(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電動作業機
(51)【国際特許分類】
H02P 6/185 20160101AFI20231219BHJP
【FI】
H02P6/185
(21)【出願番号】P 2022124231
(22)【出願日】2022-08-03
(62)【分割の表示】P 2018068618の分割
【原出願日】2018-03-30
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 真澄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義照
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-513986(JP,A)
【文献】特開2001-37284(JP,A)
【文献】特開平6-32140(JP,A)
【文献】特開2013-81374(JP,A)
【文献】特許第6284207(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてブラシレスモータを備えた電動作業機であって、
直流電源と前記ブラシレスモータの複数の端子との間の通電経路にそれぞれ設けられた複数のスイッチング素子を備え、該複数のスイッチング素子を介して、前記ブラシレスモータの複数の巻線への通電及び通電方向を制御可能に構成されたインバータ部と、
前記ブラシレスモータの所定の転流タイミング毎に、前記インバータ部を介して前記複数の巻線へ通電する通電パターンを切り替え、該通電パターンに従い、前記インバータ部の前記複数のスイッチング素子をオンオフさせて、前記複数の巻線への通電電流をPWM制御するよう構成された制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記ブラシレスモータの回転時に前記転流タイミング毎に切り換える通電パターンとして、前記複数のスイッチング素子のオンオフ状態が異なる複数のスイッチパターンを有し、前記PWM制御の周期に同期して、前記スイッチング素子のオンオフ状態を制御するのに用いる前記スイッチパターンを前記複数のスイッチパターンの一つに順次切り換え、該スイッチパターンの切り替えにより異なる電流経路毎に生じるインダクタンスの大小関係から前記ブラシレスモータの回転位置を検出して、前記転流タイミングを設定するよう構成されて
おり、
前記複数のスイッチパターンは、それぞれ、各スイッチパターンで前記スイッチング素子のオンオフ状態を制御した際、前記ブラシレスモータのロータに回転トルクが発生するように設定されている、電動作業機。
【請求項2】
前記ブラシレスモータに流れる電流を検出するよう構成された電流検出部を備え、
前記制御部は、前記複数のスイッチパターンで前記ブラシレスモータへ通電したときに前記電流検出部にて検出される電流値を、それぞれ、前記ブラシレスモータのインダクタンスを表すパラメータとして取得し、該取得した電流値の大小関係から、前記回転位置を検出するよう構成されている、請求項1に記載の電動作業機。
【請求項3】
前記制御部は、前記スイッチパターンで前記ブラシレスモータへ通電する際、通電を開始したときの通電開始電流と通電を終了するときの通電終了電流との差分を、前記ブラシレスモータのインダクタン
スを表すパラメータとして取得するよう構成されている、請求項2に記載の電動作業機。
【請求項4】
前記ブラシレスモータに流れる電流を検出するよう構成された電流検出部を備え、
前記制御部は、前記複数のスイッチパターンで前記ブラシレスモータへの通電を開始してから、前記電流検出部にて検出される電流値が所定の閾値に達するまでの時間を、それぞれ、前記ブラシレスモータのインダクタンスを表すパラメータとして計測し、該計測した時間の大小関係から、前記回転位置を検出するよう構成されている、請求項1に記載の電動作業機。
【請求項5】
前記制御部は、前記スイッチパターンで前記ブラシレスモータへ通電する際、前記電流値が、通電を開始した時の通電開始電流から所定の閾値だけ変化するまでの時間を、前記ブラシレスモータのインダクタン
スを表すパラメータとして計測するよう構成されている、請求項4に記載の電動作業機。
【請求項6】
前記制御部は、前記スイッチパターンで前記ブラシレスモータを
前記PWM制御するときの前記スイッチング素子のオン時間を、前記直流電源の電源電圧に応じて調整するよう構成されている、請求項1~請求項5の何れか1項に記載の電動作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動力源としてブラシレスモータを備えた電動作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータは、ロータの所定の回転角度毎に、ステータ巻線への通電パターンを切り換える必要がある。このため、ブラシレスモータを備えた電動作業機には、ブラシレスモータ(詳しくはロータ)の回転位置を検出する検出部が備えられている。
【0003】
検出部としては、一般に、ロータの回転角度に応じて信号を発生する回転センサ、若しくは、ロータの回転により発生する誘起電圧から回転位置を検出するセンサレス方式のものが知られている。
【0004】
そして、ブラシレスモータ(換言すればロータ)の回転位置を誘起電圧に基づき検出するよう構成されたセンサレス方式の検出部によれば、ブラシレスモータの各相の端子の電圧を検出し、検出した電圧がゼロクロス点を横切ったときに、所定の回転位置を検出するようにすればよい。
【0005】
このため、センサレス方式の検出部を備えた電動作業機によれば、回転センサを用いて回転位置を検出するように構成した場合に比べて、装置構成を簡単にすることができる。
しかし、誘起電圧は、ブラシレスモータの回転数に比例することから、ブラシレスモータの低速回転時には、回転位置の検出に必要な電圧レベルに達することができず、回転位置を検出できないことがある。
【0006】
これに対し、誘起電圧を利用することなくブラシレスモータの回転位置を検出する、センサレス方式の検出部として、ロータに回転トルクを発生させる通電期間と、位置検出用の検出期間とを交互に発生させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この提案の装置では、ブラシレスモータに回転トルクを発生させる通電期間に比べて充分短い時間だけ、ブラシレスモータの巻線に位置検出用の電流を流し、その電流値を測定して、ステータ巻線のインダクタンスを算出する。そして、インダクタンスが最大となるタイミングを、所定の回転位置として検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2011/0279073号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記提案の装置によれば、ブラシレスモータの回転位置に応じて変化するインダクタンスを求め、そのインダクタンスが最大となるタイミングで、回転位置を検出することから、ブラシレスモータが低速回転しているときにも、回転位置を検出できる。
【0010】
しかしながら、上記提案の装置では、回転位置を検出するために、ロータに回転トルクを発生させることのない位置検出用の低電流を流し、その電流を検出して、インダクタンスを求めることから、インダクタンスの演算精度が要求される。
【0011】
このため、上記提案の装置では、回転センサを不要にすることはできるものの、位置検
出に用いる演算回路に、演算能力の高い高価なものを使用しなければならず、これによってコストアップを招くという問題がある。
【0012】
また、上記提案の装置では、ロータに回転トルクを発生させる駆動電流と、位置検出電流とを交互に流す必要があるので、位置検出期間中は、ロータに回転トルクを発生させることができない。このため、ブラシレスモータの回転を上昇させる際の加速特性が低下し、ブラシレスモータの出力軸に負荷が加わった場合に停止してしまうこともある。
【0013】
本開示の一局面は、ブラシレスモータを備えた電動作業機において、ブラシレスモータの低回転時に、回転センサを用いることなく回転位置を検出でき、しかも、低コストで実現できるようにすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の一局面の電動作業機においては、動力源としてブラシレスモータを備え、ブラシレスモータを駆動するために、インバータ部及び制御部を備える。
インバータ部は、直流電源とブラシレスモータの複数の端子との間の通電経路に設けられた複数のスイッチング素子を備え、その複数のスイッチング素子を介して、ブラシレスモータの複数の巻線への通電及び通電方向を制御可能に構成されている。
【0015】
制御部は、ブラシレスモータの所定の転流タイミング毎に、インバータ部を介して複数の巻線へ通電する通電パターンを切り替え、その通電パターンに従いインバータ部の複数のスイッチング素子をオンオフさせて、複数の巻線への通電電流をPWM制御する。
【0016】
