(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/12 20100101AFI20231219BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20231219BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20231219BHJP
H01L 21/205 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
H01L33/12
H01L33/32
H01S5/343 610
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2022082767
(22)【出願日】2022-05-20
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 勇介
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/021464(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021684(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/144046(WO,A1)
【文献】特開2004-055719(JP,A)
【文献】特開2020-021798(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026567(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0189841(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01S 5/00 - 5/50
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
c面が成長面である基板と、前記基板の前記成長面上に積層された窒化物半導体層と、を備え、中心波長が320nm超365nm以下の紫外光を発光する窒化物半導体発光素子であって、
前記窒化物半導体層は、
Al、Ga及びNを含有するn型半導体層と、
前記n型半導体層の前記基板と反対側に形成されるとともに、Al、Ga及びNを含有する1つの井戸層を有する、単一量子井戸構造の活性層と、
前記活性層の前記基板と反対側に形成されたp型半導体層と、を有し、
前記n型半導体層は、50%以下のAl組成比を有するとともに、2μm超の膜厚を有し、
前記n型半導体層のAl組成比から前記井戸層のAl組成比を減算した組成差は、2
8%以上
34%以下である、
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記基板は、サファイア基板であり、
前記窒化物半導体層は、前記基板と前記n型半導体層との間に形成されたAlNからなる層を有するバッファ層をさらに備え、
前記バッファ層の膜厚は、1μm以上4μm以下である、
請求項
1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記n型半導体層は、2.5nm以上の膜厚を有する、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板の上に窒化物半導体からなる複数の層を積層してなる窒化物半導体発光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化物半導体発光素子は、光出力の向上を図るべく、その発光波長毎に採用すべき構成を変えるべきである。しかしながら、これについては特許文献1に記載の窒化物半導体発光素子においては考慮されておらず、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、特定の範囲の発光波長において光出力を向上することができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するため、c面が成長面である基板と、前記基板の前記成長面上に積層された窒化物半導体層と、を備え、中心波長が320nm超365nm以下の紫外光を発光する窒化物半導体発光素子であって、前記窒化物半導体層は、Al、Ga及びNを含有するn型半導体層と、前記n型半導体層の前記基板と反対側に形成されるとともに、Al、Ga及びNを含有する1つの井戸層を有する、単一量子井戸構造の活性層と、前記活性層の前記基板と反対側に形成されたp型半導体層と、を有し、前記n型半導体層は、50%以下のAl組成比を有するとともに、2μm超の膜厚を有し、前記n型半導体層のAl組成比から前記井戸層のAl組成比を減算した組成差は、22%以上である、窒化物半導体発光素子を提供する。
【0007】
また、本発明は、前記の目的を達成するため、c面が成長面である基板と、前記基板の前記成長面上に積層された窒化物半導体層と、を備え、中心波長が300nm以上320nm以下の紫外光を発光する窒化物半導体発光素子であって、前記窒化物半導体層は、Al、Ga及びNを含有するn型半導体層と、前記n型半導体層の前記基板と反対側に形成されるとともに、Al、Ga及びNを含有する1つの井戸層を有する、単一量子井戸構造の活性層と、前記活性層の前記基板と反対側に形成されたp型半導体層と、を有し、前記活性層は、前記n型半導体層側から順に、Al及びNを含有する第1障壁層と、Al、Ga及びNを含有するとともに前記第1障壁層よりもAl組成比が小さい第2障壁層と、前記井戸層とを有する、窒化物半導体発光素子を提供する。
【0008】
また、本発明は、前記の目的を達成するため、c面が成長面である基板と、前記基板の前記成長面上に積層された窒化物半導体層と、を備え、中心波長が265nm以上300nm未満の紫外光を発光する窒化物半導体発光素子であって、前記窒化物半導体層は、Al、Ga及びNを含有するn型半導体層と、前記n型半導体層の前記基板と反対側に形成されるとともに、Al、Ga及びNを含有する複数の井戸層を有する、多重量子井戸構造の活性層と、前記活性層の前記基板と反対側に形成されたp型半導体層と、を有し、前記n型半導体層のAl組成比は、50%超70%以下である、窒化物半導体発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の範囲の発光波長において光出力を向上することができる窒化物半導体発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態における、窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す模式図である。
【
