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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】副燃焼室付き内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/08 20060101AFI20231219BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20231219BHJP
   F02B 19/18 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F02B23/08 L
F02B19/12 B
F02B19/12 D
F02B19/18 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019236427
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105353
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 悟
(72)【発明者】
【氏名】森永 幸希
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-224763(JP,A)
【文献】特開平04-287826(JP,A)
【文献】特開2011-214492(JP,A)
【文献】特開昭56-069416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主燃焼室の略中央部に露出するようにシリンダヘッドに設けられた副燃焼室と、シリンダボア軸心と略同心状に配置されたプラグ本体の下端から中心電極と接地電極とを前記副燃焼室内に露出させた状態で前記シリンダヘッドに取り付けられた点火プラグとを備えており、
前記副燃焼室に、シリンダボア軸心に対して交叉した方向に開口したメイン火炎噴孔と、シリンダボア軸心方向に開口したサブ火炎噴孔とが形成されている構成であって、
前記点火プラグの接地電極は、前記中心電極の側方においてプラグ本体から下向きに突出したアーム部と、前記アーム部の下端に一体に連接されて前記中心電極と対向した部位とを有しており、
前記接地電極のうち前記中心電極と対向した部位を、前記プラグ本体の軸心方向から見て前記アーム部から広がっていく形態と成して前記メイン火炎噴孔とサブ火炎噴孔との間の高さ位置に配置させることにより、前記接地電極における中心電極と対向した部位が、前記副燃焼室の内部を前記メイン火炎噴孔が開口した上部空間と前記サブ火炎噴孔が開口した下部空間とに分ける仕切り部になっており
前記上部空間と下部空間とは前記仕切り部の外周外側において互いに連通している、
副燃焼室付き内燃機関。
【請求項2】
前記アーム部と仕切り部との連接部は徐々に幅を変化させた湾曲部になっており、前記湾曲部も前記メイン火炎噴孔の上端縁より下方に位置している、
請求項1に記載した副燃焼室付き内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、副燃焼室付き内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、シリンダヘッドに副燃焼室(副室)を設けることが提案されている。副燃焼室は点火プラグの代わりに設けられており、副燃焼室で発生した火炎を主燃焼室に噴出させて主燃料に着火させる。副燃焼室で生成した火炎は燃料の着火性に優れているため、混合気の燃料がリーン気味であっても確実に燃焼させることができる利点がある。そこで、排気ガスクリーン化促進の有望な技術として注目されている。
【0003】
副燃焼室には火炎噴孔(トーチ孔)が形成されており、通常は、火炎噴孔は、例えば特許文献1の図1~3に開示されているように、シリンダボア軸心に対して傾斜した方向に開口しているが、特許文献1の図4に開示されているように、シリンダボア軸心に対して傾斜した方向に開口した火炎噴孔に加えて、シリンダボア軸心方向に開口した火炎噴孔を設けることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-227344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
