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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】照射方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020515166
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 AU2018051006
(87)【国際公開番号】W WO2019051557
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】2017903739
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】500461941
【氏名又は名称】オーストラリアン ニュークリア サイエンス アンド テクノロジー オーガニゼーション
(73)【特許権者】
【識別番号】509001238
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ウロンゴング
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100117422
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ミトラ サファビ-ナイーニ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー スティーブン チャコン
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0074512(US,A1)
【文献】特開2016-107047(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148269(WO,A1)
【文献】特開2016-112143(JP,A)
【文献】特表2011-523568(JP,A)
【文献】特表2000-507848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の熱中性子吸収核種を含む、照射治療に使用するための組成物であって、
前記照射治療が、
該組成物を被験者の標的組織内に又はそれに近接して供給し、
陽子、重陽子、三重陽子及び重イオンのいずれか1つ以上からなる粒子のビームを、前記標的組織内の又はそれに近接する、被験者の核に照射して、前記被験者における前記核と前記粒子との間の非弾性衝突を介して、前記被験者において中性子の生成を促進することにより、中性子を生成させることを含み、
前記中性子吸収核種が、前記非弾性衝突で生成された中性子を吸収することにより、前記標的組織に照射される捕獲生成物又は核フラグメントを生成する
前記標的組織が、腫瘍又は他の病変を含む、
成物(ただし、前記照射治療が、前記熱中性子吸収核種を、前記熱中性子吸収核種とは異なる更なる物質であって、前記被験者において、陽子のビームと反応して、前記熱中性子吸収核種とさらに相互作用する中性子を放出するように選択された更なる物質と組み合わせて供給することを含む場合を除く)
【請求項2】
前記照射治療は、前記標的組織に照射するように前記粒子のビームを構成することを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が悪性組織において優先的に吸収される請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記照射治療が、前記腫瘍又は前記他の病変に照射することを含み、
前記粒子のビームが、陽子、重陽子、三重陽子又は重イオンのビームである、
求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記粒子のビームが、前記被験者の外側にあるブラッグピークを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
被験者の腫瘍又は他の病変の成長を阻害するための組成物であって、
該組成物は、1種以上の熱中性子吸収核種を含み、
前記成長の阻害は、
前記組成物を前記腫瘍又は他の病変に与え、
前記被験者の核に陽子、重陽子、三重陽子及び重イオンのいずれか1つ以上からなる粒子のビームを照射することにより、前記被験者における前記核と前記粒子との間の非弾性衝突を介して、前記被験者において中性子を生成させることを含み、
前記中性子吸収核種が、前記非弾性衝突で生成された中性子を吸収することにより、前記腫瘍又は他の病変に照射される捕獲生成物又は核フラグメントを生成する
成物(ただし、前記成長の阻害が、前記熱中性子吸収核種を、前記熱中性子吸収核種とは異なる更なる物質であって、前記被験者において、陽子のビームと反応して、前記熱中性子吸収核種とさらに相互作用する中性子を放出するように選択された更なる物質と組み合わせて与えることを含む場合を除く)
【請求項7】
前記ビームが、陽子、He、10C、11C、12C、15O、16O、高エネルギーの陽子及び/又は重イオンを含む請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、10B及び/又は157Gd、或いは、他の大きな中性子断面積の作用剤を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、腫瘍、衛星病変、又は頭蓋内転移病変において優先的に吸収される請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記捕獲生成物又は核フラグメントが、高い相対的生物学的有効性のエネルギー荷電粒子又は他のエネルギー荷電粒子を含む請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ビームが、スポットスキャニング方式、ユニフォームスキャニング方式、高速スキャニング方式、ラスタースキャニング方式、及び/又は散乱方式でその経路に沿って物質に照射される請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記標的組織が被験者の内部にあり、且つ前記ビームが、前記被験者の外側にあるブラッグピークを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
照射システムを制御する制御システムであって、
前記照射システムは、陽子、重陽子、三重陽子及び重イオンのいずれか1つ以上を含む加速粒子の粒子ビームを提供し、
前記制御システムは、被験者の標的組織へのあらかじめ決められた照射を実現するために、照射プログラムを含むか又はそれにアクセスするように構成されており、
前記あらかじめ決められた照射は、
前記標的組織内の又はそれに近接する、被験者の核に前記粒子ビームを照射して、前記被験者における前記核と前記粒子との間の非弾性衝突を介して、前記被験者において中性子の生成を促進し、それにより、照射前に前記被験者における前記標的組織内に又はそれに近接して供給された1種以上の熱中性子吸収核種が、前記非弾性衝突で生成された中性子を吸収して、前記標的組織に照射される捕獲生成物又は核フラグメントを生成することを含む、
御システム(ただし、前記熱中性子吸収核種が、前記熱中性子吸収核種とは異なる更なる物質であって、前記被験者において、陽子のビームと反応して、前記熱中性子吸収核種とさらに相互作用する中性子を放出するように選択された更なる物質と組み合わせて供給される場合を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2017年9月14日出願のオーストラリア特許出願第2017903739号(その出願内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に基づいてその出願日及び優先日の利益を主張する。
【0002】
本発明は、生物学的物質の照射における特定の用途の照射方法及びシステムに関するが、なんら排他的なものではない。
【背景技術】
【0003】
すべての形態の放射線療法の主な目標は、周囲健常組織に損傷を与えることなく最大治療放射線量を標的に送達することである。放射線療法の最大級の課題の1つは、治療の5年後~何十年後のいずれかで起こりうる二次癌のリスクを含めて、その潜伏効果を最小限に抑えることである[1~4]。本目的は、標的体積に送達される線量のコンフォーミティーを最大化することにより、治療誘発癌の発生確率を含めて正常組織合併症確率(NTCP)を最小限に抑えることである[4、5]。放射線療法(たとえば、強度変調放射線療法、画像ガイド放射線療法、及び粒子線療法)の技術の進歩のおかげで、放射線増感剤の使用により健常組織と比べて治療線量の局所生物学的効能を増加させつつ、より正確且つ選択的に腫瘍を標的とすることが可能になってきた[6、7]。
【0004】
粒子線(又は「ハドロン線」)療法は、治療領域に治療放射線量を送達するために高エネルギーの陽子又は重イオンのビームを使用する放射線療法の一形態である。陽子及び重イオンの単一エネルギービームは、エネルギー依存最大線量深さを有する非常に明確に規定されたブラッグピークを呈するので、高コンフォーマル線量送達を可能にする。この深さ選択性のおかげで、深部組織の治療は、他の深さの健常組織に有害線量を送達することなく行えるので、陽子線/重イオン線療法は、光子及び電子のビームよりも優れた治療選択肢になっている[6、8、9]。
【0005】
粒子線療法時、ビームの一次粒子のほとんどは、多くの電磁相互作用を介してそれらの運動エネルギーを堆積する。しかしながら、これらの粒子の一部は、標的の核との非弾性衝突を受けるであろう。この結果、衝突点から多かれ少なかれ等方的に放出される短距離高LETの荷電粒子や中性子など、一連の核フラグメントが標的部位に生成され、入射イオンビームの経路の周囲の領域にそれらのエネルギーを堆積する[10、11]。残念ながら、これらのフラグメントは、ビームの運動エネルギーの一部を標的体積外に堆積するなど、標的組織及び非標的組織の両方を無差別に照射する[9、12]。かかる相互作用は、その存在により粒子線療法の主な利点の1つ、すなわち、大きなピーク対プラトー線量比を損なうので、とくに治療領域外で起こるとき、典型的にはニューサンスとみなされる。
【0006】
軽水(ヒト組織の主成分)は、中程度の熱中性子断面積(0.335バーン)を有するが、非常に高い中性子断面(それぞれ3838及び254000バーン)を有する10Bや157Gdなどの同位体を含有する作用剤を投与することにより大幅に増加させることが可能である。水との非弾性熱中性子相互作用は、主に、中性子の水素捕獲及び高エネルギーγ光子の放出をもたらすが、10B又は157Gdとの非弾性熱中性子相互作用は、高い相対生物学的有効性(RBE)を有するエネルギー荷電粒子の生成をもたらし、これが中性子捕獲療法(NCT)の基本動作原理となっている。
【0007】
NCTでは、捕獲剤の存在に基づく生物学的線量は、特定のNCAにより決定される二次粒子の相対生物学的有効性(RBE)と共に物理線量に依存する(ひいては中性子捕獲剤の濃度に依存する)。RBE係数は、異なる細胞型間及び状況間(すなわちin vitro対in vivo)で有意に変化し、それはまた、各特定の中性子捕獲剤に特有である。BNCT文献では、この化合物特有RBE係数は、通常、「化合物生物学的有効性」(CBE)といわれるが、ガドリニウムを用いて研究するほとんどの研究者は、それを単にRBEという。
【0008】
10Bの場合、捕獲機構は、以下のようにいくつかの高LET生成物の生成をもたらす[15]:
10B+nth→[11B]→α+Li+γ(2.31MeV)。
【0009】
α粒子及びリチウムイオンは両方とも、約5~9μm(標的細胞の直径)の範囲内で反応のすぐ近くに近接して位置するイオン化を生じる高LET粒子である[16、17]。
【0010】
最も広く使用されている10B系中性子捕獲剤(10B-4-ボロノ-L-フェニルアラニン10B-BPA)では、脳腫瘍細胞及び正常組織に対して、それぞれ、3.6~3.8及び0.9~1.3のCBE値が報告されており、腫瘍組織対健常組織濃度比は5:1~8:1である[14、16、17]。代替捕獲剤ボロカプテイトナトリウム(BSH)は、NCT用途の可能性が示されており、報告されたCBEの範囲は、脳腫瘍では1.2~2.3及び正常組織では0.37~0.5であるが、取込み濃度比は、BPAよりもかなり低い傾向がある(脳では1.2~3.5)[28]。他の標的組織に対する特定値は異なり、両方の作用剤で肝腫瘍に対して報告されたCBE値はより高い(BPA及びBSHで、それぞれ、9.94/4.25及び4.22/0.94の腫瘍/肝臓CBE値並びに2.8/0.3の濃度比)[26、27、39]。
【0011】
157Gd中性子捕獲反応はいくらか異なる経路をとり、以下のように励起158Gd核及び高エネルギーγ線の生成をもたらす:
157Gd+nth→[158Gd]158Gd+γ+7.94MeV。
【0012】
励起状態の緩和時、内部変換(IC)及び低エネルギーオージェ電子を生じ、後者は有用治療効果の大部分を担う。高LET放射線に分類されるオージェ電子は、非常に短い距離(組織内で数ナノメートル)のみ移動した後、その運動エネルギーを堆積するので、発生源がDNA分子又は必須オルガネラ(たとえばミトコンドリア)のすぐ近くに集中している場合、非常に有効になる。熱中性子捕獲反応では、5オージェ電子、1.8γ光子、及び0.69IC電子、及び1.0反跳核の生成が推定されている。
【0013】