図2】第2の実施の形態における、窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す模式図である。
【
図3】第3の実施の形態における、窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す模式図である。
【
図4】実験例における、発光波長と光出力との関係を示すグラフである。
【
図5】実験例における、発光波長と半値全幅との関係を示すグラフである。
【
図6】実験例における、活性層が単一量子井戸構造である場合の、組成差q-sと光出力との関係を示すグラフである。
【
図7】実験例における、活性層が単一量子井戸構造である場合の、組成差q-sと半値全幅との関係を示すグラフである。
【
図8】実験例における、活性層が単一量子井戸構造である場合の、井戸層のAl組成比と光出力との関係を示すグラフである。
【
図9】実験例における、活性層が単一量子井戸構造である場合の、井戸層のAl組成比と半値全幅との関係を示すグラフである。
【
図10】実験例における、活性層が単一量子井戸構造である場合の、障壁層の数と光出力との関係を示すグラフである。
【
図11】実験例における、活性層が単一量子井戸構造である場合の、障壁層の数と半値全幅との関係を示すグラフである。
【
図12】実験例における、活性層が多重量子井戸構造である場合の、組成差q-sと光出力との関係を示すグラフである。
【
図13】実験例における、活性層が多重量子井戸構造である場合の、組成差q-sと半値全幅との関係を示すグラフである。
【
図14】実験例における、活性層が多重量子井戸構造である場合の、最上井戸層のAl組成比と光出力との関係を示すグラフである。
【
図15】実験例における、活性層が多重量子井戸構造である場合の、最上井戸層のAl組成比と半値全幅との関係を示すグラフである。
【
図16】実験例における、活性層が多重量子井戸構造である場合の、高い光出力を得るためのn型半導体層のAl組成比qとn型半導体層の膜厚d[nm]との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
(窒化物半導体発光素子1)
図1は、本形態における、窒化物半導体発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。なお、
図1において、窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)の各層の積層方向の寸法比は、必ずしも実際のものと一致するものではない。
【0013】
発光素子1は、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又は半導体レーザ(LD:Laser Diode)を構成するものである。本形態の発光素子1は、中心波長が320nm超365nm以下の紫外光を発する発光ダイオードを構成するものである。発光素子1は、基板2と、基板2の成長面21上に積層された窒化物半導体層3と、窒化物半導体層3に接続されたn側電極4及びp側電極5とを備える。以後、基板2及び窒化物半導体層3の積層方向を上下方向といい、基板2に対して窒化物半導体層3が積層された側(すなわち
図1の上側)を上側といい、その反対側(すなわち
図1の下側)を下側という。上下の表現は便宜的なものであり、例えば発光素子1の使用時における、鉛直方向に対する発光素子1の姿勢を限定するものではない。
【0014】
基板2は、後述の活性層33が発する紫外光を透過する材料からなる。本形態において、基板2は、サファイア(Al2O3)基板である。基板2における窒化物半導体層3が積層される面である成長面21は、c面である。このc面は、オフ角を有するものであってもよい。なお、基板2としては、例えば窒化アルミニウム(AlN)基板又は窒化アルミニウムガリウム基板等を用いてもよい。
【0015】
窒化物半導体層3の各層は、例えば、AlaGabIn1-a-bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0<a+b≦1)にて表される2~4元系のIII族窒化物半導体にて構成される。本形態において、窒化物半導体層3の各層は、AlcGa1-cN(0≦c≦1)にて表される2元系又は3元系のIII族窒化物半導体からなる。III族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等に置き換えてもよい。また、窒素の一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えてもよい。窒化物半導体層3の各層は、上下方向に厚みを有する。窒化物半導体層3は、基板2側から順に、バッファ層31、n型半導体層32、活性層33、電子ブロック層34、及びp型半導体層35を備える。
【0016】
バッファ層31は、窒化アルミニウムからなる層を有する。例えば、バッファ層31は、窒化アルミニウムの単層で形成されていてもよいし、窒化アルミニウムからなる層に加えて窒化アルミニウムガリウムからなる層を含んでいてもよい。バッファ層31の膜厚は、例えば1μm以上4μm以下である。バッファ層31の膜厚を1μm以上とすることで、バッファ層31と基板2との格子定数差に起因して生じる転位がバッファ層31の上端まで形成されることが抑制され、バッファ層31の上端部の格子定数を窒化アルミニウム本来の格子定数とすることができる。また、バッファ層31の膜厚を4μm以下とすることで、バッファ層31とバッファ層31に隣接する層との間の熱膨張係数の差に起因するクラックの発生を抑制できる。なお、基板2が窒化アルミニウム基板又は窒化アルミニウムガリウム基板である場合、バッファ層31は必ずしも設けなくてもよい。
【0017】
n型半導体層32は、例えば、n型不純物がドープされたAlqGa1-qN(0≦q≦1)により形成されたn型クラッド層である。n型半導体層32は、Al組成比q(AlNモル分率ともいう)が50%以下であり、かつ膜厚が2μmを超えている。これにより、n型半導体層32において格子緩和が生じる。本形態のように、発光素子1が発する紫外光の中心波長が320nm超365nm以下であって活性層33が後述するように単一量子井戸(SQW:Single Quantum Well)構造である場合は、n型半導体層32に格子緩和が生じることで発光素子1の光出力が向上する。この理由は、発光素子1が発する紫外光の中心波長が320nm超365nm以下であって活性層33が単一量子井戸構造である場合は、n型半導体層32に格子緩和が生じることで、n型半導体層32上に形成される活性層33の歪みが発光に適した歪みになるためであると推測される。なお、n型半導体層32に格子緩和が生じることで、n型半導体層32がコヒーレント成長してなる場合と比べて、n型半導体層32に生じる歪みが小さくなり、その上側に形成される活性層33に生じる歪みも小さくなる。
【0018】
