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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】パワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20231219BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20231219BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H01L23/36 M
H01L23/36 Z
H01L25/04 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021150033
(22)【出願日】2021-09-15
(62)【分割の表示】P 2017151887の分割
【原出願日】2017-08-04
(65)【公開番号】P2021185639
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】広津留 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 恒希
(72)【発明者】
【氏名】酒井 篤士
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-145746(JP,A)
【文献】国際公開第2007/080701(WO,A1)
【文献】特開2006-145746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/12 -23/15
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H01L25/00 -25/07
H01L25/10 -25/11
H01L25/16 -25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース板に、セラミックス基材と前記セラミックス基材の両面のそれぞれに設けられた少なくとも一層の金属層とを有するセラミックス絶縁基板を接合する工程と、
前記セラミックス絶縁基板上に半導体素子を接合する工程と、を備えるパワーモジュールの製造方法であって、
前記ベース板に接合される前の前記セラミックス絶縁基板の前記金属層の最外層には、圧縮応力又は40MPa以下の引張応力が残留しており、
前記ベース板の前記セラミックス絶縁基板と反対側の面が凸状の反りを有し、
前記ベース板の前記セラミックス絶縁基板と反対側の面に放熱部品が取り付けられたときの当該面の平面度が30μm以下である、パワーモジュールの製造方法
【請求項2】
前記ベース板の前記セラミックス絶縁基板と反対側の面の反り量が、長さ10cmあたり50μm以下である、請求項1に記載のパワーモジュールの製造方法
【請求項3】
前記セラミックス基材は、AlN、Si又はAlで形成された、厚み0.3~1.5mmのセラミックス基材であり、
前記金属層は、Cu、Al、Mo、Cu及びMo含む合金、並びにCu及びWを含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1種で形成された、厚み0.1~2mmの金属層である、請求項1又は2に記載のパワーモジュールの製造方法
【請求項4】
前記ベース板は、Al又はMgを含む金属と、SiC、Si、Al、SiO及びAlNからなる群より選ばれる少なくとも1種とからなる金属基複合体、Cu及びMo若しくはCu及びWを含む合金、又は、Cu及びMo若しくはCu及びWで形成された多層金属板からなり、
前記ベース板の線熱膨張係数が5×10-6~9×10-6/Kであり、熱伝導率が150W/mK以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法
【請求項5】
前記ベース板の前記セラミックス絶縁基板と反対側の面が、機械加工又は研削加工されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法
【請求項6】
前記半導体素子が、Si、SiC及びGaNのいずれかで形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法
