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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】生理活性化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/93 20060101AFI20231219BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20231219BHJP
   A61K 36/75 20060101ALI20231219BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C07D307/93 CSP
A61K31/343
A61K36/75
A61P31/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021536430
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 IB2019057224
(87)【国際公開番号】W WO2020044245
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】745822
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NZ
(73)【特許権者】
【識別番号】521083795
【氏名又は名称】ハーディ・ヘルス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ノースコート,ピーター・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シング,アミート・ジョナサン
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】Phytotherapy Research,1998年,Vol.12,pp.S74-S76
【文献】Virology Journal,2013年,10:259,p.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(X)の、単離された生理活性化合物
【化1】
【請求項2】
式(Xa)の、単離された生理活性化合物
【化2】
【請求項3】
式(Xb)の、単離された生理活性化合物
【化3】
【請求項4】
(a)M.ラティフォリア(M.latifolia)の樹皮をメタノールで抽出するステップと;
(b)ろ過した抽出物を、メタノール中で予め平衡化したPSDVBカラムに通すステップと;
(c)溶出液を等容量の水と合わせ、それを同じPSDVBカラムに通すステップと;
(d)前記カラムを水で洗浄するステップと;
(e)吸着した抽出物の化合物を、i)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で溶出するステップと;
(f)画分Cおよび/またはDを収集して、請求項1に記載の化合物の精製組成物を提供するステップと;
(g)任意選択により、画分Cおよび/またはDをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによってさらに精製して、請求項1に記載の化合物を得るステップと;
を含む、請求項1に記載の化合物または請求項1に記載の化合物の精製組成物を得る方法
【請求項5】
(a)M.ラティフォリアの樹皮をメタノールで抽出するステップと;
(b)ろ過したメタノール抽出物を、メタノール中で予め平衡化したPSDVBカラムに通すステップと;
(c)溶出液を等容量の水と合わせ、それを同じPSDVBカラムに通すステップと;
(d)前記カラムを水で洗浄するステップと;
(e)吸着した抽出物の化合物を、i)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で溶出するステップと;
(f)画分Cおよび/またはDを収集して、バラエノンの精製組成物を提供するステップと;
(g)任意選択により、石油エーテル中酢酸エチルの勾配(0~100%)を使用するシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって画分Cおよび/またはDをさらに精製して、バラエノンを得るステップと、
(h)バラエノンのジアステレオ異性体をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで分離して、請求項2または請求項3に記載の化合物を得るステップと;
を含む、請求項2または請求項3に記載の化合物を得るための方法
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物の精製組成物。
【請求項7】
少なくとも60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%の請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物を含む、請求項6に記載の精製組成物。
【請求項8】
少なくとも95wt%の請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物を含む、請求項7に記載の精製組成物。
【請求項9】
約2wt%未満のハルホルジンを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の精製組成物。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物と、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項6から9のいずれか一項に記載の精製組成物と、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.本発明の分野
本発明は、メリコペ・ラティフォリア(Melicope latifolia)の木の樹皮から単離された新規生理活性化合物、該化合物を含む組成物、およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.本発明の背景
M.ラティフォリア(以前はエウオーディア・ラティフォリア(Euodia latifolia)として知られる)は、柑橘類であるミカン科(Rutaceae)に属している。それは、東南アジアおよび太平洋の多くの国々で生育しており、それらの国々で伝統的な医薬品に使用されている。バヌアツのロー島では、M.ラティフォリアは園芸植物として持ち込まれたと記載されており、「ネヒネ(nehine)」と呼ばれている。葉の低温浸漬物が、咳の治療のために内服的に摂取されている(Bradacs、Maesら 2010);(Bradacs、Heilmannら 2011)。
【0003】
マレーシア半島では、M.ラティフォリアは、平地林で生育する非地域性の小型の樹木であり、マレーでは「オランアスリ(Orang Asli)」として知られている。それは、絶滅危惧種と考えられており、医薬品だけでなく、樹脂および石けんを作製するのにも使用されている。すり潰した葉は、発熱を下げ、痙攣を治療するのに外用されている(Chooi 1994)。
【0004】
あるM.ラティフォリア材料の抽出物には、中程度の生理活性があることが見出されている。インドネシア、東ジャワ州、チャンガルフォレストから収集されたM.ラティフォリアの粉末乾燥葉のエタノール抽出物は、C型肝炎ウイルスによるヒト肝細胞(Huh7.5)細胞の感染を侵入段階と侵入後の段階の両方で阻害することが示され、IC50値は3.5±1.4μg/mLであり、CC50値は>100μg/mLであった。しかしながら、M.ラティフォリアの幹の抽出物は、有効性が10分の1より低かった(Wahyuni、Tumewuら 2013)。
【0005】
バヌアツのローからのE.ラティフォリアの葉の抽出物には、以下の活性があった(Bradacs、Maesら 2010):
・ ジクロロメタン抽出物は、培養中のヒト肺癌細胞株A548に対して14.2±0.89μg/mLのIC50値を有していた。
・ ジクロロメタンおよび酢酸エチル抽出物は、赤血球中の熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)に対して、それぞれ8.30±1.43および14.94±2.72μg/mLのIC50値を有していたが、同様の活性をヒト肺線維芽細胞(MRC-5SV2)に対して有しており、よって選択性指数は1であった。
