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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】高周波電力分配、合成回路
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/22 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
H01P5/22 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022544428
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 EP2020051536
(87)【国際公開番号】W WO2021148117
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】ビアンチ、ジオバンニ
(72)【発明者】
【氏名】モレイラ、ホセ
(72)【発明者】
【氏名】クイント、アレクサンダー
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-281601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を2つ以上の信号出力ポートに分配するための高周波電力分配回路であって、
ラットレース型結合器であって、前記ラットレース型結合器の入力ポートで提供される入力信号を前記ラットレース型結合器の第1の出力および前記ラットレース型結合器の第2の出力に結合するように構成された、ラットレース型結合器と、
前記ラットレース型結合器の前記第1の出力を第1の信号出力ポートに結合するように、前記ラットレース型結合器の前記第1の出力に結合された第1の結合構造と、
前記ラットレース型結合器の前記第2の出力を第2の信号出力ポートに結合するように、前記ラットレース型結合器の前記第2の出力に結合された第2の結合構造とを備え、
前記ラットレース型結合器の前記入力ポートと前記第1の出力との間の第1の伝送線路部分の特性インピーダンスが、前記ラットレース型結合器の公称リングインピーダンスから第1の方向に逸脱し、
前記ラットレース型結合器の前記入力ポートと前記第2の出力との間の第2の伝送線路部分の特性インピーダンスが、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンスから第1の方向とは反対の第2の方向に逸脱する、
高周波電力分配回路。
【請求項2】
前記ラットレース型結合器の前記第2の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第3の伝送線路部分の特性インピーダンスが、前記公称リングインピーダンスから前記第1の伝送線路部分の前記特性インピーダンスと同じ方向に逸脱する、請求項1に記載の高周波電力分配回路。
【請求項3】
前記ラットレース型結合器の前記第1の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第4の伝送線路部分の特性インピーダンスが、前記公称リングインピーダンスから前記第2の伝送線路部分の前記特性インピーダンスと同じ方向に逸脱する、請求項1または2に記載の高周波電力分配回路。
【請求項4】
前記第1の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの値が、前記ラットレース型結合器の前記第2の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第3の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの値と、前記第1の伝送線路部分の前記特性インピーダンスおよび前記第2の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの±25%以下、または±10%以下だけ異なる、請求項1から3のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項5】
前記第2の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの値が、前記ラットレース型結合器の前記第1の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第4の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの値と、前記第2の伝送線路部分の前記特性インピーダンスおよび前記第1の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの±25%以下、または±10%以下だけ異なる、請求項1から4のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項6】
前記第1の伝送線路部分の前記特性インピーダンスまたは前記ラットレース型結合器の前記第2の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第3の伝送線路部分の前記特性インピーダンスと、前記第2の伝送線路部分の前記特性インピーダンスまたは前記ラットレース型結合器の前記第1の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第4の伝送線路部分の前記特性インピーダンスとの乗算値が、±10%の許容範囲内で公称リングインピーダンスの2乗の値に等しい、請求項1から5のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項7】
