(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ギ酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/47 20060101AFI20231219BHJP
C07C 51/00 20060101ALI20231219BHJP
C07C 53/02 20060101ALI20231219BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20231219BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20231219BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C07C51/47
C07C51/00
C07C53/02
B01J31/24 Z
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019227277
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2019042918
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 広和
(72)【発明者】
【氏名】小竹 慎也
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502922(JP,A)
【文献】特表2010-521533(JP,A)
【文献】特開昭60-209260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/47
C07C 51/00
C07C 53/02
B01J 31/24
B01J 31/22
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸の製造方法であって、
溶媒と、前記溶媒に溶解された触媒とを含む溶液中で、前記溶媒に不溶なアミンの存在下、二酸化炭素と水素とを反応させ、生成した前記ギ酸を前記アミンに吸着させる第一の工程を含み、
前記触媒が、周期表第8族、第9族、及び第10族に属する金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有し、
前記アミンは、固体に固定化されたアミンである、
ギ酸の製造方法。
【請求項2】
更に、前記ギ酸を吸着したアミンと、前記触媒を含む溶液とを分離する第二の工程を含む、請求項1に記載のギ酸の製造方法。
【請求項3】
前記第二の工程で分離した前記触媒を含む溶液を、前記第一の工程で再利用する、請求項2に記載のギ酸の製造方法。
【請求項4】
更に、前記ギ酸を吸着したアミンを加熱し、前記ギ酸を回収する第三の工程を含む、請求項2又は3に記載のギ酸の製造方法。
【請求項5】
前記金属元素が、Ru、Ir、Fe、又はCoである、請求項1~4のいずれか一
項に記載のギ酸の製造方法。
【請求項6】
前記金属元素が、Ir又はRuである、請求項1~5のいずれか一項に記載のギ酸の製造方法。
【請求項7】
前記固体に固定化されたアミンが、ポリマーに固定化されたアミンである請求項1~6のいずれか一項に記載のギ酸の製造方法。
【請求項8】
前記アミンが固定されているポリマーが、ポリスチレンである請求項7に記載のギ酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化、化石燃料枯渇の問題などから、次世代エネルギーとして水素エネルギーに高い期待が寄せられている。
【0003】
そして、ギ酸は、脱水素化反応に必要なエネルギーが低く、簡便な取扱いが可能であるため、水素貯蔵材料として優れた化合物と考えられており注目されている。
ギ酸を水素貯蔵材料として用いるには、輸送コストの削減のため高濃度のギ酸溶液を得ることが必要である。また、ギ酸溶液からギ酸を高効率で分離・回収する必要がある。
【0004】
そこで、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)とから触媒の存在下でギ酸を製造する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、周期表の8、9または10族の元素、第三級アミンを含む触媒の存在下、水素化反応器中での二酸化炭素と水素との反応によるギ酸の製造方法が記載されている。また、非特許文献1には、固体に担持したアミンを用い、二酸化炭素と水素とから触媒の存在下で、ギ酸を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】RSC Adv.,2014,4,49995-50002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、液体のアミン相で生成したギ酸を水相に抽出する二相系の反応溶液を用いているため、ギ酸と触媒および溶媒との分離や抽出に煩雑な操作が必要であり、得られたギ酸水溶液からギ酸を回収するには多大なエネルギーを要するという問題がある。
