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特許7405910ディップ成形用生分解性ラテックス組成物の製造方法
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  • 特許-ディップ成形用生分解性ラテックス組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ディップ成形用生分解性ラテックス組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 251/00 20060101AFI20231219BHJP
   C08F 236/12 20060101ALI20231219BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20231219BHJP
   B29C 41/00 20060101ALI20231219BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
C08F251/00
C08F236/12
A41D19/00 P
B29C41/00
C08L101/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022103269
(22)【出願日】2022-06-28
(65)【公開番号】P2023013981
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】10-2021-0091957
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516298504
【氏名又は名称】コリア クンホ ペトロケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Korea Kumho Petrochemical Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】100,Cheonggyecheon-ro,Jung-gu,Seoul,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カン,ユンソ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,スン フン
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-516282(JP,A)
【文献】特開平10-130598(JP,A)
【文献】特表2018-505916(JP,A)
【文献】特開2022-183048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00
C08F 236/12
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)共役ジエン系モノマー、エチレン性不飽和ニトリルモノマー及びエチレン性不飽和酸モノマーを含むモノマー混合物を準備する段階と、
(b)デンプン、乳化剤及び無機溶媒を前記モノマー混合物に投入する段階と、
(c)重合開始剤を投入してコポリマーラテックスを製造する段階を含み、
前記コポリマーは、前記デンプンを主鎖に含む、ディップ成形用ラテックス組成物の製造方法であって、
前記デンプンはデキストリンであり、
前記デンプンの含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して1~3重量部であり、
前記デキストリンのデキストロース当量(dextrose equivalent)は、12~22である、ディップ成形用ラテックス組成物の製造方法。
【請求項2】
前記共役ジエン系モノマーは、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、イソプレン及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つである、請求項1に記載のディップ成形用ラテックス組成物の製造方法。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和ニトリルモノマーは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリル及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つである、請求項1に記載のディップ成形用ラテックス組成物の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和酸モノマーは、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、スチレンスルホン酸、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピル及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つである、請求項1に記載のディップ成形用ラテックス組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の製造方法で製造された、ディップ成形用ラテックス組成物。
【請求項6】
請求項に記載のディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して製造された、ディップ成形品。
【請求項7】
