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特許7405783超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法
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  • 特許-超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法 図1
  • 特許-超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法 図2A
  • 特許-超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法 図2B
  • 特許-超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法 図2C
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  • 特許-超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20231219BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20231219BHJP
   H01F 6/04 20060101ALI20231219BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20231219BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01N24/00 600D
A61B5/055 331
G01N24/00 610Y
H01F6/04 ZAA
H01F6/06 140
H01F6/06 130
H01F5/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021015019
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118461
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 一宗
(72)【発明者】
【氏名】一木 洋太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晋士
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535709(JP,A)
【文献】特開2010-147370(JP,A)
【文献】特開2018-060926(JP,A)
【文献】特開2013-144099(JP,A)
【文献】特開2011-015841(JP,A)
【文献】特開2018-086037(JP,A)
【文献】特開2016-119431(JP,A)
【文献】特開2004-141412(JP,A)
【文献】特開平10-177900(JP,A)
【文献】特開昭63-012113(JP,A)
【文献】特開昭61-007610(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106098291(CN,A)
【文献】3章 強磁場,電子情報通信学会「知識ベース」,9群(電子材料・デバイス)-10編(真空,日本,電子情報通信学会,2019年05月20日,第1-15頁
【文献】LHD超電導コイル励磁用電源システム,低温工学,日本,2018年,Vol. 53, No. 3,pp. 122-129,doi: 10.2221/jcsj.53.122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-G01N 24/14
A61B 5/055
H01F 5/00-H01F 7/20
G01R 33/00-G01R 33/64
H05H 7/00-H05H 7/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
Scitation
SPIE Digital Library
Science Direct
IEEE Xplore
APS Journals
arXiv
JJAP
APEX
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導磁石を形成する超伝導コイルと、
永久電流が流される閉回路を前記超伝導コイルと共に形成する永久電流スイッチと、
前記超伝導コイルおよび前記永久電流スイッチを収容したクライオスタットと、
前記超伝導コイルと並列に接続されて前記クライオスタットの外部に配置されており、
前記超伝導コイルを減磁させるときに前記超伝導コイルに蓄積されたエネルギを減衰させる外部抵抗素子と、
前記超伝導コイルと並列に接続されて前記クライオスタットの外部に配置されており、前記閉回路に対して永久電流の逆電流を通電可能な外部電源と、
前記外部電源と直列に接続されており、前記外部電源と前記超伝導コイルとの間の通電を遮断自在である遮断器と、を備え、
前記超伝導コイルおよび前記永久電流スイッチは、二ホウ化マグネシウムまたは高温超電導体で形成された超伝導フィラメントを有する超伝導線材で形成されており、
前記超伝導磁石を減磁させるとき、前記外部電源から前記閉回路に対して前記永久電流の逆電流を流し、
前記永久電流スイッチに流れる電流量が低下したとき、前記永久電流スイッチをオフ状態に切り替えると共に、前記遮断器をオフ状態に切り替え、前記超伝導コイルと前記外部抵抗素子によって形成される閉回路において、前記超伝導コイルに流れる電流を前記外部抵抗素子に流して前記超伝導磁石を減磁させる超伝導磁石装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導磁石装置であって、
前記永久電流スイッチ、前記外部電源および前記遮断器が、無停電電源装置を備える超伝導磁石装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超伝導磁石装置であって、
前記超伝導コイルは、複数の超伝導フィラメントが撚り合わされて撚線構造に設けられた超伝導線材で形成されており、
前記超伝導線材は、複数の前記超伝導フィラメントと、複数の前記超伝導フィラメントを埋設して覆う母材と、前記母材の外周を覆う中間材と、前記中間材の外周を覆う安定化材と、を備え、
前記超伝導フィラメントは、二ホウ化マグネシウムで形成されており、
前記中間材は、前記母材よりも電気抵抗率が高い超伝導磁石装置。
【請求項4】
請求項に記載の超伝導磁石装置であって、
前記母材は、鉄またはニオブであり、
前記中間材は、ステンレス鋼またはニッケル銅合金であり、
前記安定化材は、銅である超伝導磁石装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超伝導磁石装置であって、
前記外部抵抗素子の抵抗値が1Ω以上である超伝導磁石装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超伝導磁石装置であって、
前記永久電流スイッチのオフ状態における抵抗値が前記外部抵抗素子の抵抗値の10倍以上である超伝導磁石装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超伝導磁石装置であって、
前記永久電流スイッチは、超伝導フィラメントと、前記超伝導フィラメントの外周を覆う母材と、を備え、
前記超伝導フィラメントは、二ホウ化マグネシウムで形成されており、
前記母材は、ニオブチタン合金またはステンレス鋼である超伝導磁石装置。
【請求項8】
請求項1に記載の超伝導磁石装置であって、
前記外部抵抗素子は、全抵抗値を変更可能な可変式抵抗素子である超伝導磁石装置。
【請求項9】
請求項に記載の超伝導磁石装置であって、