また、制御部は、ブラシレスモータの回転時に転流タイミング毎に切り換える通電パターンとして、複数のスイッチング素子のオンオフ状態が異なる複数のスイッチパターンを有する。そして、制御部は、PWM制御の周期に同期して、スイッチング素子のオンオフ状態を制御するスイッチパターンを、複数のスイッチパターンの一つに順次切り換える。
【0017】
このようにスイッチパターンを切り替えると、ブラシレスモータに流れる電流の経路が変化し、回転位置が同じであっても、ロータに設けられた磁石による透磁率の違いにより、電流経路毎に生じるインダクタンスが変化する(所謂、ロータの突極性)。
【0018】
つまり、制御部は、転流タイミングから次の転流タイミングまでのロータの回転角度範囲内で、通電パターンを、複数のスイッチパターンの一つに順次切り換えることで、ステータ巻線のインダクタンスを変化させるのである。
【0019】
そして、制御部は、スイッチパターンの切り替えにより異なる電流経路毎に生じるインダクタンスの大小関係から、ブラシレスモータ(ロータ)の回転位置を検出し、転流パターンを設定する。
【0020】
従って、本開示の電動作業機によれば、ブラシレスモータの低回転時であっても、回転センサを用いることなく回転位置を検出できる。
また、上述した従来装置のように、ロータに回転トルクを発生させる通電期間と位置検出用の検出期間とを交互に発生させて、検出期間中に位置検出用の電流を流し、電流値から巻線のインダクタンスを正確に算出する必要はない。
【0021】
つまり、本開示の電動作業機では、ブラシレスモータの回転位置を検出するためには、スイッチパターンの違いによって生じるインダクタンスの大小関係を判定できればよく、従来のように、位置検出電流からインダクタンスを正確に算出する必要がない。
【0022】
このため、本開示の電動作業機によれば、回転位置を検出する制御部に、従来装置のような演算能力の高い高価な演算回路を設ける必要が無く、制御部の構成を簡素化して、コストを低減することができる。
また、本開示の電動作業機において、複数のスイッチパターンは、それぞれ、各スイッチパターンでスイッチング素子のオンオフ状態を制御した際に、ロータに回転トルクが発生するように設定されている。
このため、本開示の電動作業機によれば、スイッチパターンを切り替えても、ロータに回転トルクを発生させて、モータを駆動できる。従って、上述した従来装置のように、位置検出期間中に、ロータに回転トルクを発生させることができなくなるのを抑制できる。
よって、本開示の電動作業機によれば、位置検出のために、ブラシレスモータの回転を上昇させる際の加速特性が低下したり、ブラシレスモータの出力軸に負荷が加わった場合にその回転が停止したり、するのを抑制できる。
【0023】
また、制御部において、回転位置を検出するためには、スイッチパターンの違いによって生じるインダクタンスの大小関係を判定できればよいので、従来のように、ブラシレスモータに流れる電流等からインダクタンスを算出しなくてもよい。
【0024】
具体的には、ブラシレスモータに流れる電流を検出する電流検出部を設ける。そして、制御部は、複数のスイッチパターンでブラシレスモータへ通電したときに電流検出部にて検出される電流値を、それぞれ、インダクタンスを表すパラメータとして取得し、取得した電流値の大小関係から、回転位置を検出するように構成する。
【0025】
このようにすれば、ブラシレスモータに流れる電流等からインダクタンスを算出することなく、電流検出部を介して得られる電流値の大小関係だけで、回転位置を検出できるようになるので、装置構成をより簡単にすることができる。
【0026】
ところで、制御部は、スイッチパターンに応じてインバータ部のスイッチング素子をオンさせることで、ブラシレスモータへの通電経路を形成するが、スイッチング素子がオフされて、通電経路が遮断されても、ブラシレスモータには還流電流または回生電流が流れる。
【0027】
これは、ブラシレスモータへの通電を遮断すると、通電により巻線に蓄積されたエネルギによって電圧が発生するため、インバータ部には、その電圧によりブラシレスモータに電流を流し続ける、還流用または回生用のダイオードが備えられているためである。
【0028】
還流電流または回生電流は、PWM制御の1周期当たりのスイッチング素子のオン時間が短い場合(つまりデューティ比が小さい場合)には、スイッチング素子を介して直流電源からの通電経路を遮断してから、次に導通するまでの間にゼロにすることができる。これは、直流電源からの通電時にブラシレスモータの巻線に蓄積されるエネルギが小さいためである。
【0029】
しかし、PWM制御の1周期当たりのスイッチング素子のオン時間が長くなると(デューティ比が大きくなると)、巻線に蓄積されるエネルギが大きくなるので、直流電源からの通電経路を遮断してから、次に導通するまで、還流電流または回生電流が流れ続ける。
【0030】
そして、還流電流または回生電流が流れている状態で、スイッチパターンに応じてインバータ部のスイッチング素子をオンさせると、直流電源からブラシレスモータへの通電経路には、還流電流または回生電流が初期電流として流れ、その後通電経路に流れる電流は、初期電流から変化する。
【0031】
従って、PWM制御の1周期内で還流電流または回生電流をゼロにすることのできない使用条件下で、電流値の大小関係から回転位置を検出する場合には、制御部を下記のように構成するとよい。
【0032】
つまり、制御部は、スイッチパターンでブラシレスモータへ通電する際、通電を開始したときの通電開始電流と通電を終了するときの通電終了電流との差分を、ブラシレスモータのインダクタンスを表すパラメータとして取得するよう構成するとよい。
【0033】
このようにすれば、スッチパターンに応じてインバータ部のスイッチング素子をオンさ
せた際に、還流電流または回生電流が流れていても、制御部は、その還流電流または回生電流を通電初期値として、通電初期値から通電終了電流までの電流変化量を、位置検出用の電流値として取得できる。
【0034】
よって、この場合には、例えば、PWM制御のデューティ比が大きく、スイッチパターンでブラシレスモータへ通電する際に還流電流または回生電流が流れていても、ブラシレスモータの回転位置を、還流電流または回生電流の影響を受けることなく検出することができるようになる。
【0035】
一方、制御部は、複数のスイッチパターンでブラシレスモータへの通電を開始してから、電流検出部にて検出される電流値が所定の閾値に達するまでの時間を、それぞれ、ブラシレスモータのインダクタンスを表すパラメータとして計測するようにしてもよい。
【0036】
このようにすれば、ブラシレスモータの回転位置は、インダクタンスを算出することなく、計測した時間の大小関係だけで検出できるようになり、電流値の大小関係から回転位置を検出する場合と同様、装置構成をより簡単にすることができる。
【0037】
なお、PWM制御の1周期内で還流電流または回生電流をゼロにすることのできない使用条件下で、電流値が所定の閾値に達するまでの時間を、インダクタンスを表すパラメータとして計測する際には、制御部を、以下のように構成するとよい。
【0038】
つまり、制御部は、スイッチパターンでブラシレスモータへ通電する際、電流値が、通電を開始した時の通電開始電流から所定の閾値だけ変化するまでの時間を、ブラシレスモータのインダクタンスを表すパラメータとして計測するよう構成するとよい。
【0039】
このようにすれば、スッチパターンでブラシレスモータへ通電する際に還流電流または回生電流が流れていても、制御部は、還流電流または回生電流を通電初期値として、電流値が通電初期値から所定の閾値だけ変化するまでの時間を取得できる。
【0040】
よって、制御部をこのように構成しても、還流電流または回生電流の影響を受けることなく、ブラシレスモータの回転位置を検出することができる。
【0043】
また、制御部は、複数のスイッチパターンの切り替えにより、ブラシレスモータのインダクタンスの大小関係が入れ替わるタイミングを、検出タイミングとして、回転位置を検出するよう構成されていてもよい。
【0044】
具体的には、インダクタンスを表すパラメータとして取得した電流値の大小関係が入れ替わるタイミング、或いは、インダクタンスを表すパラメータとして取得した時間の大小関係が入れ替わるタイミングを、ロータの所定の回転位置として検出するにしてもよい。
【0045】
このようにすれば、これら各パラメータの最新値と前回値とを比較するだけで所定の回転位置を検出できるようになるので、各パラメータの補正演算等が不要となり、回転位置をより簡単に検出することができるようになる。
【0046】
なお、上記各パラメータ(つまりインダクタンス、電流値、時間等)の大小関係は、ノイズ等によって入れ替わることも考えられるので、大小関係が入れ替わってから一定期間大小関係が安定していることを確認した後、回転位置を確定するようにしてもよい。
【0047】
また、転流タイミングで通電パターンを切り替えた直後は、ブラシレスモータに流れる電流値が安定しないこともあるので、転流タイミング後、所定時間が経過してから、上記各パラメータの大小関係を判定する位置検出動作に入るようにしてもよい。
【0048】
また、制御部は、スイッチパターンでブラシレスモータをPWM制御するときのスイッチング素子のオン時間を、直流電源の電源電圧に応じて調整するよう構成されていてもよい。
