(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】燃料電池システムおよびその排気湿度推定方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04492 20160101AFI20231219BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20231219BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20231219BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20231219BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20231219BHJP
【FI】
H01M8/04492
H01M8/04 Z
H01M8/0438
H01M8/0432
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020004839
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布川 拓未
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-222854(JP,A)
【文献】特開2008-027674(JP,A)
【文献】特開2009-074586(JP,A)
【文献】特開2014-225472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04492
H01M 8/04
H01M 8/0438
H01M 8/0432
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と水素の反応により発電する燃料電池システムであって、
燃料電池の吸気側空気における質量流量値WF
1と、前記燃料電池の排気側空気における質量流量値WF
2をそれぞれ計測する質量流量値計測手段と、
前記燃料電池において消費した消費酸素の質量流量値Owを取得する消費酸素の質量流量値取得手段と、
前記排気側空気における温度値Toutを取得する排気温度取得手段と、
前記排気側空気における湿度Houtを推定する排気湿度推定手段と、を含み、
前記排気湿度推定手段は、
前記燃料電池システムの
前記吸気側空気における質量流量値WF
1
と
前記排気側空気における質量流量値WF
2
の差と、前記消費酸素の質量流量値と、に基づいて、前記排気側空気の湿度Houtを推定する、燃料電池システム。
【請求項2】
前記排気湿度推定手段は、
前記WF
2-(前記WF
1-前記Ow)の式に基づいて前記排気側空気における水蒸気の流量WVoutを算出し、前記Toutに対応した前記排気側空気の飽和水蒸気量に対する、算出した前記水蒸気の流量WVoutの比に基づいて、前記排気側空気の湿度Houtを推定する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池の温度を取得する電池温度取得手段をさらに含み、
前記排気湿度推定手段は、前記電池温度取得手段で取得した前記温度に基づいて、前記吸気側空気に含有される水蒸気の流量を決定する、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記吸気側空気における水蒸気量を計測する吸気側湿度計測手段をさらに含み、
前記排気湿度推定手段は、前記吸気側湿度計測手段で計測した湿度に基づいて、前記質量流量値WF
1から前記吸気側空気に含有される水蒸気の流量を減算する、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池の吸気側に配置されて前記質量流量値WF
1を計測する第1質量流量センサと、前記燃料電池の排気側に配置されて前記質量流量値WF
2を計測する第2質量流量センサと、を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
燃料電池の排気側空気における湿度を推定する燃料電池システムの排気湿度推定方法であって、
前記燃料電池の吸気側空気における質量流量値WF
1と、前記燃料電池の排気側空気における質量流量値WF
2をそれぞれ取得する質量流量値取得工程と、
前記燃料電池において消費した消費酸素の質量流量値Owを取得する消費酸素の質量流量値取得工程と、
前記排気側空気における温度値Toutを取得する排気温度取得工程と、
前記燃料電池システムの
前記吸気側空気における質量流量値WF
1
と
前記排気側空気における質量流量値WF
2
の差と、前記消費酸素の質量流量値と、に基づいて、前記排気側空気の湿度Houtを推定する排気側湿度推定工程と、
