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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】光偏向器
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20231219BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20231219BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
B81B3/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020089226
(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公開番号】P2021184034
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 功之
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090915(JP,A)
【文献】特開2017-097108(JP,A)
【文献】特開2018-132741(JP,A)
【文献】特開2019-144416(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3839605(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/08-26/10
B81B 3/00
B06B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光偏向器本体と、該光偏向器本体を内部に収容するパッケージとを備える光偏向器であって、
前記光偏向器本体は、
ミラー部と、
該ミラー部を包囲する可動枠と、
前記可動枠を包囲する固定枠と、
前記可動枠と前記固定枠との間に介在して、前記可動枠を、前記ミラー部において所定軸の回りに往復回動させる圧電アクチュエータであって、ミアンダパターンの配列で直列に連結され、各々が長手方向を前記所定軸と垂直に揃えた複数のカンチレバーを有する外側圧電アクチュエータと、
前記固定枠の表面に配置された複数の第1電極と、
を備え、
前記パッケージは、
表面側に開口を有し、前記光偏向器本体を、前記ミラー部を前記開口に向けて内部に収容し、各々が対応する前記光偏向器本体の前記第1電極に接続されている複数の第2電極を有するパッケージ本体と、
前記パッケージ本体の前記表面側を閉鎖する板状の透光性部材と、
を備え、
前記光偏向器本体の前記固定枠は、前記透光性部材に対して平行に前記パッケージ本体に固定され、
前記光偏向器本体の前記外側圧電アクチュエータの前記複数のカンチレバーのうち、前記固定枠から前記可動枠への配列順で最初のカンチレバーは、湾曲しており、その弧の接線が前記固定枠に所定の傾斜角を有するように前記パッケージ本体に固定されていることを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
請求項1記載の光偏向器において、
前記光偏向器本体における前記複数の第1電極の配列面及び前記パッケージ本体における前記複数の第2電極の配列面は、共に、前記透光性部材に対して平行であることを特徴とする光偏向器。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光偏向器において、
前記複数のカンチレバーにおいて、前記最初のカンチレバーは、前記配列順で前記最初のカンチレバーと最後のカンチレバーとの間の中間カンチレバーより短い長さを有することを特徴とする光偏向器。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光偏向器において、
前記所定の傾斜角は、前記最初のカンチレバーにおいて前記固定枠に結合する側の端部としての基端部が突出側の先端部より前記パッケージ本体の表面側に位置することにより、設定されていることを特徴とする光偏向器。
【請求項5】
請求項4記載の光偏向器において、
前記パッケージ本体は、
前記開口の周縁に沿って延在して、前記透光性部材の背面の周縁部が固定される第1面部と、
前記第1面部の内周側において前記第1面部より背面側に形成され、前記光偏向器本体の前記固定枠の背面が固定される第2面部と、
前記第2面部より背面側に底面としての第3面部を有し、前記光偏向器本体の作動時に前記ミラー部の往復回動を許容する凹所と、
