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特許7405655非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20231219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231219BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020046109
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021150051
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近都 康平
(72)【発明者】
【氏名】神 貴志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 なつみ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶一
(72)【発明者】
【氏名】新名 史治
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 翔
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 亮
(72)【発明者】
【氏名】辻子 曜
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-054159(JP,A)
【文献】特開2020-011892(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187538(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極芯体と、前記正極芯体上に配置される正極合材層と、を備え、
前記正極合材層は、平均粒径が1μm以上の1次粒子が凝集した2次粒子であるか、又は実質的に単一の粒子で構成される、体積基準のメジアン径(D50)が0.6μm~6μmのリチウム遷移金属複合酸化物(I)、及び平均粒径が1μm未満の1次粒子が凝集した2次粒子である、体積基準のメジアン径(D50)が3μm~25μmのリチウム遷移金属複合酸化物(II)を含む正極活物質と、カーボンナノチューブと、を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物(I)及び(II)は、Liを除く金属元素の総モル数に対して80モル%以上のNiを含有し、当該酸化物(I)及び(II)それぞれの粒子表面には、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素が存在する、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブの両方を含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質の質量に対する前記リチウム遷移金属複合酸化物(I)の含有率は、20質量%~55質量%である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極合材層の質量に対する前記単層カーボンナノチューブの質量の割合は、前記正極合材層の質量に対する前記多層カーボンナノチューブの質量の割合より小さい、請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物(I)及び(II)はそれぞれ、一般式LiNiCoM1M2(式中、0.8≦a≦1.2、b≧0.80、c≦0.15、0.01≦d≦0.12、0.001≦e≦0.06、1≦f≦2、b+c+d+e=1、M1はMn及びAlから選択される1種以上の元素、M2は、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素)で表される複合酸化物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属複合酸化物(II)において、前記一般式中のM2は、B及びTiから選択される1種以上の元素である、請求項5に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
前記リチウム遷移金属複合酸化物(I)において、前記一般式中のM2は、B及びAlから選択される1種以上の元素である、請求項5又は6に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属複合酸化物(I)において、前記一般式中のM2は、B及びAlであり、前記リチウム遷移金属複合酸化物(II)において、前記一般式中のM2は、B及びTiである、請求項5~7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項9】
前記正極合材層の抵抗が15Ωcm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項10】
前記リチウム遷移金属複合酸化物(II)において、前記一般式中のM2は、Bを含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物(II)において、粒径が体積基準の70%粒径(D70)より大きな粒子を第1粒子、粒径が体積基準の30%粒径(D30)より小さな粒子を第2粒子としたとき、
前記第1粒子における、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率(B1)は、前記第2粒子における、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率(B2)よりも大きい、請求項5~9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項11】
前記正極合材層は、粒子状の導電材を含まない、請求項1~10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項12】