157Gdは、その熱中性子断面積がきわめて大きく、すべての安定同位体のうちで最も大きいので、中性子捕獲療法で大きな関心が寄せられている。遊離Gd3+イオンは、in vitro及びin vivoの両方で生物に対して高い毒性を有するが、キレート化されたGd3+化合物は、生理学的に安定性であるので安全に使用可能である[45]。ガドリニウムの非常に高い細胞内濃度は、有意な細胞傷害性を伴うことなくin vitroで達成可能である(数千ppm程度)。Gd-DOTAやGd-DTPAなどのガドリニウムコントラスト剤は、ヒトにおいて診断に使用することが承認されているが、細胞核内に有意な濃度で蓄積されない[40]。実験ガドリニウム化合物のうち、モテキサフィン-ガドリニウム(MGd)は、GdNCT用の潜在的候補として提案されている[45]。それは腫瘍特異的放射線増感剤であり、全脳放射線療法との組合せ使用は、第III相臨床試験に達している[53]。70:1の腫瘍組織対健常組織取込み比、in vitroでのガドリニウムの長期保持(2ヶ月間)、及び膠芽細胞腫細胞核への90%取込みを有するので、それはNCTに使用するのに有望な候補である[54~56]。DNA及びミトコンドリアを標的とするガドリニウム剤の開発に向けた最近の努力の結果、いくつかの有望な作用剤がもたらされた。Morrisonらは、3000~ppmまでの細胞内濃度を有するNCT用途向けに設計された腫瘍細胞選択的ミトコンドリア剤の開発に関して報告している[45]。
【0014】
原子炉からの中性子ビームを用いた10B中性子捕獲に基づく放射線療法は、すでに確立された放射線療法モダリティーであり、ロシア、アルゼンチン、イタリア、及び英国のいくつかの加速器ベース熱外中性子施設で検討中である[18、19]。2種の10B送達剤L-p-ボロノフェニルアラニン(L-10BPA)及びナトリウムメルカプトウンデカヒドロ-closo-ドデカボレート(Na 101211SH、Na 10BSH)は、多形膠芽細胞腫及び悪性黒色腫に罹患している患者を治療するために臨床的に使用されてきており、アルゼンチン、フィンランド、スウェーデン、日本、台湾、及び米国では頭頸部腫瘍及び肝転移の治療のために第I相臨床試験が進行中である[20、21]。しかしながら、標的で治療効果を達成するのに必要な表面の中性子フルエンスが非常に高いので、この技術を用いた約3cmよりも深い組織の治療は実現可能でない(ヒト組織における水の中性子減速効果の結果)[22]。
【0015】
特開2016/088895号公報には、腫瘍への炭素イオン線の照射前に投与される重イオン放射線療法用増感剤としてホウ素化合物結合フッ素化ポルフィリノイドを用いた又はその金属錯体含有物質を用いた重イオン放射線療法用増感剤及び重イオン放射線療法が開示されている。
【0016】
特開2014/177421号公報には、陽子ビーム療法用増感剤及び陽子ビーム治療法が開示されている。ホウ素化合物結合フッ素化ポルフィリノイド又はその金属錯体が陽子ビーム療法用増感剤として利用され、この放射線増感剤を哺乳動物に投与してから累積された放射線増感剤を有する腫瘍に陽子ビームを照射する陽子ビーム治療法が開示されている。
【0017】
韓国特許第1568938B1号明細書には、腫瘍に捕獲されたホウ素に陽子を照射して腫瘍の領域に照射される3つのα粒子を生成する陽子ホウ素核反応を用いた放射線療法及び診断デバイスが開示されている。
【0018】
国際公開第2017/048944A1号パンフレットには、デアグリゲーション剤と共に高Z粒子を投与することにより電離線に対して標的細胞を増感させる放射線療法における高Zナノ粒子の使用方法が開示されている。粒子は、標的細胞による細胞内取込みを可能にする標的化分子を含みうる。
【0019】
特開2017/096672号公報には、粒子ビーム療法システムに使用するための放射線量測定装置が開示されており、これは蛍光物質の位置情報を補正するための補正値を決定する線量位置アナライザーを備える。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の広義の態様によれば、標的体積に照射するための照射方法が提供される。本方法は、
標的体積内に又はそれに近接して熱中性子吸収核種(たとえば、大きな中性子断面積の作用剤、たとえば、10B及び/又は157Gd)を提供することと、
陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオン(たとえば、イオン化されたHe(すなわち、一般に重イオンとみなされるα粒子)、C、O、及びSiであり、特定的には、C、10C、11C、12C、15O、16O、及び高nのSi同位体であるが、なんら排他的なものではない)のいずれか1つ以上からなる粒子のビーム(「一次ビーム」)を核(たとえば、標的体積内に、標的体積に近接して、及び/又は標的体積全体に分布して存在しうる)に照射して中性子を生成することにより、核と粒子との間の非弾性衝突を介した中性子の生成を促進することと、
を含み、
中性子吸収核種は、非弾性衝突で生成された中性子(すなわち、生成された中性子のうち中性子吸収核種と相互作用する好適なエネルギーを有するもの)を(中性子捕獲反応によるか中性子核反応によるかにかかわらず)吸収することにより、標的体積に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成する。
【0021】
本方法は、標的体積に照射するようにも粒子のビームを構成することを含みうる。実際に、いくつかの実施形態では、粒子線療法時などに十分な熱中性子フルエンスを発生させれば、周囲正常組織と比較して高濃度で腫瘍に優先的に吸収される10B又は157Gdを含有する好適な非毒性中性子捕獲剤の投与を介して、そのフルエンスを治療に活用可能である。この例は、組合せ治療モダリティーを含めて、「中性子捕獲増強粒子線療法」(NCEPT)と称しうる。
【0022】
一般に、「近接して」という用語は、その最広義の通常の意味で用いられるので、「隣に又は相接して」及び「近くに」のいずれも包含するが、照射された核とビームの粒子との間の非弾性衝突で生成された中性子を中性子吸収核種が吸収し、それに応じて、標的体積に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成するという要件により限定されることを認識すべきである。さらに、「核種」及び「核」という用語は、対象の反応がそれらの種で起こることから本明細書で利用される。つまり、関連種が、粒子のビームと相互作用するもの(「核」)であるか又は熱中性子吸収のために提供されたもの(「核種」)であるかにかかわらず、一般に原子形態で存在することは、理解されよう。
【0023】
したがって、粒子の(一次)ビームよりも広くなりうる中性子領域を発生可能であり、いくつかの例では3~5倍の広さになる。このため、一次粒子ビームの標的となるさもなければそれが入射する体積外の領域(「標的体積」)を標的とすることが可能になる。そのため、一次粒子ビームが照射される核は、標的体積外に存在しうる(適切であれば、標的体積が内部に位置する被験者外を含めて、又は被験者内の深部の標的体積内に中性子領域を作成するように)。これにより、固形腫瘍及びその周囲の衛星病変さらには瀰漫性癌又は近くに浸潤決定器官を有する本質的に後期に検出される癌(たとえば、膵癌、胃癌、肝癌、肺癌)又は実際上寄生物に照射する機構が提供される。最後の例や寄生物などのいくつかの場合には、標的体積が被験者又は生体と本質的に同じ境界内に含まれるように、中性子を被験者全体(たとえば患者の生体)に照射することが望ましいこともある。
【0024】
瀰漫性腫瘍を含む標的体積に照射するなどのために広い中性子領域を作成することが望ましい場合、被験者(標的体積が内部に位置する)内に核が位置する状態で、被験者の生体外に最大エネルギーを送達するように一次粒子ビームを構成する(すなわち、被験者の生体外にブラッグピークを配置する)ことが有利でありうる。この技術は、たとえば、寄生生物を処置するのに好適でありうる。
【0025】
ビームは、安定同位体及び/又は放射性同位体を含みうると想定される。
【0026】
ある実施形態では、ビームは、高エネルギー陽子及び/又は重イオンを含む。
【0027】
用途に応じて、とりわけ、利益よりもn損傷を重視しなければならない用途では、いくつかの一次粒子が他のものよりも好適であろうことは、分かるであろう。たとえば、いくつかの生物学的サンプルの照射では、酸素よりも重いイオンは、そのピーク放射線生物学的有効性がその物理線量堆積のピークの前にくる可能性があるので、好適でないこともある。ほとんどの有用な一次ビーム粒子は、とりわけ生物学的用途では、(イオン化された)H、H,H、H,H、H、He、He、He、He、He、He、He、10He、18He、19He、C、10C、11C、12C、13C、14C、15C、16C、17C、18C、19C、20C、21C、12O、13O、14O、15O、16O、17O、18O、19O、20O、21O、22O、23O、24O、25O、26O、及び28Oであろうと予想される。
【0028】
他の実施形態では、本方法は、10B及び/又は157Gdを含有する組成物の形態で熱中性子吸収核種を提供することを含む。組成物は、悪性標的組織により優先的に吸収されうる。
【0029】
一実施形態では、捕獲生成物又はフラグメントはエネルギー荷電粒子を含む。捕獲生成物又はフラグメントは、高い相対生物学的有効性のエネルギー荷電粒子を含みうる。
【0030】
さらなる実施形態では、ビームは、スポットスキャニング方式、ユニフォームスキャニング方式、高速スキャニング方式、ラスタースキャニング方式、及び/又は受動散乱方式でその経路(標的体積を含みうる)に沿って物質に照射される。ビームは、サイクロトロン又はシンクロトロンにより適切なエネルギーを取得しうる。照射の結果、熱中性子吸収核種による後続の捕獲のために熱中性子が生成される。
【0031】
本発明の第2の広義の態様によれば、陽子、重陽子、三重陽子、又は重イオンのビームを用いて、生体組織(たとえば、腫瘍、浸潤衛星病変、及び/又は頭蓋内転移病変、たとえば、脳内)に照射する方法が提供される。本方法は、第1の態様の方法に従って生体組織を含む標的体積に照射することを含む。
【0032】
ある実施形態では、標的体積は被験者内にあり、且つビームがその最大エネルギーを堆積する(又は「停止する」)点は被験者外にある。
【0033】
この態様はまた、生体組織に照射することにより患者を治療する方法を提供する。
【0034】
ある実施形態では、標的体積は患者内にあり、且つビームはその最大エネルギーを患者外に堆積する(又は「停止する」)。
【0035】
この態様によれば、本方法は、生体組織への照射と組み合わせて又は並行して免疫療法を適用することをさらに含みうる。これは、癌及び/又は自己免疫疾患を治療するなどのために、免疫レギュラトリー反応を抑制/活性化する機構を提供しうると想定される。
【0036】
本発明の第3の広義の態様によれば、腫瘍、衛星病変(たとえば1つ以上の浸潤衛星病変)、及び/又は転移病変(たとえば頭蓋内病変)のいずれか1つ以上の成長を阻害する方法が提供される。本方法は、
熱中性子吸収核種(たとえば、大きな中性子断面積の作用剤の形態のもの)を含む組成物を腫瘍、衛星病変、及び/又は転移病変(それらの2つ以上を含む)に投与することと、
腫瘍、衛星病変、及び/又は転移病変内の又はそれらに近接した核に陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオン(たとえば、イオン化されたHe、C、O、及びSi)のいずれか1つ以上からなる粒子のビーム(「一次ビーム」)を照射することにより、腫瘍、衛星病変、及び/又は頭蓋内転移病変内の又はそれらに近接した核と粒子との間の非弾性衝突を介して中性子を生成することと、
を含み、
中性子吸収核種は、非弾性衝突で生成された中性子を吸収することにより、腫瘍、衛星病変、及び/又は頭蓋内転移病変に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成する。
【0037】
したがって、いくつかの実施形態では、腫瘍(及び可能であれば他の悪性組織)は中性子捕獲剤を取り込む。一次ビームが腫瘍に照射されるとフラグメント化を介して広い中性子領域が形成され、ひいてはその中性子領域の中性子は、中性子捕獲剤を取り込んだ組織により捕獲され、その結果として細胞レベルで高LET副生成物の放出をもたらす。
【0038】
ある特定の他の実施形態では、腫瘍、寄生物、及び/又は免疫レギュレーターは、中性子捕獲剤を取り込みうる。高エネルギーの一次ビームは、典型的には、標的体積を含むか又は構成するかのいずれかの生体/患者/対象物外に最大エネルギー堆積点を有して、かかる用途に使用される。広い中性子領域は、(一次ビームの経路に沿って低線量が堆積されることに加えて)生体/患者/対象物内に作成される。中性子捕獲剤を取り込んだ生物又は細胞はいずれも、二次捕獲(すなわち、1種又は複数種の中性子捕獲剤による中性子の捕獲)による副生成物の放出を介して線量(致死量でありうる)を摂取する。
【0039】
衛星病変及び/又は転移病変の成長の抑制は、複数の衛星病変又は転移病変の成長を阻害する形態をとりうるか、又は1つ以上の追加の浸潤衛星病変又は浸潤転移病変の発生を抑制する形態をとりうる。
【0040】
たとえば、重イオン線療法時に十分な熱中性子フルエンスを発生させれば、周囲正常組織と比較して高濃度で腫瘍、衛星病変、及び/又は頭蓋内転移病変により優先的に吸収される好適な(一般に非毒性の)組成物(たとえば、157Gd及び/又は10Bを担持する組成物)の投与を介して(たとえば治療に)活用しうる。
【0041】
ある実施形態では、ビームは、高エネルギー陽子及び/又は重イオンを含む。
【0042】
他の実施形態では、本方法は157Gd及び/又は10Bを含有する組成物の形態で熱中性子吸収核種を提供することを含む。組成物は、悪性標的組織により優先的に吸収されうる。
【0043】
さらなる実施形態では、捕獲生成物又はフラグメントはエネルギー荷電粒子を含む。捕獲生成物又はフラグメントは、高い相対生物学的有効性のエネルギー荷電粒子を含みうる。
【0044】
本発明はまた、本発明の以上の態様のいずれかの方法を実施するように照射システムを制御することを含む、照射システムの制御方法を提供する。
【0045】