前記外部抵抗素子は、
互いに並列に接続された複数の抵抗素子と、
複数の前記抵抗素子のそれぞれと直列に接続されており、前記抵抗素子と前記超伝導コイルとの間の通電を遮断自在である遮断器と、を備え、
前記遮断器の開閉によって前記抵抗素子の合成抵抗値が変更される超伝導磁石装置。
【請求項10】
請求項1に記載の超伝導磁石装置を備えた磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
永久電流モードで運転される超伝導磁石を減磁させる超伝導磁石の減磁方法であって、
超伝導磁石を形成する超伝導コイルと、
永久電流が流される閉回路を前記超伝導コイルと共に形成する永久電流スイッチと、
前記超伝導コイルおよび前記永久電流スイッチを収容したクライオスタットと、
前記超伝導コイルと並列に接続されて前記クライオスタットの外部に配置されており、
前記超伝導コイルを減磁させるときに前記超伝導コイルに蓄積されたエネルギを減衰させる外部抵抗素子と、
前記超伝導コイルと並列に接続されて前記クライオスタットの外部に配置されており、前記閉回路に対して永久電流の逆電流を通電可能な外部電源と、
前記外部電源と直列に接続されており、前記外部電源と前記超伝導コイルとの間の通電を遮断自在である遮断器と、を備える超伝導磁石において、
前記超伝導コイルおよび前記永久電流スイッチは、二ホウ化マグネシウムまたは高温超電導体で形成された超伝導フィラメントを有する超伝導線材で形成されており、
前記超伝導磁石を減磁させるとき、前記外部電源から前記閉回路に対して前記永久電流の逆電流を流し、
前記永久電流スイッチに流れる電流量が低下したとき、前記永久電流スイッチをオフ状態に切り替えると共に、前記遮断器をオフ状態に切り替え、前記超伝導コイルと前記外部抵抗素子によって形成される閉回路において、前記超伝導コイルに流れる電流を前記外部抵抗素子に流して前記超伝導磁石を減磁させる超伝導磁石の減磁方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導磁石を減磁させる減磁機構を有する超伝導磁石装置、これを備えた磁気共鳴イメージング装置、および、永久電流モードで運転される超伝導磁石を減磁させる超伝導磁石の減磁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:MRI)装置は、医療分野で画像診断に用いられており、病態の診断に必要不可欠なツールとなっている。MRI装置は、超伝導磁石が作る強い静磁場を利用した装置であり、永久電流モードで運転される。永久電流モードとは、超伝導コイルが形成する閉回路に実質的に減衰しない超伝導電流を流して磁場を発生させる運転方式である。
【0003】
MRI装置のような超伝導磁石装置において、超伝導コイルには、永久電流スイッチ(Persistent Current Switch:PCS)が並列に接続されている。超伝導コイルや永久電流スイッチには、臨界温度以下で超伝導体となる超伝導フィラメントを心線とした超伝導線材が用いられている。超伝導コイルと永久電流スイッチとは、実質的にゼロ抵抗で通電可能なように超伝導接続されている。
【0004】
永久電流スイッチは、抵抗が高い状態(オフ状態)とゼロ抵抗の状態(オン状態)とに切り替え可能な素子であり、運転方式を電源駆動モードから永久電流モードに切り替えるために用いられる。熱式の永久電流スイッチは、ボビン等に巻回された超伝導線材と、運転方式の切り替え時に超伝導線材を加熱するヒータを備えている。永久電流スイッチは、超伝導線材が臨界温度以下に冷却されるとオン状態となり、超伝導線材が加熱されて常伝導状態になるとオフ状態となる。
【0005】
超伝導磁石装置の運転を開始する電源駆動モードでは、永久電流スイッチをオフ状態とし、電源から超伝導コイルに電流を流し、超伝導コイルを励磁させる。その後の永久電流モードでは、永久電流スイッチをオン状態とし、電源からの電流を低下させて、超伝導コイルと永久電流スイッチによって形成される閉回路に超伝導電流を流す。閉回路に流れる超伝導電流は、実質的にゼロ抵抗で通電される永久電流となり、安定的な静磁場を発生させる。
【0006】
従来、商業的に流通しているMRI装置では、超伝導コイル等を形成する超伝導線材に、ニオブチタン(NbTi)が用いられている。一般に、ニオブチタンを用いた超伝導コイル等は、液体ヘリウムによって冷却されている。クライオスタットの内部には、1500~2000Lの液体ヘリウムが充填されている。液体ヘリウムは、ギフォード・マクマホン(Gifford-MacMahon:GM)型冷凍機等で継続的に冷却される。
【0007】
クライオスタットに充填された液体ヘリウムは、超伝導コイル等を均一に冷却するだけでなく、超伝導磁石装置の信頼性を担保するのに重要な役割を果たしている。極低温に冷却された液体ヘリウムは、冷凍機への電力が停止する停電時や、冷凍機の動作不良等による冷却不能時においても、超伝導コイル等を冷却し続ける作用をもたらす。
【0008】
また、MRI装置等をはじめとする一般的な超伝導磁石装置には、事故や災害等の際に装置を緊急的に停止させるために、超伝導磁石を急速に減磁させる緊急減磁機構を備えている。一般に、緊急減磁の際には、数十秒から数分以内のうちに中心磁場を0.02T以下程度まで下げる必要がある。そのため、従来の超伝導磁石装置では、超伝導コイル等を加熱して強制的にクエンチさせている。クライオスタットに充填された液体ヘリウムは、このような緊急減磁の際に加熱によって気化して屋外等にベントされるが、気化時の蒸発潜熱によってクライオスタットの内部を冷却する作用をもたらす。
【0009】
液体ヘリウムを用いた冷却方式では、このような液体ヘリウムの作用によって、クライオスタットの内部の温度上昇を抑制することができるため、問題を解決するための時間的な猶予を得ることができる。超伝導コイルや永久電流スイッチは、装置を停止しても低温に保たれるため、再稼働が必要な場合には速やかに復旧させることができる。
【0010】
しかし、近年、ヘリウムは、入手が難しくなっており、価格が高騰している。液体ヘリウムを用いた冷却方式では、超伝導磁石の減磁時に、液体ヘリウムが気化して減少するため、減磁後には、液体ヘリウムの再充填が必要になるが、再充填には多大なコストがかかる。このような状況下、液体ヘリウムを用いない冷却方式や、液体ヘリウムの使用量が削減された冷却方式の開発が進められている。
【0011】
液体ヘリウムの使用量を削減する技術としては、サーモサイフォン式の冷却機構を備えた超伝導磁石装置が開発されており、一部で製品化されている。一般的なサーモサイフォン式の冷却機構を備えたMRI装置には、数L~数十Lの液体ヘリウムが充填されている。サーモサイフォン式によると、重力による熱対流が利用されるため、少量の液体ヘリウムであっても高い冷却能力が得られる。また、液体ヘリウムが完全に密封されるため、減磁後に液体ヘリウムの再充填が不要になる。
【0012】
液体ヘリウムを用いない冷却方式や、液体ヘリウムの使用量が削減された冷却方式では、液体ヘリウムの作用が十分に得られないため、幾つかの問題が残されている。液体ヘリウムの使用量が少ない場合、冷却喪失時にクライオスタットの内部の温度上昇が急速に進むため、超伝導コイル等でクエンチが起こり、ジュール熱による更なる温度上昇が進む。また、液体ヘリウムの使用量が少ない場合、液体ヘリウムを再充填することができないため、復旧時の超伝導コイル等の再冷却に、より時間がかかる。
【0013】
このような超伝導磁石の減磁に伴う問題に関連して、特許文献1には、エネルギダンプユニットを設けた超電導永久磁石装置が記載されている。この装置では、クエンチが起こり得るような動作不良が検出される場合に、エネルギダンプユニットを導電性コイルと並列に接続して、導電性コイルからエネルギダンプユニットへエネルギを移動させ、エネルギをクライオスタットの外に分散させている。
【0014】