前記第1の伝送線路部分の前記特性インピーダンスまたは前記ラットレース型結合器の前記第2の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第3の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの値が、前記第2の伝送線路部分の前記特性インピーダンスまたは前記ラットレース型結合器の前記第1の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第4の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの値よりも小さい、請求項1から6のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項8】
前記公称リングインピーダンスからの前記特性インピーダンスの偏差範囲が、前記公称リングインピーダンスの値の±20%以内または±10%以内である、請求項1から7のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項9】
前記第1の伝送線路部分および前記ラットレース型結合器の前記第2の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第3の伝送線路部分の前記特性インピーダンスの値が、前記公称リングインピーダンスの値の+1%~+20%の間、または+1%~+10%の間で逸脱し、前記第2の伝送線路部分および前記ラットレース型結合器の前記第1の出力と前記ラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第4の伝送線路部分の前記特性インピーダンスが、前記公称リングインピーダンスの値の-1%~-20%の間、または-1%~-10%の間で逸脱し、その逆もまた同様である、請求項1から8のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項10】
入力信号を2つ以上の信号出力ポートに分配するための高周波電力分配回路であって、
ラットレース型結合器であって、前記ラットレース型結合器の入力ポートで提供される入力信号を前記ラットレース型結合器の第1の出力および前記ラットレース型結合器の第2の出力に結合するように構成された、ラットレース型結合器と、
前記ラットレース型結合器の前記第1の出力を第1の信号出力ポートに結合するように、前記ラットレース型結合器の前記第1の出力に結合された第1の結合構造と、
前記ラットレース型結合器の前記第2の出力を第2の信号出力ポートに結合するように、前記ラットレース型結合器の前記第2の出力に結合された第2の結合構造とを備え、
前記第1の結合構造および前記第2の結合構造が、周波数にわたって異なる位相シフトを提供するように適合されており、
前記第1の結合構造が、前記ラットレース型結合器の設計周波数の環境において、前記ラットレース型結合器の前記第1の出力と前記ラットレース型結合器の前記第2の出力とにおける信号間の位相差の周波数変動を少なくとも部分的に補償するように適合された移相器を備える、
高周波電力分配回路。
【請求項11】
前記第2の結合構造が一対の結合伝送線路を備え、
第1の結合伝送線路の第1の端部が、前記ラットレース型結合器の前記第2の出力に接続され、
前記第1の結合伝送線路の第2の端部が、前記第1の結合伝送線路の前記第2の端部に隣接する第2の結合伝送線路の第2の端部に接続され、
前記第2の結合伝送線路の第1の端部が、前記第2の信号出力ポートに接続されるか、または前記第2の信号出力ポートを構成する、請求項10に記載の高周波電力分配回路。
【請求項12】
前記第2の結合構造が備える第1の結合伝送線路の第1の端部が、さらなる伝送線路を介して前記ラットレース型結合器の前記第2の出力に接続される、請求項10または11に記載の高周波電力分配回路。
【請求項13】
さらなる伝送線路の特性インピーダンスが、基準インピーダンスから±5%以下または±10%以下だけ逸脱する、請求項10から12のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項14】
前記第2の結合構造が備える一対の結合伝送線路の偶モードインピーダンスと前記一対の結合伝送線路の奇モードインピーダンスとの積が基準インピーダンスの2乗から±5%以下だけ、または±10%以下だけ、あるいは±15%以下だけ逸脱する、請求項10から13のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項15】
前記第2の結合構造が備える一対の結合伝送線路の結合伝送線路の電気長が、前記ラットレース型結合器の設計中心周波数における波長の4分の1から±5%以下だけ、または±10%以下だけ逸脱する、請求項10から14のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項16】
前記さらなる伝送線路の長さが、前記第2の結合構造が備える一対の結合伝送線路の漂遊磁場を前記ラットレース型結合器から分離するように選択される、請求項10から15のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項17】
前記第1の結合構造を形成する伝送線路の電気長が、前記さらなる伝送線路の電気長+波長の半分に等しく、許容範囲は波長の±10分の1である、請求項10から16のいずれかに記載の高周波電力分配回路。
【請求項18】
2つ以上の信号入力ポートからの入力信号に基づいて出力信号を取得する高周波電力合成回路であって、
ラットレース型結合器の第1の入力における信号に基づいて、かつ前記ラットレース型結合器の第2の入力における信号に基づいて、出力信号を前記ラットレース型結合器の出力ポートで提供するように構成された、ラットレース型結合器と、
前記ラットレース型結合器の前記第1の入力を第1の信号入力ポートに結合するように、前記ラットレース型結合器の前記第1の入力に結合された第1の結合構造と、
前記ラットレース型結合器の前記第2の入力を第2の信号入力ポートに結合するように、前記ラットレース型結合器の前記第2の入力に結合された第2の結合構造とを備え、
前記ラットレース型結合器の前記出力ポートと前記第1の入力との間の第1の伝送線路部分の特性インピーダンスが、前記ラットレース型結合器の公称リングインピーダンスから第1の方向に逸脱し、