前記ディップ成形品は、医療用手袋、農畜産物加工用手袋、産業用手袋からなる群から選ばれる1つである、請求項に記載のディップ成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ディップ成形用生分解性ラテックス組成物、その製造方法及びそれにより製造されたディップ成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の医療用、農畜産物加工用、産業用として使用される手袋の主原料は、天然ゴムラテックスであった。しかし、天然ゴムラテックスにより製造された手袋を使用する場合、天然ゴムラテックスに含まれたタンパク質によって手袋のユーザーが接触性アレルギー疾患を患う問題が頻繁に発生した。よって、ニトリル系コポリマーラテックスのようにタンパク質を含まない合成ゴムラテックスを適用して手袋を製造しようとする試みが行われた。ニトリル系コポリマーラテックス手袋は、天然ゴムラテックス手袋に比べて機械的強度に優れており、鋭い物体と接触が頻繁に発生する医療や食品分野で需要が増加する傾向にある。
【0003】
しかし、従来のニトリル系コポリマーラテックス手袋は、使用後に自然分解が難しく、その廃棄物処理による深刻な環境汚染問題を発生させている。よって、埋め立て時に自然分解が可能な生分解性を示すとともに、ラテックス手袋に要求される引張強度、伸率などの機械的物性を満たす生分解性ニトリル系コポリマーラテックス手袋の開発に対する社会的な要求が増加している。
【0004】
一方、デンプンは、古くから人類が使用してきた天然高分子物質の1つで、地球上に豊かに存在して容易に入手でき、価格が安く、生分解性材料として活用されてもよいが、合成高分子物質に比べて機械的物性及び加工性に劣るという問題点が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書の記載事項は、前述した従来技術の問題点を解決するためのもので、本明細書の一目的は、カルボン酸変性ニトリル系コポリマーの主鎖にデンプンを導入して生分解性を向上させることができるディップ成形用ラテックス組成物の製造方法を提供する。
【0006】
本明細書の他の一目的は、引張強度、伸率などの機械的物性に優れながらも生分解性を示すディップ成形用ラテックス組成物及びそれにより製造されたディップ成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様によれば、(a)共役ジエン系モノマー、エチレン性不飽和ニトリルモノマー及びエチレン性不飽和酸モノマーを含むモノマー混合物を準備する段階、(b)デンプン、乳化剤及び無機溶媒を前記モノマー混合物に投入する段階、及び(c)重合開始剤を投入してコポリマーラテックスを製造する段階を含み、前記コポリマーは、前記デンプンを主鎖に含む、ディップ成形用ラテックス組成物の製造方法を提供する。
【0008】
一実施例において、前記共役ジエン系モノマーは、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、イソプレン及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよい。
【0009】
一実施例において、前記エチレン性不飽和ニトリルモノマーは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリル及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよい。
【0010】
一実施例において、前記エチレン性不飽和酸モノマーは、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、スチレンスルホン酸、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピル及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよい。
【0011】
一実施例において、前記デンプンは、天然デンプン、前記天然デンプンの誘導体、前記天然デンプンから抽出されたアミロース、変性デンプン、デキストリン及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよい。
【0012】
一実施例において、前記デキストリンのデキストロース当量(dextrose equivalent)は、10~25であってもよい。
【0013】
一実施例において、前記デキストリンの分子量は、1,000~10,000g/molであってもよい。
【0014】
一実施例において、前記デンプンの含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して0.5~10重量部であってもよい。
【0015】
他の一態様によれば、前記ディップ成形用ラテックス組成物の製造方法で製造された、ディップ成形用ラテックス組成物を提供する。
【0016】
さらに他の一態様によれば、前記ディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して製造された、ディップ成形品を提供する。
【0017】
一実施例において、前記ディップ成形品は、医療用手袋、農畜産物加工用手袋、産業用手袋からなる群から選ばれる1つであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本明細書の一態様によるディップ成形用ラテックス組成物の製造方法は、カルボン酸変性ニトリル系コポリマーの主鎖にデンプンを導入することにより生分解性を向上させたディップ成形用ラテックス組成物の製造に適用できる。
【0019】
本明細書の他の一態様によるディップ成形用ラテックス組成物及びディップ成形品は、引張強度、伸率などの機械的物性及び品質に優れながらも生分解性を示して環境にやさしい医療用手袋、農畜産物加工用手袋、産業用手袋などの製造に広く適用できる。
【0020】
