(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ポリマー粒子、ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08F 20/10 20060101AFI20231219BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20231219BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20231219BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08F20/10
C08L33/04
C08L9/00
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2019228502
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福西 智史
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138225(JP,A)
【文献】特開2018-163198(JP,A)
【文献】特開2017-110069(JP,A)
【文献】特開2018-123209(JP,A)
【文献】特開2014-013648(JP,A)
【文献】特開2018-125277(JP,A)
【文献】特開2004-099700(JP,A)
【文献】特開2002-265529(JP,A)
【文献】特開平11-231566(JP,A)
【文献】特開2018-083890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/10
C08L 33/04
C08L 9/00
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位を有し、化学架橋された架橋構造を有する(メタ)アクリレート系重合体からなるポリマー粒子であって、前記架橋構造がエーテル結合またはシロキサン結合を含
み、ガラス転移点が-70℃以上0℃以下であり、かつ平均粒径が10~100nmである、ゴム組成物配合用ポリマー粒子。
【化1】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、同一分子中のR
1は同一でも異なっていてもよく、R
2は炭素数4~18のアルキル基を表し、同一分子中のR
2は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記架橋構造が下記一般式(2)で表される構造を含む、請求項
1に記載の
ゴム組成物配合用ポリマー粒子。
【化2】
(式中、Xは炭素数2~6のアルキレン基または-SiR
3R
4-を表し、同一分子中のXは同一でも異なってもよく、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、nは1~35の整数である。)
【請求項3】
ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、請求項1
又は2に記載の
ゴム組成物配合用ポリマー粒子を1~100質量部含む、ゴム組成物。
【請求項4】
請求項
3に記載のゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー粒子に関し、また、該ポリマー粒子を用いたゴム組成物及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のタイヤにおいては、湿潤路面におけるグリップ性能(ウェットグリップ性能)と低燃費性に寄与する転がり抵抗性能を同時に改良することが求められている。しかしながら、ゴム組成物において、ウェットグリップ性能の指標としての0℃でのtanδの増大と転がり抵抗性能の指標としての60℃でのtanδの低下は背反特性であるため、同時に改良することは難しい。そのため、かかる背反する粘弾性特性を改良することが求められる。
【0003】
特許文献1には、タイヤの転動抵抗を実質的に悪化させずにウェットグリップ性能を向上させることを目的として、ジエン系ゴムに対し、ナフサの熱分解によって得られるC5留分とスチレン又はビニルトルエンの共重合樹脂を配合することが提案されている。
【0004】
特許文献2,3には、転がり抵抗性能の悪化を抑えながら、ウェットグリップ性能を向上することを目的として、ジエン系ゴムからなるゴム成分に対し、所定の構成単位を有し、化学架橋された架橋構造を有する(メタ)アクリレート系重合体からなるガラス転移点が-70~0℃のポリマー粒子を配合することが提案されている。しかしながら、架橋構造については検討されておらず、転がり抵抗性能及びウェットグリップ性能において改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-328577号公報
【文献】特開2017-110069号公報
【文献】特開2019-112560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、0℃でのtanδの増大と60℃でのtanδの低下という背反する粘弾性特性を改良することができるポリマー粒子を提供することを目的とする。また、例えばタイヤ用途に用いたときにウェットグリップ性能と転がり抵抗性能のバランスの改善することができるゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るポリマー粒子は、下記一般式(1)で表される構成単位を有し、化学架橋された架橋構造を有する(メタ)アクリレート系重合体からなるポリマー粒子であって、前記架橋構造がエーテル結合またはシロキサン結合を含むものである。
【0008】
【化1】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、同一分子中のR
1は同一でも異なっていてもよく、R
2は炭素数4~18のアルキル基を表し、同一分子中のR
2は同一でも異なっていてもよい。)
本発明の実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、該ポリマー粒子を1~100質量部含むものである。
【0009】