また、近年、二ホウ化マグネシウム(MgB)や高温超伝導体の実用化も進められている。これらの超伝導体は臨界温度が高く、MgBの臨界温度は約40K、希土類系銅酸化物の臨界温度は約90K、ビスマス系銅酸化物の臨界温度は約110Kである。MgBや高温超伝導体によると、従来のニオブチタンよりも高温まで超伝導状態を維持できるため、液体ヘリウムによる冷却が不要になることが期待されている。
【0015】
MgBや高温超伝導体を用いた超伝導線材は、従来のニオブチタンを用いた場合と比較して、エネルギ裕度が大きいという特徴がある。エネルギ裕度Δeは、運転温度をTop、コアとシースとの複合材料である超伝導線材について合成した複合熱容量をC、定格電流をゼロ抵抗で通電可能な上限温度をTとしたとき、次の数式(1)で表される。
【0016】
【数1】
【0017】
エネルギ裕度Δeは、ニオブチタンの場合には、1kJm-3程度である。これに対し、MgBや高温超伝導体の場合には、その10~10000倍であるとされている。ニオブチタンの場合には、種々の損失による発熱が生じると、容易にクエンチが起こるのに対し、MgBや高温超伝導体の場合には、クエンチが起こり難くなることを意味する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【文献】特許第6457941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1に記載されているように、超伝導磁石を減磁させるときに、超伝導コイルのエネルギをクライオスタットの外部で消費させると、クライオスタットの内部の温度上昇を抑制することができる。超伝導コイルのエネルギを消費させる減磁機構としては、クライオスタットの外部に、保護抵抗等を設けることが考えられる。クライオスタットの内部の温度上昇が抑制されると、超伝導コイル等が低温に保たれるため、再冷却の所要時間が短縮されることになり、超伝導磁石装置を早期に復旧させることが可能になる。
【0020】
しかし、超伝導コイルのエネルギをクライオスタットの外部で消費させる減磁方法は、冷凍機への電力が停止する停電時や、冷凍機の動作不良等による冷却不能時のように、超伝導磁石の減磁に時間的な余裕がある場合には有効であるものの、超伝導磁石装置に磁性体が吸着する吸着事故時のように、時間的な余裕がない場合に関しては、依然として適用上の課題を抱えている。
【0021】
例えば、従来のニオブチタンを用いた超伝導線材を使用した超伝導磁石装置では、超伝導磁石を急速に減磁させようとしたとしても超伝導線材がクエンチを起こすため、装置を直ちに停止させる緊急減磁が困難である。ニオブチタンを用いた超伝導線材の場合、磁場を急激に低下させると、交流損失が生じるため、温度が上昇してクエンチが起こり易くなる。
【0022】
超伝導コイル等のクエンチが起こると、クライオスタットの内部でジュール熱による発熱が起こるため、装置の再稼働のために再冷却が必要になり、超伝導コイル等を加熱して強制的にクエンチさせる減磁方法のように、復旧の所要時間が長くなってしまう。また、クエンチが起こると、断線に繋がる超伝導線材の焼損や、事故ないしクライオスタットの損傷に繋がる液体ヘリウムの爆発的な気化が起こる虞もある。すなわち、従来の減磁方法では、減磁速度の制約が依然として大きいため、超伝導コイル等を加熱して強制的にクエンチさせる減磁方法と比較して、利点が得られ難くなっている。
【0023】
このような減磁速度の制約には、超伝導コイル等を形成する超伝導線材のエネルギ裕度Δeが関係している。エネルギ裕度Δeが小さい場合、冷却喪失時の時間的な余裕が少なくなる。また、クライオスタットの内部において、急速な減磁中に損失による発熱が起こるため、クエンチが起こり易くなる。特許文献1に記載された技術は、電力の喪失のように、時間的な余裕がある場合を想定しているため、急速な減磁には適用できない可能性が高い。
【0024】
そこで、本発明は、クライオスタットの内部における発熱量を抑制して超伝導磁石を急速に減磁させることができる超伝導磁石装置、これを備えた磁気共鳴イメージング装置、および、これを用いた超伝導磁石の減磁方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記課題を解決するために本発明に係る超伝導磁石装置は、超伝導磁石を形成する超伝導コイルと、永久電流が流される閉回路を前記超伝導コイルと共に形成する永久電流スイッチと、前記超伝導コイルおよび前記永久電流スイッチを収容したクライオスタットと、前記超伝導コイルと並列に接続されて前記クライオスタットの外部に配置されており、前記超伝導コイルを減磁させるときに前記超伝導コイルに蓄積されたエネルギを減衰させる外部抵抗素子と、前記超伝導コイルと並列に接続されて前記クライオスタットの外部に配置されており、前記閉回路に対して永久電流の逆電流を通電可能な外部電源と、前記外部電源と直列に接続されており、前記外部電源と前記超伝導コイルとの間の通電を遮断自在である遮断器と、を備え、前記超伝導コイルおよび前記永久電流スイッチは、二ホウ化マグネシウムまたは高温超電導体で形成された超伝導フィラメントを有する超伝導線材で形成されており、前記超伝導磁石を減磁させるとき、前記外部電源から前記閉回路に対して前記永久電流の逆電流を流し、前記永久電流スイッチに流れる電流量が低下したとき、前記永久電流スイッチをオフ状態に切り替えると共に、前記遮断器をオフ状態に切り替え、前記超伝導コイルと前記外部抵抗素子によって形成される閉回路において、前記超伝導コイルに流れる電流を前記外部抵抗素子に流して前記超伝導磁石を減磁させる。
【0026】
また、本発明に係磁気共鳴イメージング装置は、前記の超伝導磁石装置を備える。
【0027】
また、本発明に係る超伝導磁石の減磁方法は、永久電流モードで運転される超伝導磁石を減磁させる超伝導磁石の減磁方法であって、超伝導磁石を形成する超伝導コイルと、永久電流が流される閉回路を前記超伝導コイルと共に形成する永久電流スイッチと、前記超伝導コイルおよび前記永久電流スイッチを収容したクライオスタットと、前記超伝導コイルと並列に接続されて前記クライオスタットの外部に配置されており、前記超伝導コイルを減磁させるときに前記超伝導コイルに蓄積されたエネルギを減衰させる外部抵抗素子と、前記超伝導コイルと並列に接続されて前記クライオスタットの外部に配置されており、前記閉回路に対して永久電流の逆電流を通電可能な外部電源と、前記外部電源と直列に接続されており、前記外部電源と前記超伝導コイルとの間の通電を遮断自在である遮断器と、を備える超伝導磁石において、前記超伝導コイルおよび前記永久電流スイッチは、二ホウ化マグネシウムまたは高温超電導体で形成された超伝導フィラメントを有する超伝導線材で形成されており、前記超伝導磁石を減磁させるとき、前記外部電源から前記閉回路に対して前記永久電流の逆電流を流し、前記永久電流スイッチに流れる電流量が低下したとき、前記永久電流スイッチをオフ状態に切り替えると共に、前記遮断器をオフ状態に切り替え、前記超伝導コイルと前記外部抵抗素子によって形成される閉回路において、前記超伝導コイルに流れる電流を前記外部抵抗素子に流して前記超伝導磁石を減磁させる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、クライオスタットの内部における発熱量を抑制して超伝導磁石を急速に減磁させることができる超伝導磁石装置、これを備えた磁気共鳴イメージング装置、および、これを用いた超伝導磁石の減磁方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る超伝導磁石装置の等価回路を示す図である。
図2A】超伝導磁石の永久電流モードを示す図である。
図2B】超伝導磁石の減磁時に行う移行モード(永久電流スイッチオン状態)を示す図である。
図2C】超伝導磁石の減磁時に行う移行モード(永久電流スイッチオフ状態)を示す図である。
図2D】超伝導磁石の減磁時に行う減磁モードを示す図である。
図3】超伝導コイル用の超伝導線材の一例を模式的に示す断面図である。
