(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】スクリュー圧縮室内噴霧装置
(51)【国際特許分類】
F04C 18/16 20060101AFI20231219BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20231219BHJP
F04C 29/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F04C18/16 Q
F04C29/02 311L
F04C29/04 B
(21)【出願番号】P 2020181081
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 英二
(72)【発明者】
【氏名】千葉 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】保坂 知幸
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-076376(JP,A)
【文献】特開2019-044698(JP,A)
【文献】特開平4-063154(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0093659(US,A1)
【文献】中国実用新案第209244843(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 29/02
F04C 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリューロータと、該スクリューロータを収納するケーシングと、該ケーシング内に形成される圧縮室と、を備えたスクリュー圧縮機の前記圧縮室内に液体を供給する液供給機構により構成されるスクリュー圧縮室内噴霧装置であって、
該液供給機構は、
前記圧縮室内に噴射口を開口して前記液体を噴射する
一つの噴射ノズルと、
該噴射ノズルに供給される前記液体に旋回流を発生させる旋回流路と、
前記噴射口から前記圧縮室内に噴射された液体が霧状化される奥行のバッファ空間と、
を備え、
前記噴射ノズルのノズル中心軸を通る何れかの断面での視認によれば、前記噴射口の縁部が前記ノズル中心軸に対して非対称である、
スクリュー圧縮室内噴霧装置。
【請求項2】
前記断面で視認した前記噴射口の縁部は、前記ノズル中心軸に対して斜めに連続する、
請求項1に記載のスクリュー圧縮室内噴霧装置。
【請求項3】
前記断面で視認した前記噴射口の縁部は、前記ノズル中心軸に対して不連続な段差を形成する、
請求項1に記載のスクリュー圧縮室内噴霧装置。
【請求項4】
前記噴射ノズルの直径Dと前記バッファ空間の奥行Hとの関係がH/D≧2となる、
請求項1に記載のスクリュー圧縮室内噴霧装置。
【請求項5】
前記噴射ノズルの上流の旋回流発生部は、旋回流路と導入流路とそれぞれを形成する2つの流路形成枠を積層して構成された、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載のスクリュー圧縮室内噴霧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー圧縮機の圧縮室内へ液体を噴霧するスクリュー圧縮室内噴霧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気のような気体を始めとする対象流体を圧縮する装置としてスクリュー圧縮機がある。スクリュー圧縮機は、スクリュー状の雄と雌の2つのロータを噛合わせることにより、圧縮ガスを生成する装置である。スクリュー圧縮機では、ガスの圧縮効率を上げるために、雄と雌のスクリューロータを収納するケーシング内に形成されるガス圧縮室(以下、「作動室」、又は単に「圧縮室」ともいう)内に、油などの液体を噴射する液供給機構が設けられている。
【0003】