本発明の実施形態に係るタイヤは、該ゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態に係るポリマー粒子であると、例えばゴム組成物に配合することにより、0℃でのtanδの増大と60℃でのtanδの低下という背反する粘弾性特性を改良することができる。そのため、本発明の実施形態に係るゴム組成物であると、例えばタイヤに用いることにより、ウェットグリップ性能と転がり抵抗性能のバランスを向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
[ポリマー粒子]
実施形態に係るポリマー粒子は、下記一般式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位(繰り返し単位とも称される)として有する(メタ)アクリレート系重合体からなる微粒子である。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートのうちの一方又は両方を意味する。
【0013】
【化2】
式(1)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、同一分子中に存在するR
1は同一でも異なっていてもよい。R
2は、炭素数4~18のアルキル基であり、同一分子中に存在するのR
2は同一でも異なっていてもよい。R
2のアルキル基は直鎖でも分岐していてもよい。R
2は、炭素数6~16のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数8~15のアルキル基である。
【0014】
該(メタ)アクリレート系重合体は、下記一般式(3)で表される(メタ)アクリレートを含む単官能ビニルモノマーを重合してなる。ここで、単官能ビニルモノマーとは、分子内にビニル基を1つ有する重合性モノマーである。ビニル基とは、狭義のビニル基(H2C=CH-)だけでなく、ビニリデン基(H2C=CX-)やビニレン基(-HC=CH-)も含む広義のビニル基を意味する。
【0015】
【化3】
式(3)中のR
1及びR
2は、式(1)中のR
1及びR
2と同じであり、即ち、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数4~18(好ましくは6~16、より好ましくは8~15)のアルキル基であり、直鎖でも分岐でもよい。
【0016】
かかる(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸n-ノニル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸n-ウンデシル、アクリル酸n-ドデシル、アクリル酸n-トリデシル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸n-ヘプチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸n-ノニル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸n-ウンデシル、及びメタクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸n-アルキル; アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソペンチル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸イソヘプチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸イソウンデシル、アクリル酸イソドデシル、アクリル酸イソトリデシル、アクリル酸イソテトラデシル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソペンチル、メタクリル酸イソヘキシル、メタクリル酸イソヘプチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸イソウンデシル、メタクリル酸イソドデシル、メタクリル酸イソトリデシル、及びメタクリル酸イソテトラデシル等の(メタ)アクリル酸イソアルキル; アクリル酸2-メチルブチル、アクリル酸2-エチルペンチル、アクリル酸2-メチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘプチル、メタクリル酸2-メチルペンチル、メタクリル酸2-メチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸2-エチルヘプチルなどが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸のうちの一方又は両方を意味する。また、イソアルキルとは、アルキル鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を有するアルキル基をいう。例えば、イソデシルとは、鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を持つ炭素数10のアルキル基をいい、8-メチルノニル基だけでなく、2,4,6-トリメチルヘプチル基も含まれる概念である。
【0018】
一実施形態として、(メタ)アクリレート系重合体は、式(1)で表される構成単位として下記一般式(4)で表される構成単位を有する重合体であることが好ましい。
【0019】
【化4】
式(4)中、R
5は、水素原子又はメチル基を表し(好ましくはメチル基)、同一分子中のR
5は同一でも異なってもよい。Zは、炭素数1~15のアルキレン基(即ち、アルカンジイル基)を表し、同一分子中のZは同一でも異なってもよい。Zは直鎖でも分岐していてもよい。Zは、炭素数5~12のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6~10のアルキレン基である。
【0020】
このような構成単位を生じる(メタ)アクリレートは、下記一般式(5)で表される(メタ)アクリレートである。そのため、上記一般式(3)で表される(メタ)アクリレートは、一般式(5)で表される(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、一実施形態に係る(メタ)アクリレート系重合体は、一般式(5)で表される(メタ)アクリレートを含む単官能ビニルモノマーを重合してなる。一般式(5)で表される(メタ)アクリレートとしては、上記の(メタ)アクリル酸イソアルキルが挙げられる。
