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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】ハンドシステム及びハンド
(51)【国際特許分類】
   B65H 3/08 20060101AFI20231219BHJP
   B65H 7/12 20060101ALI20231219BHJP
   B25J 15/06 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B65H3/08 350A
B65H3/08 360F
B65H7/12
B25J15/06 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022514050
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014393
(87)【国際公開番号】W WO2021206028
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020069322
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169856
【弁理士】
【氏名又は名称】尾山 栄啓
(72)【発明者】
【氏名】金澤 曜平
(72)【発明者】
【氏名】赤川 直樹
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-078284(JP,U)
【文献】国際公開第2018/105121(WO,A1)
【文献】特開2000-103545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 3/08
B65H 7/12
B25J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ワークを流体効果で吸引する吸引パッドと、
前記吸引パッドに配設された少なくとも三つの電極と、
前記電極のうちそれぞれ任意の二つの電極と前記ワークとの接触で形成される電気回路の電気的特性を測定する電気的特性測定器と、
を備える、ハンドシステム。
【請求項2】
前記ワークの取出し個数を前記電気的特性に基づき判定する判定部をさらに備える、請求項1に記載のハンドシステム。
【請求項3】
前記ワークの保持状態の良否を前記電気的特性の組み合せに基づき判定する判定部をさらに備える、請求項1に記載のハンドシステム。
【請求項4】
前記ワークの取出し個数及び前記ワークの保持状態の良否を前記電気的特性に基づき同時に判定する判定部をさらに備える、請求項1に記載のハンドシステム。
【請求項5】
前記ワークの取出し個数に応じて流体の流圧又は流量を調整する流体調整装置をさらに備える、請求項2又は4に記載のハンドシステム。
【請求項6】
前記流体調整装置は前記ワークが一つになるまで前記流圧又は前記流量の調整を繰り返す、請求項5に記載のハンドシステム。
【請求項7】
前記ワークの保持状態の良否に応じて前記ワークの搬送速度を調整する搬送装置をさらに備える、請求項2又は4に記載のハンドシステム。
【請求項8】
前記ワークが通気性ワークであり、前記吸引パッドが流体を噴出するノズルを備えた非接触パッドである、請求項1から7のいずれか一項に記載のハンドシステム。
【請求項9】
導電性ワークを流体効果で吸引する吸引パッドと、
前記吸引パッドに配設された少なくとも三つの電極であって、当該三つの電極のうちそれぞれ任意の二つの電極と前記ワークとの接触により電気回路を形成可能な少なくとも三つの電極と、を備え、
前記少なくとも三つの電極の各々は、少なくとも前記吸引パッドの吸引面から突出していて前記ワークとの接触に応じて浮揚可能に構成されている、
ハンド。
【請求項10】
前記ワークを吸引した際に前記ワークの位置ずれを抑制する位置ずれ抑制パッドをさらに備える、請求項9に記載のハンド。
【請求項11】
前記少なくとも三つの電極の各々が前記位置ずれ抑制パッドの表面から突出した、請求項10に記載のハンド。
【請求項12】
導電性ワークを流体効果で吸引する吸引パッドと、
前記吸引パッドに配設された少なくとも三つの電極と、
前記電極のうち任意の二つの電極に接点を切替え可能な回転接触子と、
を備える、ハンド。
【請求項13】