を有する排気湿度推定方法。
【請求項7】
前記排気側湿度推定工程では、
前記質量流量値WF
2-(前記質量流量値WF
1-前記消費酸素の質量流量値Ow)によって前記排気側空気における水蒸気の流量WVoutを算出し、前記Toutに対応した前記排気側空気の飽和水蒸気量に対する、算出した前記水蒸気の流量WVoutの比に基づいて、前記排気側空気の湿度Houtを推定する、請求項6に記載の排気湿度推定方法。
【請求項8】
前記燃料電池の温度を取得する電池温度取得工程をさらに有し、
前記取得した温度に基づいて、前記吸気側空気に含有される水蒸気の流量が決定される、請求項6又は7に記載の排気湿度推定方法。
【請求項9】
前記吸気側空気における水蒸気量を計測する吸気側湿度計測工程をさらに有し、
前記計測した水蒸気量に基づいて、前記質量流量値WF
1から前記吸気側空気に含有される水蒸気量が減算される、請求項6~8のいずれか一項に記載の排気湿度推定方法。
【請求項10】
前記燃料電池の吸気側に配置された第1質量流量センサと、前記燃料電池の排気側に配置された第2質量流量センサと、を用いて、前記質量流量値WF
1および前記質量流量値WF
2がそれぞれ計測される、請求項6~9のいずれか一項に記載の排気湿度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両などに適用される燃料電池システムに関し、より具体的には簡易な手法で精度良く排気湿度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において移動手段として例えば自動車は不可欠であり、日常において様々な車両が路上を移動している。近年では、鉛蓄電池やリチウムイオン電池に対して代替可能な新たな電池として、環境に対する負荷が比較的小さい燃料電池が注目されてきている。
【0003】
かような燃料電池においては、一方の電極(燃料極)に対して水素を供給するとともに、他方の電極(空気極)に対して酸素を供給し、これらが反応することで電気エネルギーを得ている。ここで燃料電池には固体電解質が用いられており、この固体電解質に対する水分管理が重要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した各特許文献に限らず現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず以下に述べる課題が存在する。
例えば上記した特許文献1では、燃料電池の入口付近に配置された加湿器近傍の温度と、燃料電池内の温度によって、この燃料電池の吸気(エア供給路)を流れる空気の湿度を推定することで発電性能を確保している。
【0006】
しかしながら燃料電池出口側のエア湿度は発電に伴って発生する水分を含有するため、燃料電池のエア供給路側とエア排出路側とでは異なる湿度の値となることが予想される。そして燃料電池の状態管理におけるキーファクターは電解質の水分管理でもあるため、この電解質を通過した排気経路の湿度を用いるほうがよい場合もあり得る。
【0007】
本発明は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、燃料電池の状態管理に有用な排気湿度を簡易な構成で取得可能な燃料電池システムおよびその排気湿度の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態における燃料電池システムは、(1)酸素と水素の反応により発電する燃料電池システムであって、燃料電池の吸気側空気における質量流量値WF1と、前記燃料電池の排気側空気における質量流量値WF2をそれぞれ計測する質量流量値計測手段と、前記燃料電池において消費した消費酸素の質量流量値Owを取得する消費酸素の質量流量値取得手段と、前記排気側空気における温度値Toutを取得する排気温度取得手段と、前記排気側空気における湿度Houtを推定する排気湿度推定手段と、を含み、前記排気湿度推定手段は、前記燃料電池システムの前記吸気側空気における質量流量値WF
1
と前記排気側空気における質量流量値WF
2
の差と、前記消費酸素の質量流量値と、に基づいて、前記排気側空気の湿度Houtを推定する。
【0009】
なお、上記した(1)に記載の燃料電池システムにおいては、(2)前記排気湿度推定手段は、前記WF2-(前記WF1-前記Ow)の式に基づいて前記排気側空気における水蒸気の流量WVoutを算出し、前記Toutに対応した前記排気側空気の飽和水蒸気量に対する、算出した前記水蒸気の流量WVoutの比に基づいて、前記排気側空気の湿度Houtを推定することが好ましい。
【0010】
また、上記した(1)又は(2)に記載の燃料電池システムにおいては、(3)前記燃料電池の温度を取得する電池温度取得手段をさらに含み、前記排気湿度推定手段は、前記電池温度取得手段で取得した前記温度に基づいて、前記吸気側空気に含有される水蒸気の流量を決定することが好ましい。