前記最初のカンチレバーの前記先端部の裏面が固定され、前記最初のカンチレバーの前記先端部の裏面が固定される第4面部と、
を有していることを特徴とする光偏向器。
【請求項6】
請求項5に記載の光偏向器において、
前記最初のカンチレバーは、前記先端部の裏面側に、前記第4面部に当接する突起を有していることを特徴とする光偏向器。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光偏向器において、
前記最初のカンチレバーは接着により前記パッケージ本体に固定されていることを特徴とする光偏向器。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光偏向器において、
前記最初のカンチレバーは、第1接着剤により前記パッケージ本体に固定され、
前記固定枠は、第2接着剤により前記パッケージ本体に固定され、
前記最初のカンチレバーと前記パッケージ本体との間に介在する前記第1接着剤の常温時の層厚と線膨張係数との積は、前記固定枠と前記パッケージ本体との間に介在する前記第2接着剤の常温時の層厚と線膨張係数との積に、等しいことを特徴とする光偏向器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器本体と、該光偏向器本体を内部に収容するパッケージとを備える光偏向器に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の光偏向器本体を収容するパッケージは、表面側に透光性部材(例:ガラス板)を有し、該透光性部材を介して内部の光偏向器本体への光ビームの出入りを許容している。
【0003】
光偏向器本体のミラー部で反射した走査光ビームは、一定の振れ角範囲で、透光性部材から外部へ出射する。一方、光源から入射する入射光ビームの一部は、透光性部材で反射した反射光ビームとなる。
【0004】
従来の一般的な光偏向器では、透光性部材とパッケージ本体とは相互に平行に配設されている。したがって、透光性部材で反射した反射光ビームの反射方向がパッケージ本体からの走査光ビームの振れ角範囲に含まれる場合がある。その場合、該反射光ビームと走査光ビームとが一時的に重なってしまい、再生される映像の品質が低下する。
【0005】
これに対処して、特許文献1の光偏向器では、光偏向器本体が光偏向器本体の開口面に対して所定の傾斜角となるように、パッケージ本体内に配設されている。これにより、透光性部材での反射光ビームの反射方向が、光偏向器本体からの走査光ビームの振れ角範囲外になるようにしている。
【0006】
特許文献2の光偏向器では、光偏向器本体は、パッケージ内にパッケージの底面に対して平行に配設するものの、透光性部材は、パッケージの底面に対して傾斜して取り付けて、透光性部材での反射光ビームの反射方向が、光偏向器本体からの走査光ビームの振れ角範囲外になるようにしている。
【0007】
特許文献3は、ミラー部を軸の回りに往復回動させる圧電アクチュエータを備える光偏向器本体を開示する。該圧電アクチュエータは、ミアンダ配列で直列に連結される複数のカンチレバーを備え、ミラー部の振れ角幅を増大させるために、ミアンダパターンの配列順で奇数番のカンチレバーと偶数番のカンチレバーとは、駆動電圧の非印加時に逆側に湾曲した形状をあらかじめもたせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-70056号公報
【文献】特開2019-53331号公報
【文献】特開2018-72411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の光偏向器では、パッケージ本体の側壁を斜めに加工する必要がある。パッケージ本体は、絶縁性や密封性等を確保するため、典型的には、高硬度のセラミックから成り、側壁の斜め加工が煩雑になる。
【0010】
特許文献2の光偏向器では、パッケージ本体の開口がパッケージ本体内の光偏向器本体に対して斜めに形成されている。一方、パッケージ本体の電極はパッケージ本体の開口に対して垂直である。この場合、光偏向器では、パッケージ本体の開口に対してキャピラリを垂直に挿入し、キャピラリを使って、パッケージ本体-光偏向器本体間のワイヤボンディングを行う。パッケージ本体の開口がパッケージ本体内の光偏向器本体に対して斜めであると、キャピラリの先端部が電極に対して斜めに当たることになり、片当たりや荷重低下が起こり、結線不良の原因になる。
【0011】