【0021】
【化5】
式(5)中のR
5及びZは、式(4)中のR
5及びZと同じであり、即ち、R
5は水素原子又はメチル基(好ましくはメチル基)を表し、Zは炭素数1~15(好ましくは5~12、より好ましくは6~10)のアルキレン基を表し、直鎖でも分岐でもよい。
【0022】
本実施形態において、(メタ)アクリレート系重合体は、化学架橋された架橋構造としてエーテル結合またはシロキサン結合を含む架橋構造を有する。これにより、上記の背反する粘弾性特性を改良することができ、より詳細には、0℃でのtanδを増大する効果を高めながら、60℃でのtanδを低減することができる。ここで、エーテル結合とは、酸素原子が二つの炭化水素基と結合した構造におけるC-O-C結合をいう。シロキサン結合とは、Si-O-Siで表される結合をいう。一実施形態において、架橋構造は、複数のエーテル結合を繰り返してなるポリエーテル構造を含むことが好ましく、また、複数のシロキサン結合を繰り返してなるポリシロキサン構造を含むことが好ましい。
【0023】
上記架橋構造は、好ましくは下記一般式(2)で表される構造を含むことである。
【0024】
【化6】
式中、Xは、炭素数2~6のアルキレン基(即ち、アルカンジイル基)または-SiR
3R
4-を表し、同一分子中のXは同一でも異なってもよい。ここで、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0025】
Xがアルキレン基の場合、架橋構造はエーテル結合を含み、該アルキレン基は直鎖でも分岐していてもよい。1つの架橋構造中のアルキレン基は同一でも異なってもよい。該アルキレン基の炭素数は2~4であることが好ましい。アルキレン基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などが挙げられ、これらをいずれか1種または2種以上組み合わせてもよい。
【0026】
Xが-SiR3R4-の場合、架橋構造はシロキサン結合を含む。1つの架橋構造中のR3及びR4はそれぞれ同一でも異なってもよい。また、R3及びR4のアルキル基は直鎖でも分岐していてもよく、その炭素数はそれぞれ1または2であることが好ましく、より好ましくはメチル基である。
【0027】
式(2)中のnは、-O-X-の繰り返し数であって1~35の整数である。Xがアルキレン基の場合、nは1~20であることが好ましく、より好ましくは2~15である。Xが-SiR3R4-である場合、nは5~35であることが好ましく、より好ましくは15~30である。
【0028】
エーテル結合またはシロキサン結合を含む架橋構造は、分子内に、エーテル結合またはシロキサン結合(好ましくは上記式(2)で表される構造)を有するとともに、フリーラジカル重合可能なビニル基を2個以上有する多官能ビニルモノマーを用いて形成することが好ましい。すなわち、一実施形態に係る(メタ)アクリレート系重合体は、一般式(1)で表される構成単位とともに、エーテル結合またはシロキサン結合を有する多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を含み、該多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を架橋点とする架橋構造を有することが好ましい。
【0029】
かかる多官能ビニルモノマーとしては、エーテル結合を含むものとして、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリトリメチレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリトリメチレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、シロキサン結合を有するものとして、例えば、両末端アクリロイルオキシ基ジメチルシリコーンオイル、両末端アクリロイルオキシ基メチルハイドロジェンシリコーンオイル、両末端メタクリロイルオキシ基ジメチルシリコーンオイル、両末端メタクリロイルオキシ基メチルハイドロジェンシリコーンオイルなどの両末端(メタ)アクリロイルオキシ基シリコーンオイルなどが挙げられる。これらの多官能ビニルモノマーは、いずれか1種用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。ここで、(メタ)アクリロイルオキシ基は、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基のうちの一方又は両方を意味する。
【0030】
多官能ビニルモノマーの一例として、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは下記一般式(6)で表される。
【0031】
【化7】
式中、R
6は水素原子又はメチル基を表し、同一分子中のR
6は同一でも異なってもよい。R
7は炭素数2~6(好ましくは炭素数2~4)のアルキレン基であり、同一分子中のR
7は同一でも異なってもよい。nは1~35の整数であり、好ましくは1~20、より好ましくは2~15である。
【0032】
多官能ビニルモノマーの一例として、両末端(メタ)アクリロイルオキシ基シリコーンオイルは下記一般式(7)で表される。
【0033】
【化8】
式中、R
3及びR
4は上記式(2)のR
3及びR
4と同じであり、R
8は水素原子又はメチル基を表し、同一分子中のR
8は同一でも異なってもよい。R
9は(メタ)アクリロイルオキシ基とポリシロキサンとの間を連結する二価の有機基を表し、同一分子中のR
9は同一でも異なってもよい。nは1~35の整数であり、好ましくは5~35、より好ましくは15~30である。
【0034】
(メタ)アクリレート系重合体における式(1)で表される構成単位と多官能ビニルモノマーに由来する構成単位の各含有量は特に限定されない。例えば、(メタ)アクリレート系重合体を構成する全構成単位に対する式(1)の構成単位のモル比は60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上である。また、該モル比の上限は、99.9モル%以下でもよく、99.5モル%以下でもよく、99モル%以下でもよい。多官能ビニルモノマーに由来する構成単位のモル比は、0.1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5モル%以上であり、更に好ましくは1モル%以上であり、2モル%以上でもよい。多官能ビニルモノマーに由来する構成単位のモル比の上限は、20モル%以下でもよく、10モル%以下でもよく、5モル%以下でもよい。該(メタ)アクリレート系重合体は、他の単官能ビニルモノマーに基づく構成単位を含んでもよい。