本発明の第4の広義の態様によれば、粒子線療法のパラメーターを決定するコンピューター実装方法が提供される。本方法は、
デフォルトパラメーター又は選択パラメーターのセット(理論的又は経験的のどちらかで決定された中性子フルエンスを含みうる)に基づいて、
a)標的体積内の又はそれに近接した核への陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオン(たとえば、He、C、O、及びSi)のいずれか1つ以上からなる一次粒子のビームの照射、
b)標的体積内の又はそれに近接した核と一次粒子との間の非弾性衝突を介した中性子の生成、
c)少なくとも1つの大きな中性子断面積の作用剤(たとえば10B及び/又は157Gd)と、標的体積内の原子と一次粒子との間の非弾性衝突から生成された熱中性子と、の間の中性子捕獲反応及び中性子核反応の結果として放出される捕獲生成物又はフラグメントの生成(たとえば、全生物学的有効線量の形で表現される)、
をモデリングすること又は(たとえばモンテカロルシミュレーションにより)シミュレートすることと、
(i)捕獲生成物若しくはフラグメントのあらかじめ決められたテンプレートの若しくは所望の生成、又は(ii)経験的検証データのどれかを用いて、捕獲生成物又はフラグメントの生成間の差を決定することと、
修正されたパラメーターのセット(すなわち、典型的にはパラメーターの1つ以上を修正することにより)を差に基づいて発生することと、
を含む。
【0046】
ある実施形態では、モデリングは、標的体積内の組織への捕獲生成物又はフラグメントの照射をモデリングすることをさらに含む。組織は、腫瘍若しくはその一部分、1つ以上の(たとえば浸潤)衛星病変、及び/又は1つ以上の転移病変を含みうる。
【0047】
他の実施形態では、モデリングは、熱中性子吸収核種を含む組成物を標的体積内に配置することをさらに含む。
【0048】
パラメーターは、以下のいずれか1つ以上を含みうる。
i)照射の持続時間、
ii)ビームの組成、
iii)ビームの粒子のエネルギー、
iv)ビームの粒子のピーク放射線生物学的有効性、
v)ビームの粒子の物理線量堆積、
vi)組成物、
vii)組成物の濃度(たとえば、百万分率又はppm単位)、
viii)組成物の空間分布、
ix)生成された中性子のフルエンス、
x)ビームに対する標的体積の位置、及び
xi)イオン特異的生物学的効能。
【0049】
さらなる実施形態では、本方法は、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート))などの組織等価物質として標的体積をモデリング又はシミュレートすることを含む。他の一選択肢では、組織等価物質は、たとえば、骨及び続いて筋肉をシミュレートするファントムの形態で、頭蓋ファントムを含む。
【0050】
一実施形態では、経験的反応検証データは中性子フルエンスデータを含む。
【0051】
本方法は、粒子線療法パラメーターライブラリーのパラメーターの1つ以上のセットを決定することを含みうる。
【0052】
この態様によれば、1つ以上のプロセッサーにより実行したときに、この態様の粒子線療法のパラメーターを決定する方法を実現するように構成されたコンピューターソフトウェアもまた提供される。この態様はまた、かかるコンピューターソフトウェアを含むコンピューター可読媒体(非一時的でありうる)を提供する。
【0053】
本発明の第5の広義の態様によれば、
陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオンのいずれか1つ以上を含む一次粒子を供給する粒子源と、
粒子を加速することにより粒子ビームを提供するアクセラレーターと、
アクセラレーターからの粒子ビームを抽出する抽出ビームラインと、
粒子ビームを方向付けるように構成された1つ以上のビームステアリングユニットと、
照射システムを制御する制御システムと、
を含む照射システムが提供され、
制御システムは、標的体積へのあらかじめ決められた照射を実現するために、照射プログラム(典型的には、粒子線療法パラメーターのセットを含む)を含むか又はそれにアクセスするように構成され、あらかじめ決められた照射は、
標的体積内の又はそれに近接した核に粒子ビームを照射して、標的体積内に又はそれに近接して提供された核と粒子との間の非弾性衝突を介した中性子の生成を促進し、それにより、照射前に標的体積に提供された熱中性子吸収核種(たとえば、大きな中性子断面積の作用剤の形態のもの)が非弾性衝突で生成された中性子を吸収して、標的体積(可能であれば、生物学的用途では、衛星病変、寄生物、及び/又は転移病変)に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成すること、
を含む。
【0054】
この態様(及び他の態様の各々)の粒子ビームが通常その経路の他の物質と相互作用することによりかかる追加の非弾性衝突を介して中性子の生成を促進するであろうことは、分かるであろう。こうした中性子もまた、結果として中性子領域の生成に有用に寄与しうるとともに、次いで、これは熱中性子吸収核種と相互作用する。
【0055】
ある実施形態では、照射プログラム又はそれに利用されるパラメーターのセットは、特定の標的体積又は被験者に適合化又は個別化される。
【0056】
他の一実施形態では、照射システムは、ビームクリーニング及び/又はスキャニング素子(たとえば、比例カウンター及びフィルター)を含む。
【0057】
他の一実施形態では、粒子源は、水素、ヘリウム、二酸化炭素、酸素、又は他の供給ガスをイオン化する(及び所要により任意に分解する)イオナイザーを含む。当業者であれば、他の好適な技術が存在するするとともにこれらを好適に利用しうることは、分かるであろう。たとえば、酸素ビームは、ベリリウム標的での18Oのフラグメント化により得られうるとともに、フラグメントセパレーター(FRS)を用いて分離しうる。
【0058】
ある実施形態では、アクセラレーターは、サイクロトロン又はシンクロトロンを含む。アクセラレーターは、粒子に初期加速を提供してサイクロトロン又はシンクロトロンに供給するリニアアクセラレーターをさらに含みうる。
【0059】
ある実施形態では、標的体積は、腫瘍又はその一部又は1つ以上の微小転移を含む。
【0060】
本発明の第6の広義の態様によれば、照射システムを制御する制御システムが提供される。制御システムは、
照射システムの粒子源を制御するように構成された粒子供給コントローラーであって、一次粒子を供給する粒子源が、陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオンのいずれか1つ以上を含む、粒子供給コントローラーと、
照射システムのアクセラレーターを制御するように構成されたアクセラレーターコントローラーであって、アクセラレーターが粒子を加速することにより粒子ビームを提供する、アクセラレーターコントローラーと、
粒子ビームを方向付けるように構成された1つ以上のビームステアリングユニットを制御するビームステアラーと、
アクセラレーターからの加速粒子の抽出を制御する抽出コントローラーと、
を含み、
制御システムは、標的体積へのあらかじめ決められた照射を実現するために、照射プログラム(典型的には、粒子線療法パラメーターのセットを含む)を含むか又はそれにアクセスするように構成され、あらかじめ決められた照射は、
標的体積内の又はそれに近接した核に粒子ビームを照射して、標的体積内の又はそれに近接した核と粒子との間の非弾性衝突を介した中性子の生成を促進し、それにより、照射前に標的体積(可能であれば、生物学的用途では、衛星病変、寄生物、及び/又は転移病変)に提供された熱中性子吸収核種が非弾性衝突で生成された中性子を吸収して、標的体積に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成すること、
を含む。
【0061】
システムは、アクセラレーターのパラメーターの標準セットや被験者データ(たとえば、被験者の医用画像)などに基づいて照射プログラムを決定するように構成された治療計画システム(TPS)を含みうる。
【0062】
システムは、照射システムにより提供された粒子ビームに対して標的体積を配置してあらかじめ決められた照射を送達するように、被験者カウチの位置及び/又は向きを1回以上制御するカウチコントローラーをさらに含みうる。
【0063】
他の一態様では、本発明は、第1、第2、及び第3の態様のいずれか1つの方法を実施するために照射システムを制御することを含む、照射システムの制御方法を提供する。
【0064】
本発明の以上の態様の各々の各種個別の特徴及び特許請求の範囲を含めて本明細書に記載の実施形態の各種個別の特徴はいずれも、好適に要望に応じて組合せ可能であることに留意すべきである。そのほか、本開示の実施形態に開示された複数の成分を適切に組み合わせることにより各種実施形態を提供可能である。たとえば、開示された実施形態からいくつかの成分を削除しうる。さらに、異なる実施形態の成分を適切に組み合わせうる。
【0065】
次に、本発明がより良好には確認されるように、例として添付の図面を参照して実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1A】本発明のある実施形態にかかる照射システムの模式図である。
図1B】照射システムにより発生された粒子のビームが腫瘍に照射された図1Aの照射システムのカウチ上に横臥する患者の模式図である。
図2図1Aの照射システムの制御システムの模式図である。
図3】実施例1で熱中性子フルエンス及びスペクトルの推定に使用したシミョレーション構成の模式図である。
図4A-4F】単一エネルギーの陽子、12C、及び16OのビームをPMMAファントムに照射して得られた熱中性子フルエンス(中性子/単位面積/一次粒子及び/グレイ送達線量により表される)を深さの関数として示したプロットである。
図5A-5C】単一エネルギーの132MeV/μ、153MeV/μ、及び182MeV/μの陽子ビームをPMMAファントムに照射して得られた熱中性子分布を一次粒子で規格化した三次元可視化図である。
図6A-6F】図5A~5Cの三次元可視化図に対応して入射ビーム及び最大フルエンス点が交差するXY平面上及びXZ平面上に示された二次元熱中性子フルエンスマップである。
図7A-7C】単一エネルギーの250MeV/uμ、290MeV/μ、及び350MeV/μの12CビームをPMMAファントムに照射して得られた熱中性子分布を一次粒子で規格化した三次元可視化図である。
図8A-8F】図7A~7Cの三次元可視化図に対応して入射ビーム及び最大フルエンス点が交差するXY平面上及びXZ平面上に示された二次元熱中性子フルエンスマップである。
図9A-9F】単一エネルギーの陽子、12C、及び16Oのビームを頭蓋ファントムに照射して得られた熱中性子フルエンス(中性子/単位面積/一次粒子及び/グレイ送達線量により表される)を深さの関数として示したプロットである。
図10】実施例2でペンシルビーム熱中性子フルエンスの推定に使用したシミョレーション構成の図である。
図11A-11D】50mm×50mm×50mmの体積の1GyE炭素イオンビーム治療から得られた線量分布のプロットであり(100~150mmの深さ、6MeV/uのステップの240~300MeV/uの範囲内の離散ビームエネルギー)。図11AはSOBP当てはめであり(YZ平面に沿って)、図11Bは線量分布の全体積レンダーリングであり、図11Cはセンタースライス(XY平面)であり、且つ図11Dはセンタースライス(YZ平面)である。
図12A-12F】100~150mmの標的体積への照射から得られた規格化中性子フルエンスのプロットであり、等高線は、スライス中の最大値に対するパーセントとしてフルエンスを表し(3D図のシェーディングは絶対フルエンスを示す)。図12AはXY平面のプロットであり(陽子)、図12BはXY平面のプロットであり(炭素)、図12CはYZ平面のプロットであり(陽子)、図12DはYZ平面のプロットであり(炭素)、図12Eは3Dプロットであり(陽子)、且つ図12Fは3Dプロットである(炭素)。
図13】本発明のある特定の実施形態を試験するために利用した実験構成の図である。
図14】3Gyの炭素イオンが照射された1週間にわたるT98G細胞系(2フラスコ)増殖のプロットである。
図15】10B-BPA(黒色)及び157Gd-DOTA-TPP(灰色)と共にインキュベートされた且つ3Gyの炭素イオンが照射された1週間にわたるT98G細胞系増殖のプロットである。
図16】3Gyのヘリウムイオンが照射された1週間にわたるT98G細胞系(2フラスコ)増殖のプロットである。
図17】10B-BPA(黒色)及び157Gd-DOTA-TPP(灰色)と共にインキュベートされた且つ3Gyのヘリウムイオンが照射された1週間にわたるT98G細胞系増殖のプロットである。
図18A-18D】9線量値の炭素ビームが照射された細胞の照射後最大7日間までのT98G細胞系細胞増殖対照射後時間(hr)プロットである。
図19A-19D】全部で9線量値のヘリウムビーム(すなわち0~5Gy)が照射された細胞の照射後最大7日間(168時間)までのT98G細胞系細胞増殖対照射後時間(hr)のプロットである。
図20A-20D】それぞれ図19A~19Dのものと同一のデータを提示するが、指数成長モデルに当てはめたものである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1Aは、本発明のある実施形態にかかる照射システム10の模式図である。システム10は、たとえば、水素、ヘリウム、二酸化炭素、又は酸素を供給及びイオン化して(所要により分解することを含む)、それぞれ、陽子、重陽子、三重陽子、α粒子、炭素イオン、及び/又は酸素イオンの粒子ビームを発生するガス供給部12を含む。システム10はまた、粒子に初期加速を提供するリニアアクセラレーター14と、リニアアクセラレーター14から粒子を受け取って所望のエネルギーな粒子をさらに加速するシンクロトロンアクセラレーター16と、を含む。
【0068】
