(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】炭素材料前駆体、耐炎化炭素材料前駆体の製造方法、及び炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/26 20060101AFI20231219BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20231219BHJP
D01F 6/44 20060101ALI20231219BHJP
D01F 9/21 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C08L33/26
C08L83/04
D01F6/44
D01F9/21
(21)【出願番号】P 2020180834
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】成田 麻美子
(72)【発明者】
【氏名】松下 光正
(72)【発明者】
【氏名】河合 秀保
(72)【発明者】
【氏名】重光 望
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-041135(JP,A)
【文献】特開平11-036143(JP,A)
【文献】特開2018-090791(JP,A)
【文献】特開2019-026827(JP,A)
【文献】特開2006-299439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
D01F 1/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド系モノマー単位を50mol%以上85mol%以下含有するアクリルアミド系ポリマーと該アクリルアミド系ポリマーに付着したシリコーン系油剤とを含有し、
前記シリコーン系油剤の25℃における動粘度が3,000~
300,000mm
2/sの範囲内にあり、
前記シリコーン系油剤の付着量が前記アクリルアミド系ポリマー100質量部に対して0.1~20質量部の範囲内にある、
ことを特徴とする炭素材料前駆体。
【請求項2】
昇温速度10℃/minで100℃から300℃まで加熱した場合における前記シリコーン系油剤の重量減少率が7質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭素材料前駆体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の炭素材料前駆体に耐炎化処理を施すことを特徴とする耐炎化炭素材料前駆体の製造方法。
【請求項4】
繊維状の前記炭素材料前駆体に、0.05~300mN/texの張力を付与しながら、或いは、0.05~300mN/texの張力を付与した後に、前記耐炎化処理を施して、繊維状の耐炎化炭素材料前駆体を得ることを特徴とする請求項
3に記載の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法。
【請求項5】
請求項
3又は4に記載の方法により耐炎化炭素材料前駆体を製造する工程と、
前記耐炎化炭素材料前駆体に炭化処理を施す工程と、
を含むことを特徴とする炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料前駆体、耐炎化炭素材料前駆体の製造方法、及び炭素材料の製造方法に関し、より詳しくは、アクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体、耐炎化炭素材料前駆体の製造方法、及び炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料の1種である炭素繊維の製造方法としては、従来から、ポリアクリロニトリルを紡糸して得られる炭素繊維前駆体に耐炎化処理を施した後、炭化処理を施す方法が主として採用されている(例えば、特公昭37-4405号公報(特許文献1)、特開2015-74844号公報(特許文献2)、特開2016-40419号公報(特許文献3)、特開2016-113726号公報(特許文献4))。この方法に用いられるポリアクリロニトリルは安価な汎用溶媒に溶解しにくいため、重合や紡糸の際に、ジメチルスルホキシドやN,N-ジメチルアセトアミド等の高価な溶媒を使用する必要があり、炭素繊維の製造コストが高くなるという問題があった。
【0003】
また、特開2013-103992号公報(特許文献5)には、アクリロニトリル単位96~97.5質量部と、アクリルアミド単位2.5~4質量部と、カルボン酸含有ビニルモノマー0.01~0.5質量部とからなるポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素材料前駆体繊維が記載されている。このポリアクリロニトリル系共重合体は、ポリマーの水溶性に寄与するアクリルアミド単位やカルボン酸含有ビニルモノマー単位を含有するものの、これらの含有量が少ないため、水には不溶であり、重合や成形加工の際に、N,N-ジメチルアセトアミド等の高価な溶媒を使用する必要があり、炭素繊維の製造コストが高くなるという問題があった。
【0004】
さらに、ポリアクリロニトリルやその共重合体に加熱処理を施すと、急激な発熱が起こり、ポリアクリロニトリルやその共重合体の熱分解が加速されるため、炭素材料(炭素繊維)の収率が低くなるという問題があった。このため、ポリアクリロニトリルやその共重合体を用いて炭素材料(炭素繊維)を製造する場合には、耐炎化処理や炭化処理の昇温過程において、急激な発熱が発生しないように、長時間をかけて徐々に昇温する必要があった。
【0005】
また、ポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素材料前駆体繊維に耐炎化処理を施すと、毛羽立ちや回転ロールへの繊維束の巻付きが発生するという問題があった。特開2018-145562号公報(特許文献6)には、アクリロニトリル系ポリマーからなる炭素繊維前駆体アクリル繊維束に昇温速度10℃/minで100℃から250℃まで加熱した場合の残存率が95質量%以上の油剤組成物を付着させることによって、前記炭素繊維前駆体アクリル繊維束に耐炎化処理を施す際に発生する毛羽立ちが抑制されることが記載されている。
【0006】
一方、アクリルアミド単位を多く含有するアクリルアミド系ポリマーは水溶性のポリマーであり、重合や成形加工(フィルム化、シート化、紡糸等)の際に、安価で環境負荷の小さい水を溶媒として使用することができるため、炭素材料の製造コストの削減が期待される。特開2018-90791号公報(特許文献7)には、アクリルアミド系ポリマーと、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分とを含有する炭素材料前駆体組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭37-4405号公報
【文献】特開2015-74844号公報
【文献】特開2016-40419号公報
【文献】特開2016-113726号公報
【文献】特開2013-103992号公報
【文献】特開2018-145562号公報
【文献】特開2018-90791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体に耐炎化処理を施すと、表面が軟化してポリマー同士の融着が発生する場合があり、炭素材料の外観品質が低下する場合があることを本発明者らは見出した。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が抑制された炭素材料前駆体、それを用いた耐炎化炭素材料前駆体の製造方法及び炭素材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アクリルアミド系ポリマーに、特定の動粘度を有するシリコーン系油剤を付着させることによって、耐炎化処理時に前記アクリルアミド系ポリマー同士の融着が起こりにくい炭素材料前駆体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の炭素材料前駆体は、アクリルアミド系モノマー単位を50mol%以上85mol%以下含有するアクリルアミド系ポリマーと該アクリルアミド系ポリマーに付着したシリコーン系油剤とを含有し、前記シリコーン系油剤の25℃における動粘度が3,000~300,000mm2/sの範囲内にあり、前記シリコーン系油剤の付着量が前記アクリルアミド系ポリマー100質量部に対して0.1~20質量部の範囲内にある、ことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の炭素材料前駆体においては、昇温速度10℃/minで100℃から300℃まで加熱した場合における前記シリコーン系油剤の重量減少率が7質量%以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法は、前記本発明の炭素材料前駆体に耐炎化処理を施すことを特徴とする方法であり、例えば、繊維状の前記炭素材料前駆体に、0.05~300mN/texの張力を付与しながら、或いは、0.05~300mN/texの張力を付与した後に、前記耐炎化処理を施すことによって、繊維状の耐炎化炭素材料前駆体を得ることができる。
【0014】
さらに、本発明の炭素材料の製造方法は、前記本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法により耐炎化炭素材料前駆体を製造する工程と、前記耐炎化炭素材料前駆体に炭化処理を施す工程と、を含むことを特徴とする方法である。
【0015】
なお、本発明の炭素材料前駆体によって、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が抑制される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の炭素材料前駆体は、アクリルアミド系ポリマーと、このアクリルアミド系ポリマーに付着した動粘度(25℃)が特定の範囲内にあるシリコーン系油剤とからなるものである。本発明に用いられるシリコーン系油剤は、動粘度(25℃)が特定の範囲内にあるため、アクリルアミド系ポリマーの表面に均一に付着しやすく、前記シリコーン系油剤が付着したアクリルアミド系ポリマーにおいては、表面全体で前記シリコーン系油剤による融着抑制作用が発現するため、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が抑制されると推察される。
【0016】
一方、シリコーン系油剤の動粘度(25℃)が低くなりすぎると、シリコーン系油剤の耐熱性が低下し、アクリルアミド系ポリマーの表面において、例えば、300℃以上の高温下で、シリコーン系油剤が均一に付着した状態を保つことが困難となるため、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が十分に抑制されないと推察される。