正極と、負極と、非水電解質と、を含み、前記正極は、請求項1~11のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極である、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物が、高エネルギー密度の正極活物質として注目されている。例えば、特許文献1には、正極活物質として、NiとLiを主成分とし、一般式LiNi1-p-q-rCoAl2-y(Aは、Ti、V、In、Cr、Fe、Sn、Cu、Zn、Mn、Mg、Ga、Ni、Co、Zr、Bi、Ge、Nb、Ta、Be、Ca、Sr、Ba、Scからなる群から選択された少なくとも1種の元素)で表され、平均粒径が2μm~8μmである単結晶の1次粒子からなる複合酸化物を含む非水電解質二次電池が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成されたリチウム金属複合酸化物粉末であって、単粒子の数をa、二次粒子の数をbとしたとき、[a/(a+b)]が0.5<[a/(a+b)]<1.0を満たす、リチウム金属複合酸化物粉末が開示されている。特許文献2には、このようなリチウム遷移金属複合酸化物粉末を用いることにより、正極の成形時の加圧操作による粒子割れが抑制され、充放電サイクル特性が改善されることが述べられている。
【0004】
また、特許文献3には、粒子表面をメタホウ酸リチウムと酸化ニッケルで被覆し、メタホウ酸リチウムの被覆率が85%以上95%未満である正極活物質が開示されている。特許文献3には、このような正極活物質を用いることにより、活物質と電解液の副反応が抑制され、レート特性が改善されることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-54159号公報
【文献】特開2019-160571号公報
【文献】特開2013-137947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物は、充放電サイクルに伴う容量低下を抑制することが求められているが、特許文献2や3の技術を適用しても、充放電サイクルに伴う容量低下を十分に抑制できない。
【0007】
本開示は、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を含む非水電解質二次電池用正極を用いて、非水電解質二次電池の充放電サイクルに伴う容量低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極は、正極芯体と、前記正極芯体上に配置される正極合材層と、を備え、前記正極合材層は、平均粒径が1μm以上の1次粒子が凝集した2次粒子であるか、又は実質的に単一の粒子で構成される、体積基準のメジアン径(D50)が0.6μm~6μmのリチウム遷移金属複合酸化物(I)、及び平均粒径が1μm未満の1次粒子が凝集した2次粒子である、体積基準のメジアン径(D50)が3μm~25μmのリチウム遷移金属複合酸化物(II)を含む正極活物質と、カーボンナノチューブと、を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物(I)及び(II)は、Liを除く金属元素の総モル数に対して80モル%以上のNiを含有し、当該酸化物(I)及び(II)それぞれの粒子表面には、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素が存在することを特徴とする。
【0009】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を含み、前記正極は、上記非水電解質二次電池用正極であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る非水電解質二次電池正極を用いることにより、非水電解質二次電池の充放電サイクルに伴う容量低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図2】実施形態の非水電解質二次電池に使用される正極の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体が有底円筒形状の外装缶に収容された円筒形電池を例示するが、外装体は円筒形の外装缶に限定されず、例えば角形の外装缶であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。また、電極体は複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層された積層型の電極体であってもよい。
【0013】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14及び電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、電池の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0014】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0015】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成されることが好ましい。即ち、負極12は、正極11よりも長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成されることが好ましい。セパレータ13は、例えば、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、2枚のセパレータ13で正極11を挟むように配置される。電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。
【0016】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0017】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0018】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0019】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について説明する。
【0020】
[正極]
図2は、実施形態の非水電解質二次電池に使用される正極の一例を示す模式断面図である。図2に例示するように、正極11は、正極芯体30と、正極芯体30上に配置された正極合材層31とを有する。正極芯体30には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層31は、正極活物質、結着材、及び導電材等を含む。正極合材層31は、図2に示すように正極芯体30の片面に設けられてもよいが、正極芯体30の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体30の表面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して正極合材層31を正極芯体30の両面に形成することにより作製できる。