液供給機構により噴射された液体は、発熱する圧縮ガスに混入する液冷用ミストとなって熱交換する冷却機能のほか、スクリューロータ間の隙間や、スクリューロータとケーシングの間の隙間から対象流体が漏れることを低減するシール機能も発揮する。そのような冷却、密封及び潤滑等の液体噴霧目的に適合する噴射口近辺(以下、「噴射ノズル」又は「液噴射ノズル」ともいう)の構造が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示された液冷式ガス圧縮機は、二つの液噴射ノズルが向き合うように配置されており、二つの液噴射ノズルから噴射された液体を衝突させる構造である。すなわち、特許文献1の液供給機構は、液体が衝突する際に、まず液膜が形成され、つぎの液膜の先端がちぎれることにより、液体を微細液滴化させる、という作用効果を奏するものである。
【0005】
また、特許文献2には、噴射口よりも上流側の位置、すなわちノズル手前部に設けられた旋回室で発生させた旋回流を伴って潤滑剤をスクリュー圧縮機の作動室内へ噴霧する技術も開示されている。このような液供給機構の発明は、その内部で発生させた旋回流を伴ってノズルから噴射された液体を遠心力の作用で微小液滴化することにより、上述した液体噴霧の目的を効果的に達成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2019/239703 A1
【文献】US2019/0093659 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した液体噴霧の目的をより効果的に達成するためには、液噴射ノズルから出る液体を微小液滴化する必要がある。液噴射ノズルから出る液体は、まず液柱や液膜を形成し、次に液柱や液膜の先端が破れて微小液滴が形成される。しかしながら、特許文献1や特許文献2の従来発明では、液噴射ノズルの噴射口のバッファ空間が狭いために、液体が液柱や液膜の状態で作動内に供給されるため、熱交換による対象流体の冷却が不十分であり、また液柱や液膜が微粒化する以前に、直接スクリューロータに衝突してしまい、微細液滴を圧縮室内で均一に噴霧させることが不十分であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、微細液滴を圧縮室内で均一に噴霧させることが可能なスクリュー圧縮室内噴霧装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、スクリューロータと、スクリューロータを収納するケーシングと、ケーシング内に形成される圧縮室と、を備えたスクリュー圧縮機の圧縮室内に液体を供給する液供給機構により構成されるスクリュー圧縮室内噴霧装置であって、液供給機構は、圧縮室内に噴射口を開口して液体を噴射する噴射ノズルと、噴射ノズルに供給される液体に旋回流を発生させる旋回流路と、噴射口から圧縮室内に噴射された液体が霧状化される奥行のバッファ空間と、を備え、噴射ノズルのノズル中心軸を通る何れかの断面での視認によれば、噴射口の縁部がノズル中心軸に対して非対称である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微細液滴を圧縮室内で均一に噴霧させることが可能なスクリュー圧縮室内噴霧装置を提供できる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置が適用されたスクリュー圧縮機の内部構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のA-A線で断裁した、ケーシング、スクリューロータ及び液供給機構の断面図である。
【
図3】本発明の実施例1に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置の構造と、それによる液ジェットの微小液滴化プロセスを示す拡大断面図である。
【
図4】
図3のB-B線で断裁した旋回流路の断面図である。
【
図5】
図3のC-C線で断裁した旋回流路への液導入流路の断面図である。
【
図6】液導入流路を点対称の2か所に設けた変形例に係る旋回流路を
図3のB-B線相当により断裁した断面図である。
【
図7】
図6の変形例に係る旋回流路に連通する液導入流路を
図3のC-C線相当により断裁した断面図である。
【
図8】
図3に示した微小液滴化プロセスについて、旋回流による遠心力の効果を強調して説明するための拡大断面図である。
【
図9】本発明の実施例2に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置の構造と、それによる液ジェットの微小液滴化プロセスを示す拡大断面図である。