図4】永久電流スイッチ用の超伝導線材の一例を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の変形例に係る超伝導磁石装置の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係る超伝導磁石装置、これを備えた磁気共鳴イメージング装置、および、これを用いた超伝導磁石の減磁方法について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において、共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る超伝導磁石装置の等価回路を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る超伝導磁石装置100は、超伝導磁石によって磁場を発生させる装置であり、超伝導コイル1と、永久電流スイッチ2と、クライオスタット3と、外部抵抗素子4と、外部電源5と、遮断器6と、を備えている。
【0032】
超伝導コイル1は、転移温度以下の超伝導状態で永久電流が流されると、時間変動の少ない静磁場(静磁界)を発生させる。複数の超伝導コイル1は、互いに直列に超伝導接続されている。超伝導コイル1は、超伝導線材がコイル状に巻回されて形成されている。超伝導コイル用の超伝導線材は、極低温で超伝導体状態に転移する超伝導フィラメントを心線として設けられている。
【0033】
なお、図1において、超伝導磁石装置100は、複数の超伝導コイル1を備えているが、超伝導コイル1の個数は、特に限定されるものではない。超伝導コイル1の個数は、例えば、8個等とすることができる。
【0034】
永久電流スイッチ2は、例えば、熱式の切替素子として構成される。熱式の永久電流スイッチ2は、ボビン等に巻回された超伝導線材と、超伝導線材を加熱するためのヒータと、を備える。永久電流スイッチ用の超伝導線材は、極低温で超伝導体状態に転移する超伝導フィラメントを心線として設けられている。ボビンは、例えば、銅等で形成することができる。ボビンには、無誘導巻きで超伝導線材を巻回し、絶縁性の樹脂に含浸させる。
【0035】
永久電流スイッチ2は、超伝導コイル1によって構成されるコイル群の両端子と超伝導接続される。永久電流スイッチ2は、超伝導状態において実質的にゼロ抵抗で通電可能な閉回路を超伝導コイル1と共に形成している。熱式の永久電流スイッチ2は、ヒータで加熱されると、ゼロ抵抗であるオン状態から、抵抗を示すオフ状態に切り替わる。
【0036】
クライオスタット3は、断熱性の容器として設けられ、真空容器や熱輻射シールド等を備える。クライオスタット3の内部には、超伝導コイル1および永久電流スイッチ2が収容されている。超伝導磁石装置100の運転時において、クライオスタット3の内部は、超伝導コイル1に対して実質的にゼロ抵抗で運転電流を流すために、超伝導コイル1や永久電流スイッチ2に用いられる超伝導体の臨界温度以下に冷却される。
【0037】
クライオスタット3の冷却は、例えば、ギフォード・マクマホン(GM)型冷凍機による伝導冷却によって行うことができる。クライオスタット3の内部において、冷凍機と超伝導コイル1との間や、冷凍機と永久電流スイッチ2との間には、超伝導コイル1や永久電流スイッチ2を均一且つ効率的に冷却するために、熱伝導率が高い高純度銅等を連結させた伝熱経路を設けることができる。
【0038】
クライオスタット3の冷却には、液体ヘリウムを用いてもよいし、液体ヘリウムを用いなくてもよい。液体ヘリウムを用いた冷却方式としては、10L程度の少量の液体ヘリウムを使用したサーモサイフォン式が好ましい。液体ヘリウムの使用量が削減された冷却方式を用いると、運転時や復旧時のコストを抑制しつつ、停電時や冷凍機の動作不良による冷却喪失時に、クライオスタットの内部の温度上昇を抑制することができる。
【0039】
外部抵抗素子4は、電気エネルギを熱エネルギに変換する抵抗素子であり、超伝導コイル1を減磁させるときに、超伝導コイル1に蓄積されたエネルギを減衰させる。外部抵抗素子4は、超伝導コイル1と並列に接続されており、クライオスタット3の外部に配置されている。外部抵抗素子4は、超伝導コイル1と永久電流スイッチ2によって形成される閉回路に対して、クライオスタット3の外部に配置された常伝導体である導線を介して接続されている。
【0040】
外部抵抗素子4は、超伝導コイル1を減磁させるときに、永久電流スイッチ3がオフ状態に切り替えられると、超伝導コイル1から電流が流される。外部抵抗素子4では、超伝導コイル1に蓄積されているエネルギがジュール熱等として消費される。外部抵抗素子4としては、金属等を用いた固体抵抗器、導電性液体を用いた液体抵抗器等を用いることができる。
【0041】
外部電源5は、超伝導コイル1等に電力を供給する直流電源であり、超伝導コイル1を減磁させるときに、超伝導コイル1と永久電流スイッチ2によって形成される閉回路に対して永久電流の逆電流を通電可能とされている。外部電源5は、超伝導コイル1や外部抵抗素子4と並列に接続されており、クライオスタット3の外部に配置されている。外部電源5は、超伝導コイル1と永久電流スイッチ2によって形成される閉回路に対して、クライオスタット3の外部に配置された常伝導体である導線を介して接続されている。
【0042】
外部電源5は、超伝導コイル1を減磁させるときに、超伝導コイル1と永久電流スイッチ2によって形成される閉回路に対して逆電流を通電し、負電圧を印加することにより、永久電流スイッチ2に流れる電流を減少させる。外部電源5は、少なくとも超伝導コイル1を減磁させるときに用いられるが、逆電流の通電機能と励磁電流の通電機能の両方を設けて、超伝導コイル1の減磁時および励磁時の両方で用いてもよい。或いは、減磁時に用いる外部電源5に加えて、励磁時に用いる励磁電源を個別に設けてもよい。
【0043】
遮断器6は、電流回路を開閉する装置であり、外部電源5と超伝導コイル1との間の通電を遮断自在とされている。遮断器6は、超伝導コイル1と並列、且つ、外部電源5と直列に接続されており、クライオスタット3の外部に配置されている。遮断器6を閉じると、逆電流の通電に用いた外部電源5を、超伝導コイル1や外部抵抗素子4から電気的に切り離すことができる。遮断器6としては、真空遮断器、空気式遮断器、油入遮断器、ガス式遮断器等の各種の方式を用いることができる。
【0044】
図2は、本発明の実施形態に係る超伝導磁石の減磁方法の流れを示す図である。図2Aは、超伝導磁石の永久電流モードを示す図である。図2Bは、超伝導磁石の減磁時に行う移行モード(永久電流スイッチオン状態)を示す図である。図2Cは、超伝導磁石の減磁時に行う移行モード(永久電流スイッチオフ状態)を示す図である。図2Dは、超伝導磁石の減磁時に行う減磁モードを示す図である。
図2A~2Cにおいて、太実線は、大きな電流が流れる主要な回路、細実線は、主要な回路と比較して小さな電流が流れる回路、または、通電が遮断された回路を示す。
【0045】
超伝導磁石装置100において、永久電流モードで運転されている超伝導コイル1を減磁させるときには、図2Aから図2B図2Bから図2C図2Cから図2Dの順に通電を制御する。クライオスタット3の内部に配置されている回路は、超伝導コイル1や永久電流スイッチ2に用いられる超伝導体の臨界温度以下の極低温において実質的にゼロ抵抗で通電可能である。クライオスタット3の外部に配置されている回路は、銅等の常伝導体で形成されている。
【0046】
図2Aに示すように、永久電流モードでは、超伝導コイル1と永久電流スイッチ2によって形成される閉回路に、実質的に減衰しない永久電流が流される。超伝導コイル1は、永久電流の通電によって強い静磁場を発生させる。永久電流モードでは、クライオスタット3の外部に配置されている外部抵抗素子4や外部電源5が、高抵抗な常伝導体で形成された導線によって閉回路から電気的に切り離されている。
【0047】