本明細書の一態様の効果は、前記効果に限定されるものではなく、本明細書の詳細な説明または請求範囲に記載された構成から推論可能なすべての効果を含むものと理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、デキストリン含量による試験片の機械的物性評価結果である。
図2図2は、デキストリンのデキストロース当量による試験片の機械的物性評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本明細書の一態様を説明する。しかし、本明細書の記載事項は、様々な異なる形態で具現されてもよく、したがって、ここで説明する実施例に限定されるものではない。また、図面において本明細書の一態様を明確に説明するため、説明と関係のない部分は省略し、明細書の全体を通じて類似した部分については、類似した図面符号を付した。
【0023】
明細書の全体において、ある部分が他の部分と「連結」されているとするとき、これは「直接的に連結」されている場合だけでなく、その中間に他の部材を介して「間接的に連結」されている場合も含む。また、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに備えることができるということを意味する。
【0024】
本明細書において数値的値の範囲が記載されたとき、その具体的な範囲が特に記述されない限り、その値は、有効数字に対する化学における標準規則に従って提供された有効数字の精度を持つ。例えば、10は、5.0~14.9の範囲を含み、数字10.0は、9.50~10.49の範囲を含む。
【0025】
以下、添付図面を参考し、本明細書の一実施例を詳細に説明する。
【0026】
ディップ成形用ラテックス組成物の製造方法
本明細書の一態様によるディップ成形用ラテックス組成物の製造方法は、(a)共役ジエン系モノマー、エチレン性不飽和ニトリルモノマー及びエチレン性不飽和酸モノマーを含むモノマー混合物を準備する段階、(b)デンプン、乳化剤及び無機溶媒を前記モノマー混合物に投入する段階、及び(c)重合開始剤を投入してコポリマーラテックスを製造する段階を含んでもよい。
【0027】
前記コポリマーは、前記デンプンを主鎖に含んでもよい。前記製造方法で製造されたディップ成形用ラテックス組成物及びこれをディップ成形して製造したディップ成形品は、コポリマーの主鎖にデンプンを導入することにより、優れた生分解性を示すことができる。
【0028】
前記デンプンは、下記メカニズムを通じて前記コポリマーの主鎖に導入されるものであってもよい。デンプンは、下記化1で表される天然ポリマーである。
【0029】
【化1】
【0030】
前記デンプンに存在するヒドロキシ基(Starch-OH)は、前記重合開始剤から形成された自由ラジカル(free radical)と反応して開始反応(Initiation)を発生させることができる。前記開始反応を通じてデンプンに形成されたラジカル(Starch-O・)は、他のデンプンまたは前記モノマー混合物に含まれた他のモノマーと結合するとともに、ラジカルを新しい末端に移転させることができ、このような反応が繰り返されて鎖が成長することにより、最終的に前記デンプンを主鎖に含むコポリマーを形成できる。
【0031】
前記コポリマーは、共役ジエン系モノマー、エチレン性不飽和ニトリルモノマー、エチレン性不飽和酸モノマー及びデンプンのグラフトコポリマーであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0032】
前記(a)段階は、カルボン酸変性ニトリル系コポリマーを構成するモノマーである共役ジエン系モノマー、エチレン性不飽和ニトリルモノマー及びエチレン性不飽和酸モノマーを含むモノマー混合物を準備する段階で、窒素雰囲気の下で行われてもよい。
【0033】
前記モノマー混合物は、前記モノマー混合物総重量を基準に、共役ジエン系モノマー50~98重量%、エチレン性不飽和ニトリルモノマー1~49重量%、及びエチレン性不飽和酸モノマー1~10重量%を含んでもよい。前記モノマー混合物に含まれた各モノマーの含量が前記範囲を外れる場合、成形品が過度に柔らかくなるか、または過度に硬化してディップ成形品のユーザーにおいて着用感を低下させるか、またはディップ成形品の耐油性が低下し、引張強度が低くなることがある。
【0034】
前記共役ジエン系モノマーは、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、イソプレン及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、1,3-ブタジエン(1,3-butadiene)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
前記エチレン性不飽和ニトリルモノマーは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリル及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、アクリロニトリル(acrylonitrile)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0036】
前記エチレン性不飽和酸モノマーは、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、スチレンスルホン酸、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピル及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、メタクリル酸(methacrylic acid)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0037】
前記(b)段階は、デンプン、乳化剤及び無機溶媒を前記モノマー混合物に投入して乳化重合を準備する段階で、デンプンを添加することによりラテックスの生分解性を向上させることができる。
