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特許7405597ポリマー粒子及びその製造方法、並びにゴム組成物及びタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ポリマー粒子及びその製造方法、並びにゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/10 20060101AFI20231219BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20231219BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20231219BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20231219BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20231219BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20231219BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08F20/10
C08L33/04
C08L9/00
C08K5/11
C08K5/12
C08K5/521
C08F2/22
C08F2/44 Z
B60C1/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019228500
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021095527
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福西 智史
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-247105(JP,A)
【文献】特開2000-074894(JP,A)
【文献】特開平08-231907(JP,A)
【文献】特開2009-029951(JP,A)
【文献】特開昭60-223840(JP,A)
【文献】特開2018-095734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/10
C08L 33/04
C08L 9/00
C08K 5/11
C08K 5/12
C08K 5/521
C08F 2/22
C08F 2/44
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位を有する(メタ)アクリレート系重合体からなる、化学的に架橋されたポリマー粒子であって、流動点が-100℃以上-10℃以下の可塑剤を内部に有し、ガラス転移点が-70℃以上0℃以下であり、かつ平均粒径が10~100nmであり、前記可塑剤の含有量が前記(メタ)アクリレート系重合体100質量部に対して5~100質量部である、ゴム組成物配合用ポリマー粒子。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数4~18のアルキル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記可塑剤の30℃での粘度が2~500mPa・sである、請求項に記載のゴム組成物配合用ポリマー粒子。
【請求項3】
前記可塑剤が、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、リン酸エステル、及びトリメリット酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のゴム組成物配合用ポリマー粒子。
【請求項4】
ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物配合用ポリマー粒子を1~100質量部含む、ゴム組成物。
【請求項5】
請求項に記載のゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー粒子及びその製造方法に関し、また、該ポリマー粒子を用いたゴム組成物及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のタイヤにおいては、湿潤路面におけるグリップ性能(ウェットグリップ性能)と低燃費性に寄与する転がり抵抗性能を同時に改良することが求められている。しかしながら、ゴム組成物において、ウェットグリップ性能の指標としての0℃でのtanδの増大と転がり抵抗性能の指標としての60℃でのtanδの低下は背反特性であるため、同時に改良することは難しい。そのため、かかる背反する粘弾性特性を改良することが求められる。
【0003】
特許文献1には、タイヤの転動抵抗を実質的に悪化させずにウェットグリップ性能を向上させることを目的として、ジエン系ゴムに対し、ナフサの熱分解によって得られるC5留分とスチレン又はビニルトルエンの共重合樹脂を配合することが提案されている。しかしながら、この場合、低温においてゴム組成物の弾性率が上昇しグリップ性能が悪化することがある。
【0004】
特許文献2には、常温での硬度低下と低温での弾性率上昇と転がり抵抗性能の悪化を抑えながら、ウェットグリップ性能を向上することを目的として、ジエン系ゴムからなるゴム成分に対し、所定の構成単位を有する(メタ)アクリレート系重合体からなるガラス転移点が-70~0℃の微粒子を配合することが提案されている。しかしながら、この場合、破断特性が悪化することがある。
【0005】
特許文献3には、破断特性及び転がり抵抗性能の悪化を抑制しつつ、ウェットグリップ性能が向上することを目的として、ジエン系ゴムからなるゴム成分に対し、(メタ)アクリレート系重合体からなる架橋されたポリマー粒子であってトルエン膨潤時粒径(MS)とラテックス粒径(ML)との比(MS/ML)が1.20~10.0であるものを配合することが提案されている。これにより破断特性は改善されるが、低温性能の更なる改善が求められることがある。
【0006】
特許文献4には、スノー性能とウェット性能を向上することを目的として、吸油性ポリマー粒子をオイル及びシリカとともにゴム成分に配合することが提案されている。しかしながら、低温性能と破断特性を両立することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-328577号公報
【文献】特開2017-110069号公報
【文献】特開2019-112560号公報
