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特許7405696同期電動機の駆動装置および同期電動機の駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】同期電動機の駆動装置および同期電動機の駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/185 20160101AFI20231219BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20231219BHJP
【FI】
H02P6/185
H02P29/024
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020092537
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021191063
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】青柳 滋久
(72)【発明者】
【氏名】野々村 重幸
(72)【発明者】
【氏名】松井 大和
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-050916(JP,A)
【文献】特開2012-182929(JP,A)
【文献】特開2011-050198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/185
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機の各相に正負の電圧を順次印加して前記同期電動機を駆動する電力変換器と、前記同期電動機に流れる相電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部で検出された相電流に基づいて、前記同期電動機の回転子の磁極位置を推定する磁極位置推定部とを備えた同期電動機の駆動装置において、
前記磁極位置推定部は、前記同期電動機の停止中に、前記相電流の最大値と最小値を取得し、前記最大値と前記最小値のそれぞれの絶対値の減算値から第一の磁極位置を演算し、前記最大値と前記最小値のそれぞれの絶対値の加算値から第二の磁極位置を演算し、前記第一の磁極位置および前記第二の磁極位置から前記回転子の磁石の極性を判別し、前記極性と前記第二の磁極位置から前記同期電動機の前記回転子の初期磁極位置を推定する同期電動機の駆動装置。
【請求項2】
請求項に記載の同期電動機の駆動装置において、
前記同期電動機は、前記同期電動機の磁極位置を検出する位置センサを備え、
前記同期電動機の駆動装置は、前記磁極位置推定部により得られる前記初期磁極位置と、前記位置センサにより得られる磁極位置とを比較する比較部を備え、
前記比較部は、前記同期電動機が停止中に、前記比較部による比較結果に基づいて前記位置センサの異常の有無を判定する同期電動機の駆動装置。
【請求項3】
同期電動機の各相に正負の電圧を順次印加して前記同期電動機を駆動する電力変換器と、前記同期電動機に流れる相電流を検出する電流検出部とを備えた同期電動機の駆動装置における同期電動機の駆動方法であって、
前記同期電動機の停止中に、前記電流検出部により検出された前記相電流の最大値と最小値を取得し、前記最大値と前記最小値のそれぞれの絶対値の減算値から第一の磁極位置を演算し、前記最大値と前記最小値のそれぞれの絶対値の加算値から第二の磁極位置を演算し、前記第一の磁極位置および前記第二の磁極位置から前記同期電動機の回転子の磁石の極性を判別し、前記極性と前記第二の磁極位置から前記同期電動機の前記回転子の初期磁極位置を推定する同期電動機の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電動機の駆動装置および同期電動機の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期電動機(以下、同期電動機と称する)は、高効率、高力率、低廉な維持費用等の長所によって、例えば電動車両における主機モータとして使用されている。このような同期電動機を制御するためにインバータである電力変換器が用いられる。そして、電力変換器により同期電動機のトルク及び速度を制御するためには、同期電動機の回転子の磁極の位置を正確に把握する必要がある。