【0049】
つまり、ブラシレスモータに流れる電流は、電源電圧に応じて変化し、スイッチング素子のオン時間(換言すれば、ステータ巻線への通電時間)が一定であっても、電源電圧が変化すると、電流も変化する。
【0050】
このため、スイッチング素子のオン時間を直流電源の電源電圧に応じて調整するようにすれば、電源電圧が変動することによる、ブラシレスモータに流れる電流の変動を抑制し、位置検出を安定して実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】実施形態の電動作業機の外観を表す斜視図である。
【
図2】第1実施形態の電動作業機の電気的構成を表すブロック図である。
【
図3】高速モードでのモータへの通電パターンを説明する説明図である。
【
図4】低速モードでのモータへの通電パターンを説明する説明図である。
【
図5】低速モードでのスイッチパターンの切り替えによる電流変化を説明する説明図である。
【
図6】制御部にて実行される制御処理を表すフローチャートである。
【
図7】
図6に示すモータ制御処理を表すフローチャートである。
【
図8】
図7に示すモータ停止処理を表すフローチャートである。
【
図9】
図7に示すモータ駆動処理を表すフローチャートである。
【
図10】制御部にて実行されるオフタイミングでのPWMキャリア割り込み処理を表すフローチャートである。
【
図11】第1実施形態での電流値による位置検出動作を表すタイムチャートである。
【
図12】第1変形例の位置検出動作を説明するタイムチャートである。
【
図13】第1変形例のオンタイミングでのPWMキャリア割り込み処理を表すフローチャートである。
【
図14】第1変形例のオフタイミングでのPWMキャリア割り込み処理を表すフローチャートである。
【
図15】第2実施形態の電動作業機の電気的構成を表すブロック図である。
【
図16】第2実施形態のモータ停止処理を表すフローチャートである。
【
図17】第2実施形態のモータ駆動処理を表すフローチャートである。
【
図18】制御部にて実行される電流値比較部出力信号割り込み処理を表すフローチャートである。
【
図19】制御部にて実行されるPWMタイマオーバーフロー割り込み処理を表すフローチャートである。
【
図20】PWMタイマを用いたスイッチパターンの切り替え動作を説明するタイムチャートである。
【
図21】第2実施形態でのタイマ値による位置検出動作を表すタイムチャートである。
【
図22】第2変形例の位置検出動作を説明するタイムチャートである。
【
図23】第2変形例のPWMタイマオーバーフロー割り込み処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施形態]
本実施形態では、電動作業機として草刈機を例にとり説明する。
【0053】
図1に示すように、本実施形態の電動作業機1は、メインパイプ2と、制御ユニット3と、駆動ユニット4と、ハンドル7とを備えた草刈機である。メインパイプ2は、長尺かつ中空の棒状に形成されている。メインパイプ2の後端側に制御ユニット3が設けられ、メインパイプ2の前端側に駆動ユニット4が設けられている。
【0054】
駆動ユニット4には、回転刃5が、着脱可能且つ回転可能に取り付けられている。回転刃5は、草や小径木などの刈り取り対象物を刈り取るためのものであり、
図1に示すものは、いわゆるチップソーである。
【0055】
つまり、回転刃5は、金属製であって、円板状の形状をなし、外周全体に渡って鋸刃状の歯が形成されている。各歯の先端には、硬質のチップが取り付けられている。
メインパイプ2の前端側には、カバー6が設けられている。このカバー6は、回転刃5により刈り取られた草等が作業者側に飛んでくるのを抑制するために設けられている。
【0056】
駆動ユニット4には、回転刃5を回転駆動させるための駆動源であるモータ20(
図2参照)やモータ20の回転を出力軸に伝達するギヤ機構が収納されており、その出力軸に回転刃5が着脱可能に装着される。
【0057】
モータ20は、ロータ22に磁石が埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnet
)型の3相ブラシレスモータであり、制御ユニット3内の制御部30(
図2参照)により駆動制御される。
【0058】
ハンドル7は、メインパイプ2の長さ方向における中間位置近傍でメインパイプ2に接続されている。ハンドル7は、作業者が電動作業機1を用いて草刈り作業を行う際に把持するためのものであり、本実施形態では、両端にグリップが設けられた所謂U字ハンドルにて構成されている。なお、ハンドル7は、ループハンドル等、他のハンドルであってもよい。
【0059】
ハンドル7の一方のグリップ部分には、作業者が指で操作し、且つ動作状態を確認できるようにするための操作・表示ユニット8が設けられている。
操作・表示ユニット8には、トリガスイッチ10、ロックオフスイッチ12、及び、表示パネル14が設けられている。
【0060】
表示パネル14は、モータ20の回転状態やバッテリパック18の残容量(バッテリパック18内のバッテリに残っている電力量)等を表示するためのものである。また、表示
パネル14には、作業者が、モータ20(換言すれば回転刃5)の回転方向等を設定するための操作スイッチも設けられている。
【0061】
なお、バッテリパック18は、
図1に示すように、制御ユニット3の後端側に着脱自在に装着され、制御ユニット3に直流電力を供給するためのものである。
また、トリガスイッチ10は、モータ20の駆動指令を入力するための操作スイッチであり、ロックオフスイッチ12は、作業者が押下することで、トリガスイッチ10を操作できるようにするためのものである。
【0062】
トリガスイッチ10及び表示パネル14は、ケーブル19を介して、制御ユニット3内の制御部30に接続されている。制御部30は、トリガスイッチ10や表示パネル14の操作状態を監視し、モータ20の駆動、回転方向の切り替え、或いは、表示パネル14への表示を行う。
【0063】
図2に示すように、制御ユニット3には、制御部30とは別に、モータ20へ通電して回転させるインバータ部32が設けられている。
インバータ部32は、バッテリパック18(詳しくはバッテリパック18内のバッテリ)から電源供給を受けて、モータ20の各相のステータに巻回された巻線24A,24B,24Cに電流を流すためのものであり、3相フルブリッジ回路にて構成されている。
【0064】
つまり、インバータ部32は、MOSFETからなる6つのスイッチング素子Q1~Q6にて構成されている。
インバータ部32において、3つのスイッチング素子Q1~Q3は、それぞれ、モータ20のU相、V相、W相の3つの端子と、バッテリパック18の正極側に接続された電源ラインとの間に、いわゆるハイサイドスイッチとして設けられている。
【0065】
また、他の3つのスイッチング素子Q4~Q6は、モータ20の各端子と、バッテリパック18の負極側に接続されたグランドラインとの間に、いわゆるローサイドスイッチとして設けられている。
【0066】
そして、インバータ部32からバッテリパック18の負極側に至るモータ20への通電経路には、モータ20に流れた電流を検出するための電流検出部34が設けられており、電流検出部34から制御部30には、電流検出信号が入力される。
【0067】
また、制御ユニット3には、モータ20を高速モードで駆動しているときに、モータ20の各相U,V,Wの端子電圧から、モータ20(詳しくはロータ)の回転位置を検出するための位置検出部36が設けられている。
【0068】
位置検出部36は、モータ20の各相U,V,Wの端子から誘起電圧を取り込み、その誘起電圧と、電源電圧から生成される基準電圧とを比較し、誘起電圧が基準電圧を横切ったときに、モータ20の所定の回転位置を検出するものである。
【0069】
つまり、高速モードでは、
図3に示すように、インバータ部32内のハイサイドスイッチQ1~Q3の一つと、ローサイドスイッチQ4~Q6の一つが、通電用として順次選択されて、モータ20の各相巻線への通電及び通電方向が切り替えられる。
【0070】
このため、その切り替え毎に、モータ20の3つの端子の一つはオープン状態となり、その端子にはモータ20の回転に伴い誘起電圧が発生する。この誘起電圧は、インバータ部32の正極側から負極側、或いはその逆方向へと変化し、その変動中心を検出すれば、モータ20の回転位置を特定できる。
【0071】
そこで、位置検出部36では、電源電圧を1/2に分圧することにより、誘起電圧の変動中心である基準電圧を生成し、この基準電圧とモータ20の各相U,V,Wの端子電圧Vu,Vv,Vwとを、それぞれ、コンパレータにて比較する。
【0072】
このため、位置検出部36において、オープン状態となっている端子から得られる誘起電圧と基準電圧とを比較するコンパレータからの出力が反転したときに、誘起電圧が基準電圧を横切ったと判断できる。
【0073】
そして、位置検出部36は、誘起電圧が基準電圧を横切ったタイミングをゼロクロス点として検出し、制御部30は、そのゼロクロス点からモータ20の回転位置を特定するようにされている。
【0074】