前記ラットレース型結合器の前記出力ポートと前記第2の入力との間の第2の伝送線路部分の特性インピーダンスが、前記ラットレース型結合器の前記公称リングインピーダンスから前記第1の方向とは反対の第2の方向に逸脱する、
高周波電力合成回路。
【請求項19】
2つ以上の信号入力ポートからの入力信号に基づいて出力信号を取得する高周波電力合成回路であって、
ラットレース型結合器であって、前記ラットレース型結合器の第1の入力における信号に基づいて、かつ前記ラットレース型結合器の第2の入力における信号に基づいて、出力信号を前記ラットレース型結合器の出力ポートで提供するように構成された、ラットレース型結合器と、
前記ラットレース型結合器の前記第1の入力を第1の信号入力ポートに結合するように、前記ラットレース型結合器の前記第1の入力に結合された第1の結合構造と、
前記ラットレース型結合器の前記第2の入力を第2の信号入力ポートに結合するように、前記ラットレース型結合器の第2の入力に結合された第2の結合構造とを備え、
前記第1の結合構造および前記第2の結合構造が、周波数にわたって異なる位相シフトを提供するように適合されており、
前記第1の結合構造が、前記ラットレース型結合器の設計周波数の環境において、前記ラットレース型結合器の前記第1の入力から前記出力ポートへの伝送特性の周波数変動と、前記ラットレース型結合器の前記第2の入力から前記出力ポートへの伝送特性の周波数変動との差を少なくとも部分的に補償するように適合された移相器を備える、
高周波電力合成回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、入力信号を2つ以上の信号出力に分配するための高周波電力分配器、および2つ以上の信号入力からの入力信号に基づいて出力信号を取得するための高周波電力合成回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電力分配/合成回路は、高周波信号を分配するかまたは合成するために広く使用されており、マイクロ波回路の主要構成要素の1つとして無線通信システムの重要なデバイスである。無線周波数電力分配器(合成器)を設計するためのいくつかの可能な構造が存在する。以下では、電力分配器の可能な構造について簡単に説明する。
【0003】
図1は、無線周波数(RF)電力分配器の可能な構造を示している。図1(A)はウィルキンソン型分配器を示し、図1(B)はラットレース型を示し、図1(C)はブランチライン型を示し、図1(D)はジゼル(Gysel)型分配器を示している。図1では、「P」で始まる参照符号は、RF電力分配器ポート(RFポート)、すなわち信号入出力ポートを示している。図1において「R」で始まる参照符号で示される要素は全て抵抗器である。全ての抵抗器の抵抗は、2×RであるR1Aを除いて、回路の公称インピーダンス(R0、典型的には50Ω)に等しい。図1において「TL」で始まる参照符号で示される要素は全て伝送線路もしくは伝送線路部分である。これらは全て、波長の4分の3の長さであるTL4Bを除いて、動作中心周波数(f0)の中心において波長の4分の1(λ/4)である。伝送線路TL1A、TL2A、TL1B、TL2B、TL3B、TL4Bは、特性インピーダンスZ=R0×√2を有し、伝送線路TL2C、TL4C、TL3D、TL4Dは、特性インピーダンスZ0=R0を有し、伝送線路TL1C、TL3Cは、特性インピーダンスZ0=R0/√2を有し、伝送線路TL5D、TL6Dは、特性インピーダンスZ0=R0/2を有する。図示された構造は、伝送線路(マイクロストリップのようなストリップ線路)のプリント回路実現に類似している。しかし、全ての構造は、同軸ケーブル、二線式線路、マイクロストリップ、ストリップ線路、コプレーナ導波路などの任意の種類のTEMまたは準TEM伝送線路で実現することができる。
【0004】
図2は、図1に示す構造の理論性能を示している。図2(A)は、図1(A)に示すウィルキンソン型分配器の理論性能を示し、図2(B)は、図1(B)に示すラットレース型の理論性能を示し、図2(C)は、図1(C)に示すブランチライン型の理論性能を示し、図2(D)は、図1(D)に示すジゼル(Gysel)型分配器の理論性能を示している。図2では、全てのプロットについて、左のy軸は非絶縁ポート間の透過係数に関するものである。右のy軸は、絶縁ポート間の伝送係数および異なるRFポートでのリターンロスに関するものである。曲線ラベルは対応する曲線と同型の線を有し、それぞれのy軸の近くに配置される。全ての曲線は、理想的な要素で計算されている。構造の理論性能は、図2の散乱パラメータSijを用いて説明される。
【0005】
図3は、構造のさらなる理論性能を示している。図3(A)は、ウィルキンソン型分配器のさらなる理論性能を示している。図3(A)に示すように、ウィルキンソン分配器は対称(図1(A)参照)であるため、散乱パラメータはS21=S31の関係を有し、したがって、振幅および位相の両方には不均衡がない。
【0006】
図3(B)は、ジゼル(Gysel)型分配器のさらなる理論性能を示している。図3(B)に示すように、ジゼル(Gysel)型分配器もまた対称(図1(D)参照)であるため、散乱パラメータはS21=S31の関係を有し、振幅および位相の両方には不均衡がない。
【0007】
動作帯域幅(Δf)を評価することを考慮する場合、すなわち、各回路の動作帯域幅(Δf)の広さの程度を評価するための最も意味のあるパラメータは、相対帯域幅(Δf/f0)である。これは、リターンロス、振幅もしくは位相の不均衡によって、多くの方法で定義することができる。図4は、図1に示す4つの回路の相対帯域幅を示す表であり、
1)15dBのリターンロス(図4に示す表の2列目)
2)0.5dBの振幅不均衡(図4に示す表の3列目。4列目は、図4に示す表の対応する位相不均衡を含む。)
を仮定している。
【0008】
図4に示されているように、ウィルキンソン型およびジゼル(Gysel)型には不均衡がなく、すなわち、その点に対するそれらの相対帯域幅は無限大である。
【0009】