【0003】
回転子の磁極の位置を検出するための方法として、電圧ベクトルを印加して回転子の磁極位置を推定する方法がある。この場合、電動車両においては、同期電動機が停止中の回転子の初期磁極位置を高い精度で推定することが求められる。
【0004】
特許文献1には、同期電動機の3相(U相、V相、W相)に各々電圧ベクトルを印加し、電圧ベクトルの印加によって生じる電流に基づいて回転子の初期磁極位置を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-171741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、同期電動機の磁気飽和特性を利用している。しかし、磁気飽和の度合いは初期磁極位置に対して正弦波状に発生するとは限らない。一般に、同期電動機の回転子に用いられる永久磁石のN極方向の磁束と、それに直交する方向の磁束は互いに干渉することが知られており、これに起因して磁気飽和は初期磁極位置に対して歪んだ正弦波状に発生する。例えば、初期磁極位置がU相と一致する場合よりも、初期磁極位置がU相の近傍にあるときの方が、干渉の影響でより磁気飽和が発生することがある。特に、電動車両における主機モータとして使用される同期電動機は、小型化を要求されるため、このような特性を有することが多い。そのため、特許文献1に記載した技術では、回転子の初期磁極位置の推定に大きな誤差が生じる課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による同期電動機の駆動装置は、同期電動機の各相に正負の電圧を順次印加して前記同期電動機を駆動する電力変換器と、前記同期電動機に流れる相電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部で検出された相電流に基づいて、前記同期電動機の回転子の磁極位置を推定する磁極位置推定部とを備えた同期電動機の駆動装置において、前記磁極位置推定部は、前記同期電動機の停止中に、前記相電流の最大値と最小値を取得し、前記最大値と前記最小値のそれぞれの絶対値の減算値から第一の磁極位置を演算し、前記最大値と前記最小値のそれぞれの絶対値の加算値から第二の磁極位置を演算し、前記第一の磁極位置および前記第二の磁極位置から前記回転子の磁石の極性を判別し、前記極性と前記第二の磁極位置から前記同期電動機の前記回転子の初期磁極位置を推定する。
本発明による同期電動機の駆動方法は、同期電動機の各相に正負の電圧を順次印加して前記同期電動機を駆動する電力変換器と、前記同期電動機に流れる相電流を検出する電流検出部とを備えた同期電動機の駆動装置における同期電動機の駆動方法であって、前記同期電動機の停止中に、前記電流検出部により検出された前記相電流の最大値と最小値を取得し、前記最大値と前記最小値のそれぞれの絶対値の減算値から第一の磁極位置を演算し、前記最大値と前記最小値のそれぞれの絶対値の加算値から第二の磁極位置を演算し、前記第一の磁極位置および前記第二の磁極位置から前記同期電動機の回転子の磁石の極性を判別し、前記極性と前記第二の磁極位置から前記同期電動機の前記回転子の初期磁極位置を推定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、同期電動機の停止中に、同期電動機の回転子の初期磁極位置を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る駆動装置の構成図である。
図2】第1の実施形態に係る電圧パルス作成部の詳細な構成図である。
図3】第1の実施形態に係る三相の電圧指令と三相電流の関係を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る磁極位置推定部の詳細な構成図である。
図5】第2の実施形態に係る磁極位置推定部の詳細な構成図である。
図6】第2の実施形態に係る位置推定器の詳細な構成図である。
図7】第3の実施形態に係る駆動装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係る駆動装置100の構成図である。
駆動装置100は、電力変換器300と、電圧パルス作成部400と、電流検出部500と、磁極位置推定部600とを備え、同期電動機200を駆動する。
【0012】
