(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】樹脂集電体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20231219BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/66 A
C08J5/00 CES
(21)【出願番号】P 2021100731
(22)【出願日】2021-06-17
(62)【分割の表示】P 2019216224の分割
【原出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】礒 健大
(72)【発明者】
【氏名】大西 一彰
(72)【発明者】
【氏名】野中 宏行
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恭資
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】福山 苑美
(72)【発明者】
【氏名】工藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】都藤 靖泰
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-92606(JP,A)
【文献】特開2010-153224(JP,A)
【文献】特開2014-220187(JP,A)
【文献】国際公開第2014/010681(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池
の樹脂集電体であって、
ポリオレフィン樹脂と、
導電性炭素フィラーと、
を含み、
TD(Traverse Direction)における
十点平均粗さRzが4μm未満であり、
TDにおける降伏点強度が、25MPa以上であり、
MDにおける降伏点強度が、29MPa以上であり、
MD(Machine Direction)における引裂強度が、60kN/m以上である、樹脂集電体。
【請求項2】
前記導電性炭素フィラーはカーボンナノチューブを含まない、請求項1に記載の樹脂集電体。
【請求項3】
TDにおける十点平均粗さRzが、2.5μm以下であり、
MDにおける引裂強度が
、70kN/m以上である、請求項1又は
2に記載の樹脂集電体。
【請求項4】
TDにおける十点平均粗さRzが、1.7μm以下であり、
MDにおける引裂強度が、116.3kN/m以上である、請求項1又は2に記載の樹脂集電体。
【請求項5】
厚みが、20μm以上、47μm以下であり、
MDにおける引裂強度が、117.9kN/m以上である、請求項1から
4のいずれか1項に記載の樹脂集電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂集電体に関し、特に、リチウムイオン電池の正極用の樹脂集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-75300号公報(特許文献1)は、樹脂製の集電体(樹脂集電体)を開示する。この集電体は、リチウムイオン電池用の集電体であり、ポリオレフィン樹脂と、導電性炭素フィラーとを含んでいる。この集電体においては、集電体1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が7.0~10.5m2と小さくなっている。これにより、導電性炭素フィラーの表面で副反応が生じにくくなり、分解反応に伴なう分解電流が小さくなる。その結果、この集電体によれば、サイクル特性を改善することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているような樹脂製の集電体は、製造工程において意図せず引き裂ける場合があった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、引裂強度が改善された樹脂集電体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従う樹脂集電体は、リチウムイオン電池の正極用の樹脂集電体である。この樹脂集電体は、ポリオレフィン樹脂と、導電性炭素フィラーとを含む。この樹脂集電体においては、TD(Traverse Direction)における降伏点強度をMD(Machine Direction)における降伏点強度で除算した値が、0.75以上、1.10以下であり、TDにおける十点平均粗さRzが4μm未満である。
【0007】
上記樹脂集電体において、貫通抵抗値が30Ω・cm2以下であってもよい。
【0008】
上記樹脂集電体において、MDにおける引裂強度が60kN/m以上であってもよい。
【0009】
上記樹脂集電体において、導電性炭素フィラーはカーボンブラックであり、厚みが、20μm以上、100μm以下であり、TDにおける十点平均粗さRzが、0.5μm以上、3.7μm以下であり、TDにおける降伏点強度が25MPa以上であり、MDにおける降伏点強度が29MPa以上であり、TDにおける降伏点強度をMDにおける降伏点強度で除算した値が、0.90以上、1.05以下であり、MDにおける引裂強度が70kN/m以上であってもよい。
【0010】
上記樹脂集電体において、TDにおける十点平均粗さRzが、0.7μm以上、2.5μm以下であり、TDにおける降伏点強度が29MPa以上であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引裂強度が改善された樹脂集電体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】引裂き強度の測定に用いられる試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
[1.集電体の構成]
本実施の形態に従う集電体100は、いわゆる樹脂集電体であり、たとえば、リチウムイオン電池の正極用集電体に用いられる。集電体100は、たとえば、単層で構成されており、ポリオレフィン樹脂と、導電性炭素フィラーと、導電材料用分散剤とを含んでいる。