図2Bに示すように、本実施形態に係る減磁方法では、超伝導磁石を減磁させるとき、永久電流スイッチ2をオフ状態に切り替える前に、移行モードの運転を開始する。移行モードでは、外部電源5から超伝導コイル1に対して永久電流の逆電流を流す。超伝導コイル1と永久電流スイッチ2によって形成される閉回路に永久電流の逆電流を流すと、超伝導コイル1や永久電流スイッチ2に負電圧が加わり、永久電流スイッチ2に流れる電流が減少する。
【0048】
外部電源5による逆電流は、超伝導磁石の減磁時に許容される時間的な余裕に応じて、所定の単位時間当たり電流増加率に制御し、電流ゼロから増加させることが好ましい。また、逆電流は、永久電流スイッチ2を流れる電流量が永久電流スイッチ2のオフ状態における許容電流量以下に低下するまで増加させることが好ましい。なお、永久電流スイッチ2の許容電流量は、永久電流スイッチ2を形成する超伝導線材の線径、線長、電気抵抗や、要求される最大減磁速度に応じて、超伝導線材が焼損により断線しない範囲で設定することができる。
【0049】
続いて、図2Cに示すように、永久電流スイッチ2を流れる電流量が低下したとき、永久電流スイッチ2をオフ状態に切り替える。移行モードにおける永久電流スイッチの切り替えは、永久電流スイッチ2を流れる電流量が永久電流スイッチ2のオフ状態における許容電流量以下に低下したときに行うことが好ましい。永久電流スイッチ2をオフ状態に切り替えると、永久電流スイッチ2が常伝導状態になり、永久電流スイッチ2のオフ抵抗よりも低抵抗な外部抵抗素子4に電流が流れるようになる。
【0050】
続いて、図2Dに示すように、永久電流スイッチ2をオフ状態に切り替えた後に、遮断器6をオフ状態に切り替えて減磁モードの運転を開始する。減磁モードでは、遮断器6をオフ状態に切り替えた後、超伝導コイル1と外部抵抗素子4によって形成される閉回路において、超伝導コイル1に流れる電流を外部抵抗素子4に流して、超伝導コイル1に蓄積されたエネルギを減衰させる。遮断器6をオフ状態に切り替えると、超伝導コイル1と外部抵抗素子4によって形成される閉回路から外部電源5が電気的に切り離される。
【0051】
減磁モードでは、超伝導コイル1に流れる電流は、外部抵抗素子4の抵抗と永久電流スイッチ2のオフ抵抗との関係に応じて、外部抵抗素子4とオフ状態の永久電流スイッチ2とに分流される。外部抵抗素子4では、電流エネルギがジュール熱等として消費されるため、超伝導コイル1に蓄積されたエネルギを減衰させて超伝導磁石を減磁させることができる。永久電流スイッチ2に分流される電流量は、外部電源5から供給される逆電流によって減少すると共に、外部抵抗素子4の抵抗と永久電流スイッチ2のオフ抵抗との関係に応じた分流比で更に減少することになる。
【0052】
このような超伝導磁石装置100や、超伝導磁石の減磁方法によると、超伝導磁石を減磁させるときに、減磁モードの前に移行モードを実行するため、永久電流スイッチ2に流れる電流を減少させることができる。そのため、超伝導コイル1や永久電流スイッチ2におけるクエンチ、超伝導線材の焼損等が起こらない範囲で、超伝導磁石を従来よりも急速に減磁させることができる。永久電流スイッチ2を形成する超伝導線材や外部電源5の適切な設計によって、従来よりも急速な減磁が可能になるため、復旧の時間も短縮することができる。
【0053】
図2に示す超伝導磁石の減磁方法は、冷凍機への電力が停止する停電時や、冷凍機の動作不良等による冷却不能時や、超伝導磁石装置に磁性体が吸着する吸着事故時等のように、超伝導磁石装置100を直ちに停止させるべき緊急減磁時等に用いることができる。例えば、超伝導磁石装置100は、操作者がスイッチ等を操作して減磁プロセスを開始するように設けることができる。移行モードや減磁モードの減磁プロセスは、シーケンス制御することができる。
【0054】
永久電流スイッチ2、外部電源5および遮断器6は、停電時に動作に必要な電力を供給する無停電電源装置を備えることが好ましい。無停電電源装置を付属的に設けると、停電によって冷凍機への電力が停止した場合であっても、永久電流スイッチ2のオフ状態への切り替えや、外部電源5による逆電流の掃引や、遮断器6による回路の切り替えを行って、減磁プロセスを実行することができる。
【0055】
超伝導磁石装置100は、例えば、磁気共鳴イメージング(MRI)装置に備えることができる。MRI装置は、静磁場コイルや、永久電流スイッチや、クライオスタットの他に、傾斜磁場コイル、傾斜磁場用アンプ、RF(Radio Frequency)アンテナ、RF送受信機等を備える。MRI装置の静磁場コイルや、永久電流スイッチや、クライオスタットは、図1に示す等価回路で表される超伝導コイル1、永久電流スイッチ2およびクライオスタット3によって形成することができる。
【0056】
MRI装置の永久電流モードでは、超伝導コイル1によって形成される静磁場コイルが、患者が静止する測定位置に強い静磁場を発生させる。静磁場の強度が高いほど、核磁気共鳴周波数が高くなり、周波数分解能を向上させることができる。傾斜磁場コイルには、傾斜磁場用アンプから、必要に応じて時間変化する電流が供給される。傾斜磁場コイルは、患者が静止する測定位置に空間的な分布を持つ磁場を発生させる。RFアンテナは、測定位置に核磁気共鳴周波数の振動磁場を印加する。RF送受信機は、測定位置から発せられる共鳴信号を受信して、患者の測定部位の断層画像の作成を可能にする。
【0057】
このようなMRI装置によると、図2に示す超伝導磁石の減磁方法を用いることによって、超伝導磁石を従来よりも急速に減磁させることができるため、冷凍機への電力が停止する停電時や、冷凍機の動作不良等による冷却不能時だけでなく、MRI装置に対して、診断室内の備品、患者に植え込まれたペースメーカ等の機器やインプラント等が吸着する吸着事故時や、緊急的な診断中止時等においても、迅速にMRI装置の運転を停止させることができる。
【0058】
超伝導コイル1や永久電流スイッチ2は、MgBまたは高温超伝導体を用いた超伝導線材によって形成することが好ましい。MgBや高温超伝導体は、従来のニオブチタンと比較して、エネルギ裕度が10~10000倍程度に大きく、幅広い温度範囲において大電流をゼロ抵抗で通電可能である。そのため、従来のニオブチタンを用いる場合と比較して、クエンチのリスクを低減することができる。高温超伝導体としては、YBCO等の希土類系銅酸化物や、BSCCO等のビスマス系銅酸化物等が挙げられる。
【0059】
なお、従来のニオブチタンを用いた超伝導線材の場合、図2に示す超伝導磁石の減磁方法による急速な減磁は困難である。ニオブチタンを用いた超伝導線材は、エネルギ裕度が1kJ・m-3程度と小さいためである。文献(IEEE Trans. Appl. Supercond. 15 (2005) 1615)によると、ワイヤムーブメントによる発熱は、最大で20kJ・m-3程度に達する。ニオブチタンを用いた超伝導線材のエネルギ裕度では、樹脂含浸処理等を用いてワイヤムーブメントを十分に抑制したとしても、クエンチのリスクが残り、急速な減磁の際に磁場の急激な変動等が問題となる。
【0060】
ニオブチタン等を用いた従来の超伝導線材は、安定化材を複合化させた構造に設けられている。銅等の安定化材が、多芯線構造を有する超伝導フィラメントを埋設する形態や、線材の最外層を覆う形態で複合化されている。このような超伝導線材では、電気抵抗率が小さくなるため、電気抵抗率に反比例する結合損失を抑制することが難しいという問題がある。すなわち、ニオブチタン等を用いた従来の超伝導線材では、安定化材の使用によって、クエンチの抑制と損失の抑制とのトレードオフが生じている。
【0061】
ここで、超伝導磁石装置100の減磁時の抵抗について考える。超伝導磁石装置100において、超伝導コイル1を流れる電流Iは、超伝導磁石の合成インダクタンスをL、永久電流スイッチ2と外部抵抗素子4について合成した合成抵抗をRとしたとき、次の数式(2)で表される。合成抵抗Rは、永久電流スイッチ2の抵抗をR、外部抵抗素子4の抵抗をRとしたとき、次の数式(3)で表される。
