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特許7405633貝類育成用基盤、貝類育成用基盤の製造方法および貝類育成用基盤の更新方法
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  • 特許-貝類育成用基盤、貝類育成用基盤の製造方法および貝類育成用基盤の更新方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】貝類育成用基盤、貝類育成用基盤の製造方法および貝類育成用基盤の更新方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/73 20170101AFI20231219BHJP
【FI】
A01K61/73
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020017797
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021122231
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】真下 昌章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大雅
(72)【発明者】
【氏名】飯野 藤樹
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-308407(JP,A)
【文献】特開平07-079658(JP,A)
【文献】特開2019-041739(JP,A)
【文献】特開平08-130999(JP,A)
【文献】実開昭60-033865(JP,U)
【文献】実開昭58-192570(JP,U)
【文献】特開2011-193837(JP,A)
【文献】特開昭59-039232(JP,A)
【文献】特開2001-172937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/70-61/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基盤と、
第2の基盤と、
前記第1の基盤と前記第2の基盤との間に介在するスペーサ部と、
前記第1の基盤と前記第2の基盤とを側面で連結する側面固定部と、を有し、
前記側面固定部は多孔質部材を有し、
前記第1の基盤の材料の一部と前記第2の基盤の材料の一部が前記多孔質部材に含浸している、貝類育成用基盤。
【請求項2】
前記スペーサ部の厚さは0.5mm~50mmである、
請求項1記載の貝類育成用基盤。
【請求項3】
前記スペーサ部は、分離可能である、
請求項1または2に記載の貝類育成用基盤。
【請求項4】
前記第1の基盤と前記第2の基盤は、モルタル、セメント、コンクリート、石膏、煉瓦、セラミックスおよびプレキャストからなる群から選択される一または二以上の部材である、
請求項1~のいずれか1項に記載の貝類育成用基盤。
【請求項5】
設置時に最も下側に位置する基盤が最も重い、
請求項1~のいずれか1項に記載の貝類育成用基盤。
【請求項6】
型枠の枠内面に、多孔質部材を配置する多孔質部材配置工程と、
前記多孔質部材が配置された前記型枠の内部に、基盤の部材を充填する第1基盤充填工程と、
前記第1基盤充填工程で充填された前記基盤の上にスペーサ部を充填するスペーサ材料充填工程と、
前記スペーサ部の上に基盤の部材を充填する第2基盤充填工程と、
を有し、
前記第1基盤充填工程および第2基盤充填工程において、前記基盤の部材が前記多孔質部材に含浸する貝類育成用基盤の製造方法。
【請求項7】
第1の基盤と、第2の基盤と、前記第1の基盤と前記第2の基盤との間に介在するスペーサ部と、前記第1の基盤と前記第2の基盤とを側面で連結する側面固定部とを有し、前記側面固定部は多孔質部材を有し、前記第1の基盤の材料の一部と前記第2の基盤の材料の一部が前記多孔質部材に含浸している貝類育成用基盤を水中に設置し、