・ ジクロロメタンおよび酢酸エチル抽出物は、トリパノソーマ・クルージイ(Trypanosoma cruzii)に対して、それぞれ6.55±0.79および7.64±0.26μg/mLのIC50値を有していたが、同様の活性をヒト肺線維芽細胞(MRC-5SV2)に対して有しており、よって選択性指数は1であった。
・ ジクロロメタン抽出物は、トリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)に対して、8.28±0.62μg/mLのIC50値を有していたが、同様の活性をヒト肺線維芽細胞(MRC-5SV2)に対して有しており、よって選択性指数は1であった。
【0006】
M.ラティフォリアの抽出物についての調査はあまり行われていないが、その天然物の化学についてはさらに知られていない。M.ラティフォリアからの化学成分の唯一の実質的な研究と思われている研究において、西マレーシア、パハン州、ゲンティンハイランド(クアラルンプールの50km北)からのM.ラティフォリア(当時はエウオーディア・ラティフォリアとして知られている)の乾燥葉のエタノール抽出物のクロマトグラフ分離によって、新たな異性体化合物、メリフォリオン(melifolione)1aおよび1bが、分別結晶化によって分離されて収率0.006%で得られた(Goh、Chungら 1990)。
【化1】
【0007】
単離された他の化合物は、クマリン誘導体である5,7,8-および6,7,8-トリメトキシクマリン、ならびにベルガプテン(2)であった。バーガプテン(Burgapten)(2)は、光毒性を引き起こす、ベルガモット油中の化学物質である。そのようなフラノクマリンのレベルは、局所製剤では制限されるべきであることが提案されている。ステロールであるシトステロール、スチグマステロール、およびカンペストロール(campestrol)が、67:17:21の比率で存在することも見出された。
【0008】
修士論文の要約(Hashim 2010)は、マレーシア、サバ州で収集したM.ラティフォリアの葉からの2つのアルカロイド、ジクタムニン(3)およびコンフサメリン(confusameline)(4)の単離を報告している。
【化2】
【0009】
ジクタムニン(3)はミカン科に広く存在し、光誘導性の遺伝毒性および皮膚刺激性の原因となる。それは、抗血小板凝集および血管弛緩作用(Wuら、1994)、殺虫活性、細菌および酵母に対する光毒性、ならびにスメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)および枯草菌(Bacillus subtilis)に対する抗菌活性を有することが報告されている。ジクタムニン(3)は、ある種の皮膚疾患を治療するのにも広く使用されてきた(Guo、Yuら 2008)。
【0010】
コンフサメリン(4)は、P-388細胞株に対して基準化合物のミトラマイシン(ED50値=0.06μg/mL)より強力な細胞毒性を有する幾つかのフラノクマリンのうちで最も細胞毒性の高い(ED50値=0.03μg/mL)分離株であることが見出された(Chen、Duhら 2003)。
【0011】
2つのベンゾピラン化合物、「O-メチルオクタドレノロン(O-methyloctadrenolone)」およびアロエボジオノール(6)は、インドネシアからのM.ラティフォリアの果実から単離されたと報告された(Primastuti 2017)。しかしながら、「O-メチルオクタドレノロン」のような化合物はないと思われ、最も近いものは、ニュージーランドのM.テルナタ(M.ternata)から最初に単離された化合物であるオクタデンドロロンメチルエーテル(5)である(Cambie、Panら 1996)。
【化3】
【0012】
公衆衛生当局が深刻さを増す抗生物質耐性の問題を認識するにつれ、研究者は、新たな抗生物質化合物を見出すか、または少なくとも公衆に有用な選択肢を提供するために、以前に調査されていない動植物にますます目を向けるようになっている。
【0013】
M.ラティフォリアの二次代謝産物については、比較的研究されていない。したがって、本発明の目的は、抗生物質化合物を含めた有用な生理活性化合物を提供するその潜在能力について、この植物を評価することである。
【0014】
本明細書において、特許明細書、他の外部文書、または他の情報源が言及される場合、これは概して本発明の特徴を考察するための背景を提供することを目的としている。特に明示しない限り、そのような外部文書への言及は、そのような文書、またはそのような情報源が、いかなる法域であっても、先行技術であること、または当技術分野での技術常識の一部を形成することを承認するものと解釈されるべきではない。
【発明の概要】
【0015】
3.本発明の概要
本発明は、M.ラティフォリアの木の樹皮から、本発明者らによってバラエノン(Balaenone)と命名された新規生理活性化合物を単離し、特定することに関する。
【0016】
一態様では、本発明は、式(X)の、単離された生理活性化合物に関する
【化4】
【0017】
この化合物は、本明細書では、「バラエネオン(Balaeneone)」と称される。
【0018】
一態様では、本発明は、式(X)の、単離された生理活性化合物に関する
【化5】
【0019】
この化合物は、本明細書では「1,10-トランス-バラエノン」または「トランス-バラエノン」と称される。
【0020】
別の態様では、本発明は、式(X)の構造および相対立体化学を有する、単離された生理活性化合物に関する
【化6】
【0021】
この化合物は、本明細書では「1,10-シス-バラエノン」または「シス-バラエノン」と称される。
【0022】
別の態様では、本発明は、図1~6のいずれか1つのNMRスペクトルを有する生理活性化合物に関する。別の態様では、本発明は、図11~16のいずれか1つのNMRスペクトルを有する生理活性化合物に関する。
【0023】
別の態様では、本発明は、
(a)M.ラティフォリアの樹皮をメタノールで抽出するステップと;
(b)ろ過した抽出物を、メタノール中で予め平衡化したPSDVBカラムに通すステップと;
(c)溶出液を等容量の水と合わせ、それを同じPSDVBカラムに通すステップと;
(d)該カラムを水で洗浄するステップと;
(e)吸着した抽出物の化合物を、i)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で溶出するステップと;
(f)画分Cおよび/またはDを収集して、バラエノンの精製組成物を提供するステップと;
(g)任意選択により、画分Cおよび/またはDをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによってさらに精製して、バラエノンのさらなる精製組成物を得るステップと;
を含む、バラエノンの精製組成物を得る工程を提供する。
【0024】
一実施形態では、ステップ(a)を繰り返して、2回目のメタノール抽出物を提供する。
【0025】
一実施形態では、ステップ(c)を繰り返す。
【0026】
一実施形態では、ステップ(g)で、石油エーテル中酢酸エチルの勾配(0~100%)を使用して、画分Cおよび/またはDをさらに精製する。
【0027】
別の態様では、本発明は、
(a)M.ラティフォリアの樹皮をメタノールで抽出するステップと;
(b)ろ過した抽出物を、メタノール中で予め平衡化したPSDVBカラムに通すステップと;
(c)溶出液を等容量の水と合わせ、それを同じPSDVBカラムに通すステップと;
(d)該カラムを水で洗浄するステップと;
(e)吸着した抽出物の化合物を、i)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で溶出するステップと;
(f)画分Cおよび/またはDを収集して、バラエノンの精製組成物を提供するステップと;
(g)任意選択により、画分Cおよび/またはDをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによってさらに精製して、バラエノンのさらなる精製組成物を得るステップと;
を含む工程によって得られる、バラエノンの精製組成物を提供する。
【0028】
一実施形態では、ステップ(a)を繰り返して、2回目のメタノール抽出物を提供する。
【0029】
一実施形態では、ステップ(c)を繰り返す。
【0030】
一実施形態では、ステップ(g)で、石油エーテル中酢酸エチルの勾配(0~100%)を使用して、画分Cおよび/またはDをさらに精製する。
【0031】
