(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電線及びワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20231219BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/00 301
(21)【出願番号】P 2021062647
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 倫之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-053378(JP,A)
【文献】特開2018-101627(JP,A)
【文献】特開2005-174689(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088419(WO,A1)
【文献】特開2020-077499(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線径1.2mm以下の導電性の複数本の素線を撚り合わせて断面が扁平形状とされた扁平撚線導体と、前記扁平撚線導体を被覆する絶縁体である扁平被覆部と、
素線径1.2mm以下の導電性の複数本の素線を撚り合わせて断面が丸形状とされた丸形撚線導体と、前記丸形撚線導体を被覆する絶縁体である丸形被覆部と、を備えた電線であって、
前記扁平被覆部は、一様伸びが43.5%以上
127.3%以下であ
り、
前記丸形撚線導体を形成する複数本の素線は、前記扁平撚線導体を形成する複数本の素線と同じ素線によって連続して形成されており、
前記丸形被覆部は、前記扁平被覆部と連続して形成されており、
前記扁平被覆部の肉厚は、前記丸形被覆部の肉厚の36.4%以上78.3%以下とされている
ことを特徴とする電線。
【請求項2】
請求項1に記載の電線を備えることを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線及びワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車室内空間拡大のニーズに伴い、狭い配索スペースに電線を配索することが求められている。ここで、丸型電線については配索スペースの高さが嵩張り、狭いスペースへの配索が困難となることがある。そこで、扁平形状とされた平型導体を絶縁体で被覆した平型電線が用いられることがある。しかし、平型導体が1枚板で形成されている場合には、屈曲・振動耐久が決して高くない。
【0003】
そこで、複数本の導体素線により導体部が構成された丸形電線をプレスすることで扁平形状とした電線が提案されている。この電線によれば、導体部が複数本の導体素線によって構成されているため、屈曲耐久及び振動耐久の向上を図ることができる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の電線は、プレス加工時等に絶縁体に割れが生じてしまうことがあり、想定した電線特性を満たせなくなる可能性があった。
【0006】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、屈曲耐久及び振動耐久の向上を図ると共に、絶縁体の割れの可能性を低減することができる電線及びワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電線は、素線径1.2mm以下の導電性の複数本の素線を撚り合わせて断面が扁平形状とされた扁平撚線導体と、前記扁平撚線導体を被覆する絶縁体である扁平被覆部と、素線径1.2mm以下の導電性の複数本の素線を撚り合わせて断面が丸形状とされた丸形撚線導体と、前記丸形撚線導体を被覆する絶縁体である丸形被覆部と、を備えた電線であって、前記扁平被覆部は、一様伸びが43.5%以上127.3%以下であり、前記丸形撚線導体を形成する複数本の素線は、前記扁平撚線導体を形成する複数本の素線と同じ素線によって連続して形成されており、前記丸形被覆部は、前記扁平被覆部と連続して形成されており、前記扁平被覆部の肉厚は、前記丸形被覆部の肉厚の36.4%以上78.3%以下とされていることを特徴とする。さらに、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記の電線を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屈曲耐久及び振動耐久の向上を図ると共に、絶縁体の割れの可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る電線を含むワイヤーハーネスの一例を示す構成図である。
【
図3】製造工程の一例を示す概略図であって、(a)は比較例に係る電線の製造工程を示し、(b)は本実施形態に係る電線の製造工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る絶縁電線を含むワイヤーハーネスの一例を示す構成図である。
図1に示すように、ワイヤーハーネスWHは、以下に詳細に説明する電線1と、コネクタCとを備えて構成されている。
【0012】
電線1には、例えば、端子(図示せず)が圧着等される。端子はコネクタCの端子収容室に収容される。なお、ワイヤーハーネスWHは、電線1の周囲を覆うコルゲートチューブ(図示せず)等の外装部材を備えていてもよいし、電線1とは異なる種類の電線を備えていてもよい。また、ワイヤーハーネスWHが他の電線を備える場合、電線1は他の電線と共にテープ巻きされていてもよい。また、ワイヤーハーネスWHは、電線1を2本以上備えていてもよい。なお、ワイヤーハーネスWHにはコネクタCが必須ではない。
【0013】
電線1は、
図1に示すように、扁平電線部10と、丸形電線部20とを備えて構成されている。
図2は、
図1のA-A断面図である。
【0014】
図2に示すように、扁平電線部10は、扁平撚線導体11と、扁平撚線導体11を被覆する絶縁体である扁平被覆部12とを備えている。扁平撚線導体11は、素線径1.2mm以下の導電性の複数本の素線を撚り合わせて断面が扁平形状とされて構成された導体部である。この扁平撚線導体11において複数本の素線は、例えばアルミニウム又はその合金によって構成されている。なお、素線は、導電性であれば、アルミニウム又はその合金に限らず、銅又はその合金によって構成されていてもよいし、金属又は繊維上にめっきが施されたものであってもよい。
【0015】
図1に示す丸形電線部20は、丸形撚線導体21と、丸形撚線導体21を被覆する絶縁体である丸形被覆部22とを備えている。丸形撚線導体21は、素線径1.2mm以下の導電性の複数本の素線を撚り合わせて断面が丸形状とされて構成された導体部である。この丸形撚線導体21においても複数本の素線は、例えばアルミニウム又はその合金によって構成されている。なお、素線は、導電性であれば、アルミニウム又はその合金に限らず、銅又はその合金によって構成されていてもよいし、金属又は繊維上にめっきが施されたものであってもよい。