【0035】
一実施形態において、(メタ)アクリレート系重合体が式(4)で表される構成単位を有する重合体である場合、当該重合体の全構成単位に対する式(4)の構成単位のモル比は25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは35モル%以上であり、50モル%以上でもよく、80モル%以上でもよく、90モル%以上でもよい。当該モル比の上限は、特に限定しないが、99.9モル%以下でもよく、99.5モル%以下でもよく、99モル%以下でもよい。
【0036】
実施形態に係るポリマー粒子は、特に限定するものではないが、ガラス転移点(Tg)が-70~0℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移点が-70℃以上であることにより、ウェットグリップ性能の改善効果を高めることができる。ガラス転移点が0℃以下であることにより、転がり抵抗性能の悪化を抑えることができる。ガラス転移点の設定は、重合体を構成するモノマー組成等により行うことができる。ポリマー粒子のガラス転移点は、-50℃以上であることが好ましく、より好ましくは-45℃以上であり、また-10℃以下であることが好ましく、より好ましくは-20℃以下であり、-30℃以下でもよい。ここで、ガラス転移点は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分(測定温度範囲:-150℃~150℃)にて測定される。
【0037】
実施形態に係るポリマー粒子は、特に限定するものではないが、平均粒径が10~100nmであることが好ましい。ポリマー粒子の平均粒径は、20nm以上であることが好ましく、より好ましくは30nm以上であり、また100nm未満であることが好ましく、より好ましくは90nm以下であり、80nm以下でもよい。ここで、平均粒径は、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)である。
【0038】
実施形態に係るポリマー粒子の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の乳化重合を利用して合成することができる。好ましい一例を挙げれば次の通りである。すなわち、上記式(3)で表される(メタ)アクリレートを含む単官能ビニルモノマーを、架橋剤としての上記多官能ビニルモノマーとともに、乳化剤を溶解した水等の水性媒体に分散させ、得られたエマルションに水溶性のラジカル重合開始剤(例えば、過硫酸カリウムなどの過酸化物)を添加してラジカル重合させることにより、水性媒体中に微粒子が生成されるので、該微粒子を水性媒体と分離することで架橋された(メタ)アクリレート系重合体からなるポリマー粒子が得られる。その他のポリマー粒子の製造方法として、公知の懸濁重合や分散重合、沈殿重合、ミニエマルション重合、ソープフリー乳化重合(無乳化剤乳化重合)およびマイクロエマルション重合などの重合方法を利用することができる。
【0039】
[ゴム組成物]
実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分に、上記ポリマー粒子を配合してなるものである。
【0040】
ゴム成分としてのジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ジエン系ゴムは、NR、BR及びSBRからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
上記で列挙した各ジエン系ゴムの具体例には、その分子末端又は分子鎖中において、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エポキシ基、シリル基、及びカルボキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基が導入されることで、当該官能基により変性された変性ジエン系ゴムも含まれる。ジエン系ゴムが変性ジエン系ゴムを含むことにより、充填剤としてシリカを用いたときに、その分散性を向上することができる。変性ジエン系ゴムとしては、変性SBRを用いることが好ましい。そのため、一実施形態に係るジエン系ゴムは、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エポキシ基、シリル基及びカルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するスチレンブタジエンゴムを含むことである。
【0042】
一実施形態において、ジエン系ゴムは、変性SBR単独でもよく、変性SBRと未変性のジエン系ゴムとのブレンドでもよい。例えば、ジエン系ゴム100質量部中、変性SBRを30質量部以上含んでもよく、50質量部以上含んでもよい。また、ジエン系ゴム100質量部は、変性SBR50~90質量部と、未変性ジエン系ゴム(例えば、BR及び/又はNR)50~10質量部含むものでもよく、また、変性SBR60~90質量部と、未変性ジエン系ゴム40~10質量部含むものでもよい。
【0043】
ゴム組成物における上記ポリマー粒子の含有量は、特に限定されず、用途に応じて適宜に設定することができる。ポリマー粒子の含有量は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して1~100質量部であることが好ましく、より好ましくは2~50質量部であり、更に好ましくは3~30質量部であり、5~20質量部でもよい。
【0044】
実施形態に係るゴム組成物には、上記の成分の他に、補強性充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、オイル、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0045】