前記少なくとも三つの電極が前記吸引パッドの周方向に等間隔で配置され、前記回転接触子が前記電極の配置に応じて所定の中心角を備えた複数の端子を備える、請求項12に記載のハンド。
【請求項14】
前記ワークが通気性ワークであり、前記吸引パッドが流体を噴出するノズルを備えた非接触パッドである、請求項9から13のいずれか一項に記載のハンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハンド技術に関し、特にワークの取出し検知を少ない制約で実施可能なハンドシステム及びハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
ピックアンドプレイス用のハンドとして、多指把持式、電磁吸着式、真空吸着式、ベルヌーイ式といった種々のハンドが知られている。これらハンドを用いてメッシュ等のようなシート状の通気性ワークを取出す場合、多指把持式のハンドでは肉厚がないためワークを取出せないことがある。電磁吸着式のハンドではワークが磁性体に制限されてしまう。真空吸着式のハンドではワークとの間でエアが漏れて真空圧を維持できずワークを吸引できない。従って、このようなシート状の通気性ワークの場合には、圧縮エアの噴出によって生じる負圧でワークを吸引するベルヌーイ式のハンドを用いるのが一般的である。これらハンドに関する技術としては、後述のものが公知である。
【0003】
特許文献1には、圧縮空気噴出ノズルからの圧縮空気の噴出によって発生する吸引力を利用して通気性ワークを非接触で吸引して取出すと共に、取出した通気性ワークを真空吸引ノズルにより真空吸引して保持することにより、複数枚積み重ねられた通気性ワークの一枚ずつの取出しと、真空吸引による通気性ワークの確実な保持を可能にした通気性ワーク取出し・保持装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、積み重ねられたシート状磁性材を電磁吸着式で浮上分離させる分離装置において、シート状磁性材の一側端面に高周波磁界を発生させる励磁コイルを近接配置させ、シート状磁性材の対向する他側端面にシート状磁性材のインピーダンスを検出する検出コイルを近接配置させた渦電流式厚み検知機構を設けることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、フォトマスクの帯電防止方法において、2個の導通ピンをフォトマスクに打込んで導電膜に達したことを電気抵抗測定器でモニターして検出するため、電気抵抗測定器に接続された抵抗検出ピンを吸着パッドに並設し、導通ピンが吸着パッドに吸着したときに抵抗検出ピンが導通ピンと電気的に接触することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-54774号公報
【文献】特開2010-254438号公報
【文献】特開平11-67647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ワークをハンドで取出す際に、ワークを取出せない場合や、ワークを取出せても複数取出してしまう場合や保持状態が良好でない場合等がある。このようなワークの取出し検知(取出し個数の検知、保持状態の検知等)には、電磁誘導式センサや画像認識センサ等を用いることも可能であるが、後述のような問題点があり、適用できないことがある。
【0008】
電磁誘導式接触センサは、磁場を発生してワークを磁化させ、ワークで発生した磁場の磁束量を測定することでワークの取出し検知を行うが、ワークが磁性体に制限されてしまう。また、センサと密着性の良い平面を備えたワークに適しているが、皺が寄っていたり、凹凸があったりするような密着性の悪いワークでは正確に測定できない。また、2ヘッドタイプの電磁誘導式非接触センサでは、N極とS極の磁石間にワークを挿入し、ワークに渦電流を発生させ、渦電流で発生した磁場の磁束量を測定するが、シート状の平板ワークに制限されてしまう。
【0009】
他方、カメラ等の画像認識センサでは、ワークの形状や周囲の環境に応じて画像認識やエラー判定のためのパラメータを切替える必要が生じ、煩雑になる。また、シート状のワークの場合、ワーク同士の外形が一致した状態で密着していると、一枚なのか複数枚なのか判定できないことがある。さらに、画像認識センサではシステム全体が高価なものになり、ハンドシステムが高コスト化する。
【0010】