【請求項7】
前記パワーモジュールが、電車又は自動車の駆動インバータとして用いられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体素子を備えるパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電鉄用、発電用、電気自動車/ハイブリッド自動車用モーター等の高出力モーターを制御するインバータには、IGBTモジュール等のパワーモジュールが使用される。パワーモジュールとしては、Si等の半導体素子とAlN、Al、Si等のセラミックス絶縁基板と、熱伝導性に優れる、Cu、Al、Al-SiCベース板等とが半田付けされ、配線、電極、樹脂ケースを取り付けた後、シリコーンゲル等で充填される構造を有するものが主流である(特許文献1)。
【0003】
通常、パワーモジュールは、ヒートシンク等の放熱部品に放熱グリース等を介してネジ止めされて使用される。高出力用途のパワーモジュールにおいては、半導体素子からの発熱量が多く、如何に効率的に放熱するかが重要な課題であり、放熱が十分でない場合には、半導体素子温度が許容温度を超え、誤作動等を発生することがある。特に、パワーモジュール全体の熱抵抗に占める放熱グリース部分の熱抵抗の割合が大きく、この部分の熱抵抗を如何に下げるかが重要である。
【0004】
セラミックス絶縁基板は、セラミックス材料の影響で、セラミックス絶縁基板自体が線熱膨張係数の比較的小さい部品であり、線熱膨張係数の比較的大きいCu等の金属ベース板に半田付けした場合、ベース板の放熱面の形状が凹状の反りになったり、放熱面に凹みが発生したりすることがある。このため、このような用途のベース板として、熱伝導性が高く、接合されるセラミックス絶縁基板に近い線熱膨張係数を有する、アルミニウム又はアルミニウム合金と炭化珪素とからなる複合体が用いられている(特許文献2)。
【0005】
上記の用途で、平坦なベース板を用いる場合、ベース板とセラミックス絶縁基板との熱膨張係数の違いから、両者の接合時に発生する応力やその後の樹脂封止等によるパッケージ化の際に発生する応力のため、放熱部品等と密着させる側のベース板面が凹状に反ってしまい、放熱フィンをベース板に固定する際、十分な密着性が得られない。この問題を解決する手段として、放熱フィン等と接合させるベース板の板面を予め凸型に反らせておく反り付け加工の技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-84077号公報
【文献】特開平3-509860号公報
【文献】特開平11-330308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セラミックス絶縁基板の構成は、パワーモジュールの用途や出力、耐圧により選定され、その結果、セラミックス絶縁基板の線熱膨張係数は基板の構成により異なる。また、パッケージ化する過程で接合に用いる半田の種類などが異なることにより、パワーモジュールの放熱面の形状が異なり、目的とする放熱フィン等の放熱部品と密着させる側の面の反りや平面度が適切でなく、放熱フィン等の放熱部品を取り付けた際の空隙、いわゆるエアギャップが生じ、放熱性が低下することが問題となる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、放熱部品に好適に密着させることが可能な放熱面を有するパワーモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一態様において、ベース板と、ベース板上に接合され、セラミックス基材とセラミックス基材の両面のそれぞれに設けられた少なくとも一層の金属層とを有するセラミックス絶縁基板と、セラミックス絶縁基板上に接合された半導体素子と、を備えるパワーモジュールであって、ベース板のセラミックス絶縁基板と反対側の面が凸状の反りを有し、金属層の最外層には、圧縮応力又は40MPa以下の引張応力が残留している、パワーモジュールである。
【0010】
セラミックス絶縁基板に接合されたベース板の反りの大きさと、セラミックス絶縁基板に接合される前のベース板の反りの大きさとの差は、長さ10cmあたり20μm以下であってよい。
【0011】
