(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電動巻上機における吊荷の着床制御方法
(51)【国際特許分類】
B66D 1/46 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
B66D1/46 G
B66D1/46 E
(21)【出願番号】P 2020038509
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大槻 真弘
(72)【発明者】
【氏名】田上 達也
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-094205(JP,A)
【文献】特開昭58-089584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00- 5/34
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機制御装置を用いて、吊荷を吊上げ位置から着床位置へ搬送する電動巻上機における吊荷の着床制御方法において、
前記巻上機制御装置が、
前記吊荷を、前記吊上げ位置から巻上動作を開始させる巻上指令を出力し、
前記巻上動作における負荷が所定条件を満たすかを検知し、
前記所定条件を満たすことを検知した際の前記電動巻上機の吊荷高さを、前記吊上げ位置
の高さと前記着床位置の高さの偏差と
、前記電動巻上機のフックと前記吊荷の高さの差分を用いて特定し、
特定された前記吊荷高さと、前記着床位置の高さの差分に基づいて、前記着床位置の高さに応じた前記吊荷の前記着床位置への巻下動作において減速を開始する高さ示す減速開始高さを算出し、
前記巻下動作の際に、前記減速開始高さに到達したことが検知し、
前記巻下動作における減速指示を出力することを特徴とする電動巻上機における吊荷の着床制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電動巻上機における吊荷の着床制御方法において、
前記減速開始高さの算出において、さらに前記巻下動作における減速時間を用いて、前記減速開始高さを算出することを特徴する電動巻上機における吊荷の着床制御方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の電動巻上機における吊荷の着床制御方法において、
前記減速開始高さの算出において、前記巻下動作の際に、ID送信機から送信される前記着床位置の高さを特定可能な情報を用いて、前記減速開始高さを算出することを特徴とする電動巻上機における吊荷の着床制御方法。
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載の電動巻上機における吊荷の着床制御方法において、
さらに、前記電動巻上機の吊荷保持手段を前記着床位置に移動させて、前記着床位置の高さを特定し、
減速開始高さの算出において、特定された前記着床位置の高さを用いて、前記減速開始高さを算出することを特徴とする電動巻上機における吊荷の着床制御方法。
【請求項5】
請求項1または2のいずれかに記載の電動巻上機における吊荷の着床制御方法において、
前記電動巻上機の吊荷保持手段の高さの特定において、(1)負荷が掛かる際の高さもしくは(2)前記吊荷が吊られた高さを特定し、
前記減速開始高さの算出において、(1)負荷が掛かる際の位置と前記着床位置の高さの差分に予め定めた値を加えた位置を、前記減速開始高さとして算出もしくは(2)前記吊荷が吊られた位置と前記着床位置の高さの差分を、前記減速開始高さとして算出することを特徴とする電動巻上機における吊荷の着床制御方法。
【請求項6】
吊荷を吊上げ位置から着床位置へ搬送する電動巻上機に対する制御を行う巻上機制御装置において、
前記吊荷を、前記吊上げ位置から巻上動作を開始させる巻上指令を出力する手段と、
前記巻上動作における負荷が所定条件を満たすかを検知する手段と、
前記所定条件を満たすことを検知した際の前記電動巻上機の吊荷高さを、前記吊上げ位置
の高さと前記着床位置の高さの偏差と
、前記電動巻上機のフックと前記吊荷の高さの差分を用いて特定する手段と、
特定された前記吊荷高さと、前記着床位置の高さの差分に基づいて、前記着床位置の高さに応じた前記吊荷の前記着床位置への巻下動作において減速を開始する高さ示す減速開始高さを算出する手段と、
前記巻下動作の際に、前記減速開始高さに到達したことが検知する手段と、