【0017】
また、シリコーン系油剤の動粘度(25℃)が高くなりすぎると、シリコーン系油剤がアクリルアミド系ポリマーの表面に均一に付着しにくいため、アクリルアミド系ポリマーの表面においては、シリコーン系油剤による融着抑制作用にムラが生じ、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が十分に抑制されないと推察される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が抑制され、かつ、高い炭化収率を示す炭素材料前駆体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明の炭素材料前駆体について説明する。本発明の炭素材料前駆体は、アクリルアミド系ポリマーと該アクリルアミド系ポリマーに付着したシリコーン系油剤とを含有するものであり、前記シリコーン系油剤の25℃における動粘度は3000~2000000mm2/sの範囲内にあり、付着量は前記アクリルアミド系ポリマー100質量部に対して0.1~20質量部の範囲内にある。
【0021】
(アクリルアミド系ポリマー)
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーとしては、アクリルアミド系モノマーの単独重合体であっても、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体であってもよいが、炭化収率が向上するという観点から、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体が好ましい。
【0022】
前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体におけるアクリルアミド系モノマー単位の含有量の下限としては、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点から、50mol%以上が好ましく、55mol%以上がより好ましく、60mol%以上が特に好ましい。また、アクリルアミド系モノマー単位の含有量の上限としては、炭化収率が向上するという観点から、99.9mol%以下が好ましく、99mol%以下がより好ましく、95mol%以下が更に好ましく、90mol%以下が特に好ましく、85mol%以下が最も好ましい。
【0023】
前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体における他の重合性モノマー単位の含有量の下限としては、炭化収率が向上するという観点から、0.1mol%以上が好ましく、1mol%以上がより好ましく、5mol%以上が更に好ましく、10mol%以上が特に好ましく、15mol%以上が最も好ましい。また、他の重合性モノマー単位の含有量の上限としては、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点から、50mol%以下が好ましく、45mol%以下がより好ましく、40mol%以下が特に好ましい。
【0024】
前記アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、アクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド等のN-アルキルアクリルアミド;N-シクロヘキシルアクリルアミド等のN-シクロアルキルアクリルアミド;N,N-ジメチルアクリルアミド等のジアルキルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルアクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のヒドロキシアルキルアクリルアミド;N-フェニルアクリルアミド等のN-アリールアクリルアミド;ジアセトンアクリルアミド;N,N’-メチレンビスアクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスアクリルアミド;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等のN-アルキルメタクリルアミド;N-シクロヘキシルメタクリルアミド等のN-シクロアルキルメタクリルアミド;N,N-ジメチルメタクリルアミド等のジアルキルメタクリルアミド;ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のヒドロキシアルキルメタクリルアミド;N-フェニルメタクリルアミド等のN-アリールメタクリルアミド;ジアセトンメタクリルアミド;N,N’-メチレンビスメタクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスメタクリルアミドが挙げられる。これらのアクリルアミド系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのアクリルアミド系モノマーの中でも、水性溶媒又は水系混合溶媒への溶解性が高いという観点から、アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、ジアルキルメタクリルアミドが好ましく、アクリルアミドが特に好ましい。
【0025】
前記他の重合性モノマーとしては、例えば、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、ビニル系モノマー、オレフィン系モノマーが挙げられる。前記シアン化ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメタクリロニトリル、メトキシアクリロニトリル、メトキシメタクリロニトリル等が挙げられる。前記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸の塩としては、前記不飽和カルボン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸無水物としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられ、前記ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー、塩化ビニル、ビニルアルコール等が挙げられ、前記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。これらの他の重合性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの他の重合性モノマーの中でも、炭素材料前駆体の成形加工性及び炭化収率が向上するという観点からは、シアン化ビニル系モノマーが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましく、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸及びその塩が好ましく、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸無水物がより好ましい。
【0026】
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の上限としては、特に制限はないが、通常500万以下であり、炭素材料前駆体の成形加工性が向上するという観点から、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましく、50万以下が更に好ましく、30万以下がまた更に好ましく、20万以下が特に好ましく、13万以下がまた特に好ましく、10万以下が最も好ましい。また、アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の下限としては、特に制限はないが、通常1万以上であり、耐炎化炭素材料前駆体及び炭素材料の強度が向上するという観点から、2万以上が好ましく、3万以上がより好ましく、4万以上が特に好ましい。なお、前記アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定されるものである。
【0027】
また、本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーは、水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒)及び水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)のうちの少なくとも一方に可溶なものであることが好ましい。これにより、炭素材料前駆体を成形する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式成形(乾式紡糸)、乾湿式成形(乾湿式紡糸)、湿式成形(湿式紡糸)、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に耐炎化炭素材料前駆体及び炭素材料を製造することが可能となる。また、前記アクリルアミド系ポリマーに後述する添加成分を配合する場合に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、前記アクリルアミド系ポリマーと後述する添加成分とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。なお、前記水系混合溶媒中の有機溶媒の含有量としては、前記水性溶媒に不溶又は難溶な前記アクリルアミド系ポリマーが有機溶媒を混合することによって溶解する量であれば特に制限はない。また、このようなアクリルアミド系ポリマーの中でも、より低コストで安全に耐炎化炭素材料前駆体及び炭素材料を製造することが可能となるという観点から、前記水性溶媒に可溶なアクリルアミド系ポリマーが好ましく、水に可溶な(水溶性の)アクリルアミド系ポリマーがより好ましい。
【0028】
このようなアクリルアミド系ポリマーを合成する方法としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合等の公知の重合反応を、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、分散重合、乳化重合(例えば、逆相乳化重合)等の重合方法によって行う方法を採用することができる。前記重合反応の中でも、前記アクリルアミド系ポリマーを低コストで製造できるという観点から、ラジカル重合が好ましい。また、溶液重合を採用する場合、溶媒としては、原料のモノマー及び得られるアクリルアミド系ポリマーが溶解するものを使用することが好ましく、低コストで安全に製造できるという観点から、前記水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒等)又は前記水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)を使用することがより好ましく、前記水性溶媒を使用することが特に好ましく、水を使用することが最も好ましい。
