほど、加硫ゴムの動倍率が低く、優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1の結果から、実施例1~4に係るゴム組成物の加硫ゴムは、低動倍率化および高減衰化の両立ができていることがわかる。