特許文献3の光偏向器本体は、残留応力の制御によりミアンダ配列の各カンチレバーが非駆動時に湾曲しているが、奇数番のカンチレバーと偶数番のカンチレバーとは、逆側に湾曲している。これにより非駆動時のミラーは光学窓に対して傾斜させることができるが、残留応力の制御による湾曲度合いのコントロールは非常に難しく、非駆動時のミラー角度を一定に担保することが出来ない。また、工程も煩雑化してしまう。
【0012】
本発明の目的は、パッケージ本体の斜め加工や、パッケージ本体内への光偏向器本体の斜め配置を省略しつつ、パッケージの透過性部材における反射光ビームの向きを容易にミラー部からの走査光ビームの振れ角範囲外にすることができる光偏向器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光偏向器は、
光偏向器本体と、該光偏向器本体を内部に収容するパッケージとを備える光偏向器であって、
前記光偏向器本体は、
ミラー部と、
該ミラー部を包囲する可動枠と、
前記可動枠を包囲する固定枠と、
前記可動枠と前記固定枠との間に介在して、前記可動枠を、前記ミラー部において所定軸の回りに往復回動させる圧電アクチュエータであって、ミアンダパターンの配列で直列に連結され、各々が長手方向を前記所定軸と垂直に揃えた複数のカンチレバーを有する外側圧電アクチュエータと、
前記固定枠の表面に配置された複数の第1電極と、
を備え、
前記パッケージは、
表面側に開口を有し、前記光偏向器本体を、前記ミラー部を前記開口に向けて内部に収容し、各々が対応する前記光偏向器本体の前記第1電極に接続されている複数の第2電極を有するパッケージ本体と、
前記パッケージ本体の前記表面側を閉鎖する板状の透光性部材と、
を備え、
前記光偏向器本体の前記固定枠は、前記透光性部材に対して平行に前記パッケージ本体に固定され、
前記光偏向器本体の前記外側圧電アクチュエータの前記複数のカンチレバーのうち、前記固定枠から前記可動枠への配列順で最初のカンチレバーは、湾曲しており、その弧の接線が前記固定枠に所定の傾斜角を有するように前記パッケージ本体に固定されている。
【0014】
本発明では、ミアンダ配列パターンの最初のカンチレバーが所定の傾斜角でパッケージ本体に固定される。これにより、パッケージ本体の斜め加工や、パッケージ本体内への光偏向器本体の斜め配置を省略しつつ、パッケージの透過性部材における反射光ビームの向きを容易にミラー部からの走査光ビームの振れ角範囲外にすることができる。
【0015】
好ましくは、光偏向器において、
前記光偏向器本体における前記複数の第1電極の配列面及び前記パッケージ本体における前記複数の第2電極の配列面は、共に、前記透光性部材に対して平行である。
【0016】
この構成によれば、光偏向器本体における複数の第1電極の配列面及びパッケージ本体における複数の電極の第2配列面は、最初のカンチレバーが所定の傾斜角とは無関係に設定できる。そして、両配列面は、透光性部材に対して平行に設定される。これにより、キャピラリの先端を各配列面に対して垂直に当たることができ、キャピラリの片当たりや荷重低下を回避することができる。
【0017】
好ましくは、光偏向器において、
前記複数のカンチレバーのうち、前記最初のカンチレバーは、前記配列順で前記最初のカンチレバーと最後のカンチレバーとの間の中間カンチレバーより短い長さを有する。
【0018】
この構成によれば、所定の傾斜角を付けてパッケージ本体に固定する最初のカンチレバーは、長さが短いので、中間のたわみ量を減少させて、該所定の傾斜角のばらつきを抑制することができる。
【0019】
好ましくは、光偏向器において、
前記所定の傾斜角は、前記最初のカンチレバーにおいて前記固定枠に結合する側の端部としての基端部が突出側の先端部より前記パッケージ本体の表面側に位置することにより、設定されている。
【0020】
この構成によれば、最初のカンチレバーにおいて基端部が先端部よりパッケージ本体の表面側に位置するので、パッケージ本体の開口から治具を該先端部に押し付けることにより、容易に最初のカンチレバーに対して所定の傾斜角で傾斜させることができる。
【0021】
好ましくは、光偏向器において、
前記パッケージ本体は、
前記開口の周縁に沿って延在して、前記透光性部材の背面の周縁部が固定される第1面部と、
前記第1面部の内周側において前記第1面部より背面側に形成され、前記光偏向器本体の前記固定枠の背面が固定される第2面部と、
前記第2面部より背面側に底面としての第3面部を有し、前記光偏向器本体の作動時に前記ミラー部の往復回動を許容する凹所と、
前記最初のカンチレバーの前記先端部の裏面が固定され、前記最初のカンチレバーの前記先端部の裏面が固定される第4面部と、
