(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】フラボン7-O-メチル基転移酵素遺伝子及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20231219BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231219BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20231219BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20231219BHJP
A01H 6/00 20180101ALI20231219BHJP
A01H 6/14 20180101ALI20231219BHJP
A01H 6/56 20180101ALI20231219BHJP
A01H 6/74 20180101ALI20231219BHJP
A01H 1/00 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/29
C12N15/63 Z
C12N15/53
A01H5/00 A
A01H6/00
A01H6/14
A01H6/56
A01H6/74
A01H1/00 A
(21)【出願番号】P 2021512096
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014409
(87)【国際公開番号】W WO2020203940
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019069222
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】中村 典子
(72)【発明者】
【氏名】興津 奈央子
(72)【発明者】
【氏名】田中 良和
(72)【発明者】
【氏名】勝元 幸久
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057159(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169699(WO,A1)
【文献】Proceedings of the Japan Academy, Series B, 2008, Vol.84, pp.452-456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(
d):
(a)配列番号34の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(
b)配列番号35のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(
c)配列番号35のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(
d)配列番号35のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
からなる群から選ばれるポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号34の塩基配列からなるポリヌクレオチドである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号35のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドによりコードされたタンパク質。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
フラボン合成酵素(FNS)遺伝子又はそのホモログ、及びフラボンC-配糖化酵素(CGT)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記FNS遺伝子又はそのホモログが、
(1-a)配列番号19の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(1-
b)配列番号20のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-
c)配列番号20のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(1-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
FNSとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-
d)配列番号20のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(1-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
FNSとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、そして
前記CGT遺伝子又はそのホモログが、
(2-a)配列番号21の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(2-
b)配列番号22のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-
c)配列番号22のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(2-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
CGTとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-
d)配列番号22のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(2-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
CGTとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
前記ベクターが、フラボノイドF3’5’水酸化酵素(F3’5’H)遺伝子又はそのホモログ、及びメチル基転移酵素(MT)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、請求項6又は7に記載のベクター。
【請求項9】
前記F3’5’H遺伝子又はそのホモログが、
(3-a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(3-
b)配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-
c)配列番号10のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(3-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
F3’5’Hとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-
d)配列番号10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(3-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
F3’5’Hとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、そして
前記MT遺伝子又はそのホモログが、
(4-a)配列番号17の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(4-
b)配列番号18のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-
c)配列番号18のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(4-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
MTとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-
d)配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(4-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
MTとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
前記CGT遺伝子又はそのホモログにシロイヌナズナ アルコール脱水素酵素(ADH)遺伝子由来5’非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号23)が付加されている、請求項7~9のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項11】
フラバノン2-水酸化酵素(F2H)遺伝子又はそのホモログ、フラボンC-配糖化酵素(CGT)遺伝子又はそのホモログ、及び脱水酵素(FDH)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、請求項5に記載のベクター。
【請求項12】
フラボノイドF3’5’水酸化酵素(F3’5’H)遺伝子又はそのホモログ、及びメチル基転移酵素(MT)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記F2H遺伝子又はそのホモログが、
(5-a)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(5-
b)配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-
c)配列番号4のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(5-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
F2Hとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-
d)配列番号4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(5-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
F2Hとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記CGT遺伝子又はそのホモログが、
(6-a)配列番号13の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(6-
b)配列番号14のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(6-
c)配列番号14のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(6-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
CGTとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(6-
d)配列番号14のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(6-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
CGTとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記FDH遺伝子又はそのホモログが、
(7-a)配列番号15の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(7-
b)配列番号16のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(7-
c)配列番号16のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(7-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
FDHとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(7-
d)配列番号16のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(7-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
FDHとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記F3’5’H遺伝子又はそのホモログが、
(8-a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(8-
b)配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(8-
c)配列番号10のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(8-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
