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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】異材接合方法、及び接合体
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/20 20060101AFI20231219BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20231219BHJP
   B21J 15/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B23K11/20
B23K11/11 543
B21J15/00 U
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020144619
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039534
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 哲
(72)【発明者】
【氏名】今村 美速
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真三樹
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 舞
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-525300(JP,A)
【文献】特表2020-518463(JP,A)
【文献】特開2014-173683(JP,A)
【文献】特開2018-079476(JP,A)
【文献】特開2015-164840(JP,A)
【文献】特開2015-167972(JP,A)
【文献】特開2018-043259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/20
B23K 11/11
B21J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と軸部とを有するリベットの前記軸部を、第1部材に打ち込んで貫通させ、
前記リベットが貫通して取り付けられた前記第1部材と、前記リベットと溶接可能な第2部材とを、前記第1部材の前記リベットの軸部先端側と前記第2部材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記第2部材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットは、前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を備え、
前記リベットを前記第1部材に打ち込んで取り付けるとき、前記環状段付部が前記第1部材を押圧して、前記第1部材における前記軸部の貫通孔の内周縁部を前記第2部材側に突出させた環状突部を形成し、
前記スポット溶接時の前記電極間の加圧により、前記第1部材の前記環状突部の径方向外側の前記第2部材との間に隙間を形成し、前記樹脂層を前記隙間に排出しつつスポット溶接する、
異材接合方法。
【請求項2】
下孔と該下孔の周縁に環状突部とが設けられた第1部材を、樹脂層を挟んで第2部材に重ねて配置し、
頭部と軸部とを有する前記第2部材と溶接可能なリベットの前記軸部を、前記第1部材の前記下孔に貫通させ、
前記リベットと前記第2部材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットは、前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を備え、
前記スポット溶接時の前記電極間の加圧により、前記第1部材の前記環状突部の径方向外側の前記第2部材との間に隙間を形成し、前記樹脂層を前記隙間に排出しつつスポット溶接する、
異材接合方法。
【請求項3】
前記第2部材における前記第1部材の反対側に、更に前記第2部材と同種の部材を重ねてスポット溶接する請求項1又は2に記載の異材接合方法。
【請求項4】
前記リベットに亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜が設けられている請求項1~3のいずれか1項に記載の異材接合方法。
【請求項5】
前記リベットの前記亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜を覆う化成皮膜が更に設けられている請求項4に記載の異材接合方法。
【請求項6】
前記化成皮膜は、クロメート皮膜である請求項5に記載の異材接合方法。
【請求項7】
前記化成皮膜は、ジルコニウム系の化成皮膜である請求項5に記載の異材接合方法。
【請求項8】
