(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】木質建材および木質構造体
(51)【国際特許分類】
E04C 3/18 20060101AFI20231219BHJP
E04C 3/292 20060101ALI20231219BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
E04C3/18
E04C3/292
E04B1/26 Z
(21)【出願番号】P 2020026318
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 諭司
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-092412(JP,U)
【文献】実開昭60-162612(JP,U)
【文献】特開2012-087556(JP,A)
【文献】特開2013-189763(JP,A)
【文献】特開2020-125652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/00-3/46
E04B 1/26
B27B 1/00-3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つの集成材が接合されてなる木質建材であって、各集成材は管状体を内包し、
内包される管状体は長手方向に3つに分割した態様で集成材に内包され、集成材の両端の管状体はその外側にねじ切り加工が施され、各集成材に内包された管状体は隣接する集成材に内包された管状体と連通し、連通した管状体の管内を貫通する少なくとも一本の緊張材に張力が掛けられることにより、各集成材が接合されていることを特徴する木質建材。
【請求項2】
集成材が長手方向をもち、管状体は集成材の長手方向を貫通して内包される、請求項1に記載の木質建材。
【請求項3】
管状体が円形中空の断面をもつ、請求項1または2に記載の木質建材。
【請求項4】
管状体が金属からなる、請求項3に記載の木質建材。
【請求項5】
管状体が内包された集成材において、外側にねじ切り加工を施された管状体が集成材にねじ込まれて固着されている、請求項
1に記載の木質建材。
【請求項6】
建築物の梁として用いられる、請求項1乃至
5のいずれかに記載の木質建材。
【請求項7】
管状体に通された緊張材が、集成材の長手方向に直交する面の中心から外れた位置に通されている、請求項1乃至
6のいずれかに記載の木質建材。
【請求項8】
管状体が集成材の長手方向に直交する面の中心から等距離の位置に複数本内包されている、請求項1乃至
7のいずれかに記載の木質建材。
【請求項9】
緊張材に掛けられた張力が10~300kNである、請求項1乃至
8のいずれかに記載の木質建材。
【請求項10】
請求項1乃至
9に記載のいずれかの木質建材を含む木質構造体。
【請求項11】
請求項
10記載の木質構造体を含む建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木質建材に関し、詳しくは、複数の集成材が接合されることで一体化した木質建材およびそれを含む木質構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単一木材や、木材の繊維方向に長く切削加工した引き板(ラミナ)あるいは小角材をその繊維方向を互いに平行にして接着剤を用いて貼り合わせた集成材は、建築における柱や梁として使われ、あるいは木橋や大型ドームの骨組材として使われている。
【0003】
特に集成材は、ひき板や小角材を集成して作成するため、寸法や形状の自由度が高く、製品強度のばらつきや干割れ、狂いなどが小さいうえに、曲がり材を容易に製造することができるなど、優れた特性を持っている。
【0004】
大型の建築物や構造物では、非常に長尺の梁や骨組材を用いる必要がある。戸建住宅で一般的に使用される集成材の長さは4,000~6,000mm程度であるが、建築物や構造物が大型になるほど梁や骨組材に必要な長さは増加する傾向にあり、6,000mm以上、長い場合には18,000mmやそれ以上の長さのものが必要となる。
【0005】