また、非特許文献1に記載の技術においては、反応時間あたりのギ酸の生成量が少なく、ギ酸溶液の濃縮については検討がされていない。
【0008】
そこで、本発明は、ギ酸溶液を簡便な方法により高効率で濃縮し、ギ酸を高収率で回収し得るギ酸の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ギ酸溶液を簡便な方法により高効率で濃縮し、ギ酸を高収率で回収し得る製造方法を見出すことを目的として、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
〔1〕
ギ酸の製造方法であって、
溶媒と、前記溶媒に溶解された触媒とを含む溶液中で、前記溶媒に不溶なアミンの存在下、二酸化炭素と水素とを反応させ、生成した前記ギ酸を前記アミンに吸着させる第一の工程を含み、
前記触媒が、周期表第8族、第9族、及び第10族に属する金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有し、
前記アミンは、固体に固定化されたアミンである、
ギ酸の製造方法。
〔2〕
更に、前記ギ酸を吸着したアミンと、前記触媒を含む溶液とを分離する第二の工程を含む、〔1〕に記載のギ酸の製造方法。
〔3〕
前記第二の工程で分離した前記触媒を含む溶液を、前記第一の工程で再利用する、〔2〕に記載のギ酸の製造方法。
〔4〕
更に、前記ギ酸を吸着したアミンを加熱し、前記ギ酸を回収する第三の工程を含む、〔2〕又は〔3〕に記載のギ酸の製造方法。
〔5〕
前記金属元素が、Ru、Ir、Fe、又はCoである、〔1〕~〔4〕のいずれか一稿に記載のギ酸の製造方法。
〔6〕
前記金属元素が、Ir又はRuである、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のギ酸の製造方法。
〔7〕
前記固体に固定化されたアミンが、ポリマーに固定化されたアミンである〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載のギ酸の製造方法。
〔8〕
前記アミンが固定されているポリマーが、ポリスチレンである〔7〕に記載のギ酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ギ酸溶液を簡便な方法により高効率で濃縮し、ギ酸を高収率で回収し得るギ酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本発明の実施形態に係るギ酸の製造方法は、溶媒と、前記溶媒に溶解された触媒とを含む溶液中で、前記溶媒に不溶なアミンの存在下、二酸化炭素と水素とを反応させ、生成した前記ギ酸を前記アミンに吸着させる第一の工程を含み、
前記触媒が、周期表第8族、第9族、及び第10族に属する金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有し、
前記アミンは、固体に固定化されたアミンである。
本発明の実施形態に係るギ酸の製造方法は、更に、反応溶液を、ギ酸を吸着したアミンと、触媒を含む溶液とに分離する第二の工程を含むことが好ましい。
また、本発明の実施形態に係るギ酸の製造方法は、更に、ギ酸を吸着したアミンを加熱し、ギ酸を回収する第三の工程を含むことが好ましい。
【0013】
〔第一の工程〕
第一の工程は、溶媒と、前記溶媒に溶解された触媒とを含む溶液中で、前記溶媒に不溶なアミンの存在下、二酸化炭素と水素とを反応させ、生成した前記ギ酸を前記アミンに吸着させる工程である。この工程により、反応溶液中に生成したギ酸が、溶媒に不溶のアミンに吸着される。触媒は溶媒に溶解しており、アミンは固体に固定化されているため、ギ酸を吸着したアミンと、触媒を含む溶液とを簡便な方法により分離することができる。
【0014】
(触媒)
本発明の実施形態に用いる触媒は、周期表第8族、第9族、及び第10族に属する金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素(以下単に金属元素と称する場合がある)を含有する。金属元素としては、具体的には、Fe、Ru、Os、Hs、Co、Ir、Mt、Ni、Pd、Pt、Dsが挙げられるが、触媒性能の観点からRu、Ir、Fe及びCoが好ましく、Ru及びIrがより好ましい。
【0015】
第一の工程は、溶媒に溶解された触媒を含む溶液中で行う必要があるため、本発明の実施形態に用いる触媒は、水や有機溶媒等に溶解するものが好ましく、金属元素を含有する化合物(金属元素化合物)であることがより好ましい。