セラミックス基材は、AlN、Si又はAlで形成された、厚み0.3~1.5mmのセラミックス基材であってよく、金属層は、Cu、Al、Mo、Cu及びMo含む合金、並びにCu及びWを含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1種で形成された、厚み0.1~2mmの金属層であってよい。
【0012】
ベース板は、Al又はMgを含む金属と、SiC、Si、Al、SiO及びAlNからなる群より選ばれる少なくとも1種とからなる金属基複合体、Cu及びMo若しくはCu及びWを含む合金、又は、Cu及びMo若しくはCu及びWで形成された多層金属板からなり、ベース板の線熱膨張係数は5×10-6~9×10-6/Kであり、熱伝導率は150W/mK以上であってよい。
【0013】
ベース板のセラミックス絶縁基板と反対側の面は、機械加工又は研削加工されていてよい。
【0014】
ベース板のセラミックス絶縁基板と反対側の面に放熱部品が取り付けられたときの当該面の平面度は、好ましくは30μm以下である。
【0015】
半導体素子は、Si、SiC及びGaNのいずれかで形成されていてよい。
【0016】
上記のパワーモジュールは、電車又は自動車の駆動インバータとして用いられてよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、放熱部品に好適に密着させることが可能な放熱面を有するパワーモジュールを提供することができる。これにより、放熱性に富むパワーモジュールの提供も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】パワーモジュールの一実施形態を示す断面図である。
図2】放熱部品付きパワーモジュールの一実施形態を示す断面図である。
図3】実施例で用いたセラミックス絶縁基板を示す断面図であり、(a)は3層構造(金属層1層タイプ)、(b)は5層構造(金属層2層タイプ)のセラミックス絶縁基板を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明がこれらの実施形態に限定されないことは自明である。
【0020】
図1は、パワーモジュールの一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、パワーモジュール1は、ベース板2と、ベース板2上に第1の半田3を介して接合されたセラミックス絶縁基板4と、セラミックス絶縁基板4上に第2の半田5を介して接合された半導体素子6とを備えている。
【0021】
セラミックス絶縁基板4は、セラミックス基材7と、セラミックス基材7の一方の面に設けられた第1の金属層8と、セラミックス基材7の他方の面に設けられた第2の金属層9とを備えている。すなわち、セラミックス基材7の両面には、それぞれ金属層8,9が設けられている。少なくとも第2の金属層9は、電気回路(金属回路)を形成している。第1の金属層8は、電気回路(金属回路)を形成していてもよく形成していなくてもよい。ベース板2は、第1の半田3を介して第1の金属層8に接合されている。半導体素子6は、第2の半田5を介して第2の金属層9の所定の部分に接合されていると共に、アルミワイヤ(アルミ線)等の金属ワイヤ10で第2の金属層9の所定の部分に接続されている。
【0022】
ベース板2上に設けられた上記の各構成要素は、例えば一面が開口した中空箱状の樹脂製の筐体11で蓋され、筐体11内に収容されている。ベース板2と筐体11との間の中空部分には、シリコーンゲル等の充填材12が充填されている。第2の金属層9の所定部分には、筐体11の外部と電気的な接続が可能なように、筐体11を貫通する電極13が第3の半田14を介して接合されている。
【0023】
ベース板2の縁部には、パワーモジュール1に例えば放熱部品を取り付ける際のネジ止め用の取付け穴2aが形成されている。取付け穴2aの数は、例えば4個以上である。ベース板2の縁部には、取付け穴2aに代えて、ベース板2の側壁が断面U字状となるような取付け溝が形成されていてもよい。
【0024】