【0015】
ポリオレフィン樹脂として好ましくは、ポリオレフィン[ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)等]が挙げられる。より好ましいポリオレフィン樹脂としては、PE、PP及びPMPが挙げられる。
【0016】
PEとしては、たとえば、日本ポリエチレン(株)製の「ノバテックLL UE320」及び「ノバテックLL UJ960」が市場で入手可能である。
【0017】
PPとしては、たとえば、サンアロマー(株)製の「サンアロマーPM854X」、「サンアロマーPC684S」、「サンアロマーPL500A」、「サンアロマーPC630S」、「サンアロマーPC630A」及び「サンアロマーPB522M」、(株)プライムポリマー製の「プライムポリマーJ-2000GP」並びに日本ポリプロ(株)製の「ウィンテックWFX4T」が市場で入手可能である。
【0018】
PMPとしては、たとえば、三井化学(株)製の「TPX」が市場で入手可能である。
【0019】
導電性炭素フィラーとしては、たとえば、黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)及びこれらの混合物等が挙げられる。なお、導電性炭素フィラーは、必ずしもこれらに限定されない。
【0020】
導電材料用分散剤としては、たとえば、変性ポリオレフィン及び界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
集電体100のような樹脂製の集電体は、たとえば、押出成形によって製造された集電体フィルムを裁断することによって製造される。このような集電体フィルムにおいては、MD(Machine Direction)とTD(Traverse Direction)とで物性の異方性が生じ得る。MD及びTDにおける物性の異方性が大きいと、集電体フィルムが裂けやすくなる。特に、集電体フィルムは、MDに裂けやすくなることが多い。集電体フィルムが裂けやすいと、集電体の製造工程において、集電体フィルムが意図せず引き裂ける場合があった。
【0022】
本発明者らは、MD及びTDにおける物性の異方性を抑制するだけでは、集電体の引裂強度が十分に改善されないことを見出した。加えて、本発明者らは、TDにおける表面粗さを抑制することによって集電体の引裂強度が十分に改善されることを見出した。MD及びTDにおける物性の異方性が抑制されるとともにTDにおける表面粗さが抑制されることによって、本実施の形態に従う集電体100においては、引裂強度が従来よりも改善されている。以下、集電体100の各種パラメータについて詳細に説明する。
【0023】
[2.各種パラメータ]
(2-1.厚み)
集電体100の厚みは、好ましくは、20μm以上、100μm以下である。厚みが100μm以下であると、集電体100の厚みとしては十分に薄いといえる。一方、厚みが20μm以上であると、集電体100の強度が十分に確保される。
【0024】
(2-2.貫通抵抗)
集電体100の厚み方向における電気抵抗値(貫通抵抗値)は、30Ω・cm2以下であることが好ましい。すなわち、集電体100は、十分な量の導電性炭素フィラーを含むことによって、リチウムイオン電池の正極用の集電体として機能する程度に低い貫通抵抗値を有する。貫通抵抗値は、たとえば、以下の方法で測定される。
【0025】
集電体100から7cm角サンプルを裁断して取り出し、電気抵抗測定器[IMC-0240型 井元製作所(株)製]及び抵抗計[RM3548 HIOKI製]を用いて集電体100の厚み方向(貫通方向)の抵抗値を測定する。電気抵抗測定器に2.16kgの荷重をかけた状態で集電体100の抵抗値を測定し、荷重をかけてから60秒後の値をその集電体100の抵抗値とする。下記式に示すように、抵抗測定時の治具の接触表面の面積(3.14cm2)を乗算した値を貫通抵抗値(Ω・cm2)とする。
貫通抵抗値(Ω・cm2)=抵抗値(Ω)×3.14(cm2)
【0026】
(2-3.MDにおける降伏点強度)
集電体100において、MDにおける降伏点強度は、29MPa以上であることが好ましく、32MPa以上であることがより好ましい。MDにおける降伏点強度の測定は、たとえば、JIS-K-6732に準拠した方法によって行なわれる。
【0027】
降伏点強度の測定に用いられる試料の寸法は、幅が10mmであり、長さが110mm以上(試料における標線の長さは40mm±0-2)である。試料の厚みは長さ方向において等間隔離れた5点で測定され、測定された5点の厚みに基づいて平均厚みが算出される。具体的な測定は、オートグラフ(島津精密万能試験機 オートグラフ AG-X 500N)を用いて行なわれる。その際の引張スピードは200mm/min、チャートスピードは200mm/min、つかみ間隔は40mmである。出力されたグラフに基づいて最高強度(降伏点強度)が算出される。
【0028】
(2-4.TDにおける降伏点強度)
集電体100において、TDにおける降伏点強度は、25MPa以上であることが好ましく、29MPa以上であることがより好ましい。TDにおける降伏点強度の測定は、たとえば、JIS-K-6732に準拠した方法によって行なわれる。測定時に用いられる試料の寸法等及び具体的な測定方法は、上述のMDにおける降伏点強度の測定方法と同様である。
【0029】
(2-5.降伏点強度の比)
集電体100において、TDにおける降伏点強度をMDにおける降伏点強度で除算した値は、0.75以上、1.10以下であり、好ましくは、0.90以上、1.05以下である。すなわち、集電体100においては、TD及びMDにおける降伏点強度の差が抑制されている。換言すれば、集電体100においては、TD及びMDにおける物性の異方性が抑制されている。
【0030】
(2-6.TDにおける十点平均粗さRz)