求項1~7のいずれか1項に記載の異材接合方法に用いられ、頭部と軸部とを有する前記リベットと、前記リベットの前記軸部が貫通して取り付けられた前記第1部材とを備える接合体であって、
前記リベットは、前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を有し、
前記第1部材は、前記第1部材の前記軸部が貫通する貫通孔の内周縁部に、前記軸部の挿入方向先方に向けて突出した環状突部を有し、
前記スポット溶接時の前記電極間の加圧により、前記第1部材の前記環状突部の径方向外側の前記第2部材との間に隙間を形成するように前記リベットが固定された、
接合体。
【請求項9】
求項1~7のいずれか1項に記載の異材接合方法に用いられ、頭部と軸部とを有する前記リベットと、前記リベットの前記軸部が貫通して取り付けられた前記第1部材とを備える接合体であって、
前記リベットは、前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を有し、
前記第1部材は、第1部材の前記軸部が貫通する貫通孔の内周縁部に、前記軸部の挿入方向先方に向けて突出した環状突部を有し、
前記環状突部は、前記軸部の軸部先端面の外周縁の高さと等しいか、前記外周縁よりも低く形成され、
前記環状突部の径方向外側は、前記環状突部から凹んだ面を有する、
接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材接合方法、及び接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、自動車等の輸送機における車体の軽量化によって燃費の向上を図る取り組みがなされている。車体の軽量化をできるだけ阻害せず、自動車の車体衝突時の安全性を高めるため、自動車の車体構造に対して、従来から使用されている鋼材の一部を、より軽量でエネルギー吸収性にも優れたアルミニウム合金材等の軽合金材に置換した適用例が増加しつつある。
【0003】
これらのアルミニウム合金材は、車体の全ての部分をアルミニウム合金材で構成しない限り、通常の自動車の車体で元々汎用されている鋼板又は型鋼等の鋼材(鋼部材)と組み合わせて使用する必要がある。そのため、必然的にアルミニウム合金材と鋼材との異種金属同士の接合(異材接合)が必要となる。このような異材接合方法が特許文献1に開示されている
【0004】
また、アルミニウム合金材と鋼部材との間には、両者の電位差による腐食(電食)を防ぎ、更に接合強度を確保するために接着剤層を設ける場合が多い。そのような接着材層を設ける接合方法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-207898号公報
【文献】特開2015-24436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の接合方法では、接着剤が存在する部分では金属同士が接触しないため、リベットが溶接される部分から接着剤を予め除去しておく必要がある。この接着剤の除去工程は非常に手間がかかり、現実的ではない。
そこで、接着剤を残したままにして、スポット溶接時に接着剤が排除されるように溶接する、いわゆるウエルドボンド法の適用が望ましい。しかし、ウエルドボンド法をそのまま適用すると、溶接部から火花・チリが発生しやすく、所望のナゲット形状が得られにくくなり、その結果、接合強度が低下する。このことは、アルミニウムと鋼材との異材接合に限らず、他の異材同士の組み合わせであっても同様に生じる。
【0007】
本発明は上記の問題を解決したものであり、リベットを使用したウエルドボンド法において、チリ等の発生を抑制して良好なスポット溶接ができる異材接合方法、及び接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 頭部と軸部とを有するリベットの前記軸部を、第1部材に打ち込んで貫通させ、
前記リベットが貫通して取り付けられた前記第1部材と、前記リベットと溶接可能な第2部材とを、前記第1部材の前記リベットの軸部先端側と前記第2部材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記第2部材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットは、前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を備え、
前記リベットを前記第1部材に打ち込んで取り付けるとき、前記環状段付部が前記第1部材を押圧して、前記第1部材における前記軸部の貫通孔の内周縁部を前記第2部材側に突出させた環状突部を形成し、
前記スポット溶接時の前記電極間の加圧により、前記第1部材の前記環状突部の径方向外側の前記第2部材との間に隙間を形成し、前記樹脂層を前記隙間に排出しつつスポット溶接する、
異材接合方法。