を有している。
【0022】
この構成によれば、最初のカンチレバーの先端部を第4面部に固定することにより、該最初のカンチレバーの角度決めを行うことができる。この結果、最初のカンチレバーに所定の傾斜角度を付ける作業を能率化することができる。
【0023】
好ましくは、光偏向器において、
前記最初のカンチレバーは、前記先端部の裏面側に、前記第4面部に当接する突起を有している。
【0024】
この構成によれば、最初のカンチレバーの先端部の突起を利用して、最初のカンチレバーの傾斜角度決めを行うことができるので、を第4面部に固定することにより、所定の傾斜角度の精度を高めると共に固定する強度を高めることができる。
【0025】
好ましくは、光偏向器において、
前記最初のカンチレバーは、接着により前記所定の傾斜角で前記パッケージ本体に固定されている。
【0026】
この構成によれば、接着剤で最初のカンチレバーをパッケージ本体に固定することにより、固定を円滑にすることができる。
【0027】
好ましくは、光偏向器において、
前記最初のカンチレバーは、第1接着剤により前記所定の傾斜角で前記パッケージ本体に固定され、
前記固定枠は、第2接着剤により前記パッケージ本体に固定され、
前記最初のカンチレバーと前記パッケージ本体との間に介在する前記第1接着剤の常温時の層厚と線膨張係数との積は、前記固定枠と前記パッケージ本体との間に介在する前記第2接着剤の常温時の層厚と線膨張係数との積に、等しい。
【0028】
この構成によれば、パッケージ内にこもる熱により、パッケージ本体内で固定枠と最初のカンチレバーとの間で接着層の膨張量の相違により、所定の傾斜角が変動することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】光偏向器本体の正面図である。
図2】ガラス板(図4)を外した状態の光偏向器の斜視図である。
図3】ガラス板(図4)を外した状態での光偏向器の正面図である。
図4図3のIV-IVの矢視断面図である。
図5図3のV-Vの矢視断面図である。
図6】じゃばら軸強制変位量と応力との関係を示すグラフである。
図7】光偏向器本体の製造方法におけるSTEP1を示す図である。
図8】光偏向器本体の製造方法におけるSTEP2を示す図である。
図9】光偏向器本体の製造方法におけるSTEP3を示す図である。
図10】光偏向器本体の製造方法におけるSTEP4を示す図である。
図11】光偏向器本体の製造方法におけるSTEP5を示す図である。
図12】入射光ビームBiに対して光偏向器から出射される各種の光ビームの相対角度関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施態様について説明する。本発明は、以下の実施態様に限定されないことは言うまでもない。本発明は、明細書に開示した技術的思想の範囲内で種々の態様で実施される。
【0031】
(光偏向器本体)
図1は、光偏向器本体10の正面図である。構成の説明の便宜上、X軸、Y軸及びZ軸の3軸座標系を定義する。X軸及びY軸は、光偏向器本体10の非作動時(この時、ミラー部11は、光偏向器本体10の真正面に向く。)にそれぞれ後述の第2軸22x及び第1軸(所定軸)22yに平行に設定される。Z軸は、MEMSの光偏向器本体10の厚さ方向に平行に設定される。なお、第2軸22xと第1軸22yとは、ミラー部11上に定義され、ミラー部11の中心Oにおいて直交する。
【0032】
光偏向器本体10は、ミラー部11、1対のトーションバー12a,12b、1対の内側圧電アクチュエータとしての1対の内側圧電アクチュエータ13a,13b、可動枠14、1対の外側圧電アクチュエータとしての1対の外側圧電アクチュエータ15及び固定枠16を備える。
【0033】
ミラー部11は、円形に形成され、中心Oには不図示の光源からの入射光ビームBiが入射する。内側圧電アクチュエータ13a,13bは、Y軸方向の両端としての作用端において相互に結合することにより第2軸22x方向に長い角丸長方形の周輪郭の1つの環状形状体を構成する。該環状形成体は、内周側においてミラー部11を包囲する。可動枠14は、内側圧電アクチュエータ13にほぼ相似の環状形状に形成され、内周側において内側圧電アクチュエータ13を包囲している。
【0034】