別の態様では、本発明は、バラエノンの精製組成物を提供する。別の態様では、本発明は、トランス-バラエノンの精製組成物を提供する。別の態様では、本発明は、シス-バラエノンの精製組成物を提供する。
【0032】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のバラエノンを含む。一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のトランス-バラエノンを含む。一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のシス-バラエノンを含む。
【0033】
一態様では、本発明は、バラエノンと、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0034】
一態様では、本発明は、トランス-バラエノンと、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0035】
一態様では、本発明は、シス-バラエノンと、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0036】
一実施形態では、該医薬組成物は、抗菌性組成物である。
【0037】
別の態様では、本発明は、細菌感染症の治療を必要とする対象において細菌感染症を治療する方法であって、該対象に治療的有効量のバラエノンまたはバラエノンの精製組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0038】
別の態様では、本発明は、細菌感染症の治療を必要とする対象において細菌感染症を治療する方法であって、該対象に治療的有効量のトランス-バラエノンまたはトランス-バラエノンの精製組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0039】
別の態様では、本発明は、細菌感染症の治療を必要とする対象において細菌感染症を治療する方法であって、該対象に治療的有効量のシス-バラエノンまたはシス-バラエノンの精製組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0040】
一実施形態では、感染症は、グラム陽性菌感染症である。
【0041】
本明細書に述べる実施形態および好ましいものは、本明細書に述べる本発明の態様のいずれにも、単独でまたは任意の2つ以上の組み合わせで関連してもよい。
【0042】
本発明は、広義には上で定義した通りであるが、当業者であれば、本発明がそれに限定されず、以下の説明が例を示す実施形態も含むことを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
4.図面の簡単な説明
本発明をこれより添付の図を参照して説明する。
図1】CDCl中のトランス-バラエノンのH NMRスペクトルを示す図である。
図2】CDCl中のトランス-バラエノンの13C NMR(125MHz)スペクトルを示す図である。
図3】CDCl中のトランス-バラエノンのCOSY(500MHz)スペクトルを示す図である。
図4】CDCl中のトランス-バラエノンのHSQC(500MHz)スペクトルを示す図である。
図5】CDCl中のトランス-バラエノンのHMBC(500MHz)スペクトルを示す図である。
図6】CDCl中のトランス-バラエノンのNOESY(500MHz)スペクトルを示す図である。
図7】試料1=メタノール抽出物、2=60%アセトン/水の画分、3=80%アセトン/水の画分、4=100%アセトンの画分の、成分の分離および視覚化を表示するシリカゲルTLCプレートを示す図である。明るいピンク/赤色のスポットは、バラエノンの特徴である。
図8】黄色ブドウ球菌(S.aureus)(左手側)についての抗菌性アッセイの結果を基準プレート(右手側)と比較して示す図である。試料1=メタノール抽出物、2=60%アセトン/水の画分、3=80%アセトン/水の画分、4=100%アセトンの画分。基準プレートにおける明るいピンク/赤色のスポットは、バラエノンの特徴である。
図9】表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(左手側)についての抗菌性アッセイの結果を基準プレート(右手側)と比較して示す図である。試料1=メタノール抽出物、2=60%アセトン/水の画分、3=80%アセトン/水の画分、4=100%アセトンの画分。基準プレートにおける明るいピンク/赤色のスポットは、バラエノンの特徴である。
図10】環化付加生成物(9)のORTEP図である。
図11】CDCl中のシス-バラエノンのH NMR(500MHz)スペクトルを示す図である。
図12】CDCl中のシス-バラエノンの13C NMR(125MHz)スペクトルを示す図である。
図13】CDCl中のシス-バラエノンのCOSY(500MHz)スペクトルを示す図である。
図14】CDCl中のシス-バラエノンのHSQC(500MHz)スペクトルを示す図である。
図15】CDCl中のシス-バラエノンのHMBC(500MHz)スペクトルを示す図である。
図16】CDCl中のシス-バラエノンのNOESY(500MHz)スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
5.本発明の詳細な説明
5.1 定義
「含む(comprising)」という用語は、本明細書で使用される場合、「少なくとも部分的になる(consisting at least in part of)」ことを意味する。「含む」という用語を含む本明細書および特許請求の範囲において各文を解釈するとき、この用語に先行されるもの(1つまたは複数)以外の特徴物も存在し得る。「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの関連する用語は、同様に解釈されるものとする。
【0045】
「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、本明細書で使用される場合、指定された材料またはステップ、ならびに特許請求される発明の基本的および新規な特徴(複数可)に実質的な影響を与えないものを意味する。
【0046】
「からなる(consisting of)」という用語は、本明細書で使用される場合、特許請求の範囲に指定されないいずれの要素、ステップ、または成分も除いた、特許請求される発明の、指定された材料またはステップを意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、「および」もしくは「または」、または両方を意味する。
【0048】
「約」という用語は、言及される数値表示に関係して使用されるとき、その言及される数値表示に、言及される数値表示の10%までプラスまたはマイナスしたものであることを意味する。例えば、「約100」は、90~110を意味し、「約6」は、5.4~6.6を意味する。
【0049】
本明細書に開示される数の範囲(例えば、1~10)への言及は、その範囲内のすべての有理数(例えば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9、および10)およびその範囲内の任意の有理数の範囲(例えば、2~8、1.5~5.5、および3.1~4.7)への言及も包含することが意図され、したがって、本明細書に明示的に開示されるすべての範囲のすべての部分範囲が、本明細書に明示的に開示される。これらは、特定的に意図された単なる例であり、列挙された最低値と最大値の間の数値のすべての可能な組み合わせが、本明細書では同様に明示的に述べられているとみなされるものとする。
【0050】
本明細書に記載する化合物には、不整中心が存在し得る。不整中心は、キラル炭素原子での三次元空間における置換基の立体配置に応じて、(R)または(S)と示すことができる。特定の立体化学または異性体が示されていない限り、構造のすべてのキラル、ジアステレオマー形態、およびラセミ形態が意図される。ジアステレオマー形態、鏡像異性体形態、およびエピマー形態、ならびにd-異性体およびl-異性体、ならびにそれらの混合物を含めた、化合物のすべての立体化学異性体は、鏡像異性的に濃厚化した、およびジアステレオマー的に濃厚化した立体化学異性体の混合物を含めて、特に示さない限り、本発明の範囲内である。
【0051】
本明細書に記載する化合物は、シス、トランス、シン、アンチ、エントゲーゲン(entgegen)(E)、およびツザーメン(zusammen)(Z)異性体を含めた、配座または幾何異性体としても存在し得る。すべてのそのような異性体および任意のそれらの混合物は、特に示さない限り、本発明の範囲内である。