F3’5’Hとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(8-
d)配列番号10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(8-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
F3’5’Hとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、そして
前記MT遺伝子又はそのホモログが、
(9-a)配列番号17の塩基配列からなるポリヌクレオチド
;
(9-
b)配列番号18のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(9-
c)配列番号18のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(9-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
MTとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(9-
d)配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(9-
b)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の
MTとしての活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む形質転換植物
(ただし、前記植物がオオボウシバナである場合を除く)、又はその自殖もしくは他殖後代。
【請求項15】
前記植物がバラ、ペチュニア、キク、カーネーション又はユリから選択される、請求項14に記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代。
【請求項16】
前記植物がバラである、請求項15に記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか1項に記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代の栄養繁殖体、植物体の一部、組織、又は細胞。
【請求項18】
請求項14~16のいずれか1項に記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代の切り花、又は該切り花から作成された加工品。
【請求項19】
細胞中のフラボンC-配糖体の7位の水酸基がメチルされた形質転換植物を作製するための方法であって、
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド又は請求項5~13のいずれか1項に記載のベクターを植物の細胞内に導入する工程を含
む、方法。
【請求項20】
前記植物がバラ、ペチュニア、キク、カーネーション又はユリから選択される、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記植物がバラである、請求項
20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする新規なポリヌクレオチド、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バラ、ペチュニア、キク、カーネーション等は世界的に産業上重要な花きである。特にバラは最も人気のある花卉植物であり、紀元前から栽培されていた記録があり、数百年にわたり人為的な品種改良がされてきた。しかしながら、交雑可能な近縁種に青系の花色の野生種が無いなどの問題により、従来の交雑育種や突然変異育種では、青系花色を有するバラ品種の作出は困難であった。全く新しい青系花色の創出は、花卉の利用場面の拡大に伴う新たな需要を喚起し、生産や消費の拡大に繋がる。そこで、遺伝子工学的手法により青系花色をもつバラの作出が試みられてきた。
【0003】
例えば、紫から青色の花には、デルフィニジン、ペチュニジン及びマルビジンを骨格としたデルフィニジン型アントシアニンが多く含まれることが知られているが、バラなどの花卉は、このようなデルフィニジン型アントシアニンを生産できないため、これらの合成に必要なフラボノイド3’,5’-水酸化酵素遺伝子を発現させることにより、デルフィニジンを人為的に生産させる研究が行われている(非特許文献1)。しかしながら、目的の物質を生産する酵素遺伝子を組換え植物において発現させるために植物の代謝を人為的に改変したとしても、しばしば植物自身が持つ内在の酵素との競合により、目的の物質の蓄積がまったく、あるいはほとんど起こらないことが多い。
【0004】
さらに、花の色は、アントシアニン自身の構造のほかに、共存するフラボノイド(コピグメントと呼ばれる)や金属イオン、液胞のpHなどによっても変化する。フラボンやフラボノールは、代表的なコピグメントであり、アントシアニンとサンドイッチ状に積み重なることにより、アントシアニンを青くし、濃く見えるようにする効果がある(非特許文献2)。これはコピグメント効果として知られている。特にフラボンは強いコピグメント効果を示すことが知られており、たとえば遺伝子組換えカーネーションの解析ではフラボンが有意なコピグメント効果を示すことが報告されている(非特許文献3)。また、ダッチアイリスにおいて、総デルフィニジン量に対する総フラボン量の比が高いほど強いコピグメント効果を示し、色が青くなることが報告されている(非特許文献4)。さらにツユクサではコンメリニン(マロニルアオバニンとフラボコンメリンとマグネシウムイオンによる金属錯体)が形成されることで色が青くなることが報告されている(非特許文献9)。
【0005】
しかしながら、すべての植物がフラボンを生産できるわけではなく、バラやペチュニアなどはフラボンを蓄積しない。したがって、フラバノンからフラボンを合成する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をこのような植物で発現させ、花色を改変させる試みが行われている(特許文献1)。
【0006】
また、植物では、フラボンは遊離形態の他に配糖体としても分布しており、主にフラボンO-配糖体とフラボンC-配糖体が生成されるが、特にフラボンC-配糖体は強いコピグメント効果を示すことが知られている。例えば、フラボンC-配糖体の一種であるイソビテキシンは、ハナショウブ(Iris ensata Thunb.)においてアントシアニンに対しコピグメント効果を示し、アントシアニンを安定化することにより青い花色を安定化することが報告されている(非特許文献5)。フラボンC-配糖体については、これまでに2つの生合成経路が報告されており、1つはフラバノン2-水酸化酵素及びC-配糖化酵素、脱水酵素が触媒する反応によりフラバノンから合成される。もう一つは、フラボン合成酵素及びフラボンC-配糖化酵素が触媒する反応によりフラバノンから合成される(非特許文献6)。
【0007】
しかしながら、これらの遺伝子をフラボンC-配糖体を生産しない植物に導入したという例はこれまでに報告されていない。さらに、コピグメント効果は、アントシアニンとフラボンとの量比、アントシアニン及びフラボンにおける糖やメチル基、アシル基による修飾などの影響を受けるものと考えられ、単にフラボン合成酵素遺伝子を発現させ、フラボンを蓄積させただけでは、花色を青くできるとは限らない。ペチュニアにおいてトレニアのフラボン合成酵素遺伝子を発現させると、青紫色の花色は薄くなってしまう(非特許文献7)。また、リンドウ由来のフラボン合成酵素遺伝子をタバコで発現させたところ、フラボンが合成された(非特許文献8)が、やはり花色は薄くなった。さらに、フラボン及びマルビジンを人為的に含有させることにより、バラの花色を改変する試みが行われているが(特許文献2)、青系花色を有するバラを作出することには成功していない。
【0008】
実際に、これまでの青系花色を目指したバラの花色改変では、RHSカラーチャート色相グループ:PurpleグループやPurple-Violetグループ、Violetグループが限界であり、Violet-BlueグループやBlueグループの花色をもつ青色のバラは作出されていない。したがって、真に青色の花色をもつバラの作出を可能にするための青色発現制御技術の開発が依然として望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2000-279182号公報
【文献】国際公開第2008/156206号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Phytochemistry Reviews 5,283-291
【文献】Prog.Chem.Org.Natl.Prod.52
【文献】Phytochemistry,63,15-23(2003)
【文献】Plant Physiol.Bioch.72,116-124(2013)
【文献】Euphytica 115,1-5(2000)
【文献】FEBS Lett.589,182-187(2015)
【文献】Plant Biotechnology,21,377-386(2004)
【文献】Molecular Breeding 17:91-99(2006)
【文献】Proceedings of the Japan Academy.Ser.B:Physical and Biological Sciences 84(10),452-456,2008
【文献】Plant Mol.Biol.36(2),219-227 (1998)
【文献】Plant Mol.Biol.62(4-5),715-733(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、花色が改変された形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代、あるいはそれらの栄養繁殖体、植物体の一部、組織、又は細胞を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、デルフィニジン型アントシアニンとフラボンC-配糖体を植物の花弁で共存させると、従来得られなかった花色を有する形質転換植物、特に、青系花色(RHSカラーチャート第5版:Violet-Blueグループ/Blueグループかつ/または色相角度:339.7°~270.0°)を有するバラ植物が得られることを発見した。さらに驚くべきことに、本願発明者らは、このたび、様々なフラボンC-配糖体の中で、7位の水酸基がメチルされているスウェルティシンとの組み合わせがより青くなることを見出し、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する新規なフラボン7-O-メチル基転移酵素遺伝子を、ツユクサの変種(栽培種)として知られるオオボウシバナ(Commelina communis var. hortensis)から取得することに成功した。このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、以下の通りである。
[1] 以下の(a)~(e):
(a)配列番号34の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号34の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号35のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号35のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号35のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
からなる群から選ばれるポリヌクレオチド。
[2] 配列番号34の塩基配列からなるポリヌクレオチドである、1に記載のポリヌクレオチド。
[3] 配列番号35のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、1に記載のポリヌクレオチド。
[4] 1~3のいずれかに記載のポリヌクレオチドによりコードされたタンパク質。
[5] 1~3のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[6] フラボン合成酵素(FNS)遺伝子又はそのホモログ、及びフラボンC-配糖化酵素(CGT)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、5に記載のベクター。
[7] 前記FNS遺伝子又はそのホモログが、
(1-a)配列番号19の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(1-b)配列番号19の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(1-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-c)配列番号20のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-d)配列番号20のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(1-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(1-e)配列番号20のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(1-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、そして
前記CGT遺伝子又はそのホモログが、