そこで、ワークの取出し検知を少ない制約で実施可能なハンド技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、導電性ワークを流体効果で吸引する吸引パッドと、吸引パッドに配設された少なくとも三つの電極と、該電極のうちそれぞれ任意の二つの電極とワークとの接触で形成される電気回路の電気的特性を測定する電気的特性測定器と、を備える、ハンドシステムを提供する。
本開示の他の態様は、導電性ワークを流体効果で吸引する吸引パッドと、吸引パッドに配設された少なくとも三つの電極であって、当該三つの電極のうちそれぞれ任意の二つの電極と前記ワークとの接触により電気回路を形成可能な少なくとも三つの電極と、を備え、少なくとも三つの電極の各々は、少なくとも吸引パッドの吸引面から突出していてワークとの接触に応じて浮揚可能に構成されている、ハンドを提供する。
本開示の別の態様は、導電性ワークを流体効果で吸引する吸引パッドと、吸引パッドに配設された少なくとも三つの電極と、該電極のうち任意の二つの電極に接点を切替え可能な回転接触子と、を備える、ハンドを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、ハンドが少なくとも三つの電極を備えることでワークの保持状態を検知できるようになる。また、任意の二つの電極とワークとの接触で形成される電気回路の電気的特性を測定することでワークの取出し個数も検知できるようになる。電気的特性の測定でワークの取出しを検知するため、ワークは磁性体に制限されず導電体であればよい。さらに、ワーク同士の外形が一致した状態で密着していてもワークの取出し検知が可能である。従って、ワークの取出し検知(取出し個数の検知、保持状態の検知等)を少ない制約で実施できることになる。
本開示の他の態様によれば、電極が吸引パッドから突出していることでワークを非接触で保持するベルヌーイ式のハンドであってもワークの取出し検知を実施できるようになる。また、皺が寄っていたり、凹凸があったりするような密着性の悪いワークであっても電極がワーク形状に倣って浮揚可能であるため、ワークの取出し検知を少ない制約で実施できることになる。
本開示の別の態様によれば、回転接触子が任意の二つの電極に接点を切替え可能であるため、電極の数が増大しても一つの電気的特性測定器だけで任意の電極間の電気的特性値を測定できるようになる。ひいては、ワークの取出し検知を少ない制約で実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態におけるハンドシステム及びハンドを示す斜視図である。
図2A】一実施形態における吸引パッドの底面を示す底面図である。
図2B】一実施形態における吸引パッドのA-A線断面を示す一部断面図である。
図3A】面合わせ電極を備えた吸引パッドの断面を示す一部断面図である。
図3B】突出した浮揚可能な電極を備えた吸引パッドの断面を示す一部断面図である。
図4】ハンドシステムの制御構成の一例を示すブロック図である。
図5】電極が三つの場合の電気回路の一例を示すブロック図である。
図6】ハンドシステムの動作例を示すフローチャートである。
図7】電極が四つの場合の電気回路の一例を示すブロック図である。
図8】電極が三つの場合の回転接触子の構成例を示す平面図である。
図9】電極が三つの場合の回転接触子の動作例を示す平面図である。
図10】電極が四つの場合の回転接触子の構成例を示す平面図である。
図11】電極が四つの場合の回転接触子の動作例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号が付与されている。また、以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。
【0015】
図1は本実施形態におけるハンドシステム1を示している。ハンドシステム1は、ワークWを取出すハンド10と、取出したワークWを所定の場所へ搬送する搬送装置20と、を備えている。ワークWは、導電性ワークであればよく、例えば金属製メッシュ等の通気性ワークでよいが、タッチパネル用導電性フィルム等の非通気性ワークでもよい。ワークWは、肉厚のないシート状のワークであるが、比較的軽量なものであれば肉厚があるものでもよい。ワークWは、載置装置50に積み重ねられているが、必ずしも積層されていなくてもよい。載置装置50は、固定設置されたワークストッカでよいが、搬送コンベア、シャトル、無人搬送車等の可動の載置装置でもよい。ハンド10は、ワークWをベルヌーイ効果で吸引するベルヌーイ式のハンドであるが、真空吸着式のハンドでもよい。ハンド10は、搬送装置20の端部に取付けたパーム11と、パーム11に固定されていてワークWを流体効果で吸引する吸引パッド12と、を備えている。ハンド10はさらに、吸引パッド12に配設された少なくとも三つの電極13(図2A及び図2Bを参照)と、これら電極13のうち任意の二つの電極13とワークWとの接触で形成される電気回路の電気的特性を測定する電気的特性測定器16と、を備えている。搬送装置20は、多関節ロボット、パラレルリンク型ロボット等の産業用ロボットであるが、ローダ、シャトル、無人搬送車等の搬送装置でもよい。