【0038】
前記デンプンは、天然デンプン、前記天然デンプンの誘導体、前記天然デンプンから抽出されたアミロース、変性デンプン、デキストリン及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、デキストリン(dextrin)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0039】
前記天然デンプンは、一般トウモロコシデンプン、モチトウモロコシデンプン、高アミローストウモロコシデンプン、米デンプン、もち米デンプン、高アミロース米デンプン、ジャガイモデンプン、サツマイモデンプン、タピオカデンプン、キビデンプン、小麦デンプン、サゴ(sago)デンプン、栗デンプン、大豆デンプン及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
前記変性デンプンは、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸デンプン、酸化デンプン、糊化デンプン、オクテニルコハク酸置換デンプン、酢酸デンプン及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0041】
前記デキストリンは、デンプンを加水分解して得られる低分子量の炭水化物で、天然デンプンを酸、熱、酵素などで加水分解して得ることができ、商業的に販売されるものを購入して使用してもよい。前記加水分解に使用される酸は、塩酸、硫酸、硝酸または酢酸であってもよいが、これに限定されるものではない。前記酵素は、デンプン加水分解能力のある酵素であれば、どんな酵素でも可能であり、例えば、アルファアミラーゼ、ベータアミラーゼ、グルコアミラーゼ、アミログルコシダーゼ、イソアミラーゼ、フルラナーゼ、アルファグルコシダーゼ及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0042】
前記デキストリンのデキストロース当量(dextrose equivalent)は、10~25であってもよく、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはこれらのうち2値の間の値であってもよい。前記デキストリンのデキストロース当量が10未満であれば、重合途中でラテックスのゲル化現象が発生して成形品の品質及び肌触りが低下することがあり、前記デキストリンのデキストロース当量が25超過であれば、粘度低下及び褐変現象が発生することがあり、前記デキストリンのデキストロース当量が前記範囲を外れる場合、成形品の引張強度、伸率などの機械的物性が低下することがある。
【0043】
前記デキストリンの分子量は、1,000~10,000g/molであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0044】
前記デンプンの含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して0.5~10重量部であってもよい。例えば、前記デンプンの含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して0.5重量部、1重量部、1.5重量部、2重量部、2.5重量部、3重量部、3.5重量部、4重量部、4.5重量部、5重量部、5.5重量部、6重量部、6.5重量部、7重量部、7.5重量部、8重量部、8.5重量部、9重量部、9.5重量部、10重量部またはこれらのうち2値の間の値であってもよい。前記デンプンの含量が前記モノマー混合物100重量部に対して0.5重量部未満であれば、前記コポリマーの主鎖に導入されたデンプンの含量が減少して成形品の生分解性及び伸率が低下することがあり、10重量部を超えると、前記コポリマーの主鎖に導入されたデンプンの含量が過度に増加して成形品の引張強度、伸率などの機械的物性及び製品品質が低下し得る。
【0045】
前記乳化剤は、イオン性界面活性剤であってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、乳化剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよい。
【0046】
前記乳化剤は、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルオキシドジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(sodium dodecylbenzene sulfonate)及びジソジウムアルキルジフェニルオキシドスルホネート(disodium alkyl diphenyloxide sulfonate)を含むもであってもよいが、これに限定されるものではない。前記ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びジソジウムアルキルジフェニルオキシドスルホネートを含む乳化剤を使用することにより、前記モノマー混合物及び前記デンプンの凝固を防止し、重合反応の転換率を高めることができ、ラテックス組成物の機械的安定性、化学的安定性及び重合安定性を向上させることができる。前記乳化剤の含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して0.1~5重量部であってもよい。
【0047】
前記無機溶媒は水であってもよく、例えば、イオン交換水であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0048】