(2-a)配列番号21の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(2-b)配列番号21の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(2-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-c)配列番号22のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-d)配列番号22のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(2-e)配列番号22のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される、6に記載のベクター。
[8] 前記ベクターが、フラボノイドF3’5’水酸化酵素(F3’5’H)遺伝子又はそのホモログ、及びメチル基転移酵素(MT)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、6又は7に記載のベクター。
[9] 前記F3’5’H遺伝子又はそのホモログが、
(3-a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(3-b)配列番号9の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(3-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-c)配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-d)配列番号10のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(3-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(3-e)配列番号10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(3-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、そして
前記MT遺伝子又はそのホモログが、
(4-a)配列番号17の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(4-b)配列番号17の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(4-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-c)配列番号18のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-d)配列番号18のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(4-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(4-e)配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(4-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される、8に記載のベクター。
[10] 前記CGT遺伝子又はそのホモログにシロイヌナズナ アルコール脱水素酵素(ADH)遺伝子由来5’非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号23)が付加されている、7~9のいずれかに記載のベクター。
[11] フラバノン2-水酸化酵素(F2H)遺伝子又はそのホモログ、フラボンC-配糖化酵素(CGT)遺伝子又はそのホモログ、及び脱水酵素(FDH)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、5に記載のベクター。
[12] フラボノイドF3’5’水酸化酵素(F3’5’H)遺伝子又はそのホモログ、及びメチル基転移酵素(MT)遺伝子又はそのホモログをさらに含む、11に記載のベクター。
[13] 前記F2H遺伝子又はそのホモログが、
(5-a)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(5-b)配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(5-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-c)配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-d)配列番号4のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(5-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(5-e)配列番号4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(5-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記CGT遺伝子又はそのホモログが、
(6-a)配列番号13の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(6-b)配列番号13の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(6-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(6-c)配列番号14のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(6-d)配列番号14のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(6-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(6-e)配列番号14のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(6-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記FDH遺伝子又はそのホモログが、
(7-a)配列番号15の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(7-b)配列番号15の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(7-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(7-c)配列番号16のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(7-d)配列番号16のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(7-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(7-e)配列番号16のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(7-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、
前記F3’5’H遺伝子又はそのホモログが、
(8-a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(8-b)配列番号9の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(8-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(8-c)配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(8-d)配列番号10のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(8-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(8-e)配列番号10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(8-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択され、そして
前記MT遺伝子又はそのホモログが、
(9-a)配列番号17の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(9-b)配列番号17の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(9-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(9-c)配列番号18のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(9-d)配列番号18のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(9-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(9-e)配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(9-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される、12に記載のベクター。
[14] 1~3のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代。
[15] 前記植物がバラ、ペチュニア、キク、カーネーション又はユリから選択される、14に記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代。
[16] 前記植物がバラである、15に記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代。
[17] 14~16のいずれかに記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代の栄養繁殖体、植物体の一部、組織、又は細胞。
[18] 14~16のいずれかに記載の形質転換植物、又はその自殖もしくは他殖後代の切り花、又は該切り花から作成された加工品。
[19] 花色が改変された形質転換植物を作製するための方法であって、デルフィニジン型アントシアニンとフラボンC-配糖体を植物の細胞内で共存させる工程を含み、ここで、前記フラボンC-配糖体の7位の水酸基がメチルされていることを特徴とする方法。
[20] 前記フラボンC-配糖体がスウェルティシン又はスウェルティアジアポニンである、19に記載の方法。
[21] 前記デルフィニジン型アントシアニンが、マルビジン3,5-ジグルコシド、デルフィニジン3,5-ジグルコシド、ペチュニジン3,5-ジグルコシド、アシル化デルフィニジン、アシル化マルビジン及びそれらの組み合せから成る群から選択される、19又は20に記載の方法。
[22] 5~13のいずれかに記載のベクターを植物の細胞内に導入する工程を含む、19~21のいずれかに記載の方法。
[23] 前記植物がバラ、ペチュニア、キク、カーネーション又はユリから選択される、22に記載の方法。
[24] 前記植物がバラである、23に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来得られなかった花色を有する植物品種を作出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】植物におけるフラボンC-配糖体の生合成経路を示す。
【
図4】DN134067を発現させた大腸菌から粗抽出したタンパク質溶液と、イソビテキシンを酵素反応させた酵素反応液の高速液体クロマトグラムである。
【
図5】DN134067を発現させた大腸菌から粗抽出したタンパク質溶液と、イソオリエンチンを酵素反応させた酵素反応液の高速液体クロマトグラムである。
【0016】
アントシアニンは、植物において広く存在する色素群であり、赤色、青色、紫色の花色を呈することが知られている。アグリコンであるアントシアニジン部位のB環のヒドロキシ基の数により、ペラルゴジニン、シアニジン及びデルフィニジンの3系統に分類される。発色団はアグリコン部分であり、ペラルゴニジン型アントシアニンは橙色、シアニジン型アントシアニンは赤色、デルフィニジン型アントシアニンは紫~青色を呈する。本願明細書中、例えば、「デルフィニジン型アントシアニン」は、デルフィニジン、マルビジン、ペチュニジンを骨格にもつそれらの誘導体が挙げられるが、好ましくはマルビジンである。
【0017】
デルフィニジン型アントシアニンは、フラボン、フラボノール、有機酸エステル類、タンニン類などの物質と共存することで、それらと分子間相互作用をして青みを帯びた色を発現する場合がある。この現象はコピグメント作用と呼ばれ、このような現象を引き起こす物質はコピグメント(補助色素)と呼ばれる。コピグメント作用には青色の発現を引き起こす深色効果だけで無く、濃色効果や色の安定性向上の効果もある。本発明者らは、デルフィニジン型アントシアニンとフラボンC-配糖体とのコピグメント作用により、バラの花弁が青色発現することを確認した。