金属元素化合物としては、金属元素の、水素化塩、酸化物塩、ハロゲン化物塩(塩化物塩など)、水酸化物塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、ハロゲン酸塩、過ハロゲン酸塩、亜ハロゲン酸塩、次亜ハロゲン酸塩、およびチオシアン酸塩などの無機酸との塩;アルコキシド塩、カルボン酸塩(酢酸塩、(メタ)アクリル酸塩など)、およびスルホン酸塩(トリフルオロメタンスルホン酸塩など)などの有機酸との塩;アミド塩、スルホンアミド塩、およびスルホンイミド塩(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩など)などの有機塩基との塩;アセチルアセトン塩、ヘキサフルオロアセチルアセトン塩、ポルフィリン塩、フタロシアニン塩、およびシクロペンタジエン塩などの錯塩;鎖状アミン、環状アミン、芳香族アミンなどを含む窒素化合物、リン化合物、リン及び窒素を含む化合物、硫黄化合物、一酸化炭素、二酸化炭素、および水などのうちの一つあるいは複数を含む錯体又は塩が挙げられる。これらの化合物は、水和物および無水物のいずれでもよく、特に限定されない。これらの中でも、ギ酸の生成効率をより高めることができる点から、ハロゲン化物塩、リン化合物を含む錯体、窒素化合物を含む錯体、並びにリン及び窒素を含む化合物を含む錯体又は塩が好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
金属元素化合物は、市販されているものを使用することができ、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。公知の方法としては、例えば、特開2008-184398号公報に記載の方法や、Angew.Chem.Int.Ed.2010,49,1468-1471に記載の方法等を用いることができる。
【0017】
触媒の使用量は、ギ酸を製造できる限り、特に限定されない。触媒として、金属元素化合物を用いる場合、金属元素化合物の使用量は、触媒機能を十分に発現させるために、溶媒1Lに対し0.1μmol以上であることが好ましく、0.5μmol以上であることがより好ましく、1μmol以上であることがさらに好ましい。また、コストの観点から1mol以下であることが好ましく、10mmol以下であることがより好ましく、1mmol以下であることがさらに好ましい。なお、金属元素化合物を2種以上用いる場合、それらの合計の使用量が上記範囲内であればよい。
【0018】
(溶媒)
本発明の実施形態に係る溶媒としては、触媒を溶解して均一となる溶媒であればよく、特に制限は無いが、水、メタノール、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、及びこれらの混合溶媒等が挙げられ、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、テトラヒドロフラン又は水を含むことが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミド、又は水であることがより好ましい。
【0019】
(アミン)
本発明の実施形態に係るギ酸の製造方法においては、固体に固定化されたアミンを用いる。また、アミンは、溶媒と、前記溶媒に溶解された触媒とを含む溶液中で、前記溶媒に不溶なアミンである必要がある。すなわち、第一の工程に用いる触媒を溶解した溶液中で不溶のアミンである必要がある。
ここで、「固定化される」とは、アミンが、固体と結合して不溶又は不動化された状態になることをいい、また、アミンが、固体に付着している状態とする「担持」も含まれる。
固体としては、第一の工程に用いる触媒を溶解した溶液中で不溶であり、好ましくは水や有機溶媒などに不溶であり、固体表面にアミンが固定化できるものであれば特に制限されない。固体は、固定化されたアミンが固体の表面に直接、またはスペーサー基を介して結合し得るものが好ましく、アミンと化学結合可能な官能基を有するものがより好ましい。
固体として、具体的には、多孔質粒子、ポリマー、および金属酸化物などを挙げることができ、アミン官能基を多く設定できる観点から、好ましくはポリマーである。
多孔質粒子としては、活性炭、シリカゲル等が挙げられる。
ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられ、アミン官能基の導入が容易である、ポリスチレン、ポリエチレン等が好ましく、ポリスチレンがより好ましい。
金属酸化物としては、アルミナ等が挙げられる。
【0020】
アミンの種類および構造は、特に限定されないが、より詳細には、無機アミンおよび有機アミン(脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミン、アミジン、グアニジンなど)などを挙げることができる。