【0021】
正極合材層31に含まれる導電材として、カーボンナノチューブを含む。正極合材層31にカーボンナノチューブが含まれることで、後述するNi含有量の多いリチウム遷移金複合酸化物(I)及び(II)を含む正極活物質を用いた場合でも、正極活物質の粒子間の導電性が確保され、充放電サイクルにおける電池容量の低下が抑制されると考えられる。また、導電材としてカーボンナノチューブを用いた場合、アセチレンブラック等の粒子状の導電材を用いた場合と比べて、導電材の添加量を減らしても、正極活物質の粒子間の導電性が確保されるため、正極活物質の充填量が増えて、電池のエネルギー密度の向上を図ることも可能である。
【0022】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブが挙げられる。単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、1層のグラフェンシートが1層で1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体である。多層カーボンナノチューブは、グラフェンシートが複数層、同心円状に積層して1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体である。なお、グラフェンシートとは、グラファイト(黒鉛)の結晶を構成するsp2混成軌道の炭素原子が正六角形の頂点に位置する層のことを指す。カーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含む様々な形態が挙げられる。
【0023】
正極合材層31には、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブのうちのいずれか一方のみを含んでいてもよいが、正極活物質の粒子間の導電性を向上させ、充放電サイクルにおける容量低下をより抑制できる点で、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブの両方を含むことが好ましい。一般的に、単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブより繊維長が長いため、正極合材層31に単層カーボンナノチューブが含まれることで、正極活物質の粒子間の導電パスが確保され易くなると考えられる。更に、一般的に、単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブより繊維径が細いため、柔軟性が高く、正極合材層31に単層カーボンナノチューブが含まれることで、充放電サイクルに伴う活物質の膨張収縮に追随し、活物質粒子間の接触を維持することができると考えられる。また、一般的に、単層カーボンナノチューブの繊維長より短い多層カーボンナノチューブが正極合材層31に含まれることで、単層カーボンナノチューブと正極活物質の粒子との接触点が多数形成され易くなると考えられる。更に、一般的に、単層カーボンナノチューブの繊維径より太い多層カーボンナノチューブが正極合材層31に含まれることで、単層カーボンナノチューブと正極活物質の粒子との接触面積が広くなり易くなると考えられる。したがって、単層カーボンナノチューブのみ又は多層カーボンナノチューブのみを使用した場合に比べて、正極活物質の粒子間の導電性が向上し、充放電サイクルにおける電池容量の低下をより抑制できると考えられる。
【0024】
単層カーボンナノチューブの繊維長は、例えば、10μm~50μmであり、多層カーボンナノチューブの繊維長は、例えば、1μm~20μmである。なお、カーボンナノチューブの繊維長は電界放出型走査顕微鏡(FE-SEM)により任意のカーボンナノチューブ50個の長さを測定し、算術平均により求めることができる。
【0025】
単層カーボンナノチューブの繊維径は、例えば、1nm~5nmであり、多層カーボンナノチューブの繊維径は、例えば、5nm~30nmである。カーボンナノチューブの繊維径は、電界放出型走査顕微鏡(FE-SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)により任意のカーボンナノチューブ50個の外径を測定し、算術平均により求めることができる。
【0026】
正極合材層31の質量に対する単層カーボンナノチューブの質量の割合は、正極合材層31の質量に対する多層カーボンナノチューブの質量の割合より小さいことが好ましい。すなわち、正極合材層31には、質量換算で、単層カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブより少なく含まれていることが好ましい(言い換えれば、多層カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブより多く含まれていることが好ましい)。これにより、充放電サイクルにおける電池容量の低下をより抑制できる場合がある。
【0027】
正極合材層31には、粒子状の導電材が含まれていてもよいが、粒子状の導電材が含まれていないことが好ましい。正極合材層31に粒子状の導電材が含まれないことで、正極活物質の充填量が高められ、電池のエネルギー密度が向上する場合がある。なお、粒子状の導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。粒子状の導電材を使用する場合、その1次粒子径が5nm以上100nm以下であることが好ましく、アスペクト比が10未満であることが好ましい。
【0028】
正極合材層31に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0029】
正極合材層31に含まれる正極活物質は、体積基準のメジアン径(D50)が0.6μm~6μmのリチウム遷移金属複合酸化物(I)と、体積基準のメジアン径(D50)が3μm~25μmのリチウム遷移金属複合酸化物(II)とを含む(以下、単に「複合酸化物(I)、(II)」とする)。正極活物質は、複合酸化物(I)と(II)のみが含まれていてもよいが、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物(I)及び(II)以外の複合酸化物、或いはその他の化合物が含まれてもよい。