【0018】
フラボンは、有機化合物の一種で、フラバン誘導体の環状ケトンであり、植物内では、主に配糖体として存在する。フラボンは、狭義には化学式C
15H
10O
2、分子量222.24の化合物、2,3-ジデヒドロフラバン-4-オンを指すが、広義のフラボン(フラボン類)は、フラボノイドのカテゴリーの1つであり、フラボノイドの中でフラボン構造を基本骨格とし、さらに3位に水酸基を持たないものが「フラボン」に分類される。本願明細書中、「フラボンC-配糖体」は、広義のフラボン、すなわち、フラボン類に属する誘導体の配糖体のうち、アルドースのアノメリック炭素に直接アグリコンが結合した配糖体を意味する。フラボンC-配糖体としては、ルテオリンC-配糖体、トリセチンC-配糖体、アピゲニンC-配糖体、アカセチンC-配糖体が挙げられるがこれらに限定されない。フラボンC-配糖体はまた、アピゲニン、ルテオリン、トリセチン、アカセチン誘導体の配糖体も含む。植物においては、フラボンC-配糖体の生合成経路として2つの経路が知られている(
図1)。経路1では、フラバノン2-水酸化酵素(F2H)、フラボンC-配糖化酵素(CGT)、及び脱水酵素(FDH)の作用を介して、フラボン6-C-グルコシド及びフラボン8-C-グルコシドが産生される。一方、経路2では、フラボン合成酵素(FNS)、及びフラボンC-配糖化酵素(CGT)の作用を介して、フラボン6-C-グルコシド及びフラボン8-C-グルコシドが産生される。フラボンC-配糖体は、フラボン6-C-グルコシド、フラボン8-C-グルコシド及びそれらの組み合せから成る群から選択されることが好ましく、例えば、アピゲニン6-C-グルコシド(イソビテキシン)、アピゲニン8-C-グルコシド(ビテキシン)、ルテオリン6-C-グルコシド(イソオリエンチン)、ルテオリン8-C-グルコシド(オリエンチン)、トリセチン6-C-グルコシド、トリセチン8-C-グルコシド又はそれらの誘導体が挙げられる。
【0019】
植物の細胞内におけるフラボンC-配糖体の蓄積は、経路1における必須遺伝子(すなわち、フラバノン2-水酸化酵素(F2H)遺伝子、フラボンC-配糖化酵素(CGT)遺伝子、及び脱水酵素(FDH)遺伝子)又はそれらのホモログを含むベクター、あるいは、経路2における必須遺伝子(すなわち、フラボン合成酵素(FNS)遺伝子、及びフラボンC-配糖化酵素(CGT)遺伝子)又はそれらのホモログを含むベクターで宿主植物を形質転換することによって達成できる。
【0020】
経路1における必須遺伝子であるF2H遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはカンゾウ由来のF2H遺伝子又はそのホモログであり、以下のポリヌクレオチド:
(a)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号4のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0021】
経路1における必須遺伝子であるCGT遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはイネ由来のコドンUsage改変CGT遺伝子又はそのホモログであり、以下のポリヌクレオチド:
(a)配列番号13の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号13の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号14のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号14のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0022】
経路1における必須遺伝子であるFDH遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはミヤコグサ由来のFDH遺伝子又はそのホモログであり、以下のポリヌクレオチド:
(a)配列番号15の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号15の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号16のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号16のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号16のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0023】
経路2における必須遺伝子であるFNS遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはトレニア由来のFNS遺伝子又はそのホモログであり、
(a)配列番号19の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号19の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号20のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号20のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号20のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0024】
経路2における必須遺伝子であるCGT遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはリンドウ由来のCGT遺伝子又はそのホモログであり、
(a)配列番号21の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号21の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(2-a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号22のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号22のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(2-c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号22のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0025】
経路2における必須遺伝子CGT遺伝子又はそのホモログには、シロイヌナズナ アルコール脱水素酵素(ADH)遺伝子由来5’非翻訳領域(5’-UTR)(配列番号23)が付加されていることが好ましい。
【0026】
さらに驚くべきことに、本願発明者らは、このたび、フラボンC-配糖体の中で、7位の水酸基がメチルされているフラボンC-配糖体であるスウェルティシンとの組み合わせがより青くなることを見出し、経路1又は2で得られるフラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する新規なフラボン7-O-メチル基転移酵素遺伝子を、ツユクサの変種(栽培種)として知られるオオボウシバナから取得することに成功した。
【0027】
オオボウシバナ由来フラボン7-O-メチル基転移酵素(CcFn-7OMT)遺伝子又はそのホモログは、以下の(a)~(e):
(a)配列番号34の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号34の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号35のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号35のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(e)配列番号35のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0028】
植物の細胞内におけるデルフィニジン型アントシアニンの蓄積は、フラボノイドF3’5’水酸化酵素(F3’5’H)遺伝子又はそのホモログ、及びメチル基転移酵素(MT)遺伝子又はそのホモログを宿主植物に組み込むことによって達成できる(特許文献2)。したがって、経路1における必須遺伝子又はそれらのホモログ、又は経路2における必須遺伝子又はそれらのホモログに加えて、F3’5’H遺伝子又はそのホモログ、及びMT遺伝子又はそのホモログをさらに含むベクターで宿主植物を形質転換することによって、デルフィニジン型アントシアニンとフラボンC-配糖体を宿主植物の細胞内で共存させることができる。
【0029】
F3’5’H遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはカンパニュラ由来のF3’5’H遺伝子又はそのホモログであり、
(a)配列番号9の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号9の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号10のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0030】
MT遺伝子又はそのホモログは、所望の機能を有する限りその起源については特に制限されないが、好ましくはトレニア由来のMT遺伝子又はそのホモログであり、
(a)配列番号17の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号17の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、(a)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号18のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号18のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、(c)に記載のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、からなる群から選択される。
【0031】
本明細書中、用語「ポリヌクレオチド」は、DNA又はRNAを意味する。
本明細書中、用語「ストリンジェント条件」とは、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドと、ゲノムDNAとの選択的かつ検出可能な特異的結合を可能とする条件である。ストリンジェント条件は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、又はハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。さらに、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。したがって、用語「ストリンジェント条件」とは、各塩基配列間の「同一性」の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上であるような、高い同一性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリダイズするような条件を意味する。「ストリンジェント条件」としては、例えば、温度60℃~68℃において、ナトリウム濃度150~900mM、好ましくは600~900mM、pH6~8であるような条件を挙げることができ、具体例としては、5×SSC(750mM NaCl、75mM クエン酸三ナトリウム)、1%SDS、5×デンハルト溶液50%ホルムアルデヒド、及び42℃の条件でハイブリダイゼーションを行い、0.1×SSC(15mM NaCl、1.5mM クエン酸三ナトリウム)、0.1%SDS、及び55℃の条件で洗浄を行うものを挙げることができる。
【0032】
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M.Ausubel et al.,1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。このようなハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては、天然由来のもの、例えば、植物由来のもの、植物由来以外のものであってもよい。また、ハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであっても化学合成したDNAでもよい。
【0033】
上記「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1~20個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を意味する。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
また、ポリヌクレオチドは、当業者に公知の方法、例えば、ホスホアミダイド法等により化学的に合成する方法、植物の核酸試料を鋳型とし、目的とする遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて設計したプライマーを用いる核酸増幅法などによって得ることができる。
【0034】