固体に固定化されたアミンとしては、具体的には、例えば、アンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1-メチルイミダゾール、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、アルカノール-8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBUOH)1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(MTBD)等のアミンを固体に固定化した化合物などが挙げられる。これらの中でも、ギ酸の収率をより高めることができる点から、DMAP、DBU、DBN、TBD、又はMTBDを固体に固定化したものが好ましく、ギ酸と触媒とがろ過だけで分離でき、蒸留の際に回収しやすいため、ポリスチレンに固定したDMAP(PS-DMAP)又はポリスチレンに固定したDBU(PS-DBU)がさらに好ましい。
【0021】
アミンは、市販されているものを使用することもでき、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
アミンの使用量は、特に限定されないが、生成したギ酸を効率よく回収する観点から、溶媒1Lに対して、窒素原子量で、5mmol以上であることが好ましく、25mmol以上であることがより好ましく、50mmol以上であることがさらに好ましい。また、アミンの使用量は、コストの観点から溶媒1Lに対して、窒素原子量で、50mol以下であることが好ましく、25mol以下であることがより好ましく、5mol以下であることがさらに好ましい。
ここで、窒素原子量とは、アミン中に含まれる窒素原子の量をいい、例えば、DMAPやDBUの場合は、アミン官能基一つにつき窒素原子が2つ含まれる。
なお、アミンを2種以上用いる場合、それらの合計の使用量が上記範囲内であればよい。
【0023】
(二酸化炭素及び水素)
本発明の実施形態に用いられる水素としては、水素ガスボンベおよび液体水素のいずれをも利用できる。水素供給源としては、例えば、製鉄の製錬過程で発生する水素や、曹達製造過程で発生する水素等を用いることができる。また、水の電気分解から発生する水素を活用することもできる。
本発明の実施形態に用いられる二酸化炭素としては、二酸化炭素ガスボンベ、液体二酸化炭素、超臨界二酸化炭素およびドライアイス等を用いることができる。
水素ガスと二酸化炭素ガスは、反応系に、それぞれ単独で導入しても、混合ガスとして導入してもよい。
水素と二酸化炭素との使用割合は、モル基準で同量あるいは水素が過剰の方が好ましい。
本発明の実施形態に係るギ酸の製造方法に用いられる水素として、水素ボンベを用いる場合にその圧力は反応性を十分に確保する観点から0.1MPa以上であることが好ましく、0.2MPa以上であることがより好ましく、0.5MPa以上であることがさらに好ましい。また、設備が大きくなりやすいことから50MPa以下であることが好ましく、20MPa以下であることがより好ましく、10MPa以下であることがさらに好ましい。
また、本発明の実施形態に係るギ酸の製造方法に用いられる二酸化炭素の圧力は反応性を十分に確保する観点から0.1MPa以上であることが好ましく、0.2MPa以上であることがより好ましく、0.5MPa以上であることがさらに好ましい。また、設備が大きくなりやすいことから50MPa以下であることが好ましく、20MPa以下であることがより好ましく、10MPa以下であることがさらに好ましい。
【0024】
(反応条件)
本発明の実施形態に係るギ酸の製造方法における反応条件は、特に限定されず、反応過程で反応条件を適宜変更することもできる。反応に用いる反応容器の形態は、特に限定されない。
反応温度は、特に限定されないが、反応を効率よく進行させるため、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。また、エネルギー効率の観点から200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。
【0025】
反応時間は、特に限定されないが、例えば、ギ酸生成量を十分に確保する観点から0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、2時間以上であることがさらに好ましい。また、コストの観点から24時間以下であることが好ましく、12時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましい。
【0026】
反応に用いる二酸化炭素及び水素や触媒、溶媒などの反応容器内への導入方法については、特に制限されないが、すべての原料などを一括で導入してもよく、一部またはすべての原料などを段階的に導入してもよく、一部またはすべての原料などを連続的に導入してもよい。また、これらの方法を組み合わせた導入方法でもよい。
【0027】
〔第二の工程〕
本発明の実施形態に係る第二の工程は、第一の工程におけるギ酸を吸着したアミンと、触媒を含む溶液とを分離する工程である。すなわち固液分離を行う工程である。第一の工程において、ギ酸を吸着させるアミンとして、固体に固定化されたアミンを用いるため、分離操作として簡便な固液分離により、触媒を含む溶液と、ギ酸を吸着したアミンとを分離できる。
