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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ガラス物品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 1/02 20060101AFI20231219BHJP
   C03B 1/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C03C1/02
C03B1/00
【請求項の数】 4
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021135577
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2022151495
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】21164999
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ブリギッテ ヴェルツライン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ ペータースハンス
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-100538(JP,A)
【文献】特開2019-006643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C03B 1/00 - 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラスマトリックスを有するガラス物品の製造方法であって、
- 酸化アルミニウム供給源およびSiO供給源を含む原材料のバッチを提供するステップと、
- 前記バッチを1,500℃超の温度に3時間以上溶融するステップと、
- ガラス物品を形成するステップと、
- 前記ガラス物品を室温に冷却するステップと
を含み、前記酸化アルミニウム供給源がギブサイトであり、冷却された前記ガラス物品の前記ガラスマトリックスが、ガラス15gあたり1個未満のSiOリッチな組成不均一性のガラス球を有する、
方法。
【請求項2】
前記ガラス物品を形成するステップが、ダンナー管引抜加工を使用してガラス管を引き抜くことを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム供給源が、
- 20μm~300μm、好ましくは20μm~150μmの平均粒径D50を有し、かつ/または
- 5.0m/g未満のBET表面積を有し、かつ/または
- 2.600g/cm未満の密度を有し、かつ/または
- 少なくとも0.015重量%のナトリウム(原子吸光分光法(AAS)により決定)を含有する、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
溶融物の前記温度が1,700℃を上回らない、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアルカリ含有量が低く、極端な温度変化を受けても破壊のリスクが低い酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラス物品の製造方法に関する。この方法は、好ましくはガラスを引き抜くことを含む熱成形ステップを含む。本発明の方法で製造されるガラス物品は、非常に低いレベルのSiOリッチな組成不均一性のガラス球を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
ガラス物品に生じ得る典型的な欠陥は、組成不均一性のガラス球である。これらの球は、ガラスマトリックスの残りの部分とは異なる組成および屈折率を有するガラス体積の部分である。典型的には、不完全な溶融に起因し得るそのような球は、まず結晶性材料の一部の周りに形成され得る。結晶性材料の溶解には長い時間がかかり得て、溶融プロセスを完了して均一なガラスマトリックスを形成するには溶融時間が不十分であり得る。結晶性材料の一部は、最終的に溶融中に溶解し得るが、マトリックスには、ガラス組成の局所的な偏差がなおもあり得る。したがって、組成不均一性のガラス球は、周囲のガラスマトリックスの熱膨張係数とは異なる熱膨張係数を有し得る。
【0003】
結果として、組成不均一性のガラス球は、マトリックス中に引張応力の領域を形成するため、ガラス物品の破壊を引き起こす場合がある。ガラスマトリックスと球との間の熱膨張の差が大きいと、破壊のリスクが高くなる。
【0004】
さらに、組成不均一性のガラス球は、特に光学的な理由から、部分破壊(sub-breakage)レベルでも不利になる場合がある。組成不均一性のガラス球は、特に特定の審美的な期待に関連する非常に高価な製品では、審美的な理由から単に嫌われる場合がある。さらに、組成不均一性のガラス球は、使用中に均一な光学特性を必要とするガラス物品の光学性能を損なう場合もある。例えば、組成不均一性のガラス球は、所定の光路を取る光子の数を減少させる散乱および/または吸収事象をもたらし得ることから、光電子増倍器内で使用されるガラス物品において特に不利である。
【0005】
ランプカバーまたはオートクレーブに適した医薬品包装材料として使用されるガラス物品のような、極端な温度変化を受けても破壊のリスクが低いガラス物品が必要とされている。同時に、これらのガラス物品は、化学的に不活性な表面と、UV領域での透明性を含む高い透明性(ランプのタイプに応じる)とを特徴とすべきでもある。これらのガラス物品の製造方法も必要とされている。
【0006】
発明の説明
組成不均一性のガラス球(以下、「GCI球」と略す)は、本願の文脈において、球形を含むのみならず、特に2:1までのアスペクト比を有する楕円形および回転楕円形も含むものとして理解されるべきである。しかしながら、これらは条線を含むことを明示的に意味するものではない。ガラスマトリックスの組成に応じて、GCI球は、主にガラス物品の表面近くに生じるが、これに限られることはない。多くの場合、これらは透明である。しかしながら、屈折率が周囲のガラスマトリックスとは異なることから、これらは透過光で見ることができる。この文脈において、「透明」とは、全可視範囲(380~740nm)にわたる光の透過率が少なくとも70%であることを指す(厚さ1mmで測定)。これは、ガラスまたはGCI球の厚さが1mmに限定されることを意味するものではなく、この厚さは、単に透過率値の参照厚さである。最大直径で測定したGCI球のサイズは、0.2mm超であり得る。特に、サイズは、0.3mm超、0.4mm超、または0.5mm超であり得る。好ましくは、サイズは、0.2mm~0.5mm、0.3mm~0.6mm、0.4mm~0.7mm、または0.5mm~0.8mmの範囲にある。
【0007】