【0016】
図2Aは吸引パッド12の底面を示しており、図2B図2Aの吸引パッド12のA-A線断面を示している。吸引パッド12は、ベルヌーイ式のハンドの場合、圧縮エア等の流体を噴出するノズル12aを備えた非接触パッドでよく、真空吸着式のハンドの場合、ワークとの間に真空圧を発生させるノズルを備えた吸着パッドでよい。ベルヌーイ式の場合、ノズル12aの側周面に等間隔で複数のノズル孔12bを配設し、圧縮エア等の流体をノズル孔12bから外周方向へ噴出し、ノズル12aの直下に大気圧より低い負圧領域を発生させることで、吸引パッド12がワークを非接触で吸引することになる。
【0017】
電極13は電線14を介して電気的特性測定器16(図1を参照)に夫々接続されている。電気的特性測定器16は任意の二つの電極13とワークとの接触で形成される電気回路の電気的特性を測定する。電気的特性とは、例えば電気抵抗でよいが、電気伝導度、電流等でもよい。電気的特性を測定することでワークの取出し個数を検知できるようになる。例えば図1に示す金属製メッシュのワークを一枚取出した場合には電気抵抗が約0.8Ωになり、二枚纏めて取出した場合には電気抵抗が約0.4Ωになり、三枚纏めて取出した場合には電気抵抗が約0.3Ωになる。つまり枚数が多くなればなる程、電気抵抗が低下するため(又は電気伝導度もしくは電流が増大するため)、ワークの取出し個数を検知できることになる。
【0018】
電極13は、吸引パッド12の周方向、特にノズル12aの外周方向に等間隔で配置されているとよい。少なくとも三つの電極13を備えることでワークの保持状態の良否を検知できるようになる。例えばどの電極13の組み合わせでもワークを検知できた場合には、ワークの保持状態が良好であると判定でき、一部の電極13の組み合わせでワークを検知できた場合には、ワークの保持状態が良好でないと判定でき、どの電極13の組み合わせでもワークを検知できなかった場合には、ワークの取出しができていないと判定できるようになる。このように電気的特性の測定でワークの取出し検知(取出し個数の検知、保持状態の検知等)が可能になるため、ワークは磁性体に限らず導電体でよい。また、ワーク同士の外形が一致した状態で密着していてもワークの取出し検知が可能である。従って、ワークの取出し検知を少ない制約で実施できることになる。
【0019】
ハンド10はワークを吸引した際にワークの位置ずれを抑制する位置ずれ抑制パッド15をさらに備えているとよい。位置ずれ抑制パッド15は、例えば軟質ゴム、スポンジ等の柔軟材料で形成されていてワークを相対移動させない表面粗さ又は高い摩擦係数を備えたものがよい。位置ずれ抑制パッド15の表面15aは吸引パッド12の吸引面12cから突出しているとよい。これにより、ワークを傷めることなく吸引パッド12に対するワークの横ずれを抑制できるようになる。
【0020】
電極13の先端は、少なくとも吸引パッド12の吸引面12cから突出しているか、又は位置ずれ抑制パッド15を備える場合には位置ずれ抑制パッド15の表面15aから突出しているとよい。これにより、ワークを非接触で保持するベルヌーイ式のハンドであってもワークの取出し検知を実施できるようになる。また、ワークを吸着して保持する真空吸着式のハンドの場合には、電極13の先端を吸引パッド12の吸引面12c又は位置ずれ抑制パッド15の表面15aに合わせて位置決めしてもよい。
【0021】
さらに電極13はワークとの接触に応じて浮揚可能であることが好ましい。例えば電極13を格納する電極筒13aを用意し、電極筒13aの中にばね13bを配置して電極13をばね13bで付勢し、電極筒13aを吸引パッド12の側壁等に係止部材13cで係止し、電極13を吸引パッド12の吸引面12c又は位置ずれ抑制パッド15の表面15aから突出させるとよい。これにより、電極13がワークとの接触に応じてばね13bによって付勢されながら吸引パッド12の中へ引っ込み(即ち、浮揚し)、ワークが電極13と位置ずれ抑制パッド15の双方に接触する。皺が寄っていたり、凹凸があったりするような密着性の悪いワークに対しても電極13がワーク形状に倣って浮揚可能であるため、ワークの取出し検知を少ない制約で実施できることになる。