【0011】
また、上記した(1)~(3)のいずれかに記載の燃料電池システムにおいては、(4)前記吸気側空気における水蒸気量を計測する吸気側湿度計測手段をさらに含み、前記排気湿度推定手段は、前記吸気側湿度計測手段で計測した湿度に基づいて、前記質量流量値WF1から前記吸気側空気に含有される水蒸気の流量を減算することが好ましい。
【0012】
また、上記した(1)~(4)のいずれかに記載の燃料電池システムにおいては、(5)前記燃料電池の吸気側に配置されて前記質量流量値WF1を計測する第1質量流量センサと、前記燃料電池の排気側に配置されて前記質量流量値WF2を計測する第2質量流量センサと、を含むことが好ましい。
【0013】
また、上記課題を解決するため、本発明の一実施形態における燃料電池システムの排気湿度推定方法は、(6)燃料電池の排気側空気における湿度を推定する燃料電池システムの排気湿度推定方法であって、前記燃料電池の吸気側空気における質量流量値WF1と、前記燃料電池の排気側空気における質量流量値WF2をそれぞれ取得する質量流量値取得工程と、前記燃料電池において消費した消費酸素の質量流量値Owを取得する消費酸素の質量流量値取得工程と、前記排気側空気における温度値Toutを取得する排気温度取得工程と、前記燃料電池システムの前記吸気側空気における質量流量値WF
1
と前記排気側空気における質量流量値WF
2
の差と、前記消費酸素の質量流量値と、に基づいて、前記排気側空気の湿度Houtを推定する排気側湿度推定工程と、を有する。
【0014】
また、上記した(6)に記載の排気湿度推定方法においては、(7)前記排気側湿度推定工程では、前記質量流量値WF2-(前記質量流量値WF1-前記消費酸素の質量流量値Ow)によって前記排気側空気における水蒸気の流量WVoutを算出し、前記Toutに対応した前記排気側空気の飽和水蒸気量に対する、算出した前記水蒸気の流量WVoutの比に基づいて、前記排気側空気の湿度Houtを推定することが好ましい。
【0015】
また、上記した(6)又は(7)に記載の排気湿度推定方法においては、(8)前記燃料電池の温度を取得する電池温度取得工程をさらに有し、前記取得した温度に基づいて、前記吸気側空気に含有される水蒸気の流量が決定されることが好ましい。
【0016】
また、上記した(6)~(8)のいずれかに記載の排気湿度推定方法においては、(9)前記吸気側空気における水蒸気量を計測する吸気側湿度計測工程をさらに有し、前記計測した水蒸気量に基づいて、前記質量流量値WF1から前記吸気側空気に含有される水蒸気量が減算されることが好ましい。
【0017】
また、上記した(6)~(9)のいずれかに記載の排気湿度推定方法においては、(10)前記燃料電池の吸気側に配置された第1質量流量センサと、前記燃料電池の排気側に配置された第2質量流量センサと、を用いて、前記質量流量値WF1および前記質量流量値WF2がそれぞれ計測されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、排気側空気の湿度を簡易な構成で取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態に係る燃料電池システムの全体ブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る制御装置(ECU)のブロック図である。
【
図3】一実施形態に係る排気湿度推定方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図3のフローチャートのうち湿度推定の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図3のフローチャートのうち湿度推定の他の例を示すフローチャートである。
【
図6】他の実施形態に係る燃料電池システムの全体ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。また、以下で詳述する以外の構成については、上記した特許文献を含む公知の燃料電池システムに関する要素技術や構成を適宜補完してもよい。
【0021】
<燃料電池システム100>
まず本発明の好適な実施形態における係る燃料電池システム100の構成について、
図1を参照しながら説明する。本実施形態における燃料電池システム100は、例えば燃料電池自動車(FCV)に搭載される。以下では燃料電池システム100の適用例としてFCVの場合を説明するが、本発明はFCVに限られず、住宅設備などの定置型電池システムや航空機などの移動型電池システムにも好適である。
【0022】
FCVに搭載される燃料電池システム100は、車両の各部位を制御する制御装置10(ECU)と、この制御装置10に制御される燃料電池20と、この燃料電池20にアノードガスおよびカソードガスを供給するガス供給系30と、を含んで構成されている。