n型半導体層32の膜厚は、2.5μm以上が好ましい。これにより、n型半導体層32が完全に格子緩和した状態に近づき、n型半導体層32上に形成される活性層33の結晶性が向上し、光出力が向上する。また、n型半導体層32の膜厚は、4μm以下が好ましい。これにより、n型半導体層32の成膜時間が無駄に長くなることが抑制され、発光素子1の生産性が向上する。
【0019】
本形態において、n型半導体層32は、単層のn型クラッド層からなる。なお、n型半導体層32は、複数層から構成されていてもよい。この場合、特に断らない限り、n型半導体層32のAl組成比といったものは、n型半導体層32の各層のAl組成比を意味し、n型半導体層32の膜厚といったものは、n型半導体層32の全体の膜厚、すなわちn型半導体層32の各層の合計の膜厚を意味する。
【0020】
本形態において、n型半導体層32にドーピングするn型不純物としては、シリコン(Si)を用いた。n型半導体層32以外の、n型不純物を含む半導体層においても同様である。なお、n型不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)又はテルル(Te)等を用いてもよい。n型半導体層32上に、活性層33が形成されている。
【0021】
活性層33は、1つの井戸層332を有する単一量子井戸構造となるよう形成されている。活性層33は、中心波長が320nm超365nm以下の紫外光を発することができるようバンドギャップが調整されている。活性層33は、n型半導体層32側から順に、障壁層331及び井戸層332を有する。
【0022】
障壁層331は、AlrGa1-rN(0<r≦1)により形成されている。障壁層331のAl組成比rは、n型半導体層32のAl組成比qよりも大きい(すなわちr>q)。障壁層331のAl組成比rは、例えば50%以上である。障壁層331の膜厚は、例えば5nm以上50nm以下である。
【0023】
井戸層332は、AlsGa1-sN(0<s<1)により形成されている。井戸層332のAl組成比sは、n型半導体層32のAl組成比qよりも小さい(すなわちs<q)。井戸層332のAl組成比sは、光出力向上の観点及び発光素子1の発光スペクトルの半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を狭くする観点から、10%以下が好ましく、6%未満がより好ましい。以後、発光素子1の発光スペクトルの半値全幅を単に「半値全幅」ということもある。
【0024】
n型半導体層32のAl組成比qから井戸層332のAl組成比sを減算した組成差q-sは、22%以上である。これにより、発光素子1の光出力が向上する。かかる観点から、組成差q-sは、28%以上がより好ましい。また、n型半導体層32のAl組成比が過度に高くなるとn型半導体層32の電気抵抗値が過度に高くなるところ、発光素子1の性能低下を抑えつつn型半導体層32の電気抵抗値を抑制する観点から、組成差q-sは34%以下とすることが好ましい。井戸層332の膜厚は、例えば1nm以上5nm以下である。井戸層332上に、電子ブロック層34が形成されている。
【0025】
電子ブロック層34は、活性層33からp型半導体層35側へ電子がリークするオーバーフロー現象の発生を抑制すること(以後、電子ブロック効果ともいう)によって活性層33への電子注入効率を向上させる役割を有する。電子ブロック層34は、下側から順に、第1層341と第2層342とを積層した積層構造を有する。
【0026】
第1層341は、活性層33上に設けられている。第1層341は、例えばAltGa1-tN(0<t≦1)からなる。第1層341のAl組成比tは、例えば90%以上である。第1層341の膜厚は、例えば0.5nm以上5.0nm以下である。
【0027】
第2層342は、例えばAluGa1-uN(0<u<1)からなる。第2層342のAl組成比uは、第1層341のAl組成比tよりも小さく、例えば70%以上90%以下である。第2層342の膜厚は、第1層341の膜厚よりも大きく、例えば15nm以上100nm以下である。
【0028】
Al組成比が大きい半導体層ほど電気抵抗値が大きくなるため、Al組成比が比較的高い第1層341の膜厚を大きくし過ぎると発光素子1の全体の電気抵抗値の過度な上昇を招く。そのため、第1層341の膜厚はある程度小さくすることが好ましい。一方、第1層341の膜厚を小さくすると、トンネル効果によって電子が第1層341を下側から上側にすり抜ける確率が増大し得る。そこで、本形態の発光素子1においては、第1層341上に第2層342を形成することで、電子ブロック層34の全体を電子がすり抜けることを抑制している。
【0029】
第1層341及び第2層342のそれぞれは、アンドープの層、n型不純物を含有する層、p型不純物を含有する層、又はn型不純物及びp型不純物の双方を含有する層とすることができる。p型不純物としては、マグネシウム(Mg)を用いることができるが、マグネシウム以外にも、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又は炭素(C)等を用いてもよい。他のp型不純物を含む半導体層においても同様である。各電子ブロック層34が不純物を含有する場合において、各電子ブロック層34が含有する不純物は、各電子ブロック層34の全体に含まれていてもよいし、各電子ブロック層34の一部に含まれていてもよい。電子ブロック層34上に、p型半導体層35が形成されている。
【0030】
本形態において、p型半導体層35は、p型コンタクト層からなる。p型コンタクト層は、後述するp側電極5が接続された層であり、p型不純物が高濃度にドープされたAlvGa1-vN(0≦v≦1)により形成されている。p型コンタクト層としてのp型半導体層35は、p側電極5とのオーミックコンタクトを実現すべくAl組成比が低くなるよう構成されており、かかる観点からp型の窒化ガリウム(GaN)により形成することが好ましい。
【0031】
n側電極4は、n型半導体層32の上面に形成されている。n側電極4は、例えば、n型半導体層32の上にチタン(Ti)、アルミニウム、チタン、金(Au)が順に積層された多層膜とすることができる。また、後述するように発光素子1がフリップチップ実装される場合、n側電極4は、活性層33が発する紫外光を反射可能な材料にて構成されていてもよい。
【0032】
p側電極5は、p型半導体層35の上面に形成されている。p側電極5は、例えば、p型半導体層35の上にニッケル(Ni)、金が順に積層された多層膜とすることができる。また、後述するように発光素子1がフリップチップ実装される場合、p側電極5は、活性層33が発する紫外光を反射可能な材料にて構成されていてもよい。
【0033】