副燃焼室内の燃焼ガスは排気行程において火炎噴孔から排出され(掃気され)、吸気行程において混合気が副燃焼室内に火炎噴孔から入り込むが、副燃焼室の火炎噴孔がシリンダボア軸心に対して傾斜したものだけであると、副燃焼室内で燃焼ガスに淀みが発生しやすくて掃気性が悪いという問題がある。
【0006】
他方、特許文献1の図4のようにシリンダボア軸心方向に開口した火炎噴孔を設けると、副燃焼室内で燃焼ガスの流れが発生することにより、燃焼ガスの掃気性を向上できると共に、吸気行程でも流れの発生によって混合気の流入性を向上できる利点がある。
【0007】
このように、副燃焼室にシリンダボア軸心方向に開口した火炎噴孔を設けることは、燃焼ガスの掃気性向上と混合気の流入性向上との利点を有するが、シリンダボア軸心方向に開口した火炎噴孔から噴出した燃焼ガスはピストンの頂面に向かうため、ピストンに奪われる熱量が大きくて熱損失が大きいという問題がある。また、ピストンの特定部位が火炎に集中的に晒されることによるピストンの局部昇温により、ノッキングが発生しやすくなることも懸念される。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の内燃機関は、
「主燃焼室の略中央部に露出するようにシリンダヘッドに設けられた副燃焼室と、シリンダボア軸心と略同心状に配置されたプラグ本体の下端から中心電極と接地電極とを前記副燃焼室内に露出させた状態で前記シリンダヘッドに取り付けられた点火プラグとを備えており、
前記副燃焼室に、シリンダボア軸心に対して交叉した方向に開口したメイン火炎噴孔と、シリンダボア軸心方向に開口したサブ火炎噴孔とが形成されている」
という基本構成において、
「前記点火プラグの接地電極は、前記中心電極の側方においてプラグ本体から下向きに突出したアーム部と、前記アーム部の下端に一体に連接されて前記中心電極と対向した部位とを有しており、
前記接地電極のうち前記中心電極と対向した部位を、前記プラグ本体の軸心方向から見て前記アーム部から広がっていく形態と成して前記メイン火炎噴孔とサブ火炎噴孔との間の高さ位置に配置させることにより、前記接地電極における中心電極と対向した部位が、前記副燃焼室の内部を前記メイン火炎噴孔が開口した上部空間と前記サブ火炎噴孔が開口した下部空間とに分ける仕切り部になっており
前記上部空間と下部空間とは前記仕切り部の外周外側において互いに連通している」
という特徴を有している。
【発明の効果】
【0010】
本願発明において、副燃焼室に充満した混合気に点火プラグで発生した火花によって点火されるが、点火プラグの中心電極と火花ギャップは上部空間に配置されているため、混合気は主として上部空間において燃焼して、高圧の燃焼ガスがメイン火炎噴孔から主燃焼室に向けて噴出する。
【0011】
他方、サブ火炎噴孔に溜まっていた混合気にも上部空間の火炎が伝播して燃焼するが、上下の空間は仕切り部によって分けられていて上部空間の火炎が下部空間に向かうことが抑制されるため、下部空間での燃焼量と燃焼圧は上部空間でのそれに比べて低くなっている。従って、ピストンに向かう火炎は大幅に弱くなる。従って、ピストンに奪われる熱量を抑制して熱損失を低減できると共に、ピストンの局部的昇温を防止してノッキング防止に貢献できる。
【0012】
また、副燃焼室の上部空間と下部空間とは互いに連通しているため、排気行程においては燃焼ガス流れを形成できて掃気性に優れている一方、吸気行程では混合気の流れを形成できて混合気流入性に優れている。
【0013】
従って、本願発明では、副燃焼室内での燃焼ガスと混合気との入れ換え性を向上させて安定した燃焼を実現させつつ、ピストンに放熱されることによる熱損失を大幅に抑制して燃費の向上とノッキング防止とに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態を示す図で、(A)はクランク軸線方向から見た縦断面図、(B)は(A)のB-B視平断面図、(C)は(A)のC-C視断面図である。
図2】(A)は燃焼行程での縦断面図、(B)は吸気行程での縦断面図である。
図3】(A)は第1参考例の平断面図で(B)のA-A視断面図、(B)は(A)のB-B視断面図、(C)は第2実施形態の平断面図、(D)は第2参考例の縦断面図、(E)は(D)のE-E視断面図、(F)は第3参考例の縦断面図、(G)は(F)のG-G視断面図、(H)は第4参考例の縦断面図、(I)は(H)のI-I視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1).第1実施形態