図5は、図1に示す電力分配器の物理的レイアウトの例を示す概略図である。図5(A)は、図1(A)に示すウィルキンソン型分配器の物理的レイアウトを示し、図5(B)は、図1(B)に示すラットレース型の物理的レイアウトを示し、図5(C)は、図1(C)に示すブランチライン型の物理的レイアウトを示し、図5(D)は、図1(D)に示すジゼル(Gysel)型分配器の物理的レイアウトを示している。図5では、図示の物理的レイアウト、すなわち、例えば中心周波数f0=30GHz、比誘電率(εr)=3.5の基板、高さ(h)=0.25mm、および金属厚(t)=20μmのマイクロストリップ設計の現実的なレイアウトが示されている。
【0010】
広帯域の用途を考慮すると、ウィルキンソン型分配器は、主要候補もしくは第1の候補とすることができる。ウィルキンソン型分配器に関連する主な問題は、集中型、すなわち長さがλ/4未満の抵抗器R1A(図5(A)参照)の必要性である。図5(A)に示される場合では、R1Aの大きさは、本技術で可能な最小値、例えば0.4×0.5mmに近く、既にλ/4、すなわち波長の4分の1の伝送線路部分TL1A、TL2Aの長さに匹敵している。比較的大きな抵抗器は、理想的な場合と比較して、(散乱パラメータS32によって示される)絶縁の劣化、(散乱パラメータS21、S31によって示される)挿入損失、および(散乱パラメータS11、S22、S33によって示される)リターンロスを伴う。したがって、中心周波数を増加させると、問題はより深刻になる。
【0011】
さらに、伝送線路TL1AおよびTL2Aは絶縁されるべきであり、これは小さいR1Aの必要性とは対照的である。(S11、S22、S33、S32を劣化させる)結合を最小限に抑えるために、(この場合のように)湾曲形状がしばしば使用される。しかし、これは、特に非常に高い周波数(すなわち、非常に短い伝送線路TL1A、TL2Aを有する)では常に可能であるとは限らない。
【0012】
ウィルキンソン型分配器とは逆に、他の電力分周器回路、すなわち図5に示すラットレース型、ブランチライン型およびジゼル(Gysel)型分配器は、集中抵抗器を必要としない。むしろ、それらは、原則として、それらの大きさについて概念的な制限を有さない接地へのR0終端のみを必要とし、例えば、Z0=R0の無限に長い伝送線路は、このような終端の1つの可能な実現である。しかし、これらの回路の相対帯域幅は、ウィルキンソン型分配器よりも一貫して小さく、最大から最小までの順は、ウィルキンソン型分配器、Gysel分配器、ラットレース型、ブランチライン型となる。
【0013】
ブランチライン型は、第1のポートP1-伝送線路TL1C-伝送線路TL4C、第2のポートP2-伝送線路TL2C-伝送線路TL3C、第3のポートP3-伝送線路TL1C-伝送線路TL2C、抵抗器R1C-伝送線路TL3C-伝送線路TL4Cの接合部にさらに強い不連続性効果を有する。また、ジゼル(Gysel)型分配器は、伝送線路TL4D-抵抗器R2D-伝送線路TL6D、伝送線路TL3D-抵抗器R1D-伝送線路TL5Dの接合部に強い不連続性効果も有する。接合部に対するこれらの強い不連続性効果は、低い特性インピーダンス、すなわち、伝送線路TL1C、TL3CのZ0=R0/√2、および伝送線路TL5D、TL6DのZ0=R0/2に起因して、およびその結果としての広い幅に起因して達成される。高周波数では、これらのT接合部の大きさは伝送線路の長さと同等になる。回路性能は重要になり、十分に予測可能ではなく、製造の許容範囲に極めて敏感になる。
【0014】
ラットレース型は、伝送線路TL1B~TL4Bの高いインピーダンス値Z0(したがって、狭い幅)のために、この問題をあまり生じない。図5(B)に示すように、給電線を先細りにすることで、不連続性をさらに最小化することができる。
【0015】
図6は、ブランチライン型の変形例を示している。図6(a1)は、標準ブランチライン型分配器を示し、図6(a2)は、変形ブランチライン型分配器、すなわち同相ブランチライン型を示している。ブランチライン型出力ポートP2、P3は、同相ではなく90°位相シフトされている。必要に応じて、補償ネットワークが必要とされる。一例は、図6(a2)に示すSchiffman移相器である。伝送線路TL5C、TL6Cは、Z0E×Z0O=R0となるように、中心周波数f0において電気長λ/4を有し、偶(奇)モードインピーダンスZ0E(Z0O)で結合された線路であり、伝送線路部分TL7Cは、中心周波数f0において電気長λ/4を有し、Z0=R0の伝送線路部分である。伝送線路TL5C、TL6Cの位置と伝送線路部分TL7Cの位置とを入れ替えると、出力ポートP2、P3間の180°シフトが得られる。いずれの場合も、ブランチライン型の帯域幅は同じままである。
【0016】
したがって、上述の問題、例えば動作帯域幅、位相不均衡、十分に予測可能な回路性能、および製造の許容範囲を考慮すると、ラットレース型、すなわちラットレース型結合器は、上述の問題を解決するのに適していると思われる
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、ラットレース型結合器を使用することによって高周波電力分配/合成回路の実装を容易にする概念を作り出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明による一実施形態は、入力信号を2つ以上の信号出力ポートに分配するための高周波電力分配回路に関する。高周波分配回路は、ラットレース型結合器の入力ポートで提供される入力信号をラットレース型結合器の第1の出力およびラットレース型結合器の第2の出力に結合するように構成された、ラットレース型結合器と、ラットレース型結合器の第1の出力を第1の信号出力ポートに結合するように、ラットレース型結合器の第1の出力に結合された第1の結合構造と、ラットレース型結合器の第2の出力を第2の信号出力ポートに結合するように、ラットレース型結合器の第2の出力に結合された第2の結合構造とを備え、ラットレース型結合器の入力ポートと第1の出力との間の第1の伝送線路部分の特性インピーダンスは、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンスから第1の方向に逸脱し、ラットレース型結合器の入力ポートと第2の出力との間の第2の伝送線路部分の特性インピーダンスは、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンスから第1の方向とは反対の第2の方向に逸脱する。
