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特許7405697接着剤固化剤、接着剤の固化方法及び接着剤固化セット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】接着剤固化剤、接着剤の固化方法及び接着剤固化セット
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20231219BHJP
   B01J 19/06 20060101ALI20231219BHJP
   B01J 20/14 20060101ALI20231219BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B01J20/26 B
B01J19/06
B01J20/14
B01J20/26 D
C09J201/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020093256
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021187927
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】丸本 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】大崎 洋
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-049150(JP,A)
【文献】特開2003-020474(JP,A)
【文献】特開2018-143952(JP,A)
【文献】特開2012-024683(JP,A)
【文献】特開2004-167327(JP,A)
【文献】特開2008-264753(JP,A)
【文献】特開平08-311290(JP,A)
【文献】米国特許第05965651(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C09D 1/00-201/10
B01J 20/00- 20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤と混合して接着剤を固化させる接着剤固化剤において、
吸水性ポリマーと多孔性材料とを含有し、
前記多孔性材料は、珪藻土及び紙粉からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記多孔性材料に対する吸水性ポリマーの重量割合は0.1~100重量%であり、
前記接着剤に対する重量割合が20重量%以上である、着剤固化剤。
【請求項2】
前記多孔性材料は、紙粉である、請求項1記載の接着剤固化剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の接着剤固化剤と接着剤とを混合する固化工程を有する接着剤の固化方法。
【請求項4】
固化工程において、更に水を混合する、請求項3記載の接着剤の固化方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の接着剤固化剤と接着剤とを有する、接着剤固化セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多種の接着剤を迅速に固化することができ、固化後の取り扱い性に優れる接着剤固化剤、並びに、該接着剤固化剤を用いた接着剤の固化方法及び接着剤固化セットに関する。
【背景技術】
【0002】
内装施工等に使用する内装材の施工には、種々の接着剤が使用されており、このような接着剤は、プラスチック容器、内袋付の段ボール容器、金属容器等に入れた状態(荷姿)で製品出荷され、施工に必要な量だけ用いられる。接着剤の容器は、施工の効率や経済性を考慮して、ある程度大きめに設定されていることが多い。このため、施工に対して接着剤は余剰となり、余剰となった接着剤は施工完了後に容器とともに廃棄する場合が多かった。
しかしながら、近年は、廃棄される廃材についても、厳密な分別が求められるようになっており、施工現場においても、余った接着剤を容器と分別して個別に廃棄する必要がある。容器から分別した未硬化の接着剤は、地方自治体の廃棄物に関する基準によって異なるが、施工現場で廃棄することができないことが多い。よって、未硬化の接着剤は、施工現場で内装材の端材等に塗布し硬化させて廃棄したり、持ち帰って産業廃棄物として処理するなど、作業工数、時間、及び費用が増加するという問題が生じていた。