前記巻下動作における減速指示を出力する手段とを有することを特徴とする巻上機制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の巻上機制御装置において、
前記減速開始高さを算出する手段は、さらに前記巻下動作における減速時間を用いて、前記減速開始高さを算出することを特徴する巻上機制御装置。
【請求項8】
請求項6または7のいずれかに記載の巻上機制御装置において、
前記減速開始高さを算出する手段は、前記巻下動作の際に、ID送信機から送信される前記着床位置の高さを特定可能な情報を用いて、前記減速開始高さを算出することを特徴とする巻上機制御装置。
【請求項9】
請求項6または7のいずれかに記載の巻上機制御装置において、
さらに、前記電動巻上機の吊荷保持手段を前記着床位置に移動させて、前記着床位置の高さを特定する手段を有し、
減速開始高さを算出する手段は、特定された前記着床位置の高さを用いて、前記減速開始高さを算出することを特徴とする巻上機制御装置。
【請求項10】
請求項6または7のいずれかに記載の巻上機制御装置において、
前記電動巻上機の吊荷保持手段の高さを特定する手段は、(1)負荷が掛かる際の高さもしくは(2)前記吊荷が吊られた高さを特定し、
前記減速開始高さを算出する手段は、(1)負荷が掛かる際の位置と前記着床位置の高さの差分に予め定めた値を加えた位置を、前記減速開始高さとして算出もしくは(2)前記吊荷が吊られた位置と前記着床位置の高さの差分を、前記減速開始高さとして算出することを特徴とする巻上機制御装置。
【請求項11】
吊荷を吊上げ位置から着床位置へ搬送する電動巻上機および当該電動巻上機に対する制御を行う巻上機制御装置を有する電動巻上機システムにおいて、
前記巻上機制御装置は、
前記吊荷を、前記吊上げ位置から巻上動作を開始させる巻上指令を出力する手段と、
前記巻上動作における負荷が所定条件を満たすかを検知する手段と、
前記所定条件を満たすことを検知した際の前記電動巻上機の吊荷高さを、前記吊上げ位置
の高さと前記着床位置の高さの偏差と
、前記電動巻上機のフックと前記吊荷の高さの差分を用いて特定する手段と、
特定された前記吊荷高さと、前記着床位置の高さの差分に基づいて、前記着床位置の高さに応じた前記吊荷の前記着床位置への巻下動作において減速を開始する高さ示す減速開始高さを算出する手段と、
前記巻下動作の際に、前記減速開始高さに到達したことが検知する手段と、
前記巻下動作における減速指示を出力する手段とを有し、
前記電動巻上機は、前記巻上機制御装置からの出力に従って、前記吊荷を搬送する手段を有することを特徴とする電動巻上機システム。
【請求項12】
請求項11に記載の電動巻上機システムにおいて、
前記減速開始高さを算出する手段は、さらに前記巻下動作における減速時間を用いて、
前記減速開始高さを算出することを特徴する電動巻上機システム。
【請求項13】
請求項11または12のいずれかに記載の電動巻上機システムにおいて、
前記減速開始高さを算出する手段は、前記巻下動作の際に、ID送信機から送信される前記着床位置の高さを特定可能な情報を用いて、前記減速開始高さを算出することを特徴とする電動巻上機システム。
【請求項14】
請求項11または12のいずれかに記載の電動巻上機システムにおいて、
さらに、前記電動巻上機の吊荷保持手段を前記着床位置に移動させて、前記着床位置の高さを特定する手段を有し、
減速開始高さを算出する手段は、特定された前記着床位置の高さを用いて、前記減速開始高さを算出することを特徴とする電動巻上機システム。
【請求項15】
請求項11または12のいずれかに記載の電動巻上機システムにおいて、
前記電動巻上機の吊荷保持手段の高さを特定する手段は、(1)負荷が掛かる際の高さもしくは(2)前記吊荷が吊られた高さを特定し、
前記減速開始高さを算出する手段は、(1)負荷が掛かる際の位置と前記着床位置の高さの差分に予め定めた値を加えた位置を、前記減速開始高さとして算出もしくは(2)前記吊荷が吊られた位置と前記着床位置の高さの差分を、前記減速開始高さとして算出することを特徴とする電動巻上機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷を移動させる電動巻上機の制御に関する。その中でも特に、電動巻上機における吊荷を着床する際の制御に関する。着床面の高さによらず吊荷の着床作業(巻下動作)を補助する機能を備えた電動巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動巻上機の巻下操作における吊荷の着床は作業者の目視により行い、巻下操作を断続的に行うことにより吊荷の衝撃緩和を行っていた。また、断続的に巻下操作を開始するまでの吊荷と床の間隔は作業者の技量によるため着床までに時間を要する問題があった。