本明細書中、用語「同一性」とは、ポリペプチド配列(又はアミノ酸配列)あるいはポリヌクレオチド配列(又は塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同志又は各塩基同志の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのポリペプチド配列又は二つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものであり、「同一性」は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の同一性を測定する方法は数多く知られており、用語「同一性」は、当業者には周知である(例えば、Lesk,A.M.(Ed.),Computational Molecular Biology,Oxford University Press,New York,(1988);Smith,D.W.(Ed.),Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Academic Press,New York,(1993);Grifin,A.M.&Grifin,H.G.(Ed.),Computer Analysis of Sequence Data:Part I,Human Press,New Jersey,(1994);von Heinje,G.,Sequence Analysis in Molecular Biology,Academic Press,New York,(1987);Gribskov,M.& Devereux,J.(Ed.),Sequence Analysis Primer,M-Stockton Press,New York,(1991)等参照)。
【0035】
また、本明細書に記載される「同一性」の数値は、特に明示した場合を除き、当業者に公知の同一性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、好ましくは、MacVectorアプリケーション(バージョン9.5 Oxford Molecular Ltd.,Oxford,England)のClustalWプログラムを用いて算出される数値である。本発明において、各アミノ酸配列間の「同一性」の程度は、例えば、約90%以上、好ましくは約95%以上、さらに好ましくは約97%以上、最も好ましくは約98%以上である。
【0036】
本発明のポリヌクレオチド(核酸、遺伝子)は、着目のタンパク質を「コードする」ものである。ここで、「コードする」とは、着目のタンパク質をその活性を備えた状態で発現させるということを意味している。また、「コードする」とは、着目のタンパク質を連続する構造配列(エクソン)としてコードすること、又は介在配列(イントロン)を介してコードすることの両者の意味を含んでいる。
【0037】
生来の塩基配列を有する遺伝子は、例えば、DNAシークエンサーによる解析によって得られる。また、修飾されたアミノ酸配列を有する酵素をコードするDNAは生来の塩基配列を有するDNAを基礎として、常用の部位特定変異誘発やPCR法を用いて合成することができる。例えば、修飾したいDNA断片を生来のcDNA又はゲノムDNAの制限酵素処理によって得て、これを鋳型にして、所望の変異を導入したプライマーを用いて部位特定変異誘発やPCR法を実施し、所望の修飾したDNA断片を得る。その後、この変異を導入したDNA断片を目的とする酵素の他の部分をコードするDNA断片と連結すればよい。
あるいは短縮されたアミノ酸配列からなる酵素をコードするDNAを得るには、例えば、目的とするアミノ酸配列より長いアミノ酸配列、例えば、全長アミノ酸配列をコードするDNAを所望の制限酵素により切断し、その結果得られたDNA断片が目的とするアミノ酸配列の全体をコードしていない場合は、不足部分の配列からなるDNA断片を合成し、連結すればよい。
【0038】
また、得られたポリヌクレオチドを大腸菌及び酵母での遺伝子発現系を用いて発現させ、酵素活性を測定することにより、得られたポリヌクレオチドが所望の活性を有するタンパク質をコードすることを確認することができる。
【0039】
本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む(組換え)ベクター、特に発現ベクター、さらに該ベクターによって形質転換された植物にも関する。
【0040】
また、本発明のベクターは、それらを導入する宿主植物の種類に依存して発現制御領域、例えば、プロモーター、ターミネーター、複製起点などを含有する。植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター、35Sプロモーターのエンハンサー領域を2つ連結したEl235Sプロモーター、rd29A遺伝子プロモーター、rbcSプロモーター、mac-1プロモーター等が挙げられる。また、組織特異的な遺伝子発現のためには、その組織で特異的に発現する遺伝子のプロモーターを用いることができる。
【0041】
ベクターの作製は、制限酵素、リガーゼなどを用いて常法に従って行うことができる。また、発現ベクターによる宿主植物の形質転換も常法に従って行うことができる。
【0042】
現在の技術水準の下では、植物にポリヌクレオチドを導入し、そのポリヌクレオチドを構成的又は組織特異的に発現させる技術を利用することができる。植物へのDNAの導入は、当業者に公知の方法、例えば、アグロバクテリウム法、バイナリーベクター法、エレクトロポレーション法、PEG法、パーティクルガン法等によって行なうことができる。
【0043】
本発明中、宿主に用いることができる植物は、特に制限されないが、バラ科バラ属、ナス科ペチュニア属、キク科キク属、ナデシコ科ナデシコ属(カーネーションなど)、ユリ科ユリ属の植物を用いることができ、特に好ましくはバラ科バラ属の栽培バラ(学名:Rosa hybrida)である。なお本明細書で使用する用語「バラ植物」とは、分類学上の位置づけではバラ科バラ属の栽培バラ(学名:Rosa hybrida)のことをいう。バラは、樹形と花の大きさにより主にハイブリッド・ティー系、フロリバンダ系、ポリアンサ系などに分けられるが、いずれの系統でも花弁に含まれる主要な色素(アントシアニン)はシアニジン型とペラルゴニジン型の2種類のみである。本発明において宿主に用いられるバラ植物の種類については特に制限されず、これらの品種や系統に好適に用いることができる。例えば、宿主として用いることができるバラ品種としては、オーシャンソング、ノブレス、リタ・パフューメラ、クールウォーター、フェイム、トップレス、ピーチアヴァランチェなどが挙げられる。
【0044】
本発明により、細胞内でデルフィニジン型アントシアニンとフラボンC-配糖体が共存している、花色が改変された形質転換植物、好ましくは、バラ科バラ属、ナス科ペチュニア属、キク科キク属、又はナデシコ科ナデシコ属(カーネーションなど)、特に好ましくはバラ植物が得られる。特に、得られた形質転換植物がバラ植物である場合、RHSカラーチャートでBlueグループもしくはViolet-Blueグループ、かつ/又はCIEL*a*b*表色系の色相角度で339.7°~270.0°の花色を示す。
【0045】
さらに、本発明は、上記で得られた形質転換植物又はその自殖もしくは他殖後代の切り花、それらの栄養繁殖体、植物体の一部、組織、又は細胞、あるいは切り花から作成された加工品(特に切花加工品)にも関する。ここで、切花加工品としては、当該切花を用いた押し花、プリザードフラワー、ドライフラワー、樹脂密封品などを含むが、これに限定されるものではない。
【0046】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0047】
[実施例1:アントシアニンに対するフラボンC-配糖体のコピグメント効果のシミュレーション]
アントシアニンに対するフラボンC-配糖体のコピグメント効果のシミユレーションを行うため、アントシアニン及びフラボンC-配糖体を調整した。本実験に用いたマルビン(マルビジン3,5-ジグルコシド)及びイソビテキシン(アピゲニン6-C-グルコシド)はフナコシ株式会社より購入した。
このようにして入手したアントシアニン(マルビン)に対してフラボンC-配糖体(イソビテキシン)を、pH4.5の緩衝液中、0、2、4当量のモル濃度比で添加し、吸収スペクトルを測定した。アントシアニンの濃度は0.5mMとした。
フラボンC-配糖体の添加により、アントシアニン水溶液の吸光度は増大し、吸収極大(λmax)はフラボンC-配糖体の添加とともに長波長側へシフトした。このことから、マルビンはイソビテキシンのコピグメント効果を受けることが判明した。
【0048】
【0049】
[実施例2:(経路1)バラ品種「リタ・パフューメラ」へのパンジー由来F3’5’H#40遺伝子とカンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来CGT遺伝子、カンゾウ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB4743は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の4つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとパンジー由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号1)とD8ターミネーター
(2)35Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号3)とシソ由来ATターミネーター
(3)35Sプロモーターとイネ由来CGT完全長cDNA(配列番号5)とシソ由来ATターミネーター
(4)35Sプロモーターとカンゾウ由来FDH完全長cDNA(配列番号7)とシソ由来ATターミネーター
本プラスミドは植物においては、パンジーのF3’,5’H#40遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、イネのCGT遺伝子、カンゾウのFDH遺伝子を構成的に発現する。
このようにして作製したpSPB4743を橙色系バラ品種「リタ・パフューメラ」へ導入し、計16個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、15個体でデルフィニジンの蓄積を確認でき、デルフィニジン含有率は最高94%(平均89.5%)であった。さらに、このうち10個体でフラボンC-配糖体であるイソビテキシンが確認でき、その生成量は最高で花弁新鮮重量1gあたり0.55mgであった。
【0050】
形質転換体の分析値を下表2に示す。
【表2】
宿主:リタ・パフューメラ
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pel:ペラルゴニジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、IVX:イソビテキシン
Del(%):総アントシアニジン中のデルフィニジンの割合
【0051】
[実施例3:(経路1)バラ品種「ノブレス」へのパンジー由来F3’5’H#40遺伝子とカンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来CGT遺伝子、カンゾウ由来FDH遺伝子の導入]
実施例2と同様にして作製したpSPB4743を桃色系バラ品種「ノブレス」へ導入し、計20個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、すべての個体でデルフィニジンの蓄積を確認でき、デルフィニジン含有率は最高88%(平均83.5%)であった。さらに、このうち18個体でフラボンC-配糖体であるイソビテキシンが確認でき、その生成量は最高で花弁新鮮重量1gあたり0.06mgであった。
【0052】
代表的な形質転換体の分析値を下表3に示す。
【表3】
宿主:ノブレス
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pel:ペラルゴニジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、IVX:イソビテキシン
Del(%):総アントシアニジン中のデルフィニジンの割合
【0053】
[実施例4:(経路1)バラ品種「リタ・パフューメラ」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とカンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来CGT遺伝子、イネ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB6188は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の4つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号9)とD8ターミネーター
(2)35Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号3)とシソ由来ATターミネーター
(3)El235Sプロモーターとイネ由来CGT完全長cDNA(配列番号5)とシソ由来ATターミネーター
(4)El235Sプロモーターとイネ由来FDH完全長cDNA(配列番号11)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’,5’H遺伝子とカンゾウのF2H遺伝子、イネのCGT遺伝子、イネのFDH遺伝子を構成的に発現する。