前記(b)段階は、分子量調整剤を投入する段階をさらに含んでもよい。前記分子量調整剤は、α-メチルスチレンダイマー、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタンなどのメルカプタン類、四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレンなどのハロゲン化炭化水素、テトラエチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドなどの硫黄含有化合物及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、t-ドデシルメルカプタン(t-dodecyl mercaptan)であってもよいが、これに限定されるものではない。前記分子量調整剤の含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して0.1~1.0重量部であってもよい。
【0049】
前記(c)段階は、重合開始剤を投入して乳化重合を通じてコポリマーラテックスを製造する段階で、重合開始剤を投入して重合させる段階、重合停止剤を投入して重合を停止する段階、及び未反応モノマーを除去し、固形分濃度及びpHを調整してコポリマーラテックスを得る段階を含んでもよい。
【0050】
前記重合開始剤は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素などの無機過酸化物、t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレートなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸(ブチル酸)メチル及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、過硫酸カリウム(potassium peroxodisulfate)であってもよいが、これに限定されるものではない。前記重合開始剤を使用することにより前記デンプンにラジカルを形成でき、それによって前記コポリマーの主鎖にデンプンを導入してラテックス組成物の生分解性を向上させることができる。前記重合開始剤の含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して0.02~1.5重量部であってもよい。
【0051】
前記(c)段階の重合は、活性化剤を含んで行ってもよく、前記活性化剤は、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート、ソジウムエチレンジアミンテトラアセテート、硫酸第1鉄、デキストロース、ピロリン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(sodium formaldehyde sulfoxylate)であってもよいが、これに限定されるものではない。前記活性化剤の含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して0.01~0.3重量部であってもよい。
【0052】
前記(c)段階の重合は、10~90℃で行われてもよく、例えば、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃またはこれらのうち2つの温度の間の温度で行われてもよい。
【0053】
前記重合停止剤は、前記重合反応の転換率が90%以上であるときに投入するものであってもよく、例えば、前記重合停止剤は、前記重合反応の転換率が90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%またはこれらのうち2値の間の値であるときに投入するものであってもよい。
【0054】
前記重合停止剤は、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸及びそのアルカリ金属イオン、ソジウムジメチルジチオカーバメート、ヒドロキノン誘導体、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸などの芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、ソジウムジメチルジチオカーバメート(sodium dimethyldithiocarbamate)であってもよいが、これに限定されるものではない。前記重合停止剤の含量は、前記モノマー混合物100重量部に対して0.02~1.5重量部であってもよい。
【0055】
前記コポリマーラテックス固形分の濃度及びpHは、pH調整剤、酸化防止剤、消泡剤などの添加剤を投入することにより調整してもよい。
【0056】
前記pH調整剤は、水酸化カリウム水溶液またはアンモニア水であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0057】
前記コポリマーラテックスは、固形分濃度が30~60重量%、例えば、30%、32%、34%、36%、38%、40%、42%、44%、46%、48%、50%、52%、54%、56%、58%、60%またはこれらのうち2値の間の範囲であり、pH7~12、例えば、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、またはこれらのうち2値の間の範囲に調整されてもよいが、これに限定されるものではない。
【0058】
前記コポリマーラテックスは、機械的安定性、生分解性及び重合安定性に優れており、環境にやさしく安定的なディップ成形用ラテックス組成物の製造に適用されてもよい。
【0059】
前記ディップ成形用ラテックス組成物の製造方法は、(d)前記コポリマーラテックスに加硫剤、加硫促進剤及び架橋剤を投入してディップ成形用ラテックス組成物を製造する段階をさらに含んでもよい。
【0060】