(2) 下孔と該下孔の周縁に環状突部とが設けられた第1部材を、樹脂層を挟んで第2部材に重ねて配置し、
頭部と軸部とを有する前記第2部材と溶接可能なリベットの前記軸部を、前記第1部材の前記下孔に貫通させ、
前記リベットと前記第2部材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットは、前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を備え、
前記スポット溶接時の前記電極間の加圧により、前記第1部材の前記環状突部の径方向外側の前記第2部材との間に隙間を形成し、前記樹脂層を前記隙間に排出しつつスポット溶接する、
異材接合方法。
(3) 頭部と軸部とを有するリベットであって、
前記軸部が貫通して取り付けられた第1部材と、前記リベットに溶接可能な第2部材とを、前記第1部材の前記リベットの軸部先端側と前記第2部材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、前記リベットと前記第2部材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合に用いられ、
前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を備えるリベット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リベットを使用したウエルドボンド法において、チリ等の発生を抑制した良好なスポット溶接により異材接合が行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、(A),(B)は、本発明に係る異材接合方法で使用するリベットの外観斜視図である。
図2図2は、リベットの打ち込み工程を(A)~(C)に段階的に示す工程説明図である。
図3図3の(A)は、リベットが打ち込まれたアルミニウム材の断面図、図3の(B)は、図3の(A)の下方から見た下面図である。
図4図4は、リベットが打ち込まれたアルミニウム材を、樹脂層を挟んで鋼材と重ねる様子を示す工程説明図である。
図5図5は、アルミニウム材と鋼材とをリベットを用いて抵抗スポット溶接する様子を示す工程説明図である。
図6図6は、電極間を加圧してから通電するまでの様子を(A)~(C)に段階的に示す説明図である。
図7図7は、アルミニウム材にリベットを固定する他の方法を(A),(B)で示す工程説明図である。
図8図8は、図6に示す異材接合体の他の構成を示す断面図である。
図9図9は、リベットの環状段付部の他の形状を(A)~(C)に示す一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の異材接合方法においては、使用するリベットの頭部の裏側に軸方向へ突出する環状段付部を設けている。ここでは、アルミニウム材と鋼材とを鋼製のリベットを用いて接合する異材接合方法を例示するが、接合する各部材の材質の組み合わせは任意である。
【0012】
<リベットの構成>
図1の(A),(B)は、本発明に係る異材接合方法で使用するリベットの外観斜視図である。
リベット11は、鋼製であって、円板状の頭部13と、頭部13の中心と同軸に接続される軸部15とを有する。リベット11は、頭部13の裏側における軸部15との接続部(環状の頭部裏面13aの内周部)に、軸部15を取り囲むように周方向に沿って形成され、軸方向に突出する環状段付部17を備える。環状段付部17は、段付きによる角部、即ち、頭部裏面13aと接続される角部17a、軸部側面15bと接続される角部17b及び突出した先端の外周縁17cのそれぞれが、軸断面で曲面状に面取りされている。
【0013】
なお、図1の(A),(B)に示す軸部15は、直径が一定の円柱状であるが、頭部13側の基端から先端に向けて徐々に大きくなる形状であってもよく、軸断面が楕円であってもよい。
【0014】
軸部15の先端面(軸部先端面)15aは、軸方向に突出する湾曲面となっている。軸部先端面15aの湾曲の頂部19は、軸部15の中心軸Lと一致している。また、湾曲面に代えて、頂部19を突出先端とする円錐形状(プロジェクション)であってもよい。
【0015】
<異材接合方法の手順>
次に、上記のリベット11を使用して、アルミニウム材と鋼材とを異材接合する手順を説明する。
図2は、リベット11の打ち込み工程を(A)~(C)に段階的に示す工程説明図である。
図2の(A)に示すように、上部が円筒状のダイ21の上にアルミニウム材23を載置し、リベット11をこのダイ21の上方に配置する。ダイ21の上面の内周側には環状の凹部21aが形成されている。そして、リベット11の頭部13をポンチ25によりアルミニウム材23に向けて打ち込む。
【0016】
