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特許7405742遺伝子操作されたグルコシルトランスフェラーゼ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】遺伝子操作されたグルコシルトランスフェラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/10 20060101AFI20231219BHJP
   C12P 19/18 20060101ALI20231219BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20231219BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20231219BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
C12P19/18
C12N15/54
C12Q1/6813 Z
C12Q1/48 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020515031
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 US2018050354
(87)【国際公開番号】W WO2019055377
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】62/557,840
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520346620
【氏名又は名称】ニュートリション・アンド・バイオサイエンシーズ・ユーエスエー・フォー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】イウゲェン・リー
(72)【発明者】
【氏名】エレン・ディー・セムケ
(72)【発明者】
【氏名】チィォン・チァン
(72)【発明者】
【氏名】ヂィェン・ピン・ライ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529096(JP,A)
【文献】特開2000-316571(JP,A)
【文献】Journal of Biological Chemistry, 2015, Vol.290, No.50, pp.30131-30141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00- 9/99
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、又はArg-741に対応する位置での少なくとも2つのアミノ酸置換を含む、非天然グルコシルトランスフェラーゼであって、
前記非天然グルコシルトランスフェラーゼが、1,3-結合を含むα-グルカンを合成し、
前記非天然グルコシルトランスフェラーゼが、
(i)前記置換位置でのみ前記非天然グルコシルトランスフェラーゼと異なる親グルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも高い前記α-グルカン収率、及び/又は(ii)前記親グルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低い前記ロイクロース収率を有し;
前記非天然グルコシルトランスフェラーゼが、
配列番号4の残基55~960と少なくとも90%同一である触媒ドメインを含み;
および
(a)前記アミノ酸残基Gln-588に対応する位置でのアミノ酸置換が、Leu、Ala、若しくはVal残基によるものである;
(b)前記アミノ酸残基Phe-607に対応する位置での前記アミノ酸置換が、Trp、Tyr、若しくはAsn残基によるものである;及び/又は
(c)前記アミノ酸残基Arg-741に対応する位置での前記アミノ酸置換が、Ser若しくはThr残基によるものである、
非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項2】
前記非天然グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及びArg-741に対応する位置でのアミノ酸置換を含む、請求項1に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項3】
前記アミノ酸残基Gln-588、Phe-607、およびArg-741に対応する位置での前記アミノ酸置換が、
(A)それぞれ、Leu、Tyr、およびSer残基によるものである;
(B)それぞれ、Leu、Trp、およびSer残基によるものである;又は
(C)それぞれ、Leu、Tyr、およびThr残基によるものである、
請求項2に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項4】
配列番号62のアミノ酸残基の、前記(A)Gln-588およびPhe-607、または(B)Phe-607およびArg-741、に対応する位置でのアミノ酸置換を含む、請求項1に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項5】
前記非天然グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Ala-510及び/又はAsp-948に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置換を更に含み:
(i)アミノ酸残基Ala-510に対応する前記位置での前記アミノ酸置換が、Asp、Glu、Ile、若しくはVal残基によるものである;及び/又は
(ii)アミノ酸残基Asp-948に対応する前記位置での前記アミノ酸置換が、Gly、Val、若しくはAla残基によるものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項6】
前記非天然グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Ser-631、Ser-710、Arg-722、及び/又はThr-877に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置換を更に含み、:
(i)前記アミノ酸残基Ser-631に対応する位置での前記アミノ酸置換が、Thr、Asp、Glu、若しくはArg残基によるものである;
(ii)前記アミノ酸残基Ser-710に対応する位置での前記アミノ酸置換が、Gly、Ala、若しくはVal残基によるものである;
(iii)前記アミノ酸残基Arg-722に対応する位置での前記アミノ酸置換が、His若しくはLys残基によるものである、及び/又は
(iv)前記アミノ酸残基Thr-877に対応する位置での前記アミノ酸置換が、Lys、His、若しくはArg残基によるものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項7】
前記非天然グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Val-1188、Met-1253、及び/又はGln-957に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置換を更に含み:
(i)前記アミノ酸残基Val-1188に対応する位置での前記アミノ酸置換が、Glu若しくはAsp残基によるものである;
(ii)前記アミノ酸残基Met-1253に対応する位置での前記アミノ酸置換が、Ile、Leu、Ala、若しくはVal残基によるものである;及び/又は
(iii)前記アミノ酸残基Gln-957に対応する位置での前記アミノ酸置換が、Pro残基によるものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項8】
前記α-グルカンが、不溶性であり、且つ少なくとも50%のα-1,3結合を含み、任意選択的に、前記α-グルカンが、少なくとも100の重量平均重合度(DPw)を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項9】
配列番号4の残基55~960と少なくとも95%同一である触媒ドメインを含む、請求項8に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項10】
配列番号4と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項8または9に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項11】
前記非天然グルコシルトランスフェラーゼが、少なくとも90%のα-1,3-結合を有する不溶性α-1,3-グルカンを合成する、請求項1~10のいずれか一項に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであって、1つ以上の調節配列が、前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されている、ポリヌクレオチド。
【請求項13】
前記1つ以上の調節配列が、プロモーター配列を含む、請求項12に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
水、スクロース、及び請求項1~11のいずれか一項に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼを含む反応組成物。
【請求項15】
α-グルカンを生成する方法であって、
(a)少なくとも水、スクロース、及び請求項1~11のいずれか一項に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼを接触させ、それにより、α-グルカンを生成させること;および
(b)任意選択的に、工程(a)で生成された前記α-グルカンを単離すること、を含む、方法。
【請求項16】
非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドをスクリーニングする方法であって、前記方法が、
(a)(i)配列番号4又は配列番号4の55~960位と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ(ii)1,3-結合を含むα-グルカンを合成する、親グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を選択すること;ならびに(b)工程(a)で選択された前記ポリヌクレオチド配列を改変して、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、又はArg-741に対応する位置で前記親グルコシルトランスフェラーゼのうちの少なくとも2つのアミノ酸を置換し、それにより、
(i)前記親グルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも高い前記α-グルカン収率、及び/又は
(ii)前記親グルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低い前記ロイクロース収率、を有する非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を提供すること、を含む、方法。
【請求項17】
前記選択工程が、
(a)in silicoで、
(b)核酸ハイブリダイゼーション工程を含む方法を用いて、
(c)タンパク質シーケンシング工程を含む方法を用いて、及び/若しくは
(d)タンパク質結合工程を含む方法を用いて、実施され、
並びに/又は前記改変工程が、
(e)in silicoで実施され、その後に前記非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードする前記ポリヌクレオチド配列の合成がおこなわれる、若しくは
(f)前記親グルコシルトランスフェラーゼをコードする前記ポリヌクレオチド配列の物理的なコピーを用いて実施される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に全体として組み込まれる、米国仮特許出願第62/557,840号(2017年9月13日に出願された)の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、酵素触媒反応の分野に含まれる。例えば、本開示は、改変されたアミノ酸配列を有するグルコシルトランスフェラーゼ酵素に関する。このような改変酵素は、例えば、向上した生成物の収率特性を有する。
【0003】
電子的に提出された配列表の参照
配列表の正式なコピーは、2018年9月11日作成の20180911_CL6613WOPCT_SequenceListing_ST25という名称のファイルにより、約406キロバイトのサイズを有するASCIIフォーマットの配列表としてEFS-Webを介して電子的に提出され、本明細書と同時に提出される。このASCIIフォーマット文献に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
多糖類を様々な用途に使用することが望まれているため、研究者らは生分解性であり、再生可能に供給される原料から経済的に製造することができる多糖類を探求してきた。このような多糖の1つは、α-1,3-グルカンであり、α-1,3-グリコシド結合を有することを特徴とする不溶性グルカンポリマーである。このポリマーは、例えば、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)から単離されたグルコシルトランスフェラーゼ酵素を使用して調製されている(非特許文献1)。また、例えば、特許文献1は、酵素的に製造されたα-1,3-グルカンから紡糸繊維を調製することを開示している。様々な他のグルカン材料も、新規又は改良された用途を開発するために研究されてきた。例えば、特許文献2は、α-1,3及びα-1,6結合の混在を有するいくつかの不溶性グルカンの酵素的合成を開示している。
【0005】
これら及び他の進展が、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を用いたグルカンポリマーの生成においてなされてきた一方、このような酵素のグルカン収率の向上に対して関心がほとんど向けられていないように見える。この技術的空白を解決するために、本明細書では、これらの酵素に高められたグルカン生成特性を付与する改変されたアミノ酸配列を有するように遺伝子操作されたグルコシルトランスフェラーゼが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7000000号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0232819号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Simpson et al.,Microbiology 141:1451-1460,1995
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態では、本開示は、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、又はArg-741に対応する位置で少なくとも2つのアミノ酸置換を含む非天然グルコシルトランスフェラーゼであって、1,3-結合を含むα-グルカンを合成し、(i)置換位置でのみ非天然グルコシルトランスフェラーゼと異なる第2のグルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも高いα-グルカン収率、及び/又は(ii)第2のグルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低いロイクロース収率を有する非天然グルコシルトランスフェラーゼに関する。
【0009】
別の実施形態では、本開示は、本開示の非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであって、任意選択的に、1つ以上の調節配列が、ヌクレオチド配列に作動可能に連結され、好ましくは、1つ以上の調節配列が、プロモーター配列を含む、ポリヌクレオチドに関する。
【0010】
別の実施形態では、本開示は、水、スクロース、及び本開示の非天然グルコシルトランスフェラーゼを含む反応組成物に関する。
【0011】
別の実施形態では、本開示は、α-グルカンを生成する方法であって、(a)少なくとも水、スクロース、及び本明細書に開示の非天然グルコシルトランスフェラーゼ酵素を接触させることであって、それにより、α-グルカンが生成される接触させることと;b)任意選択的に、工程(a)で生成されたα-グルカンを単離することと、を含む、方法に関する。
【0012】
別の実施形態では、本開示は、非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を調製する方法であって、(a)(i)配列番号4又は配列番号4の55~960位と少なくとも約40%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ(ii)1,3-結合を含むα-グルカンを合成する親グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を同定することと;(b)工程(a)で同定されたポリヌクレオチド配列を改変して、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、又はArg-741に対応する位置で親グルコシルトランスフェラーゼのうちの少なくとも2つのアミノ酸を置換し、それにより、(i)親グルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも高いα-グルカン収率、及び/又は(ii)親グルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低いロイクロース収率を有する非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を提供することと、を含む方法に関する。
【0013】
配列の簡単な説明