なお、本実施形態では、
図3に示すように、モータ20の各相U,V,Wの端子に正又は負の電圧を印加してモータ20を駆動する際、各端子への電圧印加期間の後半で印加電圧をPWM制御することで、モータ20への通電電流を制御するようにされている。以下、この駆動方式を、後半PWM駆動という。
【0075】
次に、制御部30は、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータ(マイコン)にて構成されている。
制御部30は、トリガスイッチ10が操作されてモータ20の駆動指令が入力されると、モータ20へ所定の通電パターンで通電することで初期駆動する。そして、初期駆動後は、位置検出部36からの検出信号に基づきモータ20の回転位置及び回転数(具体的には単位時間当たりの回転数である回転速度)を求め、モータ20の駆動を継続する。
【0076】
ところで、位置検出部36は、モータ20の各相U,V,Wの端子から得られる誘起電圧に基づき、モータ20の回転位置を検出するため、モータ20の低速回転時には、誘起電圧が低くなって、回転位置を正確に検出できないことがある。
【0077】
そこで、制御部30は、モータ20の初期駆動後、モータ20の回転数が基準回転数Nthに達するまでの間は、低速モードでモータ20を駆動し、モータ20の回転数が基準回転数Nth以上になると、モータ20を高速モードで駆動するようにされている。
【0078】
つまり、制御部30は、高速モードでは、上述した後半PWM駆動にてモータ20を駆動し、低速モードでは、インバータ部32のスイッチング素子Q1~Q6を
図4Bに示すスイッチパターンで駆動することで、回転位置を検出しつつモータ20を駆動する。
【0079】
図4Bに示すスイッチパターンは、
図4Aに示すように、ロータ22の1回転を60度毎に分割して、回転範囲毎にインバータ部32内でオンさせるスイッチング素子Q1~Q6を規定したものであり、制御部30内の不揮発性メモリ30Aに記憶されている。
【0080】
スイッチパターンは、モータ20の正(+)、負(-)の回転方向毎に設定されており、しかも、各回転範囲、回転方向毎に、スイッチパターンとして、モータ20のロータ22に回転トルクを発生させことのできる2つのパターンが設定されている。
【0081】
そして、制御部30は、モータ20をPWM制御する制御周期に同期して、スイッチパターンを、2つのパターン(パターン1,パターン2)の何れかに交互に切り替えて、インバータ部32のスイッチング素子Q1~Q6をオンさせる。
【0082】
この結果、スイッチパターンにて特定されるモータ20の各相U,V,Wの端子は、正
(UH,VH,WH)又は負(UL,VL,WL)の電位となって、各端子間の巻線24A~24Cに電流が流れ、ロータ22に回転トルクが発生する。
【0083】
なお、PWM制御一周期当たりのモータ20への通電期間(オン時間)は、例えば、モータ20の目標回転数等に応じて設定され、モータ20の回転数が低いほど短くなる。
また、スイッチパターンがPWM制御周期に同期してパターン1又はパターン2に交互に切り替えられることにより、電流検出部34にて検出される電流がモータ20の回転位置に応じて変化する。
【0084】
そこで、制御部30は、スイッチパターンの切り替えにより生じる電流変化に基づき、モータ20(ロータ22)の回転位置を検出し、回転範囲毎にスイッチパターンを切り替える転流タイミングを特定する。
【0085】
なお、スイッチパターンの切り替えにより電流が変化するのは、ブラシレスモータにおいては、回転位置が同じであっても、ロータ22に設けられた磁石による透磁率の違いにより、インダクタンスが変化するためである(所謂ロータの突極性)。
【0086】
つまり、
図4Bに示すスイッチパターンでは、例えば、モータ20の回転位置(ロータ位置)が330度の場合、モータ20を正方向に回転させる際には、パターン1で、U、V相の端子からW相の端子に至る経路で巻線24B、24Cに通電することになる。またパターン2では、V相の端子からU、W相の端子に至る経路で巻線24A、24Bに通電することになる。
【0087】
そして、このようにパターン1,2でモータ20の巻線24B、24C又は24A、24Bに通電すると、
図5に示すように、パターン1では、磁路が広くなっているので透磁率が大となり、パターン2では、磁路が狭くなっているので透磁率が小となる。この結果、この場合に電流検出部34にて検出される電流は、パターン1で検出される電流I1よりもパターン2で検出される電流I2の方が大きくなる。
【0088】
また、スイッチパターンを変更せずに、ロータ22を正方向に回転させると、回転位置が0度のときに、各パターン1,2での透磁率が一致して、電流I1,I2が一致するようになる。また、回転位置が60度のときには、各パターン1,2での透磁率の大小関係が反転し、電流I1,I2の大小関係も反転する。
【0089】
そこで、低速モードでは、モータ20の60度毎の回転範囲でモータ20をPWM駆動する際のスイッチパターンを、パターン1とパターン2とで交互に切り替えることにより、電流I1,I2を監視する。
【0090】
そして、電流I1,I2が反転したタイミングを、モータ20の所定の回転位置(例えばロータ位置:0度)として検出して、回転範囲毎のスイッチパターンの切り替えタイミング(つまり転流タイミング)を特定するのである。
【0091】
以下、このようにモータ20を駆動するために制御部30にて実行される制御処理について、
図6~
図10に示すフローチャートに沿って説明する。
なお、以下の説明では、低速モードでのモータ20の駆動を、パターンPWM駆動という。また、モータ20の回転位置を、単にロータ位置ともいう。
【0092】
図6に示すように、この制御処理は、所定の制御周期でS120~S140(Sはステップを表す)の処理を繰り返し実行することにより、実施される。
すなわち、制御部30は、S110にて、制御周期の基準時間(ベースタイム)が経過
したか否かを判断することにより、所定の制御周期が経過するのを待ち、S110にて基準時間(ベースタイム)が経過したと判断すると、S120に移行する。
【0093】
S120では、トリガスイッチ10や表示パネル14に設けられた操作スイッチからの駆動指令を取得する駆動指令取得処理を実行する。また、S130では、操作・表示ユニット8内の上記各部やモータ20或いはバッテリパック18の異常を検出するエラー検出処理を実行する。そして、続くS140にて、モータ20を駆動或いは停止させるモータ制御処理を実行し、S110に移行する。
【0094】
次に、S140のモータ制御処理においては、
図7に示すように、まずS150にて、S120の駆動指令取得処理の結果に基づき、現在、モータ20の駆動指令が入力されているか否かを判断する。
【0095】
そして、S150にて、駆動指令が入力されていると判断されると、S160に移行して、S130のエラー検出処理での検出結果に基づき、現在、何らかの異常(エラー)が発生しているか否かを判断する。
【0096】
S150にて、駆動指令は入力されていないと判断されるか、或いは、S160にて、エラーが発生していると判断された場合には、S180に移行して、モータ20を停止させるモータ停止処理を実行し、当該モータ制御処理を終了する。
【0097】
また、S160にて、エラーは発生していないと判断された場合には、S170に移行して、モータ20を駆動するモータ駆動処理を実行し、当該モータ制御処理を終了する。
次に、S180のモータ停止処理においては、
図8に示すように、S200にて、インバータ部32への駆動信号の出力(PWM出力)を停止することで、モータ20の後半PWM駆動若しくはパターンPWM駆動を停止させる。
【0098】
そして、続くS210、S220では、電流取得初回及び低速駆動初回を表すフラグを、それぞれ、「未」に設定し、S230に移行する。
S230では、位置検出部36からロータ位置を取得し、S240にて、位置検出部36を介してロータ位置を検出できたか否かを判断する。つまり、位置検出部36では、モータ20が極低速回転しているときには、ロータ位置を検出できないので、S240では、ロータ位置が検出されているか否かによって、モータ20が略停止しているのか否かを判断する。
【0099】
そして、S240にて、位置検出部36ではロータ位置を検出できていないと判断されると、S250に移行して、制御部30の動作モードを初期位置モードに設定して、モータ停止処理を終了する。
【0100】
一方、S240にて、位置検出部36ではロータ位置を検出できていると判断されると、S260に移行して、例えば、位置検出部36にて検出されるモータ20の端子電圧の変化等に基づき、モータ20のフリーラン回転数を検出する。
【0101】
そして、続くS270では、S260にて検出された回転数が高速判定用の基準回転数Nthより低いか否かを判定し、回転数が基準回転数Nthよりも低い場合には、S280に移行して、動作モードを低速モードに設定して、モータ停止処理を終了する。
【0102】
また、S270にて、回転数が基準回転数Nth以上であると判断された場合には、S290に移行して、動作モードを高速モードに設定して、モータ停止処理を終了する。