【文献】特開2018-090668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、背反する粘弾性特性を改良しながら優れた低温性能と破断特性をゴム組成物に付与することができるポリマー粒子を提供することを目的とする。また、例えばタイヤ用途に用いたときにウェットグリップ性能と転がり抵抗性能のバランスに優れるとともに低温性能と破断特性を改良することができるゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係るポリマー粒子は、下記一般式(1)で表される構成単位を有する(メタ)アクリレート系重合体からなる、化学的に架橋されたポリマー粒子であって、流動点が-100℃以上-10℃以下の可塑剤を内部に有するものである。
【0010】
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数4~18のアルキル基を表し、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよい。)
本発明の実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、該ポリマー粒子を1~100質量部含むものである。
【0011】
本発明の実施形態に係るタイヤは、該ゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたものである。
【0012】
本発明の実施形態に係るポリマー粒子の製造方法は、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリレートを含む単官能ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーとを流動点が-100℃以上-10℃以下の可塑剤とともに乳化し、ラジカル重合開始剤を用いて乳化重合することを特徴とする。
【0013】
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数4~18のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態に係るポリマー粒子であると、例えばゴム組成物に配合することにより、0℃でのtanδの増大と60℃でのtanδの低下という背反する粘弾性特性を改良しながら、低温性能と破断特性を改良することができる。本発明の実施形態に係るゴム組成物であると、例えばタイヤに用いることにより、ウェットグリップ性能と転がり抵抗性能のバランスを向上しながら低温性能と破断特性を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0016】
[ポリマー粒子]
実施形態に係るポリマー粒子は、下記一般式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位(繰り返し単位とも称される)として有する(メタ)アクリレート系重合体からなる微粒子である。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートのうちの一方又は両方を意味する。
【0017】
【化3】
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基であり、同一分子中に存在するRは同一でも異なっていてもよい。Rは、炭素数4~18のアルキル基であり、同一分子中に存在するのRは同一でも異なっていてもよい。Rのアルキル基は直鎖でも分岐していてもよい。Rは、炭素数6~16のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数8~15のアルキル基である。
【0018】
該(メタ)アクリレート系重合体は、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリレートを含む単官能ビニルモノマーを重合してなる。ここで、単官能ビニルモノマーとは、分子内にビニル基を1つ有する重合性モノマーである。ビニル基とは、狭義のビニル基(HC=CH-)だけでなく、ビニリデン基(HC=CX-)やビニレン基(-HC=CH-)も含む広義のビニル基を意味する。
【0019】
【化4】
式(2)中のR及びRは、式(1)中のR及びRと同じであり、即ち、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数4~18(好ましくは6~16、より好ましくは8~15)のアルキル基であり、直鎖でも分岐でもよい。
【0020】
かかる(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸n-ノニル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸n-ウンデシル、アクリル酸n-ドデシル、アクリル酸n-トリデシル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸n-ヘプチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸n-ノニル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸n-ウンデシル、及びメタクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸n-アルキル; アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソペンチル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸イソヘプチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸イソウンデシル、アクリル酸イソドデシル、アクリル酸イソトリデシル、アクリル酸イソテトラデシル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソペンチル、メタクリル酸イソヘキシル、メタクリル酸イソヘプチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸イソウンデシル、メタクリル酸イソドデシル、メタクリル酸イソトリデシル、及びメタクリル酸イソテトラデシル等の(メタ)アクリル酸イソアルキル; アクリル酸2-メチルブチル、アクリル酸2-エチルペンチル、アクリル酸2-メチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘプチル、メタクリル酸2-メチルペンチル、メタクリル酸2-メチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸2-エチルヘプチルなどが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0021】
ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸のうちの一方又は両方を意味する。また、イソアルキルとは、アルキル鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を有するアルキル基をいう。例えば、イソデシルとは、鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を持つ炭素数10のアルキル基をいい、8-メチルノニル基だけでなく、2,4,6-トリメチルヘプチル基も含まれる概念である。
【0022】
一実施形態として、(メタ)アクリレート系重合体は、式(1)で表される構成単位として下記一般式(3)で表される構成単位を有する重合体であることが好ましい。
【0023】
【化5】
式(3)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し(好ましくはメチル基)、同一分子中のRは同一でも異なってもよい。Zは、炭素数1~15のアルキレン基(即ち、アルカンジイル基)を表し、同一分子中のZは同一でも異なってもよい。Zは直鎖でも分岐していてもよい。Zは、炭素数5~12のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6~10のアルキレン基である。
【0024】
このような構成単位を生じる(メタ)アクリレートは、下記一般式(4)で表される(メタ)アクリレートである。そのため、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリレートは、一般式(4)で表される(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、一実施形態に係る(メタ)アクリレート系重合体は、一般式(4)で表される(メタ)アクリレートを含む単官能ビニルモノマーを重合してなる。一般式(4)で表される(メタ)アクリレートとしては、上記の(メタ)アクリル酸イソアルキルが挙げられる。
【0025】
【化6】
式(4)中のR及びZは、式(3)中のR及びZと同じであり、即ち、Rは水素原子又はメチル基(好ましくはメチル基)を表し、Zは炭素数1~15(好ましくは5~12、より好ましくは6~10)のアルキレン基を表し、直鎖でも分岐でもよい。
【0026】
実施形態に係るポリマー粒子は、化学的に架橋されたものであり、即ち、該ポリマー粒子を構成する(メタ)アクリレート系重合体が架橋されている。該(メタ)アクリレート系重合体は、多官能ビニルモノマーによって架橋された架橋構造を有することが好ましい。すなわち、一実施形態に係る(メタ)アクリレート系重合体は、一般式(1)で表される構成単位とともに、多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を含み、該多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を架橋点とする架橋構造を有する。ここで、多官能ビニルモノマーとは、分子内にビニル基を2以上有する重合性モノマーである。
【0027】
多官能ビニルモノマーとしては、フリーラジカル重合によって重合可能な少なくとも2個のビニル基を有する化合物が挙げられ、例えば、ジオールまたはトリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなど)のジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート; メチレンビス-アクリルアミドなどのアルキレンジ(メタ)アクリルアミド; ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの少なくとも2個のビニル基を持つビニル芳香族化合物などが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
(メタ)アクリレート系重合体における式(1)で表される構成単位と多官能ビニルモノマーに由来する構成単位の各含有量は特に限定されない。例えば、(メタ)アクリレート系重合体を構成する全構成単位に対する式(1)の構成単位のモル比は60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上である。また、該モル比の上限は、99.9モル%以下でもよく、99.5モル%以下でもよく、99モル%以下でもよい。多官能ビニルモノマーに由来する構成単位のモル比は、0.1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5モル%以上であり、更に好ましくは1モル%以上であり、2モル%以上でもよい。多官能ビニルモノマーに由来する構成単位のモル比の上限は、20モル%以下でもよく、10モル%以下でもよく、5モル%以下でもよい。該(メタ)アクリレート系重合体は、他の単官能ビニルモノマーに基づく構成単位を含んでもよい。
【0029】
一実施形態において、(メタ)アクリレート系重合体が式(3)で表される構成単位を有する重合体である場合、当該重合体の全構成単位に対する式(3)の構成単位のモル比は25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは35モル%以上であり、50モル%以上でもよく、80モル%以上でもよく、90モル%以上でもよい。当該モル比の上限は、特に限定しないが、99.9モル%以下でもよく、99.5モル%以下でもよく、99モル%以下でもよい。
【0030】
上記(メタ)アクリレート系重合体は、反応性シリル基を持たないものであることが好ましい。すなわち、一実施形態において、ポリマー粒子はシリカを代替する補強性充填剤として配合するものではないので、該ポリマー粒子を構成する(メタ)アクリレート系重合体の分子末端又は分子鎖中に反応性シリル基を有していないものであることが好ましい。ここで、反応性シリル基とは、式≡Si-Xで表される官能基(式中、Xはヒドロキシルまたは加水分解可能な基である。)であり、1~3個のヒドロキシル基又は加水分解可能な1価の基が4価のケイ素原子に結合した構造を有する基である。Xとしては、ヒドロキシル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
【0031】