このうち本実施形態のガス供給系30は、燃料電池20のカソード電極側に空気(エア)を供給するカソードガス供給手段としてのエアフィルタ31、アノード電極側に水素ガスを供給する水素タンク33などを含んで構成されている。
【0023】
図1に示すとおり、エアフィルタ31を介して車外から取り込まれたエアは、コンプレッサ32によって圧縮されて空気供給経路を介して燃料電池20の酸素極21(空気極)に送られる。このとき、公知の加湿装置(不図示)によって加湿されることが好ましい。そして燃料電池20内の電気化学反応で酸素が消費された後は、空気圧調整弁18aで圧力が調整されつつ排気経路を通ってシステム外へ排気される。
【0024】
なお酸素極21に供給されるエアの圧力は、燃料電池20における酸素極21の入口付近に設けられた公知の空圧計(不図示)によって検出されており、この検出された空圧が所定圧力となるように空気圧調整弁18aが制御装置10によって制御される。
また、燃料電池20に供給されるエアへの加湿態様としては、排気した空気中の水分を再利用する水蒸気交換膜を用いる態様や、純水などの水分をエアに供給する膜加湿器や噴霧器など公知の種々の装置を用いてもよい。
【0025】
また、本実施形態の燃料電池システム100は、燃料電池20へと供給される吸気側空気(エア)の供給経路上に、この吸気側空気の質量流量を計測する質量流量値計測手段としての質量流量センサ11aを有している。より具体的に本実施形態においては、この質量流量センサ11aは、上記した供給経路上のうちコンプレッサ32よりも上流側であって、エアフィルタ31の下流側に設けられていることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態の燃料電池システム100は、燃料電池20へと供給される吸気側空気(エア)の供給経路上に、この吸気側空気の湿度を計測する吸気側湿度計測手段としての湿度センサ15aを有していてもよい。なお、この湿度センサ15aは必須ではなく、後述する所定の条件下で適宜省略してもよい。
【0027】
一方、本実施形態の燃料電池システム100は、燃料電池20から排気された排気側空気(排気エア)の排気経路上に、この排気側空気の質量流量を計測する質量流量値計測手段としての質量流量センサ11bを有している。より具体的に本実施形態においては、この質量流量センサ11bは、上記した排気経路上のうち空気圧調整弁18aよりも上流側に設けられていることが好ましい。これら質量流量センサ11aおよび11bは、コリオリ流量計や熱式質量流量計など公知の種々の質量流量センサのうちFCVに好適なものを適宜適用することができる。
【0028】
また、本実施形態の燃料電池システム100は、燃料電池20から排気された排気側空気(排気エア)の排気経路上に、この排気側空気の温度を計測する排気温度計測手段としての温度センサ13aを有していることが好ましい。なお、この温度センサ13aは必須ではなく、後述する所定の条件下で適宜省略してもよい。
【0029】
図1に示すとおり、水素タンク33によって供給された水素は、水素供給経路を通って水素調圧弁34で所望の圧力に調圧された後に、燃料電池20の水素極22(燃料極)に送られる。かような水素極22は、例えば固体高分子型電解質膜を用いた電解質膜23を介して酸素極21と対向している。このとき、水素極に送られる水素に対して公知の加湿器(不図示)を用いて加湿を行ってもよい。なお本実施形態における水素ガスの供給系には、発電中に酸素極21から水素極22に透過してくる窒素や水素タンク33内に含まれる不純物などが蓄積してくるため、これらの不純物を系外へ排出する経路と排出弁37を有していることが好ましい。
【0030】
また、燃料電池20内における電気化学反応で水素が消費された後で、余分に水素極22へと供給された水素については、水素循環経路を介して水素循環器35によって再び水素ガスの供給経路へと再利用される。また、水素極22に供給される水素の圧力は、この水素極22の入口付近に設けられた圧力計36で検出されており、この検出された水素の圧力が所定圧力となるように水素調圧弁34が制御装置10によって制御される。なお、このような水素調圧の手段としては、例えば上記所定圧力となるように、インジェクタの水素噴射量を車両のECUが制御し、あるいは、水素調圧弁34が機械的に圧力制御することなどが挙げられる。
【0031】
また、燃料電池20の発電により発生した熱を冷却して電池本体を適温に保つために、冷却水系が設けられている。より具体的には冷却水ポンプ25によって加圧して送られた冷却水(クーラント)は、燃料電池20を通過することで上記熱を吸収した後、冷却水の循環経路を通ってラジエータなど公知の熱交換器24に送られる。そして上記した熱はこの熱交換器24で系外へ排熱された後、冷却水は再び冷却水ポンプ25で燃料電池20へと圧送されて循環する。