前記スペーサ部で分離することで、前記第1の基盤と前記第2の基盤のうち、貝類が付着した基盤を取り除き、貝類が付着していない基盤を水中に露出させることで前記貝類が付着する領域を更新する、貝類育成用基盤の更新方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類育成用基盤、貝類育成用基盤の製造方法および貝類育成用基盤の更新方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イワガキのような貝類の増殖において、稚貝を付着させて成貝に育成させる基盤(「基板」や「基質」ともいう。)を海中に投入することが知られている。そのような産業において、貝類等の水産資源を効果的に育成し安定的に漁獲できるようにした技術が提案されている。例えば、特許文献1には、貝類の浮遊幼生を付着させるとともに成長した貝類の漁獲作業の作業性向上を図った技術が開示されている。
また、特許文献2には、藻類を育成する際に集中管理を容易とし迅速な藻場造成を図った技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018―130081号公報
【文献】特開2002―101786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、基盤を海中に投入・設置し付着したイワガキを漁獲する場合、漁獲した後に、その基盤に稚貝が付着しにくいということが知られている。そして、稚貝の付着促進には、新たな基盤を投入するか、投入しない場合は漁獲後に基盤清掃が必要となる。都度新たな基盤を投入することはコストの観点からその頻度を抑制したいという要請があった。また、基盤清掃を海中で行うことは重労働であった。
特許文献1に開示の技術は、漁獲作業の作業性について考慮しているが、貝類を漁獲した後の基盤の取り扱いに関する技術については何ら開示がなく、新たな技術が求められていた。特許文献2に開示の技術も同様に、貝類を漁獲した後の基盤の取り扱いに関する技術については何ら開示がなかった。
【0005】
本発明は、貝類を漁獲した後の基盤を更新し新たな稚貝が付着しやすい環境を構築する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様は、
第1の基盤と、
第2の基盤と、
前記第1の基盤と前記第2の基盤との間に介在するスペーサ部と、
を有する、
貝類育成用基盤である。
【0007】
本発明の別の態様は、
型枠の枠内面に、多孔質部材を配置する多孔質部材配置工程と、
前記多孔質部材が配置された前記型枠の内部に、基盤を充填する第1基盤充填工程と、
前記第1基盤充填工程で充填された前記基盤の上にスペーサ部を充填するスペーサ材料充填工程と、
前記スペーサ部の上に基盤を充填する第2基盤充填工程と、
を有する貝類育成用基盤の製造方法である。
【0008】
本発明の別の態様は、
第1の基盤と、第2の基盤と、前記第1の基盤と前記第2の基盤との間に介在するスペーサ部と、を有する貝類育成用基盤を水中に設置し、
前記スペーサ部で分離することで、前記第1の基盤と前記第2の基盤のうち、貝類が付着した基盤を取り除き、貝類が付着していない基盤を水中に露出させることで前記貝類が付着する領域を更新する
貝類育成用基盤の更新方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、貝類を漁獲した後の基盤を更新し新たな稚貝が付着しやすい環境を構築する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態の貝類育成用基盤の概略を説明する図である。
図2】第1の実施形態の貝類育成用基盤の斜視図である。
図3】第1の実施形態の基盤本体の斜視図である。
図4】第1の実施形態の基盤本体の断面図であって、図2のA1-A1断面図である。
図5】第1の実施形態の貝類育成用基盤の製造方法を示した図である。
図6】第1の実施形態の貝類育成用基盤の更新方法を示した図である。
図7】第2の実施形態の変形例の貝類育成用基盤の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<概要>
以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。
まず、図1図4を参照して第1の実施形態の貝類育成用基盤10の構成を説明する。
次に、図5を参照して第1の実施形態の貝類育成用基盤10の製造方法を説明する。