【0003】
本技術分野の背景技術として、特開2008-239258号公報(特許文献1)、特開2019-94205号公報(特許文献2)がある。特許文献1には、巻上下用誘導電動機、モータ駆動装置、制御装置を備え、吊荷の昇降を行う巻上機の運転制御装置において、負荷/無負荷センサーと、エンコーダを備え、制御装置は吊荷の上昇時、巻上下用電動機を第1高速上昇速度で運転し、負荷/無負荷センサーが吊荷の荷重を検出したら吊荷の地切前に該地切時に衝撃が発生しない第1低速上昇速度に減速させる機能と、下降時の減速位置を算出する減速位置算出機能と、吊荷の下降時、巻上下用電動機を第1高速下降速度で運転し、減速位置となった時、吊荷の着床前に該着床時に衝撃が発生しない第1低速下降速度に減速させる機能を備えたと記載されている。
【0004】
特許文献2には、電動巻上機であって、インバータの内部で算出されるトルク指令値算出部と、トルク指令値算出部の値を規定時間経過後にインバータ制御部に取込む出力トルク検出部と、出力トルク検出部による検出トルクを保存する検出トルク保存部と、検出トルクと保存した1つ前の規定時間の検出トルクを比較する検出トルク比較部と、巻上指令により巻上を行ない、検出トルク比較部による比較結果が一致した回数が規定回数に達したときにエンコーダにより検出したフック位置を記憶するフック位置記憶部を有し、巻下指令により高速巻下を記憶したフック位置に達するまで行い、記憶したフック位置に到達した際に低速巻下に速度を落とす巻下減速判定部を備えると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-239258
【文献】特開2019-94205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電動巻上機の運転制御装置は、負荷/無負荷センサーを用いることで荷重を検知し、所定の値をオフセットし減速点を決めているため着床位置が搬送前の吊荷と同じ高さにしか対応できないという問題点がある。また、特許文献2においてはサンプリング周期を伸ばすかサンプリング回数を増やすことで着床位置の高さが高くなる場合、巻上の際のフック位置記憶まで低速動作域が長くなるとの課題が生じる。着床面が低い場合においても減速開始点(減速開始高さ)から低速動作域が長くなるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の着床位置の高さにそれぞれに対応する吊荷の着床作業のための巻下動作を実行する。より具体的には、巻上機制御装置を用いて、吊荷を吊上げ位置から着床位置へ搬送する電動巻上機における吊荷の着床制御方法において、前記巻上機制御装置が、前記吊荷を、前記吊上げ位置から巻上動作を開始させる巻上指令を出力し、前記巻上動作における負荷が所定条件を満たすかを検知し、前記所定条件を満たすことを検知した際の前記電動巻上機の吊荷高さを、前記吊上げ位置の高さと前記着床位置の高さの偏差と、前記電動巻上機のフックと前記吊荷の高さの差分を用いて特定し、特定された前記吊荷高さと、前記着床位置の高さの差分に基づいて、前記着床位置の高さに応じた前記吊荷の前記着床位置への巻下動作において減速を開始する高さ示す減速開始高さを算出し、前記巻下動作の際に、前記減速開始高さに到達したことが検知し、前記巻下動作における減速指示を出力する電動巻上機における吊荷の着床制御方法である。
【0008】
なお、巻上機の吊荷高さの特定は、巻上機におけるフックを含む吊荷保持手段の高さを特定し、当該吊荷保持手段の高さを特定することが含まれる。
【0009】
また、本発明には、巻上機制御装置、電動巻上機やこれを含む電動巻上機システムも含まれる。
【発明の効果】
【0010】
搬送を開始する位置、すなわち、吊荷を吊上げる位置(吊上げ位置)の高さと着床させる位置(着床位置)の高さが異なる場合であっても、着床作業における減速開始高さから着床までの巻下動作の際の低速動作域を適正に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1、2における電動巻上機の外観正面図である。
【
図2】実施例1、2における電動巻上機システムの機能構成図の一例である。
【