前記加硫剤は、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄を含んでもよい。このような加硫剤は、ブタジエンの共役二重結合内のパイ結合を攻撃して高分子鎖の間を架橋するので、コポリマーに弾性を与えるだけではなく、ディップ成形品の耐化学性を改善させることができる。前記加硫剤の含量は、前記コポリマーラテックス100重量部に対して0.1~3.0重量部であってもよい。
【0061】
前記加硫促進剤は、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,2-ジチオビスベンゾチオゾール-2-スルフェンアミド、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド、2-モルホリノチオベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジンクジエチルジチオカルバメート、ジンクジブチルジチオカルバメート、ジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジン及びこれらのうち2以上の組み合わせからなる群から選ばれる1つであってもよく、例えば、ジンクジブチルジチオカルバメート(zinc dibutyldithiocarbamate)であってもよいが、これに限定されるものではない。前記加硫促進剤の含量は、前記コポリマーラテックス100重量部に対して0.1~3.0重量部であってもよい。
【0062】
前記架橋剤は、酸化亜鉛であってもよいが、これに限定されるものではない。前記架橋剤の含量は、前記コポリマーラテックス100重量部に対して0.1~3.0重量部であってもよい。
【0063】
ディップ成形用ラテックス組成物
本明細書の他の一態様によるディップ成形用ラテックス組成物は、前記ディップ成形用ラテックス組成物の製造方法で製造されたものであってもよい。
【0064】
前記ディップ成形用ラテックス組成物は、固形分濃度が10~30重量%、例えば、10%、12%、14%、16%、18%、20%、22%、24%、26%、28%、30%またはこれらのうち2値の間の範囲であり、pH9~11、例えば、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、またはこれらのうち2値の間の範囲に調整されてもよいが、これに限定されるものではない。
【0065】
ディップ成形品
本明細書のさらに他の一態様によるディップ成形品は、前記ディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して製造されたものであってもよい。
【0066】
前記ディップ成形品は、引張強度、伸率などの機械的物性に優れており、不良率が低く、肌触りなどの品質に優れているので、多様な分野のディップ成形品に適用されてもよい。
【0067】
前記ディップ成形品は、生分解性を示し、使用後に自然分解される様々な分野の環境にやさしいディップ成形品に適用されてもよい。
【0068】
前記ディップ成形品は、医療用手袋、農畜産物加工用手袋、産業用手袋からなる群から選ばれる1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0069】
以下、本明細書の実施例について、さらに詳細に説明する。ただし、以下の実験結果は、前記実施例のうち代表的な実験結果のみを記載したものであり、実施例などによって本明細書の範囲と内容が縮小または制限されて解釈されることはできない。以下に明示的に提示していない本明細書の様々な具現例のそれぞれの効果は、当該部分で具体的に記載する。
【0070】
実施例1
撹拌機、温度計、冷却器、及び窒素ガスの引込口が備えられており、モノマー、乳化剤、重合開始剤などの各構成要素を連続的に投入できるように取り付けられた10Lの高圧反応器を用意した。前記反応器を窒素で置換した後、混合物の総重量を基準として1,3-ブタジエン65重量%、アクリロニトリル30重量%、メタクリル酸5重量%のモノマー混合物を投入した。その後、前記モノマー混合物100重量部に対して分子量が1,000~10,000g/molであり、デキストロース当量(dextrose equivalent、DE)が18であるデキストリン(dextrin、三養社)1重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(sodium dodecylbenzene sulfonate、SDBS)2重量部、ジソジウムアルキルジフェニルオキシドスルホネート(disodium alkyl diphenyloxide sulfonate、DPOS)1重量部、t-ドデシルメルカプタン(t-dodecyl mercaptan)0.5重量部、及びイオン交換水120重量部を前記反応器に投入した。前記反応器の温度を約25℃まで昇温させた後、過硫酸カリウムを0.3重量部投入した。
【0071】
転換率が約95%に達したとき、ソジウムジメチルジチオカーバメート(sodium dimethyldithiocarbamate)を0.1重量部投入して重合反応を停止させた。その後、脱臭工程を通じて未反応モノマーなどを除去し、アンモニア水、酸化防止剤、消泡剤などを添加して固形分濃度45%、pH8.5のカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0072】
実施例2
デキストリンを3重量部で投入したことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0073】
実施例3
デキストリンを5重量部で投入したことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0074】
実施例4
デキストリンを10重量部で投入したことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0075】
実施例5
デキストロース当量が12であるデキストリンを使用したことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0076】