現状では、6,000mm以下の長さの集成材を長手方向に複数本接合して一体化することで長尺化した梁や骨組材が使用されている。この長尺化には、鉄板とボルト、ピンを用いた工法や接着剤を用いたグルーインロッド工法、またはこれらを組合せた工法(特開平9-177172号公報、特開2005-002751号公報)が適用されている。
【0006】
しかし、これらの工法は、非常に煩雑であることに加え、接合部について通常の集成材と同等以上の物性を得ることが困難であるため、接合部分の物性の低さが建物設計の自由度を下げる要因となることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-177172号公報
【文献】特開2005-002751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、複数本の集成材が接合された木質建材であって、容易に施工することができ、かつ剛性と強度に優れた木質建材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、少なくとも二つの集成材が接合されてなる木質建材であって、各集成材は管状体を内包し、各集成材に内包された管状体は隣接する集成材に内包された管状体と連通し、連通した管状体の管内を貫通する少なくとも一本の緊張材に張力が掛けられることにより、各集成材が接合されていることを特徴する木質建材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数本の集成材が接合された木質建材であって、容易に施工することができ、かつ剛性と強度に優れた木質建材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の木質建材の模式図(接合部の断面図と長手方向側面の断面図)である。
【
図2】比較例1の木質建材の模式図(接合部の断面図と長手方向側面の断面図)である。
【
図3】実施例1の接合した木質建材および金具治具の模式図である。
【
図4】比較例2の接合した木質建材の模式図(接合部の断面図と長手方向側面の断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
〔集成材〕
集成材は、木質材料片(ラミナ)を相互に接着剤で貼り合わせて構成された木質の材料であり、単一木材や、木材の繊維方向に長く切削加工した引き板または小角材を木質材料片(ラミナ)として用い、それらの木質材料片の繊維方向を互いに平行にして接着剤を用いて貼り合わせたものである。
【0014】
本発明においては、内部に管状体が内包された集成材を用いる。管状体が内包された集成材は、集成材を製造する工程において、管状体を内包する位置に相当する木質材料片(ラミナ)に予め管状体を設置できるように溝または長孔を設けておき、木質材料片(ラミナ)を積層して貼り合わせる際にその溝または長孔に管状体を挟み込む方法で製造することができる。
【0015】
集成材は、管状体を集成材の作成時に木質材料片(ラミナ)と接着することで内包させてもよい。しかし、この方法では、管状体または溝への接着剤の塗付や管状体と木材との接着性能を担保するために高い技術が必要である。そこで、管状体として外側にねじ切り加工を施されているものを用い、これを集成材の両端にねじ込み、集成材の内部に予め内包させておいた管状体を両端から挟み込み、管状体の管内を連通させて製造された集成材を用いることが好ましい。この場合、管状体は、集成材に接着剤を介して接着することはなく固着されることができる。
【0016】
集成材は、長尺の木質建材を効率的に作成する観点から、長手方向を有することが好ましい。この場合、それぞれの集成材は長手方向に接合されることが好ましい。そしてこの場合、管状体として外側にねじ切り加工を施されているものを用い、これを集成材の長手方向の両端にねじ込み、集成材の内部に長手方向に沿う向きに予め内包させておいた管状体を両端から挟み込こみ、管状体の管内を連通させて製造された集成材を用いることが好ましい。
【0017】
〔管状体〕
本発明では、複数の集成材を接合するために、管状体の管内に通された緊張材に張力が掛けられ、管状体の軸方向に圧縮力が掛けられる。このため、管状体はその圧縮力に抵抗できる強度を備える素材からなる必要がある。したがって、管状体の素材は、木質材料片(ラミナ)よりも圧縮に対する強度や剛性で優れた素材から選ばれる。例えば、鉄やアルミニウムなどの金属、補強繊維と樹脂からなる繊維強化樹脂を用いることができる。これまでの建築における実績や入手のしやすさ、コストなどの観点から、金属であることが好ましく、さらには物性の観点から鉄であることが好ましい。