【
図10】本発明の実施例3に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置の構造と、それによる液ジェットの微小液滴化プロセスを示す拡大断面図である。
【
図11】本発明の実施例4に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置の構造と、それによる液ジェットの微小液滴化プロセスを示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置の実施例について説明する。各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。なお、本発明は以下に説明する各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、以下に説明する実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置(以下、「実施例1の本装置」ともいう)が適用されたスクリュー圧縮機100の内部構成を示す縦断面図である。
図2は、
図1のA-A線で断裁した、ケーシング4、スクリューロータ1及び液供給機構38の断面図である。
図1及び
図2に示すように、スクリュー圧縮機100は、スクリューロータ1と、スクリューロータ1を収納するケーシング4と、を備えている。スクリューロータ1は、ねじれた歯(ローブ)を持ち互いに噛み合って回転する雄ロータ2と雌ロータ3とを有しており、これらを総称する。
【0014】
また、スクリュー圧縮機100は、雄ロータ2及び雌ロータ3をそれぞれ回転自在に支持するための吸込側軸受5と吐出側軸受6、及びオイルシール、メカニカルシールなどの軸封部品7を備えている。ここで、「吸込側」とは、スクリューロータ1の軸方向における空気等の気体の吸込側をいう。また、「吐出側」とは、スクリューロータ1の軸方向における気体の吐出側をいう。一般的には、雄ロータ2は、その吸込側端部がロータ軸を介して回転駆動源であるモータ8に接続される。
【0015】
ケーシング4の内面は、雄ロータ2を覆う円筒状の雄側ボア9と、雌ロータ3を覆う円筒状の雌側ボア10と、を形成する。雄ロータ2及び雌ロータ3は、それぞれケーシング4の雄側ボア9及び雌側ボア10に対して数10~数100μmのすき間を保って、ケーシング4に収容される。雄側ボア9と雌側ボア10との交線は2本あり、低圧側の交線を吸込側カスプ11と定義し、高圧側の交線を圧縮側カスプ(圧縮側交線)12と定義する。
【0016】
モータ8によって回転駆動された雄ロータ2は、雌ロータ3を回転駆動し、雄ロータ2及び雌ロータ3の歯溝とそれを囲む雄側ボア9及び雌側ボア10とで形成される圧縮室13が膨張及び収縮する。これにより、空気等の気体が吸込口14から吸入され、所定の圧力まで圧縮された後、吐出ポート15から吐出される。
【0017】
また、圧縮室13、吸込側軸受5、吐出側軸受6、及び軸封部品7に対して、スクリュー圧縮機100の外部から給液孔16、吸込側軸受給液孔17、及び吐出側軸受給液孔18を介して液体が注入される。
【0018】
図2に示す液ジェット23は、液供給機構38が理想的に噴霧展開させるメカニズムを説明する便宜上の模式図であり、実施例1の液供給機構38a(
図3),39(
図8)と、実施例1の液供給機構38b(
図9)と、実施例3の液供給機構38c(
図10)
と、実施例1の液供給機構38d(
図11)と、を総称する。
【0019】
液供給機構38は、スクリュー圧縮機100の圧縮(作動)室13内に、給液孔16から注入する液体を液ジェット23の形態で噴射して、冷却、密封、又は潤滑等の目的を達成する。すなわち、液供給機構38は、液ジェット23の噴射角度、到達領域、及び液滴の粒径まで、意図したとおり生成する。このような液ジェット23の微小液滴化プロセスについて、
図3、
図8~
図11を用いて後述する。これらの
図3、
図8~
図11において、矢印で液体の流れを示している。
【0020】
図3は、実施例1の液供給機構38aの構造と、それによる液ジェット23(
図2)の微小液滴化プロセスを示す拡大断面図である。