トーションバー12(トーションバー12a,12bの総称)は、第1軸22yに沿ってミラー部11の両側から突出し、中間において内側圧電アクチュエータ13の作用端と結合し、先端において可動枠14の内周に結合している。内側圧電アクチュエータ13(内側圧電アクチュエータ13a,13bの総称)は、第2軸22x上の外周部において可動枠14の内周部に結合している。内側圧電アクチュエータ13は、第2軸22x上に基端を有し、該基端は、内側圧電アクチュエータ13の外周からX軸方向の外側に張出して、可動枠14の内周に結合している。
【0035】
外側圧電アクチュエータ15(外側圧電アクチュエータ15a,15bの総称)は、可動枠14の外周と固定枠16の内周との間に介在し、可動枠14を第2軸22xの回りに往復回動させる。外側圧電アクチュエータ15は、各々が長手方向をY軸に対して平行に揃えてミアンダパターンで配列されて、直列に連結している複数のカンチレバー18を有する。各カンチレバー18は、1つの圧電アクチュエータを構成している。
【0036】
説明の便宜のために、ミアンダパターンの配列で直列に連結された複数のカンチレバー18について、基端側から作用端側(固定枠16側から可動枠14側)に配列順で最初のカンチレバー18及び最後のカンチレバー18を定義する。また、最初のカンチレバー18と最後のカンチレバー18との間のカンチレバー18を中間のカンチレバー18として定義する。なお、以降、適宜、最初のカンチレバー18及び最後のカンチレバー18をそれぞれカンチレバーCa,Cc、また、両者の中間のカンチレバー18をカンチレバーCbと略称する。
【0037】
この実施形態では、カンチレバーCa,Ccは、カンチレバーCb長さの半分の長さと短くされている。詳細には、カンチレバーCaとカンチレバーCcとは、第2軸22xに対して一側(図示の例では、Y軸方向の負側)のみ延在している。これに対し、カンチレバーCbは、第2軸22xに対してY軸方向の両側(例:Y軸方向の負側及び正側)に延在している。
【0038】
光偏向器本体10は、角張出し部24a,24bを有する。角張出し部24(角張出し部24a,24bの総称)は、矩形の固定枠16の2つの長辺のうち、Y軸方向の正側の長辺のみにおいて両端の頂点から内周側に張出して形成されている。外側圧電アクチュエータ15のカンチレバーCaは、基端において固定枠16に直接ではなく、固定枠16の延長部としての角張出し部24にX軸方向に結合している。
【0039】
固定枠16の2つの縦辺部の表面には、それぞれ複数の電極パッド20a,20bが露出している。電極パッド20(電極パッド20a,20bの総称)は、Y軸に対して同一側の内側圧電アクチュエータ13及び外側圧電アクチュエータ15の対応する圧電部の不図示の上側電極層に不図示の内部配線を介して接続されている。
【0040】
光偏向器本体10の作用を概略的に説明する。内側圧電アクチュエータ13及び外側圧電アクチュエータ15は、ユニポーラ型の圧電アクチュエータである。
【0041】
内側圧電アクチュエータ13a,13bは、波形、周波数(共振周波数/例:約1.5kHz)及び電圧変動幅が同一で、位相が相互に逆位相の駆動電圧が供給される。これにより、ミラー部11は、第1軸22yの回りにより第1振れ角幅で共振で往復回動する。第1振れ角幅は、駆動電圧の変動幅には関係する。
【0042】
外側圧電アクチュエータ15のミアンダパターンにおける基端側(固定枠16側)から作用端側(可動枠14側)への配列順で奇数番のカンチレバー18と偶数番のカンチレバー18とは、波形、周波数(非共振周波数/例:60Hz)及び電圧変動幅が同一で、位相が相互に逆位相の駆動電圧が供給される。これにより、奇数番のカンチレバー18と偶数番のカンチレバー18とは、湾曲量の増減が逆関係で行われ、可動枠14を介してミラー部11を、第2軸22xの回りに第2振れ角幅で非共振で往復回動する。
【0043】
(光偏向器)
図2は、ガラス板50(図4)を外した状態の光偏向器30の斜視図である。図3は、ガラス板50(図4)を外した状態での光偏向器30の正面図である。光偏向器30は、光偏向器本体10とパッケージ35とを備える。パッケージ35は、パッケージ本体36とガラス板50とを備える。パッケージ本体36の詳細は、図5以降に説明するので、図2及び図3では、パッケージ本体36について概略的に説明する。
【0044】
パッケージ本体36は、表面側に開口37を有する。光偏向器本体10は、開口37からパッケージ本体36内に挿入されて、パッケージ本体36内に収容される。パッケージ本体36の外見は、六面視が共に矩形の直方体になっている。したがって、開口37の面としての開口面は、パッケージ本体36の裏面に対して平行である。パッケージ本体36は、セラミック製である。
【0045】