【0022】
図3Aは面合わせ電極13を備えた吸引パッド12の一部断面を示し、図3Bは突出した浮揚可能な電極13を備えた吸引パッド12の一部断面を示している。図3Aに示すように吸引パッド12の吸引面12c又は位置ずれ抑制パッドの表面15aに合わせて位置決めした電極13では、皺が寄っているようなワークWに電極13が接触しないことがあり、この場合、ワークWの取出し検知を実施できなくなる。他方、図3Bに示すように吸引パッド12の吸引面12c又は位置ずれ抑制パッドの表面15aから突出していて矢印方向に浮揚可能な電極13では、皺が寄っていたり、凹凸があったりするような密着性の悪いワークWであっても電極13がワーク形状に倣って浮揚可能であるため、ワークWの取出し検知を実施できるようになる。
【0023】
図4はハンドシステム1の制御構成の一例を示している。ハンドシステム1は、ハンド10及び搬送装置20を制御する制御装置30をさらに備えている。制御装置30は、CPU(central processing unit)、FPGA(field-programmable gate array)、ASIC(application specific integrated circuit)等のプロセッサ又は半導体集積回路を備えたコンピュータ装置である。制御装置30は、ワークの取出し検知(取出し個数の検知、保持状態の検知等)を電気的特性に基づき判定する判定部31と、判定部31の判定結果に基づき流体調整装置17を制御する流体制御部33と、判定部31の判定結果に基づき搬送装置20を制御する搬送制御部32と、を備えている。
【0024】
例えば判定部31は、任意の二つの電極13間の電気的特性の実測値と基準値との比較でワークの取出し個数を判定し、任意の二つの電極13間の電気的特性の実測値と基準値との比較の組み合わせでワークの保持状態の良否を判定するとよい。図5は電極が三つの場合の電気回路の一例を示している。この例では、ハンド10が三つの電気的特性測定器を備えており、第一電気的特性測定器16が電極A-B間の電気的特性値(第一特性値)を測定し、第二電気的特性測定器16が電極B-C間の電気的特性値(第二特性値)を測定し、第三電気的特性測定器16が電極C-A間の電気的特性値(第三特性値)を測定する。なお、図5において、太い実線は正極側の電線を表し、細い実線は負極側の電線を表していることに留意されたい。第一特性値から第三特性値は、制御装置30(判定部31)で適宜読み出されて使用される。判定部31は、例えば次表に示す論理判定式に従い、第一特性値から第三特性値を用いてワークの取出し個数とワークの保持状態の良否を判定するとよい。
【0025】
【表1】
【0026】
図4を再び参照すると、流体制御部33は判定部31で検知したワークの取出し個数に応じて流体の流圧又は流量の調整指令を流体調整装置17に送出するとよい。流体調整装置17は、例えば流体の流圧又は流量を調整可能な電磁弁でよく、吸引パッドに接続するエアチューブ上に配設されているとよい。流体調整装置17は流体制御部33の調整指令に基づき流体の流圧又は流量を調整する。例えば流体調整装置17は、複数取出しが検知された場合には流体の流圧又は流量を低減させ、取出しゼロを検知した場合には流体の流圧又は流量を増大させるとよい。流体調整装置17は、ワークが一つになるまで流圧又は流量の調整を繰り返すとよい。
【0027】
搬送制御部32は判定部31で検知したワークの保持状態の良否に応じてワークの搬送速度の調整指令を搬送装置20に送出するとよい。搬送装置20は搬送制御部32の調整指令に基づきワークの搬送速度を調整する。例えば搬送装置20は、ワークの保持状態の不良が検知された場合にはワークの搬送速度を低下させ、ワークの保持状態の良好が検知された場合にはワークの搬送速度を増加させるとよい。
【0028】
図6はハンドシステムの動作例を示している。先ず事前準備として、ワークの品種毎に、(1)任意の二つの電極13とワーク1個との接触で形成される電気回路の基準特性値を測定して制御装置30(判定部31)に設定し、(2)ワーク1個の吸引に要する基準流圧又は基準流量を測定して制御装置30(判定部31)に設定しておく。
【0029】