図3に示すように、実施例1のスクリュー圧縮室内噴霧装置(本装置)を主要構成する液供給機構38aは、噴射ノズル44aと、旋回流路42aと、導入流路41aと、液バッファ空間(以下、単に「バッファ空間」という)46aと、を備える。なお、噴射ノズル44a、旋回流路42a、導入流路41a、及びバッファ空間46aは、実施例1~実施例4その他の区別に応じて符号44a~44d,42a,42b,41a,41b,46a~46dといった区別をするが、区別の必要が無ければ、符号44,42,41,46でそれぞれを総称する。
【0021】
噴射ノズル44aは、圧縮室13内に噴射口45aを開口して液体を噴射する。旋回流路42aは、噴射ノズル44aに供給される液体に旋回流を発生させる。噴射口45aから噴射された直後の液体は、柱状、又は傘状液膜47aといった塊であり、微細化されておらず、熱交換に必要な表面積が確保されていない。噴射された直後の液体に対し、噴射ノズル44aの内部で旋回中であった液体は、噴射口45aから旋回しながら噴射されるので、遠ざかるほど扇状又は漏斗状に拡散する。
【0022】
このように噴射直後の液体を放射状に拡散させながら微粒化するために必要な移動距離として、奥行Hを確保された空間をバッファ空間46と呼ぶ。すなわち、バッファ空間46は、噴射口45から圧縮室13内に噴射された液体が霧状化できる奥行Hを有する。
【0023】
このように放射状に拡散する液体は、スクリューロータ1の表面や圧縮室13の内壁に到達するまで、奥行Hの距離を移動する間に、柱状、又は傘状液膜47aといった塊から液糸48a及び微細液滴49へと順次に微粒化する。なお、傘状液膜47、及び液糸48にも形状の違いを示すために、符号47a,47b,48a,48bといった区別をするが、区別の必要が無ければ、符号47,48でそれぞれを総称する。
【0024】
また、噴射ノズル44のノズル中心軸を通るように仮想した何れかの断面で視認される断面形状は、噴射口45の縁部がノズル中心軸に対して非対称である。非対称な扇型とは、完全対称に開く扇型に対し、一方側の半径が他方側の半径よりも大きく形成されている。
【0025】
図2に示す雄雌のスクリューロータ1がケーシング4の内壁との間に形成する空間が非対称な形状であり、そのような空間内に均一に噴霧するために、圧縮側カスプ12の近傍で雄側ボア9にバッファ空間46が設けられている。
【0026】
その最奥に配設された噴射口45から噴射された液体は、非対称な扇型に形成されたバッファ空間46を経て圧縮室13に拡散するまでの間に微細液滴49に微粒化して霧状化される。
【0027】
本装置のバッファ空間46は、噴射された液体を霧状化させるために必要な奥行Hを有する。すなわち、噴射ノズル44の噴射口45から、液体が液柱や液膜の状態で供給されると、直接にスクリューロータ1に衝突する以前に所定広さのバッファ空間46内で、柱状、又は傘状液膜47といった塊から液糸48及び微細液滴49となり、圧縮室(作動室)13内で均一に噴霧させることが可能である。
【0028】
その結果、表面積の大きな微細液滴49との熱交換により、対象流体の冷却効果が向上するほか、スクリューロータ1や圧縮室13の内壁の表面に均一に被膜形成することによる潤滑作用によりシール機能の目的も達成できる。
【0029】
図3では、
図4に示すように旋回流路に液導入流路が1か所に設けられているが、
図6の旋回流路と
図7の液導入流路を設けることにより、より安定な旋回流を形成することが可能となる。なお、
図3のバッファ空間46aの中で、液が液膜47から微
細液滴
49への遷移が完了することが望ましく、そのためには、噴射ノズルの直径Dとバッファ空間46aの奥行Hの関係が、H/D≧2となることが望ましい。
【0030】
このように、バッファ空間46は、噴射口45から圧縮室13内に噴射された液体が霧状化できるだけの奥行Hを有するものと定義した。逆に霧状化できない条件として、不図示の狭いバッファ空間において、直径Dと奥行Hとの関係がH/D<2であれば、噴射口45から噴出された液体が霧状の微細液滴49になる以前に、狭い空間の内面に衝突して不均一に付着するので、上述した目的を達成できない。
【0031】