次に、S170のモータ駆動処理においては、
図9に示すように、まず300にて、制
御部30の動作モードは、上述した初期位置モードであるか、低速モードであるか、或いは、高速モードであるか、を判断する。
【0103】
そして、動作モードが、初期位置モードであれば、S310にて、ロータ位置を予め設定された初期位置に設定し、S400に移行する。尚、S310は、例えば、インバータ部32を介して、モータ20において予め設定されている巻線に通電することで、ロータ位置を初期位置に設定する。
【0104】
次に、S300にて、動作モードは低速モードであると判断された際には、モータ20を上述したパターンPWM駆動で低速回転させるために、S320にて、インバータ部32への駆動信号の出力方式を、パターンPWM出力に設定し、S330に移行する。
【0105】
なお、S320では、駆動信号の出力方式として、モータ20を後半PWM駆動するための後半PWM出力が設定されているときに出力方式をパターンPWM出力に切り替え、既にパターンPWM出力が設定されている場合には、そのままS330に移行する。
【0106】
次に、S330では、低速駆動初回フラグが「済」に設定されているか否かを判断することにより、現在、モータ20の低速駆動を既に実施しているか否かを判断する。
そして、低速駆動初回フラグが「済」に設定されていて、既に低速駆動が開始されている場合には、S380に移行し、低速駆動初回フラグが「未」で、低速駆動は開始されていない場合には、S340に移行する。
【0107】
S340では、現在のロータ位置及びモータ20の回転方向に基づき、
図4Bに示したスイッチパターンの設定に従い、モータ20を低速駆動するのに必要な2種類のスイッチパターン(パターン1、パターン2)を選択する。
【0108】
そして、続くS350では、S340にて選択した2つのスイッチパターンの内の一つ(ここではパターン1)を、インバータ部32を介してモータ20を低速駆動するのに用いるパターンPWMとして設定し、S360に移行する。
【0109】
S360では、低速駆動初回フラグを「済」に設定し、続くS370にて、S350にてパターンPWMとして設定したパターン1で、インバータ部32への駆動信号の出力(パターンPWM出力)を開始する。
【0110】
なお、S370にて、パターンPWM出力を開始すると、その後、PWM制御の制御周期(一定時間)毎に発生するオンタイミングで、パターン1に対応した駆動信号がインバータ部32へ出力されて、スイッチング素子Q1~Q6の一部がオン状態になる。
【0111】
次に、S300にて、動作モードは高速モードであると判断された際には、モータ20を上述した後半PWM駆動で高速駆動するために、S420に移行して、インバータ部32への駆動信号の出力方式を、後半PWM出力に設定する。
【0112】
そして、続くS430及びS440では、低速モードでモータ20をパターンPWMで駆動する際に用いられる電流取得初回及び低速駆動初回の各フラグを、それぞれ、「未」に設定し、S450に移行する。
【0113】
S450では、
図3に示す高速駆動用の通電パターンでモータ20を高速回転させる高速回転駆動(後半PWM駆動)を実施し、S380に移行する。
次に、S380では、モータ20の回転数を取得する。具体的には、低速モードでは、後述のPWMキャリア割り込み処理によるロータ位置の更新時間間隔から、モータ20の
回転数を算出し、高速モードでは、位置検出部36からモータ20の回転数を取得する。
【0114】
そして、続くS390では、S380にて取得された回転数が高速判定用の基準回転数Nthより低いか否かを判定し、回転数が基準回転数Nthよりも低い場合には、S400に移行して、動作モードを低速モードに設定し、モータ駆動処理を終了する。
【0115】
また、S390にて、回転数が基準回転数Nth以上であると判断された場合には、S410に移行して、動作モードを高速モードに設定して、モータ駆動処理を終了する。
次に、制御部30において、モータ20をPWM制御する際に、PWM制御の一周期毎に発振器若しくはタイマから出力されるタイミング信号(キャリア)に対応して、PWM制御の一周期に1回実施される、PWMキャリア割り込み処理について説明する。
【0116】
具体的には、このPWMキャリア割り込み処理は、PWM制御でインバータ部32へ駆動信号を出力してスイッチング素子をオンさせるオンタイミングではなく、その後、所定のオン時間が経過してスイッチング素子をオフさせるオフタイミングに実行される。
【0117】
このPWMキャリア割り込み処理は、低速モードでモータ20をパターンPWM駆動しているときに、電流検出部34にて検出される電流値に基づき、ロータ位置を更新して、モータ20への通電パターンを切り替える(転流)ための処理である。
【0118】
図10に示すように、PWMキャリア割り込み処理では、まずS500にて、現在の動作モードが低速モードであるか、高速モードであるかを判断し、高速モードであれば、PWMキャリア割り込み処理を終了する。
【0119】
S500にて、動作モードは低速モードであると判断されると、S510に移行して、今回の割り込みは、スッチパターンがパターン1に設定されているときの割り込みであるか、或いは、パターン2に設定されているときの割り込みであるかを判定する。
【0120】
そして、スイッチパターンがパターン1に設定されているときには、S520に移行して、インバータ部32を現在のパターン1で駆動しているときに電流検出部34にて検出される電流値I1を取得し、S530に移行する。
【0121】
S530では、パターンPWMのスイッチパターンを、パターン2に変更して、S540に移行し、電流取得初回フラグが「済」になっているか否かを判断する。
電流取得初回フラグが「済」になっていなければ、現在のロータ位置(回転範囲)でのスイッチパターン(パターン1)による通電が開始された直後であることから、S600に移行し、電流取得初回フラグが「済」になっていれば、S550に移行する。
【0122】
次に、S510にて、今回の割り込みは、スッチパターンがパターン2に設定されているときの割り込みであると判定された場合には、S610に移行する。そして、S610では、インバータ部32を現在のパターン2で駆動しているときに電流検出部34にて検出される電流値I2を取得し、S620に移行する。
【0123】
S620では、パターンPWMのスイッチパターンを、パターン1に変更して、S630に移行し、電流取得初回フラグを「済」に設定した後、S550に移行する。
そして、S550では、S520及びS610にて取得された最新の電流値I1,I2の大小関係を判定して、その大小関係が反転したか否かを判断する。
【0124】
つまり、
図5に示したように、電流値I1,I2の大小関係は、ロータ22の回転に応じて変化し、所定の回転位置(図ではロータ位置:0度)で反転する。
このため、S550では、電流値I1,I2の大小関係が反転したか否かを判断することにより、ロータ22が所定の回転位置(例えば、0度、60度,120度,180度,240度,300度の基準角度)を通過したか否かを判断するのである。
【0125】
そして、S550にて、電流値I1,I2の大小関係は反転していないと判断されると、S600に移行し、電流値I1,I2の大小関係は反転したと判断されると、S560に移行して、ロータ位置を更新する。
【0126】
なお、S550において、電流値I1,I2の大小関係が反転したか否かを最初に判定する際には、前回の大小関係が不明である。このため、この大小関係は、
図4Bに示すように、モータ20の回転範囲及び回転方向毎に初期状態が設定されており、スイッチパターンと共に、制御部30に設けられた不揮発性メモリ30Aに記憶されている。
【0127】
次に、S570では、その更新後のロータ位置に応じて、モータ20を低速駆動するのに用いるスイッチパターン(パターン1、パターン2)を選択する。
そして、S580にて、その選択した2つのスイッチパターンの内の一つ(ここではパターン1)を、インバータ部32を介してモータ20を低速駆動するのに用いるパターンPWMとして設定し、S590に移行する。
【0128】
また、S590では、ロータ位置更新後のモータ駆動を新たに開始するために、電流取得初回フラグを「未」に設定し、S600に移行する。
そして、S600では、現在設定されているスイッチパターン(パターン2又はパターン1)でのパターンPWM出力を開始し、PWMキャリア割り込み処理を終了する。
【0129】
なお、S600にてパターンPWM出力を開始した際には、S370で出力を開始したときと同様、PWM制御のオンタイミングで、現在のスイッチパターンに対応した駆動信号がインバータ部32へ出力され、スイッチング素子Q1~Q6の一部がオンされる。
【0130】
また、制御部30において、S520,S610での電流値I1,I2の取得は、A/D変換を利用することになるが、その、A/D変換のタイミングは、PWM制御でインバータ部32のスイッチング素子をオフするオフタイミングにするとよい。或いは、オフタイミングよりも所定時間前のタイミングで行うようにしてもよい。
【0131】
このようにすれば、