【0052】
同様に本発明の範囲内にあるのは、本明細書に記載する化合物の任意の互変異性体またはそれらの混合物である。当業者には理解されるように、多種多様な官能基および他の構造が互変異性を呈し得る。例として、ケト/エノール、イミン/エナミン、およびチオケトン/エンチオール互変異性が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
開示する化合物の立体化学が名称で示されているかまたは図示されている場合、その名称で示されているかまたは図示されている立体異性体は、他方の立体異性体のすべてに対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、または99.9重量%純粋であり得る。単一の鏡像異性体が名称で示されているかまたは図示されているとき、名称で示されているかまたは図示されている鏡像異性体は、他方の鏡像異性体に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、または99.9重量%純粋である。
【0054】
「投与する」または「投与」という用語は、本明細書で使用される場合、本発明の組成物または化合物を、治療効果をもたらすのに適した方法によって、対象内または対象上に配置することを指す。その剤形は、治療目的および対象に応じて適宜選択され、使用される。本発明の組成物の用量は、治療目的および対象の特徴、例えば、それらの種、年齢、性別、全身健康状態、および疾患進行に応じて選択されてもよい。一般に、ヒト対象には、本発明の化合物は、1日当たり、体重1kg当たり0.01~100mg、好ましくは0.1~50mgの用量で、1回でまたは複数回の投与に分割して投与されてもよい。
【0055】
「治療的有効量」とは、本明細書で使用される場合、臨床結果を含めた、有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量である。治療的有効量は、様々な投与経路によって、1回または複数回の投与で投与することができる。対象に投与しようとする化合物の治療的有効量は、例えば、化合物が投与される目的、投与様式、任意の同時投与される化合物の性質および投与量、ならびに対象の特徴、例えば、全身健康状態、他の疾患、年齢、性別、遺伝子型、体重、および薬剤耐性に依存する。当業者であれば、これらの任意の他の関連要因を考慮に入れて適正な投与量を決定することができるであろう。
【0056】
「対象」とは、ヒトまたは非ヒト動物、好ましくは哺乳動物である脊椎動物を指す。非ヒト哺乳動物として、家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、およびヤギ;スポーツ用動物およびペット、例えば、イヌ、ネコ、およびウマ;ならびに研究用動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、およびモルモットが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、対象はヒトである。
【0057】
5.2 バラエノン
本発明者らは、M.ラティフォリアの木の樹皮の抽出物から新規生理活性化合物を単離した。この木の種は、Applelhansによって実施されたメリコペ種の系統発生解析において、M.ラティフォリアの標本の中にDNAフィンガープリントを配置するDNAフィンガープリント解析によって特定された(Appelhans、Wenら 2014)。
【0058】
本発明の新規化合物は、式(X)に示される構造を有するフラン含有セスキテルペンである。それは、メリコペ・ラティフォリアの木の樹皮に比較的高濃度で存在する。それは、樹皮をメタノール抽出して粗抽出物を生じることによって得ることができ、それを当技術分野での標準的な技法を使用して精製することができる。
【化7】
【0059】
バラエノンは2つの不斉中心を持つので、4つの立体異性体が可能になる(RR、RS、SR、およびSS)。本発明の方法によってバラエノンを抽出すると、トランス-およびシス-バラエノンがおよそ60:1の比率で得られる。各ジアステレオ異性体は鏡像異性的に純粋である(>99%)。
【0060】
トランス-バラエノンの絶対配置は、実施例4に記載するように解明された。後述の付番方式に基づくと、1,10-トランス-バラエノンは、(+)-(1R,10S)-バラエノンである。そのIUPAC名は、(6S,6aR)-1,6,9-トリメチル-5,6,6a,7-テトラヒドロアズレノ[5,4-b]フラン-8(4H)-オンである。
【化8】
【0061】
1,10-シス-バラエノンの絶対配置は決定されていないが、その相対配置は(+)-(1R,10R)-バラエノンである。そのIUPAC名は、(6R,6aR)-1,6,9-トリメチル-5,6,6a,7-テトラヒドロアズレノ[5,4-b]フラン-8(4H)-オンである。
【0062】
これらのジアステレオマーは、実施例3に記載するように、フラッシュクロマトグラフィーによって互いから分離することができる。
【0063】
バラエノンは、これまでに報告されておらず、新たなクラスの化合物となると思われる。構造では、バラエノンは、以下に示すようなメリコフィロン(melicophyllone)A、B、およびCに最もよく似ている。
【化9】
【0064】
これらの化合物は、1988年および1989年に、アワダン(Melicope triphylla)の根および幹樹皮の抽出物の成分として報告された(Wu、Jongら 1988、JongおよびWu 1989)。バラエノンはメリコフィロンA~C(7a~c)の前駆体である可能性があり、それはフランが(ヒドロキシ)ブテノリドに酸化されることによるものであり、メリコフィロンC(7c)は特に、C-8のさらなる酸化によって異なっている。メリコフィロンの相対立体化学は確立されたが、絶対立体化学は確立されなかった。本明細書に記載するトランス-バラエノンの絶対立体化学の解明に基づくと、メリコフィロンを表すためにWuおよびJongによって選択された立体化学(そして上に示したもの)は、不正確であったようである。
【0065】
バラエノンは抗菌性を有しているため、細菌感染症、特にグラム陽性菌による感染症の治療に有用である可能性がある。
【0066】
したがって、一態様では、本発明は、生理活性バラエノンを提供する。別の態様では、本発明は、図1~6のいずれか1つのNMRスペクトルを有する生理活性化合物を提供する。別の態様では、本発明は、図11~16のいずれか1つのNMRスペクトルを有する生理活性化合物を提供する。
【0067】
一態様では、本発明は、(+)-(6S,6aR)-1,6,9-トリメチル-5,6,6a,7-テトラヒドロアズレノ[5,4-b]フラン-8(4H)-オンを提供する。
【0068】
別の態様では、本発明は、強い正回転を有する、鏡像異性体形態の((6R,6aS)-1,6,9-トリメチル-5,6,6a,7-テトラヒドロアズレノ[5,4-b]フラン-8(4H)-オン)を提供する。
【0069】
5.3 バラエノンおよびバラエノンの精製組成物を得るための工程
溶媒抽出、逆相クロマトグラフィー、順相シリカゲルクロマトグラフィーなどを含めた天然物の化学の標準的な技法を利用する種々の方法を使用して、バラエノンをその原材料から単離し、精製することができる。
【0070】
好ましくは、バラエノンおよびバラエノンの精製組成物は、M.ラティフォリアの木の樹皮のメタノール抽出物から得られる。2つの有用な手法は、後述するような、(a)ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)co-ポリマー(PSDVB)での逆相クロマトグラフィー、ならびに(b)液液分配、任意選択によるその後の順相クロマトグラフィーの使用である。しかしながら、当業者であれば、有効な技法の任意の組み合わせを使用することができる。
【0071】
PSDVBでの逆相クロマトグラフィー
この抽出方法では、M.ラティフォリアの幹樹皮を、メタノール(2×)で18~24時間抽出する。両方の抽出物をろ過し、メタノール中で予め平衡化したPSDVBのベッド(2回目の抽出物、その後1回目の抽出物)に通す。この工程からの溶出液を合わせ、等容量の水で希釈し(水中50%メタノール)、同じPSDVBカラムに通す。この工程をさらなる等量の水で繰り返し(水中25%メタノールにする)、同じPSDVBカラムに通す。このとき吸着した抽出物を含有しているこのカラムを、水で洗浄し(3×カラム容積)、その後一回分量のi)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で洗浄する。