図3】実施例1、2におけるフック、ロープ、吊荷の状態を表す説明図である。
【
図4】実施例1、2における吊荷高さを判別するフローの一例である。
【
図5】実施例1、2における下限減速から停止までの処理を示すフローの一例トである。
【
図6】実施例1、2における電動巻上機の制御システムの構成の一例である。
【
図7】実施例2における電動巻上機の着床位置の高さの補正に関する構成の一例である。
【
図8】実施例2における電動巻上機の制御システムの構成の一例である。
【
図9】実施例1、2におけるb点を利用した搬送動作におけるフック高さと時間の関係を示す図である。
【
図10】実施例1、2におけるc点を利用した搬送動作におけるフック高さと時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施例に関して図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
まず、実施例1について、説明する。
図1は、本実施例および後述する実施例2における電動巻上機の外観を示す外観正面図である。電動巻上機は、フック101、ワイヤロープ102、操作入力装置103、リミット104、誘導電動機105、電磁ブレーキ106、制御装置107等により構成されている。
【0014】
電動巻上機は、フック101に取付けられた荷物(吊荷302)を操作入力装置103からの操作指令を制御装置107に取込み、制御装置107は取込んだ入力指令に応じ電磁ブレーキに開放指令を送る。そして、誘導電動機105を制御することによりワイヤロープ102を巻取り、巻出しすることにより巻上動作や巻下動作を実行する。これにより、フック101に取付けられた吊荷302は、Z方向(+Z方向、-Z方向の矢印を示す)、即ち、上下方向(高さ方向)に移動する。以上のようにして、電動巻上機は、吊荷の搬送を行う。
【0015】
なお、フック101は、吊荷302を保持できればよく、両フック、片フックなどその形態を問わない。また、フック以外のクロー、マグネット、スプリッタ等を用いてもよい。
【0016】
次に、本実施例における搬送について、
図2~
図6および
図9を用いて説明する。この搬送では、巻下動作の際のおける減速制御や停止制御が含まれる。さらに、以下では、吊荷302および吊具のロープである吊具ロープ301を考慮した減速を開始する高さの算出も説明する。なお、吊具ロープ301は、吊具の一種であり、ロープ以外の構成も吊具に含まれる。
【0017】
図2は、本実施例および実施例2において搬送を行う電動巻上機、特に、制御装置107や制御される誘導電動機105等からなる電動巻上機システムの機能構成図の一例である。制御装置107は、誘導電動機105を駆動するインバータ201、インバータ201の制御ならび操作入力装置103からの操作指令に応じ電磁ブレーキ106の解放制御を行うインバータ制御部202を有する。
【0018】
操作入力装置103から所定の操作指令を受けると、インバータ制御部202は操作指令に基づいたインバータ制御信号を生成し、インバータ制御信号(動作指令)によってインバータ201を制御する。これを受けて、インバータ201はインバータ制御信号に基づき誘導電動機105の駆動に必要な周波数、電圧、電流を誘導電動機105に与える。インバータ制御部202はインバータ201を制御するとともに、電磁ブレーキ106を開放制御することで、フック101に吊具ロープ301を介して吊られた吊荷302を保持しながらZ方向に移動させる。
【0019】
次に、インバータ制御部202の構成の一例について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施例における電動巻上機の制御システム構成の一例を示す。
【0020】
インバータ制御部202は、制御部601、情報記憶部602、演算処理部603を有する。制御部601は、操作入力装置103の操作指令に基づきインバータ201を制御し、誘導電動機105を駆動する。
【0021】
制御部601は、インバータ201から取得した周波数、電圧、電流値、トルク指令値、エンコーダ203から取得したパルス信号などから負荷状態を判定する。誘導電動機105の回転状況の検出は誘導電動機105の回転軸に取付けられたエンコーダ203により回転数に対応したパルス信号を得ることができる。
【0022】