つづいて、図6を参照して第1の実施形態の貝類育成用基盤10の更新方法を説明する。
さらに、図7を参照して第2の実施形態の貝類育成用基盤110の構成を説明する。
なお、以下の説明において参照するすべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
<第1の実施形態>
図1は本実施形態の貝類育成用基盤10が海中2に投入され海底3に設置された状態を示している。貝類育成用基盤10は、複数の基盤(図2の第1~第4の基盤21~24)が略直方体に積層された基盤本体20と、複数の基盤の間に介在するスペーサ部30(図2の第1~第3のスペーサ部31~33)と、基盤本体20とスペーサ部30との側面を取り囲むように設けられた側面固定部40とを備える。
基盤本体20において、海中2に露出している領域に、図1では基盤本体20の上面20aに、イワガキ1の稚貝が付着し生育する。すなわち基盤本体20の上面20aが貝類付着育成基盤面となる。詳細は後述するが、積層されている複数の基盤のうち、イワガキ1が付着した基盤を収穫後にスペーサ部30で分離して、イワガキ1が付着していなかった新たな領域(新たな基盤の上面)を露出させる。これによって、収穫後の基盤清掃作業を省く。分離された基盤は、陸上に引き上げられ処分されたり、海中2の別の位置に岩礁として移動されたりする。
【0013】
<貝類育成用基盤10の構成>
図2は貝類育成用基盤10の斜視図である。図3は基盤本体20の斜視図であり、換言すると貝類育成用基盤10から側面固定部40を取り除いた状態を示している。また、図4図2の貝類育成用基盤10のA1-A1断面図である。
【0014】
上述のように、貝類育成用基盤10は、基盤本体20と、スペーサ部30と、基盤本体20とスペーサ部30との側面を取り囲む側面固定部40とを備える。
基盤本体20には複数の基盤が積層されている。さらに、それら基盤の間にスペーサ部30が介在する。具体的には、基盤本体20は、上側から第1の基盤21と、第2の基盤22と、第3の基盤23と、第4の基盤24とを備える。基盤本体20の底面すなわち第4の基盤24の底面が海底3に設置される。なお、積層される基盤の数には特に制限はなく、3以下でも5以上でもよい。
【0015】
第1~第4の基盤21~24は、例えば、モルタルであって、所定厚さTの平面視で矩形形状を呈する。第1~第4の基盤21~24として、モルタルの他に、コンクリート、石膏、煉瓦、プレキャスト、セラミック等の部材を用いることができる。軽量化の観点でモルタルが好適である。
所定厚さTは、例えば5mm~50mmである。また、矩形の一辺は、例えば50~100cm程度である。
【0016】
スペーサ部30は、上から順に第1のスペーサ部31と、第2のスペーサ部32と、第3のスペーサ部33とを備える。すなわち、第1の基盤21と第2の基盤22の間に第1のスペーサ部31が介在する。第2の基盤22と第3の基盤23の間に第2のスペーサ部32が介在する。第3の基盤23と第4の基盤24の間に第3のスペーサ部33が介在する。なお、基盤本体20に積層される基盤の数に応じてスペーサ部30の数は定まる。
【0017】
第1~第3のスペーサ部31~33は、上面視で矩形形状であり、例えば第1~第4の基盤21~24の矩形形状と同じ形状である。第1~第3のスペーサ部31~33は分離可能である。
第1~第3のスペーサ部31~33は、例えばゲル状の物質であって、容易に破壊して分離する。ゲル状の物質として、寒天や、ゼリー、ゼラチン、米・芋等の植物由来の固形物(コンニャクなど)、パラフィン、ボバール(可溶性樹脂)等がある。環境に優しいという点で、食品由来の材料が好ましい。食品由来の材料の中で、特に寒天は海藻を原料とする点で、海中2に投入される貝類育成用基盤10の構成として好適である。
スペーサ部30の所定厚さtは、例えば、0.5mm以上であり、好ましくは1mm以上であり、さらに好ましくは2mm以上であり、また50mm以下であり、好ましくは30mm以下であり、さらに好ましくは15mm以下である。スペーサ部30には、基盤本体20の分離作業において、カッター等の刃物またはヘラ状の道具が差し込まれる。差し込みの作業性と積層時の強度(支持力)・耐久性等の観点から上記範囲において適切な厚さに設定されうる。