【0018】
管状体は、その外側にねじ切り加工が施されていることが好ましい。ねじ切り加工は、管状体の全長に及んでいてもよく一部であってもよい。円形中空で外側にねじ切り加工が施された管状体が特に好ましい形態である。ねじ切り加工は、管状体の全長に及んでいてもよく、一部に留まってもよい。外側にねじ切り加工を有する管状体を用いることにより、集成材に管状体をねじ込むことで、管状体を内包する集成材を比較的容易に製造することができる。
【0019】
長尺の木質建材を効率的に作成する観点から、集成材が長手方向をもち、管状体は集成材の長手方向を貫通して内包されていることが好ましい。この場合、一方の集成材の長手方向を貫通して内包された管状体と、その集成材に隣接する他方の集成材の長手方向を貫通して内包された管状体の管内が連通する態様で、隣接する集成材が接合される。
【0020】
隣接する集成材の間での管状体の連通の態様は任意である。管状体の連通の態様として、高い強度を得る観点から、隣接する管状体と管状体とは、管状体の壁面が相互に接していることが好ましく、嵌合やねじ込みにより接続していることが特に好ましい。管状体と管状体の間には、座金などの金具などが介在してもよい。
【0021】
集成材に内包される管状体は複数に分割されていてもよい。管状体の管内を通した緊張材により圧縮力がかかるため、管状体が長手方向で複数に分割されている場合には、隣接する管状体の壁面が一致するように直列に管状体が接続されていることが好ましい。
【0022】
長手方向をもつ集成材において管状体を長手方向に3つに分割した態様で集成材を作成する場合、長手方向の真ん中に配置する管状体を集成材の作成時に集成材の内部に内包しておき、集成材の長手方向の両端(真ん中に位置する管状体を挟む位置)に配置する管状体を、真ん中に配置された管状体の両端に接続する態様で、集成材の両端の断面から挿入すればよい。
【0023】
この場合、集成材の両端の断面から挿入する管状体は、その外側にねじ切り加工が施されていることが好ましい。ねじ切り加工は、管状体の全長に及んでいてもよく一部であってもよい。
【0024】
管状体は、集成材にねじ込まれて固着されていることが好ましい。ねじ込みは、トルクレンチなどを用いて行うことができる。管状体にねじ切り加工が施され、集成材にねじ込まれて固着されている場合には、集成材に管状体がしっかり固定される。このため、本発明の木質建材を用いて建物を作る施工中に管状体が動いて集成材内から落下するといった事故を防ぐことができ好ましい。さらに、管状体に通した緊張材に張力がかけられた際に、集成材にねじ込まれた部分の抵抗力が管状体自体の耐圧縮力に加えて働くことにより、より高い張力に耐えられ、高い接合強度を得ることができ好ましい。
【0025】
管状体の少なくとも一つには緊張材が通される。このため管状体の管内には、緊張材の作用を阻害しない態様で充填剤が充填されていても構わないが、何も充填されず空洞となっていることが好ましい。
【0026】
〔管状体の断面形状〕
管状体に通した緊張材に張力がかけられた際に、管状体がその圧縮力をもって張力に抵抗する観点のみを考えるならば、管状体の形状は矩形であっても円形であってもよいが、管状体を集成材の断面からねじ込むためには、管状体の形状は円形であることが好ましく、特に円形中空であることが好ましい。
【0027】
他方、管状体の管内の形状は任意である。例えば、円形断面の管状体の管内が矩形断面である場合、管状体の肉厚を多く設計することができ、管状体の圧縮強度を高くしたい場合には有効な手段となる。
【0028】
また、管状体を複数に分割する場合には、全ての管状体が同じ断面形状であることが好ましい。これは、断面形状が異なるほど、管状体に通した緊張材に張力がかけられた際に、管状体の圧縮力が伝達されにくくなるためである。
【0029】
管状体が円形中空であり、管内(中空部)も円形であり両者が同心円である場合、管状体の肉厚は、好ましくは1~10mm、さらに好ましくは2~5mmである。肉厚がこれより薄いと、管状体の管内に通した緊張材に張力がかけられた際に管状体が座屈破壊を起こしてしまう可能性もあり、管状体にかかる圧縮力に十分な抵抗力を発現できないことがあり、好ましくない。他方、これより厚いと管状体に通す緊張材の太さに制限を与えてしまうか、それを避けるために管状体自体を太くした場合には集成材の重量を著しく大きくしてしまう可能性があり、好ましくない。