ここで、パワーモジュール1に放熱部品を取り付ける場合について説明する。図2は、放熱部品が取り付けられたパワーモジュール(便宜的に「放熱部品付きパワーモジュール」ともいう)の一実施形態を示す断面図である。図2に示すように、放熱部品付きパワーモジュール21は、上述したパワーモジュール1と、パワーモジュール1のベース板2側に取り付けられた放熱フィン等の放熱部品22とを備えている。放熱部品22は、ベース板2に形成された取付け穴2aに挿入されたネジ(ボルト)23によってパワーモジュール1(ベース板2)にネジ止めされている。放熱部品22のパワーモジュール1側の面は、略平面状になっている。
【0025】
パワーモジュール1のベース板2と放熱部品22との間には、両者の密着性を確保するために、グリース(放熱グリース)24が配置されている。グリース24は、通常1~2W/mK程度の熱伝導率を有しており、放熱部品付きパワーモジュール21の構成部材の中で最も大きな熱抵抗となる。つまり、パワーモジュール1の放熱性を高めるには、このグリース24の熱抵抗をできる限り小さくすることが重要である。
【0026】
このためには、グリース24として熱伝導率の高い放熱グリースを用いると共に、このグリース24の層の厚みを薄くすることが有効である。ところが、グリース24の層の厚みを極端に薄くすると、パワーモジュール1の稼働時の熱負荷による変形等にグリース24が追随できず、パワーモジュール1と放熱部品22との間に空気層が発生する場合があり、その結果、パワーモジュール1の放熱特性が極端に悪化し、半導体素子6の破損等に繋がることがある。理想的には、グリース24は均一な薄膜状であり、このためには、パワーモジュール1におけるベース板2のセラミックス絶縁基板4と反対側の面(放熱面)2bの形状が重要である。
【0027】
具体的には、パワーモジュール1と放熱フィン等の放熱部品22とをネジ止めした際に、パワーモジュール1の放熱面の平面度が小さいことが好ましい。この平面度が大きいと、部分的にグリース24の厚みが厚くなり、グリース24による熱抵抗が増大して、十分な放熱特性が得られない。このため、パワーモジュール1においては、放熱部品22が取り付けられた際にベース板2のセラミックス絶縁基板4と反対側の面(放熱面)2bの平面度は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。当該平面度が30μm以下であると、上述したとおり、グリース24が均一な薄膜状になりやすく、パワーモジュール1において十分な放熱特性が得られる。
【0028】
なお、上記の平面度は、JIS B0621に準拠して測定された平面度を意味する。より具体的には、当該平面度は、穴を開けた放熱部品22又はそれを模擬した樹脂部材をベース板2に取り付けた状態で、当該穴より接触式の変位計を用いて形状を測定することにより算出するか、あるいは、透明な放熱部品22又はそれを模擬した樹脂部材をベース板2に取り付けた状態で、非接触式の変位計を用いて形状を測定することにより算出することができる。これらの場合において、取り付けられる放熱部品22又はそれを模擬した樹脂部材としては、ベース板2側の面の平面度が0~5μmであるものを用いることとし、平面度は、放熱部品22又はそれを模擬した樹脂部材が、少なくとも4個のネジ(ボルト)を用いてトルク10Nでベース板2にネジ止めされた状態で測定するものとする。
【0029】
放熱部品22が取り付けられたパワーモジュール1におけるベース板2のセラミックス絶縁基板4と反対側の面(放熱面)2bの平面度が上記の範囲内とするために、パワーモジュール1においては、図1に示すように、ベース板2のセラミックス絶縁基板4と反対側の面2bが、放熱部品22が取り付けられていない状態で、凸状(凸型)の反り2cを有している。ベース板2の放熱面2bが凸状の反り2cを有していることにより、放熱部品22等にネジ止めした際に、ベース板2の中央部にも十分に応力が加わるようになる。ベース板2の放熱面2bの反り2cの大きさ(反り量)は、ベース板2の任意の位置における放熱面2b方向の長さL=10cmあたりの反りの大きさWとして、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。反り量が50μm以下であると、パワーモジュール1を放熱部品22にネジ止めした際の変形量が大きくなり過ぎることを抑制し、セラミックス絶縁基板4のセラミックス基材7が破損する等の問題を生じにくくさせることができる。
【0030】