【0072】
画分CおよびDは多量のバラエノンを含有しているはずであり、前者は材料の大部分を含有しているはずである。
【0073】
純粋なバラエノンは、画分C(水中60%アセトン)から、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって得ることができる。好ましい溶媒系は、石油エーテル中酢酸エチルの勾配(0~100%)であり、この場合、バラエノンは石油エーテル中20~25%酢酸エチルから溶出する。
【0074】
バラエノンのジアステレオマーは、石油エーテル/ジエチルエーテル3:1、または同等の溶媒系を使用するシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって分離することができる。当業者であれば、バラエノンおよびそのジアステレオマーを精製するのに他の溶媒系を使用することができることを理解するであろう。
【0075】
液液分配
M.ラティフォリアの幹樹皮を、メタノール(2×)で18~24時間抽出する。両方の抽出物を合わせ、真空下で濃縮乾固し、水不混和性有機溶媒(例えばジクロロメタン)中で戻し、水で分配する。無水硫酸マグネシウムを使用して有機層を乾燥し、真空下で濃縮乾固する。濃縮した有機層を、石油エーテル中酢酸エチルの勾配(0~100%)を使用するシリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィーによって精製する。この場合、バラエノンは石油エーテル中20~25%酢酸エチルから溶出する。
【0076】
バラエノンは、メタノール中5%v/v硫酸+エタノール中0.1%w/vバニリンと接触させ、加熱すると、明るいピンク/赤色のスポットとして視覚化されるので、精製工程中に薄層クロマトグラフィー(TLC)を使用して容易に追跡される。そのRfは、シリカゲルTLCプレート上の試料を石油エーテル中10%酢酸エチル中で移動させたときに、0.25である。
【0077】
しかしながら、代替の視覚化システムを使用することができる。表1は、様々なTLC溶媒系中でのトランス-およびシス-バラエノンのRf値を示す。
【表1】
【0078】
好ましい抽出および単離方法は、後の実施例の項で説明する。
【0079】
一態様では、本発明は、
(a)M.ラティフォリアの樹皮をメタノールで抽出するステップと;
(b)ろ過したメタノール抽出物を、メタノール中で予め平衡化したPSDVBカラムに通すステップと;
(c)溶出液を等容量の水と合わせ、それを同じPSDVBカラムに通すステップと;
(d)該カラムを水で洗浄するステップと;
(e)吸着した抽出物の化合物を、i)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で溶出するステップと;
(f)画分Cおよび/またはDを収集して、バラエノンの精製組成物を提供するステップと;
(g)任意選択により、画分Cおよび/またはDをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによってさらに精製して、バラエノンのさらなる精製組成物を得るステップと;
を含む、バラエノンまたはバラエノンの精製組成物を得る工程を提供する。
【0080】
一実施形態では、ステップ(a)を繰り返して、2回目のメタノール抽出物を提供する。
【0081】
一実施形態では、ステップ(c)を繰り返す。
【0082】
一実施形態では、ステップ(g)で、石油エーテル中酢酸エチルの勾配(0~100%)を使用して、画分Cおよび/またはDをさらに精製する。
【0083】
一態様では、本発明は、
(a)M.ラティフォリアの樹皮をメタノールで抽出するステップと;
(b)ろ過したメタノール抽出物を、メタノール中で予め平衡化したPSDVBカラムに通すステップと;
(c)溶出液を等容量の水と合わせ、それを同じPSDVBカラムに通すステップと;
(d)該カラムを水で洗浄するステップと;
(e)吸着した抽出物の化合物を、i)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で溶出するステップと;
(f)画分Cおよび/またはDを収集して、バラエノンの精製組成物を提供するステップと;
(g)任意選択により、石油エーテル中酢酸エチルの勾配(0~100%)を使用するシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって画分Cおよび/またはDをさらに精製して、バラエノンを得るステップと、
(h)3:1の石油エーテル/ジエチルエーテルのイソクラティック混合物を使用するシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーでトランス-およびシス-バラエノンを分離してトランス-バラエノンおよびシス-バラエノンを得るステップと;
を含む、トランス-バラエノンおよび/もしくはシス-バラエノンまたはそれらの精製組成物を得る工程を提供する。
【0084】
一態様では、本発明は、上の態様の工程によって得られる生成物を提供する。
【0085】
一実施形態では、該生成物は、バラエノンまたはバラエノンの精製組成物である。一実施形態では、該生成物は、トランス-バラエノンまたはトランス-バラエノンの精製組成物である。一実施形態では、該生成物は、シス-バラエノンまたはシス-バラエノンの精製組成物である。
【0086】
5.4 バラエノンの精製組成物
一態様では、本発明は、バラエノンの精製組成物を提供する。一実施形態では、本発明は、上で定義した工程によって得られる精製組成物を提供する。
【0087】
本明細書で使用される場合、バラエノンの組成物に関して「精製(された)」という用語は、組成物が少なくとも50%wt%超のバラエノンを含むことを意味する。本明細書に概説する方法を使用して、95、96、97、98、99の純度レベル、そして100%の純度レベルさえも達成可能である。純度は、HPLCによって測定することができる。
【0088】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のバラエノンを含む。
【0089】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも60wt%のバラエノンを含む。
【0090】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも70wt%のバラエノンを含む。
【0091】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも80wt%のバラエノンを含む。
【0092】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも80wt%のバラエノンを含む。
【0093】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも90wt%のバラエノンを含む。
【0094】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも95wt%のバラエノンを含む。
【0095】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも98wt%のバラエノンを含む。
【0096】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも99wt%のバラエノンを含む。
【0097】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のトランス-バラエノンを含む。一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のシス-バラエノンを含む。
【0098】
一実施形態では、精製組成物は、約2wt%未満のハルホルジンを含む。
【0099】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のバラエノンおよび2%wt%未満のハルホルジンを含む。
【0100】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のトランス-バラエノンおよび2%wt%未満のハルホルジンを含む。
【0101】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のシス-バラエノンおよび2%wt%未満のハルホルジンを含む。