同期電動機200は、永久磁石型の同期電動機であり、回転子に永久磁石(強磁性体)を、固定子に電機子巻線を用いて構成される。なお、本実施形態では、同期電動機200の磁極位置を検出する位置センサを備えておらず、代わりに磁極位置を推定する。磁極位置を推定する場合は、同期電動機200の小型化、コスト低減、信頼性の向上を計ることができる。
【0013】
電圧パルス作成部400は、同期電動機200の駆動時には、入力されたトルク指令T*に応答して、同期電動機200のU相、V相、W相の各相に正負の電圧を順次印加するための電圧指令VU*、VV*、VW*を作成し、電力変換器300へ出力する。電圧パルス作成部400は、磁極位置推定部600で推定した磁極位置に基づいて電圧指令VU*、VV*、VW*を作成する。
【0014】
電力変換器300は、例えばインバータであり、同期電動機200の駆動時には、電圧パルス作成部400からの電圧指令VU*、VV*、VW*を、パルス幅変調(PWM)して、電力変換器300の半導体スイッチ素子をオン/オフ制御する。これにより、同期電動機200に電圧VU、VV、VWを印加して、同期電動機200を駆動する。
【0015】
電流検出部500は、同期電動機200に流れる三相電流を検出する電流センサ500U、500V、500Wによって構成される。電流センサ500U、500V、500Wは、同期電動機200の各相にそれぞれ配置されている。電流検出部500は、三相電流IU、IV、IWを検出して、磁極位置推定部600に出力する。なお、電流センサ500U、500V、500Wは同期電動機200の三相それぞれに配置されている例で示しているが、三相交流電流の和がゼロであることを利用して、二相(例えば、U相とV相)のみに配置してもよい。また、電力変換器300の入力側の直流母線(図示省略)を流れる電流から、同期電動機200の三相電流を得る構成としてもよい。これらの構成にすると、電流センサの数を減らすことができ、低コスト化を図ることができる。
【0016】
磁極位置推定部600は、電流検出部500で検出された三相電流IU、IV、IWに基づいて、同期電動機200の停止中に、同期電動機200の回転子の初期磁極位置θestを推定する。同期電動機200の停止中における磁極位置推定部600の詳細は後述する。
【0017】
図2は、電圧パルス作成部400の詳細な構成図である。なお、この構成図は、同期電動機200の回転子の初期磁極位置θestを推定する場合の構成を示す。
電圧パルス作成部400は、電圧指令作成部410と、位相切替器420と、指令座標変換部430と、を備えている。
【0018】
電圧指令作成部410では、電圧指令Vd*およびVq*を出力する。本実施形態では、後述の図3(B)に示す正負に交番するVd*を生成し、Vq*はゼロである。
位相切替器420は、電圧指令作成部410で作成されたVd*およびVq*を三相の電圧指令に変換するための位相参照値θ*を作成する。位相参照値θ*は、0度、120度、240度を順に出力する。
【0019】
指令座標変換部430は、電圧指令作成部410で作成された電圧指令Vd*およびVq*と、位相切替器から出力される位相参照値θ*とを入力し、三相の電圧指令VU*、VV*、VW*に座標変換する。座標変換は、以下の式(1)(2)(3)に従って行う。
VU*=2/3×(Vd*×cos(θ*)-Vq*×sin(θ*))・・・(1)
VV*=2/3×(Vd*×cos(θ*-2π/3)-Vq*×sin(θ*-2π/3))・・・(2)
VW*=2/3×(Vd*×cos(θ*-4π/3)-Vq*×sin(θ*-4π/3))・・・(3)
【0020】
図3(A)~図3(H)は、三相の電圧指令VU*、VV*、VW*と同期電動機200に流れる三相電流IU、IV、IWの関係を示す図である。図3(A)は、位相切替器420より出力された位相参照値θ*を、図3(B)は、電圧指令作成部410で作成された電圧指令Vd*を示す。図3(C)~図3(E)は、それぞれ指令座標変換部430より出力された三相の電圧指令VU*、VV*、VW*を示す。図3(F)~図3(H)は、それぞれ電流検出部500により検出され、磁極位置推定部600に入力される三相電流IU、IV、IWを示す。
【0021】
図3(A)に示すように、位相切替器420より位相参照値θ*が、0度、120度、240度の順に出力される。指令座標変換部430の出力である三相の電圧指令VU*、VV*、VW*は、図3(C)~図3(E)に示すように、位相参照値θ*が0度であるときはU相に、位相参照値θ*が120度であるときはV相に、位相参照値θ*が240度であるときはW相に、正負に交番する電圧として印加される。これにより、図3(F)~図3(H)に示すように、三相電流IU、IV、IWが同期電動機200に流れる。