システム10は、1つ以上の治療室20(それぞれの患者カウチ又はガーニー22を含む)に所望の一次粒子の加速ビームを送達する抽出ビームライン18を含む。システム10は、ビームライン18の先端部にガントリー24を含む。ガントリー24は、機械的支持構造体と、駆動機構と、磁石(すなわち双極子及び四重極子)と、真空ベッセルと、ビームが出る点(最終偏向磁石と患者への出口窓との間のコンポーネントをからなる)に治療ノズル26と、を含む。
【0069】
カウチ22上の患者は、ガントリー24により輸送されて治療ノズル26を出るビームを受け取るように標的組織を配置した状態に位置する。患者における一次粒子の浸透深さは、ビームエネルギー及び形状を制御して、要求通りビームのブラッグピークを所望の標的体積に対して(及びその内部に)配置するように制御される。
【0070】
治療ノズル26を出るビームは、たとえば、スポットスキャニング方式、ユニフォームスキャニング方式、高速スキャニング方式、ラスタースキャニング方式、及び/又は散乱方式により、いずれかの所望のパターンで標的体積に照射するように制御しうる。例示された実施形態では、ビームは、標的体積内の逐次平面でスポットとしてラスタースキャンされる(平面はビーム方向に垂直である)。
【0071】
システム10はまた、ガス供給部12(ガス供給部12により供給される水素、ヘリウム、又は二酸化炭素などのガスをイオン化するイオナイザーを含む)、リニアアクセラレーター14、シンクロトロンアクセラレーター16、及び抽出ビームライン18を含めて、システム10の上述したコンポーネントを制御するために、さらにはカウチ22の位置及び向きを制御するために、ユーザーにより制御可能な制御システム28を含む。ユーザーが制御システム28を操作するために使用しうるコンソール(図示せず)は、各治療室20及び/又は制御システム28自体に位置しうる。制御システム28は、一般的には、制御システム28に記憶された又はそれによりアクセス可能な、且つ特定の患者に適用可能なパラメーター(たとえば、患者のディジタル化X線コンピュータートモグラフィー又は陽子トモグラフィー)並びに過去の治療、実験、及びモデリング/シミュレーションのデータから得られたパラメーターに基づいて治療の開始前に確立された、1つ以上の治療プログラムを参照してシステム10を制御する。かかるパラメーターは、典型的には、照射時間全体を通じて制御システム28により利用される制御パラメーター又は設定値の形である。
【0072】
照射システム10はまた、粒子ビームを方向付けるように構成された複数のビームステアリングユニット(図示せず)を含む。
【0073】
制御システム28は、粒子源(すなわちガス供給部12)を制御するように構成された粒子供給コントローラーと、リニアアクセラレーター14及びシンクロトロンアクセラレーター16を制御するように(粒子ビームの平均エネルギーを制御することを含む)構成されたアクセラレーターコントローラーと、粒子ビームを方向付ける1つ以上のビームステアリングユニット(磁石を含む)と、シンクロトロンアクセラレーター16からの加速粒子の抽出を制御する抽出コントローラーと、を含む。標的体積への均一な治療線量の送達は、受動造形されるか(すなわち、ビームの経路にリッジフィルターを配置することにより)又はスライスごとに単一エネルギービームを用いて治療体積を「ペイント」するように動的に送達されるかのどちらかの拡大ブラッグピークにより提供される。深さは、ビームのエネルギーをチューニングすることにより及び標的スライス上にブラッグピークを配置することにより制御され、一方、ビームは、ビームステアリングユニットの磁石を用いてx軸及びy軸にステアリングされている。
【0074】
したがって、制御システム28は、好ましくは(この実施形態では)スポットスキャニング、ラスタースキャニング、又は受動散乱送達を介して標的体積にフラットな生物学的線量を送達するように、所望の照射プログラムの送達を可能にする。制御システム28はまた、たとえばファントムへの照射による照射プログラムを計画するために使用可能であり、照射プログラムはまた、所望の照射のシミュレーションにより作成可能である。
【0075】
図1Bは、カウチ22上に横臥してシステム10により発生されたビーム34が腫瘍32に照射される患者30の模式図である。
【0076】
使用時、ある用量の熱中性子吸収核種、たとえば、腫瘍32により優先的に吸収される157Gd及び/又は10Bを含有する組成物が患者に投与される。次いで、腫瘍32を含有する標的体積に所望のスキャンパターン、深さ、持続時間、ビームエネルギーなどで一次粒子(すなわち、陽子、ヘリウム、炭素イオンなど)のビーム34が照射される(事前に確立された治療プログラムに従って)。これは、照射間で又は照射時間中にカウチ22ひいては標的体積を移動することを含みうる。しかしながら、患者の移動は、時間遅延を導入するおそれがあるとともに大きな標的体積ミスアライメント及び位置決めエラーをもたらすおそれがあるので、一般に最小限に抑えられ、ほとんどの場合、その代わりにガントリー24(又はそれにより支持された粒子輸送ライン)は軸(又は複数の軸)を中心に回転される。
【0077】
照射時、ビーム34中の一次粒子の一部は、腫瘍32内の核との非弾性衝突を受ける。この結果、衝突点から放出される短距離高LETの荷電粒子や中性子など、一連の核フラグメントが標的部位に生成され、入射一次ビーム34の経路の周囲の領域にそれらのエネルギーを堆積する[10、11]。次いで、中性子は、投与された組成物の熱中性子吸収核種により吸収されて高い相対生物学的有効性を有するエネルギー荷電粒子の生成をもたらしうる。
【0078】
図2は、照射システム10の制御システム28のより詳細な模式図である。制御システム28は、典型的には、制御システム28により又はそれから制御される照射システム10のコンポーネントと通信するコンピューター(又は他のコンピューティングデバイス)として実現される。
【0079】
制御システム28は、照射システム10により実現される本方法のシミュレーションと、照射パラメーターの発生及び検証と、照射システム10の制御と、を組み合わせるが、これらを個別に実現しうることは、分かるであろう。たとえば、オフラインで本方法のシミュレーションを実現することが望ましいこともあり、同様に、オフラインで照射パラメーターの発生及び検証を行って、得られたパラメーターを制御システム28にロードしたりさもなければそれにアクセスできるようにしたりもしうる。
【0080】
図2を参照すると、制御システム28は、プロセッサー40とメモリー42とを含む。プロセッサー40は、ディスプレイコントローラー44、治療計画システム46、モンテカルロシミュレーター48、比較モジュール50、パラメーターデターミナー52、粒子供給コントローラー54、アクセラレーターコントローラー56、ビームステアラー58、及び抽出コントローラー60をはじめとするいくつかのコンポーネントを実装する。
【0081】
明確さを期して他の標準コンポーネント(たとえば、ユーザーインターフェース、I/Oバスなど)が省略されていることは、分かるであろう。
【0082】
ディスプレイコントローラー44は、制御システム28のユーザーインターフェース(図示せず)のディスプレイへのパラメーター、画像、及びコントロールパネルの表示を制御する。治療計画システム46は、照射システム10に適合化された標準照射パラメーター、組織(たとえば腫瘍)に対する所望の生物学的有効線量分布、経験的モデル(たとえば、ファントムシミュレーション及び実験)、及び被験者データ(特定の被験者又は患者に特有のもの、したがって、典型的にはCT/MRデータ又は他のメディカルイメージングデータを含む)を受け取って、特定の照射又は治療プログラムを発生するように構成される。モンテカルロシミュレーター48は、関連ファントムをシミュレートすることを含めて、提案された照射計画の評価及び新しい照射計画の作成の目的で、照射システム10により提供される照射をシミュレートするよう適合化される。
【0083】
比較モジュール50は、とくに得られた全生物学的有効線量分布を比較することにより、治療計画システム46により出力された特定の照射又は治療プログラムを用いてモンテカルロシミュレーター48によりシミュレートされた照射計画を比較するように構成される。モンテカルロシミュレーター48はまた、関連被験者データを使用する。結果はパラメーターデターミナー52に提供され、これは、シミュレーションの結果と所望の照射との間のなんらかの差に従って、モンテカルロシミュレーター48により利用されたパラメーターを修正又はリファインし、そしてシミュレーションが所望の照射とより良く整合するように適合化された新しい又は修正されたパラメーターを発生する(インクリメンタルに/繰り返して行いうる手順)。
【0084】
粒子供給コントローラー54は、照射システム10の供給源45を制御するように構成され、アクセラレーターコントローラー56は、照射システム10のアクセラレーター16(リニアアクセラレーター14を含む)を制御するように構成され、ビームステアラー58は、照射システム10の1つ以上のビームステアリングユニットを制御するように構成され、且つ抽出コントローラー60は、アクセラレーター16からの加速粒子の抽出を制御するように構成される。
【0085】
メモリー42は、この例では、中性子フルエンスデータ66、電磁相互作用をモデリングするときにモンテカルロシミュレーター48により使用される電磁相互作用モデル68、並びに放射性崩壊、粒子崩壊、ハドロン弾性衝突、イオン非弾性衝突、中性子捕獲、中性子非弾性衝突、及び陽子非弾性衝突をモデリングするときにモンテカルロシミュレーター48により使用されるハドロン物理学モデル70の形態で、経験的反応検証データを含む。
【0086】
メモリー42はまた、この例では、ビーム34による照射の持続時間、ビーム34の組成及びエネルギー、ビーム34の粒子のピーク放射線生物学的有効性、ビーム34の粒子の物理線量堆積、被験者に投与される組成物及びその線量分布、特定の照射構成で生成される中性子のフルエンス、ビーム34に対する標的体積の位置、並びにビーム34を構成するイオンの治療パラメーターを含む粒子線療法パラメーターライブラリー72の形態で、パラメーターセットライブラリーを記憶する。
【0087】
メモリー42はまた、1名以上の被験者又は患者に関する被検者データ74(典型的には医療用途では被験者に関する画像データを含む)及びこの例では同様に1名以上の被験者又は患者に関する治療プログラム76の形態で照射プログラムを含む。
【実施例
【0088】
実施例1
このアプローチの実行可能性を実証するために、モンテカルロ技術を用いて陽子又は重イオンの照射下の中性子の発生及び10Bを含有する組成物によるその中性子の吸収をシミュレートした。これは、陽子又は重イオンの照射の典型的形態により発生させうる中性子フルエンスひいてはその中性子フルエンスを適用可能な用途を決定するために行った。
【0089】
I.材料及び方法
モンテカルロシミュレーションはすべて、Geant4ツールキット(バージョン10.2.p03)を用いて実施した[23、24]。電磁相互作は、標準的Geant4物理学オプション3モデル(G4EmStandardPhysics option3)を用いてモデリングした。一方、シミュレーションに使用したハドロン物理学モデルは、表Iに列挙されている。
【0090】
【表1】
【0091】
セクションIB(以下)では、異なるエネルギーを有する単一エネルギーの陽子、12C、及び16Oのビームを均一ポリ(メチルメタクリレート)ファントム(PMMA)に照射して得られる熱中性子フルエンスの三次元分布(ブラッグピークに送達される/一次粒子及び/Gyの両方)を調べ、セクションIC(以下)では、このフルエンス分布をどのように使用すれば発生した熱中性子のホウ素捕獲に帰属可能な線量の増加を計算できるかを説明する。
【0092】
A.シミュレーション及び解析の構成
Geant4のシミュレーション及び解析の構成は、図3の80に模式的に概略で示される。図3を参照すると、それぞれ回転対称5mm FWHMガウスビームプロファイルを有する陽子、12Cイオン、及び16Oイオンの単一エネルギービーム82は、シミュレーション時、250mm×250mm×250mmのシミュレート均一PMMAファントム84の表面に対して垂直に方向付けられた。
【0093】
125の平行な中性子フルエンス量子化平面86(各々50mm×50mm)は、ビームに垂直に且つビーム軸を中心としてPMMAファントム84内のビーム34の経路に沿って2mmおきに定義した(ただし、明確さを期して図3には5番目ごとの量子化平面のみが示される)。
【0094】
12Cビームでは、4つの参照一次ビームエネルギーを選択して、4cm~20cmのPMMA中ブラッグピーク深さを得た。次いで、陽子及び16Oのビームでは、それらのブラッグピークがほぼ同一の深さに位置するようにビームエネルギーを計算した。各一次粒子タイプのビームエネルギーの全セット及び各ファントム中のブラッグピークの対応する位置は、表IIに列挙される。
【0095】
【表2】
【0096】
シミュレートファントムは、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート))の250mm×250mm×250mm立方体であり、物理的性質は、国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)(NIST)データベース[25]から採用した。
【0097】
B.熱中性子フルエンスの推定
中性子フルエンスの従来の定義は、単位面積を横切る中性子数(n/cm)であるが、この例でのフルエンスのより有用な尺度は、中性子/単位面積/一次粒子又は/グレイ送達ピーク線量である。なぜなら、これらは、一次ビームの強度に依存することなく、重イオン治療パラメーターでフルエンスを表すからである。重要なこととして、この定義によれば、ホウ素及び重イオンの治療パラメーターの推定される達成可能な組織中濃度に基づいて、ホウ素中性子捕獲線量の増強に対する中性子領域の効果を適宜予測可能である。