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1,2に示す第1実施形態を説明する。本実施形態は自動車用内燃機関に適用しており、内燃機関は、基本的要素としてシリンダブロック1とその上面にガスケット2を介して固定されたシリンダヘッド3とを有しており、シリンダブロック1には、クランク軸線方向に並んだ複数のシリンダボア4が形成されている。
【0016】
他方、シリンダヘッド3には、シリンダボア4に向いた円錐状の凹所5が形成されており、シリンダブロック1のシリンダボア4とシリンダヘッド3の凹所5とによって主燃焼室6が形成されている。当然ながら、シリンダボア4にはピストン7が摺動自在に嵌まっている。なお、ピストン7の頂面には凹部7aが形成されている。
【0017】
シリンダヘッド3には、各凹所5に対応して、一対ずつの吸気ポート8と一対ずつの排気ポート9とが、クランク軸線を挟んだ両側に形成されている。吸気ポート8は吸気バルブ10で開閉され、排気ポート9は排気バルブ11で開閉される。各吸気ポート8は、それぞれシリンダヘッド3の吸気側面に開口している。
【0018】
他方、各対の排気ポート9は、シリンダヘッド3に形成された集合通路に集まっており、集合通路には1つの排気出口穴が形成されて、排気出口穴はシリンダヘッド3の排気側面に開口している。
【0019】
そして、シリンダヘッド3のうち凹所5の略中央部に、主燃焼室6に露出した副燃焼室13を配置している。副燃焼室13は筒状で底部(下端)は半球状に湾曲しており、筒状の部分に、シリンダボア軸心Oに対して交叉した方向に開口した複数(例えば3~8個)のメイン火炎噴孔14が形成されて、下端(底部)には、シリンダボア軸心Oと同心状のサブ火炎噴孔15が形成されている。
【0020】
また、副燃焼室13は、シリンダヘッド3に上からねじ込み又は圧入された筒状で段付きの本体部16を備えており、本体部16に点火プラグ17がねじ込みによって固定されている。
【0021】
点火プラグ17はシリンダボア軸心Oと略同心に配置されており、点火プラグ17の下端には、プラグ本体の下面から副燃焼室13の内部に露出した中心電極18と接地電極19とを設けている。中心電極18は、台座18aに中心極芯18bを設けた構成である一方、接地電極19は、プラグ本体から延出したアーム部19aと、アーム部19aの下端に一体に設けた仕切り部(仕切り板)19bと、仕切り部19bから上向きに突設した接地極芯19cとを備えており、仕切り部19bはメイン火炎噴孔14の下方で下部空間15の上方に位置している。仕切り部19bは、中心電極18に対して下方から対向しており、中心電極18と仕切り部19bとの間に火花ギャップが空いている。
【0022】
従って、副燃焼室13の内部は、仕切り部19bにより、メイン火炎噴孔14と連通した上部空間20と、サブ火炎噴孔15に連通した下部空間21とに区分されており、両空間20,21は、仕切り部19bの外側の環状通路によって連通している。上部空間20の容積は、下部空間21の容積よりも大きくなっている。本実施形態では、仕切り部19bアーム部19aとの連接部は湾曲部になっており、湾曲部は上から下に向けて幅が大きくなるように変化している。従って、仕切り部19bは、アーム部19aに連接した側が幅狭となるように(アーム部19aから徐々に外径が大きくなるように)、平面視で窄んだ形状になっている(おたまじゃくし状になっている。)。
【0023】
(2).まとめ
図2(A)はピストン7が上死点付近にあって点火プラグ17に通電した状態を示しているが、中心電極18と接地電極19との間の火花ギャップに発生した火花は上部空間20に充満している混合気に着火し、上部空間20の火炎が下部空間21に伝播して、下部空間21での燃焼が行われる。
【0024】
そして、下部空間21での燃焼はいわば二次的なものであり、主たる燃焼は上部空間20において行われるため、高圧で太い火炎がメイン火炎噴孔14から噴出して遠くまで飛んでいく。これにより、主燃焼室6に充満していた混合気に一気に着火させることができる。他方、下部空間21で発生した燃焼によって火炎がサブ火炎噴孔15から下方に向かうが、下部空間21での燃焼量は少なくて圧力も低いため、ピストン7に対する伝熱量は僅かであり、大きな熱損失が生じることもない。また、ピストン7の頂面が局部的に過剰昇温することもなくて、ノッキングを防止できる。
【0025】