【0016】
また、本実施形態に係る扁平電線部10は、例えば丸形電線部20をプレス加工したり圧延加工したりすることで形成されている。このため、扁平撚線導体11と丸形撚線導体21とは同じ素線によって連続して形成されている。また、扁平被覆部12と丸形被覆部22とについても扁平撚線導体11から丸形撚線導体21にわたって連続して被覆することとなる。
【0017】
ここで、本実施形態において扁平被覆部12と丸形被覆部22とは、一様伸びが43.5%以上のもの(例えば軟質PVC(polyvinyl chloride))によって構成されている。
図3は、製造工程の一例を示す概略図であって、(a)は比較例に係る電線の製造工程を示し、(b)は本実施形態に係る電線1の製造工程を示している。
【0018】
図3(a)に示すように、比較例において扁平電線部110は丸形電線部120がプレス加工等されて製造されている。このプレス加工時においては、扁平被覆部112の特に外周側の部分が伸ばされることとなる。このため、被覆部112,122の一様伸びが小さい場合には
図3(a)に示すように外周側から裂けるように扁平被覆部112に割れが生じてしまう。
【0019】
図3(b)に示すように、本実施形態においても、扁平電線部10は丸形電線部20がプレス加工等されて製造されている。ここで、本実施形態に係る被覆部12,22は一様伸びが43.5%以上とされている。このため、プレス加工時等において被覆部12,22の外周側は伸ばされたとしても、これに耐えることとなり、外周側から裂けてしまうことが防止される。よって、
図3(b)に示すように扁平被覆部12の割れが防止されることとなる。
【0020】
さらに、本実施形態に係る電線1の素線の径は1.00mm以下であることが好ましい。丸形電線部20をプレスや圧延加工した場合、内部の素線については素線間等を移動するように扁平形状に変化する。ここで、素線の径が1.00mm以下であると、プレス時等の素線の反発が小さく被覆部12,22の変形を小さくでき、素線径が1.00mmを超える場合と比較すると被覆部12,22の肉厚の減少量を抑えることができる。結果として、耐摩耗性を確保することができ、且つ、素線切れも抑えることができる。
【0021】
具体的に本実施形態に係る電線1は、素線径を1.00mm以下とすることで、丸形電線部20の丸形被覆部22の厚さを「1」とした場合、扁平電線部10の扁平被覆部12の厚さ(最も薄くなる部分)が「0.364(36.4%)」以上となる。なお、本実施形態に係る電線1はプレスや圧延された結果、扁平形状の短軸側端部よりも長軸側端部において絶縁体が薄くなる。
【0022】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
図4は、実施例及び比較例を示す第1の図表である。
【0023】
まず、実施例1及び比較例1についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を50sqとした。素線径については0.32mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を11.51mmとした。このときの被覆厚は1.38mmであった。
【0024】
このような丸形電線部に対して電線低背率が約-50%(-50.4%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は5.71mmであり、最も薄い部分の被覆厚は1.08mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると43.5%であった。絶縁体減少率は-21.7%であった。なお、実施例1については被覆部に軟質PVCを用い、比較例1については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0025】
また、実施例2及び比較例2についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を50sqとした。素線径については0.52mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を11.67mmとした。このときの被覆厚は1.41mmであった。
【0026】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-50.1%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は5.82mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.81mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると85.1%であった。絶縁体減少率は-42.6%であった。なお、実施例2については被覆部に軟質PVCを用い、比較例2については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0027】
また、実施例3及び比較例3についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を50sqとした。素線径については1.00mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を12.02mmとした。このときの被覆厚は1.43mmであった。
【0028】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-50.3%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は5.97mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.52mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると127.3%であった。絶縁体減少率は-63.6%であった。なお、実施例3については被覆部に軟質PVCを用い、比較例3については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0029】
また、実施例4及び比較例4についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を50sqとした。素線径については1.20mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を12.07mmとした。このときの被覆厚は1.43mmであった。