第二の工程により分離した触媒を含む溶液には、触媒と溶媒が含まれている。
分離工程には、特に制限はなく、公知の固液分離手段を用いることができる。例えば、フィルターを用いた濾過、遠心分離及びデカンテーションなどが挙げられる。
【0028】
第二の工程で分離した触媒を含む溶液(触媒溶液)は、第一の工程における反応溶液として、第一の工程で再利用することができる。触媒は通常、耐久性が低く、ギ酸生成後の精製などの後処理の際に触媒活性の維持が難しいが、第一の工程において用いるアミンが、固体に固定化されたアミンであるため、生成したギ酸と触媒との分離が容易であり、触媒活性の低下を防止することができ、再利用が可能となった。
第二の工程で分離した触媒溶液を再利用する際は、第一工程でロスした原材料を補充することが好ましい。
第一の工程に用いる溶液中、第二の工程で分離した触媒溶液を用いる割合としては、特に限定はなく、一部を第二の工程で分離した触媒溶液としてもよく、全てを第二の工程で分離した触媒溶液としてもよいが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、触媒コストの観点からできるだけ多いことが望ましい。
【0029】
〔第三の工程〕
また、本発明の実施形態に係る第三の工程は、ギ酸を吸着したアミンを加熱し、ギ酸を回収する工程である。
ギ酸を吸着したアミンを加熱することにより、ギ酸とアミンとの塩が分解し、ギ酸を主成分とする混合物として回収することができる。
ギ酸を吸着したアミンは、ギ酸を吸着した際に溶媒によって膨潤するため、固液分離後にも、溶媒を含んでいる。
熱処理の温度及び圧力は特に限定されず、温度及び圧力を調整することにより、ギ酸吸着工程における溶媒を主成分とする混合物と、ギ酸を主成分とする混合物を分取でき、アミンを固定化したポリマーが加熱炉に残る。
【0030】
ギ酸吸着工程における溶媒を主成分とする混合物を分取するには、熱処理の温度はギ酸を効率よく回収する観点から100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。また、固体アミンの耐熱性の観点から220℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましい。
熱処理における圧力はギ酸を効率よく回収する観点から0.1mmHg以上であることが好ましく、0.5mmHg以上であることがより好ましく、1mmHg以上であることがさらに好ましい。また、300mmHg以下であることが好ましく、250mmHg以下であることがより好ましく、200mmHg以下であることがさらに好ましい。
分取したアミンを主成分とする混合物を、公知の方法により精製することによりアミンを第一の工程に再利用してもよい。
【0031】
ギ酸を主成分とする混合物を分取するには、熱処理の温度はギ酸を効率よく回収する観点から60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。また、ギ酸を分解させない観点から200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。
熱処理における圧力はギ酸回収効率の観点から100mmHg以下であることが好ましく、10mmHg以下であることがより好ましい。
加熱炉に残ったアミンを固定化したポリマーを第一の工程に再利用してもよい。
【0032】
熱処理の時間は、例えば、温度が前記の範囲であれば、0.5時間以上24時間以下とすることが好ましく、1時間以上12時間以下とすることが更に好ましく、1時間以上6時間以下とすることがさらに好ましい。
熱処理における雰囲気は、特に限定はなく、空気下で行うことができる。
【0033】
本実施形態の方法によれば、反応溶液中に生成したギ酸を触媒と簡便な操作により分離でき、高価な触媒を再利用することができる。また、反応溶液から抽出や蒸留等の操作によりギ酸溶液を濃縮するよりも、はるかに効率良くギ酸溶液を濃縮することができる。
【0034】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
〔触媒の合成〕
(合成例1)Ru触媒の合成
Angew.Chem.Int.Ed.2010,49,1468-1471に記載の化合物4bの合成方法を参考に、下記の操作によりRu触媒を合成した。
アルゴン環境下、50mLシュレンクに、[RuHCl(PPh3)3(CO)](和光純薬 Code 030-21721)95.3mg、2,6-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノメチル)ピリジン(2,6-bis(di-tert-butylphosphinomethyl)pyridine)(ABCR Code AB249204) 40.0mg、THF(テトラヒドロフラン、安定剤不含,脱酸素,和光純薬 Code 206-18531)5.0mLを投入した。
65℃のオイルバスに投入し、3時間反応を行った後、室温(25℃)に冷却した。