他方、排気行程では、排気ガスは、吸気側のメイン火炎噴孔14から排気側のメイン火炎噴孔14に流れたり、サブ火炎噴孔15から排気側のメイン火炎噴孔14に流れたりして副燃焼室13の内部に排気ガスの流れができるため、燃焼ガスは副燃焼室13に残留することなく掃気される。
【0026】
そして、図2(B)に示すように、吸気行程では、吸気ポート8から噴出した混合気が吸気側のメイン火炎噴孔14から排気側のメイン火炎噴孔14及びサブ火炎噴孔15に向かって流れるため、副燃焼室13の内部に混合気の流れが形成されて、副燃焼室13の内部を新たな混合気で充満させることができる。従って、燃料がリーン気味の混合気であっても安定した燃焼を実現できる。
【0027】
(3).他の実施形態及び参考例
図3では他の実施形態を示している。このうち図3(A)(B)に示す第1参考例では、仕切り部19bを点火プラグ17とは別体で平面視円形に形成してアーム部19aの下面に溶接等で固定している。このように仕切り部19bを円形に形成すると、上下空間20,21の仕切り機能が向上するため、サブ火炎噴孔15から噴出する火炎の量を更に抑制できる。仕切り部19bは点火プラグ17と別体であるため、大きさや厚さを任意に設定できて融通性に優れている。既存の点火プラグ17に容易に適用できる利点もある。
【0028】
図3(C)に示す第実施形態では、アーム部19aの下端に円板状の仕切り部19bを一体に設けている。
【0029】
図3(D)(E)に示す第2参考例では、副燃焼室13の内部に円板状の仕切り部19bを溶接などで固定し、仕切り部19bに筒状の接地極芯19cを形成している。従って、第2参考例では、副燃焼室13が接地電極17の一部を構成している。また、接地極芯19cで囲われた部分が、上部空間20と下部空間21とを連通させる連通路22になっている。
【0030】
この第2参考例では、上部空間20と下部空間21との連通路の断面積は僅かであるため、上部空間20から下部空間21への火炎の伝播量は従前の実施形態よりも少なくなっている。従って、下部空間21で発生する燃焼ガスの圧力は低くなっており、結果として、火炎がピストン7に当たることによる熱損失を殆ど無くすことができる。
【0031】
図3の(F)(G)に示す第3参考例は第4実施形態の変形例であり、仕切り部19bの中心部に接地極芯19cを設けて、接地極芯19cの外側に複数の連通路22を形成している。この参考例では、接地極芯19cは棒状であるため、放電を安定化できる利点がある。また、連通路22の数や大きさ、配置を選択することより、上部空間20から下部空間21への火炎伝播を最適化できる。図の上部空間20では、連通路22を隣り合ったメイン火炎噴孔14の間に配置することにより、下部空間21への火炎の逃げを抑制している。
【0032】
図3のうち(H)(I)に示す第4参考例では、第1,2参考例と同様に仕切り部19bは円板状に形成されているが、仕切り部19bは複数本のアーム部19aを介して点火プラグ17に一体化されている。そして、副燃焼室13の内部に、仕切り部19bが重なる段部23を形成している。また、第3参考例と同様に、仕切り部19bに複数の連通路22を形成している。
【0033】
本参考例では、電流はアーム部19aからアースできるため、副燃焼室13と仕切り部19bとを電気的に絶縁できる。従って、電流の拡散はなくて火花形成の安定性に優れている。また、本参考例のように接地電極19を13とは別体に形成してアーム部19aから電流をアースさせると、接地電極19は電気特性に優れた素材を使用できることによる火花形成機能の向上効果もある。更に、複数のアーム部19aを形成すると、ギャップ寸法の変化を防止できると共に電気抵抗を低減させてアース機能を向上できるため、火花の形成を更に安定化できて好適である。
【0034】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、仕切り部19bは平面視で角形などにも形成できる。副燃焼室は、シリンダヘッドに下方からねじ込んで固定したり、凹部の下面に溶接で固定したりすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明は、実際に内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0036】
3 シリンダヘッド
4 シリンダボア
7 ピストン
14 メイン火炎噴孔
15 サブ火炎噴孔
17 点火プラグ
18 中心電極
19 接地電極
19a アーム部
19b 仕切り部
19c 接地極芯
20 上部空間
21 下部空間
O シリンダボア軸心
図1
図2
図3