【0029】
前記ラジカル重合においては、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の従来公知のラジカル重合開始剤を使用することができるが、溶媒として前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を使用する場合には、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒(好ましくは前記水性溶媒、より好ましくは水)に可溶なラジカル重合開始剤が好ましい。また、炭素材料前駆体の成形加工性の向上と、前記アクリルアミド系ポリマーの前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、前記重合開始剤に代えて又は加えて、テトラメチルエチレンジアミン等の従来公知の重合促進剤やn-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン等の分子量調節剤を用いることが好ましく、前記重合開始剤と前記重合促進剤とを併用することが好ましく、過硫酸アンモニウムとテトラメチルエチレンジアミンとを併用することが特に好ましい。
【0030】
重合開始剤を添加する際の温度としては特に制限はないが、炭素材料前駆体の成形加工性の向上という観点から、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上が更に好ましく、50℃以上が特に好ましく、55℃以上が最も好ましい。また、前記重合反応の温度としては特に制限はないが、前記アクリルアミド系ポリマーの前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が最も好ましい。
【0031】
(アクリルアミド系ポリマー組成物)
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーは、酸等の添加成分を配合せずに、そのまま本発明の炭素材料前駆体の製造に使用することが可能であるが、前記アクリルアミド系ポリマーに酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分を配合してアクリルアミド系ポリマー組成物を調製し、このアクリルアミド系ポリマー組成物を炭素材料前駆体の製造に使用してもよい。これにより、脱水反応や脱アンモニア反応による環状構造の形成が加速し、さらに、多環が連続した構造の形成が加速して耐炎化炭素材料前駆体の引張弾性率が増加するため、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が更に抑制される。また、前記添加成分を含む炭素材料前駆体に張力を付与しながら耐炎化処理を施すことによって、脱水反応や脱アンモニア反応による環状構造の形成が加速し、さらに、多環が連続した構造の形成が加速し、高温での耐荷重性に優れ、高い強度、高い弾性率及び高い炭化収率を有する耐炎化炭素材料前駆体が得られる。さらに、本発明によって得られる耐炎化炭素材料前駆体及び炭素材料においては、前記添加成分及びその残渣の少なくとも一部が残存していてもよい。また、耐炎化炭素材料前駆体に前記添加成分を加えて炭化処理を行ってもよい。
【0032】
このようなアクリルアミド系ポリマー組成物において、前記添加成分の含有量としては、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が抑制され、また、耐炎化炭素材料前駆体の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が向上するという観点から、前記アクリルアミド系ポリマー100質量部に対して0.05~100質量部が好ましく、0.1~50質量部がより好ましく、0.3~30質量部が更に好ましく、0.5~20質量部が特に好ましく、1.0~10質量部が最も好ましい。
【0033】
前記酸としては、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸等の無機酸、シュウ酸、クエン酸、スルホン酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。また、このような酸の塩としては、金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、アンモニウム塩、アミン塩が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。特に、これらの添加成分のうち、耐炎化炭素材料前駆体の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が向上するという観点から、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、及びこれらのアンモニウム塩が好ましく、リン酸、ポリリン酸、及びこれらのアンモニウム塩が特に好ましい。
【0034】
また、前記アクリルアミド系ポリマー組成物においては、前記添加成分のほか、本発明の効果を損なわない範囲内において、塩化ナトリウム、塩化亜鉛等の塩化物、水酸化ナトリウム等の水酸化物、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン等の各種フィラーが含まれていてもよい。
【0035】
前記添加成分は、前記水性溶媒及び前記水系混合溶媒のうちの少なくとも一方(より好ましくは前記水性溶媒、特に好ましくは水)に可溶なものであることが好ましい。これにより、アクリルアミド系ポリマー組成物を製造する際に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。また、得られたアクリルアミド系ポリマー組成物を成形する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式成形(乾式紡糸)、乾湿式成形(乾湿式紡糸)、湿式成形(湿式紡糸)、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。
【0036】
このようなアクリルアミド系ポリマー組成物を製造する方法としては、溶融状態の前記アクリルアミド系ポリマーに前記添加成分を直接混合する方法(溶融混合)、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とをドライブレンドする方法(乾式混合)、前記添加成分を含有する水性溶液又は水系混合溶液、或いは前記アクリルアミド系ポリマーは完全溶解していないが前記添加成分は溶解している溶液に所望の形状(例えば、フィルム状、シート状、繊維状)に成形した前記アクリルアミド系ポリマーを浸漬したり、通過させたりする方法等を採用することも可能であるが、使用する前記アクリルアミド系ポリマー及び前記添加成分が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを均一に混合することができるという観点から、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒中で混合する方法(湿式混合)が好ましい。また、湿式混合としては、前記アクリルアミド系ポリマーの製造に際し、前述の重合を前記水性溶媒中又は前記水系混合溶媒中で行った場合に、重合後等に前記添加成分を混合する方法も採用することができる。さらに、得られる溶液から前記溶媒を除去することによってアクリルアミド系ポリマー組成物を回収し、これを後述する炭素材料前駆体の製造に用いることができるほか、前記溶媒を除去することなく、得られる溶液をそのまま後述する炭素材料前駆体の製造に用いることもできる。また、前記湿式混合においては、より低コストで安全にアクリルアミド系ポリマー組成物を製造できるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。さらに、前記溶媒を除去する方法としては特に制限はなく、減圧留去、再沈殿、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法のうちの少なくとも1つの方法を採用することができる。
【0037】
(アクリルアミド系ポリマー繊維)
このようなアクリルアミド系ポリマー及びその組成物の形状としては特に制限はなく、例えば、繊維状、フィルム状、シート状が挙げられるが、後述するシリコーン系油剤による効果(耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性)が十分に発揮されるという観点から、繊維状が好ましい。
【0038】
前記アクリルアミド系ポリマー又はその組成物からなる繊維(以下、「アクリルアミド系ポリマー繊維」という)の繊度としては特に制限はないが、1×10-8~100tex/本が好ましく、1×10-6~60tex/本がより好ましく、0.001~40tex/本が更に好ましく、0.01~10tex/本がまた更に好ましく、0.02~2tex/本が特に好ましく、0.03~0.4tex/本が最も好ましい。アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや耐炎化処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、繊維状耐炎化炭素材料前駆体(耐炎化繊維)の表層付近と中心付近の構造差が大きくなり、繊維状炭素材料(炭素繊維)の引張強度が低下する傾向にある。
【0039】
また、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径としては特に制限はないが、3nm~300μmが好ましく、30nm~250μmがより好ましく、1~200μmが更に好ましく、3~100μmがまた更に好ましく、4~40μmが特に好ましく、5~20μmが最も好ましい。アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや耐炎化処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、繊維状耐炎化炭素材料前駆体(耐炎化繊維)の表層付近と中心付近の構造差が大きくなり、繊維状炭素材料(炭素繊維)の引張強度及び引張弾性率が低下する傾向にある。
【0040】
(シリコーン系油剤)