【0032】
なお本実施形態の燃料電池システム100は、燃料電池20から排出された冷却水の温度を検出する温度計13bを有している。したがって制御装置10は、燃料電池20を通過した冷却水の水温をこの温度計13bでモニタしながら、燃料電池20の温度Tfcvを発電に適正な温度に調整する制御を行う。
【0033】
燃料電池20によって発電された電力を消費する負荷装置としては、例えばFCVの駆動モータに電力を供給するインバータ装置などが例示できる。燃料電池20によって発電される電圧については、不図示の電圧計で検出されるとともに、燃料電池20からインバータ装置などへ供給される電流は、電流計12aにより検出される。
【0034】
[制御装置10]
次に、
図2も参照しつつ、本実施形態の燃料電池システム100における制御装置10の構成について説明する。
図2に示すとおり、本実施形態の制御装置10は、質量流量値計測部11、消費酸素の質量流量値取得部12、排気側空気温度取得部13、飽和水蒸気量取得部14、吸気側水蒸気量取得部15、排気側空気湿度推定部16および報知制御部17などを含んで構成されている。この制御装置10としては、不図示のメモリなどを有するCPUなど公知のコンピュータ装置が例示でき、上記した燃料電池システム100全体を制御する機能を有している。
【0035】
また同図に示すとおり、制御装置10は、通信装置40を介してインターネットなどの外部ネットワークと接続可能に構成されていることが好ましい。かような通信装置40は、FCVの外部と情報通信を行う機能を備えた公知の車載通信機器が例示できる。また、外部ネットワークとしては、上記したインターネットに限られず、例えば無線通信を介して渋滞情報や道路交通情報などの各種情報を発信する基地局からの情報通信ネットワークなども含まれる。
【0036】
また、制御装置10は、FCVに搭載されたセンサ類50から各種の信号を受信可能に構成されている。これらセンサ類50は、FCVに搭載されて各種の情報を検出する種々の機能を有している。本実施形態では、一例として、湿度センサ51及び外気温センサ52などが例示できるが、さらに例えば照度センサや路面センサなど車両に搭載される公知のセンサが適用できる。また、制御装置10は、FCVにそれぞれ搭載された公知のナビゲーション装置60、スピーカSPおよびディスプレイDPと通信可能に構成されている。
なお本実施形態では湿度センサ51及び外気温センサ52を図示したが、所望の機能を発揮すべくこれら公知のセンサ類を適宜選択省略してもよい。
【0037】
質量流量値計測部11は、燃料電池20の上記した吸気側空気における質量流量値WF1と、燃料電池20の排気側空気における質量流量値WF2をそれぞれ計測する質量流量値計測手段としての機能を有している。より具体的には、質量流量値計測部11は、制御装置10と電気的に接続された質量流量センサ11a(第1質量流量センサ)から吸気側空気における質量流量値WF1を取得するとともに、同様に制御装置10と電気的に接続された質量流量センサ11b(第2質量流量センサ)から排気側空気における質量流量値WF2を取得する。
【0038】
なお、本実施形態では質量流量センサを用いて直接的に質量流量値を計測しているが、例えば公知の体積流量センサを用いて体積流量値を計測した後で公知の手法により質量流量値に換算する形態であってもよい。このように質量流量センサ11aと質量流量センサ11bの少なくとも一方を、公知の体積流量センサに代替してもよい。
【0039】
消費酸素の質量流量値取得部12は、燃料電池20において発電により消費した消費酸素の質量流量値Owを取得する消費酸素の質量流量値取得手段としての機能を有している。より具体的には、本実施形態では、消費酸素の質量流量値取得部12は、制御装置10と電気的に接続された電流計12aにより計測された電流値に基づいて、消費酸素の質量流量値Owを算出する。本実施形態においては、理論式「4H++O2+4e→2H2O」を用いて消費酸素の質量流量値Owを算出する。なお、この質量流量値Owは、予め燃料電池20で発電により消費される酸素及び水素と電気エネルギー(電荷量)との関係式を実験またはシミュレーションにより算出して保持しておいてもよい。そしてこの保持した関係式と電流密度及び有効反応面積に基づいて、電荷量(クーロン(C)=電流値(A)×秒(s))から消費酸素の質量流量値を公知の手法によって算出している。
【0040】
排気側空気温度取得部13は、上述した燃料電池20の排気側空気における温度値Toutを取得する排気温度取得手段としての機能を有している。より具体的には、排気側空気温度取得部13は、上記した排気経路上に配置された温度センサ13aで計測された排気側空気の温度値Toutを取得してもよい。