アルミナ含有ケイ酸塩ガラスでは、典型的には、これらのGCI球中の局所的なガラス組成物においてSiOがより多くなることが見出された。GCI球中のSiOの割合は、周囲のマトリックス中のSiOの割合と比較した場合、少なくとも15重量%または約18~25重量%増加している場合がある。したがって、本明細書は、通常、SiOリッチなGCI球に言及する。1,470℃超の温度では、SiOは、高温のシリカ鉱物多形体であるクリストバライトを形成する。溶融中、クリストバライト粒子は、非常にゆっくりとしか溶解しない。結果として、加工温度がクリストバライト粒子を短時間で溶解するほど十分に高い場合、一部のアルモシリケートガラスのような非常に高い加工温度を有するガラスでは、GCI球はそれほど問題にならないであろう。他のガラスは、揮発性成分がガラスマトリックスから蒸発し得るため、非常に高い温度で溶融することができない。
【0008】
クリストバライトの溶解は、SiOとの共晶混合物を形成するアルカリ金属イオンの移動を伴い得る。したがって、ガラスマトリックス中のアルカリ金属酸化物レベルが低い場合、クリストバライトの溶解はより遅くなる。さらに、溶解させる(または溶解されている)クリストバライト粒子の周りのガラスマトリックスは、アルカリケイ酸塩ガラスの熱膨張係数に匹敵する大きな熱膨張係数を有し得る。このことは、これらがマトリックス中に引張応力の領域を形成する理由を説明している。
【0009】
典型的には、GCI球中のSiO含有量は、ガラスマトリックスの組成に応じて、75重量%~99.5重量%の範囲にあると見出された。これは、少なくとも75重量%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも75重量%であり得る。これは、最大99.5重量%、最大99重量%、最大98重量%、最大97重量%、最大96重量%、または最大95重量%であり得る。SiOリッチなGCI球中のSiOの局所濃度は、GCI球のコアから表面に向かって低下し得る。この場合、前述の濃度は、GCI球全体の平均濃度を指す。
【0010】
「熱膨張係数」または「CTE」とは、20℃~300℃の温度範囲での平均線熱膨張係数である。これは、DIN ISO 7991:1987に従って決定される。ガラスの分野では、純粋なSiOガラスが、熱膨張係数について約0.5ppm/Kの極値レベルを呈する。したがって、SiOリッチなGCI球は、約0.5ppm/Kもの低い熱膨張係数を有する場合もある。熱引張応力の増加を回避するために、ガラスマトリックスのCTEは、熱膨張率が、GCI球のCTEよりも、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、または6.0以下の倍率で大きくなるように制限され得る。
【0011】
本発明は、特に、ガラス組成物に特別な酸化アルミニウム供給源を使用する製造方法を提供することによって、GCI球の存在に起因するガラス物品の安定性の低下という上記の問題に対処する。
【0012】
一態様では、本発明は、好ましくは少なくとも0.75W・m-1・K-1の熱伝導率を有する酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラスマトリックスを有するガラス物品の製造方法であって、
- 酸化アルミニウム供給源およびSiO供給源を含む原材料のバッチを提供するステップと、
- バッチを1,500℃超の温度に3時間以上溶融するステップと、
- ガラス物品を形成するステップと、
- ガラス物品を室温に冷却するステップと
を含み、酸化アルミニウム供給源がギブサイトであり、冷却されたガラス物品のガラスマトリックスが、ガラス15gあたり1個未満のSiOリッチな組成不均一性のガラス球を有する、方法に関する。
【0013】
ガラスマトリックスの熱伝導率(90℃での(λ))は、少なくとも0.75W・m-1・K-1、少なくとも0.80W・m-1・K-1、少なくとも0.90W・m-1・K-1、少なくとも0.92Wm-1・K-1、少なくとも0.94Wm-1・K-1、または少なくとも0.96W・m-1・K-1であり得る。ガラスマトリックスの熱伝導率は、最大1.4W・m-1・K-1、最大1.35W・m-1・K-1、最大1.3W・m-1・K-1、最大1.25W・m-1・K-1、最大1.2W・m-1・K-1、最大1.18W・m-1・K-1、最大1.16W・m-1・K-1、最大1.14W・m-1・K-1、最大1.12W・m-1・K-1、または最大1.1W・m-1・K-1であり得る。好ましい実施形態では、ガラス物品の熱伝導率は、一般にそれほど好ましくない熱伝導率を有するGCI球の数が少ないことを理由に、同範囲にある。熱伝導率(λ)は、ASTM E1461:2013に従って、熱拡散率(α)、比熱容量(c)、および密度(ρ)の積として決定される:
λw=α・c・ρ
熱拡散率(α)は、ASTM E1461:2013に従って、厚さ1.0mmおよび直径12.7mmの円筒形の試験片上でキセノンフラッシュライトを用いるレーザーフラッシュ法によって決定される。パラメータ化は、マイアー・ケリー法と、パルス補正による透明サンプルの計算モデルとを使用して行った。比熱容量(c)は、DIN 51007:2019 04(2つの別々のサンプル、第1のサンプルは28℃~400℃、第2のサンプルは28℃~550℃、加熱速度はアルゴン雰囲気で10K/分、サンプルサイズは約90mg)に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって決定される。密度(ρ)は、ASTM C 693:1993(水への界面活性剤添加を使用して変更)に準拠して浮力法によって決定され、密度の温度依存性は、DIN ISO 7991:1998 02(サンプル:長さ100mmおよび直径5mmの円筒形の棒、温度範囲:2K/分の速度で25℃~425℃)に準拠して計算される。
【0014】
ハイドラ(r)ジライトの名前でも知られている鉱物ギブサイトは、水酸化アルミニウムAl(OH)の4つの鉱物形態のうちの1つである。多くの場合、化学式ではγ-Al(OH)とも称される。ロックボーキサイトは、その3つの主要相のうちの1つとしてギブサイトを含有し、ギブサイトの最も一般的な供給源である。
【0015】
驚くべきことに、ガラス、特に非常に低い熱膨張係数を有するガラス用の原料中の酸化アルミニウム供給源として使用される材料がギブサイトである場合、ガラス物品中のGCI球のレベルを非常に効果的に下げることができると見出された。低レベルのアルカリ金属酸化物および1,500℃超の溶融温度にもかかわらず、1個未満のSiOリッチなGCI球のレベルをなおも達成することができる。結果として、この方法によって製造されるガラス物品は、優れた熱安定性を示し、それによって、これらは、ランプカバーまたはオートクレーブ可能な医薬品包装材料に特に適したものになる。
【0016】
理論に縛られることを望むものではないが、本発明者等は、ギブサイトの水酸化アルミニウムが残留クリストバライト粒子の溶解を改善すると考えている。そのようなアルモシリケートガラスの溶融手順中には、ネットワーク相手が見つからないためにネットワークに組み込まれない過剰なSiOが存在する。ギブサイトは、ガラスマトリックス中においてSiOリッチなネットワークの形成を促進しているようである。したがって、残留クリストバライト粒子がより良好に溶解する。