【0102】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のバラエノンから本質的になる。一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のトランス-バラエノンから本質的になる。
【0103】
純粋なトランス-バラエノンは、光および酸素を避けて冷温で保存すると極めて安定であることが観察された。しかしながら、あまり純粋でない組成物は、室温で急速に分解して(2日間以内)メリコフィロンB(7b)を生じることが見出された。トランス-バラエノンをシリカゲル上で最終精製すると、それは酸素化芳香族化合物から分離され、その後ハルホルジン(8)と特定された。理論に束縛されるものではないが、分解は、M.ラティフォリアのメタノール抽出物にも存在するハルホルジン(8)の存在に起因すると考えられる。
【化10】
【0104】
トランス-バラエノンの7bへの転換は、一重項酸素の存在下で起こると思われる。ハルホルジン(8)は、分子状酸素をその反応性一重項状態[]にする光活性剤として知られる化合物(例えば、ソラレン)と構造的に関連している(Aboul-Eneinら 2003)。
【0105】
一重項酸素は、フラン部分(バラエノンに存在するものなど)と反応して、7b中のようなブテノリド部分を形成することが知られている(Montagnonら 2014)(スキーム1においてトランス-バラエノンに関して図示される)。
【化11】
【0106】
同じ工程がシス-バラエノンに関して起こるはずであると考えられる。
【0107】
8が存在しなければ、トランス-バラエノンは、光および酸素を避けて保存したときに、室温で本質的に安定であった。別の実験において、精製されたトランス-バラエノンをローズベンガル(Rose Bengal)(一重項酸素の別の公知の光発生剤)の存在下で大気中の酸素と光化学的に反応させると、他の酸化生成物に混じって7bが生成された。
【0108】
ハルホルジン(8)を抽出物から除去するとトランス-バラエノンの精製組成物が得られ、そのトランス-バラエノンは、光および酸素を避けて保存したときに室温で安定であった。同じ工程がシス-バラエノンに関して起こるはずであると考えられる。
【0109】
したがって、精製工程によって、天然に見出されるバラエノン、すなわちM.ラティフォリアの木の樹皮中のバラエノンとは著しく異なる特性を有するバラエノンまたはバラエノンの精製組成物が得られる。
【0110】
一実施形態では、バラエノンの精製組成物は、約2wt%未満のハルホルジンを含む。
【0111】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のバラエノンおよび2%wt%未満のハルホルジンを含む。
【0112】
一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のトランス-バラエノンおよび2%wt%未満のハルホルジンを含む。一実施形態では、精製組成物は、少なくとも約60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%のシス-バラエノンおよび2%wt%未満のハルホルジンを含む。
【0113】
一態様では、本発明は、バラエノンから本質的になる精製組成物を提供する。一態様では、本発明は、トランス-バラエノンから本質的になる精製組成物を提供する。一態様では、本発明は、シス-バラエノンから本質的になる精製組成物を提供する。
【0114】
一実施形態では、バラエノン、トランス-バラエノン、またはシス-バラエノンの精製組成物は、可溶化剤を含む。一実施形態では、可溶化剤は、シクロデキストリン、アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールから選択される。
【0115】
一態様では、本発明は、バラエノンと、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。一態様では、本発明は、トランス-バラエノンと、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。一態様では、本発明は、シス-バラエノンと、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0116】
「医薬組成物」という用語は、本明細書で使用される場合、動物対象に投与するのに適した形態、濃度、および純度の固体または液体組成物を意味する。
【0117】
バラエノンは、医薬として許容される賦形剤と混合することによって、医薬組成物に製剤化されてもよい。
【0118】
「医薬として許容される賦形剤」という用語は、本明細書で使用される場合、生理学的、薬理学的に不活性であり、活性剤の物理的および化学的特性と適合性がある物質を指す。医薬として許容される賦形剤として、担体、充填剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、可塑剤、粘性剤、液剤、界面活性剤、防腐剤、甘味剤および香味料、ならびに医薬品グレードの染料および顔料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
バラエノンの医薬組成物は、非経口投与用に、具体的には水性生理学的緩衝液中の液体溶液または懸濁液の形態で;経口投与用に、具体的には錠剤またはカプセル剤の形態で;鼻腔内投与用に、具体的には散剤、滴下剤、またはエアロゾルの形態で;および局所投与用に、具体的には乳剤または軟膏の形態で調製されてもよい。他の投与経路のための組成物は、当技術分野で公知の標準的な方法を使用して、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 第18版、Gennaro編(Mack Publishing Co.1990)に記載されるように調製されてもよい。
【0120】
一実施形態では、医薬組成物は、固体、液体、ペースト、ゲル、乳剤、クリーム、軟膏、ローション、塗布薬、溶剤、懸濁剤、スティック、ブロック、丸剤、舐剤、散剤、またはスラリーの形態であるか、またはそれらとして製剤化される。
【0121】
5.5 バラエノンの使用
実施例4に見られるように、純粋なバラエノンとバラエノンを含む精製組成物は、両方とも抗菌活性を実証する。
【0122】
したがって、一態様では、本発明は、細菌感染症の治療を必要とする対象において細菌感染症を治療する方法であって、該対象に治療的有効量のバラエノンまたはバラエノンの精製組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0123】
別の態様では、本発明は、細菌感染症を治療するための医薬品の製造におけるバラエノンの使用、および細菌感染症の治療に使用するためのバラエノンの組成物に関する。
【0124】
シス-バラエノンも活性であり得るが、バラエノンは、トランス-バラエノンとシス-バラエノンとの約60:1の混合物を含むので、バラエノンに帰する生理活性はおそらくトランス-バラエノンに由来すると思われる。したがって、一実施形態では、バラエノンはトランス-バラエノンである。
【0125】
一実施形態では、感染症は、グラム陽性菌感染症である。
【0126】
本発明の態様には、以下のものもあげられる。
態様1
式(X)の、単離された生理活性化合物
【化A】
態様2
式(Xa)の、単離された生理活性化合物
【化B】
態様3
式(Xb)の、単離された生理活性化合物
【化C】
態様4
(a)M.ラティフォリア(M.latifolia)の樹皮をメタノールで抽出するステップと;
(b)ろ過した抽出物を、メタノール中で予め平衡化したPSDVBカラムに通すステップと;
(c)溶出液を等容量の水と合わせ、それを同じPSDVBカラムに通すステップと;
(d)前記カラムを水で洗浄するステップと;
(e)吸着した抽出物の化合物を、i)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で溶出するステップと;
(f)画分Cおよび/またはDを収集して、態様1に記載の化合物の精製組成物を提供するステップと;
(g)任意選択により、画分Cおよび/またはDをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによってさらに精製して、態様1に記載の化合物を得るステップと;
を含む、態様1に記載の化合物または態様1に記載の化合物の精製組成物を得る方法。
態様5
(a)M.ラティフォリアの樹皮をメタノールで抽出するステップと;
(b)ろ過したメタノール抽出物を、メタノール中で予め平衡化したPSDVBカラムに通すステップと;