【0018】
側面固定部40は、多孔質部材を含む。多孔質部材として,例えば、スポンジやヘチマ(果実の繊維成分のみを残した部材)、不織布(アラミド)等がある。多孔質部材である側面固定部40は、基盤本体20がモルタルやセメントのように製造時に流動性の呈する部材である場合、後述の製造方法で示す工程において、モルタル等が含浸する。これによって、側面固定部40は、基盤本体20とスペーサ部30とを側面部分で連結する。
なお、側面固定部40は全体が多孔質部材であってもよいし、一部が多孔質部材でもよい。モルタルが含浸する構成の場合は、少なくとも基盤本体20(第1~第4の基盤21~24)と接する領域は多孔質部材となる。
【0019】
<貝類育成用基盤10の製造方法>
図5を参照して貝類育成用基盤10の製造方法を説明する。ここでは、第1~第4の基盤21~24の部材としてモルタルを、スペーサ部30として寒天を、側面固定部40としてスポンジを使用し、直方体の貝類育成用基盤10を製造する方法について例示する。
まず、図5(a)に示すように、側面固定部材配置工程として、型枠80の側面に、側面固定部40を配置する。
つぎに、図5(b)に示すように、第1の基盤充填工程として、型枠80の底面に第4の基盤24の部材であるモルタルを所定量(所定厚さT)だけ流し込む(充填する)。モルタルを流し込む際に、流動状のモルタルがスポンジである側面固定部40の一部に含浸する。
つづいて、図5(c)に示すように、スペーサ材料充填工程として、第4の基盤24の部材であるモルタルが固化したら、第4の基盤24の上に、第3のスペーサ部33の部材である寒天を所定量(所定厚さt)だけ流し込む(充填する)。
さらにつづいて、図5(d)に示すように、第2の基盤充填工程として、第3のスペーサ部33が固化したら、第3の基盤23の部材であるモルタルを所定量(所定厚さT)だけ流し込む(充填する)。このとき第4の基盤24のモルタル投入のときと同様に、側面固定部40の一部にモルタルが含浸する。
以降、同様にして、順次、第2のスペーサ部32、第2の基盤22、第1のスペーサ部31、第1の基盤21を投入し固化させる。これによって、図5(e)に示すように、型枠80の内部に、第4の基盤24、第3のスペーサ部33、第3の基盤23、第2のスペーサ部32、第2の基盤22、第1のスペーサ部31及び第1の基盤21がこの順で下から積層される。
図5(f)に示すように、第1~第4の基盤21~24及び第1~第3のスペーサ部31の全ての部材が固化した後に型枠80を取り外すと、完成品の貝類育成用基盤10が得られる。
【0020】
<貝類育成用基盤10の利用方法(更新方法)>
図6を参照して貝類育成用基盤10の利用方法(更新方法)について説明する。なお、図6では、説明の分かり易さの観点から、側面固定部40を省いた状態(基盤本体20の状態)を示している。
図6(a)に示すように、例えば図2に示した新しい貝類育成用基盤10を海底3に設置する。
図6(b)や図1に示すように、基盤本体20の上面20a、すなわち第1の基盤21の上面21aには、イワガキ1の稚貝が付着し生育する。イワガキ1は稚貝から成貝に生育するまでに3年程度かかる。したがって、貝類育成用基盤10の海底3へ設置して3年後に、上面21aのイワガキ1が収穫される。
収穫後に第1のスペーサ部31(分離位置91)にカッター等の刃やヘラなどを差し込み、図6(c)に示すように、第1の基盤21を第2の基盤22から切り離し、第2の基盤22の上面22aを露出させる。これによって、イワガキ1が付着する領域が更新される。なお、第1の基盤21の分離後に第2の基盤22の上面22aに残った一部の第1のスペーサ部31は作業者によって除去されてよいし、放置されてもよい。放置した場合でも、魚類等のエサとなったり、海水の動きによって一定期間後に消失し、稚貝の付着に悪影響はない。
第2の基盤22の上面22aがイワガキ1の付着領域として更新され一定期間後にイワガキ1が生育すると、図6(d)に示すように、上述と同様にイワガキ1が収穫された後に、第2の基盤22(以下、イワガキ1を図面から省略することもある。)が第2のスペーサ部32で第3の基盤23から切り離される。これによって、第3の基盤23の上面23aが露出し、イワガキ1が付着する領域が更新される。