補強性充填剤としては、シリカ及び/又はカーボンブラックが好ましく用いられる。より好ましくは、転がり抵抗性能とウェットグリップ性能のバランスを向上するために、シリカを用いることであり、シリカ単独又はシリカとカーボンブラックの併用が好ましい。ここで、シリカとしては、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。
【0046】
補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部でもよく、30~100質量部でもよい。シリカの配合量も特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部でもよく、30~100質量部でもよい。
【0047】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましく、その場合、シランカップリング剤の配合量は、シリカ質量の2~20質量%であることが好ましく、より好ましくは4~15質量%である。
【0048】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。また、加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0049】
実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、上記ポリマー粒子とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0050】
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。
【0051】
[タイヤ]
上記ゴム組成物をタイヤに用いる場合、その適用部位としては、トレッド部、サイドウォール部などタイヤの各部位が挙げられ、好ましくはタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに用いることである。すなわち、一実施形態に係るタイヤは、上記ゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたものである。タイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途、各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。
【0052】
空気入りタイヤは、常法に従い、上記ゴム組成物を押出加工等によって所定の形状のトレッドゴムに成形し、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば140~180℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、製造することができる。
【0053】
一実施形態において、空気入りタイヤのトレッドゴムには、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、接地面を構成するゴムに好ましく用いられる。すなわち、単層構造のものであれば、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物からなり、2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[平均粒径の測定方法]
ポリマー粒子の平均粒径は、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)であり、下記合成例における凝固前のラテックス溶液を測定試料として用いて、大塚電子株式会社製のダイナミック光散乱光度計「DLS-8000」を用いた光子相関法(JIS Z8826準拠)により測定し(入射光と検出器との角度90°)、得られた自己相関関数からキュムラント法により求めた。
【0056】
[Tgの測定方法]
ポリマー粒子のTgは、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて測定した(測定温度範囲:-150℃~150℃)。
【0057】
[合成例1:ポリマー粒子1(比較例)]
60gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(即ち、メタクリル酸イソデシル)、1.576gのエチレングリコールジメタクリレート、7.643gのドデシル硫酸ナトリウム、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.717gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×103Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子1を得た。ポリマー粒子1の平均粒子径は58nm、Tgは-37℃であった。
【0058】
[合成例2:ポリマー粒子2(比較例)]
合成例1で用いたエチレングリコールジメタクリレートの代わりに、2.692gの1,12-ドデカンジオールジメタクリレートを使用すること以外は合成例1と同様の手法によりポリマー粒子2を得た。ポリマー粒子2の平均粒径は56nm、Tgは-35℃であった。
【0059】
[合成例3:ポリマー粒子3(実施例)]
合成例1で用いたエチレングリコールジメタクリレートの代わりに2.624gのポリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業(株)製「NKエステル4G」、式(6)中のR6=メチル基、R7=エチレン基、n=3)を使用すること以外は合成例1と同様の手法によりポリマー粒子3を得た。ポリマー粒子3の平均粒径は58nm、Tgは-35℃であった。
【0060】
ポリマー粒子3について、13C-NMRにより、重合体の化学構造を分析したところ、メタクリル酸イソデシル由来の構成単位が97モル%、ポリエチレングリコールジメタクリレート由来の構成単位が3.0モル%であった。
【0061】
[合成例4:ポリマー粒子4(実施例)]
合成例1で用いたエチレングリコールジメタクリレートの代わりに、2.445gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製「NKエステルA-200」、式(6)中のR6=水素原子、R7=エチレン基、n=3)を使用すること以外は合成例1と同様の手法によりポリマー粒子4を得た。ポリマー粒子4の平均粒径は56nm、Tgは-34℃であった。