(c)溶出液を等容量の水と合わせ、それを同じPSDVBカラムに通すステップと;
(d)前記カラムを水で洗浄するステップと;
(e)吸着した抽出物の化合物を、i)水中20%アセトン(画分A)、ii)水中40%アセトン(画分B)、iii)水中60%アセトン(画分C)、iv)水中80%アセトン(画分D)、およびv)アセトン(画分E)で溶出するステップと;
(f)画分Cおよび/またはDを収集して、バラエノンの精製組成物を提供するステップと;
(g)任意選択により、石油エーテル中酢酸エチルの勾配(0~100%)を使用するシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって画分Cおよび/またはDをさらに精製して、バラエノンを得るステップと、
(h)バラエノンのジアステレオ異性体をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで分離して、態様2または態様3に記載の化合物を得るステップと;
を含む、態様2または態様3に記載の化合物を得るための方法。
態様6
態様1から3のいずれかに記載の化合物の精製組成物。
態様7
少なくとも60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99wt%の態様1から3のいずれかに記載の化合物を含む、態様6に記載の精製組成物。
態様8
少なくとも95wt%の態様1から3のいずれかに記載の化合物を含む、態様7に記載の精製組成物。
態様9
約2wt%未満のハルホルジンを含む、態様6~8のいずれかに記載の精製組成物。
態様10
態様1から3のいずれかに記載の化合物と、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
態様11
態様6から9のいずれかに記載の精製組成物と、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
態様13
細菌感染症の治療を必要とする対象において細菌感染症を治療する方法であって、前記対象に治療的有効量の態様1から3のいずれかに記載の化合物を投与することを含む、方法。
態様14
細菌感染症の治療を必要とする対象において細菌感染症を治療する方法であって、前記対象に治療的有効量の態様6から9のいずれかに記載の精製組成物を投与することを含む、方法。
態様15
前記細菌感染症がグラム陽性菌感染症である、態様13または態様14に記載の方法。
本明細書において、特許明細書、他の外部文書、または他の情報源が言及される場合、これは概して本発明の特徴を考察するための背景を提供することを目的としている。特に明示しない限り、そのような外部文書への言及は、そのような文書、またはそのような情報源が、いかなる法域であっても、先行技術であること、または当技術分野での技術常識の一部を形成することを承認するものと解釈されるべきではない。
【0127】
6.実施例
一般的実験法
光学回転は、Rudolph Research Analytical Autopol IV旋光計で測定した。UV/可視スペクトルは、Molecular Devices SpectraMax M3分光光度計で記録した。NMR実験値は、Bruker 500MHz分光計で、Hおよび13C核に対してそれぞれ500MHzおよび125MHzで操作して取得した。正確な質量は、溶媒送出用にAgilent 1260 HPLCシステムを備え、正イオンモードでのエレクトロスプレーイオン化源を利用する、Agilent 6530 Q-TOF質量分析計を使用して決定した。フラッシュクロマトグラフィーは、Buechi Reveleris X2分取クロマトグラフィーシステムで行った。
【0128】
溶媒は、分析グレード品質またはそれ以上のものであった。水は、使用前にガラス蒸留した。溶媒混合物は、別段の記載がない限り、%vol/volとして報告する。逆相クロマトグラフィーは、Supelco Diaion HP-20 ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)co-ポリマー(PSDVB)で行った。乾燥ローディング用にSilicycle SiliaFlash F60シリカゲル(40~63m)を使用した。フラッシュクロマトグラフィー用のプレフィルドシリカカートリッジは、Silicycleから得た。ステンレス鋼のセミ分取カラム(シリカ、250×10mm、10μm)は、Buechiから得た。TLCは、0.2μmシリカゲル(60 F254)プレコートプレートで、メタノール中5%v/v硫酸+エタノール中0.1%w/vバニリンを使用して実施し、その後加熱して視覚化した。
【0129】
実施例1:バラエノンの単離(植物材料100g規模)
M.ラティフォリアの新鮮凍結幹樹皮(100g)を小片に切断し(約2cm)、200mLのメタノール中に18時間浸漬した。メタノール(1回目の抽出物)をろ過し、樹皮材料をさらなる200mLのメタノール中に18時間浸漬した。このメタノール(2回目の抽出物)をろ過し、100mLのPSDVB(HP-20、Supelco)カラムに、流量を2mL/分に制限しながら重力で通した。
【0130】
次いで、1回目の抽出物を同じカラムに同様に通し、溶出液を合わせた。400mLのHOを溶出液に添加し、それを再びPSDVBカラムに同じ速度で通した。得られた溶出液(800mL)をさらなる800mLの水で希釈し、同じカラムに通した。次いで、カラムを300mLのアリコートの、水(廃棄する)、i)20%アセトン/水、ii)40%アセトン/水、iii)60%アセトン/水、iv)80%アセトン/水、およびv)アセトンで、流量をおよそ2mL/分に制限しながら溶出した。
【0131】
60%アセトン/水の画分を300mLの水で希釈し、50mLのPSDVBのベッド(HP-20)に通した。溶出液を600mlの水でさらに希釈し、同じPSDVBベッドに通し、溶出液を廃棄した。少量の圧縮空気でカラムから液体を排出し、150mLのアセトンで溶出した。得られた溶出液を蒸発乾固した。
【0132】
画分iii)(60%アセトン/水)は、主にバラエノンおよびハルホルジンであり、それと共に少量の関連するセスキテルペンを含んでいた。バラエノンは、シリカゲル上で精製した。すなわち、2gの60%アセトン画分を3mLの1:1ジクロロメタン中メタノールに溶解し、4gのシリカゲル上に蒸着させた。担持させたシリカゲルを乾燥ローディングカートリッジ中に入れ、40gのシリカカラムの上流に置いた。カラムを石油エーテルで溶出し、0~50%酢酸エチル/石油エーテルの勾配を15カラム容積にわたって適用した。少量の関連するセスキテルペノイドが最初に溶出し(0~5%酢酸エチル/石油エーテル)、その後純粋なバラエノンが(10~30%酢酸エチル/石油エーテル)、最後にハルホルジン(>30%酢酸エチル/石油エーテル)が溶出した。
【0133】
実施例2:バラエノンの単離(植物材料600g規模)
M.ラティフォリアの幹樹皮(600g、新鮮凍結)をメタノール(2×1.2L)で一晩抽出し、ろ過した。2回目および1回目の抽出物を、メタノール中で予め平衡化した500mLのPSDVBのベッドに通した。このステップからの溶出液を合わせたものを水で続けて希釈し(2×容積)、同じカラムに戻して通し、メタノール/水の最終溶液濃度が25%になるまで行った。このカラムを水で洗浄し(1.5L、ローディング溶出液と一緒に収集)、次いで、1.5Lの分量のi)20%アセトン/水、ii)40%アセトン/水、iii)60%アセトン/水、iv)80%アセトン/水、およびv)アセトンで溶出した。
【0134】
2gの分量の60%アセトン/水の濃縮画分(画分iii)を、シリカゲル(40g)フラッシュクロマトグラフィー[石油エーテル/酢酸エチル、0~60%を16カラム容積(CV)、60~100%を3CV、100%を2.9CV、メタノールを0.4CV]を使用して精製した。バラエノンは、ハルホルジン(35~40%石油エーテル/酢酸エチル)のそばに、20~25%石油エーテル/酢酸エチルで溶出した。
【0135】
実施例3:トランス-およびシス-バラエノンの単離
実施例1に記載する工程に従って得られたバラエノン濃厚化画分をプールし、3:1石油エーテル/ジエチルエーテルのイソクラティック混合物を使用して、シリカゲルのクロマトグラフィーにかけた(10×150mm、10μ、流量5mL/分)。トランス-バラエノン(式(X)の化合物)が12.4分で溶出し、一方、シス-バラエノン(式(X)の化合物)は15.2分で溶出した。
【0136】