【0098】
ファントムへの重イオン照射から生じる熱中性子フルエンス(以上に定義される)を平面86の各々で評価した。1mm×1mmの空間分解能で各平面86をスコア付けした。すべての平面86に対して各平面の中心5mm×5mm領域にわたり及び全50mm×50mm平面にわたりフルエンスを計算した。
【0099】
そのほか、ブラッグピークに最も近い平面86’さらには最大中性子フルエンスの領域を通り抜ける平面86”の両方の極限左上隅5mm×5mm領域にわたるフルエンスも計算した。これらの平面86’、86”の各々の左上隅88及び中心90で測定されたフルエンス間の比を計算して、平面86’、86”の中性子領域の均一性を評価した。
【0100】
熱中性子フルエンス/単位線量の推定値を得るために、ブラッグピークに堆積された線量も推定した。ブラッグピークを中心とする5mm×5mm×5mm感受性体積を定義し、堆積されたエネルギーをスコア付けし、そして線量に変換した。次いで、これを変換係数として用いて熱中性子フルエンス/単位線量を計算した。
【0101】
単純分散分析法を用いてシミュレーションに使用する一次粒子の最小数を推定した。各々M=50ラン(N(k)=2、N=1×10一次粒子として)を用いて、一連の試験シミュレーションを行った。ブラッグピークを中心とする試験領域内の各シミュレーションで熱中性子フルエンスを計算し、Mシミュレーション全体にわたり平均値及び標準偏差(SD)を計算した。N(k)は無限大になる傾向があるので、ラン間標準偏差はゼロに近づくはずであり、したがって、ラン間標準偏差対平均値の比が5%の任意閾値未満になるまで、漸増するk値を用いて実験を繰り返した。この解析の結果、N=5×10の入射陽子及びN=5×1012C及び16Oのイオンであれば、熱中性子フルエンスの満足な推定値を得るのに十分であることが示唆された(推定フルエンスの99%確率は真のフルエンスの±5%以内である)。
【0102】
C.中性子捕獲線量の増強の定量
治療領域の生物学的線量の達成可能な全体的ブーストの程度を推定して中性子捕獲増強粒子線療法の実現可能性及び潜在的利益を評価するために、単純な治療計画を実現して推定された熱中性子フルエンス(n/cm/Gy)を治療体積内に発生した熱中性子の全数(Nth)に変換した。このソフトウェアの実現では、複数のプリスティンブラッグピークの重畳として拡大ブラッグピークをシミュレートし、いくつかの単一エネルギービームのシミュレートスコア中性子フルエンスの結果を用いて対応する中性子フルエンスを推定した。
【0103】
ビームの軸に沿って125mm及び175mmの深さを中心とする2つの立方体50mm×50mm×50mm標的体積をファントム内に定義した。各標的体積を各5mmの厚さの一連の10スライスに分割し、さらに10×10グリッドに分割することにより、合計で1000の5mm×5mm×5mmボクセルを得た。スライスごとに治療線量を送達した。各ボクセルで計画された粒子線量が達成されたら、ビームをその次のボクセルに平行移動させた。
【0104】
各スライスへの照射後、その次のスライスの治療のためにブラッグピークの深さを低減するようにビームエネルギーを変化させた。全標的体積が治療されるまで、プロセスを繰り返した。簡単にするために、計画では、粒子線量堆積プロファイルのビルドアップ部分から得られる線量を考慮しなかった。これは真の治療計画を設計するには不可欠であるが、提案されたスキームの実現可能性を決定する目的では、すべてのエネルギーがブラッグピークに送達されるとみなしても十分である。
【0105】
計画された治療線量では、ビームが標的体積内のすべての計画された位置全体にわたりステッピングされるので、各位置の計画された物理線量を乗算してフルエンス/グレイ(n/cm/Gy)の和をとることにより、標的体積内の各ボクセルの熱中性子の全数を評価した。
【数1】
式中、ni,j,kは位置(i,j,k)のボクセルを横切る熱中性子の全数であり、Dl,m,nは、座標(l,m,n)を有するボクセルに送達される物理線量であり、Φ[(i-l),(j-m),(k-n)],dnは、(l,m,n)に位置するビームが寄与する(i,j,k)のフルエンス(中性子/平方センチメートル/グレイで表される)であり、且つδAはボクセルの表面積である。フルエンスΦは、中性子フルエンス分布の形状がブラッグピーク深さdに依存するという事実を明示的に表すさらなる議論があるが、ごく限られた数のビームエネルギーのみがシミュレートされるので、フルエンス分布は、他のブラッグピーク深さに対して線形に内挿/外挿した。これは一次近似であり、この評価に必要とされる程度の大きさの計算には十分である。
【0106】
次いで、標的体積内のすべてのボクセルを横切る熱中性子の全数の和をとることにより、全計画治療線量の送達から得られる全標的体積内に発生した熱中性子(Nth)の全数を以下のように計算した。
【数2】
【0107】
治療体積の各ボクセルの全吸収線量は、陽子又は重イオンの一次ビームにより送達される物理線量Dと、標的体積内で起こるホウ素中性子捕獲反応(10B(n,α)Li)から生じるホウ素中性子捕獲線量Dと、の和である。この後者の反応は、高濃度のホウ素を担持する組織に熱中性子がエネルギーを堆積する優位な手段である[26、27]。次いで、全加重生物学的線量(D)は、各成分のRBE及び組成物生物学的有効性(CBE)の組込みを介して推定され、光子等価線量(Gy-Eq)で表される[28]。
=RBE×D+CBE×D
式中、RBEは、粒子Pの相対生物学的有効性であり、且つD及びDは、それぞれ、一次粒子及びホウ素中性子捕獲の物理線量成分(灰色)である。RBEは、ブラッグピークにおいて陽子では1.1(RBE=1.1)、炭素及び酸素では3.04(RBEion,BP)、5cmの幅を有する拡大ブラッグピークにおいて炭素及び酸素では2.5(RBEion)であるとみなされる[28]。CBEは、腫瘍組織では3.8であるとみなされる[22、28]。
【0108】
次いで、熱中性子の推定数を用いてホウ素物理線量を推定した。
=Nth×C×N
式中、C=6.933×10-14は、10B反応に対する中性子フルエンス線量変換係数(Gy/cm/ppm)であり、NBは10B濃度(百万分率)である[29]。
【0109】
すでに文献に一連のホウ素濃度が報告されている。濃度は、腫瘍対健常組織の濃度比と共にIIIに列挙されている。
【0110】
ホウ素中性子捕獲線量は、4つの異なる濃度の10Bを用いて、陽子、12C、及び16Oのビームにより両方の標的体積に送達される100Gy-Eqの光子等価線量に対して計算される。
【0111】
【表3】
【0112】
Heは、本明細書で考察される他の重イオンの放射性同位体と同様に好適な重イオンであると予想され、ジュウテリウム及びトリチウムもまた、いくつかの適用に好適でありうる。酸素よりも重いイオンは、その最大線量堆積点(BP)の前にその最大RBEに達することが示されているので、16Oやより軽いイオンほど療法に使用するのに好適でない。
【0113】
II.結果
A.中性子フラックス
図4A~4Fは、単一エネルギーの陽子、12C、及び16Oのビームに対して各イオン種を用いて4ビームエネルギーの各々でPMMAファントム84でシミュレートされた熱中性子フルエンスを深さの関数としてプロットして示す。図4A~4Fでは、フルエンスは、中性子/平方センチメートル/一次粒子及び/グレイイオン線量の単位で表される。フラックスは、ビームに垂直な且つビーム軸を中心とする正方形の5mm×5mm及び50×50mmの領域にわたり平均され、全50mm×50mm平面にわたり及び各平面の中心5mm×5mm領域のみにわたり平均された結果は、それぞれ、実線及び破線で表される。明確さを期して、95%信頼区間(±2σ)は、20mmごとのみに示され、いずれの所与の深さのラン間フルエンス変動も、ほぼ正常に分布する。各ブラッグピークの位置は、水平軸に付記された実線の垂直マーカーとして表され、その幅は、対応するフルエンス-深さ曲線に一致する。
【0114】
図5A~5Cは、132MeV/u(すなわちMeV/核子)、153MeV/u、及び182MeV/uのそれぞれのエネルギーを有する単一エネルギー陽子ビームによりPMMAファントム84内に生成された熱中性子の三次元分布を一次粒子で規格化して示す。図5A~5Cでは、入射ビームは、白色円柱状領域として示され、ブラッグピークで終端する。(注:ビームプロファイルは、実際には5mmのFWHMを有するガウス形である。)
【0115】
図6A~6Fは、入射ビーム及び最大フルエンス点と交差するXY平面及びXZ平面に平行なスライスにわたり推定された対応する二次元フルエンスコンター図を示す。
【0116】
図7A~7Cは、250MeV/u、290MeV/u、及び350MeV/uの単一エネルギービームエネルギーを有する炭素に対してPMMAファントム84内の等価な三次元熱中性子分布を一次粒子で規格化して示す。入射ビームは、この場合も白色円柱状領域として示され、ブラッグピークで終端する。(注:ビームプロファイルは、実際には5mmのFWHMを有するガウス形である。)図8A~8Fは、この場合も入射ビーム及び最大フルエンス点と交差するXY平面及びXZ平面に示された対応する二次元フルエンスマップを示す。
【0117】
図9A~9Fは、単一エネルギーの陽子、12C、及び16Oのビームに対して各イオン種を用いて4ビームエネルギーの各々で頭蓋ファントムでシミュレートされた熱中性子フルエンスを深さの関数としてプロットして示す。
【0118】
頭蓋ファントムは、250×250×10mmの骨及び250×250×240mmの筋肉を含むものとしてシミュレートした。材料組成物は、国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)(NIST)データベースから採用した組織モデルに基づく。
【0119】
図4A~4Fの場合と同様に、図9A~9Fでは、フルエンスは、中性子/平方センチメートル/一次粒子及び/グレイイオン線量の単位で表される。フラックスは、ビームに垂直な且つビーム軸を中心とする正方形の5mm×5mm及び50×50mmの領域にわたり平均され、全50mm×50mm平面にわたり及び各平面の中心5mm×5mm領域のみにわたり平均された結果は、それぞれ、実線及び破線で表される。明確さを期して、95%信頼区間(±2σ)は、20mmごとのみに示され、いずれの所与の深さのラン間フルエンス変動も、ほぼ正常に分布する。各ブラッグピークの位置は、水平軸に付記された実線の垂直マーカーとして表され、その幅は、対応するフルエンス-深さ曲線に一致する。
【0120】
B.中性子捕獲線量の増強の定量
推定された熱中性子フルエンス値/グレイを用いて、ホウ素中性子捕獲から得られる試験標的体積に堆積された追加の生物学的有効線量を評価した。100Gy-Eqの光子等価線量を達成するのに必要な物理線量は、陽子では90.91Gy並びに炭素及び酸素では両方とも40Gyである。表IIIに列挙された腫瘍ホウ素濃度と一緒に変換係数C=6.933×10-14と、特定の物理線量及び推定された熱中性子フルエンス/グレイと、を組み合わせて、線量ブーストを推定し、すべてのイオン種及び評価したホウ素濃度に対して値を表VIII(以下)に列挙する。
【0121】
III.考察
3つすべてのイオン種のシミュレートエネルギーの各々では、推定された熱中性子フルエンスは、PMMAファントム内に定義された2つの50mm×50mm×50mm標的体積内でブラッグピーク(表IV)及び最大中性子フルエンス点(表V)の両者を通る軸横断面の中心から隅まで11%未満異なる。
【0122】
【表4】
【0123】
【表5】
【0124】
同様に、3つすべてのイオン種のシミュレートエネルギーの各々では、推定された熱中性子フルエンスは、頭蓋ファントム内に定義された2つの50mm×50mm×50mm標的体積内でブラッグピーク(表VI)及び最大中性子フルエンス点(表VII)の両者を通る軸横断面の中心から隅までこの場合も11%未満異なる。
【0125】
【表6】
【0126】
【表7】
【0127】
ビーム軸に沿った深さに対する熱中性子フルエンスのグラジエントは、ビームエネルギーに依存し、且つ一次粒子のエネルギーが増加するとブラッグピークの近くで増加する。さらに、最大熱中性子フルエンスの平面とブラッグピークとの間の距離は、一次粒子のエネルギーの増加に伴って増加する。したがって、一連のビームエネルギー(ひいてはZ方向の深さ)及び水平・垂直ステップ(XY平面内)を含むであろう典型的な治療計画では、全熱中性子フルエンスは、インテグレートして治療体積内で事実上均一な中性子領域を生成するであろう。
【0128】
中性子フルエンス/単位吸収物理線量は、すでに文献に報告された組織内ホウ素濃度において、典型的な治療計画を遂行することにより標的体積内で陽子ビームでは20~40%程度並びに炭素及び酸素のイオンビームでは6~12%程度の全生物学的有効線量の増強を可能にする量である。
【0129】
【表8】
【0130】
報告されたホウ素濃度の各々では、正常脳組織に対して1.3のCBE係数を仮定して、腫瘍対正常組織比を用いて近接正常組織における追加線量を推定することが可能である[33、34]。最高濃度のホウ素(174ppm)及び最低腫瘍内:健常組織内ホウ素濃度比では、治療体積に送達される100Gy-Eqの陽子ビーム線量は、ホウ素の存在に起因して周囲組織に4.8Gy-Eqの最大追加線量を誘導するであろう(治療体積への42.48Gy-Eqの線量ブーストに対して)。12C及び16Oの対応する値は、それぞれ、11.79Gy-Eq及び9.72Gy-Eqの線量ブーストに対して1.3Gy-Eq及び1.1Gy-Eqである。比較すると、多形膠芽細胞腫に対するBNCT治療計画は、典型的には、2~3分割照射にわたり正常脳組織に8~14Gy-Eqのピーク線量を送達する[33]。
【0131】
最近の文献では、少分割照射(1~2分割照射のみ)による重イオン放射線療法の遂行が推奨されている[6、35~37]。実用的な観点から、このことは、1回又は2回実施する必要がありうるにすぎないので、治療プロセスにホウ素担持薬剤の注入工程を追加すれば、患者に加わる負担が最小限に抑えられる。