アルミニウム材23としては、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金、又は1000系の純アルミニウムの展伸材を利用できる。溶接性の観点から、特に5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。また、アルミニウム材23としては、板材に限らず、押出部材(パイプ材や、中空、中実、異形断面の形材)、鍛造材(板材、リブ付材)であってもよい。さらに、アルミニウム材23の表面に、予備処理としてブラスト処理、エッチング処理、ブラシ研磨処理等の各種表面処理を施してもよい。その場合には、アルミニウム材の表面の有機物が除去され、接合品質が向上する。
【0017】
図2の(B)に示すように、ポンチ25を下降させて、リベット11をアルミニウム材23に押し込むと、アルミニウム材23における軸部15に対向する部分が軸部15により打ち抜かれ、この打ち抜かれた部分(ブランク)23Aがダイ21の内側に落下する。また、リベット11がポンチ25によりアルミニウム材23に向けて押圧されて、アルミニウム材23が、頭部13とダイ21との間に挟まれる。これにより、リベット11の環状段付部17がアルミニウム材23に押し込まれるとともに、ダイ21の上面に形成された凹部21a内にアルミニウム材23が塑性流動して進入する。
【0018】
こうして、図2の(C)に示すように、リベット11の軸部15がアルミニウム材23を貫通し、軸部先端面15aがアルミニウム材23の下面に露出する。また、頭部13に形成された環状段付部17がアルミニウム材23に入り込み、リベット11がアルミニウム材23にかしめ固定される。また、アルミニウム材23の軸部15が貫通する貫通孔の内周縁部が、軸部15の挿入方向先方に向けて突出した環状突部26が形成される。
【0019】
このリベット11の打ち込みは、例えば、アルミニウム材23のプレス成形工程(トリミング工程)にて、プレス成形と同時に行ってもよい。即ち、アルミニウム材23をプレス成形する際に、プレスの型にポンチを設置し、又はポンチの代わりにプレス型自体を使用して、リベット11をプレス型の下降と同時に打ち抜く。これにより、リベット11がアルミニウム材23にかしめ固定される。この状態では、アルミニウム材23が抵抗スポット溶接ラインに搬送される際、リベット11はアルミニウム材23にかしめ固定されているので、搬送の過程でリベット11が落下することはない。したがって、接合の施工性を高められる。
【0020】
図3の(A)は、リベット11が打ち込まれたアルミニウム材23の断面図、図3の(B)は、図3の(A)の下方から見た下面図である。
図3の(A)に示すアルミニウム材23の環状突部26は、リベット11の軸部15の軸方向に関して、軸部先端面15aの外周縁31の高さと等しいか、外周縁31よりも低く形成される。つまり、環状突部26は、軸部15から突出していない。そして、アルミニウム材23の環状突部26の径方向外側は、リベット11の環状段付部17による押し込みとダイ21の凹部21a(図2参照)への塑性流動の影響を受けず、元々の形状の平坦面23aとなっている。つまり、アルミニウム材23の平坦面23aは、環状突部26から距離Sだけ凹んでいる。
【0021】
したがって、リベット11とアルミニウム材23の図3の(A)における軸方向の位置は、下側から軸部先端面15aの頂部19、外周縁31、環状突部26、平坦面23aの順になっている。
【0022】
図4は、リベット11が打ち込まれたアルミニウム材23を、樹脂層27を挟んで鋼材29と重ねる様子を示す工程説明図である。
鋼材29の片側表面には樹脂層27が形成される。樹脂層27は、アルミニウム材23と鋼材29とを接合する接着剤である。また、樹脂層27は電気絶縁性を有することで、アルミニウム材23と鋼材29との接触による電食を防止しつつ、両者を強固に接合する。
【0023】
鋼材29としては、軟鋼、高張力鋼等を利用できる。鋼材29の片側表面には樹脂層27が形成される。樹脂層27は、アルミニウム材23と鋼材29とを接合する接着剤である。また、樹脂層27は電気絶縁性を有することで、アルミニウム材23と鋼材29との接触による電食を防止しつつ、両者を強固に接合する。
【0024】
樹脂層27に用いる接着剤は、液体又は粘性のある状態で鋼材29に塗布されてもよいが、アルミニウム材23に塗布してもよい。また、樹脂層27は、接着剤の塗布に限らず、シート状の接着シートを配置することでもよい。接着シートを用いる場合は、接着シートを鋼材29又はアルミニウム材23、あるいは双方に予め接着させておいてもよいが、アルミニウム材23と鋼材29とを重ねるときに一緒に接着してもよい。これにより、アルミニウム材23におけるリベット11の軸部先端側の面と、鋼材29の表面との間に樹脂層27が挟まれて配置される。
【0025】
図5は、アルミニウム材23と鋼材29とをリベット11を用いて抵抗スポット溶接する様子を示す工程説明図である。