【0062】
【数2】
【0063】
【数3】
【0064】
一般的なMRI装置は、合成インダクタンスが50H程度であり、緊急減磁の際には、0.02T程度まで数十秒から数分以内に減磁することが望まれる。超伝導磁石を1.5Tから0.02Tまで減磁する場合、その所要時間は、t0.02=4.32L/Rで表すことができる。合成インダクタンスLが50Hであるとすると、所要時間t0.02が20sの場合、合成抵抗Rは10.8Ω、所要時間t0.02が120sの場合、合成抵抗Rは1.8Ω、所要時間t0.02が1hの場合、合成抵抗Rは0.06Ωと計算される。
【0065】
したがって、一般的なMRI装置を想定した場合、超伝導コイル1を0.02Tまで減磁する所要時間として、3~4分以内の急速な減磁時間を実現するためには、超伝導コイル1に蓄積されたエネルギを減衰させる抵抗として、少なくとも1Ω以上の合成抵抗Rが望まれる。また、20~30秒以内の更に急速な減磁時間を実現するためには、10Ω以上の合成抵抗Rが望まれる。
【0066】
このような1~10Ω以上の高い抵抗値は、クライオスタット3の内部における発熱を抑制する観点からは、外部抵抗素子4が単独で示すことが望まれる。すなわち、オフ状態の永久電流スイッチ2の合成抵抗Rに対する寄与が小さく、図2Cに示す減磁モードにおいて、オフ状態の永久電流スイッチ2への分流によるジュール熱が十分に抑制されることが望まれる。
【0067】
永久電流スイッチ2のオフ状態における抵抗値は、このような観点から、外部抵抗素子4の抵抗値の10倍以上であることが好ましい。具体的には、永久電流スイッチ2のオフ状態における抵抗値は、100Ω以上1000Ω以下であることが好ましい。外部抵抗素子4の抵抗値は、1Ω以上100Ω以下であることが好ましく、10Ω以上100Ω以下であることがより好ましい。
【0068】
図2Cに示す減磁モードでは、超伝導コイル1に流れる電流が、外部抵抗素子4とオフ状態の永久電流スイッチ2とに分流される。外部抵抗素子4と永久電流スイッチ2との電流比は、R -1:R -1となる。このような抵抗値であれば、実用的な超伝導線材の線径、線長、抵抗の範囲や、外部抵抗素子4の抵抗の範囲で、オフ状態の永久電流スイッチ2への分流を抑制できるため、ジュール熱によるクライオスタット3の内部の温度上昇を抑制することができる。
【0069】
図3は、超伝導コイル用の超伝導線材の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、超伝導コイル1を形成する超伝導コイル用の超伝導線材としては、複数の超伝導フィラメントを有する多芯線構造に設けられた超伝導線材10Aが好ましく用いられる。図3には、MgBを用いた超伝導コイル用の超伝導線材の一例を示している。
【0070】
超伝導コイル用の超伝導線材10Aは、複数の超伝導フィラメント11と、複数の超伝導フィラメント11を埋設して覆う母材12と、母材12の外周を覆う中間材13と、中間材13の外周を覆う安定化材14と、を備えている。
【0071】
超伝導フィラメント11は、超伝導体であるMgBで形成される。MgBの超伝導フィラメント11は、パウダーインチューブ(Powder In Tube:PIT)法によって形成される。PIT法は、超伝導体の原料粉末を金属管に充填し、金属管に伸線加工を施した後に、反応焼結または自己焼結のための熱処理を施して、超伝導フィラメントを形成する。方法である。PIT法が用いられるため、母材12の大半は、超伝導フィラメント11を収納した不図示の金属管によって形成される。
【0072】
MgBを用いた超伝導線材の製法は、in-situ法とex-situ法とに大別される。in-situ法は、マグネシウムとホウ素の混合粉末を金属管に充填し、熱処理による反応焼結でMgBの超伝導フィラメントを形成する方法である。ex-situ法は、MgBの粉末を金属管に充填し、熱処理による自己焼結でMgBの超伝導フィラメントを形成する方法である。MgBの超伝導フィラメント11を形成する方法としては、in-situ法およびex-situ法のいずれを用いてもよい。
【0073】
母材12は、複数の超伝導フィラメント11を埋設して覆っており、超伝導線材10Aの長さ方向にわたって、各超伝導フィラメント11の外周や多芯線構造のコアの外周を覆うように延びている。母材12は、大半がバリア材である金属管によって形成されるが、金属管に加えて中心材等を用いてもよい。バリア材は、MgBを生成させる熱処理時に、MgBの原料であるMgやBと、MgBの生成を妨げる銅等の阻害因子との反応を阻止する。
【0074】
母材12は、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)や、これらの合金等で形成することができる。これらの金属は、MgやBと反応し難いため、MgBの生成を妨げることなく、MgBの超伝導フィラメント11を形成することができる。母材12の材料としては、鉄またはニオブが好ましい。鉄やニオブは、加工性が良好であり、比較的安価であるため、伸線加工が施された線材を低コストで得ることができる。
【0075】
中間材13は、超伝導線材10Aの長さ方向にわたって、母材12の外周を覆うように設けられる。中間材13は、母材12や安定化材14よりも電気抵抗率が高い材料で形成されて、母材12と安定化材14との間に配置される。このような抵抗率が高い材料で形成すると、結合電流(遮蔽電流)の安定化材14への染み出しが抑制されるため、結合損失を低減して、クライオスタット3の内部の発熱量を抑制することができる。
【0076】
中間材13は、ステンレス鋼、ニッケル銅合金等で形成することができる。ステンレス鋼としては、SUS316L、SUS316、SUS304、SUS301等のオーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。ニッケル銅合金としては、モネル400、キュプロニッケル等が挙げられる。これらの金属は、抵抗率が高く、高強度で硬さが高いため、結合損失を低減すると共に、伸線加工時の形状の乱れを抑制することができる。
【0077】
安定化材14は、超伝導線材10Aの長さ方向にわたって、中間材13の外周を覆うように設けられる。安定化材14は、母材12や中間材13よりも電気抵抗率が低く、熱伝導率が高い良導体で形成されて、中間材13の外側に配置される。安定化材14は、超伝導フィラメント11の超伝導状態を熱的に安定化させて、超伝導体のクエンチ・熱暴走を抑制する。安定化材14は、銅で形成することが好ましく、3N以上の高純度銅で形成することがより好ましい。
【0078】
安定化材14は、図3において、超伝導線材10Aの最外層を構成しているが、このような安定化材14に代えて、または、このような安定化材14と共に、断面視で門型形状等に設けられた安定化部材を備えてもよい。断面視で門型形状等に設けられた安定化部材は、超伝導線材10Aを作製した後に、ワイヤ・イン・チャンネル等の方法によって付加することができる。超伝導線材10Aの外周を安定化部材で覆うと、熱的な安定化やワイヤムーブメントの低減を図ることができるため、超伝導体のクエンチ・熱暴走を抑制することができる。
【0079】
超伝導コイル用の超伝導線材10Aによると、多芯線構造に設けられているため、高い電流密度の要求に対して超伝導フィラメント11を適切に形成して、安定的な通電特性をえることができる。従来の希土類系銅酸化物を用いた超伝導線材は、テープ状の単芯線構造が主流であり、ヒステリシス損失が大きい傾向がある。また、従来のビスマス系銅酸化物を用いた超伝導線材は、多芯線構造とされるが、結合損失が大きい傾向がある。これに対し、超伝導コイル用の超伝導線材10Aによると、電気抵抗率が母材12や安定化材14よりも高い中間材13が設けられているため、結合損失が低減されて、クエンチを起こし難くなる。そのため、図2に示す超伝導磁石の減磁方法において、クライオスタット3の内部の発熱量を抑制して、急速な減磁を実現することができる。
【0080】