【0022】
図4は、磁極位置推定部600の詳細な構成図である。
磁極位置推定部600は、ピーク値検出器610と、絶対値演算部620と、減算部630と、加算部640と、座標変換部650Aおよび650Bと、極性判別器660と、位置推定器670を備える。
【0023】
ピーク値検出器610は、電流検出部500によって検出された電流値IU、IV、IWを入力とし、各相の電流ピーク値IU+、IU-、IV+、IV-、IW+、IW-を検出する。
【0024】
電流ピークIU+は、図3(F)において、位相参照値θ*が0度でU相に正の電圧を印加しているときのU相電流の最大値である。電流ピークIU-は、図3(F)において、位相参照値θ*が0度でU相に負の電圧を印加しているときのU相電流の最小値である。
【0025】
電流ピークIV+は、図3(G)において、位相参照値θ*が120度でV相に正の電圧を印加しているときのV相電流の最大値である。電流ピークIV-は、図3(G)において、位相参照値θ*が120度でV相に負の電圧を印加しているときのV相電流の最小値である。
【0026】
電流ピークIW+は、図3(H)において、位相参照値θ*が240度でW相に正の電圧を印加しているときのW相電流の最大値である。電流ピークIW-は、図3(H)において、位相参照値θ*が240度でW相に負の電圧を印加しているときのW相電流の最小値である。
【0027】
絶対値演算部620は、各相の電流ピーク値IU+、IU-、IV+、IV-、IW+、IW-を入力とし、それぞれの絶対値を計算する。
減算部630は各相の電流ピーク値の絶対値の差を以下の式(4)、(5)、(6)に従って計算し、PU-、PV-、PW-を出力する。
PU-=|IU+|-|IU-|・・・(4)
PV-=|IV+|-|IV-|・・・(5)
PW-=|IW+|-|IW-|・・・(6)
【0028】
このPU-、PV-、PW-は、正の電圧を印加した時の電流値と、負の電圧を印加した時の電流値のそれぞれの絶対値の差であるので、同期電動機200の磁気飽和の度合いを示す値となる。
【0029】
座標変換部650Aは、各相の電流ピーク値の絶対値の差であるPU-、PV-、PW-を、以下の式(7)、(8)を用いて変換し、PA-、PB-として出力する。
PA-=2/3×((PU-)-1/2×(PV-)-1/2×(PW-))・・・(7)
PB-=2/3×(√(3)/2×(PV-)-√(3)/2×(PW-))・・・(8)
【0030】
ここで、電流ピーク値の絶対値の差を演算することで、同期電動機200の磁気飽和特性を利用した初期磁極位置の推定を行った場合について述べる。例えば、特許文献1に記載の技術は、U相に正の電圧を印加した後に、U相に負の電圧を印加し、それぞれの電流ピーク値を取得している。V相、W相に対しても、同様に正の電圧と負の電圧を印加して、それぞれの電流ピーク値を取得している。これらの電流ピーク値の絶対値の差を演算することで、PMモータの磁気飽和特性を利用した初期磁極位置の推定を行っている。
【0031】
この場合、例えば、初期磁極位置がU相に近いときにU相に正の電圧を印加すると、U相に流れる電流による磁束と、永久磁石による磁束が同じ方向となるため、磁束が過密になり磁気飽和が発生する。磁気飽和が発生すると、同期電動機200のインダクタンスが低下するため、電流値が大きくなる。
【0032】
このように、特許文献1に記載した技術を用いた場合は、磁気飽和の度合いが初期磁極位置に対して正弦波状に発生せず、磁気飽和の度合いが非正弦波であるために、回転子の初期磁極位置の推定に大きな誤差が生じてしまう。
【0033】
本実施形態では、図4に示すように、加算部640と、座標変換部650Bと、極性判別器660と、位置推定器670を新たに備えている。
これにより、例えば、初期磁極位置がU相に近いときにU相に正の電圧を印加すると、U相に流れる電流による磁束と、永久磁石による磁束が同じ方向となるが、U相に負の電圧を印加した場合には永久磁石による磁束と、U相に流れる電流による磁束が互いに逆方向となるため、磁気飽和は発生しない。すなわち、U相に正の電圧を印加した場合と、負の電圧を印加した場合とで、電流ピーク値の絶対値は変化する。したがって、各相に正の電圧を印加したときの電流ピーク値の絶対値と、各相に負の電圧を印加したときの電流ピーク値の絶対値の差をとることで、同期電動機200の磁気飽和特性の度合いを得ることができ、これを基に回転子の初期磁極位置を推定する。