実施形態に係るポリマー粒子は、流動点が-100℃以上-10℃以下の可塑剤を内包、即ち内部に有する。可塑剤とはポリマー粒子に柔軟性を付与する薬剤であり、上記(メタ)アクリレート系重合体を構成するモノマーとは化学反応しない化合物が用いられる。このような流動点を持つ可塑剤をポリマー粒子内に含ませることにより、ポリマー粒子をゴム組成物に配合したときに破断特性を向上させることができるとともに、低温でのゴム組成物の弾性率の上昇を抑えて低温性能を向上することができる。
【0032】
可塑剤の流動点は-80℃以上であることが好ましく、より好ましくは-70℃以上であり、また-15℃以下であることが好ましく、より好ましくは-20℃以下である。ここで、流動点は日本工業規格JIS K2269に準拠し、一定条件で流動しなくなる温度を求めて流動点とする。具体的には、試験管にとった試料温度を46℃まで予備加熱した後、規定の方法で冷却し、予想流動点より10℃高い温度から2.5℃下がる毎に試験管を取り出して状態の観察を行う。試験管を横にしても5秒間全く動かなくなる温度を求め、それより2.5℃高い温度を流動点とする。
【0033】
可塑剤は、また30℃での粘度(粘性率)が2~500mPa・sであることが好ましい。可塑剤の粘度が2mPa・s以上であること、また500mPa・s以下であることにより、ゴム組成物の破断特性および低温性能の改善効果を高めることができる。可塑剤の粘度は5mPa・s以上であることがより好ましく、また250mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以下であり、70mPa・s以下でもよい。ここで、粘度はB型粘度計を用いて測定される。
【0034】
可塑剤としては、例えばエステル系可塑剤、石油系伸展油などが用いられ、流動点が-100℃以上-10℃以下であれば、種々の樹脂又はゴム配合用の可塑剤を用いることができる。すなわち、一般に樹脂組成物やゴム組成物においてそれらに柔軟性又は可塑性を付与するために添加される可塑剤を用いることができる。
【0035】
より詳細には、可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステルなどが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上を含むことが好ましい。フタル酸エステルとしては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシルなどが挙げられる。アジピン酸エステルとしては、例えば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ジブチルなどが挙げられる。セバシン酸エステルとしては、例えば、セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)などが挙げられる。リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリトリル、リン酸トリブチルなどが挙げられる。トリメリット酸エステルとしては、例えば、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)などが挙げられる。また、石油系伸展油としては、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイルなどが挙げられる。
【0036】
ポリマー粒子における可塑剤の含有量は、特に限定されず、例えば(メタ)アクリレート系重合体100質量部に対して5~100質量部でもよく、10~90質量部でもよく、20~80質量部でもよく、30~70質量部でもよい。
【0037】
実施形態に係るポリマー粒子は、特に限定するものではないが、ガラス転移点(Tg)が-70~0℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移点が-70℃以上であることにより、ウェットグリップ性能の改善効果を高めることができる。ガラス転移点が0℃以下であることにより、低温性能の悪化を抑えることができる。ガラス転移点の設定は、重合体を構成するモノマー組成等により行うことができる。ポリマー粒子のガラス転移点は、-50℃以上であることが好ましく、より好ましくは-45℃以上であり、また-10℃以下であることが好ましく、より好ましくは-20℃以下であり、-30℃以下でもよい。ここで、ガラス転移点は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分(測定温度範囲:-150℃~150℃)にて測定される。
【0038】
本実施形態に係るポリマー粒子は、特に限定するものではないが、平均粒径が10~100nmであることが好ましい。ポリマー粒子の平均粒径は、20nm以上であることが好ましく、より好ましくは30nm以上であり、また100nm未満であることが好ましく、より好ましくは90nm以下であり、80nm以下でもよい。ここで、平均粒径は、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)である。
【0039】
本実施形態に係る可塑剤を含む架橋されたポリマー粒子は、次の方法により製造されることが好ましい。すなわち、一実施形態に係るポリマー粒子の製造方法では、上記式(2)で表される(メタ)アクリレートを含む単官能ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーを、流動点が-100℃以上-10℃以下の可塑剤とともに乳化し、ラジカル重合開始剤を用いて乳化重合する。これにより、架橋された(メタ)アクリレート系重合体からなるポリマー粒子は、上記可塑剤を内包、即ち内部に有する微粒子となる。
【0040】
詳細には、上記式(2)、好ましくは式(4)で表される(メタ)アクリレートを含む単官能ビニルモノマーを、架橋剤としての多官能ビニルモノマーとともに、乳化剤を溶解した水等の水性媒体に乳化・分散させてエマルションを得る。その際、可塑剤も添加して上記モノマーとともに乳化・分散させる。ここで、水性媒体としては、水単独または水と低級アルコールとの混合溶媒であることが好ましい。また、乳化剤としては、上記のモノマー及び可塑剤を水性媒体中に乳化させることができれば特に限定されず、例えばアニオン界面活性剤を用いてもよい。
【0041】
次いで、得られたエマルションに水溶性のラジカル重合開始剤(例えば、過硫酸カリウムなどの過酸化物)を添加して上記モノマーをラジカル重合(乳化重合)させる。これにより、水性媒体中に(メタ)アクリレート系重合体からなるポリマー粒子が生成され、該ポリマー粒子の内部に可塑剤が封入される。その後、水性媒体と分離することによりポリマー粒子が得られる。水性媒体との分離方法は、特に限定されず、例えばメタノールなどの凝析剤を添加することによる凝析により行ってもよい。