または、上記した温度センサ13aを燃料電池システム100が具備しない場合には、排気側空気の温度値Toutとして、燃料電池20から排出された冷却水の温度を検出する温度計13bの温度値で代用してもよい。燃料電池20から排出された直後の冷却水の温度は、排気側空気の温度と等価であると見做せるからである。
【0041】
飽和水蒸気量取得部14は、予め制御装置10と電気的に接続されたメモリMに保存された飽和水蒸気曲線データから、所定の温度における飽和水蒸気量を取得する機能を有している。なおメモリMに保存された飽和水蒸気曲線データは、例えば飽和水蒸気量と気温(温度)との関係が、Tetens(テテンス)の式やWagner(ワグナー)の式などの公知の換算式に基づいて設定されている。
【0042】
吸気側水蒸気量取得部15は、燃料電池20へと供給される吸気側空気(エア)に含まれる水蒸気量(水分量)を取得する吸気側湿度計測手段としての機能を有している。より具体的には、吸気側水蒸気量取得部15は、燃料電池20の上記した供給経路上に設けられた湿度センサ15aによって計測された水蒸気量(水分量)を取得するように構成されている。
【0043】
排気側空気湿度推定部16は、燃料電池システム100における吸気流量と排気流量の差と、上記した消費酸素の質量流量値Owと、に基づいて、排気側空気における湿度Houtを推定する排気湿度推定手段としての機能を有している。より具体的には、本実施形態の排気側空気湿度推定部16は、一例として以下に示すα~γの処理を行ってもよい。
α:上記した排気側空気における質量流量値WF2に対し、吸気側空気における質量流量値WF1から消費酸素の質量流量値Owを引いた値を、減算する。これにより排気側空気における水蒸気の流量WVoutを算出する。
β:取得した排気側空気の温度値Toutに対応した排気側空気の飽和水蒸気量a(T)outを取得する。
γ:排気側空気の飽和水蒸気量a(T)outに対する、排気側空気における水蒸気の流量WVoutの比(WVout/a(T)out)に基づいて、排気側空気の湿度Houtを推定する。
【0044】
なおこのとき、排気側空気湿度推定部16は、燃料電池20の温度Tfcvに基づいて吸気側空気(エア)に含まれる水蒸気(水分)の量(質量流量)を決定することができる。
また、燃料電池システム100が上記した吸気側湿度計測手段(湿度センサ15a)を具備しているとき、排気側空気湿度推定部16は、前記した吸気側湿度計測手段で計測した湿度に基づいて、前記した質量流量値WF1から吸気側空気に含有される水蒸気の流量を減算する。
【0045】
報知制御部17は、上記したスピーカSPおよびディスプレイDPを介した報知を制御する機能を有している。例えば報知制御部17は、排気側空気湿度推定部16による排気側空気における湿度Houtの推定結果に基づいて、スピーカSP又はディスプレイDPを介して燃料電池20の状態を報知することができる。これにより、湿度Houtの推定結果に基づいて燃料電池20の不具合が検出された場合に、いち早く乗員などに異常を伝達することが可能となる。
また、排気側空気湿度推定部16による排気側空気における湿度Houtの推定結果は、燃料電池システム100を備えたFCVの状態制御に利用してもよい。例えば、上記した湿度Houtが低い場合には吸気側で加湿制御してもよいし、湿度Houtが高い場合には逆に乾燥制御を行ってもよい。これらの加湿制御や乾燥制御の具体的な手法としては、例えば燃料電池20における温度の昇温/降温や、吸気流量、過給圧の制御などが例示できる。
【0046】
<排気湿度推定方法>
次に
図3~
図5も適宜参照しつつ、本実施形態における燃料電池システム100の排気湿度推定方法について説明する。
図3に示すとおり、まずステップ1においては、燃料電池20の排気側空気における湿度を推定するか否かが判定される。ステップ1で湿度推定要と判定された場合には続くステップ2に移行するが、この湿度推定要の判断は例えば所定の周期毎に自動で行ってもよいし、乗員などが手動で湿度推定を要とする入力を行ってもよい。
【0047】
続くステップ2では、燃料電池20は安定しているかが判定される。そして燃料電池システム100の起動後でしばらく経過した状態など安定している場合にはステップ3-Aに移行し、一方で燃料電池システム100の起動直後の状態など安定していない場合にはステップ3-Bに進む。そしてステップ3-Bでは、上記したディスプレイDPを介して、例えば現在は湿度推定ができない旨などの警告表示を行う。
なお、燃料電池システム100の起動直後の状態における湿度も推定する場合などがあることから、このステップ2は必須ではなく適宜省略してもよい。
【0048】
[湿度推定処理(その1)]
ステップ3-Aでは、燃料電池20の状態管理を行うために、上記した制御装置10によって、例えば
図4に示す排気側空気における湿度推定処理が実行される。
すなわち