【0017】
ガラスメーカーは、典型的には、Ti、Fe、またはHOのような特定のIR吸収成分のレベルを下げることを試みている。これによって、ガラスの比熱容量が比較的低くなり、熱伝導率が高くなる。例えば、本発明によって製造されたガラスは、少なくとも0.75W・m-1・K-1の熱伝導率を有し得る。ガラス製造用のガラス溶解タンクは、バーナーによって加熱される。したがって、IR活性成分の量を減らすと、ガラスによって吸収可能な熱が低減される。バーナーに不規則性または変動がある場合、ガラスは温度が急速に低下する。結果として、これらのガラスは、原材料の溶融に悪影響を与える温度変動に非常に敏感であるため、製造において取り扱いが非常に困難である。選択されるアルミニウム供給源は、ガラスが少量のIR吸収成分を含有していても、加工挙動を改善し、生成されるGCI球の数を減少させる。一実施形態では、ガラスは、熱容量および/または熱伝導率を少なくともある程度増加させ得るTiおよび/またはFeを中程度の量で含有し得る。
【0018】
ランプカバーおよびオートクレーブ可能な医薬品包装材料に使用されるガラス物品の最も一般的な開始形状は管であるため、本発明のいくつかの実施形態では、ガラス物品を形成するステップは、任意選択的にダンナー管引抜加工を使用してガラス管を引き抜くことを含む。
【0019】
管引抜加工および製造された管はそれぞれ、引抜加工によってガラス中のGCI球のさらなるより顕著な変形が引き起こされるので、本発明の方法から特に利益を得る。溶融プロセスで形成されたクリストバライト結晶の元々大体が球形である粒子と、生じる球形のGCI球とは、引抜加工中に延伸されて、より細長い楕円形または回転楕円形になる。しかしながら、引抜加工は、GCI球を変形させるだけで、条線の形成はもたらさない。これらの場合、形状のアスペクト比は、約1:1~約2:1までシフトされる場合がある。管の縦軸の方向に細長く不均一になることから、熱膨張または収縮プロセス時にマトリックス中に生じる引張応力は、管の破壊にとって特に重大である。したがって、ガラス物品の品質および不合格率は、これらを成形することが引抜加工を伴う場合、本発明による方法から特に利益を得るであろう。これは、ダンナー法に限定されることはなく、本発明が同様に企図されるVello引抜加工またはA引抜加工(ダウンドロー法)のような他の引抜方法にも適用される。
【0020】
いくつかの好ましい実施形態では、酸化アルミニウム供給源は、20μm~300μm、好ましくは20μm~150μm、25μm~140μm、30μm~120μm、または35μm~100μmの平均粒径D50を有する。好ましくは、平均粒径D50は、少なくとも20μm、少なくとも25μm、少なくとも30μm、少なくとも35μm、または少なくとも40μmである。好ましくは、平均粒径D50は、最大90μm、最大100μm、最大110μm、最大120μm、最大130μm、最大140μm、最大150μm、最大175μm、最大200μm、最大225μm、最大250μm、最大275μm、または最大300μmである。粒径D50は、ISO 13320:2020-1に準拠してレーザー回折粒子分析装置(例えば、Microtrac X100)を使用した動的光散乱法によって測定される。この範囲内の粒径分布は、ガラス中のGCI球の取り扱い、混合、溶融、および減少効果に最適な範囲であるという点で、それ自体が有利であると証明された。
【0021】
いくつかの好ましい実施形態では、酸化アルミニウム供給源は、DIN ISO 9277:2014-01に従って測定して5.0m/g未満のBET表面積を有する。好ましくは、BET表面積は、4.0m/g未満、3.0m/g未満、2.0m/g未満、1.0m/g未満、0.5m/g未満、または0.4m/g未満である。好ましくは、BET表面積は、0.1m/g超、0.15m/g超、0.2m/g超、または0.25m/g超である。BET表面積は、粒子の多孔度および細孔径の指標でもある。表面が大きいほど、接触表面が増加することによって粒子の溶解および溶融が促進され、細孔径が小さいほど、粒子表面への溶融物の到達が低減される。したがって、上回ってはならない最適値が存在する。
【0022】
いくつかの好ましい実施形態では、酸化アルミニウム供給源は、2.600g/cm未満の密度を有する。好ましくは、密度は、2.590g/cm未満、2.580g/cm未満、2.570g/cm未満、2.560g/cm未満、2.550g/cm未満、2.540g/cm未満、または2.530g/cm未満である。密度がより低いことは、結晶構造がより完全ではなくなることを特徴とする。結晶格子に欠陥が多いほど、溶融に必要なエネルギーレベルが低くなるため、粒子がより容易かつ迅速に溶融される。
【0023】
本発明による方法では、好ましくは、溶融物の温度は1,700℃を上回らない。溶融物の温度は、より好ましくは、1,680℃、1,660℃、1,640℃、1,620℃、または1,600℃を上回らない。
【0024】
好ましくは、酸化アルミニウム供給源は、少なくとも0.015重量%のナトリウム(Na)(原子吸光分光法(AAS)により決定)を含有する。酸化アルミニウム供給源は、さらに好ましくは、少なくとも0.03重量%のNa、少なくとも0.045重量%のNa、少なくとも0.06重量%のNa、少なくとも0.075重量%のNa、少なくとも0.1重量%のNa、少なくとも0.15重量%のNa、または少なくとも0.2重量%のNaを含有する。先に説明したように、欠陥のある結晶格子は、溶融プロセスに有益であり、溶融を促進する。したがって、アルミニウム供給源中の一定量のナトリウム不純物は、ガラス中のGCI球の数を減少させるのに役立ち得る。というのも、アルミニウム供給源粒子が、より低い温度でより容易に溶融するからである。
【0025】
さらなる態様では、本発明は、酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラスマトリックスを有するガラス物品を製造するための酸化アルミニウム供給源としてのギブサイトの使用に関する。
【0026】
さらなる別の態様では、本発明は、酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラスマトリックスを含むガラス物品であって、ガラスマトリックスが、ガラス15gあたり1個未満のSiOリッチな組成不均一性のガラス球を有する、ガラス物品に関する。一実施形態では、ガラス物品は、ガラス25gあたり、ガラス50gあたり、またはガラス100gあたり1個未満のSiOリッチな組成不均一性のガラス球を有する。
【0027】
実施形態では、ガラス物品は、ガラス1.000gあたり、ガラス900gあたり、またはガラス800gあたり1個以上のSiOリッチな組成不均一性のガラス球を有し得る。
【0028】