【0019】
本発明の概念によれば、ラットレース型結合器の設計周波数において、第2の信号出力ポートに結合されるよりも大きい入力信号の信号電力が第1の出力ポートに結合されるように、および、入力信号の周波数が設計周波数の環境内でラットレース型結合器の設計周波数から離れる場合に、第1の出力ポートに結合された入力信号の信号電力が減少して、第2の出力ポートに結合された入力信号の信号電力よりも小さくなるように、ラットレース型結合器の入力ポートと第2の出力との間の第2の伝送線路部分の特性インピーダンスは、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンスから第1の方向とは反対の第2の方向に逸脱し、公称リングインピーダンスよりも大きい。
【0020】
好ましい実施形態では、ラットレース型結合器の第2の出力とラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第3の伝送線路部分の特性インピーダンスは、公称リングインピーダンスから第1の伝送線路部分の特性インピーダンスと同じ方向に逸脱する。さらに、ラットレース型結合器の第1の出力とラットレース型結合器のさらなるポートとの間の第4の伝送線路部分の特性インピーダンスは、公称リングインピーダンスから第2の伝送線路部分の特性インピーダンスと同じ方向に逸脱する。
【0021】
好ましい実施形態では、第1の伝送線路部分の特性インピーダンスの値は、第3の伝送線路部分の特性インピーダンスの値と、第1の伝送線路部分の特性インピーダンスおよび第2の伝送線路部分の特性インピーダンスの±25%以下、または±10%以下だけ異なる。
【0022】
好ましい実施形態では、第2の伝送線路部分の特性インピーダンスの値は、第4の伝送線路部分の特性インピーダンスの値と、第2の伝送線路部分の特性インピーダンスおよび第1の伝送線路部分の特性インピーダンスの±25%以下、または±10%以下だけ異なる。
【0023】
好ましい実施形態では、第1の伝送線路部分の特性インピーダンスまたは第3の伝送線路部分の特性インピーダンスと、第2の伝送線路部分の特性インピーダンスまたは第4の伝送線路部分の特性インピーダンスとの乗算値は、±10%の許容範囲内で公称リングインピーダンスの2乗の値に等しい。
【0024】
好ましい実施形態では、第1の伝送線路部分の特性インピーダンスまたは第3の伝送線路部分の特性インピーダンスの値は、第2の伝送線路部分の特性インピーダンスまたは第4の伝送線路部分の特性インピーダンスの値よりも小さい。さらに、公称リングインピーダンスからの特性インピーダンスの偏差範囲は、公称リングインピーダンスの値の±20%以内または±10%以内である。
【0025】
好ましい実施形態では、第1の伝送線路部分および第3の伝送線路部分の特性インピーダンスの値は、公称リングインピーダンスの値の+1%~+20%の間、または+1%~+10%の間で逸脱し、第2の伝送線路部分および第4の伝送線路部分の特性インピーダンスは、公称リングインピーダンスの値の-1%~-20%の間、または-1%~-10%の間で逸脱し、その逆もまた同様である。
【0026】
本発明による一実施形態は、入力信号を2つ以上の信号出力ポートに分配するための高周波電力分配回路に関する。高周波電力分配回路は、ラットレース型結合器の入力ポートで提供される入力信号をラットレース型結合器の第1の出力およびラットレース型結合器の第2の出力に結合するように構成された、ラットレース型結合器と、ラットレース型結合器の第1の出力を第1の信号出力ポートに結合するように、ラットレース型結合器の第1の出力に結合された第1の結合構造と、ラットレース型結合器の第2の出力を第2の信号出力ポートに結合するように、ラットレース型結合器の第2の出力に結合された第2の結合構造とを備え、第1の結合構造および第2の結合構造は周波数にわたって異なる位相シフトを提供するように適合されており、第1の結合構造は、ラットレース型結合器の設計周波数の環境において、ラットレース型結合器の第1の出力とラットレース型結合器の第2の出力とにおける信号間の位相差の周波数変動を少なくとも部分的に補償するように適合された移相器を備える。
【0027】
好ましい実施形態では、第2の結合構造は一対の結合伝送線路を備え、第1の結合伝送線路の第1の端部は、ラットレース型結合器の第2の出力に接続され、第1の結合伝送線路の第2の端部は、第1の結合伝送線路の第2の端部に隣接する第2の結合伝送線路の第2の端部に接続され、第2の結合伝送線路の第1の端部は、第2の信号出力ポートに接続されるか、または第2の信号出力ポートを構成する。
【0028】
好ましい実施形態では、第1の結合伝送線路の第1の端部は、さらなる伝送線路を介してラットレース型結合器の第2の出力に接続される。さらに、さらなる伝送線路の特性インピーダンスは、基準インピーダンスから±5%以下または±10%以下だけ逸脱する。さらに、一対の結合伝送線路の偶モードインピーダンスと一対の結合伝送線路の奇モードインピーダンスとの積は、基準インピーダンスの2乗から±5%以下だけ、または±10%以下だけ、あるいは±15%以下だけ逸脱する。
【0029】
好ましい実施形態では、一対の結合伝送線路の結合伝送線路の電気長は、ラットレース型結合器の設計中心周波数における波長の4分の1から例えば±5%以下だけ、または±10%以下だけ逸脱し、換言すれば、結合伝送線路は、±5%または±10%の許容範囲内でラットレース型結合器の設計中心周波数においてλ/4の伝送線路である。
【0030】
好ましい実施形態では、さらなる伝送線路の長さは、一対の結合伝送線路の漂遊磁場をラットレース型結合器から分離するように選択される。さらに、第1の結合構造を形成する伝送線路の電気長は、さらなる伝送線路の電気長+波長の半分に等しく、許容範囲は波長の±10分の1である。