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
【表3】
【発明を実施するための形態】
【0017】
引用する全ての特許文献及び非特許文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0018】
別段の開示がなされていなければ、本明細書で使用される用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、参照されるもののうちの1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を包含するものとする。
【0019】
存在する場合、特に記載しない限り、全ての範囲は、包括的であり、結合可能である。例えば、「1~5」と記載されている場合、記載範囲は「1~4」、「1~3」、「1~2」、「1~2及び4~5」、「1~3及び5」などの範囲を含むと解釈されたい。
【0020】
用語「α-グルカン」、「α-グルカンポリマー」などは、本明細書では同じ意味で用いられる。α-グルカンは、α-グリコシド結合によって互いに連結されるグルコースモノマー単位を含むポリマーである。典型的な実施形態では、本明細書のα-グルカンは、少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%のα-グリコシド結合を含む。本明細書のα-グルカンポリマーの例としては、α-1,3-グルカンが挙げられる。
【0021】
用語「ポリα-1,3-グルカン」、「α-1,3-グルカン」、「α-1,3-グルカンポリマー」などは、本明細書では同じ意味で用いられる。α-1,3-グルカンは、グリコシド結合により互いに連結されるグルコースモノマー単位を含むポリマーであって、少なくとも約50%のグリコシド結合がα-1,3である。特定の実施形態におけるα-1,3-グルカンは、少なくとも90%又は95%のα-1,3グリコシド結合を含む。本明細書のα-1,3-グルカンにおける他の結合の大部分又は全ては、典型的には、α-1,6であるが、いくつかの結合はα-1,2及び/又はα-1,4であってもよい。
【0022】
用語「グリコシド結合(glycosidic linkage)」、「グリコシド結合(glycosidic bond)」、「結合」などは、本明細書では同じ意味で用いられ、炭水化物(糖)分子を別の炭水化物などの別の基に連結する共有結合を指す。本明細書で使用する場合、用語「α-1,3-グリコシド結合」は、隣接するα-D-グルコース環の1位及び3位の炭素を介してα-D-グルコース分子を相互に連結する共有結合の種類を指す。本明細書で使用する場合、用語「α-1,6-グリコシド結合」は、隣接するα-D-グルコース環の1位及び6位の炭素を介してα-D-グルコース分子を相互に連結する共有結合を指す。本明細書におけるグルカンポリマーのグリコシド結合は、「グリコシド結合」とも呼ぶことができる。本明細書では、「α-D-グルコース」は、「グルコース」と呼ばれることになる。
【0023】
本明細書のα-グルカンのグリコシド結合プロファイルは、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して決定することができる。例えば、結合プロファイルは、核磁気共鳴(NMR)分光法(例えば、13C NMR又はH NMR)を使用する方法を用いて決定することができる。使用し得るこれらの方法及び他の方法は、例えば、Food Carbohydrates:Chemistry,Physical Properties,and Applications(S.W.Cui,Ed,Chapter 3,S.W.Cui,Structural Analysis of Polysaccharides,Taylor & Francis Group LLC,Boca Raton,FL,2005)に開示されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
本明細書の大きなα-グルカンポリマーの「分子量」は、重量平均分子量(Mw)又は数平均分子量(Mn)として表すことができ、その単位はダルトン又はグラム/モルである。或いは、大きいα-グルカンポリマーの分子量は、DP(重量平均重合度)又はDP(数平均重合度)として表すことができる。オリゴ糖などのより小さいα-グルカンの分子量は、通常、「DP」(重合度)として提供され得、これは、単に、α-グルカン内に含まれるグルコースの数を指す。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるなどの、これらの分子量の測定値を算出するための様々な手法が当該技術分野で知られている。
【0025】
本明細書の用語「スクロース」は、α-1,2-グリコシド結合によって連結されたα-D-グルコース分子及びβ-D-フルクトース分子から構成される非還元二糖を指す。スクロースは、一般には砂糖として知られている。
【0026】
用語「ロイクロース」及び「D-グルコピラノシル-α(1-5)-D-フルクトピラノース」は、本明細書では同じ意味で用いられ、α-1,5グルコシル-フルクトース結合を含有する二糖を指す。
【0027】
用語「グルコシルトランスフェラーゼ」、「グルコシルトランスフェラーゼ酵素」、「GTF」、「グルカンスクラーゼ」などは、本明細書では同じ意味で用いられる。本明細書でのグルコシルトランスフェラーゼの活性は、生成物α-グルカン及びフルクトースを製造するための基質スクロースの反応を触媒する。GTF反応の他の生成物(副生成物)としては、グルコース、様々な可溶性グルコ-オリゴ糖、及びロイクロースを挙げることができる。グルコシルトランスフェラーゼ酵素の野生型形態は、一般に、(N末端からC末端の方向に)、シグナルペプチド(これは、典型的には、切断プロセスにより除かれる)、可変ドメイン、触媒ドメイン、及びグルカン結合ドメインを含有する。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼは、CAZy(Carbohydrate-Active EnZymes)データベース(Cantarel et al.,Nucleic Acids Res.37:D233-238,2009)によれば、グリコシドヒドロラーゼファミリー70(GH70)の下に分類される。
【0028】
本明細書の用語「グルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメイン」は、グルコシルトランスフェラーゼ酵素にα-グルカン合成活性を付与するグルコシルトランスフェラーゼ酵素のドメインを指す。グルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメインは、典型的には、この活性を有する任意の他のドメインの存在を必要としない。
【0029】
用語「酵素反応」、「グルコシルトランスフェラーゼ反応」、「グルカン合成反応」、「反応組成物」、「反応配合物」などは、本明細書では同じ意味で用いられ、通常、水と、スクロースと、少なくとも1種の活性グルコシルトランスフェラーゼ酵素とを最初に含み、任意選択的に他の成分も最初に含む反応を指す。グルコシルトランスフェラーゼ反応が通常開始した後に、グルコシルトランスフェラーゼ反応に更に存在し得る成分としては、フルクトース、グルコース、ロイクロース、可溶性グルコ-オリゴ糖(例えば、DP2~DP7)(これらは、使用されるグルコシルトランスフェラーゼに応じて生成物又は副生物と考えられ得る)、及び/又はDP8以上(例えば、DP100以上)の不溶性α-グルカン生成物が挙げられる。少なくとも8又は9の重合度(DP)を有するα-1,3-グルカンなどの特定のグルカン生成物は、非水溶性であるため、グルカン合成反応では溶解されず、むしろ溶液外に存在する(例えば、反応から沈殿したため)可能性があることが理解されるであろう。それは、水、スクロース、及びグルコシルトランスフェラーゼ酵素を接触させる工程が実施されるグルカン合成反応中である。本明細書で使用される用語「好適な反応条件下」は、グルコシルトランスフェラーゼ酵素活性によってスクロースからα-グルカン生成物への変換を支援する反応条件を指す。
【0030】
本明細書のいくつかの態様におけるグルコシルトランスフェラーゼ反応でのα-グルカン生成物の「収率」は、変換されたスクロースを基準とするモル収率を表す。α-グルカン生成物のモル収率は、変換されたスクロースのモルで除したα-グルカン生成物のモルに基づいて算出することができる。変換されたスクロースのモルは、以下のように算出することができる:(初期スクロースの質量-最終スクロースの質量)/スクロースの分子量[342g/mol]。このモル収率計算は、α-グルカンに対する反応の選択性の尺度であると見なすことができる。いくつかの態様では、グルコシルトランスフェラーゼ反応におけるα-グルカン生成物の「収率」は、反応のグルコシル成分を基準とすることができる。このような収率(グルコシルに基づく収率)は、次式を用いて評価することができる:
α-グルカン収率=((IS/2-(FS/2+LE/2+GL+SO))/(IS/2-FS/2))×100%。
グルコシルトランスフェラーゼ反応のフルクトース残余を評価して、該当する場合、HPLCデータが範囲外ではない(90~110%は、許容されると見なされる)ことを保証し得る。フルクトース残余は、次の式を使用して評価することができる:
フルクトース残余=((180/342×(FS+LE)+FR)/(180/342×IS))×100%。
上の2つの式では、ISは、[初期のスクロース]であり、FSは、[最終のスクロース]であり、LEは、[ロイクロース]であり、GLは、[グルコース]であり、SOは、[可溶性オリゴマー](グルコ-オリゴ糖)であり、FRは、[フルクトース]である(二重括弧で示された前述の各基質/生成物の濃度は、グラム/L単位であり、例えばHPLCにより測定した際の濃度である)。
【0031】
用語「体積パーセント(percent by volume)」、「体積パーセント(volume percent)」、「vol%」、「v/v%」などは、本明細書では同じ意味で用いられる。溶液中の溶質の体積パーセントは、次式を用いて求めることができる:[(溶質の体積)/(溶液の体積)]×100%。
【0032】
用語「重量パーセント(percent by weight)」、「重量パーセンテージ(weight percentage)(wt%)」、「重量-重量パーセンテージ(%w/w)」などは、本明細書では同じ意味で用いられる。重量パーセントは、組成物、混合物、又は溶液中に含まれる質量を基準とした物質のパーセンテージを指す。
【0033】
用語「水性条件」、「水性反応条件」、「水性状況」、「水性系」などは、本明細書では同じ意味で用いられる。本明細書の水性条件は、溶媒が例えば少なくとも約60重量%水である溶液又は混合物を指す。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応は、水性条件下で実施される。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「可溶性」、「水溶性(aqueous-soluble)」、「水溶性(water-soluble)」は、本明細書において水及び/又は水溶液中に溶解する能力を有するグルカンを特徴付ける。本明細書の可溶性グルカンの例は、8未満のDPを有するα-1,3-グルカンなどの特定のオリゴ糖である。対照的に、「不溶性」、「非水溶性(aqueous-insoluble)」、「非水溶性(water-insoluble)」(などの用語)であるグルカンは、本明細書において水及び/又は水溶液中に溶解しない(又は認識できるほどに溶解しない)。任意選択的に、溶解度を決定するための条件としては、約1~85℃(例えば、20~25℃)の水/溶液温度範囲及び/又は約4~9(例えば、約6~8)のpH範囲が挙げられる。
【0035】
用語「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「核酸分子」などは、本明細書では同じ意味で用いられる。これらの用語はヌクレオチド配列などを包含する。ポリヌクレオチドは、任意選択的に、合成の、非天然の、又は改変されたヌクレオチド塩基を含有する一本鎖若しくは二本鎖のDNA若しくはRNAのポリマーであってもよい。ポリヌクレオチドは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、又はそれらの混合物のうちの1つ以上のセグメントから構成されてもよい。
【0036】
本明細書で使用する場合、用語「遺伝子」は、コード領域からRNA(RNAは、DNAポリヌクレオチド配列から転写される)を発現するDNAポリヌクレオチド配列を指し、このRNAは、メッセンジャーRNA(タンパク質をコードする)又は非タンパク質コードRNAであり得る。遺伝子は、コード領域単独を指す場合がある、又はコード領域への上流及び/若しくは下流の調節配列(例えば、プロモーター、5’非翻訳領域、3’転写ターミネーター領域)を含む場合がある。タンパク質をコードするコード領域は、或いは、本明細書では「オープンリーディングフレーム」(ORF)と呼ぶことができる。「天然の」又は「内在性の」遺伝子は、それ自体の調節配列とともに天然に見出されたままの遺伝子を指し;そのような遺伝子は宿主細胞のゲノムの本来の場所に位置する。「キメラ」遺伝子は、天然には一緒に見出されることがない(すなわち、調節領域及びコード領域は互いに非相同である)調節配列及びコード配列を含む、天然遺伝子でない任意の遺伝子を指す。したがって、キメラ遺伝子は、異なる起源に由来する調節配列及びコード配列、又は同一起源に由来するが、天然に見出されるものと異なる方法で配列された調節配列及びコード配列を含む可能性がある。「外来」又は「異種」遺伝子は、遺伝子導入によって宿主生物内に導入される遺伝子を指す可能性がある。外来/異種遺伝子は、非天然生物に挿入された天然遺伝子、天然宿主内の新規な場所に導入された天然遺伝子又はキメラ遺伝子を含む可能性がある。本明細書に開示される特定の実施形態におけるポリヌクレオチド配列は、異種である。「導入遺伝子」は、遺伝子導入手順(例えば、形質転換)によりゲノムに導入された遺伝子である。「コドン最適化」オープンリーディングフレームは、宿主細胞の好ましいコドン使用頻度を模倣するよう設計されたコドン使用頻度を有する。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」は、通常、定義された配列を有するアミノ酸残基の鎖と定義される。本明細書で使用する場合、ポリペプチドという用語は、用語「ペプチド」及び「タンパク質」と互換可能である。本明細書のポリペプチドに含有される典型的なアミノ酸としては(括弧書きで示されるそれぞれの3文字及び1文字コード)、アラニン(Ala、A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン酸(Glu、E)、グルタミン(Gln、Q)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リジン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)、バリン(Val、V)が挙げられる。
【0038】
用語「異種」は、天然には対象位置に見出されないことを意味する。例えば、異種遺伝子は、天然には宿主生物内に見出されないが、遺伝子移入によって宿主生物中に導入される遺伝子であり得る。別の例として、キメラ遺伝子中に存在する核酸分子は、そのような核酸分子がキメラ遺伝子の他のセグメントと自然には関連しないため、異種として特徴付けることができる(例えば、プロモーターは、コード配列に対して異種であり得る)。
【0039】
本明細書中の細胞又は生物に含まれる「非天然」のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列は、そのような細胞又は生物の天然の(自然の)対応物に存在しない。このようなアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列は、細胞又は生物に対して異種であると言うこともできる。
【0040】
本明細書で使用する場合、「調節配列」は、遺伝子の転写開始部位の上流に位置するヌクレオチド配列(例えば、プロモーター)、5’非翻訳領域、イントロン及び3’非コード領域を指し、遺伝子から転写されるRNAの翻訳、プロセシング若しくは安定性及び/又は翻訳に影響を及ぼす可能性がある。本明細書の調節配列は、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、5’非翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位、ステムループ構造及び遺伝子発現の調節に関連する他の要素を含む可能性がある。本明細書の1つ以上の調節要素は、本明細書のコード領域に対して異種であってもよい。
【0041】
本明細書中で使用する「プロモーター」は、遺伝子からのRNAの転写を制御することができるDNA配列を指す。一般に、プロモーター配列は、遺伝子の転写開始部位の上流にある。プロモーターは、その全体が天然遺伝子に由来してよい、又は自然界で見出される様々なプロモーターに由来する様々な要素から構成されてよい、又は更には合成DNAセグメントを含んでもよい。あらゆる状況下のほとんどの時点で遺伝子が細胞内で発現することを誘発するプロモーターは、一般に「構成的プロモーター」と呼ばれる。或いは、プロモーターは、誘導可能であってもよい。本明細書の1つ以上のプロモーターは、本明細書のコード領域にとって異種であってもよい。
【0042】
本明細書で使用する場合、「強力なプロモーター」は、単位時間当たり相当に多数の生成開始を指示できるプロモーター及び/又は細胞内の遺伝子の平均転写レベルよりも高いレベルの遺伝子転写を駆動するプロモーターを指す。
【0043】
本明細書中で使用する場合、用語「3’非コード配列」、「転写ターミネーター」、「ターミネーター」などは、コード配列の下流に位置するDNA配列を指す。これには、ポリアデニル化認識配列、及びmRNAプロセシング又は遺伝子発現に影響を及ぼすことができる調節シグナルをコードする他の配列が含まれる。
【0044】
本明細書で使用する場合、第1核酸配列は、第1核酸配列の一本鎖形が好適なアニーリング条件(例えば、温度、溶液イオン強度)下で第2核酸配列にアニーリングできる場合は第2核酸配列に「ハイブリダイズ可能」である。ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、周知であり、Sambrook J,Fritsch EF and Maniatis T,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory:,Cold Spring Harbor,NY(1989)で例証されており、この文献、特に11章及び表11.1が参照により本明細書に組み込まれる。