【0030】
体積基準のメジアン径(D50)は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。複合酸化物の粒径、粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0031】
複合酸化物(I)は、平均粒径が1μm以上の大きな1次粒子が凝集した2次粒子であるか、又は実質的に単一の粒子で構成される複合酸化物粒子である。実質的に単一の粒子で構成される複合酸化物(I)は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて適切な倍率で観察したときに、1次粒子の粒界が確認できない粒子を意味する。複合酸化物(I)が2次粒子である場合、1次粒子の平均粒径は、例えば1μm~6μmである。他方、複合酸化物(II)は、平均粒径が1μm未満の小さな1次粒子が凝集した2次粒子である。
【0032】
複合酸化物(I)が2次粒子である場合、SEMにより観察される粒子断面には1次粒子の粒界が確認される。複合酸化物(I)は、例えば100個以下、好ましくは数個~数十個、より好ましくは2~5個の1次粒子で構成され、複合酸化物(II)は、例えば、10000個~5000000個の1次粒子で構成される。1次粒子の粒径は、複合酸化物の粒子断面のSEM画像において当該粒界で囲まれた領域(1次粒子)のフェレー径として計測される。1次粒子の平均粒径は、100個の1次粒子の粒径を平均化して求められる。
【0033】
複合酸化物(I)は、Liを除く金属元素の総モル数に対して80モル%以上のNiを含有する。また、複合酸化物(I)の粒子表面には、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素が存在する。また、複合酸化物(II)も同様に、Liを除く金属元素の総モル数に対して80モル%以上のNiを含有し、また、複合酸化物(II)の粒子表面には、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素が存在する。粒子表面に存在するこれらの元素は、例えば、金属、合金、又は酸化物等の化合物の状態である。粒子表面とは、1次粒子表面や2次粒子表面である。なお、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素の一部は、複合酸化物の1次粒子の内部に存在し、複合酸化物に含有される他の金属元素と共に固溶体を形成していてもよい。
【0034】
4族の元素としては、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)等を挙げることができる。5族元素としては、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)等を挙げることができる。6族元素としては、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)等を上げることができる。13族元素としては、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Tl(タリウム)等を挙げることができる。
【0035】
上記粒径及び粒子形態を有する複合酸化物(I)及び(II)を正極活物質として用いることにより、例えば、正極11の作製時の圧延に伴う正極活物質の粒子割れが抑制される。また、複合酸化物(I)及び(II)の粒子表面に上記元素が存在することにより、例えば、非水電解質との副反応が抑えられ、正極活物質の粒子割れが抑えられる。このような粒子割れの抑制は、充放電サイクルにおける電池容量の低下を抑制することに寄与すると考えられる。したがって、上記粒径及び粒子形態を有する複合酸化物(I)及び(II)を用いることによる正極活物質の粒子割れの抑制と、前述したカーボンナノチューブを用いることによる正極活物質の粒子間の導電性確保との相乗効果により、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いても、充放電サイクルにおける電池の容量低下を抑制することが可能となると考えられる。
【0036】
複合酸化物(I)としては、例えば、電池の高エネルギー密度化、充放電サイクルにおける電池容量の低下抑制等の点で、一般式LiNiCoM1M2(式中、0.8≦a≦1.2、b≧0.80、c≦0.15、0.01≦d≦0.12、0.001≦e≦0.06、1≦f≦2、b+c+d+e=1、M1はMn及びAlから選択される1種以上の元素、M2は、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素)で表される複合酸化物が好ましく、特に、上記一般式中のM2が、B及びAlから選択される1種以上の元素であることが好ましい。複合酸化物の粒子全体の金属元素のモル分率は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定される。
【0037】
複合酸化物(I)は、例えば以下の手順で作製できる。
【0038】
Li源である水酸化リチウム等のリチウム化合物、Ni源であるニッケル含有化合物を、目的とする複合酸化物(I)に基づく混合比率で混合し、この混合物に、カリウム化合物又はナトリウム化合物を添加して、大気中又は酸素気流中で焼成する(工程1)。ニッケル含有化合物には、MnやAl等の他の添加元素が含まれていてもよい。その後、得られた焼成物を水洗して、当該焼成物の表面に付着するカリウム化合物又はナトリウム化合物を除去し、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物に、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素を含む化合物を添加し、粒子表面に周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素を複合化させた後、焼成する(工程2)。複合化には、乾式粒子複合化装置(例えば、ホソカワミクロン株式会社製、NOB-130)などを用いる。複合化の際には、水酸化リチウム等のリチウム源を添加してもよい。
【0039】
上記方法により、粒子表面に周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素が存在する複合酸化物(I)が合成される。1次粒子が大粒径化する詳細な理論は明らかではないが、上記混合物にカリウム化合物又はナトリウム化合物を添加すると、焼成中の単結晶粒子の成長が、混合物相の全体において均一に進行するためと考えられる。