【0030】
〔管状体の配置〕
長手方向を有する集成材における管状体の配置の態様は、管状体が集成材の断面(集成材の長手方向に直交する面、以下これを単に「断面」という)の中心から等距離の位置に複数本配置されている態様が好ましく、さらに断面の中心に対して点対称に管状体が複数本配置されている態様が好ましい。これらの場合、断面の中心を外れた位置を、緊張材が通ることになる。
【0031】
特に、断面の中心から等距離の位置に管状材料を2本または4本を配置した態様が好ましい。中心から等距離の位置に管状体を配置することより、管状体の管内に通した緊張材に張力がかけられた際に断面に対して、より均一に圧縮力を付与することができる。
【0032】
管状体の本数は必要に応じ設計することができる。例えば、梁として用いる木質建材で断面が上下方向に長い場合には、断面の中心から上方に1本、下方に1本の合計2本であってもよく、上方の1本および下方の1本のそれぞれを左右または上下に並べた2本に置き換えて配置してもよい。集成材の断面積と管状体の断面積の兼ね合いで設計することができる。
【0033】
集成材の大きさは、梁として用いる場合、幅方向が例えば100~240mm、厚さ方向が例えば120~1,000mm、長さ方向が例えば2,000~18,000mmである。
【0034】
〔緊張材〕
本発明では、管状体を集成材の内部に内包させ、管状体の菅内を通した緊張材によって集成材にプレストレスをかけている。
【0035】
緊張材には、一般的なプレストレストコンクリートで使用されるPC鋼線やPC鋼より線、PC鋼棒などのPC鋼材を使用することができる。さらに、引張強度やクリープ性能の高い緊張材を使用してもよく、また、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、四フッ化エチレン繊維、ガラス繊維などの高性能繊維を用いたFRP(繊維強化プラスチックス)ロッドや繊維ロープ、繊維ケーブルであってもよい。
【0036】
緊張材は、集成材に内包されている管状体の管内に通す態様で使用される。例えば二つの集成材が接合される場合には、一方の集成材に内包される管状体と他方の集成材に内包される管状体のそれぞれの管内を直列に貫通する態様で使用される。
【0037】
管状体に通された緊張材は、集成材の断面の中心から外れた位置に通されていることが好ましい。
【0038】
本発明の木質建材は複数の集成材が接合された状態で、張力の掛かった緊張材により固定されている。例えば、断面の中心から等距離に2本の管状体を配置した場合において、集成材を梁として用いた場合には、2本すべての管状体に緊張材を通し、複数の集成材を接合することが好ましい。
【0039】
緊張材に張力をかけた際に座金を介して集成材の両端部から圧縮力をかけ集成材同士を圧着することは好ましい態様である。高い圧着力での圧着を実現することで、複数の集成材が接合した部分をより一体化した状態に近づけることができ、接合部分の曲げ特性の向上を得ることができる。
【0040】
緊張材にかけられる張力は緊張材1本あたり例えば10~300kN、好ましくは30~250kNである。張力がこれより低いと集成材同士の圧着が不十分となり、集成材の接合部における剛性や強度が十分に発現しない可能性があり、他方、張力がこれより高いと圧縮を受ける管状材料が座屈破壊してしまうなど圧縮に対する抵抗力を失うこととなり、結果、本発明の木質建材の接合部における剛性や強度が十分発現しない恐れがある。
【0041】
このように本発明の木質建材は、緊張材を管状体に通してプレストレスをかけるだけといった非常に簡易な方法により、複数の集成材を長手方向に繋げて長尺の木質建材を得ることができる。さらに、作業性を向上させるために、集成材の断面の中心部あたりにザグリ穴を開けて、金属ダボなどを使用してもよい。作業時の集成材同士のズレ防止や集成材の接合部における補助的なせん断補強に効果が得られる。
【0042】
この状態で集成材の端部に座金を介してボルトやナット、クサビ金物などを用いて、緊張材が緩まないように張力をかけたまま固定することで、本発明の木質建材となる。固定の方法は一般的なプレストレストコンクリートの工法で使用されている方法を用いることができる。
【0043】