このような原因により、特許文献1や特許文献2に記載の従来技術では、液噴射ノズルの噴射口のバッファ空間が狭いために、液が液柱や液膜の状態でガス圧縮室内に供給されるため、熱交換による圧縮ガスの冷却が不十分であった。また、液柱(特許文献2の場合)や液膜(特許文献1の場合)が直接にスクリューロータ1の表面に衝突してしまい、微細液滴をガス圧縮室内に均一に噴霧させることが不十分であった。
【0032】
これらの従来技術に対し、実施例1の本装置では、噴射ノズル44aの噴射口45aに液体噴射用のバッファ空間46aを設けることで、液を微細液滴化してからガス圧縮室13(
図1,
図2)に供給することが可能となった。さらに、実施例1の本装置は、噴射ノズル44のノズル中心軸を通るように仮想した何れかの断面において、断面形状を視認すると、噴射口45の縁部がノズル中心軸に対して非対称である。実施例1の本装置は、このようにしたことで、液ジェット23(
図2)の形状を適切に制御することが可能である。
【0033】
また、実施例1の本装置は、
図2に示すように、液が噴射されるガス圧縮室13の形状は左右対称とは限らない。そのように非対称で平坦でもない形状の圧縮側カスプ12近辺に取り付けられる噴射ノズル44の位置に応じて、液ジェット23の形状を適切に制御する必要がある。実施例1の本装置は、その課題も解決すべく、噴射口45の縁部がノズル中心軸に対して非対称にした。このように、実施例1の本装置は、ノズル高さを左右で異なるようにすることで、液ジェット23の形状を適切に制御できて好結果が得られた。
【0034】
一方、
図3に示す噴射ノズル内旋回流(以下、単に「旋回流」という)43で生じる遠心力により、噴射ノズル44aの噴射口45aでは、ノズル高さが低いところから、傘状の液膜47aが形成されるため、液ジェット23(
図2)の形状は、左右非対称な形状に形成される。旋回流路42aで生成された旋回流43は、噴射ノズル44aを通過後、噴射ノズル噴射口45aからバッファ空間46aへ噴射される。
【0035】
噴射された液は、まず傘状の液膜47aを形成し、液膜の先端が糸状の液糸48aに分裂し、その後、液糸48aが液滴49へと分裂して微細液滴49が生成される。
図3に示すバッファ空間46aは、微小液滴化プロセスに必要最小限の大きさで示されているが、バッファ空間46は、より大きい方が有利であることを
図8に明示して後述する。
【0036】
つぎに、旋回流発生部の構造について、
図4~
図8を用いて説明する。
図4は、
図3のB-B線で断裁した旋回流路42aの断面図である。
図5は、
図3のC-C線で断裁した旋回流路42aへの液導入流路41aの断面図である。液体は、
図3の給液
孔16から
図5の液導入流路41aを上向き矢印のように上昇し、
図4の旋回流路42aへ入ると渦巻形状の内壁に案内されて反時計周りに回転し、噴射ノズル44
aへ入って、噴射口45aからスピン回転しながら噴出される。
【0037】
また、旋回流43をより強力に生成する旋回流路42bの変形例の構造について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は、液導入流路41bを点対称の2か所に設けた変形例に係る旋回流路42
bを
図3のB-B線相当により断裁した断面図である。
図7は、
図6の変形例に係る旋回流路に連通する液導入流路を
図3のC-C線相当により断裁した断面図である。
【0038】
図6に示すように、旋回流路42bは、噴射ノズル44の中心から点対称の2か所で巴状に、いわば「N字状」又は「逆N字状」に形成されている。このような旋回流路42bに液体を供給し、巴状の渦巻回転による旋回流43を継続させるため、
図7に示すような液導入流路41bも点対称の2か所配設されている。いうまでもなく、
図6の旋回流路42bの方が、
図4の旋回流路42aよりも強力な旋回流
43を発生させる。
【0039】
ここで、
図8を用いて、液の微細液滴化プロセスをより詳細に説明する。
図8は、
図3用いて上述した微小液滴化プロセスについて、旋回流による遠心力の効果を強調して説明するための拡大断面図である。
図3と同様に
図8においても、噴射ノズル44a内で形成された旋回流43により、噴射ノズル44a内の液には遠心力が付加される。この遠心力の効果により、噴射口45aから出た液は、周方向に拡散することにより中空となった傘状の液膜47bを形成する。
【0040】
図8の特徴として、旋回流による遠心力の効果が、中空となった傘状の液膜47bとして強調されている。中空となった傘状の液膜47bがちぎれると、