【0132】
ホウ素中性子捕獲療法を広く採用するのに主に障害となるのは、以前からそうであったように、ホウ素送達に適切な医薬剤の入手可能性ではなく好適な熱外中性子源の入手可能性であることが、最近観測された[38]。本発明の実施形態は、いずれの陽子又は重イオン治療施設でも患者自身の生体内の治療点に位置する新しい熱中性子源を適宜提供する潜在能力を有する。ホウ素及びガドリニウムを担持した新しい薬剤及び送達方法の開発のさらなる進歩を見込んで、腫瘍特異性及び潜在的に達成可能な組織中濃度を大きくすれば、将来的にさらに大きな線量増強が達成可能になると想定される。
【0133】
実施例2
さらなる実施例では、シミュレーションの類似のセットを行った。有意性は、中性子捕獲剤の非毒性ボーラス投与から得られる腫瘍内の光子等価線量が平均で10%増加することとして任意に定義される(ただし、いずれの所望の線量増加因子を用いても、この実施形態の方法を使用可能であると想定される)。そうするために、単純なシミュレートされた治療の陽子/重イオン治療計画で、有効光子等価線量の10%増加を提供するのに必要とされる中性子捕獲剤の濃度を決定し、これを文献に報告された濃度と比較する。
【0134】
第1の工程は、標的体積内の点へのペンシルビーム照射から得られる中性子フルエンスを評価することである。4つの異なるエネルギーを有する陽子及び12Cの両方のビームに対して、かかるペンシルビームのシミュレーションのセットを均一PMMA標的で行った。各シミュレーションで線量及び中性子フルエンスの分布を記録し、これらのエネルギーで得られた分布間を内挿することにより、これらの間の対応するエネルギー分布も推定した。次いで、一連の異なるエネルギーでペンシルビームが治療体積内の点のアレイを横切ってステッピングされる単純な治療計画を実現した。次いで、定義された治療体積にほぼフラットな生物学的有効線量(BED)がイオンビームにより送達されるように、各エネルギーで一次粒子フルエンスに加重し、1つが125mmの深さを中心とする且つ2つ目が165mmの深さを中心とする2つの50mm体積を評価した。次いで、一次粒子フルエンス加重に基づいて中性子フルエンス分布を推定し、各場合で全治療体積を横切って和をとった。このプロセスを介して得られた中性子フルエンス推定値に基づいて、線量の10%増加に必要とされる濃度を決定できるように、追加の中性子捕獲線量/単位一次陽子/重イオン線量/単位10B-BPA濃度を推定した。
【0135】
A.ペンシルビームシミュレーション
図10は、この例でペンシルビーム熱中性子フルエンス推定に使用したシミュレーション構成の図である。この場合も同数の入射陽子及び12Cイオンを利用し、一方、この場合もシミュレーションに使用したハドロン物理学モデルは表Iに列挙され、且つ陽子及び12Cのイオンのビームエネルギーの全セット並びに各ファントム内のブラッグピークの対応する位置は表IIに列挙されている。
【0136】
各ビームのタイプ及びエネルギーでペンシルビーム物理線量及び中性子フルエンスの分布を得て(表II参照)、一次粒子で規格化した。シミュレートされなかったビームエネルギーの線量及び中性子フルエンスの分布を推定するために(すべての中間エネルギーでシミュレーションを実施すると実質的な計算コストを生じるため)、補間手順を実施した。最初に、4つのシミュレートエネルギーの各々で得られた線量分布から測定された位置間の二次多項式補間を介して、各中間エネルギーに対するブラッグピークの予想位置を推定した。次いで、ブラッグピークが最高エネルギーのシミュレーションのものにアライメントされるように、最高エネルギーのシミュレーション以外のすべての線量及び中性子フルエンスの分布を平行移動し、そして中間エネルギーの線量及び中性子フルエンスの分布の3D空間補間を実施した。最後に、3D補間された線量及び中性子フルエンスの分布を各エネルギーに対するブラッグピークの以前に推定された位置に戻すように平行移動した。結果は、陽子では73~182MeV/u及び12Cでは150~350MeV/uの範囲内の1MeV/uのステップのエネルギーの陽子及び12Cのビームで推定された物理線量分布及び熱中性子フルエンス分布/一次粒子のライブラリーであった。本方法は近似にすぎないが、所望により、対象の範囲内の追加のエネルギーでシミュレーションを実施することにより、その確度を改善可能である。
【0137】
次いで、ペンシルビームにより堆積された物理線量分布のライブラリーを生物学的線量に変換した。陽子に対しては、相対生物学的有効性係数を1.1であるとみなし、一方、12Cに対しては、ブラッグピークでは3.0、入口プラトー及びビルドアップ領域(最大値の60%未満の堆積線量を有する領域として定義される)では1.5、及び中間領域ではこれらの値間の線形補間値とみなした。次いで、生物学的線量分布を用いて各ビームタイプに対して2つの標的体積の単純な治療計画を開発した。k番目のエネルギー(k∈[1...K])の中心ペンシルビームに対するこうした三次元線量分布は、BEDctr,kで表される。対応する中性子フラックスはΦctr,kで表される。
【0138】
B.中性子捕獲線量の増強の推定
この実施例は、特定の治療計画の評価ではなくこの実施形態の実現可能性の決定に関するものであるので、光子等価生物学的線量の10%増加を達成するのに必要であろうと思われる中性子捕獲剤濃度のオーダーを推定するために、PMMA標的で単純なジェネリック治療計画のセットを開発した。各エネルギーに対して、BED及び中性子フルエンスマップ(すでに導入された補間方法により計算される)は、kエネルギーの各々で合計でR×C位置まで各エネルギーのブラッグピーク深さに対応する治療体積の横方向(xy)平面を横切ってステッピングされる。
【数3】
式中、BEDctr,k(r,c)は、ブラッグピークの中心が平面内の行及び列(r,c)に位置するように横方向に平行移動されたBEDctr,kであり、且つΦ(r,c)は、対応する中性子フルエンスである。所望の光子等価線量がDである場合、本目的は、フラット線量を最もよく近似する各エネルギーkの所要の一次粒子の数Nkを決定することにより、治療体積内で可能なこの線量の最も均一な近似を達成することである。これは、Nが正でなければならないという拘束条件を課してレーベンバーグ・マーカート最適化などの最適化技術を用いて
【数4】
を解くことにより得られる。次いで、各エネルギーで必要とされる一次粒子の全数と、各エネルギーに対する中性子生成/一次粒子の対応するマップと、を乗算することにより、ファントム(治療体積内及び治療体積外の両方)全体にわたる全中性子フルエンスfのマップを生成することが可能である。
【数5】
【0139】
中性子捕獲剤の存在から得られる生物学的線量の増強は、BNCT文献ではホウ素線量と通常いい、以下の関係式:
=ΦσNCANCA×CBE
を用いて推定される。式中、σNCAは、フルエンスカーマ変換係数(10Bでは約8:66×10-14及び157Gdでは9:27×10-15)であり、NNCAは、百万分率単位の中性子捕獲剤の濃度であり、且つ化合物生物学的有効性CBE=3.8(10B-BPAの場合)及び≒40(DOTA157-ガドリニウムトリフェニルホスホニウム塩錯体の場合)である(同一の作用剤を用いた且つ予想されたオージェ電子生成を補正した光子活性化療法の領域の研究結果に基づく)。
【0140】
この実施例では、標的線量はD=1GyEに設定し、R=C=11、且つ行間及び列間のステップは、各エネルギーで50mmの治療平面に対して5mm(すなわちビームのFWHMと同一)に設定した。第1の治療体積では100mm~150mmの深さ間及び第2のものでは140mm~190mmの深さ間の拡大ブラッグピーク(SOBP)に拡張するように、一連のエネルギーを選択した。エネルギーは、1MeV/uのステップでインクリメントした。したがって、各治療体積は50mmの体積であり、1GyEの線量がイオンビームにより送達される。
【0141】
C.報告された中性子捕獲剤濃度
ホウ素及びガドリニウムの報告された臨床及び/又は前臨床の組織中濃度の選択は、それぞれ、腫瘍対健常組織の濃度比と一緒に表III及びIXに列挙されている。
【0142】
【表9】
【0143】
D.結果
治療計画及び中性子フルエンス分布
治療計画は、陽子及び炭素イオンの両方のビームの各標的体積に対して準備した。標的体積を横切って1GyEの平均生物学的線量を達成するのに必要とされる各エネルギーの一次粒子の全数を計算し、且つ3D線量分布を計算した。より浅い治療体積(100mm~150mmの範囲内の深さ)の炭素イオン照射の場合を図11A~11Dに示す。
【0144】
治療計画のエネルギーの各々に対応する一次粒子当たりの中性子分布は、各計画で決定された一次粒子の数によりスケーリングされ、すべてのエネルギーに対して和がとられた。得られた中性子フルエンス分布の例(最大値に対するパーセントとして示される)を図12A~12Fに示す。
【0145】
治療体積内で得られた最大中性子フルエンス、平均中性子フルエンス、及び最小中性子フルエンスを表Xに列挙する。
【0146】
【表10】
【0147】
【表11】
【0148】
【表12】
【0149】
表XI及びXIIの結果は、実施例1のもの(表VIII参照)よりも優れており、それに取って代わることに留意されたい。実施例2で実現されたアドホック治療計画は、各離散ビームエネルギーの加重係数を計算する際に入射線量を適正に補正する。したがって、熱中性子のフラグメント化及び内部発生の結果としての中性子フルエンスの後続推定は、実施例1と比較して臨床治療計画で見られるもののより正確な表現である。
【0150】
所要のNCA濃度
生物学的有効線量の10%増加を達成するのに必要な10B及び157Gdの腫瘍内濃度は、それぞれ、表XI及びXIIに列挙されている。各作用剤のCBEは、各々列挙された支持刊行物で推定された値に基づく。これらの推定腫瘍内濃度、報告された腫瘍:正常組織濃度比、及び正常組織CBEに基づいて、正常組織生物学的有効線量の最大パーセント増加を表XIIIに列挙する。
【0151】
【表13】
【0152】
脳内におけるBPA及びBPAに対する腫瘍:健常10B濃度比は、それぞれ、Barth et al.[14]及びKoganei et al.[32]に報告された値に基づき、BSHに対しては、値はSuzuki et al.[26]に報告されている。腫瘍:健常157Gd濃度比は、70:1とみなされるが、さらに高い値が文献に報告されている。正常組織CBEは、157Gd系作用剤に対してまだよく知られていないが、腫瘍の場合と同一の値を有するとここではみなす(最悪の場合の仮定)。
【0153】
E.考察
表XI及びXIIに列挙されている各NCAの腫瘍内濃度を調べることにより、いくつかの結論を導出しうる。最初に、BPA及びBSHでは両方とも、肝臓で生物学的有効線量の10%増加を達成するのに必要なNCA濃度は、脳で必要とされるものよりも実質的に低く、BPAは、高いCBEと良好な腫瘍/正常部組織コントラストとの組合せがSuzuki et al.[26]に報告されているので、とくに有望に見える。一方、10%に近い線量ブーストを実現するであろうと思われるBSH濃度が文献に報告されている。たとえば、Suzuki et al.[39]には、肝臓で6.4~7.5%程度の線量ブーストを提供するであろうと思われるBSH+2つの異なる塞栓形成剤で200及び234ppmまで報告された。
【0154】
脳では状況はいくらか良くなく、脳で陽子線療法時に生物学的有効線量の10%増加を達成するのに必要な10B-BPA濃度は、これまでの文献に報告された最大濃度の約3倍必要であろうと思われるが、炭素イオン療法に必要とされた濃度はさらに大きい。
【0155】
逆に言えば、文献に報告された最も高い125ppmのBPA濃度を用いると、線量の増加は、陽子線療法で約3.2~3.6%であり、炭素の場合の約半分である。これらの結果は、この実施形態に従って脳で治療するためにホウ素中性子捕獲剤を使用することを除外するものではないが、ホウ素系NCAのさらなる開発の必要性を実証する。
【0156】
興味深いことに、癌の治療が困難なことで有名な臓器である膵臓でBPAの強い取込みを報告した文献が存在する。膵臓にとりわけ適用されるBNCTの研究(とくに腫瘍対正常部NCA濃度比及びCBEに関して)はごくわずかであると思われるが、この実施形態の良好な候補であると思われる。
【0157】
いくつかの有望な新しい10B系NCAは、依然として開発中である[30]。BSHは、細胞膜を直接透過できないことが主な理由で、BNCTのNCAとしていくらか期待外れである。しかしながら、8例までのBSH化合物とペプチド鎖とを組み合わせたいくつかのBSH由来化合物が提案されており、これらは膜を透過して細胞内に高濃度のホウ素を送達可能である。これらの化合物で5000ppmを超えるホウ素濃度が報告されている[51]。他の有望な最近の研究では、BNCTでNCAとして窒化ホウ素ナノチューブを用いた使用が調べられており、これもまた、非常に高い10B濃度を腫瘍に潜在的に送達可能である[52]。
【0158】
157Gdでは状況はより複雑である。値は、157Gd原子をどのように分布させるかにきわめて依存し、DNAに静電的に結合させるか又は細胞核に濃縮させるかのどちらかである場合、所要の濃度は十分に文献の報告の範囲内にあり、ガドリニウムが細胞質内又は細胞膜外にある場合でさえも、このことが維持される。現在開発中のガドリニウム化合物のいくつかは、きわめて選択的な腫瘍取込み、とくに核及びミトコンドリアへの高い取込みが見られるので、多くの非常に有望な性質を有すると思われ、中性子捕獲療法に最も有効である。重要なこととして、最近開発されたガドリニウム系化合物の多くは、非常に高い腫瘍:正常組織濃度比を提供すると思われる。
【0159】