生成した沈殿物をろ過し、ろ液をエバポレーターにて溶媒留去した。
得られた黄色液体を極小量のTHFに溶かし、ヘキサンで再結晶することにより、黄色の結晶(Ru触媒)を得た。
【0036】
(合成例2)Ir触媒の合成
特開2008-184398号公報に記載の参考例1の方法により[Cp*Ir(H2O)3](SO4)を製造した。水(12ml)中Ag2SO4(1.05g)および[Cp*IrCl2]2(1.34g)の混合物を室温で12時間攪拌し、次いで、濾過してAgClを除去した。溶媒をエバポレーターにより減圧留去して、黄色固体の目的物([Cp*Ir(H2O)3](SO4))を得た。
【0037】
上記で得られた[Cp*Ir(H2O)3](SO4) 2.39g、4-ヒドロキシ-ピリジン-2-カルボン酸メチルアミド(4-Hydroxy-pyridine-2-carboxylic acid methylamide)(J&W Pharm Code 69R0942)0.76g、水50mLを混合し、室温(25℃)で12時間撹拌した。エバポレーターで水を留去することで黄色の粉末を得た。上記粉末を極少量のメタノールに溶かし、酢酸エチルにて再沈殿することにより、目的生成物(Ir触媒)を得た。
【0038】
〔ギ酸の製造〕
〔実施例1〕
合成例1で得たRu触媒 2.5mgをジメチルホルムアミド(DMF 和光純薬 Code 045-32365) 20mLに溶解させた。上記触媒溶液を1.0mLとり、ジメチルホルムアミド 99.0mLで希釈することにより、100倍に希釈した。希釈した触媒溶液を20mLと、スチレンポリマー担持型の4-(ジメチルアミノ)ピリジン(Aldrich Code 359882)(PS-DMAP)1.09gとを耐圧容器に入れた。モル比でCO2/H2=1/1の混合ガスを入れ、0.4MPaの圧力に設定した。80℃で1時間加熱撹拌し反応させた。
反応後、減圧ろ過によって、液相と固体に分離した。液相は10倍量の水で希釈することで、HPLC分析を行い、ギ酸生成量のうち液相に存在するギ酸量、すなわち液中ギ酸量(mg)を定量し、さらに、反応後の触媒溶液中のギ酸濃度(%)(液中ギ酸濃度)を算出した。固体は、100倍量の0.6%リン酸水溶液に浸漬させ、溶出したギ酸量についてHPLC分析を行うことで、ポリマーへのギ酸吸着量(mg)を定量し、ポリマーへのギ酸吸着率(%)及びポリマー中のギ酸濃度(%)を算出した。
【0039】
HPLCは以下の条件により行った。定量用標準物質にはギ酸(和光純薬製)濃度が0.001~1質量%となるよう調整したギ酸水溶液を用いた。
装置:LC-MS2010EV(島津製作所製)
カラム:YMC-Triart C18(3.0mmΦ×15cm,平均粒径5μm,平均細孔径12nm)
カラム温度:37℃
移動相:A液 0.1%H3PO4:アセトニトリル=95:5(体積比),
B液 アセトニトリル
グラジエント条件:0~5分,B液0%(ホールド)→5~5.01分,B液0~95%(グラジエント)→5.01~10分,B液95%(ホールド)→10~10.01分,B液95~0%(グラジエント)→10.01~20分,B液0%(ホールド)
流速:0.425mL/min
検出:UV210nm
【0040】
上記で液相と分離した固体をフラスコに入れた。100mmHg、120℃に設定し、固体からまずDMFを主成分とした混合物を分取した。その後、10mmHg、170℃に設定し、ギ酸を主成分とする混合物を分取した。
上記ギ酸を主成分とする混合物におけるギ酸濃度(第三の工程におけるギ酸濃度(%))をHPLCにより測定し、第三の工程におけるギ酸回収率(%)を算出した。
得られた混合物を減圧下蒸留することにより高濃度のギ酸を得た。
まず常圧下100℃に設定することで、少量含まれる水をまず留去させた。その後、圧力10mmHg、温度170℃に設定することで、高濃度のギ酸溶液を得た。
上記ギ酸溶液におけるギ酸濃度をHPLCにより測定し、ギ酸総回収率(%)を算出した。ギ酸総回収率(%)は、下記の式により算出した。
ギ酸総回収率(%)=水素化でのポリマーへのギ酸吸着率×第三の工程におけるギ酸回収率
【0041】
〔実施例2〕
ポリマー担持型の4-(ジメチルアミノ)ピリジンの使用量を2.00gに変更した以外は実施例1と同様にして、ギ酸を製造し、ギ酸総回収率を算出した。
【0042】
〔実施例3〕
ポリマー担持型の4-(ジメチルアミノ)ピリジンの使用量を4.00gに変更した以外は実施例1と同様にして、ギ酸を製造し、ギ酸総回収率を算出した。
【0043】
〔実施例4〕
ポリマー担持型の4-(ジメチルアミノ)ピリジン1.09gをスチレンポリマー担持型の1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene,polymer-bound)(Aldrich Code 595128)(PS-DBU)1.0gに変更した以外は実施例1と同様にして、ギ酸を製造し、ギ酸総回収率を算出した。
【0044】
〔実施例5〕