図4に示すとおり、湿度推定処理においては、まずステップ31で吸気側空気の水分量が測定される(吸気側湿度計測工程)。より具体的には上述した吸気側湿度計測手段としての湿度センサ15aで計測した湿度に基づいて吸気側空気の水分量が測定される。
【0049】
そしてこの湿度推定処理(その1)では、排気側空気における湿度を推定する際には、質量流量センサ11aで計測した質量流量値WF1の値から吸気側空気に含有される水蒸気の流量値(この吸気側空気の水分量)が減算されたものが「吸気側空気における質量流量値WF1」となる。なお、後述する湿度推定処理(その2)も示すとおり、「吸気側空気における質量流量値WF1」には上記した水蒸気の流量値(この吸気側空気の水分量)が含まれていてもよく、例えば燃料電池が充分に高温である場合などはこの水蒸気の流量値はないもの(乾燥しているもの)として取り扱うことができる。
【0050】
次いでステップ32では、上記した質量流量センサ11aおよび11bを介して、燃料電池20の吸気側空気における質量流量値WF1と、燃料電池20の排気側空気における質量流量値WF2をそれぞれ取得する(質量流量値取得工程)。
そして続くステップ33では、前記した消費酸素の質量流量値取得手段としての電流計12aにより計測された電流値に基づいて、燃料電池20において消費した消費酸素の質量流量値Owを取得する(消費酸素の質量流量値取得工程)。
【0051】
そして続くステップ34~ステップ36では、上記で得られた各パラメータを用い、燃料電池システム100における吸気流量と排気流量の差と消費酸素の質量流量値Owとに基づいて、排気側空気の湿度推定が実行される(排気側湿度推定工程)。
すなわち、ステップ34では、上記した「質量流量値WF2-(前記質量流量値WF1-前記消費酸素の質量流量値Ow)」に基づいて排気側空気における水蒸気の流量WVoutが算出される。
【0052】
また、ステップ35では、排気温度取得手段としての温度センサ13aによって排気側空気における温度値Toutを取得するとともに(排気温度取得工程)、この排気側空気における温度値Toutに対応した飽和水蒸気量をメモリMから読出して取得する。
そしてステップ36では、前記した排気側空気の飽和水蒸気量a(T)outと、排気側空気における水蒸気の流量WVoutの比(WVout/a(T)out)に基づいて、排気側空気の湿度Houtが推定される。
【0053】
以下、上記した排気湿度推定方法を実車に適用した際の一例を示す。
すなわち、本実施形態の燃料電池システム100を搭載するFCVが、走行中のある一場面において燃料電池20の状態管理を行っていると仮定する。このとき、上記した各センサによって計測されるパラメータ値はそれぞれ次の値を示したとする。
(a)質量流量センサ11aで取得した質量流量値WF1:100g/sec
(b)質量流量センサ11bで取得した質量流量値WF2:110g/sec
(c)電流計12aの電流値から導かれた消費酸素の質量流量値Ow:10g/sec
(d)温度センサ13aによって計測された温度値Tout:90℃
(e)湿度センサ15aによって計測された吸気側空気の水分量:0.3g/sec
(f)燃料電池20の温度Tfcv:90℃
【0054】
まず吸気側空気の質量流量から水蒸気の質量流量を除いた値を質量流量値WF1として算出する。そして湿度センサ15aで計測した水蒸気量に基づいて、質量流量値WF1から吸気側空気に含有される水蒸気量が減算される。これにより、水蒸気の質量流量分が除かれた質量流量値WF1=100-0.3=99.7g/secが求められる。
次いで「質量流量値WF2-(前記質量流量値WF1-前記消費酸素の質量流量値Ow)」に基づいて、「110-99.7+10」で排気側空気における水蒸気の流量WVoutが「20.3g/sec」と算出される。
次いで、温度値Tout(90℃)に対応した飽和水蒸気量(この場合は421.45g/m3)をメモリMから読出す。
【0055】
ここで、排気側空気の気体構成は「窒素:100×0.8/28=2.9mol、酸素:(100×0.2-10)/32=0.3mol」である。また、上記で算出した水蒸気のモル数は「20.3/18=1.1mol」である。
したがって、排気圧力(測定値又は過給圧から推定される)240kPa(絶対圧)のとき、排気側空気の体積流量はPV=nRTを用いて次の式(K)のとおりとなる。
240×(排気側空気の体積流量)=(2.9+0.3+1.1)×8.31×10-3×(90+273)・・・(K)
【0056】
したがって、(排気側空気の体積流量)の値としては、0.054m3/secが算出される。ここで、排気湿度[%]=水蒸気流量[g/sec]/排気側空気の流量[m3/sec]/飽和水蒸気量[g/m3]×100、であることから、推定される排気側空気の湿度Houtは次の式(L)で求められた数値(%)となる。