シス-バラエノンは、無色の光学活性な固体として単離された([a]20 +575)。NMR実験データ(表2)によって解明された正確な質量決定および組成構造からの分子式は、トランス-バラエノンについて決定されたものと同一である。シス-バラエノンの絶対配置は決定されていないが、トランス-バラエノンのジアステレオマーであることから、H-1とH-10との間にシンの関係があるはずである。
【0137】
実施例4:トランス-バラエノンの構造解明
トランス-バラエノンは、光学活性な無色の油状物として提示される([α]20 +171)。7の不飽和度を必要とするC1518の分子式は、高分解能質量分析から得られた(m/z 231.1383[M+H]、計算値231.1380)。トランス-バラエノンの13C NMRスペクトルは、必要とされる15の共鳴をすべて含有している。13C、DEPT、およびHSQC NMR実験の解析から、15個の炭素がさらに3個のメチル(δ 23.2、10.7、9.2)、3個のメチレン(δ 42.0、26.6、34.3)、3個のメチン(∂ 137.8、48.4、42.1)、および6個の非プロトン化炭素(δ 209.2、164.8、156.6、135.9、120.4、118.7)に分類されることが確認された。提示された分子式によって必要とされる18個のすべての水素は炭素に結合しており、それによって交換可能なプロトンが存在しないことが示される。NMRデータは、表2に要約されている。
【0138】
COSYおよびHMBC実験から、3つの主要な部分構造が確立された。トランス-バラエノンの平面構造を確立するのに使用される相関を以下に示し、構造Iに示す付番を使用して詳述する。
【化12】
【0139】
第1の部分構造であるビニルフラグメントは、C-11(δ 120.4)、CH-12(δ 7.06、CH 200Hz;δ 137.8)、およびCH-13(δ 1.89;δ 9.8)からなり、H-13からC-11およびC-12へのHMBC相関によって承認された。第2の部分構造は、CH-14(∂ 1.73;∂ 10.7)からC-3(∂ 209.2) C-4(δ 135.9)、およびC-5(δ 164.8)へのHMBC相関によって証明されるように、2-メタクリロイルフラグメントとして確立された。第3の部分構造である1,2,5-三置換3-メチルペンチルユニットは、CH-2(∂ 2.26、2.67;∂ 42.0)、CH-1(δ 2.52;∂ 48.4)、CH-10(δ 1.58;δ 42.1)、CH-9(δ 1.60、1.86;δ 34.3)、およびCH-8(δ 2.73、2.81;∂ 26.6)からなっている。CH-15(δ 1.08;δ 23.2)の結合は、H-10とのCOSY相関、ならびにC-1、C-9、およびC-10へのHMBC相関によって確立された。
【0140】
トランス-バラエノンの相対配置は、スカラー結合定数およびNOE相関データの解析を通して決定した。H-1とH-9aとの間およびH-10とH-8aとの間のNOE相関は、両方とも7員環の周りに1,3-擬似アキシアル配向であることを示唆した。これらの相関によって、CH-15がH-1およびH-9bに対して疑似エクアトリアルに配置され、これは、H-1とH-10との間の9.7Hzのビシナル結合定数(これらの2つのプロトンのアンチの関係を示す)によってある程度裏付けられる。
【0141】
単離工程中に、部分的に精製されたトランス-バラエノンの試料は酸化されて別の種になった。この化合物の平面構造は、1988年に最初にWuらによって記載されたアワダンからのセスキテルペノイドであるメリコフィロンB(7b)と一致した。スペクトルの詳細は同一であることから、Wuらによって単結晶X線回折解析により確立された同じ相対配置であることが示される。本発明者らによって実験的に導出された7bの比旋光度([α]20 -199)は、文献に記載されるものと同じ符号を有する{[α]25 -38(c 0.854、CHCl)}。このことから、トランス-バラエノンおよび7bは、それらの保存された不斉中心で同じ絶対配置を共有するという結論を得た。
【0142】
トランス-バラエノンの絶対立体化学は、トランス-バラエノン誘導体のX線結晶解析によって決定した。トランス-バラエノン(式X)を、ディールズ・アルダー環化付加実験(エタノール中室温)でマレイミドと反応させた。4つの反応生成物が検出され、そのうち1つ(9)が結晶性固体として単離された(スキーム2)。この付加物のX線構造(図10)から、天然物(トランス-バラエノン)におけるH-1とH-10との間のアンチの関係が確認され、図示する通りの絶対配置(1R,10S)が決定される。
【化13】
【0143】
シス-バラエノンの相対立体化学は、トランス-バラエノンとの比較によって解明された。
【0144】
特性決定データ
トランス-バラエノン(X):無色油状物;[α]20 +171(c 0.5、CHCl);UV(MeOH)λmax/nm(logε)244(3.99)、280(3.80);NMR(CDCl、500MHz)表2参照;HRESIMS m/z 231.1383[M+H]、C1519についての計算値、231.1380。
【0145】
メリコフィロンB(7b):無色半結晶性固体;[α]20 -199(c 1、CHCl);以前にWuらによって記載された通りのNMRデータ。
【0146】
ハルホルジン(3):無色結晶性固体;HRESIMS m/z 277.0715[M+H](C1413O6についての計算値、277.0707)。
【0147】
シス-バラエノン(X):無色固体;[α]20 +575(c 1,CHCl);UV(MeOH)λmax/nm(logε)226(3.76)、256(3.76)、298(3.71);NMR(CDCl3、500MHz)表3参照;HRESIMS m/z 231.1379[M+H]+(C1519O2についての計算値、231.1385)。
【表2】
【表3】
【0148】
実施例5:バラエノンおよびM.ラティフォリア樹皮抽出物の抗菌活性
M.ラティフォリア樹皮の粗(1回目のメタノール)抽出物および実施例1に概説する精製工程を使用して得られた5つのクロマトグラフィー画分を、TLCバイオオートグラフィー試験に供して、抗菌活性を定性的に測定した。
【0149】
簡潔に述べると、試料をシリカゲルTLCプレート上に載せ、確立された溶媒系(石油エーテル中10%酢酸エチル)を使用してそれを展開して、それらの成分を極性に基づいて分離することによって、基準プレートを調製した。次いで、メタノール中5%v/v硫酸+エタノール中0.1%w/vバニリンを使用し、その後加熱することによって、展開したプレートを視覚化した。この方法を使用すると、バラエノンは明るいピンクから赤色のスポットとして識別された(図7参照)。
【0150】
次いでこのプレートの複数のコピーを調製し、同じ溶媒系を使用して展開したが、代わりに、次の微生物(以下参照)のうちの1つを接種/スパイクした寒天を注ぎ、インキュベートした後に還元染料で視覚化することによって視覚化する。阻害のゾーンを表示するこれらの試料中に存在する化合物は、抗菌活性を持っていると考えられる。
【0151】
検査したグラム陽性菌(3):
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、枯草菌
検査したグラム陰性菌(2):
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)
黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌に関する結果を図8および9に示す。どの抽出物も緑膿菌に対して活性でないことが見出された。
【0152】
これらの結果によって、阻害のゾーンが基準プレートにおけるバラエノンの明るいピンクのスポット特性とほぼ同じ保持係数で現れることから、バラエノンを含有することが既知の試料は、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌に対して抗菌活性を呈することが示される。いずれのグラム陰性菌に対しても活性は観察されなかった。
【0153】
バラエノンを含有しない試料(20%および40%アセトン/水の画分)は、選択された生物のいずれに対しても活性を示さなかった(図示せず)。
【産業上の利用可能性】
【0154】
7.産業上の利用可能性
本発明の化合物および組成物は、抗生物質としての用途を有する。当業者であれば、上の説明が実例として提供されるに過ぎず、本発明がそれらに限定されないことを理解するであろう。
【0155】
8.参考文献
【数1】
【数2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16