【0045】
用語「DNA操作技術」は、DNAポリヌクレオチド配列の配列が改変される任意の技術を指す。改変されているDNAポリヌクレオチド配列は改変のための基質自体として使用できるが、DNAポリヌクレオチド配列は特定の技術のために物理的に所有されている必要はない(例えば、コンピュータ内に保存された配列を操作技術のための基礎として使用することができる)。DNA操作技術は、より長い配列内で1つ以上のDNA配列を欠失及び/又は突然変異させるために使用することができる。DNA操作技術の例としては、組換えDNA技術(制限及びライゲーション、分子クローニング)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び合成DNA法(例えば、オリゴヌクレオチド合成及びライゲーション)が挙げられる。合成DNA技術に関して、DNA操作技術は、in silicoでDNAポリヌクレオチドを観察することと、DNAポリヌクレオチドの所望の改変(例えば、1つ以上の欠失)を決定することと、所望の改変を含有するDNAポリヌクレオチドを合成することと、を必要とする可能性がある。
【0046】
本明細書の用語「in silico」は、例えばコンピュータなどの情報記憶及び/又はプロセシング装置内及び上で;コンピュータソフトウェア又はシミュレーションを使用して実施又は生成されること、すなわちバーチャルリアリティを意味する。
【0047】
ポリヌクレオチドに関して本明細書で使用する用語「上流」及び「下流」は、それぞれ、「5’」及び「3’」を指す。
【0048】
本明細書で使用する場合、用語「発現」は、(i)コード領域からのRNA(例えば、mRNA又は非タンパク質コーディングRNA)の転写、及び/又は(ii)mRNAからのポリペプチドの翻訳を指す。ポリヌクレオチド配列のコード領域の発現は、特定の実施形態では、上方制御又は下方制御することができる。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「作動可能に連結された」は、一方の機能が他方の機能によって影響されるような2つ以上の核酸配列の会合を指す。例えば、プロモーターは、コード配列の発現に影響を及ぼすことができる場合、コード配列と作動可能に連結されている。すなわち、コード配列は、プロモーターの転写調節下にある。コード配列は、例えば、1つ(例えば、プロモーター)又は複数(例えば、プロモーター及びターミネーター)の調節配列と作動可能に連結することができる。
【0050】
「組換え」という用語は、プラスミド、ベクター、又はコンストラクトなどのDNA配列を特徴付けるために本明細書で使用される場合、そうしなければ配列の2つの別々のセグメントであったものを、例えば化学合成により、及び/又は核酸の分離したセグメントを遺伝子工学技術で操作することにより人工的に組み合わせることを指す。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「形質転換」は、任意の方法によって核酸分子を宿主生物又は宿主細胞に移すことを指す。生物/細胞中に形質転換された核酸分子は、生物/細胞中で自律的に複製するか、又は生物/細胞のゲノム中に組み込まれるか、又は複製若しくは組み込みなしに細胞中に一過的に存在するものであってもよい。例えばプラスミド及び直鎖状DNA分子などの、形質転換のために好適な核酸分子の非限定的な例は、本明細書に開示されている。形質転換核酸配列を含有する本明細書に記載の宿主生物/細胞は、例えば、「トランスジェニック」、「組換え」、「形質転換された」、「遺伝子操作された」、「形質転換体」及び/又は「外因性遺伝子発現のために改変された」と称することができる。
【0052】
ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列に関して本明細書で使用する用語「配列同一性」、「同一性」などは、特定の比較ウィンドウにわたって最高一致のために整列させたときに同一である、2つの配列内の核酸残基又はアミノ酸残基を指す。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」、「同一性パーセント」などは、比較ウィンドウにわたって2つの最適に整列された配列を比較することによって決定される数値を指すが、このとき、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の部分は、2つの配列の最適整列のための参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加又は欠失(すなわちギャップ)を含む可能性がある。パーセンテージは、両方の配列内で同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が発生する位置の数を決定して、マッチした位置の数を得、そのマッチした位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で除し、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。DNA配列とRNA配列との間の配列同一性を算出するとき、DNA配列のT残基は、RNA配列のU残基と合致し、したがってRNA配列のU残基と「同一である」と見なし得ることは理解されるであろう。第1及び第2のポリヌクレオチドの「相補性パーセント」を決定するために、例えば、(i)第1ポリヌクレオチドと第2ポリヌクレオチドの相補配列(又はその逆)間の同一性パーセント、及び/又は(ii)標準的なワトソン・クリック塩基対を作り出すであろう第1及び第2ポリヌクレオチド間の塩基のパーセンテージを決定することによってそれを得ることができる。
【0053】
同一性パーセントは、全てが参照により本明細書に組み込まれる:1)Computational Molecular Biology(Lesk,A.M.,Ed.)Oxford University:NY(1988);2)Biocomputing:Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.,Ed.)Academic:NY(1993);3)Computer Analysis of Sequence Data,Part I(Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,Eds.)Humana:NJ(1994);4)Sequence Analysis in Molecular Biology(von Heinje,G.,Ed.)Academic(1987);及び、5)Sequence Analysis Primer (Gribskov,M.and Devereux,J.,Eds.)Stockton:NY(1991)に記載されるものを含むが、これらに限定されない任意の公知の方法によって容易に決定することができる。
【0054】
同一性パーセントを決定する好ましい方法は、試験する配列同士の最良の一致を付与するように設計される。同一性及び類似性を決定する方法は、例えば、公的に入手可能なコンピュータプログラムにコード化されている。配列アラインメント及び同一性パーセントの算出は、例えば、LASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMEGALIGNプログラム(DNASTAR Inc.,Madison,WI)を用いて実施することができる。配列の多重アラインメントは、例えば、Clustal Vアラインメント法を含む、様々な種類のアルゴリズムを包含するClustalアラインメント法(Higgins and Sharp,5:151-153(1989);Higgins,D.G.et al.,Comput.Appl.Biosci.,8:189-191(1992)により記載され、また、LASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMEGALIGN v8.0 プログラム(DNASTAR Inc.)に見出される)を用いて行うことができる。多重アラインメントの場合、デフォルト値はGAP PENALTY=10及びGAP LENGTH PENALTY=10に対応し得る。Clustal法を使用したタンパク質配列のペアワイズアラインメント及び同一性パーセントの計算のためのデフォルトパラメータは、KTUPLE=1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5及びDIAGONALS SAVED=5であり得る。核酸の場合には、これらのパラメータは、KTUPLE=2、GAP PENALTY=5、WINDOW=4及びDIAGONALS SAVED=4であり得る。更に、Clustal Wアラインメント法を使用することができ(Higgins and Sharp,CABIOS.5:151-153(1989);Higgins,D.G.et al.,Comput.Appl.Biosci.8:189-191(1992);Thompson,J.D.et al,Nucleic Acids Research,22(22):4673-4680,1994によって記載されている)、LASERGENEバイオインフォマティクス計算スイートのMEGALIGN v8.0 プログラム(DNASTAR Inc.)で見出すことができる。多重アラインメント(タンパク質/核酸)のデフォルトパラメータは、GAP PENALTY=10/15、GAP LENGTH PENALTY=0.2/6.66、Delay Divergen Seqs(%)=30/30、DNA Transition Weight=0.5、Protein Weight Matrix=Gonnet Series、DNA Weight Matrix=IUBであり得る。
【0055】
本明細書には、様々なポリペプチドアミノ酸配列及びポリヌクレオチド配列が特定の実施形態の特徴として開示されている。本明細書に開示した配列と少なくとも約70~85%、85~90%、又は90%~95%同一であるこれらの配列のバリアントを、使用又は参照することができる。或いは、バリアントアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列は、本明細書に開示した配列と少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有し得る。バリアントアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列は、開示した配列と同一の機能/活性、又は開示した配列の少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の機能/活性を有する。メチオニンで始まらない、本明細書に開示した任意のポリペプチドアミノ酸配列は、典型的には、アミノ酸配列のN末端に少なくとも開始メチオニンを更に含むことができる。対照的に、メチオニンで始まる本明細書に開示した任意のポリペプチドアミノ酸配列は、このようなメチオニン残基を任意選択的に欠失し得る。
【0056】
用語「~と整列する」、「~に対応する」などは、本明細書において同じ意味で用いられ得る。本明細書のいくつかの実施形態は、配列番号62の少なくとも1つの特定のアミノ酸残基に対応する位置で少なくとも1つのアミノ酸置換を含むグルコシルトランスフェラーゼに関する。(1)クエリ配列が対象配列と整列し得る場合(例えば、この場合、アラインメントは、クエリ配列及び対象配列[又は対象配列の部分配列]が少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%同一であることを示す)並びに(2)クエリアミノ酸位置が(1)のアラインメントにおいて対象アミノ酸位置と一直線に整列する(一直線に一列に並ぶ)場合、グルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸位置又はその部分配列は、(例えば、触媒ドメイン又は触媒ドメインに加えてグルカン結合ドメイン)(このようなアミノ酸位置又は配列を「クエリ」位置又は配列と呼ぶことができる)、配列番号62の特定のアミノ酸残基(そのようなアミノ酸位置又は配列を「対象」位置又は配列と呼ぶことができる)に対応するように特徴付けることができる。一般に、開示された本明細書に記載される任意のアラインメントアルゴリズム、ツール及び/又はソフトウェア(例えば、BLASTP、ClustalW、ClustalV、Clustal-Omega、EMBOSS)を用いて、対象配列(配列番号62又は配列番号62の部分配列)とクエリアミノ酸配列を整列させて、同一性パーセントを決定することができる。まさにさらなる例として、European Molecular Biology Open Software Suite(EMBOSS[例えば、バージョン5.0.0以降],Rice et al.,Trends Genet.16:276-277,2000)のNeedleプログラムにおいて実行されるようなニードルマン-ヴンシュアルゴリズム(Needleman及びWunsch,J.Mol.Biol.48:443-453,1970)を使用して、クエリ配列を本明細書の対象配列と整列させることができる。このようなEMBOSSアラインメントのパラメータとは、例えば、ギャップオープンペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5、EBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換マトリックスを含み得る。
【0057】
本明細書の配列番号62の特定のアミノ酸残基のナンバリング(例えば、Leu-373、Leu-428、Ala-472、Ala-510、Leu-513、Met-529、Gln-588、Phe-607、Asn-613、Gln-616、Ser-631、Gly-633、Phe-634、Ser-710、Thr-635、Arg-722、Arg-741、Thr-877、Asp-948、Phe-951、Gln-957、Val-1188、Met-1253)は、配列番号62の全長アミノ酸配列に関する。配列番号62の最初のアミノ酸(すなわち1位、Met-1)は、シグナルペプチドの開始点である。別段の開示がなされていなければ、本明細書の置換は、配列番号62の全長アミノ酸配列に関する。
【0058】
本明細書の用語「非天然グルコシルトランスフェラーゼ」(「変異体」、「バリアント」、「改変された」などは、このようなグルコシルトランスフェラーゼを記載するために同様に用いられる)は、配列番号62の特定のアミノ酸残基に対応する位置で少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。このような少なくとも1つのアミノ酸置換は、典型的には、非天然グルコシルトランスフェラーゼの天然対応物(親)において同じ位置で一般に(自然に)存在するアミノ酸残基に代わるものである(すなわち、配列番号62が位置についての基準として使用されるが、本明細書のアミノ酸置換は、非天然グルコシルトランスフェラーゼの天然対応物に関する)(別の方法として、非天然グルコトランスフェラーゼの配列を配列番号62と整列させる場合、特定の位置での置換が存在するかどうかを決定することは、それ自体、配列番号62におけるそれぞれのアミノ酸残基に依存せず、むしろ、非天然グルコシルトランスフェラーゼの天然対応物内の対象位置に存在するアミノ酸に依存する)。天然対応物のグルコシルトランスフェラーゼにおいて関連した位置で一般に存在するアミノ酸は、アラインメントがなされる配列番号62の特定のアミノ酸残基と同じである(又は保存されている)ことが多い。非天然グルコシルトランスフェラーゼは、任意選択的に、その天然対応物配列に対して他のアミノ酸変化(変異、欠失、及び/又は挿入)を有し得る。
【0059】
本明細書の置換/アラインメントを説明することは、有益であり得る。配列番号12(GTF0544)は、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)のグルコシルトランスフェラーゼのトランケート型である。配列番号12のLeu-193は、配列番号62のLeu-373に対応することに留意されたい(アラインメントは示さず)。例えば、配列番号12が、193位で変異されて、Leu残基を異なる残基(例えば、Gln)で置換する場合、配列番号12の193位で変異したバージョンは、配列番号62のLeu-373に対応する位置でアミノ酸置換を有する非天然グルコシルトランスフェラーゼに相当すると言うことができる。
【0060】
用語「単離された」は、天然に存在しない形態又は環境にある物質(又はプロセス)を意味する。単離された物質の非限定的例としては、(1)天然に存在しない任意の物質(例えば、本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼ)、(2)限定されないが、自然界では結合している天然に存在する成分の1つ以上若しくは全部から少なくとも部分的に取り出される任意の宿主細胞、酵素、バリアント、核酸、タンパク質、ペプチド、補因子若しくは炭水化物/糖などの任意の物質;(3)天然に見出される物質に対して人の手により改変された任意の物質(例えば、本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼ);又は(4)その物質の量を、それが自然に結合している他の成分に対して増加させることによって修飾された任意の物質が挙げられる。本明細書に開示される実施形態(例えば、酵素及び反応組成物)は、合成物/人工物であり、及び/又は天然に存在しない特性を有すると考えられる。
【0061】
本明細書で使用される「増加した」という用語は、増加した量又は活性が比較される量又は活性より少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、50%、100%、又は200%多い量又は活性を指すことができる。用語「増加した」、「上昇した」、「高められた」、「より多い」、「向上した」などは、本明細書では同じ意味で用いられる。これらの用語は、例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチドの「過剰発現」又は「上方制御」を特徴付けるために使用することができる。
【0062】