ステップS10では、オペレータがワークの品種番号を制御装置30に入力することで、制御装置30が予め設定された基準特性値及び基準流圧又は基準流量を読み出す。ステップS11では、制御装置30が搬送装置20をワークの上面に移動させる。ステップS12では、制御装置30が搬送装置20を降下させてワークの取出し位置に移動させる。ステップS13では、制御装置30がワークの品種番号に応じた基準流圧又は基準流量に流体調整装置17を調整して吸引力を発生させる。
【0030】
ステップS14では、制御装置30が任意の二つの電極13間の電気的特性に基づいてワークの取出し個数を判定する。ステップS14で取出しゼロが検知された場合には、ステップS15に進んで流体調整装置17が流体の流圧又は流量を増大させてワークの吸引力を上げる。ステップS14で複数取出しが検知された場合には、ステップS16に進んで流体調整装置17が流体の流圧又は流量を低減させてワークの吸引力を下げる。そして、ステップS14に戻り、再び制御装置30が任意の二つの電極13間の電気的特性に基づいてワークの取出し個数を判定する。ステップS14~ステップS16の処理は一つのワークを取出すまで繰り返す。
【0031】
ステップS14で一つ取出しが検知された場合には、ステップS17に進み、制御装置30が任意の二つの電極13間の電気的特性の組み合わせに基づいてワークの保持状態の良否を判定する。ステップS17で保持状態の不良が検知された場合には、ステップS18に進んで搬送装置20がワークの搬送速度を低下させて搬送時にワークを振り落とさないようにする。ステップS17で保持状態の良好が検知された場合には、ステップS19に進んで搬送装置20がワークの搬送速度を増加させて搬送時にワークを高速に搬送するようにする。そしてステップS20では、搬送装置20がワークを所定の場所へ搬送する。なお、ステップS14の取出し個数の判定とステップS17の保持状態の良否の判定は同時に行われてもよい。
【0032】
図7は電極が四つの場合の電気回路の一例を示している。この例では、ハンド10が四つの電気的特性測定器を備えており、第一電気的特性測定器16が電極A-D間の第一特性値を測定し、第二電気的特性測定器16が電極D-C間の第二特性値を測定し、第三電気的特性測定器16が電極A-C間の第三特性値を測定し、第四電気的特性測定器16が電極A-B間の第四特性値を測定し、第五電気的特性測定器16が電極D-B間の第五特性値を測定し、第六電気的特性測定器16が電極C-B間の第六特性値を測定する。なお、図7において、太い実線は正極側の電線を表し、細い実線は負極側の電線を表していることに留意されたい。第一特性値から第六特性値は、制御装置30(判定部31)で適宜読み出されて使用される。このような電気回路の構成では、電極の数が増えれば増える程、電気的特性測定器の数が膨大になる。従って、ハンド10は任意の二つの電極に接点を瞬時に切替えて一つの電気的特性値測定器で電気的特性値を測定できる構成(例えば後述の回転接触子)が望まれる。
【0033】
図8は電極13が三つの場合の回転接触子40の構成例を示している。回転接触子40は電極13の配置に応じて所定の中心角を備えた複数の端子40a、40bを備えている。例えば三つの電極13を吸引パッド12の周方向に等間隔で配置した場合には、回転接触子40が120°の中心角を備えた二つの端子40a、40bを備えているとよい。なお、図8において、黒い矢印は正極側の端子40aを表し、グレーの矢印は負極側の端子40bを表していることに留意されたい。回転接触子40は、例えばモータ等の駆動源(図示せず)によって回転角を制御され、任意の二つの電極13に接点を瞬時に切替えるように構成される。なお、駆動源は制御装置30によって制御するとよい。
【0034】
図9は電極13が三つの場合の回転接触子40の動作例を示している。例えば初期状態では、回転接触子40をどの電極13にも接触しない回転角に位置決めしておく。吸引パッド12がワークを吸引した際に、回転接触子40の接点を電極A-B間に切替えて電気的特性値(第一特性値)を測定し、次いで回転接触子40の接点を電極B-C間に切替えて電気的特性値(第二特性値)を測定し、続いて回転接触子40の接点を電極C-A間に切替えて電気的特性値(第三特性値)を測定する。このように回転接触子40が任意の二つの電極13に接点を切替え可能であるため、電極13の数が増大しても一つの電気的特性測定器16だけで三つの特性値(第一特性値から第三特性値)を測定できるようになる。ひいては、ワークの取出し検知を少ない制約で実施できることになる。
【0035】
