(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】化学反応中に酸化還元電位を動的に測定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20231219BHJP
G01N 27/414 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G01N27/416 341Z
G01N27/414 301V
(21)【出願番号】P 2022543683
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 RU2019000861
(87)【国際公開番号】W WO2021076000
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-11-22
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】522285428
【氏名又は名称】クズネツォフ,アレクサンダー イヴジェネヴィチ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】クズネツォフ,アレクサンダー イヴジェネヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クズネツォフ,エヴゲーニイ ワシリエヴィチ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/140354(WO,A1)
【文献】特開2004-166692(JP,A)
【文献】特開2019-158650(JP,A)
【文献】特開2011-215105(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0298529(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/414
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中で進展している化学反応を研究するための、限られた体積を伴う電解質内の酸化還元電位を動的に測定するためのシステムであって、前記電解質の中に浸漬され外部回路に接続された少なくとも1つの基準電極および少なくとも1つの指示電極を含み、
前記基準電極は、前記電解質と電子を自由に交換するように構成され、前記指示電極のインピーダンスと比較して低いインピーダンスを有し、前記基準電極は、定電圧源または共通接地電位に接続され、オフセット電圧が外部回路から前記基準電極に印加され、
前記指示電極は、前記基準電極インピーダンスと比較して高いインピーダンスを有し、それにより、前記電解質の溶液との電子交換を防止し、前記指示電極は、その電位を測定するために外部回路に接続され、
前記基準電極インピーダンスに対する測定電極インピーダンスの比は、少なくとも5であり、
前記基準電極と前記指示電極の間の距離は、1cmを超えず、前記電解質の体積は、10cm
3を超えず、
前記電解質体積を制限する容器は、前記指示電極インピーダンスと比較して高い電解質/ゼロ接地電位インピーダンスを提供し、比は、5以上であるシステム。
【請求項2】
前記基準電極インピーダンスの値は、5Ω~500kΩの間であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記指示インピーダンスの値は、5kΩ以上であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記電解質/ゼロ接地電位は、50kΩ以上であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記指示電極としてイオン感応性電界効果トランジスタを使用し、ゲート誘電体により半導体から隔離された液体ゲートとして液体電解質溶液を使用し、前記基準電極として大面積の金属製電極を使用し、前記金属電極の面積は、前記イオン感応性電界効果トランジスタのゲート面積を、100倍を超えるほど上回ることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記電解質溶液に接触している前記イオン感応性電界効果トランジスタの前記ゲート誘電体の材料として誘電体を使用し、前記誘電体は、以下の誘電体材料:Ta
2O
5、Si
3N
4、ZrO、HfO
2、SiO
2、Al
2O
3、またはこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記イオン感応性電界効果トランジスタの前記誘電体は、以下の貴金属:Ag、Au、Pd、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、またはこれらに基づく組成または合金の中の1つの層でさらにコートできることを特徴とする、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記イオン感応性電界効果トランジスタは、測定中にサブスレッショルドモードまたは逆モードに留まることを特徴とする、請求項5に記載のシステム。
【請求項9】
前記電解質溶液内の電子酸化還元電位の時間的変化に基づき化学過程を研究および調査する目的でデータを得る手段をさらに含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記化学過程を研究および調査する目的で前記データを得る前記手段は、化学反応中のエネルギー変化曲線をプロットするように構成されることを特徴とする、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記化学過程を研究および調査する目的で前記データを得る前記手段は、前記化学反応中の前記エネルギー変化曲線に基づき前記化学反応中の遷移状態を可視化および研究するように構成されることを特徴とする、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記化学過程を研究および調査する目的で前記データを得る前記手段は、前記化学反応中のエネルギー変化の依存性から熱力学定数および運動定数、ならびに前記化学反応の値を得るように構成されることを特徴とする、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
化学反応中に液体電解質溶液内の化学過程を研究および調査するための方法であって、
(a)請求項1~8のいずれか一項に記載のシステムを提供するステップと、
(b)電圧源または共通接地電位を通して定電位に基準電極を接続するステップと、
(c)液体溶液内の電子酸化還元電位変化を決定するステップであって、
(i)外部回路を使用して指示電極で電子電位変化を経時的に決定するステップ、
(ii)前記ステップ(i)で測定した前記変化に基づき、前記電解質内の酸化還元電位の時間的変化曲線を得るステップ
を備えるステップと、
(d)前記酸化還元電位の時間的変化に基づき前記化学過程を研究および調査する目的でデータを得るステップと
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応過程で反応中のエネルギー変化曲線をプロット可能にする、電子の化学ポテンシャルおよび液体内の酸化還元電位の動的変化を測定するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応の研究は、現代の科学分野すべてに影響を及ぼす。化学反応およびこれらの反応に影響を及ぼす条件の研究は、新しい有望な材料を合成および処理するための新しい効果的触媒の開発、有機分子を合成するための新しい方法の開発、および原料処理効率増進で重要な役割を果たす。生物学的過程および関連する生化学反応の研究は、基本的観点からは、生体の機能を覆う秘密のベールを取り除くことができるようにし、実際的観点からは、新薬を開発し既存の医療診断方法を改善できるようにする。多くの工業的過程および探求過程については、化学反応の状態は、溶液内に置かれた不活性電極と基準電極の間の電位に基づき評価できる。この電位は、一般に溶液の酸化還元電位(oxidation-reduction potential、OBP)と呼ばれる。一般に、測定された電位は、不活性電極の酸化還元電位の変化を反映し、基準電極は、電位の変化が測定される基準となる特有の安定点を提供する。