リベット11が設けられたアルミニウム材23と、アルミニウム材23に重なる鋼材29とを、リベット11の位置で一対の電極33,35により挟み込む。そして、不図示の加圧装置によって電極33,35の一方を他方に向けて加圧しつつ、不図示の電源装置によって電極間に通電する(電流I)。すると、リベット11の軸部先端面15aと鋼材29との間に、所望の大きさのナゲット37が形成される。
【0026】
ここで、アルミニウム材23と鋼材29を電極間で加圧し、電極間に通電してナゲット37を形成するまでの様子を詳細に説明する。
図6は、電極間を加圧してから通電するまでの様子を(A)~(C)に段階的に示す説明図である。
図6の(A)に示すように、リベット11の軸部先端面15aが、図4に示す電極33,35の挟み込みによって樹脂層27に押し当てられ、樹脂層27がリベット11の頂部19を中心に、径方向外側に押し出される。そして、電極間の通電により、リベットの11の軸部先端面15aに接触する樹脂層27は、加熱されて溶融し、径方向外側に向けて流動(矢印M)するか、一部が昇華する。このとき、環状突部26と鋼材29との間には僅かな隙間が形成され、この隙間から樹脂層27が径方向外側に円滑に排出される。これにより、少なくとも軸部先端面15aの中心軸L付近からは樹脂層27が略完全に排出される。
【0027】
そして、図6の(B)に示すように、中心軸L付近では、軸部先端面15aと鋼材29とが、双方の間に樹脂層27が介在することなく密着しており、通電による加熱によって双方が溶融することでナゲット37が形成される。ナゲット37は、中心軸Lを起点として成長する。このとき、電極間の加圧によって環状突部26が鋼材29に強く押し当てられる(矢印F)。
【0028】
図6の(C)に示すように、通電によりナゲット37が成長するが、リベット11の軸部15の径方向外側では、環状突部26が鋼材29を強く押し続けるため、ナゲット37の溶融体(鋼の溶湯)が堰き止められ、チリの発生を防止できる。
【0029】
このようにして、ナゲット37は、通電に伴い、軸部15の中心軸Lを始点として成長し、中心軸Lからの偏りと、チリの発生を抑制しつつ、リベット11と鋼材29とが十分な接合強度が得られる大きさにまで成長できる。
【0030】
以上のように、リベット11が環状段付部17を備えることで、リベット11をアルミニウム材23に打ち込んで取り付けるとき、環状段付部17がアルミニウム材23における軸部15の貫通孔の内周縁部に環状突部26を形成する。この環状突部26は、スポット溶接時に、電極間の加圧によって、環状突部26の径方向外側でアルミニウム材23と鋼材29との間に隙間を形成し、この隙間から樹脂層27が円滑に排出される。さらに、電極間の通電によって、樹脂層27の存在しない軸部15の中央部を起点としてナゲット37を発生させ、軸部15の径方向外側では、環状突部26が堰となってチリの発生を防止する。
【0031】
これによれば、抵抗スポット溶接によって樹脂層27を介して異材接合する場合でも、火花、チリを発生させることなく、軸部15の中心に所望の大きさのナゲットを安定して形成でき、必要十分な接合強度を得られる。
【0032】
また、リベット11が環状段付部17によってアルミニウム材23とかしめられることで、リベット11と鋼材29との鋼-鋼の同種材同士のスポット溶接部に、このアルミニウム材23とリベット11とのかしめによる加工硬化を発生させ、互いの接合力(機械的な接合力)を更に加えることができる。このため、スポット溶接とかしめとの両接合の相乗効果によって、異材接合体としての高い接合強度が得られる。さらに、リベット11をアルミニウム材23に押し込んで、かしめる際に、アルミニウム材23側の割れ発生も防止できる。
【0033】
<他の構成例>
上記例ではリベット11をアルミニウム材23に打ち込むことで、リベット11をアルミニウム材23にかしめ固定していたが、リベット11のアルミニウム材23への固定方法はこれに限らない。
図7は、アルミニウム材23にリベット11を固定する他の方法を(A),(B)で示す工程説明図である。
【0034】
図7の(A)に示すように、アルミニウム材23のリベット11を設ける部位に、予めリベット11の軸部15が貫通可能な内径の下孔23bを設けておく。この下孔23bを形成するときに、例えば、前述した図2に示すダイ21と、リベット11の環状段付部17の外形状を備えるポンチとを用いて、図7の(A)に示すように、下孔23bの周縁に環状突部26を形成しておく。そして、図7の(B)に示すように、この下孔23bにリベット11の軸部15をプレス等により貫通させることで、リベット11をアルミニウム材23に固定する。
【0035】
下孔23bの環状突部26は、リベット11が固定された後にアルミニウム材23から突出して形成されていればよく、その形成方法は限定されない。
【0036】
リベット11のプレスによるアルミニウム材23へのかしめ接合は、例えば、アルミニウム材23が自動車の車体構造材である場合、車体のプレス成形工程の中で実施してもよい。また、このようなプレス成形工程とは別途に、その前後の工程、例えばアルミニウム板の製造工程等で実施してもよい。