【0040】
工程1における焼成温度は、例えば600℃~1050℃であり、温度を高くするほど、1次粒子が大きくなる傾向にある。工程1における焼成時間は、例えば、1~100時間程度である。カリウム化合物としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)及びその塩、酢酸カリウム等が挙げられる。ナトリウム化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム及びその塩等が挙げられる。カリウム化合物やナトリウム化合物は、例えば合成される複合酸化物(I)に対して0.1~100質量%以下の量で添加される。
【0041】
工程2における焼成温度は、例えば、200℃~500℃であり、温度を低くするほど、粒子表面に、周期表の4族、5族、6族、13族の元素を多く存在させることができる。工程1における焼成時間は、例えば、1~100時間程度である。
【0042】
好適な複合酸化物(II)の一例は、例えば、電池の高エネルギー密度化、充放電サイクルにおける電池容量の低下抑制等の点で、一般式LiNiCoM1M2(式中、0.8≦a≦1.2、b≧0.80、c≦0.15、0.01≦d≦0.12、0.001≦e≦0.06、1≦f≦2、b+c+d+e=1、M1はMn及びAlから選択される1種以上の元素、M2は、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素)で表される複合酸化物であることが好ましく、特に、上記一般式中のM2はB及びTiから選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0043】
複合酸化物(II)は、例えば以下の手順で作製できる。
【0044】
Li源である水酸化リチウム等のリチウム化合物、Ni源であるニッケル含有化合物を、目的とする複合酸化物(I)に基づく混合比率で混合し、大気中又は酸素気流中で焼成する(工程1)。ニッケル含有化合物には、MnやAl等の他の添加元素が含まれていてもよい。得られた焼成物(リチウムニッケル含有複合酸化物)に、周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素を含む化合物を添加し、粒子表面に周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素を複合させた後、焼成する(工程2)。複合化の際には、水酸化リチウム等のリチウム源を添加してもよい。
【0045】
上記方法により、粒子表面に周期表の4族、5族、6族、13族から選択される1種以上の元素が存在する複合酸化物(II)が合成される。工程1及び工程2における焼成時間及び焼成温度は、複合酸化物(I)の合成と同様である。
【0046】
複合酸化物(II)は、例えば、充放電サイクルにおける電池容量の低下抑制等の点で、上記一般式のM2としてBを含み、粒径が体積基準の70%粒径(D70)より大きな粒子を第1粒子、粒径が体積基準の30%粒径(D30)より小さな粒子を第2粒子としたとき、第1粒子における、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率(B1)が、第2粒子における、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率(B2)よりも大きいことが好ましい。複合酸化物(II)において、Bは、一般的にB含有化合物の状態で、粒子表面に存在している。当該ホウ素化合物は、Liを含有していてもよい。
【0047】
ここで、D70とは、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から70%となる粒径を意味する。同様に、D30とは、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から30%となる粒径を意味する。例えば、D70は9μm~19μmであり、D30は3μm~13μmである。
【0048】
第2粒子に含有されるホウ素のモル分率(B2)に対する、第1粒子に含有されるホウ素のモル分率(B1)の比率(B1/B2)は、1.1以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、3.0以上であってもよい。(B1/B2)の上限は、特に限定されないが、例えば10である。(B1/B2)の好適な範囲の一例は、1.5~3.5、又は2.5~3.5である。
【0049】
以下に、第1粒子における、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率(B1)が、第2粒子における、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率(B2)よりも大きい複合酸化物(II)の製造方法の一例について説明する。
【0050】
D50が異なる2種類のニッケル含有化合物(X1)及び(X2)それぞれに、水酸化リチウム等のリチウム化合物を添加・混合して、各混合物を焼成し、D50の異なるリチウムニッケル複合酸化物(Y1)及び(Y2)を合成する(工程1)。ニッケル含有化合物には、MnやAl等の他の添加元素が含まれていてもよい。
【0051】
得られたリチウムニッケル複合酸化物(Y1)及び(Y2)は水洗してもよい。
【0052】
次に、リチウムニッケル複合酸化物(Y1)及び(Y2)のそれぞれにホウ素源を添加し、粒子表面にホウ素を複合化させてから焼成することで、リチウム遷移金属複合酸化物(Z1)及び(Z2)を合成する(工程2)。その後、複合酸化物(Z1)と(Z2)を混合して複合酸化物(II)を得る。ホウ素源の一例は、ホウ酸(HBO)である。複合化の際には、水酸化リチウム等のリチウム源を添加してもよい。
【0053】
上記工程2において、リチウムニッケル複合酸化物(Y1)に対するHBOの添加量を、リチウムニッケル複合酸化物(Y2)に対するHBOの添加量よりも多くすることで、複合酸化物(II)の第1粒子及び第2粒子の表面におけるホウ素のモル分率(B1)>モル分率(B2)の状態が得られる。上記工程2における焼成温度は、例えば200℃~500℃である。
【0054】
複合酸化物(Y1)及び(Y2)の水洗の有無及び焼成温度の調整によって、複合酸化物(II)の第1粒子及び第2粒子の表面におけるホウ素化合物の被覆率を調整することができる。水洗した複合酸化物(Y1)及び(Y2)を高温でホウ素源と共に焼成することにより、ホウ素化合物による表面被覆率が小さい複合酸化物を合成することができる。ここで、高温とは、例えば350℃~500℃である。