加えて、接着剤が容器に残存した状態で硬化した場合、容器から剥がすのは困難で、多大な労力が必要であった。特に、金属容器の場合は、接着剤との分別に対する要求度が高いにも係わらず、硬化した状態の接着剤を容器から剥がすことは困難であった。
【0003】
これに対して、近年、余った未硬化の接着剤を廃棄する方法として、接着剤用固化剤を用いて接着剤を固化した後に施工現場で廃棄する方法が行われるようになってきている。
例えば、特許文献1には、水性エマルジョン型接着剤の固化剤として、コロイド粒子分散阻害剤と吸液剤とを有する接着剤用固化剤を用いることが記載されている。特許文献1では、このような水性エマルジョン型接着剤用固化剤を用いることで、容器から固化物として接着剤を取り出して廃棄することが可能となり、水性接着剤が流出して汚染を招くことも無いとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-143952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の水性エマルジョン型接着剤用固化剤では、水を主溶媒として用いる接着剤(水形接着剤)の固化は可能であるものの、樹脂成分のみが固化するので水成分については固化しない。このため、固化後も溶液が残存した状態となるので、水分を別途処理する必要がある。
さらに、有機溶剤を主溶媒として用いる接着剤(溶剤形接着剤)の固化については考慮されていない。水形接着剤と溶剤形接着剤とは、樹脂及び溶媒がそれぞれ異なり、固化させる原理が全く異なるので、両者を単一の固化剤で固化させることは困難である。したがって、施工現場において、使用する接着剤の種類に応じて、固化剤を事前に選択し準備しなければならない。
また、接着剤を迅速に固化することができ、使用後から廃棄までの時間を大幅に短縮することが求められている。
さらに、容器から固化物を取り出す際に、手や容器への付着性が低く容易に取り出すことができ、固化物から水分が染み出すことがないなど、固化後の取り扱い性が良好なものが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、接着剤と混合して接着剤を固化させる接着剤固化剤において、吸水性ポリマーと多孔性材料とを含有し、前記多孔性材料は、珪藻土及び紙粉からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記多孔性材料に対する吸水性ポリマーの重量割合は0.1~100重量%である、接着剤固化剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明は、接着剤と混合して接着剤を固化させる接着剤固化剤に関するものである。
なお、上記接着剤には、溶剤形接着剤と水形接着剤とが含まれ、粘着剤も含まれる。
本発明では、特定の接着剤に限定されず、種々の接着剤を固化することが可能になるという顕著な効果を有する。
【0008】
本発明における接着剤とは、例えば、内装材、より具体的には、建築物の床仕上げ材、壁や天井等への壁紙、腰壁の張り付けに使用されるものをいう。
上記建築物の床仕上げ材としては、ビニル系床材、リノリウム系床材等の高分子系張り床材、タイルカーペット、木質系床材等が挙げられ、特に、ビニル系床材及びタイルカーペットに好適に用いることができる。
床仕上げ材用及び腰壁用の接着剤としては、JIS A 5536に記載の床仕上げ材用接着剤等が挙げられる。このうち、溶剤形接着剤としては「酢酸ビニル樹脂系溶剤形」「ビニル共重合樹脂系溶剤形」「ゴム系溶剤形」「エポキシ樹脂系」「ウレタン樹脂系」「変性シリコーン樹脂系」が該当し、水形接着剤としては「酢酸ビニル樹脂系エマルション形」「ビニル共重合樹脂系エマルション形」「アクリル樹脂系エマルション形」「ゴム系ラテックス形」が該当する。
壁紙用としては、JIS A 6922に記載の壁紙施工用及び検具用でん粉系接着剤「壁紙施工用でん粉系接着剤1種」「壁紙施工用でん粉系接着剤2種1号」「壁紙施工用でん粉系接着剤2種2号」「検具用でん粉系接着剤」等が挙げられ、これらは水形接着剤である。
特に、本発明の接着剤固化剤としては、アクリル樹脂系エマルション形、ゴム系ラテックス形、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系等の接着剤を好適に用いることができる。なかでも、水形アクリル接着剤、水形アクリル粘着剤、溶剤形ウレタン接着剤等をより好適に用いることができる。