ポリマー担持型の4-(ジメチルアミノ)ピリジン1.09gをシリカ担持型のアルカノール-8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBUOH-Sillca)1.0gに変更した以外は実施例1と同様にして、ギ酸を製造し、ギ酸総回収率を算出した。
【0045】
〔実施例6〕
合成例2で得たIr触媒 3.0mgを水20mLに溶解させた。スチレンポリマー担持型の4-(ジメチルアミノ)ピリジン(Aldrich Code 359882)(PS-DMAP) 1.09gとともに耐圧容器に入れた。CO2/H2=1/1の混合ガスを入れ、0.4MPaの圧力に設定した。50℃で3時間加熱撹拌を行った。反応後、減圧ろ過によって、液相と固体に分離した。液相は10倍量の水で希釈することで、HPLC分析を行い、ギ酸量について定量した。固体は、100倍量の2%塩酸水溶液に浸漬させ、溶出したギ酸量をHPLC分析を行うことで、ギ酸吸着量を定量した。
【0046】
上記で液相と分離した固体をフラスコに入れた。200mmHg、100℃に設定し、固体からまず水を主成分とした混合物を分取した。その後、10mmHg、170℃に設定し、ギ酸を主成分とする混合物を分取した以外は実施例1と同様にして、ギ酸総回収率を算出した。
【0047】
〔実施例7〕
スチレンポリマー担持型の4-(ジメチルアミノ)ピリジン1.09ggをスチレンポリマー担持型の1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene,polymer-bound)(Aldrich Code 595128)(PS-DBU)2.0gに変更した以外は実施例6と同様にして、ギ酸を製造し、ギ酸総回収率を算出した。
【0048】
〔実施例8〕
実施例2を行った後に、固体アミンを濾別して回収した触媒溶液14mLを耐圧容器に入れ、スチレンポリマー担持型の4-(ジメチルアミノ)ピリジン(PS-DMAP)を2.00g投入し、CO2/H2=1/1の混合ガスを入れ、0.4MPaの圧力に設定した。80℃で1時間加熱撹拌し反応させてギ酸を製造し、実施例1と同様にギ酸総回収率を算出した。これにより、触媒溶液を再利用できることを明らかにした。
【0049】
〔比較例1〕
合成例1で得たRu触媒 2.5mg、1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene(DBU TCI Code D1270) 1.69gを、DMF20mLに溶解させた。希釈溶液として、1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene(DBU TCI Code D1270) 8.45g、DMF100mLを混合したものを準備した。触媒溶液を、上記希釈溶液で100倍に希釈した。上記希釈触媒溶液を20mL耐圧容器に入れた。CO2/H2=1/1の混合ガスを入れ、0.4MPaの圧力に設定した。反応温度80℃で1時間加熱撹拌を行った。反応後の触媒溶液を20%塩酸水溶液で10倍希釈し、HPLC分析を行い、反応後の触媒溶液中のギ酸量を定量した。
得られた触媒溶液は、ギ酸と溶媒が共沸するため濃縮ができず、ギ酸回収量及びギ酸総回収率が求められなかった。
【0050】
〔比較例2〕
反応温度を50℃に変更した以外は比較例1と同様にして、ギ酸を製造した。
得られた触媒溶液は、ギ酸と溶媒が共沸するため濃縮ができず、ギ酸回収量及びギ酸総回収率が求められなかった。
【0051】
〔比較例3〕
合成例2で得たIr触媒 3.0mgを、2mol/L 炭酸水素カリウム水溶液20mLに溶解させた。上記希釈触媒溶液を20mL耐圧容器に入れた。CO2/H2=1/1の混合ガスを入れ、0.4MPaの圧力に設定した。50℃で3時間加熱撹拌を行った。反応後の触媒溶液を20%塩酸水溶液で10倍希釈し、HPLC分析を行い、ギ酸量を定量した。
得られた触媒溶液は、ギ酸と溶媒が共沸するため濃縮ができず、ギ酸回収量及びギ酸総回収率が求められなかった。
【0052】
上記実施例及び比較例について表1に記載する。
表中のTOF(TurnOver Frequency)は、使用した触媒のモル量に対して、1時間あたりに発生したギ酸あるいはギ酸塩のモル量を示す。
【0053】
【0054】
実施例1~7は、第一の工程で固体に固定化されたアミンを用いたことにより、簡便な方法によりギ酸を吸着したアミンと、触媒を含む溶液とを分離できた。
表1から分かるように、実施例1~7は、生成したギ酸を、触媒を含む溶液と分離することで、高濃度のギ酸混合液として回収でき、蒸留によりさらに濃縮することができるため、総合ギ酸回収率が高い。また、実施例8は、実施例2で固体アミンを濾別して回収した触媒溶液を用いた結果、実施例2と同等のギ酸総回収率が得られ、触媒溶液が再利用できることを明らかにした。
一方、比較例1~3は、生成したギ酸を液状のアミンで抽出するため、得られたギ酸溶液はギ酸と溶媒が共沸し、蒸留による濃縮ができなかった。