同様に、第3の基盤23の上面23aに育成したイワガキ1が収穫されると、図6(e)に示すように、第3の基盤23が第3のスペーサ部33で分離される。これによって第4の基盤24の上面24aが露出し、イワガキ1が付着する領域が更新される。
【0021】
<第2の実施形態>
図7は第2の実施形態の貝類育成用基盤110を示す図であり、ここでは第1の実施形態の図4に対応する断面図として示している。第1の実施形態の貝類育成用基盤10と異なる点は、第1~第4の基盤121~124にあり、他の構成等は同一である。
第2実施形態の貝類育成用基盤110では、第1~第4の基盤121~124の重量が、海底3に設置された際に、海底3側(下側)ほど重くなっている。この構成を実現するために、第1~第4の基盤121~124の厚さT1~T4が、関係式T1<T2<T3<T4となり、海底3側(下側)ほど厚くなっている。
なお、第1~第4の基盤121~124の重量が海底3側(下側)ほど重くする構成のために、第1~第4の基盤121~124のモルタルの空隙率を調整したり、第1~第4の基盤121~124に比重の異なる部材を用いたりしてもよい。例えば、一番下の第4の基盤24を一般に比重の大きいコンクリートとしたりする。これにより、貝類育成用基盤110の海底3への設置安定性を確保できる。
【0022】
<貝類育成用基盤10の効果>
以下、本実施形態の貝類育成用基盤10の効果を説明する。
(1)本実施形態の貝類育成用基盤10は、第1の基盤と、第2の基盤と、
第1の基盤と第2の基盤との間に介在するスペーサ部と、
を有する。すなわち、貝類育成用基盤10は、
積層された複数の基盤(基盤本体20;第1~第4の基盤21~24)と、
二つの基盤の間に介在するスペーサ部30(第1~第3のスペーサ部31~33)と、
を有する。
これにより、第1~第4の基盤21~24の上面21a~24aのそれぞれは、海中2に露出した状態のときに、貝類付着育成基盤面として機能し、イワガキ1が付着・生育する。イワガキ1が付着・生育し収穫された後にイワガキ1が付着していた基盤(基盤本体20;第1~第4の基盤21~24)をスペーサ部30で分離することで、収穫後のイワガキ付着面の更新作業が容易となる。すなわち、従来であれば、イワガキ1が付着していた面を海中2で清掃する必要があった。このとき、イワガキ1の付着面を丁寧に清掃しないと新たなイワガキ1の稚貝の定着の促進されないことから、作業者は重労働を強いられていた。しかし、本実施形態の貝類育成用基盤10では、イワガキ1が付着していた基盤(その時点で第1~4の基盤21~24のうち一番上の基盤)をスペーサ部30で分離して取り除くだけで、イワガキ1が付着する領域を更新でき、作業者の作業負荷を大幅に低減できる。また、一度もイワガキ1が付着していない領域が新たな付着領域となるため、イワガキ1の確実な定着が見込まれる。
また、一般に、イワガキ1が基盤本体20に付着して漁獲できるようになるまで3年程度かかる。したがって、第1~4の基盤21~24を有する貝類育成用基盤10の場合、一度海中2に設置すると、12年は新たな貝類育成用基盤10の投入が不要となる。すなわち、貝類育成用基盤10の製造コスト、設置コスト等の金額の大きな投資が不要となる。
【0023】
(2)貝類育成用基盤10は、複数の基盤(第1~4の基盤21~24)を連結する側面固定部40を有する。
これによって、第1~4の基盤21~24及び第1~第3のスペーサ部31~33による積層構造を所望期間維持することができる。
【0024】
(3)貝類育成用基盤10において、側面固定部40は多孔質部材を有する。側面固定部40が多孔質部材を有することで、第1~第3のスペーサ部31~33での分離作業が容易となる。
【0025】
(4)基盤(第1~4の基盤21~24)の部材の一部が側面固定部40の多孔質部材に含浸している。
第1~4の基盤21~24がモルタルのように製造時に流動性を有する場合に、製造時に流動状の部材が側面固定部40の多孔質部材の一部に含浸するため、側面固定部40の連結性能が向上する。すなわち、側面固定部40の強度設計の自由度や、スペーサ部30の強度設計の自由度が増す。
【0026】
(5)スペーサ部30(第1~第3のスペーサ部31~33)の厚さtは0.5mm~50mmである。さらに厚さtは、好ましくは1mm以上であり、さらに好ましくは2mm以上であり、好ましくは30mm以下であり、さらに好ましくは15mm以下である。