実施例6
デキストロース当量が22であるデキストリンを使用したことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0077】
比較例1
デキストリンを投入しないことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0078】
比較例2
デキストリンを20重量部で投入したことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0079】
比較例3
デキストロース当量が8であるデキストリンを使用したことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0080】
比較例4
デキストロース当量が30であるデキストリンを使用したことを除いて、前記実施例1と同じ方法でカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスを得た。
【0081】
製造例
前記実施例1~6及び前記比較例1~4によって製造したそれぞれのカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックス100重量部に対して硫黄1.0重量部、酸化亜鉛1.4重量部、及びジンクジブチルジチオカルバメート(zinc dibutyldithiocarbamate、ZDBC)0.6重量部を添加し、4%水酸化カリウム水溶液及び2次蒸留水を加えて固形分濃度18%、pH10.0のディップ成形用ラテックス組成物を製造した。
【0082】
実験例1:機械的物性評価
前記製造例により製造したそれぞれのディップ成形用ラテックス組成物からASTMD-412に準じてダンベル状の試験片を作製した。UTM(Universal Testing Machine)を用いて前記試験片を伸長速度500mm/minで引っ張り、300%モジュラス、500%モジュラス、破断時の引張強度及び伸率を測定して機械的物性を評価した。通常、ラテックス成形品の引張強度及び伸率は、その数値が高いほどディップ品質に優れていると評価する。
【0083】
下記表1は、前記実施例1~4及び前記比較例1、2のラテックスにより作製した試験片の機械的物性の評価結果を示したものである。
【0084】
【表1】
【0085】
前記表1及び図1を参考すると、実施例1~4のラテックスにより作製した試験片の伸率が比較例1のラテックスにより作製した試験片に比べて優れており、引張強度も比較例1の物性を維持することが確認できる。これら結果は、ニトリル系コポリマーラテックスの重合段階でデンプンを添加してコポリマーの主鎖にデンプンを導入する場合、成形品の機械的物性及びディップ品質が維持または改善されることを示す。
【0086】
ただし、デキストリンの含量がモノマー混合物100重量部に対して20重量部である比較例2の場合、引張強度及び伸率が低下して比較例1のラテックスにより作製した試験片の機械的物性を満足できないことを確認した。
【0087】
下記表2は、実施例1、5、6及び比較例3、4のラテックスにより作製した試験片の機械的物性の評価結果を示したものである。
【0088】
【表2】
【0089】
前記表2及び図2を参考すると、実施例1、5、6のラテックスにより作製した試験片の引張強度及び伸率が比較例及び4のラテックスにより作製した試験片に比べて優れていることが確認できる。これら結果は、ニトリル系コポリマーラテックスの重合段階で添加するデンプンのデキストロース当量を調整することにより成形品の機械的物性及びディップ品質を向上させることができることを示す。
【0090】
実験例2:生分解性評価
前記実施例1及び比較例1のカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスにバクテリア接種源1種をラテックス質量に対して10%投入し、これを30℃で4日間保管した後、増殖した微生物の数を測定した。その後、さらに2次、3次再接種を行い、30℃でそれぞれの再接種日から2日間保管した後、自然繁殖したバクテリアの数を測定した。
【0091】
下記表3は、実施例1及び比較例1のカルボン酸変性ニトリル系コポリマーラテックスのバクテリア腐敗実験結果を示したものである。
【0092】
【表3】
【0093】
前記表3を参考すると、重合段階でデンプンを添加しない比較例1のラテックス場合、1次、2次、3次接種以後にバクテリアがすべて検出されなかったことに対し、デキストリンを主鎖に含む実施例1のコポリマーラテックスは、1次接種4日後に増殖したバクテリアが検出され、3次接種2日後には、10cfu/ml以上のバクテリアが自然繁殖して腐敗率が高いことを確認した。これら結果は、ニトリル系コポリマーラテックスの重合段階でデンプンを添加してコポリマーの主鎖にデンプンを導入する場合、ラテックスに生分解性が与えられることを示す。
【0094】
前述した本明細書の説明は、例示のためのものであり、本明細書の一態様が属する技術分野の通常の知識を持つ者は、本明細書に記載された技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるだろう。したがって、前述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的ではないものと理解しなければならない。例えば、単一型で説明されている各構成要素は分散して行われてもよく、同様に分散されていると説明されている構成要素も結合された形態で行われてもよい。
【0095】
本明細書の範囲は、後述する請求範囲によって示され、請求範囲の意味及び範囲、そして、その均等概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本明細書の範囲に含まれるものと解釈されなければならない。
図1
図2