パッケージ本体36は、矩形の開口37の周囲に沿って周縁としての矩形枠面38(第1面部)を有する。内側張出し面40a,40bは、パッケージ本体36の正面視で(表面側から見て)矩形枠面38の短辺の内周側に矩形枠面38より低い高さで該短辺から内側に張出して形成されている。
【0046】
なお、パッケージ本体36の厚さ方向において裏面側から表面側に高さを定義する。したがって、背面に近い位置ほど、高さは低くなる。内側張出し面40a,40bは、同一の高さであり、また、矩形枠面38に対して平行である。
【0047】
光偏向器本体10は、パッケージ本体36内に収容される。光偏向器本体10の表面は、収容状態において、交角が傾斜角α(図12)となる第1表面領域と第2表面領域とに分かれる。固定枠16及び角張出し部24及びカンチレバーCaは、光偏向器本体10の非可動要素であり、非可動要素のうち、固定枠16及び角張出し部24の表面は、第1表面領域に属する。固定枠16及び角張出し部24及びカンチレバーCa以外の残りの要素は、光偏向器本体10の可動要素であり、可動要素の表面は、第2表面領域に属する。カンチレバーCaは、図12に示すように湾曲して先端部で固定されている非可動要素であり、その弧の接線が固定枠16に対して傾斜している。
【0048】
(光偏向器の詳細構造)
図4及び図5は、それぞれ図3のIV-IV及びV-Vの矢視断面図である。取付面44(第2面部)は、光偏向器本体10の固定枠16の固定面として内側張出し面40よりさらに内側でかつ低い高さで形成され、パッケージ本体36を周回している。
【0049】
凹所47は、内側張出し面40より背面側に底面45(第3面部)を有し、光偏向器本体10の作動時にミラー部11の往復回動を許容する。
【0050】
傾斜角規定面46(第4面部)は、カンチレバーCaの先端部に対応する位置において底面45から所定高さ隆起している。
【0051】
背面突起53は、第2軸22x方向に隣り合うカンチレバー18の連結部の補強リブとして該連結部の裏面側に形成されている。したがって、カンチレバーCbは、Y軸方向の両端部に形成されているものの、カンチレバーCa,Ccは、それぞれY軸方向の負側及び正側の端部のみに形成されている。
【0052】
固定枠16の裏面は、取付面44に接着剤57により接着で固定される。カンチレバーCaは、該カンチレバーCaに形成されている背面突起53を傾斜角規定面46に当てて、接着剤57により接着で固定される。カンチレバーCaは、基端において角張出し部24の表面の高さからY軸方向の負側に向かって延び出している。角張出し部24の表面は、傾斜角規定面46より高い位置にあるので、カンチレバーCaは、先端部における傾斜角規定面46への接着により長手方向が固定枠16に対して湾曲して固定されており、カンチレバーCb~Ccおよびミラー部11は傾斜角α(図12)で傾斜する。また、先端部に背面突起53があることでその分、接着剤57との接着面積(表面積)が増大し、背面突起53がない場合と比べて傾斜角規定面46への接着強度が増加する。これにより、可動時に接着剤57の剥離により傾斜角αが変化することを防止することができる。
【0053】
光偏向器本体10の可動要素は、すべてカンチレバーCaを介して固定枠16に結合しているので、可動要素の表面領域としての第2表面領域は、第1表面領域に対して傾斜角αで傾斜する。換言すると、第2表面領域は、パッケージ本体36の開口37としての開口面に対して傾斜角αで傾斜する。傾斜角規定面46への背面突起53の当接は、カンチレバーCaの長手方向が第1表面領域に対して傾斜角αになった時に起きる。したがって、背面突起53は、第2表面領域を第1表面領域に対する傾斜角をαに決める役割がある。
【0054】
(傾斜角の許容値)
図6は、じゃばら軸強制変位量と応力との関係を示すグラフである。ここで、じゃばら軸は、カンチレバー18と同義語で使用している。
【0055】
MEMSの光偏向器本体10は、基板が全要素に共通のSOIから成る。そして、SOIのシリコン結晶は、主面が例えば(100)に揃えられている。(100)のシリコン結晶の破壊強度は、2.7GPaであることが知られている。したがって、基板が(100)のシリコン結晶であるカンチレバーCaのカンチレバーCaは、カンチレバーCaの応力が2.7GPa以内である条件を充足するように、決定される。後述の傾斜角α=11°は、この条件を充足する値である。
【0056】
図7図11は、カンチレバーCaを傾斜角αで傾斜させた光偏向器本体10の製造方法を工程(STEP)の順番で示している。なお、各工程において、上側の断面図は、図3のIV-IV矢視の位置の断面であり、下側の断面図は、図3のV-V矢視の位置の断面である。
【0057】