パワーモジュール1におけるベース板2の放熱面2bの形状(反り量)は、主に、ベース板2自体の初期形状(反り量)、及び、ベース板2にセラミックス絶縁基板4を第1の半田3で接合した際の変形量(反り変化量)により決まる(なお、厳密には、筐体11をベース板2に接着した際の応力によっても若干の影響を受ける)。
【0031】
ベース板2自体の初期形状に関して、ベース板2のセラミックス絶縁基板4接合前の反り量は、ベース板2の放熱面2b方向の長さ10cmあたりの反りの大きさとして、好ましくは30~100μm、より好ましくは30~50μmである。
【0032】
ベース板2にセラミックス絶縁基板4を第1の半田3で接合した際の反り変化量は、第1の半田3にかかる応力を低減させ、パワーモジュール1におけるベース板2の放熱面2bの形状の制御が更に容易になる観点から、ベース板2の放熱面2b方向における長さ10cmに対する反り変化量として、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下である。当該反り変化量は、セラミックス絶縁基板4に接合する前のベース板2の反り量と、セラミックス絶縁基板4に接合した後のベース板2の反り量との差の絶対値として定義される。
【0033】
以上のような反りに関する特性を得るために、ベース板2の放熱面2bは、平板状に形成した後、機械加工又は研削加工、あるいは所望する形状の型を用いた加工により成形されていてもよい。
【0034】
ここで、ベース板2にセラミックス絶縁基板4を接合した際の変形は、接合温度(第1の半田3が固化した温度)から室温に戻る際に、ベース板2及びセラミックス絶縁基板4の熱膨張差により発生する応力及びセラミックス絶縁基板4における金属層8,9の残留応力によって生じる。この際の変形量(反り変化量)を抑えるためには、一般に線熱膨張係数の小さいセラミックス絶縁基板4と、それに近い線熱膨張係数を有するベース板2とを使用することが有効である。
【0035】
このようなセラミックス絶縁基板に近い線熱膨張係数(低線熱膨張係数)を有するベース板2は、好ましくは、Al又はMgを主成分として(例えば85質量%以上)含む金属と、SiC、Si、Al、SiO及びAlNからなる群より選ばれる少なくとも1種とからなる金属基複合体、Cu及びMo若しくはCu及びWを含む合金(Cu/Mo,Cu/W合金)、又は、Cu及びMo若しくはCu及びWで形成された多層金属板(Cu/Mo,Cu/W多層金属板)からなっている。
【0036】
このようなベース板2の温度150℃から25℃の降温時の線熱膨張係数は、セラミックス絶縁基板4との接合時の変形抑制の点から、好ましくは5×10-6~9×10-6/K、より好ましくは5×10-6~8×10-6/Kである。なお、第1の半田3による接合後の冷却過程におけるベース板2とセラミックス絶縁基板4との熱膨張の違いが重要であるため、線熱膨張係数としては、温度150℃から25℃の降温時の値を用いる。線熱膨張係数は、熱膨張計(例えば、セイコー電子工業社製;TMA300)により、JIS R1618に準拠して、降温速度が5℃/分以下の条件で測定された線熱膨張係数を意味する。
【0037】
ベース板2の熱伝導率は、好ましくは150W/mK以上、より好ましくは200W/mK以上である。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法(例えば、理学電機社製;LF/TCM-8510Bを使用)により、JIS R1611に準拠して測定された熱伝導率を意味する。
【0038】
ベース板2のヤング率は、好ましくは100~400GPa、より好ましくは200~350GPaである。ヤング率は、3点曲げ法(例えば、島津製作所社製;オートグラフAG-Xを使用)により、JIS R1602に準拠して測定されたヤング率を意味する。
【0039】
ベース板2の平面度は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。ベース板2の平面度は、JIS B0621に準拠して測定された平面度を意味する。
【0040】