【0055】
正極活物質の質量に対する複合酸化物(I)の含有率は、例えば5~65質量%であり、好ましくは10~60質量%であり、特に好ましくは20~55質量%である。正極活物質の質量に対する複合酸化物(II)の含有率は、例えば35~95質量%であり、好ましくは40~90質量%であり、特に好ましくは45~80質量%である。
【0056】
正極合材層31の抵抗値は、例えば、充放電サイクルにおける電池容量の低下を抑制する点で、15Ωcm以下であることが好ましく、10Ωcm以下であることがより好ましい。例えば、正極合材層31にカーボンナノチューブが含まれることで、正極合材層31の抵抗値を下げることができる。正極合材層31の抵抗値は、日置電機株式会社製、電極抵抗測定システム、RM2610を用いて測定できる。
【0057】
正極合材層31の密度は、例えば、電池の高エネルギー密度化等の点で、3.55g/cc以上であることが好ましく、3.60g/cc以上であることがより好ましい。例えば、複合酸化物(I)と(II)の含有率を上記範囲内とすることで、正極合材層31の充填密度を高めることができる。
【0058】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、例えば負極リード21が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0059】
負極合材層には、負極活物質として、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が含まれる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0060】
負極合材層に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0061】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
[複合酸化物(I)の作製]
共沈により得られた、組成がNi0.82Co0.10Mn0.08(OH)のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を500℃で焼成して、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。次に、水酸化リチウムと、作製したニッケルコバルトマンガン複合酸化物を、Liと、Ni、Co、Mnの総量のモル比が、1.05:1になるように混合し、さらに、当該混合物にカリウム化合物を、複合酸化物に対して20質量%添加した。この混合物を酸素雰囲気中にて750℃で72時間焼成した後、粉砕し、水洗してカリウム化合物を除去することにより複合酸化物を得た。この複合酸化物とホウ素化合物を、Ni、Co、Mnの総量と、ホウ素化合物のBのモル比が、100:1.0となるように乾式混合し、粒子表面にBを複合化させた後、酸素雰囲気中にて300℃で8時間焼成した。この焼成物を粉砕することにより、粒子表面にBが存在する複合酸化物(I)を得た。
【0064】
ICPにより複合酸化物(I)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.81Co0.10Mn0.080.01であった。なお、複合酸化物(I)のD50の値は4μmであった。CP加工処理後の複合酸化物(I)の断面をSEM観察により確認した結果、複合酸化物(I)の1次粒子の平均粒径は2μmであった。複合酸化物(I)は、全粒子のうち約50%以上が単粒子構造であり、3~10数個の1次粒子が結合した擬凝集構造の粒子が一部存在した。
【0065】
[複合酸化物(II)の作製]
共沈により得られた、組成がNi0.85Co0.08Mn0.07(OH)のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を、500℃で焼成して、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。次に、水酸化リチウムと、作製したニッケルコバルトマンガン複合酸化物を、Liと、Ni、Co、Mnの総量のモル比が、1.08:1になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気中にて700℃で8時間焼成した後、粉砕することにより、複合酸化物を得た。この複合酸化物と、ホウ素化合物と、チタン化合物とを、Ni、Co、Mnの総量と、ホウ素化合物中のBと、チタン化合物中のTiとのモル比が、100:1:2となるように乾式混合し、粒子表面にB及びTiを複合化させた後、酸素雰囲気中にて300℃で8時間焼成した。この焼成物を粉砕することにより、粒子表面にB及びTiが存在する複合酸化物(II)を得た。
【0066】
ICPにより複合酸化物(II)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.83Co0.08Mn0.070.01Ti0.02であった。複合酸化物(II)のD50は、11μmであった。CP加工処理後の複合酸化物(II)の断面をSEM観察により確認した結果、複合酸化物(II)の1次粒子の平均粒径は、0.5μmであった。
【0067】
得られた複合酸化物(II)に、正極活物質の総質量に対して50質量%の量となるよう複合酸化物(I)を混合して、正極活物質とした。
【0068】
[正極の作製]
上記正極活物質と、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、98.76:0.04:0.2:1.0の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えた後、これを混練して正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。なお、正極の一部に正極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0069】
[負極の作製]