このようにして作製したpSPB6188を橙色系バラ品種「リタ・パフューメラ」へ導入し、計77個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、68個体でデルフィニジンの蓄積を確認でき、デルフィニジン含有率は最高99.6%(平均93.3%)であった。さらに、このうち57個体でフラボンC-配糖体であるイソビテキシンが確認でき、その生成量は最高で花弁新鮮重量1gあたり0.72mgであった。
【0054】
代表的な形質転換体の分析値を下表4に示す。
【表4】
宿主:リタ・パフューメラ
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pel:ペラルゴニジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、IVX:イソビテキシン
Del(%):総アントシアニジン中のデルフィニジンの割合
【0055】
[実施例5:(経路1)バラ品種「ノブレス」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とカンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来CGT遺伝子、イネ由来FDH遺伝子の導入]
実施例4と同様にして作製したpSPB6188を桃色系バラ品種「ノブレス」へ導入し、計51個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、すべての個体でデルフィニジンの蓄積を確認でき、デルフィニジン含有率は最高99.7%(平均66.9%)であった。さらに、このうち48個体でフラボンC-配糖体であるイソビテキシンが確認でき、イソビテキシンの生成量は最高で花弁新鮮重量1gあたり0.58mgであった。
【0056】
代表的な形質転換体の分析値を下表5に示す。
【表5】
宿主:ノブレス
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pel:ペラルゴニジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、IVX:イソビテキシン
Del(%):総アントシアニジン中のデルフィニジンの割合
【0057】
[実施例6:(経路1)バラ品種「リタ・パフューメラ」へのパンジー由来F3’5’H#40遺伝子とカンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来コドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB5588は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の4つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとパンジー由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号1)とD8ターミネーター
(2)35Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号3)とシソ由来ATターミネーター
(3)35Sプロモーターとイネ由来コドンUsage改変CGT完全長cDNA(配列番号13)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(4)35Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号15)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはパンジーのF3’,5’H#40遺伝子とカンゾウのF2H遺伝子、イネのコドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現する。
このようにして作製したpSPB5588を橙色系バラ品種「リタ・パフューメラ」へ導入し、計92個体の形質転換体を得た。色素分析を行った65個体のうち44個体でデルフィニジンの蓄積を確認でき、デルフィニジン含有率は最高100%(平均62.3%)であった。さらに、このうち37個体でフラボンC-配糖体であるイソビテキシンが確認でき、その生成量は最高で花弁新鮮重量1gあたり2.02mgという高い含有量であった。
【0058】
代表的な形質転換体の分析値を下表6に示す。
【表6】
宿主:リタ・パフューメラ
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pel:ペラルゴニジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、IVX:イソビテキシン
Del(%):総アントシアニジン中のデルフィニジンの割合
【0059】
[実施例7:(経路1)バラ品種「ノブレス」へのパンジー由来F3’5’H#40遺伝子とカンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来コドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
実施例4と同様にして作製したpSPB5588を橙色系バラ品種「ノブレス」へ導入し、計60個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、42個体でデルフィニジンの蓄積を確認でき、デルフィニジン含有率は最高96.9%(平均54.4%)であった。さらに、このうち29個体でフラボンC-配糖体であるイソビテキシンが確認でき、その生成量は最高で花弁新鮮重量1gあたり1.60mgという高い含有量であった。
【0060】
代表的な形質転換体の分析値を下表7に示す。
【表7】
宿主:ノブレス
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pel:ペラルゴニジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、IVX:イソビテキシン
Del(%):総アントシアニジン中のデルフィニジンの割合
【0061】
[実施例8:(経路1)バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来コドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB6486は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の5つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号9)とD8ターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来MT完全長cDNA(配列番号17)とNOSターミネーター
(3)35Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号3)とシソ由来ATターミネーター
(4)35Sプロモーターとイネ由来コドンUsage改変CGT完全長cDNA(配列番号13)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(5)35Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号15)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’,5’H遺伝子とトレニアのMT遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、イネのコドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現する。
このようにして作製したpSPB6486を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計27個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、26個体でマルビジンの蓄積を確認でき、マルビジン含有率は最高74.5%(平均57.0%)であった。さらに、本系統においてはフラボンC-配糖体としてこれまでのイソビテキシンに加え、ビテキシン(アピゲニン8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン6,8-C-ジグルコシド)イソオリエンチン(ルテオリン6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン8-C-グルコシド)についても同定・定量を行った。マルビジンが検出できたすべての個体でフラボンC-配糖体が検出でき、その総量は最高で花弁新鮮重量1gあたり1.563mgと高い含有量であった。また、ほとんどの個体でフラボンC-配糖体の総量が花弁新鮮重量1gあたり1mg以上と高い含有量であり、マルビジンに対しても約10倍以上の生成量であった。
【0062】
代表的な形質転換体の分析値を下表8に示す。
【表8】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Mal(%):総アントシアニジン中のマルビジンの割合
【0063】
[実施例9:(経路2)バラ品種 「リタ・パフューメラ」へのパンジー由来F3’5’H#40遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、トレニア由来FNS遺伝子、リンドウ由来CGT遺伝子の導入]
pSPB6438は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の4つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとパンジー由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号1)とNOSターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来MT完全長cDNA(配列番号17)とNOSターミネーター
(3)El235Sプロモーターとトレニア由来FNS完全長cDNA(配列番号19)とD8ターミネーター
(4)El235Sプロモーターとリンドウ由来CGT完全長cDNA(配列番号21)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはパンジーのF3’,5’H#40遺伝子とトレニアのMT遺伝子、トレニアのFNS遺伝子、リンドウのCGT遺伝子を構成的に発現する。
このようにして作製したpSPB6438を橙色系バラ品種「リタ・パフューメラ」へ導入し、計122個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、71個体でマルビジンの蓄積を確認でき、マルビジン含有率は最高69.9%(平均25.9%)であった。さらに、本系統においてはフラボンC-配糖体としてこれまでのイソビテキシンに加え、ビテキシン(アピゲニン8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン6,8-C-ジグルコシド)についても同定・定量を行った。マルビジンが検出できた個体のうち、16個体でフラボンC-配糖体が確認でき、その総量は最高で花弁新鮮重量1gあたり0.02mgであった。一方、フラボン類(アピゲニン、ルテオリン、トリセチン)の総量は最高で花弁新鮮重量1gあたり2.07mgという高い含有量であった。
【0064】
代表的な形質転換体の分析値を下表9に示す。
【表9】
宿主:リタ・パフューメラ
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン
Mal(%):総アントシアニジン中のマルビジンの割合
【0065】
[実施例10:(経路2)バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とトレニア由来MT遺伝子、トレニア由来FNS遺伝子、リンドウ由来CGT遺伝子の導入]
pSPB7013は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の4つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号9)とD8ターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来MT完全長cDNA(配列番号17)とNOSターミネーター
(3)El235Sプロモーターとトレニア由来FNS完全長cDNA(配列番号19)とD8ターミネーター
(4)El235Sプロモーターとリンドウ由来CGT完全長cDNA(配列番号21)(5’位側にシロイヌナズナ ADH遺伝子由来5’-UTR(配列番号23)を付加)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’,5’H遺伝子とトレニアのMT遺伝子、トレニアのFNS遺伝子、リンドウのCGT遺伝子を構成的に発現する。
このようにして作製したpSPB7013を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計15個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、全個体でマルビジンの蓄積を確認でき、マルビジン含有率は最高67.2%(平均40.9%)であった。さらに、本系統においてはフラボンC-配糖体としてこれまでのイソビテキシン、ビテキシン、ビセニン-2に加え、イソオリエンチン(ルテオリン6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン8-C-グルコシド)についても同定・定量を行った。マルビジンが検出できたすべての個体でフラボンC-配糖体が検出でき、その総量は最高で花弁新鮮重量1gあたり1.410mgと高い含有量であった。