セラミックス絶縁基板4の線熱膨張係数は、セラミックス基材7と金属層8,9の構成及び物性値に加え、セラミックス基材7に金属層8,9を接合する温度から室温に戻る際に、セラミックス基材7に金属層8,9の熱膨張の違いにより発生する残留応力によって決まる。このため、例えば、同一構成のセラミックス絶縁基板4であっても、接合方法により、金属層8,9の残留応力が異なる。一般に、金属層8,9は、温度800℃程度の高温で活性金属法によりロウ付けしてセラミックス基材7に形成されることが多く、この場合、室温に冷却する過程で、線熱膨張係数の大きい金属層8,9に引張応力が残留する。その結果、得られるセラミックス絶縁基板4の線熱膨張係数は、構成するセラミックス基材7と金属層8,9の物性値から計算した線熱膨張係数より小さい値となる。
【0041】
一方で、ベース板2の線熱膨張係数を上述のとおり小さくするためには、金属基複合材を用いる場合、線熱膨張係数の小さいセラミックスの比率を上げる必要があり、製造が難しくなると同時に高価になってしまうという問題がある。また、Cu/Mo,Cu/W等の合金又は多層金属板を用いる場合、線熱膨張係数を下げようとすると熱伝導率の低いMoやWの比率を上げる必要があり、熱伝導率が低下すると共に材料が高価になり、密度が増加して材料自体が重くなる問題がある。このような観点からは、セラミックス絶縁基板4の残留応力や線熱膨張係数を調整することが有効である。
【0042】
セラミックス絶縁基板4の線熱膨張係数を大きくする手法としては、線熱膨張係数の大きい金属層8,9の厚みを厚くすることが有効であるが、この場合、セラミックス基材7に対する引張応力が大きくなり、実使用を想定した熱サイクル試験でセラミックス基材7にクラックが入る等の信頼性の面で問題が発生するおそれがある。このため、金属層8,9に残留する引張応力を低減することが有効である。具体的な手法としては、セラミックス基材7と金属層8,9の接合温度を下げることで、金属層8,9に残留する引張応力を低減することが有効である。一方、セラミックス基材7と金属層8,9との接合温度を下げる手法として、接着剤を用いて低温で接着する手法を用いることにより、セラミックス絶縁基板4の線熱膨張係数を大きくすることはできるが、極端に熱伝導率の低い接着層が存在し、パワーモジュール1としての放熱性に問題が生じるおそれがある。このため、セラミックス基材7の表面に活性金属法等により薄い金属層を形成した後に、所定の厚みの金属を低温で接合する手法や低温溶射法により金属層8,9を形成する手法が有効である。
【0043】
このようなセラミックス絶縁基板4における金属層8,9(第1の金属層8及び第2の金属層9の両方)の最外層には、圧縮応力又は40MPa以下の引張応力が残留するように調整される。なお、金属層8,9の最外層とは、金属層8,9がそれぞれ一層で構成されている場合には当該一層を指し、金属層8,9がそれぞれ二層以上で構成されている場合には、二層以上のうち最も外側の(セラミックス基材7から最も遠い)層を指す。これにより、ベース板2にセラミックス絶縁基板4を接合した際の変形量(反り変化量)を抑えることができ、パワーモジュール1の放熱面2bの形状を好適に制御できる。
【0044】
金属層8,9の最外層の残留応力が40MPaを超える引張応力である場合、セラミックス絶縁基板4をベース板2に半田付けしたときの冷却過程でベース板2に対し引張応力が働き、ベース板2の反り形状がマイナス側(凹状)に大きく変化し、パワーモジュール1の放熱面2bを所望の形状とすることが難しくなる。金属層8,9の最外層に残留する引張応力は、好ましく30MPa以下、より好ましく20MPa以下である。金属層8,9の最外層の残留応力は、実施例に記載のX線回折による測定方法により評価される。
【0045】
このようなセラミックス絶縁基板4の線熱膨張係数は、好ましくは5×10-6~9×10-6/K、より好ましくは5×10-6~8×10-6/Kである。セラミックス基材7の熱伝導率は、好ましくは30W/mK以上、より好ましくは80W/mK以上、更に好ましくは150W/mK以上である。このようなセラミックス絶縁基板4を得るためには、例えば、セラミックス基材7は、AlN、Si又はAlで形成されており、金属層8,9は、Cu、Al、Mo、Cu及びMo含む合金、並びにCu及びWを含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1種で形成されている。セラミックス基材7の厚みは、好ましくは0.3~1.5mm、より好ましくは0.3~1.2mm、更に好ましくは0.6~1.0mmである。金属層8,9の厚みは、好ましくは0.2~2mm、より好ましくは0.2~1.2mm、更に好ましくは0.3~1.0mmである。