ガラス物品中のSiOリッチなGCI球は、1:1~1.1:1、1:1~1.2:1、1:1~1.3:1、1:1~1.4:1、1:1~1.5:1、1:1~1.6:1、1:1~1.7:1、1:1~1.8:1、1:1~1.9:1、または1:1~2.0:1のアスペクト比を有し得る。アスペクト比は、好ましくは、少なくとも1.1:1、1.2:1、1.3:1、1.4:1、1.5:1、1.6:1、1.7:1、1.8:1、または1.9:1であり得る。アスペクト比は、好ましくは、最大1.2:1、1.3:1、1.4:1、1.5:1、1.6:1、1.7:1、1.8:1、1.9:1、または2.0:1であり得る。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、ガラスマトリックスはBを含有する。好ましくは、ガラスマトリックスは、3.0mol%以上、4.0mol%以上、5.0mol%以上、6.0mol%以上、7.0mol%以上、8.0mol%以上、9.0mol%以上、または10.0mol%以上の量のBを含有する。
【0030】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、ガラスマトリックスは、15.0mol%超、16.0mol%超、17.0mol%超、18.0mol%超、19.0mol%超、または20.0mol%超の量のBを含有する。
【0031】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、ガラスマトリックスは、12.0mol%未満のアルカリ金属酸化物を含有する。好ましくは、ガラスマトリックスは、11.0mol%未満、10.0mol%未満、または9.0mol%未満のアルカリ金属酸化物を含有する。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、ガラスマトリックスは、5.0ppm/K未満の熱膨張係数を有する。好ましくは、熱膨張係数は、4.5ppm/K未満、4.0ppm/K未満、3.5ppm/K未満、または3.0ppm/K未満である。
【0033】
別の態様では、本発明は、本発明による方法によって得ることが可能なガラス物品に関する。
【0034】
好ましい実施形態では、ガラス物品は管形状であり得る。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態では、ガラス物品は、200nmで少なくとも60%、ならびに/または254nm、280nmおよび/もしくは310nmの波長[λ]で少なくとも83%のUV透過率(1mmの厚さで測定)を有する。UV透過率は、254nm、280nmおよび/または310nmの波長[λ]で少なくとも86%または少なくとも88%である場合がある。これは、ガラスの厚さが1mmに限定されることを意味するものではなく、この厚さは、単に透過率値の参照厚さである。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、ガラス物品は、少なくとも10cmの面積にわたる254nmおよび/または200nmでのUV透過率の最大偏差が、5.0%以下、3.0%以下、または1.0%以下である。最大偏差は、ガラス物品におけるある領域のUV透過率を決定し、最大値と最小値との差を計算することによって測定することができる。
【0037】
別の態様では、本発明は、5~5,000個のガラス物品を含む1セットのガラス物品に関する。このセットは、少なくとも10個、30個、50個、70個、90個、100個、150個、200個、250個、または500個のガラス物品を含み得る。このセットは、最大4,500個、4,000個、3,500個、3,000個、2,500個、2,000個、1,500個、または1,000個のガラス物品を含み得る。医療用パッケージおよびランプまたはセンサに使用されるガラス物品は、多くの場合、望ましい均一な特性の組み合わせでセットにおいて使用される。本発明の方法によって、特性の変動が非常に低いガラス物品のそのようなセットも製造することができる。特に、良好な光透過特性、透明性、および熱応力下での機械的安定性を有するセットを製造することができる。
【0038】
ガラス組成物
ガラスは、好ましくはボロアルモシリケートガラスである。設計形態では、ボロアルモシリケートガラスは、(酸化物を基準としてmol%で)以下の成分を含む:
【表1】
【0039】
本発明のガラスは、少なくとも60mol%の割合のSiOを含有し得る。SiOは、ガラスの耐加水分解性および透明性に寄与する。SiO含有量が高過ぎると、ガラスの融点が高くなり過ぎる。温度TおよびTgも急激に上昇する。したがって、SiOの含有量は、最大78mol%に制限されるべきである。
【0040】
好ましくは、SiOの含有量は、少なくとも61mol%、少なくとも63mol%、または少なくとも65mol%である。含有量は、最大75mol%または最大72mol%に制限され得る。
【0041】
本発明のガラスは、最大10mol%の割合のAlを含有する。Alは、ガラスの偏析安定性に寄与するが、割合が大きくなると耐酸性を低下させる。さらに、Alは、溶融温度およびTを上昇させる。したがって、この成分の含有量は、最大9mol%または最大8mol%に制限されるべきである。いくつかの実施形態では、Alは、少なくとも1.0mol%、少なくとも1.5mol%、少なくとも2mol%、少なくとも2.5mol%、または少なくとも3mol%、または少なくとも3.5mol%の小さな割合で使用される。
【0042】
本発明のガラスは、少なくとも12mol%の割合のBを含有し得る。Bは、ガラスの溶融特性に有益な効果を有し得て、特に、溶融温度が低くなり、ガラスをより低い温度で他の材料と融合させることができる。しかしながら、Bの量は多過ぎるべきではない。そうでなければ、ガラスは強い偏析の傾向を有する。したがって、Bは、最大24mol%、最大22mol%、または最大20mol%に制限されるべきである。特定の形態では、Bの含有量は最大17mol%である。Bの含有量は、少なくとも12mol%または少なくとも14mol%であり得る。
【0043】
好ましい設計では、SiOおよびAlの含有量の合計(mol%)に対するB、RO、およびROの含有量の合計(mol%)の比率は、最大0.4、特に最大0.35、より好ましくは最大0.33である。一実施形態では、この値は、少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.2、または少なくとも0.26である。上記の割合を有するガラスは、耐加水分解性および偏析係数の点で良好な特性を有し、低い誘導消光(induced extinction)しか有さず、特にUV透過材料として使用される場合に多くの利点がある。
【0044】
本発明のガラスは、最大3.0mol%、最大2.8mol%、または最大2.5mol%の割合のLiOを含有し得る。LiOは、ガラスの可融性を上げ、UV端をより低い波長に有益にシフトさせる。しかしながら、酸化リチウムは、蒸発する傾向があり、偏析の傾向を高め、混合物の価格も上昇させる。好ましい設計では、ガラスは、少量、例えば、最大3.0mol%、最大2.0mol%、もしくは最大1.9mol%のLiOしか含有しないか、またはガラスはLiOを含まない。
【0045】