図5に示したパターン1、パターン2で流れる電流の最大値若しくは最大値付近で、電流値I1,I2を取得できるようになり、S550にて大小関係を判定するときの電流値I1,I2の差を大きくすることができる。この結果、電流値I1,I2の大小関係が反転したタイミング(換言すればロータ位置)を、より正確に検知できるようになる。
【0132】
以上説明したように、本実施形態の電動作業機1においては、モータ20の回転数が基準回転数Nth以上となる高速回転時には、制御部30は、位置検出部36にて誘起電圧に基づき検出されるロータ位置に応じて、モータ20を駆動制御する。
【0133】
一方、モータ20の回転数が基準回転数Nthよりも低い低速回転時には、制御部30は、モータ20への通電パターンを切り替える回転範囲毎に、通電パターンとしてパターン1,パターン2のスイッチパターンを設定する。
【0134】
また、モータ20の駆動は、
図11に示すように、PWM制御の周期に同期して、スイッチパターンをパターン1とパターン2の間で交互に切り替えることにより実施する。なお、
図11において、P1はパターン1を表し、P2はパターン2を表す。
【0135】
また、制御部30は、各パターン1,2でモータ20へ通電したとき、スイッチング素子のオフタイミングで、電流検出部34にて検出される電流値I1,I2を取得する。そして、このように取得した電流値I1,I2の大小関係から、ロータ位置を検出し、更新すると共に、その更新後のロータ位置に応じて、モータ20への通電パターン(スイッチパターン)を切り替える。
【0136】
このため、本実施形態の電動作業機1によれば、位置検出部36ではロータ位置を正確に検出できなくなるモータ20の低速回転時であっても、上述したモータ20のパターンPWM駆動によって、ロータ位置を正確に検出できるようになる。
【0137】
よって、モータ20を、極低速回転から高速回転に至る極めて広い回転範囲にて、モータ20の回転位置を把握して、モータ20への通電パターンを適正に制御することができるようになる。
【0138】
また、低速モードにて、インバータ部32の各スイッチング素子を駆動するスイッチパターンは、パターン1とパターン2の両方で、モータ20のロータ22に回転トルクを発生させるように設定されている。
【0139】
このため、本実施形態の電動作業機1によれば、上述した従来装置のように、モータ20の低速駆動時に、ロータ位置検出のために、モータ20に回転トルクが発生しない駆動停止期間が生じ、モータ20の加速特性が低下するのを抑制できる。また、モータ20の出力軸に負荷が加わった場合に、モータ20の回転が停止するのを抑制できる。
【0140】
また、本実施形態では、スイッチパターンを切り替えることによって生じる電流値I1,I2の差が反転したときに、ロータ位置を検出することから、従来のように、電流値I1,I2からインダクタンスを算出する必要はない。このため、インダクタンスを算出するために、制御部30に高速演算が可能な高価な演算回路を設ける必要がなく、装置構成を簡単にして、低コストで実現できる。
(第1変形例)
次に、第1実施形態の変形例(第1変形例)について説明する。
【0141】
本実施形態では、制御部30は、低速モードで、パターン1,2の各スイッチパターンでモータ20へ通電した際、スイッチング素子のオフタイミングで電流値I1,I2を取得し、その大小関係から、ロータ位置を検出する。
【0142】
このため、スイッチング素子のオンタイミングで、ブラシレスモータ20の巻線に還流電流または回生電流が流れていると、電流値I1,I2が還流電流または回生電流の分だけ増加して、電流値I1,I2の大小関係からロータ位置を正確に検出することができなくなる。
【0143】
つまり、PWM制御のオフタイミングで、直流電源としてのバッテリパック18からブラシレスモータ20への通電経路を遮断しても、ブラシレスモータ20には、スイッチング素子Q1~Q6に備えられている周知の寄生ダイオードを介して電流が流れる。
【0144】
そして、この電流(つまり還流電流または回生電流)が、PWM制御のオンタイミングでゼロになっていないと、
図12に示すように、オンタイミングton後、還流電流または回生電流は、バッテリパック18からブラシレスモータ20への通電経路に流れる。
【0145】
この結果、その後、電流検出部34にて検出される電流値は、還流電流分または回生電
流分だけ高くなり、オフタイミングで検出される電流値I1,I2の大小関係からロータ位置を正確に検出することができなくなるのである。
【0146】
そこで、本変形例では、PWM制御のオンタイミングtonで、電流検出部34を介して、還流電流または回生電流を通電開始電流値I11,I21として検出し、PWM制御のオフタイミングでは、電流検出部34を介して通電終了電流値I12,I22を検出する。
【0147】
そして、このように検出した通電終了電流値I12,I22から、通電開始電流値I11,I21をオフセット値として減算し、その減算結果である差分(I12-I11,I22-I21)を、
それぞれ、位置検出用の電流値I1,I2として取得する。
【0148】
この結果、本変形例によれば、PWM制御の1周期内で還流電流または回生電流をゼロにすることのできない使用条件下でブラシレスモータ20を駆動しても、還流電流または回生電流の影響を受けることなく、ブラシレスモータ20の回転位置を検出することができるようになる。
【0149】
なお、上記のように通電開始電流値I11,I21を取得するには、
図13に示すように、PWM制御のオンタイミングでも、PWMキャリア割り込み処理を実行する。
そして、このPWMキャリア割り込み処理では、まず、S650にて、現在の動作モードが低速モードであるか、高速モードであるかを判断し、高速モードであれば、PWMキャリア割り込み処理を終了する。
【0150】
また、S650にて、動作モードは低速モードであると判断されると、S660に移行して、今回の割り込みは、スッチパターンがパターン1に設定されているときの割り込みであるか、或いは、パターン2に設定されているときの割り込みであるかを判定する。
【0151】
S650にて、スイッチパターンがパターン1に設定されていると判断されると、S670に移行し、電流検出部34を介して、通電開始電流値I11を取得する。
また、S650にて、スイッチパターンがパターン2に設定されていると判断されると、S680に移行し、電流検出部34を介して、通電開始電流値I21を取得する。そして、このように通電開始電流値I11又はI21を取得すると、当該PWMキャリア割り込み処理を終了する。
【0152】
一方、PWM制御のオフタイミングで実行されるPWMキャリア割り込み処理においては、
図14に示すように、S510にて、スイッチパターンがパターン1に設定されていると判断されると、S520の処理に変えて、S522及びS524の処理を実行する。
【0153】
また、S510にて、スイッチパターンがパターン2に設定されていると判断されると、S610の処理に変えて、S612及びS614の処理を実行する。
そして、S522では、電流検出部34を介して通電終了電流値I12を取得し、S524では、通電終了電流値I12と通電開始電流値I11との差分(I12-I11)を、電流値I1として算出し、S530に移行する。
【0154】
また、S612では、電流検出部34を介して通電終了電流値I22を取得し、S614では、通電終了電流値I22と通電開始電流値I21との差分(I22-I21)を、電流値I2として算出し、S620に移行する。
【0155】
このようにPWM制御のオンタイミングとオフタイミングとで、PWMキャリア割り込み処理を実行することで、還流電流または回生電流の影響を受けることなく、インバータ部32のスイッチング素子がオン状態であるときに流れる電流値I1,I2を取得できる
。この結果、本変形例によれば、この電流値I1,I2の大小関係から、ロータ位置を、より正確に検出できるようになる。
【0156】
なお、本実施形態では、モータ20をパターンPWM駆動する際のスイッチパターンは、パターン1とパターン2の2つであるものとして説明したが、
図4Bの点線枠内に記載のように、スイッチパターンとして、パターン3を追加してもよい。
【0157】
つまり、スイッチパターンとして3つ或いは更に多くのパターンを設定しても、PWM制御の制御周期に同期してパターンを順次切り替え、その切り替え前後で得られる電流値の大小関係を判定するようにすれば、上記実施形態と同様にロータ位置を検出できる。
【0158】
また、本実施形態では、インバータ部32をパターン1又はパターン2で駆動して、モータ20を低速駆動する際の、PWM制御一周期当たりのモータ20への通電期間(オン時間)は、モータ20の目標回転数等に応じて設定するものとして説明した。
【0159】
しかし、モータ20に流れる電流は、バッテリパック18から供給される電源電圧によって変化し、電源電圧が変動すると、電流値I1,I2も変動する。
このため、各パターン1,2でモータ20を低速駆動する際の、PWM制御一周期当たりのモータ20への通電期間(オン時間)は、モータ20の駆動に用いられる電源電圧の電圧値に応じて、電圧値が低いほどオン時間が長くなるよう、設定するようにしてもよい。
【0160】