本発明に用いられるシリコーン系油剤は、25℃における動粘度が3,000~2,000,000mm2/sの範囲内にあるものである。シリコーン系油剤の動粘度(25℃)が前記下限未満になると、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が十分に抑制されず、また、炭化収率が低下する。他方、シリコーン系油剤の動粘度(25℃)が前記上限を超えると、アクリルアミド系ポリマー表面へのシリコーン系油剤の均一な付着が困難となり、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が十分に抑制されない。また、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性及び炭化収率が向上するという観点から、シリコーン系油剤の動粘度(25℃)の下限としては、3,500mm2/s以上が好ましく、4,000mm2/s以上がより好ましく、5,000mm2/s以上が特に好ましい。さらに、アクリルアミド系ポリマー表面へのシリコーン系油剤の均一な付着が促進され、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性が向上するという観点から、シリコーン系油剤の動粘度(25℃)の上限としては、1,000,000mm2/s以下が好ましく、500,000mm2/s以下がより好ましく、300,000mm2/s以下が特に好ましい。
【0041】
また、前記シリコーン系油剤においては、付着したシリコーン系油剤が耐炎化処理時に熱分解されにくいという観点から、昇温速度10℃/minで100℃から300℃まで加熱した場合における重量減少率が7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
前記シリコーン系油剤としては、シロキサン骨格を主骨格として有するものであれば特に制限はないが、油剤の粘度や付着量が制御しやすいという観点から、直鎖状のシロキサン骨格を主骨格として有するものがより好ましい。また、前記シリコーン系油剤は、架橋構造や分岐構造を有していてもよいが、油剤の粘度や付着量が制御しやすいという観点から、分子全体が直鎖状であることが好ましい。
【0043】
このようなシリコーン系油剤としては、例えば、ジメチルシリコーン系油剤(ポリジメチルシロキサン)、メチルフェニルシリコーン系油剤、メチルハイドロジェンシリコーン系油剤等のストレートシリコーン系油剤;アミノ変性シリコーン系油剤、エポキシ変性シリコーン系油剤、エーテル変性シリコーン系油剤等の変性シリコーン系油剤が挙げられる。これらのシリコーン系油剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのシリコーン系油剤のうち、耐炎化処理時に熱分解されにくいという観点から、ストレートシリコーン系油剤が好ましく、ジメチルシリコーン系油剤(ポリジメチルシロキサン)がより好ましい。
【0044】
(炭素材料前駆体)
本発明の炭素材料前駆体は、前記アクリルアミド系ポリマーと、このアクリルアミド系ポリマーに付着した前記シリコーン系油剤とを含有するものであり、前記シリコーン系油剤の付着量は前記アクリルアミド系ポリマー100質量部に対して0.1~20質量部である。シリコーン系油剤の付着量が前記下限未満になると、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着を抑制できず、また、炭化収率が向上しない。他方、シリコーン系油剤の付着量が前記上限を超えると、炭素材料前駆体が十分に耐炎化されず、炭化収率が低下する。また、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性及び炭化収率が向上するという観点から、シリコーン系油剤の付着量の下限としては、0.2質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.4質量部以上が更に好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。さらに、炭化収率が向上するという観点から、シリコーン系油剤の付着量の上限としては、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下が更に好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
【0045】
このような本発明の炭素材料前駆体の形状としては特に制限はなく、例えば、繊維状、フィルム状、シート状が挙げられるが、前記シリコーン系油剤による効果(耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性)が十分に発揮されるという観点から、繊維状が好ましい。
【0046】
このような本発明の炭素材料前駆体は、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物の表面に前記シリコーン系油剤を付着させることによって製造することができる。前記シリコーン系油剤を付着させる方法としては特に制限はなく、スプレー法、スピンコート法、ディップ法(ディップ-ニップ法を含む)、パディング法、ロールコーター等のロールを用いた方法等の公知の方法が挙げられる。具体的には、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物の表面に前記シリコーン系油剤をそのまま塗布する方法、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物)の表面に溶剤で希釈した前記シリコーン系油剤を塗布した後、乾燥等により溶剤を除去する方法、溶剤で希釈した前記シリコーン系油剤中に前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を浸漬した後、乾燥等により溶剤を除去する方法等が挙げられる。前記シリコーン系油剤を溶剤で希釈した場合、その濃度としては特に制限はないが、0.05~60質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、2~10質量%が更に好ましい。
【0047】
また、本発明の炭素材料前駆体を製造する場合、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物の表面に前記シリコーン系油剤を付着させた後、50~250℃(より好ましくは、100~200℃)で乾燥すること好ましい。これにより、緻密な炭素材料前駆体が得られる。乾燥方法としては特に制限はないが、例えば、表面が前記範囲内の温度に加熱された熱ローラーを用いて乾燥させる方法が挙げられる。
【0048】
さらに、本発明の炭素材料前駆体を製造する場合、前記シリコーン系油剤を付着させる前に、使用する前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を予め所望の形状(例えば、フィルム状、シート状、繊維状)に成形加工することが好ましい。このとき、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物をそのまま加圧成形したり、溶融状態の前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を用いて溶融成形(例えば、溶融キャスト成形、溶融押出成形、射出成形、溶融紡糸、スパンボンド、メルトブローン、遠心紡糸)してもよいが、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、成形加工性(フィルム加工性、シート加工性、紡糸性等)が更に高まるという観点から、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に溶解し、得られた水性溶液又は水系混合溶液を用いて成形すること、或いは、前述の重合後の前記アクリルアミド系ポリマーの溶液又は前述の湿式混合で得られる前記アクリルアミド系ポリマー組成物の溶液をそのまま若しくは所望の濃度に調製した後、成形すること、が好ましい。このような成形方法としては、溶液キャスト成形、湿式成形、乾式紡糸、湿式紡糸、乾湿式紡糸、ゲル紡糸、フラッシュ紡糸、又はエレクトロスピニングを行うことが好ましい。これにより、所望の形状の前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を低コストで安全に製造することができる。また、より低コストで安全に炭素材料を製造することができるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することがより好ましく、水を使用することが特に好ましい。このように予め所望の形状に成形加工した前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を用いることによって、所望の形状の炭素材料(例えば、炭素フィルム、炭素シート、炭素繊維)を製造することができる。
【0049】
また、本発明の炭素材料前駆体においては、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性及び炭化収率が更に向上するという観点から、延伸処理が施されていることが好ましい。このような延伸処理は、前記シリコーン系油剤を付着させる前に、使用する前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物に施してもよいし、前記シリコーン系油剤を付着させながら、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物に施してもよいし、前記シリコーン系油剤を付着させた後に、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物に施してもよい。前記延伸処理における延伸倍率としては、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性及び炭化収率が更に向上するという観点から、1.3~100倍が好ましく、1.7~50倍がより好ましく、2.0~25倍が更に好ましく、3.0~10倍が特に好ましい。
【0050】
〔耐炎化炭素材料前駆体の製造方法〕
次に、本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法について説明する。本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法は、前記炭素材料前駆体に酸化性雰囲気下(例えば、空気中)で加熱処理(耐炎化処理)を施す方法である。本発明の炭素材料前駆体は、アクリルアミド系ポリマーを含有するものであり、耐炎化処理によって熱分解されにくく、また、前記アクリルアミド系ポリマーの構造が耐炎化処理によって耐熱性の高い構造に変換されるため、高い炭化収率を示す。特に、前記添加成分を含有する炭素材料前駆体においては、添加成分である酸やその塩の触媒作用により、前記アクリルアミド系ポリマーの脱水反応や脱アンモニア反応が促進されるため、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されやすく、前記アクリルアミド系ポリマーの構造が耐熱性の高い構造に変換されやすいため、炭化収率が更に高くなる。