本発明のガラスは、最大6mol%の割合のNaOを含有する。NaOは、ガラスの可融性を上げる。しかしながら、酸化ナトリウムは、UV透過率の低下および熱膨張係数の増加ももたらす。ガラスは、少なくとも1mol%または少なくとも2mol%の割合のNaOを含有し得る。一変形例では、NaOの含有量は、最大5mol%または最大4mol%である。
【0046】
本発明のガラスは、最大4mol%の割合のKOを含有する。KOは、ガラスの可融性を上げ、UV端をより低い波長に有益にシフトさせる。その含有量は、少なくとも0.3mol%または少なくとも0.75mol%であり得る。しかしながら、酸化カリウムの含有量が多過ぎると、その同位体40Kの放射特性を理由に、光電子増倍器内での使用時に妨害効果のあるガラスが生じる。したがって、この成分の含有量は、最大3mol%または最大2mol%に制限されるべきである。
【0047】
本発明の一実施形態では、mol%でのKOに対するNaOの含有量の比率は、少なくとも1.5、特に少なくとも2である。本発明の一実施形態では、該比率は、最大4、特に最大3である。どちらの酸化物も、ガラスの可融性を改善するのに役立つ。しかしながら、NaOが多く使用され過ぎると、UV透過率が低下する。多過ぎるKOは熱膨張係数を増加させる。記載されている比率によって最良の結果が達成されることが見出された。すなわち、UV透過率および熱膨張係数は有利な範囲にある。
【0048】
本発明のガラス中のROの量は、好ましくは、10mol%以下、8mol%以下、または7mol%以下である。ガラスは、少なくとも3.5mol%、少なくとも4mol%、または少なくとも4.5mol%の量のROを含有し得る。アルカリ金属酸化物は、ガラスの可融性を上げるが、上記のように、割合が高くなると様々な欠点をもたらす。
【0049】
本発明のガラスは、最大4mol%または最大2mol%の割合のMgOを含有し得る。MgOは、可融性にとって有利であるが、割合が高いと、UV透過率および偏析の傾向に関して問題があると証明されている。好ましい設計はMgOを含まない。
【0050】
本発明のガラスは、最大4mol%または最大2mol%の割合のCaOを含有し得る。CaOは、可融性にとって有利であるが、割合が高いと、UV透過率に関して問題があると証明されている。好ましい形態は、CaOを含まないか、または僅かな、例えば、少なくとも0.1mol%、少なくとも0.3mol%、または少なくとも0.5mol%のCaOしか含有しない。
【0051】
本発明のガラスは、最大4mol%、最大1mol%、または最大0.5mol%の割合のSrOを含有し得る。SrOは、可融性にとって有利であるが、割合が高いと、UV透過率に関して問題があると証明されている。好ましい設計はSrOを含まない。
【0052】
本発明のガラスは、最大4mol%または最大2mol%の割合のBaOを含有し得る。BaOは、耐加水分解性の改善をもたらす。しかしながら、酸化バリウムの含有量が多過ぎると、偏析がもたらされ、それによって、ガラスが不安定になる。好ましい実施形態は、少なくとも0.1mol%、少なくとも0.3mol%、または少なくとも0.8mol%の量のBaOを含有する。
【0053】
アルカリ土類酸化物ROは、偏析の傾向に大きな影響を与えると示された。したがって、設計形態では、これらの成分の含有量およびそれらの相互関係に特別に注意が払われる。したがって、mol%でのMgO、SrOおよびCaOの含有量の合計に対するmol%でのBaOの比率は、少なくとも0.4であるべきである。好ましくは、この値は、少なくとも0.55、少なくとも0.7、または少なくとも1.0である。特に好ましい形態では、この値は、少なくとも1.5またはさらには少なくとも2である。BaOは、他のアルカリ土類金属酸化物と比較して、偏析および耐加水分解性の点で最大の利点を提供する。しかしながら、この比率は、4.0または3.0を上回るべきではない。有利な形態では、ガラスは、少なくとも少量のCaOおよびBaOを含有し、MgOおよびSrOを含まない。
【0054】
特に、mol%でのBaOに対するガラス中のCaOの割合の比率が2.0未満である場合に、有利な特性が得られる。特に、この比率は、1.5未満または1.0未満であるべきである。最適な比率は、さらに低く、特に、0.8未満または0.6未満であり、好ましい設計では、この比率は少なくとも0.3である。
【0055】
一変形例では、このガラスは、BaOに対するBのmol%比率が、少なくとも8かつ最大20である。好ましくは、この比率は、少なくとも10または少なくとも11であり、好ましい設計では、該比率は、最大18、16、15、または13に制限される。特に、この比率は、10以上かつ15以下、または11以上かつ13以下であり、上記の比率を有するガラスは、耐加水分解性および偏析係数の点で良好な特性、ならびに低い誘導吸収も示す。
【0056】
本発明のガラス中のROの割合は、少なくとも0.3mol%であり得る。アルカリ土類金属酸化物は、可融性にとって有利であるが、割合が高いと、UV透過率に関して問題があると証明されている。一変形例では、ガラスは、最大3mol%のROを含有する。
【0057】
アルカリ土類金属酸化物とアルカリ金属酸化物とのmol%での含有量の合計であるRO+ROは、最大10mol%に制限され得る。有利な設計は、最大9mol%の量のこれらの成分を含有し得る。好ましくは、これらの酸化物の含有量は、少なくとも4mol%、少なくとも5mol%、または少なくとも6mol%である。これらの成分は、偏析の傾向を高め、ガラスの耐加水分解性を非常に高い割合で低下させる。
【0058】
mol%でのROおよびROの含有量の合計に対するmol%でのBの含有量の比率は、少なくとも1.3、少なくとも1.5、または少なくとも1.8であり得る。この比率は、最大6、最大4.5、または最大3に制限され得る。アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物がBに対して多過ぎると、ガラスの偏析中にアルカリ金属またはアルカリ土類金属ホウ酸塩が形成される場合がある。先の比率を調整することが有利であると証明された。
【0059】
TgおよびTを含む溶融特性が所望の範囲内にあることを確実にするためには、mol%でのSiOおよびAlの含有量の合計に対するBの含有量の比率を狭い範囲内で設定することが有利であり得る。有利な設計では、この比率は、少なくとも0.15および/または最大0.4である。
【0060】
mol%でのアルカリ土類金属酸化物ROの合計に対するアルカリ金属酸化物ROの合計の割合の比率は、好ましくは1超、特に1.1超または2超である。設計形態では、この比率は、最大10、最大7、または最大5である。
【0061】
本発明のガラスは、0~6mol%の含有量のFを含有し得る。好ましくは、Fの含有量は最大4mol%である。設計形態では、少なくとも1mol%または少なくとも2mol%のこの成分が使用される。成分Fは、ガラスの可融性を改善し、より小さな波長に向かってUV端に影響を与える。
【0062】
本発明のガラスは、1mol%未満、特に0.5mol%未満または0.3mol%未満の含有量のClを含有し得る。適切な下限は、0.01mol%または0.05mol%である。
【0063】