STEP1(図7)では、パッケージ本体36の取付面44及び傾斜角規定面46に接着剤57を付着させる。取付面44の接着剤57は、取付面44の全周にわたり帯状に延在する。これに対し、傾斜角規定面46上の接着剤57は、1つの大粒状に傾斜角規定面46に付着される。
【0058】
STEP2(図8)では、固定枠16の裏面がパッケージ本体36の取付面44に載置されるように、光偏向器本体10がパッケージ本体36内に挿入される。これに伴い、固定枠16は、取付面44の接着剤57に押し付けられて、裏面において取付面44に固定される。固定枠16の裏面と取付面44との間には、接着剤57による接着層60が生成される。
【0059】
STEP3(図9)では、表面側が開放状態になっているパッケージ本体36に対し、表面側から治具70がかぶせられる。
【0060】
治具70は、下面に、周縁に沿って矩形輪郭の嵌合枠71を有している。凹所72は、嵌合枠71から所定の深さで嵌合枠71の内周側に形成され、底面73を有している。押し当て棒74は、治具70の下端部がパッケージ本体36の上端部にかぶさった時にカンチレバーCaの先端部の直上に来る位置で底面73から突出している。
【0061】
STEP3において、治具70がパッケージ本体36の上端部にかぶせられた状態では、嵌合枠71の内周側、したがって、凹所72の周壁は、パッケージ本体36の上端部の外周に嵌合する。また、押し当て棒74の先端は、カンチレバーCaの先端部をパッケージ本体36の背面側の方に押し付ける。これにより、カンチレバーCaの裏面の背面突起53は、傾斜角規定面46に当接して、治具70の下降は、停止する。この停止は、カンチレバーCaが開口37に対して傾斜角αに設定されたことを意味する。
【0062】
STEP3におけるパッケージ本体36に対する上からの治具70の押し付けは、傾斜角規定面46の接着剤57が固化して、カンチレバーCaの裏面の先端部が傾斜角規定面46に接着される時間維持される。この固化後、カンチレバーCaの裏面と傾斜角規定面46との間には、接着剤57による接着層61が介在する。
【0063】
なお、パッケージ35内は、光偏向器本体10のミラー部11への入射光ビームBiの照射により高温になる。この結果、接着剤57は、膨張して、接着層60,接着層61の厚さが増大することになる。両者の厚さの増大量に差があると、傾斜角αが狂うことがある。この対策として、次のようにすることが好ましい。接着層60の接着剤と接着層61の接着剤とをそれぞれ接着剤a,bと相互に別のものにする。そして、接着剤aの線膨張係数×常温時の接着層60の層厚(積)=接着剤bの線膨張係数×常温時の接着層61の層厚(積)に設定する。これにより、パッケージ35内の温度上昇に対して接着層60,接着層61は、等量で厚さを増大し、この結果、パッケージ35内の温度に関係なく傾斜角αが維持される。
【0064】
次に、STEP4(図10)では、治具70は、パッケージ本体36から外されて、パッケージ本体36の表面側は、露出される。こうして、カンチレバーCaは、矩形枠面38に対して、傾斜角αで傾斜する。これに伴い、光偏向器本体10は、固定枠16及び角張出し部24の第1表面領域では、パッケージ本体36の開口面に対して平行となり、残りの要素の第2表面領域では、パッケージ本体36の開口面に対して傾斜角αとなる。
【0065】
STEP5(図11)では、最初に(ガラス板50をかぶせる前に)、光偏向器本体10の電極パッド20とパッケージ本体36の電極パッド41との間のワイヤボンディングが行われる。詳しくは、光偏向器本体10の電極パッド20-パッケージ本体36の電極パッド41間で、対応する電極同士がボンディングワイヤ76により結線される。
【0066】
このワイヤボンディングには、周知のキャピラリが使用される。その際、電極パッド20が配列されている固定枠16及び電極パッド41が配列されている内側張出し面40は、共に、パッケージ本体36の開口37に対して平行になっている。この結果、キャピラリの先端は、電極パッド20及び内側張出し面40に斜めではなく、垂直に電極パッド20及び電極パッド41に当たり、片当たりを防止されつつ、ボンディングワイヤ76を電極パッド20及び電極パッド41に十分な荷重で押し付ける。こうして、結線不良や、損傷が防止される。
【0067】
結線終了後、パッケージ本体36の矩形枠面38の表面に接着剤が塗布されて、ガラス板50が,裏面の周囲を矩形枠面38に当てて、上から押圧される。これにより、光偏向器本体10は、パッケージ35内に封入された状態になる。光偏向器本体10は、パッケージ35内に収容された状態で、光偏向器本体10の可動表面領域は、ガラス板50に対して、傾斜角αに傾斜している。