【0042】
[ゴム組成物]
実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分に、上記ポリマー粒子を配合してなるものである。
【0043】
ゴム成分としてのジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ジエン系ゴムは、NR、BR及びSBRからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0044】
上記で列挙した各ジエン系ゴムの具体例には、その分子末端又は分子鎖中において、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エポキシ基、シリル基、及びカルボキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基が導入されることで、当該官能基により変性された変性ジエン系ゴムも含まれる。ジエン系ゴムが変性ジエン系ゴムを含むことにより、充填剤としてシリカを用いたときに、その分散性を向上することができる。変性ジエン系ゴムとしては、変性SBRを用いることが好ましい。そのため、一実施形態に係るジエン系ゴムは、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エポキシ基、シリル基及びカルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するスチレンブタジエンゴムを含むことである。
【0045】
一実施形態において、ジエン系ゴムは、変性SBR単独でもよく、変性SBRと未変性のジエン系ゴムとのブレンドでもよい。例えば、ジエン系ゴム100質量部中、変性SBRを30質量部以上含んでもよく、50質量部以上含んでもよい。また、ジエン系ゴム100質量部は、変性SBR50~90質量部と、未変性ジエン系ゴム(例えば、BR及び/又はNR)50~10質量部含むものでもよく、また、変性SBR60~90質量部と、未変性ジエン系ゴム40~10質量部含むものでもよい。
【0046】
ゴム組成物における上記ポリマー粒子の含有量は、特に限定されず、用途に応じて適宜に設定することができる。ポリマー粒子の含有量は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して1~100質量部であることが好ましく、より好ましくは2~50質量部であり、更に好ましくは3~30質量部であり、5~20質量部でもよい。
【0047】
実施形態に係るゴム組成物には、上記の成分の他に、補強性充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、オイル、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0048】
補強性充填剤としては、シリカ及び/又はカーボンブラックが好ましく用いられる。より好ましくは、転がり抵抗性能とウェットグリップ性能のバランスを向上するために、シリカを用いることであり、シリカ単独又はシリカとカーボンブラックの併用が好ましい。ここで、シリカとしては、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。
【0049】
補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部でもよく、30~100質量部でもよい。シリカの配合量も特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部でもよく、30~100質量部でもよい。
【0050】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましく、その場合、シランカップリング剤の配合量は、シリカ質量の2~20質量%であることが好ましく、より好ましくは4~15質量%である。
【0051】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。また、加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0052】
実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、上記ポリマー粒子とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0053】
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。
【0054】
[タイヤ]
上記ゴム組成物をタイヤに用いる場合、その適用部位としては、トレッド部、サイドウォール部などタイヤの各部位が挙げられ、好ましくはタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに用いることである。すなわち、一実施形態に係るタイヤは、上記ゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたものである。タイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途、各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。
【0055】
空気入りタイヤは、常法に従い、上記ゴム組成物を押出加工等によって所定の形状のトレッドゴムに成形し、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば140~180℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、製造することができる。
【0056】
一実施形態において、空気入りタイヤのトレッドゴムには、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、接地面を構成するゴムに好ましく用いられる。すなわち、単層構造のものであれば、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物からなり、2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【実施例
【0057】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
[平均粒径の測定方法]