発光素子1は、図示しないパッケージ基板にフリップチップ実装されて使用され得る。すなわち、発光素子1は、上下方向におけるn側電極4及びp側電極5が設けられた側をパッケージ基板側に向け、n側電極4及びp側電極5のそれぞれが、金バンプ等を介してパッケージ基板に実装される。フリップチップ実装された発光素子1は、基板2側(すなわち下側)から光が取り出される。なお、これに限られず、発光素子は、ワイヤボンディング等によりパッケージ基板に実装されてもよい。また、本形態において、発光素子1は、n側電極4及びp側電極5の双方が窒化物半導体層3における上側に設けられた、いわゆる横型の発光素子としたが、これに限られず、縦型の発光素子であってもよい。縦型の発光素子は、n側電極とp側電極とによって窒化物半導体層がサンドイッチされた発光素子である。なお、発光素子を縦型とする場合、基板及びバッファ層は、レーザーリフトオフ等により除去することが好ましい。
【0034】
(窒化物半導体発光素子1の製造方法)
次に、発光素子1の製造方法の一例について説明する。
本形態においては、有機金属化学気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により、円板状の基板2上に、窒化物半導体層3の各層を順にエピタキシャル成長させる。すなわち、本形態においては、チャンバ内に円板状の基板2を設置し、基板2上に形成される各層の原料ガスをチャンバ内に導入することによって基板2上に窒化物半導体層3が形成される。各層をエピタキシャル成長させるための原料ガスとしては、アルミニウム源としてトリメチルアルミニウム(TMA)、ガリウム源としてトリメチルガリウム(TMG)、窒素源としてアンモニア(NH3)、シリコン源としてテトラメチルシラン(TMSi)、マグネシウム源としてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いることができる。各層をエピタキシャル成長させるための成長温度、成長圧力、及び成長時間等の製造条件については、各層の構成に応じた一般的な条件とすることができる。
【0035】
なお、MOCVD法は、有機金属化学気相エピタキシ法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)と呼ばれることもある。また、基板2上に窒化物半導体層3の各層をエピタキシャル成長させるに際しては、分子線エピタキシ法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)、ハイドライド気相エピタキシ法(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)等の他のエピタキシャル成長法を用いることも可能である。
【0036】
円板状の基板2上に窒化物半導体層3を形成した後、p型半導体層35上の一部、すなわちn型半導体層32の露出面321になる部分以外の部位にマスクを形成する。そして、マスクを形成していない領域を、p型半導体層35の上面から上下方向のn型半導体層32の途中までエッチングにより除去する。これにより、n型半導体層32に、上側に向かって露出する露出面321が形成される。露出面321形成後、マスクを除去する。
【0037】
次いで、n型半導体層32の露出面321上にn側電極4を形成し、p型半導体層35上にp側電極5を形成する。n側電極4及びp側電極5は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成してよい。以上により完成したものを、所望の寸法に切り分けることにより、1つのウエハから
図1に示すような発光素子1が複数製造される。
【0038】
[第2の実施の形態]
図2は、本形態における、発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。
【0039】
本形態は、第1の実施の形態に対し、発光波長の中心波長を300nm以上320nm以下にするとともに、n型半導体層32及び活性層33の構成を変更した形態である。
【0040】
本形態のn型半導体層32は、格子緩和が生じていてもよいし、コヒーレント成長されていてもよい。n型半導体層32のAl組成比qは、特に限定されないが、一例として、Al組成比qは、30%以上70%以下とすることができる。n型半導体層32の膜厚は、1μm以上4μm以下が好ましい。n型半導体層32の膜厚を1μm以上とすることで、n型半導体層32の断面積が小さくなることに起因して発光素子1の全体の電気抵抗値が増大することを抑制できる。n型半導体層32の膜厚を4μm以下とすることで、n型半導体層32の成膜時間が無駄に長くなることが抑制され、発光素子1の生産性が向上する。
【0041】
活性層33は、第1の実施の形態と同様、単一量子井戸構造である。活性層33は、中心波長が300nm以上320nm以下の紫外光を発することができるようバンドギャップが調整されている。活性層33は、n型半導体層32側から順に、第1障壁層331aと、第2障壁層331bと、井戸層332とを備える。
【0042】
第1障壁層331aは、Alr1Ga1-r1N(0<r1≦1)により形成されており、第2障壁層331bは、Alr2Ga1-r2N(0<r2<1)により形成されている。第1障壁層331aのAl組成比r1は、第2障壁層331bのAl組成比r2よりも大きい(すなわちr1>r2)。第1障壁層331aのAl組成比r1は、例えば80%以上であり、第2障壁層331bのAl組成比r2は、井戸層332のAl組成比sよりも大きく、例えば65%以上95%以下である。第1障壁層331aの膜厚は、第2障壁層331bの膜厚よりも小さい。第1障壁層331aは、Al組成比r1が高い層であり、その膜厚を大きくし過ぎると発光素子1の全体の電気抵抗値が上昇するため、第1障壁層331aの膜厚は、第2障壁層331bの膜厚よりも小さいことが好ましい。第1障壁層331aの膜厚は、例えば1nm以上5nm以下であり、第2障壁層331bの膜厚は、例えば5nm以上20nm以下である。
【0043】
井戸層332のAl組成比sは、光出力向上の観点から、15%以上26%以下が好ましく、22%以下をさらに満たすことがより好ましい。また、発光素子1の発光スペクトルの半値全幅を狭くする観点からは、井戸層332のAl組成比sは、18%以上が好ましい。
【0044】
n型半導体層32のAl組成比qから井戸層332のAl組成比sを減算した組成差q-sは、光出力向上の観点から、28%以上41%以下が好ましい。また、発光素子1の発光スペクトルの半値全幅を狭くする観点からは、n型半導体層32が50%超のAl組成比及び2μm以下の膜厚の少なくとも一方を満たし(すなわちn型半導体層32がコヒーレント成長により形成され)、かつ組成差q-sが30%以上40%以下を満たすことが好ましい。
【0045】
その他は、第1の実施の形態と同様である。
なお、第2の実施の形態以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0046】
[第3の実施の形態]