この研究で得られた所要の腫瘍内濃度とホウ素(肝臓で231ppmまで[26])及びガドリニウム(in vitroで3000ppmまで[45])の両方でこれまでに発表された値とを比較することから、いくつかの作用剤及びいくつかの標的組織に対して、生物学的有効線量の少なくとも10%増加を達成すること(又は同義的に外部放射線線量の低減ひいては正常組織合併症確率の低減)を実現できるようにすべきであることが示唆される。
【0160】
そのほか、重イオン線療法の中性子収率をさらに増加させる可能性も存在する。標的体積内での中性子の生成は、典型的には中心的課題ではなくニューサンスとみなされるので、ヒト組織標的で大きな熱中性子生成率をもたらす特定の一次種の同定を目指した研究はほとんど存在していない。我々は、ジュウテリウムやヘリウムなどの比較的中性子リッチな一次イオン種が熱中性子収率を増加させ、ひいては陽子又は炭素イオンのどちらかを用いて可能なよりも熱中性子捕獲により大きな線量ブーストを提供するという仮説を立てる。これは、現在のところさらなる研究の主題であり、結果は将来の研究で報告されることになる。
【0161】
この実施形態の実現から得られる健常組織に導入される追加線量に関して、ほとんどの提案されたNCAでは、線量の増加は、腫瘍に送達される線量ブーストと比較してきわめて小さいことが、表XIIIから示される(肝臓では、腫瘍:正常組織コントラスト比が比較的低い0.3であるため、最悪の場合のシナリオはBSHである)。腫瘍への一次イオン線量が70GyEである場合(典型的には数分割照射にわたり送達される)、BPA濃度が、NCEPTを介して追加の7Gyの腫瘍線量を提供するのに十分であれば、最大追加正常組織線量(治療体積の周縁で)は、脳では0.47GyE及び肝臓では1.1GyEであろう(脳及び肝臓では、それぞれ、BSHを用いて1.8GyE及び5.2GyEが得られる)。比較すると、多形膠芽細胞腫に対するBNCT治療計画は、典型的には、2~3分割照射にわたり正常脳組織に8~14GyEのピーク線量を送達する[33]。
【0162】
この実施形態で起こりうる制約の1つは、治療線量の送達を分割する必要性であり、これは、長い滞留時間を有するNCAの使用を必要とするか又はNCAの繰返し注入を必要とするかのどちらかもたらすであろう。しかしながら、直近の文献では、少分割照射(1~2分割照射のみ)による重イオン放射線療法の遂行が推奨されている[6、35~37]。実用的な観点から、このことは、1回又は2回実施する必要がありうるにすぎないので、治療プロセスにホウ素担持薬剤の注入工程を追加すれば、患者に加わる負担が最小限に抑えられる。
【0163】
この実施形態の実用性に関する最終知見として、中性子捕獲療法を広く採用するのに主に障害となるのは、適切なNCAの入手可能性ではなく好適な熱外中性子源の限られた入手可能性である[38]。このアプローチは、いずれの陽子又は重イオン治療施設でも患者自身の生体内の治療点に位置する新しい熱中性子源を適宜提供する潜在能力を有する。新しいNCAの開発のさらなる進歩を見込んで、腫瘍特異性及び潜在的に達成可能な腫瘍内濃度を大きくすれば、可能な限り、超音波又は他の取込み増強方法と組み合わせれば、将来的にさらに大きな線量増強が達成可能になると想定される。
【0164】
F.結論
この実施例では、陽子線療法及び炭素イオン線療法から得られる熱中性子フルエンス分布が、ブラッグピークの近くで(すなわち、治療体積内の点から)主に発生し、すべての方向にブラッグピークからの距離が増加するにつれて中性子フルエンスが減少することを実証する。現実的治療計画から得られるフルエンス分布は、すでに文献に報告された大きさ程度の現実的NCA濃度の10%程度の有意な増加を可能にするのに十分である。正常組織で得られる線量増加はきわめて控えめであり、患者への追加の害を引き起こす可能性は低いと考えられる。
【0165】
実施例3
上述した実施形態のアプローチを実験的に試験した。in vitroで達成可能な生物学的線量の有効増加を定量するために、一連の概念実証実験を日本のHIMAC施設で実施した。培養したT98-G癌細胞をT25細胞培養フラスコの内表面に接着し、中性子捕獲剤の現実的濃度の存在下又は不在下で炭素及びヘリウムのイオンビームを照射した。
【0166】
T98G(JCRB9041、ヒト多形膠芽細胞腫)細胞系の3つのフリーズバイアルは、国立医薬基盤・健康・栄養研究所(Institutes of Biomedical Innovation,Health and Nutrition)JCRB細胞バンクから購入し、実験全体を通じて使用した。
【0167】
実験の開始前、細胞を蘇生し、2回継代し、その後、5mLの完全成長培地(DMEM+10%FBS)の入った160個のT25フラスコに播種した。5±1%COの雰囲気で37±1℃のフラスコをインキュベートした。
【0168】
実験では、60mm拡大ブラッグピーク(SOBP60)スペクトル及び1Gy/minの近似線量率を有する12C及びHeのビームを利用した。細胞生存能は、2種の中性子捕獲剤、すなわち、10B富化された4-ボロノ-L-フェニルアラニン(10B-BPA)及び2,2’,2’’-(10-(4-(((トリフェニルホスホニオ)メチル)ベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)トリアセタトガドリニウム(III)トリフルオロアセテート(157Gd-DOTA-TPP塩錯体)の存在下又は不在下で培養されたT98-Gヒト膠芽細胞腫細胞でイオンビーム線量の関数として測定した。
【0169】
2つのフラスコを保持するためのPMMA容器と組み合わせて300×300×10mmPMMAスラブのセットを使用した。この配置を用いて、図13に模式的に示されるようにSOBP60の中点に対応する深さで入射ビームに垂直な平面内の立方体300×300×300mmPMMAファントムの内側に、細胞培養物を含有するフラスコを配置した。例示を目的として、実施例2でモンテカルロシミュレーションにより予測された中性子フルエンスがこの図にオーバーレイされている。イオンビームは、それぞれ、290MeV/u及び150MeV/uの平均エネルギー(PMMAで約8~14cmのSOBP深さ範囲に対応する)を有する100×100mm(幅×高さ)及びSOBP60エネルギースペクトルの寸法の12C及びHeのビームであった。
【0170】
in vitro測定。
HIMAC生物学的ビームラインで照射キャンペーンを4夜連続で実施した(ヘリウムイオンビーム照射は第2夜及び第4夜に行い、且つ炭素イオンビーム照射は第1夜及び第3夜に実施した)。各夜に80%~90%の集密度(約3.75×10細胞/フラスコに対応する)で40個のフラスコに照射した。各照射の24時間前、10個のフラスコを500μMの10B-BPAと共にインキュベートし、一方、10個のフラスコの第2のセットを500μMの157Gd-DOTA-TPP塩錯体と共にインキュベートした。残りの20個のフラスコは対照として使用した。
【0171】
照射夜、ビームの線量率を校正し、ブラッグピークの中心(細胞の位置に対応する)の線量深さ堆積及び線量率をイオン化チャンバーで測定した。照射の直前、フラスコに完全DMEM培地(約30mL/フラスコ)を充填した。フラスコにペアで照射し、中性子捕獲剤を含有するフラスコに一緒に照射し、続けて、対応する対照フラスコ(中性子捕獲剤を含有しない)に照射した。各イオンビームで10の異なる線量値、すなわち、ヘリウムでは0、0.9、1.8、2.3、2.7、3.2、3.6、4.1、4.6、及び7.3Gy、並びに炭素では0、0.6、1.3、1.6、1.9、2.2、2.5、2.8、3.1、及び5Gyを使用した。
【0172】
照射後、培地を照射フラスコから無菌状態で取り出した。細胞を5mLのDPBSで洗浄し、DPBSは取り出して廃棄した。次いで、細胞をトリプシン処理し、フラスコから引き離し、完成成長培地に再懸濁させた。細胞数及び生存能を記録した。
【0173】
各夜、16個の96ウェルプレートにポプュレートした。各ウェルは、約375細胞を含有し、且つ3ウェルの各セットは、1個のフラスコに対応する。8つの96ウェルプレートの1セットは、中性子捕獲化合物と共にインキュベートされ照射された細胞の全セットを含有し(表XIVに示される)、一方、8つのウェルプレートの第2のセットは、中性子捕獲剤をなんら用いることなく照射された細胞を含有していた(表XV)。
【0174】
【表14】
【0175】
【表15】
【0176】
反応評価
10線量値(すなわち0~5Gy)でSOBP60内の中点に照射された炭素及びヘリウムのビームに対する細胞培養物の線量反応は、最初に照射の約18時間後、その後、7夜連続して24時間ごとに、レサズリン(alamarBlue)、確立された高スループット細胞生存能アッセイを用いて評価した。その際、自動プレートリーダーを用いて各ウェルからの蛍光シグナル(細胞数に比例する)を測定することにより、細胞数/ウェルを定量し、ブランク培地を含有するウェルからのシグナルに規格化した。
【0177】
図14は、炭素イオンビームによる3Gy照射後の1週間(168時間)にわたるT98G細胞増殖(2フラスコ)のプロットである。図15は、10B-BPA(黒色)及び157Gd-DOTA-TPP(灰色)と共にインキュベートしたときの、炭素イオンビームによる3Gy照射後の1週間(168時間)にわたるT98G細胞増殖(2フラスコ)のプロットである。図16は、ヘリウムイオンビームによる3Gy照射後の1週間(168時間)にわたるT98G細胞増殖(2フラスコ)のプロットであり、一方、図17は、10B-BPA(黒色)及び157Gd-DOTA-TPP(灰色)と共にインキュベートしたときの、炭素イオンビームによる3Gy照射後の1週間(168時間)にわたるT98G細胞増殖のプロットである。
【0178】
図18A~18Dは、全部で9線量値の炭素ビーム(すなわち0~5Gy)が照射された細胞の照射後最大7日間(168時間)までの細胞増殖(生存可能細胞数で成長)対照射後時間(hr)のプロットである。
【0179】
図18Aは、照射前に10B中性子捕獲化合物と共にインキュベートされた細胞を含有するフラスコに対応し、一方、図18Bは、その中性子捕獲化合物の不在下で同一の線量値(0~5Gy)で照射されたフラスコに対応する。図18Cは、照射前に157Gd中性子捕獲化合物と共にインキュベートされた細胞を含有するフラスコに対応し、一方、図18Dは、その中性子捕獲化合物の不在下で同一の線量値(0~5Gy)で照射されたフラスコに対応する。細胞増殖は、炭素ビームの照射前に中性子捕獲化合物と共にインキュベートされたフラスコでは実質的に低減される。
【0180】
図19A~19Dは、全部で9線量値のヘリウムビーム(すなわち0~5Gy)が照射された細胞の照射後最大7日間(168時間)までの細胞増殖(生存可能細胞数で成長)対照射後時間(hr)のプロットである。
【0181】
図19Aは、照射前に10B中性子捕獲化合物と共にインキュベートされた細胞を含有するフラスコに対応し、一方、図19Bは、その中性子捕獲化合物の不在下で同一の線量値(0~5Gy)で照射されたフラスコに対応する。図19Cは、照射前に157Gd中性子捕獲化合物と共にインキュベートされた細胞を含有するフラスコに対応し、一方、図19Dは、その中性子捕獲化合物の不在下で同一の線量値(0~5Gy)で照射されたフラスコに対応する。細胞増殖は、ヘリウムビームの照射前に中性子捕獲化合物と共にインキュベートされたフラスコでは実質的に低減される。
【0182】
図20A~20Dは、それぞれ、図19A~19D(ヘリウムビームが照射された細胞に対応する)のものと同一のデータを提示するが、成長モデルを当てはめた。これらの図は、照射後7日間(すなわち168時間)にわたる細胞増殖(生存可能細胞数で成長)を例示する。
【0183】
まとめると、解析は、中性子捕獲剤(10B-BPA及び157Gd-DOTA-TPP塩錯体)の導入により達成された明瞭且つ実質的な放射線増感を示す。対照細胞培養物(中性子捕獲剤の不在下)に及ぼすすべての線量値の影響は最小限に抑えられる。しかしながら、10B及び157Gdを有する化合物で治療された細胞は、1/4~1/5への増殖速度の低減を示す。腫瘍担持動物ひいてはヒト患者におけるこうした結果の再現は、一次粒子ビームにより送達される線量を何分の一かにして有効な腫瘍制御の達成をもたらすと予想される。このことは、正常組織合併症及び決定器官に及ぼす放射線の望ましくない副作用の低減をもたらすと予想される。
【0184】
これらの結果は、NCPETの効果、すなわち、標的体積に近接又は近傍する病変を標的とするその能力に関する追加の仮説をさらに支持する。臨床粒子線療法では、標的体積に近接及び近傍する組織は、線量の40~60%を受け取る(後者はビームの経路の器官に対応する)。以上の結果から、中性子捕獲剤を添加すると、かかる一次ビームの一部のみが細胞生存能に影響を及ぼす可能性があることが実証される。高い選択性を有する中性子捕獲剤を用いれば、正確な致死線量を細胞レベルで悪性病変に標的化できると想定可能である。
【0185】
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【0186】
当業者であれば、本発明の範囲内で修正を容易に行いうる。したがって、本発明は、以上の実施例により記載される特定の実施形態に限定されるものではないことを理解すべきである。
【0187】
以下の特許請求の範囲及び以上の本発明の説明では、明示的表現又は必然的含意に起因して文脈上他の解釈が必要とされる場合を除き、「comprise(~を含む)」という語又は「comprises(~を含む)」や「comprising(~を含んでいる)」などの派生語は、包括的意味で用いられる。すなわち、明記された特徴の存在を特定するが、本発明の各種実施形態でさらなる特徴の存在又は追加を妨げない。
【0188】
さらに、本明細書における先行技術への参照はいずれも、かかる先行技術がいずれかの国で共通一般知識の一部を形成しているか又は形成していたことを示唆することを意図するものではない。
本明細書は以下の開示を含む。
<付記1>
標的体積に照射する照射方法であって、
前記標的体積内に又はそれに近接して熱中性子吸収核種をたとえば大きな中性子断面積の作用剤の形態で提供することと、
陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオンのいずれか1つ以上からなる粒子のビームを核に照射して、前記核と前記粒子との間の非弾性衝突を介した中性子の生成を促進することにより、中性子を生成することと、
を含み、
前記中性子吸収核種が、前記非弾性衝突で生成された中性子を吸収することにより、前記標的体積に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成する、方法。
<付記2>
前記標的体積に照射するように前記粒子のビームを構成することを含む、付記1に記載の方法。
<付記3>
前記ビームが高エネルギーの陽子及び/又は重イオンを含む、付記1又は2に記載の方法。
<付記4>
前記ビームが、陽子、 He、 10 C、 11 C、 12 C、 15 O、及び/又は 16 Oを含む、付記1~3のいずれか一項に記載の方法。
<付記5>
10 B及び/又は 157 Gdを含有する組成物の形態で前記熱中性子吸収核種を提供することを含む、付記1~4のいずれか一項に記載の方法。
<付記6>
前記組成物が悪性標的組織により優先的に吸収される、付記1~5のいずれか一項に記載の方法。
<付記7>
前記捕獲生成物又はフラグメントがエネルギー荷電粒子を含む、付記1~6のいずれか一項に記載の方法。
<付記8>
前記捕獲生成物又はフラグメントが高い相対生物学的有効性のエネルギー荷電粒子を含む、付記7に記載の方法。
<付記9>
前記ビームが、スポットスキャニング方式、ユニフォームスキャニング方式、高速スキャニング方式、ラスタースキャニング方式、及び/又は受動散乱方式でその経路に沿って物質に照射される、付記1~8のいずれか一項に記載の方法。
<付記10>
前記ビームが、サイクロトロン又はシンクロトロンにより適切なエネルギーを得る、付記1~9のいずれか一項に記載の方法。
<付記11>
陽子、重陽子、三重陽子、又は重イオンのビームを用いて生体組織に照射する方法であって、付記1~10のいずれか一項に記載の方法に従って前記生体組織を含む標的体積に照射することを含む方法。
<付記12>
前記粒子のビームが照射される前記核が、前記標的体積が内部に位置する被験者内に位置し、且つ前記ビームがその最大エネルギーを堆積する点が、前記被験者外にある、付記1~11のいずれか一項に記載の方法。
<付記13>
患者の治療方法であって、付記1~12のいずれか一項に記載の方法に従って前記患者の標的体積に照射することを含み、前記標的体積が生体組織を含む、方法。
<付記14>
前記標的体積が前記患者内にあり、且つ前記ビームが前記患者外にその最大エネルギーを堆積する、付記13に記載の方法。
<付記15>
前記生体組織が、腫瘍若しくはその一部、1つ以上の衛星病変、及び/又は1つ以上の転移病変を含む、付記11~14のいずれか一項に記載の方法。
<付記16>
前記標的体積への照射と組み合わせて又は並行して免疫療法を適用することをさらに含む、付記1~15のいずれか一項に記載の方法。
<付記17>
腫瘍、衛星病変、及び/又は転移病変のいずれか1つ以上の成長を阻害する方法であって、
熱中性子吸収核種を含む組成物を前記腫瘍、衛星病変、及び/又は転移病変に投与することと、
前記腫瘍、衛星病変、及び/又は頭蓋内病変内の又はそれに近接した核に陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオンのいずれか1つ以上からなる粒子のビームを照射することにより、前記腫瘍、衛星病変、及び/又は転移病変内の又はそれに近接した核と前記粒子との間の非弾性衝突を介して中性子を生成することと、
を含み、
前記中性子吸収核種が、前記非弾性衝突で生成された中性子を吸収することにより、前記腫瘍、衛星病変、及び/又は転移病変に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成する、方法。
<付記18>
前記ビームが、高エネルギーの陽子及び/又は重イオンを含む、付記17に記載の方法。
<付記19>
前記ビームが、陽子、 He、 10 C、 11 C、 12 C、 15 O、及び/又は 16 Oを含む、付記17又は18に記載の方法。
<付記20>
10 Bを含有する組成物の形態で前記熱中性子吸収核種を提供することを含む、付記17~19のいずれか一項に記載の方法。
<付記21>
157 Gdを含有する組成物の形態で前記熱中性子吸収核種を提供することを含む、付記17~19のいずれか一項に記載の方法。
<付記22>
前記組成物が、前記腫瘍、衛星病変、及び/又は頭蓋内転移病変により優先的に吸収される、付記20又は21に記載の方法。
<付記23>
前記捕獲生成物又はフラグメントがエネルギー荷電粒子を含む、付記17~22のいずれか一項に記載の方法。
<付記24>
前記捕獲生成物又はフラグメントが高い相対生物学的有効性のエネルギー荷電粒子を含む、付記23に記載の方法。
<付記25>
前記ビームが、スポットスキャニング方式、ユニフォームスキャニング方式、高速スキャニング方式、ラスタースキャニング方式、及び/又は受動散乱方式でその経路に沿って物質に照射され、前記照射が、前記熱中性子吸収核種により後続的に捕獲されうる熱中性子の生成をもたらす、付記17~24のいずれか一項に記載の方法。
<付記26>
前記標的体積が被験者内にあり、且つ前記ビームがその最大エネルギーを前記被験者外に堆積する、付記17~25のいずれか一項に記載の方法。
<付記27>
前記ビームが、サイクロトロン又はシンクロトロンにより適切なエネルギーを得る、付記17~26のいずれか一項に記載の方法。
<付記28>
前記腫瘍、衛星病変、及び/又は頭蓋内転移病変に照射することと組み合わせて又は並行して免疫療法を適用することをさらに含む、付記17~27のいずれか一項に記載の方法。
<付記29>
粒子線療法のパラメーターを決定するコンピューター実装方法であって、
デフォルト又は選択パラメーターのセットに基づいて、
a)標的体積内の又はそれに近接した核への陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオンのいずれか1つ以上からなる一次粒子のビームの照射、
b)前記標的体積内の又はそれに近接した前記核と前記一次粒子との間の非弾性衝突を介した中性子の生成、及び
c)少なくとも1つの大きな中性子断面積の作用剤と、前記標的体積内の原子と前記一次粒子との間の非弾性衝突から生成された熱中性子と、の間の中性子捕獲反応及び中性子核反応の結果として放出される捕獲生成物又はフラグメントの生成、
をモデリング又はシミュレートすることと、
前記捕獲生成物又はフラグメントの生成と、(i)捕獲生成物若しくはフラグメントのあらかじめ決められたテンプレートの若しくは所望の生成又は(ii)経験的検証データのどれかとの間の差を決定することと、
前記差に基づいてパラメーターの修正セットを発生することと、
を含む、方法。
<付記30>
前記モデリングすることが、前記標的体積内の組織への前記捕獲生成物又はフラグメントの照射をモデリングすることをさらに含む、付記29に記載の方法。
<付記31>
前記組織が、腫瘍若しくはその一部分、1つ以上の衛星病変、及び/又は1つ以上の転移病変を含む、付記29又は30に記載の方法。
<付記32>
前記モデリングすることが、前記熱中性子吸収核種を含む組成物を前記標的体積内に配置することをさらに含む、付記29~31のいずれか一項に記載の方法。
<付記33>
前記パラメーターが、
i)照射の持続時間、
ii)前記ビームの組成、
iii)前記ビームの粒子のエネルギー、
iv)前記ビームの粒子のピーク放射線生物学的有効性、
v)前記ビームの粒子の物理線量堆積、
vi)前記組成物、
vii)前記組成物の濃度、
viii)前記組成物の空間分布、
ix)前記生成された中性子のフルエンス、
x)前記ビームに対する標的体積の位置、及び
xi)イオン特異的生物学的効能、
のいずれか1つ以上のを含む、付記29~32のいずれか一項に記載の方法。
<付記34>
前記標的体積を組織等価物質としてモデリング又はシミュレートすることを含む、付記29~33のいずれか一項に記載の方法。
<付記35>
前記組織等価物質がPMMA(ポリ(メチルメタクリレート))を含む、付記34に記載の方法。
<付記36>
前記モデリング又はシミュレートすることがモンテカルロシミュレーションを含む、付記29~35のいずれか一項に記載の方法。
<付記37>
前記経験的反応検証データが中性子フルエンスデータを含む、付記29~36のいずれか一項に記載の方法。
<付記38>
粒子線療法パラメーターライブラリー用にパラメーターの1つ以上のセットを決定することを含む、付記29~37のいずれか一項に記載の方法。
<付記39>
前記粒子のビームが照射される前記核が、前記標的体積が内部に位置する被験者内に位置するように、且つかかるエネルギーのビームが、その最大線量堆積点を前記標的体積が内部に位置する被験者外に配置して使用されるように、モデリング又はシミュレートすることを含む、付記29~38のいずれか一項に記載の方法。
<付記40>
1つ以上のプロセッサーにより実行するとき、付記29~39のいずれか一項に記載の粒子線療法のパラメーターを決定する方法を実装するように構成されたコンピューターソフトウェア。
<付記41>
付記40に記載のコンピューターソフトウェアを含むコンピューター可読媒体。
<付記42>
陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオンのいずれか1つ以上を含む一次粒子を供給する粒子源と、
前記粒子を加速することにより粒子ビームを提供するアクセラレーターと、
前記アクセラレーターからの前記粒子ビームを抽出する抽出ビームラインと、
前記粒子ビームを方向付けるように構成された1つ以上のビームステアリングユニットと、
前記照射システムを制御する制御システムと、
を含み、
前記制御システムが、標的体積へのあらかじめ決められた照射を実現するために、照射プログラムを含むか又はそれにアクセスするように構成され、前記あらかじめ決められた照射が、
前記標的体積内の又はそれに近接した核に前記粒子ビームを照射して、その内の又はそれに近接した核と前記粒子との間の非弾性衝突を介した中性子の生成を促進し、それにより、照射前に前記標的体積に提供された熱中性子吸収核種が前記非弾性衝突で生成された中性子を吸収して、前記標的体積に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成すること、
を含む、照射システム。
<付記43>
前記照射プログラム又はそれに利用されるパラメーターのセットが、特定の標的体積又は被験者に適合化又は個別化される、付記42に記載の照射システム。
<付記44>
前記粒子源が、水素、ヘリウム、二酸化炭素、酸素、又は他の供給ガスをイオン化するイオナイザーを含む、付記42又は43に記載の照射システム。
<付記45>
前記アクセラレーターがサイクロトロン又はシンクロトロンを含む、付記42~44のいずれか一項に記載の照射システム。
<付記46>
前記アクセラレーターが、前記粒子に初期加速を提供して前記サイクロトロン又はシンクロトロンに供給するリニアアクセラレーターをさらに含む、付記45に記載の照射システム。
<付記47>
前記標的体積が、腫瘍若しくはその一部又は1つ以上の微小転移を含む、付記42~46のいずれか一項に記載の照射システム。
<付記48>
前記標的体積が内部に位置する被験者外に前記核が位置するとき、前記システムが、前記核に前記粒子のビームを照射するように制御可能である、付記42~47のいずれか一項に記載の照射システム。
<付記49>
照射システムを制御する制御システムであって、
前記照射システムの粒子源を制御するように構成された粒子供給コントローラーであって、一次粒子を供給する前記粒子源が、陽子、重陽子、三重陽子、及び重イオンのいずれか1つ以上を含む、粒子供給コントローラーと、
前記照射システムのアクセラレーターを制御するように構成されたアクセラレーターコントローラーであって、前記アクセラレーターが前記粒子を加速することにより粒子ビームを提供する、アクセラレーターコントローラーと、
前記粒子ビームを方向付けるように構成された1つ以上のビームステアリングユニットを制御するビームステアラーと、
前記アクセラレーターからの加速粒子の抽出を制御する抽出コントローラーと、
を含み、
前記制御システムが、標的体積へのあらかじめ決められた照射を実現するために、照射プログラムを含むか又はそれにアクセスするように構成され、前記あらかじめ決められた照射が、
前記標的体積内の又はそれに近接した核に前記粒子ビームを照射して、前記標的体積内に又はそれに近接して提供された熱中性子吸収核種と前記粒子との間の非弾性衝突を介した中性子の生成を促進し、それにより、照射前に前記標的体積に提供された熱中性子吸収核種が前記非弾性衝突で生成された中性子を吸収して、前記標的体積に照射される捕獲生成物又はフラグメントを生成すること、
を含む、制御システム。
<付記50>
前記照射プログラムを決定するように構成された治療計画システム(TPS)をさらに含む、付記49に記載のシステム。
<付記51>
前記照射システムにより提供された粒子ビームに対して前記標的体積を配置して前記あらかじめ決められた照射を送達するように、被験者カウチの位置及び/又は向きを1回以上制御するカウチコントローラーをさらに含む、付記49又は50に記載のシステム。
<付記52>
前記標的体積が内部に位置する被験者外に前記核が位置するとき、前記制御システムが、前記核への前記粒子のビームの照射を実現するように制御可能である、付記49~51のいずれか一項に記載の制御システム。
<付記53>
付記1~39のいずれか一項に記載の方法を実施するように前記照射システムを制御することを含む、照射システムの制御方法。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図19A
図19B
図19C
図19D
図20A
図20B
図20C
図20D