【0051】
このようにして得られる耐炎化炭素材料前駆体は、赤外吸収スペクトルにおいて、1560~1595cm-1の範囲内に多環構造に由来する吸収ピークを有するものであることが好ましい。このような吸収ピークを有する耐炎化炭素材料前駆体は耐熱性が高く、炭化収率が高くなる。また、前記耐炎化炭素材料前駆体においては、1560~1595cm-1の範囲内に見られる吸収ピークの強度(IA)と1648cm-1付近に見られるアクリルアミド系ポリマーのアミド基に由来する吸収ピークの強度(IB)との比(IA/IB)が0.1~20であることが好ましく、0.5~10であることが好ましい。IA/IBが前記範囲内にある耐炎化炭素材料前駆体は、耐熱性及び炭化収率が高くなる。
【0052】
本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法において、前記耐炎化処理は、200~500℃の範囲内の温度で施されることが好ましく、200~450℃の範囲内の温度で施されることがより好ましく、250~420℃の範囲内の温度で施されることが更に好ましいが、特に制限はない。なお、このような温度で施される耐炎化処理には、後述する耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)での耐炎化処理だけでなく、前記耐炎化処理温度までの昇温過程等における耐炎化処理も包含される。
【0053】
また、前記耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)としては、250~500℃が好ましく、305~450℃がより好ましく、310~440℃が更に好ましく、320~430℃が特に好ましく、330~420℃が最も好ましい。前記耐炎化処理温度が前記下限未満になると、前記アクリルアミド系ポリマーの脱水反応や脱アンモニア反応が促進されず、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されにくいため、生成する耐炎化炭素材料前駆体の耐熱性が低く、炭化収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、生成する耐炎化炭素材料前駆体が熱分解される傾向にある。
【0054】
耐炎化処理時間(前記最高温度での加熱時間)としては特に制限はなく、長時間(例えば2時間超)の加熱も可能であるが、1~120分間が好ましく、2~60分間がより好ましく、3~50分間が更に好ましく、4~40分間が特に好ましい。耐炎化処理における前記加熱時間を前記下限以上とすることにより、炭化収率を向上させることができ、他方、2時間以下とすることにより、コストを低減することができる。
【0055】
また、本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法においては、前記炭素材料前駆体が繊維状の場合(すなわち、炭素材料前駆体繊維の場合)、前記炭素材料前駆体繊維に、張力を付与しながら、或いは、張力を付与した後、前記耐炎化処理を施すことが好ましい。これにより、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着防止性が更に向上し、高温での耐荷重性に優れ、高い強度、高い弾性率及び高い炭化収率を有する耐炎化炭素材料前駆体繊維が得られる。前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力としては、0.05~300mN/texが好ましく、0.10~200mN/texがより好ましく、0.20~50mN/texが更に好ましく、0.25~15mN/texがまた更に好ましく、0.30~10mN/texが特に好ましく、0.35~5mN/texが最も好ましい。前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力が前記下限未満になると、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が十分に抑制されず、耐炎化炭素材料前駆体繊維の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐炎化処理時に炭素材料前駆体繊維の切断が生じる場合がある。なお、本発明において、前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力(単位:mN/tex)は、前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力(単位:mN)を、前記炭素材料前駆体繊維の絶乾状態での繊度(単位:tex)で除した値、すなわち、前記炭素材料前駆体繊維の単位繊度当たりの張力である。また、前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力は、耐炎化炉等の加熱装置の出口側等でロードセル、バネ、重り等によって調整することができる。
【0056】
さらに、本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法において、前記炭素材料前駆体繊維に所定の張力を付与しながら耐炎化処理を施す場合、前記耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度)において、前記炭素材料前駆体繊維に所定の張力が付与されていれば、前記耐炎化処理温度までの昇温過程等において張力が付与されていても、付与されていなくてもよいが、張力の付与による効果が十分に得られるという観点から、前記昇温過程等においても張力が付与されていることが好ましい。また、張力は、前記昇温過程等の初期段階から付与されていてもよいし、途中の段階から付与されていてもよい。
【0057】
また、本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法においては、前記耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度)で所定の張力を付与しながら加熱処理を施した後に、前記耐炎化処理温度より高い温度で所定の張力以外の張力を付与しながら又は張力を付与せずに加熱処理を施してもよい。
【0058】
〔炭素材料の製造方法〕
本発明の炭素材料の製造方法は、前記本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法により耐炎化炭素材料前駆体を製造する工程と、前記耐炎化炭素材料前駆体に炭化処理を施す工程とを含む方法である。
【0059】
前記耐炎化炭素材料前駆体に炭化処理を施す方法においては、前記耐炎化炭素材料前駆体に、不活性雰囲気下(窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガス中)、前記耐炎化処理における温度よりも高い温度で加熱処理を施す(炭化処理)。これにより、耐炎化炭素材料前駆体が炭化し、所望の炭素材料が得られる。このような炭化処理における加熱温度としては1000℃以上が好ましく、1100℃以上がより好ましく、1200℃以上が更に好ましく、1300℃以上が特に好ましい。また、加熱温度の上限としては3000℃以下が好ましく、2500℃以下がより好ましく、2000℃以下が更に好ましい。なお、本発明にかかる「炭化処理」には、一般的に、不活性ガス雰囲気下、2000~3000℃で加熱することによって行われる「黒鉛化処理」を含んでいてもよい。前記炭化処理における加熱時間としては特に制限はないが、30秒~60分間が好ましく、1~30分間がより好ましい。
【0060】
また、本発明の炭素材料の製造方法においては、前記炭化処理の前に、1000℃未満の温度で加熱処理(予備炭化処理)を行うことが好ましい。また、前記予備炭化処理は、前記耐炎化炭素材料前駆体に延伸処理を施しながら行ってもよい。
【0061】
さらに、本発明の炭素材料の製造方法においては、前記耐炎化炭素材料前駆体に、前記予備炭化処理を施した後、前記炭化処理を施し、さらに、前記黒鉛化処理を施すといったように、複数回の加熱処理を行うことも可能である。
【0062】
また、本発明の炭素材料の製造方法においては、得られた炭素材料が繊維状の場合(すなわち、炭素繊維の場合)、炭素繊維の表面を改質し、樹脂との密着性を適正化するために、前記炭素繊維に電解処理を施すことが好ましい。これにより、前記炭素繊維は、樹脂との複合材料を形成した場合に、強密着により複合材料が脆性破壊したり、繊維軸方向の引張強度が低下したり、繊維軸方向に垂直な方向における強度特性が発現しないといった問題が解消され、強度特性が繊維軸方向とそれに垂直な方向とにバランスの取れた複合材料が得られる。
【0063】
前記電解処理に用いられる電解液としては、酸、アルカリ、又はそれらの塩を含有する水溶液が挙げられる。酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等が挙げられ、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。
【0064】
また、前記電解処理を施した炭素繊維には、水洗処理を施して前記電解液を除去し、乾燥処理を施した後、樹脂との密着性を向上させるために、サイジング剤を付与してもよい。このようなサイジング剤としては、複数の反応性官能基を有する化合物が好ましい。前記反応性官能基としては特に制限はないが、カルボキシ基や水酸基と反応可能な官能基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。前記サイジング剤において、前記化合物1分子中に存在する前記反応性官能基の個数としては、2~6個が好ましく、2~4個がより好ましく、2個が特に好ましい。前記反応性官能基の個数が1個の場合、前記炭素繊維と樹脂との密着性が向上しない傾向にあり、他方、前記反応性官能基の個数が前記上限を超えると、前記サイジング剤を構成する化合物の分子間架橋密度が大きくなり、前記サイジング剤により形成される層が脆くなり、前記炭素繊維と樹脂との複合材料の引張強度が低下する傾向にある。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用したアクリルアミド系ポリマーは以下の方法により調製した。
【0066】
(調製例1)
<アクリルアミド/アクリル酸共重合体の合成>