【0003】
従来の電極系は、通常は貴金属から作られた作用電極、およびほとんどの場合金属/塩-金属/溶液系である基準電極から構成される。最も一般的な基準電極は塩化銀電極、水素電極、およびカロメル電極である。これらの電気化学センサの主要な欠点は、測定を遂行するために必要とされる系で平衡を達成する期間が比較的長いこと、分析される液体の体積が比較的大きいこと、および電気化学セル回路でノイズが発生することである。このすべてが測定の感度、費用、および精度に著しく影響を及ぼす。金属腐食、電気回路での短絡、または環境の影響に起因して、寄生電流が発生する可能性がある。その結果、いくつかの電極を使用する必要があることに加えて、従来の電極系は、専用の補償電気回路を開発する必要があり、一般に微小体積測定への適応が十分ではない。
【0004】
酸化還元電位を決定するための従来の電極系に加えて、半導体および光センサもまた存在する。感光性半導体センサは、酸化で色を変える着色剤の色変化を検出することに基づく。半導体センサによる検出過程は、特殊なメディエータ分子を使用することに基づく。従来の機器と比較して、半導体センサには他と明確に区別できる有利な点がいくつもある。何よりもまず、そのようなセンサは、変調およびバックグラウンドノイズが低減されているので非常に低い信号を記録できる。追加で、半導体センサには、半導体センサに基づき携帯型機器を生み出すことを可能にする途方もなくすばらしい小型化の潜在能力がある。
【0005】
酸化還元電位を決定するための現代の光センサおよび半導体センサは、検出回路に少なくとも1つの追加化学反応を付加する追加試薬を使用することに基づく。追加費用、追加ノイズの出現、および測定誤差の増大に加えて、これらの回路により提供される電位の急激なゆらぎに対するシステムの応答は強く制限され、それにより、たとえば化学反応過程で中間体接続の形成により引き起こされる電位の動的変化を経時的に測定するために現代の光センサおよび半導体センサを使用できないようになる。
【0006】
ISFETおよびChemFET(米国特許4020830号明細書)の構造は、溶液のpH値および化合物の濃度を決定するための固体センサとして普及するようになった。これらのセンサは、作業手順を監視するための産業で、食品産業で、および環境モニタリングで使用される。しかしながら、まだ今のところ、化学反応中の電子の化学ポテンシャルまたは酸化還元電位の動的変化を測定するためのツールとしてISFETまたはChemFETを使用することを示すデータは文献にまったく存在しない。
【0007】
上記を考慮して、化学反応の動力学および熱力学を研究するために最終的に使用できる≪反応中のエネルギー変化のバースト≫を検出するための素子を作成することが望ましい。一方では小型化の可能性を有し、他方ではたとえば化学反応中に動的非平衡系で発生する酸化還元電位の非常に小さな急激な変化を直接検出できるようになる素子を作成することもまた望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
開発されている本発明が解決すべき技術的問題、および本発明の技術的結果は、使用すると化学反応の間に中間遷移状態を検出しエネルギー変化を監視することが可能になる2電極系を生み出すことである。
【0010】
さらに別の技術的問題は、電解質内の動的過程を研究するために、たとえば液体内で進展している化学過程を研究するために、開発された2電極系を利用する方法を生み出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
技術的問題は、以下のように解決される。
【0012】
中で進展している化学反応を研究するための、限られた体積を伴う電極で電解質内の酸化還元電位を動的に測定するためのシステムは、電解質の中に浸漬され、かつ外部回路に接続された少なくとも1つの基準電極および少なくとも1つの指示電極を含む。基準電極は、電解質と電子を自由に交換するように構成され、指示電極インピーダンスと比較して低いインピーダンスを有し、基準電極は、定電圧源または共通接地電位に接続され、オフセット電圧が外部回路から基準電極に印加される。指示電極は、基準電極インピーダンスと比較して高いインピーダンスを有し、それにより、電解質溶液との電子交換を防止し、指示電極は、その電位を測定するために外部回路に接続される。その上、測定電極インピーダンスと基準電極インピーダンスの間の比は、少なくとも5であり、基準電極と指示電極の間の距離は1cmを超えず、電解質体積は10cm3以下であり、電解質体積を制限する容器は、指示電極インピーダンスと比較して高い電解質/ゼロ接地電位インピーダンスを5以上の比で提供する。
【0013】
追加で、基準電極のインピーダンスは5Ω~500kΩの間である。
【0014】
追加で、指示電極のインピーダンスは5kΩ以上である。
【0015】
追加で、電解質/ゼロ接地電位インピーダンスは、50kΩ以上である。
【0016】
本発明の一実施形態では、指示電極としてイオン感応性電界効果トランジスタを使用し、液体ゲートとして液体電解質溶液を使用し、基準電極として大面積の金属製電極を使用し、金属製電極の面積は、イオン感応性電界効果トランジスタのゲート面積を、100倍を超えるほど上回る。
【0017】
追加で、電解質溶液に接触するイオン感応性電界効果トランジスタのゲート誘電体材料として誘電体を使用し、前記誘電体は以下の誘電体材料:Ta2O5、Si3N4、ZrO、HfO2、SiO2、Al2O3、またはこれらの組成物から選択される。
【0018】
追加で、イオン感応性電界効果トランジスタの誘電体は、以下の貴金属:Ag、Au、Pd、Pt、Ru、Rh、Ir、Osまたはそれらに基づく組成物または合金の中の1つの層でさらにコートできる。
【0019】
追加で、イオン感応性電界効果トランジスタは、測定中にしきい値前にあるだけではなく逆モードにもある可能性がある。
【0020】
追加で、提案するシステムは、電解質溶液内での電子酸化還元電位の時間的変化に基づき化学過程を研究および探求する目的でデータを得る手段をさらに含む。
【0021】
追加で、化学過程を研究および探求する目的でデータを得る手段は、化学反応中のエネルギー変化曲線をプロットするように構成される。
【0022】
追加で、化学過程を研究および探求する目的でデータを得る手段は、化学反応エネルギー変化曲線に基づき化学反応中の遷移状態を可視化および研究するように構成される。
【0023】
追加で、化学過程を研究および探求する目的でデータを得る手段は、化学反応エネルギー変化に基づき化学反応の熱力学的および動力学的な定数および値を得るように構成される。
【0024】
技術的問題はまた、化学反応中の液体電解質溶液内の化学過程を研究および探求するための方法であって:
(a)上記で記述するシステムを提供する段階と、
(b)電圧源または共通接地電位を通して定電位に基準電極を接続する段階と、
(c)液体溶液内の電子酸化還元電位変化を決定する段階であって、
(i)外部回路を使用して指示電極で電子電位変化を経時的に決定するステップ、
(ii)ステップ(i)で測定した変化に基づき、電解質内の酸化還元電位の時間的変化曲線を得るステップ
を備える段階と、
(d)酸化還元電位の時間的変化に基づき化学過程を研究および探求する目的でデータを得る段階と
を備える方法を生み出すことにより解決される。
【0025】