制御部601は、操作入力装置103からの操作指令に応じ電磁ブレーキ106の開放または制動制御する。制御部601は、エンコーダ203から取得したパルス信号、あらかじめリミット104下部を基準点とした情報に基づき、計算処理等を行って現在のフック101のフック高さを取得する。なお、フック高さとは、フック101の最下部(Z方向で最も低い高さの部分)と上記基準点を用いて求められる。また、フック高さの特定には前記基準点や最下部以外の情報を用いてもよい。
【0023】
本実施例での高さとは、Z方向の位置を示し、誤差を含んでもよい。また、基準点も高さを示す。なお、以下の説明での「点(b点等)」も同様である。
【0024】
なお、フック高さの取得は、エンコーダ203より算出される値に限定されずフック高さが検出すればよく、そのための構成は限定されない。また、高さ以外のX方向やY方向も検出してもよい。
【0025】
情報記憶部602には、前記基準点の高さ情報ならび各着床面の高さおよび、負荷検出の所定の閾値を記憶している。制御部601は、この閾値を用いて、所定条件を満たす負荷状態を検出するが、これは吊上げ位置において、吊具ロープ301にテンション(負荷)が掛かったことを示す。この負荷状態には、以下のものが含まれる。また、これらのうち、組み合わせて判断してもよい。つまり、それぞれの状態を検知し、そのうち少なくとも1つが条件を満たした場合、所定の条件を満たすと判断してもよい。これらについては、上述のとおり、組み合わせで判断してもよい。
操作入力装置103からの操作指令に基づき巻上動作を行う際にインバータ201に所定の電流よりも多い電流が流れていることを検出した状態
誘導電動機105のスベリ周波数が所定の値よりも大きい状態
インバータ201内で算出されるトルク指令値が所定の値より多い状態
なお、着床面とは、吊荷を着床させる着床位置の一例である。このため、着床位置には、複数の支点で吊荷を支えたり、何からの保持手段で保持する位置も含まれる。本実施例では、着床位置として着床面を用いた例で説明する。また、この負荷検出方法は上記に限られず所定の閾値と比較することで判別することができるものであればよい。
【0026】
情報記憶部602は、制御部601を介し負荷を検出した際のフック高さを記憶する。
【0027】
演算処理部603は、情報記憶部602に記憶された負荷検出の際のフック高さを用いて、吊荷高さを算出する。吊荷高さとは、上述の負荷状態を検出した際の吊荷302のうち、予定の着床面に最も近い位置までの高さを示す情報である。このため、演算処理部603は、まず、フック101と吊荷302の高さの差分を特定する。この差分は、操作入力装置103で受け付けられた値や情報記憶部602に予め記憶された値を用いることが可能である。また、情報記憶部602に記憶された吊上げ位置の高さと予定の着床面の高さ差分である偏差を特定する。そして、この差分と偏差を用いて、吊荷高さを算出する。
【0028】
なお、吊荷高さの算出においては、フック高さや差分の特定を省略してもよい。この場合、吊荷302のうち、吊上げ位置から最も近い位置までの高さと、前記偏差を用いて吊荷高さを算出する。ここで、「予定の着床面に最も近い位置」とは、着床の際に、吊荷302のうち先行的に着床する位置を示す。
【0029】
そして、算出された吊荷高さは情報記憶部602に記憶される。さらに、巻下指令前に再度、操作入力装置103等により選択された着床面の高さに記憶した吊荷高さならび減速時間に基づく移動距離分を加算することで、巻下動作時の減速位置を算出する。
【0030】
情報記憶部602に記憶した負荷検出の際のフック位置および演算処理部により算出された吊荷高さは、操作入力装置103で特定の操作をすることでリセットできる。そして、リセットすることで別の吊荷を吊上げる際の自動減速機能を発揮することができる。なお、リセット方法は上記に限らず、無負荷と判定した場合にリセット処理を行ってもよい。
【0031】
なお、制御部601と演算処理部603は、一体化してもよいし、機能毎に分割した構成としてもよい。また、これらは、情報記憶部602に格納されたプログラムに従った演算により各種機能を実行してもよい。
【0032】
次に、本実施例における複数の着床面に対し、吊上げ位置の高さと着床面の高さが異なる場合の巻下の際の減速制御ならび着床までの停止処理に関して、
図3~
図7および
図9を用いて説明する。
【0033】
まず、
図3は、本実施例の処理の一部を説明するための図である。(a)は着床面の高さの特定、(b)は吊荷高さの判別を説明するための図である。後述するように、(b)吊荷高さの判別は、電動巻上機の負荷状態が所定条件を満たすかを検知し、検知した際の吊荷高さを特定することで実行される。