図3は、本形態における、発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。
【0047】
本形態は、第1の実施の形態に対し、発光波長の中心波長を265nm以上300nm未満とし、n型半導体層32をコヒーレント成長にて形成し、活性層33を多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構造にした形態である。
【0048】
本形態のように、発光素子1が発する紫外光の中心波長が265nm以上300nm未満であって活性層33が複数の井戸層332a~332cを有する多重量子井戸構造である場合は、n型半導体層32をコヒーレント成長にて形成することで発光素子1の光出力が向上する。この理由は、発光素子1が発する紫外光の中心波長が265nm以上300nm未満であって活性層33が多重量子井戸構造である場合は、n型半導体層32をコヒーレント成長にて形成することで、n型半導体層32の歪が多重量子井戸構造の活性層33にて緩和され、最上段に位置する井戸層332cに生じる歪みが発光に適した歪みになるためであると推測される。なお、活性層33が多重量子井戸構造である場合は、活性層33を構成する複数の井戸層332a~332cのうち、最もp型半導体層35側に位置する井戸層332c(すなわち後述の最上井戸層332c)が最も強く発光する傾向がある。また、発光素子1が発する紫外光の中心波長が265nm以上300nm未満と短波長である場合は、基板2のc軸方向以外の方向(例えばa軸方向、m軸方向等)の光が強くなり、基板2から下側に紫外光が取り出し難くなる傾向があるが、本形態においては、基板2の下側からの光出力を向上させることができる。
【0049】
本形態において、n型半導体層32は、Al組成比が50%超を満たすことで、コヒーレント成長にて形成される。また、n型半導体層32のAl組成比は、70%以下をさらに満たす。n型半導体層32の膜厚は、1μm以上4μm以下が好ましい。n型半導体層32の膜厚を1μm以上とすることで、n型半導体層32の断面積が小さくなることに起因して発光素子1の全体の電気抵抗値が増大することを抑制できる。n型半導体層32の膜厚を4μm以下とすることで、n型半導体層32の成膜時間が無駄に長くなることが抑制され、発光素子1の生産性が向上する。
【0050】
n型半導体層32のAl組成比qと、n型半導体層32の膜厚d[μm]とは、4.1q-0.6≦d≦4.1qの関係を満たすことが好ましい。n型半導体層32は、Al組成比が高くなる程、キャリア濃度が低下して電気抵抗値が上昇するため、n型半導体層32のAl組成比の増加に応じて膜厚dを大きくすることで、n型半導体層32の電気抵抗値の上昇を抑制できる。
【0051】
活性層33は、複数の井戸層332a~332cを有する多重量子井戸構造となるよう形成されている。活性層33は、中心波長が265nm以上300nm未満の紫外光を発することができるようバンドギャップが調整されている。本形態においては、活性層33が、障壁層331と井戸層332a~332cとをそれぞれ3つずつ備える例を説明する。なお、活性層33における井戸層332a~332cの数は、光出力向上の観点からは3つ以下が好ましい。
【0052】
障壁層331と井戸層332a~332cとは、交互に積層されている。活性層33の下端に障壁層331が形成されており、活性層33の上端に井戸層332cが形成されている。各障壁層331の構成は、第1の実施の形態と同様とすることができる。
【0053】
3つの井戸層332a~332cのうち、最も下側に配された井戸層を最下井戸層332aとし、最も上側に配された井戸層を最上井戸層332cとし、最下井戸層332aと最上井戸層332cとの間に配された井戸層を中間井戸層332bとする。本形態において、3つの井戸層332a~332cは、最下井戸層332aと、最下井戸層332a以外の井戸層(すなわち中間井戸層332b及び最上井戸層332c)とで構成が異なっている。最下井戸層332aの膜厚は、中間井戸層332b及び最上井戸層332cのそれぞれの膜厚よりも大きい。これにより、最下井戸層332aが平坦化し、最下井戸層332a上に形成される活性層33の各層の平坦性も向上する結果、出力光の単色性を向上させることができる。例えば、最下井戸層332aの膜厚は、4nm以上6nm以下、中間井戸層332b及び最上井戸層332cのそれぞれの膜厚は、2nm以上4nm以下とすることができる。3つの井戸層332a~332cのそれぞれのAl組成比は、例えば25%以上45%以下とすることができる。3つの井戸層332a~332cのそれぞれのAl組成比は、光出力向上の観点及び半値全幅を狭くする観点からは、28%以上36%以下が好ましい。また、最下井戸層332aのAl組成比を、中間井戸層332b及び最上井戸層332cのそれぞれのAl組成比よりも大きくしてもよい。これにより、n型半導体層32と最下井戸層332aとの間のAl組成比の差が比較的小さくなり、活性層33の各層の結晶性が向上する。
【0054】
n型半導体層32のAl組成比qから最上井戸層332cのAl組成比sを減算した組成差q-sは、光出力向上の観点から、15%以上31%以下が好ましく、20%以上30%未満がより好ましい。また、発光素子1の半値全幅を狭くする観点からは、組成差q-sは、22%以下が好ましい。
その他は、第1の実施の形態と同様である。
【0055】
[実験例]
本実験例は、発光波長、活性層の構成、n型半導体層の成長モード等が種々異なる多数の発光素子を用意し、それぞれの発光素子について光出力及び半値全幅を測定した例である。
【0056】
本実験例においては、試料1~131に係る発光素子を準備した。まず、試料1~131の大まかな構成を表1に示す。
【0057】
【0058】
表1において、表記「SQW」は単一量子井戸構造を意味し、表記「MQW」は多重量子井戸構造を意味する。また、n型半導体層の成長モードの欄は、n型半導体層に格子緩和が生じているか、又はn型半導体層がコヒーレント成長しているかを表している。n型半導体層のAl組成比が50%以上、かつn型半導体層の膜厚が2μm超の条件を満たしている場合、n型半導体層の成長モードは格子緩和であると判断し、当該条件を満たさない場合、n型半導体層の成長モードはコヒーレント成長であると判断した。本条件を満たすことでn型半導体層に格子緩和が生じ、前述の条件から外れることでn型半導体層がコヒーレント成長することを確認済みである。
【0059】
そして、試料1~17、試料18~39、試料40~53、試料54、試料55~72、試料73~129、試料130及び試料131のそれぞれの詳細構成を表2~表9に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
表2~表9に記載の各層の膜厚は、透過型電子顕微鏡によって測定したものである。また、表2~表9に記載の各層のAl組成比は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したAlの2次イオン強度から推定した値である。