本明細書に組み入れられ本明細書の一部を形成する添付図面は、本発明の実施形態を例示し、本発明についての上記の一般的記述および実施形態についての以下の詳細な記述と共に本発明の原理を説明する。図面では、同様の番号は、同様の部分または構造要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】電解質内の電子化学ポテンシャルの動的変化を測定するための測定システム、およびその等価電子回路を示す。
【
図2】定常的平衡状態で電極-半導体変位を伴う2電極系の特定の事例である電極-溶液-誘電体-半導体系に関するエネルギー図を示す。簡単にするために、金属電極および半導体接点は、同じ材料から作られる。
【
図3】測定電極と≪電極電圧-ドレイン電流≫変換器を機能的に組み合わせるISFET構造の略図を示す。
【
図4】化学反応過程での電子化学ポテンシャル(酸化還元電位)変化、およびISFETトランジスタによるその変化の検出を示す。
【
図5】SOI基板上に実装されたISFET構造を概略的に示し、大腸菌ニトロ還元酵素は、ゲート誘電体表面上で不動化される。
【
図6】SOI基板上に実装されたISFET構造のボルトアンペア特性を示す。
【
図7】大腸菌ニトロ還元酵素の酵素触媒活性により生じた電子化学ポテンシャル変化の時間曲線を示し、pH7.1で50mMのNa
2HPO
4の中にTNTおよび酵素を追加する異なるシーケンス:A)5mMのNADPH、5・10
-7MのTNT、1・10
-8Mの大腸菌ニトロ還元酵素、B)5mMのNADPH、1・10
-8Mの大腸菌ニトロ還元酵素、1・10
-6MのTNTを伴う。
【
図8】大腸菌ニトロ還元酵素反応により生じた液体ゲート内の酸化還元電位の典型的な動的変化を示し、2つの中間体[E-P1]
*および[E-P2]
*の検出を伴う。
【
図9】ハトの心臓から得られたカルニチンアセチルトランスフェラーゼの生体触媒中に、中間体陰イオンを検出するために使用するバルクシリコン上の半導体構造を示し、酵素の触媒中心での中間複合体の略図を示す。
【
図10】ハトの心臓から得られたカルチニンアセチルトランスフェラーゼの触媒中心で中間複合体を検出する際に使用する半導体構造の典型的なボルト-アンペア特性を示す。
【
図11】ハトの心臓から得られたカルチニンアセチルトランスフェラーゼを伴う生体触媒中に固定された補酵素A濃度(0.18μM)で、異なる濃度のL-カルニチンに関するゲート内の電子化学ポテンシャル変化(酸化還元プロファイル)の時間曲線を示す。
【
図12】ABTSおよびTMBの基板を用いるセイヨウワサビペルオキシダーゼ反応で、ミカエリス(Michaelis)定数を決定するために使用する浮遊タンタルゲートを伴うSOI構造を示す。
【
図13】SOI基板上に実装された浮遊タンタルゲートを伴うISFET構造のボルト-アンペア特性を示す。
【
図14A】反応開始時に500μMの過酸化水素を導入することにより、異なる濃度のTMBとセイヨウワサビペルオキシダーゼ(10
-11M)が反応することに対する半導体構造の反応を示す。
【
図14B】TMBとの反応に関する運動定数計算を示す。
【
図15】2つの複製(1および2)および酵素のない対照標準(3)でのS. cerevisiae(サッカロマイセスセレビシエ)パン酵母から得られたエノラーゼ酵素を伴う生体触媒中の酸化還元プロファイルの動的変化を示す。
【
図16】異なるGAP基板濃度でS. cerevisiaeパン酵母から得られたトリオースリン酸イソメラーゼ酵素を伴う生体触媒中の動的酸化還元プロファイル変化を示す。
【
図17】T4 DNAリガーゼ(EC.6.5.1.1)により触媒されたDNA連鎖反応中の、実施例3で記述する半導体構造のゲートでの動的酸化還元プロファイル変化を示す。反応は、ATPを付加することにより活性化され、プロファイル(1)は、T4リガーゼ酵素が存在する反応に対応し、プロファイル(2)は、その酵素なしの反応に対応する。
【
図18】20%の水および80%のアセトン溶液に含有された異なる濃度で塩化ベンゾイルの加溶媒分解反応中の、実施例3で記述する半導体構造のゲートでの動的酸化還元プロファイル変化を示す。
【
図19】水-アセトン混合物で水の比を増大した3
*10
-4Mの固定濃度で塩化ベンゾイルの加溶媒分解反応中の、実施例3で記述する半導体構造のゲートでの酸化還元プロファイル変化を示す。
【
図20】金めっきゲート誘電体を伴う半導体構造の変形形態を示す。
【
図21】(1)金めっきゲート誘電体を伴う半導体構造により検出された、系の中に2
*10
-5MのH
2O
2を導入したときの1
*10
-8Mのセイヨウワサビペルオキシダーゼと5
*10
-5MのTMBとの反応中の系での、 (2)2mm未満離れた距離に置かれた2つの白金電極により等価なセルで検出された、系の中に2
*10
-5MのH
2O
2を導入したときの1
*10
-8Mのセイヨウワサビペルオキシダーゼと5
*10
-5MのTMBとの反応中の系での 動的酸化還元プロファイル変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
用語および定義
本明細書で使用する用語のいくつかについて以下で定義する。特に指定しない限り、本出願での術語および科学用語は、科学および技術の文献で一般に受け入れられる標準的意味を有する。
【0028】
本明細書および特許請求の範囲では、≪備える(comprises)≫、≪含む(includes、including)≫、≪有する(having)≫、≪装備する(equipped)≫、≪含有する(containing)≫という用語およびこれらの他の文法形式は、排他的意味で解釈されることを意図するのではなく、逆に非排他的意味で(すなわち、≪その組成の不可欠の部分として有する≫という意味で)使用される。≪から構成される(consisting of)≫のような表現だけは、包括的リストとして解釈されるべきである。
【0029】
本出願では、≪酸化還元電位≫および≪電子化学ポテンシャル≫という用語は、一般に受け入れられている用語である。液体では、≪酸化還元電位≫という概念は、より一般的な熱力学的概念、すなわち系内の酸化還元対の比により決定される≪電子化学ポテンシャル≫と等価である。≪酸化還元電位≫は、通常は電界電圧の単位(ボルト単位)で、≪電子化学ポテンシャル≫は、エネルギーの単位で表現されるので、これらの比例定数は、電気素量と1酸化還元対あたりの電荷移動過程に関与する電子数の積に等しい。≪電子化学ポテンシャル≫を非体系的単位(eV)で表すことは有益であり、この場合、≪酸化還元電位≫および≪電子化学ポテンシャル≫の数値は、符号まで一致する。≪電子化学ポテンシャル≫の時間変化は、使用される≪反応エネルギープロファイル≫または≪酸化還元プロファイル≫という用語と等価であり、系内の酸化還元電位の動的変化を反映する。
【0030】
本出願では、≪インピーダンス≫という用語は、回路または回路素子の複素電気抵抗という一般に受け入れられている概念を意味し、加えられる信号周波数に依存し、インピーダンスの大きさは、複素インピーダンス値の絶対値、およびインピーダンス比、すなわち全周波数範囲での複素インピーダンス値の絶対値の比を意味する。
【0031】
本出願では、≪イオン選択性電界効果トランジスタ≫(ion-selective field-effect transistor、ISFET)、≪ISFET構造≫、および≪ISFET微細構造≫という用語は同義語である。そのようなトランジスタでは、金属製トランジスタゲートは、基準電極が接触する液体と置換され、液体-誘電体相界面は、化学感受性層を構成する。決められた構成要素と化学感受性層との相互作用は、ゲート領域内の電界の変化を、したがってトランジスタ内のしきい電位および電流の変化を生じさせ、それにより分析信号を生み出す。
【0032】
一般に、本出願では、≪センサ≫または≪センサ素子≫または≪分析物検出および識別素子≫は、特有の化学物質(分析物)の存在に関する情報を、変換するのに好都合な(検出可能な)信号に変形させる素子を指す。≪バイオセンサ≫は、認識系が本質的に生化学的であり、かつ生体分子または超分子生体構造を伴う反応に基づくタイプのセンサである。
【0033】