グルコシルトランスフェラーゼ酵素を用いたグルカンポリマーの生成において進展がなされてきた一方、このような酵素のグルカン収率の向上に対して関心がほとんど向けられていないように見える。この技術的空白を解決するために、本明細書では、これらの酵素に高められたグルカン生成特性を付与する改変されたアミノ酸配列を有するように遺伝子操作されたグルコシルトランスフェラーゼが開示される。
【0063】
本開示の特定の実施形態は、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で、少なくとも2つ又は3つのアミノ酸置換を含む非天然グルコシルトランスフェラーゼであって、1,3-結合を含むα-グルカンを合成し、
(i)置換位置でのみ非天然グルコシルトランスフェラーゼと異なる第2のグルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも高いα-グルカン収率、及び/又は
(ii)第2のグルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低いロイクロース収率
を有する非天然グルコシルトランスフェラーゼに関する。
【0064】
したがって、概して、より多量のα-グルカンを合成することができ、及び/又は主な目的がα-グルカン合成である場合に望ましくないと見なされることが多い副産物であるロイクロースの収率を低くすることができる、変異体グルコシルトランスフェラーゼ酵素が本明細書で開示される。
【0065】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、1,3-結合を含むα-グルカンを合成する。いくつかの態様では、このようなα-グルカンのグリコシド結合の少なくとも約30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、69%、70%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、又は100%は、α-1,3結合であり得る。α-グルカンの結合プロファイルは、任意選択的に、これらの値のいずれか2つの間の範囲を有するものとして特徴付けることができる。例えば、30%~99%のα-1,3結合を有するこれらの態様のいずれかにおける他の結合は、α-1,6であり得、及び/又はα-1,4若しくはα-1,2結合のいずれも含み得ない。
【0066】
いくつかの態様におけるα-グルカンは、例えば、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、又は0.5%未満のα-1,2又はα-1,4グリコシド結合を有し得る。別の実施形態では、α-グルカンは、α-1,3、及び任意選択的にα-1,6結合のみを有する(すなわち、α-1,2又はα-1,4結合がない)。
【0067】
いくつかの態様におけるα-グルカンは、直鎖/非分枝鎖(分枝点がない)であり得る。或いは、本明細書のα-グルカンでは、分枝が存在し得る。例えば、α-グルカンは、ポリマー中の結合のパーセントとして約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の分枝点を有し得る。
【0068】
特定の実施形態では、α-グルカンは、少なくとも約100のDP又はDPでの分子量を有し得る。例えば、DP又はDPは、少なくとも約100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、又は1200であり得る。α-グルカンの分子量は、任意選択的に、これらの値のいずれか2つの間の範囲(例えば、100~1200、400~1200、700~1200、100~1000、400~1000、700~1000)として表すことができる。
【0069】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼによって生成されるα-グルカンは、典型的には、非水溶性である。α-1,3-グルカンは、一般に、8又は9のDP及び上記中性(例えば、pH6~8)水性条件で不溶性である。
【0070】
前述の結合プロファイル及び/又は分子量プロファイルのいずれかを、例えば本明細書において組み合わせて、本開示の非天然グルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン生成物を適切に特徴付けることができる。いくつかの態様では、α-グルカン生成物の結合及び/又は分子量プロファイルは、全てが参照により本明細書に組み込まれる以下の刊行物:米国特許第7000000号明細書及び同第8871474号明細書;米国特許出願公開第2015/0232819号明細書のいずれかにおいて開示され得る。
【0071】
非天然グルコシルトランスフェラーゼは、例えば、非天然グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で、アミノ酸置換のうちの少なくとも2つ、又は3つ全てを含むという点を除いて、本開示のようにα-グルカンを生成することができる、以下の刊行物に開示される任意のグルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列を含み得る:米国特許第7000000号明細書及び同第8871474号明細書;並びに米国特許出願公開第2015/0232819号明細書及び同第2017/0002335号明細書(これらの全てが参照により本明細書に組み込まれる)。いくつかの態様では、このような非天然グルコシルトランスフェラーゼは、(i)前述の置換を含み、且つ(ii)前述の置換を有さないそれぞれの対応物/親グルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は99.5%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0072】
いくつかの態様では、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、(i)配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で、アミノ酸置換のうちの少なくとも2つ、又は3つ全てを含み、且つ(ii)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、26、28、30、34、若しくは59と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは99.5%同一であるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる。これらのアミノ酸配列の大部分を有するグルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン生成物に関する特定の情報が表2において提供される。
【0073】
【表4】
【0074】
いくつかの態様では、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、(i)配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で、アミノ酸置換のうちの少なくとも2つ、又は3つ全てを含み、且つ(ii)配列番号4のアミノ酸残基55~960、配列番号65の残基54~957、配列番号30の残基55~960、配列番号28の残基55~960、若しくは配列番号20の残基55~960と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは99.5%同一であるグルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含むか、又はそれからなる。このような非天然グルコシルトランスフェラーゼは、例えば、非水溶性であるα-グルカンを生成することができ、且つ少なくとも約50%(例えば、≧90%又は95%)のα-1,3結合を含み、任意選択的に、少なくとも100のDPを更に有すると考えられる。例えば、配列番号65のアミノ酸54~957位を有するグルコシルトランスフェラーゼは、100%のα-1,3結合及び少なくとも400のDPを有するα-1,3-グルカンを生成できる(データは示さず、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2017/0002335号明細書の表6を参照されたい)ことに留意されたい。配列番号65(GTF7527)、30(GTF2678)、4(GTF6855)、28(GTF2919)、及び20(GTF2765)は、各々が、それぞれの野生型対応物と比較して、シグナルペプチドドメイン及び可変ドメインの全部分又は実質的部分が欠如するグルコシルトランスフェラーゼを表すことに更に留意されたい。したがって、これらのグルコシルトランスフェラーゼ酵素の各々は、後にグルカン結合ドメインが続く触媒ドメインを有する。これらの酵素中の触媒ドメイン配列のおよその位置は次のとおりである:7527(配列番号65の残基54~957)、2678(配列番号30の残基55~960)、6855(配列番号4の残基55~960)、2919(配列番号28の残基55~960)、2765(配列番号20の残基55~960)。GTF2678、6855、2919、及び2765の(およその)触媒ドメインのアミノ酸配列は、GTF7527のおよその触媒ドメイン配列(すなわち配列番号65のアミノ酸54~957)とそれぞれ約94.9%、99.0%、95.5%、及び96.4%の同一性を有する。これらの特定のグルコシルトランスフェラーゼの各々(GTF2678、6855、2919、及び2765)は、100%のα-1,3結合及び少なくとも400のDPを有するα-1,3-グルカンを生成することができる(データは示さず、米国特許出願公開第2017/0002335号明細書の表4を参照されたい)。この活性及び前述の触媒ドメインの関連性(高い同一性パーセント)に基づいて、本明細書に開示のアミノ酸置換組み合わせを更に有する前述の触媒ドメインのうちの1つを有する本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、少なくとも約50%(例えば、≧90%又は95%)のα-1,3結合、及び少なくとも100のDPを含むα-グルカンを生成することができると考えられる。
【0075】
いくつかの態様では、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、(i)配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で、アミノ酸置換のうちの少なくとも2つ、又は3つ全てを含み、且つ(ii)配列番号62若しくは配列番号4(その開始メチオニンを有しない)若しくは配列番号4の55~960位(およその触媒ドメイン)などのその部分配列と少なくとも約40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、69%、70%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは99.5%同一であるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる。
【0076】
特定の態様における非天然グルコシルトランスフェラーゼは、触媒ドメインのみを有する必要があると考えられているが、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、より広範なアミノ酸配列内に含まれ得る。例えば、触媒ドメインは、そのC末端でグルカン結合ドメインに連結していてもよく、且つ/又はそのN末端で可変ドメイン及び/若しくはシグナルペプチドに連結していてもよい。
【0077】
非天然グルコシルトランスフェラーゼにおけるアミノ酸置換は、配列番号62における対応する位置に関して本明細書で概して開示されるが、このような置換は、代わりに、便宜的に、単に非天然グルコシルトランスフェラーゼ自体の配列におけるその位置番号に関して記載され得る。
【0078】
非天然グルコシルトランスフェラーゼのなおも更なる別の例は、本明細書に開示されるもの、並びにN末端及び/又はC末端に1~300(又はその間の任意の整数[例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50])個の残基を含むもののいずれでもあり得る。そのような追加の残基は、例えば、そのグルコシルトランスフェラーゼ酵素が由来する対応する野生型配列由来であるか、又は(N末端又はC末端での)エピトープタグ、又は(N末端での)異種シグナルペプチドなどの異種配列であってもよい。本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、典型的には、N末端シグナルペプチドを欠き、このような酵素は、任意選択的に、そのシグナルペプチドが分泌プロセス中に除去された場合、成熟したものとして特徴付けることができる。
【0079】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、例えば、細菌などの任意の微生物源に由来し得る。細菌グルコシルトランスフェラーゼの例は、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ロイコノストック(Leuconostoc)種、又はラクトバチルス(Lactobacillus)種に由来するものである。ストレプトコッカス(Streptococcus)種の例としては、S.サリバリウス(S.salivarius)、S.ソブリナス(S.sobrinus)、S.デンチロウセッティ(S.dentirousetti)、S.ダウネイ(S.downei)、S.ミュータンス(S.mutans)、S.オラリス(S.oralis)、S.ガロリティカス(S.gallolyticus)、及びS.サングイニス(S.sanguinis)が挙げられる。ロイコノストック(Leuconostoc)種の例としては、L.メセンテロイデス(L.mesenteroides)、L.アメリビオスム(L.amelibiosum)、L.アルゲンチナム(L.argentinum)、L.カルノスム(L.carnosum)、L.シトレウム(L.citreum)、L.クレモリス(L.cremoris)、L.デキストラニカム(L.dextranicum)、及びL.フルクトサム(L.fructosum)が挙げられる。ラクトバチルス(Lactobacillus)種の例としては、L.アシドフィルス(L.acidophilus)、L.デルブリュキイ(L.delbrueckii)、L.ヘルベチクス(L.helveticus)、L.サリバリウス(L.salivarius)、L.カゼイ(L.casei)、L.クルバツス(L.curvatus)、L.プランタルム(L.plantarum)、L.サケイ(L.sakei)、L.ブレビス(L.brevis)、L.ブフネリ(L.buchneri)、L.フェルメンタム(L.fermentum)、及びL.ロイテリ(L.reuteri)が挙げられる。
【0080】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、例えば、適切に遺伝子操作された微生物株の発酵によって調製することができる。大腸菌(E.coli)、バチルス属(Bacillus)株(例えば、B.サブティリス(B.subtilis))、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、並びにアスペルギルス(Aspergillus)属(例えば、A.アワモリ(A.awamori))及びトリコデルマ(Trichoderma)属(例えば、T.レーセイ(T.reesei))(例えば、Adrio及びDemain,Biomolecules 4:117-139,2014を参照されたい(この文献は、参照により本明細書に組み込まれる))などの微生物種を用いる発酵による組換え酵素の製造は、当該技術分野で周知である。非天然グルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、典型的には、酵素のための発現カセットを形成するために異種プロモーター配列と連結され、及び/又はそれに合うようにコドン最適化される。そのような発現カセットは、当該技術分野で周知の方法を使用して、好適なプラスミドに組み込まれるか、又は微生物宿主染色体中に組み込まれ得る。発現カセットは、アミノ酸をコードする配列に続いて転写ターミネーターヌクレオチド配列を含み得る。発現カセットは、プロモーター配列とグルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸コード配列との間に、グルコシルトランスフェラーゼ酵素の直接的な分泌のために設計されたシグナルペプチド(例えば、異種シグナルペプチド)をコードするヌクレオチド配列も含み得る。発酵の終わりに、細胞を適宜破壊してもよく(一般に、分泌のためのシグナルペプチドが採用されない場合)、グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、沈殿、濾過、及び/又は濃縮などの方法を使用して単離することができる。或いは、グルコシルトランスフェラーゼを含む溶解物又は抽出物を更に単離することなしに使用することができる。グルコシルトランスフェラーゼが分泌される(すなわち、それが発酵ブロス中に存在する)場合、それは、発酵ブロスから単離されたものとして、又は発酵ブロスに含まれるものとして任意選択的に使用され得る。グルコシルトランスフェラーゼ酵素の活性は、スクロースのグルカンポリマーへのその変換率を測定するなどの生化学的分析によって確認することができる。