【0009】
上記接着剤に対する本発明の接着剤固化剤の重量割合[(接着剤固化剤の重量/接着剤の重量)×100]は、下限値が20重量%であることが好ましく、30重量%がより好ましい。上限値は、70重量%であることが好ましく、50重量%がより好ましい。上記下限値以上であることで、水形接着剤、溶剤形接着剤を問わず、種々の接着剤を固化することが可能となる。上記上限値以下であることで、接着剤の固化後に固化剤が余ってしまうことを防止し、廃棄性を損なうことを抑制できる。
【0010】
本発明の接着剤固化剤は、吸水性ポリマーと多孔性材料とを含有する。
上記吸水性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸類、水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール類、ポリエチレンオキサイド類、デンプン類、アルギン酸類、キチン類、ポリスルホン酸類、ポリヒドロキシメタクリレート類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリルアミド類、ポリアクリロニトリル類、ポリエチレンイミン類、ポリアリルアミン類、ポリビニルアミン類、無水マレイン酸類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記吸水性ポリマーは、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等であることが好ましく、架橋構造を有するものであることが好ましい。
具体的には例えば、ポリアクリル酸塩架橋物、デンプン-アクリル酸塩グラフト共重合体架橋物、デンプン-アクリロニトリルグラフト共重合体架橋物のケン化物、アクリル酸エステル‐酢酸ビニル共重合体架橋物のケン化物、アクリル酸塩-アクリルアミド共重合体架橋物及びポリアクリロニトリル架橋物のケン化物が好適な例として挙げられる。
なかでも、ポリアクリル酸ナトリウム塩の架橋物が好ましく、ポリアクリル酸部分ナトリウム塩架橋物は安全性が高く、吸水効果も高いのでより好ましい。
また、上記吸水性ポリマーは、最大吸水割合が40g/g以上であることが好ましく、45g/g以上であることがより好ましく、55g/g以上であることがさらに好ましい。なお、上記最大吸水割合は、JIS K 7223:1996に準拠して測定した値である。
上記吸水性ポリマーは、平均粒子径が100~1000μmであることが好ましく、200~500μmであることがより好ましく、250~350μmであることがさらに好ましい。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折法による50%平均粒子径を意味する。
【0011】
上記多孔性材料は、珪藻土及び紙粉からなる群より選択される少なくとも1種である。
上記珪藻土とは、主に珪藻の殻からなる軟質の岩石または土壌であり、シリカを主成分とするが、シリカ以外にもアルミナ、酸化鉄、アルカリ金属の酸化物等を含んでいてもよい。なお、上記珪藻土は、シリカの含有量が50重量%以上であることが好ましい。
また、上記珪藻土の中でも、乾燥品が好ましい。また、珪藻土は、焼成していても未焼成であってもよい。珪藻土及び紙粉は、共に微細な孔から吸水することで、高い吸水性を有しており、かつ安全性が高く取扱い性が良好なため、本発明に好適に使用することができる。
【0012】
上記珪藻土は、平均粒子径が1~100μmであることが好ましく、5~60μmであることがより好ましい。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折法による50%平均粒子径を意味する。
また、上記珪藻土は、ルース嵩密度が0.01~0.50g/cmのものであることが好ましく、0.05~0.40g/cmのものであることがより好ましい。更に、上記珪藻土は、含水率が1~20重量%であることが好ましく、1~10重量%であることがより好ましい。
上記珪藻土は、微細な孔を多数有するので吸水性に特に優れており、かつ、吸水性ポリマーとの混合性にも優れていることから、本発明に好適に使用することができる。
【0013】