【0037】
図8は、図6に示す異材接合体の他の構成を示す断面図である。
ここでは、鋼材29のアルミニウム材23側の反対側に、更に別の鋼材30を重ねている。この構成によれば、複数の鋼材29、30を重ね合わせてリベット11とスポット溶接することで、3枚の材料を一度の溶接で簡単に接合できる。そして、鋼材29,30が複数枚設けられることで、接合体の強度を向上でき、異材接合の適用範囲を拡大できる。なお、鋼材の枚数は3枚以上であってもよく、板厚は同じであってもよく、異なっていてもよい。同様にアルミニウム材23についても、環状突部26が形成できる範囲で、枚数、板厚は任意である。
【0038】
図9は、リベットの環状段付部の他の形状を(A)~(C)に示す一部拡大断面図である。
リベット11の環状段付部17は、図1の(B)に示す形状に限らない。図9の(A)に示すように、環状段付部17Aを、環状の隅部17a,17b及び環状の角部17cが、軸断面でそれぞれ直角となる形状にしてもよい。この場合、リベット11へのアルミニウム材の食い付きが良化され、かしめ接合強度を向上できる。
【0039】
さらに、図9の(B)に示すように、環状段付部17Bは、軸部側面15bの頭部裏面13a側の隅部17bから、リベット11の軸部先端面15aに向かうほど径方向外側に広がる傾斜面17dと、頭部裏面13aから軸方向に延びる円筒面17eとを有し、先端に角部17cが形成された環状の突起としてもよい。この場合、図7の(B)に示すように環状段付部17Bがアルミニウム材23に押し付けられると、円筒面17eと軸部側面15bとの間にアルミニウム材が塑性流動により入り込むことに加え、突起の角部17cを含む部分が径方向外側に変形して、アルミニウム材23に食い込むようになる。これにより、リベット11とアルミニウム材23とをより強固にかしめられる。
【0040】
そして、図9の(C)に示すように、環状段付部17Cは、前述した傾斜面17dと、頭部裏面13aから軸方向に延び、軸部先端面15aに向かうほど径方向外側に広がる傾斜面17fとを有し、先端に角部17cが形成された環状の突起としてもよい。この場合、軸断面における角部17cの角度が環状段付部17Bの場合よりも小さく、アルミニウム材23への食い込みが良好となって、より強固なかしめ状態が得られる。
【0041】
<リベットの表面処理>
次に、リベット11を表面に皮膜を形成する処理を説明する。
リベット11の表面に、例えば13~18%のニッケル共晶率となる亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜を設けることが好ましい。
亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜は、5~10μmの膜厚が好ましく、耐食性、耐熱性に優れた特性にできる。これにより、電食を効果的に防止できる。
【0042】
また、リベット11の亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜上に更に化成皮膜を設けることが好ましい。この化成皮膜は、亜鉛高共晶ニッケルめっきを施したリベットの表面に、クロメート処理(JIS H 0201)を施して得られる、クロメート皮膜であってもよい。
クロメート皮膜は、塗料等と比較して薄い皮膜で、高い耐食性、耐熱性を確保できる。また、異材接合後の電着塗装等において、塗料の密着性が良好となる。
また、クロメート皮膜に代えて、ジルコン系の化成皮膜を形成してもよい。ジルコン系の化成処理としては、例えば、リン酸ジルコニウムを用いた化成形性処理が挙げられる。ジルコン系の化成皮膜を用いることで、クロムフリー化した処理にできる。
【0043】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0044】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 頭部と軸部とを有するリベットの前記軸部を、第1部材に打ち込んで貫通させ、
前記リベットが貫通して取り付けられた前記第1部材と、前記リベットと溶接可能な第2部材とを、前記第1部材の前記リベットの軸部先端側と前記第2部材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記第2部材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットは、前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を備え、
前記リベットを前記第1部材に打ち込んで取り付けるとき、前記環状段付部が前記第1部材を押圧して、前記第1部材における前記軸部の貫通孔の内周縁部を前記第2部材側に突出させた環状突部を形成し、