≪マイクロシステム≫、≪集積回路≫、≪集積マイクロ回路≫、≪チップ≫、≪電子チップ≫という用語は同義語であり、マイクロ電子素子を、すなわち半導体基板(プレートまたは膜)上に配列された、取外し可能ではないケース内に置かれた、またはマイクロ組立体に含まれる場合にはそのようなケースを有しない任意の複雑性(結晶)の電子回路を表す。多くの場合、集積回路(本明細書で以後ICと呼ぶ)は、それ自体電子回路およびマイクロシステム(本明細書で以後MSと呼ぶ)を伴う結晶または膜として、すなわちパッケージの中に密封されたICとして理解される。
【0034】
≪SOI基板≫(silicon-on-insulator基板)という用語は、シリコン-誘電体-シリコンからなる3層基板を意味する。バルクシリコン基板の代わりにSOI基板を使用することに基づく半導体素子製造技術は、半導体素子のいくつかの性能特性を改善できるようにし、漏れ電流およびノイズを低減できるようにする。
【0035】
電気化学では、電極は、溶液または溶融電解質質量内に導電性基板が置かれた系である。
【0036】
(断片、プレート、ワイヤ、粉末、または単結晶の形をとる)固体金属、液体金属(水銀、溶融金属、アマルガム(水銀合金))、非金属材料(炭素、グラファイトなど)、およびさまざまな化合物(酸化物、炭化物など)は、すべて導電材料として使用できる。電子は、電極内で電荷担体の役割を、電解質内でイオンの役割を果たす。
【0037】
電極は荷電粒子を、具体的には陽イオンおよび陰イオンを含有し、ほとんどの場合、電解質は塩の水溶液であるが、溶融塩もまた電解質である。
【0038】
追加で、≪第1の≫、≪第2の≫、≪第3の≫などの用語は、単に条件付目印として使用され、列挙された対象物にどんな数値的制約または他の制約も課さない。
【0039】
≪接続された≫という用語は、機能的に接続されることを意味し、接続された構成要素の間に置かれた任意の数の中間要素(中間要素がないことを含む)またはその組み合わせを使用できる。
発明についての詳細な記述
【0040】
本出願は、進展している化学反応中の液体の動的変化および酸還元電位を測定するための2電極系を生み出すこと、および進展している化学反応中の液体電解質溶液内の化学過程を研究および調査する目的でそのようなシステムを使用する方法を生み出すことを対照とする。
【0041】
特許請求するシステムを
図1に示す。外部回路に接続された基準電極および指示電極は、電解質内で行われている化学反応を研究するために、10cm
3以下という制限された体積を伴う電解質内で互いに1cm以下の距離で浸漬される。
【0042】
系内の酸化還元電位の動的変化が平衡変化に著しく寄与し始めるときの条件に対応するように体積の値を選択した。この寄与が、より大きな体積で、かつより大きな電極間距離で発生するとき、系内の酸化還元電位変化に対する酸化還元電位の動的変化の寄与は、この効果が目に見えないようになり、かつ酸化還元電位端点に基づき測定された信号だけが観察されるような程度まで減少する。さらに、実用的観点から、考慮している測定を遂行するために、比較的高い試薬濃度が必要とされることは重要である。実際に使用するためには、たとえば酵素について研究するとき、示された体積で必要とされる濃度は、かなりの量の試薬を追加することにより達成される。追加で、大きな体積では、拡散過程は、著しく寄与し始め、この寄与により、測定された信号の時間分解能を劣化させる。実用的観点から、試薬消費が高いために、記述した測定に関して明言された体積を超える体積を使用することは、商業的に実用的ではないことに留意する価値がある。
【0043】
基準電極は、定電圧源または共通接地電位に接続される。外部回路Erefから基準電極にオフセット電圧を印加し、指示電極を外部回路に接続して指示電極上の電位Eを測定する。
【0044】
基準電極は、(電子可逆的である)電解質と電子を自由に交換し、指示電極インピーダンスと比較して低いインピーダンスを有するように構成される。たとえば、基準電極のインピーダンス値は、5Ωから500kΩまで変動する可能性がある。それに加えて、この電極のインピーダンスは、系の動作全体の速度、および電解質内で行われている過程に対する系の時間的応答を直接に決定することに留意することは重要である。
【0045】
指示電極は、基準電極インピーダンスと比較して高いインピーダンスを有し、それにより、電解質溶液との電子交換を防止する。たとえば、指示電極のインピーダンス値は、5Ωから無制限の値まで変動する可能性がある。
【0046】
その上、電極は、基準電極インピーダンスに対する測定電極のインピーダンスの比が少なくとも5になるように選択される。
【0047】
電解質体積を制限する容器は、指示電極インピーダンスと比較して高い電解質/ゼロ接地電位インピーダンスを提供し、比は5以上である。電解質/ゼロ接地電位インピーダンスは50kΩ以上である。この過程で電極体積、容器形状、および電極間距離はすべて、前記インピーダンスに直接影響を及ぼし、したがって、これらは具体的に選択され、一般的インピーダンス比を考慮に入れられる。たとえば、電極間距離が増大するとき、電極のインピーダンスは、この過程に関与するイオンの拡散移動に関連する構成要素が増大すること起因して増大し、それに加えて、インピーダンス比は、他方の電極に対する一方の電極の電解質内浸漬レベルを調節することにより変更できる。
【0048】
そのような系では、電子の自由エネルギーの変化に関連する電解質の動的変化がある場合、起電力(electromotive force、EMF)が出現し、電解質内部の電位変化により補償されるまで継続する非平衡電子電解質-電極交換が生じる。電子エネルギー変化に対する電位遅延時間は、電極との電解質電子交換率および外部環境により、または測定電極および基準電極のインピーダンスにより、ならびに電解質/ゼロ接地電位インピーダンスによっても決定される。
【0049】
電解質内の動的過程が何らかの特性時間値により記述され、これらの時間値が電位遅延時間よりもはるかに小さい場合、電位変化は、研究中の系内部の電子エネルギー変化を反映する。示された指示電極インピーダンスおよび基準電極のインピーダンス比を系内で用いる場合、測定電極および外部環境は、前記電位に及ぼす影響が最小であり、前記電位は、測定電極により読み取ることができる。
【0050】
測定された電位は、当然のことながら酸化還元電位であるので、そのような系で、電解質内で発生する動的過程の間に測定電極に記録された酸化還元電位変化は、実際には電解質酸化還元電位変化になる。
【0051】
記述する効果を使用して電解質内の動的過程を研究でき、たとえば液体内で進展している化学過程を研究できる。この過程が行われるとき、基準電極インピーダンスが低いほどそれだけ酸化還元電位緩和時間は短くなり、動的過程観察中にそれだけ良好な時間分解能を達成できる。実施例は、この効果を使用してどのようにして酵素反応を研究できるか、または求核置換機構の変化をどのようにして研究できるかを示す。
【0052】
2電極系の特定の事例は、ISFET微細構造が測定電極の役割を果たし、かつ基準電極の役割を果たす、十分に広い面積の白金族金属電極が存在する系である。ISFET構造の表面である測定電極での電位変化は、トランジスタのドレイン電流の変化により決定できる。集積技術の技法を使用して作り出されたそのような測定電極の面積は、1μm2よりも小さくすることができ、それに応じて、非常に低い入力静電容量(高いリアクタンス)により特徴づけることができ、一方、ゲート誘電体は、電気的絶縁を提供し(100×100μm2のゲートサイズで1012Ωを超える)非常に高い入力抵抗を有する。したがって、ISFET構造は、考慮中の系用の測定微小電極としてうってつけである。
【0053】