ポリマー粒子の平均粒径は、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)であり、下記合成例における凝固前のラテックス溶液を測定試料として用いて、大塚電子株式会社製のダイナミック光散乱光度計「DLS-8000」を用いた光子相関法(JIS Z8826準拠)により測定し(入射光と検出器との角度90°)、得られた自己相関関数からキュムラント法により求めた。
【0059】
[Tgの測定方法]
ポリマー粒子のTgは、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて測定した(測定温度範囲:-150℃~150℃)。
【0060】
[合成例1:ポリマー粒子1(比較例)]
60gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(即ち、メタクリル酸イソデシル)、1.576gのエチレングリコールジメタクリレート、7.643gのドデシル硫酸ナトリウム、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.717gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子1を得た。ポリマー粒子1の平均粒子径は58nm、Tgは-37℃であった。
【0061】
[合成例2:ポリマー粒子2(比較例)]
合成例1で用いたエチレングリコールジメタクリレートを0.263gに変更した以外は合成例1に準じて、ポリマー粒子2を得た。ポリマー粒子2の平均粒径は61nm、Tgは-38℃であった。
【0062】
[合成例3:ポリマー粒子3(実施例)]
60gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル、1.576gのエチレングリコールジメタクリレート、7.643gのドデシル硫酸ナトリウム、30gのフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)[DOP(流動点:-51℃、粘度(30℃):43mPa・s)]、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.717gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子3を得た。ポリマー粒子3の平均粒径は60nm、Tgは-40℃であった。
【0063】
[合成例4:ポリマー粒子4(実施例)]
60gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル、1.576gのエチレングリコールジメタクリレート、7.643gのドデシル硫酸ナトリウム、30gのアジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)[DOA(流動点:-68℃)、粘度(30℃):9.0mPa・s]、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.717gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子4を得た。ポリマー粒子4の平均粒径は60nm、Tgは-41℃であった。
【0064】
[合成例5:ポリマー粒子5(実施例)]
60gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル、1.576gのエチレングリコールジメタクリレート、7.643gのドデシル硫酸ナトリウム、30gのセバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)[DOS(流動点:-69℃、粘度(30℃):13mPa・s)]、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.717gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子5を得た。ポリマー粒子5の平均粒径は57nm、Tgは-39℃であった。
【0065】
[合成例6:ポリマー粒子6(実施例)]
60gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル、1.576gのエチレングリコールジメタクリレート、7.643gのドデシル硫酸ナトリウム、30gのリン酸トリトリル[TCP(流動点:-27℃、粘度(30℃):47mPa・s)]、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.717gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子6を得た。ポリマー粒子6の平均粒径は60nm、Tgは-39℃であった。
【0066】
[合成例7:ポリマー粒子7(実施例)]
60gのアクリル酸n-ブチル、2.783gのエチレングリコールジメタクリレート、13.50gのドデシル硫酸ナトリウム、30gのフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)[DOP(流動点:-51℃、粘度(30℃):43mPa・s)]、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、1.265gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子7を得た。ポリマー粒子7の平均粒径は60nm、Tgは-54℃であった。
【0067】
[合成例8:ポリマー粒子8(比較例)]
60gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル、1.576gのエチレングリコールジメタクリレート、7.643gのドデシル硫酸ナトリウム、30gのエポキシ化大豆油[E-2000H(流動点:-5℃、粘度(30℃):293mPa・s)]、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.717gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子8を得た。ポリマー粒子8の平均粒径は62nm、Tgは-36℃であった。
【0068】
[合成例9:混合物1(比較例)]
合成例1に記載の方法で合成したポリマー粒子1に、可塑剤としてフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)[DOP(流動点:-51℃)]を、質量比(ポリマー粒子1/可塑剤)=10/4.9にて浸漬混合し、24時間静置して混合物1を得た。混合物1は、ポリマー粒子1と可塑剤が目視で分離している状態のものであった。