【0081】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741のうちの少なくとも2つ、又は3つ全てに対応する位置でアミノ酸置換を含み得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Gln-588に対応する位置でのアミノ酸置換は、Leu、Ala、又はVal残基によるものであり得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Phe-607に対応する位置でのアミノ酸置換は、Trp、Tyr、又はAsn残基によるものであり得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Arg-741に対応する位置でのアミノ酸置換は、Ser又はThr残基によるものであり得る。本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼの例は、少なくとも:(A)Gln-588-Ala、Phe-607-Tyr、及びArg-741-Ser置換;(B)Gln-588-Leu、Phe-607-Trp、及びArg-741-Ser置換;又は(C)Gln-588-Leu、Phe-607-Tyr、及びArg-741-Thr置換を含む。いくつかの態様では、本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、配列番号62のアミノ酸残基(i)Gln-588及びPhe-607、(ii)Gln-588及びArg-741、又は(iii)Phe-607及びArg-741に対応する位置でのアミノ酸置換を含み得る。
【0082】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、前述の2つ又は3つのアミノ酸置換に加えて、例えば、開示されたアミノ酸置換のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、又はそれ以上を含み得る。例えば、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、配列番号62のアミノ酸残基Ala-510及び/又はAsp-948に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置換を更に含み得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Ala-510に対応する位置でのアミノ酸置換は、Asp、Glu、Ile、又はVal残基によるものであり得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Asp-948に対応する位置でのアミノ酸置換は、Gly、Val、又はAla残基によるものであり得る。本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼの例は、少なくとも:(D)Ala-510-Glu及びAsp-948-Val置換;(E)Asp-948-Ala置換;又は(F)Ala-510-Asp及びAsp-948-Gly置換(例えば、前述のA、B、又はCの置換組み合わせのいずれかに加えて)を含む。
【0083】
別の例では、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、配列番号62のアミノ酸残基Ser-631、Ser-710、Arg-722、及び/又はThr-877に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置を更に含み得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Ser-631に対応する位置でのアミノ酸置換は、Thr、Asp、Glu、又はArg残基によるものであり得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Ser-710に対応する位置でのアミノ酸置換は、Gly、Ala、又はVal残基によるものであり得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Arg-722に対応する位置でのアミノ酸置換は、His又はLys残基によるものであり得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Thr-877に対応する位置でのアミノ酸置換は、Lys、His、又はArg残基によるものであり得る。本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼの例は、少なくとも:(G)Ser-631-Thr、Ser-710-Gly、Arg-722-His、及びThr-877-Lys置換;(H)Ser-710-Ala、Arg-722-Lys、及びThr-877-Lys置換;又は(I)Ser-631-Ser、Ser-710-Gly、及びThr-877-Arg置換(前述の[i]A、B、若しくはC;又は[ii]D、E、若しくはFとともに、A、B、若しくはCの置換組み合わせに加えて)を含む。
【0084】
別の例では、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、配列番号62のアミノ酸残基Val-1188、Met-1253、及び/又はGln-957に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置を更に含み得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Val-1188に対応する位置でのアミノ酸置換は、Glu又はAsp残基によるものであり得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Met-1253に対応する位置でのアミノ酸置換は、Ile、Leu、Ala、又はVal基によるものであり得る。いくつかの態様では、配列番号62のアミノ酸Gln-957に対応する位置でのアミノ酸置換は、Pro残基によるものであり得る。本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼの例は、少なくとも:(J)Val-1188-Asp置換;(K)Met-1253-Ile置換;(L)Val-1188-Glu及びMet-1253-Ile置換;(M)Val-1188-Glu、Met-1253-Ile、及びGln-957-Pro置換;又は(N)Val-1188-Glu置換(前述の[i]A、B、又はC;[ii]D、E、又はFとともに、A、B、又はC;[iii]G、H、又はIとともに、A、B、又はC;[iv]D、E、又はFのうちの1つ、及びG、H、又はIのうちの少なくとも1つとともに、A、B、又はCの置換組み合わせに加えて)を含む。
【0085】
上記に列挙されているものに追加できる他の好適な置換としては、例えば、実施例1の表3(下記)に列挙されているようなものが挙げられ、これは(i)少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、若しくは95%減少したロイクロース生成率、及び/又は(ii)少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、145%、若しくは150%増加したグルカン収率に関する。いくつかの態様では、好適な追加の置換としては、実施例1の表3(下記)に列挙されているようなものが挙げられ、これは、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、又は80%減少したグルコース生成率に関する。いくつかの態様では、好適な追加の置換としては、実施例1の表3(下記)に列挙されているようなものが挙げられ、これは、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、又は65%減少したグルコ-オリゴ糖(オリゴマー)生成率に関する。表3に列挙された前述の置換は、列挙された配列番号62における残基位置番号に対応するものである。いくつかの態様では、1つ以上の置換は、保存的又は非保存的置換(conserved or non-conserved substitutions)であり;このような保存(又は非保存)は、例えば、非天然グルコシルトランスフェラーゼが由来する天然グルコシルトランスフェラーゼに存在するアミノ酸に関し得る。
【0086】
簡潔に例示する目的として、本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、以下(i-xix)のような位置でのアミノ酸置換の組み合わせを含み得、各置換位置は、配列番号62のアミノ酸置換のそれぞれのアミノ酸位置番号:
(i)A510、Q588、F607、R741、D948、R722、T877、M1253、及びK1277;
(ii)A510、Q588、F607、R741、D948、R722、T877、V1188、M1253、及びQ957;
(iii)A510、Q588、F607、R741、D948、T877、V1188、M1253、及びQ957;
(iv)A510、Q588、F607、R741、D948、及びM1253;
(v)A510、Q588、F607、R741、及びD948;
(vi)Q588、F607、R741、及びD948;
(vii)A510、Q588、F607、R741、D948、N628、T635、T877、M1253、F929、及びR1172;
(viii)A510、Q588、F607、R741、D948、S631、S710、R722、T877、V1188、及びM1253;
(ix)A510、Q588、F607、R741、D948、S631、S710、R722、T877、及びV1188;
(x)A510、Q588、F607、R741、D948、S631、S710、T877、V1188、及びM1253;
(xi)A510、Q588、F607、R741、及びD948;
(xii)A510、Q588、F607、R741、D948、及びV1188;
(xiii)A510、Q588、F607、R741、D948、S631、S710、及びV1188;
(xiv)A510、Q588、F607、R741、D948、S710、R722、T877、及びM1253;
(xv)A510、Q588、F607、R741、D948、S631、R722、T877、V1188、及びM1253;
(xvi)A510、Q588、F607、R741、D948、S631、T877、V1188、及びM1253;
(xvii)A510、Q588、F607、R741、D948、S631、及びV1188;
(xviii)A510、Q588、F607、R741、D948、S631、R722、T877、V1188、及びM1253;又は
(xix)A510、Q588、F607、R741、D948、V1188、及びM1253に対応する。
【0087】
実施形態i~xixのいくつかの特例例は、以下の実施例4に開示されている(表7)。したがって、いくつかの態様における非天然グルコシルトランスフェラーゼは、以下の置換(xx~xxxviii)の組み合わせのうちの1つを含み得、各置換は、配列番号62のそれぞれのアミノ酸残基:
(xx)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G/R722H/T877K/M1253I/K1277N、
(xxi)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G/R722H/T877K/V1188E/M1253I/Q957P、
(xxii)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G/T877K/V1188E/M1253I/Q957P、
(xxiii)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G/M1253I、
(xxiv)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G、
(xxv)Q588L/F607Y/R741S/D948G、
(xxvi)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G/N628D/T635A/T877K/M1253I/F929L/R1172C、
(xxvii)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G/S631T/S710G/R722H/T877K/V1188E/M1253I、
(xxviii)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G/S631T/S710G/R722H/T877K/V1188E、
(xxix)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G/S631T/S710G/T877K/V1188E/M1253I、
(xxx)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G、
(xxxi)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G/V1188E、
(xxxii)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G/S631T/S710G/V1188E、
(xxxiii)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G/S710G/R722H/T877K/M1253I、
(xxxiv)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G/S631T/R722H/T877K/V1188E/M1253I、
(xxxv)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G/S631T/T877K/V1188E/M1253I、
(xxxvi)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G/S631T/V1188E、
(xxxvii)A510D/Q588L/F607Y/R741S/D948G/S631T/R722H/T877K/V1188E/M1253I、又は
(xxxviii)A510D/Q588L/F607W/R741S/D948G/V1188E/M1253Iに対応する。
【0088】
本明細書のアミノ酸置換の組み合わせを有する非天然グルコシルトランスフェラーゼは、例えば、本明細書に開示されるような種々のグルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列のいずれかに基づき得る。簡潔に例示する目的として、このような非天然グルコシルトランスフェラーゼの例としては、本明細書に記載されるようなアミノ酸置換の組み合わせ(例えば、上記実施形態i~xxxviiiのいずれか)を有し、且つ配列番号65(任意選択的に配列番号65の開始メチオニンを有さない)、若しくは配列番号65の残基54~957、配列番号30(任意選択的に配列番号30の開始メチオニンを有さない)、若しくは配列番号30の残基55~960、配列番号4(任意選択的に配列番号4の開始メチオニンを有さない)、若しくは配列番号4の残基55~960、配列番号28(任意選択的に配列番号28の開始メチオニンを有さない)、若しくは配列番号28の残基55~960若しくは配列番号20(任意選択的に配列番号20の開始メチオニンを有さない)、若しくは配列番号20の残基55~960と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは99.5%同一であるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなるものが挙げられる。
【0089】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、(i)置換位置でのみ非天然グルコシルトランスフェラーゼと異なる第2のグルコシルトランスフェラーゼ(又は、単に「別の」グルコシルトランスフェラーゼ)(例えば、親グルコシルトランスフェラーゼ)のα-グルカン収率よりも高いα-グルカン収率、及び/又は(ii)第2のグルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低いロイクロース収率を有し得る。本明細書の第2のグルコシルトランスフェラーゼは、例えば、全て又は大部分が天然のアミノ酸配列で構成され得る。したがって、本明細書の第2のグルコシルトランスフェラーゼは、いくつかの態様において天然のグルコシルトランスフェラーゼであり得るが、それは、他の態様において予め改変されたグルコシルトランスフェラーゼであり得る(例えば、本開示の置換と異なる1つ以上の他のアミノ酸置換を有するグルコシルトランスフェラーゼ)。いくつかの実施形態では、非天然グルコシルトランスフェラーゼと比較される第2のグルコシルトランスフェラーゼは、置換位置で天然のアミノ酸残基を有する。アミノ酸残基が天然のものであるかどうかの決定は、第2のグルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列を、第2のグルコシルトランスフェラーゼが由来する天然/野生型のグルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列と比較することによってなされ得る。任意選択的に、いくつかの実施形態における非天然グルコシルトランスフェラーゼは、(副生成物の合成と比較して)α-グルカン合成に対してより高い選択性を有するものとして特徴付けることができる。
【0090】
いくつかの態様では、本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、本明細書に開示されるような第2のグルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも少なくとも約5%、10%、20%、40%、60%、80%、100%、120%、140%、160%、180%、200%、220%、240%、260%、280%、300%、320%、340%、360%、又は380%高いα-グルカン収率を有し得る。追加の又は代替的ないくつかの実施形態では、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、第2のグルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率と比較して少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%減少したロイクロース収率を有し得る。これらの判断(α-グルカン及び/又はロイクロース収率)は、本明細書に開示されるような(例えば、初期スクロース濃度、温度、pH及び/又は反応時間を考慮する)任意のグルカン合成反応/プロセスに対して、任意の好適な測定技術(例えば、HPLC又はNIR分光法)を用いてなされ得る。典型的には、本明細書における非天然グルコシルトランスフェラーゼと第2のグルコシルトランスフェラーゼとの比較は、同一又は類似の反応条件下でなされ得る。いくつかの態様におけるグルコシルトランスフェラーゼ反応の収率は、反応のグルコシル成分を基準として評価され得る。