【0066】
代表的な形質転換体の分析値を下表10に示す。
【表10】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Mal(%):総アントシアニジン中のマルビジンの割合
【0067】
[実施例11:フラボンC-配糖体を含むバラの花色の評価]
実施例8及び10において作出された形質転換体(バラ品種「オーシャンソング」を宿主とする)について、(1)主な色素としてデルフィニジンを蓄積し、フラボンを含まないもの、(2)主な色素としてマルビジンを蓄積し、経路1によって生成されたフラボンC-配糖体を含むもの、(3)主な色素としてマルビジンを蓄積し、経路2によって生成されたフラボンC-配糖体を含むもの、及び宿主(主な色素としてシアニジンを蓄積)というグループに分類し、それぞれの花弁の色彩について分光測色計CM-2022(ミノルタ株式会社)を用いて10度視野、D65光源で測定し、色彩管理ソフトSpectraMagicTM(ミノルタ株式会社)により解析を行った(n=5)。
主色素がデルフィニジンタイプのバラにおいても、花弁の色相角度は青色方向へシフトしていた。また、主色素がマルビジンタイプでフラボンC-配糖体が共存する場合のバラにおいては、その傾向がより顕著であり、色相角度も青色側へ大きくシフトしていた。また、実施例10の系統においてその傾向が顕著にみとめられた。以上の結果から、マルビジンとフラボンC-配糖体の共存により花弁の色彩が青く変化することが確認された。
結果を表11に示す。
【0068】
【0069】
[実施例12:(経路1)バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とラベンダー由来3AT遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来コドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB6495は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の5つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号9)とD8ターミネーター
(2)El235Sプロモーターとラベンダー由来3AT完全長cDNA(配列番号24)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(3)35Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号3)とシソ由来ATターミネーター
(4)35Sプロモーターとイネ由来コドンUsage改変CGT完全長cDNA(配列番号13)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(5)35Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号15)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’,5’H遺伝子とラベンダーの3AT遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、イネのコドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現する。
このようにして作製したpSPB6495を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計228個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、59個体でアシル化デルフィンの蓄積を確認できた。さらに、本系統においてはフラボンC-配糖体としてイソビテキシンに加え、ビテキシン(アピゲニン8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン6,8-C-ジグルコシド)、イソオリエンチン(ルテオリン6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン8-C-グルコシド)についても同定・定量を行った。アシル化デルフィンが検出できたすべての個体でフラボンC-配糖体が検出でき、その総量は最高で花弁新鮮重量1gあたり1.720mgと高い含有量を示す個体もあったが、平均値は0.833mgであった。
代表的な形質転換体の分析値を下表12に示す。
【0070】
【表12】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Del(%):総アントシアニジン中のデルフィニジンの割合
【0071】
[実施例13:(経路1)バラ品種「オーシャンソング」へのカンパニュラ由来F3’5’H遺伝子とチョウマメ由来3’5’GT遺伝子、バラ由来53GT(RNAi)遺伝子、シソ由来3GT遺伝子、ダリア由来3マロニル基転移酵素(MaT)遺伝子、カンゾウ由来F2H遺伝子、イネ由来コドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサ由来FDH遺伝子の導入]
pSPB7189は、pBINPLUSを基本骨格とし、以下の5つの発現カセットが含まれている。
(1) El235Sプロモーターとカンパニュラ由来F3’5’H完全長cDNA(配列番号9)とNosターミネーター
(2) El235Sプロモーターとチョウマメ由来A3’5’GT完全長cDNA(配列番号26)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(3) El235Sプロモーターとバラ由来53GT完全長cDNA(配列番号28)(RNAi)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(4) SATプロモーターとシソ由来3GT完全長cDNA(配列番号30)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(5) El235Sプロモーターとダリア由来3MaT完全長cDNA(配列番号32)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(6) 35Sプロモーターとカンゾウ由来F2H完全長cDNA(配列番号3)とシソ由来ATターミネーター
(7) 35Sプロモーターとイネ由来コドンUsage改変CGT完全長cDNA(配列番号13)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(8) 35Sプロモーターとミヤコグサ由来FDH完全長cDNA(配列番号15)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本プラスミドは植物においてはカンパニュラのF3’,5’H遺伝子とチョウマメのA3’,5’GT遺伝子、シソの3GT遺伝子、ダリアの3MaT遺伝子、カンゾウのF2H遺伝子、イネのコドンUsage改変CGT遺伝子、ミヤコグサのFDH遺伝子を構成的に発現し、かつ、バラの内在性の5,3GT遺伝子の発現を抑制する。
このようにして作製したpSPB7189を青色系バラ品種「オーシャンソング」へ導入し、計101個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、1個体でのみデルフィンの蓄積を確認できたが、アシル化は確認できなかった。さらに、本系統においてはフラボンC-配糖体としてイソビテキシンに加え、ビテキシン(アピゲニン8-C-グルコシド)、ビセニン-2(アピゲニン6,8-C-ジグルコシド)、イソオリエンチン(ルテオリン6-C-グルコシド)、オリエンチン(ルテオリン8-C-グルコシド)についても同定・定量を行った。本個体においてフラボンC-配糖体が検出でき、その総量は花弁新鮮重量1gあたり1.024mgであった。
形質転換体の分析値を下表13に示す。
【0072】
【表13】
宿主:オーシャンソング
Del:デルフィニジン、Cya:シアニジン、Pet:ペチュニジン、Pel:ペラルゴニジン、Mal:マルビジン
M:ミリセチン、Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Tri:トリセチン、Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、Vic2:ビセニン-2、VX:ビテキシン、IVX:イソビテキシン、Ori:オリエンチン、Iori:イソオリエンチン
Del(%):総アントシアニジン中のデルフィニジンの割合
【0073】
[実施例14:フラボンC-配糖体を含むバラの花色の評価]
実施例12及び13において作出された形質転換体(バラ品種「オーシャンソング」を宿主とする)について、(1)主な色素としてデルフィニジン(一部アシル化)を蓄積し、経路1によって生成されたフラボンC-配糖体を含むもの、(2)主な色素としてデルフィニジンを蓄積し、経路1によって生成されたフラボンC-配糖体を含むものというグループに分類し、それぞれの花弁の色彩について分光測色計CM-2022(ミノルタ株式会社)を用いて10度視野、D65光源で測定し、色彩管理ソフトSpectraMagicTM(ミノルタ株式会社)により解析を行った(n=5)。
主色素がデルフィニジンタイプのバラの場合、一部がアシル化されていても、花弁の色相角度は実施例8及び10において作出された形質転換体に比べて青色方向へのシフトは認められなかった(ただし、アシル化アントシアニン単独の場合よりも青く変化した)。以上の結果から、マルビジンとフラボンC-配糖体の共存により花弁の色彩が青く変化することが確認された。
結果を表14に示す。
【0074】
【0075】
[実施例15:アントシアニン(マルビン)に対するフラボンC-配糖体のコピグメント効果のシミュレーション]
アントシアニン(マルビン)に対するフラボンC-配糖体のコピグメント効果のシミユレーションを行うため、マルビン及びフラボンC-配糖体を調整した。本実験に用いたマルビン(マルビジン3,5-ジグルコシド)及びフラボンC-配糖体(イソオリエンチン、スウェルティシン)はナカライテスク株式会社より購入した。
このようにして入手したマルビンに対して各フラボンC-配糖体(イソオリエンチン、スウェルティシン)を、pH5.0の緩衝液中、10当量のモル濃度比で添加し、吸収スペクトルを測定した。マルビンの濃度は0.5mMとした。
フラボンC-配糖体の添加により、マルビン水溶液の吸光度は増大し、吸収極大(λmax)は長波長側へシフトした。また、イソオリエンチンよりもスウェルティシンを添加した場合に吸収極大がより長波長側へシフトした。このことから、マルビンに対してスウェルティシンの方がより高いコピグメント効果を示すことが判明した。
【0076】
【0077】
[実施例16:オオボウシバナにおけるスウェルティシンの検出]
ツユクサにはスウェルティシンが含まれていることがすでに報告されている(非特許文献9)。ツユクサは朝早くに開花し、夕方にはしぼむ1日花で、花の大きさは約1cmと小さい。一方、ツユクサの変種(栽培種)として知られるオオボウシバナは、花が4cmほどと大きくサンプルとするには最適であった。そこで、オオボウシバナにてスウェルティシンが検出されるか、またそれがどの器官で蓄積されているかを確認するため色素分析を実施した。
オオボウシバナを以下の器官及びステージに分けて採集した。
花弁ステージ1:未着色のつぼみ(約0.5cm)
花弁ステージ2:少し着色が始まったつぼみ(約0.5cm)
花弁ステージ3:着色が進み、開花直前のつぼみ(約1-1.5cm)
葉
苞
【0078】
上記の5種のサンプルを凍結後、真空凍結乾燥機 VirTis sentry2.0(SP SCIENTIFIC)で一晩乾燥させたのち、スパーテルにて軽く粉砕した。これに0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)含有50%アセトニトリルを新鮮重の約8倍量(v/wt)加え、超音波下で20分間処理した後、遠心分離(3,600rpm、4℃、10分間)し、上清を回収した。得られた上清を0.45μmフィルター(コスモナイスフィルター(水系)、0.45μm、13mm)でろ過した。このうち200μlを乾固させ、β-グルコシダーゼ及びナリンギナーゼを加えて30℃で1晩処理したのち、0.1%TFA含有90%アセトニトリルを200μl加えて反応を停止させた。次に超音波下で2分間処理したのち、遠心分離(15,000rpm、4℃、5分間)し、得られた上清を0.45μmフィルター(Milex-LH 0.45μm、ミリポア)でろ過したものを高速液体クロマトグラフィーに供した。分析条件は以下のとおりである。
<分析条件>
装置:Prominence HPLCシステム(島津製作所)
検出器:SPD-M20A(250-450nm)
カラム:Shim-pack FC-ODS 150 x 4.6mm、3μm(株式会社島津ジーエルシー)
溶離液A:0.1%TFA水溶液
溶離液B:0.1%TFA含有90%アセトニトリル
流速:0.6ml/min
溶出条件は、溶離液A及びBの8:2の混合液から3:7の混合液までの10分間の直線濃度勾配とそれにつづく6分間の3:7の混合液による溶出を行なった。
分析の結果、栽培種であるオオボウシバナでスウェルティシンが検出され、また花弁のみで特異的に検出されることがわかった。特に着色が始まったステージ2で含有量が最も多いことが確認できた。
【0079】
【0080】
[実施例17:フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子の取得]