【0069】
[可塑剤の含有量の測定]
ポリマー粒子3~8について、(メタ)アクリレート系重合体および可塑剤に対して良溶媒であるアセトンを用い、抽出物の定量により、可塑剤の含有量を測定した。
【0070】
詳細には、内部標準物質としてフタル酸ジブチルのアセトン溶液を用い、予め検量線を作成した。試料となるポリマー粒子をバイアル瓶に30mgとり、100mg/Lフタル酸ブチルのアセトン溶液10mLを添加した。5分間超音波抽出した後、シリンジフィルターを用いてろ過し、ガスクロマトグラフィ-質量分析法(GC-MS)により可塑剤の含有量を定量した。
【0071】
<GC-MS測定条件>
(GC)
・機種名:Agilent社製 7890A
・カラム:DB-5カラム
・昇温条件:40℃(2分保持)→10℃/分昇温→300℃(17分保持)
・注入口温度:230℃
・注入量:1μL
・スプリット比:1/20
(MS)
・機種名:日本電子製 JMS-Q1050GC
・イオン化エネルギー:70eV
・イオン源温度:200℃
・イオントランスファー温度:250℃
・取得質量範囲:m/z 10-800
測定はそれぞれn=2で実施し、平均値を求めた。
【0072】
結果は、下記表1に示すとおりである。表中の仕込み量は、合成時に投入した量から算出した可塑剤のポリマー粒子中での比率である。含有量は、GC-MSにより定量した試料(ポリマー粒子)中の濃度を示す。
【0073】
【表1】
表1に示すようにポリマー粒子3~8には仕込み量とほぼ同等の可塑剤が含まれていた。また、ポリマー粒子3~8は、合成時に可塑剤を添加していないポリマー粒子1,2と比べて、外観上の違いはなく、合成例9で得られた混合物1のような液状の可塑剤が分離したものではなかった。このことから、ポリマー粒子3~8は可塑剤を内部に有していることが分かる。
【0074】
なお、ポリマー粒子3~8について、可塑剤に対して良溶媒であり(メタ)アクリレート系重合体に対して不溶媒であるメタノールにより24時間浸漬静置させた後、上澄み液をデカンテーションすることにより洗浄処理し、乾燥させた後の質量を測定したところ、質量変化はなかった。すなわち、可塑剤に対する溶媒(メタノール)への浸漬では可塑剤が抽出されないように保持されていた。このことからも、ポリマー粒子3~8は可塑剤を内部に有していることが分かる。
【0075】
一方、合成例9の混合物1は、上記のようにポリマー粒子と可塑剤が目視で分離した状態にあった。該混合物1について、同様にメタノールにより洗浄処理し、乾燥させた後の質量を測定したところ、可塑剤の質量に相当する30質量%程度の減量が見られた。このことからも、混合物1では、ポリマー粒子の内部に可塑剤が入っていないことが分かる。
【0076】
[ゴム組成物の調製及び評価]
ラボミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤をジエン系ゴムに添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。なお、実施例1~5及び比較例4,5におけるポリマー粒子1~8及び混合物1の配合量は、(メタ)アクリレート系重合体としての配合量が、それぞれの合成時の仕込み量換算で比較例2,3と同量になるように設定した。
【0077】
表2中の各成分の詳細は、以下の通りである。
・変性SBR:アルコキシ基及びアミノ基末端変性溶液重合SBR、JSR(株)製「HPR350」
・BR:宇部興産(株)製の「ウベポールBR150B」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックインダストリーズ社製「Si69」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
・2次加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
・ポリマー粒子1~8:上記合成例1~8で合成したもの
・混合物1:合成例9で合成したもの。
【0078】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行って0℃及び60℃でのtanδと、-10℃での貯蔵弾性率E’を測定するとともに、引張り強さ及び破断時伸びを測定した。測定方法は次の通りである。
【0079】
・0℃tanδ:UBM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、tanδが大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0080】
・60℃tanδ:温度を60℃に変え、その他は0℃tanδと同様にしてtanδ測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、発熱しにくく、タイヤでの転がり抵抗が小さくて転がり抵抗性能(即ち、低燃費性)に優れることを示す。
・引張り強さ、破断時伸び:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行い、引張り強さ及び破断時伸びを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、破断特性に優れることを示す。
【0081】
・-10℃ E’:温度を-10℃に変え、その他は0℃tanδと同条件にて-10℃での貯蔵弾性率E’を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、E’が小さく、低温性能に優れることを示す。
【0082】
【表2】
結果は表2に示す通りである。コントロールである比較例1に対し、ポリマー粒子1を添加した比較例2では、転がり抵抗性能の維持しながらウェットグリップ性能を顕著に向上することができたが、破断特性が劣っており、また低温性能の改善効果も見られなかった。比較例2に対し、低架橋のポリマー粒子2を用いた比較例3では、破断特性の低下を抑えることはできたが、低温性能の改善効果は得られなかった。
【0083】
これに対し、特定の流動点を持つ可塑剤を含むポリマー粒子3~7を添加した実施例1~5であると、比較例1に対して、転がり抵抗性能を維持ないし向上しながらウェットグリップ性能を顕著に向上することができ、また破断特性が向上しており、更に低温性能が顕著に改善されていた。
【0084】
一方、流動点の高い可塑剤を含むポリマー粒子8を添加した比較例4では、実施例1~5のような破断特性の改善効果が得られないだけでなく、低温性能も損なわれた。また、ポリマー粒子と可塑剤が分離した状態にある混合物1を配合した比較例5では、破断特性に劣っていた。