前述のように、このガラスは、溶融を改善するために、FeおよびTiのようなIR吸収化合物を中程度の量で含有し得る。本発明のガラスは、1ppb~10ppm、10ppb~9ppm、20ppb~8ppm、30ppb~7ppm、40ppb~6ppm、または50ppb~5ppmの量のFeを含有し得る。Feの量は、少なくとも1ppb、少なくとも10ppb、少なくとも20ppb、少なくとも30ppb、少なくとも40ppb、または少なくとも50ppbであり得る。Feの量は、最大10ppm、最大9ppm、最大8ppm、最大7ppm、最大6ppm、または最大5ppmであり得る。
【0064】
本発明のガラスは、1ppb~10ppm、10ppb~9ppm、20ppb~8ppm、30ppb~7ppm、40ppb~6ppm、または50ppb~5ppmの量のTiOを含有し得る。TiOの量は、少なくとも1ppb、少なくとも10ppb、少なくとも20ppb、少なくとも30ppb、少なくとも40ppb、または少なくとも50ppbであり得る。TiOの量は、最大10ppm、最大9ppm、最大8ppm、最大7ppm、最大6ppm、または最大5ppmであり得る。
【0065】
この説明で、ガラスが成分を含まない、または特定の成分を含有しないと述べられている場合、これは、この成分が最大でも不純物としてしか存在し得ないことを意味する。これは、この成分が有意量で添加されていないことを意味する。有意ではない量とは、0.5ppm未満、好ましくは0.25ppm未満、最も好ましくは0.125ppm未満の量である。
【0066】
一実施形態では、ガラスは、3.5ppm未満、特に2.5ppm未満または1.0ppm未満のヒ素を有する。3.5ppm未満のアンチモン、2.5ppm未満のアンチモン、または1.0ppm未満のアンチモンを含有するガラスが好ましい。UV透過率およびソラリゼーションに対する悪影響のみならず、ヒ素およびアンチモンは、有毒かつ環境に危険であるため、回避されるべきである。
【0067】
特に好ましい設計では、ホウケイ酸塩ガラスは、(酸化物を基準としてmol%で)以下の成分を含む:
【表2】
【0068】
別の特に好ましい形態では、ガラスは、mol%で以下の成分を含む:
【表3】
【0069】
物品
一実施形態では、ガラス物品の厚さ、特にガラス管の場合には壁厚は、少なくとも0.1mmまたは少なくとも0.3mmであり得る。厚さは、最大3mmまたは最大2mmに制限され得る。ガラス物品の外径、例えば、ガラス管またはガラス棒の外径は、最大50mm、最大40mm、または最大30mmであり得る。外径は、特に、少なくとも1mm、少なくとも2mm、または少なくとも3mmであり得る。一実施形態では、物品は、少なくとも3mmおよび/または最大20mmの厚さを有する。任意選択的に、厚さは、少なくとも5mm、少なくとも6mm、または少なくとも8mmである。厚さは、最大20mm、最大16mm、最大14mm、または最大12mmに制限され得る。一実施形態では、物品は、ある長さおよびある幅を有し、特に、長さは幅よりも大きい。長さは、少なくとも20mm、少なくとも40mm、または少なくとも60mmであり得る。任意選択的に、長さは、最大1000mm、最大600mm、最大250mm、または最大120mmである。好ましくは、長さは、20mm~1000mm、40mm~600mm、または60mm~250mmである。幅は、少なくとも10mm、少なくとも25mm、または少なくとも35mmであり得る。任意選択的に、幅は、最大575mm、最大225mm、または最大110mmである。好ましくは、幅は、10mm~575mm、25mm~225mm、または35mm~110mmである。好ましい実施形態では、物品は、シートまたはディスクの形態にある。
【0070】
一態様では、本発明は、本明細書に記載されているガラスを含むか、またはこれからなる、ガラス物品に関する。一実施形態では、ガラス物品は、少なくとも1つの研磨された表面を有する。任意選択的に、ガラス物品は、少なくとも1つの面取りされた縁を有する。研磨された表面は、10nm未満または5nm未満の表面粗さRaを有し得る。面取りされた縁は、耐衝撃性がより高く、特に、面取りされていない縁よりもチッピングに対する耐性がある。
【0071】
熱的および/または化学的焼き戻し
任意選択的に、製造プロセスは、ガラス物品の化学的および/または熱的焼き戻しのステップを含む。「焼き戻し」は、「硬化」または「強化」とも称される。
【0072】
好ましくは、ガラス物品は、少なくとも1つの表面において強化、特に熱的および/または化学的に強化される。例えば、イオン交換によってガラス物品を化学的に焼き戻しすることが可能である。このプロセスでは、通常、物品中の小さなアルカリ金属イオンがより大きなアルカリ金属イオンで置き換えられる。多くの場合、より小さなナトリウムがカリウムで置き換えられる。しかしながら、非常に小さなリチウムをナトリウムおよび/またはカリウムで置き換えることも可能である。任意選択的に、アルカリ金属イオンを銀イオンで置き換えることが可能である。別の可能性は、アルカリ土類金属イオンがアルカリ金属イオンと同じ原理に従って互いに交換されることである。好ましくは、イオン交換は、溶融塩浴中にて物品表面と塩浴との間で行われる。交換には、純粋な溶融塩、例えば、溶融KNOを使用することができる。しかしながら、塩混合物、または塩と他の成分との混合物も使用することができる。選択的に調整された圧縮応力プロファイルが物品において構築されている場合、物品の機械的抵抗をさらに増加させることができる。これは、一段階または多段階のイオン交換プロセスによって実現することができる。
【0073】
小さなイオンを大きなイオンで置き換えるか、または熱的に焼き戻しすることによって、対応するゾーンに、ガラス物品の表面から中心に向かって低下する圧縮応力が生じる。最大圧縮応力は、ガラス表面のすぐ下にあり、CS(圧縮応力)とも称される。CSは、応力であり、MPaの単位で表される。圧縮応力層の深さは、「DoL」と略され、μmの単位で示される。好ましくは、CSおよびDoLは、OriharaのFSM-60LE装置を使用して測定される。
【0074】
一実施形態では、CSは100MPa超である。さらに好ましくは、CSは、少なくとも200MPa、少なくとも250MPa、または少なくとも300MPaである。より好ましくは、CSは、最大1,000MPa、最大800MPa、最大600MPa、または最大500MPaである。好ましくは、CSは、100MPa超~1,000MPa、200MPa~800MPa、250MPa~600MPa、または300MPa~500MPaの範囲にある。
【0075】
一実施形態では、ガラス物品は熱的に強化されている。熱的強化は、典型的には、高温のガラス表面を急速に冷却することによって達成される。熱的強化には、化学的強化よりも圧縮応力層をより深く(より大きなDoL)形成することができるという利点がある。これによって、圧縮応力層は、より薄い圧縮応力層の場合ほど容易に引っかき傷で貫通され得ないため、ガラスは、引っかき傷にそれほど影響を受けなくなる。
【0076】