本発明の好ましい態様は、少なくとも二つの集成材が接合されてなる木質建材であって、各集成材は管状体を内包し、各集成材に内包された管状体は隣接する集成材に内包された管状体と接続し、接続した管状体の管内を貫通する少なくとも一本の緊張材に張力が掛けられることにより、各集成材が接合されていることを特徴する木質建材であって、管状体は円形中空であり、すべての管状体に緊張材が通され、緊張材には1本あたり10~300kNの張力がかけられ、集成材同士が緊張材の張力によって圧着された状態で固定されている態様である。
【0044】
〔木質構造体〕
本発明によれば、上記の木質建材を含む木質構造体も提供される。この木質構造体は、さらに柱、土台および基礎を含み、建築物の構造躯体として用いられる。
【0045】
柱や土台としては木質材料を用い、木質材料は無垢材であっても集成材であってもよい。柱は、一般的に基礎の上に設置された土台の上に立てられ、土台と柱との接合は、例えば接合金物で行われる。
【0046】
基礎は、直接基礎、杭基礎のいずれであってもよい。直接基礎の場合、例えば布基礎、独立基礎、ベタ基礎を採用することができる。基礎のコンクリートは無筋コンクリート、鉄筋コンクリートのいずれでもよく、鉄筋コンクリートが耐震性の観点から好ましい。
【0047】
本発明の木質建材を梁として用いる場合の梁と梁との接合および梁と柱との接合は、接合金物を用いて行うことができる。接合される対象と金物は、ボルトやビス、釘等で固着される。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。各種物性は下記方法にて測定した。
(1)プレストレスの張力
緊張材を固定する座金とナットの間に、圧縮センサーを配置し、座金-ナット間の圧力を測定することで緊張材の張力とした。
(2)集成材同士の接合部の強度
集成材を直列に二つ接合した供試体について、集成材同士の接合部を試験体中央に配置し、支点間距離を1,590mmとした。集成材同士の接合部から左右に150mmの箇所それぞれに荷重を印加する繰返し曲げ試験を実施した。繰返しは、曲げモーメント距離に相当する加力点と支点の距離1,440mmに対して、1/300、1/250、1/200、1/150、1/100、1/50、1/30、1/15、1/10radの順に繰り返し毎にたわみ量が増加するように試験した。
【0049】
<強度の算出>
1/10radまでの繰り返し曲げ試験において、破壊した場合はその点を最大荷重(p)とした。1/10までの繰り返し曲げ試験にて破壊しない場合は、試験最後に破壊するまで荷重を印加し、破壊点=最大荷重(p)を得た。得られた最大荷重(p)を用いて下記の式にて曲げモーメントを算出した。最大荷重の単位はkN、支店間距離の単位はmである。
【0050】
【0051】
〔実施例1〕
集成材に内包される管状体(1)として、鉄製(S45C)のパイプを使用した。この管状体(1)の断面形状は円形中空であって、外径25.4mm/内径18.4mmであり、肉厚は全周均一で3.5mm、長さは910mmである。
【0052】
管状体(1)を内包させる集成材には、木質ラミナ(スギ)を用い、断面120mm×240mm、長さ1,890mmとなるように、水溶性高分子-イソシアネート系接着剤(株式会社オーシカ製、ピーアイボンド5300L)を250g/m2の塗付量で塗付して積層接着した。
【0053】
接着は常温プレスとし、プレス圧は0.8MPa、プレス時間は30分とした。管状体(1)を内包させる部分には予め直径27.5mmの半円溝を掘った2枚の木質ラミナ(スギ)を用い、これらの間に管状体(1)を内包した。溝内には接着剤を塗付せず、木質ラミナ同士を積層接着することで、管状体(1)が内包された集成材を得た。
【0054】
管状体(1)の位置は、集成材の断面(横120mm縦240mmの長方形)において上から60mmかつ横方向の中央の位置と、下から60mmかつ横方向の中央の位置である。この二つの位置に管状体(1)の断面中心が位置するようにそれぞれの管状体(1)を配置した。
【0055】
得られた集成材の長手方向の両端の断面から、管状体(2)として円形中空のラグスクリューボルトをねじ込んだ。ねじ込んだ位置は、両端の断面において管状体(1)の位置に対応する位置(横120mm×縦240mmの長方形において上から60mmかつ横方向の中央の位置と下から60mmかつ横方向の中央の位置)である。ラグスクリューボルトは、山径35mm/谷径26.9mmで肉厚が4.2mm、長さ490mmものを用いた。この集成材の模式図を