【0069】
本実験例においては、試料1~131のそれぞれの光出力及び半値全幅を測定した。各試料の光出力は、オンウエハの状態の各試料に20mAの電流を流したときの各試料の光出力である。各試料の光出力は、試料1~131のそれぞれの下側(すなわち基板側)に設置した光検出器によって測定した。
【0070】
各試料における主要部の具体的な構成と、発光波長、光出力及び半値全幅との関係を表10~18に示す。また、各試料の発光波長と光出力との関係を
図4に示し、各試料の発光波長と半値全幅(FWHM)を
図5に示す。
図4及び
図5においては、活性層が単一量子井戸構造であり、n型半導体層の成長モードが格子緩和である試料の測定結果を黒塗りの正方形のプロットで示しており、活性層が単一量子井戸構造であり、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長である試料の測定結果を白抜きの正方形のプロットで示しており、活性層が多重量子井戸構造であり、n型半導体層の成長モードが格子緩和である試料の測定結果を黒塗りの菱形のプロットで示しており、活性層が多重量子井戸構造であり、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長である試料の測定結果を白抜きの菱形のプロットで示している。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
(第1の実施の形態の効果について)
実験例の結果から、第1の実施の形態の効果について検討する。
第1の実施の形態は、中心波長が320nm超365nm以下の紫外光を発し、n型半導体層の成長モードが格子緩和であり、活性層が単一量子井戸構造であり、n型半導体層のAl組成比から井戸層のAl組成比を減算した組成差q-sが22%以上を満たす発光素子である。
【0081】
図4及び
図5においては、黒塗り正方形のプロットに係る試料のうち、発光波長が320nm超365nm以下であり、かつ、n型半導体層のAl組成比qから井戸層のAl組成比sを減算した組成差q-sが22%以上を満たす試料が第1の実施の形態の構成を満たす発光素子である。
図4及び
図5から分かるように、黒塗り正方形のプロットに係る試料であって、発光波長が320nm超365nm以下のもの(すなわち第1の実施の形態の一部の構成を満たす試料)は、高い光出力及び狭い半値全幅が得られている。
【0082】
次に、
図4又は
図5の結果について別の見方をした
図6乃至
図9を参照する。
図6は、活性層が単一量子井戸構造である試料について、n型半導体層と井戸層との組成差q-sと光出力との関係を示した図である。
図7は、活性層が単一量子井戸構造である試料について、n型半導体層と井戸層との組成差q-sと半値全幅との関係を示した図である。
図8は、活性層が単一量子井戸構造である試料について、井戸層のAl組成比と光出力との関係を示した図である。
図9は、活性層が単一量子井戸構造である試料について、井戸層のAl組成比と半値全幅との関係を示した図である。
図6乃至
図9においては、n型半導体層の成長モードが格子緩和であり、発光波長が300nm未満の試料の結果をバツ記号にてプロットしており、n型半導体層の成長モードが格子緩和であり、発光波長が300nm以上320nm以下の試料の結果を白抜きの丸記号にてプロットしており、n型半導体層の成長モードが格子緩和であり、発光波長が320nm超365nm以下の試料の結果を黒塗りの丸記号にてプロットしている。また、
図6乃至
図9においては、n型半導体層の成長モードがコヒーレントであり、発光波長が300nm未満の試料の結果を十字記号にてプロットしており、n型半導体層の成長モードがコヒーレントであり、発光波長が300nm以上320nm以下の試料の結果を白抜きの三角形にてプロットしており、n型半導体層の成長モードがコヒーレントであり、発光波長が320nm超365nm以下の試料の結果を黒塗りの三角形にてプロットしている。
【0083】
図6及び
図7においては、黒塗り丸記号のプロットに係る試料のうち、組成差q-sが22%以上を満たす試料が第1の実施の形態の構成を満たす発光素子である。
【0084】
図6から、黒塗りの丸記号のプロットに係る試料は、組成差q-sが22%以上のときに特に高い光出力が得られていることが分かる。そのため、第1の実施の形態の構成を満たすことで、高い光出力が得られることが分かる。また、その中でも、組成差q-sが28%以上のときに特に高い光出力が得られていることが分かる。
【0085】
また、
図8及び
図9から、黒塗り丸記号のプロットに係る試料は、井戸層の組成比を10%以下とすることで光出力が向上するとともに半値全幅が狭くなることが分かる。かかる観点から、黒塗り丸記号のプロットに係る試料は、井戸層の組成比を6%未満にすることが好ましいことが分かる。
【0086】
(第2の実施の形態の効果について)
次に、第2の実施の形態の効果について検討する。
第2の実施の形態は、中心波長が300nm以上320nm以下の紫外光を発し、活性層が単一量子井戸構造であるとともに第1障壁層及び第2障壁層を備える発光素子である。
【0087】
図4及び
図5においては、黒塗り正方形及び白抜き正方形のプロットに係る試料のうち、発光波長が300nm以上320nm以下であり、かつ、活性層が第1障壁層及び第2障壁層を備える試料が、第2の実施の形態の構成を満たす発光素子である。
図4及び
図5から分かるように、黒塗り正方形及び白抜き正方形のプロットに係る試料であって、発光波長が300nm以上320nm以下のもの(すなわち第2の実施の形態の一部の構成を満たす試料)は、高い光出力及び狭い半値全幅が得られている。つまり、活性層が単一量子井戸構造の場合は、n型半導体層の成長モードが格子緩和であるかコヒーレント成長であるかに関わらず、発光波長が300nm以上320nm以下のときに、高い光出力及び狭い半値全幅が得られている。
【0088】
図10及び
図11は、表4に記載した試料44~53のうちの2つの試料と、
図5に記載した試料54との合計3つの試料につき、光出力及び半値全幅のそれぞれを比較した図である。これら3つの試料は、障壁層の数を除いて互いに同等の構成を有する。これら3つの試料は、発光波長が300nm以上320nm以下であり、n型半導体層がコヒーレント成長にて形成されている。これら3つの試料のうち、障壁層の数が2つのものが、第2の実施の形態の構成を満たす試料である。
図10及び
図11から分かるように、障壁層の数を2つとした試料は、障壁層の数を1つとした試料に比べ、光出力が向上するとともに半値全幅が狭くなっていることが分かる。そのため、第2の実施の形態の構成を満たすことで、一層高い光出力及び一層狭い半値全幅が得られることが分かる。
【0089】
また、
図6乃至