負極活物質として天然黒鉛を用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を、100:1:1の固形分質量比で水溶液中において混合し、負極合材スラリーを調製した。当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、負極芯体の両面に負極合材層が形成された負極を得た。なお、負極の一部に負極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0070】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0モル/リットルの濃度で溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して2.0質量%の濃度で溶解させた非水電解液を調製した。
【0071】
[電池の作製]
上記正極の露出部にアルミニウムリードを、上記負極の露出部にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリオレフィン製のセパレータを介して正極と負極を渦巻き状に巻回した後、径方向にプレス成形して扁平状の巻回型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネートシートで構成される外装体内に収容し、上記非水電解液を注入した後、外装体の開口部を封止して、非水電解質二次電池を得た。
【0072】
<実施例2>
[複合酸化物Bの作製]
共沈により得られた、組成がNi0.85Co0.08Mn0.07(OH)のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を、500℃で焼成した後、振動ふるい機(ふるい目開き300μm、揺動時間30分)を用いてふるい分けして、ふるい上に残ったD50が14μmであるニッケルコバルトマンガン複合酸化物(X1)と、ふるいを通過したD50が7μmであるニッケルコバルトマンガン複合酸化物(X2)を得た。
【0073】
次に、水酸化リチウムと、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物(X1)を、Liと、Ni、Co、Mnの総量のモル比が、1.08:1になるようにそれぞれ混合した。この混合物を酸素雰囲気中にて700℃で8時間焼成した後、粉砕することにより、リチウム複合酸化物(Y1)を得た。
【0074】
また、水酸化リチウムと、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物(X2)を、Liと、Ni、Co、Mnの総量のモル比が、1.08:1になるようにそれぞれ混合した。この混合物を酸素雰囲気中にて700℃で8時間焼成した後、粉砕することにより、リチウム複合酸化物(Y2)を得た。
【0075】
次に、リチウム複合酸化物(Y1)と、ホウ素化合物と、チタン化合物とを、Ni、Co、Mnの総量と、ホウ素化合物中のBと、チタン化合物中のTiとのモル比が、100:1.5:3となるように乾式混合し、粒子表面にB及びTiを複合化させた。この混合物を酸素雰囲気中にて300℃で8時間焼成した後、粉砕することにより、粒子表面にB及びTiが存在するリチウム複合酸化物(Z1)を得た。
【0076】
また、リチウム複合酸化物(Y2)と、ホウ素化合物と、チタン化合物とを、Ni、Co、Mnの総量と、ホウ素化合物中のBと、チタン化合物中のTiとのモル比が、100:0.5:1となるように乾式混合し、粒子表面にB及びTiを複合化させた。この混合物を酸素雰囲気中にて300℃で8時間焼成した後、粉砕することにより、粒子表面にB及びTiが存在するリチウム複合酸化物(Z2)を得た。そして、リチウム複合酸化物(Z1)と(Z2)を1:1の質量比で混合して、複合酸化物(II)を得た。
【0077】
複合酸化物(II)において、粒径が体積基準のD70より大きな第1粒子におけるホウ素のモル分率(B1)は0.015、粒径が体積基準のD30より小さな第2粒子の表面におけるホウ素のモル分率(B2)は0.005であり、その比率(B1/B2)は3.0であった。また、第1粒子及び第2粒子の表面におけるホウ素の被覆率は96%であった。第1粒子及び第2粒子に含有されるホウ素量(モル分率)は、ICPにより測定した。また、粒子表面に存在するホウ素量(表面被覆率)はEPMAにより測定した。
【0078】
ICPにより複合酸化物(II)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.83Co0.08Mn0.070.01Ti0.02であった。なお、複合酸化物(II)のD50が11μmであった。CP加工処理後の複合酸化物(II)の断面をSEM観察により確認した結果、複合酸化物(II)の1次粒子の平均粒径は、0.5μmであった。
【0079】
実施例2では、上記複合酸化物(II)に、正極活物質の総質量に対して50質量%の量となるよう実施例1で得た複合酸化物(I)を混合した正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0080】
<実施例3>
複合酸化物(I)の作製において、ホウ素化合物に代えてアルミニウム化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。なお、ICPにより、実施例3の複合酸化物(I)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.81Co0.10Mn0.08Al0.01であった。複合酸化物(I)のD50及び1次粒子の平均粒径等は実施例1と同様であった。
【0081】
<実施例4>
正極の作製において、実施例1で得た正極活物質と、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、98.76:0.2:0.04:1.0の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0082】
<実施例5>
正極の作製において、実施例1で得た正極活物質と、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、98.96:0.04:1.0の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0083】
<実施例6>
正極の作製において、実施例1で得た正極活物質と、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、98.8:0.2:1.0の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0084】
<実施例7>