アクリルアミド(AM)75mol%及びアクリロニトリル(AN)25mol%からなるモノマー100質量部とテトラメチルエチレンジアミン4.36質量部とをイオン交換水400質量部に溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム3.43質量部を添加した後、70℃で150分間加熱し、次いで、90℃まで30分かけて昇温した後、90℃で1時間加熱して重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して共重合物を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AM/AN共重合体)を得た。
【0067】
<AM/AN共重合体の組成比の測定>
得られたAM/AN共重合体を重水に溶解し、得られた水溶液について、室温、周波数100MHzの条件で13C-NMR測定を行った。得られた13C-NMRスペクトルにおいて、約177ppm~約182ppmに現れるアクリルアミドのカルボニル基の炭素に由来するピークと約121ppm~約122ppmに現れるアクリロニトリルのシアノ基の炭素に由来するピークとの積分強度比に基づいて、AM/AN共重合体中のアクリルアミド(AM)単位のアクリロニトリル(AN)単位に対するモル比(AM/AN)を求めたところ、AM/AN=75mol%/25mol%であった。
【0068】
(調製例2)
<アクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体の合成>
アクリルアミド(AM)73mol%、アクリロニトリル(AN)25mol%及びアクリル酸(AA)2mol%からなるモノマー100質量部とテトラメチルエチレンジアミン4.36質量部とをイオン交換水566.7質量部に溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム3.43質量部を添加した後、70℃で150分間加熱し、次いで、90℃まで30分かけて昇温した後、90℃で1時間加熱して重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して共重合物を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(AM/AN/AA共重合体)を得た。
【0069】
<AM/AN/AA共重合体の組成比の測定>
得られたAM/AN/AA共重合体を重水に溶解し、得られた水溶液について、室温、周波数100MHzの条件で13C-NMR測定を行った。得られた13C-NMRスペクトルにおいて、約177ppm~約182ppmに現れるアクリルアミドのカルボニル基の炭素に由来するピークと、約121ppm~約122ppmに現れるアクリロニトリルのシアノ基の炭素に由来するピークと、約179ppm~約182ppmに現れるアクリル酸のカルボニル基の炭素に由来するピークとの積分強度比に基づいて、AM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位及びアクリル酸(AA)単位のアクリロニトリル(AN)単位に対するモル比((AM+AA)/AN)を算出した。
【0070】
また、AM/AN/AA共重合体について、赤外分光分析(IR)を行い、得られたIRスペクトルにおいて、約1678cm-1に現れるアクリルアミド(AM)に由来するピークと、約2239cm-1に現れるアクリロニトリル(AN)に由来するピークと、約1715cm-1に現れるアクリル酸(AA)に由来するピークとの強度比に基づいて、AM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位とアクリル酸(AA)単位とのモル比(AM/AA)を算出した。
【0071】
前記(AM+AA)/ANと前記AM/AAとからAM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位とアクリロニトリル(AN)単位とアクリル酸(AA)単位とのモル比(AM/AN/AA)を求めたところ、AM/AN/AA=73mol%/25mol%/2mol%であった。
【0072】
(調製例3)
<アクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体の合成と組成比の測定>
モノマーとして、アクリルアミド(AM)65mol%、アクリロニトリル(AN)33mol%及びアクリル酸(AA)2mol%からなるモノマー100質量部を用いた以外は調製例2と同様にして水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(AM/AN/AA共重合体)を得た。このAM/AN/AA共重合体の組成比を調製例2と同様にして測定したところ、AM/AN/AA=65mol%/33mol%/2mol%であった。
【0073】
(調製例4)
<アクリルアミド単独重合体の合成>
アクリルアミド(AM)100質量部とテトラメチルエチレンジアミン8.78質量部とを蒸留水2912質量部に溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム1.95質量部を添加した後、60℃で3時間重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して単独重合物を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のアクリルアミド単独重合体(PAM、AM=100mol%)を得た。
【0074】
また、実施例及び比較例で使用したシリコーン系油剤の動粘度及び重量減少率は以下の方法により測定した。
【0075】
<動粘度>
ASTM D445-46Tに従い、ウッベローデ粘度計を用いて25℃においてシリコーン系油剤の動粘度を測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
<重量減少率>
シリコーン系油剤を約5mg秤量し、示差熱天秤を用いて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で50℃から500℃まで昇温して熱重量分析を行った。得られた熱重量分析結果に基づいて、100℃におけるシリコーン系油剤の質量(M100)に対する300℃におけるシリコーン系油剤の質量(M300)の減少率を下記式:
300℃における質量減少率[%]={(M100-M300)/M100}×100
により求めた。その結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
(製造例1)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)をイオン交換水に溶解し、得られた水溶液を用いて、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約0.3tex/本、平均繊維径が約17μmとなるように乾式紡糸を行い、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)を作製し、このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)を100本束ねてアクリルアミド系ポリマー繊維束(100本/束)を作製した。前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊度及び平均繊維径を以下の方法により測定したところ、繊度は0.33tex/本であり、平均繊維径は18μmであった。
【0079】
<アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度>
得られたアクリルアミド系ポリマー繊維束の質量を測定して、下記式:
繊維束の繊度[tex]=繊維束の質量[g]/繊維長[m]×1000[m]
により前記繊維束の繊度を算出し、前記繊維束を構成する単繊維の繊度(前記アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度)を求めた。
【0080】
<アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径>
乾式自動密度計(マイクロメリティックス社製「アキュピックII 1340」)を用いて前記アクリルアミド系ポリマー繊維束の密度を測定し、下記式:
D={(Dt×4×1000)/(ρ×π×n)}1/2
〔前記式中、Dは繊維束を構成する単繊維の平均繊維径[μm]を表し、Dtは繊維束の繊度[tex]を表し、ρは繊維束の密度[g/cm3]を表し、nは繊維束を構成する単繊維の本数[本]を表す。〕
により前記繊維束を構成する単繊維の平均繊維径(前記アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径)を求めた。
【0081】
(製造例2)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)をイオン交換水に溶解し、得られた水溶液にAM/AN共重合体100質量部に対して3質量部のリン酸を添加して完全に溶解させた。得られた水溶液を用いて、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約0.3tex/本、平均繊維径が約17μmとなるように乾式紡糸を行い、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)を作製し、このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)を100本束ねてアクリルアミド系ポリマー繊維束(100本/束)を作製した。前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は0.38tex/本であり、平均繊維径は20μmであった。
【0082】
(製造例3)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例2で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=73mol%/25mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約0.6tex/本、平均繊維径が約25μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例2と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)の繊維束(100本/束)を作製した。前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は0.68tex/本であり、平均繊維径は26μmであった。
【0083】