【0030】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-49.9%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は6.05mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.42mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると141.3%であった。絶縁体減少率は-70.6%であった。なお、実施例4については被覆部に軟質PVCを用い、比較例4については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0031】
【0032】
まず、実施例5及び比較例5についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を16sqとした。素線径については0.32mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を7.95mmとした。このときの被覆厚は0.99mmであった。
【0033】
このような丸形電線部に対して電線低背率が約-50%(-49.8%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は3.99mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.77mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると44.4%であった。絶縁体減少率は-22.2%であった。なお、実施例5については被覆部に軟質PVCを用い、比較例5については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0034】
また、実施例6及び比較例6についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を16sqとした。素線径については0.52mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を8.01mmとした。このときの被覆厚は1.05mmであった。
【0035】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-50.1%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は4.00mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.62mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると81.7%であった。絶縁体減少率は-40.9%であった。なお、実施例6については被覆部に軟質PVCを用い、比較例6については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0036】
また、実施例7及び比較例7についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を16sqとした。素線径については1.00mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を8.11mmとした。このときの被覆厚は1.07mmであった。
【0037】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-50.1%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は4.05mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.41mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると123.4%であった。絶縁体減少率は-61.7%であった。なお、実施例7については被覆部に軟質PVCを用い、比較例7については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0038】
また、実施例8及び比較例8についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を16sqとした。素線径については1.20mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を8.14mmとした。このときの被覆厚は1.11mmであった。
【0039】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-49.5%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は4.11mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.32mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると142.3%であった。絶縁体減少率は-71.2%であった。なお、実施例8については被覆部に軟質PVCを用い、比較例8については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0040】
【0041】
まず、実施例9及び比較例9についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を30sqとした。素線径については0.32mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を10.32mmとした。このときの被覆厚は1.28mmであった。
【0042】
このような丸形電線部に対して電線低背率が約-50%(-50.1%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は5.14mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.99mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると45.3%であった。絶縁体減少率は-22.7%であった。なお、実施例9については被覆部に軟質PVCを用い、比較例9については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0043】
また、実施例10及び比較例10についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を30sqとした。素線径については0.52mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を10.35mmとした。このときの被覆厚は1.29mmであった。