これによって、基盤本体20の分離作業においてカッター(刃物)等の道具が差し込まれる際の作業性と積層時の強度(支持力)・耐久性等の両立が可能となる。
【0027】
(6)スペーサ部30は、分離可能である。
すなわち、側面固定部40は、カッター等によって容易に分離する。その結果、側面固定部40を挟んで積層されている基盤(第1~4の基盤21~24)の取り外しが容易になり、貝類育成用基盤10の更新、すなわちイワガキ1が付着する領域(基盤面)の更新が容易になる。
【0028】
(7)基盤本体20(第1~4の基盤21~24)は、モルタル、セメント、コンクリート、石膏、煉瓦、セラミックスおよびプレキャストからなる群から選択される一または二以上の部材である。これら部材によるとイワガキ1が付着する基盤本体20(第1~4の基盤21~24)を、軽量かつ低コストで製造できる。モルタル、セメント、コンクリート、石膏の場合、製造時(すなわち型枠投入時)に流動性を有することから、側面固定部40が多孔質部材の場合、その多孔質部材に良好に含浸する。
【0029】
(8)貝類育成用基盤110において、積層された複数の基盤(第1~第4の基盤121~124)のうち、設置時に最も下側に位置する基盤(第4の基盤124)が最も重い。
これによって、積層の上側から順に基盤が取り除かれていっても、貝類育成用基盤10が波の影響で移動したり姿勢が変化してしまうことを防止できる。
【0030】
(9)貝類育成用基盤10の製造法は、
型枠80の枠内面に、多孔質部材(側面固定部40)を配置する多孔質部材配置工程と、
多孔質部材(側面固定部40)が配置された型枠80の内部に基盤(基盤本体20;第1~第4の基盤21~24)を充填する第1の基盤充填工程と、
第1の基盤充填工程に充填された基盤(基盤本体20;第1~第4の基盤21~24)の上にスペーサ部30(第1~第3のスペーサ部31~33)を充填するスペーサ材料充填工程と、
スペーサ部30の上に基盤(基盤本体20;第1~第4の基盤21~24)を充填する第2の基盤充填工程と、
を有する。
これによれば、収穫後のイワガキ付着面の更新作業が容易となる貝類育成用基盤10を好適に製造することができる。
【0031】
(10)貝類育成用基盤10の更新方法は、
積層された複数の基盤(基盤本体20;第1~第4の基盤21~24)と、
二つの基盤の間に介在するスペーサ部30(第1~第3のスペーサ部31~33)と、
を有する、貝類育成用基盤10を水中(海中2)に設置し、
スペーサ部30で分離することで、複数の基盤(第1~第4の基盤21~24)のうち、貝類が付着した基盤を取り除き、貝類が付着していない基盤を水中に露出させ、貝類が付着する領域を更新する。
以上が、本実施形態の効果についての説明である。
【0032】
以上のとおり、本発明について第1および第2の実施形態を例として説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲には、例えば、下記のような形態(変形例)も含まれる。
【0033】
例えば、第1~第4の基盤21~24に、分離後の移動が容易となるように、フック等を係止する構造が設けられてもよい。また、分離位置(すなわちスペーサ部30の位置)が容易に認識できカッター等を適切な位置に円滑に差し込めるように、側面固定部40にマークが設けられてもよい。また、第1~第4の基盤21~24を色分けする等して、第1~第4の基盤21~24のうちいれずれが露出しているか容易に判別可能にしてもよい。
また、貝類育成用基盤10は、上記では海中2に投入されたが、対象とする貝類が淡水域で生育する種の場合には、河川や湖沼等に投入・設置される。
【符号の説明】
【0034】
1 イワガキ
2 海中
3 海底
10、110 貝類育成用基盤
20、120 基盤本体
20a、21a、22a、23a、24a 上面
21、121 第1の基盤
22、122 第2の基盤
23、123 第3の基盤
24、124 第4の基盤
30 スペーサ部材
31 第1のスペーサ
32 第2のスペーサ
33 第3のスペーサ
40 側面固定部(固定部)
80 型枠
91 分離位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7