特有の実施形態では、微細機械加工技法を使用して製造されたISFET微細構造のゲート面積は、非常に小さな面積(100*100μm2)を有し、白金線の形をとる基準電極は、ISFET微細構造ゲート面積よりも1000倍を超える大きな面積だけではなく、小さな界面電気抵抗、および高い二重拡散層電気静電容量も有し、それにより低リアクタンスが確実になった。電極間距離は数ミリメートルに達し、これにより、研究される化学系を測定するとき、拡散移動機構に関連するインピーダンスが及ぼす影響は排除された。ポリマーウェルの形をとる、半導体IC表面上に形成された制限容器は、低いキャリア濃度を伴う、シリコン表面に載っている約1μmの厚さのSiO2誘電体層により半導体IC表面から隔離され、それにより、高い電解質-基板抵抗が提供される。この系により数秒以上の特性時間で反応の動的酸化還元電位変化を測定できるようになった。測定する際、時間分解能は、測定設備の能力により制限された。
【0054】
特許請求する2電極系機能を立証するために、
図2に示す定常状態で電極-半導体オフセットを加えたときの≪電極-溶液/誘電体-半導体≫系でのエネルギー図について考えてみる。
【0055】
電極(1)、および半導体(3)に至る接点(2)は(同じフェルミ準位により特徴づけられる)同じ材料から作られる。不活性金属製の基準電極(1)は、電解質(4)内に浸漬される。電極(1)は電解質(4)と電子を交換し、交換は可逆的である。電極(1)は、電圧源(5)を通して、同じく電解質(4)内に浸漬される半導体(3)に接続されるが、薄い誘電体層(6)により半導体から隔離される。誘電体(6)は理想的であり、すなわち無限の抵抗を有し、≪電解質-半導体≫界面を横断する電流(ファラデー電流)は存在しないと仮定する。半導体(3)は、接点(2)を通して基準電位(7)に接続される。
【0056】
電圧源で所与の電圧Uにある定常状態では、以下の電気化学ポテンシャル等式が当てはまる。
【0057】
【0058】
平衡は、系内部で電子の交換および電荷の再分配を通して達成される。電子は、直接に界面を通して電解質(4)と基準電極(1)の間で交換されるが、半導体(2)と基準電極(1)の間の電子交換は、外部電気回路を通して(低い内部抵抗を有する電圧源を通して)行われる。交換電荷は相界面に集中し、したがって、界面電荷(半導体の場合、空乏または蓄積逆電荷であり、電解質に関しては、これは拡散層電荷である)と呼ばれ、系の相の各々の内部静電位を変化させる。界面電荷に加えて、内部電位はまた、相の表面上の電気双極子モーメントに関連する表面電位に依存する。この双極子モーメントは、(金属または半導体の場合)相境界を越えて広がる電子の波動関数に起因して、または(溶液の場合)表面上の水分子の双極子配向に起因して形成される(1. Trasatti S.、「The absolute electrode potential: an explanatory note(絶対電極電位:注釈)(勧告、1986年)」、Pure and Applied Chemistry、1986年、T.58、No.7、p.955-966。2. Forstmann F.、「The Fermi level in electrolytes-about electrochemical potentials at electrolyte-electrode interfaces(電解質内のフェルミレベル-電解質-電極界面での電気化学ポテンシャルに関する)」、AIP Conference Proceedings、AIP、2008年、V.979、No.1、p.181-194)。≪絶縁誘電体-溶液≫境界には、電子の表面と、溶媒分子と溶解物質の両方との誘電体表面の化学的相互作用に関連する吸収電荷もまた存在し得る。たとえば、≪酸化物-溶液≫界面の場合、この電荷は、イオンを形成するポテンシャルと表面上の酸化物表面基との相互作用を意味する部位結合モデルによって説明される(D. E. Yates、S. Livine、およびT. W. Healy、「Site-binding model of the electrical double layer at the oxide/water interface(酸化物/水界面での電気二重層の部位結合モデル)」、J. Chem. Sot.、Farnduy Trans. I、70(1974年)p.1807-1818)。
【0059】
その結果、接触している相の間に、内部の相ポテンシャル間の差に等しい界面ポテンシャル差が出現する。
【0060】
所与の平衡エネルギー図(
図2)には、双極子に関連する電位は示されていない。これらの電位は、界面電位の差の変化に依存せず(Sato N.、「Electrochemistry at metal and semiconductor electrodes(金属および半導体の電極での電気化学)」、Elsevier、1998年)、これについてはここで記述し、したがって、認識を明確にするために、これらの電位を省略していた。固体相の表面上の吸着電荷だけではなく固体相界面での表面状態電荷もまたゼロであると仮定した。
【0061】
基準電極(1)、電解質(4)、半導体(3)、および接点(2)での電気化学ポテンシャルに関する式は、それぞれ次式のように書き表される。
【0062】
【0063】
式(1)~式(5)から、次式が得られる。
【0064】
【0065】
そして、液体と半導体の間の電位降下VGは、次式に等しい。
【0066】
【0067】
この電圧は、半導体(3)表面伝導率を直接に決定する。その上、最後の式から、電圧Uが変化するとき、次式が成立すると言える。
ΔVG=ΔU (9)
【0068】
しかしながら、何らかの理由で溶液の中にある電子の化学ポテンシャルが変化する場合、固定電圧Uで次式が成立する。
【0069】
【0070】
その結果、考慮している系で電解質(4)の中にある電子の化学ポテンシャルの変化は、電圧源(5)での電位変化と電気素量の積に等しい。
【0071】
現実の系では、誘電体(6)-電解質(4)境界は、電解質と誘電体表面との相互作用に起因して追加の≪吸着≫電荷を保持できる。たとえば、酸化物の場合、この表面吸着電荷は、部位結合モデルによって説明される。このモデルは、形成されたイオンと酸化物表面基との相互作用を考慮する(R. van Hal、J. Eijkel、P. Bergveld、「A general model to describe the electrostatic potential at electrolyte oxide interfaces(電解質酸化物界面での静電ポテンシャルを記述する一般的モデル)」、Advances in Colloid and Interface Science、69(1996年)p.31-62)。ポテンシャルΨadが、この吸着電荷に対応するとする。形式上、このポテンシャルは、単一電荷でこのポテンシャルに打ち勝つように遂行されなければならない仕事e・Ψadによって決定できる。一般に、この電位は、溶液-半導体電位降下VGに依存する。半導体電位が一定に保たれるので、Ψadはφsolの関数である。このとき、式(7)のVGは、Ψad(φsol)の値だけ変化する。
【0072】
【0073】
一定の化学ポテンシャル(数7)で、変化するUに伴うVGの変化は、次式に等しい。
【0074】
【0075】
【0076】
一定のUおよび変化する化学ポテンシャルμeでのVgの変化は、次式になる。
【0077】
【0078】
式(12)および式(13)から、考慮している系では、誘電体(4)の中にある電子の化学ポテンシャルの変化または誘電体(6)表面上での溶液から得られる粒子の吸着の変化は、電気素量まで電圧源(7)での電位変化に等しいということが言える。
【0079】
次に、考慮中の系内で半導体表面が電界効果トランジスタのドレイン(8)とソース(9)の間に位置するチャネルであるとする。この構造は、文献では≪イオン感受性電界効果トランジスタ≫(ISFET)と呼ばれ、金属ゲートの代わりに電解質溶液を利用する、従来のMOSトランジスタのサブタイプである(
図2)。
【0080】
ドレイン(8)とソースの間の定電圧をVDS(10)に設定する。このときトランジスタのドレイン電流IDSは、液体と半導体基板(8)の間の電圧VGにより決定される。電解質の中にある電子が一定の化学ポテンシャルにある状態では、この電圧は、電圧Uにより一意に決定される。電圧Uが変化するとき、ドレイン電流は明白に変化する。