超伝導コイル用の超伝導線材10Aは、複数の超伝導フィラメント11が螺旋状に撚り合わされて撚線構造に設けられることが好ましい。撚線構造に設けると、電磁気的な安定性を向上させて、損失を低減することができる。撚線構造の撚りピッチは、特に制限されるものではないが、例えば、10~300mmとすることができる。
【0081】
図4は、永久電流スイッチ用の超伝導線材の一例を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、永久電流スイッチ2を形成する永久電流スイッチ用の超伝導線材としては、単一の超伝導フィラメントを有する単芯線構造に設けられた超伝導線材10Bが好ましく用いられる。図4には、MgBを用いた永久電流スイッチ用の超伝導線材の一例を示している。
【0082】
永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bは、超伝導フィラメント11と、超伝導フィラメント11の外周を覆う母材12と、を備えている。
【0083】
超伝導フィラメント11は、超伝導体であるMgBで形成される。MgBの超伝導フィラメント11は、パウダーインチューブ(PIT)法によって形成される。MgBの超伝導フィラメント11を形成する方法としては、in-situ法およびex-situ法のいずれを用いてもよい。
【0084】
永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bにおいて、超伝導フィラメント11は、MgBに対して、不純物となる炭素源が添加されてもよい。MgBの原料となる粉末に炭素源を添加すると、熱処理中に、MgBの結晶中のホウ素の蜂の巣格子の一部を炭素に置換することができる。異種元素による置換を行うと、原子配列の周期性が乱れるため、超伝導フィラメント11自体の残留抵抗を増大させて、永久電流スイッチ2のオフ抵抗の高抵抗化を図ることができる。
【0085】
炭素源としては、コロネン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン等の炭化水素や、ステアリン酸等の有機酸や、有機酸のマグネシウム塩等や、BC、SiC等の無機炭素化合物等を用いることができる。炭素源の添加量は、超伝導フィラメントの原料あたり、2~3質量%とすることが好ましい。このような添加量であると、高い臨界電流を確保しつつ、残留抵抗を増大させる効果を十分に得ることができる。
【0086】
母材12は、超伝導線材10Bの長さ方向にわたって、超伝導フィラメント11の外周を覆っている。母材12は、バリア材である金属管によって形成される。母材12は、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)や、これらの合金等で形成することができる。母材12の材料としては、ニオブチタン合金またはステンレス鋼が好ましい。純金属は、不純物散乱が起こり難い。また、臨界温度以下の極低温では、フォノン散乱が起こり難い。これに対し、これらの合金を用いると、永久電流スイッチ2のオフ抵抗を不純物散乱によって効果的に高めることができる。
【0087】
永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bによると、単芯線構造に設けられているため、多芯線構造の場合と比較して、細線化に適しており、永久電流スイッチ2のオフ抵抗の高抵抗化に有利である。図2に示す超伝導磁石の減磁方法において、減磁モードの実行中に、オフ状態の永久電流スイッチ2への分流を抑制できるため、クライオスタット3の内部の発熱量を抑制して、急速な減磁を実現することができる。
【0088】
永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bは、超伝導コイル用の超伝導線材10Aと比較して、最大経験磁場が低い場所に設置される。永久電流スイッチ2を形成する超伝導線材は、通常、最大経験磁場が1T以下であり、磁場依存性を示す臨界電流密度が低下し難い状態にある。永久電流スイッチ2を形成する超伝導線材については、超伝導コイルを形成する超伝導線材と比較して、高い臨界電流密度が得られ易いため、必要とされる運転電流を流せる範囲で、大幅な細線化が可能であることを意味する。
【0089】
このような理由から、永久電流スイッチ2を形成する永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bの線径は、超伝導コイル1を形成する超伝導コイル用の超伝導線材10Aの線径よりも小さいことが好ましい。永久電流スイッチ2を形成する超伝導線材を細線化すると、線長を極端に長くしなくとも、永久電流スイッチ2のオフ抵抗を高くすることができる。
【0090】
具体的には、超伝導コイル用の超伝導線材10Aの線径は、高い電流密度で運転電流を流す観点や、外力による折損のリスクを低減する観点等から、1.0mm以上2.5mm以下が好ましく、1.0mm以上2.0mm以下がより好ましい。
【0091】
永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bの線径は、高い電流密度を確保しつつ細線化させる観点等から、0.4mm以上1.0mm未満が好ましく、0.4mm以上0.75mm以下がより好ましく、0.4mm以上0.5mm以下が更に好ましい。
【0092】
例えば、40Kにおいて、MgBの抵抗率は約30μΩ・cm、ニオブチタンの抵抗率は約60μΩ・cm、ステンレス鋼(SUS316L)の抵抗率は、約45μΩ・cmである。そのため、永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bは、線径を0.5mmとすると、各材料について合成した複合抵抗率が40μΩ・cmである場合に、単位長さ当たりの抵抗が2Ω・m-1となる。
【0093】
このような電気抵抗の超伝導線材を用いる場合、永久電流スイッチ2のオフ状態における抵抗値を100Ω以上とするためには、永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bの線長を50m以上にすることが好ましい。また、オフ状態における抵抗値を1000Ω以下とするためには、線長を500m以下にすることが好ましい。
【0094】
従来のニオブチタンを用いた超伝導線材は、母材として、銅ニッケル合金等の高抵抗率の材料を用いるのが一般的とされている。このような高抵抗率の材料を用いると、熱的安定性が低くなり、クエンチのリスクが高くなる。そのため、従来のニオブチタンを用いた超伝導線材で永久電流スイッチを形成する場合、線径を大きくして許容電流量を確保しなければならない。
【0095】
しかし、永久電流スイッチを形成する超伝導線材の線径を大きくすると、永久電流スイッチのオフ抵抗を高くしようとした場合に、必要な線長が長くなり、場合によっては数kmを要する。また、超伝導線材の熱容量が大きくなるため、熱式の永久電流スイッチをオフ状態に切り替えるときに、必要な入熱量が大きくなり、クライオスタットの内部の温度上昇を抑制する観点からは不利になる。
【0096】
これに対し、永久電流スイッチ2を形成する永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bの線径が、超伝導コイル1を形成する超伝導コイル用の超伝導線材10Aの線径よりも小さいほど、オフ抵抗を高くするにあたり、永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bの線長を現実的な範囲に短くすることができる。熱式の永久電流スイッチ2をオフ状態に切り替えるとき、必要な入熱量が小さくなるため、クライオスタット3の内部の温度上昇を抑制してクエンチを防止し、ジュール熱による発熱も抑制することができる。
【0097】