上記紙粉としては、例えば、衛生薄葉紙、衛生薄葉紙廃材、衛生紙、衛生紙廃材、トイレットペーパー、トイレットペーパー廃材、ティッシュペーパー、ティッシュペーパー廃材、化粧紙、化粧紙廃材、ちり紙、ちり紙廃材、紙綿、紙綿廃材、紙タオル、紙タオル廃材、便座シート廃材等の粉砕物が挙げられる。
また、上記紙粉としては、例えば、新聞紙、新聞紙屑、雑誌、雑誌屑、機械パルプ、機械パルプ廃材、化学パルプ、化学パルプ廃材、セミケミカルパルプ、セミケミカルパルプ廃材、綿状パルプ、綿状パルプ廃材、木材パルプ、木材パルプ廃材等の粉砕物が挙げられる。
更に、製本時に発生する紙粉、不織布製造時に発生する紙粉、製紙工程において発生する紙粉を使用することができる。また、上記紙粉としては、使用された新聞紙、雑誌、その他の再生パルプ等の古紙の粉砕物を用いてもよい。
【0014】
上記紙粉は、平均粒子径が50~300μmであることが好ましく、100~200μmであることがより好ましく、130~170μmであることがさらに好ましい。上記平均粒子径は、レーザー回折法による50%平均粒子径を意味する。なお、上記紙粉としては、分散状態を良好とするために、予め粉砕機等により粉砕されていることが望ましく、分級したものを用いてもよい。
また、上記紙粉としては、表面処理したものを用いてもよく、アルカリ処理、熱処理、アセチル化処理、シアノエチル化処理、シランカップリング処理、グリオギザール処理など各種公知の方法で表面処理した紙粉を用いてもよい。
上記紙粉は、微細な孔を多数有するので吸水性に特に優れており、かつ、軽量で有機物からなるため燃焼させた場合の残渣も無いことから、本発明に好適に使用することができる。
【0015】
本発明の接着剤固化剤は、多孔性材料と吸水性ポリマーとの混合物を主成分としている。多孔性材料は微細な孔に水や溶剤を取り込むことができ、吸水性ポリマーは、主に水を取り込むことができる。
したがって、水形接着剤の場合、主に吸水性ポリマーが吸液し、補助的に多孔性材料でも吸液することができる。また、多孔性材料及び吸水性ポリマーが微粒子である場合は、表面積が大きくなり、その表面に水形接着剤が付着することで、流動性が損なわれて固化していく。
溶剤形接着剤の場合、主に多孔性材料で吸液することができ、多孔性材料及び吸水性ポリマーの表面に付着することで、流動性が損なわれて固化していく。
このように、本発明の接着剤固化剤は、水分が多い場合は吸水性ポリマーが吸水を行い、残余の樹脂成分や有機成分を多孔性材料が吸収する作用が組み合わせられた構成となっているので、水分の多いものから有機成分のみのものまで無段階に固化させることができる。よって、多孔性材料と吸水性ポリマーとの相乗効果によって、水形接着剤や溶剤形接着剤など多種類の接着剤を固化する多種固化性を有する。この相乗効果によって、水形エマルションのように水成分と有機成分が混在した接着剤においても、有機成分のみが固化して水成分が残存することも、逆に水成分のみが吸収されて有機成分が未硬化のまま残存することもない。
また、本発明の接着剤固化剤は、少量で作用する上、固化後のべたつきなく、容器からの分離も良好という有利な特性も有する。
本発明において、上記多孔性材料に対する吸水性ポリマーの重量割合[(吸水性ポリマーの重量/多孔性材料の重量)×100]は0.1~100重量%である。
上記重量割合が0.1重量%以上であることで、特に、溶剤形接着剤を好適に固化することが可能となり、上記重量割合が100重量%以下であることで、固化物の粘着性が過度になることが無く、容易に廃棄が可能となる。
上記重量割合の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は49重量%、より好ましい下限は1重量%、より好ましい上限は15重量%、更に好ましい下限は6重量%、更に好ましい上限は10重量%である。
また、本発明の接着剤固化剤に対する吸水性ポリマーの含有量は0.01~50重量%が好ましい。更に、本発明の接着剤固化剤に対する多孔性材料の含有量は30~99.9重量%が好ましい。
【0016】
本発明の接着剤固化剤は、吸水性ポリマー、多孔性材料以外のその他成分を含んでいてもよい。上記その他成分としては、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤、固体湿潤剤等の公知の各種添加剤が挙げられる。
【0017】
本発明によれば、多種類の接着剤を固化できるという顕著な効果に加えて、接着剤を迅速に固化することができ、使用後から廃棄までの時間を大幅に短縮することが可能となる。