【0046】
以上説明したパワーモジュール1は、ベース板2の放熱面2bの形状が適正に制御されており、放熱特性に優れるため、Siに加え、高出力化が可能なSiC、GaN半導体素子を使用したパワーモジュールに対しても好適である。すなわち、半導体素子6は、Si、SiC及びGaNのいずれかで形成されていてよい。また、パワーモジュール1は、高耐圧、高出力等が要望される電車又は自動車の駆動インバータとして好適に用いられる。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
<ベース板>
実施例及び比較例では、表1に示すベース板1~11を用いた。各ベース板は、市販の材料を研削加工により所定形状に加工した後、無電解Niめっきを施したものを用いた。表中の各物性値を測定するために、研削加工により熱伝導率測定用試験体(直径11mm×厚さ3mm)、線熱膨張係数測定用試験体(直径3mm×長さ10mm)、弾性率測定用試験体(3mm×4mm×長さ40mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM-8510B)により、温度150℃から25℃における降温時の線熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)により、ヤング率を3点曲げ法(島津製作所社製;オートグラフAG-X)で測定した。また、放熱面の反り量については、3次元輪郭形状測定機(東京精密社製;コンターレコード1600D-22)を用いて測定した。さらに平面度については、透明な樹脂ブロックに締め付けトルク10Nでネジ止めした後、レーザー変位計(キーエンス社製;LT9010M)で放熱面の形状を測定して求めた。
【0049】
【表1】
【0050】
<セラミックス絶縁基板>
実施例及び比較例では、図3(a)に示す3層構造のセラミックス絶縁基板4A、又は図3(b)に示す5層構造のセラミックス絶縁基板4Bである絶縁基板1~12を用いた。各絶縁基板の詳細を下記及び表2に示す。
・絶縁基板1~3(3層構造)では、Ag(90%)-Cu(10%)-TiH(3.5%)ろう材を用いて、温度800℃で金属をセラミックス基材7に接合した後、エッチング法で金属回路を形成し、無電解Niめっきを施した。
・絶縁基板4(5層構造)は、絶縁基板1~3と同様の手法で金属回路8a,9aを形成した後、溶射法(コールドスプレー法)で銅回路8b,9bを積層し、温度300℃でアニール処理を行った後、無電解Niめっきを施した。
・絶縁基板5(5層構造)では、絶縁基板1~3と同様の手法で金属回路を形成した後、融点300℃の高温半田で回路金属を接合した後、無電解Niめっきを施した。
・絶縁基板6(3層構造)は、Al-Cuクラッド箔をろう材とし用い温度630℃で回路金属をセラミックス基材7に接合した後、エッチング法で金属回路を形成し、無電解Niめっきを施した。
・絶縁基板7(5層構造)は、絶縁基板6と同様の手法で金属回路を形成した後、溶射法(コールドスプレー法)で銅回路を積層し、温度300℃でアニール処理を行った後、無電解Niめっきを施した。
・絶縁基板8(3層構造)は、溶射法(コールドスプレー法)でアルミニウム回路を積層し、温度500℃でアニール処理を行った後、無電解Niめっきを施した。
・絶縁基板9~11(5層構造)は、溶射法(コールドスプレー法)でアルミニウム回路を積層し、温度500℃でアニール処理を行った後、溶射法(コールドスプレー法)で銅回路を積層し、温度300℃でアニール処理を行った後、無電解Niめっきを施した。
・絶縁基板12(5層構造)は、絶縁基板9と同様の手法で金属回路を形成した後、アニール処理を実施せずに無電解Niめっきを施した。
【0051】
各絶縁基板の熱伝導率は、セラミック基材から熱伝導率測定用試験体(直径11mm×板厚)を作製して測定した。
【0052】
各絶縁基板の金属層の最外層における残留応力は、X線回折法を用いて金属層の中央部のX線回折パターンを測定し、その結果に基づき評価した。応力評価にはsinψ法(並傾法、ψ一定法)を用い、銅の331回折線を解析した。具体的には、多目的試料アタッチメントを取り付けたX線回折装置(リガク社製;Ultima IV型)の試料板にセラミックス絶縁基板を貼り付け、以下の測定条件で測定した。
・X線源:CuKα線(多層膜ミラーを使用した平行ビーム光学系)