【0081】
【0082】
他方では、電解質内の電子の化学ポテンシャルが系内部で変化する場合、定電圧Uで、ドレイン電流の変化は、化学ポテンシャルΔμeの変化により明白に決定される。
【0083】
【0084】
式中、関数fは、電界効果トランジスタの伝達ボルト-アンペア特性である。
【0085】
一定のΔμeとの依存性f(U)を識別し、比較的ゆっくりと変化する電子化学ポテンシャルを伴う媒体の中に構造を置くと、この変化を次式のように追跡できる。
【0086】
【0087】
その結果、ISFET構造は、構造のゲートである水溶液内の電子化学ポテンシャルの変化を検出するセンサとして使用できる。
【0088】
溶液の中にある電子の化学ポテンシャルは、絶対電気化学スケール、すなわち真空中の自由電子のエネルギー準位に対して測定された酸化還元(oxidation-reduction、redox)電位に等しいので(Khan S. U. M.、Kainthla R.C.、Bockris J. O. M.、「The redox potential and the Fermi level in solution(溶液内の酸化還元電位およびフェルミ準位)」、Journal of Physical Chemistry、1987年、V.91、No. 23、p.5974-5977)、
μe=-neVredox(vac.scale)
V(vac.scale)=V(NHE)-4,6B (17)
(式中、V(vac.scale)は、真空中の絶対電子エネルギーに対する電位であり、V(NHE)は、水素電極に対する電位である)考慮中の構造は、ゲート内の物理化学的現象の間に酸化還元電位変化を検出するセンサとして使用できる。
【0089】
基準電極と平衡にある状態では、電子の電気化学ポテンシャルは、基準電極内の電子のフェルミ準位に等しい。これは、溶液内で基準電極との電子交換が発生する酸化還元反応が熱力学的平衡状態にあることを意味する。
【0090】
溶液内の酸化還元過程はすべて、一般化した反応方程式の形で書くことができる。
【0091】
【0092】
式中、oxi、rediは、それぞれi番目の酸化還元対を形成するアクセプタ(酸化剤)およびドナー(還元剤)であり、mは、そのような酸化還元対の数であり、1≦i<m、m≧2である。各酸化還元対は、ni個の電子が関与する電子交換により特徴づけられる。
【0093】
【0094】
電子の平衡電子化学ポテンシャル(数15)は、平衡条件では式(19)の右側および左側で電子化学ポテンシャルが等しいという以下の条件から決定できる。
【0095】
【0096】
【0097】
最後の等式から、すべての1≦i,j<mに関して次式に従う。
【0098】
【0099】
iで式(21)の総和をとると、酸化還元系(18)の電気化学ポテンシャルすべてに関して電気化学ポテンシャルを表現することもまた可能である。
【0100】
【0101】
式中、次式が成立する。
【0102】
【0103】
濃度に対する電気化学ポテンシャルの一般的依存性(μ=(μ0+kBTln(c0/c)0+neφ))の値、および液体内での電気ポテンシャルが平衡状態で一定であるという事実を使用して、酸化還元系構成要素の濃度に対する電子化学ポテンシャルの依存性を得ることが可能である。
【0104】
【0105】
系内の酸化還元対すべての標準的電極電位Viによって表現された系の酸化還元電位の形をとる式(23)は、次式のように見えることを理解できる。
【0106】
【0107】
たとえば、右側と左側の両方で、一般に酸化剤と還元剤の両方とすることができる酸化還元系(18)の構成要素を利用して系の中に触媒を導入したとき、考慮している酸化還元系で化学反応(
図4)が開始されたとする。
図4は、この反応を垂直に示す。一般性を失うことなく、反応の化学量論的要因はすべて同一であるとする。この反応の反応物を隔離し(酸化還元対共役インデックスiにかかわりなく)インデックスj(j=1,…,l)で、および反応生成物のインデックスk(k=1、…、p)で番号をつけるとする。このとき、そのような反応は、以下の一般的形式で書くことができる。
【0108】
【0109】
そのような反応中(反応は、図では上から下に描かれている)酸化還元系は、酸化還元対構成要素濃度が変化するので平衡状態から移動する。これは、化学ポテンシャル(23)の変化につながる。化学反応は次いで、電解質と基準電極との電子交換よりもはるかに遅く進み、準平衡酸化還元系および対応する電子化学ポテンシャルは、電解質の状態(化学変数ξ)の各々に対応する。電子化学ポテンシャルの変化は、トランジスタにより検出でき、その結果、反応の≪酸化還元プロファイル≫を得ることができる。
【0110】
電解質と基準電極の間の電子交換率は、一般に基準電極インピーダンスにより特徴づけられ、基準電極インピーダンスが低ければそれだけ速く準平衡が発生し、それだけ速く動的過程を測定できる。
【0111】
他方では、測定電極および外部環境は、この準平衡状態の確立に影響を及ぼしてはならない。この条件を満たすように、基準電極のインピーダンスは、測定電極インピーダンスよりもかなり上回るべきである。
【0112】
≪酸化還元プロファイル≫の定義および登録データは、動的過程を研究することが必要な多くの分野で使用できる。本発明の用途は、本発明の原理および性質を説明するためにだけに示されている、考慮している例に限定されない。
【0113】
本発明は、異なる構成およびタイプの2つの金属製電極または場の構造を使用して実装でき、本発明の適用可能性は、ISFETの設計および構造に依存しない。
【0114】
どの酵素反応も水分子との酵素交換に関連し、その結果、ゲート電解質内の電子化学ポテンシャルを変化させるので、素子を使用して酵素反応活性を研究でき、たとえば酵素の一次活性および基板特異性、酵素の触媒活性、ならびに酵素反応速度を決定できる。この場合、反応速度(したがって、酵素および基板の濃度)は、トランジスタのチャネル電流を決定する。したがって、本発明を使用して、約数秒で系の構成要素濃度を決定できる。
【0115】
微小体積の場合、化学反応は、拡散により制限されず、迅速に進行し、したがって、中で起こっている変換に迅速に応答するシステムの能力は、大きな利点になる。追加で、生体触媒の過程でさまざまな中間段階が形成されるので、電子酸化還元電位の変化を素早く検出することにより、これらの段階を検出できるようなり、反応中にこれらの段階の量および分布に関する情報を提供できるようになり、それにより、反応機構を研究するための新しい可能性を切り開き、これは、薬の開発で、および学問的な触媒作用研究で重要な側面である。追加で、系の反応が高速であることに起因して、本発明は、高速な前定常反応動力学(pre-stationary reaction kinetics)を研究するために系内部で使用できる。
【0116】
創薬標的、阻害物質、ホルモン、ステロイド、ならびにさまざまな生体分子および生体模倣分子、すなわちタンパク質、受容体、リボザイム、核酸の触媒活性に影響を及ぼす他の化合物など、さまざまな活性物質の相互作用を決定するために本発明を使用することは有望である。追加で、酸化還元電位の変化は、開発中のある種の薬の毒性、ならびに細胞の化学信号伝達回路の活性化機構および抑制機構を研究するために使用できる、細胞過程活性(たとえば、カリウムチャネルの開放)のインジケータとして使用できる。
【0117】
この場合、本発明の競争上の主要な利点の1つは、電解質環境で発生している任意の反応を測定可能にする直接検出の用途である。そのような検出により、反応中の光ラベルまたは酸化還元ラベルを伴う分子の共役を使用する必要がなくなり、その結果、追加試薬はもはや使用されなくなる。さらに、現代の微細機械加工技術は、本発明によるセンサに基づく要素のアレイを作成可能にし、それにより、上記で記述する過程すべてのマススクリーニングを行うことが可能になる。
【0118】