【0034】
図4に示す加算部640は、絶対値演算部620から出力される各相の電流ピーク値IU+、IU-、IV+、IV-、IW+、IW-の絶対値を、次式(9)、(10)、(11)に従って相ごとに加算し、PU+、PV+、PW+として出力する。
PU+=|IU+|+|IU-|・・・(9)
PV+=|IV+|+|IV-|・・・(10)
PW+=|IW+|+|IW-|・・・(11)
【0035】
座標変換部650Bは、座標変換部650Aと同様の構成であり、次式(12)、(13)に従ってPU+、PV+、PW+をPA+、PB+に変換して出力する。
PA+=2/3×((PU+)-1/2×(PV+)-1/2×(PW+))・・・(12)
PB+=2/3×(√(3)/2×(PV+)-√(3)/2×(PW+))・・・(13)
【0036】
PU+、PV+、PW+は、電流ピーク値の絶対値の加算であるため、図3(F)~図3(H)に示す、電流のピークtoピーク値(すなわち、電流の振幅)と等価である。一般に、電動車両に頻繁に用いられる永久磁石型の同期電動機は、インダクタンスの回転角依存性(突極性)を有している。インダクタンスが回転角(=初期磁極位置)に依存して変化するため、本実施形態における電流のピークtoピーク値も、初期磁極位置に依存して変化する。また、磁気飽和の度合いが非正弦波状に発生する場合であっても、電流のピークtoピーク値を得ることで、その影響はキャンセルされ、突極性に起因したインダクタンスの変化が、電流のピークtoピーク値の変化として現れる。このため、磁気飽和の度合いが非正弦波状になっている場合でも、回転子の初期磁極位置をより高い精度で推定することができる。
【0037】
一方で、一般に同期電動機200は、突極性によるインダクタンスの変化は回転角に対して1/2倍の周期で現れることが知られている。すなわち、突極性を利用した方法では、初期磁極位置が0~180度の範囲でしか推定することができず、回転子の磁石の極性がN極なのかS極なのかを判別することが出来ない。
【0038】
本実施形態では、回転子の磁石の極性を判別するために、極性判別器660を備えている。極性判別器660は、磁気飽和の度合いから求まるPA-、PB-を入力として、次式(14)より第一の磁極位置θest1を計算する。
θest1=atan((PB-)/(PA-))・・・(14)
【0039】
磁気飽和の度合いから求まる第一の磁極位置θest1は、0~360度の範囲で(すなわち、回転子の磁石の極性も含めて)推定することができるので、これにより極性を判別し極性NSとして出力する。そして、第一の磁極位置θest1が所定の範囲にあるときはN極とし、所定の範囲外にあるときはS極と判定する。ここで、所定の範囲とは、例えば第一の磁極位置θest1が0~180度の範囲である。具体的には、第一の磁極位置が0~180度の場合はN極とし、第一の磁極位置が180~360度の場合はS極として判定する。
【0040】
位置推定器670は、極性NSと、各相の電流ピークtoピーク値から求まるPA+、PB+を入力として、初期磁極位置θestを計算する。まず、位置推定器670では、PA+とPB+に基づいて、次式(15)により第二の磁極位置θest2を推定する。
θest2=atan(-(PA+)/(PB+))・・・(15)
【0041】
第二の磁極位置θest2は0~180度の範囲でしか得られないが、これに極性判別器660による判別の結果である極性NSを利用する。極性NSが、N極と判定された場合には、第二の磁極位置θest2をそのまま初期磁極位置θestとして出力する。一方、極性NSが、S極と判定された場合には、第二の磁極位置θest2に、180度を加算した値を、初期磁極位置θestとして出力する。
【0042】