また、容器から固化物を取り出す際に、手に付着することがなく、容易に取り出すことができ、固化物から水分が染み出すことも抑制できる。その結果、固化後の取り扱い性を良好なものとすることができる。
【0018】
本発明の接着剤固化剤を製造する方法としては、例えば、容器中において、吸水性ポリマーと多孔性材料とを所定量添加し撹拌、混合する方法が挙げられる。
【0019】
本発明の接着剤固化剤と接着剤とを混合する固化工程を行うことで、接着剤を固化することができる。上記固化工程を有する接着剤の固化方法もまた本発明の1つである。
上記固化工程としては、例えば、容器内にて接着剤固化剤と接着剤とを混合する方法等を用いることができる。混合方法は、特に限定されないが、棒状、板状、へら状の固体物を用いて、人力でかき混ぜることができ、具体的には、くしばけ、クシ目ゴテ、スパチュラ、タイルなどの内装材の端材などを好適に用いることができる。本発明の接着剤固化剤と接着剤との混合時間は、約10秒から30秒とすることが好ましい。このように、本発明においては、化学反応を要しないために、極めて短時間で接着剤を固化させることができる。
また、本発明の接着剤の固化方法では、上記接着剤に対する本発明の接着剤固化剤の重量割合は、下限値が20重量%であることが好ましく、30重量%がより好ましい。上限値は、70重量%であることが好ましく、50重量%がより好ましい。上記下限値以上であることで、水形接着剤、溶剤形接着剤を問わず、種々の接着剤を固化することが可能となる。上記上限値以下であることで、接着剤の固化後に固化剤が余ってしまうことを防止し、廃棄性を損なうことを抑制できる。
本発明の接着剤固化剤を用いた場合、固化物が容器から容易に分離するため、容器との分別処理を極めて容易に行うことができる。
【0020】
本発明の接着剤の固化方法では、固化工程において、更に水を混合することが好ましい。これにより、特に溶剤形接着剤を固化する際に、添加した水が吸水性ポリマーの吸液性を向上させ、優れた固化性能を実現することができる。吸水性ポリマーが水を吸収することは知られているが、水を添加することによって、溶剤形接着剤の溶剤の吸液性をも可能にすることができる。このように、水の添加によって、固化性が低下するのではなく、逆に優れた固化性能を実現することができるという事実は発明者らが新たに得た知見である。
また、上記水を混合する場合、接着剤に対する水の重量割合は、下限値が10重量%であることが好ましく、30重量%であることがより好ましい。上限値は、150重量%であることが好ましく、100重量%であることがより好ましい。この下限値以上であることで、溶剤形接着剤の固化を促進させることができる。この上限値以下であることで、固化物が柔らかくなり過ぎず、適度が硬さになり廃棄し易くなる。
なお、上記固化工程において混合する水としては、水道水、イオン交換水、純水、超純水等のほか、飲料等の水分を含む液体も使用することができる。
【0021】
本発明の接着剤固化剤と接着剤とを有する、接着剤固化セットの形態で使用することも可能である。このような接着剤固化セットもまた本発明の1つである。
また、本発明の接着剤固化剤及び接着剤に加えて水を有する形態を接着剤固化セットとしてもよい。
なお、本発明の接着剤固化セットにおける接着剤固化剤、接着剤の構成については、上述と同様であるため、説明を省略する。
【0022】
本発明の接着剤固化剤、接着剤の固化方法及び接着剤固化セットは、上述の性能を有することから、内装材の施工、より具体的には、建築物の床仕上げ材、壁紙、腰壁の張り付け等に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、固化の対象となる接着剤の種類が限定されず、多種の接着剤を固化させることが可能となる。
また、本発明によれば、接着剤を迅速に固化することができ、使用後から廃棄までの時間を大幅に短縮することが求められている。
さらに、容器から固化物を取り出す際に、手や容器への付着性が低く、容易に取り出すことができ、固化物から水分が染み出すことがないなど、固化後の取り扱い性が良好なものが求められている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。なお、以下の各製造例で得られる接着剤固化剤の重量は全て同じである。
【0025】
(製造例1)