記述する測定は、化学反応に応じて、異なる水性緩衝液で行うことができる。生化学で広く普及している溶液、すなわちさまざまなpH値またはイオン強度範囲のリン酸塩、酢酸、ホウ酸、TRISまたはHEPES系溶液を使用できる。水溶液に加えて、たとえば有機反応触媒作用過程を研究するために、アルコールもしくはアセトニトリル、または有機溶媒と水の混合物などの他の有機極性溶媒を使用できる。酸化還元電位変化はまた、特殊な細胞環境で、および生体液:血液、リンパ液、唾液、痰、または尿で行うことができる。
【0119】
本発明を使用して、構成要素が水溶液に可溶性の任意の反応を研究できることもまた留意する価値がある。さらに、適切に適合すれば、上記のすべてはまた、電解質または溶融した電解質をトランジスタゲートとして使用する均一な触媒および不均一な触媒を用いる系に適用できる。素子は、物質を決定するためにさまざまな分析系で、たとえばクロマトグラフィで酸化還元反応検出器として使用できる。
【0120】
酸化還元電位変化の時間依存性は、反応ごとに違うので、本発明を使用して、特定の反応をさらにまた識別できる。一酵素反応の場合、異なる基板に関して酸化還元電位の時間依存性が異なる場合、時間依存性を使用して基板を識別できる。
【0121】
本発明は、金属-有機物複合体の形成を識別するために使用できる、または進展している反応のタイプまたは機構を確立するために有機化学で中間体を検出するために使用できる。反応機構を明らかにすることにより次に、新しい効果的触媒を開発する新しい可能性、ならびにその結果として、新しい化合物と一般に新しい特質を有する材料の両方を準備する新しい方法および取り組み方法を生み出す新しい可能性を切り開く。
【0122】
本発明の別のタイプの用途は、進展している反応の熱力学値を研究することである。実例では、酸化還元反応については、以下の反応で電極電位(酸化還元電位)をギブズエネルギー(Gibbs energy)と結びつける関係が公知である。
ΔG=-nΔVredoxF (27)
したがって、反応の酸化還元プロファイルは、系のギブズエネルギーの変化を、すなわち反応のエネルギープロファイルの変化を反映する。
【0123】
理論的仮定を確認するために、さまざまな化学反応中に液体ゲートでの電子酸化還元電位変化を決定するように設計されたさまざまなタイプのISFET構造に関する実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0124】
SOI SIMOXウエハ上にISFET構造の実施例を製作した(初期パラメータ:作業シリコン層-192nm、隠れたシリコン層厚さ-380nm、p型ドーピング、1.2μmレイアウト規則に基づくCMOS IC製造技術を使用して現像された処理経路によれば伝導率12~20Ω
*cm(
図5))。実験試料に関するサブスレッショルド特性の傾き(S)は、~90mV/電流桁(current decade)であった。しきい電圧は、接線法により決定され、0.75Vであった(
図6)。基準電極の電圧を固定し、その結果、構造はサブスレッショルドモードのままであった。さらに続けてドレイン電流の時間依存性を記録した。信号を記録中、系に反応構成要素を追加することにより反応を開始させた。
【0125】
有機触媒反応中の系内の動的酸化還元電位変化を研究するために、緩衝溶液、NADPH、および大腸菌ニトロ還元酵素を備える均一なモデル系に基板を追加した後の表面電位の時間変化を分析した。主要なモデル基板としてトリニトロトルエンを使用したのは、この基板については触媒中間体の定性的組成を実験で確認するデータが存在するからである(
図7)。調査した反応を
図8に提示する。ニトロ還元酵素が関与する還元反応中の2電子移動過程は、2基板置換(バイバイピンポン(bi-bi-ping-pong))機構により2段階で起こる。ピンポン機構は、第1段階の間に酵素が基のドナー基板に結合することを意味する。ドナー基は酵素まで移動し、酵素を活性化する。そうする際に、このときまでドナー基を含有していないドナー基質は、第1の反応生成物の形で解放される。第2の触媒段階の間に、このように活性化された酵素は、第2の基板と相互作用し、その上にドナー基を移動させる。
【0126】
酸化還元電位の経時的な動的変化は、反応の過程で2つの中間体酵素-生成物複合体が形成されることを示唆している。中間複合体は、10
-7Mの初期基質濃度では、提示するグラフ(
図8)の800秒の領域に(反応開始後~120秒に)、および1250秒の領域に(反応開始後~770秒に)形成される。文献によれば、酸化還元電位が変化する過程で溶液に関して2つの連続する還元反応が可視化されると仮定できる。第1のこぶ状部は、TNTから4-ニトロソ-2,6-ジニトロトルエンおよびその異性体への還元に対応し、第2のこぶは、ニトロソ化合物から4-ヒドロキシルアミン-2,6-ジニトロトルエンおよびそのオルト異性体への還元に関連する。
【0127】
その結果、この実施例では、酸化還元電位の動的変化を監視することにより、大腸菌ニトロ還元酵素が関与する生体触媒中に中間体の形成を検出できるようになることが示された。
【実施例2】
【0128】
12~22Ω
*のp型シリコンウエハを使用してMOS単一処理構造の中に一体化された標準的CMOS技術を使用して、浮遊タンタルゲートを伴うn型半導体構造の実施例を作成した。MOSトランジスタの形成後、標準的な金属被覆段階前にセンサ構造を形成した。このために、酸化ケイ素ゲート誘電体上に50nmのタンタル層を形成した。金属被覆形成動作および表面不動態化の後に、脱イオン水内でタンタル層を酸化させた。最終構造を(
図9)に示す。実験試料に関するサブスレッショルド特性の傾き(S)は、~82mV/電流桁であった(
図10)。
【0129】
これらの構造を使用して、触媒作用アセチルトランスファーゼカルニチン酵素中心に形成された陰イオンを検出した。このために、センサを伴う結晶表面上に、開いたマイクロセルを形成し、その中に緩衝溶液を導入した。基準電極として白金電極を使用し、構造がサブスレッショルドモードになるように白金電極に固定電圧を印加した。結晶表面上のマイクロセルでの酵素反応開始中に、ドレイン電流の時間依存性を記録した。カルニチンアセチルトランスフェラーゼ(EC.2.3.1.7)は、補酵素AとL-カルニチンの間の可逆的アセチル基移動を触媒する酵素である。反応は、中間体陰イオン形成が同時に起こる触媒中心で、2つの基板の順序づけられていない連結を伴う機構により進行する(
図9)。基板の一方の濃度を第2の基板の一定の濃度の所で変えることにより、この陰イオン検出が行われる条件に調和できる(
図11)。
【実施例3】
【0130】
1.2μmの設計標準に基づき標準的なSOI CMOS技術を使用して完全空乏化場ナノ構造を製作した。製造するために、0.18μmの作業シリコン層および0.38μmの誘電体層を伴う12~20Ω
*cmの抵抗を有するSIMOX p型ウエハを使用した。五酸化タンタルから浮遊弁を作った。製作された構造を(
図12)に示す。測定するために、100μmのチャネル長さおよび6μmの幅を有する構造を使用した。基準電極として白金電極を使用した。実験試料のサブスレッショルド特性の傾き(S)は、~68mV/電流桁であった(
図13)。
【0131】
これらの構造を使用して、2つの基板:3.3’、5.5’-テトラメチルベンジジン(tetramethylbenzidine、TMB)および2.2’-アジノ-bis-(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)を用いてセイヨウワサビペルオキシダーゼ反応の運動パラメータを決定した。このために、場構造を伴う結晶構造上にウェル形状のマイクロセルを形成した。27μlの緩衝溶液、異なる濃度の1.5μlのTMBまたはABTS、およびセイヨウワサビペルオキシダーゼを1
*10
-11Mの最終濃度までセルの中に追加した。(測定中に構造がサブスレッショルドモードのままであるように)固定された基準電極電圧で、セルの中に1.2μLのH
2O