【0068】
(作用)
図12は、入射光ビームBiに対して光偏向器30から出射される各種の光ビームの相対角度関係を示す図である。図12において使用している各符号の定義は、次のとおりである。なお、Bi,Bsは、図1ですでに定義しているとおりである。また、図12上の角度は、後述のUgnを0°として、時計回りを負、反時計回りを正と定義している。
【0069】
Og:ガラス板50の表面における入射光ビームBiの入射点
Om:ミラー部11の中心。図1の中心Oと同一点。
Ugn:Ogに立てた法線
Umn:Omに立てた法線
Bgr:入射光ビームBiがOgで反射した反射光ビーム
Bsc:ミラー部11の振れ角幅±γの中心の振れ角時の走査光ビームBs
Bsr:ミラー部11がBscに対して正側の最大振れ角になった時の走査光ビームBs
Bsrl:ミラー部11がBscに対して負側の最大振れ角になった時の走査光ビームBs
【0070】
図12には、Ugnに対する入射光ビームBiの入射方向を-15°とし、傾斜角α=11°に設定している。Bgrの方向がBsrの方向より負側であれば、Bgrは、走査光ビームBs(図1参照)の振れ角範囲の外側になり、Bgrが走査光ビームBsとの干渉を回避されることになる。
【0071】
BgrがBsの振れ角範囲の外になる条件式は、次の(式1)のようになる。ただし、Umnの振れ角幅は、±γとする。
2(β+αーγ)-β>β・・・(式1)
【0072】
(式1)を整理すると、次の(式2)となる。
α>γ・・・(式2)
【0073】
図12の例では、α=11°、β=15°及びγ=7°であるので、(式2)の条件が充足されている。
【0074】
(変形例)
実施形態では、光偏向器本体10の外側圧電アクチュエータ15の複数のカンチレバー18のうち、外側圧電アクチュエータ15の基端側から作用端側への配列順で最初のカンチレバー及び最後のカンチレバーとしてのカンチレバーCa,Ccは、共に、中間のカンチレバーとしのカンチレバーCbに対して長さが半分となっている。本発明の最初のカンチレバー及び最後のカンチレバーは、長さを中間のカンチレバーに等しく揃えてもよい。
【0075】
実施形態では、透光性部材としてガラス板50が用いられている。本発明の透光性部材は、ガラス以外の透明性材料であってもよい。
【0076】
実施形態では、第1電極としての電極パッド20及び第2電極として電極パッド41は、共に矩形で図示されている。本発明では、第1電極及び第2電極の形状は、円形等、矩形以外の形状に設定することができる。
【0077】
実施形態では、パッケージ本体36は、セラミック材料になっている。本発明のパッケージ本体は、セラミック以外の材料から作られてもよい。
【0078】
実施形態では、傾斜角αとして11°、第2軸22xの回りのミラー部11の振れ角幅として±7°が設定されている。本発明では、透明性材料で反射する入射光ビームBiの反射方向が、走査光ビームBsの振れ角範囲の外になっていれば、これら数値11°,±7°に限定されない。
【0079】
実施形態では固定枠から可動枠への配列順で最初のカンチレバーCa単体の湾曲固定について説明したが、カンチレバーCaの隣りに位置するカンチレバーCbの端部も同様に湾曲固定してもよい。これにより、光偏向器の可動時においても、湾曲した状態での固定の安定性を高め、ミラー部11の傾斜角度αの変化を抑えることができる。この場合、カンチレバーCaの隣に位置するカンチレバーCbも非可動要素とする。
【0080】
実施形態では、カンチレバーCcは可動要素となっているが、アクチュエータを有さない非可動要素としてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10・・・光偏向器本体、11・・・ミラー部、12・・・トーションバー、13・・・内側圧電アクチュエータ、14・・・可動枠、15・・・外側圧電アクチュエータ、16・・・固定枠、18・・・カンチレバー、20,41・・・電極パッド、22x・・・第2軸、22y・・・第1軸、30・・・光偏向器、35・・・パッケージ、36・・・パッケージ本体、37・・・開口、38・・・矩形枠面、40・・・内側張出し面、44・・・取付面、45・・・底面、46・・・傾斜角規定面、47・・・凹所、50・・・ガラス板、53・・・背面突起、57・・・接着剤、60,61・・・接着層、70・・・治具、74・・・押し当て棒、76・・・ボンディングワイヤ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12