Hout=20/0.054/421.45×100=87.8(%) ・・・(L)
【0057】
[湿度推定処理(その2)]
次に本実施形態における湿度推定処理における他の例について、
図5を参照しつつ説明する。なお本例において、既述した「湿度推定処理(その1)」と同じ内容については同じ参照番号を付すなどして適宜その説明は省略する。
【0058】
図5に示すように、本実施形態における湿度推定処理(その2)では、燃料電池20の電池温度が充分に高い場合には吸気側空気を乾燥空気(水分量が略ゼロ)と見做して取り扱うことに特徴がある。ここで、「電池温度が充分に高い場合」とは、空気中の水分量が上記した排気側空気の湿度Houtの推定にほとんど影響しない場合を言い、一例として80℃以上などに設定することができる。
【0059】
すなわち、湿度推定処理(その2)では、まずステップ30として、燃料電池20の温度Tfcvが取得され、この電池温度が所定値以上であるかが判定される(電池温度取得工程)。上述のとおり本実施形態では、「所定値」として「80℃」が設定できる。なお燃料電池20の温度Tfcvを取得する電池温度取得手段としては、特に限定されず、燃料電池に搭載可能な公知の種々の温度計(不図示)を適用できる。
【0060】
そしてステップ30で燃料電池20の温度Tfcvが所定値以上でない場合(ステップ30でNoの場合)には、ステップ31Aに移行して吸気側空気の水分量が測定される。なおこのステップ31Aは上述のステップ31と同じであるからその説明は省略する。
一方で、ステップ30で燃料電池20の温度Tfcvが所定値以上である場合(ステップ30でYesの場合)には、ステップ31Bに移行して吸気側空気を乾燥空気(すなわち水分量がゼロ)として取り扱う設定処理が行われる。このようにステップ31Bでは、取得した燃料電池20の温度Tfcvに基づいて、吸気側空気に含有される水蒸気の流量が決定される。
【0061】
以降は、吸気側空気の水分量がゼロであることを除いて、上記した湿度推定処理(その1)と同様な処理が行われる。
このように湿度推定処理(その2)では、高温となった燃料電池20周囲の状態は水分量が少ないことから、そのような燃料電池20に流入する吸気側空気を乾燥気体として取り扱うようにした。これにより、湿度推定処理(その1)に比してより簡易な手法で排気側空気の湿度Houtを推定できる。
【0062】
以上説明した本実施形態の燃料電池システムおよびその排気湿度推定方法によれば、通常のFCVであれば装備される標準部品を用いるだけで、排気側空気の湿度を容易に取得することが可能となる。
なお上記した各実施形態は本発明の好適な一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて実施形態の各要素を適宜組み合わせて新たな構造や制御を実現してもよい。以下、本実施形態に適用が可能な変形例について説明する。
【0063】
<変形例>
図6は上記した実施形態の変形例を示す。
同図に示すとおり、変形例に係る燃料電池システム110は、上記した燃料電池システム100に比して排気経路において少なくとも質量流量センサ11bが省略されている点などに特徴がある。すなわち、本変形例では、もともとFCVに装備されている温度計13b、空気圧調整弁18aおよび排気側圧力センサ19aによって質量流量センサ11bを代用することを特徴とする。
【0064】
より具体的には、排気側空気の温度については、上記のとおり燃料電池20から排出された冷却水の温度を検出する温度計13bの温度値に基づいて算出する。そして制御装置10は、上記した空気圧調整弁18aの開度および排気側圧力センサ19aで取得した圧力もさらに取得して、例えば特開2007-172971号に開示されるごとき公知の換算式を用いて排気側空気の質量流量値WF2を算出する。
このように本変形例によれば、上記した実施形態の効果に加え、排気側空気の湿度を推定するための専用品を装備する必要はなく部品点数をさらに削減することができる。
【0065】
また、上記した湿度推定処理においては、上記した湿度センサ15aを用いて実際の吸気側空気の湿度を測定する湿度推定処理(その1)の代替案として湿度推定処理(その2)を説明したが、本発明はこの例に限られない。他の代替案として、例えば吸気側空気の湿度を暫定値(例えば50%など)として予め設定して暫定的な固定値として扱ってもよいし、車両の位置情報と日時情報と天候情報を取得して当該地域の季節、天気、及び時間帯の少なくとも1つから吸気側空気の湿度を予測してもよい。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態および変形例について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0067】
100 制御システム
10 制御装置
20 燃料電池
30 ガス供給系