【0062】
ポリマー粒子4について、13C-NMRにより、重合体の化学構造を分析したところ、メタクリル酸イソデシル由来の構成単位が97モル%、ポリエチレングリコールジアクリレート由来の構成単位が3.0モル%であった。
【0063】
[合成例5:ポリマー粒子5(実施例)]
合成例1で用いたエチレングリコールジメタクリレートの代わりに、5.853gのポリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業(株)製「NKエステル14G」、式(6)中のR6=メチル基、R7=エチレン基、n=13)を使用すること以外は合成例1と同様の手法によりポリマー粒子5を得た。ポリマー粒子5の平均粒径は60nm、Tgは-37℃であった。
【0064】
ポリマー粒子5について、13C-NMRにより、重合体の化学構造を分析したところ、メタクリル酸イソデシル由来の構成単位が97モル%、ポリエチレングリコールジメタクリレート由来の構成単位が3.0モル%であった。
【0065】
[合成例6:ポリマー粒子6(実施例)]
合成例1で用いたエチレングリコールジメタクリレートの代わりに、5.630gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製「NKエステルA-600」、式(6)中のR6=水素原子、R7=エチレン基、n=13)を使用すること以外は合成例1と同様の手法によりポリマー粒子6を得た。ポリマー粒子6の平均粒径は62nm、Tgは-39℃であった。
【0066】
ポリマー粒子6について、13C-NMRにより、重合体の化学構造を分析したところ、メタクリル酸イソデシル由来の構成単位が97モル%、ポリエチレングリコールジアクリレート由来の構成単位が3.0モル%であった。
【0067】
[合成例7:ポリマー粒子7(実施例)]
合成例1で用いたエチレングリコールジメタクリレートの代わりに、11.42gの両末端メタクリロイルオキシ基ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製「X-22-164」、式(7)中のR3及びR4=メチル基、R8=メチル基)を使用すること以外は合成例1と同様の手法によりポリマー粒子7を得た。ポリマー粒子7の平均粒径は60nm、Tgは-39℃であった。
【0068】
ポリマー粒子7について、13C-NMRにより、重合体の化学構造を分析したところ、メタクリル酸イソデシル由来の構成単位が96.5モル%、両末端メタクリロイルオキシ基ジメチルシリコーンオイル由来の構成単位が3.5モル%であった。
【0069】
[合成例8:ポリマー粒子8(実施例)]
60gのアクリル酸n-ブチル、4.325gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製「NKエステルA-200」、式(6)中のR6=水素原子、R7=エチレン基、n=3)、13.50gのドデシル硫酸ナトリウム、126gの水および14gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、1.265gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析によりポリマー粒子を沈殿させ、真空乾燥器で70℃、1.0×103Paの条件下で乾燥することによりポリマー粒子8を得た。ポリマー粒子8の平均粒子径は60nm、Tgは-50℃であった。
【0070】
ポリマー粒子8について、13C-NMRにより、重合体の化学構造を分析したところ、アクリル酸n-ブチル由来の構成単位が97モル%、ポリエチレングリコールジアクリレート由来の構成単位が3.0モル%であった。
【0071】
[ゴム組成物の調製及び評価]
ラボミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤をジエン系ゴムに添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0072】
表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
・変性SBR:アルコキシ基及びアミノ基末端変性溶液重合SBR、JSR(株)製「HPR350」
・BR:宇部興産(株)製の「ウベポールBR150B」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックインダストリーズ社製「Si69」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
・2次加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
・ポリマー粒子1~7:上記合成例1~7で合成したもの。
【0073】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行って0℃及び60℃でのtanδを測定した。測定方法は次の通りである。
【0074】
・0℃tanδ:UBM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、tanδが大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0075】
・60℃tanδ:温度を60℃に変え、その他は0℃tanδと同様にしてtanδ測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、発熱しにくく、タイヤでの転がり抵抗が小さくて転がり抵抗性能(即ち、低燃費性)に優れることを示す。
【0076】
【表1】
結果は表1に示す通りである。コントロールである比較例1に対し、ポリマー粒子1を添加した比較例2では、転がり抵抗性能の維持しながらウェットグリップ性能を顕著に向上することができた。ポリマー粒子1に対して架橋鎖が長いポリマー粒子2を配合した比較例2では更にウェットグリップ性能が向上した。架橋構造にエーテル結合又はシロキサン結合を導入したポリマー粒子3~8を配合した実施例1~6であると、比較例1に対して転がり抵抗性能を改善しつつ、ウェットグリップ性能を顕著に改善することができ、比較例2,3に比べても、これらの背反特性が更に改善されていた。