図10は電極13が四つの場合の回転接触子40の構成例を示している。例えば四つの電極13を吸引パッド12の周方向に等間隔で配置した場合には、回転接触子40が、90°の中心角を備えた二つの端子41a、41bと、180°の中心角を備えた二つの端子42a、42bと、を備えているとよい。なお、図10において、黒い矢印は正極側の端子41a、41bを表し、グレーの矢印は負極側の端子42a、42bを表していることに留意されたい。回転接触子40は、例えばモータ等の駆動源(図示せず)によって回転角を制御され、任意の二つの電極13に接点を瞬時に切替える。なお、駆動源は制御装置30によって制御するとよい。
【0036】
図11は電極13が四つの場合の回転接触子40の動作例を示している。例えば初期状態では、回転接触子40をどの電極13にも接触しない回転角に位置決めしておく。吸引パッド12がワークを吸引した際に、回転接触子40の接点を電極B-C間に切替えて電気的特性値(第六特性値)を測定し、次いで回転接触子40の接点を電極B-D間に切替えて電気的特性値(第五特性値)を測定し、続いて回転接触子40の接点を電極C-D間に切替えて電気的特性値(第二特性値)を測定し、さらに回転接触子40の接点を電極C-A間に切替えて電気的特性値(第三特性値)を測定し、次いで回転接触子40の接点を電極D-A間に切替えて電気的特性値(第一特性値)を測定し、続いて回転接触子40の接点を電極B-D間に切替えて電気的特性値(第五特性値)を測定し、さらに回転接触子40の接点を電極A-B間に切替えて電気的特性値(第四特性値)を測定し、次いで回転接触子40の接点を電極A-C間に切替えて電気的特性値(第三特性値)を測定する。なお、この動作例では、第五特性値と第三特性値を重複して測定しているが、重複しないように回転接触子40の回転角を制御するとよい。このように回転接触子40が任意の二つの電極13に接点を切替え可能であるため、電極13の数が増大しても一つの電気的特性測定器16だけで六つの特性値(第一特性値から第六特性値)を測定できるようになる。ひいては、ワークの取出し検知を少ない制約で実施できることになる。
【0037】
以上の実施形態によれば、ハンド10が少なくとも三つの電極13を備えることでワークの保持状態を検知できるようになる。また、任意の二つの電極13とワークとの接触で形成される電気回路の電気的特性を測定することでワークの取出し個数も検知できるようになる。電気的特性の測定でワークの取出しを検知するため、ワークは磁性体に制限されず導電体であればよい。さらに、ワーク同士の外形が一致した状態で密着していてもワークの取出し検知が可能である。従って、ワークの取出し検知(取出し個数の検知、保持状態の検知等)を少ない制約で実施できることになる。
【0038】
また、電極13が吸引パッド12から突出していることでワークを非接触で保持するベルヌーイ式のハンドであってもワークの取出し検知を実施できるようになる。また、皺が寄っていたり、凹凸があったりするような密着性の悪いワークであっても電極13がワーク形状に倣って浮揚可能であるため、ワークの取出し検知を少ない制約で実施できることになる。
【0039】
さらに、回転接触子40が任意の二つの電極13に接点を切替え可能であるため、電極13の数が増大しても一つの電気的特性測定器16だけで任意の電極間の電気的特性値を測定できるようになる。ひいては、ワークの取出し検知を少ない制約で実施できる。
【0040】
なお、前述のプロセッサで実行されるプログラムや前述のフローチャートを実行するプログラムは、コンピュータ読取り可能な非一時的記録媒体、例えばCD-ROM等に記録して提供してもよいし、或いは有線又は無線を介してWAN(wide area network)又はLAN(local area network)上のサーバ装置から配信して提供してもよい。
【0041】
本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0042】
1 ハンドシステム
10 ハンド
11 パーム
12 吸引パッド
12a ノズル
12b ノズル孔
12c 吸引面
13 電極
13a 電極筒
13b ばね
13c 係止部材
14 電線
15 位置ずれ抑制パッド
15a 表面
16 電気的特性測定器
17 流体調整装置
20 搬送装置
30 制御装置
31 判定部
32 搬送制御部
40 回転接触子
40a、40b 端子
41a、41b 端子
42a、42b 端子
50 載置装置
W ワーク
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11