前記スポット溶接時の前記電極間の加圧により、前記第1部材の前記環状突部の径方向外側の前記第2部材との間に隙間を形成し、前記樹脂層を前記隙間に排出しつつスポット溶接する、
異材接合方法。
この異材接合方法によれば、リベットと第2部材との界面から樹脂層を確実に除去して、リベットと第2部材とをチリを発生させずに良好にスポット溶接できる。また、リベットを第1部材に打ち込むことで、リベットの抜け落ちが防止され、ハンドリング性、溶接の施工性を向上できる。
【0045】
(2) 下孔と該下孔の周縁に環状突起とが設けられた第1部材を、樹脂層を挟んで第2部材に重ねて配置し、
頭部と軸部とを有する前記第2部材と溶接可能なリベットの前記軸部を、前記第1部材の前記下孔に貫通させ、
前記リベットと前記第2部材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットは、前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を備え、
前記スポット溶接時の前記電極間の加圧により、前記第1部材の前記環状突部の径方向外側の前記第2部材との間に隙間を形成し、前記樹脂層を前記隙間に排出しつつスポット溶接する、
異材接合方法。
この異材接合方法によれば、リベットと第2部材との界面から樹脂層を確実に除去して、リベットと第2部材とをチリを発生させずに良好にスポット溶接できる。また、リベットを第1部材の下孔に挿入する処理を、第1部材のプレス成形工程、又はプレス成形工程とは別途に、その前後の工程等の任意のタイミングで実施できるため、工程の自由度を向上できる。
【0046】
(3) 前記第2部材における前記第1部材の反対側に、更に前記第2部材と同種の部材を重ねてスポット溶接する(1)又は(2)に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、鋼材が複数枚設けられることで、接合体の強度を向上でき、異材接合の適用範囲を拡大できる。
【0047】
(4) 前記リベットに亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜が設けられている(1)~(3)のいずれか1つに記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、リベットを耐食性、耐熱性に優れた特性にできる。
【0048】
(5) 前記リベットの前記亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜を覆う化成皮膜が更に設けられている(4)に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、高い耐食性、耐熱性を確保でき、異材接合後の電着塗装等において、塗料の密着性が良好となる。
【0049】
(6) 前記化成皮膜は、クロメート皮膜である(5)に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、広く知られた処理であるため、種々の条件下であっても良好な皮膜が安定して得られる。
【0050】
(7) 前記化成皮膜は、ジルコニウム系の化成皮膜である(5)に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、化成皮膜をクロムフリー化した処理で形成できる。
【0051】
(8) 頭部と軸部とを有するリベットであって、
前記軸部が貫通して取り付けられた第1部材と、前記リベットに溶接可能な第2部材とを、前記第1部材の前記リベットの軸部先端側と前記第2部材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、前記リベットと前記第2部材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合に用いられ、
前記頭部の裏側における前記軸部との接続部に、周方向に沿って形成され軸方向へ突出する環状段付部を備えるリベット
このリベットによれば、第2部材との界面から樹脂層を確実に除去して、第2部材とチリを発生させずに良好にスポット溶接できる。これにより、異材接合時の接合強度を向上できる。
【符号の説明】
【0052】
11 リベット
13 頭部
13a 頭部裏面
15 軸部
15a 軸部先端面
15b 軸部側面
17,17A,17B,17C 環状段付部
17a 隅部
17b 隅部
17c 角部
17d 傾斜面
17e 円筒面
17f 傾斜面
19 頂部
21 ダイ
21a 凹部
23 アルミニウム材(第1部材)
23a 平坦面
23b 下孔
25 ポンチ
26 環状突部
27 樹脂層
29 鋼材(第2部材)
30 鋼材(同種の部材)
31 外周縁
33,35 電極
37 ナゲット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9