このようにすれば、モータ20のパターンPWM駆動時に、電源電圧が変動することにより、ブラシレスモータに流れる電流が変化するのを抑制し、ロータ位置の検出精度を高めることができる。
【0161】
また、本実施形態では、スイッチパターンを切り替えることにより生じる電流値の大小関係は、制御部30を構成するマイクロコンピュータの演算処理にて検出するものとして説明した。
【0162】
これに対して、例えば、複数のスイッチパターンで電流検出部34にて検出される電流値(より好ましくはピーク電流値)を、制御部30外部の保持回路に記憶させ、各記憶回路に記憶された電流値を、コンパレータ等の比較回路で比較するようにしてもよい。つまり、スイッチパターンを切り替えることにより生じる電流値の大小関係を、制御部30の外部回路で判定するようにしてもよい。
【0163】
このようにすれば、制御部30は、外部回路で判定された大小関係を読み込み、大小関係が反転したか否かを判断するだけで良いため、制御部30の処理負荷を軽減することができる。
[第2実施形態]
次に、第1実施形態では、モータ20をパターンPWM駆動にて低速駆動しているときに、スイッチパターンの切り替えにより生じる電流値の大小関係から、ロータ位置を検出するものとして説明した。
【0164】
しかし、ロータ位置は、スイッチパターンを切り替えることにより生じるインダクタンスの大小関係から検出できる。
このため、ロータ位置を検出するためには、第1実施形態のように、スイッチパターンをパターン1,2に順次切り替えてモータ20を低速駆動したときの電流値を検出する必要はなく、その電流値が所定の閾値に達するまでの時間を計測するようにしてもよい。
【0165】
そこで、本実施形態では、電流値が所定の閾値に達するまでの時間を計測して、その時間の大小関係から、ロータ位置を検出するようにした、電動作業機について説明する。
本実施形態の電動作業機1は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0166】
図15に示すように、本実施形態の制御ユニット3には、制御部30、インバータ部32、電流検出部34及び位置検出部36に加えて、電流値比較部38が備えられている。
電流値比較部38は、電流検出部34にて検出される電流値と、制御部30から出力される閾値としての参照電流値とを比較し、モータ20への通電により検出された電流値が上昇して参照電流値に達したときに、制御部30に信号を出力するよう構成されている。
【0167】
また、制御部30は、第1実施形態のPWMキャリア割り込み処理に変えて、
図18に示す電流値比較部出力信号割り込み処理と、
図19に示すPWMタイマオーバーフロー割り込み処理を実施する。尚、PWMタイマは、PWM制御の一周期を計時するタイマカウンタである。
【0168】
また、制御部30は、
図16に示すように、モータ停止処理において、電流取得初回フラグを「未」に設定するS210の処理に変えて、S212,S214の処理を実行する。
【0169】
また、
図17に示すように、モータ駆動処理において、S340とS350の間に、S345の処理を実行し、S370の処理に変えて、S362,S364及びS375の処理を実行し、更に、S300からS420に移行する間に、S415の処理を実行する。
【0170】
ここで、モータ停止処理において実行されるS212の処理は、電流値比較部38からの出力信号による割り込み処理(電流値比較部出力信号割り込み処理)を禁止する処理であり、S214の処理は、タイマ値取得初回フラグを「未」に設定する処理である。
【0171】
なお、タイマ値取得初回フラグは、パターン1でのモータ20の駆動開始後、PWMタイマからタイマ値を取得したか否かを判定するのに用いられるフラグである。
次に、モータ駆動処理において実行されるS345の処理は、モータ20をパターン1又はパターン2で駆動したときにPWMタイマから得られるタイマ値T1,T2の大小関係の初期状態を設定する処理である。
【0172】
尚、タイマ値T1,T2の大小関係の初期状態は、
図4Bの右欄に例示するように、電流値I1,I2の大小関係の初期状態と同様、モータ20の回転範囲及び回転方向毎に予め設定されており、スイッチパターンと共に不揮発性メモリ30Aに記憶されている。このため、S345では、不揮発性メモリ30Aから、電流値I1,I2の大小関係の初期状態を読み込み、設定する。
【0173】
また、モータ駆動処理において実行されるS362においては、電流値比較部38からの出力信号による割り込みを許可し、S364においては、PWMタイマに初期値を設定する。また、S375では、上記実施形態のS370と同様、S350にてパターンPWMとして設定したパターン1で、インバータ部32への駆動信号の出力(パターンPWM出力)を開始すると共に、PWMタイマによる計時(カウント動作)を開始する。
【0174】
この結果、パターン1でインバータ部32への駆動信号を出力すると、同時にPWMタイマが初期値から起動されて、PWM制御の制御周期が計時される。そして、PWMタイマがPWM制御の制御周期を計時すると、PWMタイマがオーバーフローし、
図19に示すPWMタイマオーバーフロー割り込み処理が実行される。
【0175】
このPWMタイマオーバーフロー割り込み処理においては、
図19に示すように、S910にて、PWMタイマによるカウント動作を停止し、S920にて、S364と同様、PWMタイマに、PWM制御の制御周期をカウントさせるための初期値を設定する。
【0176】
また、続くS930では、パターンPWMとして現在設定されているパターン1又はパターン2で、インバータ部32への駆動信号の出力(パターンPWM出力)を開始すると共に、PWMタイマによる計時(カウント動作)を開始する。そして、S930の処理実行後は、PWMタイマオーバーフロー割り込み処理を終了する。
【0177】
この結果、
図20,
図21に示すように、PWMタイマは、初期値からオーバーフローするまでの時間を、PWM制御の周期を1周期として、タイマ値をカウントアップすることになる。
【0178】
次に、
図18に示すように、電流値比較部出力信号割り込み処理においては、まずS700にて、低速モードでのパターンPWM出力を停止させる。そして、続くS710では、今回の割り込みは、スッチパターンがパターン1に設定されているときの割り込みであるか、或いは、パターン2に設定されているときの割り込みであるかを判定する。
【0179】
そして、スイッチパターンがパターン1に設定されているときには、S720に移行して、PWMタイマから現在のタイマ値T1を取得し、続くS730にて、パターンPWMのスイッチパターンを、パターン2に変更して、S740に移行し、タイマ値取得初回フラグが「済」になっているか否かを判断する。
【0180】
タイマ値取得初回フラグが「済」になっていなければ、現在、動作モードが低速モードに切り替えられた直後であることから、電流値比較部出力信号割り込み処理を終了し、タイマ値取得初回フラグが「済」になっていれば、S750に移行する。
【0181】
また、S710にて、今回の割り込みは、スッチパターンがパターン2に設定されているときの割り込みであると判定された場合には、S810に移行する。そして、S810では、PWMタイマから現在のタイマ値T2を取得し、S820に移行する。
【0182】
S820では、パターンPWMのスイッチパターンを、パターン1に変更して、S830に移行し、タイマ値取得初回フラグを「済」に設定した後、S750に移行する。
そして、S750では、S720及びS810にて取得された最新のタイマ値T1,T2の大小関係を判定して、その大小関係が反転したか否かを判断する。
【0183】
つまり、電流値比較部38は、電流検出部34にて検出される電流値が参照電流値に達したときに、割り込み用の信号を出力する。このため、タイマ値T1,T2は、
図20に示すように、パターン1,2でインバータ部32の駆動を開始してから、電流値が0から参照電流値に達するまでの時間を表す値となる。
【0184】
そして、これら各タイマ値T1,T2は、モータ20のインダクタンス、延いては、回転位置に応じて変化することになり、電流値I1,I2の大小関係と同様、所定の回転位置で大小関係が反転する。
【0185】
このため、S750では、タイマ値T1,T2の大小関係が反転したか否かを判断することにより、ロータ22が所定の回転位置(例えば、0度、60度,120度,180度,240度,300度の基準角度)を通過したか否かを判断するのである。
【0186】
そして、S750にて、タイマ値T1,T2の大小関係は反転していないと判断されると、電流値比較部出力信号割り込み処理を終了し、タイマ値T1,T2の大小関係は反転したと判断されると、S760に移行して、ロータ位置を更新する。
【0187】
なお、S750において、タイマ値T1,T2の大小関係が反転したか否かを最初に判定する際には、前回の大小関係として、不揮発性メモリ30Aに記憶されたタイマ値の大小関係の初期状態が利用される。
【0188】
次に、S770では、更新後のロータ位置に応じて、モータ20を低速駆動するのに用いるスイッチパターン(パターン1、パターン2)を選択する。