図9においては、白抜き丸記号及び白抜き三角形のプロットに係る試料のうち、活性層が第1障壁層及び第2障壁層を含む試料が、第2の実施の形態の構成を満たす発光素子である。
【0090】
図6から、白抜き丸記号及び白抜き三角形のプロットに係る試料は、組成差q-sが28%以上41%以下のときに特に高い光出力が得られていることが分かる。また、
図7から、白抜き丸記号及び白抜き三角形のプロットに係る試料のうち、特に白抜き三角形のプロットに係る試料は、組成差q-sが30%以上40%以下のときに狭い半値全幅が得られていることが分かる。
【0091】
また、
図8から、白抜き丸記号及び白抜き三角形のプロットに係る試料は、井戸層のAl組成比を15%以上26%以下とすることで、光出力が向上することが分かる。また、
図9から、白抜き丸記号及び白抜き三角形のプロットに係る試料は、井戸層のAl組成比を18%以上とすることで、半値全幅が狭くなることが分かる。
【0092】
(第3の実施の形態の効果について)
次に、第3の実施の形態の効果について検討する。
第3の実施の形態は、中心波長が265nm以上300nm未満の紫外光を発し、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長であり、活性層が多重量子井戸構造である発光素子である。
【0093】
図4及び
図5においては、白抜き菱形のプロットに係る試料のうち、発光波長が265nm以上300nm未満である試料が第3の実施の形態の構成を満たす発光素子である。
図4及び
図5から分かるように、白抜き菱形のプロットに係る試料であって、発光波長が265nm以上300nm未満のもの(すなわち第3の実施の形態の構成を満たす試料)は、高い光出力及び狭い半値全幅が得られる傾向にある。その中でも、発光波長が285nm以上の試料は、光出力が特に高い傾向にある。
【0094】
次に、
図4又は
図5の結果について別の見方をした
図12乃至
図15を参照する。
図12は、活性層が多重量子井戸構造である試料について、n型半導体層と最上井戸層との組成差q-sと光出力との関係を示した図である。
図13は、活性層が多重量子井戸構造である試料について、n型半導体層と最上井戸層との組成差q-sと半値全幅との関係を示した図である。
図14は、活性層が多重量子井戸構造である試料について、最上井戸層のAl組成比と光出力との関係を示した図である。
図15は、活性層が多重量子井戸構造である試料について、最上井戸層のAl組成比と半値全幅との関係を示した図である。
図12乃至
図15においては、活性層が3つの井戸層を有し(すなわち3QW)、n型半導体層の成長モードが格子緩和であり、発光波長が265nm以上300nm未満の試料の結果を白抜きの丸記号にてプロットしており、活性層が3つの井戸層を有し、n型半導体層の成長モードが格子緩和であり、発光波長が300nm以上365nm以下の試料の結果を黒塗りの丸記号にてプロットしている。また、
図12乃至
図15においては、活性層が3つの井戸層を有し、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長であり、発光波長が265nm未満の試料の結果を十字記号にてプロットしており、活性層が3つの井戸層を有し、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長であり、発光波長が265nm以上300nm未満の試料の結果を白抜きの三角形にてプロットしており、活性層が3つの井戸層を有し、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長であり、発光波長が300nm以上365nm以下の試料の結果を黒塗りの三角形にてプロットしている。また、
図12乃至
図15においては、活性層が4つの井戸層を有し(すなわち4QW)、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長であり、発光波長が265nm以上300nm未満の試料の結果を白抜きの正方形にてプロットしており、活性層が2つの井戸層を有し(すなわち2QW)、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長であり、発光波長が265nm以上300nm未満の試料の結果を黒塗りの正方形にてプロットしている。
【0095】
図12乃至
図15においては、白抜き三角形、白抜き正方形及び黒塗り正方形のプロットに係る試料が第3の実施の形態の構成を満たす発光素子である。
【0096】
図12から、白抜き三角形、白抜き正方形及び黒塗り正方形のプロットに係る試料は、光出力向上の観点からは、組成差q-sが15%以上31%以下を満たすことが好ましく、20%以上30%未満を満たすことがさらに好ましいことが分かる。また、
図13から、白抜き三角形、白抜き正方形及び黒塗り正方形のプロットに係る試料は、半値全幅を狭くする観点からは、組成差q-sが22%以下を満たすことが好ましいことが分かる。
【0097】
また、
図14及び
図15から、白抜き三角形、白抜き正方形及び黒塗り正方形のプロットに係る試料は、最上井戸層のAl組成比を28%以上36%以下とすることで、光出力が向上するとともに半値全幅が狭くなることが分かる。
【0098】
また、
図12及び
図14に示す例では、井戸層を4つ有する活性層を備える発光素子の光出力が比較的低いことが分かる。そのため、第3の実施の形態の構成は、井戸層が2つ又は3つであることが好ましい。
【0099】
図16は、
図12乃至
図15の白抜き三角形のプロット及び黒塗り正方形のプロットに係る試料につき、n型半導体層のAl組成比qとn型半導体層の膜厚d[μm]との関係を示した図である。これら試料は、すべて光出力が高いものであり、
図15は、光出力を高くするためのn型半導体層のAl組成比qとn型半導体層の膜厚dとの関係を示すものである。これら試料は、n型半導体層のAl組成比qが、55%、65%及び75%の3種類である。そして、
図16のグラフにおける縦軸は、各Al組成比を有する試料におけるn型半導体層の膜厚の平均値を示している。そして、
図16においては、3つのプロットの近似直線を併せて表示している。本近似直線は、d=4.1q-0.3で表される直線である。つまり、発光波長が265nm以上300nm未満であって、活性層が多重量子井戸構造であって、n型半導体層の成長モードがコヒーレント成長である発光素子は、n型半導体層のAl組成比qとn型半導体層の膜厚dとが、d=4.1q-0.3の関係又はこれに近い関係を満たすことが好ましい。例えば、d=4.1q-0.3のプラスマイナス0.3の範囲である4.1q-0.6≦d≦4.1qを満たすことが好ましい。
【0100】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0101】