ガラスまたはガラス物品は、例えば、溶融、成形、焼き鈍し/冷却プロセス、および低温後加工ステップの後に、熱的焼き戻しプロセスに供することができる。このプロセスでは、ガラス本体(例えば、前述のガラス物品または予備製品)、例えば板ガラスは、好ましくは水平に供給されるか、またはデバイス内へと吊り下げられ、変態温度T超の最大150℃までの温度に急速に加熱される。次いで、ガラス本体の表面は、例えばノズルシステムを通して冷気をブローすることによって、急速に冷却される。ガラス表面の急速な冷却の結果、ガラス表面は、拡大されたネットワークで凍結されるが、ガラス本体の内部は、ゆっくりと冷却され、さらに収縮する時間がある。これによって、表面層に圧縮応力が生じ、内部に引張応力が生じる。圧縮応力の量は、CTEglass(Tg未満の平均線熱膨張係数)、CTEliquid(Tg超の平均線熱膨張係数)、歪点、軟化点、ヤング率のような様々なガラスパラメータに、また冷却媒体とガラス表面との間の熱伝達の量およびガラス体の厚さに依存する。
【0077】
好ましくは、少なくとも50MPaの圧縮応力が生成される。結果として、ガラス本体の曲げ強度は、強化されていないガラスと比較して2倍~3倍であり得る。一実施形態では、ガラスは、750~800℃の温度に加熱され、冷気流中で急速に焼き戻される。任意選択的に、ブロー圧力は1~16kPaであり得る。本明細書に記載されているガラスまたはガラス物品を用いると、例えば、50~250MPa、特に75~200MPaの圧縮応力の値が市販のシステムにおいて達成される。
【0078】
一実施形態では、ガラス物品は、少なくとも50MPa、特に少なくとも75MPa、少なくとも85MPa、または少なくとも100MPaの圧縮応力を有する圧縮応力層を有する。ガラス物品は、その表面のうちの1つ、2つ、またはすべてに圧縮応力層を有し得る。圧縮応力層の圧縮応力は、最大250MPa、最大200MPa、最大160MPa、または最大140MPaに制限され得る。これらの圧縮応力値は、特に熱的に強化されたガラス物品中に存在し得る。
【0079】
一実施形態では、ガラス物品の圧縮応力層の深さは、少なくとも10μm、少なくとも20μm、少なくとも30μm、または少なくとも50μmである。特定の実施形態では、この層は、少なくとも80μm、少なくとも100μm、または少なくとも150μmでさえあり得る。任意選択的に、DoLは、最大2,000μm、最大1,500μm、最大1,250μm、または最大1,000μmに制限される。特に、DoLは、10μm~2,000μm、20μm~1,500μm、または30μm~1,250μmであり得る。一実施形態では、ガラス物品は、少なくとも300μm、少なくとも400μm、または少なくとも500μmのDoLで熱的に強化されている。任意選択的に、DoLは、最大2,000μm、最大1,500μm、または最大1,250μmであり得る。一実施形態では、DoLは、300μm~2,000μm、400μm~1,500μm、または500μm~1,250μmである。
【0080】
実施形態
本発明は、いくつかの点で耐性のあるガラスに関する。特に、耐性のあるガラスは、ガラスが特別な要件に曝される場合に特に有用である。これは、例えば、過酷な環境の場合である。過酷な環境とは、特に、特別な耐性、耐久性、および安全性が要求される特定の用途の分野、例えば、防爆が必要な分野である。
【0081】
一実施形態では、本発明は、過酷な環境での使用に特別に適したガラス物品に関する。この物品は、シート、ディスク、管、棒、インゴット、またはブロックであり得る。
【0082】
任意選択的に、ガラス物品は、酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラスマトリックスであって、ガラスマトリックスが、ガラス15gあたり1個未満のSiOリッチな組成不均一性のガラス球を有する、酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラスマトリックスを含み、さらに、ガラス物品は、少なくとも0.3mm、特に少なくとも3mmおよび/または最大20mmの厚さを有する。
【0083】
過酷な環境では、より厚いガラスはより薄いガラスよりも機械的に安定しているため、ガラス物品に特定の最小厚さを設けると有用であり得る。しかしながら、ガラスが厚いほど、ガラスに入るUV放射線のより多くの部分が吸収され、それによって熱が生成される。可燃性の高い材料のある環境では、高発熱が問題になる場合がある。200nmおよび/または254nmで低い誘導消光を有するガラス物品には、長期間使用した後でも考慮される波長で透過率が高いままであり、かつ極端な発熱が回避されるという利点がある。
【0084】
本発明によると、ガラス物品はまた、過酷な環境で表面を殺菌するためのUVランプにも使用され得る。一実施形態では、ガラス物品は、作用点を殺菌するために使用される(特にカバーとしての)UVランプにおいて使用される。作用点は、多くの人が触れる物体、例えば、ハンドル、特にドアハンドルであり得る。UVランプは、例えば、これが作用点にUV放射線を適用するように位置調節され得る。この場合、作用点への特定の近接性を回避することはできない。したがって、衝撃によってガラス物品が損傷するリスクがある。結果として、機械的抵抗が必要になる。ガラス物品の厚さを大きくすることによって機械的抵抗を改善することができるが、それによって、物品の透過率が低下し、UVランプの動作中のガラスの加熱が大幅に増加する。過度の加熱は回避すべきであり、この回避はまた、透過率が非常に良好であることおよび誘導消光が低いことによって有利な影響を受ける。過度に高温になると、ユーザーの火傷または爆発のリスクがあるため、安全性が損なわれる。原則として、火傷のリスクは、距離を大きくすることによって低減することができるが、これをより強い放射強度で補う必要があり、ここでも、より強い発熱という欠点がある。
【0085】
本発明はまた、UVランプと、特に過酷な環境における、殺菌するための、特に、作用点(例えば多くの人が触れるもの)を殺菌するためのUVランプにおけるガラス物品の使用とに関する。殺菌すべき表面とガラス物品との間の最小距離を、5cm、特に7.5cmまたは10cmに維持することが有利であると証明された。本明細書に記載されているガラス物品を使用する場合、少なくとも1.0mW/cm、少なくとも1.5mW/cm、少なくとも2.5mW/cm、少なくとも3.0mW/cm、または少なくとも3.5mW/cmの電力密度を作用点で設定することができる。作用点とは、殺菌すべき表面である。任意選択的に、電力密度は、最大20mW/cm、最大15mW/cm、または最大10mW/cmである。特に、電力密度は、UVランプによって伝達されるUV放射線、特にUV-C放射線として作用点で測定することができる電力である。好ましくは、作用点は定期的に殺菌される。このことは、作用点が連続的に照射されるのではなく、断続的にのみ照射されることを意味する。例えば、照射間隔は、ユーザーによる接触または作動によって誘発させることができる。例えば、照射間隔は、少なくとも1秒、少なくとも5秒、少なくとも10秒、または少なくとも20秒であり得る。任意選択的に、照射間隔は、最大10分、最大5分、最大2分、または最大1分続く。