永久電流スイッチ2を形成する永久電流スイッチ用の超伝導線材10Bの電気抵抗は、来のニオブチタンを用いた超伝導線材の電気抵抗よりも高いことが好ましい。従来のニオブチタンを用いた超伝導線材で形成される永久電流スイッチのオフ抵抗は、数Ω~数十Ω程度である。従来の超伝導磁石装置では、超伝導磁石を減磁させるときに、急激な電流の掃引が行われず、超伝導コイル等を加熱して強制的にクエンチさせる方法が用いられている。このような超伝導線材よりも電気抵抗が高いと、クエンチのリスクを増大させることなく細線化することができる。
【0098】
図5は、本発明の変形例に係る超伝導磁石装置の等価回路を示す図である。
図5に示すように、図2に示す超伝導磁石の減磁方法を適用する超伝導磁石装置は、可変式抵抗素子を備える変形例に係る形態とすることもできる。変形例に係る超伝導磁石装置200は、超伝導磁石によって磁場を発生させる装置であり、超伝導コイル1と、永久電流スイッチ2と、クライオスタット3と、可変式抵抗素子40と、外部電源5と、遮断器6と、を備えている。
【0099】
可変式抵抗素子40は、超伝導コイルに蓄積されたエネルギを減衰させる抵抗素子であり、全抵抗値を変更可能に設けられている。可変式抵抗素子40は、複数の抵抗素子41と、複数の遮断器42と、を備えている。可変式抵抗素子40は、超伝導コイル1と並列に接続されており、クライオスタット3の外部に配置されている。可変式抵抗素子40は、自動または手動で全抵抗値を変更するように設けることができる。
【0100】
抵抗素子41は、電気エネルギを熱エネルギに変換する抵抗素子であり、超伝導コイル1を減磁させるときに、超伝導コイル1に蓄積されたエネルギを減衰させる。抵抗素子41は、可変式抵抗素子40の両端子間に、互いに並列に接続されている。抵抗素子41としては、金属等を用いた固体抵抗器、導電性液体を用いた液体抵抗器等を用いることができる。複数の抵抗素子41は、互いに同一の抵抗値として設けられてもよいし、互いに異なる抵抗値として設けられてもよい。
【0101】
遮断器42は、電流回路を開閉する装置であり、各抵抗素子41と超伝導コイル1との間の通電を遮断自在とされている。遮断器42は、各抵抗素子41と直列に接続されている。遮断器42としては、真空遮断器、空気式遮断器、油入遮断器、ガス式遮断器等の各種の方式を用いることができる。なお、図5に示すように、互いに並列に接続されている複数の抵抗素子41のうち、全抵抗値の増減に用いず、基礎抵抗として用いる抵抗素子41には、遮断器42を接続しなくてもよい。
【0102】
可変式抵抗素子40は、複数の遮断器42の開閉によって複数の抵抗素子41の合成抵抗値が変更される。可変式抵抗素子40によると、超伝導コイル1を減磁させるときに、必要とされる減磁速度に応じて合成抵抗値を変更することによって、超伝導コイル1に蓄積されたエネルギを減衰させる速度を調整することができる。
【0103】
可変式抵抗素子40の合成抵抗値は、永久電流スイッチ2のオフ抵抗よりも小さい抵抗値の範囲で変更されることが好ましい。可変式抵抗素子40の合成抵抗値は、減磁措置を行う理由に応じて、一回の減磁プロセス毎に変更してもよいし、永久電流スイッチ2等の電流量や電圧の変化に応じて、一回の減磁プロセス中に変更してもよい。
【0104】
例えば、超伝導磁石装置に磁性体が吸着する吸着事故時等のように、時間的な余裕がなく、必要とされる減磁速度が速い場合には、各遮断器42を閉じた状態として、全抵抗値を大きくすることが好ましい。一方、冷凍機への電力が停止する停電時や、冷凍機の動作不良等による冷却不能時等のように、時間的な余裕があり、必要とされる減磁速度が遅い場合には、所定の遮断器42を開いた状態として、全抵抗値を小さくすることが好ましい。
【0105】
このような可変式抵抗素子40によって、超伝導コイル1に蓄積されたエネルギを減衰させる速度を遅くし、超伝導コイル1の減磁速度を抑制すると、超伝導コイル1における損失や、永久電流スイッチ2への分流によるジュール熱を低減させることができるため、クライオスタット3の内部の発熱量を抑制することができる。
【0106】
また、減磁プロセスの開始時のように、超伝導コイル1に流れる電流量の時間変化率が大きく、超伝導コイル1の両端子の間に大きな電圧がかかる場合には、各遮断器42を開いた状態として、全抵抗値を小さくすることが好ましい。一方、減磁プロセスの実行中のように、超伝導コイル1に流れる電流量の時間変化率が小さく、超伝導コイル1の両端子間に大きな電圧がかからない場合には、所定の遮断器42を閉じた状態として、全抵抗値を大きくすることが好ましい。
【0107】
このような可変式抵抗素子40によって、全抵抗値を電流量の時間変化に応じて大きくすると、超伝導コイル1や永久電流スイッチ2に流れる電流量の時間変化を抑制することができる。通常、減磁中の電流量は指数関数的に時間変化するが、超伝導コイル1や永久電流スイッチ2の両端子間の電圧を小さく抑えることができるため、クライオスタット3の内部の発熱量を抑制しつつ安定的に減磁プロセスを進めることができる。
【0108】
以上の超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法によると、超伝導磁石を減磁させるとき、外部電源から超伝導コイルに対して永久電流の逆電流を流し、永久電流スイッチや遮断器をオフ状態に切り替え、超伝導コイルに流れる電流を外部抵抗素子に流して減衰させるため、永久電流スイッチ2を形成する超伝導線材や外部電源5の適切な設計によって、永久電流スイッチに分流する電流を許容電流量以下に抑制することが可能になる。
【0109】
従来の液体ヘリウムによる冷却を行う超伝導磁石装置では、超伝導磁石を減磁させるとき、クライオスタットに充填されている液体ヘリウムが超伝導コイル等を冷却し続けるため、クライオスタットの内部の温度上昇が抑制され、減磁後に早期の復旧が可能であったが、液体ヘリウムのコストがかかった。また、液体ヘリウムを用いない超伝導磁石装置や、液体ヘリウムの充填量が少ない超伝導磁石装置では、減磁後の超伝導コイルの再冷却に時間がかかった。
【0110】
また、超伝導コイルに対して永久電流の逆電流を流す外部電源を備えない場合、永久電流スイッチをオフ状態に切り替えた後、超伝導コイルに流れる電流を外部抵抗素子に流して、超伝導磁石を減磁させることが可能であったが、この減磁方法では、永久電流スイッチを形成する超伝導線材が焼損するリスクが高かった。MgBまたは高温超伝導体を用いた超伝導線材であっても、常伝導領域の伝搬速度が遅いため、加熱が局所的に行われた場合に、小さい常伝導領域にジュール熱が集中するリスクがあった。また、永久電流スイッチのオフ抵抗が十分に高くなく、永久電流スイッチ2への分流によるジュール熱が集中していた。
【0111】
これに対し、以上の超伝導磁石装置、磁気共鳴イメージング装置および超伝導磁石の減磁方法によると、外部電源による逆電流の掃引と、クライオスタットの外部に配置された外部抵抗素子によるエネルギの減衰によって、永久電流スイッチに分流する電流を小さく抑えることができる。超伝導コイル1に蓄積されたエネルギは、クライオスタット3の外部に配置された外部抵抗素子4によって熱エネルギに変換される。また、超伝導コイル1や永久電流スイッチ2における磁場の急激な変動が抑制される。そのため、クライオスタット3の内部における発熱量を抑制して、超伝導磁石を急速に減磁させることができる。超伝導コイル1や永久電流スイッチ2の温度上昇が小さく抑えられるため、装置の復旧の所要時間を短縮することができる。
【0112】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0113】
1 超伝導コイル
2 永久電流スイッチ
3 クライオスタット
4 外部抵抗素子
5 外部電源
10A 超伝導コイル用の超伝導線材
10B 永久電流スイッチ用の超伝導線材
11 超伝導フィラメント
12 母材
13 中間材
14 安定化材
40 可変式抵抗素子
41 抵抗素子
42 遮断器
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5