【0034】
まず、(a)は、電動巻上機設置後の試運転または定期検査の際に、想定される着床面の高さを取得する。このため、空荷の状態で操作入力装置103の巻下指令により制御部601は電磁ブレーキ106を開放制御し、インバータ201を制御し誘導電動機105を駆動する。これによりフック101が降下し、フック下部が床面に振れた所(a点)で停止させる。そして、エンコーダ203のパルス信号から停止させたフック高さを制御部601で算出する。算出されたフック高さを、着床面の高さとして、情報記憶部602に記憶する。ここで、情報記憶部602では、記憶する着床面の高さ毎にパターン化(例えばパターンAを地上、パターンBを地下等の地上よりも低い面、パターンCを地上よりも高い面)して記憶させておくことが望ましい。また、このパターンについては、インバータ制御部202上に搭載されている表示画面および設定/選択キーを用いて格納する場所(パターンA、B、C等)を選択できるようによいし、操作入力装置103により記憶させるパターンを選択してもよい。記憶させたパターンの初期化においても同様の方法で行うことができる。
【0035】
次に、本実施例の着床面毎のパターンを記憶後の搬送動作のための処理フローを説明する。搬送動作は、大きく巻上動作と巻下動作に分けられる。また、それぞれ、
図3(b)に示すb点、c点を利用する2通りの方法がある。そこで、以下、b点を利用した巻上動作、b点を利用した巻下動作、c点を利用した巻上動作、c点を利用した巻下動作の順で説明する。まず、b点を利用した吊荷の巻上動作について、
図4、
図7および
図9を用いて説明する。
図4は、本実施例における吊荷高さを判別するフローの一例である。また、
図9は、b点を用いた場合の吊荷の巻上動作や巻下動作を含む搬送動作における高さと時間の関係を示す図である。
【0036】
まず、インバータ制御部202の制御部601は、操作者により操作入力装置103を介して、吊荷302の着床面に対応するパターンの選択を受け付ける。
【0037】
そして、パターン選択後、制御部601は、操作入力装置103からの巻上操作指令の有無を判別する(S401)。操作入力装置103から巻上指令があった場合、S402へ進み、なかった場合、S401の処理を繰り返す。
【0038】
次に、制御部601は、インバータ201に対し、低速動作での巻上指令を行う。これを受けて、インバータ201は誘導電動機105を制御する。この結果、電動巻上機は、吊上げ位置から低速動作での巻上を実施する(S402)。
図9のア)に、この低速動作を示す。
図9では、巻上げ位置から一定速度(傾き)でフック高さが上昇している。
【0039】
低速動作での巻上の際に、制御部601は電動巻上機における負荷状態を継続的に検知する。そして、制御部601はこの負荷状態が所定条件を満たすかを判断する(S403)。この判断としては、上述のとおり以下の例が含まれる。
インバータ201に所定の電流よりも多い電流が流れていることを検出した状態
誘導電動機105のスベリ周波数が所定の値よりも大きい状態
インバータ201内で算出されるトルク指令値が所定の値より多い状態
この結果、上記の負荷状態であると判別した場合は、S404に進み、そうでない場合S403を継続する。
【0040】
次に、制御部601は、エンコーダ203より得られたパルス信号より、上記の負荷状態を判別した際のフック高さを特定し、情報記憶部602に記憶する(S404)。このときのフック101下面であるb点の高さを、基準点をベースに特定する。また、この際の吊具ロープ301は張った状態で、吊荷302は吊上げ位置に着床した状態である。このようにして、b点をフック高さとして特定する。これらS402~S404における搬送状態は、
図9のイ)に示されるとおりである。つまり、吊具ロープ301はア)では緩んでいる状態でフック101が上昇であり、イ)で吊具ロープ301にテンション、つまり、負荷が掛かり、一旦フック高さが変動しない状態となる。この負荷およびフック高さを、S403、S404で検出、算出する。
【0041】
次に、演算処理部603は、着床面の高さとS404で特定されたフック高さを比較する。そして、これに吊具ロープ301分の高さを加味した吊荷302の吊荷高さ(
図3のa点からb点までの高さ)算出する(S405)。そして、演算処理部603は、算出された吊荷高さは情報記憶部602に保存する。また、制御部601は、高速動作での巻上指令を許可する。つまり、電動巻上機は、吊荷302に対して、高速動作での巻上を行う。つまりり、