(製造例4)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例3で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=65mol%/33mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約0.4tex/本、平均繊維径が約20μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例1と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)の繊維束(100本/束)を作製した。前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は0.42tex/本であり、平均繊維径は21μmであった。
【0084】
(製造例5)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例3で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=65mol%/33mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約0.2tex/本、平均繊維径が約14μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例2と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)の繊維束(100本/束)を作製した。前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は0.23tex/本であり、平均繊維径は15μmであった。
【0085】
(製造例6)
リン酸の代わりにAM/AN/AA共重合体100質量部に対して3質量部のリン酸水素二アンモニウムを添加した以外は製造例5と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-6)の繊維束(100本/束)を作製した。前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-6)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は0.20tex/本であり、平均繊維径は14μmであった。
【0086】
(製造例7)
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例4で得られたPAM(AM=100mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約0.3tex/本、平均繊維径が約20μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例1と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)の繊維束(100本/束)を作製した。前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして、測定したところ、繊度は0.40tex/本であり、平均繊維径は20μmであった。
【0087】
(実施例1)
繊維束100質量部に対するシリコーン系油剤の付着量が2.0質量部となる量のシリコーン系油剤(PDMS-10T)をヘキサンに溶解し、油剤溶液を調製した。この油剤溶液を製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(100本/束)にスプレー法により塗布し、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-10T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)を作製した。
【0088】
この炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)16束を束ねて1600本/束の炭素材料前駆体繊維束を作製し、この前駆体繊維束を加熱炉内に設置して、空気雰囲気下、0.4mN/texの張力を付与しながら150℃から350℃まで10℃/分で昇温し、さらに、前記前駆体繊維束に0.4mN/texの張力を付与しながら350℃(耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度))で30分間加熱処理(耐炎化処理)を施して耐炎化繊維束(1600本/束)を作製した。
【0089】
得られた耐炎化繊維束(1600本/束)8束を束ねて耐炎化繊維12800本からなる耐炎化繊維束を作製し、この耐炎化繊維束を加熱炉内に搬送して、窒素雰囲気下、1200℃で3分間の加熱処理(炭化処理)を施して炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0090】
(実施例2)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(100本/束)の代わりに製造例2で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)の繊維束(100本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-10T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)、耐炎化繊維束(1600本/束)及び炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0091】
(実施例3)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(100本/束)の代わりに製造例3で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)の繊維束(100本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-10T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)を作製した。
【0092】
この炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)16束を束ねて1600本/束の炭素材料前駆体繊維束を作製し、この前駆体繊維束を加熱炉内に設置して、空気雰囲気下、延伸倍率(=延伸後の前駆体繊維束の繊維長/延伸前の前駆体繊維束の繊維長)が4倍となるように延伸しながら250℃で5分間加熱して、炭素材料前駆体延伸繊維束(1600本/束)を作製した。
【0093】
この炭素材料前駆体延伸繊維束(1600本/束)を加熱炉内に設置して、空気雰囲気下、0.6mN/texの張力を付与しながら150℃から350℃まで10℃/分で昇温し、さらに、前記前駆体延伸繊維束に0.6mN/texの張力を付与しながら350℃(耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度))で30分間加熱処理(耐炎化処理)を施して耐炎化繊維束(1600本/束)を作製し、さらに、実施例1と同様にして、炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0094】
(実施例4)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(100本/束)の代わりに製造例4で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)の繊維束(100本/束)を用い、シリコーン系油剤(PDMS-10T)の代わりにシリコーン系油剤(PDMS-100T)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-100T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)を作製した以外は実施例1と同様にして、耐炎化繊維束(1600本/束)を作製し、さらに、炭化処理時の加熱温度を1000℃に変更した以外は実施例1と同様にして、炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0095】
(実施例5)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(100本/束)の代わりに製造例5で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)の繊維束(100本/束)を用い、シリコーン系油剤(PDMS-10T)の代わりにシリコーン系油剤(PDMS-100T)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-100T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)、耐炎化繊維束(1600本/束)及び炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0096】
(実施例6)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(100本/束)の代わりに製造例6で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-6)の繊維束(100本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-6)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-10T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)、耐炎化繊維束(1600本/束)及び炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0097】
(実施例7)
実施例1と同様にして前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-10T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)を作製し、さらに、前駆体繊維束に付与する張力を0.05mN/texに変更した以外は実施例1と同様にして、耐炎化繊維束(1600本/束)を作製し、さらに、実施例1と同様にして、炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0098】