【0086】
一実施形態では、UVランプおよび/またはガラス物品は、熱的に最適化された構造を有し、ガラス物品の厚さおよびガラス物品のUV透過率は、(光源を基準にガラス物品の反対側に配置されかつ)ガラス物品から70mm離れた作用点に、120W/cmおよびアーク長4cmの中圧水銀ランプ(例えば、Philips HOK 4/120)を、UVC電力密度17.27mW/cmで5秒の時間にわたって周囲温度20℃で照射した場合に、作用点に面するガラス物品の表面の温度が45℃を上回らないように選択される。一実施形態では、放射線は、ガラス物品を垂直に通過し、すなわち、光は、光源に面する表面に実質的に垂直にガラス物品に入る、および/または光は、作用点に面するガラス物品の表面に実質的に垂直にガラス物品から出る。特に、温度は、42.5℃、40℃、または37.5℃の値を上回ることはない。一実施形態では、該温度限界は、照射の10秒、20秒、30秒、45秒、60秒、90秒、120秒、150秒、または180秒後でも上回ることはない。この特性は、一般的に使用されるUV光源を垂直に照射したときにガラス物品がどれだけ強く加熱されるかを表す。このガラス物品で作製されたランプカバーを有するUVランプが危険なほど熱くはならないことが達成される。UVC電力密度とは、UVC範囲(280~200nm)の放射線によって与えられる電力密度を指す。中圧水銀ランプは他の波長の光も放射するが、これらの波長は、UVC電力密度について考える場合、ここでは考慮しない。測定は周囲雰囲気下で実施される。明確化のために言うと、記載されている特性は、UVランプ、またはガラス物品の適用を中圧水銀ランプに限定するものではない。
【0087】
一実施形態では、ガラス物品は、DIN EN 12150-1:2020-07による破壊パターンの要件を満たしている。物品全体または物品の一部を調べることができ、指定された基準から逸脱している場合、物品は、考慮すべき面積を上回る限り、そこに示されているより小さくてもよい。破壊パターンについて考慮すべき面積は、特に40mm×40mmまたは25mm×25mmであり得る。一実施形態では、ガラス物品は、先の条件下で、25個以上の破片、特に30個以上の破片または40個以上の破片に破壊される。破片が小さいと破壊時に怪我のリスクが低いため、物品が多くの破片に砕けることが有利である。破壊パターンは、例えば、ガラス組成の選択、冷却条件(熱収縮)、ガラスの応力の調整、および/または物品の焼き戻しによって影響を受け得る。
【0088】
一実施形態では、本発明は、酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラスマトリックスを含むガラス物品であって、ガラスマトリックスが、ガラス15gあたり1個未満のSiOリッチな組成不均一性のガラス球を有する、ガラス物品に関し、さらに、ガラス物品は、少なくとも0.3mm、特に少なくとも3mmおよび/または最大20mmの厚さを有し、さらに、物品は、少なくとも50MPaの少なくとも1つの表面における圧縮応力と、40mm×40mmの面積がDIN EN 12150-1に従って決定した場合に25個以上の破片に破壊されることを特徴とする破壊パターンとを有する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】ギブサイトおよびベーマイトの熱分析のDTA/TGプロットである。
図2】ギブサイトを有するガラス溶融物における経時的な組成変化のプロットである。
図3】管の形態の酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラス物品中のGCI球の例である。
【0090】
実施例
様々なアルミニウム原料の溶融特性の比較を、DIN 51007:2019-04に準拠して示差熱分析/熱重量分析(DTA/TGA)によって行った(20℃~1,500℃、加熱速度50K/分)。サンプルバッチは、アルミニウム供給源、石英粉末、およびソーダ灰の3つの成分のみからなっていた。特に、溶融の開始温度を決定した。図1に、ギブサイトおよびベーマイトのDTA/TGプロットを示す。ギブサイトの溶融開始温度は1,071℃であり、ベーマイトの溶融開始温度は1,210℃であると測定された。この結果は、ギブサイトがベーマイトよりもはるかに早く溶融し始めることを示す。このことは、溶融プロセスのエネルギー消費量がより少ないことのみならず、溶融状態で、アルミニウム供給源が、クリストバライトへの再構成前であってもSiO粒子の溶融および溶解挙動に有利な影響をより早くに与え得ることを意味する。
【0091】
様々なアルミニウム供給源の溶融プロセスについて、直径3mmおよび高さ3mmの円筒形のサンプルにおいて、5K/分の加熱速度にて、DIN 51730:2007-09に準拠してホットステージ顕微鏡(HSM)でそれらの半球温度を測定することによってさらに調べた。半球温度とは、サンプルがほぼ半球の形状を有し、かつ0.98以上の形状係数でその元々の高さの半分に達する温度として定義される。これは、溶融プロセス開始時のレオロジー挙動の特性値である。サンプルバッチは、先に例示したようなボロアルモシリケートガラス混合物からなり、これは、アルミニウム供給源のみが異なっていた。2つの異なるタイプのギブサイトおよび1つのタイプのベーマイトを比較した。2つのギブサイトタイプは、BET表面、平均粒径、および密度が異なり、タイプ1は、アルミニウム原料の特に好ましい変形例に対応する。これらの結果を以下の表に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
本発明による2つのギブサイトサンプルがベーマイトサンプルよりも優れていることが明確に分かる。これらの値は、ギブサイトサンプルがベーマイトサンプルよりも約120~200℃早く軟化し始めることを示す。したがって、ガラス組成物は、ギブサイトを用いると、より容易に、かつより低い温度で溶融するであろう。
【0094】
さらに、本発明によるアルミニウム供給源を含むガラス原料混合物の溶融中の組成変化を調べた。この実験では、ガラス原材料の混合物のサンプル50gを調製した。この混合物を白金るつぼに入れ、1,550℃に加熱した。サンプルを毎分オーブンから取り出した。これらのサンプルを水中で急冷し、次いで、X線回折(XRD)によって特性評価した。これらの測定結果を図2に示す。約2分後に、組成物は実質的に石英からなることが分かる。約5分後に、石英からクリストバライトへの変換が開始し、約10分後に、石英相全体がクリストバライトに変換した。このことは、特に問題のあるクリストバライト粒子が約10分の短い時間の後にすでに存在していることを示す。次いで、これらを、溶融手順のさらなる時間の間に溶融し、マトリックスに溶解させる必要があるであろう。
【0095】
図3には、管の形態の酸化アルミニウム含有ケイ酸塩ガラス物品中のGCI球の例が示されている。見て分かるように、管引抜加工によって、ガラス中のGCI球の変形がもたらされた。溶融プロセスにおいて形成されたクリストバライト結晶の粒子を引抜加工中に延伸して、約1.3:1のアスペクト比を有する細長い楕円形にした。
図1
図2
図3