【0044】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-50.4%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は5.13mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.75mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると83.7%であった。絶縁体減少率は-41.9%であった。なお、実施例10については被覆部に軟質PVCを用い、比較例10については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0045】
また、実施例11及び比較例11についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を30sqとした。素線径については1.00mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を10.89mmとした。このときの被覆厚は1.29mmであった。
【0046】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-50.9%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は5.31mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.51mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると120.9%であった。絶縁体減少率は-60.5%であった。なお、実施例11については被覆部に軟質PVCを用い、比較例11については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0047】
また、実施例12及び比較例12についてはアルミニウム素線を用いて導体部分を30sqとした。素線径については1.20mmであり、プレス・圧延前(すなわち丸形電線部の状態)の仕上外径を10.86mmとした。このときの被覆厚は1.31mmであった。
【0048】
このような丸形電線部に対して電線低背率は約-50%(-50.4%)となるようにプレスを行った(すなわち高さが約半分となるようにプレスを行った)。短径方向外径は5.39mmであり、最も薄い部分の被覆厚は0.39mmとなった。このときに絶縁体に割れが生じない一様伸びを計算すると140.5%であった。絶縁体減少率は-70.2%であった。なお、実施例12については被覆部に軟質PVCを用い、比較例12については被覆部に硬質PVCを用いた。
【0049】
以上のような実施例1~12及び比較例1~12について、絶縁体に割れが生じているか目視にて確認を行った。さらに、実施例1~12について、絶縁体をはぎ取って素線に切れが生じているか目視にて確認を行った。さらには、摩耗試験(サンドペーパー摩耗試験)を行った。サンドペーパー摩耗試験では、摩耗テープとしてJIS R 6251に規定されているガーネットP150を用い、ISO 6722-1(5.12.4.1)の摩耗試験(サンドペーパー摩耗)規格に準拠して、摩耗試験を実施した。なお、この試験では、常温(23℃)の環境下、1900gのおもりを支持ロッドに備え付けた状態で、摩耗テープを絶縁被覆層上(最も薄い部分)で移動させた。そして、摩耗テープの移動距離が3430mm以上でも金属導体と摩耗テープとの間で導通しなかった場合を「○」と評価し、摩耗テープの移動距離が3430mm未満で導通した場合を「×」と評価した。
【0050】
以上のような試験の結果、絶縁体に軟質PVCを用いた実施例1~12については、絶縁体に割れが生じていなかった。一方、絶縁体に硬質PVCを用いた比較例1~12については、全て絶縁体に割れが生じた。これは、必要となる絶縁体の一様伸びを軟質PVCが満たし、硬質PVCが満たさないためであるといえる。
【0051】
また、実施例1~3,5~7,9~11については素線切れが確認できず、且つ、耐摩耗性試験も「○」評価となった。一方、実施例4,8,12については素線切れが確認され、且つ、耐摩耗性試験も「×」評価となった。すなわち、実施例3のように、少なくとも絶縁体減少率は-63.6%までに留めておくことが好ましく、もとの絶縁体の肉圧を「1」とした場合、扁平電線部の絶縁体の厚さ(最も薄くなる部分)が「0.364(36.4%)」以上となると素線切れや耐摩耗性において良好な結果となることがわかった。
【0052】
さらに、詳細説明を省略しているが、プレス前における被覆厚はJASO D618を満足する範囲内のものであれば、特に実施例1~12の値に限られないことも確認された。
【0053】
また、
図4~
図6に示すように、全て絶縁体に割れが生じないための絶縁体の一様伸びは導体断面積の影響を略受けないことも確認された。
【0054】
なお、上記実施例及び比較例では、電線低背率が約-50%であるが、電線低背率が約-50%(厳密には-50.9%)以上であれば(絶対値で約50%以下であれば)、必要となる絶縁体の一様伸び(要求される一様伸び)が小さくなることから、より割れを抑えられることはいうまでもない。
【0055】
このようにして、本実施形態に係る電線1及びワイヤーハーネスWHによれば、導電性の複数本の素線を撚り合わせて断面が扁平形状とされた扁平撚線導体11を備えるため、一枚板により導体部を構成した場合と比較して、屈曲耐久及び振動耐久の向上を図ることができる。また、扁平被覆部12は一様伸びが43.5%以上であるため、プレス加工等により形成された場合に扁平被覆部12が伸び易く、プレス加工時等における扁平被覆部12の割れの可能性を低減することができる。従って、屈曲耐久及び振動耐久の向上を図ると共に、絶縁体の割れの可能性を低減することができる。
【0056】
また、丸形撚線導体21は、扁平撚線導体11と連続して形成されているため、丸形電線と平型電線とをジョイントする必要がなく、ジョイントレスとすることができる。さらに、扁平被覆部12の肉厚は丸形被覆部22の肉厚の36.4%以上とされているため、プレスや圧延によって形成された扁平被覆部12の肉厚が極端に薄くなって耐摩耗性が大きく低下してしまう事態を防止することができる。
【0057】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み立ててもよい。
【0058】
例えば、本実施形態に係る電線1は、扁平電線部10と丸形電線部20とを備えるものであるが、これに限らず、丸形電線部20の全体がプレス等されて扁平電線部10のみで構成されていてもよい。加えて、実施例1~12では、絶縁体に軟質PVCを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、必要となる一様伸びを確保できれば、軟質PVCでなくともよい。
【符号の説明】
【0059】
1 :電線
11 :扁平撚線導体
12 :扁平被覆部
21 :丸形撚線導体
22 :丸形被覆部
WH :ワイヤーハーネス