・X線管の電圧および電流:40kVおよび40mA
・X線入射側スリット:発散スリットは1mm、縦制限スリットは10mm
・X線受光側スリット:散乱スリットおよび受光スリットは開放。平行スリットアナライザーは開口角度0.5°
・垂直発散制限ソーラースリット:X線入射側、受光側ともに開口角度5°
・検出器:シンチレーションカウンター
・測定範囲(2θ):134°~139.5°
・測定ステップ幅:0.02°
・計数時間:測定ステップあたり5秒
・試料面法線と回折面法線のなす角ψ:sinψが0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5となるように設定。なお、測定精度を上げる目的で±5°以内で搖動をかけることもある。
【0053】
残留応力σの算出には、下記式を用いた。下記式において、Eはヤング率であり、νはポアソン比であり、θは試料が無ひずみ状態のときの回折線角度である。金属層の最外層が銅である場合、残留応力σの算出にあたって、E=127200MPa、ν=0.364、2θ=136.882°とした。金属層の最外層がアルミニウムである場合、残留応力σの算出にあたって、E=68900MPa、ν=0.345、2θ=137.451°とした。Δ(2θ)/Δ(sinψ)は2θ-sinψプロットを直線近似して算出した。なお、残留応力の符号がマイナスである場合は圧縮応力を、プラスである場合は引張応力をそれぞれ意味する。
【数1】
【0054】
【表2】
【0055】
[実施例1]
セラミックス絶縁基板として表2の絶縁基板9を用い、Si半導体素子及び電極を高温半田で絶縁基板11に接合した後、この絶縁基板4枚を表1のベース板3に共晶半田を用いて接合した。次に、Al線をSi半導体素子とセラミックス絶縁基板に超音波接合して配線した後、樹脂筐体をベース板に接着剤で接着した後、樹脂筐体内にシリコーンゲルを充填してパワーモジュールを作製した。得られたパワーモジュールの放熱面の形状を3次元輪郭測定装置で測定した結果、長さ10cmに対する反り量が24μmであった。
【0056】
次に、このパワーモジュールを、6本のM6の取り付けボルトで130mm×140mm×50mmの透明樹脂ブロックに締め付け、トルク10Nで取り付けた。その後、レーザー変位計を用いて、樹脂ブロックの裏面よりパワーモジュールの放熱面のベース板の平面度を測定した結果、10μmであった。また、得られたパワーモジュールは、温度-40℃×30分と温度125℃×30分を1サイクルとする1000回のヒートサイクル試験を行った後、電気特性を評価した結果、初期特性を維持していることを確認した。
【0057】
[実施例2~17及び比較例1~4]
表3に示す絶縁基板とベース板を用いた以外は、実施例1と同様の手法でパワーモジュールを作製した。得られたパワーモジュールの評価結果を表3に示す。なお、反り量又は反り変化量の符号がマイナスである場合は、放熱面が凹状の反りを有していた又は凹状となる方向に反りの形状が変化したことを意味する。また、比較例8は、得られたパワーモジュールを樹脂ブロックに締め付けた際に、セラミックス基材の破損があり、電気特性に異常が発生した。
【0058】
【表3】
【0059】
[実施例18]
半導体素子としてSiC半導体素子を用いた以外は、実施例1と同様の手法でパワーモジュールを作製した。得られたパワーモジュールの放熱面の形状を3次元輪郭測定装置で測定した結果、長さ10cmに対する反り量が25μmであった。次に、このパワーモジュールを、6本のM6の取り付けボルトで130mm×140mm×50mmの透明樹脂ブロックに締め付け、トルク10Nで取り付けた。その後、レーザー変位計を用いて、樹脂ブロックの裏面よりパワーモジュールの放熱面のベース板の平面度を測定した結果、10μmであった。また、得られたパワーモジュールは、温度-40℃×30分と温度175℃×30分を1サイクルとする1000回のヒートサイクル試験を行った後、電気特性を評価した結果、初期特性を維持していることを確認した。
【符号の説明】
【0060】
1…パワーモジュール、2…ベース板、2a…ベース板のセラミックス絶縁基板と反対側の面(放熱面)、2c…ベース板の放熱面の反り、4…セラミックス絶縁基板、6…半導体素子、7…セラミックス基材、8…第1の金属層、9…第2の金属層。

図1
図2
図3