正極の作製において、実施例1で得た正極活物質と、単層カーボンナノチューブ(MWCNT)と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、98.76::0.04:0.2:1.0の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0085】
<実施例8>
複合酸化物(II)の作製において、チタン化合物に代えてタンタル化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。なお、ICPにより、実施例8の複合酸化物(II)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.83Co0.08Mn0.070.01Ta0.01であった。複合酸化物(II)のD50及び1次粒子の平均粒径等は実施例1と同様であった。
【0086】
<実施例9>
複合酸化物(II)の作製において、チタン化合物に代えてタングステン化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。なお、ICPにより、実施例9の複合酸化物(II)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.83Co0.08Mn0.070.010.01であった。複合酸化物(II)のD50及び1次粒子の平均粒径等は実施例1と同様であった。
【0087】
<実施例10>
複合酸化物(I)の作製において、ホウ素化合物と共にチタン化合物を添加し、Ni、Co、Mnの総量と、ホウ素化合物のBと、チタン化合物のTiとのモル比が、100:1:2となるように乾式混合し、粒子表面にB及びTiを複合化させたこと、また、複合酸化物(II)の作製において、チタン化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。なお、ICPにより、実施例10の複合酸化物(I)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.81Co0.10Mn0.80.01Ti0.02であった。また、ICPにより、実施例10の複合酸化物(II)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.84Co0.08Mn0.070.01であった。複合酸化物(I)及び(II)のD50及び1次粒子の平均粒径等は実施例1と同様であった。
【0088】
<実施例11>
複合酸化物(I)の作製において、ホウ素化合物と共にタンタル化合物を添加し、Ni、Co、Mnの総量と、ホウ素化合物のBと、タンタル化合物のTaとのモル比が、100:1:2となるように乾式混合し、粒子表面にB及びTaを複合化させたこと、また、複合酸化物(II)の作製において、チタン化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。なお、ICPにより、実施例11の複合酸化物(I)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.81Co0.10Mn0.080.01Ta0.02であった。また、ICPにより、実施例10の複合酸化物(II)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.84Co0.08Mn0.070.01であった。複合酸化物(I)及び(II)のD50及び1次粒子の平均粒径等は実施例1と同様であった。
【0089】
<実施例12>
複合酸化物(I)の作製において、ホウ素化合物と共にタングステン化合物を添加し、Ni、Co、Mnの総量と、ホウ素化合物のBと、タングステン化合物のWとのモル比が、100:1:2となるように乾式混合し、粒子表面にB及びWを複合化させたこと、また、複合酸化物(II)の作製において、チタン化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。なお、ICPにより、実施例12の複合酸化物(I)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.80Co0.10Mn0.080.010.02であった。また、ICPにより、実施例10の複合酸化物(II)の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.85Co0.08Mn0.070.01であった。複合酸化物(I)及び(II)のD50及び1次粒子の平均粒径等は実施例1と同様であった。
【0090】
<比較例1>
正極の作製において、実施例1で得た正極活物質と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、98.8:0.2:1.0の固形分質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0091】
[充放電サイクル試験]
実施例及び比較例の各電池を、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、4.2Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを150サイクル繰り返した。
【0092】
実施例及び比較例の各電池について、上記サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、150サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。その結果を表1にまとめた。
容量維持率(%)=(150サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
【0093】
(正極合材層の抵抗評価)
実施例及び比較例で作製した各正極合材層の抵抗値は、20mm×20mmとなるようにタブ付の形状で各正極を切り出し、日置電機株式会社製、電極抵抗測定システム、RM2610を用いて測定した。結果を表1にまとめた。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて、充放電サイクル試験後の容量維持率が高く、充放電サイクルに伴う容量低下が抑制された。また、実施例の正極合材層はいずれも、比較例の正極合材層と比べて、低い抵抗値を示した。
【符号の説明】
【0096】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入部、23 内部端子板、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 正極芯体、31 正極合材層
図1
図2