集電体100において、TDにおける十点平均粗さRzは、4μm未満であり、好ましくは、0.5μm以上、3.7μm以下であり、より好ましくは、0.7μm以上、2.5μm以下である。すなわち、集電体100においては、TDにおける表面粗さが抑制されている。なお、十点平均粗さRzは、JISB601-1982の条件に従うものである。TDにおける十点平均粗さRzを抑制するためには、たとえば、導電性炭素フィラーの比表面積を小さくすること、アスペクト比の小さい導電性炭素フィラーを採用すること、及び、導電性炭素フィラーの粒度分布を狭くすることが有効である。
【0031】
(2-7.MDにおける引裂強度)
集電体100において、MDにおける引裂強度は、60kN/m以上であり、好ましくは、70kN/m以上である。すなわち、集電体100においては、MDにおいて高い引裂強度が実現されている。引裂強度の測定は、たとえば、JIS-K-6732に準拠した方法によって行なわれる。
【0032】
図1は、引裂き強度の測定に用いられる試験片50の形状を示す図である。引裂強度の測定においては、直角型引裂強さが測定される。具体的には、
図1に示されるように切り出された試験片を引張試験機に試験片の軸方向と試験機のつかみ具方向とを一致させて正確に取り付ける。測定器としては、オートグラフ(島津精密万能試験機 オートグラフ AG-X 500N)が用いられる。試験速度は200mm/minとし、試験片切断時の強さが測定される。
【0033】
[3.製造方法]
図2は、集電体100を製造するTダイ200を示す図である。
図2に示されるように、集電体100は、たとえば、Tダイ200によって製造される。以下、集電体100の製造方法について詳細に説明する。
【0034】
まず、ポリオレフィン樹脂、導電性炭素フィラー及び導電材料用分散剤を混合することによって、樹脂集電体用材料が得られる。得られた樹脂集電体用材料をTダイ200に投入し、押出成形を行なうことによって、集電体100のもととなる集電体フィルムが製造される。集電体フィルムを裁断することによって集電体100が製造される。
【0035】
集電体100における各種パラメータが上述の範囲に収まるように、Tダイ200を用いた集電体100の製造における各種条件が設定される。
【0036】
たとえば、Tダイ200における樹脂集電体用材料の吐出速度を抑制したり、Tダイ200における温度を高く設定したり、Tダイ200におけるリップ開度を小さくしたり、MDにおける延伸倍率を小さくしたりすることによって、集電体100のMD及びTDにおける異方性を抑制することができる。
【0037】
また、たとえば、Tダイ200における温度を高く設定したり、Tダイ200におけるリップの表面粗さを小さくしたり、集電体フィルムの引き取り時に用いるローラの表面粗さを小さくしたり、表面粗さの小さいベルトで挟むベルトプレスを集電体フィルムに施すことによって、集電体100のTDにおける十点平均粗さRzを抑制することができる。
【0038】
[4.特徴]
上述のように、本発明者らは、MD及びTDにおける物性の異方性が抑制されるとともにTDにおける表面粗さが抑制されることによって、集電体100の引裂強度が改善されることを見出した。本実施の形態に従う集電体100においては、TDにおける降伏点強度をMDにおける降伏点強度で除算した値が、0.75以上、1.10以下であり、TDにおける十点平均粗さRzが4μm未満である。すなわち、集電体100においては、MD及びTDにおける物性の異方性が抑制されるとともにTDにおける表面粗さが抑制されている。したがって、集電体100によれば、集電体の引裂強度を改善することができる。
【0039】
[5.変形例]
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。
【0040】
(5-1)
上記実施の形態において、集電体100は、導電材料用分散剤を含んでいた。しかしながら、集電体100は、必ずしも導電材料用分散剤を含む必要はない。集電体100は、少なくとも、ポリオレフィン樹脂と、導電性炭素フィラーとを含んでいればよい。
【0041】
(5-2)
上記実施の形態において、集電体100は、単層で構成された。しかしながら、集電体100は、必ずしも単層で構成される必要はない。たとえば、集電体100は、各々が、ポリオレフィン樹脂と、導電性炭素フィラーとを含む複数の層で構成されてもよい。
【0042】
[6.実施例等]
実施例及び比較例についてまとめた表1を以下に示す。
【0043】
【表1】
表1において、「PP」はポリプロピレンを示す。また、「CB」はカーボンブラックを示し、「CNT」はカーボンナノチューブを示す。実施例1-10及び比較例1-7の各々は、リチウムイオン電池の正極用の集電体である。表1に示されるように、実施例1-10の各々においては、ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレンが用いられ、導電性炭素フィラーとしてカーボンブラックが用いられた。また、比較例1-6の各々においては、ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレンが用いられ、導電性炭素フィラーとしてカーボンナノチューブが用いられた。また、比較例7においては、ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレンが用いられ、導電性炭素フィラーとしてカーボンブラックが用いられた。
【0044】
実施例1-10及び比較例1-7の各々においては、上述の製造条件を適宜設定することによって、集電体における各種パラメータ(厚み、TDにおける十点平均粗さRz、MDにおける降伏点強度、TDにおける降伏点強度及びMDにおける引裂強度)が調節された。
【0045】
表1に示されるように、TDにおける十点平均粗さRzが4.0μm未満であり、かつ、TDにおける降伏点強度をMDにおける降伏点強度で除算した値が、0.75以上、1.10以下である場合(実施例1-10)に、MDにおける引裂強度が67.5kN/m以上となった。すなわち、実施例1-10のMDにおける引裂強度は、比較例1-7のMDにおける引裂強度よりも高かった。
【符号の説明】
【0046】
50 試験片、100 集電体、200 Tダイ。