容器に、吸水性ポリマーとしてポリアクリル酸部分ナトリウム塩架橋物(大貴社製、50%平均粒子径:310μm、最大吸水割合:50g/g)1重量部と、多孔質材料として珪藻土(昭和化学工業社製、50%平均粒子径:19.4μm、ルース嵩密度:0.19g/cm、含水率:5.70重量%)1000重量部とを投入し、攪拌、混合することで、接着剤固化剤A1を作製した。
【0026】
(製造例2~11、22)
吸水性ポリマー、多孔質材料の添加量を表1に示す量に変更した以外は製造例1と同様にして接着剤固化剤A2~A8、B1~B4を作製した。
【0027】
(製造例12~13)
吸水性ポリマーとしてポリアクリル酸部分ナトリウム塩架橋物(大貴社製、50%平均粒子径:310μm、最大吸水割合:50g/g)、多孔質材料として紙粉(ジャペット社製、50%平均粒子径:145μm)を表1に示す量で添加した以外は製造例1と同様にして接着剤固化剤C1~C2を作製した。
【0028】
(製造例14)
吸水性ポリマーを用いず、多孔質材料として珪藻土(昭和化学工業社製、50%平均粒子径:19.4μm、ルース嵩密度:0.19g/cm、含水率:5.70重量%)のみを表1に示す量で添加して接着剤固化剤D1を作製した。
【0029】
(製造例15)
多孔質材料を用いず、吸水性ポリマーとしてポリアクリル酸部分ナトリウム塩架橋物(大貴社製、50%平均粒子径:310μm、最大吸水割合:50g/g)のみを表1に示す量で添加して接着剤固化剤D2を作製した。
【0030】
(製造例16~17)
吸水性ポリマーとしてポリアクリル酸部分ナトリウム塩架橋物(大貴社製、50%平均粒子径:310μm、最大吸水割合:50g/g)、多孔質材料としてパーライト(ハットリ社製、服部パーライトL号、発泡真珠岩パーライト)を表1に示す量で添加した以外は製造例1と同様にして接着剤固化剤E1~E2を作製した。
【0031】
(製造例18~19)
吸水性ポリマーとしてポリアクリル酸部分ナトリウム塩架橋物(大貴社製、50%平均粒子径:310μm、最大吸水割合:50g/g)、多孔質材料として軽石(石川ライト工業社製、石川ライト3号、平均粒子径:900μm)を表1に示す量で添加した以外は製造例1と同様にして接着剤固化剤F1~F2を作製した。
【0032】
(製造例20~21)
吸水性ポリマーとしてポリアクリル酸部分ナトリウム塩架橋物(大貴社製、50%平均粒子径:310μm、最大吸水割合:50g/g)、多孔質材料としてイズカライト(イズカ社製、3~5mm規格)を表1に示す量で添加した以外は製造例1と同様にして接着剤固化剤G1~G2を作製した。
【0033】
【表1】
【0034】
(実施例1)
プラスチック容器に、水形アクリル接着剤(東リ社製、エコAR600)100重量部に対して、製造例1で得られた接着剤固化剤A1を30重量部添加した(接着剤固化セット)。その後、各材料が均一になるようにスパチュラを用いて30秒間混合して接着剤を固化し、固化物とした。
【0035】
(実施例2~10、比較例1~4、15、16)
使用する接着剤固化剤の種類、添加量を表2に示す通りとした以外は実施例1と同様にして固化物とした。
【0036】
(実施例11)
プラスチック容器に、水形アクリル粘着剤(東リ社製、エコGAセメント)100重量部に対して、製造例1で得られた接着剤固化剤A1を30重量部添加した(接着剤固化セット)。その後、各材料が均一になるようにスパチュラを用いて30秒間混合して接着剤を固化し、固化物とした。
【0037】
(実施例12~18、比較例5~8、17、18)
使用する接着剤固化剤の種類、添加量を表2に示す通りとした以外は実施例11と同様にして固化物とした。
【0038】
(実施例19)
プラスチック容器に、溶剤形ウレタン接着剤(東リ社製、USセメント)100重量部に対して、製造例1で得られた接着剤固化剤A1を30重量部添加した(接着剤固化セット)。その後、各材料が均一になるようにスパチュラを用いて30秒間混合して接着剤を固化し、固化物とした。
【0039】
(実施例20~26、31~34、比較例9~12、19~26)
使用する接着剤固化剤の種類、添加量を表2に示す通りとした以外は実施例19と同様にして固化物とした。
【0040】
(実施例27)
プラスチック容器に、溶剤形ウレタン接着剤(東リ社製、USセメント)100重量部に対して、製造例1で得られた接着剤固化剤A1を20重量部添加した(接着剤固化セット)。その後、水30重量部を添加し、各材料が均一になるようにスパチュラを用いて30秒間混合して接着剤を固化し、固化物とした。
【0041】
(実施例28~30、比較例13、14)