図3の液糸48aよりも微細な液糸48bを経て微細液滴49が生成される。
図3に示した傘状が中実の液膜47a
に対し、
図8において、中空の傘状に広がる円錐形の液膜47bの外周先端部は、他の物体に衝突するまでの距離や時間が長いほど、液糸48
bが細長く伸びる。
図8の特徴として、そのように液糸48
bの延線伸びが長いほど、微細液滴49の粒径も微細化する。
【0041】
以上のように、実施例1の本装置により、圧縮ガスの冷却や、スクリューロータ2,3間の隙間や、スクリューロータ1とケーシング4との間の隙間で生じるガス漏れ低減を図ることが可能となる。実施例1の本装置では、液噴射ノズル44から出る液体を微小液滴化してガス圧縮室13内に供給するため、熱交換による圧縮ガスの冷却が改善され、また微細液滴をガス圧縮室13内に均一に噴霧させることが可能となる。
【実施例2】
【0042】
図9を用いて、実施例2に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置(実施例2の本装置)について説明する。
図9は、実施例2の本装置の構造と、それによる液ジェット23(
図2)の微小液滴化プロセスを示す拡大断面図である。実施例2の本装置では、V字断面形状をしたバッファ空間46bに対して、噴射ノズル44bの噴射口45bが、V字を下方から見てその先端を跨ぐように設けられている。これにより、ノズル噴射口高さが左右非対称となり、バッファ空間46bの形状と相まって、液ジェット23を所望どおりの適切な形状に制御して展開することが可能となる。
【実施例3】
【0043】
図10を用いて、実施例3に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置(実施例3の本装置)について説明する。
図10は、実施例3の本装置の構造と、それによる液ジェット23(
図2)の微小液滴化プロセスを示す拡大断面図である。実施例3の本装置では、バッファ空間46cの手前(図の下方)中心部を形成する部位に、左右の高さが異なる段差部が設けられた。実施例3の本装置でも噴射ノズル44cの噴射口45cの左右から噴射される傘状液膜47が非対称となり、バッファ空間46cの形状と相まって、液ジェット23を段差部の左右高さを加減するような適切な形状に制御して展開することが可能となる。
【実施例4】
【0044】
図11を用いて、実施例4に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置(実施例4の本装置)について説明する。
図11は、実施例4の本装置の構造と、それによる液ジェット23(
図2)の微小液滴化プロセスを示す拡大断面図である。実施例4の本装置は、バッファ空間46dが、その手前(図の下方)中心部から左右非対称の台形になるような断面形状に形成された。
【0045】
実施例3の本装置でも噴射ノズル44dの噴射口45dの左右から噴射される傘状液膜47が非対称となり、バッファ空間46dの形状に適合する噴霧が可能となる。以上に限らず、
図3から
図11の各実施形態を組み合わせることによっても、バッファ空間46の形状に適合する噴霧が可能となる。
【0046】
本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮室内噴霧装置(本装置)は、以下のように総括できる。
[1]本装置が適用されるスクリュー圧縮機100は、スクリューロータ1と、それらスクリューロータ1を収納するケーシング4と、そのケーシング4内に形成される圧縮室13と、を備えて構成される。そのスクリュー圧縮機100の圧縮室13内に液体を供給するための液供給機構38により、本装置が主要構成される。
【0047】
液供給機構38は、噴射ノズル44と、旋回流路42と、バッファ空間46と、を備える。噴射ノズル44は、圧縮室13内に噴射口45を開口して液体を噴射する。旋回流路42は、噴射ノズル44に供給される液体に旋回流を発生させる。噴射ノズル44の内部で旋回中であった液体は、噴射口45から旋回しながら噴射されるので、遠ざかるほど扇状又は放射状に広がる。
【0048】