【0091】
いくつかの実施形態では、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、可溶性グルコ-オリゴ糖収率において、第2のグルコシルトランスフェラーゼの可溶性グルコ-オリゴ糖収率と比較して少なくとも約5%、10%,15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%の減少を示し得る。いくつかの態様における可溶性グルコ-オリゴ糖は、DP2~7又はDP2~8であり得、本明細書に開示される任意の結合プロファイルを有し得る。いくつかの態様では、DPは、7以上であり、最大で10、15、20、又は25であるが、溶解を許容する結合プロファイル(例えば、90%又は95%を超えないα-1,3)を有する。
【0092】
いくつかの実施形態では、非天然グルコシルトランスフェラーゼは、グルコース収率において、第2のグルコシルトランスフェラーゼのグルコース収率と比較して少なくとも約5%、10%,15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、又は80%の減少を示し得る。
【0093】
本明細書に開示されるいくつかの実施形態は、本明細書に開示されるような非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに関する。任意選択的に、1つ以上の調節配列は、ヌクレオチド配列と作動可能に連結され、好ましくは、プロモーター配列は、調節配列として含まれる。
【0094】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドは、例えば、細胞中にヌクレオチド配列を移入するのに有用なベクター又はコンストラクトであり得る。好適なベクター/コンストラクトの例は、プラスミド、酵母人工染色体(YAC)、コスミド、ファージミド、細菌人工染色体(BAC)、ウイルス、又は線状DNA(例えば、線状PCR産物)から選択することができる。いくつかの態様におけるポリヌクレオチド配列は、細胞内に一過的(すなわちゲノムに組み込まれていない)又は安定に(すなわちゲノムに組み込まれている)存在することができる。いくつかの態様におけるポリヌクレオチド配列は、1つ以上の好適なマーカー配列(例えば、選択又は表現型マーカ-)を含み得、又はそれらを欠き得る。
【0095】
特定の実施形態におけるポリヌクレオチド配列は、非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列と作動可能に連結された1つ以上の調節配列を含み得る。例えば、非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、プロモーター配列(例えば、異種プロモーター)と作動可能な連結であり得る。プロモーター配列は、例えば、細胞中(例えば、大腸菌(E.coli)又はバチルス(Bacillus)などの細菌細胞;真菌、酵母、昆虫又は哺乳動物細胞などの真核細胞)又はin vitroタンパク質発現系での発現に好適であり得る。他の好適な調節配列の例としては、転写ターミネーター配列が挙げられる。
【0096】
本明細書のいくつかの態様は、本明細書に開示されるようなポリヌクレオチド配列を含む細胞に関し、このような細胞は、本明細書に開示される任意の型であり得る(例えば、大腸菌(E.coli)又はバチルス(Bacillus)などの細菌細胞;真菌、酵母、昆虫又は哺乳動物細胞などの真核細胞)。細胞は、任意選択的に、ポリヌクレオチド配列によりコードされる非天然グルコシルトランスフェラーゼを発現し得る。いくつかの態様では、ポリヌクレオチド配列は、細胞内に一過的(すなわちゲノムに組み込まれていない)又は安定に(すなわちゲノムに組み込まれている)存在する。
【0097】
本明細書に開示されるいくつかの実施形態は、水、スクロース、及び1種以上の本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼを含む反応組成物に関する。このような反応組成物は、少なくとも、開示されるように1,3-結合を含むα-グルカンを生成する。
【0098】
本明細書の反応組成物の温度は、所望であれば、制御される場合があり、例えば約5~50℃、20~40℃、30~40℃、20~30℃、20~25℃、20℃、25℃、30℃、35℃、又は40℃であり得る。
【0099】
本明細書の反応組成物中のスクロースの初期濃度は、例えば、約20~400g/L、75~175g/L、又は50~150g/Lであり得る。いくつかの態様では、初期スクロース濃度は、少なくとも約50、75、100、150、若しくは200g/Lであり、又は約50~600g/L、100~500g/L、50~100g/L、100~200g/L、150~450g/L、200~450g/L、若しくは250~600g/Lである。「スクロースの初期濃度」は、全ての反応成分(例えば、少なくとも水、スクロース、非天然グルコシルトランスフェラーゼ酵素)が加えられた/合わせられた直後の反応組成物におけるスクロース濃度を指す。
【0100】
特定の実施形態における反応組成物のpHは、約4.0~9.0、4.0~8.5、4.0~8.0、5.0~8.0、5.5~7.5、又は5.5~6.5であり得る。いくつかの態様では、pHは、約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、又は8.0であり得る。pHは、リン酸塩、トリス、クエン酸塩、又はこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない好適な緩衝液を添加又は混入することによって調節又は制御することができる。本明細書の反応組成物中の緩衝液濃度は、例えば、約0.1~300mM、0.1~100mM、10~100mM、10mM、20mM、又は50mMであり得る。
【0101】
反応組成物は、本明細書に開示される反応条件のうちの1つ以上を適用するに好適な任意の容器(例えば、不活性容器/コンテナ)内に入れることができる。いくつかの態様における不活性容器は、ステンレス鋼製、プラスチック製、又はガラス製(又は、これらの構成要素の2つ以上を含む)であり得、且つ特定の反応物を入れるのに好適なサイズであり得る。例えば、不活性容器の体積/容量(及び/又は本明細書の反応組成物の体積)は、約、又は少なくとも約1、10、50、100、500、1000、2500、5000、10000、12500、15000、又は20000リットルであり得る。不活性容器は、任意選択的に撹拌装置を備えることができる。
【0102】
本明細書の反応組成物は、1種、2種、又はそれ以上のグルコシルトランスフェラーゼ酵素を、例えば、まさにその酵素のうちの少なくとも1つが本明細書に開示される非天然グルコシルトランスフェラーゼである限り、含有することができる。いくつかの実施形態では、1種又2種のグルコシルトランスフェラーゼ酵素のみが反応組成物に含まれる。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応は、無細胞(例えば、細胞全体が存在しない)であり得、典型的には、無細胞(例えば、細胞全体が存在しない)である。
【0103】
反応組成物に関して本明細書に開示される(例えば、上記及び以下の実施例において)特徴のいずれも、本明細書のグルカン生成方法の適切な態様を特徴付けることができ、その逆も同様である。
【0104】
本開示は、α-グルカンを生成するための方法であって、(a)少なくとも水、スクロース、及びα-グルカンを生成する本明細書に開示される少なくとも1種の非天然グルコシルトランスフェラーゼを接触させることであって、それにより、α-グルカンが、生成される接触させることと;b)任意選択的に、工程(a)で生成されたα-グルカンを単離することと、を含む方法にも関する。任意選択的に、グルカン合成法として特徴付けることができるこのような方法の実施は、典型的には、本明細書の反応組成物を実施する場合にも実行される。
【0105】
本明細書に開示されるようなグルカン合成法は、少なくとも水、スクロース、及びα-グルカンを生成する本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼを接触させることを含む。これら及び任意選択的に他の試薬は一緒に添加することができ、又は下記で考察するような任意の順序で添加することができる。この工程は、任意選択的に、水、スクロース、及びα-グルカンを合成する非天然グルコシルトランスフェラーゼ酵素を含む反応組成物を提供することとして特徴付けることができる。本明細書の接触工程は、多くの方法において実施できる。例えば、所望の量のスクロースを最初に水に溶解させ(任意選択的に、他の成分、例えば緩衝液成分もこの調製段階で添加され得る)、その後、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を添加することができる。溶液は、静止させたままであってもよく、又は例えば撹拌若しくはオービタルシェイカーによる振盪によってかき混ぜてもよい。グルカン合成法は、バッチ、フェドバッチ、継続的な方法、又はこれらの方法の任意の変形形態によって実施され得る。
【0106】
特定の実施形態における反応の完了は、視覚的に(例えば、不溶性グルカンがもはや蓄積しない)、且つ/又は溶液中に残ったスクロース(残留スクロース)の量を測定することによって決定でき、この場合、少なくとも約90%、95%、又は99%のスクロース消費率が反応完了を指示し得る。開示したプロセスの反応は、例えば、約1時間~約2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、36、48、60、72、96、120、144、又は168時間実施され得る。
【0107】
本明細書のグルカン合成法のいくつかの態様において生成されるα-グルカンの収率は、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、又は96%であり得る。いくつかの態様における収率は、反応のグルコシル成分を基準として評価され得る。追加の又は代替的ないくつかの実施形態では、ロイクロースの収率は、約18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満であり得る。いくつかの態様におけるα-グルカン及び/又はロイクロースのそのような収率は、約16~24時間(例えば、約20時間)にわたって実施される反応において達成され、且つ/又はHPLC若しくはNIR分光法を用いて測定されるものである。
【0108】
本明細書のグルカン合成法において生成される不溶性α-グルカンは、任意選択的に単離され得る。特定の実施形態では、不溶性α-グルカン生成物の単離は、遠心分離及び/又は濾過の工程を少なくとも実施することを含む。単離は、任意選択的に、更に、α-グルカンを水若しくは他の水性液体で1回、2回、若しくはそれ以上洗浄すること、及び/又はα-グルカン生成物を乾燥させることを含み得る。
【0109】
乾燥形態で提供される、本明細書の単離されたα-グルカン生成物は、例えば、2.0、1.5、1.0、0.5、0.25、0.10、0.05、又は0.01wt%以下の水を含み得る。いくつかの態様では、α-グルカン生成物は、少なくとも1グラム(例えば、少なくとも約2.5、5、10、25、50、100、250、500、750、1000、2500、5000、7500、10000、25000、50000、又は100000g)の量で提供され、このような量は、例えば、乾燥量であり得る。
【0110】
いくつかの態様におけるグルカン合成法は、グルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性フラクション及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ反応それ自体を、α-グルコシダーゼ酵素と接触させ、グルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性フラクション中に存在する1種以上のオリゴ糖のうちの少なくとも1つのグリコシド結合を加水分解させ、それにより可溶性フラクション中の単糖含有率を増加させることを更に含み得る。本明細書の可溶性フラクションは、α-1,3-グルカンを含む不溶性フラクションからこれを分離した後又はその分離前(例えば、これが反応中及び/又は反応の完了後に形成される際)にα-グルコシダーゼと接触させてもよい(すなわち、接触工程[a]中及び/又は分離工程[b]後)。可溶性フラクションは、例えば、グルコシルトランスフェラーゼ反応の濾液又は上清であり得、典型的には、不溶性α-1,3-グルカン合成の完了後に得られる。本明細書の好適なα-グルコシダーゼの例としては、(i)配列番号68~81のいずれかと100%同一、又は少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であり、(ii)糖においてα-1,5グルコシル-フルクトース結合、α-1,3グルコシル-グルコース結合及び/又はα-1,6グルコシル-グルコース結合に対する加水分解活性を有するアミノ酸配列を含むものが挙げられる。
【0111】
前述又は下記実施例において記載されるものなど、α-グルカンを合成するための開示された条件のいずれかを、本明細書に開示される反応組成物の実施に適用することができ(逆も同様である)、及び/又は非天然グルコシルトランスフェラーゼの特徴/活性を特徴付けるために適宜使用することができる。
【0112】
本開示は、本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を調製する方法にも関する。本方法は、
(a)(i)配列番号4又は配列番号4の55~960位と少なくとも約40%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ(ii)1,3-結合を含むα-グルカンを合成する親グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を同定することと;
(b)工程(a)で同定されたポリヌクレオチド配列を改変して、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で親グルコシルトランスフェラーゼのうちの少なくとも2つ、又は3つのアミノ酸を置換し、それにより、
(i)親グルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも高いα-グルカン収率、及び/又は
(ii)親グルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低いロイクロース収率
を有する非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を提供することと、を含む。
【0113】
このような方法は、任意選択的に、ポリヌクレオチドによってコードされる非天然グルコシルトランスフェラーゼを発現する方法において、このようにして調製されるポリヌクレオチドを使用することを更に含み得る。このような発現方法は、例えば、当該技術分野で既知の任意の異種タンパク質発現法に従い得る。ポリヌクレオチドを調製する本方法は、任意選択的に、グルコシルトランスフェラーゼの生成物収率を増加させる方法として代替的に特徴付けることができる。
【0114】
本明細書の同定工程(a)は、場合によっては、親グルコシルトランスフェラーゼ酵素のアミノ酸配列を同定することを含み得る。ポリヌクレオチド配列は、親グルコシルトランスフェラーゼが同定された種において使用される遺伝暗号などの遺伝暗号(コドン)に従うこのアミノ酸配列から決定することができた。
【0115】
本明細書の親グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドの同定は、例えば、(a)in silicoで、(b)核酸ハイブリダイゼーション工程を含む方法を用いて、(c)タンパク質シーケンシング工程を含む方法を用いて、及び/又は(d)タンパク質結合工程を含む方法を用いて実施することができる。
【0116】
in silico検出に関して、コンピュータ又データベース(例えば、GENBANK、EMBL、REFSEQ、GENEPEPT、SWISS-PROT、PIR、PDBなどの公開データベース)に保存された候補となる親グルコシルトランスフェラーゼ酵素のアミノ酸配列(及び/又はこのようなグルコシルトランスフェラーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列)をin silicoで精査して、親グルコシルトランスフェラーゼについて上記で記載されたような配列同一性パーセントを有するアミノ酸配列を含むグルコシルトランスフェラーゼ酵素を同定することができる。このような精査は、例えば、上述したようなアラインメントアルゴリズム又はソフトウェア(例えば、BLASTN、BLASTP、ClustalW、ClustalV、Clustal-Omega、EMBOSS)などの当該技術分野において既知の任意の手段を使用することを含むことができよう。
【0117】
上記に開示されるような親グルコシルトランスフェラーゼの同定は、任意選択的に、核酸ハイブリダイゼーション工程を含む方法を介して実施することができる。このような方法は、例えば、DNAハイブリダイゼーション(例えば、サザンブロット、ドットブロット)、RNAハイブリダイゼーション(例えば、ノーザンブロット)、又は核酸ハイブリダイゼーション工程(例えば、全てがオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを含み得るDNAシーケンシング、PCR、RT-PCR)を有する任意の他の方法の使用を含むことができる。配列番号4又はその部分配列(例えば、配列番号4の55~960位)をコードするポリヌクレオチド配列は、例えば、このようなハイブリダイゼーションにおいてプローブとして使用することができる。ハイブリダイゼーション法を実施するための条件及びパラメータは、一般に周知であり、例えばSambrook J,Fritsch EF及びManiatis TのMolecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989);Silhavy TJ,Bennan ML及びEnquist LWのExperiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984);Greene Publishing Assoc.及びWiley-Interscienceにより出版されたAusubel FM et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Hoboken,NJ(1987);並びにInnis MA、Gelfand DH、Sninsky JJ及びWhite TJ(Editors)のPCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press,Inc.,San Diego,CA(1990)において開示される。