使用する接着剤固化剤の種類、添加量を表2に示す通りとした以外は実施例27と同様にして固化物とした。
【0042】
(実施例35)
プラスチック容器に、溶剤形エポキシ接着剤(東リ社製、エポグレーST)100重量部に対して、製造例1で得られた接着剤固化剤A1を30重量部添加した(接着剤固化セット)。その後、各材料が均一になるようにスパチュラを用いて30秒間混合して接着剤を固化し、固化物とした。
【0043】
(実施例37)
プラスチック容器に、水形ラテックス接着剤(東リ社製、エコロイヤルセメント)100重量部に対して、製造例1で得られた接着剤固化剤A1を30重量部添加した(接着剤固化セット)。その後、各材料が均一になるようにスパチュラを用いて30秒間混合して接着剤を固化し、固化物とした。
【0044】
(実施例39)
プラスチック容器に、溶剤形酢酸ビニル接着剤(東リ社製、巾木糊)100重量部に対して、製造例1で得られた接着剤固化剤A1を30重量部添加した(接着剤固化セット)。その後、各材料が均一になるようにスパチュラを用いて30秒間混合して接着剤を固化し、固化物とした。
【0045】
(実施例41)
プラスチック容器に、壁紙施工用でん粉系接着剤(東リ社製、東リピュアボンド)100重量部に対して、製造例1で得られた接着剤固化剤A1を30重量部添加した(接着剤固化セット)。その後、各材料が均一になるようにスパチュラを用いて30秒間混合して接着剤を固化し、固化物とした。
【0046】
(実施例36、38、40、42)
使用する接着剤固化剤の種類、添加量、接着剤の種類を表2に示す通りとした以外は実施例27と同様にして固化物とした。
【0047】
(評価)
実施例、比較例で得られた固化物について、以下の評価を行った。結果を表2に示した。
なお、以下の評価は、混合終了直後(0分)、10分後、30分後について行った。
【0048】
(1)押圧評価
容器内の固化物を上方から指で押圧して状態を観察し、以下の基準で評価した。
◎:固化しており、指に付着しなかった。
○:固化しており、軽く触った場合は指に付着しなかった。
△:十分に固化せず柔らかい状態であり、指に付着した。
×:固化せず液状であり、指に付着した。
また、実施例1~32は、固化物を指で押圧しても、液体が染み出ることもなかった。
【0049】
(2)容器離れ評価
固化物が収容されている容器を、側面視にて135度傾けて、固化物が容器から落下していく容器離れの状態を観察し、以下の基準で評価した。
◎:固化しており、傾けるとスパチュラなしで自重により容器離れした。
○:固化しており、スパチュラを用いることで容器離れした。
△:十分に固化せず柔らかい状態であり、スパチュラを用いることで容器離れした。
×:固化せず液状であり、スパチュラを用いることで容器離れした。
【0050】
(3)固化性(廃棄性)
押圧評価と容器離れ評価の結果より、混合完了後30分の時点で、得られた固化物が自重又はスパチュラを用いて容器から廃棄可能か否かを、以下の基準で評価した。なお、十分に固化しているものは廃棄が可能であるため「〇」、固化していないものは、施工現場での廃棄が出来ないので、「×」と評価した。
〇:廃棄可能
×:廃棄不可能
【0051】
(4)多種固化性
上記の実施例、比較例に使用した接着剤固化剤(A1~A8、B1~B4、C1~C2、D1~D2)について、水形接着剤、溶剤形接着剤での固化性をそれぞれ確認し、以下の基準で評価した。なお、水形接着剤には、水形アクリル接着剤、水形アクリル粘着剤、水形ラテックス接着剤、壁紙施工用でん粉系接着剤が該当する。溶剤形接着剤には、溶剤形ウレタン接着剤、溶剤形エポキシ接着剤、溶剤形酢酸ビニル接着剤が該当する。また、水を添加した場合については評価を行わなかった。
〇:全ての接着剤で固化性が「〇」であった。
×:何れかの接着剤で固化性が「×」であった。
【0052】
【表2】
このように、本発明の接着剤固化剤は、極めて良好な廃棄性を有する。具体的には、接着剤固化剤は、多種の接着剤を短時間で固化させることができる。また、固化物は、指や容器への付着性が低く、容器から容易に取り出すことができる。さらに、固化物は、押圧しても液体が染み出ることがないので、廃棄時の取り扱いが容易である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、多種の接着剤を迅速に固化することができ、固化後の取り扱い性に優れる接着剤固化剤、並びに、該接着剤固化剤を用いた接着剤の固化方法及び接着剤固化セットを提供できる。