そして、S780にて、次回のタイマ値T1、T2の大小関係と比較するための初期状態として、今回のタイマ値T1,T2の大小関係をRAM等に記憶し、S790に移行する。
【0189】
S790では、S770で選択した2つのスイッチパターンの内の一つ(ここではパターン1)を、インバータ部32を介してモータ20を低速駆動するのに用いるパターンPWMとして設定し、S800に移行する。
【0190】
そして、S800では、ロータ位置更新後のモータ駆動を新たに開始するために、タイマ値取得初回フラグを「未」に設定し、電流値比較部出力信号割り込み処理を終了する。
以上説明したように、本実施形態の電動作業機1においては、第1実施形態と同様、PWM制御の制御周期に同期して、スイッチパターンをパターン1とパターン2の間で交互に切り替える。
【0191】
そして、
図21に示すように、その切換後の通電により、モータ20に流れる電流が参照電流値に達するまでの時間を、PWMタイマのカウント値を利用して、タイマ値T1,T2として計測する。
【0192】
そして、このようにタイマ値T1,T2を計測する度に、前回計測したタイマ値T2,T1との大小関係を検出し、検出した大小関係が前回検出した大小関係(若しくは初期状態)から反転したときに、モータ20の回転位置を検出して、通電パターンを切り替える。
【0193】
このため、本実施形態においても、モータ20を、極低速回転から高速回転に至る極めて広い回転範囲にて、モータ20の回転位置を把握して、モータ20への通電パターンを適正に制御することができるようになり、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0194】
また、本実施形態では、電流検出部34にて検出された電流値は、電流値比較部38にて参照電流値と比較するのに用いられ、ロータ位置を検出するために、A/D変換器を使って電流値をA/D変換して、制御部30に入力する必要がない。
【0195】
このため、制御部30に、電流値を高速にA/D変換可能なA/D変換器を設ける必要がなく、制御部30の構成を簡単にすることができる。
(第2変形例)
次に、第2実施形態の変形例(第2変形例)について説明する。
【0196】
本実施形態では、制御部30は、低速モードで、パターン1,2の各スイッチパターンでモータ20へ通電した際、電流検出部34にて検出される電流値が参照電流値に達するまでの時間を、タイマ値T1,T2として計測する。
【0197】
このため、第1変形例で説明したように、インバータ部32のスイッチング素子をオンして通電を開始したときに還流電流または回生電流が流れていれば、計測したタイマ値T1,T2の大小関係から、ブラシレスモータ20の回転位置を正確に検出することができなくなる。
【0198】
つまり、
図22に示すように、PWM制御の一周期内に還流電流または回生電流をゼロにできない場合、PWM制御のオンタイミングtonで電流検出部34にて検出される電流値は、還流電流分または回生電流だけ高くなる。
【0199】
このため、電流値比較部38に出力する参照電流値を一定にしていると、タイマ値T1,T2が、電流値が所定の閾値分上昇するのに要する時間とはならず、タイマ値T1,T2の大小関係からロータ位置を正確に検出することができなくなるのである。
【0200】
そこで、本変形例では、PWM制御のオンタイミングtonで、電流検出部34を介して、還流電流または回生電流を通電開始電流値Istとして検出し、電流値比較部38に出力する参照電流値を、所定の閾値と通電開始電流値Istとを加算した電流値に設定する。
【0201】
この結果、タイマ値T1,T2は、PWM制御のオフタイミングでバッテリパック18からブラシレスモータ12への通電経路を導通させてから、ブラシレスモータ12に流れる電流が所定の閾値分だけ上昇するのに要した時間となる。
【0202】
従って、本変形例においても、第1変形例と同様、PWM制御の1周期内で還流電流または回生電流をゼロにすることのできない使用条件下でブラシレスモータ20を駆動しても、還流電流または回生電流の影響を受けることなく、ブラシレスモータ20の回転位置を検出することができる。
【0203】
なお、上記のように参照電流値を設定するには、
図23に示すように、PWMタイマオーバーフロー割り込み処理において、S930にて、インバータ部32へ駆動信号を出力して、PWMタイマによる計時を開始した後、S940及び950の処理を実行する。
【0204】
そして、S940では、そのとき電流検出部34にて検出されている電流値を、通電開始電流値Istとして取得し、S950では、その通電開始電流値Istを、予め設定された閾値に加算することで、電流値比較部38に出力する参照電流値を設定する。
【0205】
このように参照電流値をPWM制御の一周期毎に更新することで、バッテリパック18からブラシレスモータ20への通電開始後、電流値が閾値分だけ上昇するのに要する時間を、タイマ値T1,T2として取得できるようになる。
【0206】
なお、本実施形態では、電流値が参照電流値に達したときに、パターンPWM出力を停止するものとして説明したが、電流値が参照電流値に達した後も、パターンPWM出力を継続して、更に多くの電流を流し、より大きな回転トルクを発生させるようにしてもよい。
[他の実施形態]
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態及び変形例に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0207】
例えば、上記実施形態では、モータ20は、ロータ22に磁石が埋め込まれたIPM型の3相ブラシレスモータであるものとして説明したが、ロータ22の周りに磁石が貼り付
けられたSPM(Surface Permanent Magnet)型のブラシレスモータであってもよい。
【0208】
つまり、本開示は、ロータの回転位置によってステータ巻線のインダクタンスが変化するブラシレスモータであれば、SPM(Surface Permanent Magnet)型のブラシレスモータであっても、上記と同様に適用できる。
【0209】
また、上記実施形態では、ブラシレスモータにおいて、各相の端子に対しロータ巻線が△結線されているが、本開示は、ロータ巻線がY結線されたブラシレスモータであっても、上記と同様に適用できる。
【0210】
また、上記実施形態では、S550又はS750の判定処理で、電流値I1,I2の大小関係、若しくは、タイマ値T1,T2の大小関係が反転したことを判定すると、S560又はS760にて、ロータ位置を更新するものとして説明した。
【0211】
しかし、モータ20のインダクタンスや、これに対応した電流値、或いはタイマ時間、の大小関係は、ノイズ等によって入れ替わることも考えられる。このため、S550又はS750にて大小関係が反転したことを検出すると、その後、複数回大小関係を判定して、大小関係が再度反転しないことを確認してから、ロータ位置を更新するようにしてもよい。
【0212】
このようにすれば、モータ20のインダクタンスや、これに対応した電流値、或いはタイマ時間、の大小関係が、ノイズ等によって一時的に入れ替わった場合に、ロータ位置を誤って検出し、更新するのを抑制できる。
【0213】
また、上記実施形態では、モータ20の所定の回転位置(ロータ位置)を検出すると、通電パターンをその回転位置に応じたスイッチパターン(パターン1,パターン2)に変更するが、その変更直後は、モータ20に流れる電流値が不安定になることがある。
【0214】
従って、
図11及び
図21に示すように、モータ20の所定の回転位置を検出して、通電パターンを切り替えた際には、所定のマスク期間だけ、電流値I1,I2若しくはタイマ値T1,T2の大小関係を判定するのを禁止するようにしてもよい。
【0215】
また、上記実施形態では、本開示の電動作業機として、草刈機を例にとり説明したが、本開示の技術は、動力源としてブラシレスモータを備えた電動作業機であれば、上記実施形態と同様に適用することができる。
【0216】
つまり、本開示の技術は、石工用、金工用、木工用の電動工具や、園芸用の作業機等に適用することができる。より具体的には、電動ハンマ、電動ハンマドリル、電動ドリル、電動ドライバ、電動レンチ、電動グラインダ、電動マルノコ、電動レシプロソー、電動ジグソー、電動ハンマ、電動カッター、電動チェンソー、電動カンナ、電動釘打ち機(鋲打ち機を含む)、電動ヘッジトリマ、電動芝生バリカン、電動刈払機、電動クリーナ、電動ブロア、電動噴霧器、電動散布機、電動集塵機、といった各種電動作業機に適用することができる。
【0217】
また、上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換し
てもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0218】
1…電動作業機、3…制御ユニット、4…駆動ユニット、8…操作・表示ユニット、10…トリガスイッチ、18…バッテリパック、20…モータ、22…ロータ、24A~24C…巻線、30…制御部、30A…不揮発性メモリ、32…インバータ部、34…電流検出部、36…位置検出部、38…電流値比較部、Q1~Q6…スイッチング素子。