図1に示す。
【0056】
得られた集成材の2本を長手方向に直列するように、それらの断面同士を相互に接触させる形でプレストレスによる接合を実施した。プレストレスは、集成材の端部にある2本の管状体(2)を覆うように50mm×50mm、厚さ20mmの鉄製座金を介して直径17mmのPC鋼棒を1本ずつ、それぞれの管状材料に通した(
図3)。PC鋼棒1本につき、110kNの張力をかけ、ナットで緩まないように固定して、木質建材を得た。この木質建材の繰返し曲げ試験の結果、曲げモーメントは40kNmであり、既存集成材(E65-F225)の曲げモーメント30kNmを大きく上回っていた。
【0057】
【0058】
〔比較例1〕
実施例1で管状体(1)および管状体(2)を用いなかったこと以外は実施例1と同様とした。この木質集成材の断面の模式図を
図2に示す。24kNの張力をかけたところで木質集成材の端部にめり込みによる割裂が発生したため、繰返し曲げ試験は実施できなかった。
【0059】
〔比較例2〕
実施例1と同じ断面サイズ120mm×240mmで長さ1,890mmの既存集成材(E65-F225)を用いた。実施例1と同様に、集成材の断面同士を接する形で接合を実施した。接合方法として既存のグルーインロッド工法を用いた。接合する断面の4つの角において、集成材の側面からそれぞれ40mmの位置に、4本の直径16mmおよび長さ600mmの全ネジボルトを、集成材の長手方向に差し込んだ(
図4参照)。このとき左右とも深さ300mmとなるように差し込み、エポキシ樹脂を充填した。養生期間を経て、試験開始までに2週間の時間を要した。得られた既存集成材のグルーインロッド工法による接合試験体の断面の模式図を
図4に示す。繰返し曲げ試験の結果、曲げモーメントは27kNmであり、既存集成材(E65-F225)の曲げモーメント30kNmに満たなかった。
【0060】
〔実施例2〕
実施例1の木質建材を梁として含む木質構造体を作成する。木質構造体は、間口および奥行が約2間(両端の柱と柱との間の空隙が3,600mm、両端の柱の中心の距離が3,720mm)とする。まず地面に砕石を敷き、その上に高さ方向および縦横方向ともにD10@200で鉄筋を配筋してコンクリートを流し込むことで、鉄筋コンクリート製のベタ基礎を設置する。このベタ基礎は、基礎の立上りの高さを450mm、幅を120mmとし、底板の厚みを120mmとする。
【0061】
土台として120mm角の長さ3,840mmのヒノキ材を2本と長さ3,600mmのヒノキ材を2本とを、それらが正方形を形成するように基礎の立上りの上に配置して、アンカーボルトで基礎の立上りと緊結し、柱芯の距離が間口および奥行とも3,720mmの正方形の土台を作成する。この土台の四隅の上に120mm角の長さ3,560mmのヒノキ材の柱の4本を、隣接する柱と柱との間の空隙が3,600mmとなるように立て、土台と柱とを接合金物で固定する。この4本の柱について、すべての隣接する2本の柱の上端に上述の梁(長さ1,780mmの集成材を2本長手方向に接合し両端に厚み20mmの鉄製座金を有する、全長3,600mmの梁)を挟み込み、接合金物で柱と梁とを接合する。接合金物と土台、柱および梁との固定はボルトで行う。このようにして4本の梁を柱と接合して木質構造体を作成する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の木質建材は、木材が使用される木質構造体に梁や長尺の骨組み材として適用することができる。なかでも、学校や体育館、講堂、各種室内球技場やドームといった大型建築物の長尺の骨組み材として、また共同住宅や戸建て住宅などの建築物の梁として好適に用いることができる。
【0063】
本発明の木質建材は、これらの建築物において容易に施工ができ、剛性と強度に優れる長尺の木質建材として建築物の構造躯体に用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
11 集成材
12 円形中空の管状体
13 円形中空のラグスクリューボルト
14 鉄製パイプ
21 集成材
22 中空部分(補強材無し)
31 集成材
32 円形中空の管状体
33 座金
34 ナット
35 PC鋼棒
41 集成材
42 全ネジボルト