本実施形態によれば、電圧パルス作成部400により同期電動機200の各相に正負の電圧を順次印加したときの電流のピーク値を検出し、電流ピーク値の絶対値の減算値と加算値を計算する構成とした。絶対値の減算から、磁気飽和の度合いを抽出し、絶対値の加算から、突極性に起因する電流の振幅変化を得るようにした。これにより、磁気飽和の度合いと突極性に起因する電流の振幅変化を同時に得ることができる。また、磁気飽和の度合いから回転子の磁石の極性がN極であるかS極であるかを判別することができ、突極性に起因する電流の振幅変化から、磁気飽和の影響をキャンセルして精度良く回転子の初期磁極位置θestを推定できる。したがって本実施形態では、初期磁極位置θestの推定に要する時間は従来と変わらないまま、推定精度を向上することができる。高い精度で初期磁極位置θestを推定することができるため、同期電動機200のセンサレス制御も高い精度で実施することができる。例えば、同期電動機200を電動車両に用いた場合も、主機モータとしての制御性能が向上し、乗員に快適な乗り心地を提供することができる。
【0043】
[第2の実施形態]
図5は、本実施形態に係る磁極位置推定部600’の詳細な構成図である。第1の実施形態における磁極位置推定部600と同一の個所には同一の符号を附してその説明を省略する。なお、図1に示す同期電動機200の駆動装置100の構成図、図2に示す電圧パルス作成部400の詳細な構成図、図3に示す三相の電圧指令と三相電流の関係を示す図は、本実施形態においても同様である。
第1の実施形態では、極性判別に第一の磁極位置のみを利用したが、本実施形態では第一の磁極位置および第二の磁極位置から極性NSを求める。
【0044】
本実施形態では、図5に示すように、磁極位置推定部600’は、位置推定器680を備える。位置推定器680には、座標変換部650AからPA-、PB-が、座標変換部650BからPA+、PB+が入力される。
【0045】
図6は、位置推定器680の詳細な構成図である。位置推定器680は、第一の磁極位置算出部681、第二の磁極位置算出部682、減算処理部683、絶対値処理部684、閾値判定部685、初期磁極位置算出部686を備える。
【0046】
第一の磁極位置算出部681は、PA-、PB-を入力として、式(14)より第一の磁極位置θest1を算出する。第二の磁極位置算出部682は、PA+、PB+を入力として、式(15)により第二の磁極位置θest2を算出する。
【0047】
減算処理部683は、第一の磁極位置θest1と第二の磁極位置θest2との差を求める。絶対値処理部684は、第一の磁極位置θest1と第二の磁極位置θest2との差の絶対値を求める。そして、閾値判定部685は、第一の磁極位置θest1と第二の磁極位置θest2との差の絶対値が所定の範囲にあるときはS極とし、所定の範囲外にあるときはN極と判定する。ここで、所定の範囲とは、第一の磁極位置θest1の誤差を考慮して設定しておけば良く、例えば第一の磁極位置θest1と第二の磁極位置θest2の差の絶対値が90~270の範囲である。
【0048】
初期磁極位置算出部686は、閾値判定部685でS極と判定された場合は、第二の磁極位置θest2に180度を加算した値を、N極と判定された場合は、第二の磁極位置θest2を初期磁極位置θestとして出力する。
【0049】
ここで、第1の実施形態で述べたように、第一の磁極位置θest1のみから極性NSを判別した場合、第一の磁極位置θest1は精度が低いため、極性NSを誤るおそれがある。そして、第一の磁極位置θest1が0~180度の場合にN極、第一の磁極位置θest1が180~360度の場合にS極と決定すると、初期磁極位置θestと第一の磁極位置θest1には誤差があるため、初期磁極位置θestが180度付近或いは360度付近において極性を誤ってしまうおそれがある。
【0050】
一方で、本実施形態に示すように、第一の磁極位置θest1および第二の磁極位置θest2から極性NSを判別することにより、第一の磁極位置θest1の誤差を考慮することができるため、極性NSを誤らずに回転子の初期磁極位置θestを推定することができる。
【0051】
[第3の実施形態]
図7は、本実施形態に係る駆動装置100’の構成図である。図1に示す第1の実施形態に係る駆動装置100の構成図と同一の個所には同一の符号を附してその説明を省略する。
【0052】
本実施形態では、同期電動機200は、同期電動機200の磁極位置を検出する位置センサ210を備えている。位置センサ210で検出された磁極位置は、比較部700の一方へ入力される。比較部700の他方には、第1の実施形態もしくは第2の実施形態で述べた磁極位置推定部600もしくは磁極位置推定部600’で推定した初期磁極位置θestが入力される。比較部700は、同期電動機200が停止中に、推定した初期磁極位置θestと位置センサ210で検出された磁極位置とを比較し、比較結果に基づいて位置センサ210の異常の有無を判定する。