(比較例1)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(100本/束)の代わりに製造例7で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)の繊維束(100本/束)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-10T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)を作製した。
【0099】
この炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)6束を束ねて600本/束の炭素材料前駆体繊維束を作製し、この前駆体繊維束を加熱炉内に設置して、空気雰囲気下、0.2mN/texの張力を付与しながら150℃から350℃まで10℃/分で昇温し、さらに、前記前駆体繊維束に0.2mN/texの張力を付与しながら350℃(耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度))で30分間加熱処理(耐炎化処理)を施して耐炎化繊維束(600本/束)を作製した。
【0100】
得られた耐炎化繊維束(600本/束)20束を束ねて耐炎化繊維12000本からなる耐炎化繊維束を作製し、この耐炎化繊維束に炭化処理を施した以外は実施例1と同様にして、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
【0101】
(実施例8)
繊維束100質量部に対するシリコーン系油剤の付着量が9.0質量部となるようにシリコーン系油剤(PDMS-100T)の量を変更した以外は実施例4と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)100質量部に対して9.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-100T)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)、耐炎化繊維束(1600本/束)及び炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0102】
(比較例2)
製造例1で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊維束(100本/束)16束を束ねてシリコーン系油剤が付着していない炭素材料前駆体繊維束(1600本/束)を作製し、この前駆体繊維束を加熱炉内に設置して、空気雰囲気下、0.4mN/texの張力を付与しながら150℃から350℃まで10℃/分で昇温し、さらに、前記前駆体繊維束に0.4mN/texの張力を付与しながら350℃(耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度))で30分間加熱処理(耐炎化処理)を施して耐炎化繊維束(1600本/束)を作製し、さらに、実施例1と同様にして、炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0103】
(比較例3)
シリコーン系油剤(PDMS-10T)の代わりにシリコーン系油剤(PDMS-30)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(PDMS-30)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)、耐炎化繊維束(1600本/束)及び炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0104】
(比較例4)
シリコーン系油剤(PDMS-10T)の代わりにシリコーン系油剤(SO-60)を用いた以外は実施例2と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(SO-60)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)、耐炎化繊維束(1600本/束)及び炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0105】
(比較例5)
製造例7で得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-7)の繊維束(100本/束)6束を束ねてシリコーン系油剤が付着していない炭素材料前駆体繊維束(600本/束)を作製し、この前駆体繊維束を加熱炉内に設置して、空気雰囲気下、0.05mN/texの張力を付与しながら150℃から350℃まで10℃/分で昇温し、さらに、前記前駆体繊維束に0.05mN/texの張力を付与しながら350℃(耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度))で30分間加熱処理(耐炎化処理)を施して耐炎化繊維束(600本/束)を作製し、さらに、比較例1と同様にして、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
【0106】
(比較例6)
シリコーン系油剤(PDMS-10T)の代わりにシリコーン系油剤(SO-120)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)100質量部に対して2.0質量部の前記シリコーン系油剤(SO-120)が付着した炭素材料前駆体繊維の繊維束(100本/束)、耐炎化繊維束(1600本/束)及び炭素繊維束(12800本/束)を作製した。
【0107】
<耐炎化繊維及び炭素繊維の平均繊維径>
得られた耐炎化繊維束及び炭素繊維束をマイクロスコープ(株式会社キーエンス製「デジタルマイクロスコープVHX-1000」)を用いて観察し、単繊維の繊維径の測定点を無作為に10箇所抽出して前記耐炎化繊維束を構成する耐炎化単繊維及び前記炭素繊維束を構成する炭素繊維の繊維径を測定し、その平均値(耐炎化繊維及び炭素繊維の平均繊維径)を求めた。その結果を表2に示す。
【0108】
<融着防止性>
得られた耐炎化繊維束から長さ5cmの評価用繊維束を切出し、この評価用繊維束を構成する繊維を無作為に10本抽出してマイクロスコープ(斎藤光学株式会社製「SKM-S20B-PC」)を用いて観察し、繊維の融着の状態を下記基準で評価した。その結果を表2に示す。
A:部分的又は完全に融着している繊維の本数が2本以下。
B:部分的又は完全に融着している繊維の本数が3本以上4本以下。
C:部分的又は完全に融着している繊維の本数が5本以上7本以下。
D:部分的又は完全に融着している繊維の本数が8本以上。
【0109】
<炭化収率>
炭化収率を下記式:
炭化収率[%]=炭素繊維束の質量[mg]/炭化処理前の耐炎化繊維束の質量[mg]×100
により求めた。その結果を表2に示す。なお、炭化処理前の耐炎化繊維束の質量としては、耐炎化繊維束を120℃で2時間真空乾燥して耐炎化繊維束に吸着した水分量を算出し、この水分量を考慮した値を使用した。
【0110】
【0111】
表2に示したように、動粘度(25℃)が特定の範囲内にあるシリコーン系油剤が付着したアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体繊維に所定の張力を付与しながら耐炎化処理を施した場合(実施例1~8)には、シリコーン系油剤が付着していないアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体繊維に所定の張力を付与しながら耐炎化処理を施した場合(比較例2、5)、動粘度(25℃)が特定の範囲よりも小さいシリコーン系油剤が付着したアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体繊維に所定の張力を付与しながら耐炎化処理を施した場合(比較例3、4、6)に比べて、耐炎化処理時の繊維の融着が抑制され、また、炭化収率が向上することがわかった。
【0112】
具体的には、実施例1と比較例2、3、6、実施例2と比較例4とを対比すると明らかなように、同じアクリルアミド系ポリマーからなる炭素材料前駆体繊維に同じ張力を付与しながら同じ温度及び同じ時間で耐炎化処理を施した場合でも、アクリルアミド系ポリマー繊維に動粘度(25℃)が特定の範囲内にあるシリコーン系油剤を付着させた場合(実施例1;実施例2)には、シリコーン系油剤を付着させなかった場合(比較例2)、動粘度(25℃)が特定の範囲よりも小さいシリコーン系油剤を付着させた場合(比較例3、6;比較例4)に比べて、耐炎化処理時の繊維の融着が抑制され、また、炭化収率が向上することがわかった。
【0113】
特に、実施例1及び比較例3、6と比較例2とを対比すると明らかなように、アクリルアミド系ポリマー繊維にシリコーン系油剤を付着させた場合でも、動粘度(25℃)が特定の範囲内にあるシリコーン系油剤を付着させた場合(実施例1)には、シリコーン系油剤を付着させなかった場合(比較例2)に比べて炭化収率が向上するのに対して、動粘度(25℃)が特定の範囲よりも小さいシリコーン系油剤を付着させた場合(比較例3、6)には、シリコーン系油剤を付着させなかった場合(比較例2)に比べて炭化収率が低下することがわかった。
【0114】
また、実施例1と実施例7とを対比すると明らかなように、同じアクリルアミド系ポリマー繊維に同じシリコーン系油剤を同量付着させ、同じ温度及び同じ時間で耐炎化処理を施した場合には、前駆体繊維に付与する張力が大きいほど、融着防止性が向上することが確認された。
【0115】
さらに、実施例4と実施例8とを対比すると明らかなように、同じアクリルアミド系ポリマー繊維に同じシリコーン系油剤を付着させ、同じ張力を付与しながら、同じ温度及び同じ時間で耐炎化処理を施した場合には、融着防止性はシリコーン系油剤の付着量に依存しなかったが、シリコーン系油剤の付着量が少ないほど、炭化収率が向上する傾向にあることがわかった。これは、シリコーン系油剤の付着量が少ないほど、耐炎化処理時に、アクリルアミド系ポリマー繊維の中心部まで酸素や熱が伝わりやすいためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上説明したように、本発明によれば、耐炎化処理時のアクリルアミド系ポリマー同士の融着が抑制され、かつ、高い炭化収率を示す炭素材料前駆体を得ることが可能となる。また、このような炭素材料前駆体に耐炎化処理及び炭化処理を施すことによって、良好な外観品質を有する炭素材料を得ることが可能となる。
【0117】
したがって、本発明の耐炎化炭素材料前駆体の製造方法及び炭素材料の製造方法は、使用する炭素材料前駆体が耐炎化処理時にアクリルアミド系ポリマー同士の融着が起こりにくいものであるため、良好な外観品質を有する炭素材料を効率よく製造することができる方法として有用である。