<全RNAの単離>
RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社)を用い、製造者が推奨する方法に従い、オオボウシバナの花弁(ステージ1~3)、葉、苞から全RNAを単離した。
【0081】
<オオボウシバナ由来cDNAの発現量解析>
上記にて調製した全RNAからSureSelect Strand-Specific RNAライブラリ調製キットを用いて製造者が推奨する工程に従い、次世代シークエンサーNextSeq 500用ライブラリを調整した。作製したライブラリについてNextSeq 500(Illumina社)を用いて塩基配列を決定後、得られたリードの精査を行った。次に全サンプルのリードを混合し、Trinity v2.6.6を用いてアセンブルすることによりコンティグ配列を取得した。さらに、得られたコンティグ配列に対し、RSEM 1.3.0を用いて各サンプルのペアリードをそれぞれマッピングし、FPKM値を算出することで発現量とした。
【0082】
<遺伝子機能の推定>
上記で得られたコンティグ配列について、NCBI NRとAraport11に対するBLAST検索を行い、機能アノテーション(遺伝子機能の推定)を行った。
【0083】
<フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の候補遺伝子の完全長cDNAの取得>
得られたコンティグ配列の中から「Methyltransferase」をキーワードとして検索を行い、候補となる遺伝子を454個取得した。このうち、発現量が高く、かつ主に花弁で発現しているコンティグ配列を選抜し、候補を37個に絞った。これらにオオムギのフラボノイド7-O-メチル基転移酵素遺伝子(F1-OMT、非特許文献10)、ウマゴヤシのイソフラボン7-O-メチル基転移酵素遺伝子(MtIOMT2、非特許文献11)など既報のメチル基転移酵素遺伝子32個を加えて系統樹を作成することにより候補遺伝子としてDN134067を選抜した。アセンブルによって得られた完全長cDNAの配列をもとにプライマーを作製し、以下の方法で完全長cDNAクローンを取得した。
上記で単離したオオボウシバナ花弁の全RNAを鋳型にしてSuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(ThermoFisher SCIENTIFIC社)を用いて製造者が推奨する方法に従い、cDNAを合成した。得られたオオボウシバナ花弁cDNAを鋳型にして、PrimeSTAR Max(TAKARA)により製造業者が推奨する方法に従って、反応体積50μlにてPCR反応を行った(98℃10秒、55℃5秒、72℃15秒のサイクルを30サイクル繰り返したのち、4℃で保持した)。このようにして得られたDN134067の塩基配列をDNAシークエンサー 3500 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)にて決定した。
【0084】
DN134067と既知のメチル基転移酵素遺伝子とのアミノ酸レベルでの相同性を調べたところ、オオムギ(Hordeum vulgare)由来フラボノイド7-O-メチルトランスフェラーゼとの相同性は25%であり、ウマゴヤシ(Medicago tructula)由来イソフラボン7-O-メチルトランスフェラーゼ(MtIOMT1)との相同性は26%であり、ウマゴヤシ(Medicago tructula)由来イソフラボン/イソフラボン7-O-メチルトランスフェラーゼ(MtIOMT2)との相同性は25%であり、ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa)由来イソフラボンO-メチルトランスフェラーゼとの相同性は26%であり、そして、カンゾウ(Glycyrrhiza echinata)由来ダイゼイン 7-O-メチルトランスフェラーゼとの相同性は26%であった。したがって、DN134067は、既知のメチル基転移酵素遺伝子とは明確に区別される。
【0085】
[実施例18:フラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質の大腸菌における酵素活性測定]
<大腸菌発現用ベクターの作製>
DN134067をフラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質候補とし、pET15b(Novagen社)を用いて、製造者が推奨する方法に従って、DN134067の完全長を含む大腸菌発現用ベクター(pET15b-DN134067)を作製した。
【0086】
<メチル基転移酵素の大腸菌での発現>
pET15b-DN134067を、One Shot BL21(DE3)(invitorgen)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、大腸菌株BL21へ導入し、形質転換大腸菌を取得した。この大腸菌をOvernight Express Autoinduction System1(Novagen社)を用いて、製造者に推奨されているプロトコールに従い、培養した。調製した培養液2mlで、形質転換大腸菌をOD600値が0.5になるまで37℃で培養した(約4時間)。この大腸菌液を前培養液として、50mlの培養液に加え、16℃で二晩本培養した。
二晩本培養した大腸菌液を遠心分離(3000rpm、4℃、15分間)し、集菌した菌体をソニックバッファー(組成;KPB(pH7.5):40mM、ジチオスレイトール:1mM、アミジノファニルメタンスルフォニルフルオライド塩酸:50μM、エチレンジアミン四酢酸:500μM、MgCl2:2mM、S-アデノシルメチオニン(SAM):1μM)に懸濁した。大腸菌1gに対して、5mlのソニックバッファーを加えた。懸濁した大腸菌を超音波処理により粉砕した後、遠心分離(15000rpm、4℃、10分間)して、上清を回収した。その上清を、DN134067を発現させた大腸菌から粗抽出したタンパク質溶液とした。遠心分離には、Avanti HP-26XP(ローター:JA-2)を使用した(BECKMAN COULTER社)。
【0087】
<酵素活性測定>
8μlの1mMのイソビテキシン(0.1%TFAを含む50%アセトニトリル水溶液に溶解)、20μlの10mMのSAM、20μlの10mMのMgCl
2、10μlの1M KPB(pH7.5)を混合して水で58μlになるように調整した混合液を30℃で10分間保持した後、2μlのDN134067を発現させた大腸菌から粗抽出したタンパク質溶液を加え、酵素反応を行った(30℃で30分間)。その後、100μlの停止バッファー(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を加えて酵素反応を停止させ、その酵素反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))で分析した。検出器は島津PDA SPD-M20Aを用いて、330nmで検出した。カラムはShim-Pack ODS 150mm*4.6mm(島津製作所)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を用いた。両者の9:1の混合液から8:2の混合液までの20分間の直線濃度勾配、両者の8:2の混合液から2:8の混合液までの15分間の直線濃度勾配、両者の2:8の混合液から0:10の混合液までの5分間の直線濃度勾配とそれにつづく1分間0:10の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。コントロールとして、インサートを挿入しないpET15bベクターを導入した大腸菌から粗抽出したタンパク質溶液を用いて同様の実験を行った。
その結果、DN134067を発現させた大腸菌から粗抽出したタンパク質溶液とイソビテキシンを酵素反応させた酵素反応液から、フラボンC-配糖体の7位の水酸基がメチル化されたスウェルティシンのピークが検出された(
図4参照)。同じ反応条件下で基質をイソオリエンチン(0.1%TFAを含む50%アセトニトリル水溶液に溶解)として酵素反応を行った場合には、イソオリエンチンの7位の水酸基がメチル化されたスウェルティアジアポニンのピークが検出された(
図5参照)。さらに、表17に記載の各種フラボノイド化合物(サポナリン(イソビテキシン4’-グルコシド)、アピゲニン、ルテオリン、アピゲニン4’-グルコシド、ルテオリン4’-グルコシド、デルフィニジン3-グルコシド、ペチュニジン3-グルコシド、デルフィニジン3,5-ジグルコシド)とDN134067を発現させた大腸菌から粗抽出したタンパク質溶液を酵素反応させたところ、酵素反応液から基質以外のピークは検出されなかった。
なお、アントシアニン(デルフィニジン3-グルコシド、ペチュニジン3-グルコシド、デルフィニジン3,5-ジグルコシド)を基質として酵素反応を行ったとき、酵素反応条件を30℃、15分とし、停止バッファーとして0.1%TFA、0.24N塩酸を含む90%アセトニトリル水溶液を利用した。また、酵素反応液を高速液体クロマトグラフィー(Prominence(島津製作所))で分析するときには、検出器は島津PDA SPD-M20Aを用いて、520nmで検出した。カラムはShodex RSpak DE-413L(Shodex)を用いた。溶出には、A液(0.1%TFA水溶液)とB液(0.1%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液)を用いた。両者の8:2の混合液から0:10の混合液までの15分間の直線濃度勾配とそれにつづく5分間0:10の混合液による溶出を行なった。流速は0.6ml/分とした。
【0088】
【0089】
これらの結果より、DN134067がフラボンC-配糖体の7位の水酸基に特異的にメチル基を転移する活性を示すことが明らかとなり、DN134067がフラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である可能性が示された。また、DN134067はイソビテキシンに対してもっとも強いメチル基転移活性を示した。
以上の結果から、本遺伝子をフラボンC-配糖体の7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子と同定し、CcFn-7OMTとした。
【0090】
[実施例19:フラボンの7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のペチュニアにおける発現]
本発明のCcFn-7OMT遺伝子が植物にてフラボンの7位の水酸基にメチル基を転移する活性を有するかどうかを確かめるため、CcFn-7OMT遺伝子を導入したバイナリーベクターpSPB7607を構築した。本ベクターはpBINPLUSを基本骨格とし、以下の3つの発現カセットが含まれている。
(1)El235Sプロモーターとオオボウシバナ由来CcFn-7OMT完全長cDNA(配列番号34)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
(2)El235Sプロモーターとトレニア由来FNS完全長cDNA(配列番号19)とD8ターミネーター
(3)El235Sプロモーターとリンドウ由来CGT完全長cDNA(配列番号21)とシロイヌナズナ由来HSPターミネーター
本バイナリーベクターは植物においてはオオボウシバナのCcFn-7OMT遺伝子とトレニアのFNS遺伝子、リンドウのCGT遺伝子を構成的に発現する。
このようにして作製したpSPB7607をペチュニア品種「サフィニア ブーケ レッド」へ導入し、計19個体の形質転換体を得た。これらの色素分析を行った結果、9個体の形質転換体でフラボンC-配糖体の7位がメチル化されたスウェルティシン(アピゲニン7-メチル-6-C-グルコシド)及びスウェルティアジャポニン(ルテオリン7-メチル-6-C-グルコシド)の蓄積が確認でき、総フラボンC-配糖体量に対する7-メチル化体の含有率は最高88.5%(平均83.6%)であった(表18)。
【0091】
【表18】
宿主:サフィニア ブーケ レッド
Q:クェルセチン、K:ケンフェロール
Lut:ルテオリン、Api:アピゲニン、IVX:イソビテキシン、Iori:イソオリエンチン、Swe:スウェルティシン、Swaj:スウェルティアジャポニン
【0092】
本系統においてこれらの7-メチル化体以外に、2種類のフラボンC-配糖体、イソビテキシン(アピゲニン6-C-グルコシド)とイソオリエンチン(ルテオリン6-C-グルコシド)が検出された。一方、宿主ではいずれのフラボンC-配糖体も検出されなかった。以上のことから、CcFn-7OMTは植物においてフラボンの7位へのメチル基転移活性を有することが明らかとなった。本遺伝子を利用することにより、植物にてフラボンC-配糖体の7-メチル化体を効率的に生成することが可能となる。
【0093】
[実施例20:フラボンC-配糖体の7-メチル化体を含むペチュニアの花色の評価]
実施例19で作出されたフラボンC-配糖体の7-メチル化体を含む形質転換体(ペチュニア品種「サフィニア ブーケ レッド」を宿主とする)と宿主(主な色素としてシアニジンを蓄積)について、それぞれの花弁の色彩を分光測色計CM-700d(コニカミノルタ株式会社)を用いて10度視野、D65光源で測定し、色彩管理ソフトSpectraMagicTM(コニカミノルタ株式会社)で解析を行った。
スウェルティシン及びスウェルティアジャポニンが検出されたすべての個体で花弁の色相角度が青色方向へシフトしていた。また、それらの含有量が多くなるほどその傾向がより顕著で、花色がピンク色(青色方向)に大きく変化した。以上の結果から、ペチュニアにおいてフラボンC-配糖体の7-メチル化体の共存により花弁の色彩が青く変化することが確認された。
結果を表18と19に示す。
【0094】
【配列表】