【0031】
本発明による一実施形態は、2つ以上の信号入力ポートからの入力信号に基づいて出力信号を取得するための高周波電力合成回路に関する。高周波電力合成回路は、ラットレース型結合器の第1の入力における信号に基づいて、かつラットレース型結合器の第2の入力における信号に基づいて、出力信号をラットレース型結合器の出力ポートで提供するように構成された、ラットレース型結合器と、ラットレース型結合器の第1の入力を第1の信号入力ポートに結合するように、ラットレース型結合器の第1の入力に結合された第1の結合構造と、ラットレース型結合器の第2の入力を第2の信号入力ポートに結合するように、ラットレース型結合器の第2の入力に結合された第2の結合構造とを備え、ラットレース型結合器の出力ポートと第1の入力との間の第1の伝送線路部分の特性インピーダンスは、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンスから第1の方向に逸脱し、ラットレース型結合器の出力ポートと第2の入力との間の第2の伝送線路部分の特性インピーダンスは、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンスから第1の方向とは反対の第2の方向に逸脱する。
【0032】
本発明による一実施形態は、2つ以上の信号入力ポートからの入力信号に基づいて出力信号を取得するための高周波電力合成回路に関する。高周波電力合成回路は、ラットレース型結合器の第1の入力における信号に基づいて、かつラットレース型結合器の第2の入力における信号に基づいて、出力信号をラットレース型結合器の出力ポートで提供するように構成された、ラットレース型結合器と、ラットレース型結合器の第1の入力を第1の信号入力ポートに結合するように、ラットレース型結合器の第1の入力に結合された第1の結合構造と、ラットレース型結合器の第2の入力を第2の信号入力ポートに結合するように、ラットレース型結合器の第2の入力に結合された第2の結合構造とを備え、第1の結合構造および第2の結合構造は周波数にわたって異なる位相シフトを提供するように適合されており、第1の結合構造は、ラットレース型結合器の設計周波数の環境において、ラットレース型結合器の第1の入力およびラットレース型結合器の第2の入力における信号の合成に影響を与える、ラットレース型結合器の第1の入力から出力ポートへの伝送特性の周波数変動と、ラットレース型結合器の第2の入力から出力ポートへの伝送特性の周波数変動との差を少なくとも部分的に補償するように適合された移相器を備える。
【0033】
本発明による実施形態を、添付の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】従来技術による無線周波数(RF)電力分配器の可能な構造の概略図である。
図2図1に示す構造の理論性能を表す概略図である。
図3図1に示す構造のさらなる理論性能を示す図である。
図4図1に示す構造による4つの回路の相対帯域幅を示す表である。
図5図1に示す電力分配器の物理的レイアウトの例を示す概略図である。
図6図1に示す従来技術によるブランチライン型の変形例を示す図である。
図7】本出願の一実施形態によるラットレース型結合器の例を示す図である。
図8】本出願の実施形態による変形ラットレース(rat race)型結合器の性能を示す図である。
図9】本出願の実施形態による、KGBの値に応じた振幅不均衡および相対帯域幅を示す表である。
図10】本出願の実施形態による変形ラットレース型の性能を示す図である。
図11】本出願の実施形態による変形ラットレース型のさらなる性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図7は、本出願の一実施形態によるラットレース型結合器の例を示している。図7(a)は、図1(B)に示すものと同じ標準ラットレース型結合器を示し、図7(b)は、変形ラットレース型結合器、すなわち改良されたラットレース型を示している。
【0036】
図7(b)に示すように、ラットレース(rat race)型結合器は、ラットレース型結合器の入力ポートP1で提供される入力信号を、例えば伝送線路部分TL7Bがラットレース型結合器のリングに接続されている場所にあるラットレース型結合器の第1の出力に結合し、例えば伝送線路部分TL8Bがラットレース型結合器のリングに接続されている場所にあるラットレース型結合器の第2の出力に結合し、第1の結合構造TL7Bは、ラットレース型結合器の第1の出力を第1の信号出力ポートP2に結合するようにラットレース型結合器の第1の出力に結合され、伝送線路TL8B、TL5B、TL6Bによって形成される第2の結合構造は、ラットレース型結合器の第2の出力を第2の信号出力ポートP3に結合するようにラットレース型結合器の第2の出力に結合され、ラットレース型結合器の入力ポートP1と第1の出力との間の第1の伝送線路部分TL1Bの特性インピーダンス、例えばZ=1/KGB×sqrt(2)×R(Rは最も一般的であるが必ずしも50Ωではない)は、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンス、例えばsqrt(2)×Rから第1の方向に逸脱し、例えば公称リングインピーダンスよりも小さく、ラットレース型結合器の入力ポートP1と第2の出力との間の第2の伝送線路部分TL2Bの特性インピーダンス例えばZ=KGB×sqrt(2)×Rは、ラットレース型結合器の設計周波数において、第2の信号出力ポートP3に結合されるよりも大きい入力信号の信号電力が第1の出力ポートP2に結合されるように、および、入力信号の周波数が(設計周波数の環境内で)ラットレース型結合器の設計周波数から離れる場合に、第1の出力ポートに結合された入力信号の信号電力が減少して、第2の出力ポートに結合された入力信号の信号電力よりも小さくなるように、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンス、例えばsqrt(2)×Rから第1の方向とは反対の第2の方向に逸脱し、例えば公称リングインピーダンスよりも大きい。