図9のウ)の動作を行う。その後、電動巻上機は、操作入力装置103での操作に従って、
図9のエ)の動作、つまり、吊荷302の平行移動を実施する 次に、本実施例における吊荷の着床処理における巻下動作に関し、
図5および
図9を用いて説明する。
図5は本実施例における下限減速から停止までの処理を示すフローである。
【0042】
図9エ)の動作の際、もしくはそれ以前に、制御部601は、操作者により操作入力装置103を介して吊荷302を着床させる予定である着床面に対応するパターンの選択を受け付ける。
【0043】
次に、制御部601は、操作入力装置103からの巻下動作指令があったかの判別を行う(S501)。この結果、操作入力装置103から巻下動作指令があった場合、S502に進む。また、巻下動作指令がなかった場合、S501を継続する。
【0044】
次に、演算処理部603は、情報記憶部602に記憶された選択パターンに対応する予定の着床面の高さ、S405で算出された吊荷高さを取得する。そして、演算処理部603は、規定の減速時間から減速を開始させる減速開始高さを算出する(S502)。この減速開始高さは、着床面に吊荷302が着床した状態の高さを示す。
図3を着床面とした場合、吊荷高さがa点、つまり、フック高さがb点である場合である。
図9では、カ)でこの高さを示す。なお、減速開始高さは、減速を開始する場所を示し、Z方向の位置を示せばよく、X方向、Y方向の位置を含めて算出してもよい。
【0045】
また、制御部601は、インバータ201に対し、高速動作での巻下指令を行う。そして、インバータ201が誘導電動機105を制御し、電動巻上機において高速動作での巻下動作を実施する(S503)。つまり、
図9のオ)に示す動作を実行する。
【0046】
次に、制御部601は、電動巻上機の高速動作での巻下動作(カ)の際に、処理S502により算出された減速開始高さに到達したかの判別を行う(S504)。これは、制御部601が、エンコーダ203からの情報により継続的にフック高さを判断することで実現できる。ここで、
図9のカ)に示すフック高さは、巻上時に選択された吊荷302の着床面と搬送先(予定)の着床面が同じ場合の例を示している。つまり、着床面が、
図7に示す着床面Aの場合である。この場合、フック高さb点である場合の吊荷高さが減速開始高さとなる。
【0047】
また、吊荷高さと着床面の高さが異なる場合は、以下のとおりの補正処理を、S502で行う。
【0048】
まず、予定の着床面の高さが、吊上げ位置より高い場合、つまり、
図7の着床面Cについて説明する。この場合、制御部601は、
図9のカ)に、着床面Cの高さに吊荷高さ(a点からb点までの高さ)を加えた演算を実行する。このことで、フック高さが
図9のキ)の場合の吊荷高さ、つまり、減速開始高さを算出する。
【0049】
また、予定の着床面の高さが、吊上げ位置より低い場合(着床面B)は、制御部601は、
図9のカ)から着床面Bに吊荷高さ(a点からb点までの高さ)を加算する。このことで、フック高さが
図9のク)の場合の吊荷高さ、つまり、減速開始高さを算出する。
【0050】
次に、フック101が減速開始高さに到達した場合、制御部601はインバータ201に対し、低速動作の巻下指令を行う。このことで、インバータ201により誘導電動機を制御し、減速していき低速動作での巻下を実施する(S505)。つまり、予定の着床面の高さに応じて、
図9のケ)コ)サ)に示す動作を行う。減速開始高さに到達していない場合、S503に戻る。
【0051】
次に、
図9のケ)コ)サ)で示される低速動作での巻下動作の際に、制御部601は無負荷判別を行う(S506)。この結果、負荷がある場合はS505に戻り、低速動作での巻下動作を継続する。負荷が無い場合、制御部601は、吊荷302が着床したと判断し、停止指令を出力する。なお、無負荷判別は、インバータ201に流れる電流、誘導電動機105のスベリ周波数、インバータ201内で算出されるトルク指令値などが含まれる。また、必ずしも負荷状態がない(ゼロ)である必要はなく、これらのうち少なくとも1つが所定の値より小さい値を示す場合に、負荷が無いと判定してもよい。
【0052】
以上で、b点を利用した巻上動作およびb点を利用した巻下動作、つまり、b点を利用した搬送動作の説明を終了する。
【0053】
次に、c点を利用した搬送動作について、c点を利用した巻上動作、c点を利用した巻下動作に分けて説明する。以下の説明では、
図4、
図5のフローチャート、
図7に加え、
図10を用いて説明する。
【0054】