【0053】
レゾルバなどの位置センサ210は、その出力巻線の断線或いは短絡によって故障することがある。同期電動機200が回転している場合には、その故障を検出できるが、同期電動機200が停止中には故障を検出することは困難であった。第1の実施形態もしくは第2の実施形態で説明した磁極位置推定部600、600’は、同期電動機200の停止中に初期磁極位置θestを推定できるので、同期電動機200が停止している場合にも位置センサ210の故障を検知することができる。これにより、より信頼性の高い同期電動機200の駆動装置100’を提供することができる。
【0054】
第1の実施形態から第3の実施形態では、電圧パルス作成部400、磁極位置推定部600、600’、比較部700等はハードウエアとして説明したが、コンピュータとプログラムによってその機能を実現してもよい。そして、プログラムを、CPU、メモリなどを備えたコンピュータにより処理することができる。その全部の処理、または一部の処理をハードロジック回路により実現してもよい。更に、このプログラムは、記憶媒体やデータ信号(搬送波)などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給してもよい。
【0055】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)同期電動機200の駆動装置100、100’は、同期電動機200の各相に正負の電圧を順次印加して同期電動機200を駆動する電力変換器300と、同期電動機200に流れる相電流を検出する電流検出部500と、電流検出部500で検出された相電流に基づいて、同期電動機200の回転子の磁極位置を推定する磁極位置推定部600、600’とを備える。そして、磁極位置推定部600、600’は、同期電動機200の停止中に、相電流の最大値と最小値を取得し、最大値と最小値のそれぞれの絶対値の減算値から第一の磁極位置θest1を演算し、最大値と最小値のそれぞれの絶対値の加算値から第二の磁極位置θest2を演算し、第一の磁極位置θest1から回転子の磁石の極性を判別し、極性と第二の磁極位置θest2から同期電動機200の回転子の初期磁極位置θestを推定する。これにより、同期電動機200の停止中に、同期電動機200の回転子の回転子の初期磁極位置θestを高精度に推定することができる。
【0056】
(2)同期電動機200の駆動方法は、同期電動機200の各相に正負の電圧を順次印加して同期電動機200を駆動する電力変換器300と、同期電動機200に流れる相電流を検出する電流検出部500とを備えた同期電動機200の駆動装置100、100’における同期電動機200の駆動方法であって、同期電動機200の停止中に、相電流の最大値と最小値を取得し、最大値と最小値のそれぞれの絶対値の減算値から第一の磁極位置θest1を演算し、最大値と最小値のそれぞれの絶対値の加算値から第二の磁極位置θest2を演算し、第一の磁極位置θest1から同期電動機200の回転子の磁石の極性を判別し、極性と第二の磁極位置θest2から同期電動機200の回転子の初期磁極位置θestを推定する。これにより、同期電動機200の停止中に、同期電動機200の回転子の回転子の初期磁極位置θestを高精度に推定することができる。
【0057】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えてもよく、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えてもよい。
【符号の説明】
【0058】
100、100’…駆動装置、200…同期電動機、300…電力変換器、400…電圧パルス作成部、410…電圧指令作成部、420…位相切替器、430…指令座標変換部、500…電流検出部、600、600’…磁極位置推定部、610…ピーク値検出器、620…絶対値演算部、630…減算部、640…加算部、650A、650B…座標変換部、660…極性判別器、670…位置推定器、680…位置推定器、681…第一の磁極位置算出部、682…第二の磁極位置算出部、683…減算処理部、684…絶対値処理部、685閾値判定部、686初期磁極位置算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7