【0037】
ラットレース型結合器の第2の出力とラットレース型結合器のさらなるポート、例えば終端ポートとの間の第3の伝送線路部分TL3Bの特性インピーダンスは、公称リングインピーダンスから第1の伝送線路部分TL1Bの特性インピーダンスと同じ方向に逸脱する。ラットレース型結合器の第1の出力とラットレース型結合器のさらなるポート、例えば終端ポートとの間の第4の伝送線路部分TL4Bの特性インピーダンスは、公称リングインピーダンスから第2の伝送線路部分TL2Bの特性インピーダンスと同じ方向に逸脱する。
【0038】
さらに、図7(b)に示すように、ラットレース型は本質的に非対称であり、したがって、第2のポートP2と第3のポートP3との間の位相シフトは、中心周波数f0においてのみ0である。位相差を平坦化するために、図7(b)に示すように、Schiffman移相器の変形例を使用することができる。伝送部分TL5B、TL6Bは、Z0E×Z0O=R0となるように、中心周波数f0において偶(奇)モードインピーダンスZ0E(Z0O)で結合されたλ/4の線路である。伝送線路部分TL8Bは、伝送線路部分TL5B、TL6Bとラットレース型自体との結合を最小にするのに十分な長さのZ0=R0の伝送である。伝送線路部分TL7Bは、Z0=R0の、中心周波数f0における長さがTL8B+λ/2の伝送である。
【0039】
図8は、本出願の実施形態による変形ラットレース型結合器の性能を示している。既に述べたように、公称リングインピーダンスはsqrt(2)×Rであり、第1の伝送線路部分TL1Bおよび第3の伝送線路部分TL3Bの特性インピーダンスは、Z=KGB×sqrt(2)×Rであり、第2の伝送線路部分TL2Bおよび第4の伝送線路部分TL4Bの特性インピーダンスは、Z=KGB×sqrt(2)×Rである。図8(a)は散乱パラメータS21およびS31の値を示しており、図8(b)はS31/S21の値を示し、図8(c)はS31/S21の絶対値を示している。
【0040】
図9は、本出願の実施形態による、KGBの値に応じた振幅不均衡および相対帯域幅を示す表である。KGB=1の場合は従来の回路構造である。図9に示すように、絶対振幅均衡の妥当な値は1~2dBとすることができる。これは、KGBの妥当な範囲が1(すなわち従来の設計)と約1.1(または1/1.1)との間に制限されることを意味する。また、KGBを1/KGBに置き換えることは、第1の信号出力ポートP2と第2の信号出力ポートP3とを入れ替えることとほぼ同等である。結果は、図9に示す表と非常に類似している。
【0041】
変形例として、第1の伝送線路部分TL1Bの特性インピーダンスの値は、第3の伝送線路部分TL3Bの特性インピーダンスの値と、第1の伝送線路部分TL1Bの特性インピーダンスおよび第2の伝送線路部分TL2Bの特性インピーダンスの±25%以下、または±10%以下だけ異なる。さらに、第2の伝送線路部分TL2Bの特性インピーダンスの値は、第4の伝送線路部分TL4Bの特性インピーダンスの値と、第2の伝送線路部分TL2Bの特性インピーダンスおよび第1の伝送線路部分TL1Bの特性インピーダンスの±25%以下、または±10%以下だけ異なる。
【0042】
さらに、第1の伝送線路部分TL1Bの特性インピーダンスまたは第3の伝送線路部分TL3Bの特性インピーダンスと、第2の伝送線路部分TL2Bの特性インピーダンスまたは第4の伝送線路部分TL4Bの特性インピーダンスとの乗算値は、±10%の許容範囲内で公称リングインピーダンスの2乗の値に等しい。第1の伝送線路部分TL1Bの特性インピーダンスまたは第3の伝送線路部分TL3Bの特性インピーダンスの値は、第2の伝送線路部分TL2Bの特性インピーダンスまたは第4の伝送線路部分TL4Bの特性インピーダンスの値よりも小さい。
【0043】
さらに、公称リングインピーダンスからの特性インピーダンスの偏差範囲は、公称リングインピーダンスの値の±20%以内または±10%以内である。すなわち、第1の伝送線路部分および第3の伝送線路部分の特性インピーダンスの値は、公称リングインピーダンスの値の+1%~+20%の間、または+1%~+10%の間で逸脱し、第2の伝送線路部分および第4の伝送線路部分の特性インピーダンスは、公称リングインピーダンスの値の-1%~-20%の間、または-1%~-10%の間で逸脱し、その逆もまた同様である。
【0044】
さらなる実施形態として、ラットレース型は本質的に非対称であり(図7(b)参照)、したがって、第1の信号出力ポートP2と第2の信号出力ポートP3との間の位相シフトは、中心周波数f0においてのみ0である。位相差を平坦化するために、図7(b)に示すように、Schiffman移相器の変形例を使用することができる。結合伝送線路TL5B、TL6Bは、Z0E×Z0O=R0となるように、中心周波数f0において電気長λ/4を有し、偶(奇)モードインピーダンスZ0E(Z0O)で結合された線路である。
【0045】
すなわち、本実施形態による入力信号を2つ以上の信号出力ポートに分配するための高周波電力分配回路が図7(b)に示される。回路は、ラットレース型結合器の例えばP1などの入力ポートで提供される入力信号を、例えばTL7Bがラットレース型結合器のリングに接続されている場所にあるラットレース型結合器の第1の出力に結合し、かつ、例えばTL8Bがラットレース型結合器のリングに接続されている場所にあるラットレース型結合器の第2の出力に結合するように構成された、ラットレース型結合器と、ラットレース型結合器の第1の出力を第1の信号出力ポートP2に結合するように、ラットレース型結合器の第1の出力に結合された第1の結合構造TL7Bと、ラットレース型結合器の第2の出力を第2の信号出力ポートP3に結合するように、ラットレース型結合器の第2の出力に結合されたTL8B、TL5B、TL6Bによって構成された第2の結合構造とを備え、第1の結合構造および第2の結合構造は周波数にわたって異なる位相シフトを提供するように適合されており、第1の結合構造は、ラットレース型結合器の設計周波数の環境において、ラットレース型結合器の第1の出力とラットレース型結合器の第2の出力とにおける信号間の位相差の周波数変動を少なくとも部分的に補償するように適合された移相器を備える。