2を追加したときに時間的ドレイン電流依存性を記録した。電流値を表面電位に変換した。ミカエリス定数を決定するために、H
2O
2を追加後、TMBに関しては300秒での、ABTSに関しては700秒での相対的電位変化を、対応する基板を含有しない混合物に過酸化物を追加したときに得られたデータと比較した。基板濃度が増大すると共に反応速度もまた増大し、それに応じて、対照に対する相違点はより大きくなる。トランジスタにより生成された信号に基づき計算されたミカエリス定数値は、TMBに関しては(294±87)μM、およびABTSに関しては(317±49)μMであった(
図14A,
図14B)。前記データは、TMBに関する(222±40)μMおよびABTSに関する(491±57)μMという分光光度測定データとよく一致する。この実施例は、提案する発明が動力学反応パラメータを決定できるようにすることを示し、半導体構造を使用してミカエリス定数を決定するには、1桁少ないセイヨウワサビペルオキシダーゼを必要とした。
【実施例4】
【0132】
感応性五酸化タンタル表面を伴うSOI構造を使用して、S. cerevisiae(EC 4.2.1.11)パン酵母から得られたエノラーゼ、S. cerevisiae(EC.5.3.1.1)パン酵母のトリオースリン酸イソメラーゼ、およびT4 DNAリガーゼ(EC.6.5.1.1)の酵素触媒作用中に、反応の酸化還元プロファイルを検出する可能性を判断した。
【0133】
エノラーゼ(ホスホピルビン酸ヒドラターゼ)により触媒された反応で中間体を検出する可能性を研究するために、実施例3で記述する感応性酸化タンタル表面を伴うSOI構造を使用した。酵素活性測定用市販キットから得られた1.4μLの基板混合物を含有する35μlの緩衝溶液(トリス(Tris)/HCl:5mMのNaCl、2mMのトリス-HCl[pH7.6]、1mMのKCl、1mMのMgCl
2、0.5mMのCaCl
2、全モル濃度9.5mM)の中に14.4U/mlの活性を伴う1.2μlの酵素を追加することにより反応を活性化した。
図15は、反応中のゲート内電子酸化還元電位の動的変化を示す。これらの条件の下で反応開始後、プロファイルによれば、第1のプロファイルに関して表面電位が急激に降下するほぼ230秒の所での中間生成物形成だけではなく、別の実験のプロファイルの290秒の所での類似する一時的低下も仮定できることを留意できる。
【0134】
トリオースリン酸イソメラーゼ(D-グリセルアルデヒド-3-リン酸ケトール-イソメラーゼ、EC 5.3.1.1)は、リン酸イディオキシアセトン(idioxyacetone phosphate)およびD-グリセルアルデヒド-3-リン酸相互変換の過程を触媒する解糖酵素である。実施例3に記述する構造を使用して反応の酸化還元プロファイルを得る可能性について調査した。トリオースリン酸イソメラーゼに関する21μlの緩衝溶液(0.02%のウシ血清アルブミンを含有する15mMのトリス/HCl、pH7.2)の中に、さまざまな濃度の2μlのGAP(グリセルアルデヒド-3-リン酸)を追加した。次いで反応を開始させるために、0.4U/mLの測定活性を有する1.5μLの酵素を混合物に追加した。GAP基板濃度の関数として得られたプロファイルを
図16に示す。
【0135】
T4 DNAリガーゼの関与を伴うDNA連結反応中の酸化還元プロファイルを測定するために、100μmのチャネル幅および長さを有する、実施例3の構造に類似する構造を使用した。ウェル(10mMの初期濃度を有する)の中で、33μLの緩衝溶液(8.5mMのトリス/HCl、2.5mMのMgCl2、1.25mMのTCEP)中に1μMの濃度を伴う合成オリゴヌクレオチド(シーケンスの作業名はtemp1、penta1、com)に2.15μLのATPを追加した。ウェル内にT4 DNAリガーゼが存在する場合、信号は増大し、同時に、酵素がない場合、ATP追加後に信号は減少し、1,000秒後にベースラインに戻った(
図17)。
【0136】
その結果、本実施例はリアーゼ、イソメラーゼ、およびリガーゼの基に属する酵素の反応を検出でき、提案する本発明を使用してこれらの基の触媒作用機構を潜在的に研究可能であることを示している。
【実施例5】
【0137】
有機反応機構を研究する可能性を実証するために、アセトン/水の比を変えて加溶媒分解反応プロファイル変化の研究を行ってきた。塩化ベンゾイル加溶媒分解は、求核置換機構に基づき進行することは文献から公知である。条件に応じて、反応は2つの機構:SN1およびSN2により進行できる。Sn1機構は、中間体カルボカチオンの形成、その後に求核攻撃を仮定し、すなわち反応は2段階で進行し、中間体の形成を伴う。SN2機構は、反応が中間体を形成することなく1段階で進行すると仮定する。いくつかの事例では、溶媒の極性(および陽子性(protonity))が高いほどそれだけSN1機構により進行する反応の確率は高くなる。実際には反応の過程で2つの機構が常に競合するので、溶媒極性を変更して、反応機構の一方の遷移を観察することが理論的に可能である(反応のエネルギープロファイルが変化する)。
【0138】
有機反応機構を研究するために本発明を使用する可能性について実証するために、以下の枠組みに従って実施例3で記述する構造を使用して実験を行った。32μlのアセトン-水混合物にさまざまな濃度の1μlの塩化ベンゾイルを追加した。塩化ベンゾイル濃度に対する動的酸化還元プロファイル変換の依存性を
図17に示す。
図18によれば、20%の水および80%のアセトンを伴う溶媒で(中間体を形成することなく)SN
2機構が実現されると仮定できる。SN
1反応速度を増大させるためにその後、水のパーセンテージを高めることにより水-アセトン溶液内の溶媒の極性を変更した。
【0139】
アセトン-水溶液内の水のパーセンテージが高まると共に、中間体化合物が登録され始めることを実験データは示しており、これは、溶媒の極性の増大と共に求核置換反応でSN
1単分子置換機構が優勢になり始めることを示している(
図19)。溶媒を変更することにより、塩素イオン溶媒和の改善につながり、その結果としてカルボカチオン形成の速度増大につながる(Sn
1機構)。
【0140】
したがって、この実験は、本発明が生化学酵素反応中のエネルギー状態可視化のための用途に限定されず、広範な化学反応で触媒過程を研究するために使用できることを示している。
【実施例6】
【0141】
1.2μmの設計標準に基づく標準的なSOI CMOS技術を使用して完全空乏化場ナノ構造を製作した。製造するために、0.18μmの作業シリコン層および0.38μmの誘電体層を伴う12~20Ω
*cmの抵抗を有するSIMOX p型ウエハを使用した。追加で、50nmの金を最上部に堆積させたゲート誘電体表面上にTi系接着層を堆積させた。製作された構造を
図20に示す。測定するために、100μmのチャネル長さおよび6μmの幅を有する構造を使用した。基準電極として白金電極を使用した。
【0142】
これらの構造を使用して3,3’、5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)とセイヨウワサビペルオキシダーゼの反応中の電子化学ポテンシャルの変化を可視化した。このために、場構造を伴う結晶構造上にウェル形状のマイクロセルを形成した。このセルに5
*10
-5MのTMBを含有する35μlの緩衝溶液を追加した。(測定中に構造がサブスレッショルドのままでいるように)固定された基準電極電圧で、2
*10
-5Mの最終濃度までセルの中にH
2O
2を追加するときに時間的ドレイン電流依存性を記録した。
図21は、表面電位の変化(1)が中間複合体の形成を検出可能にすることを示している。さらに、同じ体積のセルで2mm未満の距離の所に置かれた2つの白金線を基準電極および指示電極として使用して、動的酸化還元電位変換の測定を行った。得られた時間依存性を
図21(依存性(2))に示す。これらの結果は、2つの電極構造を両方とも使用して動的酸化還元電位変化を可視化でき、より大きなインピーダンス差を有する構造の一方は、動的変化により感受性があることを実証している。