【0118】
上記に開示されるような親グルコシルトランスフェラーゼの同定は、任意選択的に、タンパク質シーケンシング工程を含む方法を介して実施することができる。このようなタンパク質シーケンシング工程は、例えば、N末端アミノ酸分析、C末端アミノ酸分析、エドマン分解法、又は質量分析法などの1つ以上の手法を含むことができる。
【0119】
上記に開示されるような親グルコシルトランスフェラーゼの同定は、任意選択的に、タンパク質結合工程を含む方法を介して実施することができる。このようなタンパク質結合工程は、例えば、配列番号4内(例えば、配列番号4の55~960位内)のモチーフ又はエピトープに結合する抗体を用いて実施することができる。
【0120】
工程(a)(すなわち工程[b]における改変前)で同定されたポリヌクレオチドは、いくつかの態様において、表1に開示される任意のグルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列と同一であるか、又は少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であるアミノ酸配列を含むグルコシルトランスフェラーゼをコードすることができる。このようなグルコシルトランスフェラーゼによって生成されるα-グルカンは、例えば、本明細書に開示されるものであり得る。
【0121】
本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を調製する方法は、工程(a)で同定された(親グルコシルトランスフェラーゼをコードする)ポリヌクレオチド配列を改変する工程(b)を含む。このような改変により、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で親グルコシルトランスフェラーゼのうちの少なくとも2つ又は3つのアミノ酸が置換される。このような置換から生じる(改変ポリヌクレオチド配列によってコードされる)非天然グルコシルトランスフェラーゼは、任意選択的に、本明細書において「子グルコシルトランスフェラーゼ」として特徴付けることができる。
【0122】
本明細書の親グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、例えば、配列番号4(任意選択的にその開始メチオニンを有さない)又は配列番号4の55~960位(およその触媒ドメイン)と、少なくとも約40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、69%、70%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は99.5%同一であるアミノ酸配列を含み得る。単に参照を目的として、開始メチオニンを有さない配列番号4が配列番号62の部分配列であることに留意されたい。
【0123】
工程(b)におけるポリヌクレオチドの好適な改変は、当該技術分野で既知の任意のDNA操作技術にしたがって行うことができる。改変工程(b)は、任意選択的に、in silicoで実施することができ、その後、非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列の合成が行われる。例えば、工程(a)で同定されたポリヌクレオチド配列は、好適な配列操作プログラム/ソフトウェア(例えば、VECTOR NTI、Life Technologies、Carlsbad、CA;DNAStrider;DNASTAR、Madison、WI)を用いてin silicoで操作され得る。このような仮想的な操作後、改変ポリヌクレオチド配列を、任意の好適な技術(例えば、オリゴヌクレオチドのアニーリングに基づく連結又はHughes et al.,Methods Enzymol.498:277-309(この文献は、参照により本明細書に組み込まれる)において開示される任意の技術)によって人工的に合成することができる。前述の方法論が(親グルコシルトランスフェラーゼをコードする)既存のポリヌクレオチドを有していることに必ず依存するとは考えられないことが理解されなければならない。
【0124】
改変工程(b)は、任意選択的に、工程(a)で同定された親グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列の物理的なコピーを用いて実施することができる。例として、そのようなポリヌクレオチドは、増幅された産物が本明細書の非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするような方法で設計されたプライマーを用いる、増幅のための鋳型として役立ち得る(例えば、Innis et al.,ibid.を参照されたい)。
【0125】
本方法におけるアミノ酸置換は、本明細書に開示されるようなそれらの置換の組み合わせのいずれかであり得る。本質的には、本明細書で開示されるような任意の非天然グルコシルトランスフェラーゼは、本方法によって調製されるようなポリヌクレオチドによってコードされ得、例えば、結果として、本明細書に開示されるより高いα-グルカン収率及び/又はより低いロイクロース収率プロファイルを有し得る。
【0126】
本明細書に開示される組成物及び方法の非限定的例としては、以下が挙げられる。
【0127】
1.配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で少なくとも2つ又は3つのアミノ酸置換を含む非天然グルコシルトランスフェラーゼであって、1,3-結合を含むα-グルカンを合成し、(i)置換位置でのみ非天然グルコシルトランスフェラーゼと異なる第2のグルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも高いα-グルカン収率、及び/又は(ii)第2のグルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低いロイクロース収率を有する非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0128】
2.グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及びArg-741に対応する位置でのアミノ酸置換を含む、実施形態1に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0129】
3.(i)アミノ酸残基Gln-588に対応する位置でのアミノ酸置換が、Leu、Ala、若しくはVal残基によるものである;(ii)アミノ酸残基Phe-607に対応する位置でのアミノ酸置換が、Trp、Tyr、若しくはAsn残基によるものである;及び/又は(iii)アミノ酸残基Arg-741に対応する位置でのアミノ酸置換が、Ser若しくはThr残基によるものである、実施形態1又は2に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0130】
4.グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Ala-510及び/又はAsp-948に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置換を更に含み、任意選択的に:(i)アミノ酸残基Ala-510に対応する位置でのアミノ酸置換が、Asp、Glu、Ile、若しくはVal残基によるものである;及び/又は(ii)アミノ酸残基Asp-948に対応する位置でのアミノ酸置換が、Gly、Val、若しくはAla残基によるものである、実施形態1、2、又は3に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0131】
5.グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Ser-631、Ser-710、Arg-722、及び/又はThr-877に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置換を更に含み、任意選択的に:(i)アミノ酸残基Ser-631に対応する位置でのアミノ酸置換が、Thr、Asp、Glu、若しくはArg残基によるものである;(ii)アミノ酸残基Ser-710に対応する位置でのアミノ酸置換が、Gly、Ala、若しくはVal残基によるものである;(iii)アミノ酸残基Arg-722に対応する位置でのアミノ酸置換が、His若しくはLys残基によるものである、及び/又は(iv)アミノ酸残基Thr-877に対応する位置でのアミノ酸置換が、Lys、His、若しくはArg残基によるものである、実施形態1、2、3、又は4に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0132】
6.グルコシルトランスフェラーゼが、配列番号62のアミノ酸残基Val-1188、Met-1253、及び/又はGln-957に対応する位置で、少なくとも1つのアミノ酸置換を更に含み、任意選択的に:(i)アミノ酸残基Val-1188に対応する位置でのアミノ酸置換が、Glu若しくはAsp残基によるものである;(ii)アミノ酸残基Met-1253に対応する位置でのアミノ酸置換が、Ile、Leu、Ala、若しくはVal残基によるものである;及び/又は(iii)アミノ酸残基Gln-957に対応する位置でのアミノ酸置換が、Pro残基によるものである、実施形態1、2、3、4、又は5に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0133】
7.非天然グルコシルトランスフェラーゼによって生成されるα-グルカンが、不溶性であり、且つ少なくとも約50%のα-1,3結合を含み、任意選択的に、α-グルカンが、少なくとも100の重量平均重合度(DP)を有する、実施形態1、2、3、4、5、又は6に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0134】
8.配列番号4の残基55~960、配列番号65の残基54~957、配列番号30の残基55~960、配列番号28の残基55~960、又は配列番号20の残基55~960と少なくとも約90%同一である触媒ドメインを含む、実施形態7に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0135】
9.配列番号4、配列番号65、配列番号30、配列番号28、又は配列番号20と少なくとも約90%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態7又は8に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0136】
10.非天然グルコシルトランスフェラーゼが、少なくとも約90%(又は少なくとも95%)のα-1,3-結合を有する不溶性α-1,3-グルカンを合成する、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、又は9に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0137】
11.α-グルカン収率が、第2のグルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも少なくとも約10%高い、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10に記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ。
【0138】
12.実施形態1~11のいずれか1つに記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであって、任意選択的に、1つ以上の調節配列が、ヌクレオチド配列に作動可能に連結され、好ましくは、1つ以上の調節配列が、プロモーター配列を含む、ポリヌクレオチド。
【0139】
13.水、スクロース、及び実施形態1~11のいずれか1つに記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼを含む反応組成物。
【0140】
14.α-グルカンを生成する方法であって、(a)少なくとも水、スクロース、及び実施形態1~11のいずれか1つに記載の非天然グルコシルトランスフェラーゼ酵素を接触させることであって、それにより、α-グルカンが生成される接触させることと;(b)任意選択的に、工程(a)で生成されたα-グルカンを単離することと、を含む、方法。
【0141】
15.非天然グルコシルトランスフェラーゼ(例えば、実施形態1~11のいずれか1つの)をコードするポリヌクレオチド配列を調製する方法であって、方法が、(a)(i)配列番号4又は配列番号4の55~960位と少なくとも約40%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ(ii)1,3-結合を含むα-グルカンを合成する親グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を同定することと;(b)工程(a)で同定されたポリヌクレオチド配列を改変して、配列番号62のアミノ酸残基Gln-588、Phe-607、及び/又はArg-741に対応する位置で親グルコシルトランスフェラーゼのうちの少なくとも2つ又は3つのアミノ酸を置換し、それにより、(i)親グルコシルトランスフェラーゼのα-グルカン収率よりも高いα-グルカン収率、及び/又は(ii)親グルコシルトランスフェラーゼのロイクロース収率よりも低いロイクロース収率を有する非天然グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を提供することと、を含む方法。
【0142】
16.同定工程が、(a)in silicoで、(b)核酸ハイブリダイゼーション工程を含む方法を用いて、(c)タンパク質シーケンシング工程を含む方法を用いて、及び/若しくは(d)タンパク質結合工程を含む方法を用いて実施され、並びに/又は改変工程が、(e)in silicoで、続いて非天然グルコシルトランスフェラーゼ酵素をコードするポリヌクレオチド配列を合成、若しくは(f)親グルコシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列の物理的なコピーを用いて実施される、実施形態15に記載の方法。
【実施例
【0143】
以下の実施例において、本開示の実例を更に示す。これらの実施例は、本発明の特定の好ましい態様を示しているが、単に説明の目的でのみ示されていると理解されるべきである。上述の考察及びこれらの実施例から、当業者であれば、本明細書に開示した実施形態の本質的な特徴を確認することができ、本発明の趣旨及び範囲を逸脱しない範囲で、本明細書に開示した実施形態を様々な使用及び条件に適合させるために様々な変更及び修飾を加えることができる。
【0144】
実施例1
α-グルカン合成に対するグルコシルトランスフェラーゼの選択性に影響を及ぼすアミノ酸部位の分析
本実施例は、スクロースからのα-グルカンの合成に対して向上した選択性を有するグルコシルトランスフェラーゼバリアントに関するスクリーニングについて記載する。このスクリーニングの別の目的は、ロイクロース及びグルコ-オリゴ糖などの副生成物の合成の減少を示すグルコシルトランスフェラーゼバリアントを同定することであった。これらの収率特性のいずれか又は両方を有するバリアントを同定した。
【0145】
本実施例におけるアミノ酸置換を調製するために使用されるグルコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列は、配列番号4(GTF6855)であり、これは、本質的にはストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)SK126(表1を参照されたい)由来の全長野生型グルコシルトランスフェラーゼ(配列番号62によって表される)のN末端がトランケートされた(シグナルペプチド及び可変領域が除去された)バージョンである。配列番号4においてなされる置換は、配列番号4の各アミノ酸残基/位置(配列番号4のMet-1残基を除く)が配列番号62内のアミノ酸残基/位置と適宜に対応するため、天然のアミノ酸残基に対する置換として特徴付けられ得る。少なくともスクロース及び水を含む反応において、配列番号4のグルコシルトランスフェラーゼは、典型的には、約100%のα-1,3結合及び400以上のDPを有するα-グルカンを生成する(例えば、米国特許第8871474号明細書及び同第9169506号明細書並びに米国特許出願公開第2017/0002336号明細書(これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。不溶性であるこのα-グルカン生成物は、例えば、濾過を介して酵素的合成後に単離することができる。
【0146】
本実施例を要約すると、部位評価ライブラリ(SEL)由来のGTF6855バリアント(各々が単一のアミノ酸置換を有する)は、各々細菌的に発現され、精製され、100ppmの濃度に標準化された。次に、α-1,3グルカン合成反応における基質としてスクロースを用いて各酵素調製物を(三重に)選別した。各反応において生成されるα-1,3グルカンポリマーの量を決定することに加えて、可溶性糖生成物(フルクトース、グルコース、ロイクロース、グルコ-オリゴ糖)及び各反応の残留スクロースを約20時間のインキュベーション後にHPLCによって分析した。
【0147】
バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)宿主においてGTF6855(配列番号4)の種々の単一アミノ酸置換バリアントを個別に発現するためのプラスミドを調製した。このようなプラスミドを次のとおり調製した。(5’から3’方向に作動可能に連結された)B.サブティリス(B.subtilis)aprEプロモーター、配列番号4(GTF6855)をコードするコドン最適化配列、及びBPN’ターミネーターを有するDNA発現カセットを合成した。この発現カセットを(pHYT-GTF6855を形成する)pHYT複製型シャトルベクターにクローン化し、B.サブティリス(B.subtilis)CBS12-1に形質転換した。pHYTベクターは、BstEII及びEcoRI部位を使用してテトラサイクリン耐性遺伝子の後ろにターミネーター配列(配列番号67)を加えることによりpHY300PLK(Takara)から誘導された。pHY300PLKにおけるHindIII部位は、リンカー配列(示さず)をBamHI及びHindIII部位にクローン化することにより除去された。pHYT-GTF6855プラスミドを増幅し、SELを生成するために使用した。得られた単一アミノ酸置換GTFをコードするプラスミドは、各置換を検証するために配列決定された。
【0148】
GTF6855(配列番号4)及びその単一アミノ酸置換バリアントを生成するために、pHYT-GTF6855又その変異したバージョンで個別に形質転換されたB.サブティリス(B.subtilis)をトリプトンソーヤブロス(Oxoid Ltd.,UK)及びGrant’s II培地で培養した。ハートインフュージョン寒天プレート(Difco Laboratories、MI)を使用して、形質転換体を選択した。プラスミドの完全性は、25μg/mLのテトラサイクリンの添加によって維持した。37℃での約6時間のインキュベーション後、発現の対象となった各GTFを増殖培地において検出した。遠心分離及び濾過後、発現したGTFを有する培養上清を得た。上清中に存在するGTF酵素は、洗浄された(2×MILLIQ 1×25mM NaHPO pH5.7、中間の遠心分離工程100×gを伴う)SUPERDEX 200レジン(GE Healthcare)を用いる親和性クロマトグラフィーにより、明らかに一様になるまで精製された。各GTFを、25mM NaHPO pH5.7中のデキストラン T1(Pharmacosmos)の15%溶液を用いて100×gの遠心分離によって溶出した。精製された各GTFを、Harvard Apparatusの96ウェルDISPODIALYZER(10000ダルトン MWCO)を用いて、25mM NaHPO pH5.7緩衝液(少なくとも100×)に対して透析した。
【0149】
透析後、精製されたGTF6855を標準として用いて、OD280によりGTF酵素濃度を測定した。精製された各GTFの100ppmへの標準化は、25mM NaHPO pH5.7により適切に希釈することによって達成された。各サンプルのタンパク質濃度は、AGILENT BIO SEC3ガードカラムカラム(3μm 100Å(4.6×50mm)を装着したAGILENT 1200(Agilent Technologies)HPLCを用いて確認された。5μLのサンプルを測定毎にカラムに注入した。均一濃度流の25mM KHPO pH6.8+0.1M NaClにより流速0.5mL/分で1.3分間化合物を溶出した。
【0150】
各GTF(GTF6855及びその各バリアント)をスクロースとともに反応に投入して、収率及び選択性を測定した。各反応を次のとおり実施した:37.5μLの100ppm酵素サンプル(BSA検量線に基づくppm)を20mM NaHPO/NaHPO pH5.7中の262.5μLの86g/Lスクロース(75g/L終濃度)に添加し、30℃で一晩(約20時間)インキュベートした。このインキュベーション後、各反応を80℃で1時間のインキュベーションによりクエンチした。クエンチされた各反応の一定分量200μLを、0.45μmフィルタープレート(Millipore 0.45μm 親水性)を介して真空濾過し、各濾液をHPLC糖分析のための調製物中において5倍希釈した(10μLのサンプル+40μLの20mM NaHPO/NaHPO)。
【0151】
希釈された各濾液中のスクロース濃度、グルコース濃度、フルクトース濃度、ロイクロース濃度、及び相対的なオリゴ糖濃度を、150×7.80mm PHENOMENEX REZEX RNM炭水化物Na8%カラムPHENOMENX KRUDKATCHER0.5μmガードカラムを装着したAGILENT 1200(Agilent Technologies)HPLCを用いて測定した。カラムは、10mM NaHPO/NaHPO pH6.7を用いて流速0.9mL/分の均一濃度により80℃で操作された(1サンプル当たり5分)。5μLの希釈サンプルを注入した。適切なスクロース、グルコース、フルクトース、及びロイクロースの検量線を使用して糖濃度を決定した。精製されたグルコ-オリゴ糖の混合物を使用してオリゴマー濃度を測定した。
【0152】
上記方法論により測定されるような反応(約20時間)のプロファイルが表3において提供される。
【0153】
【表5】
【0154】
【表6】
【0155】
【表7】
【0156】
【表8】
【0157】
表3のデータに基づくと、GTF6855(配列番号4)における特定の単一アミノ酸置換により、例えばグルカン合成反応において、この酵素のα-1,3-グルカン収率を増加させることができ、及び/又はそのロイクロース収率を減少させることができることは明白である。
【0158】
実施例2
他のグルコシルトランスフェラーゼにおける単一アミノ酸置換の効果の分析
本実施例は、GTF6855(配列番号4)以外のグルコシルトランスフェラーゼの活性における特定の単一アミノ酸置換の効果について記載する。概して、α-グルカン収率及び/又はロイクロース収率に著しい効果を有する実施例1において観察される置換に対応する(又は類似する)置換は、異なるグルコシルトランスフェラーゼに対して類似の効果を与えるのに有用であり得ると思われる。
【0159】
Phe-607-Tyr
実施例1は、例えば、配列番号62の607位に対応する位置でのGTF6855(配列番号4)における置換が酵素活性に影響を及ぼしたことを実証した(表3)。特に、Asn又はTrp残基によるPhe残基の置換は両方とも、非置換酵素のそれぞれの収率と比較して、α-1,3グルカン収率(増加)及びロイクロース収率(減少)に対して著しい効果を有した。
【0160】
異なるGTFにおいて類似の置換が収率に同様に影響を及ぼすことができたかを試験するために、配列番号62の607位に対応するGTF7527(GTFJ、配列番号65)の位置で置換を行い、PheをTyr残基に交換した。GTF7527(配列番号65)は、本質的にはストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)(表1を参照されたい)由来の全長野生型グルコシルトランスフェラーゼ(配列番号60によって表される)のN末端がトランケートされた(シグナルペプチド及び可変領域が除去された)バージョンである。配列番号65においてなされる置換は、配列番号65の各アミノ酸残基/位置(配列番号65のMet-1残基を除く)が配列番号60内のアミノ酸残基/位置と適宜に対応するため、天然のアミノ酸残基に対する置換として特徴付けられ得る。少なくともスクロース及び水を含む反応において、配列番号65のグルコシルトランスフェラーゼは、典型的には、約100%のα-1,3結合及び400以上のDPを有するα-グルカンを生成する(例えば、米国特許第8871474号明細書及び同第9169506号明細書並びに米国特許出願公開第2017/0002336号明細書(これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。グルカン合成反応は、GTF7527(配列番号65)又は配列番号62の607位に対応する位置でのPheからTyrへの置換を含むそのバージョンを用いて、以下のとおり準備される:容器、100rpmで撹拌される250mLのくぼみ付き振盪フラスコ;初期pH、5.5;反応容量、50mL;スクロース、100.1g/L;GTF、100U/L;KHPO4、25mM;温度、25℃;時間、20時間。二重に実行された各反応のプロファイル(実施例1において開示されるものと類似の方法論により測定される)が表4において提供される。
【0161】
【表9】
【0162】
表4のデータに基づくと、GTF7527(配列番号65)におけるF607Y置換により、例えばグルカン合成反応において、この酵素のα-1,3-グルカン収率を増加させることができ、及び/又はそのロイクロース収率を減少させることができることは明白である。
【0163】
Ala-510-Glu、Ala-510-Val、又はAla-510-Cys
実施例1は、例えば、配列番号62の510位に対応する位置でのGTF6855(配列番号4)における置換が酵素活性に影響を及ぼしたことを実証した(表3)。特に、Glu、Ile、又はVal残基によるAla残基の置換の全ては、非置換酵素のそれぞれの収率と比較して、α-1,3グルカン収率(増加)及びロイクロース収率(減少)に対して著しい効果を有した。
【0164】
異なるGTFにおいてこれら又は類似の置換が収率に同様に影響を及ぼすことができたかを試験するために、配列番号62の510位に対応するGTF2919(配列番号28)、0427(配列番号26)、5926(配列番号14)、0847(配列番号2)、0544(配列番号12)、2379(配列番号6)、5618(配列番号18)、4297(配列番号16)、1366(配列番号24)、及び6907(配列番号36)の位置で置換を行い、AlaをGlu、Val、又はCys残基に交換した。これらのGTFの各々は、本質的には、全長野生型グルコシルトランスフェラーゼ(例えば、表1に列記されるものなど、それぞれのGENBANKの注釈情報を参照されたい)のN末端がトランケートされた(シグナルペプチド及び可変領域が除去された)バージョンである。配列番号28、26、14、2、12、6、18、16、24、及び36の各々においてなされる置換は、これらの配列(各々のMet-1残基を除く)の各アミノ酸残基/位置が各々の対応する全長野生型グルコシルトランスフェラーゼ対応物内のアミノ酸残基/位置と適宜に対応するため、天然のアミノ酸残基に対する置換として特徴付けられ得る。表2は、典型的には、少なくともスクロース及び水を含む反応において配列番号28、26、14、2、12、6、18、16、24、及び36の各々によって生成されるα-グルカンを列記する。
【0165】
GTF2919(配列番号28)、0427(配列番号26)、5926(配列番号14)、0847(配列番号2)、0544(配列番号12)、2379(配列番号6)、5618(配列番号18)、4297(配列番号16)、1366(配列番号24)、若しくは6907(配列番号36)、又は配列番号62の510位に対応する位置で置換を含むそのバージョンの調製は、以下のとおり実施された。これらのGTFの各々をコードするコドン最適化(大腸菌(E.coli)用)配列を細菌発現のための好適なプラスミドに個別にクローン化した。次に、各コンストラクトを大腸菌(E.coli)BL21-AI(Invitrogen、Carlsbad、CA)に形質転換した。形質転換株を、100mg/Lのアンピシリンを含有する10mLの自動誘導培地(10g/Lトリプトン、5g/L酵母抽出物、5g/L NaCl、50mM NaHPO、50mM KHPO、25mM(NHSO、3mM MgSO、0.75%グリセロール、0.075%グルコース、0.05%アラビノース)中において37℃で20時間、200rpmの撹拌下で増殖させた。細胞を4℃にて8000rpmでの遠心分離により回収し、CelLytic(商標)Express(Sigma、St.Louise、MO)を伴う1mLの20mMリン酸ナトリウム緩衝液pH6.0中で製造業者の指示書にしたがって再懸濁した。加えて、再懸濁した細胞を1回以上の凍結融解サイクルに供し、細胞溶解を確実にした。溶解された細胞を、室温にて10分間12,000gで遠心分離した。得られた各上清をSDS-PAGEにより分析して、発現されている特定のGTF酵素の発現を確認した。各上清を、酵素活性が決定され得るまで4℃において氷上に保持し(1時間以内)、及び/又は-20℃で保存した。
【0166】
グルカン合成反応を調製し、その生成物を米国特許出願公開第2014/0087431号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)の開示に概ねしたがって分析した。各反応を24~30時間実行した。各反応のプロファイルが表5において提供される。
【0167】
【表10】
【0168】
【表11】
【0169】
表5のデータに基づくと、配列番号62の510位に対応する位置での種々のGTFにおけるいくつかの置換により、例えばグルカン合成反応において、GTFのα-グルカン収率を増加させることができ、及び/又はそのロイクロース収率を減少させることができることは明白である。
【0170】
実施例3
α-グルカン合成に対するグルコシルトランスフェラーゼの選択性における2つ以上のアミノ酸置換の効果の分析
本実施例は、グルコシルトランスフェラーゼに対する複数のアミノ酸置換の導入の効果及びα-グルカン合成に対する酵素選択性におけるそれらの効果を決定することについて記載する。
【0171】
簡潔に述べると、配列番号4(GTF6855、このグルコシルトランスフェラーゼの説明については、表1及び実施例1を参照されたい)に対して特定のアミノ酸置換を行った。これらの置換は、下の表6に列記される。各バリアント酵素を、以下と同じ又は類似のパラメータを用いてグルカン合成反応に投入した:容器、120rpmで撹拌される250mLのくぼみ付き振盪フラスコ;初期pH、5.7;反応容量、50mL;スクロース、75g/L;GTF、酵素を異種性発現する大腸菌(E.coli)細胞の1.5mLの溶解物;KHPO4、20mM;温度、30℃;時間、約20~24時間。各反応のα-1,3グルカン収率(実施例1において開示されるものと類似の方法論により測定される)が表6において提供される。
【0172】
【表12】
【0173】
表6のデータに基づくと、GTF6855(配列番号4)への複数のアミノ酸置換の導入により、この酵素のα-1,3-グルカン収率を増加させることができることが明白である。例えば、これらの収率を、表3に示される置換を有さないGTF6855(配列番号4)のものと比較されたい。表6に列記されるバリアントGTF酵素の各々は、ロイクロース、グルコース、及びグルコ-オリゴマーの収率の著しい減少も示した(データは示さず)。
【0174】
例えば、配列番号62の510位及び/又は607位に対応する位置などで複数の置換を有するGTFがGTFのα-グルカン収率を増加させることができることは明白である。
【0175】
実施例4
α-グルカン合成に対するグルコシルトランスフェラーゼの選択性における更なるアミノ酸置換組み合わせの効果の分析
本実施例は、グルコシルトランスフェラーゼに対する複数のアミノ酸置換の導入の効果及びα-グルカン合成に対する酵素選択性におけるそれらの効果を決定することについて記載する。この分析は、実施例3で上記に開示した分析を補足するものであるが、いくつかの追加のアミノ酸置換の組み合わせが、更に高いα-1,3-グルカン収率を有する改変されたグルコシルトランスフェラーゼを提供することに注目することは興味深い。
【0176】
簡潔に述べると、プラスミドに含まれる適切なDNA鋳型の部位特異的突然変異誘発により、配列番号4(GTF6855、このグルコシルトランスフェラーゼの説明については、表1及び実施例1を参照されたい)に対して特定のアミノ酸置換の組み合わせを行った。各改変されたグルコシルトランスフェラーゼをコードするプラスミド配列は、独立して、配列決定され、意図したコドン変化を確認した。置換の各組み合わせを、以下の表7に列挙する。
【0177】
改変されたグルコシルトランスフェラーゼをコードする発現プラスミドは、独立して、9つのプロテアーゼ欠失(amyE::xylRPxylAcomK-ermC、degUHy32、oppA、ΔspoIIE3501、ΔaprE、ΔnprE、Δepr、ΔispA、Δbpr、Δvpr、ΔwprA、Δmpr-ybfJ、ΔnprB)を含むB.サブティリス(B.subtilis)株を形質転換するのに使用された。5μg/mLのクロラムフェニコールを添加したLBプレート上に形質転換細胞を塗布した。これらのプレート上で増殖させたコロニーを、25μg/mLのクロラムフェニコールを含むLBプレート上に数回線状に塗布した。次いで、特定のバリアントグルコシルトランスフェラーゼを発現するための得られた各バチルス(Bacillus)株を、25μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLB培地中で6~8時間増殖させ、次いで30℃で2~3日間Grants II培地中へ継代培養した。培養物を4℃にて15,000gで30分間回転させ、上清を0.22μmフィルタで濾過した。各々が発現分泌したバリアントグルコシルトランスフェラーゼを含む、濾過した上清を、分取し、-80℃で凍結させた後、α-1,3-グルカン合成活性を分析するために使用した(以下)。
【0178】
同一量の各バリアント酵素を、活性的に、以下と同じ又は類似のパラメータを用いてグルカン合成反応に投入した:容器、ガラス撹拌棒上にテフロン(Teflon)(登録商標)刃傾斜タービン(45°角)を備え、50~200rpmで撹拌した500mLのジャケット付き反応器;初期pH、5.5;反応体積、500mL;スクロース、108g/L;KHPO、1mM;温度、39℃;時間、約18~24時間;前のα-1,3-グルカン合成反応からの濾液、50体積%。各反応のα-1,3グルカン収率(実施例1において開示されるものと類似の方法論により測定される)が表7において提供される。
【0179】
【表13】
【0180】
表7のデータに基づくと、更に、GTF6855(配列番号4)への複数のアミノ酸置換の導入により、この酵素のα-1,3-グルカン収率を増加させることができることが明白である。例えば、これらの収率を、表3に示される置換を有さないGTF6855(配列番号4)のものと比較されたい。表7に列記されるバリアントGTF酵素の各々は、ロイクロース、グルコース、及びグルコ-オリゴマーの収率の著しい減少も示した(データは示さず)。
【0181】
例えば、配列番号62の588位、607位、及び741位に対応する位置でのそれらを含む、複数の置換を有するGTFがGTFのα-グルカン収率を増加させることができることは明白である。
【配列表】
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