【0046】
さらに、第2の結合構造は一対の結合伝送線路TL6B、TL5Bを備え、第1の結合伝送線路TL5Bの第1の端部は、例えばTL8Bを介してラットレース型結合器の第2の出力に接続され、第1の結合伝送線路の第2の端部は、第1の結合伝送線路の第2の端部に隣接する第2の結合伝送線路の第2の端部に接続され、第2の結合伝送線路TL6Bの第1の端部は、第2の信号出力ポートP3に接続されるか、または第2の信号出力ポートP3を構成する。第1の結合伝送線路TL5Bの第1の端部は、例えばTL8Bなどのさらなる伝送線路TL8Bを介してラットレース型結合器の第2の出力に接続される。
【0047】
さらに、さらなる伝送線路の特性インピーダンスは、例えば50Ωの基準インピーダンスから±5%以下または±10%以下だけ逸脱する。さらに、一対の結合伝送線路の偶モードインピーダンスZ0Eと一対の結合伝送線路の奇モードインピーダンスZ0Oとの積は、基準インピーダンスの2乗から±5%以下だけ、または±10%以下だけ、あるいは±15%以下だけ逸脱する。
【0048】
変形例として、一対の結合伝送線路の結合伝送線路の電気長は、ラットレース型結合器の設計中心周波数における波長の4分の1から±5%以下だけ、または±10%以下だけ逸脱し、換言すれば、結合伝送線路は、±5%または±10%の許容範囲内でラットレース型結合器の設計中心周波数においてλ/4の伝送線路である。加えて、さらなる伝送線路TL8Bの長さは、一対の結合伝送線路の漂遊磁場をラットレース型結合器から分離するように選択される。さらに、第1の結合構造を形成する伝送線路の電気長は、さらなる伝送線路TL8Bの電気長+波長の半分に等しく、許容範囲は波長の±10分の1である。
【0049】
図10は、本出願の実施形態による変形ラットレース型の性能を示している。図10に示すように、伝送線路部分TL1B~TL4BのZ0の変形例は位相にほとんど影響を与えない。さらに、位相補償ネットワークの追加は振幅に全く影響を与えない。
【0050】
図11もまた、本出願の実施形態による変形ラットレース型の性能を示している。図11に示すように、位相補償ネットワークの追加、すなわち第1の結合構造および第2の結合構造の追加は位相シフトに影響を与える。
【0051】
上述の実施形態は、高周波電力分配器に関する。しかし、同様の構造が、2つ以上の信号入力ポートからの入力信号に基づいて出力信号を取得するための高周波電力合成回路として用いられる。例えば、高周波電力合成回路は、例えば伝送線路部分TL7Bがラットレース型結合器のリングに接続されている場所にあるラットレース型結合器の第1の入力における信号に基づいて、かつ例えば伝送線路部分TL8Bがラットレース型結合器のリングに接続されている場所にあるラットレース型結合器の第2の入力における信号に基づいて、出力信号をラットレース型結合器の例えばP1などの出力ポートで提供するように構成された、ラットレース型結合器と、ラットレース型結合器の第1の入力を第1の信号入力ポートP2に結合するように、ラットレース型結合器の第1の入力に結合された第1の結合構造TL7Bと、ラットレース型結合器の第2の入力を第2の信号入力ポートP3に結合するように、ラットレース型結合器の第2の入力に結合された、例えばTL8B、TL5B、TL6Bによって構成される第2の結合構造とを備え、ラットレース型結合器の出力ポートP1と第1の入力との間の第1の伝送線路部分TL1Bの特性インピーダンス、例えばZ=1/KGB×sqrt(2)×Rは、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンス、例えばsqrt(2)×Rから第1の方向に逸脱し、例えば公称リングインピーダンスよりも小さく、ラットレース型結合器の出力ポートP1と第2の入力との間の第2の伝送線路部分TL2Bの特性インピーダンス例えばZ=KGB×sqrt(2)×Rは、ラットレース型結合器の公称リングインピーダンス、例えばsqrt(2)×Rから第1の方向とは反対の第2の方向に逸脱し、例えば公称リングインピーダンスよりも大きい。
【0052】
2つ以上の信号入力ポートからの入力信号に基づいて出力信号を取得するための高周波電力合成回路のさらなる例として、合成回路は、例えば伝送線路部分TL7Bがラットレース型結合器のリングに接続されている場所にあるラットレース型結合器の第1の入力における信号に基づいて、かつ例えば伝送線路部分TL8Bがラットレース型結合器のリングに接続されている場所にあるラットレース型結合器の第2の入力における信号に基づいて、出力信号をラットレース型結合器の例えばP1などの出力ポートで提供するように構成された、ラットレース型結合器と、ラットレース型結合器の第1の入力を第1の信号入力ポートP2に結合するように、ラットレース型結合器の第1の入力に結合された第1の結合構造TL7Bと、ラットレース型結合器の第2の入力を第2の信号入力ポートP3に結合するように、ラットレース型結合器の第2の入力に結合された、例えばTL8B、TL5B、TL6Bによって構成される第2の結合構造とを備え、第1の結合構造および第2の結合構造は周波数にわたって異なる位相シフトを提供するように適合されており、第1の結合構造は、ラットレース型結合器の設計周波数の環境において、例えばラットレース型結合器の第1の入力およびラットレース型結合器の第2の入力における信号の合成に影響を与える、ラットレース型結合器の第1の入力から出力ポートへの伝送特性の周波数変動と、ラットレース型結合器の第2の入力から出力ポートへの伝送特性の周波数変動との差を少なくとも部分的に補償するように適合された移相器を備える。
【符号の説明】
【0053】
TL1A,TL1B,TL2A,TL2B,TL3B,TL3C,TL3D,TL4B,TL4C,TL4D,TL5B,TL5C,TL5D,TL6B,TL6C,TL6D,TL7B,TL7C,TL8B…伝送線路、R1A,R1C,R1D,R2D…抵抗器。
図1
図2AB
図2CD
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11