[1]本発明の第1の実施態様は、c面が成長面(21)である基板(2)と、前記基板(2)の前記成長面(21)上に積層された窒化物半導体層(3)と、を備え、中心波長が320nm超365nm以下の紫外光を発光する窒化物半導体発光素子(1)であって、前記窒化物半導体層(3)は、Al、Ga及びNを含有するn型半導体層(32)と、前記n型半導体層(32)の前記基板(2)と反対側に形成されるとともに、Al、Ga及びNを含有する1つの井戸層(332)を有する、単一量子井戸構造の活性層(33)と、前記活性層(33)の前記基板(2)と反対側に形成されたp型半導体層(35)と、を有し、前記n型半導体層(32)は、50%以下のAl組成比を有するとともに、2μm超の膜厚を有し、前記n型半導体層(32)のAl組成比から前記井戸層(332)のAl組成比を減算した組成差は、22%以上である、窒化物半導体発光素子(1)である。
これにより、特定の範囲の発光波長において光出力を向上することができる窒化物半導体発光素子(1)を提供することが可能となる。
【0102】
[2]本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記組成差が、28%以上34%以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の光出力が向上するとともに生産性が向上する。
【0103】
[3]本発明の第3の実施態様は、第1又は第2の実施態様において、前記基板(2)が、サファイア基板であり、前記窒化物半導体層(3)が、前記基板(2)と前記n型半導体層(32)との間に形成されたAlNからなる層を有するバッファ層(31)をさらに備え、前記バッファ層(31)の膜厚が、1μm以上4μm以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の光出力が一層向上する。
【0104】
[4]本発明の第4の実施態様は、c面が成長面(21)である基板(2)と、前記基板(2)の前記成長面(21)上に積層された窒化物半導体層(3)と、を備え、中心波長が300nm以上320nm以下の紫外光を発光する窒化物半導体発光素子(1)であって、前記窒化物半導体層(3)は、Al、Ga及びNを含有するn型半導体層(32)と、前記n型半導体層(32)の前記基板(2)と反対側に形成されるとともに、Al、Ga及びNを含有する1つの井戸層(332)を有する、単一量子井戸構造の活性層(33)と、前記活性層(33)の前記基板(2)と反対側に形成されたp型半導体層(35)と、を有し、前記活性層(33)は、前記n型半導体層(32)側から順に、Al及びNを含有する第1障壁層(331a)と、Al、Ga及びNを含有するとともに前記第1障壁層(331a)よりもAl組成比が小さい第2障壁層(331b)と、前記井戸層(332)とを有する、窒化物半導体発光素子(1)である。
これにより、特定の範囲の発光波長において光出力を向上することができる窒化物半導体発光素子(1)を提供することが可能となる。
【0105】
[5]本発明の第5の実施態様は、第4の実施態様において、前記n型半導体層(32)のAl組成比から前記井戸層(332)のAl組成比を減算した組成差が、28%以上41%以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の光出力が一層向上する。
【0106】
[6]本発明の第6の実施態様は、第5の実施態様において、前記n型半導体層(32)が、50%超のAl組成比及び2μm以下の膜厚の少なくとも一方を満たし、前記組成差が、30%以上40%以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の発光スペクトルにおける半値全幅を狭くすることができる。
【0107】
[7]本発明の第7の実施態様は、第4乃至第6のいずれか1つの実施態様において、前記第1障壁層(331a)の膜厚が、前記第2障壁層(331b)の膜厚よりも小さいことである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の全体の電気抵抗値を低減することができる。
【0108】
[8]本発明の第8の実施態様は、c面が成長面(21)である基板(2)と、前記基板(2)の前記成長面(21)上に積層された窒化物半導体層(3)と、を備え、中心波長が265nm以上300nm未満の紫外光を発光する窒化物半導体発光素子(1)であって、前記窒化物半導体層(3)は、Al、Ga及びNを含有するn型半導体層(32)と、前記n型半導体層(32)の前記基板(2)と反対側に形成されるとともに、Al、Ga及びNを含有する複数の井戸層(332a~332c)を有する、多重量子井戸構造の活性層(33)と、前記活性層(33)の前記基板(2)と反対側に形成されたp型半導体層(35)と、を有し、前記n型半導体層(32)のAl組成比は、50%超70%以下である、窒化物半導体発光素子(1)である。
これにより、特定の範囲の発光波長において光出力を向上することができる窒化物半導体発光素子(1)を提供することが可能となる。
【0109】
[9]本発明の第9の実施態様は、第8の実施態様において、前記n型半導体層(32)のAl組成比qと、前記n型半導体層(32)の膜厚d[μm]とが、4.1q-0.6≦d≦4.1qの関係を満たすことである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の光出力が一層向上する。
【0110】
[10]本発明の第10の実施態様は、第8又は第9の実施態様において、前記n型半導体層(32)のAl組成比から、前記複数の井戸層(332a~332c)のうちの最も前記p型半導体層(35)側に位置する井戸層である最上井戸層(332c)のAl組成比を減算した組成差が、15%以上31%以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の光出力が一層向上する。
【0111】
[11]本発明の第11の実施態様は、第8乃至第10のいずれか1つの実施態様において、前記基板(2)が、サファイア基板であり、前記窒化物半導体層(3)が、前記基板(2)と前記n型半導体層(32)との間に形成されたAlNからなる層を有するバッファ層(31)をさらに備え、前記バッファ層(31)の膜厚が、1μm以上4μm以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の光出力が一層向上する。
【0112】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0113】
1…窒化物半導体発光素子
2…基板
21…成長面
3…窒化物半導体層
31…バッファ層
32…n型半導体層
33…活性層
331a…第1障壁層
331b…第2障壁層
332…井戸層
332a…最下井戸層
332b…中間井戸層
332c…最上井戸層
35…p型半導体層