まず、c点を利用した巻上動作について、b点を利用した場合との違いを中心に説明する。ここで、
図3(b)のc点は、吊荷302が宙に浮いた際のフック位置を示している。また、
図4のS402までは、上述のb点利用の例と同様である。また、S403は、b点と基本的な考え方である「負荷状態が所定条件を満たすかを判断する」ことは同様である。但し、所定条件(用いる閾値としての所定の電流等)の用い方が異なる。本例では、負荷状態が上記の所定条件を満たし、さらに負荷状態が別の条件を満たしているかを判断する。別の条件とは、設置された吊荷302が持ち上げられたことを示すものである。この別の条件には、インバータ201の電流、誘導電動機105のスベリ周波数、インバータ201内で算出されるトルク指令値の少なくとも1つが含まれる。
【0055】
そして、制御部601は、エンコーダ203より得られたパルス信号より、別の条件を満たす場合に、その際の高さ(c点の高さ)をフック高さとして特定する。そして、これを情報記憶部602に記憶する。
図9に示すイ’)が、この場合のフック高さを示す。
【0056】
次に、S405では、演算処理部603は、選択された着床面の高さとフック高さを比較する。これに吊具ロープ301分の高さおよびc点とb点の差分を加味した吊荷302の吊荷高さ(
図3のa点からc点までの高さ)を
算出する。また、制御部601では、b点の例と同じように、電動巻上機の高速巻上動作および平行移動を制御する。つまり、
図10のウ)エ)の動作を行う。以上でc点を利用した巻上動作の説明を終了する。
【0057】
次に、c点を利用した巻下動作を、
図5、
図7および
図10を用いて説明するS501は、b点利用の例と同様である。
【0058】
次に、演算処理部603は、情報記憶部602に記憶された選択パターンに対応する予定の着床面の高さ、S405で算出された吊荷高さを取得する。そして、演算処理部603は、規定の減速時間から減速を開始させる減速開始高さを算出する(S502)。この処理は、b点利用の場合と基本的には同じであるが、フック高さb点とc点で異なる。このため、減速開始高さを、b点利用の場合よりもc点-b点分高い高さを算出する。このため、着床面Aの場合、フック高さが
図10のカ’)の場合の吊荷高さが減速開始高さとして算出される。また、着床面B、着床面Cについても、b点利用の例からc点-b点分高くなり、それぞれフック高さがク’)キ’)の場合の吊荷高さを減速開始高さとして算出される。
【0059】
そして、S503からS505は、b点利用の場合と同様の処理を行う。つまり、
図10のオ)の高速動作での巻下動作から、着床面に応じた低速動作での巻下動作ケ)コ)サ)に示す動作を実行する。以上で、実施例1の説明を終了する。
【実施例2】
【0060】
次に、実施例2として、実施例1と異なる着床面のパターン選択に関する例を説明する。
図8は、本実施例における電動巻上機の制御システムの構成を示す一例である。
図8では、ID送信機701、ID受信機702を備える点で、実施例1(
図6)の構成と異なる。
【0061】
ID送信機701は、それぞれ固有のIDを保有しており、この固有のIDは情報記憶部602にも保存している。そして、着床面までの距離を記憶した着床面のパターンに紐づけされている。また、ID送信機701は、作業場の壁面に設置されている(
図7の701a、701b、701c参照)。一方、ID受信機702はフック101に取付けられている。そして、ID送信機701から送信される固有のIDを取得し、取得した情報を制御部601に送信する。この結果、制御部601は送信されたIDからパターン(着床面までの距離)を特定する。さらに取得した電波情報(強度)から誤検出したか否かを判断する。
【0062】
なお、ID送信機701とID受信機702の間で、固有のIDの代わりに、対応する着床面のパターンないし高さを示す情報を送受信してもよい。
【0063】
これにより、作業者がパターンを選択することなく各着床面に対し実施例1で示した下限減速から停止までの処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0064】
101:フック
102:ワイヤロープ
103:操作入力装置
104:リミット
105:誘導電動機
106:電磁ブレーキ
107:制御装置
201:インバータ
202:インバータ制御部
203:エンコーダ
301:吊具ロープ
302:吊荷
601:制御部
602:情報記憶部
603:演算処理部
701:ID送信機
702:ID受信機