本装置のバッファ空間46は、噴射された液体を霧状化させるために必要な奥行Hを有する。したがって、噴射ノズル44の噴射口45から、液体が液柱や液膜の状態で供給されると、直接にスクリューロータ1に衝突する以前に、所定広さのバッファ空間46内で、柱状、又は傘状液膜47といった塊から液糸48及び微細液滴49となる。その結果、液体は圧縮室(作動室)13内で均一に噴霧される。
【0049】
このように広がる液体は、スクリューロータ1の表面や圧縮室13の内壁に到達するまで、奥行Hの距離を移動する間に、柱状、又は傘状液膜47といった塊から液糸48及び微細液滴49へと微粒化する。
【0050】
本装置は、スクリュー圧縮機100において、対象流体に対する圧縮効率を上げるために、噴射ノズル44の取り付け位置に応じ、その噴射口45から噴射される液ジェット23の形状を適切に制御することにより、圧縮13内に微細液滴49を均一に噴霧させるものである。なお、圧縮13内における噴射口45の周囲は、スクリュー圧縮機100の構造上、線対照の扇型や放射状でなく、いびつな空間形状である。
【0051】
本装置は、いびつな空間形状の圧縮13内に微細液滴49を均一に噴霧することを可能にする。そのため、噴射ノズル44のノズル中心軸を通るように仮想した何れかの断面で視認される断面形状は、噴射口45の縁部がノズル中心軸に対して非対称である。非対称な噴射口45から噴射される液ジェット23の形状も非対称となる。例えば、非対称な扇型とは、完全対称に開く扇型に対し、一方側の半径が他方側の半径よりも大きく形成されている。
【0052】
したがって、本装置は、いびつな空間形状の圧縮13内に微細液滴49を均一に噴霧できる。その結果、本装置の微細液滴49は、表面積を大きく確保してまんべんなく熱交換する対象流体の冷却効果を向上させるほか、スクリューロータ1や圧縮室13の内壁の表面に均一に被膜形成することによる潤滑作用によりシール機能の目的も達成できる。
【0053】
[2]本装置の噴射ノズル44をそのノズル中心軸を含んだ、ある断面で視認した噴射口45の縁部は、ノズル中心軸に対して斜めに連続する。その噴射口45の形状は、円筒状の菅を斜め一直線に断裁したような状態であると良い。噴射口45の縁部を断裁する面は、圧縮室13内に形成されるバッファ空間46を形成する面が、
図2、及び
図8に示すように、ノズル中心軸に対して直交せず、斜めに交差して形成される。なお、斜めの交差線は、必ずしも一直線でなく曲線でも構わない。
【0054】
[3]本装置の噴射ノズル44をそのノズル中心軸を含んだ、ある断面で視認した噴射口45の縁部は、
図9、及び
図10に示すように、ノズル中心軸に対して不連続な段差を形成する形状でも良い。給液孔16から見たバッファ空間46の手前(図の下方)中心部を形成する面は、ノズル中心軸に対して平面でなく、V字形状部や階段状の段差部にノズル中心軸が交差して形成される。これらの形状は、生産性を考慮した加工工程による。
【0055】
[4]本装置の噴射ノズル44の直径Dとバッファ空間46の奥行Hとの関係をH/D≧2にすることが好ましい。そのように構成された本装置は、噴射された液体が良好に霧状化されるので、上述した液体噴霧の目的を効果的に達成できる。
【0056】
[5]旋回流発生部は、噴射ノズル44の上流の流路に、旋回流路42と導入流路41とそれぞれを形成する2種類の流路形成枠を積層して構成すると良い。旋回流路42は、板部材に蝸牛形状の抜き孔が穿設されたものである。また、導入流路41も、板部材に抜き孔が穿設されたものである。これらは、旋回流路42を形成する蝸牛形状の外周寄りに、導入流路41の切り欠き孔が接続されるように配置される。このように位置決めされた平板状の部品を積層する構成は、金属製品であるスクリュー圧縮機100に好適であり、生産性が良好である。
【符号の説明】
【0057】
1 スクリューロータ、2 雄ロータ、3 雌ロータ、4 ケーシング、5 吸込側軸受、6 吐出側軸受、7 軸封部品、8 モータ、9 雄側ボア、10 雌側ボア、11 吸込側カスプ、12 圧縮側カスプ(圧縮側交線)、13 圧縮室、16 給液孔、17 吸込側軸受給液孔、18 吐出側軸受給液孔、19 段差、23 液ジェット、28 吸込側端面、29 吐出側端面、38 液供給機構、41 液導入流路、42 旋回流路、43 (噴射ノズル内)旋回流、44 噴射ノズル、45 (噴射ノズルの)噴射口、46 バッファ空間、47 傘状液膜、48 液糸、49 微細液滴、100 スクリュー圧縮機